説明

印刷方法、印刷装置及び算出方法

【課題】インクジェットプリンターを用いて印刷を行う際に、ノズルごとにインクの噴出特性が異なることによって起こる、ノズル間のインク着弾位置の走査方向のずれを、温度変化に対応して補正する
【解決手段】ノズルは、画像データを構成する単位画素を表す画素データのうち、割り付けられた画素データに基づいてインクを噴射し、制御部は、検出部により検出された温度に応じたノズル毎のずらし量にて、ノズル列の方向に交差する方向へ、画素データをノズル毎にずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を振動させることでノズルからインクを噴出させて印刷を行うインクジェットプリンターが広く普及している。インクジェットプリンターを用いて罫線等の直線を印刷しようとする場合、複数のノズルから構成されるノズル列を有するヘッドを、媒体の搬送方向と直交する方向(走査方向)に往復させながら各ノズルからインクを噴出させる方法が一般的である。一方、ノズル列中の中央部に位置するノズルと端部に位置するノズルとではインク噴出特性が異なることから、噴出されたインクが媒体に着弾するタイミングがずれて、罫線がまっすぐに印刷できない場合がある。
このような問題を解消するために、事前に印刷されたテストパターンに基づいてノズル列中央部とノズル列端部との間に生じるずれ量に応じてずらして印刷を行うことで着弾位置を制御する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−220453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、事前に印刷されたテストパターンに基づいて、ノズル列中央部とノズル列端部とのノズルにより形成されたドットのずれ量を算出しておき、ノズル列端部のノズルにより形成されるドットに対応する画素データをずれ量に応じてずらして印刷を行うことで、ノズル列中央部とノズル列端部との間の着弾位置を補正することが可能である。
しかし、ノズル列中のノズルはそれぞれインク噴出特性が異なるので、前述の方法のようにノズル列端部のみの補正を行ったとしても、厳密にはノズル間で着弾位置にずれが生じ、罫線等をまっすぐに印刷できない。特に、ノズルピッチおよび記録解像度が高くなったのに伴い、インクの液滴のサイズを従来よりも小さくする場合には、上記の問題は一層顕著になる。さらに、温度変化が生じると、インクの粘度の変動に伴いノズルにより形成されたドットの着弾位置が変わるので、前述の方法では罫線等をまっすぐに印刷できない。
【0005】
本発明では、ノズルごとにインクの噴出特性が異なることによって起こる、ノズル間のインク着弾位置の走査方向のずれを、温度変化に対応して補正することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、複数のノズルから構成されるノズル列を有し、画像データに基づいて前記ノズルからインクを噴射して媒体にドットを形成するヘッド部と、温度を検出する検出部と、前記ヘッド部を制御して印刷する制御部と、を備え、前記ノズルは、前記画像データを構成する単位画素を表す画素データのうち、割り付けられた画素データに基づいて前記インクを噴射し、前記制御部は、前記検出部により検出された温度に応じた前記ノズル毎のずらし量にて、前記ノズル列の方向に交差する方向へ、前記画素データを前記ノズル毎にずらす、印刷装置である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】印刷装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2Aは、プリンターの構成を説明する図である。図2Bは、プリンターの構成を説明する側面図である。
【図3】ヘッドの構造を説明するための断面図である。
【図4】ヘッドに設けられたノズルの配列を説明する図である。
【図5】図5AはUni−d印刷時において、インクドットが媒体上に形成される様子を説明する図である。図5Bは、Uni−d印刷時にインク噴出速度が一定である場合に、媒体上に形成されるインクドットを説明する図である。
【図6】図6AはBi−d印刷時において、インクドットが媒体上に形成される様子を説明する図である。図6Bは、Bi−d印刷時にインク噴出速度が一定である場合に、媒体上に形成されるインクドットを説明する図である。
【図7】Uni−d印刷時において、2種類のインク噴出速度でノズルからインクを噴出する場合に、インクドットが媒体上に形成される様子を表す図である。
【図8】Uni−d印刷時において、温度変化によって、ノズルから噴出されるインク噴出速度が異なる場合に、媒体上に形成されるインクドットによって罫線が印刷される様子を示す図である。
【図9】Bi−d印刷時において、2種類のインク噴出速度でノズルからインクを噴出する場合に、インクドットが媒体上に形成される様子を表す図である。
【図10】Bi−d印刷時において、温度変化によって、ノズルから噴出されるインク噴出速度が異なる場合に、媒体上に形成されるインクドットによって罫線が印刷される様子を示す図である。
【図11】インクドットと基準ノズルのインクドットとのずれ量を示す図である。
【図12】算出したずれ量に基づいて作成した、温度変化に対するノズル毎の補正テーブルである。
【図13】図13Aは罫線を印刷するための画素データの一例を示す図である。図13Bは図13Aの画素データに基づいて形成されるドットの配置を示す図である。
【図14】図14Aは図13Aの画素データを補正した画素データを示す図である。図14Bは図14Aの画素データに基づいて形成されるドットの配置を示す図である。
【図15】図15Aは駆動波形の最大電位とインク量との関係を温度毎に示すグラフの例である。図15Bはインク量とインク噴出速度との関係を温度毎に示すグラフの例である。図15Cは温度とインク噴出速度との関係を保持するテーブルの例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0009】
複数のノズルから構成されるノズル列を有し、画像データに基づいて前記ノズルからインクを噴射して媒体にドットを形成するヘッド部と、温度を検出する検出部と、前記ヘッド部を制御して印刷する制御部と、を備え、前記ノズルは、前記画像データを構成する単位画素を表す画素データのうち、割り付けられた画素データに基づいて前記インクを噴射し、前記制御部は、前記検出部により検出された温度に応じた前記ノズル毎のずらし量にて、前記ノズル列の方向に交差する方向へ、前記画素データを前記ノズル毎にずらす、印刷装置。
【0010】
このような印刷装置によれば、温度変化に対してノズル毎のインクの噴出特性が違うことから起こるノズル間の着弾ずれに対して、検出した温度に合わせたノズル毎のずらし量にて画素データをノズル毎にずらすため、温度変化に合わせてノズル毎に着弾位置を補正できる。その結果、温度変化が生じてもノズル間の着弾ずれを低減することができる。
【0011】
このような印刷装置において、前記制御部は、所定の温度毎に、前記ノズル毎のずらし量をテーブルにて保持してもよい。
このような印刷装置によれば、所定の温度ごとの各ノズルに対応した画素ずらし量を保持しているテーブルを参照することにより補正できるため、画素ずらし量の処理速度が向上する。
【0012】
このような印刷装置において、前記制御部は、前記所定の温度毎に、前記ヘッド部を制御するための駆動波形を保持し、前記検出部により検出された温度に応じて、前記駆動波形を選択し、前記ずらし量は、選択した前記駆動波形におけるずらし量であってもよい。
このような印刷装置によれば、検出した温度に応じて、駆動波形による補正と画素データをずらすことによる補正とを行うことができる。その結果、駆動波形による補正によりノズル列の平均的な着弾ずれを低減できるとともに、画素データをずらすことによる補正により、駆動波形による平均的な補正をした後のノズル毎の着弾ずれを低減することができる。さらに、ノズル毎のずらし量は、選択する駆動波形の温度と同じ温度毎にテーブルにて保持しているため、検出した温度に合わせて駆動波形とノズル毎のずらし量とを特定でき、印刷のための処理速度が向上する。
【0013】
このような印刷装置において、前記制御部は、前記ノズル毎に、温度変化に対する特性値をテーブルにて保持してもよい。
このような印刷装置によれば、ノズル毎の特性値を用いることで、検出した温度に応じたノズル毎のずらし量を正確に計算することができる。
【0014】
このような印刷装置において、前記制御部は、所定の温度毎に、前記ヘッド部を制御するための駆動波形を保持し、前記検出部により検出された温度に応じて、前記駆動波形を選択し、選択した前記駆動波形における噴射速度を、前記ノズル毎の特性値を用いて前記ノズル毎に算出して、前記ずらし量を算出してもよい。
このような印刷装置によれば、ノズル毎に温度変化に対する特性値をテーブルとして保持し、テーブルを参照して画素データのずらし量を計算することにより、補正値を算出するため、テーブルのメモリー容量を削減できる。
【0015】
このような印刷装置において、前記インクは、濃インクと淡インクとの2種類のインクを含み、前記ずらし量は前記濃インクの前記ノズルに対して保有する値であってもよい。
このような印刷装置によれば、淡インクは視認しにくいため、濃インクのみのずらし量を持つ。これにより、淡インクの各ノズルのずらし量を保持しないので、メモリー容量の削減ができる。
【0016】
複数のノズルから構成されるノズル列を有し、画像データに基づいて前記ノズルからインクを噴射して媒体にドットを形成するヘッド部と、温度を検出する検出部と、前記ヘッド部を制御して印刷する制御部と、を備える印刷装置の印刷に用いる補正値の算出方法であって、印刷する場合に、(a−1)前記ノズルは、前記画像データのうち、割り付けられた画素データに基づいて前記インクを噴射し、(a−2)前記制御部は、前記検出部により検出された温度に応じた前記ノズル毎のずらし量にて、前記ノズル列の方向に交差する方向へ、前記画素データを前記ノズル毎にずらし、印刷に用いる補正値を算出する場合に、(b−1)前記印刷装置により、所定の温度毎に、前記ノズルからインクを噴射させる噴射工程と、(b−2)温度に応じた前記ノズル毎の前記ずらし量を算出する算出工程と、を有する算出方法。
【0017】
このような算出方法によれば、各温度に対応して印刷を行い、各ノズルのずれ量を測定することにより、温度変化に合わせて各ノズルの着弾位置の補正をするための補正値を算出することができる。
【0018】
このような算出方法において、前記算出工程は、噴射されたインクの速度を測定してもよい。
このような算出方法によれば、所定の温度ごとに各ノズルのインク噴出速度を測定できていることより、インク速度及び、用紙とヘッドの高さ及び、キャリッジ速度の3つの値から各ノズルの温度ごとの着弾位置を計算するため、所定温度の各ノズルに対して正確な補正値を算出できる。
【0019】
このような算出方法において、前記インクは、濃インクと淡インクとの2種類のインクを含み、前記ずらし量は前記濃インクの前記ノズルに対して保有する値であってもよい。
このような算出方法によれば、淡インクは視認しにくいため、濃インクのみのずらし量を持つ。これにより、淡インクの各ノズルのずらし量を算出しないので、算出のための工数の削減ができる。
【0020】
複数のノズルから構成されるノズル列を有し、画像データに基づいて前記ノズルからインクを噴射して媒体にドットを形成するヘッド部と、温度を検出する検出部と、前記ヘッド部を制御して印刷する制御部と、を備える印刷装置による印刷方法であって、(a−1)前記ノズルは、前記画像データのうち、割り付けられた画素データに基づいて前記インクを噴射し、(a−2)前記制御部は、前記検出部により検出された温度に応じた前記ノズル毎のずらし量にて、前記ノズル列の方向に交差する方向へ、前記画素データを前記ノズル毎にずらし、前記ノズル毎のずらし量は、上記の算出方法により算出された補正値である印刷方法。
【0021】
このような印刷方法によれば、温度変化に合わせて各ノズルの着弾位置の補正をして印刷できる。
【0022】
===印刷装置の基本的構成==
発明を実施するための印刷装置の形態として、インクジェットプリンター(プリンター1)を例に挙げて説明する。
【0023】
<プリンターの構成>
図1は、プリンター1の全体構成を示すブロック図である。
プリンター1は、紙・布・フィルム等の媒体に文字や画像を記録(印刷)する液体噴出装置であり、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。
【0024】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置(不図示)にユーザーインターフェイスを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピューターが読み取り可能な記録媒体)に記録されている。また、プリンタードライバーはインターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
コンピューター110はプリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0025】
プリンター1は、搬送ユニット20と、キャリッジユニット30と、ヘッドユニット40と、検出器群50と、コントローラー60と、を有する。コントローラー60は、外部装置であるコンピューター110から受信した印刷データに基づいて各ユニットを制御し、媒体に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は検出器群50から出力された検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0026】
<搬送ユニット20>
図2は、本実施形態のプリンター1の構成を表した図である。図2Aは、プリンター1の構成を説明する図である。図2Bは、プリンター1の構成を説明する側面図である。
搬送ユニット20(図1参照)は、媒体(例えば紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。ここで、搬送方向はキャリッジの移動方向と交差する方向である。搬送ユニット20は、給紙ローラー21と、搬送モーター22と、搬送ローラー23と、プラテン24と、排紙ローラー25とを有する(図2A・図2B参照)。
【0027】
給紙ローラー21は、紙挿入口に挿入された紙Sをプリンター内に給紙するためのローラーである。搬送ローラー23は、給紙ローラー21によって給紙された紙Sを印刷可能な領域まで搬送するローラーであり、搬送モーター22によって駆動される。搬送モーター22の動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。プラテン24は、印刷中の紙Sを、紙Sの裏側から支持する部材である。排紙ローラー25は、紙Sをプリンターの外部に排出するローラーであり、印刷可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられている。
【0028】
<キャリッジユニット30>
キャリッジユニット30(図1参照)は、ヘッドユニット40が取り付けられたキャリッジ31を所定の方向(以下、移動方向という)に移動(「走査」とも呼ばれる)させるためのものである。キャリッジユニット30は、キャリッジ31と、キャリッジモーター32(CRモーターとも言う)とを有する(図2A・図2B参照)。
キャリッジ31は、移動方向に往復移動可能であり、キャリッジモーター32によって駆動される。キャリッジモーター32の動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。また、キャリッジ31は、インクを収容するインクカートリッジを着脱可能に保持している。
【0029】
<ヘッドユニット40>
ヘッドユニット40(図1参照)は、紙Sにインクを噴出するためのものである。ヘッドユニット40は、複数のノズルを有するヘッド41を備える。このヘッド41はキャリッジ31に設けられ、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッド41も移動方向に移動する。そして、ヘッド41が移動方向に移動中にインクを断続的に噴出することによって、移動方向に沿ったドットライン(ラスターライン)が紙S上に形成される。
【0030】
図3は、ヘッド41の構造を示した断面図である。ヘッド41は、ケース411と、流路ユニット412と、ピエゾ素子群PZTとを有する。ケース411はピエゾ素子群PZTを収納し、ケース411の下面に流路ユニット412が接合されている。流路ユニット412は、流路形成板412aと、弾性板412bと、ノズルプレート412cとを有する。流路形成板412aには、圧力室412dとなる溝部、ノズル連通口412eとなる貫通口、共通インク室412fとなる貫通口、インク供給路412gとなる溝部が形成されている。弾性板412bはピエゾ素子群PZTの先端が接合されるアイランド部412hを有する。そして、アイランド部412hの周囲には弾性膜412iによる弾性領域が形成されている。インクカートリッジに貯留されたインクが、共通インク室412fを介して、各ノズルNzに対応した圧力室412dに供給される。ノズルプレート412cはノズルNzが形成されたプレートである。ノズル面では、イエローインクを吐出するイエローノズル列Yと、マゼンタインクを吐出するマゼンタノズル列Mと、シアンインクを吐出するシアンノズル列Cと、ブラックインクを吐出するブラックノズル列Kと、が形成されている。各ノズル列では、ノズルNzが搬送方向に所定間隔Dにて並ぶことによって構成されている。
【0031】
ピエゾ素子群PZTは、櫛歯状の複数のピエゾ素子(駆動素子)を有し、ノズルNzに対応する数分だけ設けられている。ヘッド制御部などが実装された配線基板(不図示)によって、ピエゾ素子に駆動信号が印加され、駆動信号の電位に応じてピエゾ素子は上下方向に伸縮する。ピエゾ素子群PZTが伸縮すると、アイランド部412hは圧力室412d側に押されたり、反対方向に引かれたりする。このとき、アイランド部412h周辺の弾性膜412iが変形し、圧力室412d内の圧力が上昇・下降することにより、ノズルからインク滴が吐出される。
【0032】
図4は、ヘッド41に設けられたノズルNzの説明図である。図4に示されるように各ノズル列では、各色のインクを噴出するための噴出口であるノズルNzが搬送方向に所定間隔Dにて並ぶことにより構成されている。本実施形態では、各ノズル列において#1〜#180の180個のノズルNzを備えるものとして説明を行う。
【0033】
なお、各ノズル列における実際のノズル数は180個には限られず、例えばノズル数が90個であったり360個であったりしてもよい。
【0034】
<検出器群50>
検出器群50(図1参照)は、プリンター1の状況を監視するためのものである。検出器群50には、リニア式エンコーダー51、ロータリー式エンコーダー52、紙検出センサー53、及び光学センサー54等が含まれる(図2A・図2B参照)。
リニア式エンコーダー51は、キャリッジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダー52は、搬送ローラー23の回転量を検出する。紙検出センサー53は、給紙中の紙Sの先端の位置を検出する。光学センサー54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、対向する位置の紙Sの有無を検出し、例えば、移動しながら紙の端部の位置を検出し、紙の幅を検出することができる。また、光学センサー54は、状況に応じて、紙Sの先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
【0035】
<コントローラー60>
コントローラー60(図1参照)は、プリンターの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64とを有する(図1参照)。
インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター1の全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して搬送ユニット20等の各ユニットを制御する。
【0036】
<プリンタードライバーによる印刷処理について>
プリンタードライバーは、アプリケーションプログラムから画像データを受け取り、プリンター1が解釈できる形式の印刷データに変換し、印刷データをプリンターに出力する。アプリケーションプログラムから画像データを印刷データに変換する際に、プリンタードライバーは、解像度変換処理、色変換処理、ハーフトーン処理、ラスターライズ処理、コマンド付加処理などを行う。以下に、プリンタードライバーが行う各種の処理について説明する。
【0037】
解像度変換処理は、アプリケーションプログラムから出力された画像データ(テキストデータ、イメージデータなど)を、媒体に印刷する際の解像度(印刷解像度)に変換する処理である。例えば、印刷解像度が720×720dpiに指定されている場合、アプリケーションプログラムから受け取ったベクター形式の画像データを720×720dpiの解像度のビットマップ形式の画像データに変換する。
【0038】
なお、解像度変換処理後の画像データの各画素データは、RGB色空間により表される各階調(例えば256階調)のRGBデータである。ここで、画素とは、画像を構成する単位要素であり、この画素が2次元的に並ぶことによって画像が形成される。画素データとは、画像を構成する単位要素の印刷データであり、例えば、紙S上に形成されるドットの階調値などを意味する。
【0039】
色変換処理は、RGBデータをCMYK色空間のデータに変換する処理である。CMYK色空間の画像データは、プリンターが有するインクの色に対応したデータである。この色変換処理は、RGBデータの階調値とCMYKデータの階調値とを対応づけたテーブル(色変換ルックアップテーブルLUT)に基づいて行われる。
【0040】
なお、色変換処理後の画素データは、CMYK色空間により表される256階調の8ビットCMYKデータである。本実施形態では該データを利用して画像処理を行い、印刷される2つの画像の境界部分におけるインクのにじみを防止している。画像処理の詳細については後述する。
【0041】
ハーフトーン処理は、高階調数のデータを、プリンターが形成可能な階調数のデータに変換する処理である。例えば、ハーフトーン処理により、256階調を示すデータが、2階調を示す1ビットデータや、4階調を示す2ビットデータに変換される。ハーフトーン処理では、ディザ法・γ補正・誤差拡散法などが利用される。ハーフトーン処理されたデータは、印刷解像度(例えば720×720dpi)と同等の解像度である。ハーフトーン処理後の画像データでは、画素ごと1ビット又は2ビットの画素データが対応しており、この画素データは各画素でのドット形成状況(ドットの有無、ドットの大きさ)を示すデータになる。
【0042】
ラスターライズ処理は、マトリクス状に並ぶ画素データを、プリンター1に転送すべきデータ順に、画素データごとに並び替える。例えば、各ノズル列のノズルの並び順に応じて、画素データを並び替える。
【0043】
コマンド付加処理は、ラスターライズ処理されたデータに、印刷方法に応じたコマンドデータを付加する処理である。コマンドデータとしては、例えば媒体の搬送速度を示す搬送データなどがある。
【0044】
これらの処理を経て生成された印刷データは、プリンタードライバーによりプリンター1に送信される。
【0045】
<プリンターの印刷動作>
プリンター1の印刷動作について簡単に説明する。コントローラー60は、コンピューター110からインターフェイス部61を介して印刷命令を受信し、各ユニットを制御することにより、給紙処理・ドット形成処理・搬送処理等を行う。
【0046】
給紙処理は、印刷すべき紙をプリンター内に供給し、印刷開始位置(頭出し位置とも言う)に紙を位置決めする処理である。コントローラー60は、給紙ローラー21を回転させ、印刷すべき紙を搬送ローラー23まで送る。続いて、搬送ローラー23を回転させ、給紙ローラー21から送られてきた紙を印刷開始位置に位置決めする。
【0047】
ドット形成処理は、移動方向(走査方向)に沿って移動するヘッドからインクを断続的に噴出させ、紙上にドットを形成する処理である。コントローラー60は、キャリッジ31を移動方向に移動させ、キャリッジ31が移動している間に、印刷データに基づいてヘッド41からインクを噴出させる。噴出されたインク滴が紙上に着弾すると、紙上にドットが形成され、紙上には移動方向に沿った複数のドットからなるドットラインが形成される。
【0048】
搬送処理は、紙をヘッドに対して搬送方向に沿って相対的に移動させる処理である。コントローラー60は、搬送ローラー23を回転させて紙を搬送方向に搬送する。この搬送処理により、ヘッド41は、先ほどのドット形成処理によって形成されたドットの位置とは異なる位置に、ドットを形成することが可能になる。
【0049】
コントローラー60は、印刷すべきデータがなくなるまで、ドット形成処理と搬送処理とを交互に繰り返し、ドットラインにより構成される画像を徐々に紙に印刷する。そして、印刷すべきデータがなくなると、排紙ローラーを回転させてその紙を排紙する。なお、排紙を行うか否かの判断は、印刷データに含まれる排紙コマンドに基づいても良い。
次の紙に印刷を行う場合は同処理を繰り返し、行わない場合は、印刷動作を終了する。
【0050】
===罫線の印刷について==
はじめに、プリンター1を用いて罫線の印刷を行う方法について説明する。
前述の印刷動作において、キャリッジ31に設けられたヘッド41の走査方向の移動速度を「Vc」として、ヘッド41に設けられたノズルNzから噴出されるインクの速度を「Vm」とする。なお、説明のため、キャリッジ移送速度Vcは常に一定とし、インク噴出速度Vmは、各色ノズル列を構成する#1〜#180の各ノズルNzについてそれぞれVm1〜Vm180とする。
【0051】
また、印刷方式として、ヘッド41が走査方向を一端側から他端側へと移動する時にのみインクを噴出して画像を形成する単方向印刷方式(以下、Uni−d方式とも呼ぶ)と、ヘッド41が一端側と他端側とを往復移動しながら、往路及び復路でインクを噴出して画像を形成する双方向印刷方式(以下、Bi−d方式とも呼ぶ)とがある。
【0052】
<ノズル列中の全てのノズルNzにおいてインク噴出速度Vmが一定の場合>
図5Aは、Uni−d印刷時において、インクドットが媒体上に形成される様子を説明する図である。また、図5Bは、Uni−d印刷時において、各ノズル列を構成する#1〜#180の全ノズルNzについてインク噴出速度Vm1〜Vm180が一定である場合に、媒体上に形成されるインクドットによって罫線が印刷される様子を示す図である。
【0053】
Uni−d印刷では、ヘッド41は走査方向を一端側から他端側(図5Aでは左側から右側)へ一定速度Vcで移動しながら、媒体に対して鉛直下向きに速度Vmでインクを噴出する。噴出されたインクは、媒体に対して斜め方向に飛翔し、媒体上に着弾してドットを形成する。そして、ヘッド41が走査方向を一端側から他端側へ1回移動(パス)する毎に、ノズル列中の全ノズルNz(#1〜#180)から同時にインクが噴出される。
【0054】
全てのノズルNzについてインク噴出速度Vmが一定で、かつ、インクの噴出タイミングが同時であれば、#1〜#180の各ノズルNzから噴出されたインクの着弾位置は走査方向に関して全て同じ位置となり、搬送方向に伸びるインクドット列が形成される(図5B参照)。1パス目のインクドット列が形成された後に、媒体が下流側へと搬送され、続いて2パス目のインク噴出が行われ、1パス目のインクドット列の搬送方向上流側に2パス目のインクドット列が形成される。このような動作を繰り返すことにより、ドット列からなる罫線(直線)が媒体上に印刷される。
【0055】
なお、インク噴出のタイミングは設計工程において設計され、図5Aのように、インクを着弾させる目標位置と対向する手前の位置からインクが噴射されるようにする。つまり、ヘッド41が走査方向を移動して、所定のノズルが目標位置と対向する位置に到達するタイミングよりも、所定のノズルからインクが噴出されてからインクが媒体に着弾するまでの時間だけ早いタイミングでインクが噴出されるように設計される。
【0056】
図6Aは、Bi−d印刷時に、インクドットが媒体上に形成される様子を説明する図である。また、図6Bは、Bi−d印刷時に、各ノズル列を構成する#1〜#180の全ノズルNzについてインク噴出速度Vm1〜Vm180が一定である場合に、媒体上に形成されるインクドットによって罫線が印刷される様子を示す図である。
【0057】
Bi−d印刷の往路における動作は前述のUni−d印刷時と同様である。すなわち、ヘッド41は走査方向を左側から右側へ一定速度Vcで移動しながら、媒体に対して鉛直下向きに速度Vmでインクを噴出する。噴出されたインクは、媒体に対して斜め方向に飛翔し、媒体上に着弾してドットを形成する。一方、復路において、ヘッド41は走査方向を右側から左側へ一定速度Vcで移動しながら、媒体に対して鉛直下向きに速度Vmでインクを噴出する(図6A参照)。このとき、往路、復路のそれぞれについて、ノズルNzからインクを噴出させるタイミングを調整することで媒体へのインク着弾位置をコントロールすることができる。したがって、図6Bに示されるように、1パス目(往路)と2パス目(復路)とで、走査方向の同じ位置にドット列を形成させ、これを繰り返すことで、ずれの無い罫線を印刷することができる。
【0058】
<インク噴出速度Vmが一定でない場合>
図7に、Uni−d印刷時において、「Vm」と、Vmよりも早い速度である「Vm′」の2種類のインク噴出速度でノズルからインクを噴出する場合に、インクドットが媒体上に形成される様子を示す。Vcが一定であるのに対してVm′>Vmであるため、速度Vm′でノズルNzから噴出されたインクの方が、速度VmでノズルNzから噴出されたインクよりも早く媒体上に着弾する。したがって、図7のように、速度Vm′で噴出されたインクドットは、速度Vmで噴出されたインクドットの着弾位置よりも走査方向の手前側に着弾する。
【0059】
図8は、Uni−d印刷時において、特定のノズルの噴出速度が異なる場合の図であり、ノズル#4は噴出速度が遅く、#7は噴出速度が速い場合に、媒体上に形成されるインクドットによって罫線が印刷される様子を示す図である。
【0060】
前述のように、プリンター1で印刷を行う際は、温度変化が生じると、インク粘度が変化するため、ノズルから噴射されるインク量が温度変化に応じて変動する。すなわち、低温ではインク粘度が高く、インク量が減少し、高温ではインク粘度が低く、インク量が増加する。そこで、温度変化が生じてもインク量が一定となるように駆動波形によりインク量を制御する。しかし、温度変化によるノズルごとの特性は異なるため、インク量と比例関係にある噴出速度(Vm)はノズル毎に変動する。ここで、駆動波形の制御では、ノズル列に対する制御となり、ノズル毎に対する制御ではないため、ノズル毎が一定にならない。
その結果、図8のように、温度変化に対するノズル毎の特性バラツキによる影響のため、特定のノズルのインク噴出速度が異なる場合に、罫線印刷に影響が生じる。
【0061】
具体的には、温度変化により、インク粘度が変動するため、温度変化に応じてインク量が変化し、インク量と比例関係にある噴出速度(Vm)が変化する。そこで、駆動波形による制御により、ノズル列単位での噴出速度は制御されている。しかし、温度変化に対して、ノズル列中のノズル間の噴出速度の変動はノズル特性により異なる。その結果、ある温度において、噴出速度が異なるノズルからのインクドットは図8のように着弾する。
【0062】
つまり、温度変化が生じた場合に、1パス目にヘッド41が走査方向を左側から右側へと1回移動する間に、噴出速度が異なるノズルの着弾位置がずれる。
そして、2パス目、3パス目も同様な図形が形成されるため、まっすぐな罫線を印刷することはできない。
【0063】
図9に、Bi−d印刷時において、「Vm」と、Vmよりも早い速度である「Vm′」の2種類のインク噴出速度でノズルからインクを噴出する場合に、インクドットが媒体上に形成される様子を示す。Uni−d印刷時と同様に、Vm′>Vmであるため、速度Vm′でノズルNzから噴出されたインクの方が、速度VmでノズルNzから噴出されたインクよりも早く媒体上に着弾する。したがって、図9のように、往路において速度Vm′で噴出されたインクドットは、速度Vmで噴出されたインクドットの着弾位置よりも手前(図9において走査方向左側)に着弾し、復路において速度Vm′で噴出されたインクドットは、速度Vmで噴出されたインクドットの着弾位置よりも手前(図9において走査方向右側)に着弾する。
【0064】
図10は、Bi−d印刷時において、温度変化に対するノズル特性の違いの影響から、特定のノズルの噴出速度が異なることにより、ノズル#4の噴出速度は遅く、ノズル#7の噴出速度は速い場合に、媒体上に形成されるインクドットによって罫線が印刷される様子を示す図である。
【0065】
この場合もUni−d印刷時と同様、温度変化に対するノズルの噴出特性のバラツキにより、特定のノズルの噴出速度が異なるため、特定のノズルからのインクドットの着弾位置が異なる。
したがって、図10に示すように、1パス目の往路において、曲がった線となる。また、2パス目の復路においては、1パス目とは逆向きに曲がった線が形成される。
【0066】
さらに、Bi−d印刷ではヘッド41が往復しながらインクを噴出するために、1パス目にノズル#4によって形成されたドットは罫線位置よりも右側に形成され、2パス目にノズル#4によって形成されたドットは罫線位置よりも左側に形成される。これにより、両ドットの走査方向位置のずれ量も大きくなる。すなわち、1パス目と2パス目のずれがUni−d印刷時よりも大きくなり、印刷画像の劣化が顕著に表れる。
【0067】
ここまで、ノズル#4と#7の噴出速度が異なる場合について説明したが、これ以外のノズルの噴出速度が異なる場合でも同様のことが言える。インク噴出速度が遅ければ、その分ノズルNzから噴出されたインクが媒体に着弾するまでの時間が長くなるため、着弾予定位置(罫線の位置)よりも遠くにインクドットが着弾することになり、インク噴出速度が速ければ、その分ノズルNzから噴出されたインクが媒体に着弾するまでの時間が短くなるため、着弾予定位置よりも近くにインクドットが着弾することになる。
そして、ノズル間ごとのインク噴出速度の差が大きいほど、走査方向のインクドット着弾位置のずれも大きくなり、まっすぐな罫線を印刷することはできなくなる。
【0068】
===罫線印刷時のずれの補正について==
前述のように、ノズル列中のノズルNz毎に生じるインク噴出特性の差に起因して、インクドットの走査方向の着弾位置にずれが生じることがあり、その様なずれが生じると、完全にまっすぐな罫線を印刷することは難しくなる。そこで、本実施形態ではインクドット着弾位置のずれを見越して、印刷に用いる画素データをあらかじめ補正して該ドットの走査方向の形成予定位置をずらしておくことで、実際の印刷時には印刷予定の走査方向位置(罫線の位置)からのずれを極力小さくしてインクドットを着弾させる。
【0069】
<Bi−d(Uni−d)調整>
はじめに、プリンター1のBi−d調整(またはUni−d調整)を行う。Bi−d調整とはヘッド41が走査方向を移動する際に、往路及び復路で各ノズルNzからインクを噴出するタイミングを調整することを言う。これにより、走査方向における往路でのドット形成位置と復路でのドット形成位置とが、図6Bのような状態に揃うようにする。
前述のインク噴出速度Vm以外にも、キャリッジ移動速度Vcの影響や、プリンターヘッドの個体差により、インクドットの着弾位置が往路と復路でずれることがある。例えば、前述の図6Aにおいて、実際のキャリッジ移動速度Vcが設計上のキャリッジ移動速度よりも遅かった場合には、往路・復路ともに、着弾予定の位置(罫線の位置)よりも走査方向の手前側にインクドットが着弾する。このような場合に、インク噴出のタイミングを設計上のタイミングより遅くすることで、往復時のドット形成位置を揃えることができる。
本実施形態では、Bi−d調整(またはUni−d調整)を行った後でもなお生じ得る、各ノズルNz(#1〜180)の噴出特性差による走査方向のドット着弾位置のずれを補正することができる。
【0070】
<テストパターン印刷・座標計測>
Bi−d調整が終了したプリンターを用いて、駆動波形の選択可能な温度毎に温度を変化させ、駆動波形を選択した後、テストパターンとしての罫線を印刷する。そして、各温度で印刷された該テストパターンをスキャナーで読み取ることにより、#1〜#180の180個のノズルNzにより形成された各ドットの座標を計測して、記録する。なお、ドット座標の計測方法は、前述のようなスキャナーには限らず、顕微鏡、レーザー計測等により行われてもよい。
【0071】
<基準位置の確定>
続いて、各ドットのずれ量を算出するための各温度の基準となるノズル(ノズル#1)を確定させる。各温度の基準ノズル#1の水平方向座標は罫線が印刷される予定の位置であり、各ノズルNzから噴出されたインクは、通常、この基準位置上に着弾することでまっすぐな罫線を形成する(図5B・図6B参照)。各温度の基準ノズル#1の水平方向座標を0とする。
【0072】
なお、各温度の基準ノズルの水平方向座標が同じノズル数が最も多いものを選択しても良い。これにより、処理速度が速くなる。
【0073】
<ずれ量の算出>
各温度の基準ノズルを確定させた後に、各温度の基準ノズルの水平方向座標と、基準ノズル以外のノズルにより形成された各インクドットとの、走査方向のずれ量を算出する。
図11は、インクドットと基準ノズルのインクドットとのずれ量を示す図である。各ドットの走査方向座標と、基準ノズルの走査方向座標(0)との差はそれぞれΔn(n=1,2,3、…180)で表され、コントローラー60のメモリー63に記憶される。プリンター1はこの状態で出荷され、各家庭などにおいてユーザーがプリンター1を使用して印刷を行う段階で、後述する画素データの補正が行われることで印刷時の罫線ずれが抑制される。
図12は、以上のようにして算出したずれ量に基づいて作成した、温度変化に対するノズル毎の補正テーブルである。
【0074】
<画素データ補正>
ユーザーのもとで実際に印刷を行う際には、メモリー63に格納された各温度に対する各ノズルの基準ノズルからのずれ量Δnに基づいて、各温度に対する各ノズルによって形成されるドットに対応する画素データが補正される。ここで、画素とは、画像を構成する単位要素であり,この画素が2次元的に並ぶことによって画像が形成される。画素データとは、画像を構成する単位要素の印刷データであり、例えば、紙S上に形成されるドットの階調値などを意味する。
【0075】
図13Aに罫線を印刷するための画素データ(補正前)の一例を示す。図13Aにおいて破線で区切られた1マス分が1画素であり、斜線部の画素はドットが形成される予定の画素を表す。図13Aでは、罫線が形成される予定の周囲の7×360画素分のデータに着目して説明を行うが、実際の画素データはこれよりも大きなものとなる。また、図13Bに当該画素データに基づいて形成されるドットの配置を示す。図13Bにおいて●で表されるのが実際に媒体上に形成されるインクドットを表す。
【0076】
図13Aの画素データ上では、全てのドット形成予定の画素が走査方向にずれることなく、搬送方向に一直線上に並んでいる。したがって、理想的には、印刷される罫線も走査方向にずれることなく、まっすぐ形成されるべきである。しかし、実際に媒体に着弾するインクドットは温度変化に対するノズル特性のバラツキの影響により、走査方向にずれる場合が多く、画像劣化の大きな要因となる(図13B参照)。
【0077】
そこで、各温度に対する各ノズルNz毎のずれ量Δnに応じて、画素データ自体を、ドットの着弾ずれ方向とは逆方向にずらす。例えば、図13Bにおいて、基準ノズルを#1とした場合、例えば、2パス目はノズル列中の#4により形成されたドットは基準ノズルにより形成されたドットの右側にずれ、#7により形成されたドットは基準ノズルにより形成されたドットの左側にずれて形成されている。ドットのずれ量Δ4、及び、Δ7は無視できない程大きく、罫線ずれの原因となっているため、当該ドットを形成する画素データを補正して、ドット着弾位置を修正する。この場合、#4に対応する画素データを左方向(ドットの着弾ずれ方向と逆の方向)にずらし、#7に対応する画素データを右方向(ドットの着弾ずれ方向と逆の方向)にずらしてから印刷を行う。
【0078】
図14Aに、図13Aの画素データを補正した状態の画素データを示す。図14Bに当該補正後の画素データに基づいて形成されるドットの配置を示す。
【0079】
図14Aにおいて、ドット着弾位置のずれが大きい#4、及び、#7に該当する画素を走査方向にずらしたために、実際に着弾するドットも走査方向に1画素分ずれることになる。その結果、補正前の画素データによれば図14Bの○の位置に形成されていたはずの#4、及び、#7のドットが●の位置に形成されることになる。これにより、基準ノズルからの走査方向のずれ量Δ4、及び、Δ7を小さくすることができる。補正前の罫線と比較してずれの少ない罫線を印刷することができるようになる。
【0080】
Bi−d印刷の場合は、ヘッド41の移動方向が1パス目と2パス目で逆になるため、画素データをずらす方向も逆にする(図14A参照)。これにより、1パス目と2パス目のずれが目立たなくなるため、罫線のずれは大きく緩和される。
【0081】
画素データ補正時に、何処の画素をどれだけずらすかは、補正前の画素データにより形成されるドットの基準線からのずれ量Δnを基準として決定することができる。本実施形態では、ドットずれ量Δnがある値より小さい場合は画素データの補正を行わず、Δnが大きくなるほど、画素データの補正量も大きくする。
【0082】
例えば、各温度に対して0.035mm(720dpi)>Δnであれば#nの画素はずらさず、0.07mm>Δn≧0.035mmであれば#nの画素を走査方向に1画素分ずらし、Δn≧0.07mmであれば#nの画素を走査方向に2画素分ずらす、等の設定をメモリー63に記憶させておく。そして、前述のずれ量の算出で計測されたΔnに対して、該設定を適用することで、各画素についてのずらし量が決定される。なお、設定値は印刷する画像の解像度(例えば720×720dpi等)に応じて適宜変更することができる。
【0083】
画素ずらし量が決定された後に、プリンタードライバーによって実際に画素データが補正される。画素データの補正は、ユーザーが印刷を行う度に、前述のハーフトーン処理とラスターライズ処理との間で行われる。そして、該補正後のデータに基づいてノズルNzからインクが噴出され、印刷が行われる。
【0084】
<変形例>
上述した実施形態では温度毎のずらし量を補正値として保持したが、ノズルの特性値を保持してずらし量は計算により求めても良い。以下に、上述した実施形態とは異なる部分について説明する。
【0085】
図15Aは、#1ノズルについて駆動波形の最大電位Vhとインク量Iwとの関係を温度毎に示すグラフの例である。温度変化が生じると、インク粘度が変化するため、ノズルから噴射されるインク量Iwが温度変化に応じて変動する。すなわち、低温ではインク粘度が高く、インク量Iwが減少し、高温ではインク粘度が低く、インク量Iwが増加する。
【0086】
図15Bは、#1ノズルについてインク量Iwとインク噴出速度Vmとの関係を温度毎に示すグラフの例である。インク量Iwとインク噴出速度Vmとは比例関係であるため、インク量Iwが少ないとインク噴出速度Vmが下がり、逆にインク量Iwが多いとインク噴出速度Vmは上がる。インクドットの着弾位置は、インク噴出速度Vmとキャリッジ速度とノズルから紙Sまでの距離PGとによって決定するため、インク噴出速度Vmが変化すると着弾位置は変化する。
【0087】
温度変化に対する各ノズルの特性バラツキによる補正値を算出するために、ノズル毎の各温度とインク噴出速度Vmとの関係を表す値を、図15Cの例に示すようなテーブルで持ち、着弾ずれを計算する。
まず、温度変化に応じた駆動波形の適正駆動電圧を選択する場合の各ノズルのインク量Iwを導く。次に、ノズル毎に各温度のインク量Iwからインク噴出速度Vmを導く。次に、温度とインク噴出速度Vmとの関係をテーブルとして保持しておき、検出温度に対応した温度に対する各ノズルのインク噴出速度Vmを選択し、温度毎にインク噴出速度Vmとキャリッジ速度とノズルから紙Sまでの距離PGとから各ノズルの着弾位置を算出し(着弾ずれ=(距離PG/インク噴出速度Vm)×キャリッジ速度)、基準ノズルからのずれ量を算出する。
【0088】
上記手順によって算出したずれ量を補正するために、画素ずらし量の補正値を算出し、画素データを補正することで、着弾ずれが大きく緩和される。また、印刷解像度が異なる場合も、着弾ずれを基にした計算により、ずらし量を算出(着弾位置ずれ[Px]=ずれ量[mm]/25.4[mm]*解像度[dpi])することが可能となる。
【0089】
===その他の実施形態==
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。また本実施形態は、印刷装置、補正値の算出方法、印刷方法、プログラム等の開示も含まれる。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0090】
<印刷装置について>
前述の実施形態では、画像を形成する印刷装置の一例としてインクジェットプリンターが説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルター製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造型機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体噴出装置に、本実施形態と同様の技術を適用してもよい。
【0091】
<使用するインクについて>
前述の実施形態では、CMYKの4色のインクを使用して印刷する例が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイト、クリア等、CMYK以外の色のインクを用いて印刷を行ってもよい。
【0092】
<ピエゾ素子について>
前述の実施形態では、液体を噴出させるための動作を行う素子としてピエゾ素子群PZTを例示したが、他の素子であってもよい。例えば、発熱素子や静電アクチュエーターを用いてもよい。
【0093】
<プリンタードライバーについて>
プリンタードライバーの処理はプリンター側で行ってもよい。その場合、プリンターとドライバーをインストールしたPCとで印刷装置が構成される。
【0094】
<補正する画素データについて>
前述の実施形態では、ノズル毎の補正テーブルの例が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、濃インクのノズルと淡インクのノズルとのうち、濃インクのノズルのみノズル毎の補正テーブルを持っていてもよい。淡インクは視認しにくいため、濃インクのみのずらし量を持つことにより、メモリー容量の削減ができる。
【0095】
<補正テーブルの温度について>
前述の実施形態では、テストパターンとしての罫線を印刷するときに、駆動波形の選択可能な温度毎に補正値を算出したが、これに限られるものではない。例えば、駆動波形の選択可能な温度以外に対して補正値テーブルにより補正値を持っていても良い。その場合、実際に画素データを補正するときの処理速度を向上することができる。
【符号の説明】
【0096】
1…プリンター、20…搬送ユニット、21…給紙ローラー、22…搬送モーター、23…搬送ローラー、24…プラテン、25…排紙ローラー、30…キャリッジユニット、31…キャリッジ、32…キャリッジモーター、40…ヘッドユニット、41…ヘッド、411…ケース、412…流路ユニット、412a…流路形成板、412b…弾性板、412c…ノズルプレート、412d…圧力室、412e…ノズル連通口、412f…共通インク室、412g…インク供給路、412h…アイランド部、412i…弾性膜、50…検出器群、51…リニア式エンコーダー、52…ロータリー式エンコーダー、53…紙検出センサー、54…光学センサー、60…コントローラー、61…インターフェイス部、62…CPU、63…メモリー、64…ユニット制御回路、110…コンピューター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルから構成されるノズル列を有し、画像データに基づいて前記ノズルからインクを噴射して媒体にドットを形成するヘッド部と、
温度を検出する検出部と、
前記ヘッド部を制御して印刷する制御部と、
を備え、
前記ノズルは、前記画像データを構成する単位画素を表す画素データのうち、割り付けられた画素データに基づいて前記インクを噴射し、
前記制御部は、前記検出部により検出された温度に応じた前記ノズル毎のずらし量にて、前記ノズル列の方向に交差する方向へ、前記画素データを前記ノズル毎にずらす、印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、所定の温度毎に、前記ノズル毎のずらし量をテーブルにて保持する、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記所定の温度毎に、前記ヘッド部を制御するための駆動波形を保持し、
前記検出部により検出された温度に応じて、前記駆動波形を選択し、
前記ずらし量は、選択した前記駆動波形におけるずらし量である、請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ノズル毎に、温度変化に対する特性値をテーブルにて保持する、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記制御部は、
所定の温度毎に、前記ヘッド部を制御するための駆動波形を保持し、
前記検出部により検出された温度に応じて、前記駆動波形を選択し、
選択した前記駆動波形における噴射速度を、前記ノズル毎の特性値を用いて前記ノズル毎に算出して、前記ずらし量を算出する、請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記インクは、濃インクと淡インクとの2種類のインクを含み、
前記ずらし量は前記濃インクの前記ノズルに対して保有する値である請求項2ないし請求項5のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項7】
複数のノズルから構成されるノズル列を有し、画像データに基づいて前記ノズルからインクを噴射して媒体にドットを形成するヘッド部と、温度を検出する検出部と、前記ヘッド部を制御して印刷する制御部と、を備える印刷装置の印刷に用いる補正値の算出方法であって、
印刷する場合に、
(a−1)前記ノズルは、前記画像データのうち、割り付けられた画素データに基づいて前記インクを噴射し、
(a−2)前記制御部は、前記検出部により検出された温度に応じた前記ノズル毎のずらし量にて、前記ノズル列の方向に交差する方向へ、前記画素データを前記ノズル毎にずらし、
印刷に用いる補正値を算出する場合に、
(b−1)前記印刷装置により、所定の温度毎に、前記ノズルからインクを噴射させる噴射工程と、
(b−2)温度に応じた前記ノズル毎の前記ずらし量を算出する算出工程と、
を有する算出方法。
【請求項8】
前記算出工程は、噴射されたインクの速度を測定する、請求項7に記載の算出方法。
【請求項9】
前記インクは、濃インクと淡インクとの2種類のインクを含み、
前記ずらし量は前記濃インクの前記ノズルに対して保有する値である請求項7または請求項8のいずれかに記載の算出方法。
【請求項10】
複数のノズルから構成されるノズル列を有し、画像データに基づいて前記ノズルからインクを噴射して媒体にドットを形成するヘッド部と、温度を検出する検出部と、前記ヘッド部を制御して印刷する制御部と、を備える印刷装置による印刷方法であって、
(a−1)前記ノズルは、前記画像データのうち、割り付けられた画素データに基づいて前記インクを噴射し、
(a−2)前記制御部は、前記検出部により検出された温度に応じた前記ノズル毎のずらし量にて、前記ノズル列の方向に交差する方向へ、前記画素データを前記ノズル毎にずらし、
前記ノズル毎のずらし量は、請求項7ないし請求項9のいずれか一項に記載の算出方法により算出された補正値である印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−148466(P2012−148466A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8601(P2011−8601)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】