説明

受光装置

【課題】高輝度の光入力または被写体の瞬時の明るさ上昇に対しても、画像形成不能状態を生じない受光装置を提供する。
【解決手段】受光素子アレイ10と、信号入力部および該信号入力部を経由する信号を受ける本体部を有するマルチプレクサとを備え、受光素子アレイ10において、受光素子Sの間に位置するモニタ受光部Mを備え、いずれも、各自pin型フォトダイオードを形成し、モニタ受光部および受光素子の電極は各別に信号入力部に接続され、該信号入力部において、受光素子からの直の信号は、モニタ受光部からの直の信号に基づいてゲイン制御またはオンオフ制御されて、本体部へ出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光装置に関し、より具体的には、長波長側が近赤外域にまで受光感度を有する受光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近赤外域の波長域またはそれより長波長側に対応するバンドギャップエネルギを持つ化合物半導体として、III−V族化合物半導体が注目され、研究開発が進行している。たとえばInPに格子整合するInGaAsを受光層に持つ受光素子を、上記InP基板上に配列した受光素子アレイを用いて、宇宙からの自然光を受光する暗視カメラが開示されている(非特許文献1)。これにより、夜間、雨天にかかわらず人工照明を用いることなく、自然光により撮像することが可能となる。
【非特許文献1】MarshallJ.Cohen and Gregory H. Olsen "Near-IR imaging cameras operate at roomtemperature", LASER FOCUS WORLD, June 1993, pp.109-113
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の暗視カメラは、しかしながら比較的小さい入力光で画像出力を形成しているとき、輝度の高い光が視野に入るとハレーションを起こし、キャリアが受光素子から無くなるまで画像を得ることができない。このため、たとえば動画を撮像中に輝度が大きく変わる場合、画像形成が不能となる状態が生じやすい。今後、多種多様の用途が見込まれる近赤外域の撮像装置(センサ)において、上記のような画像形成不能状態が発生することは好ましくなく、克服しておくべきことである。
【0004】
本発明は、高輝度の光入力または被写体の瞬時の明るさ上昇に対しても、画像形成不能状態を生じない受光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の受光装置は、受光層を含む半導体積層体に、複数の受光素子が配列された受光素子アレイと、信号入力部および該信号入力部を経由する信号を受ける本体部を有するマルチプレクサとを備える受光装置である。この受光装置は、受光素子アレイにおいて、複数の受光素子の間に位置する1つまたは2つ以上のモニタ受光部を備え、複数の受光素子およびモニタ受光部は、いずれも、半導体積層体の一方の面である表面から受光層に届くように位置する不純物領域と、当該不純物領域にオーミック接触する電極と、を持ち、受光素子およびモニタ受光部は、いずれも、各自pin型フォトダイオードを形成し、半導体積層体の表面と反対側の裏面から光を入射する裏面入射型であり、モニタ受光部および受光素子の電極は、各別にマルチプレクサの信号入力部に接続され、該信号入力部において、受光素子からの直の信号は、モニタ受光部からの直の信号に基づいてゲイン制御またはオンオフ制御されて、マルチプレクサの本体部へ出力されることを特徴とする。
ここで、受光層の導電型は問わず、第1導電型でもイントリンシックでもよい。
【0006】
上記の構成により、モニタ受光部は、受光素子と同様に、pn接合部に空乏層を形成した状態で、入射光を受光してその光の強度をモニタして出力することができる。この光の強度出力信号に基づき、外部回路(駆動回路)では、受光素子のゲインまたはオンオフを制御する信号を発することができる。すなわち、受光素子およびモニタ受光部は、いずれも、各自pin型フォトダイオードを形成することで、pn接合またはpi接合からの空乏層を低い逆バイアス電圧または無電圧印加で大きく拡げて、各受光素子における受光感度を高めつつ、一方高輝度入力に起因する画像形成不能状態の回避は、モニタ受光部と外部の駆動回路とにより、ゲイン等の制御により行うことができる。
この結果、高輝度光入力によるキャリア飽和状態の持続に起因する画像形成不能状態の発生を回避した受光装置を得ることができる。
【0007】
信号入力部において、モニタ受光部からの直の信号を、増幅+微分回路に通して明るさの時間勾配をとり、その時間勾配の信号の、(1)高さが予め決めた基準値を超えたときに受光素子からの直の信号をオフとする出力、または、(2)高さに応じてオートゲイン制御する出力、を行うことができる。
マルチプレクサ本体部に入る前に、受光素子アレイの出力を、即座に制御することができる。
【0008】
平面的に見て、モニタ受光部において受光する面積を、受光素子におけるそれより小さくすることができる。これによってモニタ受光部は、受光素子よりも飽和が早期に生じ、マイコン制御によらずワイヤードロジック回路により信号処理を高速で行うことができる。また、マイコン制御による場合は、マイコン制御が行い易くなる。
【0009】
上記の半導体積層体をIII−V族化合物半導体により構成し、第2導電型不純物をZnとすることができる。これによって、これまで実績のあるZnを半導体積層体内に選択拡散して、受光層にpn接合を形成することを容易化する。
【0010】
上記の受光層を、近赤外域またはそれより長波長側に対応するバンドギャップエネルギをもつIII−V族化合物半導体から構成することができる。
これによって、近赤外域またはそれより長波長側に感度をもち、かつ高輝度光入力によるキャリア飽和状態の持続に起因する画像形成不能状態の発生を回避した受光装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の受光装置によれば、高輝度光入力によるキャリア飽和状態の持続に起因する画像形成不能状態の発生を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態の受光装置における受光素子アレイ10の端部の部分断面図である。図1において、受光素子アレイ10は、1つの半導体積層体の(InP基板1/n型(第1導電型)InPバッファ層2/GaInNAs受光層3/InP窓層4)を備える。図2は、受光素子アレイ10の上面図である。受光素子アレイ10は、平面的には、周期的に配置される受光素子であるセンシング部Sと、その中に1つまたは2つ以上配置されるモニタ受光部Mとで構成される。ここで、本発明における受光装置は、撮像装置、検出装置など、本発明の構成を備えている限り名称にはこだわらず、何でもよい。
【0013】
図1において、不純物拡散用マスクパターン5はSiNで形成され、センシング部Sおよびモニタ受光部Mに開口部を持つように、InP窓層4上にわたって位置している。センシング部Sおよびモニタ受光部Mともに、マスクパターン5の開口部から拡散導入されたZnが分布するp型(第2導電型)領域16が形成されている。図1および図2に示すように、モニタ受光部Mの面積はセンシング部Sの面積より小さく形成されているが、制御回路での制御によって調節できるので、同じ面積であってもよいし、大きい面積であってもよい。モニタ受光部Mのサイズをセンシング部Sのそれより小さくすることにより、(1)大入力の光の入射に際し、モニタ受光部Mでは、センシング部Sよりも早期に飽和しやすく、入力光の強度を割り出して、センシング部にマイコン制御をかけなくても、ワイヤードロジック回路(ハード)のみでハレーションを防止できる利点、および(2)周期配列のセンシングSの間に、モニタ受光部Mを配置するのが容易になる利点、を生じる。
【0014】
図3は、受光素子アレイとマルチプレクサとを組み合わせた撮像装置50を示す平面図であり、センシング部Sおよびモニタ受光部Mを実線で示している。図3に示すように、モニタ受光部Mは、センシング部Sの数とは無関係であり、受光素子アレイ全体で1つでもよいし、中央部および四隅などに、入力モニタをするのに適当な位置に配置することができる。要は、高輝度光入力により電荷充満状態の期間、画像形成不能状態が持続することを回避できるように、光入射をモニタできる配置であればよい。
【0015】
図4は、図3中のIV−IV線に沿う断面図である。各センシング部のp部電極11はそれぞれマルチプレクサ51の入力端子56に、図示しないはんだバンプ等を用いて電気的に接続され、また共通の接地電位が印加されるn部電極(図示せず)は、マルチプレクサ51の接地電位用端子(図示せず)に、同様に、電気的に接続される。マルチプレクサ51にはCMOSマルチプレクサを用いるのがよい。
【0016】
モニタ受光部Mのp部電極11は、マルチプレクサ51のモニタ端子59に、図示しないはんだバンプ等を用いて電気的に接続される。マルチプレクサ51には、信号処理回路(制御回路)が設けられ、モニタ受光部Mからp部電極11を経由して入力される受光信号に基づき、センシング部Sの受光動作を制御する。センシング部Sの受光動作の制御は、センシング部Sからのマルチプレクサ51の本体への受光信号を遮断するオンオフ制御でもよいし、センシング部Sのゲイン制御でもよい。
【0017】
図5は、センシング部Sからのマルチプレクサ51の本体への受光信号を遮断するオンオフ制御を行う場合の回路図である。被写体が瞬時に非常に明るくなった場合、信号処理回路はモニタ受光部M(受光素子またはフォトダイオード)の出力に基づき、センシング部Sのスイッチの制御、またはオンオフ制御を行う。モニタ受光部Mの出力は、信号処理において、瞬時の明るさ増大の程度を定量化するために、図5に示すように、増幅+微分回路により明るさの増大の時間勾配をとるのがよい。明るさの増大の時間勾配は、微分回路を経てスパイク状になるので、スパイクの高さが予め定めた基準値を超えた場合に、マルチプレクサ51本体部への出力Soutをオフにする。
【0018】
図6は、センシング部Sからのマルチプレクサ51の本体への受光信号の強度を、モニタ受光部Mの受光信号に基づいて制御する場合の回路図である。モニタ受光部Mの出力について、増幅+微分回路により明るさの増大の時間勾配をとるのは、図5の場合と同じである。明るさの増大の時間勾配は、微分回路を経てスパイク状になるので、スパイクの高さに応じて、マルチプレクサ51本体部への出力Soutのオートゲイン制御(AGC Auto Gain Control)を行う。マルチプレクサ51またはその他の駆動部に搭載される制御回路については、常用されている制御方式を用いることができる。
【0019】
図5および図6は、1つのモニタ受光部Mによって、1つのセンシング部Sの出力制御を行う場合を示している。しかし、1つのセンシング部Sを受光素子アレイの任意の1つの受光素子と見て、1つのモニタ受光部Mによってすべての受光素子Sの出力制御を行うと見ることもできる。また、1つのモニタ受光部Mがカバーする範囲内の複数個のセンシング部Sの出力制御を行っていると見ることもできる。いずれにしても、モニタ受光部Mによってセンシング部Sの出力は制御されるので、大入力光入射に対して、高輝度光入力による画像形成不能期間の発生を防止することができる。
【0020】
次に、上記の受光素子アレイ10および撮像装置50の製造方法について説明する。まず、n型InP基板1上に、n型InPバッファ層2を形成する。n型InP基板1およびn型InPバッファ層2は、n型不純物Siをドープして、キャリア濃度3×1018cm−3の高濃度となるようにするのがよい。n型InP基板1は、Feをドープしたものであってもよい。n型InPバッファ層2の成膜法は、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、OMVPE(Organo Metallic Vapor Phase Epitaxy)法など周知の方法を用いることができる。ただし、OMVPE法など水素濃度が高くなる成膜法を用いた場合には、脱水素のための熱処理を行なうのがよい。
【0021】
次いで、n型InPバッファ層2上に、GaInNAs受光層3を成長する。不純物はとくに添加しなくてもよいが、n型不純物のSiを、キャリア濃度3×1015cm−3程度となるように添加してもよい。水素濃度を低くする点からはMBE法で成長するのがよいが、OMVPE法等で成長して、水素濃度が高い場合には熱処理で脱水素処理をしてもよい。GaInNAs受光層3は、結晶性を向上するためにSbを含んだものでもよい。GaInNAs受光層3に接してInP窓層4を成長させる。GaInNAs受光層3は、近赤外域の長波長側に受光感度を有するものであるが、Sbおよび/またはPを含有してもよい。Sbは結晶性の向上のために添加する。また、近赤外域の長波長側の受光感度がそれほど必要ない場合には、Nを含まずGaInAs受光層としてもよい。窓層4についてもInP以外に、受光層3と格子整合し、受光層3よりもバンドギャップが大きいものであれば何でもよい。上記の半導体積層体は、つぎのような化合物半導体層で形成されている。
半導体積層体:(InP基板1/nInGaAsバッファ層2/GaInNAs受光層3/InP窓層4)
各層の厚みは、大雑把に、InGaAsバッファ層2は1μm〜2μm程度、GaInNAs受光層3は2μm〜3μm、InP窓層4は0.5μm〜1.5μmである。InP窓層4上に、センシング部Sおよびモニタ受光部Mに開口部を有するマスクパターン5をSiNにより形成し、p型不純物のZnを各開口部からInP窓層4を通して導入してp型領域16を形成する。p型領域16は、GaInNAs受光層3に届いており、先端部にpn接合またはpin接合を形成する。その後、InP窓層4のp型領域16上にオーミック接触のp部電極11をPtTi等により、またInP基板1またはInGaAsバッファ層2の周縁部にオーミック接続するn部電極12をAuGeNi等により、それぞれ形成する。
【0022】
上記の受光素子アレイおよびこれを用いた撮像装置によれば、被写体の瞬時の明るさの上昇または高輝度光入力があっても、モニタ受光部のモニタリングによって受光素子(センシング部)の受光信号の出力を制御するので、画像形成不能状態を回避することができ、常に被写体等の鮮明な画像を得ることができる。
【0023】
上記において、本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態および実施例は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の受光素子アレイおよび撮像装置によれば、高輝度光入力または被写体の瞬時の明るさ上昇に対して、画像形成不能状態を生じることなく、鮮明な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態における受光素子アレイを示す断面図である。
【図2】図1の受光素子アレイの上面図である。
【図3】受光素子アレイとマルチプレクサとを組み合わせた撮像装置を示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】本発明の撮像装置において、モニタ受光部の受光信号に基づき、センシング部の受光信号出力をオンオフ制御する場合の回路図である。
【図6】本発明の撮像装置において、モニタ受光部の受光信号に基づき、センシング部の受光信号出力の自動ゲイン制御をする場合の回路図である。
【符号の説明】
【0026】
1 InP基板、2 n型InPバッファ層、3 GaInNAs受光層、4 InP窓層、5 マスクパターン、10 受光素子アレイ、11 p部電極、12 n部電極、16 p型領域、50 撮像装置、51 マルチプレクサ、56 マルチプレクサ入力端子、59 マルチプレクサのモニタ入力端子、S センシング部(受光素子)、M モニタ受光部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光層を含む半導体積層体に、複数の受光素子が配列された受光素子アレイと、信号入力部および該信号入力部を経由する信号を受ける本体部を有するマルチプレクサとを備える受光装置であって、
前記受光素子アレイにおいて、前記複数の受光素子の間に位置する1つまたは2つ以上のモニタ受光部を備え、
前記複数の受光素子および前記モニタ受光部は、いずれも、前記半導体積層体の一方の面である表面から前記受光層に届くように位置する不純物領域と、当該不純物領域にオーミック接触する電極と、を持ち、
前記受光素子および前記モニタ受光部は、いずれも、各自pin型フォトダイオードを形成し、
前記半導体積層体の表面と反対側の裏面から光を入射する裏面入射型であり、
前記モニタ受光部および前記受光素子の電極は、各別に前記マルチプレクサの信号入力部に接続され、該信号入力部において、前記受光素子からの直の信号は、前記モニタ受光部からの直の信号に基づいてゲイン制御またはオンオフ制御されて、前記マルチプレクサの本体部へ出力されることを特徴とする、受光装置。
【請求項2】
前記信号入力部において、前記モニタ受光部からの直の信号を、増幅+微分回路に通して明るさの時間勾配をとり、その時間勾配の信号の、(1)高さが予め決めた基準値を超えたときに前記受光素子からの直の信号をオフとする出力、または、(2)高さに応じてオートゲイン制御する出力、を行うことを特徴とする、請求項1に記載の受光装置。
【請求項3】
平面的に見て、前記モニタ受光部において受光する面積は、前記受光素子におけるそれより小さいことを特徴とする、請求項1または2に記載の受光装置。
【請求項4】
前記受光素子アレイの半導体積層体がIII−V族化合物半導体から構成され、前記不純物が亜鉛(Zn)であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の受光装置。
【請求項5】
前記受光層が、近赤外域またはそれより長波長側に対応するバンドギャップエネルギをもつIII−V族化合物半導体から構成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の受光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−199554(P2012−199554A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92981(P2012−92981)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【分割の表示】特願2007−272568(P2007−272568)の分割
【原出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】