説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】低保磁力をもつ軟磁性薄膜を備え、この軟磁性薄膜で磁気収束する半導体装置及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】半導体基板1に設けられたホール素子2と、ホール素子1上に設けられた軟磁性薄膜6が、少なくともホウ素を含有している。また、半導体基板1上で、かつホール素子2上に設けられた有機絶縁膜4と、有機絶縁膜4と軟磁性薄膜6との間に設けられた金属導電層5とを備え、軟磁性薄膜6が、金属導電層5上で少なくとも1個以上のホール素子2の感磁部を覆うように配置されている。形成された軟磁性薄膜6の総重量を100重量%としたときの鉄含有量が15〜30重量%、ホウ素含有量が0.15〜0.35量%、電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を0.4〜0.8重量%、残部がニッケルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその製造方法に関し、より詳細には、低保磁力をもつ軟磁性薄膜を備え、この軟磁性薄膜で磁気収束する半導体装置及びその製造方法に関し、特に、ホール素子を含んだ磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のホール素子を含んだ磁気センサは、磁気収束のために軟磁性薄膜をホール素子の直上に備えられていることが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような磁気センサは、ホール素子上に軟磁性薄膜を配置することで、磁気収束効果による高感度化及び磁気収束板の端部から漏れる磁束をホール素子で検知することができ、この軟磁性薄膜は、NiFe合金薄膜を電解めっき法により形成している特徴を有している。
【0003】
図1は、軟磁性薄膜のヒステリシス曲線を示す図で、磁気収束を行う軟磁性薄膜は、磁性材料であるため、外部磁場に対し、磁性材料の出力する飽磁束密度は、図1に示すようなヒステリシス曲線を示している。また、ヒステリシス量は、図1に示すヒステリシス曲線において、X軸の交点となる保磁力とY軸との交点となる残留磁束密度の大きさで定義できる。しかし、ヒステリシス量は、磁場の印加方向や外部磁場の大きさにより変化するため、より高度な磁気センシングを実現するためには、ヒステリシス量を小さくすることが必要である。
【0004】
本発明に関する先行技術を開示したものとしては、例えば、特許文献2に記載のように、1個以上のホール素子と半導体回路が設けられた半導体基板上に、絶縁材料を形成し、この絶縁材料の上に金属導電層を形成し、この金属導電層上で1個以上のホール素子の感磁部を覆うような位置に少なくともホウ素を含有した軟磁性薄膜を形成された半導体装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−142752号公報
【特許文献2】特開2010−159982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献2に記載されているように、軟磁性薄膜は、ホウ素系還元剤を配合した電解めっきで形成されていることを特徴としている。しかしながら、この特許文献2で用いられるテトラメチルアミンボラン(TMAB)のようなホウ素系還元剤では、めっき液中のNiイオンやFeイオンを還元する効果があり、めっき液を調整後数日でNiやFeイオンが沈殿し、めっきが出来なくなるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ホウ素系還元剤を配合しためっき液を安定化させる炭素系添加剤をめっき液に添加し、軟磁性膜中にめっき液を安定化させる添加剤由来の炭素を膜中に配合することで、膜中のホウ素量を増やすことなく低保磁力の軟磁性薄膜を実現させ、かつこの軟磁性薄膜で磁気収束する半導体装置及び量産性の高い製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、形成された軟磁性薄膜の総重量を100重量%としたときの鉄含有量が15〜30重量%、ホウ素含有量が0.15〜0.35量%、電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を0.4〜0.8重量%、残部がニッケルである前記軟磁性薄膜を備え、該軟磁性薄膜で磁気収束することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記軟磁性薄膜の保磁力が、0.1〜15A/mであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、ホール素子を含む磁気センサであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、形成された軟磁性薄膜の総重量を100重量%としたときの鉄含有量が15〜30重量%、ホウ素含有量が0.15〜0.35量%、電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を0.4〜0.8重量%、残部がニッケルである前記軟磁性薄膜を備えた半導体装置の製造方法であって、1個以上のホール素子と半導体回路が設けられた半導体基板上に、絶縁材料を形成し、該絶縁材料の上に金属導電層を形成し、該金属導電層上で1個以上のホール素子の感磁部を覆うような位置に少なくともホウ素及び電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を含有した前記軟磁性薄膜を形成することを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記軟磁性薄膜が、ホウ素還元剤と電解めっき液を安定化するpH緩衝剤を配合しためっき液を用いて電解めっきで形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半導体基板に設けられたホール素子と、このホール素子上に設けられた軟磁性薄膜とを備え、この軟磁性薄膜が、少なくともホウ素および電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を更に有することを含有しているので、低保磁力をもつ軟磁性膜を備え、この軟磁性薄膜で磁気収束する半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
【0014】
また、形成された軟磁性薄膜の総重量を100重量%としたときの鉄含有量が15〜30重量%、ホウ素含有量が0.15〜0.35量%、電解めっき液を安定化するpHこの軟磁性薄膜で磁気収束するので、数mTの磁場環境化でも精度よく磁気センシングを行うが可能になり、また、ヒステリシス量が小さくなることで、不平衡電圧の絶対値とそのばらつきを低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】軟磁性薄膜のヒステリシス曲線を示す図である。
【図2】本発明に係る半導体装置の一実施形態を説明するための構成図である。
【図3】図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、半導体回路を形成する工程図である。
【図4】図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、下地導電層を形成する工程図である。
【図5】図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、下地導電層にレジストパターンを形成する工程図である。
【図6】図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、軟磁性薄膜を形成する工程図である。
【図7】図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、レジストを除去する工程図である。
【図8】図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、下地導電層を除去する工程図である。
【図9】実施例1及び比較例1におけるクエン酸三ナトリウム添加量と保磁力の関係を示す図である。
【図10】実施例1及び比較例1におけるクエン酸三ナトリウム添加量と残留磁束密度の関係を示す図である。
【図11】実施例1及び比較例1におけるクエン酸三ナトリウム添加量と軟磁性薄膜中のホウ素含有量の関係を示す図である。
【図12】実施例1及び比較例1におけるクエン酸三ナトリウム添加量と軟磁性薄膜中の炭素含有量の関係を示す図である。
【図13】特許文献2と実施例1の軟磁性薄膜中のホウ素含有量と保磁力の関係を示す図である。
【図14】実施例1における軟磁性薄膜のTOF―SIMSでのクエン酸存在を同定宇するために実施した分析結果を示す図である。
【図15】実施例1及び比較例2におけるクエン酸三ナトリウム添加量と保磁力の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図2は、本発明に係る半導体装置の一実施形態を説明するための構成図で、図中符号1は半導体基板、2はホール素子、3は外部接続端子パッド、4は有機絶縁膜、5は下地導電層(金属導電膜)、6は軟磁性薄膜を示している。
【0017】
本発明の半導体装置は、従来の磁性材料により磁気収束をしていた半導体装置に対して、ホウ素を所定量含有させた軟磁性薄膜をホール素子上に設けることで、ヒステリシス量の小さい半導体装置が得られたものである。なお、本発明の半導体装置は、ホール素子を備えた磁気センサであることも含まれている。
【0018】
本発明の半導体装置は、半導体基板1に設けられたホール素子2と、このホール素子1上に設けられた軟磁性薄膜6とを備え、この軟磁性薄膜6が、少なくともホウ素を含有している。また、半導体基板1上で、かつホール素子2上に設けられた有機絶縁膜4と、この有機絶縁膜4と軟磁性薄膜6との間に設けられた金属導電層5とを備え、軟磁性薄膜6が、金属導電層5上で少なくとも1個以上のホール素子2の感磁部を覆うように配置されている。
【0019】
つまり、本発明の半導体装置の特徴は、半導体基板1にホール素子2を備えており、半導体基板1上に有機絶縁膜4を備え、ホール素子1の直上に下地通電層5と軟磁性薄膜6を設けたものである。
【0020】
軟磁性薄膜6は、形成された軟磁性薄膜の総重量を100重量%としたときの鉄含有量が15〜30重量%、ホウ素含有量が0.15〜0.35量%、電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を0.4〜0.8重量%、残部がニッケルであることを特徴とする半導体装置その厚みが4〜40μmにコントロールすることで保磁力の低減が可能になる。因みに、その時の軟磁性薄膜における結晶子サイズは5〜10nmで、NiFe(111)の結晶配向度は70〜100%である。また、軟磁性薄膜の保磁力は、0.1乃至15A/mで、かつ残留磁束密度は、0.05乃至0.6Tである。
【0021】
図3乃至図8は、図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図である。本発明に係る半導体装置の製造方法は、1個以上のホール素子と半導体回路が設けられた半導体基板上に有機絶縁膜4を形成し、この有機絶縁膜4上に金属導電層5を形成し、この金属導電層5上で、かつ1個以上のホール素子の感磁部を覆うような位置に少なくともホウ素を含有した軟磁性薄膜6を形成するものである。また、軟磁性薄膜6は、ホウ素還元剤を配合しためっき液を用いて電解めっきで形成するものである。
【0022】
以下に、本発明に係る半導体装置の製造方法を工程順に沿って説明する。
図3は、図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、半導体回路を形成する工程図である。まず、図3に示すように、半導体基板1上に磁気センシングを行うホール素子2が少なくとも1個以上配置され、外部電極と電気的な接続を行うため外部接続端子パッド3を開口した状態で、有機絶縁膜4を形成する。半導体基板1としてはシリコンウエハでも、GaAs基板のいずれでもよく、ホール素子2はSiなどの信号処理の回路が形成された半導体やInSb、InAs,GaAsなどの化合物半導体などが好ましく、それらの積層構造や不純物をSnやZnやSiなどをドープしたものを用いてもよい。また、外部接続端子パッド3の材料としては、AL系やAu系の材料が一般的である。また、有機絶縁膜4は、有機材料であるポリイミド、もしくはポリベンゾオキサゾール、ベンゾシクロブテン、感光性シリコーンなどを用いることが望ましい。
【0023】
図4は、図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、下地導電層を形成する工程図である。図4に示すように、有機絶縁膜4上及び外部接続端子パッド3上に下地通電層5を配置する。下地通電層5としては積層膜を用いており、第1層としてTi、TiWなどのTi系材料を、第2層として、Cu系材料やAL材料、NiFe系材料を真空蒸着法、スパッタリング法、電解・無電解めっき法により形成する。Ti系材料は外部接続端子パッド3のAl系材料と下地通電層5のCu系材料の拡散バリヤ層として少なくとも0.1μm以上の厚みが望ましい。
【0024】
また、第2層目の、Cu系材料やAL材料、NiFe系材料は電気抵抗を下げるため厚い方が好ましく、0.1〜10μmが望ましい。また、Cuは(111)の結晶方位に配向している。軟磁性薄膜6の結晶方位のミスマッチを減らすためにも(111)の結晶方位を持つCuを、軟磁性薄膜6を堆積する層として用いた方が良い。
【0025】
図5は、図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、下地導電層にレジストパターンを形成する工程図である。次に、図5に示すように、下地導電層5上に軟磁性薄膜6のパターンを形成するためにレジスト7を形成し、露光、現像を行い、レジスト空隙部7aを形成する。レジスト材料としては、ポジレジスト、ネガレジストのどちらでも良いが、一般的には、めっき時の耐酸性と剥離性を両立できるナフトキノン・ジアゾ型のポジレジストが望ましい。レジスト7の膜厚は、フェノールノボラック系のポジレジストを用いることで最大50μmの膜厚が成膜可能である。また、レジスト7の膜厚は、軟磁性薄膜6よりも厚いことが必要であるため5〜50μmが望ましい。
【0026】
図6は、図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、軟磁性薄膜を形成する工程図である。次に、図6に示すように、レジスト空隙部7aにホウ素とニッケルと鉄から成る軟磁性薄膜6を電解めっき法により形成する。軟磁性薄膜6の膜厚は、磁気収束効果を実現するため厚い方が好ましいが、レジスト7より厚く成膜すると軟磁性薄膜6が垂直に成長せず、キノコ状に成長してしまう。そのため軟磁性薄膜6の膜厚は、レジスト7の膜厚より小さいことが望ましく、特に、4〜40μmの範囲が好ましい。
【0027】
電解めっきを行うために、下地導電層5を形成したウエハをカソードとして、アノードとしてニッケルや鉄などの可溶解性、もしくは白金などの不溶解性の金属板を用いて、電気を流すことでカソードの被めっき部分に軟磁性薄膜を形成することができる。めっき液としては、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸鉄、ホウ酸、サッカリン、塩化ナトリウムとホウ素系還元剤であるテトラメチルアミンボラン(TMAB)やジメチルアミンボラン(DMAB)を用いた。ホウ素はめっき液中にTMABやDMABを添加することで、軟磁性薄膜中に共析させた。
【0028】
また、本めっき液を用いて電解めっきを行う場合、めっき膜の析出電位は、めっき液の温度で変化するため、めっき液の温度を熱電対とヒーターやチラーを用いて、加熱冷却する必要がある。めっき液の温度は、電流密度やpHなどのめっき条件で大きく変わるが20〜60℃の間が好ましい。また、めっき時の陰極電流密度やpHも最適化する必要がある。陰極電流密度は、1〜70mA/cm2が好ましい。更に、pHを2.0以下に下げると水素の発生量が多くなり、同じめっき時間でもめっき厚が薄くなるため、pHは2.0以上が好ましく、かつpH7.0以上になるとTMABを還元剤とする無電解めっき反応がおこりNiとFeが沈殿してしまうため、pHは2.0から7.0の間が好ましい。
【0029】
更に、TMABのようなホウ素還元剤は加水分解によりOH−イオンを放出し、その反応はアルカリ側ではより顕著である。そのためTMABが分解することにより更にTMABの分解が促進されるため、NiとFeが一日程度で無電解反応による沈殿が形成され、めっきが出来なくなってしまう。沈殿反応を防止するためにはTMABの加水分解反応を抑制するためにpH緩衝剤を加えるのがより好ましい。pH緩衝剤としては、ギ酸、シュウ酸やマロン酸やコハク酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類や、L-アスコルビン酸、もしくはそれ以外のpH緩衝効果をもつ有機酸であれば例示した物質に限定しない。このときpH緩衝剤を添加すると保磁力とpHとの関係が緩衝剤の有無により変化する。更に前記軟磁性薄膜はこの有機系のpH緩衝剤に起因する炭素を含有することになる。
【0030】
図7は、図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、レジストを除去する工程図である。次に、図7に示すように、レジスト7を除去する。その結果、軟磁性薄膜6が下地通電層5上に残ることになる。
【0031】
図8は、図2に示した半導体装置の製造方法を説明するための工程図で、下地導電層を除去する工程図である。最後に、図8に示すように、不要になった下地導電層5を、軟磁性薄膜6をマスクとして、ドライエッチング法、もしくはウエットエッチング法により除去する。その際、磁性材料が同時にエッチングされないようにすることが重要である。
【0032】
また、電解めっきにより形成した軟磁性薄膜の評価法として、ホウ素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を、NiFeの配向度と結晶子のサイズはX線回折法を用いて算出した。また、磁気特性測定には、直流磁化測定装置を用いて測定を行った。
【0033】
軟磁性薄膜6中のホウ素量、炭素量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を用いて行った。塩酸(1+1)と硝酸中に軟磁性薄膜を投入し、ヒーター上で加熱させ、軟磁性膜、下地通電層を溶解させ、ICPで発光強度を測定し、濃度が既知の標準試料を溶解させた検量線から各元素の含有量の算出を行った。
【0034】
軟磁性薄膜の結晶配向性は、励起線としてCu Kα線を用いて、out of plane方向に2θ/ωでのX線回折法により測定を行い、結晶子NiFe合金由来の(111)と(200)のピーク強度の積分値を算出し、(111)と(200)のピーク積分値の合計に対し、(111)のピーク積分値がどの程度あるかを評価することで(111)への配向度(%)を評価した。また、結晶子サイズは、X線回折から得られたNiとFeの合金の(111)ピークの半価幅からScherrerの式を用いて算出した。
【0035】
また、磁気特性測定は、軟磁性薄膜を形成した半導体装置チップを試料台にセットし、電磁石により磁場を発生しながら試料を振動した際に発生する磁化曲線を描くことで、保磁力や残留磁束密度を算出した。
【0036】
以下、本発明の実施形態に基づき各実施例について具体的に説明する。なお、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1及び比較例1]
まず、本発明の半導体装置に係る軟磁性薄膜の実施例1及び比較例1について説明する。
半導体基板1としてシリコン基板を用いて、信号処理回路とホール素子を組み合わせたICを形成する。ICの外部接続用端子パッド3は、Alを用いて形成されており、Alパッドを開口してポリイミドを5μmの厚みで形成する。
【0037】
その上に下地通電層5としてスパッタリング法でTiを1500Å、Cuを6000Å形成したものに、20μmのポジレストを用いて、ICのチップ単位毎に、円形300μmの開口を露光、現像処理で開口した。
【0038】
レジスト開口を行った半導体基板1をカソードとしてめっき用ホルダにセットし、アノードとして純度が4NのNi板を用いて、電解めっきに浸漬し、通電を行うことで電解めっきを行った。電解用めっき液としては、硫酸鉄・7水和物を5g/Lに、硫酸ニッケル・6水和物を35g/L、塩化ニッケル・6水和物を85g/L配合しためっき液に、添加剤としてホウ酸、塩化ナトリウムをそれぞれ25g/L、サッカリン酸ナトリウムを1.5g/L、TMABを12g/Lを配合して、最後に1N塩酸を用いてめっき液のpHをp3.6で調整した薬液を用い、めっき時の陰極電流密度を6mA/cm2、液温を30℃に固定し、実施例1としては、pH緩衝剤としてクエン酸三ナトリウムを2.5、5.0、10.0、20.0、30.0g/L添加して電解めっきを行った。
【0039】
また、比較例1としてクエン酸三ナトリウムを添加しないで、軟磁性薄膜の膜厚が実施例と同様に13μmになるようめっき時間を調整し、電解めっきを行った。
【0040】
次に、NMPからなる有機溶剤でレジスト除去を行い、ウエットエッチング法でTiとCuを除去し、本発明の半導体装置を作成した。
【0041】
作成した半導体装置の軟磁性薄膜を塩酸(1+1)と硝酸中に溶解させてICP測定を行い軟磁性薄膜中のホウ素量を同定した。また、半導体装置に軟磁性薄膜が付いている状態で、X線回折を行い、結晶方位と結晶サイズ、そして、直流磁化測定装置により磁気特性評価を行い、TMABの添加量を変えることで軟磁性薄膜中のホウ素含有量を変化させることによる磁気特性及び結晶構造の影響を実験的に確かめた。
【0042】
図9は、実施例1及び比較例1における軟磁性薄膜中のクエン酸三ナトリウム添加量と保磁力の関係を示す図で、図10は、実施例1及び比較例1におけるクエン酸三ナトリウム添加量と残留磁束密度の関係を示す図で、図11は、実施例1及び比較例1におけるクエン酸三ナトリウム添加量と軟磁性薄膜6中のホウ素含有量の関係を示す図で、図12は、実施例1及び比較例1におけるクエン酸添加量と軟磁性薄膜6中の炭素含有量の関係を示す図である。
【0043】
図9で示すように同じTMABの添加量でも、めっき液中でのクエン酸三ナトリウムの添加量が2.5から20g/Lの間では保磁力は5A/m程度であり、クエン酸三ナトリウムを30g/L添加すると保磁力は30A/mに増加することからクエン酸三ナトリウムを20g/L以上添加するのは好ましくないと考えられる。また図10にはクエン酸添加量と軟磁性膜中の残留磁束密度の関係を示す。クエン酸三ナトリウムを20g/L以上添加すると残留磁束密度が0.5T程度まで増加することが分かった。また、図11では、クエン酸三ナトリウム添加量と軟磁性薄膜6中のホウ素含有量、図12では、クエン酸三ナトリウムの量添加量と炭素含有量の関係を調査した。比較例1のクエン酸が入っていない系では、ホウ素量が0.50重量%、炭素量が0.3重量%含有しているのに対し、クエン酸を2.5g/Lから10g/L添加することで、ホウ素の含有量が0.2重量%程度減少するのに対し、炭素量は0.2重量%増加することが確認できた。
【0044】
図13は、特許文献2と実施例1の軟磁性薄膜中のホウ素含有量と保磁力の関係を示す図である。図13に示しように、特許文献2のホウ素含有量と保磁力の関係を比較すると、特許文献2に比較して少ないホウ素量で低保磁力を実現出来ることが分かり、同じホウ素含有量でもTMAB単独よりも保磁力を小さくすることが出来ることを実験的に確認できた。また、特許文献2と同様に、クエン酸三ナトリウムを5.0g/L添加した軟磁性薄膜の結晶構造を評価したところ、(111)配向度(結晶方位)は73%であり、かつ結晶子サイズは8nmと非常に小さいことを確認した。
【0045】
更に、クエン酸の存在を確認するため、軟磁性膜中の有機酸をC量として同定するため併せて分析により定量された炭素が添加したクエン酸が供給源であることを同定するために、TOF―SIMSによりフラグメントの分析を行った。その結果を図14に示す。
【0046】
図14は、実施例1における軟磁性薄膜のTOF―SIMSでのクエン酸存在を同定宇するために実施した分析結果を示す図である。クエン酸のフラグメントイオン(C3H3O3)であるm/z=87とカルボン酸由来であるm/z=45のピークは検出されており、めっき液中に有機酸以外のカルボン酸源は供給していないことから、軟磁性薄膜中にクエン酸分子の存在を同定することができた。
【0047】
また、めっき液にクエン酸三ナトリウムを加えることで、めっき液の安定性が向上した。表1に示すように比較例1のTMABのみ添加しためっき液ではめっき液作成後2日でめっき液にFeの沈殿物と保磁力が55A/mまで大幅に増加したのに対し、実施例1のクエン酸を2.5g/L、5.0g/L添加した系では30日でも保磁力は増加せずめっき可能なことを実験的に確認できた。
【0048】
表1は、実施例1と比較例1のめっき液作成からの経時日数による保磁力の推移を示す表である。
【0049】
【表1】

【0050】
[比較例2]
実施例1の結果から、クエン酸にも保磁力低減効果があることが確認できたため、今度は上記実施例1の製法と基本的に同じであるが、TMABは添加せずにクエン酸のみを添加しためっき液を作成し、めっきを行った。その結果を図15に示す。
【0051】
図15は、実施例1及び比較例2におけるクエン酸三ナトリウム添加量と保磁力の関係を示す図である。実施例1と同じようにクエン酸濃度をふっても保磁力は30〜50A/mとなり、クエン酸三ナトリウム単独ではTMABのような保磁力を下げる効果がないことを確認でききた。クエン酸三ナトリウムは、TMABとクエン酸三ナトリウムを共存させることで保磁力を下げる効果が発現できることを実験的に確認できた。
【0052】
これらの結果から長期間の使用でも液が崩壊せず量産性に優れ、かつ保磁力を15A/m以下に下げるためには、TMABのようなホウ素系還元剤とクエン酸三ナトリウムのようなpH緩衝剤を共存させることが非常に重要であることを実験的に確認できた。
【0053】
[実施例2]
半導体基板としてGaAsを用い、ホール素子としては、InAsからなる化合物半導体を用いた。また、外部電極は、TiとAuの積層構造を蒸着法で形成した。ホール素子直上にはポリイミドを5μmの厚みで形成し、その上に下地通電層としてスパッタリング法でTiを1500Å、Cuを6000Å形成したものにレジストパターンを形成し、実施例2として、実施例1に記載したTMABを12g/L、クエン酸三ナトリウムを5.0g/L配合しためっき液を用い13μmの厚みで軟磁性膜を形成した。また、比較例2としてTMABを添加しないめっき液を用いて、13μmの厚みで軟磁性膜を形成した。レジスト剥離とエッチング処理を行い作成した素子に、磁場を+40mT→−40mT→+40mTに変化させながら、3V印加時のホール起電力のヒステリシス幅を評価した。
【0054】
ヒステリシス幅は、+40mT→−40mTに磁場を変えた時にホール出力がゼロになる磁場量と、逆に−40mT→+40mTに磁場を変えた時のホール出力がゼロになるときの磁場量の差で定義した場合、0.01mTと非常に小さなヒステリシス幅であることを確認できた。実際に半導体装置においても、軟磁性薄膜6中のホウ素量と炭素量を適切に管理することで、ヒステリシス量の小さい磁気センシングが実現でき、かつ量産性に優れた製造方法を提供出来ることが期待出来る。
【符号の説明】
【0055】
1 半導体基板
2 ホール素子
3 外部接続端子パッド
4 有機絶縁膜
5 下地導電層(金属導電膜)
6 軟磁性薄膜
7レジスト
7a レジスト空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形成された軟磁性薄膜の総重量を100重量%としたときの鉄含有量が15〜30重量%、ホウ素含有量が0.15〜0.35量%、電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を0.4〜0.8重量%、残部がニッケルである前記軟磁性薄膜を備え、該軟磁性薄膜で磁気収束することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記軟磁性薄膜の保磁力が、0.1〜15A/mであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
ホール素子を含む磁気センサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
形成された軟磁性薄膜の総重量を100重量%としたときの鉄含有量が15〜30重量%、ホウ素含有量が0.15〜0.35量%、電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を0.4〜0.8重量%、残部がニッケルである前記軟磁性薄膜を備えた半導体装置の製造方法であって、
1個以上のホール素子と半導体回路が設けられた半導体基板上に、絶縁材料を形成し、該絶縁材料の上に金属導電層を形成し、該金属導電層上で1個以上のホール素子の感磁部を覆うような位置に少なくともホウ素及び電解めっき液を安定化するpH緩衝剤に起因する炭素を含有した前記軟磁性薄膜を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記軟磁性薄膜が、ホウ素還元剤と電解めっき液を安定化するpH緩衝剤を配合しためっき液を用いて電解めっきで形成することを特徴とする請求項4に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−151285(P2012−151285A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8944(P2011−8944)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】