説明

半導体発光素子

【課題】高輝度かつ低順方向電圧の半導体発光素子を提供する。
【解決手段】第一の導電型層11と第二の導電型層12に挟まれた発光層13を有する化合物半導体14において、第一の主表面11aを光取り出し面とし、第二の主表面12aに発光層13からの光を第一の主表面11a側に反射させる反射金属膜15を介して、支持基板16と化合物半導体14が結合され、化合物半導体14の第二の主表面12aと反射金属膜15間に透明絶縁膜17を有し、透明絶縁膜17の一部に貫通して化合物半導体層と電気的にオーミック接合する界面電極18を有する半導体発光素子において、発光波長が780nm以上の赤外光であり、第一の導電型層11の内、V族がAs系層である総膜厚が1.0μm以上であり、第一の導電型層11、発光層13、第二の導電型層12および各層内のアンドープ層の各ヘテロ接合界面におけるバンドギャップの差が、0.30eV以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度の半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子である発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)は、近年、GaN系やAlGaInP系の高品質結晶をMOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:有機金属気相成長)法で成長出来る様になったことから、可視光領域の表示用途として青色、緑色、橙色、黄色、赤色の高輝度LEDが製作出来る様になった。また、セキュリティー用CCDカメラの照明用として赤外領域のLEDについても高輝度化の需要は年々増加している。
【0003】
MOVPE法によって高品質の結晶が成長可能となったことにより、現在、発光素子の内部効率は理論値な限界値に近づきつつある。しかし、発光素子からの光取り出し効率はまだまだ低く、光取り出し効率を向上することが重要となっている。例えば、高輝度赤外LEDはAlGaAs系の材料で形成され、導電性のGaAs基板上に格子整合する組成のAlGaAs系の材料から成るn型AlGaAs層とp型AlGaAs層とそれらに挟まれたAlGaAs,GaAs又はGaInAsから成る発光層(活性層)を有するダブルへテロ構造または多重量子井戸層と成っている。
【0004】
しかしながら、GaAs基板のバンドギャップは発光層のバンドギャップより狭く、また、発光波長が870nm以下赤外LEDにおいては、発光波長エネルギーがGaAs基板のバンドギャップよりも大きいために、発光層からの光の多くがGaAs基板に吸収され、光の取り出し効率が著しく低下する。発光層とGaAs基板の間に、屈折率の異なる半導体層から成る多層反射膜構造を形成することによってGaAs基板での光の吸収を低減し、取り出し効率を向上させる方法もある。しかし、この方法では多層反射膜構造へ限定された入射角を持つ光しか反射することができない。
【0005】
そこで、AlGaInP系やAlGaInAs系の材料から成るLED構造エピタキシャル層を反射率の高い金属膜を介して、GaAs基板よりも熱伝導率の良いSi支持基板に貼り付け、その後、成長用に用いたGaAs基板を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法を用いた場合には、反射膜として金属膜を用いている為、金属膜への光の入射角を選ばずに高い反射が可能となり、LEDの高輝度化が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−175462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、LEDの更なる高輝度化を図るためには、発光出力を高くすることが望まれる。発光出力を高くするために、貼り合せ型のLED構造において表面電極下に界面電極を形成しない電流狭窄構造を採用している。しかし、電流狭窄構造では、発光出力は高くできるが順方向電圧が大きくなってしまう。
【0008】
また、赤外LEDでは発光波長のエネルギーが小さいため順方向電圧が小さいので、僅かな半導体ヘテロ障壁による電圧上昇が大きく影響する。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記課題を解決し、高輝度かつ低順方向電圧の半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、III−V族化合物半導体で形成され、第一の主表面を有する第一の導電型層と第二の主表面を有する第二の導電型層に挟まれた発光層を有する化合物半導体において、前記第一の主表面を光取り出し面とし、前記第二の主表面に前記発光層からの光を前記第一の主表面側に反射させる反射面を有する反射金属膜を介して、支持基板と前記化合物半導体が結合され、前記化合物半導体の第二の主表面と前記反射金属膜間に透明絶縁膜を有し、該透明絶縁膜の一部に透明絶縁膜を貫通して化合物半導体層と電気的にオーミック接合する界面電極を有し、前記第一の導電型層に外部より電子または正孔を注入するための電極パットおよび、前記支持基板裏面側に外部より電子または正孔を注入するための電極が形成された半導体発光素子において、発光波長が780nm以上の赤外光であり、前記第一の導電型層の内、V族がAs系層である総膜厚が1.0μm以上であり、前記第一の導電層、前記発光層、前記第二の導電層および各層内のアンドープ層の各ヘテロ接合界面におけるバンドギャップの差が、0.30eV以下の半導体発光素子である。
【0011】
p型コンタクト層のドーパントがZnであるとよい。
【0012】
p型コンタクト層のドーパントがZnであり、p型クラッド層のドーパントがMgであり、Znドーピング層とMgドーピング層の間にアンドーピング層があるとよい。
【0013】
化合物半導体層がIII−V族化合物半導体からなり、少なくともV族が全てAsであるとよい。
【0014】
前記界面電極は前記電極パット下に設けられる表面電極の直下以外に形成されるとよい。
【0015】
前記第一の主表面形状が凹凸形状であるとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高輝度かつ低順方向電圧の半導体発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係るLED素子の模式図であり、(a)は各電極のパターンを示す図、(b)は断面図である。
【図2】実施例で使用する半導体エピタキシャルウェハの断面模式図である。
【図3】図2の半導体エピタキシャルウェハに界面電極を形成した図である。
【図4】図3の界面電極付き半導体エピタキシャルウェハと支持基板とを貼り合わせた図である。
【図5】図4の半導体発光素子から成長用GaAs基板などを除去し、n型コンタクト層を露出させた図である。
【図6】図5のn型コンタクト層表面に表面電極を形成した図である。
【図7】図6の半導体発光素子の表面を凹凸形状とした図である。
【図8】図7の半導体発光素子の化合物半導体部分を素子間分離した図である。
【図9】図8の半導体発光素子にSiO2膜を成膜した図である。
【図10】図9の半導体発光素子に裏面電極を形成した図である。
【図11】半導体発光素子の電流分散層膜厚の依存性を示す図である。
【図12】半導体発光素子のn型クラッド層と電流分散層間のバンドギャップ差の依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る半導体発光素子の構造を模式的に示したものであり、(a)各電極のパターンを示す平面図、(b)は断面図である。
【0020】
図1(a),(b)に示すように、本実施の形態に係る半導体発光素子1は、III−V族化合物半導体で形成され、第一の主表面11aを有する第一の導電型層11と第二の主表面12aを有する第二の導電型層12に挟まれた発光層13を有する化合物半導体14において、第一の主表面11aを光取り出し面とし、第二の主表面12aに発光層(活性層)13からの光を第一の主表面11a側に反射させる反射面を有する反射金属膜15を介して、支持基板16と化合物半導体14が結合され、化合物半導体14の第二の主表面12aと反射金属膜15間に透明絶縁膜(透明誘電体膜)17を有し、透明絶縁膜17の一部に透明絶縁膜17を貫通して化合物半導体層(ここではp型コンタクト層26)と電気的にオーミック接合する界面電極(界面配線電極)18を有し、第一の導電型層11に外部より電子または正孔を注入するための電極パット19および、支持基板16裏面側に外部より電子または正孔を注入するための電極(裏面電極20)が形成されてなり、発光波長が780nm以上の赤外光であり、第一の導電型層11の内、V族がAs系層である総膜厚が1.0μm以上であり、第一の導電型層11、発光層13、第二の導電型層12および各層内のアンドープ層の各ヘテロ接合界面におけるバンドギャップの差が、0.30eV以下であることを特徴とする。
【0021】
第一の導電型層11は、第一の主表面11a側から発光層13側へ順に、n型電流分散層21、n型クラッド層22を有しており、電流分散層21の表面が第一の主表面11aとなっている。この第一の主表面11aは光取り出し面であり、光取り出し効率を高める為に、表面が凹凸形状となっている。
【0022】
第二の導電型層12は、発光層13側から第二の主表面12a側へ順に、p型クラッド層23、p型電流分散層24、アンドープ拡散防止層25、p型コンタクト層26を有しており、p型コンタクト層26の表面が第二の主表面12aとなっている。
【0023】
発光素子の電極は光吸収因子として作用するため、発光出力を高くする観点で極力面積が小さい方が好ましい。しかし、電極の面積を小さくすると、半導体と電極間の接触抵抗が大きくなる問題が生じる。この問題を解決するためには、コンタクト層のキャリア濃度を高くすることが有効である。p型コンタクト層においては、ドーパントによってキャリア濃度の限界に差が生じる。そこで、本実施の形態では、キャリア濃度を高くしやすいZnをp型コンタクト層26のドーパントとしている。
【0024】
ただし、Znは拡散し易いことが知られており、発光層13の近傍は比較的拡散し難いMgをp型ドーパントとして用いることが望ましい。更に、ZnとMgは互いに相互拡散し易いため、Znドーピング層とMgドーピング層間に拡散防止層としてアンドープ層を設けることが望ましい。そこで、p型クラッド層23、p型電流分散層24にはMgをドーピングし、Znドーピング層(p型コンタクト層26)とMgドーピング層(p型クラッド層23、p型電流分散層24)の間にアンドープの拡散防止層25を設けている。従って、半導体と界面電極18間の接触抵抗を小さくしつつ、ZnとMgの相互拡散を防止できる。
【0025】
発光層13は、バリア層と井戸層とからなる多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)層である。MQWは、厚さ数〜数十nmほどの薄膜半導体の両側を、それよりもバンドギャップの大きいバリア層で挟んだ量子井戸構造を重ねて多層としたものである。
【0026】
化合物半導体14は、第一の導電型層11、第二の導電型層12、発光層13を有しており、例えば、MOVPE法を用いて形成される。具体的には、n型GaAs基板上にエッチングストップ層を形成し、その上に、第一の導電型層11、発光層13、第二の導電型層12を順次積層成長させた後、n型GaAs基板とエッチングストップ層を除去して形成される。
【0027】
化合物半導体層はIII−V族化合物半導体からなり、少なくともV族が全てAsであることが好ましい。
【0028】
反射金属膜15は、発光波長に対して80%以上の反射率を有する金属膜からなる。具体的には、Au,Ag,Alの何れか、またはその合金からなることが好ましい。
【0029】
支持基板16としては、例えば、導電性のSi基板を用いる。支持基板16は、金属接合層27を介して反射金属膜15と接合される。
【0030】
透明絶縁膜17は、発光層13に対して透明な誘電体膜であり、その膜厚は発光波長λ、透明絶縁膜17の屈折率をnとした場合に、(2×λ)/(4×n)以上の厚さであることが好ましい。また、具体的には透明絶縁膜17はその加工性からSiO2、SiNであることが好ましい。
【0031】
界面電極18は、単一から成るオーミック接合部となる界面配線電極であり、透明絶縁膜17内に形成された貫通孔(開口部)に、例えば真空蒸着法で形成される。界面電極18は、後述する表面電極の直下以外の領域に形成される。つまり、界面電極18と表面電極は、光取り出し面側から見て互いに重ならないように配置される。このような配置とすることで、光の取り出し効率を高めることができる。
【0032】
電極パット19は、その下方に設けられた表面電極29に接合されている。表面電極29は、第一の主表面11a上に形成される。表面電極29は、第一の主表面11aの中央部が直径100μm程度の円形状であり、この円形状の中央部から幅10μm程度の線状の電極が図示上下左右に延び、さらに、上下に延びた線状の電極がその先端部で左右に枝分かれした形状となっている。
【0033】
貼り合わせ型のLED構造において、表面電極下に界面電極を形成しない電流狭窄構造を採用することで発光出力を高くすることはできる。しかし、電流狭窄構造では、発光出力は高くできるが順方向電圧が大きくなってしまう。更に、赤外LEDでは発光波長のエネルギーが小さいため順方向電圧が小さいので、僅かな半導体ヘテロ障壁による電圧上昇が大きく影響する。
【0034】
本発明者らの分析により、電流狭窄構造において、順方向電圧が増大する大きな要因は、半導体エピタキシャル層の直列抵抗成分であることが分かった。更に、光取り出し面側の導電層の抵抗を下げる事が重要であることも分析の結果分かった。
【0035】
そこで、本発明では、光取り出し面側の導電層(第一の導電型層11)のV族を移動度の大きいAs系層とし、さらにその膜厚を1.0μm以上とした。更には、半導体ヘテロ障壁による電圧上昇を低減するために、ヘテロ障壁における半導体層のバンドギャップ差を0.30eV以下とした。
【0036】
このように、本発明の半導体発光素子1は、発光波長が780nm以上の赤外光であり、第一の導電型層11の内、V族がAs系層である総膜厚が1.0μm以上であり、第一の導電層11、発光層13、第二の導電層12および各層内のアンドープ層の各ヘテロ接合界面におけるバンドギャップの差が、0.30eV以下であるため、高輝度かつ低順方向電圧を実現できる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0038】
(実施例)
図2〜10に、図1で説明した半導体発光素子1の製造方法の各工程を示す。
【0039】
まず、図2に示した構造の発光波長850nm付近の赤外LED用エピタキシャルウェハを作製した。エピタキシャル成長方法、エピタキシャル層膜厚、エピタキシャル構造や電極形成方法及びLED素子製作方法は、以下の通りである。
【0040】
エピタキシャル成長にはMOVPE法を用い、n型GaAs基板31上に、アンドープGa0.5In0.5Pエッチングストップ層32、n型(Siドープ)Al0.15Ga0.85Asコンタクト層33(100nm、2.0×1018/cm3)、n型(Siドープ)Al0.15Ga0.85As電流分散層21(1μm、1.0×1018/cm3)、n型(Siドープ)Al0.20Ga0.80Asクラッド層22(500nm、1.0×1018/cm3)、発光層13としてバリア層Al0.20Ga0.80Asと井戸層GaAs層からなる多重量子井戸(MQW)層、p型(Mgドープ)Al0.20Ga0.80Asクラッド層23(500nm、1.0×1018/cm3)、p型(Mgドープ)Al0.15Ga0.85As電流分散層24(500nm、1.0×1018/cm3)、アンドープAl0.15Ga0.85As拡散防止層25(100nm)、p型(Znドープ)Al0.15Ga0.85Asコンタクト層26(100nm、1.0×1019/cm3)を順次積層成長させた。
【0041】
MOVPE成長での成長温度は650℃とし、成長圧力は50Torr(約6666Pa)、各層の成長速度は0.3〜1.0nm/sec、V/III比は約100前後で行った。因みに、ここで言うV/III比とは、分母をトリメチルガリウム(TMGa)やトリメチルアルミニウム(TMAl)などのIII族原料のモル数とし、分子をアルシン(AsH3)ホスフィン(PH3)などのV族原料のモル数とした場合の比率(商)を指している。
【0042】
MOVPE成長に用いる原料としては、例えばトリメチルガリウム(TMGa)、又はトリエチルガリウム(TEGa)、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルインジウム(TMIn)等の有機金属や、アルシン(AsH3)、ホスフィン(PH3)等の水素化物ガスを用いた。
【0043】
n型半導体層の導電型決定不純物の添加物原料としては、ジシラン(Si26)を用いた。また、p型半導体層の導電型決定不純物の添加物原料としては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いた。
【0044】
その他に、n型層の導電型決定不純物の添加物原料として、セレン化水素(H2Se)、モノシラン(SiH4)、ジエチルテルル(DETe)、ジメチルテルル(DMTe)を用いることもできる。また、p型層の導電型決定不純物のp型添加物原料として、ジメチルジンク(DMZn)、ジエチルジンク(DEZn)を用いる事も出来る。
【0045】
更に、このLED用エピタキシャルウェハをMOCVD装置から搬出した後、p型コンタクト層26表面にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置で透明誘電体膜17としてのSiO2膜を成膜し、レジストやマスクアライナなどの一般的なフォトリソグラフィー技術を駆使し、フッ酸系エッチング液でSiO2膜に開口部を形成し、その開口部に真空蒸着法によって、単一から成るオーミックコンタクト接合部となる界面配線電極18を形成した。オーミックコンタクト接合部としてAuZn(金・亜鉛)合金を用いた。また、界面配線電極18は後で形成する表面電極29直下以外の領域になるように配置した(図3)。
【0046】
次に、界面配線電極18付きのLED用エピタキシャルウェハ上に反射金属膜15として、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Au(金)を、それぞれ順に蒸着した。Alが反射膜、Tiが拡散防止バリア層、Auが接合層となる。
【0047】
一方、支持基板16として用意した導電性Si基板表面に、Ti(チタン)、Pt(プラチナ)、Au(金)層を、それぞれ順に蒸着し、金属密着層(金属接合層27)を形成した。Tiがオーミックコンタクト金属層、Ptが拡散防止バリア層、Auが接合層となる。
【0048】
上記の様にして作製したLEDエピタキシャルウェハ表面のAu接合層とSi支持基板16表面のAu接合層とを貼り合わせる。貼り合わせは、圧力0.01Torr(約1.33Pa)雰囲気で荷重を30kgf/cm2負荷した状態で、温度350℃で30分間保持することによって行った(図4)。
【0049】
支持基板16に貼り合わせたLEDエピタキシャルウェハのGaAs基板31をアンモニア水と過酸化水素水の混合液によってエッチング除去し、エッチングストップ層32を露出させた。次に、塩酸でエッチングストップ層32を除去し、n型コンタクト層33を露出させた(図5)。
【0050】
次に、n型コンタクト層33表面にレジストやマスクアライナなどの一般的なフォトリソグラフィー技術を駆使し、真空蒸着法によって直径100μmの円から線状に幅10μmの枝状に分配されたn型オーミック表面電極29を形成した。表面電極29は、AuGe(金・ゲルマニウム合金)、Ti(チタン)、Au(金)を、それぞれ順に蒸着して形成した(図6)。
【0051】
次に、フォトリソグラフィー技術を用いて1.0μm〜3.0μm周期のパターニングを行い、ウエットエッチング法でn型コンタクト層33およびn型電流分散層21に亘って表面に凹凸形状を形成した(図7)。更に、フォトリソグラフィー技術を用いて素子間分離のためのパターニングを行い、発光素子表面からp型コンタクト層26までをウエットエッチング法で除去することによって素子間分離を行った(図8)。
【0052】
その後、プラズマ−CVD装置でSiO2膜37を成膜し、レジストやマスクアライナなどの一般的なフォトリソグラフィー技術を駆使し、フッ酸系エッチング液で表面電極29上のSiO2膜37を開口した(図9)。
【0053】
更に、Si支持基板16の底面には、全面に裏面電極20を同じく真空蒸着法によって形成した。前記裏面電極20は、Ti(チタン)、Au(金)を、それぞれ順に蒸着し、電極の合金化であるアロイ工程を、窒素ガス雰囲気中にて400℃に加熱し、5分間熱処理する事で行った(図10)。更に、ワイヤーのボンディング用に表面電極29およびオーミックコンタクト金属層に予め形成しておいたp側電極上に、フォトリソグラフィー技術および真空蒸着法によってTi(チタン)、Au(金)からなる電極パット19を形成した。
【0054】
その後、上記の様にして構成されたLED用基板をダイシング装置を用いて切断し、チップサイズ300μm角のLEDベアチップを作製した。更に前記LEDベアチップをTO−18ステム上にマウント(ダイボンディング)し、その後、更にマウントされた該LEDベアチップに、ワイヤボンディングを行い、LED素子(半導体発光素子)1を作製した(図1)。
【0055】
上記の通りに作製されたLED素子1の初期特性を評価した結果、50mA通電時(評価時)の発光出力32.5mW、順方向電圧1.46Vという初期特性を有するLEDであることがわかった。また、25℃環境下で100mAを1000時間通電した後の特性変化は、発光出力が−1.20%、順方向電圧が+0.25%と良好であった。
【0056】
次に、エピタキシャル成長の方法、エピタキシャル層膜厚、エピタキシャル層構造、反射金属膜、支持基板への貼り合わせ方法、エッチング方法等のプロセス工程やLED素子作製方法を基本的に上記実施例と同様とし、n型電流分散層の厚さを変え、電流分散層膜厚と順方向電圧の関係を調べた。この結果を図11に示す。
【0057】
図11より、n型電流分散層が500nm以上ないと、順方向電圧が高くなることがわかる。n型クラッド層も電流を分散する効果があることから、実質的にはn型層が1.0μm以上必要であることになる。
【0058】
さらに、エピタキシャル成長の方法、エピタキシャル層膜厚、エピタキシャル層構造、反射金属膜、支持基板への貼り合わせ方法、エッチング方法等のプロセス工程やLED素子作製方法を基本的に上記実施例と同様とし、n型クラッド層のAl組成を変えることによってn型クラッド層とn型電流分散層のバンドギャップ差(ΔEg)と、順方向電圧の関係を調べた。この結果を図12に示す。
【0059】
バンドギャップ差が大きいと順方向電圧が大きく上昇することが分かる。
【0060】
上記実施例では、支持基板16としてSi基板を用いたが、発光素子の製造プロセスに耐え得る支持基板であれば、Si基板以外を用いることも可能である。具体的には、Ge基板、GaAs基板、GaP基板、その他メタル基板等が挙げられる。
【0061】
また、上記実施例では、発光層(活性層)13を多重量子井戸層としているが、バルク層でもその効果は同様である。さらに、上記実施例では、発光波長が850nmの赤外の発光素子について述べたが、本発明はLEDの発光波長に依存せずにその効果が得られる。
【0062】
さらにまた、上記実施例においては、光取り出し面側をn型ドーピング層としているが、n型層とp型層を逆にしても同様の効果が得られる。また、上記実施例においては、発光層13をアンドープ層としているが、発光層にドーピングしても同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0063】
1 半導体発光素子(LED素子)
11 第一の導電型層
11a 第一の主表面
12 第二の導電型層
12a 第二の主表面
13 発光層(活性層)
14 化合物半導体
15 反射金属膜
16 支持基板(Si基板)
17 透明絶縁膜(透明誘電体膜)
18 界面電極(界面配線電極)
19 電極パット
20 裏面電極
21 n型電流分散層
22 n型クラッド層
23 p型クラッド層
24 p型電流分散層
25 アンドープ拡散防止層
26 p型コンタクト層
27 金属接合層
29 表面電極
37 SiO2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族化合物半導体で形成され、第一の主表面を有する第一の導電型層と第二の主表面を有する第二の導電型層に挟まれた発光層を有する化合物半導体において、前記第一の主表面を光取り出し面とし、前記第二の主表面に前記発光層からの光を前記第一の主表面側に反射させる反射面を有する反射金属膜を介して、支持基板と前記化合物半導体が結合され、前記化合物半導体の第二の主表面と前記反射金属膜間に透明絶縁膜を有し、該透明絶縁膜の一部に透明絶縁膜を貫通して化合物半導体層と電気的にオーミック接合する界面電極を有し、前記第一の導電型層に外部より電子または正孔を注入するための電極パットおよび、前記支持基板裏面側に外部より電子または正孔を注入するための電極が形成された半導体発光素子において、
発光波長が780nm以上の赤外光であり、前記第一の導電型層の内、V族がAs系層である総膜厚が1.0μm以上であり、前記第一の導電層、前記発光層、前記第二の導電層および各層内のアンドープ層の各ヘテロ接合界面におけるバンドギャップの差が、0.30eV以下であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
p型コンタクト層のドーパントがZnである請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
p型コンタクト層のドーパントがZnであり、p型クラッド層のドーパントがMgであり、Znドーピング層とMgドーピング層の間にアンドーピング層がある請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項4】
化合物半導体層がIII−V族化合物半導体からなり、少なくともV族が全てAsである請求項1〜3いずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記界面電極は前記電極パット下に設けられる表面電極の直下以外に形成される請求項1〜4いずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記第一の主表面形状が凹凸形状である請求項1〜5いずれかに記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−129357(P2012−129357A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279382(P2010−279382)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】