説明

含フッ素エラストマー組成物

半導体の製造工程で行われるNF3プラズマ処理、O2プラズマ処理およびCF4プラズマ処理すべてのプラズマ処理に対して重量変化が小さく、顕著なプラズマ耐性を有する含フッ素エラストマー組成物および該含フッ素エラストマー組成物からなる成形品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋可能な含フッ素エラストマーおよび平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体(無定形炭素を除く)からなる含フッ素エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素エラストマー、特にテトラフルオロエチレン(TFE)単位を中心とするパーフルオロエラストマーは、優れた耐薬品性、耐溶剤性および耐熱性を示すことから、過酷な環境下において広く使用されている。
【0003】
半導体製造工程のエッチング、アッシングおよび化学蒸着(CVD)工程では、プラズマ装置が使用されている。プラズマ装置においては、種々の連結部分や可動部分に、封止のためにエラストマー性シール材が使用されている。これらのシール材には、シール性だけではなく、微細化や基板ウェハーの大型化により、高密度(1012〜1013/cm3)という厳しいプラズマ処理条件に耐えられること、および極めて精密な加工が必要とされる半導体を汚染しないことが要求される。このようなエッチング、アッシング工程においては、高密度のO2プラズマ、CF4プラズマプロセスが実施されている。さらに、CVDによる薄膜形成プロセス後にCVD装置のチャンバー内をクリーニングするために、NF3リモートプラズマを利用した高濃度Fラジカルによるクリーニングが実施されている。そのため、シール材には、NF3プラズマ処理、O2プラズマ処理およびCF4プラズマ処理、すべてに耐性があることが要求されている。
【0004】
このような要求に対応できるシール材用エラストマー性材料として、架橋性の含フッ素エラストマーに有機または無機フィラーを配合した材料が提案されているが、従来フィラーとして使用されている、カーボンブラック、シリカ(たとえば、特許第2783576号公報および特許第2858198号公報参照)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、酸化チタン粉末、クレー、タルク、硫酸バリウムでは、NF3プラズマ処理、O2プラズマ処理およびCF4プラズマ処理すべてにおいて、充分な耐性を持たせることができない。
【0005】
そこで、NF3プラズマ処理、O2プラズマ処理およびCF4プラズマ処理すべてに対して安定なフィラーとして、アルミナおよびイミド系フィラーを使用することが提案されている(たとえば、国際公開第00/64980号パンフレットおよび国際公開第01/32782号パンフレット参照)。アルミナは、O2プラズマおよびCF4プラズマに対しては、ともに耐性があるという利点がある。しかし、NF3リモートプラズマの下では、アルミナが含フッ素エラストマーの劣化を促進するという欠点がある。これに対して、イミド系フィラーは、NF3リモートプラズマの下では優れた耐性を示すが、O2プラズマの下では耐性がないという欠点がある。
【0006】
したがって、NF3プラズマ処理、O2プラズマ処理およびCF4プラズマ処理すべてに対して耐性があるエラストマー組成物は、これまで知られていない。
【0007】
本発明は、半導体の製造工程で行われるNF3プラズマ処理、O2プラズマ処理およびCF4プラズマ処理すべてのプラズマ処理に対して重量変化が小さく、顕著なプラズマ耐性を有する含フッ素エラストマー組成物、該含フッ素エラストマー組成物からなる成形品および特定の炭素同位体からなる半導体製造装置のシール材用フィラーを提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0008】
すなわち、本発明は、含フッ素エラストマーおよび平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体(無定形炭素を除く)からなる含フッ素エラストマー組成物に関する。
【0009】
平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体が、ダイヤモンドであることが好ましい。
【0010】
含フッ素エラストマーが、パーフルオロエラストマーであることが好ましい。
【0011】
半導体製造装置用含フッ素エラストマー組成物であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記含フッ素エラストマー組成物からなる成形品、またはシール材に関する。
【0013】
さらに、本発明は、平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体(無定形炭素を除く)からなる半導体製造装置のシール材用フィラーに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素エラストマーおよび平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体からなり、該炭素同素体としては、無定形炭素を除くものである。
【0015】
本発明で使用する炭素同素体は、プラズマ耐性の点から、結晶性を有するものが好ましく、アモルファスカーボン、ダイヤモンド状炭素、カーボンブラック等の無定形炭素は、本発明の炭素同素体としては含まない。本発明で使用する炭素同素体としては、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、カルビン等の炭素をあげることができる。これらの中でも、結合力の強さ、安定性の高さの点から、ダイヤモンドが好ましい。
【0016】
これらの炭素同素体の電子状態は、種々の混成準位(sp、sp2、sp3)を形成している。ダイヤモンドは、sp3混成軌道の三次元構造であり、グラファイトは、sp2混成軌道の二次元結晶構造であり、カルビンはsp混成軌道の一次元構造であり、C60やC70などのフラーレンは、グラファイト同様にsp2混成軌道であるが三次元構造の分子である。本発明で使用される炭素同素体の構造は、やはりプラズマ耐性の点から、二次元構造または三次元構造であるものが好ましく、三次元構造であるものがより好ましい。
【0017】
ダイヤモンドとしては、人工ダイヤモンドであるナノダイヤモンド微粉(BEIJING GRISH HITECH CO.,LTD.製)を好適に用いることができる。前記ナノダイヤモンドは、平均一次粒子径が、0.004〜0.008μmの球状であり、比表面積が、390〜420m2/gである。また、元素組成は、C(>90%)、O(4〜6%)、N(1〜2%)、H(<1%)である。
【0018】
本発明で使用する炭素同素体の平均一次粒子径は、0.1μm以下であり、0.05μm以下であることが好ましく、0.01μm以下であることがより好ましい。また、平均一次粒子径の下限値は、特に限定されるものではないが、0.001μm以上であることが好ましい。平均一次粒子径が0.1μmより大きいと、半導体製造工程において問題となるパーティクルとなり、半導体の歩留まりが低下する傾向があり、0.001μm未満であると、粉体の取り扱い性が悪くなる傾向がある。
【0019】
ここで、一次粒子とは、それ以上に分離できない状態の粒子をいい、二次粒子とは、一次粒子が凝集した状態の粒子をいう。
【0020】
本発明で使用する炭素同素体の平均一次粒子径が0.1μmより大きい場合は、該炭素同素体を粉砕するなどして、平均一次粒子径を0.1μm以下にする必要がある。
【0021】
また、平均一次粒子径が0.1μm以下の炭素同素体が凝集して二次粒子を形成している場合は、組成物作製時に二次粒子が容易に解砕されるものであるか、または二次粒子径が0.1μm以下であれば、二次粒子のまま使用することができる。ただし、組成物作製時に容易に解砕されないほど強固であり、かつ二次粒子径が0.1μmより大きいものである場合は、平均一次粒子径が0.1μm以下の炭素同素体からなるものであっても、粉砕するなどして、二次粒子径が0.1μm以下となるように粉砕する必要がある。
【0022】
粉砕する方法としては、たとえばジェットミル(乾式粉砕)、水や有機溶剤などの分散媒体を加えてスラリー化したのち、ビーズミルや液体に圧力を加え、ノズルより噴射し対向衝突させるタイプ(湿式粉砕)の粉砕があげられる。
【0023】
また、炭素同素体の形状としては、特に限定されるものではないが、加工、取り扱い性の点から、粒状であることが好ましい。
【0024】
本発明で使用される平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体(無定形炭素を除く)は、半導体製造装置のシール材用フィラーとして好適に用いることができる。
【0025】
本発明の含フッ素エラストマー組成物には、フィラーとして、前記平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体に加えて、さらに無機金属化合物フィラーおよび/または有機高分子化合物フィラーを含有させることができる。
【0026】
無機金属化合物フィラーとしては、シリカやガラスなどの酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの金属硫酸塩;炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;炭化ケイ素などの金属炭化物;窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物があげられる。
【0027】
有機高分子化合物フィラーとしては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのイミド構造を有するイミド系フィラー;ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシベンゾエートなどのエンジニアリングプラスチック製の有機物フィラーなどがあげられる。
【0028】
本発明に好適に使用され得る含フッ素エラストマーとしては、従来からシール材用、とくに半導体製造装置のシール材用に用いられているものであればとくに制限はない。含フッ素エラストマーとしては、フッ素ゴム(a)、熱可塑性フッ素ゴム(b)、およびこれらのフッ素ゴムからなるゴム組成物などがあげられる。
【0029】
フッ素ゴム(a)としては、非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)およびパーフルオロフッ素ゴム(a−2)があげられる。
【0030】
熱可塑性フッ素ゴム(b)としては、
エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントからなるものであり、
エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントおよび非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントのそれぞれの構成単位の90モル%以上がパーハロオレフィンである含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)、
エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの構成単位の90モル%以上がパーハロオレフィンであり、かつ非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントが構成単位として90モル%未満のパーハロオレフィンを含む含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−2)、および
エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントが構成単位として90モル%未満のパーハロオレフィンを含み、かつ非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの構成単位の90モル%以上がパーハロオレフィンであるかまたは構成単位として90モル%未満のパーハロオレフィンを含む含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−3)があげられる。
【0031】
非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)としては、ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロエチレン(HFP)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/ビニリデンフルオライド(VdF)系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/テトラフルオロエチレン(TFE)系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、またはフルオロホスファゼン系フッ素ゴムなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組合わせて用いることができる。
【0032】
ビニリデンフルオライド系フッ素ゴムとは、ビニリデンフルオライド45〜85モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体55〜15モル%とからなる含フッ素共重合体をいう。好ましくは、ビニリデンフルオライド50〜80モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体50〜20モル%とからなる含フッ素共重合体をいう。
【0033】
ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体としては、たとえばテトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体があげられる。これらをそれぞれ単独で、または、任意に組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が好ましい。
【0034】
具体的なゴムとしては、VdF−HFP系ゴム、VdF−HFP−TFE系ゴム、VdF−CTFE系ゴム、VdF−CTFE−TFE系ゴムなどがあげられる。
【0035】
テトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴムとは、テトラフルオロエチレン45〜70モル%、プロピレン55〜30モル%からなり、さらにテトラフルオロエチレンとプロピレンの合計量に対して、架橋部位を与える単量体0〜5モル%含有する含フッ素共重合体をいう。
【0036】
架橋部位を与える単量体としては、たとえば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有単量体、特開平4−505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特開平4−505345号公報、特開平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。
【0037】
これらの非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)は、常法により製造することができる。
【0038】
パーフルオロフッ素ゴム(a−2)としては、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)/架橋部位を与える単量体からなるものなどがあげられる。テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の組成は、50〜90/10〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは、50〜80/20〜50モル%であり、さらに好ましくは、55〜70/30〜45モル%である。また、架橋部位を与える単量体は、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の合計量に対して、0〜5モル%であることが好ましく、0〜2モル%であることがより好ましい。これらの組成の範囲を外れると、ゴム弾性体としての性質が失われ、樹脂に近い性質となる傾向がある。
【0039】
この場合のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、たとえばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0040】
架橋部位を与える単量体としては、たとえばビニリデンフルオライド、一般式(1):
CX12=CX1−Rf1CHR12 (1)
(式中、X1は、H、FまたはCH3、Rf1は、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロポリオキシアルキレン基またはパーフルオロポリオキシアルキレン基、R1は、HまたはCH3、X2は、ヨウ素原子または臭素原子)で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(2):
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n−X3 (2)
(式中、mは、0〜5の整数、nは、1〜3の整数、X3は、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、臭素原子)で表される単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0041】
このヨウ素原子、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、臭素原子が、架橋点として機能することができる。
【0042】
これらのパーフルオロフッ素ゴム(a−2)は、常法により製造することができる。
【0043】
かかるパーフルオロフッ素ゴム(a−2)の具体例としては、国際公開第97/24381号パンフレット、特公昭61−57324号公報、特公平4−81608号公報、特公平5−13961号公報などに記載されているフッ素ゴムなどがあげられる。
【0044】
つぎに、熱可塑性フッ素ゴム(b)である、含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)について説明する。
【0045】
まず、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントについて説明する。エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントは、重合体に柔軟性を付与し、ガラス転移点が25℃以下、好ましくは0℃以下である。その構成単位の90モル%以上を構成するパーハロオレフィンとしては、たとえば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、一般式(3):
CF2=CFO(CF2CFYO)p−(CF2CF2CF2O)q−Rf2 (3)
(式中、Yは、FまたはCF3、Rf2は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基、pは、0〜5の整数、qは、0〜5の整数)で表されるパーフルオロビニルエーテルなどがあげられる。
【0046】
エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントを構成するパーハロオレフィン以外の構成単位としては、たとえばビニリデンフルオライド、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体などであればよい。
【0047】
エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの好ましい例としては、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)/架橋部位を与える単量体からなるエラストマー性ポリマー鎖があげられる。テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の組成は、50〜85/50〜15モル%であり、架橋部位を与える単量体が、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の合計量に対して、0〜5モル%であることが好ましい。
【0048】
架橋部位を与える単量体としては、たとえば、一般式(1)、一般式(2)で表されるような単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0049】
つぎに、非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントについて説明する。非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの構成単位の90モル%以上を構成するパーハロオレフィンとしては、たとえばテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、一般式(4):
CF2=CF(CF2r4 (4)
(式中、rは、1〜10の整数、X4は、フッ素原子または塩素原子)で表される化合物、パーフルオロ−2−ブテンなどのパーハロオレフィンなどがあげられる。
【0050】
非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントを構成するパーハロオレフィン以外の構成単位としては、前記エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントを構成するパーハロオレフィン以外の構成単位と同様のものがあげられる。
【0051】
非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの好ましい例としては、テトラフルオロエチレン85〜100モル%、および一般式(5):
CF2=CF−Rf3 (5)
(式中、Rf3は、Rf4または−ORf4であり、Rf4は、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基)で表される化合物0〜15モル%からなる非エラストマー性ポリマー鎖があげられる。
【0052】
また、含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)は、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメント50〜95重量%および非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメント5〜50重量%からなることが好ましい。
【0053】
つぎに、含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−2)について説明する。
【0054】
この場合のエラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントは、前記含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)について説明したものと同じでよい。
【0055】
非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの構成単位としては、ビニリデンフルオライド、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、一般式(6):
CH2=CX5−(CF2s−X5 (6)
(式中、X5は、水素原子またはフッ素原子、sは、1〜10の整数)で表される化合物、CH2=C(CF32などの部分フッ素化オレフィンなどがあげられる。
【0056】
また、これらの単量体と共重合可能なエチレン、プロピレン、塩化ビニル、ビニルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、アクリル酸などの単量体も共重合成分として用いることができる。
【0057】
含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−2)は、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメント50〜95重量%および非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメント5〜50重量%からなることが好ましい。
【0058】
つぎに、含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−3)について説明する。
【0059】
含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−3)におけるエラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントはガラス転移点が25℃以下、好ましくは0℃以下のポリマー鎖である。
【0060】
また、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントは、構成単位として90モル%未満のパーハロオレフィンを含む。この場合のパーハロオレフィン以外の構成単位としては、前記含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)のパーハロオレフィン以外の構成単位と同じものがあげられる。
【0061】
含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−3)における非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントは、前述した含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)または(b−2)における非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントと同じでよい。とくに(b−2)における非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントと同じでよい。
【0062】
また、含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−3)は、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメント40〜95重量%および非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメント5〜60重量%からなることが好ましい。
【0063】
熱可塑性フッ素ゴム(b)は、1分子中にエラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントがブロックやグラフトの形態で結合した含フッ素多元セグメント化ポリマーであることが重要である。
【0064】
また、得られる熱可塑性フッ素ゴム(b)の非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの結晶融点は、耐熱性の点から、150℃以上であることが好ましく、200〜360℃であることがより好ましい。
【0065】
そこで、熱可塑性フッ素ゴム(b)としては、エラストマー性セグメントと非エラストマー性セグメントとをブロックやグラフトなどの形態でつなぎ、含フッ素多元セグメント化ポリマーとするべく、公知の種々の方法が採用できるが、なかでも特公昭58−4728号公報などに示されたブロック型の含フッ素多元セグメント化ポリマーの製法や、特開昭62−34324号公報に示されたグラフト型の含フッ素多元セグメント化ポリマーの製法などが好ましく採用できる。
【0066】
とりわけ、セグメント化率(ブロック化率)も高く、均質で規則的なセグメント化ポリマーが得られることから、特公昭58−4728号公報、高分子論文集(Vol.49、No.10、1992)記載のいわゆるヨウ素移動重合法で合成されたブロック型の含フッ素多元セグメント化ポリマーが好ましい。
【0067】
一方、エラストマー性含フッ素重合体と非エラストマー性含フッ素重合体との単なる混合物を用いたものは、混合するそれぞれの重合体の種類、混合性、相溶性などによって異なるが、一般的に機械的特性(とくに高温時)が不充分となったり、耐摩耗性が低下したり、柔軟性が低下したり、耐久性が低下したりする。
【0068】
これに対し、エラストマー性セグメントと非エラストマー性セグメントをブロックやグラフトなどで結合させ、多元セグメント化ポリマーとすることによって、上記のエラストマー性含フッ素重合体と非エラストマー性含フッ素重合体とを単に混合したものなどに比べて、耐熱性、機械的特性(とくに高温時)などが向上する。
【0069】
含フッ素エラストマーの好ましい製造方法としては、フッ素ゴムの製造法として公知のヨウ素移動重合法をあげることができる。たとえば、実質的に無酸素下で、水媒体中で、ヨウ素化合物、好ましくはジヨウ素化合物の存在下に、前記パーハロオレフィンと、要すれば硬化部位を与える単量体を加圧下で撹拌しながらラジカル開始剤の存在下、乳化重合を行なう方法があげられる。使用するジヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、
2xBry (7)
(式中、xおよびyはそれぞれ0〜2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、R2は炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1〜3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)で表される化合物を存在させることによって得られる。このようにして導入されるヨウ素または臭素が架橋点として機能する。
【0070】
式(7)で表される化合物としては、たとえば1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CF2Br2、BrCF2CF2Br、CF3CFBrCF2Br、CFClBr2、BrCF2CFClBr、CFBrClCFClBr、BrCF2CF2CF2Br、BrCF2CFBrOCF3、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、ならびに(2−ヨードエチル)および(2−ブロモエチル)置換体などがあげられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合せて使用することもできる。
【0071】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、ジヨードメタンなどを用いるのが好ましい。
【0072】
ジヨウ素化合物の添加量は、含フッ素エラストマーが、フッ素ゴム(a)の場合、フッ素ゴム全重量に対して、0.0001〜5重量%であることが好ましく、含フッ素エラストマーが、熱可塑性フッ素ゴム(b)である場合も同じく0.0001〜5重量%であることが好ましい。
【0073】
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、従来から含フッ素エラストマーの重合に使用されているものと同じものであってよい。これらの開始剤には有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物がある。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましい開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)があげられる。APSは単独で使用してもよく、またサルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0074】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が望ましい。乳化剤の使用量は、添加された水の約0.05〜2重量%が好ましく、とくに0.2〜1.5重量%が好ましい。
【0075】
本発明で使用するモノマー混合ガスは、カルブ(G.H.Kalb)ら、アドヴァンシーズ・イン・ケミストリー・シリーズ(Advances in Chemistry Series.),129,13(1973)に記載されるように、爆発性を有するので、重合装置には着火源となるスパークなどが発生しないように工夫する必要がある。
【0076】
重合圧力は、広い範囲で変化させることができる。一般には、0.5〜5MPaの範囲である。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなるため、生産性の向上の観点から、0.8MPa以上であることが好ましい。
【0077】
前記ヨウ素移動重合法で熱可塑性フッ素ゴム(b)のエラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントを製造した場合、その数平均分子量は、得られる含フッ素多元セグメント化ポリマー全体へ柔軟性の付与、弾性の付与、機械的物性の付与の点から、5,000〜750,000であることが好ましく、20,000〜400,000であることがより好ましい。
【0078】
このようにして得られるエラストマー性セグメントの末端部分はパーハロ型となっており、非エラストマー性セグメントのブロック共重合の開始点となるヨウ素原子を有している。
【0079】
ついで、非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントのエラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントへのブロック共重合は、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの乳化重合に引き続き、単量体を非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメント用に変えることにより行なうことができる。
【0080】
得られる非エラストマー性セグメントの数平均分子量は、1,000〜1,200,000が好ましく、より好ましくは3,000〜600,000である。
【0081】
こうして得られる熱可塑性フッ素ゴム(b)は、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの両側に非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントが結合したポリマー分子、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントの片側に非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントが結合したポリマー分子を主体とするものであり、非エラストマー性セグメントが結合していないエラストマー性セグメントのみのポリマー分子は、含フッ素多元セグメント化ポリマー中のセグメントとポリマー分子との合計量に対し20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
【0082】
本発明においては、前述のようなフッ素ゴム(a)と熱可塑性フッ素ゴム(b)とからなる組成物を用いることもできる。
【0083】
非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)と含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)とからなる第1のフッ素ゴム組成物としては、前記のようにして得られる非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)と含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)とを、ディスパージョン状態での混合またはオープンロールなどによるドライブレンドにて任意の割合で混合して得ることができる。
【0084】
また、成形時の離型性などの改良を目的として、内添型離型剤などの添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。また、後述する架橋方法の種類に応じて、架橋剤を配合することもできる。
【0085】
非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)と含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−2)とからなる第2のフッ素ゴム組成物、パーフルオロフッ素ゴム(a−2)と含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−3)とからなる第3のフッ素ゴム組成物、パーフルオロフッ素ゴム(a−2)と含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−2)とからなる第4のフッ素ゴム組成物、およびパーフルオロフッ素ゴム(a−2)と含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)とからなる第5のフッ素ゴム組成物は、第1のフッ素ゴム組成物と同様にして得られる。
【0086】
この場合、前述した添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができ、後述する架橋方法の種類に応じて、架橋剤を配合することもできる。
【0087】
パーフルオロフッ素ゴム(a−2)と前記含フッ素多元セグメント化ポリマー(b−1)は、ともに放射線架橋の効率に劣り実質的に放射線架橋できないため、第5のフッ素ゴム組成物を架橋させる場合は、少なくとも一方のゴムにパーオキサイド架橋などが可能となるような架橋部位を導入し、架橋しなければならない。
【0088】
架橋部位を導入したフッ素ゴムとして、ポリマーの末端にヨウ素原子または臭素原子が導入されたフッ素ゴムが好適である。このフッ素ゴムは、前記ヨウ素移動重合法により製造することができる。
【0089】
前記一般式(7)で表される化合物の添加量としては、得られるフッ素ゴムの全重量の0.0001〜5重量%であればよく、さらに、0.01〜1重量%であることが好ましい。
【0090】
架橋部位を導入する他の方法としては、架橋部位を与える単量体を少量、共重合する方法がある。架橋部位を与える単量体としては、前記同様のものをあげることができる。
【0091】
また、含フッ素エラストマーとしては、含フッ素シリコーン系エラストマーも用いることができ、たとえば、フルオロシリコーンゴムなどがあげられる。
【0092】
本発明においては、含フッ素エラストマーとして、耐熱性の点からパーフルオロエラストマーを使用することが好ましい。ここで、パーフルオロエラストマーとは、その構成単位のうち、90モル%以上がパーフルオロモノマーからなるものをいう。
【0093】
本発明の含フッ素エラストマー組成物において、平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体の配合量は、含フッ素エラストマー100重量部に対して、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜20重量部である。平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体の配合量が、含フッ素エラストマー100重量部に対して1重量部未満であると、ほとんど充填材としての効果が期待できず、50重量部を超えると、非常に高硬度となり、本発明の含フッ素エラストマー組成物をシール材として使用する際に好ましくない。
【0094】
本発明の含フッ素エラストマー組成物には、必要に応じて、架橋剤を配合させることができる。
【0095】
本発明の含フッ素エラストマー組成物に配合する架橋剤は、含フッ素エラストマーの架橋性基(キュアサイト)の種類によって適宜選定すればよい。
【0096】
たとえば、含フッ素エラストマーの架橋性基がヨウ素原子である場合は、パーオキサイド架橋系が好ましく、含フッ素エラストマーの架橋性基がニトリルである場合は、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、およびチアゾール架橋系が好ましく、含フッ素エラストマーの架橋性基がカルボキシルまたはアルコキシカルボニルである場合は、オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系が好ましい。また含フッ素エラストマーが架橋性基を持たない場合は、放射線架橋などにより行なうことが好ましい。さらにビニリデン系の含フッ素エラストマーの場合はポリオール架橋系、ポリアミン架橋系も好ましく用いることができる。
【0097】
パーオキサイド架橋において用いる架橋剤は、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、具体的には、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。なかでも、好ましいものは、ジアルキルタイプのものである。さらに、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンがとくに好ましい。一般に活性−O−O−の量、分解温度などを考慮して有機過酸化物の種類および使用量が選択される。
【0098】
また、この場合に用いることのできる架橋助剤としては、パーオキシラジカルおよびポリマーラジカルに対して反応活性を有する化合物であればよく、たとえば、CH2=CH−、CH2=CHCH2−、CF2=CF−などの官能基を有する多官能性化合物があげられる。具体的には、たとえば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N′−n−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサンなどがあげられる。
【0099】
ポリオール架橋に用いる架橋剤としては、ビスフェノールA、ビスフェノールAFなどの多価アルコール化合物があげられる。
【0100】
ポリアミン架橋に用いる架橋剤としては、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどの多価アミン化合物があげられる。
【0101】
トリアジン架橋に用いる架橋剤としては、テトラフェニルスズ、トリフェニルスズなどの有機スズ化合物があげられる。
【0102】
オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系に使用する架橋剤としては、たとえば一般式(8):
【0103】
【化1】

【0104】
(式中、R3は−SO2−、−O−、−CO−、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基または単結合手であり、R4およびR5は一方が−NH2であり他方が−NHR6、−NH2、−OHまたは−SHであり、R6は水素原子、フッ素原子または一価の有機基であり、好ましくはR4が−NH2でありR5が−NHR6である)で示されるビスジアミノフェニル系架橋剤、ビスアミノフェノール系架橋剤、ビスアミノチオフェノール系架橋剤、一般式(9):
【0105】
【化2】

【0106】
で示されるビスアミドラゾン系架橋剤、一般式(10)または(11):
【0107】
【化3】

【0108】
(式中、Rf3は炭素数1〜10のパーフルオロアルキレン基)、
【0109】
【化4】

【0110】
(式中、nは1〜10の整数)で示されるビスアミドキシム系架橋剤などがあげられる。これらのビスアミノフェノール系架橋剤、ビスアミノチオフェノール系架橋剤またはビスジアミノフェニル系架橋剤などは、従来シアノ基を架橋点とする架橋系に使用していたものであるが、カルボキシル基およびアルコキシカルボニル基とも反応し、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環を形成し、架橋物を与える。
【0111】
とくに好ましい架橋剤としては、複数個の3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル基、または3−アミノ−4−メルカプトフェニル基を有する化合物、もしくは一般式(12):
【0112】
【化5】

【0113】
(式中、R3、R4、R5は前記と同じ)で示される化合物があげられ、具体的には、たとえば2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(一般名:ビス(アミノフェノール)AF)、2,2−ビス(3−アミノ−4−メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、テトラアミノベンゼン、ビス−3,4−ジアミノフェニルメタン、ビス−3,4−ジアミノフェニルエーテル、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−(N−フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどである。
【0114】
前記架橋系において、架橋剤の配合量は、含フッ素エラストマー100重量部に対し、通常0.05〜10重量部、好ましくは1〜5重量部である。0.05重量部より少ないと、含フッ素エラストマーが充分架橋されない傾向があり、10重量部を超えると、架橋物の物性を悪化させる傾向がある。
【0115】
架橋助剤を用いる場合、その配合量は、含フッ素エラストマー100重量部に対し、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。架橋助剤の含有量が0.1重量部より少ないと、含フッ素エラストマーが充分架橋されない傾向があり、10重量部を超えると架橋物の伸びが低下する傾向がある。
【0116】
半導体関連製造装置などの非汚染性を強く求められる用途の場合、架橋剤などを添加せずに、高エネルギー線架橋をすることが好ましい。
【0117】
放射線架橋による場合、放射線架橋用配合剤として、たとえば前記パーオキサイド架橋において用いる架橋助剤と同じ化合物などを配合してもよい。配合する場合は、ポリマー100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、とくに0.3〜5重量部が好ましい。
【0118】
また、放射線架橋の場合は、含フッ素エラストマーおよび炭素同素体を含有する含フッ素エラストマー組成物を所望する形状に成形したのちに、成形品に浸透するのに充分な高エネルギーを有する電離性放射線、たとえばX線、α線、β線、γ線、電子線、陽子線、重陽子線、紫外線などを照射する。この場合の照射雰囲気は、空気、チッ素、アルゴン、ヘリウムの存在下でも真空下でもよいが、成形品表面の酸化劣化防止という点から、無酸素下、特に不活性ガスであるチッ素、アルゴン、ヘリウムの存在下であるのが好ましく、さらに、真空下であることがとくに好ましい。
【0119】
なお、電離性放射線装置としては、従来から用いられているものを使用することができる。
【0120】
本発明において、とくに高純度かつ非汚染性が要求されない分野では、必要に応じて含フッ素エラストマー組成物に配合される通常の添加物、たとえば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、などを配合することができ、前記のものとは異なる常用の架橋剤や架橋助剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0121】
さらに、本発明の含フッ素エラストマー組成物には、必要に応じて、有機顔料を配合させることができる。
【0122】
有機顔料としては、イソインドリノン系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、アンスラキノン系顔料が、耐熱性、耐薬品性に優れ、成形体特性に与える影響が少ない点で好ましい。
【0123】
具体的には、
【0124】
【化6】

【0125】
などがあげられるが、これらに限られるものではない。
【0126】
これらの有機顔料は、プラズマに対する老化防止効果を有し、フッ素系プラズマおよび酸素プラズマの両処理において安定であるため、これらを含フッ素エラストマー組成物に添加することにより、本発明の含フッ素エラストマー組成物は、分解による重量減少が小さく、さらにパーティクルの発生がない成形品を与えることができる。
【0127】
有機顔料の添加量は、特に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない程度に添加すればよい。
【0128】
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、含フッ素エラストマーおよび炭素同素体、さらに、必要に応じて、無機金属化合物フィラーおよび/または有機高分子化合物フィラー、架橋剤などの上記の各成分を、通常のエラストマー用加工機械、たとえば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて混合することにより調製することができる。このほか、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から共凝析する方法によっても調製することができる。
【0129】
本発明の含フッ素エラストマー組成物は、各種成形品の成形材料として、または各種エラストマー性成形物のコーティング用材料として有用である。本発明の含フッ素エラストマー組成物は、とくに、半導体製造プロセスにおけるプラズマプロセス用成形品に使用される。
【0130】
本発明の含フッ素エラストマー組成物を使用して予備成形体を得る方法は通常の方法でよく、金型にて加熱圧縮する方法、加熱された金型に圧入する方法、押出機で押出す方法など公知の方法で行なうことができる。ホースや電線などの押出製品の場合は、押出後も形を保持することが可能なので、架橋剤を使用せずに押出した予備成形体をそのまま用いることができる。また、架橋剤を使用してスチームなどによる加熱架橋を施した予備成形体を用いることも可能である。さらに、O−リングなどの型物製品であって、未架橋状態では離型後に形を保持することが困難な場合には、架橋剤を使用して、あらかじめ架橋した予備成形体を用いることにより、実施可能となる。
【0131】
また、パーオキサイド架橋を行なう場合には、通常の含フッ素エラストマーの架橋条件下で行なうことができる。たとえば、金型に入れ、加圧下において120〜200℃で1〜60分間保持することによってプレス架橋を行ない、続いて120〜250℃の炉中で0〜48時間保持することによってオーブン架橋を行なうと、架橋物を得ることができる。
【0132】
ビスアミノフェノールなどの架橋剤を用いてオキサゾール架橋を行なう場合にも、通常の含フッ素エラストマーの架橋条件下で行なうことができる。たとえば、金型に入れ、加圧下において120〜250℃で1〜60分間保持することによって、プレス架橋を行ない、続いて120〜320℃の炉中で0〜48時間保持することによってオーブン架橋を行なうと、架橋物を得ることができる。また、公知のエラストマーの架橋方法、たとえば、ポリアミン架橋やポリオール架橋、パーオキサイド架橋の配合にビス(アミノフェノール)AFなどを添加して併用架橋することもできる。
【0133】
また、カルボキシル基をビスジアミノフェニル系架橋剤で架橋するイミダゾール架橋は、カルボキシル基を末端以外に有するカルボキシル含有ポリマーに最適であり、比較的低い架橋温度(たとえば150〜230℃、好ましくは170〜200℃)で良好な物性をもつ架橋物を与える。
【0134】
半導体関連製造装置などの非汚染性を強く求められる用途の場合、架橋剤などを添加せずに高エネルギー線架橋をするのが好ましい。架橋源としては、X線、α線、β線、γ線、電子線、陽子線、重陽子線、紫外線などが用いられる。この場合の照射量は、0.1〜50Mradであればよい。また、照射温度は、20〜100℃であればよい。照射雰囲気は、空気、チッ素、アルゴン、ヘリウムの存在下でも真空下でもよいが、成形品表面の酸化劣化防止という点から、無酸素下、特に不活性ガスであるチッ素、アルゴン、ヘリウムの存在下であるのが好ましく、さらに、真空下であるのがとくに好ましい。
【0135】
本発明の含フッ素エラストマー組成物および成形用材料を架橋成形して、本発明の成形品を得ることができる。さらに、本発明の含フッ素エラストマー組成物を使用したコーティング用材料でエラストマー性成形物を被覆し架橋して、被覆成形品を得ることもできる。
【0136】
被覆されるエラストマー性成形物としては、各種のエラストマー性の材料で作製された物品を使用することができるが、とくに耐熱性の点から含フッ素エラストマーやシリコーン系エラストマーなどを使用することが好ましい。
【0137】
本発明の成形品および被覆成形品は、様々な分野の各種成形品として有用であるが、その中でも、とくに具体的には、次のような半導体製造装置に組み込んで用いることができる。
【0138】
(1)エッチング装置
ドライエッチング装置
プラズマエッチング装置
反応性イオンエッチング装置
反応性イオンビームエッチング装置
スパッタエッチング装置
イオンビームエッチング装置
ウェットエッチング装置
アッシング装置
(2)洗浄装置
乾式エッチング洗浄装置
UV/O3洗浄装置
イオンビーム洗浄装置
レーザービーム洗浄装置
プラズマ洗浄装置
ガスエッチング洗浄装置
抽出洗浄装置
ソックスレー抽出洗浄装置
高温高圧抽出洗浄装置
マイクロウェーブ抽出洗浄装置
超臨界抽出洗浄装置
(3)露光装置
ステッパー
コータ・デベロッパー
(4)研磨装置
CMP装置
(5)成膜装置
CVD装置
スパッタリング装置
(6)拡散・イオン注入装置
酸化拡散装置
イオン注入装置
【0139】
本発明の成形品は、とくに、NF3プラズマ処理、O2プラズマ処理、フッ素プラズマ処理などのプラズマ処理が行なわれる装置、たとえば、CVD装置、プラズマエッチング装置、反応性イオンエッチング装置、アッシング装置またはエキシマレーザー露光機のシール材として優れた性能を発揮する。
【0140】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0141】
実施例1
含フッ素エラストマー(ヨウ素を架橋基として含有するパーフルオロエラストマー(ダイキン工業(株)製 ダイエルパーフロGA−105))100重量部に対して、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)2重量部、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂(株)製 パーヘキサ2.5B)1重量部、ナノダイヤモンド(BEIJING GRISH HITECH CO.,LTD.製、平均1次粒径4〜8nm、比表面積390〜420m2/g)15重量部を混合し、オープンロールにて混練して架橋可能な含フッ素エラストマー組成物を調製した。
【0142】
この含フッ素エラストマー組成物を160℃で7分間プレスして架橋を行なったのち、さらにオーブン中で180℃で4時間のオーブン架橋を施し、O−リング(P−24)及びシート(120mm×150mm×2mm厚)の被験サンプルを作製した。この組成物の加硫性、被験サンプルのプラズマ照射時の重量減少を以下に示す方法で測定した。結果を表1に示す。
【0143】
(標準配合)
含フッ素エラストマー 100重量部
トリアリルイソシアヌレート(TAIC) 2重量部
パーヘキサ25B 1重量部
炭素同素体 15重量部
【0144】
(標準加硫条件)
混練方法 :ロール練り
プレス加硫 :160℃で7分
オーブン加硫:180℃で4時間
【0145】
<加硫性>
JSR型キュラストメータII型を用いて150℃における加硫曲線を求め、最低粘度(kgf)、最高粘度(kgf)、誘導時間(分)および最適加硫時間(分)を求める。
【0146】
<常態試験>
JIS6号(ISO No.2)スーパーダンベルを用いて、シートより試験片を採取し、100%引張応力(kgf/cm2)、引張強さ(kgf/cm2)、伸び(%)、硬さ(SHORE A)を測定する。
【0147】
<プラズマ耐性>
サンプル:O−リング(P−24)
得られた成形品に対して、以下の条件下でプラズマ照射処理を施し、照射前後の重量を測定して重量変化を調べた。
【0148】
1.高濃度Fラジカルクリーニング耐性試験
使用プラズマ照射装置:
アストロンフッ素原子ジェネレーター(アステックス(ASTEX)社製)
SiO2のエッチング速度:NF3/Ar 500SSCM、圧力 5Torr、温度 100℃におけるSiO2のエッチング速度が1590Å/分。
照射条件:
NF3/Ar:1SLM/1SML
圧力:3Torr
照射温度:150℃
照射時間:2時間
重量測定:
ザートリウス(Sartorius)・GMBH(株)製の電子分析天秤2006MPEを使用し、0.01mgまで測定し0.01mgの桁を四捨五入する。
サンプルは1種類につき3個使用し、重量減少率の平均値を算出した。
【0149】
2.高密度O2プラズマ耐性試験
使用プラズマ照射装置:
ICP高密度プラズマ装置(サムコインターナショナル社製)
照射条件:
2:16SCCM
圧力:2.66Pa
出力:800W
照射時間:20分
【0150】
3.高密度CF4プラズマ耐性試験
使用プラズマ照射装置:
ICP高密度プラズマ装置(サムコインターナショナル社製)
照射条件:
CF4:16SCCM
圧力:2.66Pa
出力:800W
照射時間:20分
【0151】
実施例2
ナノダイヤモンドをフラーレン(C60:平均一次粒子径(分子直径) 約0.001μm、平均二次粒子径 約50nm(0.05μm))に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0152】
比較例1
ナノダイヤモンドをカーボンブラック(Cancarb社製 N−990)に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。この被験サンプルの加硫性、常態試験およびプラズマ照射時の重量減少を以下の示す方法で測定した。結果を表1に示す。
【0153】
比較例2
ナノダイヤモンドを1次粒径0.015μmのθ−アルミナ(住友化学工業(株)社製 AKP−G008)に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。この被験サンプルの加硫性、常態試験およびプラズマ照射時の重量減少を以下の示す方法で測定した。結果を表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
表1から明らかなように、フィラーとしてカーボンブラックを含有する組成物(比較例1)では、O2プラズマ、CF4プラズマ照射により、また、θ−アルミナを含有する組成物(比較例2)では、NF3プラズマ、O2プラズマおよびCF4プラズマにより、重量が大きく減少している。これらに対して、本発明の含フッ素エラストマー組成物では、NF3プラズマ、O2プラズマおよびCF4プラズマのいずれのプラズマ照射においても極めて重量減少が小さく、優れたプラズマ耐性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明では、含フッ素エラストマーに平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体(無定形炭素を除く)を配合することにより、半導体の製造工程で行われるNF3プラズマ処理、O2プラズマ処理およびCF4プラズマ処理すべてのプラズマ処理に対して重量変化を小さくし、プラズマ耐性を顕著に向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素エラストマーおよび平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体(無定形炭素を除く)からなる含フッ素エラストマー組成物。
【請求項2】
平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体が、ダイヤモンドである請求の範囲第1項記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
含フッ素エラストマーが、パーフルオロエラストマーである請求の範囲第1項または第2項記載の含フッ素エラストマー組成物。
【請求項4】
請求の範囲第1項、第2項または第3項記載の半導体製造装置用含フッ素エラストマー組成物。
【請求項5】
請求の範囲第1項、第2項、第3項または第4項記載の含フッ素エラストマー組成物からなる成形品。
【請求項6】
請求の範囲第1項、第2項、第3項または第4項記載の含フッ素エラストマー組成物からなるシール材。
【請求項7】
平均一次粒子径0.1μm以下の炭素同素体(無定形炭素を除く)からなる半導体製造装置のシール材用フィラー。

【国際公開番号】WO2005/082998
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510382(P2006−510382)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001342
【国際出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】