説明

四輪駆動車の制御装置

【課題】駆動系に付加される捩れトルクを低減して、駆動系部品の耐久性を向上する。
【解決手段】センターデフロック状態での旋回走行中に、駆動系に蓄積された捩れに伴う発生捩れトルクTh(DS捩れトルクThDS)が所定トルク(DS許容トルクTy)以上となる駆動系の捩れ状態となった場合は、前輪14にホイールブレーキ装置96によるブレーキトルクTが加えられるので、例えば前輪14にかかるDS捩れトルクThDSの一部をホイールブレーキ装置96によるブレーキトルクTで分担することができる為、駆動系(フロントDS34)に実質的に付加されるDS捩れトルクThDSが低減される。よって、駆動系部品の耐久性が向上される。その為、例えば駆動系部品の耐久性を確保する為に駆動系部品を大型化したりする必要が無く、駆動系部品の小型化や軽量化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後輪が非差動状態にて走行することが可能な四輪駆動車の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前輪と後輪との回転差動が制限された非差動状態にて走行することが可能な四輪駆動車が良く知られている。例えば、特許文献1,2に記載された車両がそれである。例えば、特許文献1には、センターデファレンシャル(以下、センターデフという)を介して前輪側のプロペラシャフトと後輪側のプロペラシャフトとにエンジンの動力が配分されるフルタイム四輪駆動車において、センターデフがフリー状態からデフロック状態とされると、前輪の平均回転速度と後輪の平均回転速度とが等しくなるように差動制限を受けることが記載されている。又、同じく特許文献1には、センターデフがロック機構に変更されたパートタイム四輪駆動車において、通常は二輪駆動状態で走行し、必要なときのみ前後のプロペラシャフトが直結されて、直結四輪駆動状態となり、フルタイム四輪駆動車のセンターデフロック状態と同じ状態となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−143380号公報
【特許文献2】特開2000−344077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両が旋回走行する場合、前後輪の回転半径差によって前輪と後輪とで回転差が生じる。このとき、四輪駆動車において非差動状態とされた旋回走行であると、駆動系に捩れによる捩れトルクが発生する。つまり、駆動系が走行路面を介して繋がっている状態のとき、前後輪に回転差が生じると、駆動系のどこかに捩れが溜り、循環トルクが発生する。例えば、前記四輪駆動車において旋回走行すると、前輪の平均回転速度は後輪の平均回転速度よりも速くなることから、非差動状態である場合には、前輪には走行路から車輪が回される負トルク(減速トルク)がかかり、後輪には正トルクがかかる。つまり、駆動系の一部を構成する前輪側のドライブシャフト(以下、フロントDS)は車輪側から車両走行回転方向へ捩られ、このフロントDSには、駆動力源側から駆動トルクが発生させられているにも拘わらず減速トルクが付加されることになる。このようにして発生した捩れトルクは、非差動状態である限り、4輪の何れかがスリップするまで増加し続ける。車輪が滑り出すまでのトルク(以下、トラクティブトルクという)は比較的大きなトルクであり、駆動系を構成する各部の耐久性が低下する可能性がある。特に、車重が比較的重かったり、車両搭載重量が比較的重かったりすると、トラクティブトルクが大きくなり(すなわち車輪が滑り出し難くなり)、より大きな捩れトルクが溜まって駆動系各部の耐久性がより低下する可能性がある。また、旋回走行状態ではフロントDSの車輪側ジョイントは大きく角度が切れた状態であり、直進走行状態と比較して、フロントDSの耐久性は大きく低下する可能性がある。このような課題は未公知であり、例えば駆動系各部を保護する観点から制動力制御を行うことについて、未だ提案されていない。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動系に付加される捩れトルクを低減して、駆動系部品の耐久性を向上することができる四輪駆動車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) 前輪と後輪との回転差動が制限された非差動状態にて走行することが可能な四輪駆動車の制御装置であって、(b) 前記非差動状態での旋回走行中に、駆動系に蓄積された捩れに伴って生じる捩れトルクが所定トルク以上となるその駆動系の捩れ状態となった場合は、前記前輪にホイールブレーキ装置による制動力を加えることにある。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、前記非差動状態での旋回走行中に、駆動系に蓄積された捩れに伴って生じる捩れトルクが所定トルク以上となるその駆動系の捩れ状態となった場合は、前記前輪にホイールブレーキ装置による制動力が加えられるので、例えば前輪にかかる負トルク(減速トルク)の一部をホイールブレーキ装置による制動トルクで分担することができる為、駆動系に実質的に付加される捩れトルクが低減される。つまり、発生する捩れトルクの一部が前記制動トルクで受け持たれる為、駆動系部品にかかる捩れトルクが低減される。よって、駆動系部品の耐久性が向上される。その為、例えば駆動系部品の耐久性を確保する為に駆動系部品を大型化したりする必要が無く、駆動系部品の小型化や軽量化を図ることができる。
【0008】
ここで、好適には、前記所定トルクは、駆動系部品の耐久性低下を抑制する為の前記捩れトルクの許容値であって、前記旋回走行中の操舵角が大きい程、その所定トルクが小さくされるように予め定められた関係から、実際の操舵角に基づいて設定されることにある。このようにすれば、例えば操舵角が大きくなる程捩れトルクに対する駆動系部品(例えばフロントDS)の許容トルクが低下することに対して、上記関係から所定トルクが設定されることにより、駆動系部品にかかる捩れトルクが適切に低減されて駆動系部品の耐久性が向上される。また、操舵角の大きさに合わせてホイールブレーキ装置による制動トルクが加えられることから、旋回性能(走行性能)が適切に確保される。つまり、例えば前輪にかかる減速トルクの一部がホイールブレーキ装置による制動トルクにて適切に分担される為、その制動トルクによって車両全体として減速トルクが増大させられるものではなく、走行性能が適切に確保される。
【0009】
また、好適には、前記前輪と前記後輪との前後輪回転速度差によって前記捩れが前記駆動系に蓄積されるものであり、前記前後輪回転速度差に基づいて前記駆動系の捩れ状態を検出することにある。このようにすれば、例えば前記捩れトルクが所定トルク以上となる前記駆動系の捩れ状態が適切に検出される。
【0010】
また、好適には、前記旋回走行中の前記前後輪回転速度差の積分値に基づいて前記駆動系の捩れ量を算出し、前記捩れ量が大きい程、前記捩れトルクが大きくされるように予め定められた関係から、前記所定トルクに基づいて所定捩れ量を設定し、前記捩れ量が前記所定捩れ量以上となることで、前記駆動系の捩れ状態を検出することにある。このようにすれば、例えば前記捩れトルクが所定トルク以上となる前記駆動系の捩れ状態が確実に検出される。
【0011】
また、好適には、前記駆動系の捩れ量と前記所定捩れ量との差分に対応する捩れトルク分を受け持つように、前記前輪に制動力を加えることにある。このようにすれば、例えば駆動系部品にかかる捩れトルクが所定トルク以上とならないように、発生する捩れトルクの一部をホイールブレーキ装置による制動トルクで適切に分担することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用される車両の構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置が備えるトランスファの骨子図である。
【図3】センターデフロック状態での旋回走行時に発生する捩れトルクを説明する為の図である。
【図4】図1の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】ステアリングの操舵角が大きい程、DS許容トルクが小さくされるような関係(許容トルクマップ)の一例を示す図である。
【図6】DS捩れ量が大きい程、DS捩れトルクが大きくされるような関係(捩れトルクマップ)の一例を示す図である。
【図7】DS捩れ量差分が大きい程、必要フロントブレーキトルクが大きくされるような関係(必要ブレーキトルクマップ)の一例を示す図である。
【図8】電子制御装置の制御作動の要部すなわち駆動系に実質的に付加される捩れトルクを低減して駆動系部品の耐久性を向上する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図9】本発明が適用されるパートタイム四輪駆動車を例示する図であって、フルタイム4WD方式の車両とは別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、好適には、前記四輪駆動車は、例えばフリー状態とロック状態とに択一的に切り替え可能なセンターデフを介して前輪側の動力伝達経路と後輪側の動力伝達経路とに駆動力源の動力が配分される所謂フルタイム四輪駆動車である。このセンターデフがフリー状態からロック状態(センターデフロック状態)とされると、前輪と後輪との回転差動が制限された非差動状態にて走行することができる。
【0014】
また、好適には、前記四輪駆動車は、上記フルタイム四輪駆動車に替えて、例えば上記センターデフがロック機構に変更された所謂パートタイム四輪駆動車であっても良い。このロック機構がフリー状態であれば二輪駆動状態で走行する一方で、このロック機構がロック状態とされると前後の動力伝達経路が直結されて直結四輪駆動状態となり、上記フルタイム四輪駆動車のセンターデフロック状態と同様に、前輪と後輪との回転差動が制限された非差動状態にて走行することができる。
【0015】
また、好適には、前記四輪駆動車は、前記駆動力源から車輪までの動力伝達経路に車両用動力伝達装置を備えている。前記駆動力源としては、例えば燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が好適に用いられるが、電動機等の他の原動機を単独で、或いはエンジンと組み合わせて採用することもできる。
【0016】
また、好適には、前記車両用動力伝達装置は、変速機単体、トルクコンバータ及び複数の変速比を有する変速機、或いはこの変速機等に加えトランスファや減速機構部やディファレンシャル機構部により構成される。この変速機は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式自動変速機、常時噛み合う複数対の変速ギヤを2軸間に備えてそれら複数対の変速ギヤのいずれかを同期装置によって択一的に動力伝達状態とする同期噛合型平行2軸式変速機、その同期噛合型平行2軸式変速機ではあるが油圧アクチュエータにより駆動される同期装置によって変速段が自動的に切換られることが可能な同期噛合型平行2軸式自動変速機、同期噛合型平行2軸式自動変速機であるが入力軸を2系統備えて各系統の入力軸にクラッチがそれぞれつながり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている型式の変速機である所謂DCT(Dual Clutch Transmission)、動力伝達部材として機能する伝動ベルトが有効径が可変である一対の可変プーリに巻き掛けられ変速比が無段階に連続的に変化させられる所謂ベルト式無段変速機、或いは共通の軸心まわりに回転させられる一対のコーンとその軸心と交差する回転中心回転可能な複数個のローラがそれら一対のコーンの間で挟圧されそのローラの回転中心と軸心との交差角が変化させられることによって変速比が可変とされた所謂トラクション型無段変速機などにより構成される。
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用される車両10の構成を説明する図であると共に、車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、車両10は、例えば常時全輪駆動状態(四輪駆動状態)にて走行することができる所謂フルタイム式の四輪駆動車であり、走行用の駆動力源としてのエンジン12からの動力を左右一対の前輪14R,14L(特に区別しない場合には前輪14)及び左右一対の後輪16R,16L(特に区別しない場合には後輪16)へそれぞれ伝達する車両用動力伝達装置18を備えている。車両用動力伝達装置18は、エンジン12に連結されたトルクコンバータ20を有する自動変速機22と、自動変速機22の出力側に連結されてその自動変速機22から伝達された動力を前輪14側及び後輪16側に分配するトランスファ(動力分配装置)24と、トランスファ24にて分配された動力を前輪14側及び後輪16側にそれぞれ伝達するフロントプロペラシャフト26及びリヤプロペラシャフト28と、フロントプロペラシャフト26及びリヤプロペラシャフト28にそれぞれ連結される前輪用差動歯車装置30及び後輪用差動歯車装置32と、前輪用差動歯車装置30及び後輪用差動歯車装置32を介してそれぞれ伝達される動力を前輪14及び後輪16へそれぞれ伝達する左右一対の前輪車軸34R,34L(特に区別しない場合にはフロントドライブシャフト(フロントDS)34)及び左右一対の後輪車軸36R,36L(特に区別しない場合にはリヤドライブシャフト(リヤDS)36)とを備えている。このように構成された車両用動力伝達装置18において、エンジン12により発生させられた動力は、トルクコンバータ20、自動変速機22、トランスファ24、フロントプロペラシャフト26及びリヤプロペラシャフト28、前輪用差動歯車装置30及び後輪用差動歯車装置32、左右一対のフロントDS34及び左右一対のリヤDS36等の動力伝達経路をそれぞれ順次介して、一対の前輪14及び一対の後輪16へそれぞれ伝達される。
【0019】
エンジン12は、例えば気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、トルクコンバータ20は、例えばエンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車と、自動変速機22の入力軸に連結されたタービン翼車と、一方向クラッチを介してトランスミッションケース38に固定されたステータ翼車とを備えており、上記ポンプ翼車とタービン翼車との間で流体を介して動力伝達を行う流体式動力伝達装置である。また、自動変速機22は、例えば複数の摩擦係合要素を備え、それら摩擦係合要素の係合又は解放の組み合わせに応じて複数の変速比を選択的に成立させて、入力軸から入力された駆動力を変速して出力させる自動変速機である。
【0020】
トランスファ24は、例えばリヤプロペラシャフト28とフロントプロペラシャフト26との間の回転差動が制限されない差動状態とそれらの間の回転差動が制限された非作動状態とを選択的に切り替え、自動変速機22からの動力を前輪14及び後輪16のそれぞれに分配する。また、トランスファ24は、例えば高速側ギヤ段(高速側変速段)H及び低速側ギヤ段(低速側変速段)Lの何れかを選択的に成立させて、自動変速機22からの動力を変速して後段へ伝達する副変速機としての機能も有している。
【0021】
図2は、トランスファ24の骨子図である。尚、この図2は、後述の入力軸56、第1出力軸46、第2出力軸48、第1シフトフォークシャフト88、及び第2シフトフォークシャフト92のそれぞれの軸心を共通の平面内に示した展開図である。図2において、トランスファ24は、自動変速機22のトランスミッションケース38の車両後方側に連結された非回転部材としてのトランスファケース40を備えている。また、トランスファ24は、トランスファケース40内において、シングルピニオン型の遊星歯車装置42を主体に構成されている副変速機44と、軸心C1まわりの回転可能にトランスファケース40に支持されてリヤプロペラシャフト28に連結された第1出力軸46、及び軸心C2まわりの回転可能にトランスファケース40に支持されてフロントプロペラシャフト26に連結された第2出力軸48に対して、それぞれの回転差を許容しつつ動力(トルク)を分配するセンターデフ(中央差動装置)50と、副変速機44からセンターデフ50に至る2つの動力伝達経路のどちらかが連結状態とされることにより低速側ギヤ段L又は高速側ギヤ段Hを択一的に成立させる噛合クラッチ装置52と、センターデフ50における上記回転差を許容する作動を制限するすなわち第1出力軸46と第2出力軸48との回転差動を制限してセンターデフロック状態とする為のデフロック装置54とを共通の軸心C1上に有している。このトランスファ24は、軸心C1まわりの回転可能にトランスファケース40に支持された入力軸56の回転を変速し且つ差動状態又は直結状態で第1出力軸46及び第2出力軸48からそれぞれ出力する。入力軸56は、自動変速機22の出力軸58にスプライン嵌合継手などを介して連結されており、エンジン12から自動変速機22を介して入力された動力(トルク)によって回転駆動させられるものである。
【0022】
遊星歯車装置42は、入力軸56の外周面に対して軸心C1まわりの回転不能に連結された第1サンギヤS1と、その第1サンギヤS1に対して略同心に配置され、トランスファケース40に軸心C1まわりの回転不能に連結されたリングギヤR1と、これらサンギヤS1及びリングギヤR1に噛み合う複数のピニオンギヤP1を自転可能且つサンギヤS1まわりの公転可能に支持するキャリヤCA1とを有している。よって、サンギヤS1の回転速度は入力軸56に対して等速であり、キャリヤCA1の回転速度は入力軸56に対して減速される。また、サンギヤS1には、噛合クラッチ装置52のうち、高速側ギヤ段Hの成立に関与する同期噛合機構60の非同期側部材としてのクラッチギヤ62が、サンギヤS1に対する軸心C1まわりの回転不能に固設されている。また、キャリヤCA1には、噛合クラッチ装置52のうち、低速側ギヤ段Lの成立に関与する噛合クラッチ64の非同期側部材としてのクラッチギヤ66が、キャリヤCA1に対する軸心C1まわりの回転不能に固設されている。
【0023】
センターデフ50は、よく知られた所謂トルセン式の差動歯車制限装置であって、軸心C1まわりの回転可能に第1出力軸46に支持されたデフケース68と、そのデフケース68内において軸心C1まわりの回転不能に第1出力軸46に連結されたリングギヤR2と、そのリングギヤR2に対して略同心に配置され、第1出力軸46に対して軸心C1まわりの相対回転可能にその第1出力軸46の外周部に支持されたサンギヤS2と、これらサンギヤS2及びリングギヤR2に噛み合う複数のピニオンギヤP2を自転可能且つサンギヤS2まわりの公転可能に支持すると共に、デフケース68に連結されたキャリヤCA2とを有している。上記サンギヤS2は、そのサンギヤS2と同様に第1出力軸46に軸心C1まわりの回転可能に支持されたドライブギヤ70に連結されている。このドライブギヤ70の回転は、第2出力軸48まわりの回転不能に第2出力軸48に連結されたドリブンギヤ72に対して、それらドライブギヤ70及びドリブンギヤ72の外周に巻き掛けられたチェーン74を介して伝達されるようになっている。このようなセンターデフ50において、直進時には、遊星歯車装置42からデフケース68へ伝達されたトルクがリングギヤR2及びサンギヤS2を介してそれぞれ第1出力軸46及び第2出力軸48へ伝達される。また、旋回時には、デフケース68からサンギヤS2へ入力されたトルクの一部がキャリヤCA2及びデフケース68を介してリングギヤR2へ伝達されるようになっており、直進時のトルク配分よりもリヤよりのトルク配分で第1出力軸46及び第2出力軸48へそれぞれ伝達される。
【0024】
噛合クラッチ装置52は、高速側ギヤ段Hを成立させる為の同期噛合機構60と、低速側ギヤ段Lを成立させる為の噛合クラッチ64とを有している。同期噛合機構60は、よく知られた所謂シンクロ機構を備えるものであり、デフケース68に対して例えばスプライン嵌合されることにより軸心C1まわりの相対回転不能且つ軸心C1方向の相対移動可能に設けられた円筒状のスリーブ76と、そのスリーブ76の内周面の内周歯に対して軸心C1まわりの相対回転不能且つ軸心C1方向の相対移動可能に噛み合う外周歯を有し、遊星歯車装置42とデフケース68との間に配置されてサンギヤS1に固設されたクラッチギヤ62と、スリーブ76及びクラッチギヤ62の回転が非同期状態である時にはそのスリーブ76のクラッチギヤ62方向への移動を阻止するシンクロナイザリング(同期リング)78とを有している。本実施例では、スリーブ76が後述のシフトアクチュエータ86によって軸心C1方向へ移動させられるシフトリングに相当する。また、噛合クラッチ64は、上記シフトリングとしてのスリーブ76と、そのスリーブ76の外周部に設けられた外周歯80に対して軸心C1まわりの相対回転不能且つ軸心C1方向の相対移動可能に噛み合う内周歯を有し、外周歯80に対するクラッチギヤ62とは反対側に配置されてキャリヤCA1に固設されたクラッチギヤ66とを有している。このように構成された噛合クラッチ装置52においては、スリーブ76が軸心C1方向に摺動することでデフケース68と噛み合いつつクラッチギヤ62と噛み合うことにより高速側ギヤ段Hが成立させられ、スリーブ76が軸心C1方向に摺動することでデフケース68と噛み合いつつクラッチギヤ66と噛み合うことにより低速側ギヤ段Lが成立させられるようになっている。このとき、キャリヤCA1及びクラッチギヤ66を介してデフケース68へ動力が伝達される経路が低速側ギヤ段Lを成立させる動力伝達経路に相当し、サンギヤS1及びクラッチギヤ62を介してデフケース68へ動力が伝達される経路が高速側ギヤ段Hを成立させる動力伝達経路に相当する。尚、本実施例では、デフケース68は、同期噛合機構60のクラッチハブとして機能している。また、噛合クラッチ装置52は、副変速機44を変速させる為に係合作動させられるものである。
【0025】
デフロック装置54は、デフケース68に対して例えばスプライン嵌合されることにより軸心C1まわりの相対回転不能且つ軸心C1方向の相対移動可能に設けられた円筒状のスリーブ82と、そのスリーブ82の内周面の内周歯に対して軸心C1まわりの相対回転不能且つ軸心C1方向の相対移動可能に噛み合う外周歯を有し、ドライブギヤ70とデフケース68との間に配置されてそのドライブギヤ70に固設されたクラッチギヤ84とを有している。このように構成されたデフロック装置54においては、スリーブ82が軸心C1方向に摺動することでデフケース68と噛み合いつつクラッチギヤ84と噛み合うことにより、センターデフ50の差動を制限してセンターデフロック状態とするようになっている。尚、本実施例では、デフケース68は、デフロック装置54のクラッチハブとして機能している。
【0026】
ここで、噛合クラッチ装置52及びデフロック装置54は、電子制御装置130(図1参照)によって駆動させられるシフトアクチュエータ86によって係合作動させられる。すなわち、噛合クラッチ装置52は、シフトアクチュエータ86の出力部材に相当して軸心C1に平行な方向へ突き出す第1シフトフォークシャフト88が、シフトアクチュエータ86の駆動によって軸心C1に平行な方向へ作動させられることにより、スリーブ76に対して軸心C1方向の係合可能且つ軸心C1まわりの相対回転可能に第1シフトフォークシャフト88に固設された第1シフトフォーク90を介して、スリーブ76を軸心C1方向へ作動させるようになっている。また、デフロック装置54は、シフトアクチュエータ86の出力部材に相当して軸心C1に平行な方向へ突き出す第2シフトフォークシャフト92が、シフトアクチュエータ86の駆動によって軸心C1に平行な方向へ作動させられることにより、スリーブ82に対して軸心C1方向の係合可能且つ軸心C1まわりの相対回転可能に第2シフトフォークシャフト92に固設された第2シフトフォーク94を介して、スリーブ82を軸心C1方向へ作動させるようになっている。
【0027】
このように、車両10は、トランスファ24を介して後輪16及び前輪14にエンジン12からの動力を伝達する4輪駆動状態にて常に走行することが可能なフルタイム4WD方式を採用した四輪駆動車である。更に、車両10は、デフロック装置54をシフトアクチュエータ86によって係合作動させることにより、前輪14と後輪16との回転差動が制限された非差動状態(ロック状態)にて走行することが可能な四輪駆動車である。
【0028】
図1に戻り、ホイールブレーキ装置96は、例えばディスクブレーキやドラムブレーキのように各車輪(前輪14,後輪16)を制動する装置である。具体的には、ホイールブレーキ装置96は、ブレーキペダル98の操作などに関連して、各車輪(前輪14,後輪16)に設けられた各ホイールシリンダ100へ制動油圧を供給し、各車輪に制動力に相当するホイールブレーキトルク(以下、ブレーキトルクTという)を付与するフットブレーキ装置である。このホイールブレーキ装置96では、通常は、不図示のマスタシリンダにおいて発生させられるブレーキペダル98の踏力に対応した大きさの制動油圧が各ホイールシリンダ100へ直接供給される。一方で、例えば旋回走行時の制動力制御、ABS制御、或いはヒルホールド制御時には、旋回走行時のブレーキトルクTの発生、低μ路での車両の制動、或いは坂路途中の車両停止の保持或いは維持の為に、ブレーキペダル98の踏力に対応しない制動液圧が各車輪毎に制御されて各ホイールシリンダ100へ供給されるようになっている。
【0029】
また、図1に示すように、車両10には、例えば前輪14と後輪16との回転差動が制限された非差動状態にて走行することが可能な四輪駆動車の制御装置を含む電子制御装置130が備えられている。電子制御装置130は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御、自動変速機22の変速制御、トランスファ24内の噛合クラッチ装置52やデフロック装置54の係合制御、ホイールブレーキ装置96による制動力制御などを行う。
【0030】
電子制御装置130には、例えばエンジン回転速度センサ102により検出されたエンジン回転速度Nを表す信号、リヤペラ回転速度センサ104により検出されたリヤプロペラシャフト28の出力回転速度NRPに対応する車速Vを表す信号、各車輪速センサ106により検出された各車輪(すなわち前輪14R,14L、及び後輪16R,16L)の回転速度Nに対応する車輪速NFR,NFL,NRR,NRLを表す信号、センターデフロックスイッチ108により検出されたセンターデフロック状態への切替指示を示すそのセンターデフロックスイッチ108がオン操作されたスイッチオンを表すデフロック操作信号DLON、ダイヤルポジションセンサ110により検出された変速段切換ダイヤルスイッチ112の操作位置PDIALを表す信号、シフトアクチュエータ86に備えられたデフロック検出スイッチ114により検出されたデフロック装置54の係合状態への切替えが完了したことを示すセンターデフ50のロック状態を表すデフロック信号SLOCK、フットブレーキスイッチ116により検出されたホイールブレーキ装置96の作動中を示すブレーキペダル98が操作されたブレーキオンを表すブレーキ操作信号BON、ステアリングセンサ118により検出されたステアリング120の操舵角θSW及び操舵方向を表す信号などが供給される。
【0031】
また、電子制御装置130からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号S、自動変速機22の変速制御の為の変速制御指令信号S、シフトアクチュエータ86により第1シフトフォークシャフト88を介して噛合クラッチ装置52を作動させることで副変速機44のギヤ段を高速側ギヤ段H或いは低速側ギヤ段Lへ切り替える為のハイロー切替制御指令信号SH/L、シフトアクチュエータ86により第2シフトフォークシャフト92を介してデフロック装置54を作動させることでセンターデフ50をフリー状態或いはロック状態へ切り替える為のセンターデフ状態切替制御指令信号SF/L、デフロックインジケータランプ122の点灯を制御する為のランプ制御指令信号SLP、ホイールブレーキ装置96を作動させる為のホイールブレーキ作動信号Sなどが出力される。
【0032】
変速段切換ダイヤルスイッチ112は、例えば運転席近傍に設けられてユーザにより手動操作されるダイヤル式のスイッチであり、高速側ギヤ段H及び低速側ギヤ段Lの何れかへの切替えを指示する為の2つの操作位置PDIALを備えている。例えば、変速段切換ダイヤルスイッチ112がHigh位置に操作されると、そのHigh位置を表す操作位置信号PDIALが出力され、電子制御装置130により噛合クラッチ装置52が係合制御されて副変速機44が高速側ギヤ段Hとされる。一方、例えば、変速段切換ダイヤルスイッチ112がLow位置に操作されると、そのLow位置を表す操作位置信号PDIALが出力され、電子制御装置130により噛合クラッチ装置52が係合制御されて副変速機44が低速側ギヤ段Lとされる。尚、この変速段切換ダイヤルスイッチ112は、上記ダイヤル式に限らず、例えばスライド式、シーソー式、押ボタン式等であっても良い。
【0033】
また、センターデフロックスイッチ108は、例えば変速段切換ダイヤルスイッチ112と並んで運転席近傍に設けられてユーザにより手動操作されるラッチ付の押ボタン式スイッチであり、センターデフ50の差動状態(フリー状態、デフフリー状態、センターデフフリー状態)と非差動状態(ロック状態、デフロック状態、センターデフロック状態)とを選択する為のものである。例えば、センターデフロックスイッチ108がオン操作されて押込み状態が保持されると、前記スイッチオンを表すデフロック操作信号DLONが出力され、電子制御装置130によりデフロック装置54が係合制御されてセンターデフ50がロック状態とされる。一方、センターデフロックスイッチ108がオフ操作されて押込み状態が解除されるか或いは元々オン操作されないと、前記スイッチオンを表すデフロック操作信号DLONが出力されず、電子制御装置130によりデフロック装置54が解放制御されてセンターデフ50がフリー状態とされる。尚、このセンターデフロックスイッチ108は、上記押ボタン式に限らず、例えばスライド式、シーソー式、ダイヤル式等であっても良い。
【0034】
従って、本実施例の車両10では、変速段切換ダイヤルスイッチ112及びセンターデフロックスイッチ108の操作により、高速側ギヤ段Hとされた4輪駆動状態でのセンターデフフリー状態(H4F)、高速側ギヤ段Hとされた4輪駆動状態でのセンターデフロック状態(H4L)、低速側ギヤ段Lとされた4輪駆動状態でのセンターデフフリー状態(L4F)、及び低速側ギヤ段Lとされた4輪駆動状態でのセンターデフロック状態(L4L)の4種類の走行モードから、路面状況とに応じた適切な走行モードを選択することができる。
【0035】
また、デフロックインジケータランプ122は、例えば公知のメータ124内に設けられており、ユーザにセンターデフロック状態であることを明示する為のランプである。例えば、センターデフロック状態を表すデフロック信号SLOCKが出力されていると、電子制御装置130によりこのデフロックインジケータランプ122が点灯させられる。また、このデフロックインジケータランプ122は、センターデフ50がロック状態とされていることに対してユーザに注意を促す警告灯としても機能する。例えば、警告灯として機能させる場合には、デフロックインジケータランプ122が点滅させられても良い。
【0036】
ところで、車両10が旋回走行する場合、前後輪の回転半径差によって前輪と後輪とで回転差が生じる。このとき、車両10がセンターデフロック状態での旋回走行であると、駆動系(例えばエンジン12から車輪までの動力伝達経路)のどこかに捩れが溜り、その捩れによる捩れトルクが発生する(以下、この捩れトルクを発生捩れトルクThという)。例えば、本実施例の車両10において旋回走行すると、図3に示すように、前輪旋回半径rfは後輪回転半径rrよりも長い為、前輪14の平均車輪速(前輪車輪速)N(=(NFR+NFL)/2)は、後輪16の平均車輪速(後輪車輪速)N(=(NRR+NRL)/2)よりも速くなる。その為、センターデフ50がデフロック状態である場合には、エンジン12側から駆動トルクが発生されているにも拘わらず、前輪14には走行路から回転駆動される負トルク(減速トルク)がかかる。例えば、駆動系の一部を構成するフロントDS34は前輪14側から車両走行回転方向へ捩られ、このフロントDS34には減速トルクとしての捩れトルクが付加される(以下、フロントDS34に直接的に作用する捩れトルクをDS捩れトルクThDSという)。このような発生捩れトルクThは、センターデフ50がデフロック状態である限り、車輪の何れかがスリップするまで増加し続ける。車輪が滑り出すまでのトラクティブトルクは比較的大きなトルクであり、駆動系を構成する各部(例えばフロントDS34などの駆動系部品)の耐久性が低下する可能性がある。
【0037】
そこで、本実施例では、駆動系部品の耐久性を向上する為に、センターデフ50がデフロック状態とされた旋回走行中に、駆動系に蓄積された捩れに伴って生じる捩れトルクが所定トルク以上となる駆動系の捩れ状態となった場合は、前輪14にホイールブレーキ装置96による制動力を加える。つまり、センタデフロック状態とされた旋回走行中に、発生捩れトルクThが所定トルク以上となった場合は、発生捩れトルクTh自体を低減するのではなく、発生捩れトルクThの一部を前輪14へのブレーキトルクTで受け持つことで、駆動系部品に実質的に作用する捩れトルクThを低減するのである。また、発生捩れトルクThの一部を相殺するように前輪14のみにブレーキトルクTを作用させるだけであるので、ブレーキトルクTによって車両10全体の減速トルクが増大させられるものではない。ここで、旋回走行状態ではフロントDS34の前輪14側ジョイントは大きく角度が切れた状態であり、角度が略切れていない直進走行状態と比較して、角度が切れる程フロントDS34の耐久性は大きく低下する可能性がある。よって、本実施例では、駆動系部品の耐久性を向上する為の制御対象としてフロントDS34を取り挙げる。その為、便宜上、発生捩れトルクThは、駆動系部品の耐久性を向上する為の制御を実施しない場合には、全てフロントDS34に作用するものとする。従って、本実施例では、センタデフロック状態とされた旋回走行中に、DS捩れトルクThDS(発生捩れトルクTh)が所定トルク以上となる駆動系の捩れ状態となった場合は、前輪14にブレーキトルクTを付加して発生捩れトルクThの一部を受け持ち、フロントDS34に実質的に作用するDS捩れトルクThDSを低減する。尚、上記所定トルクは、駆動系部品の耐久性低下を抑制する為の予め実験的に求められて設定された捩れトルクThの許容値である。例えば、フロントDS34においては、上記所定トルクは、フロントDS34の耐久性低下を抑制する為の予め実験的に求められて設定されたDS捩れトルクThDSの許容値としてのDS許容トルクTyである。
【0038】
具体的には、図4は、電子制御装置130による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、トランスファ切替制御部すなわちトランスファ切替制御手段132は、例えば変速段切換ダイヤルスイッチ112の操作位置PDIALを表す信号及びセンターデフロックスイッチ108からのデフロック操作信号DLONに基づいてトランスファ24の切替えを制御する。具体的には、トランスファ切替制御手段132は、操作位置PDIALがHigh位置を表す信号の場合には、副変速機44のギヤ段を高速側ギヤ段Hへ切り替える為のハイロー切替制御指令信号SH/Lをシフトアクチュエータ86に出力し、第1シフトフォークシャフト88を介して噛合クラッチ装置52を作動させることで副変速機44のギヤ段を高速側ギヤ段Hへ切り替える。一方、トランスファ切替制御手段132は、操作位置PDIALがLow位置を表す信号の場合には、副変速機44のギヤ段を低速側ギヤ段Lへ切り替える為のハイロー切替制御指令信号SH/Lをシフトアクチュエータ86に出力し、第1シフトフォークシャフト88を介して噛合クラッチ装置52を作動させることで副変速機44のギヤ段を低速側ギヤ段Lへ切り替える。また、トランスファ切替制御手段132は、デフロック操作信号DLONを受けた場合には、センターデフ50をロック状態へ切り替える為のセンターデフ状態切替制御指令信号SF/Lをシフトアクチュエータ86に出力し、第2シフトフォークシャフト92を介してデフロック装置54を作動させることでセンターデフ50をロック状態へ切り替える。一方、トランスファ切替制御手段132は、デフロック操作信号DLONを受けていない場合には、センターデフ50をフリー状態へ切り替える為のセンターデフ状態切替制御指令信号SF/Lをシフトアクチュエータ86に出力し、第2シフトフォークシャフト92を介してデフロック装置54を作動させることでセンターデフ50をフリー状態へ切り替える。
【0039】
デフロック状態判定部すなわちデフロック状態判定手段134は、例えばデフロック検出スイッチ114からデフロック信号SLOCKが出力されているか否かに基づいてセンターデフ50がロック状態とされているか否かを判定する。見方を換えれば、デフロック状態判定手段134は、トランスファ24における走行モードが「H4L」及び「L4L」の何れかとされているか否かを判定する。具体的には、デフロック状態判定手段134は、デフロック信号SLOCKを受けた場合には、センターデフ50がロック状態とされていると判断する一方で、デフロック信号SLOCKを受けていない場合には、センターデフ50がフリー状態とされていると判断する。
【0040】
ランプ点灯制御部すなわちランプ点灯制御手段136は、例えばデフロック状態判定手段134によりセンターデフ50がロック状態とされていると判断された場合には、デフロックインジケータランプ122を点灯する為のランプ制御指令信号SLPをメータ124に出力し、デフロックインジケータランプ122を点灯させる。
【0041】
ここで、センターデフロック状態とされた旋回走行中のDS捩れトルクThDSの元になるフロントDS34の捩れは、前輪車輪速N(=(NFR+NFL)/2)と後輪車輪速N(=(NRR+NRL)/2)との回転差としての前後差動速度すなわち前輪14と後輪16との前後輪回転速度差ΔNFR(=N−N)に因って駆動系(フロントDS34)に蓄積される。フロントDS34の捩れとDS捩れトルクThDSとは1対1で比例し、センターデフロック状態とされた旋回走行中にフロントDS34の捩れが大きくなる程、DS捩れトルクThDSは大きくなる。その為、本実施例では、DS捩れトルクThDSを直接的に用いるのではなく、前後輪回転速度差ΔNFRに基づいて、例えば旋回走行中の前後輪回転速度差ΔNFRから算出されるフロントDS34の捩れ量(捩れ角)であるDS捩れ量(前後差動量)θdfに基づいて、DS捩れトルクThDSがDS許容トルクTy以上となる駆動系の捩れ状態を検出する。
【0042】
より具体的には、捩れ量算出部すなわち捩れ量算出手段138は、例えばデフロック状態判定手段134によりセンターデフ50がロック状態とされていると判断された場合には、旋回走行中の前後輪回転速度差ΔNFRの積分値に基づいてDS捩れ量θdfを算出する。具体的には、捩れ量算出手段138は、下記式(1)から前後輪回転速度差ΔNFRに基づいてDS捩れ量θdfを算出する。尚、下記式(1)中のrはタイヤ半径である。
θdf=∫(ΔNFR)dt/(2πr) ・・・(1)
【0043】
所定値設定部すなわち所定値設定手段140は、例えば旋回走行中のステアリング120の操舵角θSWが大きい程、所定トルクとしてのDS許容トルクTyが小さくされるように予め実験的に求められて設定された例えば図5に示すような関係(許容トルクマップ)から、実際の操舵角θSW(例えばθSW1)に基づいてDS許容トルクTy(例えばTy1)を設定する。また、所定値設定手段140は、例えばDS捩れ量θdfが大きい程、DS捩れトルクThDSが大きくされるように予め実験的に求められて設定された例えば図6に示すような関係(捩れトルクマップ)から、上記設定したDS許容トルクTy(例えばTy1)に基づいて所定捩れ量すなわち捩れ量の許容値としてのDS捩れ量θdfの所定値であるDS許容捩れ量θyを設定する。
【0044】
制御条件成立判定部すなわち制御条件成立判定手段142は、例えば前輪14にホイールブレーキ装置96による制動力を加える制御を実行する為の制動制御条件が成立したか否かを判定する。具体的には、制御条件成立判定手段142は、捩れ量算出手段138により算出されたDS捩れ量θdfが、所定値設定手段140により設定されたDS許容捩れ量θy以上となったか否かを判定する。つまり、制御条件成立判定手段142は、DS捩れ量θdfがDS許容捩れ量θy以上となることで、DS捩れトルクThDSがDS許容トルクTy以上となる駆動系の捩れ状態を検出する。尚、本実施例は、センタデフロック状態とされた旋回走行中に上記駆動系の捩れ状態となった場合に、前輪14にホイールブレーキ装置96による制動力を加える制御である為、元々ユーザによりホイールブレーキ装置96による制動力が加えられているときには、本制御を実行しない。そこで、制御条件成立判定手段142は、制動制御条件として、更に、ブレーキ操作信号BONが出力されていないか否かに基づいて、ユーザ操作によるホイールブレーキ装置96の作動が実行されていない非作動中すなわちブレーキオフとされているか否かを判定する。
【0045】
制動力制御部すなわち制動力制御手段144は、例えば制御条件成立判定手段142により前記制動制御条件が成立したと判定された場合には、DS捩れトルクThDSのうちの一部に相当する捩れトルク分すなわちDS捩れ量θdfとDS許容捩れ量θyとの差分であるDS捩れ量差分Δθdf(=θdf−θy)に対応する捩れトルク分を受け持つように、前輪14にブレーキトルクTを加える。つまり、発生したDS捩れトルクThDSのうちで、フロントDS34に実質的に作用する捩れトルクをDS許容トルクTy以下とし、残りの捩れトルク分(=ThDS−Ty)を前輪14へのブレーキトルクT(フロントブレーキトルクTBF)にて受け持つ。
【0046】
具体的には、制動力制御手段144は、制御条件成立判定手段142によりDS捩れ量θdfがDS許容捩れ量θy以上となったと判定され且つブレーキオフとされていると判定された場合には、DS捩れ量差分Δθdfが大きい程、そのDS捩れ量差分Δθdfに対応する捩れトルク分を受け持つ為に必要なフロントブレーキトルクTBFである必要フロントブレーキトルクTBFが大きくされるように予め実験的に求められて設定された例えば図7に示すような関係(必要ブレーキトルクマップ)から、算出した実際のDS捩れ量差分Δθdfに基づいて必要フロントブレーキトルクTBFを設定し、その必要フロントブレーキトルクTBFが得られるように、前輪14にブレーキトルクTを加える為のホイールブレーキ作動信号Sをホイールブレーキ装置96に出力する。
【0047】
また、前記制動制御(フロントブレーキ制御)を実行したとしても、発生したDS捩れトルクThDS自体が減少する訳ではなく、センターデフロック状態での旋回走行が継続される限り、車輪の何れかが滑るまではDS捩れ量θdfすなわち発生するDS捩れトルクThDSは増加していく。そこで、例えばセンターデフロック状態を解除してセンターデフフリー状態への切替えをユーザに促すという観点から、センターデフロック状態において点灯しているデフロックインジケータランプ122を点滅させて、デフロックインジケータランプ122を警告灯として作動させても良い。具体的には、ランプ点灯制御手段136は、例えば制御条件成立判定手段142により前記制動制御条件が成立したと判定された場合には、デフロックインジケータランプ122を点滅する為のランプ制御指令信号SLPをメータ124に出力し、点灯しているデフロックインジケータランプ122を点滅させる。
【0048】
一方、制動力制御手段144は、例えば前記フロントブレーキ制御中に、制御条件成立判定手段142により前記制動制御条件が成立していないと判定された場合には、そのフロントブレーキ制御を解除する。また、ランプ点灯制御手段136は、例えばデフロックインジケータランプ122の点滅中すなわち警告灯作動中に、制御条件成立判定手段142により前記制動制御条件が成立していないと判定された場合には、前記警告灯作動を解除する。
【0049】
図8は、電子制御装置130の制御作動の要部すなわち駆動系(例えばフロントDS34)に実質的に付加される捩れトルク(DS捩れトルクThDS)を低減して駆動系部品(例えばフロントDS34)の耐久性を向上する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0050】
図8において、先ず、デフロック状態判定手段134に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、例えばデフロック信号SLOCKが出力されているか否かに基づいてセンターデフ50がロック状態とされているか否かが判定される。トランスファ24における走行モードが「H4L」及び「L4L」の何れかとされているか否かが判定されても良い。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は捩れ量算出手段138及び所定値設定手段140に対応するS20において、例えば前記式(1)から前後輪回転速度差ΔNFR(=(NFR+NFL)/2−(NRR+NRL)/2)に基づいてDS捩れ量θdfが算出される。また、例えば図5に示すような許容トルクマップから実際の操舵角θSWに基づいてDS許容トルクTyが設定される。具体的には、実際の操舵角θSWが操舵角θSW1であれば、DS許容トルクTyとしてDS許容トルクTy1が設定される。また、例えば図6に示すような捩れトルクマップから上記設定したDS許容トルクTy(例えばTy1)に基づいてDS許容捩れ量θyが設定される。次いで、制御条件成立判定手段142に対応するS30において、例えば上記S20にて算出されたDS捩れ量θdfが上記S20にて設定されたDS許容捩れ量θy以上となり、且つブレーキオフとされているか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は制動力制御手段144及びランプ点灯制御手段136に対応するS40において、例えば図7に示すような必要ブレーキトルクマップから実際のDS捩れ量差分Δθdf(=θdf−θy)に基づいて必要フロントブレーキトルクTBFが設定される。そして、その必要フロントブレーキトルクTBFが得られるように、前輪14にフロントブレーキトルクTBFを付与する為のホイールブレーキ作動信号Sがホイールブレーキ装置96に出力されて、フロントブレーキ制御が開始される。加えて、デフロックインジケータランプ122を点滅する為のランプ制御指令信号SLPがメータ124に出力され、点灯しているデフロックインジケータランプ122が点滅させられて、警告灯作動が実行される。次いで、制御条件成立判定手段142に対応するS50において、例えばDS捩れ量θdfがDS許容捩れ量θy未満となったか、或いはブレーキオンとされたか否かが判定される。このS50の判断が否定される場合は前記S40に戻るが肯定される場合は制動力制御手段144及びランプ点灯制御手段136に対応するS60において、例えば前記S40にて実行されているフロントブレーキ制御が解除されると共に、同じく前記S40にて実行されている警告灯作動が解除されるすなわち点滅しているデフロックインジケータランプ122が点灯させられる。
【0051】
上述のように、本実施例によれば、センターデフロック状態での旋回走行中に、駆動系に蓄積された捩れに伴う発生捩れトルクTh(DS捩れトルクThDS)が所定トルク(DS許容トルクTy)以上となる駆動系の捩れ状態となった場合は、前輪14にホイールブレーキ装置96によるブレーキトルクTが加えられるので、例えば前輪14にかかるDS捩れトルクThDSの一部をホイールブレーキ装置96によるブレーキトルクTで分担することができる為、駆動系(フロントDS34)に実質的に付加されるDS捩れトルクThDSが低減される。つまり、発生捩れトルクTh(DS捩れトルクThDS)の一部がフロントブレーキトルクTBFで受け持たれる為、駆動系部品(フロントDS34)にかかるDS捩れトルクThDSが低減される。よって、駆動系部品の耐久性が向上される。その為、例えば駆動系部品の耐久性を確保する為に駆動系部品を大型化したりする必要が無く、駆動系部品の小型化や軽量化を図ることができる。
【0052】
また、本実施例によれば、前記所定トルク(DS許容トルクTy)は、駆動系部品(フロントDS34)の耐久性低下を抑制する為の捩れトルク(DS捩れトルクThDS)の許容値であって、旋回走行中のステアリング120の操舵角θSWが大きい程、所定トルク(DS許容トルクTy)が小さくされるように予め設定された例えば図5に示すような所定の関係(許容トルクマップ)から、実際の操舵角θSWに基づいて設定されるので、例えば操舵角θSWが大きくなる程捩れトルク(DS捩れトルクThDS)に対する駆動系部品(フロントDS34)の許容トルク(DS許容トルクTy)が低下することに対して、上記所定の関係から所定トルク(DS許容トルクTy)が設定されることにより、駆動系部品にかかる捩れトルクが適切に低減されて駆動系部品の耐久性が向上される。また、操舵角θSWの大きさに合わせてホイールブレーキ装置96によるフロントブレーキトルクTBFが加えられることから、旋回性能(走行性能)が適切に確保される。つまり、例えば前輪14にかかる減速トルクの一部がフロントブレーキトルクTBFにて適切に分担される為、そのフロントブレーキトルクTBFによって車両全体として減速トルクが増大させられるものではなく、走行性能が適切に確保される。
【0053】
また、本実施例によれば、前記捩れ(フロントDS34の捩れ)は前輪14と後輪16との前後輪回転速度差ΔNFR(=N−N)に因って駆動系(フロントDS34)に蓄積されるものであり、この前後輪回転速度差ΔNFRに基づいて前記駆動系の捩れ状態(DS捩れトルクThDSがDS許容トルクTy以上となる駆動系の捩れ状態)を検出するので、例えば捩れトルクが所定トルク以上となる駆動系の捩れ状態が適切に検出される。
【0054】
また、本実施例によれば、旋回走行中の前後輪回転速度差ΔNFRの積分値に基づいて駆動系の捩れ量(DS捩れ量θdf)を算出し、その捩れ量が大きい程、捩れトルク(DS捩れトルクThDS)が大きくされるように予め設定された例えば図6に示すような所定の関係(捩れトルクマップ)から、所定トルク(DS許容トルクTy)に基づいて所定捩れ量(DS許容捩れ量θy)を設定し、その捩れ量がその所定捩れ量以上となることで、前記駆動系の捩れ状態を検出するので、例えば前記捩れトルクが所定トルク以上となる前記駆動系の捩れ状態が確実に検出される。
【0055】
また、本実施例によれば、発生捩れトルクTh(DS捩れトルクThDS)のうちの一部に相当する捩れトルク分すなわち前記駆動系の捩れ量(DS捩れ量θdf)と前記所定捩れ量(DS許容捩れ量θy)との差分(DS捩れ量差分Δθdf(=θdf−θy))に対応する捩れトルク分を受け持つように、前輪14にブレーキトルクTを加えるので、例えば駆動系部品(フロントDS34)に実質的にかかる捩れトルク(DS捩れトルクThDS)が所定トルク(DS許容トルクTy)以上とならないように、発生捩れトルクThの一部をホイールブレーキ装置96によるフロントブレーキトルクTBFで適切に分担することができる。
【0056】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0057】
例えば、前述の実施例では、デフロック装置54によってフリー状態とロック状態とに切り替えられるセンターデフ50を有するトランスファ24を備えたフルタイム4WD方式の車両10に本発明が適用された例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図9に示すように、センターデフ50に替えて、第1出力軸46と第2出力軸48との間の動力伝達経路を選択的に断接可能な動力断続装置(クラッチ)150を備え、この動力断続装置150がフリー状態(解放状態)であれば二輪駆動状態で走行する一方で、この動力断続装置150がロック状態(係合状態)とされると前輪14側の動力伝達経路と後輪16側の動力伝達経路とが直結されて直結四輪駆動状態となり、車両10のセンターデフロック状態と同様の駆動状態で走行するような所謂パートタイム四輪駆動車にも本発明は好適に適用される。要は、前輪14と後輪16との回転差動が制限された非差動状態にて走行することが可能な四輪駆動車であれば本発明は適用され得る。
【0058】
また、前述の実施例では、駆動系や駆動系部品としてフロントDS34を例示したが、これに限らず、例えばフロントプロペラシャフトなどにも本発明は好適に適用される。要は、センターデフロック状態での旋回走行中に、捩れが蓄積されるような駆動系(駆動系部品)であれば本発明は適用され得る。
【0059】
また、前述の実施例では、旋回走行中のステアリング120の操舵角θSWが大きい程、小さくなるように設定された所定トルク(DS許容トルクTy)を用いたが、これに限らず、例えばある程度大きな操舵角θSWに対応するような予め実験的に求められて記憶された一定(一律)の所定トルク(DS許容トルクTy)を用いても良い。このようにしても、本発明における一定の効果は得られる。また、上記所定トルクの設定にステアリング120の操舵角θSWを用いたが、これに限らず、例えば前輪14の舵角などを用いても良い。
【0060】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0061】
10:車両(四輪駆動車)
14、14R,14L:前輪
16、16R,16L:後輪
34、34R,34L:前輪車軸(駆動系部品)
96:ホイールブレーキ装置
130:電子制御装置(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪との回転差動が制限された非差動状態にて走行することが可能な四輪駆動車の制御装置であって、
前記非差動状態での旋回走行中に、駆動系に蓄積された捩れに伴って生じる捩れトルクが所定トルク以上となる該駆動系の捩れ状態となった場合は、前記前輪にホイールブレーキ装置による制動力を加えることを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
前記所定トルクは、駆動系部品の耐久性低下を抑制する為の前記捩れトルクの許容値であって、前記旋回走行中の操舵角が大きい程、該所定トルクが小さくされるように予め定められた関係から、実際の操舵角に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
前記前輪と前記後輪との前後輪回転速度差によって前記捩れが前記駆動系に蓄積されるものであり、
前記前後輪回転速度差に基づいて前記駆動系の捩れ状態を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項4】
前記旋回走行中の前記前後輪回転速度差の積分値に基づいて前記駆動系の捩れ量を算出し、
前記捩れ量が大きい程、前記捩れトルクが大きくされるように予め定められた関係から、前記所定トルクに基づいて所定捩れ量を設定し、
前記捩れ量が前記所定捩れ量以上となることで、前記駆動系の捩れ状態を検出することを特徴とする請求項3に記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項5】
前記駆動系の捩れ量と前記所定捩れ量との差分に対応する捩れトルク分を受け持つように、前記前輪に制動力を加えることを特徴とする請求項4に記載の四輪駆動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−17078(P2012−17078A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157193(P2010−157193)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】