説明

噛合クラッチ装置

【課題】短時間で係合することができ、かつ、円滑に係合することができる噛合クラッチ装置を提供することにある。
【解決手段】回転体と連れ回り、前記回転体の回転力を伝達する第1部材と、回転体の回転軸の延長線上に設けられ、第1部材と噛合可能な第2部材と、第1部材と第2部材とを回転軸方向に相対的に移動させ、第1部材と第2部材との係合動作と非係合動作とを行う駆動手段と、回転体の回転数同期制御を行う同期制御手段と、第1部材と第2部材との位相差を検出する位相検出手段と、同期制御手段での制御と、位相検出手段で検出した位相差とに基づいて、駆動手段の動作を制御する制御手段とを有することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転要素と回転要素または、回転要素と固定要素とを係合させる噛合クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車は、動力源として、内燃機関に加えて、原動機、モータジェネレータを備えた車両である。ハイブリッド車には、内燃機関の駆動力の過不足分を原動機、モータジェネレータ等で補い、動力源の回転数を連続的に変速させる無段変速モードと、内燃機関からの動力のみで駆動させる固定段モードとを切り替える切換機構を有する車両がある。このような切換機構としては、原動機、モータジェネレータが連結されている軸を回転しないように固定するクラッチ装置がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、電動機と、該電動機のトルクによって回転され、かつ、電動機の軸線を中心として円周方向に形成された第1の係合部材と、円周方向に配置された第2の係合部材と、第1の係合部材と第2の係合部材とを係合・解放させるアクチュエータとを有する駆動装置において、前記第1の係合部材と前記第2の係合部材とを係合させる場合は、前記第1の係合部材を前記電動機で回転することにより、前記第1の係合部材と前記第2の係合部材との前記円周方向における位相を調整する位相調整手段を有する駆動装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、エンジンと、エンジンの機械出力により駆動される発電機と、発電機の発電出力により充電される電池と、電池の放電出力により駆動されるモータと、発電機とモータの間の機械的連結を開閉する連結開閉手段と、を有するシリーズパラレル複合電気自動車において、連結開閉手段により発電機とモータの間の機械的連結を開き、上記シリーズパラレル複合電気自動車をシリーズハイブリッド車として走行させる手段と、連結開閉手段により発電機とモータの間の機械的連結を閉じ、発電機及びモータの少なくとも一方を加減速に使用しながら、上記シリーズパラレル複合電気自動車をパラレルハイブリッド車として走行させる手段と、発電機のトルクを制御することにより、連結開閉手段を閉じる際に発電機の回転数とモータの回転数を実質的に一致させる手段と、を備えることを特徴とする制御装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、前進と後進との切換にクラッチ装置を用いる装置として、前進変速段を確立するための前進用ドグクラッチと、後進変速段を確立するための後進用ドグクラッチとを含む前後進切換機構を備えた車両用動力伝達装置において、前進用ドグクラッチは、駆動側ドグおよび従動側ドグの回転を同期させて該両ドグを噛合させるシンクロメッシュ機構を備えるとともに、後進用ドグクラッチは、駆動側ドグおよび従動側ドグの回転の非同期時における噛合を抑制するチャンファーを該両ドグに備えたことを特徴とする車両用動力伝達装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−38136号公報
【特許文献2】特開平8−98322号公報
【特許文献3】特開平11−82539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に記載の駆動装置のように、モータの駆動力を伝達する回転軸をクラッチにより固定することで、固定段走行時に、モータで反力を発生させる必要がなくなるため、エネルギの利用効率を高くすることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている装置では、位相同期制御を行うため、加減速、タイヤからのトルク入力による影響で目標範囲に収束するまでに時間がかかり、その間は係合させることが困難である。また、回転軸の回転数に加え、回転軸の位相も制御する必要がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の装置では、回転数を一致しているのみであるので、係合時に、クラッチの歯先同士が衝突したり、一方の歯先が他方の歯先に乗り上げたりすることにより、係合時にショックや、歯先磨耗を発生させる可能性がある。また、クラッチの噛合わされる部材を軸方向に移動させる力が弱い場合は、クラッチの歯先同士が接触して、クラッチを係合できない可能性もある。
【0010】
また、特許文献3に記載の装置は、シンクロメッシュ機構により、係合する2つの部材の回転数を同期させることで係合可能としているが、回転体との間で摩擦を発生させるため、ショックが発生する可能性があり、また、抵抗となるため、エネルギ損失が発生するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、短時間で係合することができ、かつ、円滑に係合することができる噛合クラッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、回転体と連れ回り、前記回転体の回転力を伝達する第1部材と、前記回転体の回転軸の延長線上に設けられ、前記第1部材と噛合可能な第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを前記回転軸方向に相対的に移動させ、前記第1部材と前記第2部材との係合動作と非係合動作とを行う駆動手段と、前記回転体の回転数同期制御を行う同期制御手段と、前記第1部材と前記第2部材との位相差を検出する位相検出手段と、前記同期制御手段での制御と、前記位相検出手段で検出した位相差とに基づいて、前記駆動手段の動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
ここで、前記第2部材は、回転しない部材に連結されていることが好ましい。また、前記制御手段は、前記位相差と前記第1部材と前記第2部材との回転数の差とが所定の関係にある場合に、前記駆動手段により前記第1部材と前記第2部材とを相対的に移動させ、前記第1部材と前記第2部材との係合動作を行うことが好ましい。
【0014】
また、前記制御手段は、前記第1部材と前記第2部材との係合動作が許可されている回転数と、前記第1部材と前記第2部材との係合動作が許可される所定の位相情報とを関連付けて記憶していることが好ましい。
【0015】
また、前記制御手段は、回転数と位相情報と係合動作が行われる領域が示されているマップを記憶し、前記マップに基づいて、係合動作を制御することが好ましい。
【0016】
また、前記制御手段は、前記第1部材と前記第2部材との係合動作が許可されている回転数に対しては前記第1部材と前記第2部材との係合動作が許可される所定の位相情報が予め定められており、前記所定の位相情報からは、回転方向における前記第1部材の接触する部分と前記第2部材の接触する部分とのバックラッシュの範囲が除かれていることが好ましい。
【0017】
また、前記制御手段は、前記第1部材と前記第2部材との係合動作の際に、回転方向において、一方の部材が他方の部材に乗り上げる側の領域は、非線形境界によって規定されることが好ましい。
【0018】
また、非線形境界は、回転数に対応したイナーシャ変化によって定められることを特徴とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる噛合クラッチ装置は、短時間で円滑にクラッチを係合することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本実施例に係る噛合クラッチ装置を有する車両を示す模式図である。
【図2−1】図2−1は、本実施例に係る駆動装置が備えるクラッチの説明図である。
【図2−2】図2−2は、本実施例に係る駆動装置が備えるクラッチの説明図である。
【図3】図3は、本実施例に係る駆動装置が備えるクラッチの動作を示す模式図である。
【図4】図4は、本実施例に係る駆動装置の他の構成例を示す模式図である。
【図5】図5は、クラッチが係合状態の場合の共線図である。
【図6】図6は、本実施例に係る駆動装置の他の構成例を示す模式図である。
【図7】図7は、本実施例に係るクラッチの係合の手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、制御部に記憶されている二次元マップの一例を示すグラフである。
【図9】図9は、クラッチの一部の概略構成を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の説明により本発明が限定されるものではない。また、下記の説明における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【実施例】
【0022】
本実施例に係る噛合クラッチ装置を有する駆動装置は、動力を発生する内燃機関と、回生機能及び力行機能を有する第1電動機と、回生機能及び力行機能を有する第2電動機と、前記第1電動機の出力軸に直接又は間接的に取り付けられて、前記内燃機関の反力を伝達するための第1部材及び前記第1部材と噛み合い又は解放する第2部材を含んで構成される噛合クラッチ装置(以下単に「クラッチ」ともいう。)と、を有する。そして、本実施例に係るクラッチは、クラッチを噛み合わせる際に、第1部材と第2部材との相対回転数を同期させ、第1部材と第2部材との相対位置関係が所定の領域内にあるか判定し、その判定結果に基づいて、第1部材と第2部材との係合動作を制御する。以下において、内燃機関や電動機、あるいは軸の回転数とは、内燃機関や電動機の出力軸の単位時間あたりにおける回転数であり、回転角速度と同じ意味である。
【0023】
図1は、本実施例に係る噛合クラッチ装置を有する駆動装置を搭載する車両を示す模式図である。図2−1、図2−2は、本実施例に係る駆動装置が備えるクラッチの説明図である。図3は、本実施例に係る駆動装置が備えるクラッチの動作を示す模式図である。駆動装置3は、内燃機関22と、第1電動機21と、動力分割機構30と、第2電動機23とを備えるハイブリッド式の駆動装置であり、車両1に搭載されてこれを走行させる。車両1は、図1に示すように、左前輪2FF、右前輪2FR、左後輪2RL、右後輪2RRを備えており、左前輪2FF、右前輪2FRが操舵輪、左後輪2RL、右後輪2RRが駆動輪となる。
【0024】
内燃機関22と、内燃機関22の出力軸であるクランクシャフト22Sにダンパ28を介して接続された動力分割機構30と、動力分割機構30に接続された第1電動機21と、動力分割機構30に接続された第2電動機23と、車両1を制御するメインECU(Electronic Control Unit)10と、内燃機関22を制御する機関ECU16と、第1電動機21及び第2電動機23を制御する電動機ECU(MGECU)15とを備える。
【0025】
内燃機関22は、ガソリン又は軽油等の炭化水素系の燃料により動力を発生する熱機関であり、内燃機関22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力される機関ECU16により燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御を受ける。機関ECU16は、メインECU10と通信しており、メインECU10からの制御信号により内燃機関22を運転制御するとともに、必要に応じて内燃機関22の運転状態に関する情報をメインECU10に出力する。
【0026】
第1電動機21及び第2電動機23は、電力供給機能及び蓄電機能の両方を備える電力源(本実施例ではバッテリ20)からインバータ18を介して供給される電力によって動力を発生する機能(力行機能)、及び機械エネルギを電気エネルギに変換する機能(回生機能)を兼ね備える。これによって、第1電動機21及び第2電動機23は、動力発生手段として機能するとともに、発電機としても機能する。本実施例において、第1電動機21及び第2電動機23は、交流同期電動機が用いられるが、第1電動機21及び第2電動機23に使用できる電動機はこれに限定されるものではない。
【0027】
第1電動機21及び第2電動機23は、電動機ECU15により制御される。電動機ECU15は、メインECU10と通信しており、メインECU10からの制御信号により第1電動機21及び第2電動機23の力行及び回生を制御するとともに、必要に応じて第1電動機21及び第2電動機23の運転状態に関する情報をメインECU10に出力する。
【0028】
動力分割機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛み合うとともにリングギヤ32に噛み合う複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33が自転かつサンギヤ31の周りを公転できるように複数のピニオンギヤ33を保持するキャリア34とを備える。このように、動力分割機構30は、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素とする遊星歯車装置である。
【0029】
動力分割機構30は、キャリア34に内燃機関22のクランクシャフト22Sが、サンギヤ31に第1電動機21の入出力軸21Sが、リングギヤ32に連結シャフト25Iがそれぞれ接続されている。第2電動機23の入出力軸23Sは、減速装置29に接続される。減速装置29は、第2電動機23の回転数を減速させて出力するとともに、内燃機関22の出力を第2電動機23の出力と合成する機能を有する。
【0030】
動力分割機構30は、第1電動機21が発電機として機能するときには、キャリア34から入力される内燃機関22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側とに、そのギヤ比に応じて分配する。これによって、内燃機関22の動力は、動力分割機構30で分割され、一部で第1電動機21から発電させ、残りは動力分割機構30へ入力されて連結シャフト25Iから出力される。第1電動機21で生み出された電力は、第2電動機23を駆動したり、蓄電装置であるバッテリ20に充電されたりする。蓄電装置としては、充放電可能な二次電池であるバッテリ20や、キャパシタ等を用いることができる。
【0031】
第1電動機21が生み出した電力やバッテリ20から供給される電力によって第2電動機23が動力を発生するとき、すなわち第2電動機23が力行するときには、第2電動機23が動力を発生する。第2電動機23が発生する動力は、減速装置29からプロペラシャフト25Pへ出力される。また、第2電動機23が発電機として機能するときには、連結シャフト25Iから減速装置29を介して第2電動機23へ動力が入力され、これによって第2電動機23が電力を発生する。
【0032】
第1電動機21は、例えば、内燃機関22を始動させるときに、バッテリ20から電力の供給を受けて動力を発生する(力行)。この場合、第1電動機21の発生した動力は、動力分割機構30のサンギヤ31からキャリア34を介して内燃機関22のクランクシャフト22Sに伝達される。これによって、内燃機関22が始動する。
【0033】
内燃機関22の動力及び第2電動機23の動力は、減速装置29で合成されてからプロペラシャフト25Pへ出力される。なお、内燃機関22のみが動力を発生している場合には、この動力が直接プロペラシャフト25Pへ出力され、第2電動機23が単独で動力を発生している場合には、この動力が減速装置29を介してプロペラシャフト25Pへ出力される。プロペラシャフト25Pは、減速装置29とデファレンシャルギヤ26とを連結しており、両者の間で動力を伝達する。
【0034】
プロペラシャフト25Pが内燃機関22や第2電動機23の動力をデファレンシャルギヤ26へ入力すると、車両1の駆動軸27L、27Rに取り付けられる左後輪2RL、右後輪2RRを駆動する。これによって、車両1が走行する。また、第2電動機23が回生する場合、左後輪2RL、右後輪2RRから駆動軸27L、27R、デファレンシャルギヤ26、プロペラシャフト25P及び減速装置29を介して第2電動機23が駆動される。
【0035】
第1電動機21、第2電動機23は、コンバータ17及びインバータ18を介してバッテリ20と電力をやり取りする。バッテリ20は、第1電動機21と第2電動機23とのいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、第1電動機21、第2電動機23により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ20は充放電されない。
【0036】
第1電動機21、第2電動機23は、いずれも電動機ECU15により駆動制御されている。電動機ECU15には、第1電動機21、第2電動機23を駆動制御するために必要な信号、例えば第1電動機21、第2電動機23の回転子の回転位置を検出する第1回転位置検出センサ43、第2回転位置検出センサ44からの信号や、電流センサにより検出される第1電動機21、第2電動機23に印加される相電流等が入力されている。電動機ECU15からは、インバータ18へのスイッチング制御信号が出力されている。ここで、第1回転位置検出センサ43及び第2回転位置検出センサ44には、例えば、レゾルバが用いられる。
【0037】
本実施例において、車両1に搭載される駆動装置3は、クラッチ24を備える。図1、図2−1、図2−2に示すように、クラッチ24は、第1部材である噛み合いピース24Rと、噛み合いピース24Rと噛み合い(係合)又は解放する第2部材である噛み合いスリーブ24Sとで構成される噛み合いクラッチである。本実施例において、噛み合いピース24Rは、第1電動機21の入出力軸21Sに取り付けられ、噛み合いスリーブ24Sは、駆動装置3の静止系(例えば、第1電動機21、第2電動機23、クラッチ24、動力分割機構30を格納する筐体3S)に取り付けられる。すなわち、噛み合いピース24Rは、第1電動機21の入出力軸21Sとともに回転するが、噛み合いスリーブ24Sは回転しない。
【0038】
図2−1に示すように、噛み合いスリーブ24Sは、環状の部材であり、内周部に複数の噛み合い内歯が形成されており、外周部に複数の外歯24STBが形成される。図1に示す筐体3Sの内側には、噛み合いスリーブ24Sの外周部に形成される複数の外歯24STBと噛み合う溝が形成されている。筐体3Sの内側に形成される溝に噛み合いスリーブ24Sの外歯24STBを噛み合わせることで、噛み合いスリーブ24Sの回転が止められるとともに、噛み合いスリーブ24Sは、噛み合いスリーブ24Sの中心軸Zsと平行な方向、すなわち、第1電動機21の入出力軸21Sの回転中心(図2−2のZr)と平行な方向に移動できる。
【0039】
噛み合いピース24Rは、クラッチ24が係合されたときには、内燃機関22の反力、すなわち、内燃機関22のクランクシャフト22Sから出力されるトルクに起因する反力を、噛み合いピース24Rと噛み合う対象である噛み合いスリーブ24Sへ伝達するための部材である。噛み合いピース24Rは、第1電動機21の入出力軸21Sに取り付けられる円板状の部材であり、外周部に複数の噛み合い外歯が形成される。噛み合いスリーブ24Sの内周部に形成される噛み合い内歯と、噛み合いピース24Rの外周部に形成される噛み合い外歯とが互いに噛み合って、クラッチ24が係合する。図1、図3に示すように、噛み合いクラッチ24を構成する噛み合いスリーブ24Sは、アクチュエータ5によって噛み合いピース24Rの回転軸、すなわち、第1電動機21の入出力軸21Sの回転中心Zrと平行な方向に移動されて、噛み合いピース24Rと噛み合い、又は解放(噛み合いが解除)される。アクチュエータ5は、例えば、ソレノイドが用いられる。
【0040】
クラッチ24が噛み合わされると、内燃機関22のクランクシャフト22Sから出力されるトルクに起因する反力は、噛み合いピース24Rから噛み合いピース24Rの噛み合い外歯、噛み合いスリーブ24Sの噛み合い内歯、噛み合いスリーブ24S、噛み合いスリーブ24Sの外歯24STB、筐体3Sの順に伝達される。このように、内燃機関22の前記反力は、クラッチ24を介して筐体3Sで受けられる。このように、本実施例では、電動機と内燃機関とを動力分割機構を用いて組み合わせたハイブリッド式の駆動装置において、電動機を用いないで内燃機関の反力を受ける構成を提供できる。これにより、原動機で反力を発生させることなく、内燃機関の反力を受けることができるため、原動機での消費電力を小さくすることができる。
【0041】
なお、噛み合いクラッチはこのような構成以外であってもよい。例えば、筐体3S側に、第1電動機21の入出力軸21Sの回転中心(図2−2のZr)と平行な方向に移動できるキーを設け、第1電動機21の入出力軸21Sに前記キーと噛み合うキー溝が形成された部材を取り付けて、クラッチ24を構成してもよい。そして、クラッチ24を噛み合わせる際には、前記キーを前記キー溝に嵌合させる。
【0042】
図2−1、図2−2に示すX軸、Y軸は、いずれも共通する軸であり、X軸とY軸との交点(原点)が、噛み合いスリーブ24Sの中心軸Zs及び噛み合いピース24Rの回転軸(すなわち第1電動機21の入出力軸21Sの回転中心Zr)となる。このため、噛み合いスリーブ24Sにおける座標と、噛み合いピース24Rにおける座標とは共通する。クラッチ24を噛み合わせる際には、回転する噛み合いピース24Rの所定の噛み合い位置が、静止している噛み合いスリーブ24Sの所定の噛み合い位置にきたときにアクチュエータ5を駆動して噛み合いスリーブ24Sを噛み合いピース24Rに噛み合わせる。
【0043】
本実施例では、Y軸上にある噛み合いスリーブ24Sの噛み合い内歯24STA1(図2−1参照)を噛み合いスリーブ24Sの噛み合い位置とし、噛み合いピース24Rの隣接する噛み合い外歯24RT1、24RT2との間を噛み合いピース24Rの噛み合い位置とする。したがって、噛み合いピース24Rの噛み合い位置が、静止している噛み合いスリーブ24Sの噛み合い内歯24STA1の位置にきたときにアクチュエータ5が駆動されて、噛み合いスリーブ24Sを噛み合いピース24Rに噛み合わされる。
【0044】
回転している噛み合いピース24Rが噛み合い可能であるかは、第1回転位置検出センサ43の検出結果に基づいて判定することができる。なお、静止している噛み合いスリーブ24Sの噛み合い位置は、噛み合いスリーブ24SのY軸上にある噛み合い内歯24STA1なので、この位置は予め特定でき、かつ、回転数は0となる。したがって、第1回転位置検出センサ43によって検出された噛み合いピース24Rの位置に基づいて、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとの相対回転数及び相対位相(回転方向における相対位置)を算出することができる。
【0045】
ここで、例えば、高速走行かつ低負荷で車両1が走行しているときや、第1電動機21が発生するトルクの制限により、第1電動機21が受けることができる内燃機関22の反力が制限されるとき等にクラッチ24が噛み合わされる。クラッチ24に摩擦式のクラッチを用いたり、シンクロナイザリングを用いるクラッチを用いたりすることもできるが、このような方式のクラッチは、摩擦により引きずりを発生させる。駆動装置3が備えるクラッチ24は噛み合い式であり、機械的な構造、より具体的には摩擦により噛み合わせ対象同士の回転の同期をとる回転同期装置が存在しないため、摩擦を発生させる要素がない。このため、クラッチ24を係合する、あるいは解放するときの引きずりによる損失が極めて小さい。これによって、内燃機関22の燃料消費を抑制できる。また、摩擦式のクラッチと比較して、係合に要するエネルギを低減できる。さらに、回転同期装置が存在しないので、クラッチ24を小型化できる。
【0046】
図4は、本実施例に係る駆動装置の他の構成例である。この駆動装置3aは、上述した駆動装置3と略同様であるが、動力分割機構を2個の遊星歯車装置30a、30bで構成される点が異なる。動力分割機構30Aは、シングルピニオン式の第1遊星歯車装置30aと、シングルピニオン式の第2遊星歯車装置30bとで構成される。なお、第1遊星歯車装置30aと第2遊星歯車装置30bとは、それぞれ、上述した動力分割機構30を構成する遊星歯車装置と同様の構成である。
【0047】
第1遊星歯車装置30aのキャリア34aには、内燃機関22のクランクシャフト22Sが接続される。また、第1遊星歯車装置30aのキャリア34aは、第2遊星歯車装置30bのリングギヤ32bに接続される。また、第1遊星歯車装置30aのサンギヤ31aには第1電動機21の入出力軸21Sが接続される。第1遊星歯車装置30aのリングギヤ32aは、第2遊星歯車装置30bのキャリア34bに接続される。第2遊星歯車装置30bのキャリア34bは、連結シャフト25Iと接続される。連結シャフト25Iは、一端がプロペラシャフト25Pと接続されている。プロペラシャフト25Pは、減速装置29の出力部と接続されているので、第2電動機23の入出力軸23Sは、減速装置29を介して第2遊星歯車装置30bのキャリア34bと接続される。
【0048】
駆動装置3aが備えるクラッチ24は、上述した駆動装置3が備えるクラッチと同様の構成であるが、噛み合いピース24Rは動力分割機構30Aを構成する第2遊星歯車装置30bのサンギヤ31bに取り付けられる。すなわち、噛み合いピース24Rは、動力分割機構30Aを介して第1電動機21の入出力軸21Sと接続されている。この駆動装置3aにおいても、噛み合いピース24Rは、内燃機関22の反力を、噛み合いピース24Rと噛み合う対象である噛み合いスリーブ24Sへ伝達するための部材である。
【0049】
なお、噛み合いピース24Rの回転速度(回転数)や位置は、噛み合いピース回転位置検出センサ43aで検出される。したがって、噛み合いピース24Rと噛み合いスリーブ24Sとを係合させるか否かは、噛み合いピース回転位置検出センサ43aの検出結果に基づいて、判定することができる。
【0050】
駆動装置3aにおいて、図4に示すように、内燃機関22のクランクシャフト22Sから出力されるトルクに起因する反力は、第2遊星歯車装置30bのサンギヤ31bから噛み合いピース24R、噛み合いピース24Rの噛み合い外歯、噛み合いスリーブ24Sの噛み合い内歯、噛み合いスリーブ24S、噛み合いスリーブ24Sの外歯24STB、筐体3Sの順に伝達される。このように、内燃機関22の前記反力は、クラッチ24を介して筐体3Sで受けられる。
【0051】
ここで、クラッチ24を係合状態にした場合における各部の回転数の関係について説明する。図5は、ドグクラッチがロック状態、つまり、係合状態の場合の共線図である。なお、図5の縦軸は回転数を示している。また、図5のS、C、Rは、それぞれ第1遊星歯車装置30aのサンギヤ31a、キャリア34a、リングギヤ32aを示し、符号S’、C’、R’は、それぞれ第2遊星歯車装置30bのサンギヤ31b、キャリア34b、リングギヤ32bを示している。図5に示したようにクラッチ24が係合状態のときは第2遊星歯車装置30bのサンギヤ31bが回転不可に固定され、いわゆるロックされるので、その部分を中心に内燃機関22、第1電動機21、第2電動機23、連結シャフト25Iの回転数が変化する。
【0052】
このように、本実施例では、電動機と内燃機関とを動力分割機構を用いて組み合わせたハイブリッド式の駆動装置において、電動機を用いないで内燃機関の反力を受ける構成を提供できる。つまり、第2電動機23によりトルクを発生させなくとも、内燃機関22からの出力を効率よく連結シャフト25Iに伝達することができる。なお、駆動装置3aでは、クラッチ24を噛み合わせても、第1電動機21の回転は拘束されない。
【0053】
駆動装置3aが備えるクラッチ24は噛み合い式であるため、摩擦を発生させる要素がない。このため、クラッチ24を係合する、あるいは解放するときの引きずりによる損失が極めて小さい。これによって、内燃機関22の燃料消費を抑制できる。また、摩擦式のクラッチと比較して、係合に要するエネルギを低減できる。さらに、回転同期装置が存在しないので、クラッチ24を小型化できる。
【0054】
図6は、本実施例に係る駆動装置の他の構成例である。この駆動装置3bは、上述した駆動装置3と略同様であるが、動力分割機構を2個の遊星歯車装置30c、30dで構成され、内燃機関及び電動機と、出力軸とがカウンタギヤを介して接続される点が異なる。動力分割機構30Bは、シングルピニオン式の第1遊星歯車装置30cと、シングルピニオン式の第2遊星歯車装置30dとで構成される。第1遊星歯車装置30cと第2遊星歯車装置30dは、上述した動力分割機構30を構成する遊星歯車装置と同様の構成である。
【0055】
第1遊星歯車装置30cのキャリア34cには、内燃機関22のクランクシャフト22Sが接続され、キャリア34cは、ピニオンギヤ33cに接続されている。第1遊星歯車装置30cのリングギヤ32cは、第2遊星歯車装置30dのリングギヤ32dに接続される。また、第1遊星歯車装置30cのサンギヤ31cには第1電動機21の入出力軸21Sが接続される。第2遊星歯車装置30dのキャリア34dは、ケースに固定されている。また、第2遊星歯車装置30dのピニオンギヤ33dは、キャリア34dに接続されている。また、第2遊星歯車装置30dのリングギヤ32dは、上述したように第1遊星歯車装置30cのリングギヤ32cに接続され、さらに、カウンタギヤ35に接続される。第2遊星歯車装置30dのサンギヤ31dは、第2電動機23の入出力軸23Sと接続される。
【0056】
カウンタギヤ35は、駆動装置3bを介して伝達される駆動力を減速装置29に伝達させる伝達機構である。カウンタギヤ35は、一方が第2遊星歯車装置と連結され、他方が減速装置29と連結されている。
【0057】
駆動装置3bが備えるクラッチ24は、上述した駆動装置3が備えるクラッチと同様の構成であり、噛み合いピース24Rは動力分割機構30Bを構成する第1遊星歯車装置30cのサンギヤ31cに取り付けられる。すなわち、噛み合いピース24Rは、動力分割機構30Bとともに第1電動機21の入出力軸21Sと接続されている。この駆動装置3bにおいても、噛み合いピース24Rは、内燃機関22の反力を、噛み合いピース24Rと噛み合う対象である噛み合いスリーブ24Sへ伝達するための部材である。
【0058】
噛み合いピース24Rの回転速度や位置は、第1回転位置検出センサ43で検出される。したがって、噛み合いピース24Rと噛み合いスリーブ24Sとを係合させるか否かの判定は、第1回転位置検出センサ43の検出結果に基づいて判定することができる。
【0059】
駆動装置3bにおいて、内燃機関22のクランクシャフト22Sから出力されるトルクに起因する反力は、第1遊星歯車装置30cのピニオンギヤ33cからサンギヤ31c、噛み合いピース24R、噛み合いピース24Rの噛み合い外歯、噛み合いスリーブ24Sの噛み合い内歯、噛み合いスリーブ24S、噛み合いスリーブ24Sの外歯24STB、筐体3Sの順に伝達される。このように、内燃機関22の前記反力は、クラッチ24を介して筐体3Sで受けられる。このように、本実施例では、電動機と内燃機関とを動力分割機構を用いて組み合わせたハイブリッド式の駆動装置において、電動機を用いないで内燃機関の反力を受ける構成を提供できる。
【0060】
駆動装置3bが備えるクラッチ24は噛み合い式であるため、摩擦を発生させる要素がない。このため、クラッチ24を係合する、あるいは解放するときの引きずりによる損失が極めて小さい。これによって、内燃機関22の燃料消費を抑制できる。また、摩擦式のクラッチと比較して、係合に要するエネルギを低減できる。さらに、回転同期装置が存在しないので、クラッチ24を小型化できる。
【0061】
図1に示すメインECU10は、CPU(Central Processing Unit)を中心とするマイクロプロセッサとして構成される処理部10Pを備えて構成されており、処理部10Pの他に、本実施例に係る駆動装置の制御を実現するための処理プログラムや情報を一時的に格納する記憶部10Mと、入出力ポート及び通信ポートとを備える。なお、記憶部10Mは、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)で構成される。本実施例において、処理部10Pは、処理部10Pの機能を実現するためのプログラムを、処理部10Pを構成するメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであるが、処理部10Pは専用のハードウェアにより実現されるものであってもよい。
【0062】
メインECU10には、アクセルペダル40Pの踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ40からのアクセル開度、車両1の速度(車速)を検出する車速センサ41からの車速、第1回転位置検出センサ43や第2回転位置検出センサ44からの信号等が入力ポートを介して入力される。また、メインECU10には、アクチュエータ5が接続されている。メインECU10は、前述したように、機関ECU16や電動機ECU15と通信ポートを介して接続されており、機関ECU16や電動機ECU15と各種制御信号や情報をやり取りする。
【0063】
メインECU10の処理部10Pは、駆動制御部11と、クラッチ制御部12とを含んでいる。駆動制御部11は、アクセル開度や車速に基づき、内燃機関22、第1電動機21、第2電動機23を制御する。クラッチ制御部12は、アクチュエータ5を動作させることにより、クラッチ24の噛み合い及び解放を制御する。メインECU10は、本実施例に係る駆動装置の制御装置として機能し、クラッチ制御部12が駆動装置の制御装置としての機能を実現する。
【0064】
メインECU10は、運転者によるアクセルペダル40Pの踏み込み量に対応するアクセル開度PAPと車速Vcとに基づいて、駆動軸としてのプロペラシャフト25Pに出力すべき要求トルクを計算する。そして、メインECU10は、この要求トルクがプロペラシャフト25Pに出力されるように、内燃機関22と第1電動機21と第2電動機23とを制御する。
【0065】
本実施例で用いる噛み合い式のクラッチ24は、回転同期機能が存在しないため、クラッチ24単体では、噛み合いの動作に大きな力を要したり、噛み合い時には車両1にショックが発生したりする。また、噛み合い式のクラッチ24は、噛み合い位置が限定されるので、適切な噛み合い位置を外れて噛み合わされると摩擦やショックが発生する。これを回避するため、本実施例ではメインECU10のクラッチ制御部12を用いてクラッチ24の係合を制御する。これにより、噛み合い式のクラッチ24を用いた場合に、噛み合い位置で確実に噛み合い対象同士を噛み合わせることにより、噛み合い動作における摩擦やショックを低減し、また、噛み合い動作に要する力を低減できる。次に、クラッチ制御部12を詳細に説明する。
【0066】
以下、図7を用いてクラッチ制御部12による制御動作について説明する。ここで、図7は、本実施例に係るクラッチの係合の手順を示すフローチャートである。まず、クラッチ制御部12は、ステップS12として、走行状態がオーバードライブ(O/D)ロック走行領域に含まれるかを判定する。ここで、オーバードライブロック走行領域とは、高速走行かつ低負荷で車両1が走行している走行状態であると判定することができる走行条件の領域である。なお、本実施例では、オーバードライブロック走行領域の場合として説明するが、第1電動機21が発生するトルクの制限により、第1電動機21が受けることができる内燃機関22の反力が制限される走行状態の場合も同様にクラッチを係合させるようにしてもよい。
【0067】
クラッチ制御部12は、ステップS12でオーバードライブロック走行領域ではない(No)と判定したら、ステップS12に進む。つまり、クラッチ制御部12は、走行条件が、オーバードライブロック走行領域ではない間は、ステップS12の判定を繰り返す。
【0068】
また、クラッチ制御部12は、ステップS12でオーバードライブロック走行領域である(Yes)と判定したら、ステップS14として、回転数同期制御を行う。ここで、回転数同期制御とは、クラッチ24を構成する噛み合いピース24Rの回転数と、噛み合いスリーブ24Sの回転数とを同期させる制御である。本実施例では、噛み合いスリーブ24Sが回転しない状態で支持されているので、噛み合いピース24Rの回転数を0に近づけるように、エンジンの回転数、第2電動機の回転数、出力軸の回転数等の条件を制御する。
【0069】
クラッチ制御部12は、ステップS14で回転数同期制御を行ったら、ステップS16として、係合部回転数が閾値より小さいかを判定する。なお、クラッチ制御部12は、ステップS14での処理を一定時間行ったら、ステップS16に進むようにすればよい。ここで、係合部とは、クラッチ24の係合される部分であり、具体的には、噛み合いピース24Rと噛み合いスリーブ24Sである。また、係合部回転数とは、係合する2つの部分の相対的な回転数の差である。つまり、本実施例では、噛み合いスリーブ24Sは回転しないので、噛み合いピース24Rの回転数が、係合部回転数となる。また、閾値は、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとを係合させる場合に、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとに生じる衝撃が一定以下、つまり許容できる範囲の衝撃となる回転数の差である。また、係合部回転数は、第1回転位置検出センサ43または噛み合いピース回転位置検出センサ43aの検出結果から算出することができる。
【0070】
クラッチ制御部12は、ステップS16で係合部回転数が閾値以上である(No)、つまり、閾値≦係合部回転数であると判定したら、ステップS14に進み、再び、回転数同期制御を行う。つまり、クラッチ制御部12は、係合部回転数が閾値よりも小さくなるまで、ステップS14での回転数同期制御と、ステップS16での判定とを行う。
【0071】
また、クラッチ制御部12は、ステップS16で係合部回転数が閾値よりも小さい(Yes)、つまり、係合部回転数<閾値であると判定したら、ステップS18として、係合目標位相との位相差を算出する。係合目標位相とは、噛み合いピース24Rと、噛み合いスリーブ24Sと相対位置の基準となる位置関係である。つまり、クラッチ制御部12は、噛み合いピース24Rと、噛み合いスリーブ24Sとの相対位置が、基準位置に対して、何度ずれているかを算出する。なお、この基準位置は、噛み合いピース24Rと噛み合いスリーブ24Sとの全周の中の任意の1箇所としてもよいが、複数個所としてもよい。例えば、噛み合いピース24Rと噛み合いスリーブ24Sとの各歯に対して、それぞれ基準位置を設定するようにしてもよい。この場合は、対向する位置の歯によって、基準位置を決定し、その基準位置との角度を算出すればよい。
【0072】
クラッチ制御部12は、ステップS18で係合目標位相との位相差を検出したら、ステップS20として、係合部の相対的な位相が相対位相領域内であるかを判定する。ここで、相対位相領域とは、噛み合いピース24Rと、噛み合いスリーブ24Sとが係合可能であると判定される位相の範囲であり、噛み合いピース24Rと、噛み合いスリーブ24Sとの相対位相差および噛み合いピース24Rと、噛み合いスリーブ24Sとの相対回転数との関係で規定されている。具体的には、図8に示すグラフの斜線部分の領域が相対位相領域となる。なお、図8は、制御部に記憶されている二次元マップの一例を示すグラフであり、縦軸が相対回転数(回転速度)ω、横軸が相対位相差θとなっている。また、図9は、クラッチの一部の概略構成を拡大して示す説明図である。図9は、図8に示すグラフの一点鎖線の相対位相差θ1である場合の噛み合いピース24Rの噛み合い外歯24RT1、24RT2と、噛み合いスリーブ24Sの噛み合い内歯24STA1との関係を示している。相対位相差θが一点鎖線の角度である時、噛み合い内歯24STA1は、回転方向において、噛み合い外歯24RT1と噛み合い外歯24RT2との中間点にある。
【0073】
図8に示すグラフでは、ストローク時間内に変化する位相反映境界線に基づいて算出したバックラッシュによる衝突位置のバラツキと、イナーシャ変化による乗り上げ防止非線形境界線と、相対的な回転数差とに基づいて、相対位相領域を設定している。
【0074】
ここで、ストローク時間内に変化する位相反映境界線αは、係合部の係合動作時、アクチュエータ5により噛み合いスリーブ24Sを移動させる間に、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとが相対的に移動する移動量を加味した線である。二次元マップでは、位相反映境界線αを基準として係合時に歯先が衝突する位置関係となる位相を算出し、さらに、バックラッシュによる衝突位置のバラツキを加味して、係合時に、歯先が接触しない位相領域を算出する。歯先が接触しない位相領域は、具体的には、図8中、直線αを挟むようにして引かれている直線βと直線βとで囲まれた領域を除いた領域、つまり、θが増加する方向において、直線βと直線βとで囲まれる領域である。
【0075】
さらに、イナーシャ変化による乗り上げ防止非線形境界線γは、イナーシャ変化により一方の歯先が他方の歯先に乗り上げるおそれのある位相を非線形計算で算出した境界線である。ここで、イナーシャ変化により一方の歯先が他方の歯先に乗り上げるとは、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとを係合する際に、一方の歯先が、他方の歯先と歯先との間に入った後、他方の歯先を乗り越え、1つ隣の歯先と歯先との間に入って係合されることである。
【0076】
クラッチ制御部12は、このようにして算出した、バックラッシュによる衝突位置のバラツキを加味して、係合時に、歯先が接触しない位相領域で、イナーシャ変化により一方の歯先が他方の歯先に乗り上げない位相範囲、かつ、相対的な回転数差が一定速度差以下の範囲を相対位相領域として設定している。ここで、図8において、相対的な回転数差が一定速度差以下の範囲とは、回転数差ωが、w2≦ω≦w1の範囲であり、図8中、βとβとγとw1とw2とで囲まれた斜線領域を相対位相領域として設定している。
【0077】
クラッチ制御部12は、ステップS20で係合部の位相が相対位相領域内ではない(No)と判定したら、ステップS18に進み、再び、係合目標位相との位相差を算出する。つまり、クラッチ制御部12は、係合部の位相が相対位相領域内ではない間は、ステップS18とステップS20とを繰り返す。
【0078】
また、クラッチ制御部12は、ステップS20で、係合部の位相が相対位相領域内にある(Yes)と判定したらステップS22として、アクチュエータをONにする。具体的には、アクチュエータ5を駆動し、噛み合いスリーブ24Sを噛み合いピース24R側に移動させる。クラッチ制御部12は、ステップS22でアクチュエータをONにしたら、ステップS24として、クラッチの係合が終了したかを判定する。なお、クラッチ制御部12がステップS22からステップS24に進むタイミングは特に限定されず、例えば、ステップS22の動作を開始してから一定時間後にステップS24に進むようにすればよい。
【0079】
クラッチ制御部12は、ステップS24でクラッチ係合処理が終了していない(No)、つまり、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとが噛み合っていないと判定したら、ステップS26として、クラッチフェール制御を行い、その後、処理を終了する。ここで、クラッチフェール制御とは、アクチュエータ5により噛み合いスリーブ24Sを移動させても、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとが噛み合わなかった場合に行う制御であり、例えば、クラッチを係合不能とし、クラッチOFFの状態で走行を続ける制御である。また、クラッチ制御部12は、ステップS24でクラッチ係合処理が終了している(Yes)、つまり、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとが係合し、噛み合っていると判定したら、処理を終了する。
【0080】
このように、噛み合いピース24Rと噛み合いスリーブ24Sとの回転数の同期を取り、両者の回転数の差を一定以下として、かつ、噛み合いピース24Rと噛み合いスリーブ24Sとの相対位相差が図8に示すような所定領域内であると判定した場合に、アクチュエータ5により噛み合いスリーブ24Sを移動させ、噛み合いピース24Rと噛み合いスリーブ24Sとを係合することで、噛み合いピース24Rの歯先と噛み合いスリーブ24Sの歯先とが接触する可能性を低減することができる。また、歯先同士が接触した場合も、歯先に生じる衝撃を小さくすることができる。
【0081】
また、クラッチ制御部12は、噛み合いピース24Rの位相と噛み合いスリーブ24Sの位相との関係を計算して、所定の位相の関係になった場合に係合させる制御を行わず、噛み合いピース24Rの回転数のみを制御して、クラッチの係合動作を行うことができるため、短時間で係合を行うことができ、かつ、制御を簡単にすることができる。また、回転数と位相とが一定領域となる場合に係合動作を開始することで、回転数と位相との両方を、目標回転数、目標位相にして、係合を行う場合よりも短時間かつ簡単な制御で、係合を行うことができる。
【0082】
また、図8に示すように、バックラッシュのばらつきを考慮して噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとの係合動作を開始するか否かを判定することで、係合時に噛み合いスリーブ24Sの歯先と、噛み合いピース24Rの歯先とが接触することを抑制することができる。また、歯先同士が接触した場合も歯先に生じる衝撃を小さくすることができる。これにより、クラッチの係合を短時間で、かつ、円滑に行うことが可能となる。
【0083】
さらに、イナーシャ変化による乗り上げが発生する相対位相を非線形計算により境界線を算出し、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rとの相対位相が、境界線で囲まれている領域内にある場合に係合させるようにすることで、係合時に、一方の部材(スリーブまたはピース)の歯先を他方の部材(ピースまたはスリーブ)の歯先が乗り越えてしまうことが発生することを抑制することができる。これにより、歯先に生じる衝撃を小さくすることができ、短時間で円滑に係合することが可能となる。
【0084】
ここで、上記実施例では、位相情報に基づいてアクチュエータを駆動するか否か(つまり、係合させるか否か)を図8に示す2次元マップに基づいて判定したが、本発明はこれに限定されず、回転数を制御し、かつ、検出した位相情報に基づいて係合させるかを判定すればよい。
【0085】
また、上記実施例では、より適切に歯先への衝撃や、係合時のショックを低減できるため、イナーシャ変化による乗り上げ、バックラッシュのばらつき、回転数差を加味して所定領域を設定したが、所定領域の設定方法は特に限定されない。例えば、効果は低下するがイナーシャ変化による乗り上げ防止の範囲を線形で算出してもよい。
【0086】
また、上記実施例では、より高い精度で噛み合いピースの位置と回転数を検出するため、回転位置検出センサとして、レゾルバを用いたが、これに限定されない。例えば、ホール素子を用いてもよい。このようにホール素子を用いる場合は、ホール素子による信号の検出タイミングと回転数の積算値とを用いて計算を行うことで、噛み合いピースと噛み合いスリーブとの相対位置を算出することができる。
【0087】
また、上記実施例では、クラッチの係合部となる噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピース24Rのうち、噛み合いスリーブ24Sを固定し、噛み合いピース24Rを回転させる構成とし、噛合クラッチ装置にブレーキ装置としての機能をもたせたが、これに限定されない。例えば、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピースとの両方を回転させるようにしてもよい。つまり、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピースの両方をそれぞれ回転体に連結させるようにしてもよい。この場合は、相対的な回転数を同期させればよいため、噛み合いスリーブ24Sと噛み合いピースの両方が一定回転数で回転していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明に係る噛合クラッチ装置は、自動車等の駆動装置に用いる場合に有用であり、特に、噛み合い対象同士の回転を同期させる回転同期装置を有さない駆動装置に用いることに適している。
【符号の説明】
【0089】
1 車両
3、3a、3b 駆動装置
3S 筐体
5 アクチュエータ
10 メインECU
10M 記憶部
10P 処理部
11 駆動制御部
12 クラッチ制御部
15 電動機ECU
16 機関ECU
17 コンバータ
18 インバータ
20 バッテリ
21 第1電動機
21S 入出力軸
22 内燃機関
22S クランクシャフト
23 第2電動機
23S 入出力軸
24 クラッチ
24R 噛み合いピース
24S 噛み合いスリーブ
24RT1、24RT2 噛み合い外歯
24STA1 噛み合い内歯
25I 連結シャフト
25P プロペラシャフト
26 デファレンシャルギヤ
27L、27R 駆動軸
29 減速装置
30、30A、30B 動力分割機構
30a、30c 第1遊星歯車装置
30b、30d 第2遊星歯車装置
31、31a、31b、31c、31d サンギヤ
32、32a、32b、32c、32d リングギヤ
33、33a、33b、33c、33d ピニオンギヤ
34、34a、34b、34c、34d キャリア
35 カウンタギヤ
40 アクセルポジションセンサ
41 車速センサ
43 第1回転位置検出センサ
43a 噛み合いピース回転位置検出センサ
44 第2回転位置検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と連れ回り、前記回転体の回転力を伝達する第1部材と、
前記回転体の回転軸の延長線上に設けられ、前記第1部材と噛合可能な第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを前記回転軸方向に相対的に移動させ、前記第1部材と前記第2部材との係合動作と非係合動作とを行う駆動手段と、
前記回転体の回転数同期制御を行う同期制御手段と、
前記第1部材と前記第2部材との位相差を検出する位相検出手段と、
前記同期制御手段での制御と、前記位相検出手段で検出した位相差とに基づいて、前記駆動手段の動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする噛合クラッチ装置。
【請求項2】
前記第2部材は、回転しない部材に連結されていることを特徴とする請求項1に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記位相差と前記第1部材と前記第2部材との回転数の差とが所定の関係にある場合に、前記駆動手段により前記第1部材と前記第2部材とを相対的に移動させ、前記第1部材と前記第2部材との係合動作を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1部材と前記第2部材との係合動作が許可されている回転数と、前記第1部材と前記第2部材との係合動作が許可される所定の位相情報とを関連付けて記憶していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項5】
前記制御手段は、回転数と位相情報と係合動作が行われる領域とが示されているマップを記憶し、前記マップに基づいて、係合動作を制御することを特徴とする請求項4に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記第1部材と前記第2部材との係合動作が許可されている回転数に対しては前記第1部材と前記第2部材との係合動作が許可される所定の位相情報が予め定められており、前記所定の位相情報からは、回転方向における前記第1部材の接触する部分と前記第2部材の接触する部分とのバックラッシュの範囲が除かれていることを特徴とする請求項4または5に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記第1部材と前記第2部材との係合動作の際に、回転方向において、一方の部材が他方の部材に乗り上げる側の領域は、非線形境界によって規定されることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の噛合クラッチ装置。
【請求項8】
非線形境界は、回転数に対応したイナーシャ変化によって定められることを特徴とする請求項7に記載の噛合クラッチ装置。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−276121(P2010−276121A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129549(P2009−129549)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】