説明

半導体集積回路及び半導体集積回路の試験方法

【課題】実際の動作条件下においてエレクトロマイグレーションの劣化現象を検知すると共に、故障の兆候を検知することが可能な半導体集積回路を提供することである。
【解決手段】本発明にかかる半導体集積回路10は、カウンタ回路6と、遅延クロック信号56を生成する遅延素子5と、クロック信号52のクロックサイクル毎にトグルするデータを入力する第1のフリップフロップ1と、第1のフリップフロップ1からの出力信号を入力する配線4と、遅延クロック信号56に基づき駆動し、配線4からの出力信号を入力する第2のフリップフロップ2と、クロック信号52に基づき駆動し、第1のフリップフロップ1からの出力信号を入力する第3のフリップフロップ3と、第2及び第3のフリップフロップ2、3からの出力信号の排他的論理和を出力する排他的論理和回路7と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体集積回路及び半導体集積回路の試験方法に関し、特にエレクトロマイグレーション現象を検知することが可能な半導体集積回路及び半導体集積回路の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のLSIの高速化により、LSI内部の配線のエレクトロマイグレーション(以下、EMともいう)現象が問題となってきている。LSI内部の配線におけるエレクトロマイグレーション現象とは、配線を流れる電子流が配線を構成する金属原子を徐々に「押し流し」、配線内部にボイドと呼ばれる金属原子の欠損を生じさせる現象である。エレクトロマイグレーション現象による配線の平均寿命は、Blackの経験式により表現され、それは金属原子の種類(配線材料)、電流密度、温度に大きく依存している。LSIにおける配線材料としては当初Al(アルミニウム)が大多数であったが、150nmから90nm世代へプロセステクノロジーが進化するにつれてエレクトロマイグレーションによる劣化現象が大きな問題となった。この問題に対し配線材料をAlからCu(銅)へ置き換えることによりエレクトロマイグレーションによる配線の劣化問題は大きく改善した。
【0003】
また、プロセステクノロジーの進化による配線の微細化と共に、MOSトランジスタのON電流が増大し続けており、配線における電流密度の上昇が著しい。すなわちMOSトランジスタのON電流の上昇と配線の断面積削減(世代毎に面積が約半分に削減)という相乗効果により、世代ごとに配線の単位面積当たりの電流密度が数倍に上昇しており、これがエレクトロマイグレーション問題を悪化させている。抜本的な解決としてはAlからCuへの置き換えといった配線材料の見直しであるが、現状ではCu以上に性能・コストに優れた材料が発見されておらず、少なくとも今後数世代はCuでのLSI設計を行う必要がある。以上の状況により、前世代のプロセスと比較して相対的に配線のエレクトロマイグレーション耐性(マージン)は減少しており、フィールドでのエレクトロマイグレーション問題の発生の可能性を否定することができない。
【0004】
以上のようなエレクトロマイグレーションによる劣化現象に対して、LSIの製品出荷前の検査を主眼において、各種の検査手法が提案されている。特許文献1に記載されている半導体集積回路では、測定対象となるLSI内の配線に対して外部より直流電流を与え、その抵抗値の変化から配線のエレクトロマイグレーション寿命を測定する構成を採用している。
【0005】
また、特許文献2に記載されている半導体集積回路では、LSI内部にLSIの主機能部分とIO端子を共有するように検査用のパイロット配線を設け、検査時にパイロット配線を選択させてバーンイン試験を行うことで不良LSIを排除している。また、特許文献3に記載されている半導体集積回路では、加速試験に必要となる熱源を外部に設置するのではなく、試験対象となる内部配線自体に直流及び交流電流を与えることで加熱を促し、試験対象のみで加速試験を実施できるように構成している。
【0006】
また、特許文献4には半導体集積回路が有する、同一仕様よりなる金属配線の耐エレクトロマイグレーション性を高精度に評価する技術が開示されている。また、特許文献5にはシステムに搭載して実際に稼働させながら、半導体集積回路の特性の劣化を評価することができ、それによりシステム全体の稼働停止を未然に防ぐことが可能な半導体集積回路に関する技術が開示されている。また、特許文献6には出荷後のLSIにおけるエレクトロマイグレーション劣化現象を検知することが可能な半導体集積回路に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−191684号公報
【特許文献2】特開平1−238134号公報
【特許文献3】特表2005−536871号公報
【特許文献4】特開平11−67861号公報
【特許文献5】特開平11−27128号公報
【特許文献6】特開2009−176832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1乃至4に開示されている技術は、エレクトロマイグレーション現象を検知するために外部にテスタなどの試験機器を必要とする。このため、これらの技術は半導体集積回路の出荷前試験にのみ適用可能であり、出荷後の個々の半導体集積回路におけるエレクトロマイグレーションによる配線の劣化現象を検知することができなかった。
【0009】
また、特許文献5に開示されている技術は配線の劣化検知を行うことを目的として構成されているが、測定対象配線部分のみの提供であり劣化の検知のためにはLSI外部に抵抗測定装置を接続する必要がある。このため、単一のLSIで劣化検知を行うことができないという問題点があった。加えて、配線のばらつきに対する対策が提供されておらず、ばらつきによる悲観性を排除することができないという問題点があった。
また、特許文献6に開示されている技術は配線の断線検知を行うように構成されているため、予防保守を行うための兆候の検知を行うことができなかった。
【0010】
よって本発明の目的は、実際の動作条件下においてエレクトロマイグレーションの劣化現象を検知すると共に、故障の兆候を検知することが可能な半導体集積回路及び半導体集積回路の試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる半導体集積回路は、クロック信号に基づきカウント値を生成し、所定のカウント値に達するとカウント値をリセットするカウンタ回路と、前記カウンタ回路のカウント値に応じて前記クロック信号を遅延させた遅延クロック信号を生成する遅延素子と、前記クロック信号に基づき駆動し、当該クロック信号のクロックサイクル毎にトグルするデータを入力する第1のフリップフロップと、前記第1のフリップフロップからの出力信号を入力する配線と、前記遅延クロック信号に基づき駆動し、前記配線からの出力信号を入力する第2のフリップフロップと、前記クロック信号に基づき駆動し、前記第1のフリップフロップからの出力信号を入力する第3のフリップフロップと、前記第2及び第3のフリップフロップからの出力信号をそれぞれ入力し、当該出力信号の排他的論理和を出力する排他的論理和回路と、を有する。
【0012】
本発明にかかる半導体集積回路の試験方法は、クロック信号に基づき第1のフリップフロップを駆動して、当該クロック信号のクロックサイクル毎にトグルするデータを入力し、前記第1のフリップフロップからの出力信号を配線に入力し、前記クロック信号に基づきカウント値を生成し、当該カウント値に応じて前記クロック信号を遅延させた遅延クロック信号を生成し、前記遅延クロック信号に基づき第2のフリップフロップを駆動して、前記配線からの出力信号を入力し、前記クロック信号に基づき第3のフリップフロップを駆動して、前記第1のフリップフロップからの出力信号を入力し、前記第2及び第3のフリップフロップからの出力信号の排他的論理和を出力する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により実際の動作条件下においてエレクトロマイグレーションの劣化現象を検知すると共に、故障の兆候を検知することが可能な半導体集積回路及び半導体集積回路の試験方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1にかかる半導体集積回路を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1にかかる半導体集積回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図3】本発明にかかる半導体集積回路の動作原理を説明するための図である。
【図4】実施の形態2にかかる半導体集積回路を示すブロック図である。
【図5】実施の形態3にかかる半導体集積回路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態1にかかる半導体集積回路を示すブロック図である(以下、半導体集積回路をEM劣化センサという場合もある)。図1に示す半導体集積回路10は、配線4における劣化検知を行なうことが可能な半導体集積回路である。配線4はエレクトロマイグレーションに起因する劣化の検知対象となる配線であり、バッファ8で駆動される。配線4はエレクトロマイグレーション劣化を検知するという目的から、例えばそのプロセス世代のデザインルールで許される最も細い幅でかつ、最も薄い膜厚で設計される。
【0016】
配線4には、第1のフリップフロップ1を経由してデータ信号51が印加され、伝達結果は第2のフリップフロップ2によって保持される。第1のフリップフロップ1は半導体集積回路10に入力されるクロック信号52に基づき駆動される。また、第2のフリップフロップ2は、半導体集積回路10に入力されるクロック信号52を遅延素子5により遅延した遅延クロック信号56に基づき駆動される。つまり、遅延素子5において所定の遅延値を設定することで、第1のフリップフロップ1を駆動するタイミングに対して所定の時間遅延したタイミングで、第2のフリップフロップ2を駆動することができる。
【0017】
ここで、設定される遅延値は一定値ではなく、カウンタ回路6によって与えられるカウント値によって増減することができる。カウンタ回路6にはクロック信号52が入力され、クロック信号52に同期して増減するデジタル信号を遅延制御回路11に出力する。遅延制御回路11は、カウンタ回路6のデジタル信号(カウント値)に応じた遅延値をクロック信号52に与えるように遅延素子5を制御する。カウンタ回路6で生成されるデジタル信号は、例えばある値までカウントアップすると再び0へリセットされ、再度カウントアップが再開されるような信号とする。
【0018】
第3のフリップフロップ3は、第1のフリップフロップ1の出力をバッファ9を介して入力する。すなわち、第2のフリップフロップ2が受信するものと同じ論理結果を入力する。ここで、第2のフリップフロップ2は遅延素子5を介した遅延クロック信号56を受け取るのに対して、第3のフリップフロップ3は第1のフリップフロップ1と同じ位相のクロック信号52を受信する。第2のフリップフロップ2及び第3のフリップフロップ3の出力は排他的論理和回路7に入力される。排他的論理和回路7は、第2のフリップフロップ2及び第3のフリップフロップ3の出力が一致する場合は"0"を、一致しない場合は"1"を出力する。つまり、第2のフリップフロップ2がデータを正しく受信していれば排他的論理和回路7の出力は常に"0"となることになる。
【0019】
このように、第1のフリップフロップ1、第2のフリップフロップ2、遅延素子5、カウンタ回路6を組み合わせることで、配線4を経由する伝達信号をキャプチャする第2のフリップフロップ2のタイミングを、クロック信号52のクロックサイクル毎にずらすことが可能となる。更に遅延素子5で設定する初期の遅延値、及び遅延素子5がクロックサイクル毎に与える遅延の遅延変動幅を適切に設定することにより、カウンタ回路6によって与えられるカウント値の初期においては正しく信号をキャプチャし、漸次カウント値をカウントアップし、あるカウント値においてキャプチャが不可能となるような設定が可能となる。この場合、排他的論理和回路7の出力信号として当初"0"が出力され、あるカウント値から"1"が出力されることになる。これを時系列に整列させると、初期のカウント値で"0"が並ぶことになるが、あるカウント値から反転して"1"が連続するようになる。
【0020】
このようにして得られた排他的論理和回路7の出力信号は、検知結果メモリ13へ格納される。検知結果メモリ13は例えばシフトレジスタで構成され、入力される排他的論理和回路7の出力信号を順次格納する。シフトレジスタの長さはカウンタ回路6のカウント値以上となるように構成され、カウンタ値が0からリセットされるまでのサイクル分の排他的論理和回路7の出力データを保持可能とする。
【0021】
検知結果メモリ13に格納された検知結果は、初期値保存メモリ12に格納された製造初期の検知結果と、比較回路14において比較される。また、回路の遅延は環境条件により一定の誤差が発生する可能性があるため、その誤差をキャンセルするためにバイアス回路15を用いて比較回路14で求められた差分のうち所定の値(バイアス値)以下の差分を同一とみなす。そのバイアス条件はバイアス制御信号54として外部より入力される。すなわち、判定結果は以下のように算出される。
【0022】
異常の場合:|初期の検知結果 − 現在の検知結果|>バイアス値
正常の場合:|初期の検知結果 − 現在の検知結果|≦バイアス値
【0023】
このようにして得られた判定結果は結果保持回路16に保持される。結果保持回路16は判定結果55を出力する。異常と判断された場合、これ以降の比較回路14における比較結果、つまりカウンタ回路6がカウントアップ中の比較結果は正しい結果とはならないため、カウントアップが終了する。そして、リセットされる時点でのデータを保持するために、カウンタ回路6のカウント結果を入力して、カウントアップのタイミングを結果保持回路16にて検出する。
【0024】
初期値保存メモリ12は保存制御回路17により制御され、製造初期における検知結果を格納する。保存制御回路17は初期化信号53及びカウンタ回路6のカウント値を入力する。保存制御回路17は初期値保存メモリ12を制御し、製造初期における検知結果メモリ13の内容を初期値保存メモリ12へコピーする。その際、検知結果メモリ13に製造初期における検知結果がそろっている必要があるため、保存制御回路17はカウンタ回路6のカウント値を入力してそのタイミングを取得する。また、初期値保存メモリ12は装置の稼動期間中は初期値を保持する必要があるため、電源が供給されない場合でもデータを保持できるように、例えば不揮発性RAMで構成することができる。
【0025】
配線のエレクトロマイグレーションによる劣化現象においては、一気に配線が断線に至るのではなく、劣化の初期は配線の抵抗値の上昇という形で劣化が顕在化する。すなわち、回路的にみると遅延値の上昇という形で測定することが可能である。本実施の形態にかかる半導体集積回路(EM劣化センサ)10では、初期における配線4の遅延情報を保存しておき、これと現在における配線4の遅延情報とを比較することによって、劣化初期の抵抗値上昇を検出することが可能となる。ここで、配線4の抵抗値の変動幅はプロセスの世代や環境条件によって変動するため、その条件に合わせて遅延素子5で制御する1サイクル毎の遅延変動幅やカウンタ回路6が出力する総カウント数は設計時点で個々の製品に合わせて設定される。このとき、1サイクル毎の遅延変動幅×カウンタ回路6の総カウント数=遅延素子の変動可能な総遅延時間、となる。
【0026】
次に、図2を用いて本実施の形態にかかる半導体集積回路10の動作について説明する。図2は本実施の形態にかかる半導体集積回路10の動作を説明するためのタイミングチャートである。本実施の形態では説明を簡略化するために、カウンタ回路6の出力を3ビットのデジタル信号とした。また、カウンタ回路6のカウンタ値は最初"000"からスタートし順次カウントアップする。そして"111"まで到達した時点でリセットされ、再び"000"から順次カウントアップされる。また、図2に示すようにカウンタ回路6の出力はクロック信号52と同期して出力される。
【0027】
遅延素子5が出力する遅延クロック信号56は、クロック信号52に対して図2の矢印で示した幅(遅延値)だけ遅延している。クロック信号52に対する遅延クロック信号56の遅延値はカウント値がカウントアップされるにつれて大きくなる。
【0028】
また、図2に示すように第1のフリップフロップ1の出力はクロック信号52と同期して出力される。また、第2のフリップフロップ2の出力は遅延クロック信号56と同期して出力される。また、第3のフリップフロップ3の出力はクロック信号52と同期して出力される。
【0029】
図2に示すように、T1のタイミングではクロック信号52と遅延クロック信号56は同時に立ち上がる。そして、T1のタイミングで第1のフリップフロップ1からデータ信号"1"(ハイレベル)が出力される。そして、T2のタイミングにおいてクロック信号52が立ち上がり、第3のフリップフロップ3は第1のフリップフロップ1からのデータ信号"1"を受信し、データ信号"1"を出力する。また、T2のタイミングから所定の時間遅延したT2´のタイミングで遅延クロック信号56が立ち上がる。このT2´のタイミングで第2のフリップフロップ2は第1のフリップフロップ1からのデータ信号"1"を受信し、データ信号"1"を出力する。
【0030】
このとき、第2のフリップフロップ2から出力されるデータ信号"1"と第3のフリップフロップ3から出力されるデータ信号"1"は一致しているので、排他的論理和回路7の出力は"0"(ローレベル)となる。そして、排他的論理和回路7の出力が"0"であるので、検知結果メモリ13は「xxxxxxx0」を出力する。
【0031】
同様に、T2のタイミングで第1のフリップフロップ1からデータ信号"0"が出力される。そして、T3のタイミングにおいてクロック信号52が立ち上がり、第3のフリップフロップ3は第1のフリップフロップ1からのデータ信号"0"を受信し、データ信号"0"を出力する。また、T3のタイミングから所定の時間遅延したT3´のタイミングで遅延クロック信号56が立ち上がる。このT3´のタイミングで第2のフリップフロップ2は第1のフリップフロップ1からのデータ信号"0"を受信し、データ信号"0"を出力する。
【0032】
このとき、第2のフリップフロップ2から出力されるデータ信号"0"と第3のフリップフロップ3から出力されるデータ信号"0"は一致しているので、排他的論理和回路7の出力は"0"となる。そして、排他的論理和回路7の出力が"0"であるので、検知結果メモリ13は「xxxxxx00」を出力する。
以降、第2のフリップフロップ2がデータ信号を正しく受信している限り、排他的論理和回路7の出力は"0"となる。
【0033】
T6のタイミングで第1のフリップフロップ1からデータ信号"0"が出力される。そして、T7のタイミングにおいてクロック信号52が立ち上がり、第3のフリップフロップ3は第1のフリップフロップ1からのデータ信号"0"を受信し、データ信号"0"を出力する。一方、T7のタイミングから所定の時間遅延したT7´のタイミングで遅延クロック信号56が立ち上がる。しかし、この場合はT7´のタイミングにおいて第2のフリップフロップ2は第1のフリップフロップ1からのデータ信号"0"を正しく受信することができないため、第2のフリップフロップ2から出力されるデータ信号は"1"となる。
【0034】
このとき、第2のフリップフロップ2から出力されるデータ信号"1"と第3のフリップフロップ3から出力されるデータ信号"0"は一致しないので、排他的論理和回路7の出力は"1"となる。そして、排他的論理和回路7の出力が"1"であるので、検知結果メモリ13は「xx000001」を出力する。
【0035】
同様に、T7のタイミングで第1のフリップフロップ1からデータ信号"1"が出力される。そして、T8のタイミングにおいてクロック信号52が立ち上がり、第3のフリップフロップ3は第1のフリップフロップ1からのデータ信号"1"を受信し、データ信号"1"を出力する。一方、T8のタイミングから所定の時間遅延したT8´のタイミングで遅延クロック信号56が立ち上がる。しかし、この場合もT8´のタイミングにおいて第2のフリップフロップ2は第1のフリップフロップ1からのデータ信号"1"を正しく受信することができないため、第2のフリップフロップ2から出力されるデータ信号は"0"となる。
【0036】
このとき、第2のフリップフロップ2から出力されるデータ信号"0"と第3のフリップフロップ3から出力されるデータ信号"1"は一致しないので、排他的論理和回路7の出力は"1"となる。そして、排他的論理和回路7の出力が"1"であるので、検知結果メモリ13は「x0000011」を出力する。
【0037】
このように、初期段階では遅延素子5の遅延値が小さいため、第2のフリップフロップ2は第1のフリップフロップ1からのデータ信号を正しく受信できる。よって、排他的論理和回路7の出力は"0"となる。しかし、T7´のタイミングにおいて第2のフリップフロップ2がデータ信号の受信に失敗し、その結果排他的論和回路7の出力が"1"となる。第2のフリップフロップ2から出力されるデータ信号は、第3のフリップフロップ3から出力されるデータ信号と比べて1サイクルずれることになる。よって、以降は排他的論理和回路7の出力は"1"に固定される。その結果、検知結果メモリ13には、初期段階では"0"、その後に"1"が並ぶビットパターンが徐々に保持され、8サイクル目でこの結果のビットパターンが保持される。同時に、比較回路14及びバイアス回路15によって初期値保存メモリ12の出力との比較が実行され、カウンタ出力"111"のタイミングにおいて結果保持回路16の内容が書き換えられる。
【0038】
図3は本実施の形態にかかる半導体集積回路(EM劣化センサ)10の動作原理を説明するための図である。図3に示す遅延素子5が出力する遅延クロック56は、カウンタ回路6のカウント値が増加するにつれて遅延素子5がクロック信号52に与える遅延値が増加している状態を示している。つまり、図3に示す遅延クロック56のT1´は図2の遅延クロック56のT1´に対応し、図3に示す遅延クロック56のT8´は図2の遅延クロック56のT8´に対応している。
【0039】
図3に示すように配線4の抵抗値が低い場合(初期の抵抗値)は、配線4の抵抗値が増加した後の場合よりも遅延が小さい。よって、配線4の抵抗値が低い場合、第2のフリップフロップ2はT4´のタイミングまでは第1のフリップフロップ1からのデータ信号を正常に受信することができる。しかし、T5´のタイミング以降では、配線4の遅延が小さいために第1のフリップフロップ1からのデータ信号を正常に受信することができなくなる。このときの、検知結果メモリ13の出力は「00001111」となる。
【0040】
一方、配線4の抵抗値が増加した後の場合、第2のフリップフロップ2はT6´のタイミングまでは第1のフリップフロップ1からのデータ信号を正常に受信することができる。しかし、T7´のタイミング以降では、第1のフリップフロップ1からのデータ信号を正常に受信することができなくなる。このときの、検知結果メモリ13の出力は「00000011」となる。
【0041】
このように、配線4の抵抗値が増加するにつれて配線4の遅延が増加し、この遅延の増加を遅延クロック信号56の遅延量を用いて検出することで配線4の劣化状態を検知することができる。つまり、配線4の初期状態(抵抗値が低い状態)における検知結果メモリ13の出力(「00001111」)を初期値保存メモリに保存しておき、この値と配線4の抵抗値が増加した後における検知結果メモリ13の出力(「00000011」)とを比較回路14で比較することで、配線4の劣化状態を検知することができる。
【0042】
以上で説明した本実施の形態にかかる半導体集積回路により、実際の動作条件下においてエレクトロマイグレーションの劣化現象を検知すると共に、故障の兆候を検知することが可能な半導体集積回路を提供することが可能となる。つまり、半導体集積回路の製造初期における配線4の抵抗と、現在の配線4の抵抗とを動作時に比較する手法を組み入れることで、エレクトロマイグレーションによる配線劣化の兆候である抵抗値の変動を検知することができる。
【0043】
特許文献1乃至4に開示されている技術は、エレクトロマイグレーション現象を検知するために外部にテスタなどの試験機器を必要とする。このため、これらの技術は半導体集積回路の出荷前試験にのみ適用可能であり、出荷後の個々の半導体集積回路におけるエレクトロマイグレーション劣化現象を検知することができなかった。また、特許文献5、6に開示されている技術は断線検知のみ行うように構成されているため、予防保守を行うための兆候の検知を行うことができなかった。しかし、本実施の形態にかかる半導体集積回路では、半導体集積回路の製造初期における配線4の抵抗と、現在の配線4の抵抗とを動作時に比較する手法を組み入れている。よって、出荷後の個々の半導体集積回路におけるエレクトロマイグレーション劣化現象を検知することができ、また配線劣化の兆候である抵抗値の変動を検知することができる。
【0044】
また、本実施の形態にかかる半導体集積回路の試験方法は、次の工程を有する。
クロック信号52に基づき第1のフリップフロップ1を駆動して、当該クロック信号52のクロックサイクル毎にトグルするデータを入力する工程。第1のフリップフロップ1からの出力信号を配線4に入力する工程。クロック信号52に基づきカウント値を生成し、当該カウント値に応じてクロック信号を遅延させた遅延クロック信号56を生成する工程。遅延クロック信号56に基づき第2のフリップフロップ2を駆動して、配線4からの出力信号を入力する工程。クロック信号52に基づき第3のフリップフロップ3を駆動して、第1のフリップフロップ1からの出力信号を入力する工程。第2及び第3のフリップフロップ2、3からの出力信号の排他的論理和を出力する工程。
【0045】
なお、本実施の形態にかかる半導体集積回路の試験方法は、次の工程を備えていてもよい。排他的論理和の出力を保持する工程。排他的論理和の出力と配線4の製造初期における排他的論理和の出力とを比較して配線4の劣化を判定する工程。
【0046】
本実施の形態にかかる半導体集積回路の試験方法においても、上記の半導体集積回路と同様の効果を得ることができる。
【0047】
実施の形態2
以下、本発明の実施の形態2について説明する。図4は本実施の形態にかかる半導体集積回路20を説明するためのブロック図である。本実施の形態にかかる半導体集積回路20は複数のEM劣化センサ10_1〜10_nを備える(nは正の整数)。データ信号51、クロック信号52、初期化信号53は各EM劣化センサ10_1〜10_nに供給される。ここで、各EM劣化センサ10_1〜10_nに供給されるデータ信号51、クロック信号52、初期化信号53は同じ信号である。
【0048】
一方、バイアス制御信号54はEM劣化センサ10_1〜10_nごとに異なる値が与えられる。また、各EM劣化センサ10_1〜10_nの検知結果は集計回路21へ出力される。集計回路21は、EM劣化センサ10_1〜10_nから出力された判定結果をカウントし、この判定結果に基づいてエラー信号を出力する。例えば、集計回路21は、異常である判定結果が正常である判定結果よりも多い場合にエラー信号57を出力する。なお、本実施の形態にかかる半導体集積回路20に用いられるEM劣化センサ10_1〜10_nは、実施の形態1にかかる半導体集積回路(EM劣化センサ)10と同様の構成であるので詳細な説明は省略する。
【0049】
本実施の形態にかかる半導体集積回路20では、同一構成の複数のEM劣化センサ10_1〜10_nを備え、その判定結果を集計回路21で集計し、多数決にて最終的なエラーを判定することができる。このような構成をとることで、一部のEM劣化センサが誤動作したとしても、その影響を排除することが可能となる。
【0050】
近年の半導体プロセスにおいては、配線の幅及び膜厚のばらつきが増加する傾向にある。従って、実施の形態1にかかるEM劣化センサ10を1組しか備えなかった場合、検知対象である配線4の配線幅や配線4の膜厚にばらつきがあると、他の配線全てが十分な寿命を保っていたとしても、期待される寿命よりも早く故障を検知することになる。これに対して本実施の形態にかかる半導体集積回路20では、複数のEM劣化センサ10_1〜10_nを備えており、各EM劣化センサ10_1〜10_nの判定結果から多数決により最終的なエラー信号57を生成している。このため、検知対象である配線4の配線幅や配線4の膜厚にばらつきがあった場合でも、配線にばらつきがあるEM劣化センサの検知結果を排除することができるので、より正確に配線の劣化を検知することができる。
【0051】
実施の形態3
以下、本発明の実施の形態3について説明する。図5は本実施の形態にかかる半導体集積回路30を説明するためのブロック図である。本実施の形態にかかる半導体集積回路30は、図1に示す実施の形態1にかかる半導体集積回路10が備える構成要素のうちの一部を備えている。
【0052】
すなわち、図5に示す本実施の形態にかかる半導体集積回路30は、クロック信号52に基づきカウント値を生成し、所定のカウント値に達するとカウント値をリセットするカウンタ回路6と、カウンタ回路6のカウント値に応じてクロック信号52を遅延させた遅延クロック信号56を生成する遅延素子5と、クロック信号52に基づき駆動し、クロック信号52のクロックサイクル毎にトグルするデータを入力する第1のフリップフロップ1と、を備える。更に、第1のフリップフロップ1からの出力信号を入力する配線4と、遅延クロック信号56に基づき駆動し、配線4からの出力信号を入力する第2のフリップフロップ2と、クロック信号52に基づき駆動し、第1のフリップフロップ1からの出力信号を入力する第3のフリップフロップ3と、第2及び第3のフリップフロップ2、3からの出力信号を入力し、出力信号の排他的論理和を出力する排他的論理和回路7と、を有する。なお、本実施の形態にかかる半導体集積回路30の動作は実施の形態1にかかる半導体集積回路10の動作と基本的には同様であるので重複した説明は省略する。
【0053】
本実施の形態にかかる半導体集積回路30においても、実際の動作条件下においてエレクトロマイグレーションの劣化現象を検知すると共に、故障の兆候を検知することが可能な半導体集積回路を提供することが可能となる。
【0054】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
1 第1のフリップフロップ
2 第2のフリップフロップ
3 第3のフリップフロップ
4 配線(劣化検知対象)
5 遅延素子
6 カウンタ回路
7 排他的論理和回路
8、9 バッファ
10 半導体集積回路(EM劣化センサ)
11 遅延制御回路
12 初期値保存メモリ
13 検知結果メモリ
14 比較回路
15 バイアス回路
16 結果保持回路
17 保存制御回路
20 半導体集積回路
21 集計回路
30 半導体集積回路(EM劣化センサ)
51 データ信号
52 クロック信号
53 初期化信号
54 バイアス制御信号
55 判定結果
56 遅延クロック信号
57 エラー信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック信号に基づきカウント値を生成し、所定のカウント値に達するとカウント値をリセットするカウンタ回路と、
前記カウンタ回路のカウント値に応じて前記クロック信号を遅延させた遅延クロック信号を生成する遅延素子と、
前記クロック信号に基づき駆動し、当該クロック信号のクロックサイクル毎にトグルするデータを入力する第1のフリップフロップと、
前記第1のフリップフロップからの出力信号を入力する配線と、
前記遅延クロック信号に基づき駆動し、前記配線からの出力信号を入力する第2のフリップフロップと、
前記クロック信号に基づき駆動し、前記第1のフリップフロップからの出力信号を入力する第3のフリップフロップと、
前記第2及び第3のフリップフロップからの出力信号をそれぞれ入力し、当該出力信号の排他的論理和を出力する排他的論理和回路と、
を有する半導体集積回路。
【請求項2】
前記排他的論理和回路の出力を保持する検知結果メモリと、
前記配線の製造初期における前記排他的論理和回路の出力を保持する初期値保存メモリと、
前記検知結果メモリの出力と前記初期値保存メモリの出力とを比較する比較回路と、
前記比較回路の出力信号に基づき求められた前記配線の劣化に関する判定結果を保持する結果保持回路と、を更に備える請求項1に記載の半導体集積回路。
【請求項3】
初期化信号及び前記カウンタ回路のカウント値を入力し、前記検知結果メモリの値を前記初期値保存メモリにコピーするように指示する信号を前記初期値保存メモリに出力する保存制御回路と、
バイアス制御信号と前記比較回路の出力信号とを入力し、前記比較回路の出力信号の値をバイアス値に応じて修正するバイアス回路と、を更に備える請求項2に記載の半導体集積回路。
【請求項4】
前記バイアス回路は、前記比較回路で求められた前記検知結果メモリの出力と前記初期値保存メモリの出力との差分が所定の値以下である場合、前記検知結果メモリの出力と前記初期値保存メモリの出力を同一とみなす、請求項3に記載の半導体集積回路。
【請求項5】
前記結果保持回路は、前記検知結果メモリの出力と前記初期値保存メモリの出力との差分が所定の値以下である場合に正常であるという判定結果を保持し、前記検知結果メモリの出力と前記初期値保存メモリの出力との差分が所定の値よりも大きい場合に異常であるという判定結果を保持する、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の半導体集積回路。
【請求項6】
複数の請求項2乃至5のいずれかに記載の半導体集積回路と、
前記複数の半導体集積回路からの前記配線の劣化に関する判定結果をそれぞれ入力し、当該判定結果に基づきエラー信号を出力する集計回路と、を備える半導体集積回路。
【請求項7】
前記集計回路は、前記配線の劣化に関する判定結果のうち、異常と判断した半導体集積回路の数が正常と判断した半導体集積回路の数を上回った場合にエラー信号を出力する、請求項6に記載の半導体集積回路。
【請求項8】
前記配線は前記半導体集積回路の製造に利用されるプロセスの設計ルールにおいて最も細い配線である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の半導体集積回路。
【請求項9】
クロック信号に基づき第1のフリップフロップを駆動して、当該クロック信号のクロックサイクル毎にトグルするデータを入力し、
前記第1のフリップフロップからの出力信号を配線に入力し、
前記クロック信号に基づきカウント値を生成し、当該カウント値に応じて前記クロック信号を遅延させた遅延クロック信号を生成し、
前記遅延クロック信号に基づき第2のフリップフロップを駆動して、前記配線からの出力信号を入力し、
前記クロック信号に基づき第3のフリップフロップを駆動して、前記第1のフリップフロップからの出力信号を入力し、
前記第2及び第3のフリップフロップからの出力信号の排他的論理和を出力する、半導体集積回路の試験方法。
【請求項10】
前記排他的論理和の出力を保持し、
前記排他的論理和の出力と前記配線の製造初期における前記排他的論理和の出力とを比較して前記配線の劣化を判定する、請求項9に記載の半導体集積回路の試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163898(P2011−163898A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26444(P2010−26444)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】