説明

半導体装置の製造方法

【課題】連続方式のめっき層形成工程において、トラブル等によって搬送手段が停止した場合であっても、所定の合金組成の範囲内でめっき層を形成する。
【解決手段】リードフレーム11に搭載された半導体素子を封止する封止体1から導出されるリード部にめっき装置30を用いて錫系鉛フリー半田層をめっき形成する工程を備える半導体装置の製造方法で、めっき装置30は、複数の半導体チップが搭載されたリードフレーム11を保持しつつ、めっき処理部を所定の速度で、所定の方向に移動させる無端ベルト(リードフレーム搬送手段)36と、リードフレーム11の搬送中に、めっき処理部内に配置されためっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)に第1電流量を通電させる電源42とを備え、電源42は、無端ベルト36が停止している間は第1電流量よりも低い第2電流量をめっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)に通電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造技術に関し、特に、半導体素子が封止された封止体から導出されるリード部の表面にめっき層を形成する半導体装置に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置として、半導体素子が封止体に封止され、この封止体から半導体素子に電気的に接続されたリード部が導出されるタイプの半導体装置がある。
【0003】
このような半導体装置のリード部には、リード部の母材の酸化を防止するため、外装めっきと呼ばれるめっき層が形成される。また、このような半導体装置は、例えばPCB(Printed Circuit Board)と呼ばれる実装基板に半田実装される。このため、リード部に形成されるめっき層の材料には、一般に半田が用いられる。
【0004】
半導体装置のリード部に、半田のめっき層を形成する方法は種々提案されているが、大別すると、バッチ方式(ラック式と呼ばれる)のめっき層形成方法と、連続方式(ベルト式と呼ばれる)のめっき層形成方法とがある。
【0005】
バッチ方式のめっき層形成方法は、リードフレーム支持部が形成された網状のラックに多数のリードフレームを支持させ、このラックをめっき処理槽に浸漬してめっき層を形成する方法である。
【0006】
一方、連続方式のめっき層形成方法は、例えば、無端ベルトなどの搬送手段にリードフレームを吊り下げて、リードフレームを吊り下げた無端ベルトが所定の時間を掛けてめっき処理部を通過することによりめっき層を形成する方法である。
【0007】
例えば、特開平6−240496号公報(特許文献1)には、リードフレームを無端ベルトに吊持させてリード部にめっき処理を行うめっき装置が開示されている。
【特許文献1】特開平6−240496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した連続方式のめっき層形成方法は、前記したバッチ方式のめっき層形成方法と比較して、めっき層の厚さ、あるいはめっき層の合金の組成を容易に制御することができるので、めっき層の品質を向上させることができる。また、電界めっきを行う際に、高密度電流を加えることができるので、リードフレームの搬送速度を向上させて製造効率を向上させることが可能となる。
【0009】
ところで、半導体装置をPCBなどの実装基板に接続する接合材料として用いられる半田には、Sn(錫)−Pb(鉛)の合金が一般に用いられていたが、近年、人体や地球環境への悪影響を排除するため、半田のPbフリー化が進められている。
【0010】
このため、半導体装置のリード部に形成する半田めっき層に用いる半田もPbフリー化が要求される。本発明者は半導体装置のリード部に形成するPbフリーのめっき層を形成する技術について検討を行い、以下の課題を見出した。
【0011】
Pbフリー半田めっきとして、Bi(ビスマス)、Cu(銅)、Ag(銀)などの金属をSnとの合金化金属として共析させる錫系合金めっきがある。
【0012】
ところが、Pbフリー半田のめっき層を前記した連続方式で形成する場合、以下の問題がある。
【0013】
すなわち、無端ベルトなどの搬送手段がトラブル等により一旦停止すると、リードフレームに形成されるめっき層の厚さが所定の厚さよりも厚くなってしまう問題である。めっき層としてSn−Pbの合金半田を形成する場合、搬送手段の停止を検出して、めっき処理部の電極間に流れる電流供給を停止すれば、めっき層の厚さが厚くなる現象を防止することができた。
【0014】
しかし、めっき層として錫系合金のPbフリー半田を形成する場合、Bi、Cu、AgなどはSnと比較して標準電位が高い貴な金属であるため、めっき処理部の電極間に流れる電流供給を停止すると、Bi、Cu、Agなどの金属がリードフレームに置換析出してめっき層の間に置換析出層が形成される。
【0015】
置換析出層は、所定の合金組成の範囲内で形成されためっき層と比較して脆い。このため、リードフレームを個別の半導体装置に切断し、リード部を所望の形状に成形する際にクラックが発生し易い。
【0016】
また、置換析出層が形成されると、めっき層の密着性が低下するため、リードフレームを個別の半導体装置に切断し、リード部を所望の形状に成形する際、あるいは実装基板に接続した後に剥離する可能性がある。
【0017】
置換析出層は、所定の合金組成の範囲内で形成されためっき層と比較して脆く、密着性が低いため、半導体装置を実装基板に実装した後の接続強度が低下する。
【0018】
このような問題が発生することから、リードフレームに置換析出層が形成された半導体装置は、不良品として廃棄処分されるか、あるいは、置換析出層を含むめっき層を一旦剥離して再生処理する必要があり、半導体装置の製造効率が著しく低下する。
【0019】
置換析出層の生成は、搬送手段の停止に起因して発生するため、搬送手段の停止頻度を少なくすれば、ある程度製造効率を向上させることはできる。しかし、搬送手段の停止トラブルを完全に排除することは困難であり、置換析出層は、例えば数十秒程度の僅かな停止時間で生成されてしまう。このため、製造効率を向上させるためには、搬送手段がトラブル等により数十秒程度停止した場合であっても、所定の合金組成の範囲内でめっき層を形成することができる技術開発が必要となる。
【0020】
本願に開示された一つの代表的な発明の目的は、連続方式のめっき層形成工程において、トラブル等によって搬送手段が停止した場合であっても、所定の合金組成の範囲内でめっき層を形成することができる技術を提供することにある。
【0021】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0023】
すなわち、リードフレームが備えるリード部に半導体素子を電気的に接続する工程と、前記半導体素子を封止体により封止する工程と、前記封止体から導出される前記リード部にめっき装置を用いて錫系鉛フリー半田層をめっき形成する工程とを備える半導体装置の製造方法であって、
前記めっき装置は、複数の前記半導体素子が搭載された前記リードフレームを保持しつつ、めっき処理部を所定の速度で、所定の方向に移動させるリードフレーム搬送手段と、前記リードフレームの搬送中に、めっき電極間に単位時間当りの電流量である第1電流量を通電させる電源とを備え、
前記電源は、前記リードフレーム搬送手段が停止している間は前記第1電力量よりも低い単位時間当りの電流量である第2電流を前記めっき電極間に供給するものである。
【発明の効果】
【0024】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0025】
すなわち、トラブル等によって搬送手段が停止した場合であっても、所定の合金組成の範囲内でめっき層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0027】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0028】
本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
(実施の形態1)
<半導体装置の構造>
まず、図1および図2を用いて本実施の形態1の半導体装置の構造について説明する。
【0030】
図1は本実施の形態1の半導体装置の外観を示す平面図、図2は図1に示す半導体装置のリード部周辺の構造を示す要部拡大断面図である。
【0031】
図1において、本実施の形態1の半導体装置10は半導体チップが例えばレジンなどの封止体1により封止された構造となっている。また、封止体1からは、半導体装置10の外部接続端子となる複数のリード部2が導出されている。
【0032】
リード部2は導電性材料で構成されており、例えば42アロイなどの合金やCu(銅)などを用いることができる。
【0033】
なお、本実施の形態1では、図1に示すように半導体装置の側面から、各7本ずつのリード部2が導出された構造について示しているが、リード部2が導出される位置や、リード部2の本数はこれに限定される訳ではない。リード部2が導出される位置や、リード部2の本数は半導体装置10に要求される機能に応じて適宜選択することができる。
【0034】
次に、図2において、本実施の形態1の半導体装置10は半導体チップ(半導体素子)3を備えている。半導体チップ3はダイパッド部4に樹脂、あるいは樹脂に導電性材料を混合した導電性樹脂などの接着材5を介して固着されている。
【0035】
また、半導体チップ3の主面には、半導体チップ3の外部接続端子6が形成されている。外部接続端子6の材料としては、例えば、アルミニウムや、Auなどの材料を例示することができる。
【0036】
また、リード部2の封止体1に封止された領域には、例えばAg(銀)などの金属材料で形成された銀めっき7が形成されている。半導体チップ3の外部接続端子6は、この銀めっき7に、例えばAuなどの金属細線であるワイヤ8を介して電気的に接続されている。すなわち、半導体チップ3はリード部2にワイヤ8を介して電気的に接続されている。
【0037】
なお、リード部2に42アロイやCuなどを用いる場合、ワイヤ8とリード部2との接触抵抗を小さくするために、図2に示すような銀めっき7を形成するが、銀めっき7は必ずしも形成しなくても良い。
【0038】
例えば、リード部2として、Cuの表面にNi(ニッケル)/Pd(パラジウム)/Auなどの金属層がめっき形成された材料を用いる場合、改めて銀めっき7を形成する必要はなく、ワイヤ8を直接リード部2に接触させても良い。
【0039】
また、リード部2の封止体1から露出した領域には、半田めっき層(錫系鉛フリー半田層)9が形成されている。半田めっき層9はリード部2の封止体1から露出した領域のうち、端部の切断面を除いて全面を被覆するように形成されている。リード部2の酸化を防止するとともに、半導体装置10を実装基板に実装する際の接続強度を向上させるためである。
【0040】
この半田めっき層9は、例えば、Bi(ビスマス)、Cu(銅)、Ag(銀)などの金属をSnとの合金化金属として共析させたPb(鉛)フリー半田めっきである。
【0041】
<めっき工程に供される中間品の構造>
次に、めっき工程に供される半導体装置の中間品の構造について、図3および図4を用いて説明する。図3は本実施の形態1のリードフレームの要部を示す要部平面図、図4は図3に示すリードフレームに半導体チップが実装され、半導体チップが封止された状態を示す平面図である。
【0042】
図3において、本実施の形態1の半導体装置の製造に用いられるリードフレーム11は、複数(図3では3個)のダイパッド部4を備えている。ダイパッド部4は図2に示す半導体チップ3の搭載領域となっている。
【0043】
また、各ダイパッド部4の周囲には、所定の本数(図3ではダイパッド部4の各辺に沿って7本ずつ)のリード部2が配置されている。各リード部2は、ダムバー12によって接続され、一体構造となっている。
【0044】
また、ダイパッド部4の各角部からは、ダイパッド部4を指示する吊りリード13がダイパッド部4の対角線の方向に延在するように配置されており、ダイパッド部4は吊りリード13とフレーム14により一体構造となっている。
【0045】
本実施の形態1の半導体装置10の製造方法では、まず、図3に示すリードフレーム11の各ダイパッド部4に図2に示すように半導体チップ3を固着させる。次に、半導体チップ3とダイパッド部4の周囲に配置された各リード部2とをワイヤ8によって電気的に接続する。次に、樹脂封止を行って半導体チップ3を封止体1により封止する。
【0046】
半導体チップ3を封止体1により封止する工程が完了すると、図4に示すように、複数の半導体チップ3(図2参照)がそれぞれ封止体1に封止された半導体パッケージが複数連結された構造の中間品が得られる。
【0047】
この中間品は、後で説明するめっき処理工程でリードフレーム11の表面に図2に示す半田めっき層9が形成された後、個別の半導体装置に切断される。この切断工程では、図3に示すダムバー12、吊りリード13の一部、およびリード部2は切断される。また、切断時に、リード部2は例えば図2に示すような所定の形状に成形加工され、図1および図2に示すような半導体装置10が得られる。
【0048】
なお、本実施の形態1では、中間品の構造例として、3個の半導体パッケージが連結された構造の中間品について説明したが、半導体パッケージの数はこれに限定されないことは言うまでもない。このような中間品には、半導体装置の平面寸法に応じて数個〜数百個が連結された構造のものがあり、このいずれの中間品にも本実施の形態1の製造方法を適用することができる。
【0049】
<めっき装置の構造>
次に、前記中間品のリードフレーム11にめっき層を形成するためのめっき装置の構造について説明する。図5は本実施の形態1のめっき装置の全体構造の概要を示す平面図、図6は図5に示すめっき処理部内の状態を示す要部断面図である。
【0050】
図5において、本実施の形態1のめっき装置30は、前処理部31、めっき処理部32、および後処理部33を備えている。また、めっき装置30は前処理部31の先頭にローダ34、後処理部33の最後にアンローダ35を備えている。
【0051】
また、めっき装置30は、前処理部31、めっき処理部32、および後処理部33の順に図4に示した中間品を保持した状態で搬送するリードフレーム搬送手段を備えている。このリードフレーム搬送手段には、例えば、図5に示すように前処理部31、めっき処理部32、および後処理部33の各領域を周回する無端ベルト(リードフレーム搬送手段)36を用いることができる。
【0052】
図4に示した中間品は図5に示すめっき装置30のローダ34の所まで運搬され、無端ベルト36に保持される。保持の方法は、例えば図6に示すように、無端ベルト36に取り付けられたクリップなどの保持治具37でリードフレーム11の一部を挟み込んで狭持させる。
【0053】
無端ベルト36に保持されたリードフレーム11(図6参照)には、図5に示す前処理部31で前処理が施される。この前処理工程には、例えば、封止体1(図4参照)のバリ取りやリードフレーム11の脱脂処理などが含まれる。
【0054】
前処理工程を終えたリードフレーム11(図6参照)は、無端ベルト36に保持された状態で、図5に示すめっき処理部32に搬送される。めっき処理工程では、リードフレーム11の表面に、図2で説明した半田めっき層9が形成される。このめっき処理工程については後で詳細に説明する。
【0055】
次に、表面に半田めっき層9(図2参照)が形成されたリードフレーム11(図6参照)は、図5に示す後処理部33に搬送され、後処理が施される。この後処理工程には、中和洗浄や、湯洗浄、乾燥などの工程が含まれる。
【0056】
後処理工程が終了した後、リードフレーム11(図6参照)は、アンローダ35の所で無端ベルト36から引き離され、次の工程に運搬される。
【0057】
<めっき処理工程>
次に図5〜図8を用いて、本実施の形態1の半導体装置の製造方法におけるめっき処理工程について説明する。図7は図3に示すリードフレームの表面に半田めっき層が形成された状態を示す拡大断面図、図8は本実施の形態1の比較例であるリードフレームに半田めっき層が形成された状態を示す拡大断面図である。
【0058】
図6において、本実施の形態1のめっき装置30が備えるめっき処理部32(図5参照)はめっき槽40を備えている。また、めっき装置30はめっき槽40の両側壁の内面に沿ってそれぞれ陽極(めっき電極)41が配置されている。
【0059】
陽極41は図5に示すように無端ベルト36の進行方向に沿って延在するように配置しても良いし、無端ベルト36の進行方向に沿って複数の陽極41を並べて配置しても良い。陽極41は例えばSnで構成されている。また、陽極41は例えば直流電源である電源42の+電極43に電気的に接続されている。
【0060】
また、リードフレーム11を保持する無端ベルト36および保持治具37は、例えば、ステンレスなどの導電性材料からなり、電源42の−電極44に電気的に接続されている。すなわち、無端ベルト36は、めっき装置30の陰極(めっき電極)としての機能も備えている。また、無端ベルト36および保持治具37は、リードフレーム11の一部に接触して保持しているので、リードフレーム11には、陰極としての無端ベルト36を介して、−電極44から供給される電位が伝達される。
【0061】
また、めっき槽40には、めっき液45が充填されている。このめっき液45はSn2+、あるいはBi3+などの金属塩の他、有効成分としての添加剤や有機酸が含まれている。なお、本実施の形態1では、Pbフリー半田めっきの例としてSn−Biの合金化金属めっきについて説明するが、BiをCuやAgなどの金属に置き換えることができることは言うまでもない。
【0062】
ここで、図6に示す電源42の+電極43および−電極44の各電極間に、所定の電圧(第1電圧)をかけると、めっき槽40内の各陽極41と、リードフレーム11とにはそれぞれ所定の電位が供給される。陽極41およびリードフレーム11に所定の電位が供給されると、両めっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)には所定の電流量(単位時間当りに流れる電流量、第1電流量)で通電される。
【0063】
このため、めっき液45中のSn2+、およびBi3+が所定の割合でリードフレーム11の表面に析出する。この状態で、所定時間(例えば100秒)が経過すると図7に示すような、Sn−Biの半田めっき層9が形成される。
【0064】
ところで、めっき装置30の無端ベルト36は、通常運転時は所定の速度で移動しているが、めっき装置30内での軽度なトラブルにより、数秒〜数十秒程度停止することがある。この停止時間中に電源42に前記第1電圧をかけ続けると、図7に示す半田めっき層9の厚さが厚くなりすぎるという問題がある。
【0065】
しかし、半田めっき層9が厚くなり過ぎる問題を解消するために、電源42からの電圧供給を完全にとめ、めっき電極間に電流を通電させないと別の問題が発生する。すなわち、図8に示すように既に形成されたSn−Biの合金である半田めっき層9中のSnの一部が溶解し、代わりにめっき液45中の貴な金属塩であるBi3+がBiとして置換析出する。このため、仮に前記した軽度のトラブルが解消した後、めっき処理を継続したとしても、図8に示すように半田めっき層9の間に置換析出層46が形成された状態となる。
【0066】
図8に示すように半田めっき層9の間に置換析出層46が形成されると、置換析出層46は、所定の合金組成の範囲内で形成された半田めっき層9と比較して脆く、密着性が低いため、図2に示す半導体装置10のリード部2を成形する際にクラックなどの不良を発生しやすい。また、半導体装置10を実装基板に実装する際の接続強度が低下する。
【0067】
このPbフリー半田めっきにおいて、図8に示す置換析出層46が形成される現象は、Pbフリー半田に用いる金属イオンと錫イオン(Sn2+)との標準電位の差が大きいことに起因する。例えばSn2+の標準電位は、−136mVであるのに対して、Pb2+の標準電位は−125mVと比較的近い値であるが、Bi3+の標準電位は317mVと非常に高い。また、Cu2+、Agの標準電位もそれぞれ340mV、799mVと非常に高い。したがってこの現象はPbフリー半田特有の問題である。
【0068】
そこで、本実施の形態1では、めっき装置30の無端ベルト36が、めっき装置30内でのトラブルにより停止した場合に、電源42から通常運転時の電圧である第1電圧よりも低い第2電圧を供給することとした。
【0069】
第2電圧を第1電圧よりも低くすることにより、停止時にめっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)に流れる単位時間当りの電流量(第2電流量)を、通常運転時の第1電流量よりも低減することができる。
【0070】
第2電流量を第1電流量よりも低くすると、無端ベルト36の停止時間中の半田めっき層9の形成速度が遅くなる。つまり、停止時間を含めためっき処理工程中にめっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)に流れる積算の電流量を低減することができるので、半田めっき層9の厚さが過剰に厚くなる現象を抑制することができる。
【0071】
また、無端ベルト36の停止時にめっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)に電流を通電させることにより、図8に示すような置換析出層46の形成を抑制することができる。すなわち、トラブル等によって無端ベルト36が停止した場合であっても、所定の合金組成の範囲内で半田めっき層9を形成することができる。
【0072】
また、本実施の形態1によれば、置換析出層46の形成を抑制し、半田めっき層9の厚さが過剰に厚くなる現象を抑制することができるので、トラブル発生時に図5に示すめっき処理部32に供されていた製造工程中の中間品について、剥離再生処理、あるいは、廃棄処理を行うことなく救済することができるので、製造効率を向上させることが可能となる。
【0073】
また、本発明者は第1電流量と第2電流量との割合について検討した。第2電流量を例えば第1電流量の90%以上など高い値に設定すると、無端ベルト36の停止時間によっては、半田めっき層9の厚さが過剰に厚くなる可能性がある。また、第2電流量を例えば第1電流量の10%以下など低い値に設定すると、所定の合金組成の範囲内で半田めっき層9を形成できない可能性がある。
【0074】
本発明者が検討した結果によれば、第2電流量を第1電流量の60%以下とすれば、60秒以下の停止時間において、半田めっき層9の厚さを所定の範囲内に収めることができる。また、第2電流量を第1電流量の20%以上とすれば、半田めっき層9の合金組成を所定の範囲内に収めることが可能となる。すなわち、第2電流量は第1電流量の20%以上60%以下の範囲に収めることが好ましい。
【0075】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、無端ベルト36が停止した場合に、通常運転時の第1電流量よりも低い第2電流量をめっき電極間に通電させる方法として、無端ベルト36の停止時に、電源42から通常運転時の第1電圧よりも低い第2電圧を供給する方法について説明した。本実施の形態2では、停止時の第2電流量を抑える他の方法について説明する。
【0076】
なお、本実施の形態2の半導体装置の製造方法において、半導体装置の構造やめっき装置の構造は前記実施の形態1で説明した半導体装置の製造方法と同様である。したがって、本実施の形態2では、必要に応じて既に説明した図1〜図8を参照して説明する。
【0077】
本実施の形態2の半導体装置の製造方法と、前記実施の形態1で説明した半導体装置の製造方法との相違点は、図6に示す電源42によってめっき電極間に通電される電流がパルス電流である点である。
【0078】
本実施の形態2では、図6に示す無端ベルト36がトラブル等により停止した場合に、パルス電圧を供給する。ここで、パルス電流とは、周期的に通電状態をON−OFF制御し、両めっき電極(陽極41と無端ベルト36)間に周期的に通電される電流である。
【0079】
このようなパルス電流は、めっき処理工程においてめっき髭と呼ばれるめっき層の異常成長を防止するために用いられる場合がある。例えば、1秒間の内、ON時間(通電時間)を0.9秒、OFF時間(非通電時間)を0.1秒程度としてこれを周期的に繰り返す方法がある。
【0080】
前記実施の形態1で説明したように、図8に示す置換析出層46はPbフリー半田に用いる金属イオンと錫イオン(Sn2+)との標準電位の差が大きいことに起因して形成される。しかし、パルス電流のように1秒間の内にON−OFFが繰り返されるような通電状態で電流を流す場合は、置換析出層46は形成され難い。
【0081】
本実施の形態2では、無端ベルト36の停止中にめっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)に流れる電流の積算量を低減する方法として、このパルス電流のON時間の割合が通常運転時より停止時の方が小さくなるようにした。
【0082】
具体的には、例えば、通常運転時のON時間とOFF時間の割合が9:1であったが、停止時にはその割合を5:5とした。
【0083】
パルス電流のON時間を短くすることにより、無端ベルト36が停止している間にめっき電極(陽極41と無端ベルト36)間に通電される第2電流量を通常運転時に通電される第1電流量よりも小さくすることができる。したがって、停止時間中の半田めっき層9の形成速度を遅くすることができるので、半田めっき層9の厚さが過剰に厚くなる現象を抑制することができる。
【0084】
<第1の変形例>
本実施の形態2では、置換析出層46の形成を抑制する方法として、無端ベルト36の停止時に、パルス電流のON時間を短くする方法について説明した。このパルス電流を通電させるために電源42から供給する電圧の値は、無端ベルト36の通常運転時の第1電圧と停止時の第2電圧とが同じ値としてもよいが、前記実施の形態1で説明したように無端ベルト36の停止時に供給する第2電圧の値を通常運転時の第1電圧よりも低い値としても良い。
【0085】
電圧値を第1電圧よりも低い第2電圧とすることにより、無端ベルト36の停止中にめっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)に流れる電流の積算量を更に低減することができる。このため、例えば120秒程度の停止時間があったとしても、置換析出層46の形成を抑制し、半田めっき層9の厚さを所定の範囲内に収めることができる。
【0086】
<第2の変形例>
本実施の形態2では、通常運転時および停止時にいずれもパルス電流を通電させる場合について説明した。しかし、通常運転時には例えば前記実施の形態1で説明した定常的に通電される電流を流しても良い。この場合、無端ベルト36の停止中にめっき電極間(陽極41と無端ベルト36の間)に流れる電流をパルス電流とすることにより、停止中に流れる電流の積算量を低減することができることは言うまでもない。
【0087】
以上、本発明者によってなされた発明を発明に実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記発明の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0088】
例えば、図1に示す半導体装置10において、リード部2が封止体1から導出される方向は、図1に示すような4方向に限らず、対向する2方向に導出されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、半導体装置、特にリードフレームを用いて組立てられる半導体装置の製造技術に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施の形態である半導体装置の外観を示す平面図である。
【図2】図1に示す半導体装置のリード部周辺の構造を示す要部拡大断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態であるリードフレームの要部を示す要部平面図である。
【図4】図3に示すリードフレームに半導体チップが実装され、半導体チップが封止された状態を示す平面図である。
【図5】本発明の一実施の形態であるめっき装置の全体構造の概要を示す平面図である。
【図6】図5に示すめっき処理部内の状態を示す要部断面図である。
【図7】図3に示すリードフレームの表面に半田めっき層が形成された状態を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の比較例であるリードフレームに半田めっき層が形成された状態を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 封止体
2 リード部
3 半導体チップ(半導体素子)
4 ダイパッド部
5 接着材
6 外部接続端子
7 銀めっき
8 ワイヤ
9 半田めっき層(錫系鉛フリー半田層)
10 半導体装置
11 リードフレーム
12 ダムバー
13 吊りリード
14 フレーム
30 めっき装置
31 前処理部
32 めっき処理部
33 後処理部
34 ローダ
35 アンローダ
36 無端ベルト(リードフレーム搬送手段、めっき電極)
37 保持治具
40 めっき槽
41 陽極(めっき電極)
42 電源
43 +電極
44 −電極
45 めっき液
46 置換析出層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リードフレームが備えるリード部に半導体素子を電気的に接続する工程と、
前記半導体素子を封止体により封止する工程と、
前記封止体から導出される前記リード部にめっき装置を用いて錫系鉛フリー半田層をめっき形成する工程とを備え、
前記めっき装置は、
複数の前記半導体素子が搭載された前記リードフレームを保持しつつ、めっき処理部を所定の速度で、所定の方向に移動させるリードフレーム搬送手段と、
前記リードフレームの搬送中に、めっき電極間に単位時間当りの電流量である第1電流量を通電させる電源とを備え、
前記電源は、前記リードフレーム搬送手段が停止している間は前記第1電流量よりも低い単位時間当りの電流量である第2電流量を前記めっき電極間に通電させることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、前記第2電流量は前記第1電流量の20%〜60%の範囲であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
前記電源は、
前記リードフレームの搬送中には、前記めっき電極間に第1電圧を供給し、
前記リードフレーム搬送手段が停止している間は、前記第1電圧よりも低い第2電圧を前記めっき電極間に供給することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
前記めっき電極間に通電される電流はパルス電流であり、
前記第2電流量を通電させる場合の前記パルス電流の単位時間当りのON時間の割合は、前記第1電流量を通電させる場合の前記パルス電流の単位時間当りのON時間の割合よりも短いことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置の製造方法において、
前記電源は、
前記リードフレームの搬送中には、前記めっき電極間に第1電圧を供給し、
前記リードフレーム搬送手段が停止している間は、前記第1電圧よりも低い第2電圧を前記めっき電極間に供給することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−84669(P2009−84669A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259531(P2007−259531)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】