説明

半導体封止用樹脂組成物

【課題】ハロゲン原子を含まず、流動性及び耐熱性が高く、ブリードが少なく、線膨張係数が低く、且つ、難燃性に優れた、半導体封止材料として信頼性を有する半導体封止用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂100質量部、(B)ビス(アミノフェニル)フェニルホスフェート構造を有するアミノ基含有リン酸エステル化合物20〜80質量部及び(C)アミノ基含有リン酸エステル化合物以外のジアミン化合物5〜80質量部からなる樹脂成分10〜35質量%並びに無機充填剤65〜90質量%を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性難燃成分を用いた半導体封止用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の部品化を行うにあたっては、耐熱性、密着性、電気絶縁性等に優れた硬化物が得られることから、エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子の封止を行う事が主流である。従来これら半導体封止用樹脂組成物には、エポキシ樹脂として、クレゾールノボラック型や、硬化剤として耐熱性および耐湿性に優れることからフェノールノボラック型が好適に用いられている。
そして、このときに半導体封止材の樹脂層を構成するエポキシ樹脂には、火災に対する安全性の面から、臭素化合物を代表するハロゲン化合物などを添加して、難燃性や自己消火性を付与して用いることが行われてきた。
【0003】
ハロゲン化合物は、エポキシ樹脂および樹脂組成物に、難燃性や自己消火性の付与に優れた効果を発揮するとともに、上記エポキシ樹脂組成物の優れた特性への悪影響が非常に小さいことから、半導体封止用樹脂組成物の構成材として用いられてきた。
これに対して、近年の環境問題に対する関心の高まりから、エポキシ樹脂から臭素に代表されるハロゲン類化合物を排除しようとする検討が行われている。これは、ハロゲン類化合物は、廃棄後に適正な燃焼処理を行わなければ有害なダイオキシン系化合物を発生する場合があるとされるためである。即ち、ハロゲン類を排除した「ハロゲンフリー樹脂」と称される樹脂組成物への転換が、既に市場で進行している。
【0004】
具体的なハロゲンフリー樹脂とするための手法は、水酸化アルミニウムに代表される難燃性無機充填剤をエポキシ樹脂中に添加する方法や、添加型の難燃剤であるリン酸エステル化合物またはホスファゼン化合物を配合する方法(特許文献1、特許文献2)、リン原子を含有したエポキシ樹脂等を使用する方法等(特許文献3、特許文献4、特許文献5)が提案されてきた。
【0005】
【特許文献1】特開2005−008835号公報
【特許文献2】特開2001−098144号公報
【特許文献3】特開平11−279258号公報
【特許文献4】特開2000−309623号公報
【特許文献5】特開2001−288247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した方法により、半導体封止用樹脂組成物にハロゲン化合物を含ませることなく難燃性を付与したエポキシ樹脂を製造することが可能となるが、それぞれの方法には下記の如き問題点がある。
例えば、無機充填剤を使用して難燃性を確保する場合、十分な難燃性を得るために大量の充填剤を添加する必要がある。従って、かかる樹脂組成物の難燃化に無機充填剤を用いた結果、組成物の流動性が低下し、成形性を悪化させるという点が問題となる。
【0007】
添加型難燃剤であるリン酸エステル化合物やホスファゼン化合物を添加した場合は、硬化物のガラス転移温度の低下(耐熱性の低下)、線膨張係数の増大や、ブリードにより金属との密着信頼性が大幅に低下する問題点が指摘されており、半導体部品の信頼性が低下する。また、反応型の難燃剤となるリン含有エポキシ樹脂を配合する方法の場合、前記問題点は解決できるが、リン含有量が低いため、リン含有エポキシ樹脂だけの配合では、十分な難燃性を得ることはできない。
そこで、本発明の課題は、ハロゲン原子を含まず、流動性及び耐熱性が高く、ブリードが少なく、線膨張係数が低く、且つ、難燃性に優れた、半導体封止材料として信頼性を有する半導体封止用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するため、鋭意研究したところ、特定のアミノ基含有リン酸エステル化合物を含有する半導体封止用樹脂組成物により、上記課題が解決されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、
1.(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂100質量部、(B)下記一般式(1)で示されるアミノ基含有リン酸エステル化合物20〜80質量部及び(C)該(B)成分以外のジアミン化合物5〜80質量部からなる樹脂成分10〜35質量%並びに無機充填剤65〜90質量%を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物、
【化1】

(式中、X1〜X5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい)
2.前記(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物が、下記一般式(2)で示される化合物である上記1に記載の半導体封止用樹脂組成物、
【化2】

(式中、X1〜X5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
3.前記(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物が、下記一般式(3)又は(4)で示される化合物である上記2に記載の半導体封止用樹脂組成物、
【化3】

4.前記非ハロゲン系エポキシ樹脂が、リン含有エポキシ樹脂である上記1〜3のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物、及び
5.前記無機充填剤が、球状溶融シリカである上記1〜4のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハロゲン原子を含まなくても十分な難燃性を得られると同時に、難燃剤のブリードが起こらず、さらに耐熱性、線膨張係数、流動性および成形性の点で優れることから、長期信頼性に優れる半導体封止用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂、(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物及び該(B)成分以外のジアミン化合物からなる樹脂成分並びに無機充填剤を含む。
【0011】
(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂
本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いられる(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂は、分子内に臭素等のハロゲン原子を含まないエポキシ樹脂であり、耐熱性、線膨張係数、流動性、成形性、耐薬品性等、半導体封止用樹脂組成物に用いられる樹脂組成物において、主たる特性を決定する材料である。かかる(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂としては、特に限定されることはないが、一分子中に少なくとも平均2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。また、かかる(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂は、例えば、シリコーン骨格、ウレタン骨格、ポリイミド骨格、ポリアミド骨格等を有していてもよく、また、リン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
このような(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等の二価のフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール変性型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂等の三価以上のフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂などが挙げられる。
なお、(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
また、上記の各種エポキシ樹脂に、反応性リン化合物を反応させてリン原子を結合させた各種リン含有エポキシ樹脂も(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂として用いることができる。かかる反応性リン化合物としては、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド(三光株式会社製、商品名:HCA)あるいはジフェニルホスフィンオキサイドとベンゾキノンあるいはナフトキノンとの反応生成物(下記式a〜d)等が挙げられる。
【0013】
【化4】

これらのリン含有エポキシ樹脂を用いることで、本発明の半導体封止用樹脂組成物の難燃性をさらに向上することができる。
【0014】
(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物
本発明における(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物は、本発明の半導体封止用樹脂組成物の1成分である(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂の硬化剤として作用すると同時に難燃剤として作用し、次の一般式(1)で示される。
【0015】
【化5】

(式中、X1〜X5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい)
【0016】
かかる一般式(1)で表される(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の製造方法は、特に制限されることはなく、ジャーナル・オブ・ポリマーサイエンス・パートA(Journal of Polymer Science Part A)、Polymer Chemistry Vol.35,No.3 p. 565-574 (1997)等に記載されているような従来公知の方法に従って製造することができる。かかる方法の中でも、ニトロフェノール化合物又はアミノフェノール化合物と、ジクロロリン酸化合物とを、非プロトン性有機溶媒中で反応させる方法が好ましく、特に、所定の一般式で表されるアミノフェノール化合物と、所定の一般式で表されるジクロロリン酸化合物とを塩基性化合物の存在下、非プロトン性有機溶媒中で反応させる方法は、1段階の反応によって容易に調製することができるので生産効率及びコストの面において好ましい。上記塩基性化合物としては、有機塩基性化合物及び無機塩基性化合物から選択される1種以上を用いることができる。
【0017】
(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の製造に好ましく用いられるアミノフェノール化合物は、次の一般式(i)で表される。
【0018】
【化6】

【0019】
このようなアミノフェノール化合物としては、例えば、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール及びp−アミノフェノールを挙げることができる。また、アミノフェノール化合物は、アルキル基及びアルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0020】
(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の製造に好ましく用いられるジクロロリン酸化合物は、次の一般式(ii)で表される。
【0021】
【化7】

【0022】
上記式中、X1〜X5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。
このようなジクロロリン酸化合物としては、例えば、フェニルジクロロリン酸、2−メチルフェニルジクロロリン酸、4−メチルフェニルジクロロリン酸、2,6−ジメチルフェニルジクロロリン酸、2,4,6−トリメチルフェニルジクロロリン酸、4−エチルフェニルジクロロリン酸及び4−プロピルフェニルジクロロリン酸等を挙げることができる。
【0023】
アミノフェノール化合物とジクロロリン酸化合物との割合は、ジクロロリン酸化合物の塩素原子1モルに対して、アミノフェノール化合物が1.0〜3.0モルであることが好ましく、1.1〜1.6モルであることがより好ましい。アミノフェノール化合物が1.0モル未満であると、(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の所望の収率が得られないことがあり、またハロゲン化合物であるジクロロリン酸化合物が生成物に混入する可能性がある。アミノフェノール化合物が3.0モルを超えると、未反応のアミノフェノール化合物の量が多すぎるため、経済的でない。
【0024】
(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の製造に好ましく用いられる有機塩基性化合物としては、例えば、ピリジン、コリジン、ルチジン等のピリジン類、DBU、DBN等の含窒素環状化合物、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等のアミン類、N,N,N',N'−テトラメチルグアニジン等が挙げられる。無機塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩等を挙げることができる。これらの中でも、ピリジン類、アミン類、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等アルカリ金属炭酸塩は、反応の選択性を高め、副反応生成物の量を少なくすることができるので好ましい。
塩基性化合物の使用量は、ジクロロリン酸化合物の塩素原子1モルに対して、1.0〜4.0モルが好ましく、1.1〜3.0モルがより好ましい。塩基性化合物の使用量が1.0モル未満では、反応において発生する塩素イオンを十分にトラップできず、反応系が酸性となって反応速度が低下することがある。一方、塩基性化合物の使用量が4.0モルを超えると、過剰の塩基性化合物が多すぎるため、経済的でない。
【0025】
(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の製造に好ましく用いられる非プロトン性有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族系;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン及びジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系;アセトニトリル等のニトリル系を挙げることができる。これらの中でも、アセトニトリルは、アミノフェノール化合物及びジクロロリン酸化合物の溶解性に優れるので好ましい。
非プロトン性有機溶媒の使用量は、アミノフェノール化合物及びジクロロリン酸化合物を溶解し得る量であれば良く、特に限定されることはない。
【0026】
(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の製造方法において、上記成分の添加順序は特に制限されることはないが、副反応を抑えて(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の収率を高める観点からは、アミノフェノール化合物を溶解させた非プロトン性有機溶媒に無機塩基性化合物を溶解又は分散させ、その後にジクロロリン酸化合物をゆっくり加えることが好ましい。
【0027】
反応温度は、使用する非プロトン性有機溶媒の種類等によって変化するが、一般に40〜100℃が好ましい。反応温度が40℃以上であると、反応速度が良好であり、また100℃以下であると副反応による生成物が減少しやすい。
反応時間は、上記成分の使用量等によって変化するが、一般に0.5〜10時間が好ましい。反応時間が0.5時間以上であると、アミノフェノール化合物とジクロロリン酸化合物とが十分に反応する。一方、反応時間が10時間以下であると、副反応が起こりにくく、収率に優れ、また経済的にも好ましい。
【0028】
反応終了後、濾過及び洗浄等の公知方法によって、反応物から(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物を単離することができる。
具体的には、反応物を濾過することによって、触媒及び生成した塩等の不純物を反応物から除去する。次いで、濾液を減圧濃縮した後、該濾液に多量の水を加えることによって固形物を析出させる。次いで、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機アルカリを加えてよく撹拌することで、固形物中に含まれる未反応のアミノフェノール化合物を水に可溶化させる。次いで、該固形物を濾過した後、水等を用いて該固形物を洗浄し、乾燥させることによって(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物を得ることができる。
かかる(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物は、分子中にハロゲン原子を有しておらず、加工時に加熱する際及び使用後に焼却する際にダイオキシン類を発生することがないので、難燃剤として半導体封止用樹脂組成物に用いることができる。
【0029】
上記一般式(1)で表される(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の中でも、次の一般式(2)で表される(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物を用いると、優れた難燃性を有する半導体封止用樹脂組成物が得られる。
【0030】
【化8】

【0031】
上記一般式(2)中、X1〜X5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。
また、上記一般式(2)で表わされる(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物の中でも、次の化学式(3)で表される化合物を用いると、特に優れた難燃性を有する半導体封止用樹脂組成物が得られる。また、次の化学式(4)で表される化合物を用いると、上記難燃性に加えて、耐加水分解性にも優れた半導体封止用樹脂組成物が得られる。
【0032】
【化9】

【0033】
かかる(B)アミノ基含有リン酸エステルの配合量は、難燃性を損なわないように、(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂100質量部に対し20〜80質量部であり、好ましくは30〜70質量部である。20質量部未満では難燃性が低下し、80質量部を越えると耐水性が低下する。さらに、(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂として用いられる前述のリン含有エポキシ樹脂等も含めて、本発明の半導体封止用樹脂組成物におけるリン含有量が0.8〜3.5質量%の範囲となるように配合することが好ましい。かかるリン含有量が0.8質量%以上であると、難燃性が向上する。また、リン含有量が3.5質量%以下であると、接着性等の物性が向上する。
【0034】
(C)上記(B)成分以外のジアミン化合物
本発明の半導体封止用樹脂組成物には、硬化物の耐熱性、柔軟性等を調整する観点から、(C)上記(B)成分以外のジアミン化合物(以下、(C)ジアミン化合物と略すことがある。)を含む。
本発明において使用可能な(C)ジアミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ジアミノジフェニルメタン及びビス(4−アミノフェニル)スルホン等を挙げることができる。これらの(C)ジアミン化合物は、単独又は混合して使用することができる。このような(C)ジアミン化合物の配合量は、(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂100質量部に対し5〜80質量部であり、好ましくは10〜50質量部であり、さらに好ましくは10〜40質量部である。
【0035】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、上記(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂、(B)上記一般式(1)で示されるアミノ基含有リン酸エステル化合物及び(C)ジアミン化合物からなる樹脂成分を10〜35質量%含み、好ましくは10〜30質量%含み、さらに好ましくは20〜30質量%含む。樹脂成分の配合量が10質量%未満であると、流動性が悪化し、35質量%を超えると、線膨張係数や難燃性が悪化する。
【0036】
(無機充填剤)
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、さらに無機充填剤を含む。本発明において使用可能な無機充填剤としては、特に限定されず公知のものを使用すれば良く、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、溶融シリカ、その中でも、難燃助剤としても作用する水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属酸化物や、低線膨張性、電気絶縁性、および低吸湿性に優れる溶融シリカ、結晶シリカが好ましく、特に溶融シリカが好ましい。溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め且つ成形材料の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状溶融シリカを主に用いる方が好ましい。更に球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、無機充填剤を65〜90質量%含み、好ましくは70〜90質量%含み、さらに好ましくは70〜80質量%含む。無機充填剤の配合量が65質量%未満であると、線膨張係数や難燃性が悪化し、90質量%を超えると、流動性が悪化する。
【0037】
(その他の成分)
(1)その他硬化剤
本発明の半導体封止用樹脂組成物には、(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物、(C)ジアミン化合物以外に、硬化剤を含有することができる。そのような硬化剤としては、非ハロゲン系エポキシ樹脂の硬化剤となるフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0038】
(2)硬化促進剤
本発明の半導体封止用樹脂組成物には(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物及び上記(C)ジアミン化合物のアミノ基と、(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂との架橋反応を促進させる観点から、硬化促進剤を含むことができる。
本発明において使用可能な硬化促進剤としては、サリチル酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、ベンゼンスルホン酸、及びp−トルエンスルホン酸等の有機酸や、三フッ化ホウ素モノメチルアミン、及び三フッ化ホウ素ピペリジン等のルイス酸等を挙げることができ、これらは単独又は混合して使用することができる。また、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物を用いても構わない。
かかる硬化促進剤の配合量は、本発明の難燃性樹脂成物の特性を損なわない範囲であれば特に限定されることはないが、一般に、(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物、(C)ジアミン化合物、及び(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.2〜3質量部が好ましい。かかる硬化促進剤の配合量が、0.1質量部以上であると、硬化促進剤を配合することによる効果が十分に得られる。一方、かかる効果促進剤の配合量が5質量部以下であると、十分なポットライフが得られる。
【0039】
以上に説明した(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂、(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物、(C)ジアミン化合物、無機充填剤、及び目的に応じて添加された成分で構成される本発明の半導体封止用樹脂組成物は、所定の割合で配合した後、一般にミキサーなどにより混合し、さらに溶融状態でニーダーや加熱ロールにより混練して調製する。この混練物を冷却、固化したものは、パウダー、ペレットなど、半導体の作製工程に適した性状にして半導体素子の封止に用いることができる。半導体素子の封止の方法としては、特に限定されるものではなく、公知のトランスファー成形などの方法で成形すればよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0041】
<アミノ基含有リン酸エステル化合物の調製>
合成例1(ビス(4−アミノフェニル)フェニルホスフェート(以下4−APPと略記することがある)の調製)
197g(1.42mol)のp−ニトロフェノール、135gの無水ピリジン、310gの無水アセトニトリルを、攪拌装置、乾燥窒素導入管、温度計、滴下漏斗及びコンデンサーを備えた4つ口フラスコに仕込み、4つ口フラスコ内を乾燥窒素雰囲気とした。次に、フラスコ内を激しく撹拌しながら、150g(0.710mol)のフェニルジクロロリン酸を内容物にゆっくり滴下した後、加熱還流を1時間行った。次に、反応液を室温まで冷却した後、3Lの冷水にゆっくり投入し、結晶を析出させた。得られた結晶を濾過した後、水で十分に洗浄し、90℃で24時間乾燥させることで、281g(0.68mol)のビス(4−ニトロフェニル)フェニルホスフェートが得られた(収率95%)。
次に、250g(0.60mol)のビス(4−ニトロフェニル)フェニルホスフェート、624gのジオキサン、70gのジオキサンに分散した50gのラネーニッケル触媒(Ni-Alアロイ)を、撹拌機を付したオートクレーブに仕込んだ。次いで、水素添加反応を50℃、80kg/cm2の圧力で、5時間行った。水素消費が止まってからさらに2時間反応を行った後、過剰な水素をオートクレーブから排気した。反応液を濾過した後、濃縮し、5Lの2%ジエチルアミン水溶液に投入した。次いで、析出した固形物を濾過した後、水で十分に洗浄した。次いで、かかる固形物を90℃、24時間乾燥することで、192gの上記化学式(3)で表される4−APP(収率85%)を得た。
【0042】
合成例2(4−APPの調製)
165g(1.66mol)の無水炭酸カリウム、及び700gの脱水処理したアセトニトリルと101g(0.926mol)のp−アミノフェノールとの混合液を、攪拌装置、乾燥窒素導入管、温度計、滴下漏斗及びコンデンサーを備えた4つ口フラスコに仕込み、4つ口フラスコ内を乾燥窒素雰囲気とした。内容物を攪拌しながら60〜65℃に昇温した後、65.1g(0.309mol)のフェニルジクロロリン酸と60gの脱水処理したアセトニトリルとの混合液を内容物にゆっくりと滴下した。滴下終了後、さらに1時間加熱還流した後、室温まで反応液を冷却した。生成した塩及び炭酸カリウムを濾過により除き、さらに50mlのアセトニトリルで洗浄した。得られた濾液を減圧濃縮後、約600mlの水に投入した。次いで、5%の炭酸カリウム水溶液約600mlを投入して30分間撹拌した後、析出した固形物を濾過し、水で丁寧に洗浄後、固形物を乾燥させた。得られた固形物を、メタノールを用いて再結晶させることによって、66.6gの上記化学式(3)で表される4−APPを得た(収率65%)。
【0043】
合成例3(ビス(4−アミノフェニル)−2,6−ジメチルフェニルホスフェート(以下4−ADMPと略記することがある)の調製)
107.7g(0.882mol)の2,6−ジメチルフェノール、80.7ml(0.884mol)のオキシ塩化リン、1.5gの無水塩化カルシウムを、攪拌装置、乾燥窒素導入管、温度計、滴下漏斗及びコンデンサーを備えた4つ口フラスコに仕込み、4つ口フラスコ内を乾燥窒素雰囲気とした。内容物を撹拌しながら15時間加熱還流を行い、得られた反応生成物を減圧下蒸留することにより、上記で得られた119.4g(収率56.7%)の2,6−ジメチルフェニルジクロロリン酸を得た。
【0044】
139g(1.00mol)のp−ニトロフェノール、94.9gの無水ピリジン、300gの無水アセトニトリルを、攪拌装置、乾燥窒素導入管、温度計、滴下漏斗及びコンデンサーを備えた4つ口フラスコに仕込み、4つ口フラスコ内を乾燥窒素雰囲気とした。次に、フラスコ内を激しく撹拌しながら、119.4g(0.50mol)の2,6−ジメチルフェニルジクロロリン酸を内容物にゆっくり滴下した後、加熱還流を1時間行った。次に、反応液を室温まで冷却した後、2Lの冷水にゆっくり投入し、結晶を析出させた。得られた結晶を濾過した後、水で十分に洗浄し、90℃で24時間乾燥させることで、204.5g(0.46mol)のビス(4−ニトロフェニル)−2,6−ジメチルフェニルホスフェートが得られた(収率92%)。
次に、120g(0.27mol)のビス(4−ニトロフェニル)−2,6−ジメチルフェニルホスフェート、300gのジオキサン、30gのジオキサンに分散した30gのラネーニッケル触媒(Ni-Alアロイ)を、撹拌機を付したオートクレーブに仕込んだ。次いで、水素添加反応を50℃、80kg/cm2の圧力で、2時間行った。水素消費が止まってからさらに2時間反応を行った後、過剰な水素をオートクレーブから排気した。反応液を濾過した後、濃縮し、3Lの2%ジエチルアミン水溶液に投入した。次いで、析出した固形物を濾過した後、水で十分に洗浄した。次いで、かかる固形物を90℃、24時間乾燥することで、86gの上記化学式(4)で表される4−ADMP(収率83%)を得た。
【0045】
<樹脂組成物の調製>
実施例1〜4
表1に示す配合割合にて各成分を混合し、それらを90℃の熱ロールにて溶融混練することによって、実施例1〜4の半導体封止用樹脂組成物を得た。
得られた半導体封止用樹脂組成物を金型にて190℃、1時間、圧力30kg/cm2で加圧成形し、試験用硬化物を作製した。
【0046】
比較例1〜3
表1に示す配合割合にて各成分を混合し、それらを90℃の熱ロールにて溶融混練することによって、比較例1〜3の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を金型にて190℃、1時間、圧力30kg/cm2で加圧成形し、試験用硬化物を作製した。
【0047】
<使用した材料>
上記実施例1〜4および比較例1〜3に用いた各配合成分は以下の通りである。
[(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂]
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名:EPICLON N−680、エポキシ当量=208グラム/当量)
リン含有エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名:FX−305、エポキシ当量=485、リン含有量:3.0質量%)
[硬化剤]
フェノールノボラック樹脂(昭和高分子株式会社製、商品名:BRG−555、水酸基当量=103)
[(C)アミノ基含有リン酸エステル化合物以外のジアミン化合物]
ビス(4−アミノフェニル)スルホン(東京化成工業株式会社製、DDS)
[添加型リン系難燃剤]
1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)(リン酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:PX-200、リン含有率9.0質量%)
フェノキシホスファゼン(大塚化学株式会社製、商品名:SPE−100)
[硬化促進剤]
三フッ化ホウ素モノエチルアミン(和光純薬工業株式会社製、F3BMEA)
トリフェニルフォスフィン(北興産業株式会社製、TPP)
[無機充填剤]
球状溶融シリカ(龍森株式会社製、MSR−2212)
【0048】
<試験方法>
実施例及び比較例で製造した熱硬化性樹脂組成物、および硬化物の特性評価は、次の測定によって行った。
【0049】
[難燃性]
上記実施例1〜4および比較例1〜3で得られた熱硬化性樹脂組成物を、それぞれ加熱加圧成形により厚さ9mmの硬化物を得た。この硬化物をUL規格 UL94V法に基づき、燃焼試験を実施し、燃焼性に従いV−0〜V−3の区分に分けた。
酸素指数による難燃性評価は、JIS K 7201−2の「酸素指数による燃焼性の試験方法」に準拠して求めた。この評価において、酸素指数の値は、大きいほど難燃性が大きいことを意味する。
【0050】
[ガラス転移温度(Tg)]
Tgは、熱機械測定(Thermal Mechanical Analysis:TMA)により測定を行った。TMA測定には理学電機株式会社製TAS200を使用し測定を行った。
【0051】
[線膨張係数]
Tgの測定と同様に、TMAにより測定を行った。TMA測定には理学電機株式会社製TAS200を使用しZ軸方向の膨張率より線膨張係数の測定を行った。ここでα1はTg−50℃〜Tg−10℃の線膨張係数を意味する。
【0052】
[溶融粘度]
溶融粘度はICI粘度計より測定を行った。粘度測定にはエス・エム・ティー・エンジニアリング株式会社製コーンプレート粘度計CV−1を使用し、120℃での溶融粘度を測定した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、アミノ基含有リン酸エステル化合物を含む実施例1〜4の難燃性樹脂組成物では、溶融粘度、Tg、線膨張係数及び難燃性の全てにおいて良好であった。これに対して、比較例1の樹脂組成物は、本発明のアミノ基含有リン酸エステルも、従来からある添加型難燃剤も加えてなく、酸素指数が低く、難燃性(UL−94)試験では試験片が全焼してしまったため、評価不可能である。また、添加型難燃剤である縮合リン酸エステル化合物やホスファゼン化合物を配合した比較例2および3の樹脂組成物では、難燃性は良好であったものの、Tgの低下、並びに線膨張係数の増加が見られた。これらの物性の低下は、硬化時にリン含有化合物が架橋構造中に組み込まれない事や硬化物からのブリードアウトが原因となっている事が考えられる。さらに溶融粘度において、アミノ基含有リン酸エステル化合物を含む実施例1〜4の難燃性樹脂組成物は、硬化剤にフェノールノボラック樹脂を用いた比較例1〜3との比較において低粘度であり、成形性が良好な結果となった。
【0055】
以上説明したように、本発明の半導体封止用樹脂組成物は、従来硬化剤として好適に用いられているフェノールノボラック樹脂を配合した樹脂組成物よりも、難燃性、物性、成形性において好適に用いる事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ハロゲン原子を含まず、難燃性が高い熱硬化性樹脂組成物を提供するものであり、半導体封止用材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂100質量部、(B)下記一般式(1)で示されるアミノ基含有リン酸エステル化合物20〜80質量部及び(C)該(B)成分以外のジアミン化合物5〜80質量部からなる樹脂成分10〜35質量%並びに無機充填剤65〜90質量%を含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【化1】

(式中、X1〜X5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい)
【請求項2】
前記(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物が、下記一般式(2)で示される化合物である請求項1に記載の半導体封止用樹脂組成物。
【化2】

(式中、X1〜X5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記(B)アミノ基含有リン酸エステル化合物が、下記一般式(3)又は(4)で示される化合物である請求項2に記載の半導体封止用樹脂組成物。
【化3】

【請求項4】
前記非ハロゲン系エポキシ樹脂が、リン含有エポキシ樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機充填剤が、球状溶融シリカである請求項1〜4のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−292895(P2009−292895A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146135(P2008−146135)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】