説明

半導体装置のCu配線およびその製造方法

【課題】配線溝や層間接続路表面に形成されたTaNからなるバリア層との密着性が良好なCu配線と、このCu配線を製造できる方法を提供する。また、半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝や層間接続路の幅が狭く、深い場合でも、バリア層との密着性が良好で、配線溝や層間接続路の隅々に亘って埋め込まれているCu配線と、このCu配線を製造できる方法を提供する。
【解決手段】半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路に埋め込まれたCu配線を、(1)配線溝側または層間接続路側に形成されたTaNからなるバリア層と、(2)Pt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCuからなる配線本体部とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関するものであり、より詳細には、例えばULSI(Ultra Large Scale Integrated−Circuit;超大規模集積回路)等に代表されるSi半導体デバイス等の半導体装置におけるCu配線と該Cu配線を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(大規模集積回路)の高集積化や高速信号伝播の要求を満たすため設計基準(デザインルール)は一層厳しくなっており、配線ピッチや配線幅、配線間距離、配線同士を接続する層間接続路(ビア)などの縮小化が行なわれている。
【0003】
また、半導体装置の高集積化に対応するため、配線を多層構造にすることが検討されており、配線溝(トレンチ)の幅に対する配線溝の深さの比(配線溝の深さ/幅)や、上層の配線と下層の配線同士を接続する層間接続路の幅に対する深さの比(層間接続路の深さ/幅)は益々大きくなっている。
【0004】
更には、配線回路の微細化や高集積化に伴い配線自体の抵抗が増加しつつあり、信号伝達の遅延をひきおこしている。そこで従来のAlをベースにした配線材料(以下、Al系配線材料ということがある)よりも電気抵抗を低減できる配線材料として、Cuをベースにした配線材料(以下、Cu系配線材料ということがある)を使用し、Cu配線を形成することが試みられている。
【0005】
多層構造のCu配線を形成する方法として、ダマシン配線技術が知られている。この技術は、半導体基板上に設けられた絶縁膜に、配線溝や層間接続路を形成し、これらの開口部を純CuやCu合金等のCu系配線材料で覆った後、加熱加圧することでCu系配線材料を流動させて配線溝や層間接続路内にCu系配線材料を埋め込むことによってCu配線を形成する方法である。なお、配線溝や層間接続路内に埋め込まれていない余分なCu系配線材料は、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polish;CMP)して除去される。
【0006】
ところでCu配線の本体部を絶縁膜に直接接触させると、Cuが絶縁膜へ拡散し、絶縁膜の絶縁性を劣化させる。そこでCuの絶縁膜への拡散を防止するために、配線本体部と絶縁膜の間にバリア層を設ける必要がある。ところが配線溝や層間接続路の開口部を覆うように形成されたCu系配線材料を、配線溝や層間接続路内に埋め込むには、一般に500〜700℃程度の高温に加熱するため、バリア層には、こうした高温状態でバリア性を発揮することが要求される。そのためバリア層としては、TaN膜やTiN膜などの金属窒化膜が用いられている。特にTaN膜は、TiN膜と比べて一段と高温でもバリア性を発揮するため、広く用いられている。
【0007】
しかし金属窒化膜などのセラミックス製バリア層の表面に、Cu配線の本体部を直に形成すると、バリア層とCu配線の界面がCu原子の主要な拡散経路となってCuが拡散し、バリア層とCu配線の界面にボイドや亀裂が生じたり、或いはCu配線自体が断線したり、配線の移動・変形が生じることがある。こうした問題は、エレクトロマイグレーション(Electro Migration;EM)やストレスマイグレーション(Stress Migration;SM)と呼ばれている。エレクトロマイグレーションとは、電流が流れている際に、電子の流れと電界の効果によって配線材料を構成している原子が移動する現象を指し、ストレスマイグレーションとは、電流が流れていない状態でも熱
活性や引張応力によって粒界にボイドや断線が生じる現象を指す。
【0008】
しかもバリア層とCuの密着性は悪く、Cu配線がバリア層から剥離してバリア層とCu配線の界面にボイド等が発生すると、Cu配線の信頼性が低下する。そのためバリア層とCu系配線の密着性を高める必要がある。
【0009】
バリア層とCuの密着性が悪いことは、例えば特許文献1に記載されている。この特許文献1には、バリア層とCu配線の密着性が悪いと、バリア層とCu配線との間で剥離が生じやすいことが記載されており、剥離が生じると、半導体装置の動作時の熱ストレスにより配線に断線等の不具合が発生し、半導体装置の信頼性が著しく低下することが指摘されている。そこでこの特許文献1では、半導体装置の信頼性を高めるために、バリア層を設けずに、Cu配線と絶縁膜の間に、高融点金属とCuを主成分する導電層を設けることが記載されており、導電層としては、TiとCuとの金属間化合物からなる金属膜が例示されている。また、特許文献1には、導電層と絶縁膜との間に、バリア層を設けてもよいことが記載されている。しかし本発明者らが特許文献1に記載されているCu配線の密着性について検討したところ、バリア層と配線との密着性は充分ではなく、改善の余地があることが分かった。
【0010】
また、上述したように、近年では、配線溝や層間接続路の幅は益々小さく、また配線溝や層間接続路の深さ/幅比は益々大きくなっているため、Cu系配線材料を配線溝や層間接続路内に確実に埋め込むことは一層難しくなっている。
【特許文献1】特開平10−223635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、配線溝や層間接続路表面に形成されたTaNからなるバリア層との密着性が良好なCu配線と、このCu配線を製造できる方法を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝や層間接続路の幅が狭く、深い場合でも、バリア層との密着性が良好で、配線溝や層間接続路の隅々に亘って埋め込まれているCu配線と、このCu配線を製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、TaNからなるバリア層とCu配線の密着性を高めるために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、(1)Cu配線の配線本体部に特定の元素を特定量含有させるか、(2)Cu配線の配線本体部を純Cuとし、この純Cuからなる配線本体部とバリア層の間に、特定の元素を特定量含有した中間層を介在させれば、配線本体部とバリア層の密着性を高めることができること、(3)また配線溝や層間接続路の幅が狭く、深い場合であって、配線溝や層間接続路を覆うようにCu系配線材料が形成されたときは、加熱処理するか、必要に応じて更に加圧すれば、配線溝や層間接続路の隅々に亘って埋め込むことができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、上記課題を解決することができた本発明に係る半導体装置のCu配線とは、半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路に埋め込まれたCu配線であって、前記Cu配線は、配線溝側または層間接続路側に形成されたTaNからなるバリア層と、Pt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCuからなる配線本体部で構成されている点に要旨を有する。
【0014】
また、上記課題は、(1)配線溝側または層間接続路側に形成されたTaNからなるバ
リア層と、(2)純Cuからなる配線本体部と、(3)前記バリア層と前記配線本体部との間にこれらと接して形成され、かつPt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCuからなる中間層で構成されているCu配線であっても解決できる。前記中間層の厚みは、例えば、10〜50nmである。
【0015】
上記配線溝または上記層間接続路は、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上であってもよい。
【0016】
本発明に係る半導体装置のCu配線は、半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路の表面にTaN層を形成する工程と、このTaN層の表面にスパッタリング法でPt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCu層を形成する工程を経ることによって製造できる。前記配線溝または前記層間接続路が、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上の場合であって、これらの中にCu層を押し込むのが難しいときは、押し込む際に、加熱や加圧をすればよい。
【0017】
また、本発明に係る半導体装置のCu配線は、半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路の表面にTaN層を形成する工程と、このTaN層の表面にスパッタリング法でPt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCu層を形成する工程と、前記Cu層の表面に純Cu層を形成する工程を経ることによっても製造できる。前記配線溝または前記層間接続路が、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上の場合であって、これらの中に純Cu層を押し込むのが難しいときは、押し込む際に、加熱や加圧をすればよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Cu配線の配線本体部の成分組成を適切に調整するか、Cu配線の配線本体部が純Cuの場合は、純CuとTaNからなるバリア層の間に成分組成を適切に調整した中間層を介在させているため、配線本体部とバリア層の密着性を改善できる。これにより配線本体部とバリア層の間にボイド等が発生せず、Cu配線の信頼性を高めることができる。しかも本発明によれば、配線溝や層間接続路の幅が狭く、深い場合でも、配線溝や層間接続路を覆うようにCu系配線材料を形成した後、加熱するか、必要に応じて更に加圧することで、バリア層と配線本体部の密着性を損なうことなく、配線溝や層間接続路内にCu系配線材料を埋め込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
Cu配線の配線本体部と、TaNからなるバリア層との密着性を高めるには、バリア層と直に接する層の成分組成を適切に調整することが重要である。
【0020】
即ち、バリア層と直に接する層が配線本体部の場合は、配線本体部をPt、In、Ti、Nb、BおよびFeよりなる群から選ばれる1種以上の元素、或いはこれらの元素の他、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCuからなる配線とすればよい。一方、配線本体部が純Cuの場合は、配線本体部とバリア層との間に、これらと接するように、Pt、In、Ti、Nb、BおよびFeよりなる群から選ばれる1種以上の元素、或いはこれらの元素の他、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCuからなる中間層を設ければよい。
【0021】
Pt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsは、いずれも、本発明者らが種々実験を繰返した結果、TaNからなるバリア層とCuの密着性を高める作用を有することが明らかになった元素(以下、密着性向上元素ということがある)である。これらの密着性向上元素がバリア層とCuの密着性を高める理由については、次のように考えられる。
【0022】
Pt、B、Ru、Re、Osは、バリア層とCu(密着性向上元素を含有する配線本体部または密着性向上元素を含有する中間層)の界面に析出して該界面における残留応力を緩和する作用を有していると考えている。残留応力は、バリア層とCuの界面に最も高く付与されるため、この残留応力を緩和することにより、Cuのバリア層に対する密着性が向上すると考えられる。
【0023】
In、Ga、Tlは、バリア層とCuの界面に拡散して該界面にTaと、In、Ga或いはTlの合金層を形成し、この合金層がバリア層とCuの密着性を向上させるのに作用すると考えられる。特に、Inは融点が約156℃、Gaは融点が29.76℃、Tlは融点が304℃と低く、50℃程度未満の低温や室温でもCu中を拡散し易いと考えられる。
【0024】
Ti、Nb、Fe、V、Zr、Hfは、いずれも化学平衡計算からバリア層との反応性を考えて選択した元素であり、良好な反応性によってこれらの元素とTaの間で化合物や化学結合が形成され、Cuのバリア層に対する密着性が向上すると考えられる。例えば、Tiは、TaNからなるバリア層と接触することで、TiNを形成すると考えられ、このTiNがCuのバリア層に対する密着性を向上させると考えている。Feは、TaNからなるバリア層と接触することで、低温側ではFe2TaまたはFeTa2を形成し、これらの化合物がCuのバリア層に対する密着性を向上させると考えている。Nbは、TaNからなるバリア層と接触することで、NbNを形成し、このNbNがCuのバリア層に対する密着性を向上させると考えている。Vは、TaNからなるバリア層と接触することで、VNを形成し、このVNがCuのバリア層に対する密着性を向上させると考えている。Zrは、TaNからなるバリア層と接触することで、ZrNを形成し、このZrNがCuのバリア層に対する密着性を向上させると考えている。Hfは、TaNからなるバリア層と接触することで、HfNを形成し、このHfNがCuのバリア層に対する密着性を向上させると考えている。
【0025】
上記密着性向上元素を含有するCu層を配線本体部として設ける場合は、バリア層との密着性を高めると共に、配線自体の電気抵抗率を高めないために、上記密着性向上元素のなかでも、特にBやPtを含有することが好ましい。また、バリア層との密着性を高めると共に、配線溝や層間接続路への埋め込み性を高めるには、上記密着性向上元素のなかでも、特にInを含有することが好ましい。
【0026】
一方、上記密着性向上元素を含有するCu層を中間層として設ける場合は、主としてバリア層との密着性を高めるために、上記密着性向上元素のなかでも、特にNbやTi、Feを含有することが好ましい。
【0027】
なお、本発明では、上記密着性向上元素を含有するCu層を、配線本体部または中間層として設ける場合を問わず、密着性Cu層ということがある。
【0028】
配線本体部または中間層に含有させる密着性向上元素の量は、合計で0.05〜3.0原子%であればよい。密着性向上元素が0.05原子%未満では、バリア層と配線本体部の密着性を充分に高めることができない。密着性向上元素の含有量は0.05原子%以上
であり、好ましくは0.5原子%以上、より好ましくは1原子%以上、更に好ましくは1.5原子%以上である。しかし密着性向上元素を過剰に含有させても、その効果は飽和するし、過剰な元素はCu配線の電気抵抗率を高める原因となる。従って密着性向上元素の含有量は3.0原子%以下であり、好ましくは2.5原子%以下、より好ましくは2.0原子%以下である。
【0029】
中間層の厚みは特に限定されないが、バリア層と配線本体部の密着性を改善するには10nm以上であるのがよい。より好ましくは15nm以上、更に好ましくは20nm以上である。しかし中間層を厚くし過ぎてもバリア層と配線本体部の密着性を改善する効果は飽和するため、中間層の厚みの上限は50nm程度とすればよい。より好ましくは45nm以下であり、更に好ましくは40nm以下である。
【0030】
中間層の厚みとは、絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路の形状が露出するように切断したCu配線の断面を観察し、配線溝または層間接続路の内壁(側壁または底面)に沿って形成された中間層の厚みを測定したときに、最も小さい厚みを意味する。例えば、配線溝や層間接続路の底面には、中間層が形成され易いが、配線溝や層間接続路の側壁には中間層が形成され難い。そのため配線溝や層間接続路の側壁に形成された中間層の厚みは小さくなる傾向がある。
【0031】
配線溝または層間接続路が形成されている絶縁膜の種類は特に限定されず、例えば、酸化シリコンや窒化シリコン、BSG(Boro-Silicate Glass)、PSG(Phospho-Silicate Glass)、BPSG(Boro-Phospho-SilicateGlass)、TEOS(SiOF)等を用い
ることができる。
【0032】
次に、本発明のCu配線を製造する方法について説明する。バリア層と直に接する層が配線本体部の場合は、半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路の表面にTaN層を形成した後、このTaN層の表面にスパッタリング法でPt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素(密着性向上元素)を合計で0.05〜3.0原子%含有する密着性Cu層(即ち、配線本体部)を形成すればよい。
【0033】
TaN層を形成する方法は特に限定されず、スパッタリング法(例えば、DCマグネトロンスパッタリング法)やCVD法等で形成すればよい。
【0034】
TaN層の表面に密着性Cu層を形成するには、スパッタリング法を採用すればよい。スパッタリング法を採用すれば、密着性向上元素を含有する密着性Cu層を簡単にTaN層付き配線溝や層間接続路の表面に形成できる。
【0035】
スパッタリング法は、例えば、(DC)マグネトロンスパッタリング法やロングスロースパッタリング法であってもよい。特にロングスロースパッタリング法は、後述するように埋め込み性の観点から好ましく採用できる。ロングスロースパッタリング法とは、ウェハーとターゲットの距離を長く取ったスパッタリング法であり、本発明では、この距離を150mm以上としてスパッタする方法をロングスロースパッタリングと呼ぶ。
【0036】
密着性向上元素を含有する密着性Cu層をスパッタリング法で形成するには、スパッタリングターゲットとして、密着性向上元素を含有するCuターゲットを用いるか、純Cuターゲットの表面に密着性向上元素を含有するCu片または密着性向上元素からなる金属片を貼付したチップオンターゲットを用い、不活性ガス雰囲気下でスパッタリングすればよい。
【0037】
不活性ガスとしては、例えば、ヘリウムやネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンなどを用いることができる。好ましくはアルゴンやキセノンを用いるのがよく、特にアルゴンは比較的安価であり、好適に用いることができる。その他のスパッタリング条件(例えば、到達真空度、スパッタガス圧、放電パワー密度、基板温度、極間距離など)は、特に限定されず、通常の範囲で調整すればよい。
【0038】
スパッタリングで形成する密着性Cu層の厚みは、配線溝や層間接続路の深さに応じて変更すればよく、少なくとも配線溝または層間接続路の深さと等しい厚みの密着性Cu層を形成すればよい。密着性Cu層の厚みの上限は、例えば2μmである。厚みが大きくなり過ぎると、密着性Cu層の強度が大きくなるため、後述するように加熱・加圧しても密着性Cu層を配線溝や層間接続路に埋め込むことが難くなる。
【0039】
一方、配線本体部が純Cuの場合は、半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路の表面にTaN層を形成した後、このTaN層の表面にスパッタリング法でPt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有する密着性Cu層(即ち、中間層)を形成し、次いで前記密着性Cu層の表面に純Cu層(即ち、配線本体部)を形成すればよい。
【0040】
TaN層の表面に中間層として密着性Cu層を形成する方法は、密着性Cu層を配線本体部として形成する場合と同じでよい。
【0041】
バリア層と配線本体部の間に、中間層として密着性Cu層を形成する場合は、密着性Cu層の厚みを10〜50nm程度とすればよい。
【0042】
純Cu層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、電解メッキ法や化学気相成長法(CVD法)、(アーク)イオンプレーティング法、スパッタリング法などを採用できる。特に電解メッキ法を採用すれば、純Cu層を配線溝や層間接続路の底から徐々に埋め込みながら充填することができる。スパッタリング法は、例えば、(DC)マグネトロンスパッタリング法やロングスロースパッタリング法であってもよく、特に埋め込み性の観点からロングスロースパッタリング法を好ましく採用できる。純Cuの純度は、例えば、99原子%以上(特に、99.9〜99.99原子%)であればよい。
【0043】
純Cu層の厚みは、配線溝や層間接続路の深さに応じて変更すればよく、少なくとも配線溝または層間接続路の深さと等しい厚みの純Cu層を形成すればよい。純Cu層の厚みの上限は、例えば2μmである。厚みが大きくなり過ぎると、純Cu層の強度が大きくなるため、純Cu層をスパッタリング法で形成する場合には、後述するように加熱・加圧しても純Cu層を配線溝や層間接続路に埋め込むことが難しくなる。
【0044】
例えば、配線溝または層間接続路が、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上の場合に、密着性向上元素を含有するCu層や純Cu層を配線本体部としてスパッタリング法で形成すると、配線溝または層間接続路の幅が狭く、また深いため、配線本体部が配線溝や層間接続路内に完全に埋め込まれず、配線本体部が配線溝や層間接続路の開口部を覆うようにブリッジングして、配線溝や層間接続路の内部に空隙が形成されることがある。
【0045】
そこで配線本体部をスパッタリング法で形成した場合は、これを加熱しつつ加圧して配線本体部を配線溝または層間接続路内に押し込むのがよい。具体的には、500℃以上(好ましくは550℃以上)に加熱しつつ、150MPa以上(好ましくは160MPa以上)に加圧するのがよい。加熱温度の上限は700℃程度である。700℃を超えて加熱
する装置は現実的に難しく、また温度を高くし過ぎると、Cu配線の電気抵抗率が大きくなる傾向がある。また半導体基板自体に変形を生じることもある。好ましい上限は650℃、より好ましい上限は600℃である。なお、加熱するときの雰囲気は特に限定されないが、例えば、上記した不活性ガス雰囲気であればよい。圧力はできるだけ高くすることが好ましいが、200MPaを超えると圧力が高過ぎて実用的ではないため、上限は200MPa程度である。好ましくは180MPa以下である。
【0046】
なお、配線溝または層間接続路が、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上であっても、配線本体部をロングスロースパッタリング法で形成すれば、配線溝や層間接続路内に配線本体部をほぼ確実に埋め込むことができる。従って配線本体部をロングスロースパッタリング法で形成した場合は、加熱加圧しなくてもよいが、必要に応じて加熱するか、加圧するか、加熱加圧してもよい。また、配線本体部が純Cuの場合は、純Cu層を電解メッキ法で形成してもよく、配線溝または層間接続路が、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上であっても、配線溝や層間接続路内に純Cu層をほぼ確実に埋め込むことができる。従って純Cu層を電解メッキ法で形成した場合にも加熱加圧しなくてよいが、必要に応じて加熱するか、加圧するか、加熱加圧してもよい。
【0047】
加熱するときの温度は、室温を超えていればよく、例えば50℃以上(特に、200℃以上)である。加圧するときの圧力は、常圧を超えていればよく、例えば1MPa以上(特に、10MPa以上)である。
【0048】
但し、加圧せずに加熱すると、密着性は却って悪くなる。加熱すると、加熱前と比べて、Cuにかかる引張応力が増加し、この引張応力は、密着に反してバリア層からのCuの剥離を促進させるのに作用する。これに対し、加熱と加圧を併せて行なうと、TaNからなるバリア層とCuの界面に、例えば、CuとTaが混合した非晶質層を形成し、この非晶質層の厚みが増大することによって、Cuのバリア層に対する密着性が向上する。従って、ロングスロースパッタリング法で配線本体部を形成した場合でも、加熱加圧することが好ましい。
【0049】
加熱加圧するときの加熱温度は、室温を超えていればよく、例えば50℃以上(特に、200℃以上)である。加熱加圧するときの圧力は、例えば50MPa以上(特に、100MPa以上)である。
【0050】
上記密着性Cu層や純Cu層、TaNからなるバリア層の膜厚は、各層の形成条件を制御することで調整できる。即ち、各層の形成条件を適宜制御して予めダミーの薄膜を形成し、この薄膜の膜厚を触針式の膜厚計で測定しておけば、各層の形成条件を制御することで膜厚を調整できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
[実験例1]
φ4インチのシリコンウェハー表面に、TaN層をDCマグネトロンスパッタリング法で厚みが50nmとなるように成膜し、次いで純Cu層(下記表1のNo.1)または下記表1に示す元素を含有する密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)をDCマグネトロンスパッタリング法で厚みが200nmとなるように成膜して積層体を得た。
【0053】
スパッタリング装置としては、島津製作所社製のHSM−552型スパッタ装置を用い、純Cuターゲットまたはチップオンターゲットを用いてスパッタリングした。チップオンターゲットとしては、ベースとなる純Cuターゲット(φ100mm)の表面に、5mm角の金属チップ(所望の元素を含有するCuチップまたは所望の元素からなる金属チップ)を3〜6枚エロージョン位置付近に貼り付けたものを用い、金属チップの種類を変えることで密着性Cu層の成分を調整し、金属チップの枚数や貼付位置を変化させることで、密着性Cu層に含まれる組成を制御した。
【0054】
TaN層を成膜するときのスパッタリング条件は、到達真空度を133×10-6Pa以下(1×10-6Torr以下)、スパッタリング時の雰囲気ガスをArとN2の混合ガス
(N2ガスを20体積%含有するArガス)、スパッタガス圧を667×10-3Pa(5
×10-3Torr)、放電パワー密度を2.0W/cm2(DC)、基板温度を室温(T
s=20℃)、極間距離を55mm、とした。
【0055】
純Cu層または密着性Cu層を成膜するときのスパッタリング条件は、到達真空度を133×10-6Pa以下(1×10-6Torr以下)、スパッタリング時の雰囲気ガスをArガス、スパッタガス圧を267×10-3Pa(2×10-3Torr)、放電パワー密度を3.2W/cm2(DC)、基板温度を室温(Ts=20℃)、極間距離を55mm、
とした。なお、下記表1に示すNo.8に示す例では、スパッタリングターゲットとして純Cuターゲットを用い、スパッタリング時の雰囲気ガスをArとN2の混合ガス(N2ガスを3体積%含有するArガス)として密着性Cu層を形成した。
【0056】
スパッタリングして成膜した密着性Cu層に含まれる密着性向上元素量を、島津製作所製のICP発光分光分析装置「ICP−8000型」を用いてICP発光分光法で定量した。
【0057】
得られた積層体について、TaN層に対する、純Cu層または密着性Cu層の密着性を、MELT法で密着力を測定することにより評価した。MELT法とは、純Cu層または密着性Cu層の表面に、エポキシ樹脂を塗布し、これを冷却することによりエポキシ樹脂にかかる応力を利用して純Cu層または密着性Cu層をTaN層との界面から引き剥がすときの力(密着力)を測定する方法である。密着力は、純Cu層または密着性Cu層をTaN層との界面で分離するために必要な力Gc(J/m2)であり、下記(1)式で表さ
れ、Gcは下記(2)式で算出できる。
【0058】
【数1】

【0059】
【数2】

【0060】
上記(1)式中、UはTaN層に対する、純Cu層または密着性Cu層の付着力(J)、Aは付着面積(m2)である。上記(2)式中、σ0はエポキシ樹脂層の残留応力、hは
エポキシ樹脂層の厚み、νはエポキシ樹脂層のポアソン比、Eはエポキシ樹脂層のヤング率である。なお、上記(2)式中のh、ν、Eはエポキシ樹脂の種類によって定まる既知の値である。なお、エポキシ樹脂層の残留応力σ0(Pa)とエポキシ樹脂層の厚みh(
m)から下記(3)式で求められるKappl(Pa・m1/2)を密着性の指標として用いる
こともできる。Kappl値が大きいほど密着性に優れている。
【0061】
【数3】

【0062】
密着力の測定は、具体的には次の手順で行った。シリコンウェハーの表面に成膜した純Cu層または密着性Cu層の表面に、エポキシ樹脂を100μmの厚みで塗布し、これを170℃で1時間ベーキングした後、外周スライサー(ダイシングソー)で12mm×12mm角に切断した。切断した供試体(クーポン)の四隅の端面をエメリー紙で研磨し、#1000で仕上げた。得られた供試体について、TaN層に対する、純Cu層または密着性Cu層の密着力を、FMS社製薄膜密着度テスター(FMS Laminar Series II)を用いて測定した。密着力は、得られた供試体をチャンバー内で冷却し、純Cu層または密着性Cu層がTaN層から剥離するときの温度を測定し、この温度からσ0を求め、上記(3)式からKappl値を求めた。MELT法で求めた純Cu層または
密着性Cu層のKapplを下記表1に示す。
【0063】
下記表1から次のように考察できる。No.1は、TaN層のうえに純Cu層を積層した例であり、このNo.1よりも、No.2〜7のように、Pt,In,Ti,Nb,BおよびFeよりなる群から選ばれる1種以上の元素を0.05〜3.0原子%の範囲で含有する密着性Cu層を積層した方が密着性に優れている。一方、No.8は、TaN層のうえにNを含有する密着性Cu層を積層した例、No.9は、TaN層のうえにSbを含有する密着性Cu層を積層した例であり、密着性Cu層の密着性の向上は認められなかった。
【0064】
【表1】

【0065】
[実験例2]
上記実験例1において、TaN層の表面に、Pt,In,Ti,Nb,BまたはFeの含有量を調整した密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を形成した以外は、上記実験例1と同じ条件で積層体を得た。
【0066】
得られた積層体について、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。密着性向上元素の含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図1に示す。図1において、□はPt、●はIn、○はTi、◆はNb、◇はB、■はFeの結果を夫々示している。図1の(b)は、図1の(a)のうち、0〜0.2原子%の範囲を拡大したグラフである。
【0067】
図1の(a)から明らかなように、密着性向上元素の含有量が増加するほどTaN層に対する密着性Cu層の密着力は高くなる。特に、密着性向上元素としてNbやTiを含有させると、他の元素を含有させた場合と比べて密着力を2倍程度以上向上させることができる。但し、密着性向上元素は3原子%を超えて含有させても、密着性向上効果は飽和する傾向を示す。
【0068】
図1の(b)から明らかなように、密着性向上元素を0.05原子%含有させることで、密着性向上効果は急激に発揮されることが分かる。
【0069】
[実験例3]
上記実験例1において、TaN層の表面に、Fe含有量を調整した密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を形成した後、常圧で加熱(以下、常圧アニール処理ということがある)するか、加熱しつつ加圧(以下、高圧アニール処理ということがある)して積層体を得た。常圧アニール処理は、常圧(0.1MPa)のAr雰囲気中で、室温から500℃まで昇温速度5℃/分で加熱し、500℃で15分間保持した後、室温まで降温速度5℃/分で冷却して行なった。高圧アニール処理は、133×10-6Pa以下(1×10-6Torr以下)の真空で、150MPaに加圧し、室温から500℃まで昇温速度15℃/分で加熱し、500℃で15分間保持した後、室温まで降温速度10℃/分で冷却して行なった。
【0070】
得られた積層体について、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。Feの含有量とMELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図2に示す。図2において、●は常圧アニール処理、▲は高圧アニール処理の結果を夫々示している。また、図2には、常圧アニール処理も高圧アニール処理もしない場合(未処理;○)の結果についても併せて示した。
【0071】
図2から明らかなように、TaN層のうえに密着性Cu層を形成したままの状態(未処理)でも、密着性Cu層を形成した後に、常圧アニール処理または高圧アニール処理しても、Fe含有量が増加するほどTaN層に対する密着性Cu層の密着力は大きくなることが分かる。但し、いずれの場合でも、Feを3原子%を超えて含有させても、密着性向上効果は飽和する傾向を示す。
【0072】
密着性Cu層を形成した後に、常圧アニール処理すると、未処理の場合よりも密着力は低下することが分かる。これに対し、密着性Cu層を形成した後に、高圧アニール処理すると、未処理の場合よりも密着力は向上することが分かる。常圧アニール処理した場合に、未処理の場合よりも密着力が低下するのは、加熱による密着力の低下と、加圧による密着力の向上の両方に支配されることによると考えられる。つまり常圧アニール処理では、加熱による密着性低下効果が強く作用することによって、未処理の場合よりも密着力が低下すると考えられる。
【0073】
[実験例4]
上記実験例1において、TaN層の表面にFeを1.88原子%含有する密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を形成した後、上記実験例3のように常圧で加熱するか(常圧アニール処理)、加熱しつつ加圧(高圧アニール処理)して積層体を得た。
【0074】
常圧アニール処理は、常圧(0.1MPa)のAr雰囲気中で、加熱した状態で15分間保持して行なった。高圧アニール処理は、133×10-6Pa以下(1×10-6Torr以下)の真空で、150MPaに加圧し、加熱した状態で15分間保持して行なった。常圧アニール処理と高圧アニール処理は、加熱温度を200℃、500℃、700℃とし、加熱時の昇温速度は5℃/分、加熱後の降温速度は5℃/分とした。
【0075】
得られた積層体について、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。常圧アニール処理または高圧アニール処理の温度と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図3に示す。図3において、●は常圧アニール処理、▲は高圧アニール処理の結果を夫々示している。また、図3には、常圧アニール処理も高圧アニール処理もしない場合(未処理;○)の結果についても併せて示した。
【0076】
図3から明らかなように、加圧する場合は、高温でアニール処理する方が、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を高めることができる。一方、常圧で加熱すると、高温になるほど、TaN層に対する密着性Cu層の密着力はやや低下することが分かる。
【0077】
[実験例5]
上記実験例1において、TaN層の表面に、Pt,In,Ti,Nb,BまたはFeの含有量を調整した密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を50nm形成した後、純Cu層をDCマグネトロンスパッタリング法で厚みが200nmとなるように成膜して積層体を得た。
【0078】
得られた積層体について、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。密着性向上元素の含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図4に示す。図4において、□はPt、●はIn、○はTi、◆はNb、◇はB、■はFeの結果を夫々示している。
【0079】
図4から明らかなように、密着性Cu層の表面に純Cu層を形成した場合でも、密着性Cu層が含有する密着性向上元素量が増加するほどTaN層に対する密着性Cu層の密着力は高くなる。但し、密着性向上元素は3原子%を超えて含有させても、密着性向上効果は飽和する傾向を示す。
【0080】
[実験例6]
上記実験例1において、TaN層の表面に、Tiを1.79原子%含有する密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を10〜50nm形成した後、純Cu層をDCマグネトロンスパッタリング法で厚みが200nmとなるように成膜して積層体Aを得た。また、純Cu層をDCマグネトロンスパッタリング法で成膜する代わりに、電解メッキ法で厚みが200nmとなるように成膜して積層体Bを得た。電解メッキは、電流密度17mA/cm2で行なった。
【0081】
得られた積層体Aと積層体Bについて、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。密着性Cu層の厚みとMELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図5に示す。図5において、○は純Cu層をDCマグネトロンスパッタリング法で形成した例(積層体A)、●は純Cu層を電解メッキ法で形成した例(積層体B)の結果を夫々示している。
【0082】
図5から明らかなように、密着性Cu層のうえに純Cu層をDCマグネトロンスパッタリング法で形成しても、電解メッキ法で形成しても、TaN層に対する密着性Cu層の密着力は殆ど変化しないことが分かる。
【0083】
[実験例7]
上記実験例1において、TaN層の表面に、Nbを2.35原子%含有する密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を10〜50nm形成した後、純Cu層をDCマグネトロンスパッタリング法で厚みが200nmとなるように成膜し、次いで常圧で加熱(常圧アニール処理)するか、加熱しつつ加圧(高圧アニール処理)して積層体を得た。常圧アニール処理と高圧アニール処理は、上記実験例3で示した条件で行なった。
【0084】
得られた積層体について、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。密着性Cu層の厚みと、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図6に示す。図6において、●は常圧アニール処理、▲は高圧アニール処理の結果を夫々示している。また、図6には、常圧アニール処理も高圧アニール処理もしない場合(未処理;○)の結果についても併せて示した。
【0085】
図6から明らかなように、密着性Cu層の厚みを大きくすることで、TaN層に対する密着性Cu層の密着力は大きくなることが分かる。また、密着性Cu層を形成した後に、常圧アニール処理すると、未処理の場合よりも密着力は低下することが分かる。これに対し、密着性Cu層を形成した後に、高圧アニール処理すると、未処理の場合よりも密着力は向上することが分かる。
【0086】
[実験例8]
上記実験例1において、TaN層の表面に、Feを1.88原子%含有する密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を50nm形成した後、純Cu層をDCマグネトロンスパッタリング法で厚みが200nmとなるように成膜し、次いで常圧で加熱(常圧アニール処理)するか、加熱しつつ加圧(高圧アニール処理)して積層体を得た。常圧アニール処理と高圧アニール処理は、上記実験例3で示した条件で行なった。
【0087】
得られた積層体について、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。常圧アニール処理または高圧アニール処理の温度と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図7に示す。図7において、●は常圧アニール処理、▲は高圧アニール処理の結果を夫々示している。また、図7には、常圧アニール処理も高圧アニール処理もしない場合(未処理;○)の結果についても併せて示した。
【0088】
図7から明らかなように、加圧する場合は、高温でアニール処理する方が、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を高めることができる。一方、常圧で加熱した場合は、加熱温度を高くするほど、TaN層に対する密着性Cu層の密着力はやや低下することが分かる。
【0089】
[実験例9]
シリコンウェハー表面に形成した絶縁膜(TEOS膜:SiOF膜)に、直径0.12μm(120nm)、深さ0.55μm(550nm)、ピッチ450nmのビアを設けた評価素子(TEG)を用いた。このTEGの表面に、TaN層をDCマグネトロンスパッタリング法で上記実験例1と同じ条件で厚みが50nmとなるように成膜した後、Feを1.88原子%含有する密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)をスパッタリング法(CS法)またはロングスロースパッタリング法(LTS法)で厚みが500nmとなるように成膜した。
【0090】
密着性Cu層を成膜するときのスパッタリング条件は、上記実験例1で示した条件と同じである。密着性Cu層を成膜するときのロングスロースパッタリング条件は、到達真空度を133×10-6Pa以下(1×10-6Torr以下)、スパッタリング時の雰囲気ガスをArガス、スパッタガス圧を266×10-3Pa(2×10-3Torr)、放電パワー密度を25W/cm2(DC)、基板バイアスを−200V、基板温度Tsを0℃、極
間距離を300mm、とした。
【0091】
密着性Cu層を成膜した後、上記実験例3のように常圧で加熱(常圧アニール処理)するか、加熱しつつ加圧(高圧アニール処理)して積層体を得た。常圧アニール処理と高圧アニール処理は、上記実験例4で示した条件で行なった。なお、下記表2のNo.11とNo.18は、密着性Cu層を成膜した後、常圧アニール処理も高圧アニール処理も行っていない例である。
【0092】
処理後のTEGに対して、ビア断面が露出する様に集束イオンビーム装置(FIB装置)で加工し、該断面をFIB装置のSIM像で観察し、ビア部への密着性Cu層の埋め込み状態(埋込特性)を調べた。埋込特性は、ビア断面のSIM像を画像解析し、下記(4)式で算出される埋め込み率で評価した。ビアは15個分について観察し、夫々のビアについて埋め込み率を算出し、これを平均した。埋め込み率を下記表2に示す。
埋め込み率(%)=[(ビアに埋め込まれている密着性Cu層の断面積)/(ビアの断面積)]×100 ・・・(4)
【0093】
表2から明らかなように、密着性Cu層をビアに埋め込むために密着性Cu層をスパッタリング法で形成した場合は、500℃以上に加熱しつつ150MPaに加圧すればよいことが分かる。また、密着性Cu層をロングスロースパッタリング法で形成した場合は、常圧・加圧問わず、加熱すれば密着性Cu層をビアに完全に埋め込むことができる。
【0094】
【表2】

【0095】
[実験例10]
上記実験例9において、TaN層の表面に、Tiを1.79原子%含有する密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)をスパッタリング法(CS法)で厚みが10〜50nmとなるように形成し、次いで純Cu層を電解メッキ法、スパッタリング法(CS法)、ロングスロースパッタリング法(LTS法)で厚みが500nmとなるように成膜した。
【0096】
密着性Cu層を成膜するときのスパッタリング条件は、上記実験例1で示した条件と同じである。純Cu層を成膜するときの電解メッキ条件は上記実験例6、スパッタリング条件は上記実験例1、ロングスロースパッタリング条件は上記実験例9で示した条件と同じである。
【0097】
純Cu層を成膜した後、上記実験例4のように常圧で加熱(常圧アニール処理)するか、加熱しつつ加圧(高圧アニール処理)して積層体を得た。常圧アニール処理は、常圧(0.1MPa)のAr雰囲気中で、加熱した状態で15分間保持して行なった。高圧アニール処理は、133×10-6Pa以下(1×10-6Torr以下)の真空で、150MPaに加圧し、加熱した状態で15分間保持して行なった。常圧アニール処理と高圧アニール処理は、加熱温度を200℃または500℃とし、加熱時の昇温速度は5℃/分、加熱後の降温速度は5℃/分とした。なお、下記表3のNo.31〜33、No.38、No.44は、純Cu層を成膜した後、常圧アニール処理も高圧アニール処理も行っていない例である。
【0098】
処理後のTEGに対して、上記実験例11と同じ条件で、ビア部への密着性Cu層と純Cu層の埋め込み状態(埋込特性)を調べた。埋め込み率を下記表3に示す。
【0099】
表3から次のように考察できる。No.31〜37は、いずれも密着性Cu層を薄くし、純Cu層を電解メッキ法で形成しているため、アニール処理しなくても密着性Cu層と純Cu層を凹部に完全に埋め込むことができる。No.42〜43から明らかなように、純Cu層をスパッタリング法で形成した場合には、500℃以上に加熱した状態で、150MPaに加圧して押圧すれば、純Cu層をビアに押し込むことができる。No.44〜50から明らかなように、純Cu層をロングスロースパッタリングで形成した場合には、アニール処理しなくても純Cu層をビアに押し込むことができる。
【0100】
【表3】

【0101】
[実験例11]
上記実験例1において、TaN層の表面に、V,Zr,Re,Ru,Hf,Ga,OsまたはTlの含有量を調整した密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を形成した以外は、上記実験例1と同じ条件で積層体を得た。なお、Gaは融点が低いため、Ga元素からなる金属チップを製造することができない。そこで、Gaについては、Gaを5原子%または10原子%含有するCu合金チップ(残部は、不可避不純物)を作製し、ベースとなる純Cuターゲット(φ100mm)の表面に貼り付ける5mm角のCu合金チップを3〜6枚エロージョン位置付近に貼り付けたものをチップオンターゲットとして用いた。Cu合金チップの種類や枚数、貼付位置を変化させることで、密着性Cu層に含まれる組成を制御した。
【0102】
得られた積層体について、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。密着性向上元素の含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図8に示す。図8において、□はV、●はZr、○はRe、◆はRu、◇はHf、■はGa、△はOs、▲はTlの結果を夫々示している。図8の(b)は、図8の(a)のうち、0〜0.2原子%の範囲を拡大したグラフである。
【0103】
図8の(a)から明らかなように、密着性向上元素の含有量が増加するほどTaN層に対する密着性Cu層の密着力は高くなる。但し、密着性向上元素は3原子%を超えて含有させても、密着性向上効果は飽和する傾向を示す。
【0104】
図8の(b)から明らかなように、密着性向上元素を0.05原子%させることで、密着性向上効果は急激に発揮されることが分かる。
【0105】
[実験例12]
上記実験例1において、TaN層の表面に、V,Zr,Re,Ru,HfまたはGaの含有量を調整した密着性Cu層(残部はCuおよび不可避不純物)を50nm形成した後、純Cu層をDCマグネトロンスパッタリング法で厚みが200nmとなるように成膜して積層体を得た。
【0106】
なお、Gaについては、上記実験例11の手順で密着性Cu層に含まれる組成を制御した。
【0107】
得られた積層体について、上記実験例1と同じ条件で、TaN層に対する密着性Cu層の密着力を測定した。密着性向上元素の含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を図9に示す。図9において、□はV、●はZr、○はRe、◆はRu、◇はHf、■はGa、△はOs、▲はTlの結果を夫々示している。
【0108】
図9から明らかなように、密着性Cu層の表面に純Cu層を形成した場合でも、密着性Cu層が含有する密着性向上元素量が増加するほどTaN層に対する密着性Cu層の密着力は高くなる。但し、密着性向上元素は3原子%を超えて含有させても、密着性向上効果は飽和する傾向を示す。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、密着性向上元素の含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。図1の(b)は、図1の(a)のうち、0〜0.2原子%の範囲を拡大したグラフである。
【図2】図2は、Feの含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。
【図3】図3は、常圧アニール処理または高圧アニール処理の温度と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、密着性向上元素の含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、密着性Cu層の厚みと、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、密着性Cu層の厚みと、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。
【図7】図7は、常圧アニール処理または高圧アニール処理の温度と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。
【図8】図8は、密着性向上元素の含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。図8の(b)は、図8の(a)のうち、0〜0.2原子%の範囲を拡大したグラフである。
【図9】図9は、密着性向上元素の含有量と、MELT法で求めた密着性Cu層のKapplの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路に埋め込まれたCu配線であって、
前記Cu配線は、
(1)配線溝側または層間接続路側に形成されたTaNからなるバリア層と、
(2)Pt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCuからなる配線本体部とで構成されていることを特徴とする半導体装置のCu配線。
【請求項2】
半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路に埋め込まれたCu配線であって、
前記Cu配線は、
(1)配線溝側または層間接続路側に形成されたTaNからなるバリア層と、
(2)純Cuからなる配線本体部と、
(3)前記バリア層と前記配線本体部との間にこれらと接して形成され、かつPt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCuからなる中間層とで構成されていることを特徴とする半導体装置のCu配線。
【請求項3】
前記中間層の厚みが10〜50nmである請求項2に記載のCu配線。
【請求項4】
前記配線溝または前記層間接続路は、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上である請求項1〜3のいずれかに記載のCu配線。
【請求項5】
半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路の表面にTaN層を形成する工程と、
このTaN層の表面にスパッタリング法でPt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCu層を形成する工程を含むことを特徴とする半導体装置のCu配線の製造方法。
【請求項6】
前記配線溝または前記層間接続路は、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上であり、前記Cu層を形成した後、加熱しつつ加圧してCu層をTaN層付き配線溝または層間接続路に押し込む請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
半導体基板上の絶縁膜に形成された配線溝または層間接続路の表面にTaN層を形成する工程と、
このTaN層の表面にスパッタリング法でPt、In、Ti、Nb、B、Fe、V、Zr、Hf、Ga、Tl、Ru、ReおよびOsよりなる群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.05〜3.0原子%含有するCu層を形成する工程と、
前記Cu層の表面に純Cu層を形成する工程を含むことを特徴とする半導体装置のCu配線の製造方法。
【請求項8】
前記配線溝または前記層間接続路は、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上であり、前記純Cu層を形成した後、加熱して純Cu層をCu層付き配線溝または層間接続路に押し込む請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記配線溝または前記層間接続路は、幅が0.15μm以下で、この幅に対する深さの比(深さ/幅)が1以上であり、前記純Cu層を形成した後、加熱しつつ加圧して純Cu
層をCu層付き配線溝または層間接続路に押し込む請求項7に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−288574(P2008−288574A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104982(P2008−104982)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【分割の表示】特願2007−267180(P2007−267180)の分割
【原出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】