説明

半導体レーザ

【課題】高出力、かつ真円状のビームを得ることの可能な半導体レーザを提供する。
【解決手段】上部DBR層15内に、電流狭窄層18および横モード調整層19が設けられている。電流狭窄層18は、横モード調整層19よりも活性層13寄りに形成され、横モード調整層19は、電流狭窄層18よりも活性層13から離れて形成されている。電流狭窄層18の中央領域に、直径の大きな電流注入領域19Bが形成され、横モード調整層19の中央領域に、直径の小さな光透過領域19Aが形成されている。横モード調整層19のうち中央領域以外の領域に電流注入領域19Bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層方向にレーザ光を射出する半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
面発光型の半導体レーザは、端面発光型の半導体レーザと比べて低消費電力であり、かつ、直接変調可能であることから、近年、安価な光通信用光源として使われている。
【0003】
面発光型半導体レーザでは、一般に、基板上に、下部DBR層、下部スペーサ層、活性層、上部スペーサ層、上部DBR層およびコンタクト層をこの順に積層してなる柱状のメサが設けられている。下部DBR層および上部DBR層のいずれか一方には、活性層への電流注入効率を高め、しきい値電流を下げるために、電流注入領域を狭めた構造を有する電流狭窄層が設けられている。メサの上面および基板の裏面にはそれぞれ、電極が設けられている。この半導体レーザでは、電極から注入された電流が電流狭窄層により狭窄されたのち活性層に注入され、これにより電子と正孔の再結合による発光が生じる。この光は、下部DBR層および上部DBR層により反射され、所定の波長でレーザ発振が生じ、メサの上面からレーザ光として射出される。
【0004】
ところで、上記した面発光型の半導体レーザでは、高出力、かつ真円状のビームを得ることが容易ではない。面発光型の半導体レーザにおいて、電流狭窄径はおよそ10μmであり、端面発光型の半導体レーザの電流狭窄径と比べて大きい。そのため、横モードの利得差が小さく、多モード発振が生じ易い。例えば、光出力を大きくすることを目的として、発光領域に注入する電流を増やすと、真円状の基本横モードに加えて、リング状の高次横モードが発振し、ビーム形状が乱れてしまう。なお、面発光型の半導体レーザにおいて、活性層の厚さはおよそ数十nm、活性層の発光領域の直径がおよそ10μmであり、発光領域の体積は端面発光型の半導体レーザのそれと比べると遥かに小さい。そのため、上記したように発光領域に注入する電流を増やすと、発光領域における局所的な発熱により光出力がすぐに飽和してしまい、単に電流注入量を増やしても大きな光出力を得ることはできない。
【0005】
そこで、横モードの利得差を大きくするための方策が従来から多数提案されている。例えば、特許文献1では、メサの上面に設けた電極の開口径を従来よりも小さくすることが提案されている。また、例えば、特許文献2では、酸化狭窄層をp側とn側の両方に1つずつ設け、中心部への電流注入を促進して、基本横モード発振を生じやすくすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−208755号公報
【特許文献2】特開2004−253408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、電極での光損失が大きいので、プロセスマージンが小さく、量産性に乏しいという問題がある。また、特許文献2に記載の方法では、電流狭窄を二重に行っているので、電気抵抗が大きくなってしまうという問題がある。また、この方法では、電流狭窄のみで基本横モード発振を得るためには、電流狭窄径を5μm程度に小さくすることが必要である。しかし、このように電流狭窄径を小さくした場合には、発光領域における局所的な発熱により大きな光出力を得ることができないという問題がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高出力、かつ真円状のビームを得ることの可能な半導体レーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体レーザは、第1多層膜反射鏡、活性層、第2多層膜反射鏡をこの順に備えると共に、第1酸化狭窄層および第2酸化狭窄層を備えたものである。第1酸化狭窄層は、第2酸化狭窄層よりも活性層寄りに形成されている。第1酸化狭窄層は、また、面内の中央領域に第1未酸化領域を有すると共に、第1未酸化領域の周縁に第1酸化領域を有している。一方、第2酸化狭窄層は、第1未酸化領域との対向領域内に第1未酸化領域の直径よりも小さな直径の第2未酸化領域を有すると共に、第1未酸化領域との非対向領域内に第3未酸化領域を有している。第2酸化狭窄層は、また、第2未酸化領域および第3未酸化領域の周縁に第2酸化領域を有している。
【0010】
本発明の半導体レーザでは、活性層寄りの第1酸化狭窄層の中央領域に、直径の大きな第1未酸化領域が形成されており、活性層から離れた第2酸化狭窄層の中央領域に、直径の小さな第2未酸化領域が形成されている。これにより、活性層の発光領域の体積を大きくしつつ、高次横モード発振を抑制することができる。また、本発明では、第2酸化狭窄層のうち中央領域以外の領域に第3未酸化領域が形成されている。これにより、第3未酸化領域を第2酸化狭窄層における電流通路として機能させることができるので、第2酸化狭窄層の抵抗値を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の半導体レーザによれば、活性層寄りの第1酸化狭窄層に第1未酸化領域を形成し、活性層から離れた第2酸化狭窄層に第2未酸化領域を形成すると共に、第2酸化狭窄層のうち中央領域以外の領域に第3未酸化領域を形成するようにした。これにより、高出力、かつ真円状のビームを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る面発光型の半導体レーザの斜視図である。
【図2】図1の半導体レーザの断面図である。
【図3】図1の横モード制御用の酸化狭窄層の断面図である。
【図4】図1の半導体レーザの製造過程の一例を説明するための断面図である。
【図5】図4に続く工程について説明するための断面図である。
【図6】図1の半導体レーザの電流通路と光場について説明するための模式図である。
【図7】図1の半導体レーザの一変形例の斜視図である。
【図8】図7の半導体レーザのA−A矢視方向の断面図である。
【図9】図7の半導体レーザのB−B矢視方向の断面図である。
【図10】図7の横モード制御用の酸化狭窄層の断面図である。
【図11】図7の半導体レーザの電流通路と光場について説明するための模式図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る面発光型の半導体レーザの斜視図である。
【図13】図12の半導体レーザのA−A矢視方向の断面図である。
【図14】図12の半導体レーザのB−B矢視方向の断面図である。
【図15】図12の横モード制御用の酸化狭窄層の断面図である。
【図16】図12の半導体レーザの電流通路と光場について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態(図1〜図6)
○2つの酸化狭窄層が上部DBR層に設けられている例
○酸化狭窄層を貫通する溝部が設けられている例
2.第1の実施の形態の変形例(図7〜図11)
○溝部内に橋桁部が設けられている例
3.第2の実施の形態(図12〜図16)
○2つの酸化狭窄層が上部DBR層と下部DBR層とに別れて設けられている例
【0014】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る面発光型の半導体レーザ1を斜視的に表したものである。図2は、図1の半導体レーザ1のA−A矢視方向の断面構成の一例を表したものである。図3は、後述する横モード調整層19の面内の断面構成の一例を表したものである。なお、図1〜図3は模式的に表したものであり、実際の寸法、形状とは異なっている。
【0015】
本実施の形態の半導体レーザ1は、基板10の一面側に、下部DBR層11、下部スペーサ層12、活性層13、上部スペーサ層14、上部DBR層15およびコンタクト層16をこの順に積層してなる半導体層20を備えている。この半導体層20の上部、具体的には、下部DBR層11の一部、下部スペーサ層12、活性層13、上部スペーサ層14、上部DBR層15およびコンタクト層16には柱状のメサ部17が形成されている。
【0016】
なお、本実施の形態では、下部DBR層11が本発明の「第1多層膜反射鏡」の一具体例に相当する。上部DBR層15が本発明の「第2多層膜反射鏡」の一具体例に相当する。
【0017】
基板10は、例えばn型GaAs基板である。なお、n型不純物としては、例えば、ケイ素(Si)またはセレン(Se)などが挙げられる。半導体層20は、例えば、AlGaAs系の化合物半導体によりそれぞれ構成されている。なお、AlGaAs系の化合物半導体とは、短周期型周期表における3B族元素のうち少なくともアルミニウム(Al)およびガリウム(Ga)と、短周期型周期表における5B族元素のうち少なくともヒ素(As)とを含む化合物半導体のことをいう。
【0018】
下部DBR層11は、低屈折率層(図示せず)および高屈折率層(図示せず)を交互に積層して形成されたものである。この低屈折率層は、例えば厚さがλ0/4n1 (λ0は発振波長、n1 は屈折率)のn型Alx1Ga1-x1As(0<x1<1)により構成されている。高屈折率層は、例えば厚さがλ0/4n2(n2 は屈折率)のn型Alx2Ga1-x2As(0<x2<x1)により構成されている。
【0019】
下部スペーサ層12は、例えばn型Alx3Ga1-x3As(0<x3<1)により構成されている。活性層13は、例えばアンドープのAlx4Ga1-x4As(0<x4<1)により構成されている。この活性層13では、後述の電流注入領域18Aとの対向領域が発光領域13Aとなる。上部スペーサ層14は、例えばp型Alx5Ga1-x5As(0≦x5<1)により構成されている。なお、p型不純物としては、例えば、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)などが挙げられる。
【0020】
上部DBR層15は、低屈折率層(図示せず)および高屈折率層(図示せず)を交互に積層して形成されている。低屈折率層は、例えば厚さがλ0/4n3(n3 は屈折率)のp型Alx6Ga1-x6As(0<x6<1)により構成されている。高屈折率層は、例えば厚さがλ0/4n4(n4 は屈折率)のp型Alx7Ga1-x7As(0<x7<x6)により構成されている。コンタクト層16は、例えばp型Alx8Ga1-x8As(0<x8<1)により構成されている。
【0021】
また、この半導体レーザ1では、例えば、上部DBR層15内に、電流狭窄層18および横モード調整層19が設けられている。なお、本実施の形態では、電流狭窄層18が本発明の「第1酸化狭窄層」の一具体例に相当する。横モード調整層19が本発明の「第2酸化狭窄層」の一具体例に相当する。
【0022】
電流狭窄層18は、横モード調整層19よりも活性層13寄りに形成されたものである。電流狭窄層18は、上部DBR層15内において、活性層13側から数えて例えば数層離れた低屈折率層の部位に、低屈折率層に代わって設けられている。電流狭窄層18は、電流注入領域18Aと、電流狭窄領域18Bとを有している。電流注入領域18Aは、面内の中央領域に形成されている。電流注入領域18Aは、後述の光透過領域19Aの直径よりも大きな直径を有している。電流狭窄領域18Bは、電流注入領域18Aの周縁、すなわち電流狭窄層18の外縁領域に形成されている。なお、本実施の形態では、電流注入領域18Aが本発明の「第1未酸化領域」の一具体例に相当する。電流狭窄領域18Bが本発明の「第1酸化領域」の一具体例に相当する。
【0023】
電流注入領域18Aは、例えばp型Alx9Ga1-x9As(0<x9≦1)からなる。電流狭窄領域18Bは、例えば、酸化アルミニウム(Al2 3)を含んで構成され、後述するように、側面から被酸化層18Dに含まれる高濃度のAlを酸化することにより得られたものである。これにより、電流狭窄層18は電流を狭窄する機能を有している。なお、電流狭窄層18は、例えば、上部スペーサ層14の内部に形成されていたり、上部スペーサ層14と上部DBR層15との間に形成されていたりしてもよい。
【0024】
横モード調整層19は、電流狭窄層18よりも活性層13から離れて形成されたものである。横モード調整層19は、上部DBR層15内において、電流狭窄層18から数えて例えば数層離れた低屈折率層の部位に、低屈折率層に代わって設けられている。横モード調整層19は、光透過領域19Aと、電流注入領域19Bと、光損失領域19Cとを有している。なお、本実施の形態では、光透過領域19Aが本発明の「第2未酸化領域」の一具体例に相当する。電流注入領域19Bが本発明の「第3未酸化領域」の一具体例に相当する。光損失領域19Cが本発明の「第2酸化領域」の一具体例に相当する。
【0025】
光透過領域19Aは、面内の中央領域であって、かつ電流狭窄層18における電流注入領域18Aとの対向領域内に形成されている。光透過領域19Aの直径は、電流注入領域18Aの直径よりも小さく、例えば、5μm以下の大きさとなっている。電流注入領域19Bは、電流注入領域18Aとの非対向領域内に形成されている。電流注入領域19Bは、光透過領域19Aを中心とした円環形状となっており、その面積は、光透過領域19Aの面積よりも大きくなっている。光損失領域19Cは、光透過領域19Aおよび電流注入領域19Bの周縁に形成されている。光損失領域19Cは、具体的には、光透過領域19Aと後述の溝部30との間、溝部30と電流注入領域19Bとの間、および電流注入領域19Bの周縁に形成されており、複数の円環を同心円状に配置した形状となっている。
【0026】
光透過領域19Aは、例えばp型Alx10Ga1-x10As(0<x10≦1)からなる。電流注入領域19Bは、例えばp型Alx11Ga1-x11As(0<x11≦1)からなる。なお、電流注入領域19Bは、光透過領域19Aと同一材料(同一組成比)によって構成されていてもよい。光損失領域19Cは、例えば、酸化アルミニウム(Al2 3)を含んで構成され、後述するように、側面から被酸化層19Dに含まれる高濃度のAlを酸化することにより得られたものである。これにより、光透過領域19Aおよび光損失領域19Cは、面内の中央において高次横モード発振を抑制する機能を有している。また、電流注入領域19Bは、面内の外縁において電流を通す機能を有している。つまり、横モード調整層19は、面内の中央において高次横モード発振を抑制し、面内の外縁において電流を通すようになっている。
【0027】
横モード調整層19の厚さ(積層方向の厚さ)は、光透過領域19Aおよび電流注入領域19BのAl組成比と電流注入領域18AのAl組成比とが互いに等しい場合には、電流狭窄層18の厚さよりも薄くなっていることが好ましい。また、横モード調整層19の厚さ(積層方向の厚さ)は、光透過領域19Aおよび電流注入領域19BのAl組成比が電流注入領域18AのAl組成比よりも小さい場合には、電流狭窄層18の厚さと等しくなっていることが好ましい。
【0028】
本実施の形態では、メサ部17の上部、具体的には、上部DBR層15に溝部30が形成されている。溝部30は、電流狭窄領域18Bとの非対向領域に形成されており、具体的には、光透過領域19Aと電流注入領域19Bとの間であって、かつ光損失領域19C内に形成されている。溝部30は、例えば、図1、図3に示したように、メサ部17の上面から見たときに、電流狭窄領域18B(または光透過領域19A)を中心とした円環形状となっている。溝部30は、光透過領域19Aと、電流注入領域19Bとの間に形成されており、かつ、電流狭窄層18と横モード調整層19との間に底面を有している。つまり、溝部30は、横モード調整層19(光損失領域19C)を貫通すると共に、電流狭窄層18に接触しない程度の深さを有している。
【0029】
メサ部17の上面(コンタクト層16の上面)には、少なくとも電流注入領域18Aとの対向領域に開口(光射出口31A)を有する環状の上部電極31が形成されている。また、メサ部17の側面および周辺の表面には、絶縁層32が形成されている。絶縁層32のうちメサ部17の周辺に対応する表面上には、ワイヤ(図示せず)をボンディングするための電極パッド33と、接続部34とが設けられている。電極パッド33と上部電極31とが接続部34を介して互いに電気的に接続されている。また、基板10の裏面には、下部電極35が設けられている。
【0030】
ここで、絶縁層32は、例えば酸化物または窒化物などの絶縁材料からなる。上部電極31、電極パッド33および接続部34は、例えば、チタン(Ti),白金(Pt)および金(Au)をこの順に積層して構成されたものであり、メサ部17上部のコンタクト層16と電気的に接続されている。下部電極35は、例えば、金(Au)とゲルマニウム(Ge)との合金,ニッケル(Ni)および金(Au)とを基板10側から順に積層した構造を有しており、基板10と電気的に接続されている。
【0031】
[製造方法]
本実施の形態の半導体レーザ1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0032】
図4(A),(B)、図5(A),(B)は、その製造方法を工程順に表したものである。なお、図4(A),(B)、図5(A),(B)は、製造過程の素子を図1のA−A矢視線に対応する箇所で切断した断面の構成をそれぞれ表したものである。
【0033】
ここでは、GaAsからなる基板10上の化合物半導体層を、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition ;有機金属化学気相成長)法により形成する。この際、III−V族化合物半導体の原料としては、例えば、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMIn)、アルシン (AsH3)を用い、ドナー不純物の原料としては、例えば、H2Seを用い、アクセプタ不純物の原料としては、例えば、ジメチルジンク(DMZ)を用いる。
【0034】
具体的には、まず、基板10上に、下部DBR層11、下部スペーサ層12、活性層13、上部スペーサ層14、上部DBR層15およびコンタクト層16をこの順に積層する(図4(A))。このとき、上部DBR層15内の一部に、被酸化層18D,被酸化層19Dを、被酸化層18Dが被酸化層19Dよりも活性層寄りとなるように、形成しておく。
【0035】
なお、被酸化層18Dは、後述の酸化工程で酸化されることにより、電流狭窄層18になる層であり、例えば、AlAsを含んで構成されている。また、被酸化層19Dは、後述の酸化工程で酸化されることにより、横モード調整層19になる層であり、例えば、AlAsを含んで構成されている。ここで、被酸化層18DのAl組成比と被酸化層19DのAl組成比とを互いに等しくした場合には、被酸化層19Dの厚さを被酸化層18Dの厚さよりも薄くしておく。また、被酸化層18DのAl組成比を被酸化層19DのAl組成比よりも小さくした場合には、被酸化層19Dの厚さを被酸化層18Dの厚さと等しくするか、またはそれよりも薄くしておく。
【0036】
次に、コンタクト層16の表面に、後の工程で溝部30を形成することとなる領域に対応して開口を有するレジスト層(図示せず)を形成する。続いて、例えば反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)法により、レジスト層をマスクとして、コンタクト層16および上部DBR層15を選択的に除去する。このとき、被酸化層19Dを貫通した上で被酸化層18Dに達する手前でエッチングをやめる。これにより、被酸化層18Dと被酸化層19Dとの間に底面を有する環形状の溝部30が上部DBR層15内に形成される。(図4(B))。このとき、溝部30の内壁に被酸化層19Dが露出している。その後、レジスト層を除去する。
【0037】
次に、コンタクト層16の表面に、メサ部17の径と等しい径の円形状のレジスト層(図示せず)を形成する。次に、例えばRIE法により、上記のレジスト層をマスクとして、下部DBR層11の一部、下部スペーサ層12、活性層13、上部スペーサ層14、上部DBR層15、コンタクト層16、被酸化層18Dおよび被酸化層19Dを選択的に除去する。これにより、円形状のレジスト層(図示せず)の直下にメサ部17が形成される(図5(A))。このとき、メサ部17の側面に被酸化層18Dおよび被酸化層19Dが露出している。その後、上記したレジスト層を除去する。
【0038】
次に、水蒸気雰囲気中において、高温で酸化処理を行い、メサ部17の側面および溝部30の内壁から被酸化層18Dおよび被酸化層19Dに含まれるAlを選択的に酸化する。これにより、メサ部17内において、被酸化層18Dの外縁領域が絶縁層(酸化アルミニウム)となり、電流狭窄層18が形成される(図5(B))。さらに、メサ部17内において、被酸化層19Dの外縁領域と、被酸化層19Dのうち溝部30の内壁の近傍とが絶縁層(酸化アルミニウム)となり、横モード調整層19が形成される(図5(B))。
【0039】
次に、表面全体に、例えばシリコン酸化物(SiO2)などの絶縁性無機材料からなる絶縁層32を形成する(図示せず)。続いて、メサ部17の上面に環状の開口を有するレジスト層(図示せず)を表面全体に形成したのち、例えばRIE法により、レジスト層をマスクとして、絶縁層32を選択的に除去する。これにより、上部電極31の形成される部分に開口(図示せず)が形成される。その後、レジスト層を除去する。
【0040】
次に、例えば真空蒸着法により、表面全体に前述の金属材料を積層させる。その後、例えば選択エッチングにより、絶縁層32の開口を埋め込むようにして環状の上部電極31を形成すると共に、絶縁層32のうちメサ部17の周辺に対応する表面に電極パッド33を形成し、さらに、これらの間に接続部34を形成する(図1参照)。さらに、基板10の裏面を適宜研磨してその厚さを調整した後、この基板10の裏面に下部電極35を形成する(図1参照)。このようにして、本実施の形態の半導体レーザ1が製造される。
【0041】
次に、図6を参照しつつ、本実施の形態の半導体レーザ1の作用および効果について説明する。
【0042】
[作用・効果]
本実施の形態の半導体レーザ1では、下部電極35と上部電極31との間に所定の電圧が印加されると、横モード調整層19における電流注入領域19Bと、電流狭窄層18における電流注入領域18Aとを通して活性層13に電流Iが注入され、これにより電子と正孔の再結合による発光が生じる。この光は、一対の下部DBR層11および上部DBR層15により反射され、所定の波長でレーザ発振を生じる。このとき、半導体レーザ1内の光場Liが横モード調整層19における光透過領域19Aおよび光損失領域19Cを感じ、これにより、高次横モード発振が抑制されると共に、基本横モード発振が生じる。その結果、例えば真円状のビームLoが光射出口31Aから外部に射出される。
【0043】
本実施の形態では、活性層13寄りの電流狭窄層18の中央領域に、直径の大きな電流注入領域19Bが形成されており、活性層13から離れた横モード調整層19の中央領域に、直径の小さな光透過領域19Aが形成されている。これにより、活性層13の発光領域13Aの体積を大きくしつつ、高次横モード発振を抑制することができる。また、本本実施の形態では、横モード調整層19のうち中央領域以外の領域に電流注入領域19Bが形成されている。これにより、電流注入領域19Bを横モード調整層19における電流通路として機能させることができるので、横モード調整層19の抵抗値を小さくすることができる。その結果、高出力、かつ真円状のビームLoを得ることができる。
【0044】
<第1の実施の形態の変形例>
上記実施の形態では、溝部30が円環形状となっており、上部DBR層15のうち溝部30の内側の部分と、溝部30の外側の部分とが空間分離されていた。しかし、例えば、上部DBR層15のうち溝部30の内側の部分と、溝部30の外側の部分とが電気的に接続されていてもよい。例えば、図7〜図10に示したように、溝部30の内部に複数の橋桁部36が設けられ、溝部30が、メサ部17の上面から見たときに、光透過領域19Aを中心とした円環領域内に断続して形成されていてもよい。なお、図7は、本変形例に係る半導体レーザの斜視図である。図8は、図7の半導体レーザのA−A矢視方向の断面図であり、図9は、図7の半導体レーザのB−B矢視方向の断面図である。図10は、横モード調整層19の面内における断面図である。
【0045】
各橋桁部36は、例えば、図8に示したように、メサ部17内において、上部DBR層15および横モード調整層19の一部を構成している。各橋桁部36は、上部DBR層15のうち溝部30の内側の部分17Aと、溝部30の外側の部分17Bとを電気的に接続している。これにより、例えば、図11に示したように、横モード調整層19における電流注入領域19Bだけでなく、光透過領域19Aにも電流Iが流れるようになるので、横モード調整層19の抵抗値をさらに小さくすることができる。
【0046】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る面発光型の半導体レーザ2について説明する。図12は、半導体レーザ2を斜視的に表したものである。図13は、図12の半導体レーザ2のA−A矢視方向の断面構成の一例を表したものであり、図14は、図12の半導体レーザ2のB−B矢視方向の断面構成の一例を表したものである。図15は、後述する横モード調整層37の面内の断面構成の一例を表したものである。なお、図12〜図15は模式的に表したものであり、実際の寸法、形状とは異なっている。
【0047】
本実施の形態の半導体レーザ2は、上記実施の形態の横モード調整層19の代わりに横モード調整層37を設け、上記実施の形態の溝部30の代わりに溝部38を設けた点で、上記実施の形態の半導体レーザ1の構成と相違する。そこで、以下では、上記実施の形態との相違点について主に説明し、上記実施の形態との共通点についての説明を適宜省略するものとする。
【0048】
上記実施の形態では、横モード調整層19は上部DBR層15内に設けられていたが、横モード調整層37は下部DBR層11内に設けられている。つまり、横モード調整層37は、電流狭窄層18の設けられているDBR層(上部DBR層15)とは異なるDBR層(下部DBR層11)内に設けられている。
【0049】
横モード調整層37は、電流狭窄層18よりも活性層13から離れて形成されたものである。横モード調整層37は、下部DBR層11内において、電流狭窄層18よりも遠い位置の低屈折率層の部位に、低屈折率層に代わって設けられている。横モード調整層37は、光透過領域37Aと、電流注入領域37Bと、光損失領域37Cとを有している。なお、本実施の形態では、光透過領域37Aが本発明の「第2未酸化領域」の一具体例に相当する。電流注入領域37Bが本発明の「第3未酸化領域」の一具体例に相当する。光損失領域37Cが本発明の「第2酸化領域」の一具体例に相当する。
【0050】
光透過領域37Aは、電流狭窄層18における電流注入領域18Aとの対向領域内に形成されている。光透過領域37Aの直径は、電流注入領域18Aの直径よりも小さく、例えば、5μm以下の大きさとなっている。電流注入領域37Bは、電流注入領域18Aとの非対向領域内に形成されている。電流注入領域37Bは、面内において、光損失領域37Cの周縁に形成されており、その面積は、光透過領域37Aの面積よりも大きくなっている。光損失領域37Cは、光透過領域37Aの周縁に形成されている。光損失領域19Cは、具体的には、光透過領域37Aと溝部38との間、および溝部38と電流注入領域37Bとの間に形成されている。
【0051】
光透過領域37Aは、例えばn型Alx12Ga1-x12As(0<x12≦1)からなる。電流注入領域37Bは、例えばn型Alx13Ga1-x13As(0<x13≦1)からなる。なお、電流注入領域37Bは、光透過領域37Aと同一材料(同一組成比)によって構成されていてもよい。光損失領域37Cは、例えば、酸化アルミニウム(Al2 3)を含んで構成され、側面から被酸化層(図示せず)に含まれる高濃度のAlを酸化することにより得られたものである。これにより、光透過領域37Aおよび光損失領域37Cは、メサ部17直下において高次横モード発振を抑制する機能を有している。また、電流注入領域37Bは、メサ部17直下の周縁において電流を通す機能を有している。つまり、横モード調整層37は、メサ部17直下において高次横モード発振を抑制し、メサ部17直下の周縁において電流を通すようになっている。
【0052】
横モード調整層37の厚さ(積層方向の厚さ)は、光透過領域37Aおよび電流注入領域37BのAl組成比と電流注入領域18AのAl組成比とが互いに等しい場合には、電流狭窄層18の厚さよりも薄くなっていることが好ましい。また、横モード調整層37の厚さ(積層方向の厚さ)は、光透過領域37Aおよび電流注入領域37BのAl組成比が電流注入領域18AのAl組成比よりも小さい場合には、電流狭窄層18の厚さと等しくなっていることが好ましい。
【0053】
本実施の形態では、メサ部17の周囲、具体的には、下部DBR層11に溝部38が形成されている。溝部38は、電流狭窄領域18Bとの非対向領域に形成されており、具体的には、光透過領域37Aと電流注入領域37Bとの間であって、かつ光損失領域37C内に形成されている。溝部38は、例えば、図15に示したように、メサ部17の上面から見たときに、電流狭窄領域18B(または光透過領域37A)を中心とした円環領域内に断続して形成されたものである。溝部38は、光透過領域37Aと、電流注入領域37Bとの間に形成されており、かつ、例えば、横モード調整層37と基板10との間に底面を有している。つまり、溝部38は、例えば、横モード調整層37(光損失領域37C)を貫通すると共に、基板10に接触しない程度の深さを有している。なお、溝部38は、基板10にまだ到達する深さとなっていてもよい。
【0054】
次に、図16を参照しつつ、本実施の形態の半導体レーザ2の作用および効果について説明する。
【0055】
[作用・効果]
本実施の形態の半導体レーザ2では、下部電極35と上部電極31との間に所定の電圧が印加されると、横モード調整層37における光透過領域37Aおよび電流注入領域37Bと、電流狭窄層18における電流注入領域18Aとを通して活性層13に電流Iが注入され、これにより電子と正孔の再結合による発光が生じる。この光は、一対の下部DBR層11および上部DBR層15により反射され、所定の波長でレーザ発振を生じる。このとき、半導体レーザ2内の光場Liが横モード調整層37における光透過領域37Aおよび光損失領域37Cを感じ、これにより、高次横モード発振が抑制されると共に、基本横モード発振が生じる。その結果、例えば真円状のビームLoが光射出口31Aから外部に射出される。
【0056】
本実施の形態では、活性層13寄りの電流狭窄層18の中央領域に、直径の大きな電流注入領域19Bが形成されており、活性層13から離れた横モード調整層37のうち電流注入領域19Bとの対向領域に、直径の小さな光透過領域37Aが形成されている。これにより、活性層13の発光領域13Aの体積を大きくしつつ、高次横モード発振を抑制することができる。また、本本実施の形態では、横モード調整層37のうちメサ部17直下以外の領域に電流注入領域37Bが形成されている。これにより、光透過領域37Aだけでなく、電流注入領域37Bを横モード調整層37における電流通路として機能させることができるので、横モード調整層37の抵抗値を小さくすることができる。その結果、高出力、かつ真円状のビームLoを得ることができる。
【0057】
以上、複数の実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【0058】
例えば、上記各実施の形態では、AlGaAs系の化合物半導体レーザを例にして本発明を説明したが、他の化合物半導体レーザ、例えば、酸化可能な化合物半導体からなる半導体レーザにも適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1,2…半導体レーザ、10…基板、11…下部DBR層、12…下部スペーサ層、13…活性層、13A…発光領域、14…上部スペーサ層、15…上部DBR層、16…コンタクト層、17…メサ部、18…電流狭窄層、18A,19B,37B…電流注入領域、18B…電流狭窄領域、18D,19D…被酸化層、19,37…横モード調整層、19A,37A…光透過領域、19C,37C…光損失領域、20…半導体層、30,38…溝部、31…上部電極、31A…光射出口、32…絶縁層、33…電極パッド、34…接続部、35…下部電極、36…橋桁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1多層膜反射鏡、活性層、第2多層膜反射鏡をこの順に備えると共に、第1酸化狭窄層および第2酸化狭窄層を備え、
前記第1酸化狭窄層は、前記第2酸化狭窄層よりも前記活性層寄りに形成され、かつ面内の中央領域に第1未酸化領域を有すると共に、前記第1未酸化領域の周縁に第1酸化領域を有し、
前記第2酸化狭窄層は、前記第1未酸化領域との対向領域内に前記第1未酸化領域の直径よりも小さな直径の第2未酸化領域を有すると共に、前記第1未酸化領域との非対向領域内に第3未酸化領域を有し、かつ前記第2未酸化領域および前記第3未酸化領域の周縁に第2酸化領域を有する
半導体レーザ。
【請求項2】
前記第3未酸化領域の面積は、前記第2未酸化領域の面積よりも大きくなっている
請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記第2未酸化領域と前記第3未酸化領域との間に溝部を備えた
請求項1または請求項2に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
前記溝部は、前記第2未酸化領域を中心とした円環形状となっているか、または前記第2未酸化領域を中心とした円環領域内に断続して形成されたものである
請求項3に記載の半導体レーザ。
【請求項5】
前記第3未酸化領域は、前記第2未酸化領域を中心とした円環形状となっている
請求項4に記載の半導体レーザ。
【請求項6】
前記第1酸化狭窄層および前記第2酸化狭窄層は共に、前記第1多層膜反射鏡内または前記第2多層膜反射鏡内に形成されている
請求項1または請求項2に記載の半導体レーザ。
【請求項7】
前記第1酸化狭窄層は、前記第1多層膜反射鏡内または前記第2多層膜反射鏡内に形成され、
前記第2酸化狭窄層は、前記第1多層膜反射鏡および前記第2多層膜反射鏡のうち前記第1酸化狭窄層の形成されていない方の多層膜反射鏡内に形成されている
請求項1または請求項2に記載の半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−18855(P2011−18855A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164049(P2009−164049)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】