説明

回転位置角推定方法及び回転位置角推定装置並びにインバータ制御方法及びインバータ制御装置

【課題】突極モータにおいて磁気飽和の影響を小さくして、精度良く回転位置角を推定することが目的とされる。
【解決手段】回転位置角推定装置は、回転位置角推定部1、インバータ5及び3/2相変換部6を備える。インバータ5は、3相電流i,i,iを突極モータ2に出力する。3/2相変換部6は、インバータ5から検出される3相電圧v,v,v及び3相電流i,i,iを2相電圧vα,vβ及び2相電流iα,iβに変換する。回転位置角推定部1は、λ演算部21、q軸電流発生部22及び位置角演算部23を有する。λ演算部21は、2相電圧vα,vβ、2相電流iα,iβ及びd軸インダクタンスLを用いて磁束鎖交数λq,α,λq,βを求める。q軸電流演算部22は、2相電流iα,iβを回転座標変換してq軸電流iを求める。位置角演算部23は、磁束鎖交数λq,α,λq,βとq軸電流iとを用いて回転位置角θreを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転位置角推定方法及び回転位置角推定装置並びにインバータ制御方法及びインバータ制御装置に関し、例えばインバータ制御に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来から、誘導モータに比して効率良く運転できるモータとして、ブラシレスDCモータやリラクタンスモータが広く用いられている。これらのモータを更に効率良く動作させるためには、回転位置角に同期させて電圧及び電流を制御して、トルク及び回転速度を制御することが必要とされる。
【0003】
回転位置角は、例えばモータに位置センサを設けることで検出される。しかし、位置センサの設置は、コストの増加及び制御装置の大型化を招き、あまり実用的でない。
【0004】
そこで従来から、センサレスで回転位置角を推定する方法が開発されている。例えば、回転子が突極性を有する場合において、その突極性を利用して回転位置角を推定する方法が提案されている。これに関連する技術が、例えば非特許文献1に示されている。
【0005】
【非特許文献1】陳志謙、他3名,「突極型ブラシレスDCモータのセンサレス位置推定法と安定性の検討」,平成10年電気学会産業応用部門全国大会論文集,No.59,1998年,p.179−182
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した非特許文献1に示される技術によれば、突極性を有するブラシレスDCモータ(以下「突極モータ」と称す)について、式(1)で示される電圧方程式を用いて、回転位置角が以下のようにして推定される。
【0007】
【数1】

【0008】
ここで、Rは突極モータの抵抗、Lはd軸インダクタンス、Lはq軸インダクタンス、Kは電機子鎖交磁束、pは時間微分演算子、vα,vβはα軸電圧,β軸電圧、iα,iβはα軸電流,β軸電流、iはd軸電流、θreは回転位置角をそれぞれ表す。ここで下付きで示される(α,β)及び(d,q)は、図8で示される固定座標軸と、回転子100と同期して回転する回転座標軸とをそれぞれ示す。固定座標軸は、例えば突極モータ2の固定子に対して固定される。以下においても同様である。
【0009】
式(1)の両辺を積分することで、式(2)が求められる。ここでλd,α,λd,βは、磁束鎖交数であって、式(3)で表される。よって、式(4)に従って、回転位置角θreを推定することができる。式(4)の計算では、式(3)に従って求められた磁束鎖交数λd,α,λd,βを用いて、(λd,β/λd,α)の逆正接が求められる。
【0010】
【数2】

【0011】
【数3】

【0012】
【数4】

【0013】
式(3)により磁束鎖交数λd,α,λd,βを求める際には、q軸インダクタンスLとして一定の値が与えられる。しかし突極モータの駆動時においては、q軸インダクタンスLは、磁気飽和の影響によりq軸電流iに依存して大きく変動する。このため、式(3)及び式(4)に従って求められた回転位置角θreは、q軸インダクタンスLに起因した推定誤差を生じる。
【0014】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、突極モータにおいて磁気飽和の影響を小さくして、精度良く回転位置角を推定することが目的とされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1にかかる回転位置角推定方法は、インバータ(5)を介して制御される突極性を有するモータ(2)の回転位置角(θre)を推定する方法であって、(a)固定座標系での電圧(vα,vβ)及び電流(iα,iβ)を得るステップと、(b)前記モータのインダクタンスのうち前記回転位置角に基づいて回転する回転座標系でのd軸成分(L)と、前記電圧と、前記電流とを用いて磁束鎖交数(λq,α,λq,β)を求めるステップと、(c)少なくとも前記磁束鎖交数を用いて前記回転位置角を求めるステップとを備える。
【0016】
本発明の請求項2にかかる回転位置角推定方法は、請求項1記載の回転位置角推定方法であって、前記モータ(2)において逆トルクが生じない。
【0017】
本発明の請求項3にかかる回転位置角推定方法は、請求項1記載の回転位置角推定方法であって、前記ステップ(c)は、(c−1)前記電流(iα,iβ)の前記回転座標系のq軸方向への成分(i)を求めるステップと、(c−2)前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)と前記電流の前記成分とを用いて前記回転位置角(θre)を求めるステップとを行う。
【0018】
本発明の請求項4にかかる回転位置角推定方法は、請求項3記載の回転位置角推定方法であって、前記ステップ(c−2)は、前記磁束鎖交数の成分のうち前記モータ(2)の固定子に対する固定座標系でのβ成分(λq,β)を、前記磁束鎖交数の前記固定座標系でのα成分(λq,α)で除してから、その逆正接を求め、前記モータの前記回転座標系でのd軸成分(L)及びq軸成分(L)と、前記電流の前記成分(i)と、前記モータの電機子鎖交磁束(K)とから多値で求まる、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)の位相と前記回転位置角との位相差(δ)を、前記電流の前記成分(i)の符号に基づいて一つ選定し、前記逆正接の値から前記位相差を差し引いて、前記回転位置角(θre)を求める。
【0019】
本発明の請求項5にかかる回転位置角推定方法は、請求項3記載の回転位置角推定方法であって、前記ステップ(c−2)は、前記磁束鎖交数の成分のうち前記モータ(2)の固定子に対する固定座標系でのβ成分(λq,β)から、前記磁束鎖交数の前記固定座標系でのα成分(λq,α)を除してから、その逆正接を求め、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)と前記モータの電機子鎖交磁束(K)とから多値で求まる、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)の位相と前記回転位置角との位相差(δ)を、前記電流の前記成分(i)の符号に基づいて一つ選定し、前記逆正接の値から前記位相差を差し引いて、前記回転位置角(θre)を求める。
【0020】
本発明の請求項6にかかる回転位置角推定方法は、請求項1記載の回転位置角推定方法であって、前記ステップ(c)は、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)から多値で求まる前記回転位置角(θre)を、予め求められた前記回転位置角(θre1)に基づいて一つ選定する。
【0021】
本発明の請求項7にかかるインバータ制御方法は、請求項1乃至請求項6のいずれか一つにかかる回転位置角推定方法で得られる前記回転位置角(θre)を用いて、前記インバータ(5)に入力する電圧指令値(v*α,v*β)を求める。
【0022】
本発明の請求項8にかかる回転位置角推定装置は、インバータ(5)を介して制御される突極性を有するモータ(2)の回転位置角(θre)を推定する装置であって、回転位置角推定部(1)と、相変換部(6)とを備え、前記相変換部は、固定座標系での電圧(vα,vβ)及び電流(iα,iβ)を求め、前記回転位置角推定部は、第1演算部(21)と、第2演算部(23;24)とを有し、前記第1演算部は、前記モータのインダクタンスのうち回転位置角に基づいて回転する回転座標系のd軸方向への成分(L)と、前記電圧と、前記電流とを用いて磁束鎖交数(λq,α,λq,β)を求め、前記第2演算部は、少なくとも前記磁束鎖交数を用いて前記回転位置角を求める。
【0023】
本発明の請求項9にかかる回転位置角推定装置は、請求項8記載の回転位置角推定方法であって、前記モータ(2)において逆トルクが生じない。
【0024】
本発明の請求項10にかかる回転位置角推定装置は、請求項8記載の回転位置角推定装置であって、前記回転位置角推定部(1)は、第3演算部(22)を更に有し、前記第3演算部は、前記電流の前記回転座標系のq軸方向への成分(i)を求め、前記第2演算部(23)は、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)と前記電流の前記成分とを用いて前記回転位置角(θre)を求める。
【0025】
本発明の請求項11にかかる回転位置角推定装置は、請求項10記載の回転位置角推定装置であって、前記第2演算部(23)は、逆正接部(231)と、位相差演算部(232)と、加減算器(233)とを有し、前記逆正接部は、前記磁束鎖交数の成分のうち前記モータ(2)の固定子に対する固定座標系でのβ成分(λq,β)を、前記磁束鎖交数の前記固定座標系でのα成分(λq,α)で除してから、その逆正接を求め、前記位相差演算部は、前記モータの前記回転座標系でのd軸成分(L)及びq軸成分(L)と、前記電流の前記成分(i)と、前記モータの電機子鎖交磁束(K)とから多値で求まる、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)の位相と前記回転位置角との位相差(δ)を、前記電流の前記成分(i)の符号に基づいて一つ選定し、前記加減算器は、前記逆正接の値から前記位相差を差し引いて、前記回転位置角(θre)を求める。
【0026】
本発明の請求項12にかかる回転位置角推定装置は、請求項10記載の回転位置角推定装置であって、前記第2演算部(23)は、逆正接部(231)と、位相差演算部(234)と、加減算器(233)とを有し、前記逆正接部は、前記磁束鎖交数の成分のうち前記モータ(2)の固定子に対する固定座標系でのβ成分(λq,β)を、前記磁束鎖交数の前記固定座標系でのα成分(λq,α)で除してから、その逆正接を求め、前記位相差演算部は、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)と前記モータの電機子鎖交磁束(K)とから多値で求まる、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)の位相と前記回転位置角との位相差(δ)を、前記電流の前記成分(i)の符号に基づいて一つ選定し、前記加減算器は、前記逆正接の値から前記位相差を差し引いて、前記回転位置角(θre)を求める。
【0027】
本発明の請求項13にかかる回転位置角推定装置は、請求項8記載の回転位置角推定装置であって、前記第2演算部(24)は、予め求めた前記回転位置角(θre1)が与えられ、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)から多値で求まる前記回転位置角(θre)を、予め求めた前記回転位置角に基づいて一つ選定する。
【0028】
本発明の請求項14にかかるインバータ制御装置は、請求項8乃至請求項13のいずれか一つにかかる回転位置角推定装置と、電流制御部(4)とを備え、前記電流制御部は、前記回転位置角推定装置で得られる前記回転位置角(θre)を用いて、前記インバータ(5)に入力する電圧指令値(v*α,v*β)を求める。
【発明の効果】
【0029】
本発明の請求項1にかかる回転位置角推定方法もしくは請求項8にかかる回転位置角推定装置によれば、磁気飽和の影響を受けにくいd軸インダクタンスを用いて磁束鎖交数を求めるので、磁気飽和の影響を小さくして、精度良く回転位置角が推定される。
【0030】
本発明の請求項2にかかる回転位置角推定方法もしくは請求項9にかかる回転位置角推定装置によれば、逆トルクが生じないのでq軸電流は正の値であり、0〜2πの範囲で回転位置角が一意に決まる。
【0031】
本発明の請求項3または請求項4にかかる回転位置角推定方法もしくは請求項10または請求項11にかかる回転位置角推定装置によれば、位相差の計算において求められる値が複数あっても、電流の成分の符号に基づいて一の値が位相差として選定される。
【0032】
本発明の請求項5にかかる回転位置角推定方法もしくは請求項12にかかる回転位置角推定装置によれば、位相差の計算において求められる値が複数あっても、電流の成分の符号に基づいて一の値が位相差として選定される。しかも、位相差を求める際にも、磁気飽和の影響を小さくすることができる。よって、回転位置角がより精度良く推定される。
【0033】
本発明の請求項6にかかる回転位置角推定方法もしくは請求項13にかかる回転位置角推定装置によれば、q軸電流を用いる必要がないので、q軸電流に含まれる誤差の影響を妨げ、より精度良く回転位置角が推定される。
【0034】
本発明の請求項7にかかるインバータ制御方法もしくは請求項14にかかるインバータ制御装置によれば、回転位置角を考慮した電圧指令値が得られるので、突極性を有するモータが精度良く制御される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明では、式(5)で表される電圧方程式を用いて、回転位置角θreが推定される。式(5)は、式(1)を変形して得られる。ここで、iはq軸電流を表す。回転位置角θreは、数式的には以下のようにして求められる。
【0036】
【数5】

【0037】
式(5)の両辺を積分することで、式(6)を得る。ここで、λq,α,λq,βは、磁束鎖交数であって、式(7)で表される。
【0038】
【数6】

【0039】
【数7】

【0040】
式(6)は、式(8)へと変形することができる。ここでδは、磁束鎖交数λq,α,λq,βの位相と、推定される回転位置角θreとの位相差であって、式(9)で表される。よって、回転位置角θreは、式(10)に従って求めることができる。このとき、式(10)で示される(λq,β/λq,α)の逆正接及び位相差δは多値で求まるので、各々において一の値を選定して回転位置角θreを求める必要があるが、その詳細については後述する。
【0041】
【数8】

【0042】
【数9】

【0043】
【数10】

【0044】
d軸インダクタンスLは、例えば突極モータが駆動している時であっても、磁気飽和の影響をあまり受けず、その変動は小さい。よって、式(6)に与えるd軸インダクタンスLを一定の値としても、式(6)及び式(7)に従って推定される回転位置角θreは、推定誤差をあまり生じない。
【0045】
第1の実施の形態.
図1は、本実施の形態にかかる回転位置角推定装置を概念的に示すブロック図である。回転位置角推定装置は、回転位置角推定部1、突極モータ2、電流制御部4、インバータ5、3/2相変換部6、スイッチング部72、初期位置検出部8、速度制御部31、回転速度計算部32及び回転座標変換部33を備える。
【0046】
電流制御部4は、電圧指令値v*α,v*βを発生させる。電圧指令値v*α,v*βは、突極モータ2の回転速度mと極対数との積で表される駆動電源角周波数を有する。
【0047】
インバータ5は、3/2相変換要素51とPWM(Pulse Width Modulation)部52、インバータ回路53とを含む。入力された電圧指令値v*α,v*βが、まず3/2相変換要素51において式(11)によって2相から3相へ変換される。ここでxは2相電圧の指令値(v*α,v*βであり、xは3相電圧の指令値(v*,v*,v*である。上付きtは転置行列もしくは転置ベクトルであることを表す。そして、3相電圧指令値v*,v*,v*はPWM部52に与えられる。
【0048】
【数11】

【0049】
PWM部52は、3相電圧指令値v*,v*,v*のパルス幅をそれぞれ変調して、それらをインバータ回路53に与える。インバータ回路53は、パルス幅が変調された3相電圧指令値v*,v*,v*に基づいて3相電圧v,v,vを発生させて、突極モータ2へと3相電流i,i,iを供給する。
【0050】
3/2相変換部6は、3/2相変換要素61,62を含む。3/2相変換要素61には、インバータ5から検出した3相電圧v,v,vが与えられる。3相電圧v,v,vは、インバータ5から直接に測定して得ることができる。このとき、3相電圧のうち2相分だけを検出し、残りの1相分の電圧を計算で求めても良い。また、インバータ回路53の直流部電圧とPWMパターンから演算して3相電圧v,v,vを求めてもよいし、ハードウェアにより相電圧あるいは相関電圧を検出してもよい。
【0051】
3/2相変換要素62には、インバータ5から検出された3相電流i,i,iが与えられる。3相電流i,i,iは、例えばインバータ5から直接に測定して得られる。
【0052】
3/2相変換要素61は、電圧3相電圧v,v,vを2相電圧vα,vβへと変換する。3/2相変換要素62は、3相電流i,i,iを2相電流iα,iβへと変換する。3相から2相への変換は、式(12)により行われる。このとき、yは2相電圧(vα,vβもしくは2相電流(iα,iβであり、yは3相電圧(v,v,vもしくは3相電流(i,i,iである。そして、2相電圧vα,vβ及び2相電流iα,iβは、回転位置角推定部1に与えられる。
【0053】
【数12】

【0054】
回転位置角推定部1は、λ演算部21、q軸電流発生部22及び位置角演算部23を有する。3/2相変換部6から回転位置角推定部1に与えられた2相電圧vα,vβ及び2相電流iα,iβは、λ演算部21に与えられる。
【0055】
λ演算部21は、2相電圧vα,vβ、2相電流iα,iβ及びd軸インダクタンスLを用いて、式(7)に従って磁束鎖交数λq,α,λq,βを求める。磁束鎖交数λq,α,λq,βは、位置角演算部23に与えられる。
【0056】
q軸電流演算部22は、式(13)に従って2相電流iα,iβを回転座標変換して、q軸電流iを求める。q軸電流iは、位置角演算部23に与えられる。
【0057】
【数13】

【0058】
式(13)中の座標回転角θには、q軸電流演算部22での最初の演算では、初期位置検出部8で検出される初期回転位置角θre0が採用される。その後の演算では、前回推定された回転位置角θre1が採用される。
【0059】
図2は、位置角演算部23を概念的に示すブロック図である。位置角演算部23は、逆正接部231、位相差演算部232及び加減算器233を有する。
【0060】
逆正接部231は、磁束鎖交数λq,α,λq,βが与えられ、式(14)に従って(λq,β/λq,α)の逆正接を計算して位相θreλを求める。このとき位相θreλは、λq,α>0ならば−π/2から+π/2の範囲で求め、λq,α<0ならば+π/2から+3π/2の範囲で求める。そして、位相θreλは加減算器233に与えられる。
【0061】
【数14】

【0062】
位相差演算部232は、d軸インダクタンスL、q軸インダクタンスL、q軸電流i及び電機子鎖交磁束Kが与えられ、式(9)に従って(K/D)の逆余弦を計算して位相差δを求める。このとき位相差δは、(L−L)・i>0ならば−π/2<δ<0の範囲で求め、(L−L)・i<0ならば0<δ<π/2の範囲で求める。d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLの大小関係を定める突極性は突極モータ2に固有であるので、この内容は、q軸電流iの符号に基づいて位相差δを一つ選定すると把握できる。そして、位相差δは加減算器233に与えられる。
【0063】
加減算器233は、式(10)に従って位相θreλから位相差δを差し引くことで、回転位置角θreを求め、これを推定値として出力する。
【0064】
スイッチング72は、入力端子72a,72bと出力端子72cを有する。初期回転位置角θre0を検出する場合には、スイッチング部72は入力端子72a側にスイッチして、初期位置検出部8に接続する。また、回転位置角θreを推定する場合には、スイッチング部72は入力端子72b側にスイッチして、位置角演算部23に接続する。そして、回転位置角推定部1で推定された回転位置角θreもしくは初期位置検出部8で検出された初期回転位置角θre0は、回転速度計算部32、回転座標変換部33及びq軸電流演算部22へと与えられる。
【0065】
回転速度計算部32は、前回推定された回転位置角θre1を記憶しつつ、新しく推定された回転位置角θreがスイッチング部72から与えられる。そして、式(15)により回転速度mが求められる。ここで、回転位置角推定が時間間隔Δt毎に行われているとする。求められた回転速度mは、速度制御部31へと与えられる。前回推定された回転位置角θre1は、例えば別途設けられた記憶部で記憶して、当該記憶部から与えられてもよい。
【0066】
【数15】

【0067】
速度制御部31は、回転速度の指令値m*及び回転速度mが与えられ、これらに基づいて電流の指令値i*を出力する。電流の指令値i*は、電流制御部4に与えられる。
【0068】
回転座標変換部33は、前回推定された回転位置角θre1を記憶しつつ、3/2相変換要素62から2相電流iα,iβが与えられる。そして、2相電流iα,iβを回転座標系での2相電流i,iへと変換する。回転座標は、固定座標に対して、前回推定された回転位置角θre1だけ回転している。そして、2相電流i,iは、電流制御部4へと与えられる。前回推定された回転位置角θre1は、例えば別途設けられた記憶部で記憶して、当該記憶部から与えられてもよい。
【0069】
電流制御部4は、電流の指令値i*及び2相電流i,iに基づいて、回転座標系での電圧指令値v*,v*を新たに発生させる。そして、電流制御部4は、回転座標変換部を更に有し、電圧指令値v*,v*を固定座標系での電圧指令値v*α,v*βへと変換して出力する。これにより、突極モータ2の回転速度とトルクとが制御される。
【0070】
電流制御部4が有する回転座標変換部は、例えばインバータ5内において、電流制御部4と3/2相変換要素51との間に設けられてもよい。この場合、電流制御部4からは、回転座標系での電圧指令値v*,v*が出力される。そして、電圧指令値v*,v*は、インバータ5内の回転座標変換部により固定座標系の電圧指令値v*α,v*βに変換されて、3/2相変換要素51へと与えられる。
【0071】
上述した内容によれば、磁気飽和の影響を受けにくいd軸インダクタンスを用いて磁束鎖交数λq,α,λq,βを求めるので、磁気飽和の影響を小さくして、精度良く回転位置角θreを推定することができる。
【0072】
位置角演算部23は、図3で示されるブロック図に従って構成されてもよい。この位置角演算部23は、図2で示される位相差演算部232に替えて位相差演算部234を有する。図3で示される構成要素のうち図2で示される構成要素と同じものは、同符号が付されており、同じ動作を行う。
【0073】
位相差演算部234は、磁束鎖交数λq,α,λq,β及び電機子鎖交磁束Kが与えられ、式(16)に従って(K/Dλ)の逆余弦を計算して位相差δを求める。このとき位相差δは、(L−L)・i>0ならば−π/2<δ<0の範囲で求め、(L−L)・i<0ならば0<δ<π/2の範囲で求める。ここで振幅Dλは、式(8)で示される振幅Dを変形して求められ、磁束鎖交数λq,α,λq,βだけを含む。
【0074】
【数16】

【0075】
振幅Dλを計算する際には磁束鎖交数λq,α,λq,βだけを用いるので、q軸インダクタンスLを用いて計算される振幅Dと異なり、q軸インダクタンスLの影響を受けない。すなわち、位置角演算部23によれば、q軸インダクタンスLを用いずに位相差δを求めるので、位相差δについても磁気飽和の影響を小さくすることができる。よって、位相差δに生じる誤差が小さくなって、回転位置角θreがより精度よく推定される。
【0076】
本実施の形態において、突極モータ2において逆トルクが生じない場合には、q軸電流iは正の値であり、0〜2πの範囲で回転位置角が一意に決まる。よって、q軸電流iの符号に基づいて位相差δを選定しなくてもよい。
【0077】
この場合には、回転位置角推定部1はq軸電流演算部22を含まずに構成される。
【0078】
第2の実施の形態.
図4は、本実施の形態にかかる回転位置角推定装置を概念的に示すブロック図である。この回転位置角推定装置は、図1で示される回転位置角推定部1に替えて回転位置角推定部2が採用される。回転位置角推定部2は、回転位置角推定部1に含まれる位置角演算部23に替えて、位置角演算部24を有する。図4に示される構成要素のうち図1で示される構成要素と同じものには、同符号が付されている。
【0079】
位置角演算部24は、磁束鎖交数λq,α,λq,βと、前回推定された回転位置角θre1とが与えられる。
【0080】
図5は、位置角演算部24を概念的に示すブロック図である。位置角演算部24は、逆正接部241、位相差演算部242及び選定部243を有する。
【0081】
逆正接部241は、磁束鎖交数λq,α,λq,βが与えられ、式(14)に従って(λq,β/λq,α)の逆正接を計算して位相θreλを求める。このとき位相θreλは、λq,α>0ならば−π/2から+π/2の範囲で求め、λq,α<0ならば+π/2から+3π/2の範囲で求める。そして、位相θreλは選定部243に与えられる。
【0082】
位相差演算部242は、d軸インダクタンスL、q軸インダクタンスL、q軸電流i及び電機子鎖交磁束Kが与えられ、式(9)に従って(K/D)の逆余弦を計算して位相差δを求める。このとき位相差δは、例えば−π/2<δ<0の範囲で求める。そして、位相差δは選定部243に与えられる。
【0083】
選定部243は、図6で示されるフローチャートに従って、回転位置角θreを選定する。角度θreλ及び位相差δは、ステップ101で用いられる。角度θreλと位相差δとの差で求められる角度(θreλ−δ)が、前回推定された回転位置角θre1よりも大きい場合には、ステップ102において角度(θreλ−δ)から回転位置角θre1を差し引くことで差分Δθが求められる。また、角度(θreλ−δ)が回転位置角θre1よりも小さい場合には、ステップ103において回転位置角θre1から角度(θreλ−δ)を差し引くことで差分Δθが求められる。
【0084】
ステップ104において差分Δθがπよりも大きいと判断された場合には、ステップ105において2πから差分Δθを差し引いた値を、新たな差分Δθとして更新する。また、ステップ104において差分Δθがπよりも小さいと判断された場合には、差分Δθは更新されない。
【0085】
選定部243に与えられた角度θreλ及び位相差δは、ステップ106でも用いられる。角度θreλと位相差δとの和で求められる角度(θreλ+δ)が、前回推定された回転位置角θre1よりも大きい場合には、ステップ107において角度(θreλ+δ)から回転位置角θre1を差し引くことで差分Δθが求められる。また、角度(θreλ+δ)が回転位置角θre1よりも小さい場合には、ステップ108において回転位置角θre1から角度(θreλ+δ)を差し引くことで差分Δθが求められる。
【0086】
ステップ109において差分Δθがπよりも大きいと判断された場合には、ステップ110において2πから差分Δθを差し引いた値を、新たな差分Δθとして更新する。また、ステップ109において差分Δθがπよりも小さいと判断された場合には、差分Δθは更新されない。
【0087】
ステップ111において差分Δθが差分Δθよりも大きいと判断された場合には、ステップ112において回転位置角θreとして角度(θreλ+δ)を採用する。また、ステップ111において差分Δθが差分Δθよりも小さいと判断された場合には、回転位置角θreとして角度(θreλ−δ)を採用する。そして、回転位置角θreは位置角演算部17から出力される。
【0088】
上述した内容は、多値(θreλ+δ),(θreλ−δ)で求まる回転位置角θreを、前回推定された回転位置角θre1に基づいて一つ選定すると把握することができる。
【0089】
上述した回転位置角推定装置によれば、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。しかも、q軸電流を用いる必要がないので、q軸電流に含まれる誤差の影響を妨げ、より精度良く回転位置角θreが推定される。
【0090】
位置角演算部24は、図7で示されるブロック図に従って構成されてもよい。この位置角演算部24は、図2で示される位相差演算部242に替えて位相差演算部244を有する。図7で示される構成要素のうち図5で示される構成要素と同じものは、同符号が付されており、同じ動作を行う。
【0091】
位相差演算部244は、磁束鎖交数λq,α,λq,β及び電機子鎖交磁束Kが与えられ、式(16)に従って(K/Dλ)の逆余弦を計算して位相差δを求める。このとき位相差δは、例えば−π/2<δ<0の範囲で求める。
【0092】
振幅Dλに基づいて位相差δを得ることで、第1の実施の形態で説明したと同様の理由から、位相差δに生じる誤差が小さくなって、回転位置角θreがより精度よく推定される。
【0093】
上述したいずれの実施の形態においても、電機子鎖交磁束Kを零とすることもできる。すなわち、いずれの実施の形態も、磁石を有する突極モータに限らず、磁石を有さない突極モータ、例えばリラクタンスモータへ適用することができる。
【0094】
上述したいずれの実施の形態においても、電流制御部4は、回転位置角推定部1,2で得られる回転位置角θreを用いて、インバータ5に入力する電圧指令値v*α,v*βを求めると把握することができる。そして、電圧指令値v*α,v*βにより、インバータ5を介して突極モータ2が制御される。
【0095】
これによれば、回転位置角θreを考慮した電圧指令値v*α,v*βが得られるので、突極モータ2が精度良く制御される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】第1の実施の形態で説明される、回転位置角推定装置を概念的に示すブロック図である。
【図2】位置角演算部23を概念的に示すブロック図である。
【図3】位置角演算部23を概念的に示すブロック図である。
【図4】第2の実施の形態で説明される、回転位置角推定装置を概念的に示すブロック図である。
【図5】位置角演算部24を概念的に示すブロック図である。
【図6】選定部243での選定技術を概念的に示すフローチャート図である。
【図7】位置角演算部24を概念的に示すブロック図である。
【図8】固定座標系と回転座標系を示す平面図である。
【符号の説明】
【0097】
θre,θre1 回転位置角
*α,v*β 電圧指令値
,v,v 3相電圧
,i,i 3相電流
α,vβ 2相電圧
α,iβ 2相電流
d軸インダクタンス
q軸インダクタンス
λq,α,λq,β 磁束鎖交数
q軸電流
電機子鎖交磁束
δ 位相差
1 回転位置角推定部
2 突極モータ
4 電流制御部
5 インバータ
6 3/2相変換部
21 λ演算部
22 q軸電流演算部
23,24 位置角演算部
231 逆正接部
232,234 位相差演算部
233 加減算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ(5)を介して制御される突極性を有するモータ(2)の回転位置角(θre)を推定する方法であって、
(a)固定座標系での電圧(vα,vβ)及び電流(iα,iβ)を得るステップと、
(b)前記モータのインダクタンスのうち前記回転位置角に基づいて回転する回転座標系でのd軸成分(L)と、前記電圧と、前記電流とを用いて磁束鎖交数(λq,α,λq,β)を求めるステップと、
(c)少なくとも前記磁束鎖交数を用いて前記回転位置角を求めるステップと
を備える、回転位置角推定方法。
【請求項2】
前記モータ(2)において逆トルクが生じない、請求項1記載の回転位置角推定方法。
【請求項3】
前記ステップ(c)は、
(c−1)前記電流(iα,iβ)の前記回転座標系のq軸方向への成分(i)を求めるステップと、
(c−2)前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)と前記電流の前記成分とを用いて前記回転位置角(θre)を求めるステップと
を行う、請求項1記載の回転位置角推定方法。
【請求項4】
前記ステップ(c−2)は、
前記磁束鎖交数の成分のうち前記モータ(2)の固定子に対する固定座標系でのβ成分(λq,β)を、前記磁束鎖交数の前記固定座標系でのα成分(λq,α)で除してから、その逆正接を求め、
前記モータの前記回転座標系でのd軸成分(L)及びq軸成分(L)と、前記電流の前記成分(i)と、前記モータの電機子鎖交磁束(K)とから多値で求まる、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)の位相と前記回転位置角との位相差(δ)を、前記電流の前記成分(i)の符号に基づいて一つ選定し、
前記逆正接の値から前記位相差を差し引いて、前記回転位置角(θre)を求める、請求項3記載の回転位置角推定方法。
【請求項5】
前記ステップ(c−2)は、
前記磁束鎖交数の成分のうち前記モータ(2)の固定子に対する固定座標系でのβ成分(λq,β)から、前記磁束鎖交数の前記固定座標系でのα成分(λq,α)を除してから、その逆正接を求め、
前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)と前記モータの電機子鎖交磁束(K)とから多値で求まる、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)の位相と前記回転位置角との位相差(δ)を、前記電流の前記成分(i)の符号に基づいて一つ選定し、
前記逆正接の値から前記位相差を差し引いて、前記回転位置角(θre)を求める、請求項3記載の回転位置角推定方法。
【請求項6】
前記ステップ(c)は、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)から多値で求まる前記回転位置角(θre)を、予め求められた前記回転位置角(θre1)に基づいて一つ選定する、請求項1記載の回転位置角推定方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一つにかかる回転位置角推定方法で得られる前記回転位置角(θre)を用いて、前記インバータ(5)に入力する電圧指令値(v*α,v*β)を求める、インバータ制御方法。
【請求項8】
インバータ(5)を介して制御される突極性を有するモータ(2)の回転位置角(θre)を推定する装置であって、
回転位置角推定部(1)と、
相変換部(6)と
を備え、
前記相変換部は、固定座標系での電圧(vα,vβ)及び電流(iα,iβ)を求め、
前記回転位置角推定部は、
第1演算部(21)と、
第2演算部(23;24)と
を有し、
前記第1演算部は、前記モータのインダクタンスのうち回転位置角に基づいて回転する回転座標系のd軸方向への成分(L)と、前記電圧と、前記電流とを用いて磁束鎖交数(λq,α,λq,β)を求め、
前記第2演算部は、少なくとも前記磁束鎖交数を用いて前記回転位置角を求める、回転位置角推定装置。
【請求項9】
前記モータ(2)において逆トルクが生じない、請求項8記載の回転位置角推定装置。
【請求項10】
前記回転位置角推定部(1)は、
第3演算部(22)を
更に有し、
前記第3演算部は、前記電流の前記回転座標系のq軸方向への成分(i)を求め、
前記第2演算部(23)は、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)と前記電流の前記成分とを用いて前記回転位置角(θre)を求める、請求項8記載の回転位置角推定装置。
【請求項11】
前記第2演算部(23)は、
逆正接部(231)と、
位相差演算部(232)と、
加減算器(233)と
を有し、
前記逆正接部は、前記磁束鎖交数の成分のうち前記モータ(2)の固定子に対する固定座標系でのβ成分(λq,β)を、前記磁束鎖交数の前記固定座標系でのα成分(λq,α)で除してから、その逆正接を求め、
前記位相差演算部は、前記モータの前記回転座標系でのd軸成分(L)及びq軸成分(L)と、前記電流の前記成分(i)と、前記モータの電機子鎖交磁束(K)とから多値で求まる、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)の位相と前記回転位置角との位相差(δ)を、前記電流の前記成分(i)の符号に基づいて一つ選定し、
前記加減算器は、前記逆正接の値から前記位相差を差し引いて、前記回転位置角(θre)を求める、請求項10記載の回転位置角推定装置。
【請求項12】
前記第2演算部(23)は、
逆正接部(231)と、
位相差演算部(234)と、
加減算器(233)と
を有し、
前記逆正接部は、前記磁束鎖交数の成分のうち前記モータ(2)の固定子に対する固定座標系でのβ成分(λq,β)を、前記磁束鎖交数の前記固定座標系でのα成分(λq,α)で除してから、その逆正接を求め、
前記位相差演算部は、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)と前記モータの電機子鎖交磁束(K)とから多値で求まる、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)の位相と前記回転位置角との位相差(δ)を、前記電流の前記成分(i)の符号に基づいて一つ選定し、
前記加減算器は、前記逆正接の値から前記位相差を差し引いて、前記回転位置角(θre)を求める、請求項10記載の回転位置角推定装置。
【請求項13】
前記第2演算部(24)は、予め求めた前記回転位置角(θre1)が与えられ、前記磁束鎖交数(λq,α,λq,β)から多値で求まる前記回転位置角(θre)を、予め求めた前記回転位置角に基づいて一つ選定する、請求項8記載の回転位置角推定装置。
【請求項14】
請求項8乃至請求項13のいずれか一つにかかる回転位置角推定装置と、
電流制御部(4)と
を備え、
前記電流制御部は、前記回転位置角推定装置で得られる前記回転位置角(θre)を用いて、前記インバータ(5)に入力する電圧指令値(v*α,v*β)を求める、インバータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−14499(P2006−14499A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188518(P2004−188518)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】