説明

半導体作製装置および半導体作製方法

【課題】真空雰囲気下において脱着可能なメタルマスクを用いて、半導体基板上に半導体層を選択的に再現性よく形成することが可能な半導体作製装置を提供する。
【解決手段】半導体基板が搭載される試料ホルダと、半導体基板に選択的に結晶を成長させるための少なくとも1つ以上の第1の開口を有するマスクと、半導体基板およびマスクを試料ホルダとの間に挟み、試料ホルダと組み合わされるマスクホルダと、マスクとマスクホルダとの間に設けられた弾性体とを有する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体結晶などの微小構造を半導体基板上の選択領域に作製する半導体作製装置および半導体作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バンドギャップの狭い半導体の微細構造が、バンドギャップの広い半導体によって2次元もしくは3次元にわたって囲まれた、いわゆる低次元量子構造は光・電子素子の高機能化、高性能化に有望であり、将来の光・電子産業発展の鍵として、近年多大な関心を集めている。特に3次元量子閉じこめ構造である量子ドットは、電子の強い閉じこめ効果に基づく状態密度の先鋭化に由来して、顕著な量子効果が多岐に渡り発現するため、従来にない優れた機能・性能を有する光・電子デバイスの基本構造としてその実現が期待されている。
【0003】
化合物半導体を用いた量子ドットの他の代表的な形成方法は、例えば、非特許文献1に掲載されているように、Stransky-Krastanov (S-K) モード成長と呼ばれる成長方法である。これは、半導体基板上に、半導体基板とは格子定数が異なる、いわゆる、格子不整合系材料を、材料に依存して決まる臨界膜圧と呼ばれる所望の厚みにエピタキシャル成長させる方法である。この結果として、ウェッティングレアーと呼ばれる薄い薄膜層の上に、島状のドット構造が自己組織的に形成される。この方法は、リソグラフィーを必要とせず結晶成長のみによるため、良質な結晶ドットが形成可能な手法として注目されている。以下では、この結晶ドットに代表される半導体構造を半導体微小構造と称する。
【0004】
このような半導体微小構造を半導体基板上の所定の選択領域のみに結晶成長法により作製する手法の一つとして、選択結晶成長がある。選択結晶成長は、半導体基板上に所望の開口が形成されたメタルマスクを、成長中に半導体基板上に配置し、半導体原料を、分子線エピタキシ(MBE)装置等により、開口を通して、半導体基板上の開口領域のみに照射し、半導体微小構造を開口領域のみに作製するものである。選択結晶成長の具体例が、非特許文献2や非特許文献3に開示されている。
【非特許文献1】Applied Physics Letters 63 (1993) 3202
【非特許文献2】Applied Physics Letters 第32巻、491〜493頁(1978年)
【非特許文献3】Journal of Electric Materials 第26巻、511〜514頁(1997年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メタルマスクを用いた選択成長法はこれまでもいくつか報告があるが、これまで報告されているメタルマスクを用いた選択結晶成長には、結晶成長の制御性および再現性についていくつかの問題点がある。以下に、その一つを説明する。
【0006】
問題点は、メタルマスクと半導体基板との距離を一定に保つことが難しいことである。これら両者の距離が選択成長を行う度にばらつくと、半導体原料が照射される領域が各回で変化する。つまり、距離が大きくなれば、選択形成領域は広がり、小さくなれば選択形成領域は小さくなる。
【0007】
また、非特許文献3に記載されているようにメタルマスクを結晶成長装置の外で半導体基板上に固定した後、それらを結晶成長装置に入れて選択成長を行う場合、メタルマスクを半導体基板を固定したホルダ上に、ねじ止め機構等を使用することにより固定し、メタルマスクと半導体基板の距離を一定に保つことが可能である。しかし、メタルマスクを結晶成長装置内で着脱する必要がある場合、ねじ止め機構を使用することは難しい。この場合、一般的には、メタルマスクを固定するホルダにL字型の切り欠きを予め設け、半導体基板を固定する基板ホルダにピンを予め設け、ピンをL字型の切り欠きに引っかけることで2つのホルダの間で半導体基板を固定する。ところが、一般的には、L字型の切り欠きの幅の方がピンの直径よりやや大きいためガタつきがあり、メタルマスクと半導体基板距離を再現性よく一定に保つことは困難である。
【0008】
本発明は上述したような従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、真空雰囲気下において脱着可能なメタルマスクを用いて、半導体基板上に半導体層を選択的に再現性よく形成することが可能な半導体作製装置および半導体作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の半導体作製装置は、
半導体基板が搭載される試料ホルダと、
前記半導体基板に選択的に結晶を成長させるための少なくとも1つ以上の第1の開口を有するマスクと、
前記半導体基板および前記マスクを前記試料ホルダとの間に挟み、前記試料ホルダと組み合わされるマスクホルダと、
前記マスクと前記マスクホルダとの間に設けられた弾性体とを有する構成である。
【0010】
本発明では、結晶成長の処理毎に、試料ホルダにマスクホルダを組み合わせると、弾性体の弾力がマスクを半導体基板に押し付けるように働くため、マスクホルダと試料ホルダとのガタつきが抑制され、マスクと半導体基板とが密着し、半導体基板の表面からマスクまでの距離を一定に保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メタルマスクと半導体基板との距離を再現性よく一定に保つことが可能であり、高品質な半導体成長層から成る半導体微小構造を半導体基板上の選択領域に再現性よく形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1の実施形態)
本実施形態の半導体作製装置の構成を説明する。図1は本実施形態の半導体作製装置を用いた結晶成長装置を説明するための模式図である。図1では、結晶成長装置の処理室に配置された半導体作製装置の要部断面を示している。
【0013】
本実施形態の半導体作製装置は、試料3を搭載するための試料ホルダ4と、選択成長領域を特定するためのメタルマスク1と、メタルマスク1を固定するためのマスクホルダ2と、メタルマスク1およびマスクホルダ2の間に設けられたバネ5とを有する。結晶成長の処理を行う際、半導体作製装置は、大気と隔離した処理室内に配置される。
【0014】
結晶成長装置には、試料3に原料を照射するための蒸発源6が設けられている。蒸発源6については全体を処理室内に設けている必要はなく、原料の照射口が処理室にあればよい。また、蒸発源6の数は3つの場合に限られない。なお、結晶成長装置には、処理室を減圧するための排気ポンプや排気ポンプと処理室を接続するための配管などがあるが、それらの構成については従来と同様であるため、図に示すことを省略し、また、その詳細な説明を省略する。
【0015】
次に、本実施形態の半導体作製装置の各構成について詳しく説明する。
【0016】
メタルマスク1は、少なくとも1個以上の開口が形成され、かつ、開口を形成した領域の試料3との接触面が切削されている。開口は、試料3に結晶を選択的に成長させる領域に対応して設けられている。図1の断面に示すように、メタルマスク1が試料3と接触しているのは試料3の周辺部分だけであり、それ以外はメタルマスク1の全体の厚みのうち下側が薄く切削されている。メタルマスク1をこのような構造にしているのは、試料3で半導体素子を形成する領域にメタルマスク1が接触しないようにするためである。
【0017】
図2(a)は試料ホルダの外観斜視図である。図2(a)に示すように、試料ホルダ4は、円盤形状であり、その円周に沿って中心角120度の間隔でピン21aが設けられている。また、円周に沿って中心角120度の間隔でピン21bが設けられている。3本のピン21bは試料3を搭載する面に近い側に設けられ、3本のピン21aはその面から遠い側に設けられている。ピン21aとピン21bの円周での位置は中心角が60度ずれている。
【0018】
図2(b)はマスクホルダの外観斜視図である。マスクホルダ2は円柱形状であるが、底面と内部がくり抜かれ、側面と上面とで構成される。また、マスクホルダ2の上面については、メタルマスクの開口が設けられた面を露出するために貫通孔が設けられ、バネ5を介してメタルマスクを周辺で押さえるための枠形状を有している。図2(b)はメタルマスクをマスクホルダ2に装着した状態を示す。側面には、図2(b)に示すようなL字型の切り欠き22が設けられている。切り欠き22は、円柱の軸方向の垂直部分と軸方向に直行する水平部分とがつながってL字型になっている。この切り欠き22は円柱の中心軸に対して中心角120度の間隔で設けられている。
【0019】
図2(b)に示した切り欠き22は図2(a)に示したピン21bを引っかけるためのものである。なお、図2(b)に示した切り欠き22と同様なものが結晶成長装置(不図示)のマニピレータに予め設けられており、そこに図2(a)に示したピン21aが引っかけられる。
【0020】
図1に示すバネ5は、結晶成長処理の温度に対して弾力性の劣化が小さい、耐熱性に優れた素材であることが望ましい。例えば、モリブデンなどの金属である。ただし、蒸発源6から原料の照射を直接受けるわけではないので、メタルマスク1ほどの耐熱性はなくてもよい。バネ5は、つるまきバネに限らず板バネであってもよく、これらのバネを含む弾性体であってもよい。
【0021】
次に、半導体作製装置の組み立て方を説明する。
【0022】
操作者が図2(a)に示した試料ホルダ4を結晶成長装置のマニピレータに装着し、試料ホルダ4に試料3を搭載し、その上にメタルマスク1を載せる。続いて、メタルマスク1の周辺部に3つのバネ5のそれぞれを中心角120度毎に配置し、その上からマスクホルダ2をかぶせ、試料ホルダ4の3箇所のピン21bをマスクホルダ2の切り欠き22に引っかける。
【0023】
ピン21bを切り欠き22に引っかける際、バネ5がマスクホルダ2を上側に押し上げるため、次のように行う。ピン21bを切り欠き22の垂直部分の位置に合わせ、マスクホルダ2を下側に押し付ける。ピン21bが切り欠き22の水平部分の位置まで達したら、そのままマスクホルダ2を回転させる。図2(b)の場合では、時計回りにマスクホルダ2を回転させる。これにより、ピン21bが切り欠き22の水平部分に入り込む。この状態で手を離し、組み立てが終了する。
【0024】
このようにして半導体作製装置を組み立てた後では、バネ5がマスクホルダ2を押し上げようとしても、ピン21bが切り欠き22の水平部分の下側にぶつかってマスクホルダ2がそれ以上浮き上がるのを防ぐ。
【0025】
また、試料ホルダ4に対してマスクホルダ2を着脱しやすくするために、通常、L字型の切り欠き22の幅をピン21の直径よりやや大きくしてある。そのため、ピン21bを切り欠き22の水平部分に入れてマスクホルダ2を装着しても、従来はガタつきがあった。本実施形態では、上述したように、メタルマスク1の周辺をバネ5により試料ホルダ4に密着させているため、メタルマスク1と試料3との間隔を全体的に一定に保つことが可能である。
【0026】
また、メタルマスク1の周辺部がバネ5により試料3側に押されるため、メタルマスク1の周辺部は試料3の表面に密着し、メタルマスク1の切削された領域の深さが、常にメタルマスク1と試料3との距離となる。つまり、メタルマスク1と試料3との間隔は処理を行う度に常に一定になる。メタルマスク1と試料3との間隔は、切削の機械加工の精度で決定されることとなるが、機械加工の精度は、通常μm単位で制御可能であるため、選択成長領域を制御し決定するには十分な精度である。
【0027】
なお、上記説明においてバネ5の数を3つとしたが、バネ5の数は3つに限らないが2つ以上であることが望ましい。試料3の表面とメタルマスク1との距離が試料3の表面全体にわたって均一になるようにするためである。バネ5を3つ設ける場合には、3本のピン21bのそれぞれに対応する位置にバネ5をおくとよい。
【0028】
また、メタルマスク1をバネ5でマスクホルダ2に予め取り付けておいてもよい。試料ホルダ4に試料3を載せた後、マスクホルダ2を試料ホルダ4に装着するだけで半導体作製装置を組み立てることが可能となる。
【0029】
次に、本実施形態の半導体作製装置を用いた結晶成長方法について簡単に説明する。結晶成長装置の処理室に本実施形態の半導体作製装置を取り付ける。そして、処理室内を所定の圧力まで減圧した後、蒸発源6より原料を照射させる。蒸発源6より照射された原料がメタルマスク1の開口を通じて試料3に照射され、選択成長層7が試料3の表面に形成される。
【0030】
本実施形態による半導体作製装置は、メタルマスク1の周辺部がバネ5により試料3側に押されるためメタルマスク1が固定され、メタルマスク1の周辺部は試料3の表面に密着し、メタルマスク1の切削された領域の深さが、常にメタルマスク1と試料3との距離となる。そのため、メタルマスク1と試料3との距離を一定に保つことができる。これら両者の距離が選択成長を行う度に一定であるため、メタルマスク1と試料3との間隔は処理を行う度に常に一定になり、半導体原料が照射される領域が処理毎に変化することを防げる。
【0031】
また、試料ホルダ4の切り欠きにマスクホルダ2のピンを引っかけたり、切り欠きから外したりするだけで、メタルマスクを結晶成長装置内で容易に着脱することが可能である。従来、切り欠きの幅の方がピンの直径よりやや大きいためガタつきがあったが、本実施形態では、試料ホルダ4にマスクホルダ2を取り付けると、バネの弾性力によりメタルマスクが動かなくなるため、ねじ止め機構の場合と同様にガタつきがなく、メタルマスクと半導体基板距離を再現性よく一定に保つことができる。
【0032】
本発明によれば、メタルマスクと半導体基板との距離を再現性よく一定に保つことが可能であり、高品質な半導体成長層から成る半導体微小構造を半導体基板上の選択領域に再現性よく形成することができる。
【実施例1】
【0033】
第1の実施形態による半導体作製装置の実施例について説明する。
【0034】
試料ホルダ4と、メタルマスク1を具備したマスクホルダ2とを図2(a)および(b)を参照して説明する。試料ホルダ4として、直径2インチ、厚さ10mmの円盤状のモリブデンから成る試料ホルダ4を用意した。この試料ホルダ4には、円盤周囲の上下2段のそれぞれに中心角120度毎に1本ずつピンが配置されている。図2(a)では、3本のピン21aと3本のピン21bとを合わせて計6本のピンが設置されている。結晶成長時、下段のピン21aの3本は、試料ホルダ4を結晶成長装置のマニピレータに固定するために使用される。上段のピン21bの3本は、これらのピンをマスクホルダ2の側壁に形成されたL字型の切り欠き22に引っかけることで、マスクホルダ2を試料ホルダ4に装着するために使用される。
【0035】
マスクホルダ2とメタルマスク1の間には、円周に沿って中心角120度毎に図1に示したバネ5が設けられている。メタルマスク1としては、厚さ1mmのモリブデンから成る円盤が使用され、その円盤には300μm×2mmの開口が12個設けられている。メタルマスク1の試料と接する側の面は、直径30mmの円状で、深さ100μmにわたり、切削加工が施されている。そのため、メタルマスク1が試料と接するのは、メタルマスク1の周辺部だけとなる。試料ホルダ4にマスクホルダ2を組み付けることで、メタルマスク1は、マスクホルダ2に120度毎に配置された3本のバネ5により固定される。
【0036】
次に、第1の実施形態の半導体作製装置を用いて選択成長を行う方法を説明する。図3は選択成長の工程を示す図である。なお、図3に示す半導体作製装置33は図1に示したメタルマスク1として簡略化して描かれたものである。また、図には示さないが、結晶成長装置には真空雰囲気の処理室内でマスクホルダ2を試料ホルダ4に装着することが可能なロッドを備えているものとする。
【0037】
ガリウムヒ素(GaAs)半導体から成る半導体基板31をインジウム(In)を接着剤として試料ホルダ4に固定し、結晶成長装置の処理室内へ導入する。結晶成長装置には、ガリウム(Ga)、ヒ素(As)およびInの蒸発源6を備えている。マスクホルダ2を試料ホルダ4に装着していない状態で、処理室内を所定の圧力まで減圧して真空雰囲気にした後、蒸発源6よりAsを試料全面に加熱しながら照射することで、GaAs基板上の自然酸化膜を除去する。続いて、AsとGaを同時照射することにより、GaAsから成る第1の半導体層32を試料上に形成する(図3(a))。
【0038】
その後、処理室の真空雰囲気を維持したまま、ロッドを操作してマスクホルダ2を試料ホルダ4に装着させる。続いて、図3(b)に示すようにInとAsを同時照射することにより、半導体作製装置33の開口を介してInとAsを試料に照射し、InAsから成る第2の半導体層34を第1の半導体層32の上に3分子層分成長させた。このInAsから成る第2の半導体層34は、GaAsとの格子不整合に起因する歪みにより、3次元上に成長し、InAs量子ドット層となる。さらに、連続して、GaとAsを同時照射することにより、開口を介してGaとAsを試料に照射し、厚さ50nmのGaAsから成る第3の半導体層35を成長させた。図3(c)は、選択成長を終了して、マスクホルダ2を試料ホルダ4から外した後の状態を示す。
【0039】
なお、処理室内で試料ホルダ4にマスクホルダ2を装着する作業をロッドにより行ったが、ロードロックチャンバのように処理室と扉で区切られた別のチャンバを結晶成長装置に予め設け、そのチャンバで試料ホルダ4にマスクホルダ2を装着する作業を行ってもよい。
【0040】
次に、本実施例の選択成長層の評価結果を説明する。図4は本実施例の選択成長処理を行った後の試料の断面模式図である。選択成長実施後、選択成長層の評価を行ったところ、図4に示すように、試料表面上には、選択成長領域41と非選択成長領域42とが形成されていた。そして、厚さ100nmの半導体層がメタルマスクの開口と同じ大きさである300μm×2mmの範囲に選択的に形成されていることを確認できた。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、メタルマスク1を半導体基板に固定した場合であっても、結晶成長中の半導体基板表面の基板温度の測定を可能にしたものである。
【0042】
結晶成長の再現性をより向上させるために、結晶成長処理中の基板温度をモニタして基板温度を制御することが有効である。従来、メタルマスクを半導体基板に固定した場合、成長中の半導体基板表面の基板温度測定が難しいという問題がある。特に、高性能な量子ドット等の半導体微小構造を結晶成長法により作製するためには、半導体基板温度を厳密に制御する必要がある。
【0043】
結晶成長中に半導体基板表面温度を測定するためには、分子線エピタキシ法の場合、赤外線放射温度計を用いる手法や反射高エネルギー電子線回折(RHEED:Reflection High Energy Electron Diffraction)法を用いる手法が一般的である。赤外線放射温度計は、基板表面から放射された赤外線を測定し、基板温度を確定するものである。RHEEDは、電子線を極低角度で半導体基板に照射し、反射した回折電子線を対向した蛍光板上に結像させ、表面の構造を解析することで表面の構造の変移点を測定し、半導体基板温度を確定するものである。
【0044】
本実施形態では、RHEED法により選択成長中の基板温度を決定することを可能にしたものである。以下に、本実施形態の半導体作製装置の構成を説明する。
【0045】
図5は本実施形態の半導体作製装置のメタルマスクの一構成例を示す外観斜視図である。図5では、マスクホルダの描写を省略している。図6は本実施形態のメタルマスクの一構成例を示す図であり、試料に接する側の面を見た外観斜視図である。
【0046】
図5および図6に示すように、メタルマスク51は、選択成長のための第1の開口52と、試料54との接触面側に設けられた溝62と、基板温度の測定対象領域のための第2の開口53とを有する構成である。第2の開口53は、溝62に少なくとも1つ設けられ、メタルマスク51を貫通している。図5は第2の開口53がメタルマスク51の中央部に1つ設けられた場合を示す。
【0047】
溝62は、円盤状のメタルマスク51の円周の一部から一方向に連続して設けられ、円周の他の部位まで貫通している。図6では、メタルマスク51の試料との接触面側に形成された溝62は、メタルマスク51の円周の一部から中心を通って円周の反対側にまで達している。
【0048】
溝62の深さは、入射口56から電子線56が進入して試料の表面で反射した後に出口から出るまで、電子線56がメタルマスク51に衝突しないように設定する必要がある。図5および図6に示すように、溝62がメタルマスク51の中心を通る場合、電子線56が試料で反射する際の試料表面から電子線56の経路のなす角をθとし、メタルマスク51の半径をrとすると、溝62の深さdは、d>r×tanθの式から設定することが可能である。
【0049】
第2の開口53は、次のような役割を果たす。通常、マスクを装着しないで結晶成長させた場合、結晶成長中、試料全面に主にAs等のV族元素を直接照射することになる。一方、マスクを装着して結晶成長させた場合、第1の開口52領域は直接V族元素が照射されるため成長条件は全面成長の場合と同じであるが、マスクによって陰になった領域は、マスクと試料表面との隙間に拡散した分しかV族元素が供給されない。そのため、陰になった領域は、全面成長領域と比較して成長条件が一般的には異なる。つまり、第2の開口52は、選択成長領域と同じ条件での温度変化をRHEED法により得るために設けられている。
【0050】
次に、本実施形態の半導体作製装置を用いて、RHEED法により基板温度を測定する方法を説明する。
【0051】
本実施形態の半導体作製装置を結晶成長装置の処理室にセットし、処理室内を減圧して真空雰囲気にする。続いて、結晶成長処理を開始すると、RHEED装置から電子線57を入射口56に向けて照射する。入射口56から溝62内へ導かれたRHEEDの電子線57はこの溝62の中を通過し、試料中央部の第2の開口53が形成された領域で試料表面に入射すると、試料表面で反射する。反射した電子線57は、さらに、溝62の中を伝搬し、対向位置より出射し、蛍光板上で回折像を結像する。その回折像から試料表面の構造変化が生じる温度を決定し、温度に換算することにより、試料表面の温度を精密に決定することが可能である。
【0052】
なお、本実施形態では、第1の開口52と第2の開口53とを別のものとして説明したが、第2の開口53は、電子線57が通過する経路上にあればよく、第1の開口52として選択成長を行う領域に設定しても何ら問題はない。また、溝62がメタルマスク51の円盤の中心を通るところに設けられているが、中心を通らなくてもよい。
【0053】
本実施形態の半導体作製装置では、メタルマスクを半導体基板に固定した場合でも、RHEED測定を用いて選択結晶成長中の基板温度を測定することが可能となる。そのため、高品質な半導体成長層から成る半導体微小構造を半導体基板上の選択領域により再現性よく形成することが可能になる。また、高性能な量子ドット等の半導体微小構造を結晶成長法により作製する場合でも、半導体基板温度を厳密に制御することが可能となる。さらに、溝62および第2の開口53を組み合わせたものをメタルマスク51に複数設けていれば、結晶成長の処理中に試料の複数個所で基板温度を測定したり、結晶成長の処理毎に試料における異なる位置で基板温度を測定したりすることが可能となる。
【実施例2】
【0054】
第2の実施形態による半導体作製装置の実施例について説明する。試料ホルダ4およびマスクホルダ2の構造は実施例1と同様であるため、ここではメタルマスク51の構造についてのみ、図5および図6を参照して説明する。
【0055】
メタルマスク51としては厚さ2mmのモリブデンから成る円盤を使用し、このメタルマスク51に300μm×2mmの第1の開口52が12個設けられている。メタルマスク51の試料54と接する側の面は、実施例1と同じく直径30mmの円状で、深さ100μmにわたり、切削加工が施されている。これらに加えて、メタルマスク51の試料54との接触面側に、円周の一部から一方向で対向する位置へと連続、貫通した溝63が形成されている。溝62の幅は2mmとし、深さは1mmとした。さらに、メタルマスク51の中央部に幅2mm、長さ5mmの第2の開口53が形成されている。
【0056】
次に、本実施例の半導体作製装置を用いた基板温度測定方法を説明する。
【0057】
上述のメタルマスク51を、実施例1と同様にマスクホルダ2に固定し、図3に示した工程にしたがって、選択成長処理を行った。実施例1と同様にGaAs半導体基板31上に、GaAsから成る第1の半導体層32を成長させた後、マスクホルダ2を装着し、InAs量子ドットから成る第2の半導体層34を成長させた。第2の半導体層34の成長に先立ち、RHEED測定を行った。
【0058】
通常、RHEED測定の電子線57は、試料表面すれすれの0.5度以内の極低角度で入射するため、本実施例によるメタルマスクを装着した場合、溝62とRHEEDの電子線の相対位置関係を適当な位置に調整することは難しいことが予想された。しかし、結晶成長装置のマニピレータに予め備えられた、xyz(x軸、y軸およびz軸)に対する位置調整機構と面内回転機構の調整により、RHEED電子線源と対向位置に配置した蛍光板上に試料表面で回折したRHEED電子線57の回折像を容易に得ることができた。
【0059】
実際の成長温度の決定は以下の手順で行った。RHEEDの回折像は、GaAs半導体から成る試料の結晶軸方位で[−110]方向から行った。試料温度が低い場合、RHEED回折像は、×2の超構造周期の存在を示すパターンを示していたが、試料温度を上げると次第にこの超構造が消失し、×4の超構造周期の存在を示すパターンへと変化した。マスクを用いない場合のGaAs結晶成長時の実験により、このパターン変化時の温度が470℃で、かつ、InAs量子ドットの成長に適した温度であることがわかっており、このパターンが変化した温度で、InAs量子ドットから成る第2の半導体層34の成長を行った。その後、連続して、GaAsから成る第3の半導体層35を成長させた後、選択成長を終了した。選択成長実施後、InAs量子ドット選択成長層の光学評価を行ったところ、発光中心波長1.15μm、発光エネルギー幅30meVの高品質なInAs量子ドットが形成されていることを確認できた。
【0060】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態では、選択成長層が非常に薄い場合でも、結晶成長工程の後、結晶装置外へ取り出し、光学顕微鏡等により選択成長領域を認識することを可能にしたものである。この機能は、例えば、量子ドットのみをある所望の領域のみに作製したい場合、量子ドット層の平均膜厚は、数原子層程度であるため、非常に有効な機能となる。
【0061】
図7(a)および(b)は本実施形態の半導体作製装置のメタルマスクの一構成例を示す外観斜視図である。なお、図7(a)および(b)では、本実施形態の半導体作製装置のメタルマスクのみを描写し、その他の部材の描写を省略している。
【0062】
図7(a)に示すように、本実施形態のメタルマスク75には、試料と接触する側の面とは反対側の面にシャッター機構71が設けられている。図7(a)はシャッター機構71が開いた状態を示し、図7(b)はシャッター機構71が閉じた状態を示す。本実施形態では、シャッター機構71は、結晶成長の温度に対して耐熱性のある金属部材で四角形に成形されたシャッター(遮蔽部材)と、メタルマスク75と接続するためのちょうつがいと、重り72とを有する構成である。シャッターの1つの辺がちょうつがいでメタルマスク75に接続されている。また、重り72は、ちょうつがいで接続された辺の対辺の部位に取り付けられている。図7(b)に示すように、重り72は、シャッター機構71が閉じたときにメタルマスク1と接触する面とは反対側の面に取り付けられている。
【0063】
メタルマスク75には、第1の実施形態で説明した第1の開口52と、第2の実施形態で説明した第2の開口53がそれぞれ少なくとも1つ設けられている。図7(a)に示すように、本実施形態では、第1の開口52が4つ設けられ、第2の開口53が1つ設けられている。また、本実施形態のメタルマスク75には、図7(a)および(b)に示すように、第3の開口73が2つ設けられている。第3の開口73は、シャッター機構71が閉じたときに露出するような位置に、少なくとも1つ設けられていればよい。第3の開口73は、観察対象の半導体層を形成するための窓の役目を果たす。
【0064】
なお、図7(a)に示すメタルマスク75には、第2の開口53が設けられているが、第2の開口53を設けていなくてもよい。また、シャッターの形状は四角形に限られず、シャッターのメタルマスク1への接続はちょうつがいに限られない。
【0065】
次に、本実施形態の半導体作製装置の動作を説明する。
【0066】
図7(a)に示すように、シャッター機構部71のメタルマスク75との接続部が下になるように半導体作製装置を置くと、重り72の重力でシャッター機構部71のシャッターが開く。シャッターが開いた状態では、図7(a)に示すように、第1の開口52、第2の開口53および第3の開口53が露出している。
【0067】
図7(a)に示す状態から、円盤状の半導体作製装置をその円盤の中心を軸にして180度回転させると、重り72の重力でシャッター機構71のシャッターが閉じ、図7(b)に示す状態になる。シャッターが閉じた状態では、図7(b)に示すように、第1の開口52および第2の開口53がシャッターで塞がれているが、第3の開口73は露出している。この第3の開口73の領域に、シャッター機構71で遮蔽された第1の開口52および第3の開口53の領域の選択成長層とは異なる選択成長層を形成することにより、後工程でのマーカー層として利用することが可能となる。
【0068】
このようにして、メタルマスク75の試料と接触する側の面とは反対側の面に設けられたシャッター機構71は、試料ホルダ4またはマスクホルダ2を面内回転させることにより開閉することが可能となる。
【0069】
なお、シャッター機構71の重り72はシャッターの開閉動作をより確実にするために設けられており、重り72を設けていなくてもよい。シャッター機構71に重り72を設けていない場合、シャッターの自重により、上述したように開閉動作させればよい。図7(a)および(b)に示すようにメタルマスク75を立てた状態から、シャッター機構71を設けた面の方にメタルマスク75を傾ければシャッターの開閉動作をよりスムーズに行うことが可能となる。
【0070】
次に、本実施形態の半導体作製装置を用いた場合の選択成長領域の認識方法を説明する。
【0071】
バネ5を備えたマスクホルダ2と試料ホルダ4とを準備し、試料ホルダ4の上に試料および図7で説明したメタルマスク75を載せ、その上にマスクホルダ2を組み合わせて、本実施形態の半導体作製装置を組み上げる。そして、メタルマスク75が図7(a)に示した状態で薄膜の成長層を試料に選択成長させる。この際、第1の開口52、第2の開口53および第3の開口73の領域すべてに選択成長層が形成されることとなる。
【0072】
続いて、試料ホルダ4を180度面内回転させるとメタルマスク75も180度回転し、シャッター機構71が閉じる(図7(b))。第3の開口73は、シャッターで遮蔽した領域外にあるので、シャッターを閉じても露出している。この状態で、さらに半導体層を成長すれば、第3の開口73の領域のみに成長が行われる。その際、顕微鏡等で認識可能な十分な厚さの半導体層を成長すれば、第3の開口73の領域に形成された半導体層を後工程でのマーカー層として利用することが可能となる。
【0073】
本発明によれば、選択成長層が非常に薄い場合でも、結晶成長工程の後、結晶装置外へ取り出し、光学顕微鏡等により選択成長領域を認識することが可能である。選択成長領域を認識できるため、その後の加工工程を行うことができる。量子ドットのみをある所望の領域のみに作製したい場合等に、量子ドット層の平均膜厚は数原子層程度で、認識しにくいため、特に有効である。よって、高品質な半導体成長層から成る半導体微小構造を半導体基板上の選択領域に再現性よく形成することが可能になる。
【実施例3】
【0074】
第3の実施形態による半導体作製装置の実施例について説明する。試料ホルダ4およびマスクホルダ2の構造は実施例1と同様であるため、ここではメタルマスク75の構造についてのみ、図7を参照して説明する。
【0075】
メタルマスク75としては厚さ1mmのモリブデンから成る円盤を使用し、メタルマスク75に300μm×2mmの第1の開口52が実施例1と同様に12個設けられている。メタルマスク75の試料と接する側の面は、実施例1と同じく直径30mmの円状で、深さ100μmにわたり切削加工が施されている。これらに加えて、メタルマスク75の試料と接する側の面とは反対側の面に、試料ホルダ4を保持して面内で回転させることにより自重で開閉する厚さ0.5mmのモリブデン板から成るシャッター機構71が設けられている。このシャッター機構71は、閉じた状態では、第1の開口52のすべてを遮蔽する。本実施例のメタルマスク75には、シャッター機構71が遮蔽する領域外に幅300μm×1mmの第3の開口73が2個設けられている。
【0076】
次に、本実施例の半導体作製装置による選択成長層の作製方法およびマーカー層の確認方法を説明する。
【0077】
実施例1で説明した試料ホルダ4に試料を載せ、実施例1および実施例2と同様にGaAsから成る第1の半導体層32を試料に成長させる。その後、本実施例のメタルマスク75と実施例1で説明したマスクホルダ2を試料ホルダ4に装着する。そして、シャッターを開けた状態で、InAs量子ドットから成る第2の半導体層34を第1の半導体層32上に成長させた。続いて、結晶成長装置のマニピレータの面内回転機構を使用し、試料ホルダ4を180度面内回転させ、シャッター機構71のシャッターを閉じた。そして、後工程のマーカー層として、GaAsを100nm成長させた。この際、通常GaAsを成長する温度でシャッターを閉じると、V族元素であるAsの蒸気圧がシャッターで閉ざされた空間で不足し、GaAs基板表面からAs原子が抜けて表面荒れを起こすおそれがある。この問題を防ぐために、As抜けが起こらない200℃程度まで基板温度が下がってから、シャッターを閉じ、マーカー層の成長を行った。
【0078】
成長温度を下げると成長層の結晶品質の低下が予想されるが、このマーカー層は、後工程でデバイス作製等に直接使用する層ではないため、成長温度を下げても、問題は生じない。そして、メタルマスク75を外した後、さらにGaAsから成る第3の半導体層35を成長させ、結晶成長工程を終了した。作製された試料表面を顕微鏡で観察すると、量子ドットを成長した第2の半導体層34の成長領域を確認することはできなかったが、第3の開口73の領域に形成されたマーカー層は、容易に顕微鏡観察で確認することができ、後工程のプロセスを行うことができた。
【0079】
(第4の実施形態)
次に、本実施形態の半導体作製方法について説明する。本実施形態での方法は、半導体微小構造として量子ドットの形成を想定した半導体作製方法である。本実施形態の半導体作製方法では、第1から第3の実施形態でその代表的な構成を説明した、本発明の半導体作製装置を用いる。
【0080】
図8は量子ドット層を含む半導体薄膜から成る半導体微小構造の作製手順を示す工程概念図である。図8では、本発明の半導体装置を簡略化して描写し、符号33で示している。
【0081】
本発明の半導体作製装置の試料ホルダ4に試料として半導体基板31を載せ、半導体基板31上に第1の半導体層32を成長させた後、第1の半導体層32の全面に量子ドットから成る第2の半導体層34を成長させる(図8(a))。続いて、メタルマスクおよびバネを備えたマスクホルダ2を試料ホルダ4に装着し、半導体作製装置33を組み上げ、開口領域のみに第3の半導体層35を成長させる(図8(b))。
【0082】
量子ドットは高温での熱処理に弱く、容易にその構造を崩し、ある温度まで基板温度を上げると基板表面から蒸発または崩壊してしまうが、半導体層で覆ってやることにより崩壊および蒸発することはない。したがって、半導体作製装置33を外した後、試料を加熱することにより、図8(c)に示すように、第3の半導体層35を形成した開口部の量子ドットのみがその形状を保持することができる。言い換えれば、開口部のみに量子ドットが形成可能である。その後、図8(d)に示すように、第4の半導体層81を第2の半導体層35を覆って第1の半導体層32の上に形成し、結晶成長工程を終える。
【0083】
本実施形態の半導体作製方法は、開口領域のみに量子ドットを選択的に作製することが可能であるだけではなく、次のような利点を有している。
【0084】
マスクを装着しての選択成長時の成長温度を低く設定することが可能である。通常、量子ドットを埋め込む場合の成長温度は、量子ドットの熱による崩壊を防ぐため、量子ドットを成長する場合の成長温度より低く設定される。本作製方法では、選択成長を量子ドットではなく、その後の埋め込み成長時に適用することにより、成長温度を低く設定できる。
【0085】
また、成長温度が低いということは、それだけ、マスクからの脱ガスも少ないということを意味しており、このことも、利点となる。さらに、本手法では、量子ドットを全面に成長し、一部の量子ドットを半導体層で埋め込む形態により、選択的に量子ドットを残す手法をとっている。このことは、通常のマスクを用いない場合の既存の成長条件で成長した高品質な量子ドットを利用することができることを示しており、結果として再現性よく高品質な量子ドットが実現できる。
【0086】
また、第3の半導体層35として、量子ドットの格子不整合に起因する歪みを緩和する材料を採用することにより、選択成長領域のみの量子ドットの発光波長を制御することも可能である。
【実施例4】
【0087】
第4の実施形態による半導体作製方法の実施例について図8を参照して説明する。本実施例では、InAs量子ドットをGaAs基板上に選択的にメタルマスクの開口領域に形成する場合について述べる。メタルマスクとしては、第1の実施形態から第3の実施形態で説明したいずれかのメタルマスクを用いた。
【0088】
図8(a)に示すように、試料ホルダに載せたGaAs半導体基板(半導体基板31)上にGaAsから成る第1の半導体層32を100nm成長させ、InAsから成る第2の半導体層34を3分子層分成長させる。このInAsから成る第2の半導体層34は、GaAsとの格子不整合に起因する歪みにより、3次元上に成長し、量子ドット層となる。続いて、試料ホルダにメタルマスクとマスクホルダを装着し、GaInAs(In組成20%)(膜厚3nm)およびGaAs(膜厚5nm)から成る第3の半導体層35を成長させた。この半導体層中のGaInAs層は、InAs量子ドットの歪みを緩和し、発光波長を長波化する効果もある。
【0089】
次に、メタルマスクを含むマスクホルダを外した後、試料をAs雰囲気下で所定の温度まで昇温した。この温度は、少なくとも量子ドットを崩壊させる温度であればよい。本実施例の場合は、量子ドットの成長温度である470℃まで加熱した。その結果、第3の半導体層35を形成した領域以外に形成された量子ドットは、熱により、崩壊、消失した。そこで、さらに連続して、量子ドットを保護するため、GaAsから成る第4の半導体層81を50nm成長させた後、選択成長工程を終了した。作製された試料の光学特性を調べてみたところ、非選択成長領域では、何の発光も確認されなかったが、選択成長領域では、発光中心波長1.28μm、発光エネルギー幅30meVの高品質なInAs量子ドットが形成されていることを確認できた。
【0090】
なお、選択成長層として量子ドットを中心に実施の形態および実施例を説明したが、本発明の効果は量子ドットを対象とする場合に限定されるものではなく、他の半導体層をはじめとする微小構造を構成する材料系一派に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】第1の実施形態の半導体作製装置を用いた結晶成長装置を説明するための模式図である。
【図2】試料ホルダおよびマスクホルダの外観斜視図である。
【図3】第1の実施形態の半導体作製装置を用いた選択成長の工程を示す図である。
【図4】実施例1の選択成長処理を行った後の試料の断面模式図である。
【図5】第2の実施形態のメタルマスクの一構成例を示す外観斜視図である。
【図6】第2の実施形態のメタルマスクの一構成例を示す外観斜視図である。
【図7】第3の実施形態のメタルマスクの一構成例を示す外観斜視図である。
【図8】量子ドット層を含む半導体薄膜から成る半導体微小構造の作製手順を示す工程概念図である。
【符号の説明】
【0092】
1、51、75 メタルマスク
2 マスクホルダ
3 試料
4 試料ホルダ
5 バネ
6 蒸発源
7 選択成長層
21a、21b ピン
22 切り欠き
31 半導体基板
32 第1の半導体層
33 半導体作製装置
34 第2の半導体層
35 第3の半導体層
41 選択成長領域
42 非選択成長領域
52 第1の開口
53 第2の開口
54 試料
56 入射口
57 電子線
63 溝
71 シャッター機構
72 重り
73 第3の開口
81 第4の半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板が搭載される試料ホルダと、
前記半導体基板に選択的に結晶を成長させるための少なくとも1つ以上の第1の開口を有するマスクと、
前記半導体基板および前記マスクを前記試料ホルダとの間に挟み、前記試料ホルダと組み合わされるマスクホルダと、
前記マスクと前記マスクホルダとの間に設けられた弾性体とを有する半導体作製装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体作製装置において、
前記マスクは、
前記半導体基板と接する側の面に、該マスクの外周上の一部から一方向に直線的に切削された溝構造と、
前記溝構造に設けられ、前記マスクを貫通する、少なくとも1つ以上の第2の開口とを有することを特徴とする半導体作製装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2の半導体作製装置において、
前記マスクは、
前記半導体基板に接する側と反対側の面に接続された遮蔽部材を含み、該面と平行な面で該遮蔽部材が回転することで、前記第1の開口を露出させる第1の状態と該第1の開口を前記遮蔽部材で遮蔽する第2の状態とに変換可能なシャッター機構と、
前記遮蔽部材により遮蔽されない領域に設けられた、少なくとも1つ以上の第3の開口とを有することを特徴とする半導体作製装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項記載の半導体作製装置を用いて、前記半導体基板上に半導体微小構造を選択的に形成することを特徴とする半導体作製方法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項記載の半導体作製装置を用いて真空雰囲気下において、
前記半導体作製装置から前記マスクを外し、前記半導体基板に第1の半導体層を形成し、
前記半導体作製装置に前記マスクを装着し、前記半導体基板に第2の半導体層を選択的に形成することを特徴とする半導体作製方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の半導体作製方法において、
第1の半導体層を前記半導体基板上に形成し、
前記半導体作製装置を前記半導体基板に装着し、第2の半導体層を前記第1の半導体層上の前記第1の開口に対応する領域に選択的に形成し、
前記第2の半導体層を形成した後、前記半導体作製装置の前記マスクを外し、前記第1の開口に対応する領域以外の前記第1の半導体層が崩壊または蒸発するまで前記半導体基板の温度を上昇させることを特徴とする半導体作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−34445(P2008−34445A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203202(P2006−203202)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】