説明

半導体装置の検証方法および回路検証装置

【課題】 ESD保護回路を正確に、または迅速に、もしくは容易に検証することが可能な半導体装置の検証方法および回路検証装置を提供する。
【解決手段】 MOSトランジスタ素子からなるESD保護素子の等価回路として、ノードDとノードSの間に並列に接続されたNMOSトランジスタMN10およびそれに伴う寄生バイポーラトランジスタQN10と、寄生バイポーラトランジスタQN10のベースとノードDおよびノードSの間にそれぞれ設けられた電流源Ifgenおよび電流源Irgenと、寄生バイポーラトランジスタQN10のベースと基板ノードに該当するノードBとの間に設けられた基板抵抗Rsubとを用い、電流源Ifgen,Irgenのモデル式をその演算値が発散しないように変形し、また、このモデル式に電荷の生成および再結合を示す変数を組み込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の検証方法および回路検証装置に関し、特に、ESD保護回路(ESD:Electro Static Discharge保護回路)を備えた半導体装置の検証方法およびそれに用いる回路検証装置に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者が検討したところによれば、ESD保護回路の検証技術に関しては、以下のようなものが考えられる。
【0003】
例えば、非特許文献1には、ESD保護素子を回路検証向けにモデル化した等価回路が示されている。この等価回路では、MOSトランジスタ素子からなるESD保護素子を、MOSトランジスタおよびそれに伴う寄生バイポーラトランジスタと、基板抵抗および電流源で表現している。すなわち、この電流源が流す電流は、インパクトイオン化電流を踏まえた数式となっており、この電流が基板抵抗に流れることで寄生バイポーラトランジスタのベースノードが上昇することを等価回路で表現している。
【0004】
また、特許文献1には、非特許文献1に示される等価回路をより正確な等価回路に置き換えると共に、ESD耐圧を迅速かつ正確に解析することを目的としたシミュレーション方法が示されている。その置き換えられた等価回路では、例えば、前述した電流源を2つの電流源(インパクトイオン化電流による電流源と、空乏層でのキャリアの熱生成に基づく電流源)で表している。これによって、ESD耐圧が過大に評価されることを防止することが可能となる。
【0005】
また、特許文献2には、特許文献1の等価回路を改良し、前述した電流源を3つの電流源(ドレイン近傍の空乏層でのインパクトイオン化に基づく電流源と、空乏層でのキャリアの熱生成に基づく電流源、チャネル近傍の空乏層でのインパクトイオン化に基づく電流源)で表し、更に、基板抵抗の変調を考慮した等価回路が示されている。なお、シミュレーションを実行する際、これらの電流源の値は、数値テーブルを用いて与えられる。
【0006】
また、非特許文献2には、非特許文献1の等価回路を用いてシミュレーションを行う際に、そのシミュレーション結果の収束性を向上させるため、前述した電流源の数式を変形した数式が示されている。また、非特許文献3には、ESD動作の過渡的な特性を表現するため、非特許文献1の等価回路に対して、そのMOSトランジスタのドレイン−ゲート間にカップリング容量を追加した構成が示されている。
【特許文献1】特開2001−339052号公報
【特許文献2】特開2004−79952号公報
【非特許文献1】A.Amerasekera,他3名、「Modeling MOS Snapback and Parasitic Bipolar Action for Circuit−Level ESD and High Current Simulations)」、Reliability Physics Symposium,1996 IEEE International、1996年4月30日、p.318−326
【非特許文献2】S.L.Lim,他4名、「A Computationally Stable Quasi−Empirical Compact Model for the Simulation of MOS Breakdown in ESD−Protection Circuit Design」、1997 International Conference on Simulation of Semiconductor Processes and Devices(SISPAD)、1997年9月、p.161−164
【非特許文献3】H.Wolf,他2名、「Bipolar Model Extension for MOS Transistors Considering Gate Coupling Effects in the HBM ESD Domain」、EOS/ESD Symposium 1998、1998年10月、p.271−280
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記のようなESD保護回路の技術について、本発明者が検討した結果、以下のようなことが明らかとなった。
【0008】
半導体デバイスの静電破壊モデルとして、一般的に、人体モデル(HBM:Human Body Model)、マシンモデル(MM:Machine Model)およびデバイス帯電モデル(CDM:Charged Device Model)などが知られている。人体モデルは、人体に帯電した電荷がデバイスに放電した際に発生する破壊モデルであり、マシンモデルは、人体より大容量を有し、放電抵抗が小さい金属製機器とデバイスが接触した際に発生する破壊モデルである。デバイス帯電モデルは、デバイスのパッケージまたはリードフレームが摩擦などにより帯電し、この電荷がデバイスの端子を通して放電されることで発生する破壊モデルである。
【0009】
このような静電破壊モデルによるデバイス破壊を防止するため、半導体デバイス内にはクランプ素子と呼ばれるESD保護素子や、クランプ素子を含む複数の回路素子で構成されたESD保護回路が設けられる。クランプ素子は、例えば、素子サイズが大きいMOSトランジスタなどであり、例えば信号端子と電源端子の間や電源端子間などに設けられる。このようなクランプ素子は、そのソース−ドレイン間(例えば信号端子−電源端子間)にサージ(瞬間的な高電圧又は高電流など)が印加された際に、ソース−ドレイン間をMOSトランジスタの特性およびMOSトランジスタに伴う寄生バイポーラトランジスタの特性によって導通し、所定の電圧にクランプすることで内部回路に高電圧が印加されるのを防止する役目を担う。
【0010】
このように、半導体デバイスの静電破壊に対する耐圧(ESD耐圧)は、クランプ素子の特性によって決まるため、クランプ素子の特性を半導体デバイスの試作前に回路シミュレーションなどによって迅速かつ正確に検証する技術が求められる。そこで、前述した非特許文献1〜3や特許文献1,2のような技術が用いられる。
【0011】
図10に、非特許文献1に記載されたESD保護素子の等価回路を示す。この等価回路では、ノードSとノードDの間に、NMOSトランジスタMN100のソース−ドレインと、npn型の寄生バイポーラトランジスタQN100のエミッタ−コレクタとが並列に接続される。さらに、ノードDとノードBとの間にインパクトイオン化に基づく電流源(電流)Igenと基板抵抗Rsubが直列に接続され、この電流源Igenと基板抵抗Rsubの接続ノードB’が寄生バイポーラトランジスタQN100のベースノードとなっている。
【0012】
NMOSトランジスタMN100のドレイン−ソース間には、電流IDSが流れ、寄生バイポーラトランジスタQN100のエミッタ、ベース、コレクタには、それぞれ電流I、I、Iが流れる。また、ノードD、ノードSには、それぞれ電流I、Iが流れ、基板抵抗Rsubには電流Isubが流れる。
【0013】
ここで、電流Igenの値は、インパクトイオン化に伴う電流増倍係数Mを用いて式(1)で与えられる。
【0014】
Igen=(M−1)×(IDS+I) (1)
電流増倍係数Mは、デバイス固有の係数(定数)K,KとノードDの電圧VとNMOSトランジスタMN100のソース−ドレイン間の飽和電圧Vdsatを用いて、式(2)となる。
【0015】
M=1/(1−K×exp(−K/(V−Vdsat)) (2)
また、ソース−ドレイン間の飽和電圧Vdsatは、デバイス固有の係数(定数)a,a、NMOSトランジスタMN100のゲート電圧Vおよびしきい値電圧Vthを用いて、式(3)となる。
【0016】
Vdsat=(V−Vth)/(a+b(V−Vth)) (3)
この等価回路によるESD動作の概要は、次のようになる。まず、電圧Vの上昇に伴い電流Igenが増大し、この電流が基板抵抗Rsubに流れることでノードB’の電位が上昇する。そうすると、寄生バイポーラトランジスタQN100がオン動作となり、ノードDの電位が降下する。これによって、ノードDとノードS間が低電圧にクランプされ、ESD動作特有のスナップバック特性が生じることになる。また、ゲートのバイアス依存性は、式(3)の電圧Vdsatの変化と、式(1)の電流IDSの変化で表現される。
【0017】
しかしながら、このような等価回路(モデル式含む)を用いて回路シミュレーションを行う場合、例えば下記(1)〜(3)のような問題点があることが判明した。
【0018】
(1)前述した式(1)は、0<V−Vdsat<K/ln(K)の範囲に有効範囲が限定されるため、回路シミュレーション時に計算結果の未収束を起こす恐れがある。図11は、図10の等価回路において、サージ電圧の変化に対する電流増倍係数の計算結果の一例を示す説明図である。図11においては、横軸が(V−Vdsat)の値、縦軸が(M−1)の値である。
【0019】
この図に示すように、図10の等価回路では、V−Vdsat=K/ln(K)に漸近線(特異点)が存在し(図11の[1])、V−Vdsat<0およびK/ln(K)<V−Vdsatの場合に(M−1)の値が負(電圧と電流の方向が矛盾)となり(図11の[2])、V−Vdsat=0の場合に式(2)の割り算に不具合が発生する(図11の[3])。この為、例えばSPICE系の回路シミュレーションなどでは頻繁に未収束が発生し、シミュレーション時間の増大を招くことになる。
【0020】
この問題の解決策として、例えば非特許文献2のように、式(2)を収束しないような式に変形する方法が挙げられる。しかしながら、非特許文献2に示される数式は、物理現象を十分に反映した数式とは言えないため、電流源Igenが表現しているインパクトイオン化電流が実測値と異なってしまい、デバイス固有の係数も増加してしまう恐れがある。また、例えば特許文献2のように、電流源Igenの電流値を数値テーブルで与える方法なども考えられる。しかしながら、この場合は、デバイスの形状変化の効果が簡単に反映できないことなどが問題となる。
【0021】
(2)マシンモデルやデバイス帯電モデルでの検証を十分に行うことができない。図12は、回路シミュレーション上でデバイスに対してサージを発生する回路図とそのサージ波形の概略を示すものであり、(a)は人体モデルに基づく回路図およびサージ波形、(b)はマシンモデルに基づく回路図およびサージ波形、(c)はデバイス帯電モデルに基づく回路図およびサージ波形である。
【0022】
図12(b),(c)に示すように、マシンモデルやデバイス帯電モデルでは、正負両方向のサージ電流IMM,ICDMが印加されることになる。しかしながら、図10の等価回路では、V−Vdsat≦0の範囲を使用できないため、ノードDとノードSの間に一方向の電圧および電流しか印加することができない。したがって、検証が不十分となる。
【0023】
(3)図10の等価回路では、ESD動作の過渡特性が、直流特性とMOSおよび寄生バイポーラトランジスタの交流特性のみで決まってしまうため、電流Igenの過渡的な特性の表現が不十分である。この問題の解決策として、例えば非特許文献3のように、MOSトランジスタのドレイン−ゲート間にカップリング容量を追加する方法が挙げられる。しかしながら、ドレイン−ゲート間にカップリング容量を追加するということは、MOSトランジスタのデバイスモデル自体を変更することに等しいため、MOSトランジスタの動作に誤差が生じてしまう恐れがある。
【0024】
また、通常、クランプ素子においては、ゲート幅を大きくするに従い、MOSおよび寄生バイポーラトランジスタの電流値が単調増加で大きくなり、これに伴いESD耐圧が向上すると考えられる。しかしながら、本発明者等の検討によって、例えば人体モデルの検証時などで、ゲート幅の増加に伴い逆にESD耐圧が不足する領域が存在することが見出された。したがって、このような現象を反映させ、物理現象に即したより正確な回路シミュレーションを行うことが望ましい。
【0025】
そこで、本発明の目的は、このような問題を鑑み、ESD保護回路を正確に検証することが可能な半導体装置の検証方法および回路検証装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、ESD保護回路を容易に、または迅速に検証することが可能な半導体装置の検証方法および回路検証装置を提供することにある。
【0026】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0028】
本発明による半導体装置の検証方法は、絶縁ゲート型電界効果トランジスタ素子からなるESD保護素子を、等価回路およびモデル式によって表し、前記等価回路およびモデル式の特性をコンピュータによって演算することで前記ESD保護素子を含む半導体装置のESD耐圧を検証するものである。
【0029】
ここで、この等価回路は、ソース−ドレイン間とエミッタ−コレクタ間とが並列に接続された絶縁ゲート型電界効果トランジスタおよびそれに伴う寄生バイポーラトランジスタと、絶縁ゲート型電界効果トランジスタのソースまたはドレイン(寄生バイポーラトランジスタのエミッタまたはコレクタ)と寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられた電流源と、寄生バイポーラトランジスタのベースと基板ノードとの間に設けられた基板抵抗とを含むものとなっている。
【0030】
そして、この電流源の電流は、モデル式によって定義され、このモデル式には、インパクトイオン化電流を表現する電流増倍係数が含まれる。また、この電流増倍係数もモデル式によって定義され、ドレイン電圧をV、絶縁ゲート型電界効果トランジスタのソース−ドレイン間飽和電圧をVdsatとして、例えば、「V−Vdsat」の変数を含むものとなっている。
【0031】
このような等価回路およびモデル式において、課題で述べたように、モデル式の変数「V−Vdsat」の値が、0以下や特異点の値X(例えばK/ln(K))以上の範囲になることで回路シミュレーションの未収束が起こり得た。そこで、本発明においては、モデル式の変数「V−Vdsat」を変形することで、変数「V−Vdsat」の範囲を制限する。具体的には、例えば、Δを正の微小値として、Δ≦V−Vdsat≦X−Δの範囲などに制限する。
【0032】
これによって、回路シミュレーションの未収束の問題が解決し、迅速または容易に回路シミュレーションを行うことが可能になる。また、モデル式が表現している物理現象の本質的な部分には変更を加えないため、正確に回路シミュレーションを行うことが可能である。
【0033】
また、本発明による半導体装置の検証方法は、前述した等価回路に対して、前記ソースと前記ベースの間と、前記ドレインと前記ベースの間の両方に電流源を備えた等価回路を用いて検証を行うものとなっている。これによって、ソース−ドレイン間(エミッタ−コレクタ間)で正および負電流の両方を流せるようになるため、マシンモデルやデバイス帯電モデルでの検証を正確または容易に行うことが可能となる。なお、この場合、前述した変数「V−Vdsat」の範囲の制限と同様な制限を、前記両方の電流源のそれぞれのモデル式に適用することで、正および負電流の切り換えをスムーズに行うことができる。
【0034】
さらに、本発明による半導体装置の検証方法は、前述した電流源のモデル式に、電荷の生成および再結合に基づく電流を示す変数I’を組み入れて検証を行うものとなっている。すなわち、前述した電流源のモデル式は、電流増倍係数をMとし、通常、ソース−ドレイン間の電流IDSとコレクタ電流Iの加算電流Iに(M−1)を掛け算したもので定義されるが、この加算電流IをI=IDS+I’+Iとする。変数I’は、より具体的には、例えばI’=−C×ΔIDS/Δtで表現することができる。なお、Cはデバイス固有の係数であり、Δtは微小時間、ΔIDSはΔtの間の電流IDSの変化量である。
【0035】
このように、変数I’を組み入れることで、電流源のモデル式に時間成分が加わり、絶縁ゲート型電界効果トランジスタと寄生バイポーラトランジスタの動作速度の差などを表現することが可能となる。これによって、正確に回路シミュレーションを行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0036】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、ESD保護素子の等価回路およびモデル式を改良することで、ESD保護回路の正確な回路シミュレーションが可能となる。また、ESD保護回路を容易に、または迅速に検証することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0038】
また、本実施の形態の説明においては、絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(MISFET:Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)の一例としてMOSトランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor FET)を用いて説明する。
【0039】
図1は、本発明の一実施の形態による半導体装置の検証方法において、ESD保護素子を検証する際に用いる等価回路の一例を示す回路図である。図1に示す等価回路では、ノードSとノードDの間に、NMOSトランジスタMN10のソース−ドレインと、npn型の寄生バイポーラトランジスタQN10のエミッタ−コレクタとが並列に接続される。そして、寄生バイポーラトランジスタQN10のベースノードB’とノードDの間には、ノードDからノードB’に向けて流れる電流源(電流)Ifgenが設けられ、ノードB’とノードSの間には、ノードSからノードB’に向けて流れる電流源(電流)Irgenが設けられる。さらに、基板に該当するノードBとノードB’の間には、基板抵抗Rsubが設けられる。
【0040】
NMOSトランジスタMN10のドレイン−ソース間には、ノードDからノードSに向けて電流IDSが流れ、また、ノードSからノードDに向けて電流ISD(=−IDS)が流れる。寄生バイポーラトランジスタQN10のエミッタ、ベース、コレクタには、それぞれ電流I、I、Iが流れる。ここで、電流Iの方向は、npn型バイポーラトランジスタの通常の電流方向(図10に示す電流方向)とは逆方向に定義されている。また、ノードD、ノードSには、それぞれ電流I、Iが流れ、基板抵抗Rsubには電流Isubが流れる。
【0041】
ここで、電流Ifgenの値は、ノードSに対してノードDに正電圧(正電流)が印加された場合のインパクトイオン化に伴う電流増倍係数Mfを用いて、式(4)で与えられる。
【0042】
Ifgen=(Mf−1)×(IDS−C×ΔIDS/Δt+I) (4)
なお、Cは、デバイス固有の係数(定数)である。ΔIDS/Δtは、回路シミュレーションが微小時間Δt毎に電流IDSの計算を行うものとして、そのΔtの間の電流IDSの変化値ΔIDSをΔtで割った値である。
【0043】
電流増倍係数Mfは、デバイス固有の係数K,Kを用いて式(5)となる。
【0044】
Mf=1/(1−K×exp(−K/Vdseff) (5)
Vdseffは、Δを正の微小値、VをノードDの電圧、VdsatをノードSに対してノードDに正電圧(正電流)が印加された場合のNMOSトランジスタMN10のソース−ドレイン間飽和電圧として、下記[1]〜[3]の条件に応じてそれぞれ異なる値となる。
【0045】
[1]0<V−Vdsat<K/ln(K)の場合
Vdseff=V−Vdsat (6)
[2]V−Vdsat≦Δの場合
Vdseff=Δ (7)
[3]K/ln(K)−Δ≦V−Vdsatの場合
Vdseff=K/ln(K)−Δ (8)
一方、電流Irgenの値は、ノードDに対してノードSに正電圧(正電流)が印加された場合のインパクトイオン化に伴う電流増倍係数Mrを用いて式(9)で与えられる。
【0046】
Irgen=(Mr−1)×(ISD−C×ΔISD/Δt+I) (9)
電流増倍係数Mrは、デバイス固有の係数K,Kを用いて式(10)となる。
【0047】
Mr=1/(1−K×exp(−K/Vsseff) (10)
Vsseffは、Δを正の微小値、VをノードSの電圧、VssatをノードDに対してノードSに正電圧(正電流)が印加された場合のNMOSトランジスタMN10のソース−ドレイン間飽和電圧として、下記[1’]〜[3’]の条件に応じてそれぞれ異なる値となる。
【0048】
[1’]0<V−Vssat<K/ln(K)の場合
Vsseff=V−Vssat (11)
[2’]V−Vssat≦Δの場合
Vsseff=Δ (12)
[3’]K/ln(K)−Δ≦V−Vssatの場合
Vsseff=K/ln(K)−Δ (13)
なお、ソース−ドレイン間飽和電圧Vdsat,Vssatの値は、前述した式(3)と同様な式によって与えられる。また、ここでは、Vdseff,Vsseffの値を条件分岐によって定義したが、条件分岐の処理機能を備えないような回路シミュレータを用いる場合、一般的に知られている、条件を加味した演算式によって代用することも可能である。
【0049】
以上のように、本発明の特徴としては、まず、ESD保護素子の等価回路およびそれを記述するモデル式を、ノードDとノードS間の順方向電圧(電流)および逆方向電圧(電流)のいずれにも対応可能なように、対象な等価回路およびモデル式としたことが挙げられる。すなわち、図10を例えば図1のように変更する。これによって、マシンモデルおよびデバイス帯電モデルでの検証を容易かつ十分に行うことが可能になる。また、ソース側とドレイン側を対象に表現しているため、ソースとドレインの区別がなく、回路図を作成する際に、ソースとドレインの位置関係に注意する必要もなくなる。
【0050】
次に、正の微小値Δを用いることなどによって、V−Vdsat(およびV−Vssat)の値を、0を含まない正の値とし、なおかつ特異点(K/ln(K))に達しない範囲に制限したことが挙げられる。すなわち、式(2)を例えば式(5)および式(10)のように変形する。そして、式(7),(8)および式(12),(13)に示すように、V−Vdsat(およびV−Vssat)の値が0以下またはK/ln(K)以上の範囲に入る場合は、その値を変更し、その範囲に入らない直前の値で止めるようにする。これによって、電流増倍係数Mf(およびMr)の値が発散しなくなり、回路シミュレーションの収束性が改善し、迅速に検証を行うことが可能となる。
【0051】
更に、ESD動作における電荷の生成および再結合の経時変化をモデル式に組み込んだことが挙げられる。すなわち、式(1)を改良して、例えば式(4)および式(9)に示すように、電荷の生成および再結合の経時変化を表す「C×ΔIDS/Δt」および「C×ΔISD/Δt」の変数を組み込む。これによって、電流Igenの計算に時間成分が追加され、詳細は後述するが、例えば人体モデルによる検証時にESD動作の過渡特性を正確に表現することが可能となる。そして、ESD耐圧を正確に予測できるようになる。
【0052】
このような等価回路とモデル式を用いて回路シミュレーションを行った場合、例えば、図2および図3に示すような計算結果となる。図2は、サージ電圧の変化に対する電流増倍係数内の変数の変化を、図1の等価回路を用いた場合と従来技術である図10の等価回路を用いた場合とで比較した説明図である。図3は、図1の等価回路において、サージ電圧の変化に対する電流増倍係数の計算結果の一例を示す説明図である。
【0053】
図2は、例えば、Vdsat=0Vとし、サージ電圧となる電圧Vを可変にした場合に、式(5)の変数「Vdseff」と式(1)の変数「V−Vdsat」がどのように変化するかを示している。まず、従来技術である式(1)の変数「V−Vdsat」は、常に電圧Vの値に比例した値となる。したがって、変数「V−Vdsat」は、V−Vdsat≦0や、V−Vdsat≧K/ln(K)の値を採ってしまい、前述したように計算時の不具合が発生する。
【0054】
一方、本発明である式(5)の変数「Vdseff」は、最小値が正の微小値であるΔ、最大値が(K/ln(K)−Δ)であり、この範囲内で電圧Vの値に比例した値となる。したがって、計算時の不具合を防止することが可能となる。
【0055】
図3は、サージ電圧となる電圧Vを可変にした場合に、式(5)の電流倍増係数Mfがどのように変化するかを示している。図3は、横軸が(V−Vdsat)の値、縦軸が(Mf−1)の値である。この図に示すように、本発明を用いることで、図11で述べたような特異点、負の値、および0での割り算が存在することによる不具合が解消されている。したがって、回路シミュレーションの計算結果が収束し、容易または迅速に回路シミュレーションを行うことが可能となる。
【0056】
図4は、本発明の一実施の形態による半導体装置の検証方法において、その検証対象であるESD保護回路を含んだ半導体装置の構成の一例を示すブロック図である。図4に示す半導体装置は、例えば、電源端子Vccおよびそれに接続された電源ラインVcc_Lと、グラウンド端子Vssおよびそれに接続されたグラウンドラインVss_Lと、信号端子I/Oおよびそれに接続された信号ラインI/O_Lと、ESD保護回路40a,40bと、被保護回路41と、ダイオードD1,D2などを含んでいる。
【0057】
ESD保護回路40a,40bは、前述したようなESD保護素子(クランプ素子)を含む回路である。ESD保護回路40aは、信号ラインI/O_LとグラウンドラインVss_Lの間に設けられ、ESD保護回路40bは、電源ラインVcc_LとグラウンドラインVss_Lの間に設けられる。ダイオードD1は、電源ラインVcc_Lと信号ラインI/O_Lの間に設けられ、ダイオードD2は、信号ラインI/O_LとグラウンドラインVss_Lの間に設けられる。被保護回路41は、半導体装置の各種機能を実現する回路であり、電源ラインVcc_LとグラウンドラインVss_Lの間に設けられ、信号ラインI/O_Lを介して入出力される信号の処理を行う。
【0058】
このような半導体装置において、信号端子I/Oや電源端子Vcc、またはグラウンド端子Vssにサージが印加された場合、ESD保護回路40aは、電流I2を流すことで信号ラインI/O_LとグラウンドラインVss_Lの間をクランプし、ESD保護回路40bは、電流I3を流すことで電源ラインVcc_LとグラウンドラインVss_Lの間をクランプする。これによって、電源ラインVcc_Lと信号ラインI/O_Lの間の電位V1と、信号ラインI/O_LとグラウンドラインVss_Lの間の電位V2と、電源ラインVcc_LとグラウンドラインVss_Lの間の電位V3が、高電圧になるのを防止でき、被保護回路41を保護することが可能となる。
【0059】
そして、このようなESD保護回路40a,40bの特性を検証する際に、ESD保護回路40a,40bが含むESD保護素子に対して図1で述べたような等価回路(モデル式を含む)が用いられ、図12(a)〜(c)で述べたような各種サージを発生する回路を信号端子等に接続した状態で回路シミュレーションが行われる。なお、この際に使用するESD保護回路40a,40bの具体例としては、例えば図5(a),(b)に示すようなものなどが挙げられる。
【0060】
図5は、図4におけるESD保護回路の構成例を示す回路図であり、(a)はGGNMOSの回路図、(b)はGCNMOSの回路図を示すものである。図5(a)に示すESD保護回路は、GGNMOS(grounded gate NMOS)回路と呼ばれ、ノードSとなるソースとゲートが接続されたNMOSトランジスタMN50で構成される。このNMOSトランジスタMN50は、クランプ素子であり、これに対して図1で述べたような等価回路が用いられ、そのソースとゲートが接続された状態で回路シミュレーションが行われる。なお、このGGNMOS回路を図4のESD保護回路40a,40bとした場合、ノードSがグラウンドラインVss_Lに接続されることになる。
【0061】
図5(b)に示すESD保護回路は、GCNMOS(gate coupled NMOS)回路と呼ばれ、例えば、抵抗R1およびコンデンサC1と、CMOSインバータ回路50と、NMOSトランジスタMN51などで構成される。抵抗R1とコンデンサC1は、ノードDとノードSの間に直列に接続され、抵抗R1とコンデンサC1の間の接続ノードがCMOSインバータ回路50の入力に接続される。CMOSインバータ回路50は、ノードDとノードSの間に直列接続されたPMOSトランジスタMP52およびNMOSトランジスタMN52を含む。そして、CMOSインバータ回路50の出力は、NMOSトランジスタMN51のゲートに入力される。NMOSトランジスタMN51のソースとドレインは、それぞれノードSとノードDに接続される。
【0062】
ここで、少なくともNMOSトランジスタMN51はクランプ素子であり、このNMOSトランジスタMN51に対して図1で述べたような等価回路が用いられ、回路シミュレーションが行われる。なお、このGCNMOS回路を図4のESD保護回路40a,40bとした場合、ノードSがグラウンドラインVss_Lに接続されることになる。
【0063】
このGCNMOS回路の動作概要は、次のようになる。まず、ノードDに比較的小さい正極性のサージ電圧が印加された場合、CMOSインバータ回路50の入力電圧が、抵抗R1とコンデンサC1の時定数によって徐々に上昇する。この上昇している間で、CMOSインバータ回路50の入力電圧が‘L’と見なされる期間は、CMOSインバータ回路50の出力電圧(NMOSトランジスタMN51の入力電圧)が‘H’となるため、これによりノードDからノードSに向けてサージ電流を流すことができる。
【0064】
一方、ノードDに比較的大きい正極性のサージ電圧が印加された場合には、前述した動作に加えて、NMOSトランジスタMN51の寄生バイポーラトランジスタ(図示せず)のオンも伴い、ノードDからノードSに向けてサージ電流を流すことができる。このように、GCNMOS回路を用いることで、ノードDに比較的小さい正極性のサージ電圧が印加された場合でもクランプ動作を行うことが可能になるため、前述したGGNMOS回路と比べてピーク電圧の値が抑えられ、デバイス破壊の保護を容易かつ十分に行うことが可能になる。
【0065】
また、従来技術においては、課題で述べたような動作範囲の制限に伴い計算処理が複雑になる等の理由から、クランプ素子となるNMOSトランジスタのゲート電圧の影響を考慮したESD動作の回路シミュレーションは比較的困難であった。しかしながら、図1のような等価回路およびモデル式を用い、ゲート電圧の影響を電圧Vdsat,Vssatや電流IDS,ISDの変化に反映させることで、ゲート電圧の影響を考慮したより正確な回路シミュレーションが実現可能となる。そして、これによって、例えばGCNMOS回路等のようにゲート電圧が可変となるESD保護回路を容易に検証することも可能となる。
【0066】
つぎに、図5(b)のGCNMOS回路を、従来技術である図10の等価回路を用いて検証を行った場合と、本発明の技術である図1の等価回路を用いて検証を行った場合とでその検証結果を比較する。図6は、図10の等価回路を用いたGCNMOS回路に対し、人体モデルの回路シミュレーションを行った結果を示す説明図であり、(a)は電流−電圧特性の一例、(b)電圧−時間特性の一例を示すものである。図7は、図1の等価回路を用いたGCNMOS回路に対し、人体モデルの回路シミュレーションを行った結果を示す説明図であり、(a)は電流−電圧特性の一例、(b)は電圧−時間特性の一例を示すものである。なお、図6(a),(b)および図7(a),(b)では、図5(b)のGCNMOS回路のNMOSトランジスタMN51に、ゲート幅Wが大きいものを用いた場合と小さいものを用いた場合の回路シミュレーション結果が示されている。
【0067】
まず、従来技術である図6(a)において、ゲート幅Wが大きい場合の電流Iin−電圧Vout特性(ESD1_lrgW)は,そのMOSトランジスタの電流−電圧特性(MOS1_lrgW)と、そのMOSトランジスタに伴う寄生バイポーラトランジスタの電流−電圧特性(Bip1_lrgW)を単純に組み合わせたような動作特性となっている。同様に、ゲート幅Wが小さい場合の電流Iin−電圧Vout特性(ESD1_smlW)も,そのMOSトランジスタの電流−電圧特性(MOS1_smlW)と、そのMOSトランジスタに伴う寄生バイポーラトランジスタの電流−電圧特性(Bip1_smlW)を単純に組み合わせたような動作特性となっている。
【0068】
また、図6(b)に示すように、ゲート幅Wが大きい場合の時系列的な電圧Vout特性(ESD2_lrgW)では、MOSトランジスタがサージ電流を逃がしている間は電圧Voutがある程度上昇するが、その後、寄生バイポーラトランジスタのオンによって急激にサージ電流を逃がす動作が行われると、電圧Voutの上昇が収まり、時間と共に電圧Voutが低下していく特性が表現されている。ゲート幅Wが小さい場合の時系列的な電圧Vout特性(ESD2_smlW)でも、同様な動作となるが、ゲート幅が小さいために、流せる電流が少なく、ゲート幅Wが大きい場合と比べてピーク電圧Voutが大きくなってしまう。このように、図10の等価回路を用いた場合は、ゲート幅Wの増加に伴いピーク電圧が低下するという単純な関係となる。
【0069】
しかしながら、実際には、MOSトランジスタと寄生バイポーラトランジスタの動作速度の差などに起因して、ゲート幅Wとピーク電圧の関係は、単純な関係とならない場合がある。すなわち、MOSトランジスタによって中途半端に電流を流し過ぎたために、寄生バイポーラトランジスタがオンとならないような事態が予想させる。
【0070】
そこで、このような現象を、前述した式(4)および式(9)で組み込まれた電荷の生成および再結合の経時変化を示す変数「C×ΔIDS/Δt」および「C×ΔISD/Δt」で表す。これによって、MOSトランジスタによる動作電流とインパクトイオン化による動作電流との関係に時間的な要素が盛り込まれ、寄生バイポーラトランジスタによる動作電流との時間差を表現することが可能となる。
【0071】
このように、時間的な要素を含めたモデル式を用いた場合、図7(a)に示すように、ゲート幅Wが大きい場合の電流Iin−電圧Vout特性(ESD3_lrgW)において、寄生バイポーラトランジスタの電流−電圧特性(Bip3_lrgW)が介さずに、MOSトランジスタの電流−電圧特性(MOS3_lrgW)のみでESD動作を終えてしまうような現象が再現される。一方、ゲート幅Wが小さい場合の電流Iin−電圧Vout特性(ESD3_smlW)では、寄生バイポーラトランジスタが正常に動作し、図6(a)と同様に、MOSトランジスタの電流−電圧特性(MOS3_smlW)と、寄生バイポーラトランジスタの電流−電圧特性(Bip3_smlW)を組み合わせたような動作特性となる。但し、この場合、MOSトランジスタと寄生バイポーラトランジスタの時間差が表現されているため、図6(a)と比較して判るように、ヒステリシス特性が再現されている。
【0072】
また、図7(a)の特性を時系列的な電圧Vout特性で見た場合でも、図7(b)に示すように、ゲート幅Wが大きい場合の時系列的な電圧Vout特性(ESD4_lrgW)の方が、ゲート幅Wが小さい場合の時系列的な電圧Vout特性(ESD4_smlW)よりも大きな電圧Voutを発生していることが判る。このように、式(4)および式(9)を用いることで、ゲート幅Wが小さい場合に比べて大きい場合の方が、大きな電圧(ESDピーク電圧)Voutを発生してしまい、ESD耐圧が低下してしまう現象を再現することができる。また、人体モデルによるESD動作時のヒステリシス特性を正確に再現することができる。
【0073】
図8は、図1および図10の等価回路を用いたGCNMOS回路に対し、そのゲート幅を可変として人体モデルの回路シミュレーションを行った場合の結果の一例を示す説明図である。なお、図8においては、図6(a),(b)および図7(a),(b)と同様に、図5(b)のGCNMOS回路のNMOSトランジスタMN51のゲート幅Wを可変とした場合の回路シミュレーション結果が示されている。
【0074】
図8に示すように、従来技術である図10の等価回路を用いた場合のESDピーク電圧−ゲート幅特性(ESD5_conv)では、ゲート幅Wの増加に伴い単純にESDピーク電圧が減少している。一方、本発明である図1の等価回路およびモデル式を用いた場合のESDピーク電圧−ゲート幅特性(ESD5_invt)では、ゲート幅Wの増加に伴いESDピーク電圧が増加してしまう領域が再現されている。このように、本発明を用いることで、正確な回路シミュレーションが可能となり、最適なゲート幅を回路シミュレーションによって容易に導き出すことが可能となる。
【0075】
ところで、これまでに述べたような回路シミュレーションは、例えば図9に示すような回路検証装置を用いて行われる。図9は、本発明の一実施の形態による半導体装置の検証方法において、それに使用する回路検証装置の一例を示すものであり、(a)は、コンピュータ等を含む全体の構成概略図、(b)は、そのコンピュータ等を用いた機能ブロック図である。
【0076】
図9(a)に示す回路検証装置は、例えば、CPU(Central Processing Unit)90a、RAM(Random Access Memory)90bおよびHDD(Hard Disk Drive)90c等を含むコンピュータ90と、コンピュータ90に命令等を入力するキーボード92と、コンピュータ90による処理結果を出力するディスプレイ93などを含み、これらが互いに通信ケーブル91で接続されている。
【0077】
そして、このような回路検証装置を用いて図9(b)に示すような機能を実現する。図9(b)では、例えば、回路記述データの格納部94aと、デバイスモデルの格納部94bと、モデル式データの格納部94cと、演算部95と、出力部96などが示されている。この内、各格納部94a〜94cは、HDD90c等によって実現され、演算部95は、プログラムに基づくCPU90aやRAM90bなどの処理によって実現され、出力部96は、ディスプレイ93やHDD90cなどによって実現される。
【0078】
回路記述データの格納部94aには、検証対象となる回路における各回路素子(トランジスタ、抵抗、キャパシタ、電源など)の接続状況などを示した所謂ネットリストのデータが格納される。デバイスモデルの格納部94bには、各回路素子の詳細データが格納される。すなわち、例えばMOSトランジスタにおいては、ゲート幅、ゲート長、しきい値電圧値、接合容量などが含まれる。モデル式データの格納部94cには、各回路素子の特性を示すモデル式などが格納される。すなわち、MOSトランジスタやバイポーラトランジスタ等の電流−電圧の式や、図1で述べた各モデル式などが含まれる。
【0079】
演算部95では、前述した各格納部94a〜94cのデータを用いて、キーボード92などで設定した条件に基づき、検証対象となる回路の電流−電圧特性や電圧−時間特性などの演算を行う。そして、出力部96は、この演算結果をディスプレイ93上に表示する処理や、HDD90c内に格納する処理などを行う。
【0080】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の半導体装置の検証方法は、MOSトランジスタからなるESD用のクランプ素子を含む半導体装置に対し、そのESD耐圧を回路シミュレーションによって検証する技術として広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施の形態による半導体装置の検証方法において、ESD保護素子を検証する際に用いる等価回路の一例を示す回路図である。
【図2】サージ電圧の変化に対する電流増倍係数内の変数の変化を、図1の等価回路を用いた場合と従来技術である図10の等価回路を用いた場合とで比較した説明図である。
【図3】図1の等価回路において、サージ電圧の変化に対する電流増倍係数の計算結果の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態による半導体装置の検証方法において、その検証対象であるESD保護回路を含んだ半導体装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図5】図4におけるESD保護回路の構成例を示す回路図であり、(a)はGGNMOSの回路図、(b)はGCNMOSの回路図を示すものである。
【図6】図10の等価回路を用いたGCNMOS回路に対し、人体モデルの回路シミュレーションを行った結果を示す説明図であり、(a)は電流−電圧特性の一例、(b)電圧−時間特性の一例を示すものである。
【図7】図1の等価回路を用いたGCNMOS回路に対し、人体モデルの回路シミュレーションを行った結果を示す説明図であり、(a)は電流−電圧特性の一例、(b)は電圧−時間特性の一例を示すものである。
【図8】図1および図10の等価回路を用いたGCNMOS回路に対し、そのゲート幅を可変として人体モデルの回路シミュレーションを行った場合の結果の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態による半導体装置の検証方法において、それに使用する回路検証装置の一例を示すものであり、(a)は、コンピュータ等を含む全体の構成概略図、(b)は、そのコンピュータ等を用いた機能ブロック図である。
【図10】本発明の前提として検討した従来技術の半導体装置の検証方法において、そのESD保護素子の等価回路を示す回路図である。
【図11】図10の等価回路において、サージ電圧の変化に対する電流増倍係数の計算結果の一例を示す説明図である。
【図12】回路シミュレーション上でデバイスに対してサージを発生する回路図とそのサージ波形の概略を示すものであり、(a)は人体モデルに基づく回路図およびサージ波形、(b)はマシンモデルに基づく回路図およびサージ波形、(c)はデバイス帯電モデルに基づく回路図およびサージ波形である。
【符号の説明】
【0083】
40a,40b ESD保護回路
41 被保護回路
50 CMOS回路
90 コンピュータ
90a CPU
90b RAM
90c HDD
91 通信ケーブル
92 キーボード
93 ディスプレイ
94a,94b,94c 格納部
95 演算部
96 出力部
G,D,S,B,B’ ノード
MN10,MN50,MN51,MN52,MN100 NMOSトランジスタ
MP52 PMOSトランジスタ
QN10,QN100 寄生バイポーラトランジスタ
Ifgen,Irgen,Igen 電流源
Rsub 基板抵抗
Vcc 電源端子
Vcc_L 電源ライン
Vss グラウンド端子
Vss_L グラウンドライン
I/O 信号端子
I/O_L 信号ライン
D1,D2 ダイオード
R1 抵抗
C1 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ノード、第2ノード、第3ノードおよび第4ノードを備えた絶縁ゲート型電界効果トランジスタ素子からなるESD保護素子を、等価回路およびモデル式によって表し、前記等価回路およびモデル式の特性をコンピュータによって演算することで前記ESD保護素子を含む半導体装置のESD耐圧を検証する半導体装置の検証方法であって、
前記等価回路は、
ソースおよびドレインの一方が前記第1ノードに接続され、他方が前記第2ノードに接続され、ゲートが前記第3ノードに接続された絶縁ゲート型電界効果トランジスタと、
エミッタおよびコレクタの一方が前記第1ノードに接続され、他方が前記第2ノードに接続された寄生バイポーラトランジスタと、
前記第1ノードまたは前記第2ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられた電流源と、
基板ノードに該当する前記第4ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられた基板抵抗とを含み、
前記電流源の電流は、電流増倍係数を含む第1のモデル式で定義され、
前記電流増倍係数は、前記第1ノードまたは前記第2ノードの電圧と前記絶縁ゲート型電界効果トランジスタの飽和電圧との差分で与えられる変数を含んだ第2のモデル式で定義され、
前記第2のモデル式は、前記第2のモデル式の前記変数の値が0よりも大きく前記第2のモデル式の特異点の値よりも小さい値を採るように変形されていることを特徴とする半導体装置の検証方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置の検証方法において、
前記第2のモデル式の特異点の値は、それぞれ正の値となるデバイス固有の係数KおよびKを用いて、K/ln(K)で与えられることを特徴とする半導体装置の検証方法。
【請求項3】
請求項1記載の半導体装置の検証方法において、
前記第2のモデル式は、
前記第2のモデル式の前記変数の値が0以下となる場合に、前記変数の値が正の微小値Δとなるように変更する処理と、
前記第2のモデル式の前記変数の値が前記第2のモデル式の特異点の値X以上となる場合に、前記変数の値がX−Δとなるように変更する処理とを含むことを特徴とする半導体装置の検証方法。
【請求項4】
第1ノード、第2ノード、第3ノードおよび第4ノードを備えた絶縁ゲート型電界効果トランジスタ素子からなるESD保護素子を、等価回路およびモデル式によって表し、前記等価回路およびモデル式の特性をコンピュータによって演算することで前記ESD保護素子を含む半導体装置のESD耐圧を検証する半導体装置の検証方法であって、
前記等価回路は、
ソースおよびドレインの一方が前記第1ノードに接続され、他方が前記第2ノードに接続され、ゲートが前記第3ノードに接続された絶縁ゲート型電界効果トランジスタと、
エミッタおよびコレクタの一方が前記第1ノードに接続され、他方が前記第2ノードに接続された寄生バイポーラトランジスタと、
前記第1ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられ、電流倍増係数を含むモデル式によって電流値が定義される第1の電流源と、
前記第2ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられ、電流倍増係数を含むモデル式によって電流値が定義される第2の電流源と、
基板ノードに該当する前記第4ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられた基板抵抗とを含むことを特徴とする半導体装置の検証方法。
【請求項5】
第1ノード、第2ノード、第3ノードおよび第4ノードを備えた絶縁ゲート型電界効果トランジスタ素子からなるESD保護素子を、等価回路およびモデル式によって表し、前記等価回路およびモデル式の特性をコンピュータによって演算することで前記ESD保護素子を含む半導体装置のESD耐圧を検証する半導体装置の検証方法であって、
前記等価回路は、
ソースおよびドレインの一方が前記第1ノードに接続され、他方が前記第2ノードに接続され、ゲートが前記第3ノードに接続された絶縁ゲート型電界効果トランジスタと、
エミッタおよびコレクタの一方が前記第1ノードに接続され、他方が前記第2ノードに接続された寄生バイポーラトランジスタと、
前記第1ノードまたは前記第2ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられ、モデル式によって電流値が定義される電流源と、
基板ノードに該当する前記第4ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられた基板抵抗とを含み、
前記電流源のモデル式は、電流増倍係数と第1の電流との積を含み、
前記第1の電流は、前記絶縁ゲート型電界効果トランジスタのソースとドレインの間の電流と、前記寄生バイポーラトランジスタのコレクタ電流またはエミッタ電流とを加算した電流に対して、更に電荷の生成および再結合に基づく電流を加算したものであることを特徴とする半導体装置の検証方法。
【請求項6】
請求項5記載の半導体装置の検証方法において、
前記電荷の生成および再結合に基づく電流は、微小時間Δtと、前記微小時間Δtの間に変化した前記絶縁ゲート型電界効果トランジスタのソースとドレインの間の電流量ΔIと、デバイス固有の係数Cとを用いて、−C×ΔI/Δtで与えられることを特徴とする半導体装置の検証方法。
【請求項7】
請求項1、4、5のいずれか1項に記載の半導体装置の検証方法において、
前記ESD保護素子を含んだGCNMOS回路を構成し、
前記ESD保護素子に前記等価回路を用いて前記GCNMOS回路を含む半導体装置のESD耐圧を検証することを特徴とする半導体装置の検証方法。
【請求項8】
複数の回路素子で表現されたESD保護素子の等価回路に対し、前記複数の回路素子の接続関係を示す回路記述データと、前記複数の回路素子のそれぞれの電気的特性を示すモデル式のデータとを記憶する手段と、
前記回路記述データと前記モデル式のデータを用いて前記ESD保護素子の等価回路の電気的特性を演算する手段とを有する回路検証装置であって、
前記ESD保護素子の等価回路は、
第1ノード、第2ノード、第3ノードおよび第4ノードを備え、
ソースおよびドレインの一方が前記第1ノードに接続され、他方が前記第2ノードに接続され、ゲートが前記第3ノードに接続された絶縁ゲート型電界効果トランジスタと、
エミッタおよびコレクタの一方が前記第1ノードに接続され、他方が前記第2ノードに接続された寄生バイポーラトランジスタと、
前記第1ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられた第1の電流源と、
前記第2ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられた第2の電流源と、
基板ノードに該当する前記第4ノードと前記寄生バイポーラトランジスタのベースとの間に設けられた基板抵抗とを含み、
前記第1の電流源の電流は、第1の電流増倍係数を含む第1のモデル式で定義され、
前記第2の電流源の電流は、第2の電流増倍係数を含む第2のモデル式で定義され、
前記第1の電流増倍係数は、前記第1ノードの電圧と前記絶縁ゲート型電界効果トランジスタの飽和電圧との差分で与えられる変数を含んだ第3のモデル式で定義され、
前記第2の電流増倍係数は、前記第2ノードの電圧と前記絶縁ゲート型電界効果トランジスタの飽和電圧との差分で与えられる変数を含んだ第4のモデル式で定義され、
前記第3のモデル式は、前記第3のモデル式の前記変数の値が0よりも大きく前記第3のモデル式の特異点の値よりも小さい値を採るように変形され、
前記第4のモデル式は、前記第4のモデル式の前記変数の値が0よりも大きく前記第4のモデル式の特異点の値よりも小さい値を採るように変形されていることを特徴とする回路検証装置。
【請求項9】
請求項8記載の回路検証装置において、
前記第1のモデル式と前記第2のモデル式のそれぞれには、更に、電荷の生成および再結合に基づく電流を示す変数が含まれることを特徴とする回路検証装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−237343(P2006−237343A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50858(P2005−50858)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】