説明

回転伝達装置

【課題】トルク伝達の信頼性の高いコストの安い回転伝達装置を提供することである。
【解決手段】インナ部材20の外径面に軸方向に移動可能な筒状のスライド部材32を嵌合して回り止めし、そのスライド部材32の外径面とアウタ部材10の内径面それぞれに噛合い爪34、35を設ける。アウタ部材10に外周部が支持されたダイヤフラム37の内周部をスライド部材32に連結して、スライド部材32の軸方向一端側に密閉された第1プレッシャチャンバ44と他端側に密閉された第2プレッシャチャンバ45を形成し、ハウジング1に形成された第1ポート47から第1プレッシャチャンバ44内に圧縮エアを供給または第1ポートを大気開放し、第2プレッシャチャンバ45を負圧状態にし、スライド部材32を第2プレッシャチャンバ45側に移動させて、噛合い爪34、35を係合させ、アウタ部材10の回転をインナ部材20に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力の伝達経路上において、動力の伝達と遮断の切換えに用いられる回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FRベースの4輪駆動車において、補助駆動輪としての前輪に駆動力の伝達と遮断とを行う回転伝達装置として、特許文献1に記載されたものが従来から知られている。
【0003】
上記特許文献1に記載された回転伝達装置においては、アウタリングとインナリングとの間に2方向ローラクラッチを設け、その2方向ローラクラッチの軸方向一側に電磁クラッチを設け、その電磁クラッチにより2方向ローラクラッチの係合および係合解除を制御し、上記2方向ローラクラッチの係合によりアウタリングとインナリングを結合して、アウタリングとインナリングの相互間で回転トルクの伝達を行うようにしている。
【0004】
ここで、2方向ローラクラッチは、アウタリングの内周に円筒面を形成し、インナリングの外周には上記円筒面との間で周方向の両端が狭小のくさび形空間を形成するカム面を設け、そのカム面と円筒面との間にローラを組込み、そのローラを保持する保持器とインナリングの相対回転によりローラを円筒面およびカム面に係合させるようにしている。また、インナリングと保持器との間にスイッチばねを組込み、そのスイッチばねにより、ローラが円筒面およびカム面に対して係合解除される中立位置に保持器を弾性保持している。
【0005】
一方、電磁クラッチは、保持器に回り止めされ、かつ、軸方向に移動自在に支持されたアーマチュアと、アウタリングの開口端部に接続されたロータガイド内に組込まれてアーマチュアと軸方向で対向するロータと、そのロータと軸方向で対向する電磁石と、上記アーマチュアをロータから離反する方向に付勢する離反ばねとからなり、上記電磁石に対する通電により、ロータにアーマチュアを吸着し、そのアーマチュアを介してアウタリングに連結された保持器とインナリングの相対回転によりローラを円筒面およびカム面に係合させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−118418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の回転伝達装置においては、上記のように、2方向ローラクラッチの係合および係合解除を電磁クラッチにより制御する構成であり、その電磁クラッチは、部品点数が多く、しかも、電磁クラッチへの通電制御に制御回路を必要とするため、コストが高いという問題がある。
【0008】
また、電磁クラッチによって制御される2方向ローラクラッチはローラの楔係合によりアウタリングとインナリングを結合する構成であるため、過大な負荷が作用した場合に、ローラに滑りが生じ、トルク伝達の信頼性に乏しいという問題もある。
【0009】
この発明の課題は、トルク伝達の信頼性の高いコストの安い回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては筒状のハウジング内に筒状のアウタ部材と、そのアウタ部材内に端部が配置されてアウタ部材と同軸上に配置されたインナ部材を組込み、そのアウタ部材とインナ部材のそれぞれをハウジング内径面に嵌合された軸受によって回転自在に支持し、前記ハウジングとアウタ部材の対向面間に一対のシール部材を軸方向に間隔をおいて組込んで、その一対のシール部材間に密閉空間を形成し、前記インナ部材の端部外径面に軸方向に移動可能な筒状のスライド部材を嵌合して回り止めし、そのスライド部材の外径面とアウタ部材の内径面それぞれに、スライド部材の軸方向の移動により係脱する噛合い爪を設け、前記アウタ部材に外周部が支持されたダイヤフラムの内周部を前記スライド部材に連結して、スライド部材の軸方向一端側に密閉された第1プレッシャチャンバと他端側に密閉された第2プレッシャチャンバを形成し、前記アウタ部材には前記密閉空間と第1プレッシャチャンバを連通する連通孔を設け、前記ハウジングには、前記密閉空間を正圧又は負圧状態にする第1ポートと、前記第2プレッシャチャンバを正圧又は負圧状態にする第2ポートを設けた構成を採用したのである。
【0011】
上記の構成からなる回転伝達装置において、第1ポートに圧縮エアを供給すると、その圧縮エアは密閉空間から第1プレッシャチャンバ内に流入し、ダイヤフラムが第2プレッシャチャンバの容積を減少させる方向に弾性変形する。逆に第1ポートを大気開放し、第2ポートからエアを吸引することでも同様の作用を得ることができる。
【0012】
また、第2ポートに圧縮エアを供給すると、その圧縮エアは第2プレッシャチャンバ内に流入し、ダイヤフラムが第1プレッシャチャンバの容積を減少させる方向に弾性変形する。逆に第2ポートを大気開放し、第1ポートからエアを吸引することでも同様の作用を得ることができる。
【0013】
このとき、ダイヤフラムにはスライド部材が連結されているため、上記ダイヤフラムの弾性変形により、スライド部材が軸方向に往復移動し、外径面に形成された噛合い爪がアウタ部材の内径面に形成された噛合い爪に対して係脱する。その係合時に、アウタ部材とインナ部材の相互間で回転トルクが伝達され、また、係合解除により、回転トルクの伝達が遮断される。
【0014】
このように、第1ポートと第2ポートの一方に対する正負圧の供給によりスライド部材を軸方向に移動させ、そのスライド部材の外径面に形成された噛合い爪をアウタ部材の内径面に形成された噛合い爪に係脱させるドグクラッチによってアウタ部材とインナ部材とを結合および結合解除する構成であるため、過大負荷作動時においてもアウタ部材とインナ部材の相互間で回転トルクを確実に伝達することができる。
【0015】
ここで、アウタ部材は、軸受により回転自在に支持された外輪と、その外輪の開口端部の外径面に一端部が嵌合一体化されて軸受により回転自在に支持され、他端部の内径面に噛合い爪が形成された外筒とから成るものであってもよく、あるいは、軸受により回転自在に支持され、スライド部材と軸方向で対向する端部の内径面に噛合い爪が形成された外輪から成るものであってもよい。
【0016】
アウタ部材が外輪から成る場合、ダイヤフラムは環状として、その内周部をスライド部材の外径面に連結する必要が生じる。このとき、インナ部材とスライド部材の摺動面間に形成される微小な隙間は、第1プレッシャチャンバと第2プレッシャチャンバを連通することになり、第1プレッシャチャンバ内の圧縮エアが第2プレッシャチャンバ内に漏れ、あるいは、第2プレッシャチャンバ内の圧縮エアが第1プレッシャチャンバ内に漏れ、スライド部材を素早く軸方向に移動させることができず、応答性が低下することになる。その応答性の低下を抑制するために、スライド部材の内径面にシール溝を形成し、そのシール溝内に組込まれたシール部材をインナ部材の外径面に弾性接触させて、インナ部材とスライド部材間を密封しておくのが好ましい。
【0017】
この発明に係る回転伝達装置において、密閉空間を形成する一対のシール部材のうち、ハウジングの開口端部側に位置するシール部材として、ハウジングの内径面に嵌合される金属環と、その金属環に固着されたゴムとを有し、上記ゴムの外表面に一対のサイドリップを設け、かつ、内周部にインナリップを設け、そのサイドリップをアウタ部材の端部外径面に嵌合されたスリンガの内表面に弾性接触させ、インナリップをガータスプリングの緊縛力によってスリンガの内径面に形成されたフランジに弾性接触させるようにしたものを採用することにより、第1プレッシャチャンバ内に供給された圧縮エアの外部への漏れを確実に防止することができ、スライド部材を軸方向に素早く移動させることができる。
【0018】
また、アウタ部材を回転自在に支持する軸受として、4点接触玉軸受を採用することにより、アウタ部材に負荷されるスラスト力をその軸受によって受けることができ、アウタ部材が軸方向に移動するのを確実に防止することができ、作動性の向上を図ることができる。
【0019】
ここで、アウタ部材を回転自在に支持する軸受をグリース潤滑すると、第1ポートや第2ポートに接続された配管内にグリースが流れ込み、その配管に詰りを生じさせる可能性がある。その配管の詰りを防止するために、発泡潤滑剤により軸受を潤滑するのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上記のように、この発明においては、エアの正負圧を作動源として軸方向に移動するスライド部材の外径面の噛合い爪をアウタ部材の内径面に形成された噛合い爪に係脱させるドグクラッチによってアウタ部材とインナ部材とを結合および結合解除する構成であるため、過大負荷作動時においてもアウタ部材とインナ部材の相互間で回転トルクを確実に伝達することができ、信頼性の高い回転伝達装置を得ることができる。
【0021】
また、エアの正負圧を作動源とするドグクラッチによってアウタ部材とインナ部材の相互間で回転トルクの伝達と遮断とを行う構成であるため、電磁クラッチをスイッチ機構として2方向ローラクラッチを制御する回転伝達装置に比較して、部品点数が少なく、コストの安い回転伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明に係る回転伝達装置の第1の実施の形態を示す縦断正面図
【図2】図1に示すドグクラッチの係合状態を示す断面図
【図3】外輪を回転自在に支持する軸受部の拡大断面図
【図4】密閉空間を形成する一方のシール部材の拡大断面図
【図5】この発明に係る回転伝達装置の第2の実施の形態を示す縦断正面図
【図6】図5に示すドグクラッチの係合状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る回転伝達装置の第1の実施の形態を示す。図示のように、ハウジング1は、一端部に端壁2を有し、他端が開口する筒状をなし、上記端壁2の外端面に軸受筒3が形成されている。
【0024】
ハウジング1の内部には、アウタ部材10とインナ部材20が組込まれている。アウタ部材10は、外輪11と、その外輪11のハウジング1内に位置する内端部の外径面に一端部が嵌合されて一体化された外筒12からなり、上記外輪11および外筒12のそれぞれは、ハウジング1の内径面に嵌合された軸受13、14によって回転自在に支持されている。
【0025】
ここで、外輪11を回転自在に支持する軸受13は、図3に示すように、4点接触玉軸受からなる。この玉軸受13は、ハウジング1の内径面に形成された肩4とハウジング1の内径面に取付けた止め輪5によって軸方向に位置決めされている。一方、外輪11は、その外径面に形成された肩11aと外径面に取付けた止め輪15によって軸方向に位置決めされ、その外輪11にスラスト力が負荷された際に、そのスラスト力を玉軸受13で支持するようになっている。
【0026】
図1に示すように、外輪11の外端部にはインプットシャフト16が接続されるセレーション孔17が形成され、そのセレーション孔17から軸方向内方に片寄った位置に外輪11の外端部の開口を閉塞する閉塞盤18が嵌合され、その嵌合面間はOリング19の組付けによってシールされている。
【0027】
インナ部材20は、アウトプットシャフトからなる。このインナ部材20は軸受筒3内に組込まれた軸受21により回転自在に支持されてアウタ部材10と同軸上の配置とされ、その一端部は外筒12の内部に位置している。インナ部材20の他端部は端壁2に形成された挿通孔8および軸受筒3を挿通してハウジング1の外部に位置し、その他端にシャフト連結用のフランジ22が設けられている。
【0028】
端壁2に形成された上記挿通孔8の内径面にはシール部材9が組込まれ、そのシール部材9は挿通孔8とインナ部材20間を密閉している。
【0029】
ハウジング1とアウタ部材10の対向面間には、外輪11とハウジング1間および外筒12とハウジング1間に組込まれた一対のシール部材23、24によって密閉空間25が形成されている。
【0030】
図2に示すように、一対のシール部材23、24のうち、外輪11とハウジング1間に組込まれたシール部材23は、ハウジング1の内径面に嵌合される金属環23aと、その金属環23aに固着されたゴム23bとを有し、上記ゴム23bの外表面に一対のサイドリップ26aを設け、かつ、内周部にインナリップ26bを形成し、そのサイドリップ26aを外輪11の外端部の外径面に嵌合されたスリンガ27の内表面に弾性接触させ、インナリップ26bをガータスプリング28の緊縛力によりスリンガ27の内径面に形成されたフランジ27aに弾性接触させて、ハウジング1の開口端部と外輪11の外端部間を密封している。
【0031】
一方、外筒12とハウジング1間に組込まれたシール部材24は、図4に示すように、断面コの字形の金属環24aの内径面側にゴム24bを固着し、そのゴム24bの内径面に複数のインナリップ29を設けた構成とされ、上記金属環24aをハウジング1の内径面に嵌合して、そのハウジング1の内径面に形成された肩6と、ハウジング1の内径面に形成された環状溝7に外周部が嵌合された波形ばね30により軸方向に位置決めし、軸方向に並ぶ複数のインナリップ29の一端のインナリップ29を除くインナリップ29を外筒12の外径面に弾性接触し、残りのインナリップ29をガータスプリング31の緊縛力により外筒12の外径面に弾性接触させて、外筒12とハウジング1間をシールしている。
【0032】
図1に示すように、インナ部材20の外筒12内に位置する内端部の外径面には筒状のスライド部材32が嵌合されている。スライド部材32は、嵌合面間に形成されたセレーション33によって軸方向に移動自在とされ、かつ、インナ部材20に対して回り止めされている。
【0033】
スライド部材32には、ハウジング1の端壁2側の端部外径面に噛合い爪34が形成され、その噛合い爪34は外筒12の開口端部の内径面に形成された噛合い爪35に対して係脱自在とされている。
【0034】
図2に示すように、アウタ部材10の内部には、クラッチカバー36とダイヤフラム37が組込まれている。クラッチカバー36およびダイヤフラム37の外周部は外筒12の内径面に形成された環状溝38により支持されて軸方向に非可動の支持とされている。
【0035】
ダイヤフラム37の中央部は、2枚の金属板39、40により両側から挟持されて、その2枚の金属板39,40と一体とされ、スライド部材32側に位置する一方の金属板39がスライド部材32に連結されている。その連結に際し、ここでは、金属板39の外周にスライド部材32の端部を覆う円筒部39aを設け、その円筒部39aの開口端には内向きの折曲げ片39bを形成し、一方、スライド部材32の外径面には環状の係合溝41を形成し、その係合溝41に取り付けた弾性リング42に上記折曲げ片39bの開口端を係合させるようにしている。
【0036】
2枚の金属板39、40のうち、クラッチカバー36側に位置する金属板40とクラッチカバー36間にはスプリング43が組込まれている。スプリング43はダイヤフラム37を介してスライド部材32を、その噛合い爪34が外筒12の噛合い爪35と噛合う方向に向けて付勢している。
【0037】
アウタ部材10内に対するダイヤフラム37の組み込みによって、スライド部材32の軸方向一端側に密閉された第1プレッシャチャンバ44と他端側に密閉された第2プレッシャチャンバ45が形成され、第1プレッシャチャンバ44はアウタ部材10に形成された連通孔46を介して密閉空間25と連通している。
【0038】
ハウジング1には、密閉空間25に圧縮エアを供給する第1ポート47と前記第2プレッシャチャンバ45に圧縮エアを供給する第2ポート48が形成されている。
【0039】
第1の実施の形態で示す回転伝達装置は上記の構造からなり、図1は、スライド部材32の噛合い爪34の係合解除状態を示し、アウタ部材10の回転はインナ部材20に伝達されない。
【0040】
アウタ部材10の空転状態において、第1ポート47に圧縮エアを供給すると、その圧縮エアは密閉空間25から連通孔46に流れて第1プレッシャチャンバ44内に流入する。
【0041】
第1プレッシャチャンバ44内への圧縮エアの流入により、その第1プレッシャチャンバ44内の圧力が上昇し、ダイヤフラム37が第2プレッシャチャンバ45の容積を減少させる方向に弾性変形する。その弾性変形によりスライド部材32がハウジング1の端壁2に向けて移動し、図2に示すように、スライド部材32の噛合い爪34が外筒12の内径面に形成された噛合い爪35と係合する。
【0042】
このため、アウタ部材10とインナ部材20は、スライド部材32の噛合い爪34と外筒12の噛合い爪35とから成るドグクラッチの係合により結合状態とされ、アウタ部材10の回転がインナ部材20に伝達される。
【0043】
アウタ部材10とインナ部材20の相互間における回転トルクの伝達状態において、スプリング43はスライド部材32をハウジング1の端壁2に向けて付勢しているため、第1ポート47に対する圧縮エアの供給を遮断しても、スライド部材32の噛合い爪34は係合状態に保持される。
【0044】
アウタ部材10とインナ部材20の相互間における回転トルクの伝達状態において、第1ポート47に対する圧縮エアの供給を遮断し、第2ポート48に圧縮エアを供給すると、その圧縮エアは第2プレッシャチャンバ45内に流れ、その第2プレッシャチャンバ45内の圧力上昇により、ダイヤフラム37が第1プレッシャチャンバ44の容積を減少させる方向に弾性変形する。
【0045】
上記ダイヤフラム37の弾性変形により、スライド部材32はハウジング1の端壁2から離反する方向に移動し、スライド部材32の噛合い爪34は図1に示すように、係合解除状態となり、アウタ部材10からインナ部材20への回転伝達が遮断される。
【0046】
このように、圧縮エアを作動源として軸方向に移動するスライド部材32の外径面の噛合い爪34を外筒12の内径面に形成された噛合い爪35に係脱させるドグクラッチによってアウタ部材10とインナ部材20とを結合および結合解除する構成であるため、過大負荷作動時においてもアウタ部材10とインナ部材20の相互間で回転トルクを確実に伝達することができる。
【0047】
また、圧縮エアを作動源とするドグクラッチによってアウタ部材10とインナ部材20の相互間で回転トルクの伝達と遮断とを行う構成であるため、電磁クラッチをスイッチ機構として2方向ローラクラッチを制御する回転伝達装置に比較して、部品点数が少なく、コストの安い回転伝達装置を提供することができる。
【0048】
図5は、この発明に係る回転伝達装置の第2の実施の形態を示す。この実施の形態においては、アウタ部材10を外輪11のみとし、その外輪11の軸方向の中央部をハウジング1の内径面に嵌合された軸受13により回転自在に支持し、上記外輪11の両端部とハウジング1間に一対のシール部材23、24を組込み、その一対のシール部材23,24間に密閉空間25を形成している。
【0049】
また、外輪11の開口端部の内径面に噛合い爪35を設け、インナ部材20の外径面に嵌合されてセレーション33によりスライド自在とされ、かつ、回り止めされたスライド部材32の外輪11と対向する端部の外周面に噛合い爪34を設けている。
【0050】
さらに、外輪11の開口端部の外径面に円筒状クラッチカバー50の一端部を嵌合して一体化し、そのクラッチカバー50の外輪11への接続部において環状のダイヤフラム51の外周部を支持し、そのダイヤフラム51の内周部をスライド部材32の外径面に連結して、スライド部材32の軸方向の一端側に第1プレッシャチャンバ44を設け、かつ、他端側に第2プレッシャチャンバ45を設け、ハウジング1には、第1プレッシャチャンバ44に圧縮エアを供給する第1ポート47と第2プレッシャチャンバ45に圧縮エアを供給する第2ポート48を設けている。
【0051】
スライド部材32の外径面に対するダイヤフラム51の内周部の連結に際し、ここでは、スライド部材32の外径面にばね座52の内周部に形成されたフランジ52aを嵌合し、そのフランジ52aの端部とスライド部材32の外径面に形成された肩32aとでダイヤフラム51の内周部を挟持するようにしている。
【0052】
また、スライド部材32には、ハウジング1の端壁2と対向する端部にシール溝53を形成し、そのシール溝53に嵌合したシール部材54により、スライド部材32とインナ部材20の嵌合面間をシールしている。シール部材54として、ここでは、Vパッキンを採用しているが、Oリングを用いるようにしてもよい。
【0053】
ここで、クラッチカバー50は開口端に内向きのフランジ50aを有し、そのフランジ50aとばね座52間にスプリング42を組込んで、スライド部材32を外輪11に向けて付勢している。
【0054】
上記の構成からなる回転伝達装置において、第2ポート48から第2プレッシャチャンバ45内に圧縮エアを供給すると、スライド部材32が外輪11に向けて移動し、図6に示すように、噛合い爪34が外輪11の噛合い爪35に係合し、外輪11の回転がインナ部材20に伝達される。
【0055】
また、第2ポート48に対する圧縮エアの供給を停止し、第1ポート47から第1プレッシャチャンバ44内に圧縮エアを供給すると、スライド部材32が外輪11から離反する方向に移動し、外輪11の噛合い爪35に対するスライド部材32の噛合い爪34の係合が解除し、外輪11からインナ部材20への回転伝達が遮断される。
【0056】
第2の実施の形態で示す回転伝達装置においても、第1の実施の形態で示す回転伝達装置と同様に、圧縮エアを作動源として軸方向に移動するスライド部材32の外径面の噛合い爪34を外輪11の内径面に形成された噛合い爪35に係脱させるドグクラッチによってアウタ部材10とインナ部材20とを結合および結合解除する構成であるため、過大負荷作動時においてもアウタ部材10とインナ部材20の相互間で回転トルクを確実に伝達することができる。
【0057】
また、スライド部材32の内径面にシール溝53を形成し、そのシール溝53内に組込まれたシール部材54をインナ部材20の外径面に弾性接触させて、インナ部材20とスライド部材32間を密封しているため、第1プレッシャチャンバ44内の圧縮エアが第2プレッシャチャンバ45内に漏れ、あるいは、第2プレッシャチャンバ45内の圧縮エアが第1プレッシャチャンバ44内に漏れるのを防止することができる。
【0058】
このため、プレッシャチャンバ内に対する圧縮エアの供給によってスライド部材32を素早く軸方向に移動させることができ、作動性に優れた回転伝達装置を提供することができる。
【0059】
なお、実施の形態では、圧縮エアによる作動を説明しているが、いずれかのチャンバを大気開放して、もう一方のプレッシャチャンバを負圧にすることによっても、同様の作動を得ることができる。
【0060】
第1の実施の形態で示す回転伝達装置および第2の実施の形態で示す回転伝達装置において、アウタ部材10を回転自在に支持する軸受13、14をグリース潤滑すると、第1ポート47や第2ポート48に接続された配管内にグリースが流れ込み、その配管に詰りを生じる可能性がある。そのような不都合の発生を防止するため、発泡潤滑剤により軸受13、14を潤滑するようにしている。
【符号の説明】
【0061】
1 ハウジング
10 アウタ部材
11 外輪
12 外筒
13 軸受
14 軸受
20 インナ部材
23 シール部材
23a 金属環
23b ゴム
26a サイドリップ
26b インナリップ
27 スリンガ
27a フランジ
28 ガータスプリング
32 スライド部材
34 噛合い爪
35 噛合い爪
37 ダイヤフラム
44 第1プレッシャチャンバ
45 第2プレッシャチャンバ
46 連通孔
47 第1ポート
48 第2ポート
51 ダイヤフラム
53 シール溝
54 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジング内に筒状のアウタ部材と、そのアウタ部材内に端部が配置されてアウタ部材と同軸上に配置されたインナ部材を組込み、そのアウタ部材とインナ部材のそれぞれをハウジング内径面に嵌合された軸受によって回転自在に支持し、前記ハウジングとアウタ部材の対向面間に一対のシール部材を軸方向に間隔をおいて組込んで、その一対のシール部材間に密閉空間を形成し、前記インナ部材の端部外径面に軸方向に移動可能な筒状のスライド部材を嵌合して回り止めし、そのスライド部材の外径面とアウタ部材の内径面それぞれに、スライド部材の軸方向の移動により係脱する噛合い爪を設け、前記アウタ部材に外周部が支持されたダイヤフラムの内周部を前記スライド部材に連結して、スライド部材の軸方向一端側に密閉された第1プレッシャチャンバと他端側に密閉された第2プレッシャチャンバを形成し、前記アウタ部材には前記密閉空間と第1プレッシャチャンバを連通する連通孔を設け、前記ハウジングには、前記密閉空間を正圧状態または負圧状態にする第1ポートと、前記第2プレッシャチャンバを正圧状態または負圧状態にする第2ポートを設けた回転伝達装置。
【請求項2】
前記アウタ部材が、軸受により回転自在に支持された外輪と、その外輪の開口端部の外径面に一端部が嵌合されて一体化されて軸受により回転自在に支持され、他端部の内径面に噛合い爪が形成された外筒とからなる請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記アウタ部材が、軸受により回転自在に支持され、前記スライド部材と軸方向で対向する端部の内径面に噛合い爪が形成された外輪からなる請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記スライド部材の内径面にシール溝を形成し、そのシール溝内に組込まれたシール部材をインナ部材の外径面に弾性接触させて、インナ部材とスライド部材間を密封した請求項3に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記シール部材が、VパッキンおよびOリングの一種から成る請求項4に記載の回転伝達装置。
【請求項6】
前記密閉空間を形成する一対のシール部材のうち、ハウジングの開口端部側に位置するシール部材が、ハウジングの内径面に嵌合される金属環と、その金属環に固着されたゴムとを有し、前記ゴムの外表面に一対のサイドリップを設け、かつ、内周部にインナリップを設け、前記サイドリップをアウタ部材の端部外径面に嵌合されたスリンガの内表面に弾性接触させ、前記インナリップをガータスプリングの緊縛力によって前記スリンガの内径面に形成されたフランジに弾性接触させた構成からなる請求項1乃至5のいずれかの項に記載の回転伝達装置。
【請求項7】
前記アウタ部材を回転自在に支持する軸受が、4点接触玉軸受からなる請求項1乃至6のいずれかの項に記載の回転伝達装置。
【請求項8】
前記軸受を発泡潤滑剤により潤滑した請求項1乃至7のいずれかの項に記載の回転伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−242831(P2010−242831A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91045(P2009−91045)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】