説明

半導体装置及び半導体装置の製造方法

【課題】フッ素添加カーボン膜からハードマスク層へのフッ素の突き抜けを抑え、熱処理後のハードマスク層の膜剥がれを抑える技術を提供する。
【解決手段】基板1上に形成されたフッ素添加カーボン膜20と、このフッ素添加カーボン膜20の上に形成され、SiCO膜23とSiO膜24とを含むハードマスク層と、前記フッ素添加カーボン膜20とハードマスク層との間に、SiN膜21とSiCN膜22とを下からこの順序で積層して形成されたバリア層と、を備える。SiN膜21によりフッ素添加カーボン膜からハードマスク層へのフッ素の突き抜けが抑えられ、SiCN膜22によりハードマスク層の成膜プロセス時のフッ素添加カーボン膜20の酸化を抑えることができるので、熱処理後のハードマスク層やバリア層の膜剥がれを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素添加カーボン膜を絶縁膜例えば層間絶縁膜として用い、この絶縁膜の上に、窒化シリコン膜と、シリコン、炭素及び窒素を含む膜とよりなるバリア層を形成し、このバリア層の上にシリコンと酸素とを含む膜を備えたハードマスク層を形成した半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の高集積化を図るために多層配線構造が採用されているが、各層間を絶縁する層間絶縁膜については、デバイスの動作の一層の高速化を図るために、比誘電率を低くすることが要求されている。このような要請から炭素(C)及びフッ素(F)の化合物であるフッ素添加カーボン膜(フロロカーボン膜)を採用することが検討されている。このフッ素添加カーボン膜は、原料ガスの種類を選定すれば例えば2.5以下の比誘電率を確保することができることから、層間絶縁膜として極めて有効な膜である。
【0003】
ところで、このフッ素添加カーボン膜は、いわば有機系の膜であることから、エッチング工程において、フッ素添加カーボン膜をエッチングするガスは、同時に有機系材料であるレジスト膜をもエッチングしてしまう。このため、フッ素添加カーボン膜を絶縁膜として用いるときには、エッチング時にマスクとしての機能を果たすハードマスク用の薄膜をフッ素添加カーボン膜の上に積層しておくことが必要である。このハードマスク用の薄膜の材質としては、SiO膜等が知られているが、特許文献1には、層間絶縁膜全体の比誘電率が高くなることを抑えるために、前記ハードマスク用の薄膜として、SiO膜と、比誘電率の低い酸素添加炭化ケイ素(SiCO)膜とを組み合わせて用いる技術が記載されている。このSiCO膜は、例えば酸素を20原子%程度含む炭化ケイ素膜である。
【0004】
この際、本発明者らは、フッ素添加カーボン膜のフッ素がハードマスク用の薄膜に移動することを防止するために、フッ素添加カーボン膜とハードマスク用の薄膜との間に、シリコン、炭素及び窒素を含む膜(以下「SiCN膜」という)をバリア層として形成することを検討している。ここでバリア層としてSiCN膜を用いるのは、シリコンと酸素との結合(Si−O結合)を有する薄膜では、当該膜中にフッ素添加カーボン膜のフッ素が入り込むと、このフッ素により前記Si−O結合が切断され、結果としてフッ素がハードマスク層側へ移動してしまうので、この結合がないバリア層を用いる必要があるからである。
【0005】
ところでフッ素添加カーボン膜の上にSiCN膜と、ハードマスク用の薄膜とを成膜するときには、例えば先ずトリメチルシランガスとアンモニアガスをプラズマ化することにより、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって、フッ素添加カーボン膜の上にSiCN膜を形成し、次いでシリコンと炭素と酸素とを含むガスをプラズマ化することにより、SiCN膜の上にSiCO膜を形成し、この後シリコンと酸素とを含むガスをプラズマ化することにより、SiCO膜の上にSiO膜を形成している。
【0006】
しかしながら、このプロセスによってフッ素添加カーボン膜の表面にSiCN膜とSiCO膜とSiO膜とを成膜すると、これらの成膜プロセス中にSiCN膜中にフッ素添加カーボン膜から多量のフッ素が入り込み、集積回路が製造された後の、例えば400度で熱処理を行う水素アニール工程や、集積回路製造途中の熱処理プロセス時に、この熱によってSiCN膜中のフッ素がSiCN膜を突き抜けてハードマスク層とSiCN膜との界面に移動してしまう。そしてこの界面でのフッ素濃度が高くなると、ハードマスク層がSiCN膜から剥がれ、この剥がれる力によって銅配線層が断線してしまうという問題が生じる。
【0007】
ここでフッ素添加カーボン膜の成膜プロセス温度が380℃程度と高い場合には、成膜時にフッ素添加カーボン膜から飛散するフッ素の量が多かったので、SiCN膜とSiCO膜とSiO膜等の成膜プロセス時に、SiCN膜中に入り込むフッ素の量が少なく、ハードマスク層とSiCN膜との界面に移動するフッ素量が少ないため、ハードマスク層の膜剥がれは発生しにくかった。しかしながら、近年、半導体装置を構成する膜のトータルの比誘電率をより低くしようとする要請があり、これに伴って前記膜への負荷を軽減するために、半導体装置の製造プロセス全体での熱量をより低くしたいという要望があることから、フッ素添加カーボン膜の成膜プロセスを345℃程度の温度で行っている。そしてこのような温度で成膜されたフッ素添加カーボン膜中にはフッ素が多く残っているので、結果としてSiCN膜とSiCO膜とSiO膜等の成膜プロセス時に、SiCN膜中に入り込むフッ素の量が多くなり、これによって既述のようにハードマスク層の膜剥がれが発生しやすくなってしまい、問題となっている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−302811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、絶縁膜であるフッ素添加カーボン膜の上にバリア層を介してシリコンと酸素とを含むハードマスク層が形成された半導体装置において、フッ素添加カーボン膜からハードマスク層へのフッ素の突き抜けを抑え、熱処理後のハードマスク層の膜剥がれを抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため本発明の半導体装置は、
基板上に形成されたフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に形成され、シリコンと酸素とを含む膜を備えたハードマスク層と、
前記絶縁膜とハードマスク層との間に、窒化シリコン膜と、シリコン、炭素及び窒素を含む膜と、を下からこの順序で積層して形成され、フッ素添加カーボン膜中のフッ素がハードマスク層へ移動することを抑えるためのバリア層と、を備えたことを特徴とする。ここで前記ハードマスク層におけるシリコンと酸素とを含む膜は、酸素添加炭化ケイ素膜又は二酸化シリコン膜である。
【0011】
また本発明の半導体装置の製造方法は、基板上にフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を成膜する工程と、
次いで前記基板の表面を、シリコン及び窒素の各活性種を含むプラズマに曝して、前記絶縁膜の上に、窒化シリコン膜よりなる第1のバリア層を成膜する工程と、
次いで前記基板の表面を、シリコン、炭素及び窒素の各活性種を含むプラズマに曝して、前記第1のバリア層の表面に、シリコン、炭素及び窒素を含む膜よりなる第2のバリア層を成膜する工程と、
次いで前記基板の表面を、シリコン及び酸素の各活性種を含むプラズマに曝して、前記第2のバリア層の上にシリコンと酸素とを含む膜を成膜する工程と、を含むことを特徴とする。ここで前記シリコンと酸素とを含む膜は、酸素添加炭化ケイ素膜又は二酸化シリコン膜である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フッ素添加カーボン膜を絶縁膜として使用すると共に、シリコンと酸素とを含む薄膜をハードマスク層として使用する場合に、フッ素添加カーボン膜の上に、窒化シリコン膜と、シリコン、炭素及び窒素を含む膜とを、下からこの順序で積層して設けているので、フッ素添加カーボン膜からハードマスク層へのフッ素の突き抜けと、ハードマスク用の薄膜を成膜するときに用いられる酸素によるフッ素添加カーボン膜の酸化が抑えられる。このためこのような積層構造膜を有する半導体装置では、各膜同士の密着性が向上し、後工程において熱処理を行ったときに、フッ素添加カーボン膜とバリア層との間や、バリア層とハードマスク層との間の膜剥がれの発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る半導体装置の製造方法の実施の形態として、多層配線構造を製造するための基板であって、絶縁膜内に金属例えば銅からなるn(nは1以上の整数)番目の配線層の上に(n+1)番目の配線層を形成する場合を例にとって説明する。図1(a)は、絶縁膜10内にn番目の配線層である銅配線層11が形成された、例えば半導体ウエハである基板1の表面構造の概略を示している。この実施の形態では、炭素とフッ素とを含む化合物の成膜ガス例えばCガスをプラズマ化し、前記基板1が置かれている雰囲気をプラズマ雰囲気にすることにより、Cガスから生成された活性種が基板1の表面に堆積して図1(b)に示すようにフッ素添加カーボン膜20からなる層間絶縁膜が例えば200nmの膜厚で成膜される。
【0014】
このようにフッ素添加カーボン膜20を形成した後、このフッ素添加カーボン膜20の上に第1のバリア層である窒化シリコン膜(以下「SiN膜」という)21を成膜する。このSiN膜21は、例えば窒素を30〜60原子%程度含むシリコン膜であり、ここでいう第1のバリア層は、後述するようにフッ素添加カーボン膜20からのフッ素をSiN膜21の上層側への移動を抑える機能を有する膜である。
【0015】
このSiN膜21を成膜するための原料ガスとしては、シリコンと窒素とを含むガス、例えばジクロルシラン(SiCl)ガス及びアンモニア(NH)ガスが用いられ、このジクロルシランガス及びアンモニアガスをプラズマ化させることで、プラズマ中に含まれるシリコン及び窒素の各活性種がフッ素添加カーボン膜20の表面に堆積して、図1(c)に示すように、SiN膜21が成膜される。この際、プロセス圧力は例えば13.3〜40Paに設定され、ウエハ温度は例えば345℃に設定される。またSiN膜21の膜厚は、5 〜20nm程度であることが好ましい。
【0016】
このようにフッ素添加カーボン膜20の上にSiN膜21を形成した後、このSiN膜21の表面に、図2(a)に示すように、第2のバリア層であるシリコン、炭素及び窒素を含む膜(以下「SiCN膜」という)22を成膜する。このSiCN膜22は、例えば窒素を10〜30原子%程度含む炭化ケイ素膜であり、ここでいう第2のバリア層は、後述するように当該SiCN膜22の上層側の膜の成膜プロセスで用いられる酸素の、当該SiCN膜22の下層側への移動を抑える機能を有する膜である。
【0017】
SiCN膜22を成膜するための原料ガスとしては、シリコンと炭素と窒素とを含むガス、例えばトリメチルシラン(Si(CH)ガス及びアンモニア(NH)ガスが用いられ、このトリメチルシランガス及びアンモニアガスをプラズマ化させることで、プラズマ中に含まれるシリコンおよび炭素と窒素の各活性種が、SiN膜21の表面に堆積して、図2(a)に示すように、窒化シリコン膜であるSiCN膜22が成膜される。この際、プロセス圧力は例えば13.3〜40Paに設定され、ウエハ温度は例えば345 ℃に設定される。またSiCN膜22の膜厚は、5〜 20nmで程度あることが好ましい。
【0018】
続いて後工程でハードマスクとして使用されることとなる第1のハードマスク層であるSiCO膜23を成膜する。SiCO膜23を成膜するための原料ガスとしては、シリコンを含む有機化合物のガス例えばトリメチルシランガス及び酸素(O)ガスが用いられ、このトリメチルシランガス及び酸素ガスをプラズマ化させることで、プラズマ中に含まれるシリコン、炭素及び酸素の各活性種が、SiCN22膜の上に堆積して、図2(b)に示すように、SiCO膜23が例えば 50nmの膜厚で成膜される。
【0019】
次いで、図2(c)に示すようにSiCO膜23の表面に当該SiCO膜23とは別の材質である第2のハードマスク層として二酸化シリコン(SiO)膜24を成膜する。SiO膜24を成膜するための原料ガスとしては、例えばテトラエチルオルトシリケート(Si(OC)などの有機ソースの蒸気(ガス)及び酸素ガスが用いられる。このテトラエチルオルトシリケートガス及び酸素ガスをプラズマ化させることで、プラズマ中に含まれるシリコン及び酸素の各活性種によりSiCO膜23の上にSiO膜24が、例えば150nmの膜厚で形成される。
【0020】
本発明では前記第1のバリア層と第2のバリア層とにより、フッ素添加カーボン膜20とハードマスク層との間に設けられたバリア層が形成され、前記第1のハードマスク層と、第2のハードマスク層とにより、シリコンと酸素とを含む膜を備えたハードマスク層が形成されている。
【0021】
このような積層構造膜には、例えば次の手法にて、銅配線層やビアホールが形成され、半導体装置が製造される。つまり、SiO膜24の上にレジスト膜を成膜し、且つパターンを形成し、そのレジストマスクを用いてSiO膜24をエッチングして前記パターンに対応する形状の第2のハードマスク層を得る(図3(a))。しかる後、ウエハの表面にレジスト膜25を成膜し、且つ前記パターンよりも幅の狭いパターンを形成し(図3(b))、そのレジストマスク25を用いてSiCO膜23を例えばハロゲン化物の活性種を含むプラズマによりエッチングして第1のハードマスク層を得、そしてこの第1のハードマスク層を用いて、SiCN膜22、SiN21膜、及びフッ素添加カーボン膜20を例えば酸素プラズマによりエッチングして、凹部26を形成する(図3(c))。また酸素プラズマによりエッチングすると、レジスト膜25とフッ素添加カーボン膜20の選択比が近似しているため、同時にレジスト膜25も除去される。
【0022】
更に、SiO膜24からなる第2のハードマスクを用いて、SiCO膜23をエッチングし、さらにSiCN膜22、SiN膜21、及びフッ素添加カーボン膜20をエッチングして、先のエッチングにより形成された凹部26よりも幅の広い凹部27を形成する(図4(a))。なお、幅の狭い凹部26はビアホールに相当し、幅の広い凹部27は当該層の回路の配線埋め込み領域(トレンチ)に相当する。しかる後、図4(b)に示すように配線金属である例えば銅28が埋め込まれ、凹部27以外の部分の銅28が例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)と呼ばれる研磨により除去されて、(n+1)層の銅配線層28が形成される(図4(c))。
【0023】
上述の実施の形態では、フッ素添加カーボン膜20とハードマスク層との間に、第1のバリア層であるSiN膜21と、第2のバリア層であるSiCN膜22とを、下側からこの順序で積層して形成しているので、フッ素添加カーボン膜20の酸化を抑えることができると共に、後工程の熱処理プロセスの際にフッ素添加カーボン膜20からハードマスク層へのフッ素の突き抜けを防止することができる。
【0024】
つまり後述の実施例により、本発明者らは、SiN膜21は、フッ素に対してはバリア性があるものの、酸素に対してはバリア性がないこと、及びSiCN膜22は、酸素に対してはバリア性があるものの、フッ素に対してはバリア性がないことを見出した。このためバリア層として第1のSiN膜21と第2のSiCN膜22とを組み合わせて設け、フッ素添加カーボン膜20の上にSiN膜21とSiCN膜22とをこの下側からこの順序で積層して形成することによって、フッ素添加カーボン膜20からのフッ素の拡散をSiN膜21により抑えることができ、かつフッ素添加カーボン膜20の酸化をSiCN膜22により抑えることができる。ここでフッ素添加カーボン膜20の酸化は、ハードマスク層を成膜するときに発生する酸素の活性種に起因するものと考えられる。
【0025】
従って本発明によれば、後の工程において熱処理プロセスを行ったときに、SiN膜21により、フッ素添加カーボン膜20からのフッ素の、SiN膜21の上層側への移動を抑えているので、SiCN膜22とSiCO膜23との界面のフッ素濃度が高くなり、これが原因となってハードマスク層がSiCN膜22から剥がれ、この剥がれる力によって銅配線層11,28が断線する事態を引き起こすことを確実に抑えることができる。
【0026】
またフッ素添加カーボン膜20への酸素の移動をSiCN膜22により抑えているので、ハードマスク層成膜時にフッ素添加カーボン膜20表面が酸化され、これによってSiN膜21との密着性が低下して、フッ素添加カーボン膜20とSiN膜21との間に膜剥がれが発生するといったことを抑えることができる。
【0027】
またSiN膜21は比誘電率が7と大きいが、バリア層としてSiN膜21とSiCN膜22とを組み合わせて設けており、夫々の厚さは5nm〜20nm程度であるので、トータルの比誘電率の増加を抑えることができる。
【0028】
このように、本発明の積層構造膜では、フッ素添加カーボン膜20よりなる絶縁膜と、この絶縁膜の上に形成されたシリコンと酸素とを含む膜を備えたハードマスク層と、を備える場合であって、これらの間に、バリア層としてSiN膜21とSiCN膜22とをフッ素添加カーボン膜20側からこの順序で積層したことによって上述の効果が発生されるものであり、このような積層構造膜を備えた半導体装置では、フッ素添加カーボン膜20とバリア層とハードマスク層との間の密着性を高め、これらの間での膜剥がれを確実に抑えることができる。
【0029】
なお、図2(c)では、SiN膜21の上にSiCN膜22を積層し、その上にSiCO膜23を成膜させたが、SiN膜21とSiCN膜22とを交互に複数層形成してから、SiCO膜23を形成するようにしてもよい。またハードマスク層は、シリコンと酸素とを含む膜を備えるものであればよく、SiCO膜23とSiO膜24との間に、例えばアモルファス炭化ケイ素膜(a−SiC膜)などの他の材質のハードマスク層を形成するようにしてもよい。
【0030】
続いて、上述した半導体装置の製造方法を実施するための半導体製造装置の一例について述べる。図5は、既述の図2(c)までの工程、即ちフッ素添加カーボン膜20、SiN膜21、SiCN膜22、SiCO膜23及びSiO膜24の各成膜工程を行うための半導体製造装置を示す図である。図5中において31及び32は、ウエハの搬送容器であるキャリアCがゲートドアGTを介して大気側から搬入されるキャリア室、33は第1の搬送室、34及び35は予備真空室、36は第2の搬送室であって、これらは気密構造とされており、大気側とは区画されている。
【0031】
前記第2の搬送室36及び予備真空室34、35は真空雰囲気とされるが、キャリア室31、32及び第1の搬送室33は不活性ガス雰囲気とされることもある。37は第1の搬送手段、38は第2の搬送手段である。また、第2の搬送室36には、層間絶縁膜であるフッ化添加カーボン膜20を成膜するための第1の成膜装置40と、バリア層であるSiN膜21及びSiCN膜22とを成膜するための第2の成膜装置41と、ハードマスク層であるSiCO膜23及びSiO膜24を成膜するための第3の成膜装置50と、が気密に接続されている。
【0032】
図5の半導体製造装置において、キャリアC内の基板1は、例えば第1の搬送手段37→予備真空室34(または35)→第2の搬送手段38→第1の成膜装置40の経路で搬送され、この第1の成膜装置40でフッ素添加カーボン膜20の成膜が行われる。そして、この基板1は第2の搬送手段38を介して、大気に晒されない状態で第2の成膜装置41に搬入されて、フッ素添加カーボン膜20の表面にSiN膜21と、SiCN膜22とがこの順序で形成され、その後、第3の成膜装置50に搬入されて、SiCN膜22の上にSiCO膜23及びSiO膜24がこの順序で形成される。しかる後、この基板1は上述と逆の経路でキャリアC内に戻される。
【0033】
ここでフッ化添加カーボン膜20を成膜する第1の成膜装置40について図6〜図8を参照しながら簡単に説明する。図中61は処理容器(真空チャンバ)、62は温調手段を備えた載置台であり、前記載置台62には例えば13.56MHzのバイアス用高周波電源63が接続されている。
【0034】
前記処理容器61の上部には載置台62と対向するように、例えば平面形状が略円形状に構成された例えばアルミナからなる第1のガス供給部64が設けられている。このガス供給部64における載置台62と対向する面には、多数の第1のガス供給孔65が形成されている。前記第1のガス供給孔65は、ガス流路66を介して第1のガス供給路67に連通している。前記第1のガス供給路67には、プラズマガスであるアルゴン(Ar)ガスやクリプトン(Kr)ガスなどのプラズマガス供給源が接続されている。
【0035】
また、前記載置台62と前記第1のガス供給部64との間には、例えば平面形状が略円形状に構成された導電体からなる第2のガス供給部68が設けられ、このガス供給部68における載置台62と対向する面には、多数の第2のガス供給孔69が形成されている。この第2のガス供給部68の内部には、例えば図7に示すように、第2のガス供給孔69の一端側と連通する格子状のガス流路71が形成されており、このガス流路71には、第2のガス供給路72の一端側が接続されている。また、第2のガス供給部68には、当該第2のガス供給部68を貫通するように、多数の開口部73が形成されている。この開口部73は、プラズマを当該第2のガス供給部68の下方側の空間に通過させるためのものであり、例えば隣接するガス流路71同士の間に形成されている。
【0036】
ここで第2のガス供給部68は、第2のガス供給路72を介して既述の原料ガスであるCガスの供給源(図示せず)と接続され、第2のガス供給路72を介してガス流路71に順次通流し、前記ガス供給孔69を介して、第2のガス供給部68の下方側の空間に一様に供給される。なお、74は排気管であり、真空排気手段75に接続されている。
【0037】
前記第1のガス供給部64の上部側には、例えばアルミナなどの誘電体により構成されたカバープレート76が設けられ、このカバープレート76の上部側には、当該カバープレート76と密接するようにアンテナ部77が設けられている。このアンテナ部77は、図8にも示すように、平面形状が円形の下面側が開口する扁平なアンテナ本体78と、このアンテナ本体78の前記開口部を塞ぐように設けられ、多数のスリットが形成された円板状の平面アンテナ部材(スリット板)79とを備えており、これらアンテナ本体78と平面アンテナ部材79とは導体により構成され、扁平な中空の円形導波管を構成している。
【0038】
また、前記平面アンテナ部材79とアンテナ本体78との間には、例えばアルミナや酸化ケイ素、窒化ケイ素等の低損失誘電体材料により構成された遅相板81が設けられている。この遅相板81は、マイクロ波の波長を短くして前記導波管内の管内波長を短くするためのものである。この実施の形態では、これらアンテナ本体78、平面アンテナ部材79、遅相板81によりラジアルラインスリットアンテナが構成されている。
【0039】
このように構成されたアンテナ部77は、前記平面アンテナ部材79がカバープレート76に密接するように図示しないシール部材を介して外部のマイクロ波発生手段83と接続され、例えば周波数が2.45GHzあるいは8.4GHzのマイクロ波が供給されるようになっている。この際、同軸導波管82の外側の導波管82Aは、アンテナ本体78に接続され、中心導体82Bは遅相板81に形成された開口部を介して平面アンテナ部材79に接続されている。
【0040】
前記平面アンテナ部材79は、例えば厚さ1mm程度の銅板からなり、図8に示すように例えば円扁波を発生させるための多数のスリット84が形成されている。このスリット84は、略T字状に僅かに離間させて配置した一対のスリット84A、84Bを1組として、周方向に沿って例えば同心円状や渦巻き状に形成されている。なお、このスリット84は略八字状に僅かに離間させて配置させてもよい。このようにスリット84Aと84Bとを相互に略直交するような関係で配列しているので、2つの直交する偏波成分を含む円偏波が放射されることになる。この際、スリット対84A、84Bを遅相板81により圧縮されたマイクロ波の波長に対応した間隔で配列することにより、マイクロ波が平面アンテナ部材79により略平面波として放射される。
【0041】
続いて、上記の成膜装置40により実施されるフッ素添加カーボン膜20の成膜プロセスの一例について説明する。先ず、基板1を処理容器61内に搬入して載置台62上に載置する。続いて、処理容器61の内部を所定の圧力まで真空引きし、第1のガス供給部64から処理容器61内にプラズマガス例えばArガスを所定の流量例えば200sccmで供給すると共に、原料ガス供給部である第2のガス供給部68から処理容器61内にCガスを所定の流量例えば100sccmで供給する。そして、処理容器61内を例えばプロセス圧力10.6Pa(80mTorr)に維持し、ウエハ温度を345℃に設定する。
【0042】
一方、マイクロ波発生手段83から2.45GHz、3000Wの高周波(マイクロ波)を供給すると、このマイクロ波は、TMモードあるいはTEモードで同軸導波管82内を伝搬してアンテナ部77の平面アンテナ部材79に到達し、同軸導波管の中心導体82Bを介して、平面アンテナ部材79の中心部から周縁領域に向けて放射状に伝搬される間に、スリット対84A、84Bからマイクロ波がカバープレート76、第1のガス供給部64を介して当該第1のガス供給部64の下方側の処理空間に向けて放出される。
【0043】
このとき既述のようにスリット対84A、84Bが配列しているので、円偏波が平面アンテナ部材79の平面に亘って均一に放出され、この下方側の空間の電界密度が均一化される。そして、このマイクロ波のエネルギーにより、第1のガス供給部64と第2のガス供給部68との間の空間に高密度で均一な例えばアルゴンガスのプラズマが励起される。一方、第2のガス供給部68から吹き出したCガスは、開口部73を介して上方側から流れ込んできた前記プラズマに接触して活性化され、Cガスから生成された活性種が基板1の表面に堆積してフッ素添加カーボン膜20からなる層間絶縁膜が成膜される。
【0044】
ここでプラズマを発生させる希ガスとしては、上述の例ではArガスを用いているが、その他の希ガス例えばヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどを用いることができる。また、フッ素添加カーボン膜の用途としては層間絶縁膜に限らず他の絶縁膜であってもよい。フッ化添加カーボン膜の原料ガスとしてはCガスに限らず、CFガス、Cガス、Cガス、Cガス及びCガスなどを用いてもよい。
【0045】
SiN膜21及びSiCN膜22を成膜する第2の成膜装置41としては、この例では既述の成膜装置40と同じ構成の装置が用いられ、第1のガス供給路67にプラズマガス例えばArガスの供給源が接続され、第2のガス供給路72に
ジシランガスの供給源及び窒素ガスの供給源と、トリメチルシランガスの供給源とが接続されている。この第2の成膜装置41においては、既にフッ素添加カーボン膜20が成膜された基板1を処理容器61内に搬入し、続いて、処理容器61の内部を所定の圧力まで真空引きする。そして、第1のバリア層であるSiN膜21の成膜が行われるが、その成膜プロセスは、先ず、第1のガス供給部64から処理容器61内にプラズマガス例えばArガスを所定の流量例えば600sccmで供給すると共に、第2のガス供給部68から処理容器61内にジシランガス及び窒素ガスを夫々所定の流量、例えば6sccm、50sccmで供給する。そして、処理容器61内を例えばプロセス圧力16Paに維持し、載置台62のウエハ温度を345℃に設定する。一方、マイクロ波発生手段83から2.45GHz、1500Wの高周波(マイクロ波)を供給することにより、このマイクロ波のエネルギーによってArガスをプラズマ化し、このプラズマによりジシランガス及び窒素ガスが励起され、フッ素添加カーボン膜20の上にSiN膜21が成膜される。
【0046】
続いて、第2のバリア層であるSiCN膜22の成膜が行われるが、その成膜プロセスは、例えばジシランガスからトリメチルシランガスに切り替えて、当該ガスを第2のガス供給部68から処理容器61内に例えば60sccmで供給し、窒素ガスを例えば50sccmで供給する他は、上記と同様の成膜プロセスである。こうしてマイクロ波エネルギーにより、Arガスをプラズマ化し、このプラズマによりトリメチルシランガスと窒素ガスとが励起されてSiN膜21の上にSiCN膜22が成膜される。またSiN膜21の原料ガスとしては、ジクロルシランガスとアンモニアガスとの組み合わせや、シランガスと窒素ガス等の組み合わせを用いてもよいし、SiCN膜22の原料ガスとしては、トリメチルシランガスとアンモニアガスとの組み合わせや、トリメチルシランガスとNOガス等の組み合わせを用いてもよい。
【0047】
SiCO膜23及びSiO膜23を成膜する第3の成膜装置50としては、この例では既述の成膜装置40と同じ構成の装置が用いられ、第1のガス供給路67にプラズマガス例えばArガスの供給源と酸素ガスの供給源とが接続され、第2のガス供給路72にトリメチルシランガスの供給源とテトラエチルオルトシリケートガスの供給源とが接続されている。
【0048】
この成膜装置50においては、既に第1及び第2のバリア層が成膜された基板1を処理容器61内に搬入して、第1のガス供給部64から処理容器61内にプラズマガス例えばArガス及び酸素ガスを所定の流量例えば1000sccm及び200sccmで夫々供給すると共に、第2のガス供給部68から処理容器61内にトリメチルシランガスを所定の流量例えば200sccmで供給する。そして、処理容器61内を例えばプロセス圧力33.3Pa(250mTorr)に維持し、載置台62のウエハ温度を345℃に設定し、マイクロ波発生手段83から2.45GHz、1500Wの高周波を供給することにより、第1のハードマスク層であるSiCO膜23の成膜を行う。この成膜では、マイクロ波のエネルギーにより、Arガスをプラズマ化し、このプラズマにより酸素ガス及びトリメチルシランガスが励起されてSiCN膜22の上にSiCO膜23が成膜される。
【0049】
続いて、例えばトリメチルシランガスからテトラエチルオルトシリケートガスに切り替えて当該ガスを第2のガス供給部68から処理容器61内に例えば100sccmで供給して、第2のハードマスク層であるSiO膜の成膜を行う。この成膜では、マイクロ波エネルギーにより、Arガスをプラズマ化し、このプラズマにより酸素ガスとテトラエチルオルトシリケートガスが励起されてSiCO膜23の上にSiO膜24が成膜される。
【0050】
このような半導体製造装置では、第2の搬送室36が真空雰囲気に設定されており、この搬送室36に第1〜第3の成膜室40,41,50が接続されているので、第1の成膜室40にてフッ素添加カーボン膜20を形成された基板1を、大気に晒さずに第2の成膜室41に搬送することができ、ここでフッ素添加カーボン膜20の上にSiN膜21を形成することができる。このためSiN膜21の成膜プロセス中に当該SiN膜21やフッ素添加カーボン膜20に大気中の酸素が侵入することを抑えることができ、フッ素添加カーボン膜20の酸化を防止できる。
【0051】
このようにフッ素添加カーボン膜20とSiN膜21の成膜プロセスは酸素が入り込まない雰囲気で行うことが要求されるので、上述の半導体製造装置のように、真空雰囲気に設定された搬送室に、複数の成膜室が接続された装置において行うことが好ましいが、SiN膜21とSiCN膜22とは別個の成膜室にて成膜するようにしてもよく、SiCN膜22、SiCO膜23やSiO膜24の成膜は、前記半導体製造装置の成膜室以外の成膜装置にて行うようにしてもよい。
【実施例】
【0052】
A.フッ化添加カーボン膜及びバリア層及びハードマスク層の成膜
(実施例1)
前記半導体製造装置において、図5に示した成膜装置40を用いて、基板であるシリコンベアウエハの上に、フッ素添加カーボン膜20を200nmの膜厚で成膜し、次いで、第2の成膜装置41を用い、フッ素添加カーボン膜20の上にバリア層として、厚さ10nmのSiN膜21と、厚さ8nmのSiCN22膜とを、この順序で成膜した。続いて、第3の成膜装置50を用い、SiCN22膜の上に、ハードマスク層として、厚さ50nmのSiCO膜23と、厚さ150nmのSiO膜24とを、この順序で成膜した。各膜のプロセス条件については既述の条件で行った。
【0053】
(比較例1)
フッ素添加カーボン膜20の上にSiN膜21を形成せずに、バリア層として厚さ10nmのSiCN膜22のみを形成し、ハードマスク層として、SiCO膜23とSiO膜24を形成した他は、実施例1と同様にして成膜を行った(図10参照)。
【0054】
(比較例2)
フッ素添加カーボン膜20の上にSiCN膜22を形成せずに、バリア層として厚さ8nmのSiN膜21のみを形成し、ハードマスク層として、SiCO膜23とSiO膜24を形成した他は、実施例1と同様にして成膜を行った(図11参照)。
B.密着性についての考察
実施例1及び比較例1,2の基板に対して、常圧、窒素雰囲気の下で、400℃で60分間、アニール処理を行った後、これら基板の表面を目視で観察し、またテープを貼り付けて膜剥れの状態を調べた。この結果、比較例1及び比較例2については、膜中から気泡が発生したことに基づく変色域が多く見られ、比較例1ではSiCN膜22とSiCO膜23との界面での膜剥がれが大きく、比較例2ではフッ素添加カーボン膜20とSiN膜21との界面で小さな膜剥がれがあった。
【0055】
これに対して実施例1については、比較例1のような変色域は全く見られず、
フッ素添加カーボン膜20とSiN膜21との界面や、SiCN膜22とSiCO膜23との界面でも膜剥がれの発生は全く見られなかった。従って、フッ素添加カーボン膜20とハードマスク層を構成するSiCO膜23との間に、バリア層としてSiN膜21とSiCN膜22とを積層して設けることにより、フッ素添加カーボン膜20とバリア層との間や、バリア層とハードマスク層との間の密着性が大きくなることが理解される。
【0056】
C.フッ素に対するバリア性の考察
実施例1の基板に対して、前記アニール処理の前後において、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)により、積層体中のフッ素濃度のプロファイルを調べた。また比較例1の基板及び比較例2の基板に対しても、同様のアニール処理の前後において積層体中のフッ素濃度のプロファイルを調べた。
【0057】
これらの結果を、実施例1については図9に、比較例1については図10に夫々示す。また図9(b)は、図9(a)のSiN膜21とSiCN膜22の近傍のデータを示したものである。図9、図10中、縦軸はフッ素濃度、横軸は膜の深さを夫々示し、実線がアニール処理前のデータ、点線がアニール実施後のデータを夫々示している。
【0058】
この結果、図10に示す比較例1のプロファイルでは、アニール処理後のSiCN膜22及びSiCO膜23中のフッ素濃度はアニール処理前に比べて高くなっていること、SiCN膜22とSiCO膜23との界面付近ではSiCN膜22中のフッ素濃度が約10原子%と高いことが認められた。これによりアニール処理によってフッ素添加カーボン膜20から遊離したフッ素がSiCN膜22を通過して、SiCO膜23まで至ることが確認され、SiCN膜22はフッ素添加カーボン膜20からのフッ素の拡散を防止するためのバリア層としてほとんど機能していないことが認められる。このため比較例1のテープテストで発生したSiCN膜22とSiCO膜23との界面での膜剥がれは、この領域でのフッ素濃度が高いことに起因していると推察される。
【0059】
一方、図9に示す実施例1のプロファイルでは、アニール処理後のSiN膜21とSiCN膜22のフッ素濃度はアニール処理前に比べて僅かに高くなっているものの、SiCN膜22とSiCO膜23との界面付近ではSiCN膜22中のフッ素濃度が約0.5原子%であり、アニール処理の前後においてほとんど変化しないこと、むしろアニール処理後のSiCO膜23中のフッ素濃度は低くなっていることが認められた。これによりアニール処理によってフッ素添加カーボン膜20からフッ素が遊離したとしても、SiN膜21を通過してSiCN膜22に至るフッ素は僅かであり、さらにほとんどのフッ素はSiCN膜22を通過しないことが確認され、SiN膜21はフッ素添加カーボン膜20から他の膜へのフッ素の突き抜けを防止するためのバリア層として機能することが理解される。さらに第1のバリア層としてSiN膜21を用い、この上に第2のバリア層としてSiCN膜22を積層することにより、フッ素添加カーボン膜20からSiCO膜23(ハードマスク層)へのフッ素の拡散を確実に防止できることが確認された。
【0060】
また比較例2の積層構造膜を形成する際、この積層構造膜中のSiN膜21のフッ素濃度を測定したところ、約0.6原子%であったことから、当該SiN膜21の成膜プロセス中での、SiN膜21へのフッ素の移動がほとんど起こらないことが認められる。さらに実施例1の積層構造を形成する際、この積層構造膜中のSiCN膜22のフッ素濃度を測定したところ、約1原子%であったことから、当該SiCN膜22の成膜プロセス中においても、SiCN膜22へのフッ素の移動がほとんど起こらず、この結果からもSiN膜21により、フッ素添加カーボン膜20からのフッ素の、SiN膜21の上層側への拡散を抑制していることが認められた。
D.酸素に対するバリア性の考察
実施例1及び比較例1,2について、SIMSにより積層構造膜の表面にイオンビームを照射スパッタしたときに放出される二次イオンを質量分析し、二次イオン強度を指標として積層構造膜中の酸素濃度のプロファイルを調べた。その結果を、比較例1及び比較例2については図11に、実施例1及び比較例2については図12に夫々示す。図11及び図12においては、縦軸は二次イオン強度(counts/sec)、横軸は膜の深さ(nm)を夫々示しており、図11及び図12中、実線は実施例1、一点鎖線は比較例1、点線は比較例2のデータを夫々示している。
【0061】
この結果、図11に示すプロファイルにより、比較例2のフッ素添加カーボン膜20中の酸素イオン強度は50(counts/sec)程度であることが認められ、これにより、ハードマスク層の成膜プロセスによって用いられる酸素の活性種が、比較例2のバリア層であるSiN膜21を透過してフッ素添加カーボン膜20まで到ってしまうため、SiN膜21はハードマスク層の成膜プロセス中に発生する酸素に対してほとんどバリア性はないと理解される。このため比較例2のテープテストで発生したフッ素添加カーボン膜20とSiN膜21との界面での膜剥がれは、フッ素添加カーボン膜20が前記酸素の活性種により酸化されたことに起因していると推察される。
【0062】
一方、比較例1のフッ素添加カーボン膜20中の酸素イオン強度は10(counts/sec)以下であり、フッ素添加カーボン膜20中に酸素はほとんど存在しないことが認められた。これにより、ハードマスク層の成膜プロセスによって用いられる酸素の活性種は、比較例1のバリア層であるSiCN膜22を透過しないことが確認され、この結果、SiCN膜22はハードマスク層の成膜プロセス中から来る酸素に対してバリア性があり、SiCN膜22をフッ素添加カーボン膜20とハードマスク層との間に設けることにより、ハードマスク層の成膜プロセスの際のフッ素添加カーボン膜20の酸化を抑制できることが認められた。
【0063】
さらに図12に示すプロファイルにより、バリア層としてSiN膜21とSiCN膜22とを備えた実施例1と、バリア層としてSiN膜21のみを備えた比較例2とを比較すると、実施例1のようにSiCN膜22をSiN膜21の上に積層することにより、SiN膜21とフッ素添加カーボン膜20との界面の酸素イオン強度ピークが、比較例2に比べて小さくなることが確認され、この結果からも実施例1の積層構造膜においては、SiCN膜22が酸素のバリア層として有効に機能し、これによってハードマスク層の成膜プロセスの際のフッ素添加カーボン膜20の酸化を確実に抑え、この結果密着性が向上し、膜剥がれの発生を防止できることが理解される。
E.ハードマスク層にフッ素が入り込むメカニズム
以上の実施例を踏まえ、本発明者らは、フッ素添加カーボン膜20のハードマスク層にフッ素が入り込むメカニズムを以下のように推察している。先ず比較例1の積層構造膜を形成する場合は、フッ素添加カーボン膜20の表面にSiCN膜22を成膜するが、このときにフッ素添加カーボン膜20のフッ素がSiCN膜22に入り込み、SiCNFを生成する。次いでこの表面にSiCO膜23を成膜し、この後SiO膜24を成膜すると、この成膜プロセスにおいて酸素プラズマが用いられるため、酸素の活性種がSiCO膜23を突き抜けて前記SiCN膜22に入り込み、ここに存在するSiCNFに酸素がアタックし、これにより窒素が抜けてしまうので、結果としてフッ素が遊離し易い状態となる。そこで後の工程においてアニール処理を行うと、このフッ素がハードマスク層中に入り込む。
【0064】
これに対してバリア層としてSiN膜21とSiCN膜22とを積層して設けると、先ずSiN膜21の成膜プロセスにおいて、フッ素添加カーボン膜20からSiN膜21に移動するフッ素がほとんど存在しないので、次のSiCN膜22の成膜プロセスにおいてフッ素がSiCN膜22に入り込むことが防止される。このためSiCN膜22内におけるSiCNFの生成が抑制され、ハードマスク層の成膜プロセスにおけるSiCNへの酸素のアタック等は起こるものの、SiCN膜22中のフッ素量が極めて少ないので、結果としてハードマスク層へのフッ素の拡散を抑えることができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態においてフッ素添加カーボン膜の成膜、及びSiN膜の成膜の様子を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態においてSiCN膜の成膜、SiCO膜及びSiO膜の成膜の様子を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態において半導体装置が段階的に製造されていく様子を示す工程図である。
【図4】本発明の実施の形態において半導体装置が段階的に製造されていく様子を示す工程図である。
【図5】本発明の実施の形態に用いられる真空処理システムの一例を示す平面図である。
【図6】本発明の実施の形態に用いられるプラズマ成膜装置の一例を示す縦断側面図である。
【図7】上記のプラズマ成膜装置に用いられる第2のガス供給部を示す平面図である。
【図8】上記のプラズマ成膜装置に用いられるアンテナ部を一部断面で示す斜視図である。
【図9】フッ素添加カーボン膜とSiN膜とSiCN膜とSiCO膜とSiO膜とを積層した積層構造膜(実施例1)中のフッ素濃度を示す特性図である。
【図10】フッ素添加カーボン膜とSiCN膜とSiCO膜とSiO膜とを積層した積層構造膜(比較例1)中のフッ素濃度を示す特性図である。
【図11】前記比較例1の積層構造膜と、フッ素添加カーボン膜とSiN膜とSiCO膜とSiO膜とを積層した比較例2の積層構造膜中の酸素イオン強度を示す特性図である。
【図12】前記実施例1の積層構造膜と、比較例2の積層構造膜中の酸素イオン強度を示す特性図である。
【符号の説明】
【0066】
1 基板
10 フッ素添加カーボン膜
11 銅配線層
20 フッ素添加カーボン膜
21 SiN膜
22 SiCN膜
23 SiCO膜
24 SiO
40 第1の成膜装置
41 第2の成膜装置
50 第3の成膜装置
61 処理容器
64 第1のガス供給部
67 第1のガス供給路
68 第2のガス供給部
72 第2のガス供給路
77 アンテナ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成されたフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に形成され、シリコンと酸素とを含む膜を備えたハードマスク層と、
前記絶縁膜とハードマスク層との間に、窒化シリコン膜と、シリコン、炭素及び窒素を含む膜と、を下からこの順序で積層して形成され、フッ素添加カーボン膜中のフッ素がハードマスク層へ移動することを抑えるためのバリア層と、を備えたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記ハードマスク層におけるシリコンと酸素とを含む膜は、酸素添加炭化ケイ素膜又は二酸化シリコン膜であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
基板上にフッ素添加カーボン膜からなる絶縁膜を成膜する工程と、
次いで前記基板の表面を、シリコン及び窒素の各活性種を含むプラズマに曝して、前記絶縁膜の上に、窒化シリコン膜よりなる第1のバリア層を成膜する工程と、
次いで前記基板の表面を、シリコン、炭素及び窒素の各活性種を含むプラズマに曝して、前記第1のバリア層の表面に、シリコン、炭素及び窒素を含む膜よりなる第2のバリア層を成膜する工程と、
次いで前記基板の表面を、シリコン及び酸素の各活性種を含むプラズマに曝して、前記第2のバリア層の上にシリコンと酸素とを含む膜を成膜する工程と、を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記シリコンと酸素とを含む膜は、酸素添加炭化ケイ素膜又は二酸化シリコン膜であることを特徴とする請求項3記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−273873(P2007−273873A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99770(P2006−99770)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「マイクロ波励起高密度プラズマ技術を用いた半導体製造装置の技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】