説明

反射防止膜付きガラス板および窓用合わせガラス

【課題】斜め入射光に対する充分な低反射性能と、高い可視光透過率と、充分な耐摩耗性と、良好な電磁波透過性とを有し、製造時熱処理にも充分耐え、後加工処理が可能であり、さらに、膜数が少なく低コストで製造することができる反射防止膜付きガラス基板の提供。
【解決手段】ガラス板の表面に、2以上の層からなる反射防止膜を有する反射防止膜付きガラス板であって、前記反射防止膜は、波長380〜780nmにおける屈折率が1.8〜2.6であり消衰係数が0.01〜0.65である高屈折率材料からなる被膜(a)と、波長380〜780nmにおける屈折率が1.56以下である低屈折率材料からなる被膜(b)とを少なくとも有し、かつ前記被膜(b)が前記反射防止膜の最表面に配され、シート抵抗値が1kΩ/□以上であることを特徴とする、反射防止膜付きガラス板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止膜付きガラス板および窓用合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板には反射防止能が求められる場合がある。例えば、自動車のウインドシールドガラス(フロントガラス)として用いられるガラス基板には、ダッシュボード周りからの映り込みを抑制して運転者の視認性を向上すること等を目的に、斜め入射の可視光に対する反射防止能が求められる。
例えば特許文献1には、このような特性を満たす反射防止膜付ガラスとして、窒化物を主成分とする特定の厚さの光吸収膜と、特定の屈折率および厚さの酸化物膜とがこの順に基板上に形成されてなる輸送機器窓用反射防止膜付ガラスが記載されている。そして、このような反射防止膜は斜め入射光に対する充分な低反射性能と高い可視光透過率とを有し、さらに充分な耐摩耗性を有し、膜厚が薄く、低コストで製造でき、加えて、製造時熱処理(例えば、曲げ加工における熱処理)にも充分耐える後加工処理可能な反射防止膜であると記載されている。
【0003】
そして、近年においては上記のような性能に加え、さらに電磁波透過性が求められる場合がある。例えば、近年の自動車のウインドシールドガラス(フロントガラス)として用いられる窓ガラスには、その基板上にアンテナを設置することを考慮して、電磁波透過性が求められている。
しかし、上記のような特許文献1に記載の輸送機器窓用反射防止膜付ガラスは、抵抗率が低く電磁波を遮断してしまうので、電磁波透過性が不充分であった。
【0004】
これに対して特許文献2において、可視光の透過率が高く、反射率が低く、膜抵抗率が高く(すなわち電波透過性が良好であり)、熱処理を受けてもクラックが発生しない反射防止膜付き基体として、透明基体と、高屈折率材料からなる被膜と、低屈折率材料からなる被膜とを前記透明基体側からこの順に偶数層積層してなる反射防止膜とを有する反射防止膜付き基体であって、前記高屈折率材料からなる被膜の少なくとも1層が、酸窒化チタン層の単層膜(a)、酸化チタン層と酸化ジルコニウム層とを含む積層膜(b)または酸窒化チタン層と酸化ジルコニウム層とを含む積層膜(c)であることを特徴とする反射防止膜付き基体が提案された。
【特許文献1】国際公開第2000/33110号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/80502号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような特許文献2に記載の反射防止膜付き基体は、積層する層数が多いので、製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上記の特許文献2に記載のような反射防止膜付き基体と同程度の良好な性能を有し、さらに積層する層数が少なく生産性に優れる反射防止膜付き基体を提供することを目的とする。
すなわち、斜め入射光に対する充分な低反射性能と、高い可視光透過率と、充分な耐摩耗性と、良好な電磁波透過性とを有し、製造時熱処理にも充分耐え、後加工処理が可能であり、さらに、積層する層(膜)数を少なく、被膜全体の厚さを薄くでき、生産性に優れ低コストで製造できる反射防止膜付きガラス板を提供することを目的とする。また、この反射防止膜付きガラス板を用いて、充分な低反射性能と、高い可視光透過率と、充分な耐摩耗性と、良好な電磁波透過性を示す窓用合わせガラスを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の(1)〜(12)である。
(1)ガラス板の表面に、2以上の層からなる反射防止膜を有する反射防止膜付きガラス板であって、前記反射防止膜は、波長380〜780nmにおける屈折率が1.8〜2.6であり消衰係数が0.01〜0.65である高屈折率材料からなる被膜(a)と、波長380〜780nmにおける屈折率が1.56以下である低屈折率材料からなる被膜(b)とを少なくとも有し、かつ前記被膜(b)が前記反射防止膜の最表面に配され、シート抵抗値が1kΩ/□以上であることを特徴とする、反射防止膜付きガラス板。
(2)前記被膜(a)の幾何学的膜厚が2〜80nmであり、前記被膜(b)の幾何学的膜厚が80〜300nmである、上記(1)に記載の反射防止膜付きガラス板。
(3)前記高屈折率材料の主成分が、Co、Al、Si、Zn、ZrおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属酸化物(A)である、上記(1)または(2)に記載の反射防止膜付きガラス板。
(4)前記金属酸化物(A)が、Co−Al酸化物、Co−Zn−Al酸化物、Co−Al−Si酸化物、Co−Zn−Si酸化物、Co−Si酸化物およびZr−Si−V酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記(3)に記載の反射防止膜付きガラス板。
(5)前記金属酸化物(A)がCoおよびAlを含み、AlとCoとの原子数比(Al/Co)が0.5〜15である、上記(3)または(4)に記載の反射防止膜付きガラス板。
(6)前記金属酸化物(A)がCoAl(0.5≦X≦15、1.75≦Y≦24)である、上記(3)〜(5)のいずれかに記載の反射防止膜付きガラス板。
(7)前記低屈折率材料が酸化ケイ素である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の反射防止膜付きガラス板。
(8)第1ガラス板と、2以上の層からなる反射防止膜を備えた第2ガラス板と、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間に介在された中間膜とを備え、前記第2ガラス板が室内側に配される窓用合わせガラスであって、前記反射防止膜を備えた第2ガラス板が、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の反射防止膜付きガラス板であり、かつ前記反射防止膜の最表面が室内側に配される窓用合わせガラス。
(9)入射角0°で入射した可視光線の透過率(T)が70%以上である上記(8)に記載の窓用合わせガラス。
(10)前記反射防止膜の膜面から入射角60°で入射した可視光線の反射率(R)が11%以下である上記(8)または(9)に記載の窓用合わせガラス。
(11)前記反射防止膜の膜面から入射角0°で入射した可視光線の反射率(R)が8%以下である上記(8)〜(10)のいずれかに記載の窓用合わせガラス。
(12)上記(1)〜(7)の反射防止膜付きガラス板の製造方法であって、少なくとも前記被膜(a)をスパッタリング法によって成膜する反射防止膜付きガラス板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、斜め入射光に対する充分な低反射性能と、高い可視光透過率と、充分な耐摩耗性と、良好な電磁波透過性とを有し、製造時熱処理にも充分耐え、後加工処理が可能であり、さらに、膜数を少なく、被膜全体の厚さを薄くでき、生産性に優れ低コストで製造できる反射防止膜付きガラス板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について詳細に説明する。
本発明は、ガラス板の表面に、2以上の層からなる反射防止膜を有する反射防止膜付きガラス板であって、前記反射防止膜は、波長380〜780nmにおける屈折率が1.8〜2.6であり消衰係数が0.01〜0.65である高屈折率材料からなる被膜(a)と、波長380〜780nmにおける屈折率が1.56以下である低屈折率材料からなる被膜(b)とを少なくとも有し、かつ前記被膜(b)が前記反射防止膜の最表面に配され、シート抵抗値が1kΩ/□以上であることを特徴とする、反射防止膜付きガラス板である。以下、このような反射防止膜付きガラス板を、「本発明の反射防止ガラス」ともいう。
【0010】
本発明におけるガラス板は、ガラス製の板であれば特に限定されない。例えばフロートガラス(フロート法で製造されたガラス)や、着色させた熱線吸収ガラスが挙げられる。これらは透明なガラス板であることが好ましい。また、本発明におけるガラス板は、厚さは特に限定されないが、例えば1.5〜3.0mm程度のものを用いることができる。ガラス基板は平板状でも湾曲状でもよい。車両、特に自動車窓は湾曲していることが多いため、ガラス板の形状が湾曲形状であってよい。
【0011】
本発明の反射防止ガラスにおいて、シート抵抗値は1kΩ/□以上であり、5kΩ/□以上であることが好ましい。シート抵抗値は1kΩ/□以上であれば電波透過性が充分確保されており、テレビ、ラジオ等の受信性能には問題のないことを意味する。したがって、材料が許容する限りシート抵抗値の上限は格別に決められるものではない。
近年、デジタルテレビ放送の普及にともない、UHF帯以上の高い周波数を用いた放送波を高いアンテナ利得で受信できることが求められきている。この目的のためには、例えば自動車であれば、車両後部や天井部以外にフロントガラスにもアンテナを設置することが行われている。そして、UHF帯以上の放送波を受信するためには、より高い電波透過性が必要となるため、フロントガラスは10MΩ/□以上(好ましくは40MΩ/□以上)のシート抵抗値を有することが求められる。本発明の反射防止膜付きガラス板は、実施例にも示すように、通常、1GΩ/□以上のシート抵抗値を示す。よって、通常のテレビ、ラジオの受信はもちろんのこと、UHF帯以上の放送波も支障なく受信できる。
なお、本発明においてシート抵抗値は二重リング法によって測定した値を意味するものとする。
【0012】
本発明の反射防止ガラスにおいて被膜(a)は、波長380〜780nmにおける屈折率が1.8〜2.6であり、消衰係数が0.01〜0.65である高屈折率材料からなる。波長380〜780nmの領域の外側であり、かつ、境界に近い領域では、被膜(a)の屈折率の値や消衰係数の値は必ずしも前記範囲に含まれる必要はないが、おおよそ前記範囲に含まれることが好ましい。
【0013】
この屈折率は、2.0〜2.4であることが好ましい。ここで屈折率は分光エリプソメトリーによって測定した値を意味するものとする。本発明において屈折率は、特に断りがない限り、全てこのような方法で測定した値を意味するものとする。
【0014】
また、前記高屈折率材料は消衰係数が0.01〜0.65である。この消衰係数は、0.05〜0.5であることが好ましい。ここで消衰係数は分光エリプソメトリーによって測定した値を意味するものとする。本発明において消衰係数は、特に断りがない限り、全てこのような方法で測定した値を意味するものとする。
【0015】
このような高屈折率材料からなる被膜(a)は幾何学的膜厚が2〜80nmであることが好ましい。この膜厚は、被膜(a)を構成する材料や、反射防止膜の構成によって異なるが、5〜70nmであることがより好ましく、10〜40nmであることがさらに好ましい。後述するが、本発明の反射防止膜が複数の被膜(a)を備える場合は、各々の被膜(a)が前記範囲の膜厚を有することが好ましい。
ここで幾何学的膜厚は、表面段差計によって測定した値を意味するものとする。本発明において被膜の膜厚は幾何学的膜厚を意味するものとする。また、本発明において幾何学的膜厚は、特に断りがない限り、全てこのような方法で測定した値を意味するものとする。
【0016】
本発明の反射防止ガラスにおいて、このような被膜(a)は、可視光線を吸収することによって、室内への可視光透過率を若干低下させ、直達の日射熱を低減させる役割を果たす。
【0017】
本発明の反射防止ガラスにおいて被膜(b)は、波長380〜780nmにおける屈折率が1.56以下である低屈折率材料からなる。屈折率は、1.50以下が好ましく、1.48以下が特に好ましい。被膜(b)は、実質的に透明な被膜であり、消衰係数は実質的に0であることが好ましい。
本発明の反射防止ガラスにおいて、このような被膜(b)は、前記被膜(a)との光学干渉により反射率を低減させる。
【0018】
また、このような低屈折率材料からなる被膜(b)は幾何学的膜厚が80〜300nmであることが好ましい。この膜厚は、100〜200であることがより好ましく、120〜160であることが特に好ましい。このような膜厚であると斜め入射光に対する反射防止能がより高まるからである。
【0019】
本発明の反射防止ガラスは、少なくとも、上記のような厚さ、特性等を有する被膜(a)および被膜(b)を有することによって、斜め入射光に対する充分な低反射性能と、高い可視光透過率とを有する。
反射防止膜付きガラス板において、反射防止膜の膜面から入射した可視光線の反射率(R)は、60°入射の場合には、12%以下であることが好ましく、11%以下であることが特に好ましい。また、0°入射の場合には、8.5%以下であることが好ましく、6.5%以下であることが特に好ましい。なお、可視光線反射率(R)の値は、60°入射の場合、0°入射の場合のいずれも、裏面反射を含む値である。
また、0℃入射の場合の可視光透過率(T)としては、77%以上であることが好ましく、82%以上であることが特に好ましい。
このような反射性能および可視光透過率を有する反射防止膜付きガラス板は、例えば、自動車用のフロントガラスの車内側に用いられるガラス板として、好ましく用いることができる。自動車のフロントガラスは、通常、2枚のガラス板を樹脂製の中間膜を介して積層させた合わせガラスである。本発明の反射防止膜付きガラス板を用い、反射防止膜の面が室内側に配されるように合わせガラスを作製すると、反射防止膜の膜面から入射した可視光の反射率(R)は、60°入射の場合には11%以下に、0°入射の場合には、8%以下にすることができる。可視光線反射率(R)の値は、60°入射の場合、0°入射の場合のいずれも、裏面反射を含む値である。また、0℃入射の場合の可視光透過率(T)を70%以上にすることができ、斜め入射光に対する充分な低反射性能と、高い可視光透過率とを有する。
なお、本発明における可視光透過率(T)および可視光線反射率(R)の値は、
JIS R3106の規定に従って算出された値である。また、可視光透過率(Tv)は、反射防止膜の面から入射した場合でも、膜が形成されていない面から入射した場合でも同じである。
【0020】
つぎに、前記の被膜(a)、被膜(b)を構成する材料について説明する。被膜(a)、被膜(b)は、前記の屈折率や消衰係数の値を有し、被膜(a)と被膜(b)とを含む反射防止膜のシート抵抗値が1kΩ/□以上になる材料であれば種々の材料が使用できる。
本発明においては、被膜(a)を構成する前記高屈折率材料の主成分が、Co、Al、Si、Zn、ZrおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属酸化物(A)であることが好ましい。
【0021】
このような金属酸化物(A)としては、例えばCo−Al酸化物、Co−Zn−Al酸化物、Co−Al−Si酸化物、Co−Zn−Si酸化物、Co−Si酸化物、Zr−Si−V酸化物などが挙げられる。金属酸化物(A)は複数種類の混合物であってもよい。
【0022】
ここで例えば「Co−Al酸化物」とは、「コバルト原子とアルミニウム原子と酸素原子とからなる物質」を意味する。本発明においては、「コバルト原子とアルミニウム原子と酸素原子とからなる物質」とは、複合酸化物のみに限られず、金属原子と金属原子との間や、金属原子と酸素原子との間で種々の結合状態をとる種々の酸化物であってもよく、種々の酸化物同士の混合物であってもよい。また、複合酸化物と種々の酸化物との混合物であってもよい。金属酸化物は、その種類や成膜方法によってさまざまな状態をとり、単一の化合物(酸化物)からなる場合もあれば、複数の化合物が混合されてなる場合もあるからである。
ここでは、「Co−Al酸化物」を例にして説明したが、その他のCo−Zn−Al酸化物、Co−Al−Si酸化物、Co−Zn−Si酸化物、Co−Si酸化物、Zr−Si−V酸化物などについても同様の意味である。
具体的には、「Co−Al酸化物」は、CoAl(0.5≦X≦15、1.75≦Y≦24)や、CoO(1≦Z≦1.5)とAlとからなる混合物などが該当する。また、Co−Zn−Si酸化物には(Co、Zn)SiOなどが該当する。また、Co−Si酸化物にはCoSiOなどが該当する。また、Zr−Si−V酸化物には、VがドープされたZrSiOが該当する。
【0023】
前記金属酸化物(A)は、Co−Al酸化物、Co−Zn−Al酸化物およびCo−Al−Si酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、Co−Al酸化物であることがより好ましい。
【0024】
また、前記金属酸化物(A)はCoおよびAlを含み、AlとCoとの原子数比(Al/Co)が0.5〜15であるものであることが好ましい。この比(Al/Co)は、1〜7であることがより好ましく、1.4〜3であることがさらに好ましい。
【0025】
また、前記金属酸化物(A)は、Co−Al酸化物、Co−Zn−Al酸化物およびCo−Al−Si酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、かつ上記のようなAl/Coの比を有することが好ましい。
金属酸化物(A)が、上記の種類で、上記のAl/Coの比を有する酸化物であることにより、合わせガラスとした場合に、0°入射の可視光に対する透過色変化率および反射色変化率が0.02以下および0.05以下となるからである。
なお、本発明において透過色変化率および反射色変化率は、本発明の反射防止膜付きガラス板を用いて得られた合わせガラスのJIS−Z8722でのC光源を測色用の光源として用いてxy座標上に表現した色調と、ガラス基板(反射防止膜が形成されていないガラス基板)を用いて得られた合わせガラスについて同様にxy座標上に表現した色調との差(Δx、Δy)の絶対値を意味するものとする。
【0026】
前記被膜(a)は前記金属酸化物(A)が主成分であることが好ましいが、「主成分」とは90質量%以上の含有率であることを意味する。つまり、前記被膜(a)を構成する高屈折率材料の全質量に対して前記金属酸化物(A)の含有率が90質量%以上であることが好ましい。この含有率は95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、100質量%であること、つまり実質的に他の成分を含まないことがさらに好ましい。この含有率が高いと、高屈折率材料として好ましい屈折率および消衰係数となり易いからである。
【0027】
前記高屈折率材料を構成する前記金属酸化物(A)以外の物質は特に限定されない。前記金属酸化物(A)とそれ以外の物質とからなる高屈折率材料全体の屈折率および消衰係数が上記のような特定範囲となり、かつ560〜700℃程度の高温で加熱処理しても結晶構造の変化や、被膜の収縮等により、膜にクラックが発生したりすることがない物質であればよい。
【0028】
被膜(b)を構成する低屈折率材料は、屈折率が1.56以下であるものであれば種々の材料が使用できる。本発明においては、酸化ケイ素が好ましい。耐久性(磨耗性)が高く、ヘイズ値を5%以下とすることができるからである。
なお、本発明においてヘイズ値は、JIS K 7105、JIS K 7136に準じた方法で測定した値を意味するものとする。
【0029】
また、前記低屈折率材料は90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは100質量%(実質的に他の成分を含まない)が酸化ケイ素であることが好ましい。耐久性(磨耗性)が高くヘイズ値を5%以下(好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下)とすることができ、さらに屈折率が低いからである。また、酸化ケイ素の中でもSiOであることが好ましい。SiOの波長550nmにおける屈折率が低い(1.45〜1.48程度)からである。前記低屈折率材料が実質的にSiOからなる場合、ヘイズ値は0.6%以下とすることができるので好ましい。
【0030】
本発明の反射防止ガラスは、前記ガラス板の表面に、2以上の層からなる反射防止膜を有し、前記2以上の層は、前記被膜(a)と前記被膜(b)とを少なくとも有し、かつ前記被膜(b)が前記反射防止膜の最表面に配される。前記被膜(a)と前記被膜(b)の位置関係について述べると、ガラス板に近い側に被膜(a)が配され、ガラス板から遠い側に(最表面に)被膜(b)が配されることとなる。本発明においては、前記の被膜(a)と被膜(b)との位置関係が保たれる限り、種々の構成の反射防止膜を用いることができる。
反射防止膜としては、被膜(a)と被膜(b)との合計2層からなり、ガラス板の表面に被膜(a)が配され、前記被膜(a)の上に被膜(b)が配されてなる反射防止膜であるほか、被膜(a)、被膜(b)以外の他の被膜を有する構成の反射防止膜であってもよい。
【0031】
すなわち、本発明の反射防止膜付きガラス板は、電波透過性や、可視光透過率(Tv)、可視光反射率(Rv)に影響を与えない限りにおいて、前記被膜(a)や前記被膜(b)以外に他の被膜(以下、被膜(c)と記載する。)を有していてもよい。
被膜(c)を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸窒化チタン、酸化ニオブ、酸化スズ、窒化ケイ素、窒化ジルコニウム、窒化アルミニウム、酸窒化スズが挙げられる。複数の種類の混合物であってもよく、例えばこれらの中の2以上の混合物であってもよい。これらのうち、酸化チタンからなる被膜、酸化ジルコニウムからなる被膜が好ましい。
また、被膜(c)の厚さは、被膜(c)や反射防止膜を構成する各々の被膜の材料、各々の被膜の積層順等によっても異なるが、反射防止性能や生産上の都合を考慮すると通常の場合、1〜80nmである(詳細については、後述する具体例中に述べる。)。このような場合であっても、本発明の効果を奏すれば本発明の範囲内である。
【0032】
以下、具体例を挙げて説明する。なお、以下の例示(態様[1]〜[4])においては、ガラス基板をGで表し、高屈折率材料からなる被膜(a)をaで表し、低屈折率材料からなる被膜(b)をbで表し、その他の被膜(被膜(c))をcで表し、ガラス板からの積層順序を添え字で表す。
【0033】
[1]G/a/b
[2]G/a/c/a/b
[3]G/a/c/b
[4]G/c/a/b
【0034】
被膜(c)は、態様[3]のように被膜(a)と被膜(b)との間に配される場合もあり、態様[4]のようにガラス板と被膜(a)との間に配される場合もある。また、被膜(c)を用いる場合は、態様[2]のように、2つの被膜(a)を有し、被膜(c)が被膜(a)と被膜(a)との間に配される場合もある。
被膜(a)は1層であってもよく、複数であってもよい。複数ある場合は、2層であることが好ましい。被膜(b)は1層であることが好ましく、被膜(c)も1層であることが好ましい。
なお、態様[2]のように同じ被膜が2以上ある場合(態様2の場合は被膜(a)が2つある)は、それらの被膜(aおよびa)の厚さや材質などは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
本発明の反射防止膜において、2以上の層を構成する各々の被膜の合計数は、2〜4が好ましく、2または3が特に好ましい。本発明においては、被膜(a)や被膜(c)は、薄い膜であるため、簡便に成膜できる。よって、反射防止膜を構成する各被膜の合計が3層や4層となる構成をとった場合においても、生産性に優れ、低コストで製造できる反射防止膜を提供できる。
【0036】
以下、態様[1]〜[4]につき、被膜(a)としてAlとCoとの原子数比(Al/Co)が1.6の場合を例にとって具体的に説明する。AlとCoとの原子数比(Al/Co)が他の値をとる場合には、被膜の厚さは原子数比に応じて変化することがある。
態様[1]としては、ガラス基板の上面に、Co−Al酸化物からなる被膜(a)と、SiOからなる被膜(b)との2つの膜をこの順に有する下記態様[1−1]であることが好ましい。
【0037】
[1−1]G/Co−Al酸化物(a)/SiO(b
【0038】
態様[1−1]において、被膜(a)の膜厚は5〜50nmであり、10〜40nmであることが好ましく、13〜30nmであることがより好ましい。
また、被膜(b)の膜厚は105〜170nmであり、115〜150nmであることが好ましく、120〜145nmであることがより好ましい。
【0039】
また、態様[1]における最適態様は、前記被膜(a)の膜厚が13〜30nmであり、かつ、前記被膜(b)の膜厚が120〜145nmである場合である。
【0040】
態様[2]としては、前記ガラス板の上面に、Co−Al酸化物からなる被膜(a)と、TiOからなる被膜(c)と、Co−Al酸化物からなる別の被膜(a)と、SiOからなる被膜(b)との4つの膜をこの順に有し、各々の膜厚が次の値である態様[2−1]が好ましい。
【0041】
[2−1]G/Co−Al酸化物(a)/TiO(c)/Co−Al酸化物(a)/SiO(b
【0042】
態様[2−1]において、被膜(a)の膜厚は2〜30nmであり、2〜12nmであることが好ましい。
また、被膜(c)の膜厚は2〜22nmであり、2〜12nmであることが好ましい。
また、被膜(a)の膜厚は2〜30nmであることが好ましく、2〜12nmであることが好ましい。
さらに、被膜(b)の膜厚は107〜170nmであることが好ましく、130〜155nmであることが好ましい。
【0043】
また、態様[2−1]における最適態様は、前記被膜(a)の膜厚が2〜12nmであり、かつ、前記被膜(c)の膜厚が2〜12nmであり、かつ、前記被膜(a)の膜厚が2〜12nmであり、かつ、前記被膜(b)の膜厚が130〜155nmである場合である。
【0044】
態様[2]としては、前記ガラス板の上面に、Co−Al酸化物からなる被膜(a)と、ZrOからなる被膜(c)と、Co−Al酸化物からなる別の被膜(a)と、SiOからなる被膜(b)との4つの膜をこの順に有し、各々の膜厚が次の値である態様[2−2]も好ましい。
【0045】
[2−2]G/Co−Al酸化物(a)/ZrO(c)/Co−Al酸化物(a)/SiO(b
【0046】
態様[2−2]において、被膜(a)の膜厚は2〜30nmであり、2〜12nmであることが好ましい。
また、被膜(c)の膜厚は2〜50nmであり、2〜37nmであることが好ましい。
また、被膜(a)の膜厚は2〜30nmであり、2〜12nmであることが好ましい。
さらに、被膜(b)の膜厚は87〜170nmであり、115〜155nmであることが好ましい。
【0047】
また、態様[2−2]における最適態様は、前記被膜(a)の膜厚が2〜12nmであり、かつ、前記被膜(c)の膜厚が2〜37nmであり、かつ、前記被膜(a)の膜厚が2〜12nmであり、かつ、前記被膜(b)の膜厚が115〜155nmである場合である。
【0048】
態様[3]としては、前記ガラス板の上面に、Co−Al酸化物からなる被膜(a)と、TiOからなる被膜(c)と、SiOからなる被膜(b)との3つの膜をこの順に有し、各々の膜厚が次の値である下記[3−1]であることが好ましい。
【0049】
[3−1]G/Co−Al(a)/TiO(c)/SiO(b
【0050】
[3−1]において、被膜(a)の膜厚は2〜30nmであり、7〜17nmであることが好ましい。
また、被膜(c)の膜厚は2〜25nmであり、2〜15nmであることが好ましい。
さらに、被膜(b)の膜厚は107〜170nmであり、122〜155nmであることが好ましい。
【0051】
また、態様[3−1]における最適態様は、前記被膜(a)の膜厚が7〜17nmであり、かつ、前記被膜(c)の膜厚が2〜15nmであり、かつ、前記被膜(b)の膜厚が122〜155nmである場合である。
【0052】
また、態様[3]としては、前記ガラス板の上面に、Co−Al酸化物からなる被膜(a)と、ZrOからなる被膜(c)と、SiOからなる被膜(b)との3つの膜をこの順に有し、各々の膜厚が次の値である下記態様[3−2]も好ましい。
【0053】
[3−2]G/Co−Al酸化物(a)/ZrO(c)/SiO(b
【0054】
[3−2]において、被膜(a)の膜厚は2〜32nmであり、4〜17nmであることがより好ましい。
また、被膜(c)の膜厚は2〜50nmであり、5〜50nmであることがより好ましい。
さらに、被膜(b)の膜厚は85〜170nmであり、85〜155nmであることがより好ましい。
【0055】
また、態様[3−2]における最適態様は、前記被膜(a)の膜厚が4〜17nmであり、かつ、前記被膜(c)の膜厚が5〜50nmであり、かつ、前記被膜(b)の膜厚が85〜155nmである場合である。
【0056】
態様[4]としては、前記ガラス基の上面に、TiOからなる被膜(c)と、Co−Al酸化物からなる被膜(a)と、SiOからなる被膜(b)との3つの膜をこの順に有し、各々の膜厚が次の値である態様[4−1]であることが好ましい。
【0057】
[4−1]G/TiO(c)/Co−Al酸化物(a)/SiO(b
【0058】
この態様[4−1]において、被膜(c)の膜厚は2〜17nmであり、5〜10nmであることが好ましい。
また、被膜(a)の膜厚は2〜32nmであり、9〜15nmであることが好ましい。
さらに、被膜(b)の膜厚は107〜170nmであり、130〜155nmであることが好ましい。
【0059】
また、態様[4−1]における最適態様は、前記被膜(c)の膜厚が5〜10nmであり、かつ、前記被膜(a)の膜厚が9〜15nmであり、かつ、前記被膜(b)の膜厚が130〜155nmである場合である。
【0060】
態様[4]としては、前記ガラス板の上面に、ZrOからなる被膜(c)と、Co−Al酸化物からなる被膜(a)と、SiOからなる被膜(b)との3つの膜をこの順に有し、各々の膜厚が次の値である態様[4−2]も好ましい。
【0061】
[4−2]G/ZrO(c)/Co−Al酸化物(a)/SiO(b
【0062】
この態様[5−2]において、被膜(c)の膜厚は2〜50nmであり、5〜50nmであることが好ましく、5〜30nmであることがより好ましい。
また、被膜(a)の膜厚は2〜32nmであり、7〜22nmであることが好ましく、7〜17nmであることがより好ましい。
さらに、被膜(b)の膜厚は85〜170nmであり、107〜158nmであることが好ましい。
【0063】
また、態様[4−2]における最適態様は、前記被膜(c)の膜厚が5〜30nmであり、かつ、前記被膜(a)の膜厚が7〜17nmであり、かつ、前記被膜(b)の膜厚が107〜158nmである場合である。
【0064】
また、上記態様[1]〜[4]において、ガラス板(G)は無色透明のソーダライムシリカガラスやUVカット機能をもつグリーン系の有色透明ガラスであることが好ましい。
【0065】
また、本発明の反射防止ガラスは充分な耐摩耗性と、電磁波透過性とを有し、さらに前記ガラス板の上に被膜(a)と被膜(b)と有する単純な構造であってよいので、生産性に優れ低コストで製造することができる。さらに、反射防止膜全体の厚さを薄くすることができるので材料費を少なくでき、低コストで製造することができる。
【0066】
さらに、本発明の反射防止ガラスにおいて被膜(a)および被膜(b)は、加熱処理してもその形態が変化しない材料からなる(つまり、加熱処理後の特性が加熱処理前と比較して変化しない。)ので、製造時(曲げ加工や強化加工の際)の熱処理にも充分耐え、後加工処理が可能である。例えば自動車用フロントガラスはその製造工程において、平板ガラス板に被膜を形成した後、560〜700℃程度の高温で曲げ加工するが、本発明の反射防止膜付きガラス板はこのような加工に耐え得る。すなわち高温で曲げ加工しても、被膜に亀裂が生じたり、被膜の特性が変化して本発明の効果を奏さなくなったりすることはない。したがって本発明の反射防止膜付きガラス板は、自動車用のフロントガラスの車内側に用いられるガラスとして、好ましく用いることができる。また、本発明の反射防止膜付きガラス板は、560〜700℃程度の高温での強化加工の際の加熱処理を受けても被膜に亀裂が生じたり、被膜の特性が変化して本発明の効果を奏さなくなったりすることはない。よって、自動車用の昇降窓など、強化加工が施された窓としても好ましく用いることができる。
また、本発明の反射防止膜は、曲げ加工や強化加工等の高温での熱処理を受けない場合にも充分な反射防止能を示す。すなわち、ガラス板を所定の形状に曲げ加工したり、強化加工したりした後、該ガラス板の表面に本発明の反射防止膜を形成して得られる反射防止膜付きガラス板も、既に述べた可視光透過率(Tv)や可視光反射率(Rv)の値を示し、反射防止に有効であるほか、耐摩耗性や電波透過性にも優れる。
【0067】
本発明の反射防止ガラスは合わせガラスに用いることが好ましい。このような合わせガラスも本発明の範囲内である。このような合わせガラスを特に「本発明の合わせガラス」ともいう。
すなわち、本発明の合わせガラスは、第1ガラス板と、反射防止膜を備えた第2ガラス板と、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間に介在された中間膜とを備え、前記第2ガラス板が室内側に配される窓用合わせガラスであって、前記反射防止膜を備えた第2ガラス板が本発明の反射防止膜付きガラス板である合わせガラスである。本発明の合わせガラスにおいては、前記反射防止膜の最表面が形成された面が室内側面となる。
このような本発明の合わせガラスは、例えば、自動車用のフロントガラスとして好ましく用いることができる。この用途に用いた場合、ダッシュボード周りからの映り込みを抑制して運転者の視認性を向上することができる。
【0068】
ここで第1ガラス板および第2ガラス板は、その材質、厚さ等は、上記の本発明のガラス板に用いることができるガラス板と同様であってもよい。例えば第1ガラス板および第2ガラス板の厚さは、ともに1.5〜3.0mmとすることができる。この場合、第1ガラス板および第2ガラス板を等しい厚さにすることも、異なる厚さにすることもできる。本発明の合わせガラスを自動車窓に用いるにあたっては、例えば、第1ガラス板および第2ガラス板を、ともに2.0mmの厚さにしたり2.1mmの厚さにすることが挙げられる。また本発明の合わせガラスを自動車窓に用いるにあたっては、例えば、第2ガラス板の厚さを2mm未満、第1ガラス板の厚さを2mm強とすることで、窓用合わせガラスの総厚さを小さくし、かつ車外側からの外力に抗することができる。第1ガラス板および第2ガラス板は、平板状でも湾曲状でもよい。車両、特に自動車窓は湾曲していることが多いため、第1ガラス板および第2ガラス板の形状は湾曲形状であることが多い。
【0069】
また、中間膜は通常の合わせガラスに用いることができるものであればよい。例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が挙げられ、PVBが好ましい。厚さは例えば0.3〜0.8mmであり、厚さが0.76mm程度のポリビニルブチラールが好ましい。また、これらの中間膜は、ITO(Indium Tin Oxide)等の赤外線遮蔽性粒子が分散された中間膜であってもよい。
【0070】
上記態様において用いるCo−Al酸化物のAl/Coが1〜7であることがより好ましい。0°入射の可視光に対する透過色変化率および反射色変化率が0.01以下および0.05以下となるからである。
【0071】
本発明の窓用合わせガラスにおいて、膜面から入射した可視光線の反射率(R)は、60°入射の場合には、11%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましい。また、0°入射の場合には、8%以下であることが好ましく、6%以下であることが特に好ましい。なお、可視光線反射率(R)の値は、60°入射の場合、0°入射の場合のいずれも、裏面反射を含む値である。
また、0℃入射の場合の可視光透過率(T)としては、70%以上であることが好ましく、75%以上であることが特に好ましい。可視光透過率(T)が高くなると、反射防止能が低減する傾向があるので、その点では85%程度以下であることが好ましい。
上記態様[1]〜[4]の反射防止膜付きガラス板を用いて、上記のような構成として得られる合わせガラスは、60°入射の可視光に対する反射率(裏面反射込み)が11%以下、かつ、0°入射の可視光透過率が70%以上となる。さらに、0°入射の可視光に対する反射率(裏面反射込み)が8%以下にもできる。よって、本発明の合わせガラスは、特に自動車用のフロントガラスとして好ましく用いることができる。
【0072】
また、上記態様[1]〜[4]の各々について、中でも特に好ましい態様を「最適態様」として示したが、最適態様の反射防止ガラスを用いて上記構成の合わせガラスを作製する場合、本発明の合わせガラスは、60°入射の可視光に対する反射率(裏面反射込み)が10.0%以下、かつ、0°入射の可視光透過率が75%以上となる。
【0073】
なお、本発明において、60°入射の可視光に対する反射率、0°入射の可視光に対する反射率、および0°入射の可視光透過率は、JIS−R3106に基づき、A光源を使用して膜面から光を入射させて測定した値を意味するものとする。
【0074】
次に、本発明の反射防止膜付きガラス板および本発明の合わせガラスの製造方法について説明する。
前記被膜(a)および前記被膜(b)、さらに必要に応じて被膜(c)を前記ガラス板の上に形成する方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。例えば、CVD法、スパッタリング法、熱分解法などを適用することができる。中でもスパッタリング法で成膜することが好ましい。
【0075】
スパッタリング法としては、例えばDC(直流)スパッタリング方式、AC(交流)スパッタリング方式、高周波スパッタリング方式、マグネトロンスパッタリング方式が挙げられる。中でもDCマグネトロンスパッタリング法、ACマグネトロンスパッタリング法が好ましい。プロセスが安定しており、大面積への成膜が容易であるからである。
【0076】
例えば、被膜(a)としてCo−Al酸化物からなる被膜をガラス板の上面に形成する場合であれば、例えばターゲットとしてCoターゲットおよびAlターゲットの2つを用い、スパッタガスとして酸素原子を含むガスを用いて、反応性スパッタリング法を適用することで、ガラス板の上面に被膜(a)を形成することができる。ここで2つのターゲットの印可電圧等を変化させることで、ガラス板上に形成される被膜(a)中に含まれるCoとAlとの比を変化させることができる。また、このようなスパッタリング法において、CoおよびAlを含むターゲットを用いてもよい。
また、CoとAlとOとを含むターゲットを用いてもよい。そしてスパッタガスとして酸素を含まないガスを用いてもよい。また、被膜(a)としてCo−Zn−Al酸化物を形成する場合であれば、3つのターゲットを用いてもよいし、これら3つの元素を含む1つのターゲットを用いてもよい。
【0077】
このような方法でガラス板の上面に形成された被膜(a)の上面に、さらに被膜(b)として酸化ケイ素の被膜を形成する方法も特に限定されない。例えばターゲットとして炭化ケイ素(SiC)を用い、スパッタガスとして酸素原子を含むガスを用いて、反応性スパッタリング法を適用する方法が挙げられる。
また、例えば、被膜(c)として酸化チタン被膜を形成する場合であれば、例えばターゲットとしてTiO(1<X<2)を用い、スパッタガスとして酸素原子を含むガスを用いて、反応性スパッタリング法を適用する方法が挙げられる。
また、例えば、被膜(c)として酸化ジルコニウム被膜を形成する場合であれば、例えばターゲットとしてジルコニウムを用い、スパッタガスとして酸素原子を含むガスを用いて、反応性スパッタリング法を適用する方法が挙げられる。
【0078】
このようなスパッタリング法においてスパッタガスは、二酸化炭素や、アルゴンなどの不活性ガスを併用することもできる。
スパッタリングの条件は、成膜する膜の種類、厚さなどにより適宜決定できる。また、スパッタガスの全圧は、グロー放電が安定に行われる圧力であればよい。
【0079】
本発明の合わせガラスは、例えば、上記のような本発明の反射防止膜付きガラス板を曲げ加工する。ついで、曲げ加工後の反射防止膜付きガラス板と、中間膜と、前記反射防止膜付きガラス板と形状を合わせて曲げ加工した他のガラス板(反射防止膜が形成されていないガラス板)とを、この順番でかつ反射防止膜の面が室内側面に配されるように積層し、ついで減圧条件下で加熱圧着することによって製造することができる。
【実施例】
【0080】
[1]被膜(a)の屈折率および消衰係数の評価
真空槽内のカソード上に、スパッタターゲットとしてAlターゲットとCoターゲットとを設置した。そして、真空槽を1.3×10−3Pa以下となるまで排気した後、アルゴンガスと酸素ガスとからなるスパッタガス(ArおよびOの混合ガス)を真空層内の圧力が4.0×10−1Paになるよう導入した。その後、DCパルス電源を用いてAlターゲットとCoターゲットとを同時に用いた反応性スパッタリングを行い、真空槽内に設置したガラス板(コーニング社製、商品番号:1739)の表面に、AlとCoとを含む酸化物からなる被膜(a)を形成した。この被膜(a)を以下の実施例においてCoAl膜ともいう。
【0081】
次に得られたCoAl膜付きガラス板について、小型のベルト炉で熱処理を行った。熱処理条件は設定温度:650℃、熱処理時間:15分間とした。そして、熱処理後のCoAl膜中のCo原子とAl原子との原子数比をXPS(X線光電子分光法)を用いて測定した。
成膜条件(各ターゲットの印加電力、Ar/Oの体積比)および原子数比の測定結果を第1表に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
また、熱処理後のCoAl膜の波長380〜780nmの範囲における屈折率および消衰係数の波長分散を分光エリプソメータを用いて求めた。その測定結果を図1、2に示す。サンプル1は、アルミニウム原子の比率が大きすぎたため、本発明で規定した屈折率および消衰係数の値を示さなかった。
【0084】
[2]被膜(b)の屈折率および消衰係数の評価
真空槽内のカソード上に、スパッタターゲットとしてSiターゲットを設置した。そして、真空槽を1.3×10−3Pa以下となるまで排気した後、アルゴンガスと酸素ガスとからなるスパッタガス(Ar/O=18/12(体積比))を真空槽内の圧力が4.0×10−1Paになるよう導入した。その後、DCパルス電源を用いてSiターゲットの反応性スパッタリングを行い、真空槽内に設置したシリコンウェハー板の表面に、SiOからなる被膜(b)を形成した。この被膜(b)を以下ではSiO膜ともいう。成膜条件を第2表に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
次に得られたSiO膜付きシリコンウェハー板について、小型のベルト炉で熱処理を行った。熱処理条件は設定温度:650℃、熱処理時間:15分間とした。そして、熱処理後のSiO膜の波長380〜780nmの範囲における屈折率および消衰係数の波長分散を、分光エリプソメータを用いて求めた。
その結果、消衰係数は380〜780nmの範囲でゼロであった。SiO膜の屈折率の波長分散を図3に示す。
【0087】
[3]反射防止膜付きガラス板の作製
ガラス板として無色透明ソーダライムシリカガラス(旭硝子社製、厚さ:2.3mm、以下では「FL」という)を使用し、第3表に示す例1〜4に示す構成の反射防止膜を成膜し、反射防止膜付きガラス板を得た。
ここで、例1、2においては、FLの表面に上記の[1]におけるサンプル4と同様の成膜条件でCoAl膜を成膜した。そして、その上面に上記の[2]と同様の成膜条件でSiO膜を成膜した。
また、例3、4においては、FLの表面に上記の[1]におけるサンプル2と同様の成膜条件でCoAl膜を成膜した。そして、その上面に上記の[2]と同様の成膜条件でSiO膜を成膜した。
第3表には例1〜4における各々の膜厚を示した。また、CoAl膜中のCo原子とAl原子との原子数比をXPS(X線光電子分光法)を用いて測定した結果を示した。また、第4表には、例1〜4の反射防止膜付きガラス板について、可視光反射率と可視光透過率をシュミレーションによって求めた結果を示した。
【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
[4]合わせガラスの作製および評価
[3]で得られた例1〜4の各々の反射防止膜付きガラス板について、600℃で8分間の熱処理を行い、ついで室内で徐冷した。次に、熱処理後の各々の反射防止膜付きガラス板と、ポリビニルブチラール製中間膜(0.76mm)と、グリーン系有色透明ソーダライムシリカガラス(旭硝子社製、厚さ:2.3mm、以下「VFL」という)とを、反射防止膜の面が室内側になるようにして積層し、例1〜4の反射防止膜付きガラス板を各々を用いた4つの合わせガラスを作製した。そして、各々の合わせガラスについて分光光度計(日立製作所製、U4000)により波長380〜780nmの範囲の光の透過率、反射率を測定し、VFLガラス板側から入射する光の可視光透過率Tv(%)、被膜(b)側から入射角60°または入射角0°で入射する光の可視光反射率Rv(%)を求めた。また、2探針抵抗計(三菱油化社製、ハイレスタIP)を用いて、上記の4つの合わせガラスにおける反射防止膜の各々についてシート抵抗値を測定した。
その結果、第5表に示すように、いずれの合わせガラスも1GΩ/□以上の抵抗であった。また、入射角0°で70%以上の可視光透過率であり、かつ入射角度60°で11%以下、入射角0°で8%以下の可視光反射率であった。
【0091】
【表5】

【0092】
また、上記熱処理後の、各々の反射防止膜付きガラス板の反射防止膜の表面を光学顕微鏡で観察したところ、クラックが生じていないことが確認された。
【0093】
[5]ヘイズ率の評価
被膜(a)と被膜(b)の膜厚を以下に示す厚さとした以外は、[3]における例2と同様にして反射防止膜付きガラス板5を得た。
FL(2.3mm)/CoAl(16nm)/SiO(140nm)
ヘイズメータを用い、測定点数を2点として反射防止膜付きガラス板5のヘイズ値を測定したところ、ヘイズ値は0.1%と0.3%であった。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、実施例のCoAl膜の屈折率の波長分散を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例のCoAl膜の消衰係数の波長分散を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例のSiO膜の屈折率の波長分散を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の表面に、2以上の層からなる反射防止膜を有する反射防止膜付きガラス板であって、
前記反射防止膜は、波長380〜780nmにおける屈折率が1.8〜2.6であり消衰係数が0.01〜0.65である高屈折率材料からなる被膜(a)と、波長380〜780nmにおける屈折率が1.56以下である低屈折率材料からなる被膜(b)とを少なくとも有し、かつ前記被膜(b)が前記反射防止膜の最表面に配され、
シート抵抗値が1kΩ/□以上であることを特徴とする、反射防止膜付きガラス板。
【請求項2】
前記被膜(a)の幾何学的膜厚が2〜80nmであり、前記被膜(b)の幾何学的膜厚が80〜300nmである、請求項1に記載の反射防止膜付きガラス板。
【請求項3】
前記高屈折率材料の主成分が、Co、Al、Si、Zn、ZrおよびVからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属酸化物(A)である、請求項1または2に記載の反射防止膜付きガラス板。
【請求項4】
前記金属酸化物(A)が、Co−Al酸化物、Co−Zn−Al酸化物、Co−Al−Si酸化物、Co−Zn−Si酸化物、Co−Si酸化物およびZr−Si−V酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項3に記載の反射防止膜付きガラス板。
【請求項5】
前記金属酸化物(A)がCoおよびAlを含み、AlとCoとの原子数比(Al/Co)が0.5〜15である、請求項3または4に記載の反射防止膜付きガラス板。
【請求項6】
前記金属酸化物(A)がCoAl(0.5≦X≦15、1.75≦Y≦24)である、請求項3〜5のいずれかに記載の反射防止膜付きガラス板。
【請求項7】
前記低屈折率材料が酸化ケイ素である、請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止膜付きガラス板。
【請求項8】
第1ガラス板と、2以上の層からなる反射防止膜を備えた第2ガラス板と、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間に介在された中間膜とを備え、前記第2ガラス板が室内側に配される窓用合わせガラスであって、
前記反射防止膜を備えた第2ガラス板が、請求項1〜7のいずれかに記載の反射防止膜付きガラス板であり、かつ前記反射防止膜の最表面が室内側に配される窓用合わせガラス。
【請求項9】
入射角0°で入射した可視光線の透過率(T)が70%以上である請求項8に記載の窓用合わせガラス。
【請求項10】
前記反射防止膜の膜面から入射角60°で入射した可視光線の反射率(R)が11%以下である請求項8または9に記載の窓用合わせガラス。
【請求項11】
前記反射防止膜の膜面から入射角0°で入射した可視光線の反射率(R)が8%以下である請求項8〜10のいずれかに記載の窓用合わせガラス。
【請求項12】
請求項1〜7の反射防止膜付きガラス板の製造方法であって、少なくとも前記被膜(a)をスパッタリング法によって成膜する反射防止膜付きガラス板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−201633(P2008−201633A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40928(P2007−40928)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】