説明

半導体基板の製造方法

【課題】厚みのある半導体基板に対し、正確な位置でのへき開を可能とするような十分な深さのガイド溝を形成する半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る半導体基板の製造方法は、インジウムリン化合物半導体またはガリウムヒ素化合物半導体からなる基板本体の表面に、開口幅が略40um以下である開口部が形成されたマスクを、その開口部が基板本体のへき開線に沿って延びるように転写する工程と、基板本体の表面に臭素系のエッチング液を用いてウエットエッチング処理を施すことによって、縦断面で略V字型を有するガイド溝を形成する工程と、ガイド溝に反応性ガスを用いてドライエッチング処理を施すことによって、底部の縦断面形状を略V字型に保持したままガイド溝の溝深さを深くする工程と、を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、へき開用のガイド溝が表面に形成された半導体基板の製造方法に関し、特に、正確な位置でのへき開が可能な半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ等の半導体発光素子としては、光共振器を半導体基板と平行に作り込み、半導体基板の側面から光が出射する端面出射型の構造が広く採用される。そして、光が出射する端面としては半導体結晶面が多く利用されるが、半導体発光素子の素子特性を均一にするためには、この半導体結晶面を正確な位置に且つ平坦性良く形成することが重要である。そこで、半導体結晶面の形成する手段として、へき開(劈開)、すなわち結晶を特定方向へ平滑に割る方法が一般的に用いられる。
【0003】
ここで、へき開とは、まず半導体基板の表面であって分割を予定する位置にガイド溝を形成した後、半導体基板の裏面であってガイド溝の直下位置にブレードを押し当てて、半導体基板を割る手法である。そして、半導体基板の表面にガイド溝を形成する手段としては、ダイヤモンドカッターや高出力レーザビーム等を用いて半導体基板の表面に筋を入れる方法がある。しかし、この方法によれば、ガイド溝の形成時に欠陥やクラックが発生しやすい。そして、欠陥やクラックが発生した半導体基板は、ブレードを押し当てて割る際にへき開線が直進せず、その結果として端面の平坦性や歩留まりが悪化するという問題がある。
【0004】
そこで、半導体基板の表面にガイド溝を形成する手段として、ウエットエッチングを用いる方法がある(例えば、特許文献1参照)。このウエットエッチングでは、液体状の薬品で半導体基板を腐食溶解することによって、その表面に断面V字型のガイド溝を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−71989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のウエットエッチングによるガイド溝の形成方法では、半導体基板に厚みがある場合、十分な深さのガイド溝を形成することが難しいという問題がある。より詳細には、厚みのある半導体基板を正確な位置でへき開するためには、その表面に深いガイド溝を形成する必要がある。しかし、ウエットエッチングだけで深いガイド溝を形成することは困難である。その理由の1つとしては、深いガイド溝を形成するためにはウエットエッチングの時間を長くする必要があるが、半導体基板の表面にウエットエッチングされて安定した部分が増えるに従って、エッチング速度が低下するからである。また、他の理由としては、結晶方位によって断面V字型の角度が定まるため、ガイド溝の開口幅によってその深さが一律に決まるからである。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、厚みのある半導体基板に対し、正確な位置でのへき開を可能とするような十分な深さのガイド溝を形成する半導体基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係る半導体基板の製造方法は、インジウムリン化合物半導体またはガリウムヒ素化合物半導体からなる基板本体の表面に、開口幅が略40um以下である開口部が形成されたマスクを、その開口部が前記基板本体のへき開線に沿って延びるように転写する工程と、前記基板本体の表面のうち前記マスクの開口部に相当する部分に、臭素系のエッチング液を用いてウエットエッチング処理を施すことによって、縦断面で略V字型を有し前記基板本体のへき開を案内するためのガイド溝を形成する工程と、前記ガイド溝に、反応性ガスを用いてドライエッチング処理を施すことによって、底部の縦断面形状を略V字型に保持したまま前記ガイド溝の溝深さを深くする工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る半導体基板の製造方法によれば、厚みのある半導体基板に対し、底部形状が先鋭であって、且つ、その溝深さが基板本体の厚みに対して十分に深いガイド溝を形成することができる。これにより、基板本体をへき開する際に、ガイド溝によって案内されることにより、正確な位置でのへき開が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板を示す概略平面図である。
【図3】半導体基板の製造方法を説明するための図であって、ガイド溝の周辺部を示す概略縦断面図である。
【図4】半導体基板の製造方法を説明するための図であって、ガイド溝の周辺部を示す概略縦断面図である。
【図5】半導体基板の製造方法を説明するための図であって、半導体基板の概略平面図である。
【図6】半導体基板のへき開動作を説明するための図であって、ガイド溝の周辺部を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の実施形態に係る半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板の構成について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る半導体基板の製造方法によって製造された半導体基板10を示す図であって、図1は概略縦断面図、図2は概略平面図である。半導体基板10は、図1及び図2に示すように、所定厚みの基板本体11と、この基板本体11の表面に形成された複数のガイド溝12と、を備えるものである。
【0012】
基板本体11は、図1に示すように、InP(インジウムリン)化合物半導体またはGaAs(ガリウムヒ素)化合物半導体からなる平板状の部材であって、厚みDkを有している。尚、基板本体11の材質は、ウエットエッチングが可能な化学的特性を有する半導体材料であればよく、本実施形態には限定されない。但し、例えばGaN(窒化ガリウム)のように、化学的に安定した特性を有するためウエットエッチングが行えない半導体材料は用いることができない。
【0013】
ガイド溝12は、図1に示すように、基板本体11の表面に対して略垂直な壁面13aを有するドライエッチング部13と、基板本体11の表面に対して所定角度をなして傾斜した壁面14aを有するウエットエッチング部14と、を備えている。
【0014】
ドライエッチング部13は、後述するドライエッチング処理によって形成されるものである。このドライエッチング部13は、図2に示すように平面視で細長の矩形形状を有し、その開口幅がW1であってその開口長がL1である。また、ドライエッチング部13は、図1に示すように縦断面でも矩形形状を有し、その溝深さはD1である。
【0015】
ウエットエッチング部14は、後述するウエットエッチング処理によって形成されるものである。このウエットエッチング部14は、平面視で細長の矩形形状を有し、その開口幅がW2であってその開口長がL1である。ここで、ウエットエッチング部14の開口幅W2は、ドライエッチング部13の開口幅W1より狭く形成されている。また、ウエットエッチング部14は、図1に示すように縦断面で略V字型を有し、その溝深さはD2である。そして、ウエットエッチング部14の溝深さD2と前記ドライエッチング部13の溝深さD1との合計、すなわちガイド溝12全体としての溝深さDgは、基板本体11の厚みDkより小さくなっている。
【0016】
このように構成されるガイド溝12は、図2に示すように、基板本体11の縦方向及び横方向の双方に向かってそれぞれ略等間隔で形成されている。これにより、各ガイド溝12は、図2に二点鎖線で示す複数のへき開線H、すなわちへき開しようとするラインに沿って並んでいる。尚、本実施形態ではへき開線Hに沿って複数のガイド溝12を形成したが、へき開線Hに沿って延びる1本の長いガイド溝12を形成してもよい。
【0017】
次に、本発明の実施形態に係る半導体基板10の製造方法の手順について説明する。図3から図5は、半導体基板10の製造方法を説明するための図であって、図3と図4はガイド溝12の周辺部を示す概略縦断面図、図5は半導体基板10の概略平面図である。半導体基板10の製造に際しては、まず、図に詳細は示さないが、平滑な平板部材である基板本体11の表面にマスキング処理を施す。具体的には、図3に示すように、所定形状の開口部15aが設けられた二酸化ケイ素(SiO)からなるマスク15を基板本体11の表面に転写することにより、基板本体11の表面のうちウエットエッチングを行わない領域を保護する。ここで、マスク15に設けた開口部15aの平面視形状は、前記ドライエッチング部13の平面視形状に略等しく、その開口幅W1は略40um以下であって、特に略10um程度が好適である。尚、マスク15の材質は特に限定されないが、本実施形態のように二酸化ケイ素を用いれば、エッチング液と化学的に反応しない高い安定性と、高い精度での加工が可能なプロセス容易性の両方が得られるという利点がある。
【0018】
次に、基板本体11に対してウエットエッチング処理を行う。具体的には、基板本体11の表面を、エッチング液であるHBr(臭化水素酸)に浸す。これにより、図3に示すように、基板本体11の表面のうちマスク15で覆われていない領域が、HBrによって腐食溶解し、縦断面で略V字型のウエットエッチング部14が形成される。このようにウエットエッチング部14が略V字型に腐食溶解するのは、ウエットエッチングにより基板本体11の表面に特異面が現れ、エッチングがそれ以上進まなくなるためである。そして、形成されたウエットエッチング部14は、その開口幅が、マスク15に設けた開口部15aの開口幅W1と略等しく、その溝深さが、図1に示すウエットエッチング部14の溝深さD2より若干大きいD3である。尚、エッチング液はBr系であれば足り、HBrには限定されない。
【0019】
ここで、半導体基板10上におけるウエットエッチング部14の形成位置は、半導体基板10の表面にマスク15を転写する露光工程において、その露光精度によって決まる。従って、この露光工程においていわゆるステッパ露光技術を用いれば、半導体基板10におけるウエットエッチング部14の形成位置を、サブミクロン以下のオーダーで調整することができる。
【0020】
次に、基板本体11に対してドライエッチング処理を行う。具体的には、基板本体11の表面に対して所定の反応性ガスを噴霧する。これにより、図4に示すように、ウエットエッチング部14の底部がV字型を保持したまま溝が深くなるとともに、その壁面14aの上部が反応性ガスで溶解することによって、基板本体11の表面に対して略垂直な壁面13aを有するドライエッチング部13が形成される。ここで、形成されたドライエッチング部13は、前述のようにその開口幅がW1であってその溝深さがD1である。一方、ドライエッチング処理後のウエットエッチング部14は、その上部にドライエッチング部13が形成されることにより、その溝深さがドライエッチング処理前のD3より若干小さいD2に、その開口幅もドライエッチング処理前のW1から若干小さいW2となる。
【0021】
尚、ドライエッチング部13の溝深さD1は、ガイド溝12全体としての溝深さDgが基板本体11の厚みDkに対して十分深くなるように適宜設定される。例えば基板本体11の厚みが200um程度であれば、溝深さD1を40um程度とするのが好適である。そして、この溝深さD1の調整は、ドライエッチング処理を行う処理時間を変化させることで行えばよい。
【0022】
以上より、基板本体11の表面に、ドライエッチング部13とウエットエッチング部14とを有するガイド溝12が形成される。最後に、半導体基板10の表面を覆ったマスク15を除去することにより、半導体基板10が完成する。
【0023】
ここで、図5は、本発明に係る半導体基板10の製造方法を半導体レーザの製造に適用する場合における、半導体基板10の概略平面図である。半導体レーザの製造時には、InP化合物半導体からなる基板本体11が用いられる。そして、この基板本体11の表面には、ガイド溝12の形成後に、活性層16が周期的に配列されてなる活性層ストライプ17が形成される。従って、各ガイド溝12は、前述のようにへき開線Hに沿って並ぶように形成されるとともに、活性層ストライプ17に干渉しないようにそれぞれ形成される。そして、この時、図5に示すように半導体基板10の方位を<001>とし、へき開方向を<0−11>とすれば、半導体基板10をへき開した際に平坦性の高い結晶面を得ることができる。尚、活性層16とは、注入されたキャリア(電子・ホール)が再結合し、この層の物性であるバンドギャップエネルギーに応じた波長の光を発光する層のことを言う。
【0024】
最後に、本発明に係る半導体基板10の製造方法が終了した後に行う、半導体基板10のへき開動作について説明する。図6は、半導体基板10のへき開動作を説明するための図であって、ガイド溝12の周辺を示す概略縦断面図である。図に示すように、基板本体11の底面であってガイド溝12の直下にブレードBの先端を押し当て、この状態でブレードBの当接点を支点として、半導体基板10をへき開線Hに沿って2つに割ることによってへき開する。ここで、前述のように半導体基板10に形成されたガイド溝12は、その下端部が先鋭な形状となるように形成され、且つ、その溝深さDgが基板本体11の厚みDkに対して十分深く形成されている。これにより、半導体基板10をへき開する際に、へき開線Hに沿った位置で半導体基板10を正確にへき開することができる。更に、このガイド溝12の延びる方向を、結晶面と一致させることにより、平坦性の高いへき開面を形成することができる。これにより、半導体レーザの製造に適用した場合には、素子共振器長にばらつきがなく、均一な特性を実現することができる。
【0025】
尚、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは製作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る半導体基板の製造方法は、半導体レーザ以外の他の半導体素子の製造にも適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
10…半導体基板
11…半導体基板
12…ガイド溝
15…マスク
15a…開口部(マスク)
H…へき開線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムリン化合物半導体またはガリウムヒ素化合物半導体からなる基板本体の表面に、開口幅が略40um以下である開口部が形成されたマスクを、その開口部が前記基板本体のへき開線に沿って延びるように転写する工程と、
前記基板本体の表面のうち前記マスクの開口部に相当する部分に、臭素系のエッチング液を用いてウエットエッチング処理を施すことによって、縦断面で略V字型を有し前記基板本体のへき開を案内するためのガイド溝を形成する工程と、
前記ガイド溝に、反応性ガスを用いてドライエッチング処理を施すことによって、底部の縦断面形状を略V字型に保持したまま前記ガイド溝の溝深さを深くする工程と、
を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記マスクが、二酸化ケイ素からなることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記ガイド溝が、前記基板本体に形成される活性層ストライプに干渉しない位置に、前記基板本体のへき開線に沿って所定間隔で複数形成されたことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記マスクに形成された開口部の開口幅が、略10umであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−243857(P2011−243857A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116406(P2010−116406)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】