説明

半導体装置、発光装置

【課題】信頼性の優れた酸化物半導体を用いた半導体装置を提供する。又は、信頼性の優れた酸化物半導体を用いた発光装置を提供する。
【解決手段】酸化物半導体を用いた半導体素子と共に封止される第2の電極は、その活性が損なわれ難い。活性な第2の電極と半導体装置に残存および/又は装置外から浸入する水分が反応して生じる水素イオンおよび/又は水素分子が、酸化物半導体のキャリア濃度を高め、半導体装置の信頼性を損なう原因となる。一方の面を有機層と接する第2の電極の他方の面の側に、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層を設ければよい。また、第2の電極に水素イオンおよび/又は水素分子が透過する開口部を設ければよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体を用いた半導体装置、及び発光装置に関する。
【0002】
なお、本明細書中において半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能する半導体素子を含む装置全般を指し、半導体回路、発光装置、表示装置、及び電子機器は全て半導体装置である。
【背景技術】
【0003】
絶縁表面を備える基板上にアモルファスシリコン、多結晶シリコン、若しくは転載した単結晶シリコンなどの半導体材料を用いてトランジスタを形成する技術が知られている。アモルファスシリコンを用いたトランジスタは電界効果移動度が低いものの、面積が大きいガラス基板に形成することが容易である。多結晶シリコンを用いたトランジスタは、比較的電界効果移動度が高いもののレーザアニールなどの結晶化工程が必要であり、面積が大きいガラス基板に形成することは必ずしも容易ではない。また、単結晶シリコンを用いたトランジスタは優れた動作特性を備えるが、面積が大きい基板に形成することは必ずしも容易ではない。
【0004】
これに対し、半導体材料として酸化物半導体を用いたトランジスタが注目されている。例えば、半導体材料として酸化亜鉛や、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体を用いてトランジスタを作製し、画像表示装置のスイッチング素子などに用いる技術が特許文献1、及び特許文献2で開示されている。
【0005】
酸化物半導体をチャネル形成領域(チャネル領域ともいう)に用いるトランジスタは、アモルファスシリコンを用いたトランジスタよりも高い電界効果移動度が得られている。また、酸化物半導体膜はスパッタリング法などによって面積が大きいガラス基板に形成することが容易であり、また300℃以下の温度で膜形成が可能であることから、多結晶シリコンを用いたトランジスタよりも製造工程が簡単である。
【0006】
上記酸化物半導体を用いたトランジスタは、例えば表示装置の画素部に設けるスイッチング素子や駆動回路を構成するトランジスタに適用することができる。なお、表示装置の駆動回路は例えばシフトレジスタ回路、バッファー回路、などにより構成され、さらに、シフトレジスタ回路及びバッファー回路は論理回路により構成される。よって駆動回路を構成する論理回路に、酸化物半導体を用いたトランジスタを適用することにより、アモルファスシリコンを用いたトランジスタを適用する場合に比べて、駆動回路を高速に駆動できる。
【0007】
また、上記論理回路は全て同じ導電型であるトランジスタにより構成できる。全て同一の導電型のトランジスタを用いて論理回路を作製することにより工程を簡略にすることができる。
【0008】
このような酸化物半導体を用いたトランジスタが形成されたガラス基板やプラスチック基板を用いて、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネセンスディスプレイ(ELディスプレイともいう)または電子ペーパなどの表示装置を提供する検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−123861号公報
【特許文献2】特開2007−96055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型(ノーマリオフ型ともいう)のトランジスタが、使用に伴いデプレッション型(ノーマリオン型ともいう)に変化してしまうという問題がある。特に、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタのソース電極又はドレイン電極に接続された第1の電極と、第1の電極に重畳する第2の電極の間に発光物質を含む有機層を備えた半導体装置において、酸化物半導体を用いたトランジスタが経時的にデプレッション型に変化し、当該半導体装置の信頼性が損なわれてしまうという問題がある。
【0011】
本発明の一態様は、このような技術的背景のもとでなされたものである。本発明の一態様は、信頼性の優れた酸化物半導体を用いた半導体装置を提供することを課題の一とする。又は、信頼性の優れた酸化物半導体を用いた発光装置を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、酸化物半導体を用いた半導体装置に含まれる、水素イオンおよび水素分子に着眼した。具体的には、酸化物半導体を用いた半導体装置に設けられた活性な導電材料が、水素原子を含む不純物(例えば水分)を還元して生じる水素イオンおよび水素分子に着眼した。
【0013】
チャネル形成領域に酸化物半導体を用いて絶縁表面上に設けられたエンハンスメント型のトランジスタと、トランジスタ上の層間絶縁層に設けた開口部を介してトランジスタのソース電極又はドレイン電極と接続する第1の電極と、第1の電極に重畳する第2の電極の間に発光物質を含む有機層を挟持する発光素子を有する半導体装置において、該発光素子が備える第2の電極は水素原子を含む不純物に積極的に曝されることなく、トランジスタと共に封止される。従って、水素原子を含む不純物に対し活性を有する第2の電極は、封止後もその活性が損なわれることなく、半導体装置内に存在する。
【0014】
一方、水素原子を含む不純物は、酸化物半導体を用いた半導体装置に残存および/又は系外から浸入する。特に、半導体装置から水分を完全に除去すること、および/又は大気中からの水分の浸入を完全に防ぐことは困難である。従って、半導体素子、又は半導体装置内に、水分を還元する活性な導電材料が存在していると、当該導電材料が残存および/又は装置外から浸入する水分と反応して水素イオンおよび/又は水素分子を発生することになる。
【0015】
半導体装置内で発生した水素イオンおよび/又は水素分子は、半導体素子又は半導体装置内に拡散し、ついには酸化物半導体に到達する。水素イオンおよび/又は水素分子は、酸化物半導体のキャリア濃度を高めるため、酸化物半導体を用いた半導体素子の特性は損なわれ、それを含む半導体装置もまた信頼性を失うことになる。
【0016】
上述の課題を解決するには、一方の面を有機層と接する第2の電極の他方の面の側に、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層を設ければよい。
【0017】
また、第2の電極に水素イオンおよび/又は水素分子が透過する開口部を設ければよい。
【0018】
すなわち、本発明の一態様は、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタと、トランジスタのソース電極又はドレイン電極と接続する第1の電極と、第1の電極に重畳する第2の電極と、第1の電極と第2の電極の間に挟持される発光物質を含む有機層を有する発光素子とが設けられた第1の基板と、第1の基板と対向配置され、トランジスタ及び発光素子を囲むシール材により第1の基板に固定された第2の基板と、第1の基板と第2の基板の間に設けられた、水素イオンおよび/又は水素分子を吸着する吸着層と、を有する半導体装置である。
【0019】
上記本発明の一態様によれば、第2の電極の有機層側に生じた水素イオンおよび/又は水素分子は、第2の電極の他方の側に設けた水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層に移動する。これにより、第2の電極の有機層側において、酸化物半導体のキャリア濃度を高める原因となる水素イオンおよび/又は水素分子の濃度が低下するため、酸化物半導体を用いた半導体素子の特性及びそれを含む半導体装置の信頼性を高めることができる。
【0020】
また、本発明の一態様は、第2の電極が水素イオンおよび/又は水素分子が透過する開口部を備える前記半導体装置である。
【0021】
上記本発明の一態様によれば、第2の電極の有機層側に生じた水素イオンおよび/又は水素分子が、第2の電極を容易に透過できる。これにより、第2の電極の有機層側において、水素イオンおよび/又は水素分子の濃度が低下するため、酸化物半導体を用いた半導体素子の特性及びそれを含む半導体装置の信頼性を高めることができる。
【0022】
また、本発明の一態様は、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層が、ゼオライトおよび/又はパラジウムを含む半導体装置である。
【0023】
また、本発明の一態様は、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタと、トランジスタのソース電極又はドレイン電極と接続する第1の電極が設けられた第1の基板が備える第1の電極上に発光物質を含む有機層を形成するステップと、有機層上に第2の電極を成膜して発光素子を形成するステップと、トランジスタ及び発光素子を囲むシール材により、第1の基板に対向配置して第2の基板を固定して、第1の基板と第2の基板の間に水素イオンおよび/又は水素分子を吸着する吸着層を設けるステップを含む半導体装置の作製方法である。
【0024】
なお、本明細書において、EL層とは発光素子の一対の電極間に設けられた層を示すものとする。従って、電極間に挟まれた発光物質である有機化合物を含む発光層はEL層の一態様である。
【0025】
また、本明細書において、物質Aを他の物質Bからなるマトリクス中に分散する場合、マトリクスを構成する物質Bをホスト材料と呼び、マトリクス中に分散される物質Aをゲスト材料と呼ぶものとする。なお、物質A並びに物質Bは、それぞれ単一の物質であっても良いし、2種類以上の物質の混合物であっても良いものとする。
【0026】
なお、本明細書中において、発光装置とは画像表示デバイス、発光デバイス、もしくは光源(照明装置含む)を指す。また、発光装置にコネクター、例えばFPC(Flexible printed circuit)もしくはTAB(Tape Automated Bonding)テープもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、または発光素子が形成された基板にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、信頼性の優れた酸化物半導体を用いた半導体装置を提供できる。又は、信頼性の優れた酸化物半導体を用いた発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態に係わる半導体装置を説明する図。
【図2】実施の形態に係わる半導体装置の画素を説明する図。
【図3】実施の形態に係わる半導体装置を説明する図。
【図4】実施の形態に係わる半導体装置の画素を説明する図。
【図5】実施の形態に係わる半導体装置を説明する図。
【図6】実施の形態に係わる半導体装置の作製工程を説明する図。
【図7】実施の形態に係わる半導体装置の作製工程を説明する図。
【図8】実施の形態に係わる発光素子の構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0030】
(実施の形態1)
本実施の形態では、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタと、トランジスタ上の層間絶縁層に設けられた開口部を介して該トランジスタのソース電極又はドレイン電極と接続する第1の電極と、第1の電極に重畳する第2の電極の間に発光物質を含む有機層を挟持する発光素子を有する半導体装置において、一方の面を該有機層と接する第2の電極の他方の面の側に、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層を備える半導体装置について説明する。具体的には、発光表示装置(発光表示パネルともいう)について、図1乃至図5を参照して説明する。
【0031】
発光表示装置の平面図を図1(A)に示す。また、図1(A)の切断線H−I及び切断線J−Kにおける断面図を図1(B)に示す。
【0032】
本実施の形態で例示する発光表示装置は、画素部4502、信号線駆動回路4503a、4503b、並びに走査線駆動回路4504a、4504bを、第1の基板4501の絶縁表面上に備える。画素部4502、信号線駆動回路4503a、4503b、並びに走査線駆動回路4504a、4504bは、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いるエンハンスメント型のトランジスタを含むトランジスタを複数有している。なお、いずれのトランジスタも同一の工程で同時に作製すると便宜である。
【0033】
<発光表示装置の構成>
本実施の形態で例示する発光表示装置の画素部4502は画素6400を備える。画素6400の等価回路を図2(A)に、上面図を図2(B)に示す。画素6400は、スイッチング用トランジスタ6401、発光素子駆動用トランジスタ6402、発光素子6404及び容量素子6403を備える。
【0034】
画素6400、及び信号線駆動回路4503aの断面の構成を、図1(B)を用いて説明する。なお、図1(B)には画素6400が備えるトランジスタ6402と、信号線駆動回路4503aが備えるトランジスタ4509が図示されている。
【0035】
第1の基板4501上に形成されたトランジスタ4509、及びトランジスタ6402はnチャネル型のトランジスタであり、チャネル形成領域に酸化物半導体層を備える。層間絶縁層4527はトランジスタ4509、及びトランジスタ6402を覆って設けられ、トランジスタがつくる凹凸を平坦にしている。第1の電極4601は層間絶縁層4527上に形成され、層間絶縁層4527に形成された開口部4528を介して、トランジスタ6402のソース電極又はドレイン電極と電気的に接続されている。
【0036】
隔壁4529は、第1の電極4601上に開口部を有し、第1の電極4601の端部を覆って形成されている。その開口部の側面は連続した曲率の傾斜面となるように加工されている。隔壁4529は有機樹脂膜、無機絶縁膜または有機ポリシロキサンを用いることができる。特に感光性の材料を用いると、その開口部の側面に連続した曲率を持つ傾斜面を形成できるため好ましい。
【0037】
第1の電極4601上には発光物質を含む有機層4603を挟んで第2の電極4602が設けられ、発光素子6404を構成している。
【0038】
なお、駆動回路用のトランジスタ4509は、酸化物半導体層のチャネル形成領域と重なる位置の層間絶縁層4527上にバックゲート電極4540を備える。バックゲート電極4540を設けることによって、バイアス−熱ストレス試験(BT試験)前後におけるトランジスタ4509のしきい値電圧の変化を低減できる。なお、トランジスタ4509のバックゲート電極4540は、その電位がゲート電極層と同じであっても異なっていても、第2のゲート電極層として機能する。また、バックゲート電極4540の電位はGND、0V、或いはフローティング状態であってもよい。
【0039】
また、発光表示装置を駆動する各種信号及び電源電位は、FPC4518a、及び4518bを介して信号線駆動回路4503a、4503b、走査線駆動回路4504a、4504b、または画素部4502に供給される。
【0040】
なお、接続端子電極4515と第1の電極4601は、同じ導電膜から同じ工程で形成され、端子電極4516とトランジスタ4509のソース電極及びドレイン電極は同じ導電膜から同じ工程で形成される。なお、接続端子電極4515とFPC4518aが有する端子は、異方性導電膜4519を介して電気的に接続されている。
【0041】
また、別途用意した基板上に駆動回路を形成し、本実施の形態で例示した発光表示装置の信号線駆動回路4503a、4503b、及び走査線駆動回路4504a、4504bに替えて、実装してもよい。また、信号線駆動回路のみ、或いは一部、又は走査線駆動回路のみ、或いは一部のみを別途形成して実装しても良く、図1の構成に限定されない。
【0042】
発光素子6404は、第1の電極4601と第1の電極4601に重畳する第2の電極4602の間に発光物質を含む有機層4603を備える。発光物質を含む有機層4603は、単数の層で構成しても、複数の層で構成してもよい。
【0043】
また、本実施の形態では発光素子6404が発する光が第1の基板4501を透過して射出する構成を例示するが、光の射出方向はこれに限定されない。
【0044】
<発光表示装置の封止構造>
第1の基板4501上に形成されたトランジスタ及び発光素子は、その周囲を囲むシール材4505により、第1の基板4501と第2の基板4506の間に充填材4530と共に封止されている。なお、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531が、第1の基板4501と第2の基板4506の間に設けられている。
【0045】
トランジスタ及び発光素子を封止する第1の基板4501及び第2の基板4506は気密性が高く、脱ガスの少ない材料が好ましい。例えば、ガラス、金属(例えば、ステンレスフィルム)並びに耐湿性フィルム等を使用することができる。例えば複数の素材を貼り合わせたフィルムや紫外線硬化樹脂フィルム等の保護フィルムやカバー材を用いることができる。なお、導電性の材料を第1の基板4501に用いる場合は、絶縁表面を形成して用いればよい。
【0046】
充填材4530としては、水素原子を含む不純物(例えば水分)が取り除かれた不活性な気体(例えば窒素、アルゴン等)を適用できる。また、気体の他、樹脂を用いることができる。充填材に用いることができる樹脂の例として、PVC(ポリビニルクロライド)、アクリル、ポリイミド、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、PVB(ポリビニルブチラル)またはEVA(エチレンビニルアセテート)を挙げることができる。また、紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂を用いることもできる。
【0047】
図1に例示する発光表示装置において、トランジスタ6402と発光素子6404はシール材4505で囲まれ、第2の基板4506に設けられた水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531と共に、第1の基板4501と第2の基板4506の間に封止されている。
【0048】
水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531は、ゼオライト、金属酸化物、水素を吸着する金属(パラジウム等)又は合金、乃至水素を吸着する乾燥剤を用いて形成する。また、水と反応して水素を放出しないものを用いる。
【0049】
ゼオライト粉末は樹脂中に分散して用いることもできる。
【0050】
金属酸化物としては、当該半導体装置が備える半導体素子に含まれる酸化物半導体と同じ材料を用いることもできる。例えば、当該半導体装置が備えるトランジスタのチャネル形成領域に用いられている酸化物半導体を含む膜を第2の基板4506に成膜し、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531に用いることができる。吸着層4531中の酸化物半導体は水素イオンおよび/又は水素分子を吸着してしまうため、水素イオンおよび/又は水素分子がトランジスタのチャネル形成領域に拡散する現象を防止できる。
【0051】
これらの層の形成方法としては、例えば塗布法や、スパッタリング法を用いることができる。
【0052】
第2の基板4506に凹部を設けると、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531の体積を大きくでき、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着量を増やすことができる。水素イオンおよび/又は水素分子の吸着量を増やすことにより、発光表示装置の信頼性を高めることができる。
【0053】
なお、第2の基板4506に設ける凹部には、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531だけでなく、水蒸気や酸素を吸着する乾燥剤を設けることができ、便宜である。また、第2の基板4506に複数の凹部を設け、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531と、水蒸気や酸素を吸着する乾燥剤を異なる凹部に設けることができる。水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層と水蒸気や酸素を吸着する乾燥剤を異なる位置に配置することにより、互いに反応する材料であっても使用できる。
【0054】
図1とは異なる態様の発光表示装置について、図3を用いて説明する。図3に例示する発光表示装置において、トランジスタ6402と発光素子6404はシール材4505で囲まれ、発光素子6404の第2の電極4602上に水分を透過しない水素透過膜4532を介して設けられた、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531と共に、第1の基板4501と第2の基板4506の間に封止されている。
【0055】
水素透過膜4532としては、例えば酸化珪素膜を用いることができる。水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531と第2の電極4602の間に、水分を透過しない水素透過膜4532を設けると充填材4530や吸着層中に微量に含まれる水分やパネル外から吸着層や樹脂中を通って浸入する水分が発光素子中に拡散する現象を防ぐことができるため好ましい。なお、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531を第2の電極4602上に直接設けることもできる。
【0056】
水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531としては、図1を用いて説明した水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層と同じものを適用できる。
【0057】
また、保護膜を水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層4531上に形成してもよい。保護膜は酸素、水素、水分、二酸化炭素等が発光表示装置へ侵入する現象を防ぐことができる。保護膜としては窒化珪素膜、窒化酸化珪素膜、DLC膜等を用いることができる。
【0058】
なお、発光素子6404の光の取り出し方向に位置する基板には、可視光を透過する基板を用いる。可視光を透過する基板としては、例えば、ガラス板、プラスチック板、ポリエステルフィルムまたはアクリルフィルムを用いることができる。
【0059】
例えば、発光素子6404が下面射出構造、又は両面射出構造の発光素子である場合は、第1の基板4501に可視光を透過する基板を用いる。また、発光素子6404が上面射出構造、又は両面射出構造の発光素子である場合は、第2の基板4506に可視光を透過する基板を用いる。
【0060】
発光素子6404の光の取り出し方向に位置する基板には、光学フィルムを適宜設けることができる。光学フィルムとしては、偏光板、円偏光板(楕円偏光板を含む)、位相差板(λ/4板、λ/2板)、乃至カラーフィルタを適宜選択して用いることができる。また、反射防止膜を設けてもよい。例えば、表面の凹凸により反射光を拡散し、映り込みを低減できるアンチグレア処理を施すことができる。
【0061】
<封止構造の変形例>
図1乃至図3を用いて説明した発光表示装置の変形例について説明する。具体的には、発光素子6404の第2の電極4602が、水素イオンおよび/又は水素分子が透過する開口部を備える構成について図4を用いて説明する。
【0062】
発光表示装置の画素6400の上面図を図4に示す。図4に例示する画素6400は、図2に例示する画素6400が備える構成に加え、第1の電極4601上に構造体4534a及び構造体4534bが形成されている。
【0063】
図4に示す切断線J−Kにおける断面を含む断面図を図5に示す。構造体4534a及び構造体4534bは、共に逆テーパー状である。言い換えると、構造体4534a及び構造体4534bは、第1の電極4601と接する脚部より上方に広い断面を備えている。このような構造体を画素6400に設けることにより、第2の電極4602に開口部を設けることができる。すなわち、構造体4534a及び構造体4534bは脚部より広い断面を上方に有するため脚部の周囲にかげが生じる。その結果、第2の電極となる導電膜の成膜時に、脚部の周囲に成膜できない領域が形成され、その領域が開口部(例えば開口部4535)となるためである。
【0064】
なお、シャドーマスクを用いて第2の電極を形成する際に、第2の電極に開口部を設けても良い。
【0065】
<発光装置の作製方法>
チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタと、トランジスタ上の層間絶縁層と、層間絶縁層に設けた開口部を介してトランジスタのソース電極又はドレイン電極と接続する第1の電極を備える第1の基板を用いて、該第1の電極上に発光物質を含む有機層を成膜し、有機層上に第2の電極を成膜して発光素子を形成する。
【0066】
第2の基板にエッチング法、又はサンドブラスト法を用いて凹部形成し、当該凹部に水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層を設ける。
【0067】
第1の基板に形成されたトランジスタと発光素子を囲み、且つ第2の基板に形成された凹部を囲む位置にシール材を塗布する。なお、シール材は第1の基板及び第2の基板の少なくとも一方に塗布する。
【0068】
次いで、トランジスタ、発光素子、並びに水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層を、シール材を用いて第1の基板と第2の基板の間に封止する。
【0069】
チャネル形成領域に酸化物半導体を用いて絶縁表面上設けられたエンハンスメント型のトランジスタ6402と、トランジスタ上の層間絶縁層4527に設けた開口部4528を介してトランジスタのソース電極又はドレイン電極と接続する第1の電極4601と、第1の電極4601に重畳する第2の電極4602の間に発光物質を含む有機層4603を挟持する発光素子6404を有する半導体装置において、第2の電極4602を含む発光素子6404は形成後に水素原子を含む不純物に積極的に曝されることなく、トランジスタ6402と共に封止される。従って、第2の電極4602はその活性が損なわれることなく、半導体装置内に存在する。
【0070】
一方、水素原子を含む不純物は、酸化物半導体を用いた半導体装置に残存および/又は系外から浸入する。特に、半導体装置から水分を完全に除去すること、および/又は大気中からの水分の浸入を完全に防ぐことは困難である。従って、水分を還元する活性な導電材料が半導体素子、又は半導体装置内に存在していると、当該導電材料が残存および/又は装置外から浸入する水分と反応して水素イオンおよび/又は水素分子を発生することになる。
【0071】
半導体装置内で発生した水素イオンおよび/又は水素分子は、半導体素子又は半導体装置内に拡散し、ついには酸化物半導体に到達する。水素イオンおよび/又は水素分子は、酸化物半導体のキャリア濃度を高めるため、酸化物半導体を用いた半導体素子の特性は損なわれ、それを含む半導体装置もまた信頼性を失うことになる。
【0072】
本実施の形態で説明した表示装置、すなわち発光物質を含む有機層4603と一方の面を接する第2の電極4602の他方の面の側に、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層を備える発光表示装置において、第2の電極4602の有機層側に生じた水素イオンおよび/又は水素分子が、第2の電極4602の他方の側に設けた水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層に移動する。これにより、第2の電極4602の有機層側であって酸化物半導体を用いた半導体素子が設けられた領域において、酸化物半導体のキャリア濃度を高める原因となる水素イオンおよび/又は水素分子の濃度が低下し、依って酸化物半導体を用いた半導体素子の特性及びそれを含む半導体装置の信頼性を高める効果を奏する。
【0073】
また、第2の電極に水素イオンおよび/又は水素分子が透過する開口部(例えば開口部4535)を設けると、第2の電極の有機層側に生じた水素イオンおよび/又は水素分子が、第2の電極を容易に透過できる。これにより、第2の電極の有機層側であって酸化物半導体を用いた半導体素子が設けられた領域において、水素イオンおよび/又は水素分子の濃度が低下し、依って酸化物半導体を用いた半導体素子の特性及びそれを含む半導体装置の信頼性を高める効果を奏する。
【0074】
なお、本実施の形態は、本明細書で示す他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【0075】
(実施の形態2)
本実施の形態では、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタについて説明する。チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタは、ゲート絶縁膜の一方の面にゲート電極と、ゲート絶縁膜の他方の面に酸化物半導体層と、酸化物半導体層と接して端部をゲート電極と重畳するソース電極及びドレイン電極を有する。本実施の形態では、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタの一例として、酸化物半導体を用いた逆スタガ型のトランジスタの構成、及びその作製方法の一例について図6を参照して説明する。なお、トランジスタは逆スタガ型に限定されず、スタガ型、コプラナ型、乃至逆コプラナ型であってもよく、チャネルエッチ型、チャネル保護型であってもよい。
【0076】
なお、本実施の形態で説明するトランジスタは、実施の形態1で説明した半導体装置に適用することができる。
【0077】
<第1のステップ:トランジスタの形成>
図6(A)乃至(E)に酸化物半導体をチャネル形成領域に用いたトランジスタの断面構造の一例を示す。図6(A)乃至(E)に示すトランジスタは、ボトムゲート構造の逆スタガ型トランジスタである。
【0078】
本実施の形態の半導体層に用いる酸化物半導体は、n型不純物である水素を酸化物半導体から除去し、酸化物半導体の主成分以外の不純物が極力含まれないように高純度化することによりI型(真性)の酸化物半導体、又はI型(真性)に限りなく近い酸化物半導体としたものである。
【0079】
なお、高純度化された酸化物半導体中ではキャリアが極めて少なく、キャリア濃度は1×1014/cm未満、好ましくは1×1012/cm未満、さらに好ましくは1×1011/cm未満となる。また、このようにキャリアが少ないことで、オフ状態における電流(オフ電流)は十分に小さくなる。
【0080】
具体的には、上述の酸化物半導体層を具備するトランジスタでは、オフ状態でのソースとドレイン間のチャネル幅1μmあたりのリーク電流(オフ電流)は、ソースとドレイン間の電圧が3.5V、使用時の温度条件下(例えば、25℃)において、100zA(1×10−19A)以下、もしくは10zA(1×10−20A)以下、さらには1zA(1×10−21A)以下とすることができる。
【0081】
また、高純度化された酸化物半導体層を具備するトランジスタは、オン電流の温度依存性がほとんど見られず、高温状態においてもオフ電流は非常に小さいままである。
【0082】
以下、図6(A)乃至(E)を用い、基板505上に酸化物半導体をチャネル形成領域に用いたトランジスタを作製する工程を説明する。なお、レジストマスクを用いる工程では、レジストマスクをインクジェット法で形成してもよい。レジストマスクをインクジェット法で形成するとフォトマスクを使用しないため、製造コストを低減できる。
【0083】
<1−1.絶縁表面を有する基板>
まず、絶縁表面を有する基板505上に導電膜を形成した後、第1のフォトリソグラフィ工程によりゲート電極層511を形成する。
【0084】
基板505は絶縁表面と水蒸気および水素ガスに対するガスバリア性を有すればよく、大きな制限はないが、後の工程で加熱処理を行う場合は、少なくともその温度に耐えうる耐熱性を有している必要がある。例えばバリウムホウケイ酸ガラスやアルミノホウケイ酸ガラスなどのガラス基板、石英基板、サファイア基板、セラミック基板等を用いることができる。また、ステンレスを含む金属基板又は半導体基板の表面に絶縁膜を形成したものを用いても良い。プラスチックなどの合成樹脂からなる可撓性を有する基板は、一般的に上記基板と比較して耐熱温度が低い傾向にあるが、作製工程における処理温度に耐えうるのであれば用いることが可能である。なお、基板505の表面を、CMP法などの研磨により平坦化しておいてもよい。
【0085】
本実施の形態では絶縁表面を有する基板505としてガラス基板を用いる。
【0086】
なお、下地となる絶縁層を基板505とゲート電極層511との間に設けてもよい。当該絶縁層には、基板505からの不純物元素の拡散を防止する機能があり、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜などから選ばれた一または複数の膜による積層構造により形成することができる。
【0087】
<1−2.ゲート電極層>
また、ゲート電極層511の材料は、モリブデン、チタン、クロム、タンタル、タングステン、ネオジム、スカンジウム等の金属材料又はこれらを主成分とする合金材料を用いて、単層で又は積層して形成することができる。なお、後の工程において行われる加熱処理の温度に耐えうるのであれば、上記金属材料としてアルミニウム、銅を用いることもできる。アルミニウムまたは銅は、耐熱性や腐食性の問題を回避するために、高融点金属材料と組み合わせて用いると良い。高融点金属材料としては、モリブデン、チタン、クロム、タンタル、タングステン、ネオジム、スカンジウム等を用いることができる。
【0088】
<1−3.ゲート絶縁層>
次いで、ゲート電極層511上にゲート絶縁層507を形成する。ゲート絶縁層507は、プラズマCVD法又はスパッタリング法等を用いて形成することができる。またゲート絶縁層507は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜、酸化ハフニウム膜、酸化タンタル膜、または酸化ガリウム膜などから選ばれた一または複数の膜により単層、または積層して形成することができる。
【0089】
本実施の形態の酸化物半導体は、不純物を除去され、I型化又は実質的にI型化された酸化物半導体(高純度化された酸化物半導体)を用いる。このような高純度化された酸化物半導体は界面準位、界面電荷に対して極めて敏感であるため、酸化物半導体層とゲート絶縁層との界面は重要である。そのため高純度化された酸化物半導体に接するゲート絶縁層は、高品質化が要求される。
【0090】
例えば、μ波(例えば周波数2.45GHz)を用いた高密度プラズマCVDは、緻密で絶縁耐圧の高い高品質な絶縁層を形成できるので好ましい。高純度化された酸化物半導体と高品質ゲート絶縁層とが密接することにより、界面準位を低減して界面特性を良好なものとすることができるからである。
【0091】
もちろん、ゲート絶縁層として良質な絶縁層を形成できるものであれば、スパッタリング法やプラズマCVD法など他の成膜方法を適用することができる。また、成膜後の熱処理によってゲート絶縁層の膜質、酸化物半導体との界面特性が改質される絶縁層であっても良い。いずれにしても、ゲート絶縁層としての膜質が良好であることは勿論のこと、酸化物半導体との界面準位密度を低減し、良好な界面を形成できるものであれば良い。
【0092】
なお、ゲート絶縁層507は後に形成される酸化物半導体層と接する。酸化物半導体層に水素が拡散すると半導体特性が損なわれるので、ゲート絶縁層507は水素、水酸基および水分が含まれないことが望ましい。ゲート絶縁層507、酸化物半導体膜530に水素、水酸基及び水分がなるべく含まれないようにするために、酸化物半導体膜530の成膜の前処理として、スパッタリング装置の予備加熱室でゲート電極層511が形成された基板505、又はゲート絶縁層507までが形成された基板505を予備加熱し、基板505に吸着した水素、水分などの不純物を脱離し排気することが好ましい。なお、予備加熱の温度は、100℃以上400℃以下、好ましくは150℃以上300℃以下である。なお、予備加熱室に設ける排気手段はクライオポンプが好ましい。なお、この予備加熱の処理は省略することもできる。またこの予備加熱は、第1の絶縁層516の成膜前に、ソース電極層515a及びドレイン電極層515bまで形成した基板505にも同様に行ってもよい。
【0093】
<1−4.酸化物半導体層>
次いで、ゲート絶縁層507上に、膜厚2nm以上200nm以下、好ましくは5nm以上30nm以下の酸化物半導体膜530を形成する(図6(A)参照。)。
【0094】
酸化物半導体膜は、酸化物半導体をターゲットとして用い、スパッタ法により成膜する。また、酸化物半導体膜は、希ガス(例えばアルゴン)雰囲気下、酸素雰囲気下、又は希ガス(例えばアルゴン)及び酸素混合雰囲気下においてスパッタ法により形成することができる。
【0095】
なお、酸化物半導体膜530をスパッタリング法により成膜する前に、アルゴンガスを導入してプラズマを発生させる逆スパッタを行い、ゲート絶縁層507の表面に付着している粉状物質(パーティクル、ごみともいう)を除去することが好ましい。逆スパッタとは、アルゴン雰囲気下で基板にRF電源を用いて電圧を印加して基板近傍にプラズマを形成して表面を改質する方法である。なお、アルゴン雰囲気に代えて窒素、ヘリウム、酸素などを用いてもよい。
【0096】
酸化物半導体膜530に用いる酸化物半導体としては、四元系金属酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn−O系酸化物半導体や、三元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体、In−Sn−Zn−O系酸化物半導体、In−Al−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Ga−Zn−O系酸化物半導体、Al−Ga−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Al−Zn−O系酸化物半導体や、二元系金属酸化物であるIn−Zn−O系酸化物半導体、Sn−Zn−O系酸化物半導体、Al−Zn−O系酸化物半導体、Zn−Mg−O系酸化物半導体、Sn−Mg−O系酸化物半導体、In−Mg−O系酸化物半導体、In−Ga−O系酸化物半導体や、In−O系酸化物半導体、Sn−O系酸化物半導体、Zn−O系酸化物半導体などを用いることができる。また、上記酸化物半導体層に酸化珪素を含ませてもよい。酸化物半導体層に結晶化を阻害する酸化珪素(SiO(X>0))を含ませることで、製造プロセス中において酸化物半導体層の形成後に加熱処理した場合に、結晶化してしまうのを抑制することができる。なお、酸化物半導体層は非晶質な状態であることが好ましく、一部結晶化していてもよい。ここで、例えば、In−Ga−Zn−O系酸化物半導体とは、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を有する酸化物膜、という意味であり、その組成比はとくに問わない。また、InとGaとZn以外の元素を含んでもよい。
【0097】
また、酸化物半導体膜530には、化学式InMO(ZnO)(m>0)で表記される薄膜を用いることができる。ここで、Mは、Ga、Al、MnおよびCoから選ばれた一または複数の金属元素を示す。例えばMとして、Ga、Ga及びAl、Ga及びMn、またはGa及びCoなどがある。
【0098】
酸化物半導体は、好ましくはInを含有する酸化物半導体、さらに好ましくは、In、及びGaを含有する酸化物半導体である。酸化物半導体層をI型(真性)とするため、脱水化または脱水素化は有効である。本実施の形態では、酸化物半導体膜530としてIn−Ga−Zn−O系酸化物ターゲットを用いてスパッタリング法により成膜する。この段階での断面図が図6(A)に相当する。
【0099】
酸化物半導体膜530をスパッタリング法で作製するためのターゲットとしては、例えば、組成比として、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]の酸化物ターゲットを用い、In−Ga−Zn−O膜を成膜する。また、このターゲットの材料及び組成に限定されず、例えば、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]、又はIn:Ga:ZnO=1:1:4[mol数比]の組成比を有する酸化物ターゲットを用いてもよい。
【0100】
また、酸化物ターゲットの充填率は90%以上100%以下、好ましくは95%以上99.9%である。充填率の高い金属酸化物ターゲットを用いることにより、成膜した酸化物半導体膜は緻密な膜とすることができる。
【0101】
酸化物半導体膜530を、成膜する際に用いるスパッタガスは水素、水、水酸基又は水素化物などの不純物が除去された高純度ガスを用いることが好ましい。
【0102】
減圧状態に保持された成膜室内に基板を保持し、基板温度を100℃以上600℃以下好ましくは200℃以上400℃以下とする。基板を加熱しながら成膜することにより、成膜した酸化物半導体膜に含まれる不純物濃度を低減することができる。また、スパッタリングによる損傷が軽減される。そして、成膜室内の残留水分を除去しつつ水素及び水分が除去されたスパッタガスを導入し、上記ターゲットを用いて基板505上に酸化物半導体膜530を成膜する。成膜室内の残留水分を除去するためには、吸着型の真空ポンプ、例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプを用いることが好ましい。また、排気手段としては、ターボポンプにコールドトラップを加えたものであってもよい。クライオポンプを用いて排気した成膜室は、例えば、水素原子、水(HO)など水素原子を含む化合物(より好ましくは炭素原子を含む化合物も)等が排気されるため、当該成膜室で成膜した酸化物半導体膜に含まれる不純物の濃度を低減できる。
【0103】
スパッタリング法を行う雰囲気は、希ガス(代表的にはアルゴン)、酸素、または希ガスと酸素の混合雰囲気とすればよい。
【0104】
成膜条件の一例としては、基板とターゲットの間との距離を100mm、圧力0.6Pa、直流(DC)電源0.5kW、酸素(酸素流量比率100%)雰囲気下の条件が適用される。なお、パルス直流電源を用いると、成膜時に発生する粉状物質(パーティクル、ごみともいう)が軽減でき、膜厚分布も均一となるために好ましい。
【0105】
なお、酸化物半導体層中に含まれる、Li、Na、Kなどのアルカリ金属、及びCaなどのアルカリ土類金属などの不純物は低減されていることが好ましい。具体的には、SIMSにより検出されるLiが5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下、Kは5×1015cm−3以下、好ましくは1×1015cm−3以下であることが好ましい。
【0106】
アルカリ金属、及びアルカリ土類金属は酸化物半導体にとっては悪性の不純物であり、少ないほうがよい。特にアルカリ金属のうち、Naは酸化物半導体に接する絶縁膜が酸化物であった場合、その中に拡散し、Naとなる。また、酸化物半導体内において、金属と酸素の結合を分断し、あるいは結合中に割り込む。その結果、トランジスタ特性の劣化(例えば、ノーマリーオン化(しきい値の負へのシフト)、移動度の低下等)をもたらす。加えて、特性のばらつきの原因ともなる。このような問題は、特に酸化物半導体中の水素の濃度が十分に低い場合において顕著となる。したがって、酸化物半導体中の水素の濃度が5×1019cm−3以下、特に5×1018cm−3以下である場合には、アルカリ金属の濃度を上記の値にすることが強く求められる。
【0107】
次いで、酸化物半導体膜530を第2のフォトリソグラフィ工程により島状の酸化物半導体層に加工する。
【0108】
また、ゲート絶縁層507にコンタクトホールを形成する場合、その工程は酸化物半導体膜530の加工時に同時に行うことができる。
【0109】
なお、ここでの酸化物半導体膜530のエッチングは、ドライエッチングでもウェットエッチングでもよく、両方を用いてもよい。例えば、酸化物半導体膜530のウェットエッチングに用いるエッチング液としては、燐酸と酢酸と硝酸を混ぜた溶液などを用いることができる。また、ITO07N(関東化学社製)を用いてもよい。
【0110】
また、ドライエッチングに用いるエッチングガスとしては、塩素を含むガス(塩素系ガス、例えば塩素(Cl)、三塩化硼素(BCl)、四塩化珪素(SiCl)、四塩化炭素(CCl)など)が好ましい。また、フッ素を含むガス(フッ素系ガス、例えば四弗化炭素(CF)、六弗化硫黄(SF)、三弗化窒素(NF)、トリフルオロメタン(CHF)など)、臭化水素(HBr)、酸素(O)、これらのガスにヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの希ガスを添加したガス、などを用いることができる。
【0111】
ドライエッチング法としては、平行平板型RIE(Reactive Ion Etching)法や、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチング法を用いることができる。所望の加工形状にエッチングできるように、エッチング条件(コイル型の電極に印加される電力量、基板側の電極に印加される電力量、基板側の電極温度等)を適宜調節する。
【0112】
次いで、酸化物半導体層に第1の加熱処理を行う。この第1の加熱処理によって酸化物半導体層の脱水化または脱水素化を行うことができる。第1の加熱処理の温度は、250℃以上750℃以下、または400℃以上基板の歪み点未満とする。例えば、500℃、3分間以上6分間以下程度で行ってもよい。加熱処理にRTA法を用いれば、短時間に脱水化または脱水素化が行えるため、ガラス基板の歪み点を超える温度でも処理することができる。
【0113】
ここでは、加熱処理装置の一つである電気炉に基板を導入し、酸化物半導体層に対して窒素雰囲気下450℃において1時間の加熱処理を行った後、大気に触れることなく、酸化物半導体層への水や水素の再混入を防ぎ、酸化物半導体層531を得る(図6(B)参照。)。
【0114】
なお、加熱処理装置は電気炉に限られず、抵抗発熱体などの発熱体からの熱伝導または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置を用いてもよい。例えば、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置等のRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて加熱処理を行う装置である。高温のガスには、アルゴンなどの希ガス、または窒素のような、加熱処理によって被処理物と反応しない不活性気体が用いられる。
【0115】
例えば、第1の加熱処理として、650℃〜700℃の高温に加熱した不活性ガス中に基板を移動させて入れ、数分間加熱した後、基板を移動させて高温に加熱した不活性ガス中から出すGRTAを行ってもよい。
【0116】
なお、第1の加熱処理においては、窒素、またはヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスに、水、水素などが含まれないことが好ましい。または、加熱処理装置に導入する窒素、またはヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上好ましくは7N(99.99999%)以上(即ち不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0117】
また、第1の加熱処理で酸化物半導体層を加熱した後、同じ炉に高純度の酸素ガス、高純度のNOガス、又は超乾燥エア(CRDS(キャビティリングダウンレーザー分光法)方式の露点計を用いて測定した場合の水分量が20ppm(露点換算で−55℃)以下、好ましくは1ppm以下、好ましくは10ppb以下の空気)を導入してもよい。酸素ガスまたはNOガスに、水、水素などが含まれないことが好ましい。または、加熱処理装置に導入する酸素ガスまたはNOガスの純度を、6N以上好ましくは7N以上(即ち、酸素ガスまたはNOガス中の不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。酸素ガス又はNOガスの作用により、脱水化または脱水素化処理による不純物の排除工程によって同時に減少してしまった酸化物半導体を構成する主成分材料である酸素を供給することによって、酸化物半導体層を高純度化及び電気的にI型(真性)化する。
【0118】
また、酸化物半導体層の第1の加熱処理は、島状の酸化物半導体層に加工する前の酸化物半導体膜530に行うこともできる。その場合には、第1の加熱処理後に、加熱装置から基板を取り出し、フォトリソグラフィ工程を行う。
【0119】
なお、第1の加熱処理は、上記以外にも、酸化物半導体層成膜後であれば、酸化物半導体層上にソース電極層及びドレイン電極層を積層させた後、あるいは、ソース電極層及びドレイン電極層上に絶縁層を形成した後、のいずれで行っても良い。
【0120】
また、ゲート絶縁層507にコンタクトホールを形成する場合、その工程は酸化物半導体膜530に第1の加熱処理を行う前でも行った後に行ってもよい。
【0121】
以上の工程により、島状の酸化物半導体層中の水素の濃度を低減し、高純度化することができる。それにより酸化物半導体層の安定化を図ることができる。また、ガラス転移温度以下の加熱処理で、キャリア密度が極端に少なく、バンドギャップの広い酸化物半導体層を形成することができる。このため、大面積基板を用いてトランジスタを作製することができ、量産性を高めることができる。また、当該水素濃度が低減され高純度化された酸化物半導体層を用いることで、耐圧性が高く、オフ電流の著しく低いトランジスタを作製することができる。上記加熱処理は、酸化物半導体層の成膜以降であれば、いつでも行うことができる。
【0122】
また、酸化物半導体層を2回に分けて成膜し、2回に分けて加熱処理を行うことで、下地部材の材料が、酸化物、窒化物、金属など材料を問わず、膜厚の厚い結晶領域(単結晶領域)、即ち、膜表面に垂直にc軸配向した結晶領域を有する酸化物半導体層を形成してもよい。例えば、3nm以上15nm以下の第1の酸化物半導体膜を成膜し、窒素、酸素、希ガス、または乾燥空気の雰囲気下で450℃以上850℃以下、好ましくは550℃以上750℃以下の第1の加熱処理を行い、表面を含む領域に結晶領域(板状結晶を含む)を有する第1の酸化物半導体膜を形成する。そして、第1の酸化物半導体膜よりも厚い第2の酸化物半導体膜を形成し、450℃以上850℃以下、好ましくは600℃以上700℃以下の第2の加熱処理を行い、第1の酸化物半導体膜を結晶成長の種として、上方に結晶成長させ、第2の酸化物半導体膜の全体を結晶化させ、結果として膜厚の厚い結晶領域を有する酸化物半導体層を形成してもよい。
【0123】
<1−5.ソース電極層及びドレイン電極層>
次いで、ゲート絶縁層507、及び酸化物半導体層531上に、ソース電極層及びドレイン電極層(これと同じ層で形成される配線を含む)となる導電膜を形成する。ソース電極層、及びドレイン電極層に用いる導電膜としては、例えば、Al、Cr、Cu、Ta、Ti、Mo、Wから選ばれた元素を含む金属膜、または上述した元素を成分とする合金、または金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)等を用いることができる。また、Al、Cuなどの金属膜は、耐熱性や腐食性の問題を回避するために、下側又は上側の一方または双方にTi、Mo、W、Cr、Ta、Nd、Sc、Yなどの高融点金属膜またはそれらの金属窒化物膜(窒化チタン膜、窒化モリブデン膜、窒化タングステン膜)を積層させた構成としても良い。
【0124】
また、導電膜は、単層構造でも、2層以上の積層構造としてもよい。例えば、シリコンを含むアルミニウム膜の単層構造、アルミニウム膜上にチタン膜を積層する2層構造、チタン膜と、そのチタン膜上に重ねてアルミニウム膜を積層し、さらにその上にチタン膜を成膜する3層構造などが挙げられる。
【0125】
また、導電膜は、導電性の金属酸化物で形成しても良い。導電性の金属酸化物としては酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム酸化スズ合金、酸化インジウム酸化亜鉛合金または前記金属酸化物材料にシリコン若しくは酸化シリコンを含ませたものを用いることができる。
【0126】
なお、導電膜形成後に加熱処理を行う場合には、この加熱処理に耐える耐熱性を導電膜に持たせることが好ましい。
【0127】
続いて、第3のフォトリソグラフィ工程により導電膜上にレジストマスクを形成し、選択的にエッチングを行ってソース電極層515a、ドレイン電極層515bを形成した後、レジストマスクを除去する(図6(C)参照)。
【0128】
第3のフォトリソグラフィ工程でのレジストマスク形成時の露光には、紫外線やKrFレーザ光やArFレーザ光を用いるとよい。酸化物半導体層531上で隣り合うソース電極層の下端部とドレイン電極層の下端部との間隔幅によって後に形成されるトランジスタのチャネル長Lが決定される。なお、チャネル長L=25nm未満の露光を行う場合には、数nm〜数10nmと極めて波長が短い超紫外線(Extreme Ultraviolet)を用いて第3のフォトリソグラフィ工程でのレジストマスク形成時の露光を行うとよい。超紫外線による露光は、解像度が高く焦点深度も大きい。従って、後に形成されるトランジスタのチャネル長Lを10nm以上1000nm以下とすることも可能であり、回路の動作速度を高速化できる。
【0129】
なお、導電膜のエッチングの際に、酸化物半導体層531がエッチングされ、分断することのないようエッチング条件を最適化することが望まれる。しかしながら、導電膜のみをエッチングし、酸化物半導体層531を全くエッチングしないという条件を得ることは難しく、導電膜のエッチングの際に酸化物半導体層531は一部のみがエッチングされ、溝部(凹部)を有する酸化物半導体層となることもある。
【0130】
本実施の形態では、導電膜としてTi膜を用い、酸化物半導体層531にはIn−Ga−Zn−O系酸化物半導体を用いたので、エッチャントとしてアンモニア過水(アンモニア、水、過酸化水素水の混合液)を用いる。エッチャントとしてアンモニア過水を用いることにより選択的に導電膜をエッチングすることができる。
【0131】
<1−6.保護のための絶縁層>
次いで、NO、N、またはArなどのガスを用いたプラズマ処理を行い、露出している酸化物半導体層の表面に付着した吸着水などを除去してもよい。また、酸素とアルゴンの混合ガスを用いてプラズマ処理を行ってもよい。プラズマ処理を行った場合、大気に触れることなく、酸化物半導体層の一部に接する保護絶縁層となる第1の絶縁層516を形成する。
【0132】
第1の絶縁層516は、水分や、水素、酸素などの不純物を極力含まないことが望ましく、単層の絶縁膜であっても良いし、積層された複数の絶縁膜で構成されていても良い。また第1の絶縁層516は、少なくとも1nm以上の膜厚とし、スパッタ法など、第1の絶縁層516に水、水素等の不純物を混入させない方法を適宜用いて形成することができる。第1の絶縁層516に水素が含まれると、その水素の酸化物半導体層への侵入、又は水素による酸化物半導体層中の酸素の引き抜き、が生じ酸化物半導体層のバックチャネルが低抵抗化(N型化)してしまい、寄生チャネルが形成されるおそれがある。よって、第1の絶縁層516はできるだけ水素を含まない膜になるように、成膜方法に水素を用いないことが重要である。
【0133】
また、第1の絶縁層516には、バリア性の高い材料を用いるのが望ましい。例えば、バリア性の高い絶縁膜として、窒化珪素膜、窒化酸化珪素膜、窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜、酸化アルミニウム膜、または酸化ガリウム膜などを用いることができる。バリア性の高い絶縁膜を用いることで、島状の酸化物半導体層内、ゲート絶縁層内、或いは、島状の酸化物半導体層と他の絶縁層の界面とその近傍に、水分または水素などの不純物が入り込むのを防ぐことができる。
【0134】
たとえば、スパッタ法で形成された膜厚200nmの酸化ガリウム膜上に、スパッタ法で形成された膜厚100nmの酸化アルミニウム膜を積層させた構造を有する、絶縁膜を形成してもよい。成膜時の基板温度は、室温以上300℃以下とすればよい。また、絶縁膜は酸素を多く含有していることが好ましく、化学量論比を超える程度、好ましくは、化学量論比の1倍を超えて2倍まで(1倍より大きく2倍未満)酸素を含有していることが好ましい。このように絶縁膜が過剰な酸素を有することにより、島状の酸化物半導体膜の界面に酸素を供給し、酸素の欠損を低減することができる。
【0135】
本実施の形態では、第1の絶縁層516として膜厚200nmの酸化シリコン膜を、スパッタリング法を用いて成膜する。成膜時の基板温度は、室温以上300℃以下とすればよく、本実施の形態では100℃とする。酸化シリコン膜のスパッタ法による成膜は、希ガス(代表的にはアルゴン)雰囲気下、酸素雰囲気下、または希ガスと酸素の混合雰囲気下において行うことができる。また、ターゲットとして酸化シリコンターゲットまたはシリコンターゲットを用いることができる。例えば、シリコンターゲットを用いて、酸素を含む雰囲気下でスパッタ法により酸化シリコン膜を形成することができる。酸化物半導体層に接して形成する第1の絶縁層516は、水分や、水素イオンや、OHなどの不純物を含まず、これらが外部から侵入することをブロックする無機絶縁膜を用い、代表的には酸化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、または酸化窒化アルミニウム膜などを用いる。
【0136】
酸化物半導体膜530の成膜時と同様に、第1の絶縁層516の成膜室内の残留水分を除去するためには、吸着型の真空ポンプ(クライオポンプなど)を用いることが好ましい。クライオポンプを用いて排気した成膜室で成膜した第1の絶縁層516に含まれる不純物の濃度を低減できる。また、第1の絶縁層516の成膜室内の残留水分を除去するための排気手段としては、ターボポンプにコールドトラップを加えたものであってもよい。
【0137】
第1の絶縁層516を成膜する際に用いるスパッタガスは、水素、水、水酸基又は水素化物などの不純物が除去された高純度ガスを用いることが好ましい。
【0138】
なお、第1の絶縁層516を形成した後に、第2の加熱処理を施しても良い。加熱処理は、窒素、超乾燥空気、または希ガス(アルゴン、ヘリウムなど)の雰囲気下において、好ましくは200℃以上400℃以下、例えば250℃以上350℃以下で行う。上記ガスは、水の含有量が20ppm以下、好ましくは1ppm以下、好ましくは10ppb以下であることが望ましい。例えば、窒素雰囲気下で250℃、1時間の加熱処理を行う。或いは、第1の加熱処理と同様に、高温短時間のRTA処理を行っても良い。酸素を含む第1の絶縁層516が設けられた後に加熱処理が施されることによって、第1の加熱処理により、島状の酸化物半導体層に酸素欠損が発生していたとしても、第1の絶縁層516から島状の酸化物半導体層に酸素が供与される。そして、島状の酸化物半導体層に酸素が供与されることで、島状の酸化物半導体層において、ドナーとなる酸素欠損を低減し、化学量論比を満たすことが可能である。島状の半導体層には、化学量論的組成比を超える量の酸素が含まれていることが好ましい。その結果、島状の酸化物半導体層をi型に近づけることができ、酸素欠損によるトランジスタの電気特性のばらつきを軽減し、電気特性の向上を実現することができる。この第2の加熱処理を行うタイミングは、第1の絶縁層516の形成後であれば特に限定されず、他の工程、例えば樹脂膜形成時の加熱処理や、透光性を有する導電膜を低抵抗化させるための加熱処理と兼ねることで、工程数を増やすことなく、島状の酸化物半導体層をi型に近づけることができる。
【0139】
また、酸素雰囲気下で島状の酸化物半導体層に加熱処理を施すことで、酸化物半導体に酸素を添加し、島状の酸化物半導体層中においてドナーとなる酸素欠損を低減させても良い。加熱処理の温度は、例えば100℃以上350℃未満、好ましくは150℃以上250℃未満で行う。上記酸素雰囲気下の加熱処理に用いられる酸素ガスには、水、水素などが含まれないことが好ましい。または、加熱処理装置に導入する酸素ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち酸素中の不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。
【0140】
本実施の形態では、不活性ガス雰囲気下、または酸素ガス雰囲気下で第2の加熱処理(好ましくは200℃以上400℃以下、例えば250℃以上350℃以下)を行う。例えば、窒素雰囲気下で250℃、1時間の第2の加熱処理を行う。第2の加熱処理を行うと、酸化物半導体層の一部(チャネル形成領域)が第1の絶縁層516と接した状態で加熱される。
【0141】
第2の加熱処理は以下の効果を奏する。前述の第1の加熱処理により、酸化物半導体層から水素、水分、水酸基又は水素化物(水素化合物ともいう)等の不純物が意図的に排除される一方で、酸化物半導体を構成する主成分材料の一つである酸素が減少してしまう場合がある。第2の加熱処理は、第1加熱処理が施された酸化物半導体層に酸素を供給するため、酸化物半導体層は高純度化及び電気的にI型(真性)化する。
【0142】
以上の工程でトランジスタ510が形成される(図6(D)参照)。トランジスタ510は、ゲート電極層511と、ゲート電極層511上のゲート絶縁層507と、ゲート絶縁層507上においてゲート電極層511と重なる島状の酸化物半導体層531と、島状の酸化物半導体層531上に形成された一対のソース電極層515a及びドレイン電極層515bとを有する、チャネルエッチ構造である。
【0143】
また、第1の絶縁層516に欠陥を多く含む酸化シリコン層を用いると、酸化シリコン層形成後の加熱処理によって酸化物半導体層中に含まれる水素、水分、水酸基又は水素化物などの不純物を酸化物絶縁層に拡散させ、酸化物半導体層中に含まれる該不純物をより低減させる効果を奏する。
【0144】
また、第1の絶縁層516に酸素を過剰に含む酸化シリコン層を用いると、第1の絶縁層516形成後の加熱処理によって第1の絶縁層516中の酸素が酸化物半導体層531に移動し、酸化物半導体層531の酸素濃度を向上させ、高純度化する効果を奏する。
【0145】
第1の絶縁層516上にさらに保護絶縁層となる第2の絶縁層506を積層してもよい。第2の絶縁層506は、例えば、RFスパッタ法を用いて窒化シリコン膜を形成する。RFスパッタ法は、量産性がよいため、保護絶縁層の成膜方法として好ましい。保護絶縁層は、水分などの不純物を含まず、これらが外部から侵入することをブロックする無機絶縁膜を用い、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜などを用いる。また、窒化シリコン膜、及び窒化アルミニウム膜は、水素イオン、又は水素分子のバリア膜として特に有効であり、第1の絶縁層516上に設けることが好ましい。本実施の形態では、窒化シリコン膜を用いて第2の絶縁層506を形成する(図6(E)参照。)。
【0146】
本実施の形態では、第2の絶縁層506として、第1の絶縁層516まで形成された基板505を100℃〜400℃の温度に加熱し、水素及び水分が除去された高純度窒素を含むスパッタガスを導入しシリコン半導体のターゲットを用いて窒化シリコン膜を成膜する。この場合においても、第1の絶縁層516と同様に、処理室内の残留水分を除去しつつ第2の絶縁層506を成膜することが好ましい。
【0147】
保護絶縁層の形成後、さらに大気中、100℃以上200℃以下、1時間以上30時間以下での加熱処理を行ってもよい。この加熱処理は一定の加熱温度を保持して加熱してもよいし、室温から、100℃以上200℃以下の加熱温度への昇温と、加熱温度から室温までの降温を複数回くりかえして行ってもよい。
【0148】
また、酸素ドープ処理を酸化物半導体膜530、および/又はゲート絶縁層507に施してもよい。「酸素ドープ」とは、酸素(少なくとも、酸素ラジカル、酸素原子、酸素イオン、のいずれかを含む)をバルクに添加することを言う。なお、当該「バルク」の用語は、酸素を、薄膜表面のみでなく薄膜内部に添加することを明確にする趣旨で用いている。また、「酸素ドープ」には、プラズマ化した酸素をバルクに添加する「酸素プラズマドープ」が含まれる。
【0149】
酸素プラズマドープ処理は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式を用いてプラズマ化した酸素を添加する方法であっても、周波数が1GHz以上のμ波(例えば周波数2.45GHz)を用いてプラズマ化した酸素を添加する方法であってもよい。
【0150】
<1−7.平坦化のための絶縁層>
第1の絶縁層516(第2の絶縁層506を積層した場合は第2の絶縁層506)上に平坦化のための平坦化層517を設けることができる。平坦化層517としては、ポリイミド、アクリル、ベンゾシクロブテン、ポリアミド、エポキシ等の樹脂材料を用いることができる。また上記樹脂材料の他に、低誘電率材料(low−k材料)、シロキサン系樹脂、PSG(リンガラス)、BPSG(リンボロンガラス)等を用いることができる。なお、これらの材料で形成される絶縁膜を複数積層させることで、平坦化層517を形成してもよい。平坦化層517の形成法は、特に限定されず、その材料に応じて、スパッタ法、SOG法、スピンコート、ディップ、スプレー塗布、液滴吐出法(インクジェット法)、印刷法(スクリーン印刷、オフセット印刷等)、ドクターナイフ、ロールコーター、カーテンコーター、ナイフコーター等を用いることができる。
【0151】
<第2のステップ:第1の電極の形成>
次いで、開口部518を、第1の絶縁層516(第2の絶縁層506を形成した場合は第2の絶縁層506)、及び平坦化層517に形成する。開口部518はソース電極層515a又はドレイン電極層515bに達する。
【0152】
導電膜を平坦化層517上に形成する。第1の電極601としては、ゲート電極層511に用いることができる導電膜、ソース電極層、及びドレイン電極層に用いる導電膜、並びに可視光を透過する導電膜等を用いることができる。可視光を透過する導電膜としては、例えば酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム錫酸化物(以下、ITOと示す。)、インジウム亜鉛酸化物、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物、グラフェンなどの導電性材料をその例に挙げることができる。
【0153】
次いで、導電膜をパターニングして第1の電極601を形成する。第1の電極は開口部518を介してソース電極層515a又はドレイン電極層515bと接続する(図7参照)。
【0154】
また、バックゲート電極519を酸化物半導体層531のチャネル形成領域と重なる位置に第1の電極601と同一の工程で形成しても良い。
【0155】
バックゲート電極を遮光性の導電膜で形成すると、トランジスタの光劣化、例えば光負バイアス劣化を低減でき、信頼性を向上できる。
【0156】
以上のステップを実施して、ソース電極又はドレイン電極と電気的に接続された第1の電極を備え、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタを作製できる。
【0157】
本実施の形態で説明したトランジスタは実施の形態1の表示装置に適用できる。本実施の形態のトランジスタを適用した実施の形態1の表示装置、すなわち発光物質を含む有機層と一方の面を接する第2の電極の他方の面の側に、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層を備える発光表示装置において、第2の電極の有機層側に生じた水素イオンおよび/又は水素分子が、第2の電極の他方の側に設けた水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層に移動する。これにより、第2の電極の有機層側であって酸化物半導体を用いた半導体素子が設けられた領域において、酸化物半導体のキャリア濃度を高める原因となる水素イオンおよび/又は水素分子の濃度が低下し、依って酸化物半導体を用いた半導体素子の特性及びそれを含む半導体装置の信頼性を高める効果を奏する。
【0158】
また、第2の電極に水素イオンおよび/又は水素分子が透過する開口部を設けると、第2の電極の有機層側に生じた水素イオンおよび/又は水素分子が、第2の電極を容易に透過できる。これにより、第2の電極の有機層側であって酸化物半導体を用いた半導体素子が設けられた領域において、水素イオンおよび/又は水素分子の濃度が低下し、依って酸化物半導体を用いた半導体素子の特性及びそれを含む半導体装置の信頼性を高める効果を奏する。
【0159】
なお、本実施の形態は、本明細書で示す他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【0160】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1で説明した半導体装置に適用することができる発光素子の構成、及びその作製方法の一例について図8を参照して説明する。具体的には、チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたトランジスタのソース電極又はドレイン電極に電気的に接続された第1の電極を陽極又は陰極の一方とし、第2の電極を他方とし、第1の電極と第2の電極の間に発光物質を含む有機層を有する発光素子について説明する。
【0161】
なお、本実施の形態で例示する発光素子の構成は、第1の電極を陽極とし、第2の電極を陰極とすることができる。また、第1の電極を陰極とし第2の電極を陽極とすることもできる。なお、第1の電極と第2の電極の間に設けるEL層は、第1の電極と第2の電極の極性、及び材質に合わせて適宜構成を選択すればよい。
【0162】
図8に、本実施の形態で例示する発光装置に用いることができる発光素子の構成の一例を示す。図8に示す発光素子は、陽極1101と陰極1102の間に発光物質を含む有機層1103が挟んで設けられている。陰極1102と発光物質を含む有機層1103との間には、第1の電荷発生領域1106、電子リレー層1105、及び電子注入バッファー1104が陰極1102側から順次積層された構造を有する。
【0163】
第1の電荷発生領域1106において、正孔(ホール)と電子が発生し、正孔は陰極1102へ移動し、電子は電子リレー層1105へ移動する。電子リレー層1105は電子輸送性が高く、第1の電荷発生領域1106で生じた電子を電子注入バッファー1104に速やかに受け渡す。電子注入バッファー1104は発光物質を含む有機層1103に電子を注入する障壁を緩和し、発光物質を含む有機層1103への電子注入効率を高める。従って、第1の電荷発生領域1106で発生した電子は、電子リレー層1105と電子注入バッファー1104を経て、発光物質を含む有機層1103のLUMO準位に注入される。
【0164】
また、電子リレー層1105は、第1の電荷発生領域1106を構成する物質と電子注入バッファー1104を構成する物質が界面で反応し、互いの機能が損なわれてしまう等の相互作用を防ぐことができる。
【0165】
次に、上述した構成を備える発光素子に用いることができる具体的な材料について、陽極、陰極、発光物質を含む有機層、第1の電荷発生領域、電子リレー層、並びに電子注入バッファーの順に説明する。
【0166】
<陽極に用いることができる材料>
陽極1101は、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上が好ましい)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ましい。具体的には、例えば、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛(Indium Zinc Oxide)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム等が挙げられる。
【0167】
これらの導電性金属酸化物膜は、通常スパッタにより成膜されるが、ゾル−ゲル法などを応用して作製しても構わない。例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛膜は、酸化インジウムに対し1〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。また、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム膜は、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5〜5wt%、酸化亜鉛を0.1〜1wt%含有したターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。
【0168】
この他、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、または金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン等)、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物、チタン酸化物等が挙げられる。また、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の導電性ポリマーを用いても良い。
【0169】
但し、陽極1101と接して第2の電荷発生領域を設ける場合には、仕事関数を考慮せずに様々な導電性材料を陽極1101に用いることができる。具体的には、仕事関数の大きい材料だけでなく、仕事関数の小さい材料を用いることもできる。第2の電荷発生領域を構成する材料については、第1の電荷発生領域と共に後述する。
【0170】
<陰極に用いることができる材料>
陰極1102に接して第1の電荷発生領域1106を、発光物質を含む有機層1103との間に設ける場合、陰極1102は仕事関数の大小に関わらず様々な導電性材料を用いることができる。
【0171】
なお、陰極1102および陽極1101のうち少なくとも一方を、可視光を透過する導電膜を用いて形成する。可視光を透過する導電膜としては、例えば酸化タングステンを含むインジウム酸化物、酸化タングステンを含むインジウム亜鉛酸化物、酸化チタンを含むインジウム酸化物、酸化チタンを含むインジウム錫酸化物、インジウム錫酸化物(以下、ITOと示す。)、インジウム亜鉛酸化物、酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物などを挙げることができる。また、光を透過する程度(好ましくは、5nm〜30nm程度)の金属薄膜を用いることもできる。
【0172】
<発光物質を含む有機層に用いることができる材料>
発光物質を含む有機層1103は、少なくとも発光層を含んで形成されていればよく、発光層以外の層と積層された構造であっても良い。発光層以外の層としては、例えば正孔注入性の高い物質、正孔輸送性の高い物質または電子輸送性の高い物質、電子注入性の高い物質、バイポーラ性(電子及び正孔の輸送性の高い)の物質等を含む層が挙げられる。具体的には、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層(ホールブロッキング層)、電子輸送層、電子注入層等が挙げられ、これらを陽極側から適宜積層して用いることができる。
【0173】
上述した発光物質を含む有機層1103を構成する各層に用いることができる材料について、以下に具体例を示す。
【0174】
正孔注入層は、正孔注入性の高い物質を含む層である。正孔注入性の高い物質としては、例えば、モリブデン酸化物やバナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等を用いることができる。この他、フタロシアニン(略称:HPc)や銅フタロシアニン(略称:CuPc)等のフタロシアニン系の化合物、或いはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等の高分子等によっても正孔注入層を形成することができる。
【0175】
なお、第2の電荷発生領域を用いて正孔注入層を形成してもよい。正孔注入層に第2の電荷発生領域を用いると、仕事関数を考慮せずに様々な導電性材料を陽極1101に用いることができるのは前述の通りである。第2の電荷発生領域を構成する材料については第1の電荷発生領域と共に後述する。
【0176】
正孔輸送層は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。正孔輸送性の高い物質としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)やN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)、4,4’,4’’−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(略称:TCTA)、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物、3−[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,6−ビス[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3−[N−(1−ナフチル)−N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)アミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等が挙げられる。その他、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、1,3,5−トリス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(略称:TCPB)、9−[4−(10−フェニル−9−アントラセニル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CzPA)等のカルバゾール誘導体、等を用いることができる。ここに述べた物質は、主に10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、正孔輸送性の高い物質を含む層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0177】
これ以外にも、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4−ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N−(4−{N’−[4−(4−ジフェニルアミノ)フェニル]フェニル−N’−フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略称:PTPDMA)、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)ベンジジン](略称:Poly−TPD)などの高分子化合物を正孔輸送層に用いることができる。
【0178】
発光層は、発光物質を含む層である。発光物質としては、以下に示す蛍光性化合物を用いることができる。例えば、N,N’−ビス[4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−N,N’−ジフェニルスチルベン−4,4’−ジアミン(略称:YGA2S)、4−(9H−カルバゾール−9−イル)−4’−(10−フェニル−9−アントリル)トリフェニルアミン(略称:YGAPA)、4−(9H−カルバゾール−9−イル)−4’−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)トリフェニルアミン(略称:2YGAPPA)、N,9−ジフェニル−N−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:PCAPA)、ペリレン、2,5,8,11−テトラ−tert−ブチルペリレン(略称:TBP)、4−(10−フェニル−9−アントリル)−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBAPA)、N,N’’−(2−tert−ブチルアントラセン−9,10−ジイルジ−4,1−フェニレン)ビス[N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン](略称:DPABPA)、N,9−ジフェニル−N−[4−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:2PCAPPA)、N−[4−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)フェニル]−N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン(略称:2DPAPPA)、N,N,N’,N’,N’’,N’’,N’’’,N’’’−オクタフェニルジベンゾ[g,p]クリセン−2,7,10,15−テトラアミン(略称:DBC1)、クマリン30、N−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)−N,9−ジフェニル−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:2PCAPA)、N−[9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)−2−アントリル]−N,9−ジフェニル−9H−カルバゾール−3−アミン(略称:2PCABPhA)、N−(9,10−ジフェニル−2−アントリル)−N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン(略称:2DPAPA)、N−[9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)−2−アントリル]−N,N’,N’−トリフェニル−1,4−フェニレンジアミン(略称:2DPABPhA)、9,10−ビス(1,1’−ビフェニル−2−イル)−N−[4−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]−N−フェニルアントラセン−2−アミン(略称:2YGABPhA)、N,N,9−トリフェニルアントラセン−9−アミン(略称:DPhAPhA)、クマリン545T、N,N’−ジフェニルキナクリドン(略称:DPQd)、ルブレン、5,12−ビス(1,1’−ビフェニル−4−イル)−6,11−ジフェニルテトラセン(略称:BPT)、2−(2−{2−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}−6−メチル−4H−ピラン−4−イリデン)プロパンジニトリル(略称:DCM1)、2−{2−メチル−6−[2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:DCM2)、N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)テトラセン−5,11−ジアミン(略称:p−mPhTD)、7,14−ジフェニル−N,N,N’,N’−テトラキス(4−メチルフェニル)アセナフト[1,2−a]フルオランテン−3,10−ジアミン(略称:p−mPhAFD)、2−{2−イソプロピル−6−[2−(1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:DCJTI)、2−{2−tert−ブチル−6−[2−(1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:DCJTB)、2−(2,6−ビス{2−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}−4H−ピラン−4−イリデン)プロパンジニトリル(略称:BisDCM)、2−{2,6−ビス[2−(8−メトキシ−1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン−4−イリデン}プロパンジニトリル(略称:BisDCJTM)、SD1(商品名;SFC Co., Ltd製)などが挙げられる。
【0179】
また、発光物質としては、以下に示す燐光性化合物を用いることもできる。例えば、ビス[2−(4’,6’−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウム(III)テトラキス(1−ピラゾリル)ボラート(略称:FIr6)、ビス[2−(4’,6’−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウム(III)ピコリナート(略称:FIrpic)、ビス[2−(3’,5’−ビストリフルオロメチルフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウム(III)ピコリナート(略称:Ir(CFppy)(pic))、ビス[2−(4’,6’−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:FIracac)、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(ppy))、ビス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(ppy)(acac))、ビス(ベンゾ[h]キノリナト)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(bzq)(acac))、ビス(2,4−ジフェニル−1,3−オキサゾラト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(dpo)(acac))、ビス[2−(4’−パーフルオロフェニルフェニル)ピリジナト]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(p−PF−ph)(acac))、ビス(2−フェニルベンゾチアゾラト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(bt)(acac))、ビス[2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナト−N,C3’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(btp)(acac))、ビス(1−フェニルイソキノリナト−N,C2’)イリジウム(III)アセチルアセトナート(略称:Ir(piq)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス[2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリナト]イリジウム(III)(略称:Ir(Fdpq)(acac))、(アセチルアセトナト)ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(tppr)(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン白金(II)(略称:PtOEP)、トリス(アセチルアセトナト)(モノフェナントロリン)テルビウム(III)(略称:Tb(acac)(Phen))、トリス(1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオナト)(モノフェナントロリン)ユーロピウム(III)(略称:Eu(DBM)(Phen))、トリス[1−(2−テノイル)−3,3,3−トリフルオロアセトナト](モノフェナントロリン)ユーロピウム(III)(略称:Eu(TTA)(Phen))、(ジピバロイルメタナト)ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:Ir(tppr)(dpm))などが挙げられる。
【0180】
なお、これらの発光物質は、ホスト材料に分散させて用いるのが好ましい。ホスト材料としては、例えば、NPB(略称)、TPD(略称)、TCTA(略称)、TDATA(略称)、MTDATA(略称)、BSPB(略称)などの芳香族アミン化合物、PCzPCA1(略称)、PCzPCA2(略称)、PCzPCN1(略称)、CBP(略称)、TCPB(略称)、CzPA(略称)、9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)、4−フェニル−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)などのカルバゾール誘導体、PVK(略称)、PVTPA(略称)、PTPDMA(略称)、Poly−TPD(略称)などの高分子化合物を含む正孔輸送性の高い物質や、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(略称:BAlq)など、キノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンズオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX))、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ))などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体、さらに、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)や、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、9−[4−(5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:CO11)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)などの電子輸送性の高い物質を用いることができる。
【0181】
電子輸送層は、電子輸送性の高い物質を含む層である。電子輸送性の高い物質としては、例えば、Alq(略称)、Almq(略称)、BeBq(略称)、BAlq(略称)など、キノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体等を用いることができる。また、この他Zn(BOX)(略称)、Zn(BTZ)(略称)などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体なども用いることができる。さらに、金属錯体以外にも、PBD(略称)や、OXD−7(略称)、CO11(略称)、TAZ(略称)、BPhen(略称)、BCP(略称)、2−[4−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]−1−フェニル−1H−ベンゾイミダゾール(略称:DBTBIm−II)なども用いることができる。ここに述べた物質は、主に10−6cm/Vs以上の電子移動度を有する物質である。なお、正孔よりも電子の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。また、電子輸送層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層を二層以上積層したものを用いてもよい。
【0182】
また、高分子化合物を用いることもできる。例えば、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(ピリジン−3,5−ジイル)](略称:PF−Py)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(2,2’−ビピリジン−6,6’−ジイル)](略称:PF−BPy)などを用いることができる。
【0183】
電子注入層は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入性の高い物質としては、リチウム(Li)、セシウム(Cs)、カルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF)等のアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはこれらの化合物が挙げられる。また、電子輸送性を有する物質中にアルカリ金属又はアルカリ土類金属又はそれらの化合物を含有させたもの、例えばAlq中にマグネシウム(Mg)を含有させたもの等を用いることもできる。この様な構造とすることにより、陰極1102からの電子注入効率をより高めることができる。
【0184】
これらの層を適宜組み合わせて発光物質を含む有機層1103を形成する方法としては、種々の方法(例えば、乾式法や湿式法等)を適宜選択することができる。例えば、用いる材料に応じて真空蒸着法、インクジェット法またはスピンコート法などを選んで用いればよい。また、各層で異なる方法を用いて形成してもよい。
【0185】
<電荷発生領域に用いることができる材料>
第1の電荷発生領域1106、及び第2の電荷発生領域は、正孔輸送性の高い物質とアクセプター性物質を含む領域である。なお、電荷発生領域は、同一膜中に正孔輸送性の高い物質とアクセプター性物質を含有する場合だけでなく、正孔輸送性の高い物質を含む層とアクセプター性物質を含む層とが積層されていても良い。但し、第1の電荷発生領域を陰極側に設ける積層構造の場合には、正孔輸送性の高い物質を含む層が陰極1102と接する構造となり、第2の電荷発生領域を陽極側に設ける積層構造の場合には、アクセプター性物質を含む層が陽極1101と接する構造となる。
【0186】
なお、電荷発生領域において、正孔輸送性の高い物質に対して質量比で、0.1以上4.0以下の比率でアクセプター性物質を添加することが好ましい。
【0187】
電荷発生領域に用いるアクセプター性物質としては、遷移金属酸化物や元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を挙げることができる。具体的には、酸化モリブデンが特に好ましい。なお、酸化モリブデンは、吸湿性が低いという特徴を有している。
【0188】
また、電荷発生領域に用いる正孔輸送性の高い物質としては、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体、芳香族炭化水素、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)など、種々の有機化合物を用いることができる。具体的には、10−6cm/Vs以上の正孔移動度を有する物質であることが好ましい。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。
【0189】
<電子リレー層に用いることができる材料>
電子リレー層1105は、第1の電荷発生領域1106においてアクセプター性物質がひき抜いた電子を速やかに受け取ることができる層である。従って、電子リレー層1105は、電子輸送性の高い物質を含む層であり、またそのLUMO準位は、第1の電荷発生領域1106におけるアクセプター性物質のアクセプター準位と、発光物質を含む有機層1103のLUMO準位との間に位置する。具体的には、およそ−5.0eV以上−3.0eV以下とするのが好ましい。
【0190】
電子リレー層1105に用いる物質としては、例えば、ペリレン誘導体や、含窒素縮合芳香族化合物が挙げられる。なお、含窒素縮合芳香族化合物は、安定な化合物であるため電子リレー層1105に用いる物質として好ましい。さらに、含窒素縮合芳香族化合物のうち、シアノ基やフルオロ基などの電子吸引基を有する化合物を用いることにより、電子リレー層1105における電子の受け取りがさらに容易になるため、好ましい。
【0191】
ペリレン誘導体の具体例としては、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(略称:PTCDA)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックビスベンゾイミダゾール(略称:PTCBI)、N,N’−ジオクチルー3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:PTCDI−C8H)、N,N’−ジヘキシルー3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:Hex PTC)等が挙げられる。
【0192】
また、含窒素縮合芳香族化合物の具体例としては、ピラジノ[2,3−f][1,10]フェナントロリン−2,3−ジカルボニトリル(略称:PPDN)、2,3,6,7,10,11−ヘキサシアノ−1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン(略称:HAT(CN))、2,3−ジフェニルピリド[2,3−b]ピラジン(略称:2PYPR)、2,3−ビス(4−フルオロフェニル)ピリド[2,3−b]ピラジン(略称:F2PYPR)等が挙げられる。
【0193】
その他にも、7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタン(略称:TCNQ)、1,4,5,8,−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(略称:NTCDA)、パーフルオロペンタセン、銅ヘキサデカフルオロフタロシアニン(略称:F16CuPc)、N,N’−ビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチル)−1、4、5、8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:NTCDI−C8F)、3’,4’−ジブチル−5,5’’−ビス(ジシアノメチレン)−5,5’’−ジヒドロ−2,2’:5’,2’’−テルチオフェン(略称:DCMT)、メタノフラーレン(例えば[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル)等を電子リレー層1105に用いることができる。
【0194】
<電子注入バッファーに用いることができる材料>
電子注入バッファー1104は、第1の電荷発生領域1106から発光物質を含む有機層1103への電子の注入を容易にする層である。電子注入バッファー1104を第1の電荷発生領域1106と発光物質を含む有機層1103の間に設けることにより、両者の注入障壁を緩和することができる。
【0195】
電子注入バッファー1104には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、およびこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウム等の酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウム等の炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、または希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))等の電子注入性の高い物質を用いることが可能である。
【0196】
また、電子注入バッファー1104が、電子輸送性の高い物質とドナー性物質を含んで形成される場合には、電子輸送性の高い物質に対して質量比で、0.001以上0.1以下の比率でドナー性物質を添加することが好ましい。なお、ドナー性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、およびこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウム等の酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウム等の炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、または希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))の他、テトラチアナフタセン(略称:TTN)、ニッケロセン、デカメチルニッケロセン等の有機化合物を用いることもできる。なお、電子輸送性の高い物質としては、先に説明した発光物質を含む有機層1103の一部に形成することができる電子輸送層の材料と同様の材料を用いて形成することができる。
【0197】
以上のような材料を組み合わせることにより、本実施の形態に示す発光素子を作製することができる。この発光素子からは、上述した発光物質からの発光が得られ、その発光色は発光物質の種類を変えることにより選択できる。また、発光色の異なる複数の発光物質を用いることにより、発光スペクトルの幅を拡げて、例えば白色発光を得ることもできる。なお、白色発光を得る場合には、互いに補色となる発光色を呈する発光物質を用いればよく、例えば補色となる発光色を呈する異なる層を備える構成等を用いることができる。具体的な補色の関係としては、例えば青色と黄色、あるいは青緑色と赤色等が挙げられる。
【0198】
本実施の形態で説明した発光素子は実施の形態1の表示装置に適用できる。本実施の形態の発光素子を適用した実施の形態1の表示装置、すなわち発光物質を含む有機層と一方の面を接する第2の電極の他方の面の側に、水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層を備える発光表示装置において、第2の電極の有機層側に生じた水素イオンおよび/又は水素分子が、第2の電極の他方の側に設けた水素イオンおよび/又は水素分子の吸着層に移動する。これにより、第2の電極の有機層側であって酸化物半導体を用いた半導体素子が設けられた領域において、酸化物半導体のキャリア濃度を高める原因となる水素イオンおよび/又は水素分子の濃度が低下し、依って酸化物半導体を用いた半導体素子の特性及びそれを含む半導体装置の信頼性を高める効果を奏する。
【0199】
また、第2の電極に水素イオンおよび/又は水素分子が透過する開口部を設けると、第2の電極の有機層側に生じた水素イオンおよび/又は水素分子が、第2の電極を容易に透過できる。これにより、第2の電極の有機層側であって酸化物半導体を用いた半導体素子が設けられた領域において、水素イオンおよび/又は水素分子の濃度が低下し、依って酸化物半導体を用いた半導体素子の特性及びそれを含む半導体装置の信頼性を高める効果を奏する。
【0200】
なお、本実施の形態は、本明細書で示す他の実施の形態と適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0201】
505 基板
506 絶縁層
507 ゲート絶縁層
510 トランジスタ
511 ゲート電極層
515a ソース電極層
515b ドレイン電極層
516 絶縁層
517 平坦化層
518 開口部
519 バックゲート電極
530 酸化物半導体膜
531 酸化物半導体層
601 電極
1101 陽極
1102 陰極
1103 有機層
1104 電子注入バッファー
1105 電子リレー層
1106 電荷発生領域
4501 基板
4502 画素部
4503a 信号線駆動回路
4504a 走査線駆動回路
4505 シール材
4506 基板
4509 トランジスタ
4515 接続端子電極
4516 端子電極
4518a FPC
4519 異方性導電膜
4527 層間絶縁層
4528 開口部
4529 隔壁
4530 充填材
4531 吸着層
4532 水素透過膜
4534a 構造体
4534b 構造体
4535 開口部
4540 バックゲート電極
4601 電極
4602 電極
4603 有機層
6400 画素
6401 スイッチング用トランジスタ
6402 トランジスタ
6403 容量素子
6404 発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタと、前記トランジスタのソース電極又はドレイン電極と接続する第1の電極と、前記第1の電極に重畳する第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極の間に挟持される発光物質を含む有機層を有する発光素子とが設けられた第1の基板と、
前記第1の基板と対向配置され、前記トランジスタ及び前記発光素子を囲むシール材により前記第1の基板に固定された第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板の間に設けられた、水素イオンおよび/又は水素分子を吸着する吸着層と、を有する半導体装置。
【請求項2】
前記第2の電極が水素イオンおよび/又は水素分子が透過する開口部を備える請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
水素イオンおよび/又は水素分子の前記吸着層が、ゼオライトおよび/又はパラジウムを含む請求項1又は請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
チャネル形成領域に酸化物半導体を用いたエンハンスメント型のトランジスタと、前記トランジスタのソース電極又はドレイン電極と接続する第1の電極が設けられた第1の基板が備える前記第1の電極上に発光物質を含む有機層を形成するステップと、
前記有機層上に第2の電極を成膜して発光素子を形成するステップと、
前記トランジスタ及び前記発光素子を囲むシール材により、前記第1の基板に対向配置して第2の基板を固定して、前記第1の基板と前記第2の基板の間に水素イオンおよび/又は水素分子を吸着する吸着層を設けるステップを含む半導体装置の作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−79691(P2012−79691A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194985(P2011−194985)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】