説明

回転位置センサ、複合回転位置センサ及び電動パワーステアリング装置

【課題】ステアリングシャフトに代表される回転検出シャフトの回転位置を検出することが可能な新規な回転位置センサ、複合回転位置センサ及び電動パワーステアリング装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の複合回転位センサ34によれば、ステアリングシャフト32が基準位置から何回転したかを回転位置センサ52で特定し、ステアリングシャフト32の1回転における回転角度をエンコーダ51によって特定する。そして、これら2つの回転位置情報に基づいて、現在のステアリングシャフト32の回転角度を、基準位置からの絶対回転角度として特定することができる。また、ステアリングシャフト32とベース部50により閉じた磁気回路が形成されるので、電磁誘導の効率が向上し、消費電力が抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転検出シャフトの回転位置を検出する回転位置センサ、複合回転位置センサ及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転位置センサとしては、例えばモーターシャフトの回転位置を検出するエンコーダやレゾルバが広く知られている。
【0003】
また、車両に備えたステアリングシャフト用の回転位置センサとして、例えば、ステアリングシャフトと共に回転するウォームギヤに渦巻き溝を形成し、回転型のポテンショメータの揺動アームをその渦巻き溝に係合させた構造のものが知られている。この回転位置センサでは、ウォームホイールの回転により揺動アームが揺動回転してポテンショメータの抵抗値が変化する。そして、ポテンショメータの出力電圧に基づいてステアリングシャフトの回転位置を検出していた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−114676号公報([0023]−[0027]、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、回転位置センサはモーターや車両に限らず様々な機械製品に対して需要が拡大しており、それら機械製品に搭載可能な新規な回転位置センサの開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ステアリングシャフトに代表される回転検出シャフトの回転位置を検出することが可能な新規な回転位置センサ、複合回転位置センサ及び電動パワーステアリング装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る回転位置センサ(52)は、ベース部(50)に対して回転可能に組み付けられた回転検出シャフト(32)の回転位置を検出する回転位置センサ(52)において、回転検出シャフト(32)に一端部が固定されて巻き付けられかつ他端部がベース部(50)に保持された素線(54A)によって構成され、回転検出シャフト(32)の回転位置に応じて素線(54A)の巻回数が変わるようにした巻数可変コイル(54)と、回転検出シャフト(32)の回転軸と同軸上に配置されてベース部(50)に固定され、巻数可変コイル(54)との間で電磁誘導可能な固定コイル(53)とを備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の回転位置センサ(52)において、固定コイル(53)と巻数可変コイル(54)との何れか一方のコイルに予め設定された基準電圧で通電して励磁する交流電源(57)と、他方のコイルに生じた誘起電圧と基準電圧とに基づいて回転検出シャフト(32)の回転位置を演算するデータ処理部(59)とを備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の回転位置センサ(52)において、回転検出シャフト(32)は、磁性体で構成されると共に、固定コイル(53)の内側に遊嵌されたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の回転位置センサ(52)において、ベース部(50)は、磁性体で構成されると共に、回転検出シャフト(32)の両端部が貫通した1対の磁路構成対向壁(50A,50A)と磁路構成対向壁(50A,50A)間を接合する磁路構成側壁(50C)とを有するところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の回転位置センサ(52)において、巻数可変コイル(54)の素線(54A)をフラットケーブルとし、そのフラットケーブルを回転検出シャフト(32)に渦巻き状に巻回したところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の回転位置センサ(52)において、巻数可変コイル(54)の素線(54A)を、回転検出シャフト(32)に螺旋状に巻回したところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の回転位置センサ(52)において、巻数可変コイル(54)の他端部とベース部(50)との間に設けられて、バネ(58A)の弾発力によって巻数可変コイル(54)の素線(54A)を巻き取り可能なケーブルリール(56)を備えたところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1乃至7の何れかに記載の回転位置センサ(52)において、回転検出シャフト(32)は、車両(10)に備えたステアリングホイール(33)に連結されるステアリングシャフト(32)であるところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明は、請求項8に記載の回転位置センサ(52)において、巻数可変コイル(54)は、ステアリングシャフト(32)に導通接続されたところに特徴を有する。
【0015】
請求項10の発明に係る複合回転位置センサ(34)は、請求項1乃至9に記載の回転位置センサ(52)と、回転検出シャフト(32)の1回転における回転位置を検出可能なエンコーダ(51)と、回転位置センサ(52)とエンコーダ(51)との両検出結果を受け、回転位置センサ(52)によって回転検出シャフト(32)が基準位置から何回転したかを特定すると共に、エンコーダ(51)によって回転検出シャフト(32)の1回転における回転位置を特定して、回転検出シャフト(32)の基準位置からの絶対回転位置を演算する複合演算部(59)とを備えたところに特徴を有する。
【0016】
請求項11の発明に係る複合回転位置センサ(34)は、請求項1乃至9に記載の回転位置センサ(52)と、回転検出シャフト(32)の1回転における回転位置を検出可能なレゾルバ(60)と、回転位置センサ(52)とレゾルバ(60)との両検出結果を受け、回転位置センサ(52)によって回転検出シャフト(32)が基準位置から何回転したかを特定すると共に、レゾルバ(60)によって回転検出シャフト(32)の1回転における回転位置を特定して、回転検出シャフト(32)の基準位置からの絶対回転位置を演算する複合演算部(59)とを備えたところに特徴を有する。
【0017】
請求項12の発明に係る電動パワーステアリング装置(11)は、請求項10又は11に記載の複合回転位置センサ(34)を備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0018】
[請求項1及び2の発明]
請求項1の構成によれば、回転検出シャフトが回転すると素線が巻き取られ、回転検出シャフトの回転位置に応じて、巻数可変コイルの巻回数が変化する。そして、固定コイルと巻数可変コイルの何れか一方のコイルに通電することで他方のコイルに生じる誘起電圧は、巻数可変コイルの巻回数に応じて変化するので、この誘起電圧の検出結果に基づいて回転検出シャフトの回転位置を特定することができる。具体的には、請求項2の発明のように、固定コイルと巻数可変コイルとの何れか一方のコイルに予め設定された基準電圧で通電して励磁し、このとき他方のコイルに生じた誘起電圧と基準電圧とに基づいて回転検出シャフトの回転位置を演算すればよい。
【0019】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、固定コイルと巻数可変コイルの何れか一方のコイルに通電することで発生した磁束は、回転検出シャフトを通るから磁束の漏れを抑えることができる。そして、回転検出シャフトを通る磁束が固定コイルと巻数可変コイルとを貫通して、他方のコイルに誘起電圧が生じる。
【0020】
[請求項4の発明]
請求項4の発明によれば、回転検出シャフトとベース部とにより、固定コイル及び巻数可変コイルを貫通しかつ閉じた磁気回路が形成されるので、電磁誘導の効率が向上し、消費電力が抑えられる。
【0021】
[請求項5の発明]
請求項5の発明によれば、回転検出シャフトが素線を巻き取る方向と逆向き回転した場合に、巻回されている素線をスムーズに送り出すことができる。
【0022】
[請求項6の発明]
請求項6の発明によれば、回転検出シャフトが素線を巻き取る方向と逆向き回転した場合に、巻回されている素線をスムーズに送り出すことができる。
【0023】
[請求項7の発明]
請求項7の発明によれば、回転検出シャフトから送り出された素線はケーブルリールに巻き取られるので素線をコンパクトに纏めることができ、素線の絡まりも防止できる。
【0024】
[請求項8の発明]
請求項8の発明によれば、車両に備えたステアリングシャフトの回転位置を検出することができる。
【0025】
[請求項9の発明]
請求項9の発明によれば、ステアリングシャフトをアースにして巻数可変コイルに通電することができる。
【0026】
[請求項10の発明]
請求項10の複合回転位置センサによれば、回転検出シャフトが基準位置から何回転したかを回転位置センサで特定し、回転検出シャフトの1回転における回転位置をエンコーダによって特定する。そして、これら回転位置情報に基づいて、現在の回転検出シャフトの回転位置を、基準位置からの絶対回転位置(基準位置から何回転しかつ1回転における回転位置がどの位置か)として特定することができる。
【0027】
[請求項11の発明]
請求項11の複合回転位置センサによれば、回転検出シャフトが基準位置から何回転したかを回転位置センサで特定し、回転検出シャフトの1回転における回転位置をレゾルバによって特定する。そして、これら回転位置情報に基づいて、現在の回転検出シャフトの回転位置を、基準位置からの絶対回転位置(基準位置から何回転しかつ1回転における回転位置がどの位置か)として特定することができる。
【0028】
[請求項12の発明]
請求項12の電動パワーステアリング装置によれば、多回転位置検出がアナログで連続に変化するため操舵フィーリングが従来よりも向上する。また、本発明では、回転位置検出の分解能を向上するために、エンコーダ又はレゾルバに回転位置センサを組み合わせていたが、回転位置センサに換えて、従前の回転位置検出装置を組み合わせた場合よりも、電動パワーステアリング装置をコンパクト化及び低コスト化することができる。なお、コンパクト化により車内空間を広くすることができ、衝突安全性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1には、本発明の複合回転位置センサ34を搭載した車両10の概念図が示されている。同図における符号11は、電動パワーステアリング装置であって、筒形ハウジング18の内部に直動シャフト16を貫通して備えている。筒形ハウジング18は、車両10の本体に固定され、その軸方向の中間部分にアシストモータ19が内蔵されている。このアシストモータ19は、筒形ハウジング18の内側にステータ20を嵌合固定して備えると共に、そのステータ20の内側に筒形のロータ21を備えている。直動シャフト16は、そのロータ21内を貫通しかつ筒形ハウジング18から両端部が露出し、それら両端部がタイロッド17,17を介して転舵輪26,26に連結されている。また、筒形ハウジング18の一端寄り位置には、ロータ21の回転位置を検出するための位置センサ25(例えば、エンコーダやレゾルバ)が設けられている。
【0030】
ロータ21の内面には、ボールネジナット22が組み付けられている。また、直動シャフト16の軸方向の中間部分はボールネジシャフト23になっている。そして、これらボールネジナット22とボールネジシャフト23とからボールネジ機構24が構成され、ロータ21と共にボールネジナット22が回転すると、筒形ハウジング18に対してボールネジシャフト23が直動し、これにより転舵輪26,26が転舵する。なお、転舵輪26の近傍には、転舵輪26の回転に基づいて車速を検出するための車速センサ36が設けられている。
【0031】
直動シャフト16の一端寄り部分にはラック30が形成され、ステアリングシャフト32の下端部に備えたピニオン31がこのラック30に噛合している。また、ステアリングシャフト32の上端部には、運転者が回転操作するステアリング33が連結され、ステアリングシャフト32のうち上端寄り位置には、ステアリングシャフト32にかかる負荷トルクを検出するトルクセンサ35と、ステアリングシャフト32(ステアリング33)の基準位置からの絶対回転角度(本発明の「絶対回転位置」に相当する)を検出する複合回転位置センサ34が取り付けられている。ここでステアリングシャフト32は、例えば、鉄含有材料で構成されており、強磁性体である。
【0032】
図1において、符号40はECU(ECUは、「Electric Control Unit」の略である)であって、位置センサ25、複合回転位置センサ34、トルクセンサ35、車速センサ36等の検出信号を取り込んでいる。そして、それら検出信号に応じてモータ駆動回路42に指令を出し、モータ駆動回路42が、バッテリー44から昇圧回路45を介して供給された直流電圧を交流電圧に変換してアシストモータ19に付与する。
【0033】
さて、複合回転位置センサ34は以下の構成となっている。図2に示すように、複合回転位置センサ34は、ステアリングシャフト32が貫通したベース部50の内部に、ステアリングシャフト32の1回転における回転角度を検出するエンコーダ51(詳細には、光学式のアブソリュートエンコーダ)と、予め設定された基準位置からのステアリングシャフト32の回転数を検出する回転位置センサ52とを備えている。
【0034】
ベース部50は強磁性体(具体的には鉄含有材料であって、例えばフェライト)で構成され、例えば、両端有底の扁平な円筒構造をなしている(図1を参照)。即ち、ベース部50は、ステアリングシャフト32の軸方向で対向した円板形の対向壁50A,50A(本発明の「磁路構成対向壁」に相当する)の全周を円筒形の筒壁50C(本発明の「磁路構成側壁」に相当する)で接合した構造をなしている。そして、対向壁50A,50Aの中心部には、それぞれシャフト挿通孔50B,50Bが貫通形成され、ここにステアリングシャフト32が遊嵌状態で貫通している。
【0035】
エンコーダ51は、ステアリングシャフト32に嵌合固定された円盤状のコードホイール51Aを備え、そのコードホイール51Aを挟んで発光素子51B(例えば、LED)と受光素子51C(例えば、フォトトランジスタ)とが対向配置されている。そして、受光素子51Cから出力された受光信号を、複合回転位置センサ34に備えたマイコン59が取り込んで、コードホイール51Aの回転角度、即ち、ステアリングシャフト32の1回転における回転角度を演算する。
【0036】
回転位置センサ52は、エンコーダ51の下方に配置されている。回転位置センサ52は、ステアリングシャフト32の周囲に巻回された固定コイル53と巻数可変コイル54とを主要部として備える。固定コイル53はベース部50の内部に固定されており、ステアリングシャフト32の外周面から離した状態で、所定の巻数で巻回されている。固定コイル53には、アンプ55A及びA/Dコンバータ55Bからなる電圧検出器55が接続されている。電圧検出器55による電圧の検出結果は、複合回転位置センサ34に備えたマイコン59に取り込まれ、マイコン59はその検出結果に基づいてステアリングシャフト32の回転数を演算する。なお、マイコン59は、本発明の「データ処理部」に相当する。
【0037】
巻数可変コイル54は、ステアリングシャフト32のうち、固定コイル53が巻回された位置よりも下側部分に巻回されている。巻数可変コイル54は、例えば、断面円形の素線54A(具体的には、銅線)をステアリングシャフト32の外周面に巻きつけた構造をなし、素線54Aの一端末がステアリングシャフト32の外周面に固定されている。詳細には、ステアリングシャフト32の外周面と素線54Aの一端末とにはそれぞれ接続端子が設けられており、これら接続端子同士が結合することで、素線54Aとステアリングシャフト32とが機械的に結合されると共に電気的に導通接続されている。ここで巻数可変コイル54の巻数は、例えば、ステアリングシャフト32(ステアリング33)の一方の回転エンド(ステアリング33の回転限界位置)で最大となり、他方の回転エンドで最小となるように巻回されている。具体的には、図4に示すように、ステアリングシャフト32は、車両10を直進させる際のステアリングシャフト32(ステアリング33)の位置(以下、「中立位置」という)から相反する方向(左回り及び右回り)に、例えば、2回転ずつ回転可能となっており、中立位置(図4の(c))における巻数可変コイル54の巻数は、例えば「2」となっている。そして、ステアリングシャフト32が中立位置から右回り(図4における時計回り)に2回転したときに巻数可変コイル54の巻数は最小、即ち「0」となり(図4の(e))、中立位置から左回り(図4における反時計回り方向)に2回転したときに巻数は最大、即ち「4」となる(図4の(a))ように巻回されている。ここで巻数可変コイル54の素線54Aは、図4に示すように螺旋状に巻回されている。
【0038】
図2に示すように、素線54Aの他端末はケーブルリール56に連結されている。ケーブルリール56は、例えば、巻芯の上下両端部にフランジを備えた構造をなし、巻芯がベース部50の下側の対向壁50Aから起立した回転軸58に固定されている。ケーブルリール56は、回転軸58の基端部に備えたバネ58A(例えば、ねじりコイルバネ、ぜんまいバネ等)の弾発力により一方向に回転付勢されており、ステアリング33が右回りに回転操作されることでステアリングシャフト32の外周面から送り出された素線54Aを巻き取るように構成されている(図3を参照)。なお、ケーブルリール56とステアリングシャフト32との間には、例えば、ケーブルリール56の回転に連動して上下動し、ケーブルリール56から送り出された素線54Aをステアリングシャフト32に螺旋状に巻回させるケーブルガイドを設けてもよい。
【0039】
巻数可変コイル54の素線54Aの他端末には、交流電源57が接続されている。具体的には、素線54Aの他端末にはインバータ回路46を介してバッテリー44が接続されており、バッテリー44の直流電圧をインバータ回路46が予め設定された基準電圧の交流電圧に変換して巻数可変コイル54に印加している。ここで巻数可変コイル54に流れる電流は、素線54Aの一端末に導通接続されたステアリングシャフト32及び、車両10に備えた金属部品(具体的には、電動パワーステアリング装置11やボディ)を経由して最終的にバッテリー44に戻される。
【0040】
以上が、本実施形態の構成の説明であって次に動作を説明する。運転者がステアリング33を中立位置から一方向に回転操作すると、ステアリングシャフト32が同方向に一体回転して巻数可変コイル54の巻数が増減する。
【0041】
例えば、車両10を左に旋回させるためにステアリング33が中立位置から左回り(図4における反時計回り)に回転操作されると、ケーブルリール56から素線54Aが引き出され、ステアリングシャフト32に巻き付けられる。そして、ステアリング33が左回りに1回転又は2回転すると、ステアリングシャフト32における巻数可変コイル54の巻数が中立位置における「2」から「3」又は「4」に増加する(図4の(a),(b)の状態)。
【0042】
また、例えば、車両10を右に旋回させるためにステアリング33が中立位置から右回り(図4における時計回り)に回転操作されると、素線54Aがステアリングシャフト32の外周面から送り出されると共に、送り出された素線54Aがケーブルリール56に巻き取られる。そして、ステアリング33が右回りに1回転又は2回転すると、巻数可変コイル54の巻数が中立位置における「2」から「1」又は「0」に減少する(図4の(d),(e)の状態)。
【0043】
さて、ステアリングシャフト32の基準位置(本実施形態では、例えば、中立位置から右回りに2回転した位置。即ち、図4の(e)の状態)からの絶対回転角度は、エンコーダ51によって検出されたステアリングシャフト32の1回転における回転角度と、回転位置センサ52によって検出されたステアリングシャフト32の基準位置からの回転数とに基づいて演算される。
【0044】
より詳細には、エンコーダ51においてコードホイール51Aの回転位置に応じた受光信号が受光素子51Cから出力され、マイコン59がその受光信号に基づいてステアリングシャフト32の1回転における(換言すれば、360度未満の)回転角度を特定する。
【0045】
また、回転位置センサ52は以下のようにして基準位置からの回転数を検出する。即ち、巻数可変コイル54に交流電圧が印加されると、ステアリングシャフト32に巻数可変コイル54の巻数に応じた磁束が発生する。磁束はステアリングシャフト32の軸方向に延びて巻数可変コイル54及び固定コイル53の中心部を貫き、ベース部50を構成する壁部(対向壁50A,50A及び筒壁50C)を通ってステアリングシャフト32に帰還する。そして、磁束が固定コイル53を貫くことで、図5のグラフに示すように、巻数可変コイル54の巻数に応じた誘起電圧が固定コイル53に発生する。この誘起電圧が電圧検出器55によって検出され、その検出結果がマイコン59に取り込まれる。マイコン59は、固定コイル53に発生した誘起電圧の検出結果、巻数可変コイル54に印加された交流電圧及び、固定コイル53の巻数に基づいて、ステアリングシャフト32に巻回されている巻数可変コイル54の巻数を演算し、その巻数からステアリングシャフト32(ステアリング33)の基準位置からの回転数を特定する。即ち、例えば、巻数可変コイル54の巻数の演算結果が「3」であった場合には、ステアリングシャフト32の基準位置からの回転数が「3」(換言すれば、中立位置から左回りに1回転した位置)であることが特定される。
【0046】
さらにマイコン59は、エンコーダ51により検出されたステアリングシャフト32の1回転における回転角度と、回転位置センサ52により検出されたステアリングシャフト32の基準位置からの回転数とを合わせて、ステアリングシャフト32(ステアリング33)の基準位置からの絶対回転角度を演算する。即ち、現在のステアリングシャフト32の回転位置が、基準位置から何回転しかつ1回転における回転角度が何度であるかが特定される。
【0047】
具体的には、エンコーダ51により検出された1回転における回転角度をθ(<360度)とし、回転位置センサ52により検出された回転数をnとした場合に、ステアリングシャフト32の基準位置からの絶対回転角度Pは、下記演算式により特定される。
P=θ+360・n
【0048】
ここで、マイコン59はエンコーダ51と回転位置センサ52の両検出結果を受けてステアリングシャフト32の絶対回転位置を演算しているので、本発明の「複合演算部」に相当する。
【0049】
このように本実施形態によれば、ステアリングシャフト32が基準位置から何回転したかを回転位置センサ52で特定し、ステアリングシャフト32の1回転における回転角度をエンコーダ51によって特定する。そして、これら2つの回転位置情報に基づいて、現在のステアリングシャフト32の回転角度を、基準位置からの絶対回転角度として特定することができる。また、ステアリングシャフト32とベース部50により閉じた磁気回路が形成されるので、電磁誘導の効率が向上し、消費電力が抑えられる。さらに、ステアリングシャフト32から送り出された素線54Aは、ケーブルリール56に巻き取られるので、素線54Aをコンパクトに纏めておくことができる。しかも、巻数可変コイル54の素線54Aが螺旋状に巻回されているので、素線54Aをステアリングシャフト32からスムーズに送り出すことができ、ケーブルリール56による巻き取りをスムーズに行える。
【0050】
また、本実施形態の電動パワーステアリング装置11によれば、多回転位置検出がアナログで連続に変化するため操舵フィーリングが従来よりも向上する。また、回転位置検出の分解能を向上するために、エンコーダ51に回転位置センサ52を組み合わせていたが、回転位置センサ52に換えて、従前の回転位置検出装置(エンコーダやレゾルバ)を組み合わせた場合よりも、電動パワーステアリング装置11をコンパクト化及び低コスト化することができる。なお、コンパクト化により車内空間を広くすることができ、衝突安全性を向上することができる。
【0051】
[第2実施形態]
本実施形態は、図6に示されており、エンコーダ51の代わりにレゾルバ60を備えた点が上記第1実施形態と異なる。レゾルバ60は、ステアリングシャフト32の外面に固定されたレゾルバロータ61と、ベース部50の内面に固定されたレゾルバステータ62とからなる。レゾルバステータ62は、例えば、円環状をなし、その内面から突出した複数のティース62Aにそれぞれ銅線が巻回されてコイル63が形成されている。
【0052】
一方、レゾルバロータ61は、ステアリングシャフト32のうちレゾルバステータ62と対向した位置に嵌合固定されている。レゾルバロータ61は磁性体で構成され、外周面が、例えば、波形状になっている。これにより、レゾルバロータ61がステアリングシャフト32と共に回転すると、レゾルバステータ62に生じる磁気特性が変化する。そして、レゾルバステータ62に接続されたマイコン59が、前記磁気特性の変化に基づいてレゾルバロータ61の回転位置、即ち、ステアリングシャフト32の1回転における回転位置を演算する。その他の構成は、上記第1実施形態と同じである。本実施形態によっても、上記第1実施形態と同等の効果を奏する。
【0053】
ここで、レゾルバ60を用いる場合には、レゾルバ60と回転位置センサ52との間に磁気シールド構造を設けたり、レゾルバ60をケース部50の外側に設けてもよい。磁気シールド構造は、例えば、強磁性体の円板リング部材をベース部50の内部に固定した構造とすればよい。このようにすれば、回転位置センサ52の各コイル53,54からの漏れ磁束の影響を抑えることができる。
【0054】
[他の実施形態]
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0055】
(1)上記実施形態では、巻数可変コイル54の素線54Aが、ステアリングシャフト32に対して螺旋状に巻回されていたが、図7(a)に示すように、巻数可変コイル54の素線54Aをフラットケーブルとして、そのフラットケーブルをステアリングシャフト32に渦巻き状に巻回させてもよい。このような構成にしても、素線54Aをステアリングシャフト32からスムーズに送り出すことができ、ケーブルリール56による巻き取りをスムーズに行える。なお、巻数可変コイル54は、必ずしも渦巻き状や螺旋状に巻回されていなくてもよく、例えば、図7(b)に示すように、素線54Aが途中で交差していてもよい。
【0056】
(2)固定コイル53に交流電源57を接続する一方、巻数可変コイル54に電圧検出器55及びマイコン59を接続しておき、固定コイル53に交流電圧を印加することで巻数可変コイル54に生じた誘起電圧を検出し、その誘起電圧と交流電圧とに基づいてステアリングシャフト32の基準位置からの回転位置(回転数)を特定するようにしてもよい。
【0057】
(3)ベース部50の構造は、上記実施形態のような両端有底の円筒構造に限定されない。例えば、1対の対向壁50A,50Aを、周方向に互いに間隔を開けて配置された複数の直立壁によって接合した構造としてもよい。
【0058】
(4)上記実施形態では、巻数可変コイル54と固定コイル53をステアリングシャフト32の軸方向にずらして配置していたが、固定コイル53を巻数可変コイル54の径方向外側に配置してもよい。
【0059】
(5)上記実施形態では、巻数可変コイル54とステアリングシャフト32とを導通接続し、巻数可変コイル54に流れた電流が車両10の金属部品を経由してバッテリー44に戻るように構成されていたが、巻数可変コイル54とバッテリー44の負極とを電線で直結してもよい。なお、巻数可変コイル54をステアリングシャフト32に導通接続した方がマイナス配線を簡素化できる。
【0060】
(6)固定コイル53には必ずしもステアリングシャフト32が貫通していなくてもよい。
【0061】
(7)上記実施形態では、巻数可変コイル54の巻数が最小で「0」となる構成であったが、巻数が最小でも「1」以上となるように巻回してもよい。
【0062】
(8)エンコーダ51は、アブソリュートエンコーダであることが好ましいが、インクリメンタルエンコーダでもよい。また、光学式に限らず磁気式のエンコーダでもよい。なお、磁気式のエンコーダを用いる場合には、エンコーダをベース部50の外側に設けたり、エンコーダと回転位置センサ52との間に磁気シールド構造(例えば、第2実施形態に記載の円板リング部材)を設けてもよい。このようにすれば、回転位置センサ52に備えた各コイル53,54からの漏れ磁束の影響を防ぐことができる。
【0063】
(9)ステアリングシャフト32の回転数だけが必要な場合には、回転位置センサ52だけを備えていればよく、エンコーダ51やレゾルバ60を備えていない構成でもよい。
【0064】
(10)回転位置センサ52及び複合回転位置センサ34は、車両10のステアリングシャフト32以外に、ロボットや産業用機械に備えた回転検出シャフトの絶対回転位置の検出に用いてもよい。
【0065】
(11)回転位置センサ52及び複合回転位置センサ34を、ステアバイワイヤシステムにおけるステアリングシャフト32の回転位置を検出するために用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の概念図
【図2】複合回転位置センサの概念図
【図3】巻数可変コイルが巻回された状態のステアリングシャフトの断面図
【図4】巻数可変コイルの巻数変化を示す概念図
【図5】巻数可変コイルの巻数と固定コイルに生じる誘起電圧との関係を示すグラフ
【図6】第2実施形態に係る複合位置センサの概念図
【図7】他の実施形態(1)に係る巻数可変コイルの(a)斜視図、(b)側面図
【符号の説明】
【0067】
32 ステアリングシャフト(回転検出シャフト)
34 複合回転位置センサ
50 ベース部
50A 対向壁
50A,50A 対向壁(磁路構成対向壁)
50C 筒壁(磁路構成側壁)
51 エンコーダ
52 回転位置センサ
53 固定コイル
54 巻数可変コイル
54A 素線
56 ケーブルリール
57 交流電源
58A バネ
59 マイコン(データ処理部、複合演算部)
60 レゾルバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部に対して回転可能に組み付けられた回転検出シャフトの回転位置を検出する回転位置センサにおいて、
前記回転検出シャフトに一端部が固定されて巻き付けられかつ他端部が前記ベース部に保持された素線によって構成され、前記回転検出シャフトの回転位置に応じて前記素線の巻回数が変わるようにした巻数可変コイルと、
前記回転検出シャフトの回転軸と同軸上に配置されて前記ベース部に固定され、前記巻数可変コイルとの間で電磁誘導可能な固定コイルとを備えたことを特徴とする回転位置センサ。
【請求項2】
前記固定コイルと前記巻数可変コイルとの何れか一方のコイルに予め設定された基準電圧で通電して励磁する交流電源と、
他方のコイルに生じた誘起電圧と前記基準電圧とに基づいて前記回転検出シャフトの回転位置を演算するデータ処理部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の回転位置センサ。
【請求項3】
前記回転検出シャフトは、磁性体で構成されると共に、前記固定コイルの内側に遊嵌されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転位置センサ。
【請求項4】
前記ベース部は、磁性体で構成されると共に、前記回転検出シャフトの両端部が貫通した1対の磁路構成対向壁と前記磁路構成対向壁間を接合する磁路構成側壁とを有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の回転位置センサ。
【請求項5】
前記巻数可変コイルの素線をフラットケーブルとし、そのフラットケーブルを前記回転検出シャフトに渦巻き状に巻回したことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の回転位置センサ。
【請求項6】
前記巻数可変コイルの素線を、前記回転検出シャフトに螺旋状に巻回したことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の回転位置センサ。
【請求項7】
前記巻数可変コイルの他端部と前記ベース部との間に設けられて、バネの弾発力によって前記巻数可変コイルの素線を巻き取り可能なケーブルリールを備えたことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の回転位置センサ。
【請求項8】
前記回転検出シャフトは、車両に備えたステアリングホイールに連結されるステアリングシャフトであることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の回転位置センサ。
【請求項9】
前記巻数可変コイルは、前記ステアリングシャフトに導通接続されたことを特徴とする請求項8に記載の回転位置センサ。
【請求項10】
前記請求項1乃至9に記載の回転位置センサと、
前記回転検出シャフトの1回転における回転位置を検出可能なエンコーダと、
前記回転位置センサと前記エンコーダとの両検出結果を受け、前記回転位置センサによって前記回転検出シャフトが基準位置から何回転したかを特定すると共に、前記エンコーダによって前記回転検出シャフトの1回転における回転位置を特定して、前記回転検出シャフトの前記基準位置からの絶対回転位置を演算する複合演算部とを備えたことを特徴とする複合回転位置センサ。
【請求項11】
前記請求項1乃至9に記載の回転位置センサと、
前記回転検出シャフトの1回転における回転位置を検出可能なレゾルバと、
前記回転位置センサと前記レゾルバとの両検出結果を受け、前記回転位置センサによって前記回転検出シャフトが基準位置から何回転したかを特定すると共に、前記レゾルバによって前記回転検出シャフトの1回転における回転位置を特定して、前記回転検出シャフトの前記基準位置からの絶対回転位置を演算する複合演算部とを備えたことを特徴とする複合回転位置センサ。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の複合回転位置センサを備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−248172(P2007−248172A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70173(P2006−70173)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】