説明

半導体装置用多層接着シート及び半導体装置

【課題】 本発明においては、イオン捕捉性が高く、かつ、被着体との密着性が高い半導体装置用の多層接着シートを提供することを目的とする。
【解決手段】 金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物を含むイオン捕捉性組成物から形成されるイオン捕捉層、及び、接着性組成物から形成される接着層を含む、半導体装置用の多層接着シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置用の多層接着シート、該多層接着シートによってチップが被着体に積層された半導体装置、及び、該半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や、携帯オーディオ機器用のメモリパッケージチップを多段に積層したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及している。また、画像処理技術や携帯電話等の多機能化に伴い、パッケージの高密度化・高集積化・薄型化が推し進められている。
【0003】
一方、半導体製造のプロセス中に外部から、ウェハの結晶基板に金属イオン(例えば、銅イオンや鉄イオン)が混入し、この金属イオンがウェハ上に形成された回路形成面に到達すると、電気特性が低下するといった問題があった。また、製品使用中に回路やワイヤーから金属イオンが発生し、電気特性が低下するといった問題があった。
【0004】
上述した問題に対して、従来、ウェハの裏面を加工して破砕層(歪み)を形成し、この破砕層により金属イオンを捕捉して除去するエクストリンシック・ゲッタリング(以下、「EG」ともいう)や、ウェハの結晶基板中に酸素析出欠陥を形成し、この酸素析出欠陥により金属イオンを捕捉して除去するイントリンシック・ゲッタリング(以下、「IG」ともいう)が試みられている。
【0005】
しかしながら、近年のウェハの薄型化に伴い、IGの効果が小さくなるとともに、ウェハの割れや反りの原因となる裏面歪みが除去されることにより、EGの効果が得られなくなり、ゲッタリングの効果が充分に得られなくなるという問題があった。
【0006】
前記EG、IG以外の金属イオンを捕捉する方法として、半導体素子を基板等に固着する接着剤にイオン捕捉剤等を添加する方法が提案されている。具体的には、例えば、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有する銅イオン吸着層を備えるフィルム状接着剤(例えば、特許文献1参照)、イオン交換タイプ又はイオン吸着タイプのイオン捕捉剤を含む粘接着剤層及び基板からなる粘接着シート(例えば、特許文献2、3参照)、無機化合物からなるイオントラップ剤を含む接着剤組成物からなるフィルム状接着剤(例えば、特許文献4参照)、イオン交換体を含む接着剤組成物からなる接着シート(例えば、特許文献5参照)等が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1のフィルム状接着剤では、イオン捕捉剤として樹脂を用いているため、イオン捕捉性能の点では十分なものではなかった。また、特許文献2〜5においては、金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物の使用については全く検討がなされていないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−052109号公報
【特許文献2】特開2009−203337号公報
【特許文献3】特開2009−203338号公報
【特許文献4】特開2010−116453号公報
【特許文献5】特開2009−256630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の接着シートにおいては、前述のような問題があり、さらに、錯化剤等のイオン捕捉剤によって接着シートの化学的安定性、化学的反応性、物理特性等が変化し、基板等の被着体との密着性が低下するという点で改良の余地があった。従って、本発明においては、イオン捕捉性が高く、かつ、被着体との密着性が高い半導体装置用の多層接着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記問題点を解決すべく、半導体装置用の接着剤シートについて検討した。その結果、金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物を含むイオン捕捉層及び接着層を含む半導体装置用の多層接着シートとすることで、前記問題点を解消できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明においては、金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物を含有するイオン捕捉層を含有しているため、半導体装置の製造における各種プロセスにおいて外部から、ウェハの結晶基板等に混入し得る金属イオンを捕捉することができる。その結果、外部から混入する金属イオンがウェハ上に形成された回路形成面に到達し難くなり、製造される半導体装置の電気特性の低下が抑えられて製品信頼性を向上させることができる。さらに、本発明の多層接着シートは、イオン捕捉層とは別に接着層を有するため、基板等の被着体との密着性に優れるものである。
【0012】
有機低分子化合物が、含窒素複素環化合物、及び、一つの芳香環に水酸基を二つ以上有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物であることが好ましい。
【0013】
イオン捕捉性組成物及び接着性組成物が、エポキシ基を含有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0014】
イオン捕捉層及び接着層の膜厚が、それぞれ5〜100μmであることが好ましい。
【0015】
有機低分子化合物が、イオン捕捉層中の全成分100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましい。
【0016】
イオン捕捉性組成物が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び、シリカフィラーを含み、該熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び、シリカフィラーの合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂が10〜99重量部、熱硬化性樹脂が1〜30重量部、及び、シリカフィラーが0〜60重量部であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記多層接着シートによりチップが被着体に積層された半導体装置、及び、該半導体装置の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の多層接着シートの断面模式図である。
【図2】本発明の多層接着シートとダイシングフィルムからなるダイシング・ダイボンドフィルムの断面模式図である。
【図3】本発明の多層接着シートを介して半導体チップを実装した例を示す断面模式図である。
【図4】前記ダイシング・ダイボンドフィルムに於けるダイボンドフィルムを介して半導体チップを3次元実装した例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の半導体装置用の多層接着シート1は、図1に示すように、金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物を含むイオン捕捉性組成物から形成されるイオン捕捉層1a、及び、接着性組成物から形成される接着層1bを含む多層シートである。図2〜4においては、これらのイオン捕捉層1aと接着層1bが一体化された多層接着シート1として示す。
【0020】
1.イオン捕捉層
前記イオン捕捉性組成物は、金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物(以下、単に有機低分子化合物ということもある)を含むものであり、当該組成物から形成されるイオン捕捉層を有する本発明の多層接着シートは、半導体装置の製造における各種プロセス中に外部から混入する金属イオンを捕捉することができる。その結果、外部から混入する金属イオンがウェハ上に形成された回路形成面に到達し難くなり、電気特性の低下が抑えられて製品信頼性を向上させることができる。
【0021】
本発明において、前記有機低分子化合物により捕捉する金属イオンとしては、金属イオンであれば特に制限されないが、例えば、Na、K、Ni、Cu、Cr、Co、Hf、Pt、Ca、Ba、Sr、Fe、Al、Ti、Zn、Mo、Mn、V等のイオンを挙げることができる。
【0022】
本発明で用いる金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物は、金属イオンと錯体形成することができる樹脂とは区別されるものであり、その分子量としては、1000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。分子量の下限値は特に限定されるものではないが、通常50以上である。前記樹脂では、樹脂中の金属イオンの捕捉に寄与する官能基の割合が低く、その結果、金属イオンとの錯体形成がしにくくなる。従って、金属イオンと錯体形成することができる樹脂は、イオン捕捉性の点で十分なものではない。一方、分子量が1000以下の有機低分子化合物は、一分子中における金属イオンの捕捉に寄与する官能基の割合が高いため、金属イオンと錯体が形成しやすくなり、その結果、イオン捕捉性が高くなると考えられる。
【0023】
有機低分子化合物としては、金属イオンと錯体を形成するものであれば、特に制限されるものではないが、好適に金属イオンを捕捉できるという観点から、窒素含有化合物、水酸基含有化合物、カルボキシル基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、含窒素複素環化合物、及び、一つの芳香環に水酸基を二つ以上有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物であることがより好ましい。
【0024】
(窒素含有化合物)
前記窒素含有化合物としては、微粉末状のもの、有機溶媒に溶解し易いもの、又は、液状のものが好ましい。また、窒素含有化合物は、一分子中に一つ以上の窒素原子を有する化合物であればよいが、一分子中に二つ以上の窒素原子を有する化合物であることが好ましい。このような窒素含有化合物としては、好適に金属イオンを捕捉できる観点から、含窒素複素環化合物が好ましく、第三級窒素原子を環構成原子とする複素環化合物がより好ましい。ここで、第三級原子とは、第三級アミンの窒素原子を指すものである。
【0025】
含窒素複素環化合物としては、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ビピリジル化合物等を挙げることができるが、これらの中でも、銅イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点から、トリアゾール化合物がさらに好ましい。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0026】
前記トリアゾール化合物としては、特に制限されないが、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−{N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル}−5−クロロベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル}−5−クロロベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル}ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル}ベンゾトリアゾール、6−(2−ベンゾトリアゾリル)−4−t−オクチル−6’−t−ブチル−4’−メチル−2,2’−メチレンビスフェノール、1−(2’,3’−ヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1−(1’,2’−ジカルボキシジエチル)ベンゾトリアゾール、1−(2−エチルヘキシアミノメチル)ベンゾトリアゾール、2,4−ジ−t−ぺンチル−6−{(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル}フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ、オクチル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート、2−エチルヘキシル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−t−ブチルフェノール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(3’−t−ブチル−2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロ−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3,5−ジ(1,1−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]、(2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、メチル 3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール等があげられる。
【0027】
前記トリアゾール化合物の市販品としては、特に制限はされないが、城北化学(株)製の商品名:BT−120、BT−LX、CBT−1、JF−77、JF−78、JF−79、JF−80、JF−83、JAST−500、BT−GL、BT−M、BT−260、BT−365、TT−LX、BASF社の商品名:TINUVIN PS、TINUVIN P、TINUVIN P FL、TINUVIN 99−2、TINUVIN 109、TINUVIN 900、TINUVIN 928、TINUVIN 234、TINUVIN 329、TINUVIN 329 FL、TINUVIN 326、TINUVIN 326 FL、TINUVIN 571、TINUVIN 213、台湾永光化学公司製の製品名:EVESORB 81、EVESORB109、EVESORB 70、EVESORB 71、EVESORB 72、EVESORB 73、EVESORB 74、EVESORB 75、EVESORB 76、EVESORB 78、EVESORB 80、大和化成(株)製の商品名:VERZONE VT−120M等を挙げることができる。トリアゾール化合物は、防錆剤としても使用される。
【0028】
前記テトラゾール化合物としては、特に限定されないが、5−アミノ−1H−テトラゾール、5-フェニル−1H−テトラゾール等が挙げられる。
【0029】
前記ビピリジル化合物としては、特に限定されないが、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリンなどが挙げられる。
【0030】
(水酸基含有化合物)
前記水酸基含有化合物としては、特に制限されないが、微粉末状のもの、有機溶媒に溶解し易いもの、又は、液状のものが好ましい。このような水酸基含有化合物としては、より好適に金属イオンを捕捉できる観点から、キノール化合物、ヒドロキシアントラキノン化合物、ポリフェノール化合物、高級アルコールを挙げることができるが、銅イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点から、一つの芳香環に水酸基を二つ以上有する化合物が好ましく、ポリフェノール化合物がより好ましい。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0031】
前記キノール化合物としては、特に限定されないが、1,2−ベンゼンジオールなどが挙げられる。
【0032】
前記ヒドロキシアントラキノン化合物としては、特に限定されないが、アリザリン、アントラルフィンなどが挙げられる。
【0033】
前記ポリフェノール化合物としては、特に限定されないが、タンニン、タンニン誘導体(没食子酸、没食子酸メチル、没食子酸ドデシル、ピロガロール)などが挙げられる。
【0034】
前記高級アルコールとしては、炭素数6以上、特に炭素数6〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基を有するアルコールが挙げられる。
【0035】
(カルボキシル基含有化合物)
前記カルボキシル基含有化合物としては、特に限定されないが、カルボキシル基含有芳香族化合物、カルボキシル基含有脂肪酸化合物等が挙げられる。
【0036】
前記カルボキシル基含有芳香族化合物としては、特に限定されないが、フタル酸、ピコリン酸、ピロール−2−カルボン酸等が挙げられる。
【0037】
前記カルボキシル基含有脂肪酸化合物としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、カルボン酸系キレート試薬、等が挙げられる。
【0038】
前記カルボキシル酸系キレート試薬の市販品としては、特に制限はされないが、キレスト(株)製の製品名:キレストA、キレスト110、キレストB、キレスト200、キレストC、キレストD、キレスト400、キレスト40、キレスト0D、キレストNTA、キレスト700、キレストPA、キレストHA、キレストMZ−2、キレストMZ−4A、キレストMZ−8を挙げることができる。
【0039】
前記金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物の配合量は、イオン捕捉性組成物の全成分100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましく、0.2〜5重量部であることがさらに好ましく、0.3〜3重量部であることが特に好ましい。0.1重量部以上とすることにより、金属イオン(特に、銅イオン)を効果的に捕捉することができ、10重量部以下とすることにより、耐熱性の低下やコストの増加を抑制することができる。また、本発明の多層接着シートにおけるイオン捕捉層中の全成分に対する有機低分子化合物の配合量は、前記イオン捕捉性組成物中の全成分に対する有機低分子化合物の配合量と同じである。
【0040】
イオン捕捉性組成物は、熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含有することがより好ましい。
【0041】
前記熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、又は、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で又は2種以上を併用して用いることができ、特に、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の少なくともいずれか一方を用いることが好ましい。
【0042】
前記エポキシ樹脂は、接着性組成物として一般に用いられるものであれば特に限定は無く、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型等の二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂、又は、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型若しくはグリシジルアミン型等のエポキシ樹脂が用いられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらのエポキシ樹脂のうちノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型樹脂、又は、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0043】
イオン捕捉性組成物にエポキシ樹脂を含む場合、水酸基又はカルボキシル基含有樹脂を併用して用いることが好ましく、耐熱性の観点からは、フェノール樹脂を併用することが好ましい。また、イオン捕捉性組成物に後述のエポキシ基を有する熱可塑性樹等を含む場合、前記フェノール樹脂は、前記エポキシ基を有する熱可塑性樹脂等と反応することができる。前記フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラヒドロキシスチレン等のポリヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらのフェノール樹脂の中でも、半導体装置の接続信頼性を向上させることができる点から、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂が特に好ましい。
【0044】
また、前記エポキシ樹脂、エポキシ基を有する熱可塑性樹脂、水酸基又はカルボキシル基含有樹脂の配合割合としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記エポキシ樹脂成分又はエポキシ基を有する熱可塑性樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、水酸基含有樹脂成分中の水酸基又はカルボキシル基含有樹脂成分中のカルボキシル基が0.5〜2.0当量になるように配合すること好ましく、0.8〜1.2当量がより好ましい。配合割合が前記範囲内にあることで、十分な反応が進行するため好ましい。
【0045】
前記熱硬化性樹脂の配合割合としては、イオン捕捉性組成物中1〜30重量%の範囲内であることが好ましく、1〜20重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
前記熱可塑性樹脂としては、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又は、フッ素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらの熱可塑性樹脂のうち、イオン性不純物が少なく耐熱性が高く、半導体素子の信頼性を確保できるアクリル樹脂が特に好ましい。
【0047】
前記アクリル樹脂としては、特に限定されるものではなく、炭素数30以下、特に炭素数4〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの1種又は2種以上を成分とする重合体(アクリル共重合体)等が挙げられる。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、へプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、又は、ドデシル基等が挙げられる。
【0048】
また、前記重合体を形成する他のモノマーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸若しくはクロトン酸等の様なカルボキシル基含有モノマー、無水マレイン酸若しくは無水イタコン酸等の様な酸無水物モノマー、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル若しくは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等の様なヒドロキシル基含有モノマー、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート若しくは(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等の様なスルホン酸基含有モノマー、又は、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等の様な燐酸基含有モノマー、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等の様なエポキシ基含有モノマーが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。なお、前記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を表す。
【0049】
また、本発明においては、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂が好適に架橋し、良好な信頼性が得られる点から、エポキシ基又はカルボキシル基を有する熱可塑性樹等を用いることが好ましく、エポキシ基を有するアクリル樹脂又はカルボキシル基を有するアクリル樹脂を用いることがより好ましい。エポキシ基を有するアクリル樹脂としては、前述のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルと、エポキシ基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。エポキシ基含有モノマーとしては、前述と同様のものを挙げることができる。エポキシ基を有するアクリル樹脂の市販品としては、ナガセケムテックス(株)製の商品名:SG−P3等を挙げることができる。また、カルボキシル基を有するアクリル樹脂としては、前述のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルと、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。カルボキシル基を有するアクリル樹脂の市販品としては、ナガセケムテックス(株)製の商品名:SG−708−6等を挙げることができる。
【0050】
前記熱可塑性樹脂の配合割合としては、所定条件下で加熱した際に多層接着シートが熱硬化型としての機能を発揮する程度であれば特に限定されないが、イオン捕捉性組成物中30〜95重量%の範囲内であることが好ましく、50〜60重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0051】
前記イオン捕捉性組成物から形成されるイオン捕捉層を予めある程度架橋させておく場合には、重合体の分子鎖末端の官能基等と反応する多官能性化合物を架橋剤として添加させておくのがよい。これにより、高温下での接着特性を向上させ、耐熱性の改善を図ることができる。
【0052】
前記架橋剤としては、従来公知のものを採用することができる。特に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートの付加物等のポリイソシアネート化合物がより好ましい。架橋剤の添加量としては、特に限定されるものではないが、例えば、架橋性の官能基を有する重合体100重量部に対して、7重量部以下とすることが好ましく、0.05〜7重量部とすることがより好ましい。架橋剤の量が7重量部より多いと、接着力が低下するので好ましくない。また、この様なポリイソシアネート化合物と共に、必要に応じて、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物を一緒に含ませるようにしてもよい。
【0053】
また、前記イオン捕捉性組成物には、その用途に応じてフィラーを適宜配合することができる。フィラーの配合は、前記イオン捕捉性組成物より得られるイオン捕捉層を含む多層接着シートへの導電性の付与や熱伝導性の向上、弾性率の調節等を可能とする。前記フィラーとしては、無機フィラー、及び、有機フィラーが挙げられるが、取り扱い性の向上、熱電導性の向上、溶融粘度の調整、チキソトロピック性付与等の特性の観点から、無機フィラーが好ましい。
【0054】
前記無機フィラーとしては、特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウィスカ、窒化ほう素、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。熱電導性の向上の観点からは、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ほう素、結晶質シリカ、非晶質シリカが好ましい。また、上記各特性のバランスがよいという観点からは、結晶質シリカ、又は、非晶質シリカが好ましい。また、導電性の付与、熱電導性の向上等の目的で、無機フィラーとして、導電性物質(導電フィラー)を用いることとしてもよい。導電フィラーとしては、銀、アルミニウム、金、胴、ニッケル、導電性合金等を球状、針状、フレーク状とした金属粉、アルミナ等の金属酸化物、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。
【0055】
前記フィラーの平均粒径は、0.005〜10μmとすることができる。前記フィラーの平均粒径を0.005μm以上とすることにより、接着性を良好とすることができる。また、10μm以下とすることにより、上記各特性の付与のために加えたフィラーの効果を十分なものとすることができるとともに、耐熱性を確保することができる。なお、フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(HORIBA製、装置名;LA−910)により求めた値である。
【0056】
なお、前記イオン捕捉性組成物には、前記有機低分子化合物や前記フィラー以外に、必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては、陰イオン捕捉剤、分散剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、硬化促進剤などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0057】
イオン捕捉性組成物は、前記有機低分子化合物以外に、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び、シリカフィラーを含むものが好ましく、当該熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び、シリカフィラーの合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂が10〜99重量部、熱硬化性樹脂が1〜30重量部、及び、シリカフィラーが0〜60重量部であることが好ましく、熱可塑性樹脂が20〜98重量部、熱硬化性樹脂が2〜30重量部、及び、シリカフィラーが0〜60重量部であることがより好ましい。前記範囲内であることにより、高温で高い弾性率を有することができ、良好な信頼性が得られるため好ましい。
【0058】
前記イオン捕捉性組成物の製造方法としては、特に限定されず、例えば、金属イオンと錯体を形成する有機低分子化合物と、必要に応じて、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、他の添加剤を容器に投入して、有機溶媒に溶解させ、均一になるように攪拌することによってイオン捕捉性組成物溶液として得ることができる。
【0059】
前記有機溶媒としては、イオン捕捉層を構成する成分を均一に溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。このような溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、トルエン、キシレン等が挙げられる。乾燥速度が速く、安価で入手できる点でメチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどを使用することが好ましい。
【0060】
2.接着層
本発明の多層接着シート中の接着層は、接着性組成物から形成されるものである。接着性組成物は、特に限定されるものではなく、本分野において用いられる接着剤等であれば用いることができるが、基板等の被着体との密着性の向上の点から、前記金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物を実質的に含まないものであることが好ましい。ここで、実質的に含まないとは、接着性組成物の樹脂成分100重量部に対して、有機低分子化合物が0.1重量部未満であることを指すものであり、より好ましくは0.05重量部未満、さらに好ましくは0.01重量部未満である。このような有機低分子化合物を実質的に含まない接着層は、熱を加えた後であっても過剰に硬化が進むことがないため、基板等の被着体と該接着層の間に発生したボイドを、モールド工程において良好に拡散することができる。また、前記有機低分子化合物は、低分子量であるため移行しやすく、該有機低分子化合物を含む接着シートをダイシング・ダイボンドフィルムのダイボンドフィルムとして用いた場合には、該有機低分子化合物がダイシングテープに移行してしまうという問題があった。しかしながら、本発明の多層接着シートでは前記接着層を有するため、該有機低分子化合物がダイシングテープに移行することを抑制することができるものである。
【0061】
接着性組成物は、金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物以外の組成については、前述のイオン捕捉性組成物と同様の組成とすることができる。具体的には、接着性組成物には、前述の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、フィラー、その他の添加剤を含むことができ、その配合割合としても、イオン捕捉性組成物と同様である。また、接着性組成物とイオン捕捉性組成物の組成は、金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物の添加の有無以外において、全く同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0062】
接着性組成物としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び、シリカフィラーを含むものが好ましく、当該熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び、シリカフィラーの合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂が10〜99重量部、熱硬化性樹脂が1〜30重量部、及び、シリカフィラーが0〜60重量部であることが好ましく、熱可塑性樹脂が20〜98重量部、熱硬化性樹脂が2〜30重量部、及び、シリカフィラーが0〜60重量部であることがより好ましい。前記範囲内であることにより、高温で高い弾性率を有することができ、良好な信頼性が得られるため好ましい。
【0063】
3.多層接着シート
本発明の多層接着シートは、前記イオン捕捉層及び接着層からなる二層構成であってもよく、本発明の効果を損なわない範囲で前記イオン捕捉層と前記接着層の間にさらに別の層を含んでいてもよく、前記接着層の両側に前記イオン捕捉剤層があってもよい。
【0064】
本発明の多層接着シートは、例えば、次の通りにして作製される。先ず、前記イオン捕捉性組成物溶液を作製する。次に、イオン捕捉性組成物溶液を基材セパレータ上に所定厚みとなる様に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させる。基材セパレータとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等が使用可能である。また、塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。また、乾燥条件としては、例えば乾燥温度70〜160℃、乾燥時間1〜5分間の範囲内で行われる。これにより、本発明の多層接着シートのイオン捕捉層が得られる。
【0065】
次に、前記接着性組成物溶液を作製し、前記イオン捕捉層と同様の方法で接着層を作製する。
【0066】
このようにして得られたイオン捕捉層と接着層を貼り合わせることで、本発明の多層接着シートを得ることができる。これらの層は粘着質な層であるため、単に貼り合わせることで接着することもできるし、必要であれば温度と圧力を加えてもよく、もしくは公知の接着剤を用いて貼り合わせることもできる。前記温度や圧力の条件は、用いるイオン捕捉層と接着層により適宜設定することができる。
【0067】
イオン捕捉層及び接着層の膜厚は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ5〜100μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。膜厚が5μmより大きいことで、被着体とボイドなく接着できるため好ましい。
【0068】
本発明の多層接着シートは、金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物が含有されているイオン捕捉層を有するため、半導体装置の製造における各種プロセス中に外部から混入する金属イオンを捕捉することができ、その結果、混入した金属イオンがウェハ上に形成された回路形成面に到達し難くなり、電気特性の低下が抑えられて製品信頼性を向上させることができる。また、本発明の多層接着シートは、前記有機低分子化合物を実質的に含有しない接着層を有するため、基板等の被着体との接着性が良好であり、被着体と接着シートの間に発生するボイドをモールド工程において拡散することができるため、被着体との密着性を向上することができるものである。
【0069】
前記の実施形態では、イオン捕捉性組成物や接着性組成物に含有させる主成分として、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いる場合について説明したが、本発明においては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂に替えて、セラミック系、セメント系、はんだ等の無機系の接着剤成分を含有させることとしてもよい。
【0070】
本発明の多層接着シートは、半導体装置の製造に好適用いることができる。具体的には、リードフレーム等の被着体に半導体チップを固着するためのダイボンドフィルムや、フリップチップ型半導体装置の半導体チップの裏面を保護する保護フィルムや、半導体チップを封止するための封止シートとして用いられるものが挙げられる。
【0071】
本発明の多層接着シートをダイボンドフィルムとして用いる場合には、イオン捕捉層1a(図1)側に半導体ウェハ(半導体チップ)を積層し、接着層1b(図1)側にダイシングフィルム(又は被着体)を積層することが好ましい。
【0072】
前記多層接着シートのイオン捕捉層は、重さ2.5gに切り出し、175℃で5時間加熱させた後、これを10ppmのCu(II)イオン水溶液50mL中に浸漬し、120℃で20時間放置した後の前記水溶液中のCu(II)イオン濃度が、9.8ppm未満であることが好ましく、0〜9.5ppmであることがより好ましく、0〜9ppmであることがさらに好ましい。前記範囲内にあることで、半導体装置の製造における各種プロセス中に外部から混入する金属イオンがより捕捉され易い。その結果、外部から混入する金属イオンがウェハ上に形成された回路形成面により到達し難くなり、電気特性の低下が抑えられてより製品信頼性を向上させることができる。
【0073】
4.半導体装置及びその製造方法
本発明は、前記多層接着シートによりチップが被着体に積層された半導体装置、及び、前記多層接着シートによりチップを被着体に積層する工程を含む半導体装置の製造方法に関する。以下に、本発明の多層接着シートをダイボンドフィルムとして使用した場合における半導体装置及びその製造方法の一実施形態について、図を用いて具体的に説明する。
【0074】
以下では、従来公知のダイシングフィルムに、本発明の多層接着シート1(以下、ダイボンドフィルム1ともいう)が積層されたダイシング・ダイボンドフィルム2を用いた半導体装置の製造方法について説明する(図2)。なお、本実施形態に係るダイシングフィルムは、基材4上に粘着剤層3が積層された構造である。
【0075】
先ず、図2に示すように、ダイシング・ダイボンドフィルム2に於けるダイボンドフィルム1のイオン捕捉層1a側の、半導体ウェハ貼り付け部分1c上に半導体ウェハ5を圧着し、これを接着保持させて固定する(マウント工程)。本工程は、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。
【0076】
次に、半導体ウェハ5のダイシングを行う。これにより、半導体ウェハ5を所定のサイズに切断して個片化し、半導体チップ6を製造する。ダイシングは、例えば半導体ウェハ5の回路面側から常法に従い行われる。また、本工程では、例えばダイシング・ダイボンドフィルム2まで切込みを行なうフルカットと呼ばれる切断方式等を採用できる。本工程で用いるダイシング装置としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。また、半導体ウェハ5は、ダイシング・ダイボンドフィルム2により接着固定されているので、チップ欠けやチップ飛びを抑制できると共に、半導体ウェハ5の破損も抑制できる。
【0077】
ダイシング・ダイボンドフィルム2に接着固定された半導体チップを剥離する為に、半導体チップ6のピックアップを行う。ピックアップの方法としては特に限定されず、従来公知の種々の方法を採用できる。例えば、個々の半導体チップ6をダイシング・ダイボンドフィルム2側からニードルによって突き上げ、突き上げられた半導体チップ6をピックアップ装置によってピックアップする方法等が挙げられる。
【0078】
ここでピックアップは、粘着剤層3が紫外線硬化型の場合、該粘着剤層3に紫外線を照射した後に行う。これにより、粘着剤層3のダイボンドフィルム1に対する粘着力が低下し、半導体チップ6の剥離が容易になる。その結果、半導体チップを損傷させることなくピックアップが可能となる。
【0079】
次に、図3に示すように、ダイシングにより形成された半導体チップ6を、ダイボンドフィルム1(半導体ウェハ貼り付け部分1c)を介して被着体8にダイボンドする。この場合、ダイボンドフィルム1の接着層1b側が被着体と接する。ダイボンドは圧着により行われる。ダイボンドの条件としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。ここで、被着体8とは、例えば、樹脂基板、リードフレーム、Siウェハ等を挙げることができる。
【0080】
次に、被着体8の端子部(インナーリード)の先端と半導体チップ6上の電極パッド(図示しない)とをボンディングワイヤー9で電気的に接続するワイヤーボンディング工程を行う。前記ボンディングワイヤー9としては、例えば、金線、アルミニウム線又は銅線等が用いられる。ワイヤーボンディングを行う際の温度は、80〜250℃、好ましくは80〜220℃の範囲内で行われる。また、その加熱時間は数秒〜数分間行われる。結線は、前記温度範囲内となる様に加熱された状態で、超音波による振動エネルギーと印加加圧による圧着エネルギーの併用により行われる。尚、ワイヤーボンディング工程は、加熱処理によりダイボンドフィルム1を熱硬化させることなく行う。
【0081】
ダイボンドフィルム1は、接着層1bに有機低分子化合物を実質的に含まないため、ワイヤーボンディング工程における熱履歴によっても、過剰に硬化が進むことなく、被着体と接着層の間に発生したボイドをモールド工程において除去することができる。
【0082】
続いて、封止樹脂7により半導体チップ6を封止する封止工程を行う。本工程は、被着体8に搭載された半導体チップ6やボンディングワイヤー9を保護する為に行われる。本工程は、封止用の樹脂を金型で成型することにより行う。封止樹脂7としては、例えばエポキシ系の樹脂を使用する。
【0083】
前記マウント工程においては、一般的に被着体8とダイボンドフィルム1の接着層1bとの界面等に気泡が混入している。本封止工程では、この気泡が、樹脂封止時の圧力等により封止樹脂7等に拡散され、その影響が低減される。なお、前記の通り、ダイボンドフィルム1は、接着層1bに有機低分子化合物を実質的に含まないため、ワイヤーボンディング工程における熱履歴による急激な硬化反応の進行が抑制されている。その結果、封止工程において気泡を容易に拡散させることができ、接着界面での気泡による剥離を防止することができる。
【0084】
次に、後硬化工程に於いて、前記封止工程で硬化不足の封止樹脂7を完全に硬化させる。封止工程に於いてダイボンドフィルム1が熱硬化されない場合でも、本工程に於いて封止樹脂7の硬化と共にダイボンドフィルム1を熱硬化させて接着固定が可能になる。本工程に於ける加熱温度は、封止樹脂の種類により異なるが、例えば165〜185℃の範囲内であり、加熱時間は0.5分〜8時間程度である。
【0085】
また、本発明の多層接着シート(ダイボンドフィルム)は、図4に示すように、複数の半導体チップを積層して3次元実装をする場合にも好適に用いることができる。図4に示す3次元実装の場合、先ず半導体チップと同サイズとなる様に切り出した少なくとも1つのダイボンドフィルム1を被着体8上に貼り付けた後、ダイボンドフィルム1を介して半導体チップ6を、そのワイヤーボンド面が上側となる様にして貼り付ける。次に、ダイボンドフィルム1(本発明の多層接着シートであっても、それ以外のダイボンドフィルムであってもよい)を半導体チップ6の電極パッド部分を避けて貼り付ける。更に、他の半導体チップ10をダイボンドフィルム1上に、そのワイヤーボンド面が上側となる様にしてダイボンドする。
【0086】
次に、ワイヤーボンディング工程を行う。これにより、半導体チップ6及び他の半導体チップ10に於けるそれぞれの電極パッドと、被着体8とをボンディングワイヤー9で電気的に接続する。尚、本工程は、ダイボンドフィルム1の加熱工程を経ることなく実施される。
【0087】
続いて、封止樹脂7により半導体チップ6等を封止する封止工程を行い、封止樹脂を硬化させる。次に、後硬化工程に於いて、前記封止工程で硬化不足の封止樹脂7を完全に硬化させる。
【0088】
上述した実施形態では、本発明の多層接着シートがダイボンドフィルムである場合について説明したが、前記多層接着シートは、半導体装置の製造に用いられるものであれば特に制限されない。フリップチップ型半導体装置の半導体チップの裏面を保護する保護フィルムや、フリップチップ型半導体装置の半導体チップの表面と被着体との間を封止するための封止シートであってもよい。
【実施例】
【0089】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の要旨をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。
【0090】
実施例1
(イオン捕捉層)
下記(a)〜(d)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%のイオン捕捉性組成物溶液を得た。
(a)官能基としてエポキシ基を有するアクリル樹脂(ナガセケムテックス(株)製、SG−P3、重量平均分子量85万) 60部
(b)フェノール樹脂(明和化成(株)製、商品名;MEH−7851H) 5部
(c)シリカフィラー((株)アドマテックス社製、製品名:SC−2050、平均粒径:0.5μm) 35部
(d)有機低分子化合物(大和化成(株)製、商品名;VERZONE VT−120M、化学名:5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール) 0.3部
【0091】
このイオン捕捉性組成物溶液を、剥離ライナとしてシリコーン離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)からなる離型処理フィルム上に塗布した。更に、130℃で2分間乾燥させたことにより、厚さ5μmのイオン捕捉層を作製した。
【0092】
(接着層)
(d)を0重量部に変更した以外は、上記と同様の手順で厚さ10μmの接着層を作製した。
【0093】
(多層接着シートの作製)
作製したイオン捕捉層と接着層を、ラミネーターを用いて温度40℃、圧力0.2MPa、速度10mm/秒の条件で貼り合わせて、二層構成の接着シートを作製した。
【0094】
実施例2〜10、比較例1〜4
組成及び膜厚を表1に示す値に変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして多層接着シートを得た。なお、表中の有機低分子化合物は、以下のものを用いた。
【0095】
SG−708−6:ナガセケムテックス(株)製、官能基としてカルボキシル基を有するアクリル樹脂、数平均分子量70万g/mol、酸価9mgKOH/g
EPPN−501HY:日本化薬(株)製、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:169g/eq
没食子酸ドデシル:東京化学工業(株)製(商品名;没食子酸ドデシル)
BT−120:城北化学(株)製、1,2,3−ベンゾトリアゾール
アリザリン:東京化学工業(株)製
P5T:東洋紡(株)製、5−フェニル−1H−テトラゾール
没食子酸メチル:東京化学工業(株)製
2,2’−ビピリジル:東京化学工業(株)製
【0096】
【表1】

【0097】
以下の評価を行った。
<金属イオン捕捉性の評価方法>
実施例及び比較例で用いたイオン捕捉性組成物を用いて評価用シート(厚さ:20μm)を作製した。当該評価シートを2.5g切り出し、175℃で5時間加熱したものを、テフロン(登録商標)製のルツボにいれ、10ppmのCu(II)イオン水溶液50mLを加えた。その後、恒温乾燥機(エスペック(株)製、PV−231)に120℃で20時間放置した。評価用シートを取り出した後、ICP−AES(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、SPS−1700HVR)を用いて水溶液中のCu(II)イオンの濃度(ppm)を測定した。水溶液中のCu(II)イオン濃度が9.8ppm未満の場合を○とし、9.8〜10ppmのときを×とした。結果を表2に示す。
【0098】
<樹脂封止工程後のボイド消失の有無>
実施例及び比較例で得られた二層構成の接着シートのイオン捕捉層側に、それぞれ温度40℃の条件下で10mm角の半導体チップに貼り付け、接着層側にBGA基板を貼り付けることで、各接着シートを介して半導体チップをBGA基板にマウントした。マウント条件は、温度120℃、圧力0.1MPa、1秒とした。
【0099】
次に、半導体チップがマウントされたBGA基板を、乾燥機にて175℃、30分間熱処理し、その後封止樹脂(日東電工(株)社製、GE−100)でパッケージングした。封止条件は加熱温度175℃、90秒とした。
【0100】
続いて、封止後の半導体装置をガラスカッターで切断し、その断面を超音波顕微鏡で観察して、各接着シートとBGA基板の貼り合せ面に於けるボイド面積を測定した。ボイド面積が貼り合わせ面積に対し20%以下の場合を○、20%より大きいの場合を×とした。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
実施例1〜10では、有機低分子化合物を含むイオン捕捉層を有するため、金属イオンを捕捉することができ、パッケージの不良を抑制できると考えられる。また、有機低分子化合物を実質的に含まない接着層を有するため、ダイボンディングとワイヤーボンディングを想定した熱履歴(175℃×1時間)を加えた後も、過剰に硬化が進むことなく、モールド工程で良好にボイドを拡散することができる。
【0103】
比較例1では、有機低分子化合物が入っていないため金属イオンを捕捉することができず、パッケージの不良を抑制できない。また、比較例2〜3では、接着層に有機低分子化合物が入っているため、ダイボンディングとワイヤーボンディングを想定した熱履歴(175℃×1時間)によって過剰に硬化が進み、モールド時に良好にボイドを拡散することが出来ない。
【符号の説明】
【0104】
1:本発明の多層接着シート
1a:イオン捕捉層
1b:接着層
1c:半導体ウェハ貼り付け部分
2:ダイシング・ダイボンドフィルム
3:粘着剤層
4:基材
5:半導体ウェハ
6:半導体チップ
7:封止樹脂
8:被着体
9:ボンディングワイヤー
10:他の半導体チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと錯体形成する有機低分子化合物を含むイオン捕捉性組成物から形成されるイオン捕捉層、及び、接着性組成物から形成される接着層を含む、半導体装置用の多層接着シート。
【請求項2】
有機低分子化合物が、含窒素複素環化合物、及び、一つの芳香環に水酸基を二つ以上有する化合物からなる群から選択される1種以上の化合物である請求項1記載の多層接着シート。
【請求項3】
イオン捕捉性組成物及び接着性組成物が、エポキシ基を含有する熱可塑性樹脂を含む、請求項1又は2記載の多層接着シート。
【請求項4】
イオン捕捉層及び接着層の膜厚が、それぞれ5〜100μmである請求項1〜3のいずれかに記載の多層接着シート。
【請求項5】
有機低分子化合物の含有量が、イオン捕捉層中の全成分100重量部に対して0.1〜10重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の多層接着シート。
【請求項6】
イオン捕捉性組成物が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び、シリカフィラーを含み、該熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び、シリカフィラーの合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂が10〜99重量部、熱硬化性樹脂が1〜30重量部、及び、シリカフィラーが0〜60重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の多層接着シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の多層接着シートによりチップが被着体に積層された半導体装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の多層接着シートによりチップを被着体に積層する工程を含む、半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−30702(P2013−30702A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167458(P2011−167458)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】