説明

回転部材用物理量測定装置

【課題】回転部材の変位量とこの回転部材に作用する荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為に使用する、エンコーダ1aの被検出面に対向させたセンサの出力信号に基づいて、前記回転部材の回転速度を精度良く測定できる構造を実現すべる。
【解決手段】前記エンコーダ1aの被検出面に設けた各特性変化組み合わせ部3a、3aを構成する1対の透孔11a、11bのうち、一方の透孔11aを前記被検出面の幅方向に形成し、他方の透孔11bをこの幅方向に対して傾斜した方向に形成する。このうちの一方の透孔11a、11aに基づいて発生するパルス間の周期L(L1、L2)に基づいて、前記回転部材の回転速度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライス盤、マシニングセンタ等の各種工作機械の主軸、或いは、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材の如く、高荷重を受けつつ高速で回転する回転部材の変位量と、この回転部材に作用する荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工作機械の主軸は、先端部に刃物等の工具を固定した状態で高速回転し、加工台上に固定した被加工物に、切削等の加工を施す。前記主軸を回転自在に支持したハウジングである主軸頭(ヘッド)は、この被加工物の加工の進行に伴って、所定方向に所定量だけ移動し、この被加工物を、所定の寸法及び形状に加工する。この様な加工作業時、前記主軸頭の移動速度を適正にする事が、加工能率を確保しつつ、前記工具の耐久性及び前記被加工物の品質を確保する為に必要である。即ち、前記移動速度が速過ぎると、前記工具に無理な力が加わり、この工具の耐久性が著しく損なわれるだけでなく、前記被加工物の表面性状が悪化したり、著しい場合にはこの被加工物に亀裂等の損傷が発生したりする。逆に、前記移動速度が遅過ぎると、前記被加工物の加工能率が徒に悪化する。
【0003】
前記主軸頭の移動速度の適正値は一定ではなく、工具の種類(大きさ)、被加工物の材質や形状により大きく変わる為、前記移動速度を一定としたまま、この移動速度を適正値に維持する事は難しい。この為、前記工具を固定した主軸に加わる荷重を測定する事により、前記移動速度を適正値に調節する事が、従来から知られている。即ち、工具により被加工物に切削等の加工を施す際には、加工抵抗により、この工具及びこの工具を固定した主軸に荷重が加わる。この加工抵抗、延いてはこの主軸に加わる荷重は、前記移動速度が速くなる程大きくなり、逆に、この移動速度が遅くなる程小さくなる。そこで、前記荷重が所定範囲に収まる様に、前記移動速度を調節すれば、この移動速度を適正範囲に収める事ができる。
【0004】
又、この移動速度等、他の条件を同じとした場合に前記荷重は、前記工具の切削性(切れ味)が劣化する程大きくなる。そこで、前記移動速度との関係で前記荷重の大小を観察すれば、前記工具が寿命に達した事を知る事ができて、寿命に達した不良工具で加工を継続する事による、歩留まりの悪化を防止できる。又、前記荷重を、前記移動速度等、他の加工条件と関連付けて継続的に観察する事により、最適な加工条件を見出して、省エネルギ化や工具の長寿命化に繋げる事もできる。更に、継続的観察により、工具破損等の事故発生時に、その原因を特定する事もできる。
【0005】
この様な目的で、工作機械の主軸等の回転軸に加わる荷重(切削抵抗)を測定する為の装置として従来から、例えば特許文献1に記載された構造のものが知られている。この特許文献1に記載された荷重測定装置は、水晶圧電式の荷重センサを複数個、荷重の作用方向に対して直列に配置し、これら各荷重センサの測定信号に基づいて、切削工具を支持固定した回転軸に加わる荷重(切削抵抗)を測定する様に構成している。この様な特許文献1に記載された荷重測定装置の場合、高価な水晶圧電式の荷重センサを使用する為、荷重測定装置全体としてのコストが嵩む事が避けられない。
【0006】
一方、特許文献2には、水晶圧電式の荷重センサに比べて低コストで調達できる、磁気式のエンコーダとセンサとにより構成する、荷重測定装置付転がり軸受ユニットに関する発明が記載されている。例えば特許文献2の段落[0066]〜[0068]には、図33に示す様なエンコーダ1を使用して、このエンコーダ1を同心に支持した回転部材の軸方向に関する変位量、延いてはこの回転部材に加わるアキシアル荷重を測定する技術が記載されている。
【0007】
前記エンコーダ1は、鋼板等の磁性金属板を円筒状に形成して成るもので、それぞれが特性変化部である、1対ずつの透孔2a、2bから成る、複数の特性変化組み合わせ部3、3を、円周方向に関して等間隔に配置している。これら各特性変化組み合わせ部3、3を構成する、前記両透孔2a、2bの、前記エンコーダ1の軸方向に対する傾斜角度は、絶対値が互いに等しく、且つ、正負の符号(傾斜方向)が互いに逆になっている。この様なエンコーダ1は、工作機械の主軸の如き回転部材の一部に、この回転部材と同心に固定する。これと共に、この回転部材に隣接する部分に設けられた静止部材の一部に、磁気検知式のセンサを支持した状態で、このセンサの検出部を、前記エンコーダ1の外周面に微小隙間を介して近接対向させる。
【0008】
この状態で、前記主軸と共に前記エンコーダ1が回転すると、前記センサの検出部が、被検出面である、このエンコーダ1の外周面を走査する。このエンコーダ1の外周面の磁気特性は、前記各透孔2a、2bの存在により円周方向に変化している為、前記エンコーダ1の回転に伴って前記センサの出力信号が変化する。例えば、このセンサの検出部が前記エンコーダ1の外周面のうち、図34の(a)の鎖線イ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図34の(b)に示す様に変化する。この図34の(b)で、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3、3の円周方向片側(同図に於ける左側)の透孔2a、2aに基づいて発生する1対のパルス間の周期を全周期L1とする。又、同じ特性変化組み合わせ部3を構成する1対の透孔2a、2bに基づいて発生する1対のパルス間の周期を部分周期δ1とする。前記センサの検出部が前記鎖線イ位置を走査する場合には、この部分周期δ1と前記全周期L1との比であるパルス周期比δ1/L1は、比較的小さな値となる。これに対して、前記センサの検出部が図34の(a)の鎖線ロ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図34の(c)に示す様に変化する。そして、部分周期δ2と全周期L2との比であるパルス周期比δ2/L2は、比較的大きな値となる。
【0009】
この様に、前記センサの出力信号に関するパルス周期比δ/Lは、このセンサの検出部が走査する、前記エンコーダ1の外周面の軸方向位置(被検出面の幅方向位置)により変化する。そして、この軸方向位置は、エンコーダを固定した回転部材の軸方向変位により変化する。従って、前記センサの出力信号を処理する為の演算器に、前記回転部材の軸方向変位量を算出する為の式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比δ/Lに基づいて、前記回転部材の軸方向変位量を算出できる。又、この回転部材が、予圧を付与された転がり軸受により回転自在に支持されていた場合、この回転部材の軸方向変位量は、この回転部材に加わるアキシアル荷重の大きさに応じて変化する。言い換えれば、この回転部材に加わるアキシアル荷重と、この回転部材の軸方向変位量との間には、反復・再現性のある相関関係が存在する。そして、この相関関係は、転がり軸受の分野で広く知られている弾性接触理論により計算で求められる他、実験によっても求められる。従って、前記演算器に、前記相関関係を勘案した、前記アキシアル荷重を算出する為の式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比δ/Lに基づいて、前記回転部材に加わるアキシアル荷重を算出できる。
【0010】
ところで、上述した様なエンコーダ1と組み合わせて使用するセンサの出力信号を、主軸等の回転部材の回転速度を測定する為に利用できれば、この回転速度を測定する為の装置を別途設ける必要がなくなり、その分だけ、省スペース化及び低廉化を図れる。そこで、かかる利用の可否に就いて検討する。先ず、前記エンコーダ1に設けられた各透孔2a、2bのうちで、それぞれが円周方向に関して1つ置きに設けられた複数の透孔2a、2a(又は2b、2b)は、円周方向に関して等間隔に配置されている。又、これら各透孔2a、2a(又は2b、2b)の、前記エンコーダ1の軸方向に対する正負の符号をも考慮した傾斜角度は、それぞれ等しくなっている。即ち、これら各透孔2a、2a(又は2b、2b)の円周方向に関する間隔は、等間隔になっており、この間隔の大きさは、前記エンコーダ1の軸方向の何れの位置に於いても等しくなっている。従って、前記各透孔2a、2a(又は2b、2b)に基づいて発生したパルスの周波数(又は周期)は、前記エンコーダ1の外周面の軸方向位置によらず、前記回転部材の回転速度に比例(又は反比例)したものとなる。この為、このパルスの周波数(又は周期)に基づいて、前記回転部材の回転速度を測定する事ができる。
【0011】
ところが、前記各透孔2a、2a(又は2b、2b)に基づいて発生したパルスの周波数(又は周期)は、前記回転部材の回転速度とは別に、この回転部材に作用するアキシアル荷重の変動によっても変動する。即ち、前記各透孔2a、2a(又は2b、2b)は、前記エンコーダ1の軸方向に対して傾斜している。別な言い方をすれば、これら各透孔2a、2a(又は2b、2b)の円周方向に関する配置の位相は、前記エンコーダ1の軸方向に関して漸次変化している。この為、前記回転部材に作用するアキシアル荷重(前記センサの検出部が走査する、前記エンコーダ1の外周面の軸方向位置)が変動すると、前記各透孔2a、2a(又は2b、2b)に基づいて発生したパルスの位相が変動し、これに伴い、このパルスの周波数(又は周期)が変動する。この様なパルスの周波数(又は周期)の変動は、前記回転速度の測定精度を低下させる原因となる為、好ましくない。従って、この様な不都合が生じない構造を実現する事が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−187048号公報
【特許文献2】特開2006−317420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、回転部材の変位量とこの回転部材に作用する荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為に使用するセンサの出力信号に基づいて、前記回転部材の回転速度を精度良く測定できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の回転部材用物理量測定装置は、静止部材と、回転部材と、エンコーダと、センサと、演算器とを備える。
このうちの静止部材は、使用時にも回転しない。
又、前記回転部材は、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、前記静止部材に対して回転自在に支持されている。
又、前記エンコーダは、前記回転部材の一部に支持固定されており、この回転部材と同心の被検出面を有する。この被検出面は、複数の特性変化組み合わせ部を円周方向に関して等間隔に配置したもので、これら各特性変化組み合わせ部は、前記被検出面の幅方向に対する正負の符号をも考慮した傾斜角度が互いに異なる1対の特性変化部を、前記被検出面の円周方向に離隔した状態で設けたものである。
又、前記センサは、その検出部を前記被検出面に対向させた状態で、前記静止部材に支持されている。そして、前記各特性変化組み合わせ部を構成する前記各特性変化部が、前記被検出面のうちで前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に、出力信号を変化させる。
更に、前記演算器は、前記センサの出力信号を処理する。具体的には、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部の円周方向片側の特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である全周期と、これら両特性変化部のうちの一方の特性変化部及び円周方向に関してこれら両特性変化部同士の間に配置された別の特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である部分周期との比である、パルス周期比に基づいて、それぞれが前記被検出面の幅方向に関する、前記回転部材の変位量と、この回転部材に加わる荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を算出する。
特に、本発明の回転部材用物理量測定装置に於いては、前記各特性変化組み合わせ部を構成する1対の特性変化部のうち、円周方向に関して何れか一方の側に配置される特性変化部を、前記被検出面の幅方向に形成された、非傾斜特性変化部としている。これと共に、同じく円周方向に関して他方の側に配置される特性変化部を、前記被検出面の幅方向に対して所定角度だけ傾斜した方向に形成された、傾斜特性変化部としている。
【0015】
本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記演算器に、前記全周期が経過する毎に前記物理量の算出処理を実行するか否かを選択可能な機能を持たせる。
【0016】
この為に、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記演算器に、前記全周期が経過する毎に、この全周期の積算値を求めさせる。これと共に、この積算値と予め設定された閾値とを比較させる。そして、この積算値がこの閾値を超えている場合にのみ、前記物理量の算出処理を実行させる。この場合に、前記積算値は、この物理量の算出処理が実行される際に零に戻されるものとする。
又、この場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の構成を採用する。具体的には、前記回転部材が最高回転速度で回転している状態で、前記全周期が経過してからこの全周期中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理を1回実行し終わるまでの間に要する時間を基準として、前記閾値を、この時間よりも長い時間とする。
【0017】
或いは、上述した請求項3に記載した発明の構成に代えて、例えば請求項5に記載した発明の構成を採用する。具体的には、前記演算器に、前記全周期が経過する毎に、この全周期の経過回数を計測させる。これと共に、この経過回数と予め設定された規定回数とを比較させる。そして、これら経過回数と規定回数とが一致した場合にのみ、前記物理量の算出処理を実行させる。この場合に、前記経過回数は、この物理量の算出処理が実行される際に零に戻されるものとする。
又、この場合に、好ましくは、請求項6に記載した発明の構成を採用する。具体的には、前記回転部材が所定の定常回転速度で回転している状態での前記全周期をLSとし、この状態でこの全周期LSが経過してからこの全周期LS中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理を1回実行し終わるまでの間に要する時間をTSとした場合に、前記規定回数を、これらの比TS/LSの値よりも大きい自然数とする。
【0018】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項7に記載した発明の様に、前記エンコーダとして、周面を被検出面とした第一のエンコーダと、軸方向側面を被検出面とした第二のエンコーダとを設ける。これと共に、前記センサとして、その検出部を前記第一のエンコーダの被検出面に対向させた第一のセンサと、その検出部を前記第二のエンコーダの被検出面に対向させた第二のセンサとを設ける。
【0019】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項8に記載した発明の様に、前記エンコーダとして、軸方向側面を被検出面としたものを設ける。これと共に、前記センサとして、それぞれの検出部を、前記エンコーダの被検出面のうちで円周方向に関して互いに異なる部分に対向させた、1対のセンサを設ける。
【0020】
又、本発明を実施する場合には、例えば請求項9に記載した発明の様に、前記静止部材を、工作機械を構成するハウジングとする。これと共に、前記回転部材を、この工作機械を構成する主軸とする。
或いは、請求項10に記載した発明の様に、前記静止部材を、車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する静止側軌道輪部材、又は、車体の一部を構成する部材とする。これと共に、前記回転部材を、前記車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材とする。
【発明の効果】
【0021】
上述の様に構成する本発明の回転部材用物理量測定装置によれば、回転部材の変位量とこの回転部材に作用する荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為に使用するセンサの出力信号に基づいて、この物理量の変化の影響を受ける事なく、前記回転部材の回転速度を精度良く測定できる。
即ち、エンコーダの被検出面には、複数の非傾斜特性変化部が、円周方向に関して等間隔に配置されている。これら各非傾斜特性変化部は、前記被検出面の幅方向と一致する方向に形成されている。つまり、これら各非傾斜特性変化部の円周方向に関する配置の位相は、前記被検出面の幅方向に関して変化していない。この為、前記センサの出力信号のうち、前記各非傾斜特性変化部に基づいて発生したパルスの周波数(又は周期)は、前記物理量の値(前記センサの検出部が走査する、前記被検出面の幅方向位置)によらず、前記回転部材の回転速度にのみ対応して変化する。しかも、この回転速度が一定であれば、前記パルスの周波数(又は周期)は、前記物理量の値が変動している最中であっても、変動する事はない。従って、このパルスの周波数(又は周期)に基づいて、前記物理量の変化の影響を受ける事なく、前記回転部材の回転速度を精度良く測定する事ができる。
【0022】
又、本発明を実施する場合に、請求項2〜6に記載した発明の構成を採用すれば、回転部材が高速回転する状態での物理量(変位量、荷重)の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性(単位時間当たりの、この物理量の算出回数)を、前記回転部材の総ての回転速度範囲で十分に確保できる。この点に就いて、以下に詳しく説明する。
【0023】
先ず、本発明の回転部材用物理量測定装置を構成する演算器は、基本的には、全周期が経過する毎に、前記物理量の算出処理を実行する。従って、この全周期が短くなれば、その分だけ、この物理量の測定に関する応答性が良好になる。一方、この全周期の長さは、被検出面に設ける特性変化組み合わせ部の数が多く(少なく)なる程、短く(長く)なる。従って、この被検出面に設ける特性変化組み合わせ部の数を多くすれば、その分だけ、前記物理量の測定に関する応答性を良好にできる。但し、前記全周期の長さは、前記回転部材の回転速度によっても変化する。即ち、この全周期の長さは、この回転部材の回転速度が高く(低く)なる程、短く(長く)なる。従って、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部の数を多くすると、前記回転部材が高速回転する状態での全周期が短くなり過ぎて、前記演算器の処理能力が追い付かなくなる可能性がある。具体的には、先に実行し始めた物理量の算出処理が完了する前に、次の物理量の算出処理が開始され、この物理量の算出処理が重複して実行される可能性がある。この結果、1回毎の物理量の算出処理時間が長くなったり、著しい場合には、この物理量の算出処理が全く行えなくなったりする可能性がある。この様な異常の発生は、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部の数を少なくする事によって、回避する事ができる。但し、この被検出面に設ける特性変化組み合わせ部の数を少なくすると、前記回転部材が低速回転する状態での全周期の長さが徒に長くなり、この状態での前記物理量の測定に関する応答性を十分に確保する事が難しくなる。
【0024】
これに対して、請求項2〜6に記載した発明の構成を採用すれば、例えば、前記回転部材が低速回転する状態では、前記物理量の算出処理を、前記全周期が経過する毎に毎回実行し、前記回転部材が高速回転する状態では、前記物理量の算出処理を、前記全周期が経過する毎に毎回は実行せず、何回かに1回の割合(前記物理量の算出処理が重複して実行されない間隔)で実行する様にできる。この様にすれば、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部の数を多くする事によって、前記回転部材が低速回転する状態での前記物理量の測定に関する応答性を十分に確保でき、しかも、前記回転部材が高速回転する状態で、前記演算器の処理能力が追い付かなくなる事を防止できる。従って、この様にすれば、前記回転部材が高速回転する状態での物理量の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性を、前記回転部材の総ての回転速度範囲で十分に確保できる。
【0025】
又、本発明を実施する場合に、請求項7に記載した発明の構成を採用すれば、第一のセンサの出力信号のパルス周期比に基づいて、回転部材の軸方向変位量とこの回転部材に軸方向に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を算出できる。これと共に、第二のセンサの出力信号のパルス周期比に基づいて、前記回転部材の径方向変位量とこの回転部材に径方向に加わるラジアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を算出できる。
【0026】
又、本発明を実施する場合に、請求項8に記載した発明の構成を採用すれば、被検出面の中心軸を中心とする、1対のセンサの検出部の相対配置角度がα度である場合に、これら両センサの出力信号のパルス周期比に基づいて、それぞれが回転部材に関する物理量である、互いの交差角度がα度である2方向のラジアル変位量及びラジアル荷重を測定する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】図1のX部拡大図。
【図3】エンコーダを取り出して示す斜視図。
【図4】被検出面である、エンコーダの外周面の一部を示す展開図。
【図5】センサユニットを取り出して、先端のセンサ装着部を被覆していない状態(a)と被覆した状態(b)とで示す斜視図。
【図6】センサの出力信号に基づいて物理量を測定できる理由を説明する為の模式図。
【図7】演算器が物理量を求める際に実行する、タスクAでの処理内容を示す模式図。
【図8】パターン進み数が1の場合に於ける、タスクAでの処理内容とタスクBの実行ポイントとを示す模式図。
【図9】パターン進み数が2の場合に於ける、図8と同様の図。
【図10】パターン進み数が3〜5の場合に於ける、タスクBの実行ポイントを示す模式図。
【図11】長さ2のパルス周期バッファを示す模式図。
【図12】主軸が最高回転速度で回転している状態で、タスクBを1回実行する際に行われる処理の流れを示す模式図。
【図13】本発明の実施の形態の第2例を示す、演算器が物理量を求める際に実行する、タスクAでの処理内容を示す模式図。
【図14】規定回数N(パターン進み数)が1の場合に於ける、タスクAでの処理内容とタスクBの実行ポイントとを示す模式図。
【図15】規定回数N(パターン進み数)が2の場合に於ける、図14と同様の図。
【図16】規定回数N(パターン進み数)が3〜5の場合に於ける、タスクBの実行ポイントを示す模式図。
【図17】本発明の実施の形態の第3例を示す、エンコーダとセンサとが対向する部分の断面図。
【図18】この第3例に組み込むエンコーダの斜視図。
【図19】同じくセンサの斜視図。
【図20】本発明の実施の形態の第4例を示す、図17と同様の図。
【図21】この第4例に組み込むエンコーダの斜視図。
【図22】同じくエンコーダを軸方向から見た図。
【図23】同じくセンサの斜視図。
【図24】本発明の実施の形態の第5例を示す、図17と同様の図。
【図25】この第5例に組み込むエンコーダの斜視図。
【図26】同じくセンサの斜視図。
【図27】本発明の実施の形態の第6例を示す断面図。
【図28】センサを包埋したホルダ及びカバーを取り出して示す斜視図。
【図29】本発明の実施の形態の第7例を示す断面図。
【図30】センサを包埋したホルダ及びカバーを取り出して示す斜視図。
【図31】本発明の実施の形態の第8例を示す断面図。
【図32】本発明の実施の形態の第3例に組み込むエンコーダの被検出面の一部を示す拡大図。
【図33】従来から知られているエンコーダの斜視図。
【図34】センサの出力信号に基づいて物理量を測定できる理由を説明する為の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態の第1例]
図1〜12により、請求項1〜4、9に対応する、本発明の実施の形態の第1例に就いて説明する。本例は、工作機械を構成する、回転部材である主軸4の軸方向変位量と、この主軸4に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為の構造に、本発明を適用した例である。前記工作機械は、静止部材であるハウジング(主軸頭)5の内径側に前記主軸4を、多列転がり軸受ユニット6により回転自在に支持すると共に、電動モータ7により、前記主軸4を回転駆動自在としている。前記多列転がり軸受ユニット6を構成する複数個の転がり軸受8a〜8dのうち、先端寄りに配置した2個の転がり軸受8a、8bと、基端寄りに配置した2個の転がり軸受8c、8dとには、互いに逆向きの接触角を付与すると共に、これら各転がり軸受8a〜8dに、予圧を付与している。これにより、前記主軸4を前記ハウジング5に対して、ラジアル荷重及び両方向のアキシアル荷重を支承する状態で、がたつきなく、回転自在に支持している。前記工作機械の運転時には、前記主軸4の先端部(図1の左端部)に固定した工具(図示省略)を、適切な回転速度で回転させつつ被加工物に押し付け、この被加工物に、切削等の加工を施す。この様にして加工を施す際に、前記主軸4には、この被加工物に前記工具を押し付ける事の反作用として、各方向の荷重が加わる。本例の構造では、このうちの前記主軸4の軸方向に作用する、前記アキシアル荷重に基づく、この主軸4の軸方向の変位量(更に必要に応じてこのアキシアル荷重)を求められる様にしている。
【0029】
この為に本例の場合も、前述した従来構造の場合と同様、図3〜4に示す様なエンコーダ1aと、図5に示す様なセンサユニット9を構成する単一のセンサ10との組み合わせを使用する。このうちのエンコーダ1aは、前記主軸4の中間部先端寄り部分で、前記多列転がり軸受ユニット6を構成する転がり軸受8b、8c同士の間に外嵌固定している。このエンコーダ1aは、内輪間座を兼ねるもので、鋼等の磁性金属により造り、全体を円筒状としている。そして、このエンコーダ1aに、複数の特性変化組み合わせ部3a、3aを、円周方向に関して等間隔に形成している。これら各特性変化組み合わせ部3a、3aは、それぞれが特性変化部である、1対の直線状の透孔11a、11bを、前記エンコーダ1aの円周方向に離隔配置して成る。本例の場合には、これら両透孔11a、11bのうち、円周方向に関して一方の側(図4に於ける左側)に配置した透孔11aを、前記エンコーダ1aの軸方向(図4に於ける上下方向)に形成した、非傾斜特性変化部としている。これと共に、同じく円周方向に関して他方の側(図4に於ける右側)に配置した透孔11bを、前記エンコーダ1aの軸方向に対して所定方向に所定角度(好ましくは45〜85度程度、より好ましくは60〜83度程度、更に好ましくは75〜81度程度)だけ傾斜した方向に形成した、傾斜特性変化部としている。
【0030】
又、前記センサユニット9は、合成樹脂製のホルダ12の先端部に、前記センサ10を包埋して成る。このセンサ10は、前記エンコーダ1aに形成した、前記各透孔11a、11bの存在に基づいて出力信号が変化するものであり、検出部を構成するホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子と、永久磁石とから成る。この様なセンサユニット9は、前記センサ10の検出部を、被検出面である、前記エンコーダ1aの外周面に近接対向させた状態で、前記ハウジング5に支持固定している。
【0031】
上述の様な構成を有する本例の回転部材用物理量測定装置の場合も、前述した従来構造の場合と同様、前記主軸4と共に前記エンコーダ1aが回転すると、前記センサ10の検出部が、被検出面である、このエンコーダ1aの外周面を走査する。このエンコーダ1aの外周面の磁気特性は、前記各透孔11a、11bの存在により円周方向に変化している為、前記エンコーダ1aの回転に伴って前記センサ10の出力信号が変化する。例えば、このセンサ10の検出部がこのエンコーダ1aの外周面のうち、図6の(a)の鎖線イ位置を走査すると、このセンサ10の出力信号が、この図6の(b)に示す様に変化する。この図6の(b)で、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3a、3aの円周方向片側(図6に於ける左側)の透孔11a、11aに基づいて発生する1対のパルス間の周期を全周期L1とする。又、同じ特性変化組み合わせ部3aを構成する1対の透孔11a、11bに基づいて発生する1対のパルス間の周期を部分周期δ1とする。前記センサ10の検出部が前記鎖線イ位置を走査する場合には、この部分周期δ1と前記全周期L1との比であるパルス周期比δ1/L1は、比較的小さな値となる。これに対して、前記センサ10の検出部が図6の(a)の鎖線ロ位置を走査すると、このセンサ10の出力信号が、この図6の(c)に示す様に変化する。そして、部分周期δ2と全周期L2との比であるパルス周期比δ2/L2は、比較的大きな値となる。
【0032】
尚、本発明を実施する場合には、パルス周期比を求める際の部分周期δとして、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3a、3aの、円周方向に隣り合う1対の透孔11b、11aに関するパルス間の周期を採用する事もできる。この場合には、前記パルス周期比の大小が変化する方向が、上述した場合とは逆になる。又、パルス周期比を求める際の全周期Lとして、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3a、3aの透孔11b、11bに関するパルス間の周期を採用する事もできる。
【0033】
何れにしても、前記センサ10の出力信号に関するパルス周期比δ/Lは、このセンサ10の検出部が走査する、前記エンコーダ1aの外周面の軸方向位置(被検出面の幅方向位置)により変化する。このパルス周期比δ/Lにより、前記エンコーダ1aを固定した前記主軸4に関する物理量(軸方向に関する変位量とアキシアル荷重との一方又は双方)を求める原理に就いては、前述の図33〜34で説明した通りである。即ち、前記センサ10の出力信号を、図示しない演算器に送ると、この演算器が、予めインストールされたソフトウェア中の式により、前記パルス周期比δ/Lに基づいて、前記主軸4の軸方向に関する変位量を求める。更に、必要に応じて、この主軸4に加わるアキシアル荷重を求める。
【0034】
又、本例の場合、前記被検出面には、それぞれが非傾斜特性変化部である、複数の透孔11a、11aが、円周方向に関して等間隔に配置されている。これら各透孔11a、11aは、前記被検出面の幅方向と一致する方向に形成されている。つまり、これら各透孔11a、11aの円周方向に関する位相は、前記被検出面の幅方向に関して変化していない。この為、前記センサ10の出力信号のうち、前記各透孔11a、11aに基づいて発生したパルスの周期である全周期Lは、図6の(b)(c)に示したL1、L2が互いに等しく(L1=L2)なっている事からも分かる様に、前記物理量の値(前記センサ10の検出部が走査する、前記被検出面の幅方向位置)によらず、前記主軸4の回転速度にのみ対応して変化する。しかも、この回転速度が一定であれば、前記全周期Lは、前記物理量の値が変動している最中であっても、変動する事はない。従って、前記全周期Lに基づいて、前記物理量の変化の影響を受ける事なく、前記主軸4の回転速度を精度良く測定する事ができる。
【0035】
又、本例の場合、前記演算器は、基本的には、前記全周期Lが経過する毎に、前記物理量の算出処理を実行する。但し、この基本を徹底すると、前記主軸4の回転速度が高くなる事に伴って、前記全周期Lが短くなった場合に、前記演算器の処理能力が追い付かなくなり、先に実行し始めた物理量の算出処理が完了する前に、次の物理量の算出処理が開始され、この物理量の算出処理が重複して実行される可能性がある。この結果、1回毎の物理量の算出処理時間が長くなったり、著しい場合には、この物理量の算出処理が全く行えなくなったりする可能性がある。そこで、この様な異常が発生する事を回避すべく、本例の場合、前記演算器は、前記全周期Lが経過する毎に、前記物理量の算出処理を実行するか否かを選択可能な機能を備えている。この点に就いて、以下、図7〜12を参照しつつ、具体的に説明する。尚、以下の説明で使用する図面では、必要に応じて、前記被検出面の特性変化パターンを、例えば図7の上部に示す様に、複数の太線で簡略化して示す。これら各太線は、それぞれが前記被検出面の特性境界位置である、前記各透孔11a、11bの円周方向両側縁のうちの一方の側縁(本例の場合には、パルスの立ち上がりエッジを発生させる側縁)を示している。
【0036】
本例の場合、前記演算器は、前記物理量を求める際の演算処理を、タスクAとタスクBとに分けて実行する。図7は、このうちのタスクAの処理内容を示している。このタスクAでは、前記各透孔11a、11bに基づいて発生するパルスを検出し、円周方向に隣り合う1対のパルス間の周期Ti(T1、T2、T3、T4、T5、T6・・・)を求める。そして、この周期Tiを、順次、パルス周期バッファ13に格納する。更に、それぞれが非傾斜特性部である、前記各透孔11a、11aに基づいて発生するパルスを検出する毎に、円周方向に隣り合うこれら各パルス間の周期である全周期L(T1+T2、T3+T4、T5+T6・・・)を求めると共に、それまでの全周期Lの積算値Sを求める。そして、この積算値Sを、演算周期レジスタ14に記憶させる。尚、この演算周期レジスタ14に記憶させる積算値Sは、新しい積算値Sが求まる度に更新する。更に、この演算周期レジスタ14に記憶させた積算値Sを、予め設定しておいた閾値Tthと比較する。そして、この積算値Sがこの閾値Tthを超えている(S>Tth)場合にのみ、前記タスクBの実行が開始される。又、これと同時に、前記演算周期レジスタ14に記憶させた前記積算値Sを零に戻す。つまり、それまでの全周期Lの積算値Sを零に戻す。尚、前記閾値Tthは、前記タスクBが重複して実行される事を防止する為に設定された時間である。この閾値Tthの設定の仕方に就いては、後述する。
【0037】
又、前記タスクBでは、前記パルス周期バッファ13に格納されている最新の情報を利用して、前記物理量の算出を行う。具体的には、前記パルス周期バッファ13に最後に格納された周期Tnと、その1つ前に格納された周期Tn-1とを利用して、パルス周期比δ/L(部分周期δ=Tn-1、全周期L=Tn-1+Tn)を求める。そして、このパルス周期比δ/Lに基づいて、前記物理量を算出する。
【0038】
上述したタスクA及びBに基づく最も基本的な動作は、図8に示す様に、前記全周期L(T1+T2)が経過する毎に、前記物理量の算出処理(前記タスクB)を実行する動作である。この場合には、前記主軸4の回転速度が比較的低くなっており、前記演算周期レジスタ14に記憶される全周期Lの積算値Sは、毎回T1+T2(>Tth)となる。尚、前記タスクBが実行されてから次のタスクBが実行されるまでの間に経過した前記全周期Lの回数を、パターン進み数と定義すると、この状態でのパターン進み数は1である。一方、前記主軸4の回転速度が高くなる事に伴い、前記全周期Lが前記閾値Tth以下(L≦Tth)になると、前記パターン進み数が2以上になる。例えば、今、図9の左端の透孔11aに基づいて発生したパルスを検出した際に、前記タスクBが実行されたとすると、その後、中央の透孔11aに基づいて発生したパルスを検出した際、即ち、1回目の全周期L(T1+T2)が経過した際に、前記積算値SはT1+T2となる。今、この積算値T1+T2が前記閾値Tth以下(T1+T2≦Tth)であったとすると、このタイミングでは、前記タスクBは実行されない(スキップされる)。その後、右端の透孔11aに基づいて発生するパルスを検出した際、即ち、2回目の全周期L(T3+T4)が経過した際に、前記積算値SはT1+T2+T3+T4となる。今、この積算値T1+T2+T3+T4が前記閾値Tthを超えている(T1+T2+T3+T4>Tth)とすると、このタイミングで前記タスクBが実行される。この場合の前記パターン進み数は2である。
【0039】
このパターン進み数は、前記主軸4の回転速度が高くなるに従って、段階的に大きくなる。図10の(a)〜(c)に、前記パターン進み数が3〜5の場合の前記タスクBの実行ポイントを示す。何れにしても、本例の場合、前記タスクBでは、前記パターン進み数の値によらず、常に、前記パルス周期バッファ13に最後に格納された周期Tnと、その1つ前に格納された周期Tn-1とを利用して、パルス周期比δ/L(部分周期δ=Tn-1、全周期L=Tn-1+Tn)を求める。従って、このパルス周期比δ/Lに基づいて前記物理量を算出する為の数式も、前記パターン進み数の値によらず、常に同じものを使用する事ができる。
【0040】
尚、本例の場合、前記パルス周期バッファ13に格納された周期Tiのうち、前記タスクBでの処理に使用されるのは、このタスクBの実行直前の2つの周期Tn、Tn-1のみである。この為、前記パルス周期バッファ13の長さは、2以上確保する必要がある。この条件さえ満たせば、このパルス周期バッファ13として、図11に示す様な、長さ2の有限長キューを用いる事もできる。又、前記タスクAでは、前記各透孔11a、11bに基づいて発生したパルスを検出する毎に、何らかの処理(少なくとも、前記パルス間の周期Tiを求めて前記パルス周期バッファ13に格納する処理)を行う。この為、前記タスクAの処理時間は、前記主軸4が最高回転速度で回転する状態での前記パルス間の周期Ti(最短パルス周期Tmin)よりも短くなければならない。一方、前記タスクAの処理時間は、実際に使用する前記演算器の処理能力によって決まる。この為、前記最短パルス周期Tminがそれよりも長くなる様に、前記被検出面に配置する前記各透孔11a、11bの円周方向間隔を決定する必要がある。
【0041】
次に、前記閾値Tthの設定の仕方に就いて説明する。この閾値Tthは、前記主軸4の総ての回転速度範囲で前記タスクBが重複して実行されない様に設定する時間である為、前記最短パルス周期Tminに基づいて設定する。尚、本例の場合、前記演算器は、シングルプロセッサを搭載している(マルチプロセッサ、或は、マルチコアプロセッサを搭載していない)。この為、前記タスクBの実行中に、前記タスクAの実行が開始されると、このタスクBの実行は、一時的に中断される。そして、このタスクAの実行が完了した時点で、前記タスクBの実行が再開される。又、前記タスクAを実行する時間間隔は、前記主軸4の最高回転速度で最短になる。この為、前記タスクBの実行中に前記タスクAが実行される回数は、前記主軸4の最高回転速度で最も多くなる。従って、前記全周期Lが経過してから、この全周期L中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理(前記タスクAの処理を優先させながらの前記タスクBの処理)を1回実行し終わるまでの間に要する時間は、前記主軸4の最高回転速度で最長になる。例えば、前記タスクAの処理時間が1単位時間であり、前記最短パルス周期Tminが3単位時間であり、前記タスクBの処理時間が10単位時間であるとする。又、タスク間の処理の移動に要する時間は、前記タスクA及びBの処理時間に含まれるとする。この様な条件下で、このタスクBを1回実行する際の処理の流れを、図12に示す。この図12中の1つのブロックの幅が、1単位時間である。上述した条件下では、前記全周期Lが経過してから、この全周期L中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理(前記タスクAの処理を優先させながらの前記タスクBの処理)を1回実行し終わるまでの間に、最大で15単位時間を要する事が分かる。従って、前記閾値Tthは15単位時間よりも大きくすれば良い。
【0042】
上述の様な閾値Tthの設定の仕方を一般化する。先ず、前記タスクAの処理時間をTAとし、TAで正規化した正規化最短パルス周期をTmin_A(Tmin_A>1)とし、TAで正規化した正規化タスクB処理時間をTB_Aとすると、前記閾値Tthは、次の式(1)を満たす値となる。
th>TA・RoundUp{TB_A/(Tmin_A−1)} −−−−−(1)
この式(1)中のRoundUp(x)は、xよりも大きい最小の整数を意味する。前記閾値Tthがこの式(1)を満たす値であり、前記タスクAによる前記全周期Lの積算値Sがこの閾値Tthを超えている(S>Tth)場合に、前記タスクBを実行すれば、このタスクBが重複して実行される事がなくなる。
【0043】
尚、前記演算器がマルチプロセッサ、或いは、マルチコアプロセッサを搭載している場合には、前記タスクAと前記タスクBとを、互いに独立して(並列に)実行する事が可能となる。従って、この場合には、前記閾値Tthを、タスクBの処理時間TBよりも大きく(Tth>TB)すれば良い。即ち、タスクBが開始できるかの条件判定処理は、前記各透孔11a、11aのタスクA内の所定のタイミングで実行される。ここでは、分かり易くする為に、タスクA終了と同時にタスクBの実行が開始されるとする。前記各透孔11a、11aのタスクAの開始タイミングの間隔は、全周期Lなので、同じく終了タイミングの間隔も、全周期Lとなる。この為、タスクA内の所定のタイミング同士の間隔、即ち、タスクBの開始タイミングの最短間隔も、全周期Lとなる。従って、この全周期L(の積算値S)がタスクBの実行時間Tbよりも長ければ、タスクBは重複して実行される事がなくなる。つまり、この場合には、前記閾値Tthを、Tth>TBに設定すれば良い。
又、前記物理量の測定に関する応答性を十分に確保する観点から、前記閾値Tthは、前記(1)式(前記演算器がマルチプロセッサ、或いは、マルチコアプロセッサを搭載している場合には、Tth>TB)を満たす値のうち、極力小さい値に設定するのが好ましい。
【0044】
上述の様に、本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、前記主軸4の回転速度が比較的低く、前記全周期Lが前記閾値Tthを超えている状態では、前記物理量の算出処理(前記タスクB)を、この全周期Lが経過する毎に毎回実行する。これに対し、前記主軸4の回転速度が高くなる事に伴い、前記全周期Lが前記閾値Tth以下になった状態では、前記物理量の算出処理を、この全周期Lが経過する毎に毎回は実行せず、何回かに1回の間隔(前記物理量の算出処理が重複して実行されない間隔)で実行する。この為、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部3a、3aの数を、前記タスクAの処理時間が前記最短パルス周期よりも短くならない程度に、十分に多くする事によって、前記主軸4が高速回転する状態での物理量の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性を、前記主軸4の総ての回転速度範囲で十分に確保できる。
【0045】
尚、本発明を構成する演算器に搭載するプロセッサは、比較的安価なシングルプロセッサに限らず、比較的高価なマルチプロセッサやマルチコアプロセッサとする事もできる。但し、何れのプロセッサを搭載する場合でも、上述した効果を得られる為、比較的安価なシングルプロセッサを搭載する事によって、コストパフォーマンスの高い構造を実現できる。
【0046】
[実施の形態の第2例]
図13〜16により、請求項1、2、5、6、9に対応する、本発明の実施の形態の第2例に就いて説明する。本例の場合には、演算器の構成のみが、上述した実施の形態の第1例の場合と若干異なる。即ち、本例の場合も、上述した第1例の場合と同様、シングルプロセッサを搭載した前記演算器は、主軸4(図1参照)が高速回転する状態で、物理量(軸方向に関する変位量、アキシアル荷重)の算出処理が重複して実行される事を防止する為に、全周期Lが経過する毎に、前記物理量の算出処理を実行するか否かを選択可能な機能を備えている。但し、本例の場合には、この機能の具体的な内容が、上述した第1例の場合と若干異なる。以下、この点に就いて、具体的に説明する。
【0047】
先ず、上述した第1例の場合との共通点に就いて説明すると、前記演算器は、前記物理量を求める際の演算処理を、タスクAとタスクBとに分けて実行する。このうちのタスクAでは、図13に示す様に、被検出面に配置した各透孔11a、11bに基づいて発生するパルスを検出し、円周方向に隣り合う1対のパルス間の周期Ti(T1、T2、T3、T4、T5、T6・・・)を求める。そして、この周期Tiを、順次、パルス周期バッファ13に格納する。又、前記タスクBでは、前記パルス周期バッファ13に格納されている最新の情報を利用して、前記物理量の算出を行う。具体的には、前記パルス周期バッファ13に最後に格納された周期Tnと、その1つ前に格納された周期Tn-1とを利用して、パルス周期比δ/L(部分周期δ=Tn-1、全周期L=Tn-1+Tn)を求める。そして、このパルス周期比δ/Lに基づいて、前記物理量を算出する。以上の点に就いては、上述した第1例の場合と同様である。
【0048】
次に、上述した第1例の場合との相違点に就いて説明すると、本例の場合、前記タスクAでは、上述の処理を実行する事に加えて、それぞれが非傾斜特性部である、前記各透孔11a、11aに基づいて発生するパルスを検出する毎に、即ち、前記全周期Lが経過する毎に、それまでの全周期Lの経過回数Mを計測する。具体的には、この経過回数Mを表す、カウンタ15のカウント値Mを1ずつ増加させる。これと共に、この経過回数(カウント値)Mを、予め設定しておいた規定回数Nと比較する。そして、これら経過回数(カウント値)Mと規定回数Nとが一致(M=N)した場合にのみ、前記タスクBの実行が開始される。又、これと同時に、前記経過回数(カウント値)Mを零に戻す。尚、前記規定回数Nは、前記タスクBが重複して実行される事を防止する為に設定された自然数である。この規定回数Nの設定の仕方に就いては、後述する。
【0049】
上述したタスクA及びBに基づく最も基本的な動作は、前記規定回数Nが1に設定されている場合の動作である。この場合には、図14に示す様に、前記全周期L(T1+T2)が経過する毎に、前記物理量の算出処理(前記タスクB)を実行する。この場合のパターン進み数(前記タスクBが実行されてから次のタスクBが実行されるまでの間に経過した前記全周期Lの回数)は1である。即ち、本例の場合には、このパターン進み数が、前記規定回数Nと同じ値になる。図15は、この規定回数Nを2に設定した場合の前記タスクBの実行ポイントを示している。この場合には、図15の左端の透孔11aに基づいて発生したパルスを検出した際に、前記タスクBが実行されたとすると、その後、中央の透孔11aに基づいて発生したパルスを検出した際、即ち、1回目の全周期L(T1+T2)が経過した際に、この全周期の経過回数(カウント値)Mが1になる。但し、この際の経過回数(カウント値)Mは、前記規定回数N(=2)よりも小さく、この規定回数Nと一致しない為、このタイミングでは、前記タスクBは実行されない(スキップされる)。その後、右端の透孔11aに基づいて発生するパルスを検出した際、即ち、2回目の全周期L(T3+T4)が経過した際に、この全周期の経過回数(カウント値)Mは2になる。この際の経過回数(カウント値)Mは、前記規定回数N(=2)と一致する為、このタイミングで前記タスクBが実行される。この場合の前記パターン進み数は2である。
【0050】
その他の例として、図16の(a)〜(c)に、前記規定回数N(前記パターン進み数)が3〜5の場合の前記タスクBの実行ポイントを示す。何れにしても、本例の場合には、上述した第1例の場合と同様、前記タスクBでは、前記規定回数Nの値によらず、常に、前記パルス周期バッファ13に最後に格納された周期Tnと、その1つ前に格納された周期Tn-1とを利用して、パルス周期比δ/L(部分周期δ=Tn-1、全周期L=Tn-1+Tn)を求める。従って、このパルス周期比δ/Lに基づいて前記物理量を算出する為の数式も、前記パターン進み数の値によらず、常に同じものを使用する事ができる。
【0051】
次に、前記規定回数Nの設定の仕方に就いて説明する。本例の場合、この規定回数Nは、工作機械による被加工物の加工作業を行う前に予め設定され、1回の運転サイクル内では値を変えない。工作機械の場合、被加工物の加工作業を行う際の前記主軸4の回転速度は、加工条件によって予め設定された一定の回転速度である、所定の定常回転速度に保持される事が殆どである。この為、本例の場合、前記規定回数Nは、前記主軸4が所定の定常回転速度で回転している状態で、前記タスクBが重複して実行されない様に設定する。尚、本例の場合も、上述した第1例の場合と同様、前記演算器は、シングルプロセッサを搭載している。この為、このタスクBの実行中に、前記タスクAの実行が開始されると、このタスクBの実行は、一時的に中断される。そして、このタスクAの実行が完了した時点で、前記タスクBの実行が再開される。又、前記タスクAを実行する時間間隔は、前記主軸4の回転速度が高くなる程短くなる。この為、前記タスクBの実行中に前記タスクAが実行される回数は、前記主軸4の回転速度が高くなる程多くなる。従って、前記タスクBを1回実行するのに要する時間は、前記主軸4の回転速度が高くなる程長くなる。今、前記主軸4が所定の定常回転速度で回転している状態での前記全周期をLSとする。又、この状態で、この全周期LSが経過してから、この全周期LS中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理(前記タスクAの処理を優先させながらの前記タスクBの処理)を1回実行し終わるまでの間に要する時間をTSとする。この場合に、これらの比TS/LSの値よりも大きい自然数を、前記規定回数Nに設定する。
【0052】
例えば、前記定常回転速度が比較的低く、前記全周期LSが30単位時間であり、前記時間TSが11単位時間である場合には、これらの比TS/LSの値が約0.37になる為、前記規定回数Nは1以上の自然数に設定する。又、前記定常回転速度が比較的高く、前記全周期LSが10単位時間であり、前記時間TSが13単位時間である場合には、これらの比TS/LSの値が1.3になる為、前記規定回数Nは2以上の自然数に設定する。又、前記定常回転速度が更に高く、前記全周期LSが6単位時間であり、前記時間TSが15単位時間である場合には、これらの比TS/LSの値が2.5になる為、前記規定回数Nは3以上の自然数に設定する。以上の様に規定回数Nを設定すれば、前記主軸4が所定の定常回転速度で回転している状態で、前記タスクBが重複して実行される事がなくなる。
【0053】
尚、前記演算器がマルチプロセッサ、或いは、マルチコアプロセッサを搭載している場合には、前記タスクAと前記タスクBとを、互いに独立して(並列に)実行する事が可能となる。従って、この場合には、前記規定回数Nが満たすべき条件式{N(自然数)>TS/LS}中の時間TSは、前記タスクBの処理時間TBとなる。
何れにしても、前記物理量の測定に関する応答性を十分に確保する観点から、前記規定回数Nは、前記比TS/LSの値よりも大きい自然数のうち、最小の自然数に設定するのが好ましい。
【0054】
又、本例の場合、前記全周期LSに関連する、それぞれが非傾斜特性部である前記各透孔11a、11aの円周方向ピッチと、前記時間TSに関連する、前記演算器の処理能力とが既知である。この為、前記主軸4の定常回転速度さえ決まれば、前記工作機械の運転開始前に、前記規定回数Nとして設定すべき値を求める事ができる。又、本例を実施する場合、この規定回数Nとして設定すべき値を求める作業は、工作機械の操作者が行っても良いし、或いは、工作機械の制御部に入力した前記定常回転速度に基づいて、この制御部に行わせても良い。又、前記演算器に前記規定回数Nを入力する作業は、前記操作者が工作機械の操作盤等を介して行っても良いし、或いは、前記制御部に行わせても良い。
【0055】
上述の様に、本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、前記主軸4の回転速度が比較的低く、前記規定回数Nが1に設定されている状態では、前記物理量の算出処理(前記タスクB)を、前記全周期Lが経過する毎に毎回実行する。これに対し、前記主軸4の回転速度が比較的高く、前記規定回数Nが2以上に設定されている状態では、前記物理量の算出処理を、前記全周期Lが経過する毎に毎回は実行せず、N回に1回の間隔(前記物理量の算出処理が重複して実行されない間隔)で実行する。この為、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部3a、3aの数を、前記タスクAの処理時間が最短パルス周期(前記主軸4が最高回転速度で回転する状態でのパルス間の周期Ti)よりも短くならない程度に、十分に多くする事によって、前記主軸4が高速回転する状態での物理量の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性を、前記主軸4の総ての回転速度範囲で十分に確保できる。その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0056】
[実施の形態の第3例]
図17〜19は、請求項1〜6、9に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合、被検出面である、エンコーダ1bの外周面に設けた複数の特性変化組み合わせ部3b、3bは、それぞれが特性変化部である、前記被検出面の幅方向である軸方向に亙り形成された直線状の凹溝16aと、この軸方向に対して所定方向に所定角度だけ傾斜した方向に亙り形成された凹溝16bとを、前記エンコーダ1bの円周方向に離隔配置して成る。この様に各特性変化部を透孔ではなく凹溝16a、16bとした点、及び、センサユニット9aを構成するホルダ12aの形状が若干異なる点を除き、その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例又は第2例の場合と同様である。
【0057】
[実施の形態の第4例]
図20〜23は、請求項1〜6、9に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合、主軸4に外嵌固定したエンコーダ1cは、円筒部17と、この円筒部17の外周面の軸方向一端(図20に於ける右端)寄り部分に設けられた円輪部18とを備える。そして、被検出面である、この円輪部18の片側面(図20に於ける左側面)に、複数の特性変化組み合わせ部3c、3cを、円周方向に関して等間隔に形成している。これら各特性変化組み合わせ部3c、3cは、それぞれが特性変化部である、前記被検出面の幅方向である径方向に亙り形成された直線状の凹溝19aと、この径方向に対して所定方向に所定角度だけ傾斜した方向に亙り形成された直線状の凹溝19bとから成る。又、ハウジング5(図1参照)にセンサユニット9bを支持固定した状態で、このセンサユニット9bを構成する合成樹脂製のホルダ12bの先端部に包埋したセンサ10aの検出部を、前記円輪部18の片側面に近接対向させている。
【0058】
上述の様に構成する本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、前記主軸4の回転時に発生する、前記センサ10aの出力信号のパルス周期比δ/Lに基づいて、前記主軸4の径方向の変位量と、この主軸4に加わるラジアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を算出する事ができる。その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例又は第2例の場合と同様である。
【0059】
[実施の形態の第5例]
図24〜26は、請求項1〜7、9に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合、エンコーダ1dは、円筒部17aの外周面に、前述した実施の形態の第3例のエンコーダ1b(図17〜18参照)の被検出面と同様の構成を有する被検出面を、円輪部18の片側面(図24に於ける左側面)に、上述した実施の形態の第4例のエンコーダ1c(図20〜22参照)の被検出面と同様の構成を有する被検出面を、それぞれ設けている。又、ハウジング5(図1参照)にセンサユニット9cを支持固定した状態で、このセンサユニット9cを構成する合成樹脂製のホルダ12cの先端部に包埋した1対のセンサ10、10aのうち、一方のセンサ10の検出部を、前記円筒部17aの外周面に設けた被検出面に、他方のセンサ10aの検出部を、前記円輪部18の片側面に設けた被検出面に、それぞれ近接対向させている。
【0060】
上述の様に構成する本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、前記一方のセンサ10の出力信号のパルス周期比δ/Lに基づいて、主軸4の軸方向の変位量と、この主軸4に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を、図示しない第一の演算器により算出する事ができる。又、前記他方のセンサ10aの出力信号のパルス周期比δ/Lに基づいて、前記主軸4の径方向の変位量と、この主軸4に加わるラジアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を、図示しない第二の演算器により算出する事ができる。尚、本例の場合には、前記一方のセンサ10が、請求項7に記載した第一のセンサに、前記他方のセンサ10aが、同じく第二のセンサに、前記円筒部17aが、同じく第一のエンコーダに、前記円輪部18が、同じく第二のエンコーダに、それぞれ相当する。その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例又は第2例の場合と同様である。
【0061】
[実施の形態の第6例]
図27〜28は、請求項1〜4、10に対応する、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例は、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する、回転側軌道輪部材であるハブ20の軸方向変位量と、このハブ20に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為の構造に、本発明を適用した例である。尚、このハブ20に関する物理量は、例えば、自動車の走行安定性を確保する為に使用される、アンチロックブレーキシステム(ABS)、トラクションコントロールシステム(TCS)、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置の制御を、より高度に行う為に利用可能である。
【0062】
前記車輪支持用転がり軸受ユニットは、使用時に懸架装置に支持固定された状態で回転しない、静止側軌道輪部材である外輪21の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転する前記ハブ20を、複列に設けられた複数個の転動体22、22を介して回転自在に支持している。これら各転動体22、22には、背面組み合わせ型の接触角と共に、予圧を付与している。
【0063】
本例の場合、前記ハブ20の軸方向内端部(軸方向に関して「内」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側を言い、図27〜31の右側。反対に、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図27〜31の左側を、軸方向に関して「外」と言う。本明細書の全体で同じ。)には、前述した実施の形態の第3例のエンコーダ1b(図17〜18参照)と同様の構成を有する円筒状のエンコーダ1eを、前記ハブ20と同心に外嵌固定している。又、前記外輪21の軸方向内端開口を塞ぐ金属板製のカバー23の内側に、合成樹脂製のホルダ24を保持固定すると共に、このホルダ24の一部に包埋したセンサ10の検出部を、被検出面である、前記エンコーダ1eの外周面に近接対向させている。
【0064】
上述の様に構成する本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、前記センサ10の出力信号のパルス周期比δ/Lに基づいて、前記ハブ20の軸方向の変位量と、このハブ20に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を、図示しない演算器により算出する事ができる。その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0065】
[実施の形態の第7例]
図29〜30は、請求項1〜4、7、10に対応する、本発明の実施の形態の第7例を示している。本例の場合、ハブ20の軸方向内端部には、前述した実施の形態の第5例のエンコーダ1d(図24〜25参照)と同様の構成を有するエンコーダ1fを、前記ハブ20と同心に外嵌固定している。又、前記外輪21の軸方向内端開口を塞ぐ金属板製のカバー23の内側に、合成樹脂製のホルダ24を保持固定すると共に、このホルダ24の一部で前記エンコーダ1fと対向する部分に、1対のセンサ10、10aを包埋している。そして、このうちの一方のセンサ10の検出部を、被検出面である、前記エンコーダ1fを構成する円筒部17bの外周面に近接対向させている。又、他方のセンサ10aの検出部を、被検出面である、前記エンコーダ1fを構成する円輪部18の片側面(図29に於ける右側面)に近接対向させている。尚、本例の場合、前記両被検出面に対する、前記両センサ10、10aの検出部の近接対向位置は、これら両被検出面の下端位置としている。
【0066】
上述の様に構成する本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、前記一方のセンサ10の出力信号のパルス周期比δ/Lに基づいて、前記ハブ20の軸方向の変位量と、このハブ20に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を、図示しない第一の演算器により算出する事ができる。又、前記センサ10aの出力信号のパルス周期比δ/Lに基づいて、前記ハブ20の上下方向(径方向)の変位量と、このハブ20に加わる上下方向のラジアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を、図示しない第二の演算器により算出する事ができる。その他の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0067】
[実施の形態の第8例]
図31は、請求項1〜4、7、10に対応する、本発明の実施の形態の第8例を示している。上述した実施の形態の第7例の対象となる車輪支持用転がり軸受ユニットが、従動輪用であるのに対し、本例の対象となる車輪支持用転がり軸受ユニットは、駆動輪用である。この為、ハブ20aの径方向中心部には、等速ジョイント用外輪25の外端面に固設した駆動軸26をスプライン係合させる為のスプライン孔27が、軸方向に形成されている。又、1対のセンサ10、10aは、センサユニット9dを構成する合成樹脂製のホルダ12d中に包埋している。本例の場合、このセンサユニット9dは、静止部材である、図示しない懸架装置を構成するナックル等の車体の一部に支持固定する。その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第7例の場合と同様である。
【0068】
尚、図示は省略するが、本発明を実施する場合で、エンコーダの軸方向側面に被検出面を設ける場合には、請求項8に記載した発明の様に、1対のセンサを用意し、これら両センサの検出部を、前記被検出面のうちで円周方向に関して互いに異なる部分に近接対向させる構成を採用する事もできる。この場合に、例えば、前記被検出面の中心軸を中心とする、前記両センサの検出部の相対配置角度を90度(±10度)に設定すれば、これら両センサの出力信号のパルス周期比に基づいて、それぞれが回転部材に関する物理量である、互いの交差角度が90度(±10度)である2方向のラジアル変位量及びラジアル荷重を測定する事が可能となる。
【実施例】
【0069】
前述の図17〜19に示した実施の形態の第3例を実施する場合には、エンコーダ1bとして、以下の諸元を採用する事が可能である(図17〜18に表されていない寸法記号に関しては、図32を参照)。
<材質>
S45C調質材
<全体>
内径寸法Di:70mm
外径寸法Do:80mm
幅寸法(軸方向寸法)W1b:46mm
<凹溝16a、16b>
形成方法:エンドミル加工により形成
深さ寸法dp:2mm
<凹溝16a>
総数:16個(円周方向等配)
両側縁(直線部)の長さ寸法La:3mm
幅寸法Wa:2.5mm
<凹溝16b>
総数:16個(円周方向等配)
軸方向に対する傾斜角度θb:80.15度
両端の頂部同士の間隔Y:0.8mm
幅寸法Wb:1mm
<その他>
前記長さ寸法La(3mm)及び前記間隔Y(0.8mm)はそれぞれ、前記主軸4を支持する多列転がり軸受ユニット6に設計上許容される最大のアキシアル荷重が作用した場合の前記主軸4の軸方向変位よりも十分に長く設定された値である。
【符号の説明】
【0070】
1、1a〜1f エンコーダ
2a、2b 透孔
3、3a〜3c 特性変化組み合わせ部
4 主軸
5 ハウジング
6 多列転がり軸受ユニット
7 電動モータ
8a〜8d 転がり軸受
9、9a〜9d センサユニット
10、10a センサ
11a、11b 透孔
12、12a〜12d ホルダ
13 パルス周期バッファ
14 演算周期レジスタ
15 カウンタ
16a、16b 凹溝
17、17a、17b 円筒部
18 円輪部
19a、19b 凹溝
20、20a ハブ
21 外輪
22 転動体
23 カバー
24 ホルダ
25 等速ジョイント用外輪
26 駆動軸
27 スプライン孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しない静止部材と、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、この静止部材に対して回転自在に支持された回転部材と、この回転部材の一部に支持固定された、この回転部材と同心の被検出面を有するエンコーダと、検出部をこの被検出面に対向させた状態で前記静止部材に支持されたセンサと、このセンサの出力信号を処理する演算器とを備え、
前記エンコーダの被検出面は、複数の特性変化組み合わせ部を円周方向に関して等間隔に配置したもので、これら各特性変化組み合わせ部は、前記被検出面の幅方向に対する正負の符号をも考慮した傾斜角度が互いに異なる1対の特性変化部を、前記被検出面の円周方向に離隔した状態で設けたものであり、
前記センサは、前記各特性変化組み合わせ部を構成する前記各特性変化部が前記被検出面のうちで前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に出力信号を変化させるものであり、
前記演算器は、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部の円周方向片側の特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である全周期と、これら両特性変化部のうちの一方の特性変化部及び円周方向に関してこれら両特性変化部同士の間に配置された別の特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である部分周期との比である、パルス周期比に基づいて、それぞれが前記被検出面の幅方向に関する、前記回転部材の変位量とこの回転部材に加わる荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を算出するものである回転部材用物理量測定装置に於いて、
前記各特性変化組み合わせ部を構成する1対の特性変化部のうち、円周方向に関して何れか一方の側に配置される特性変化部を、前記被検出面の幅方向に形成された非傾斜特性変化部とすると共に、同じく円周方向に関して他方の側に配置される特性変化部を、前記被検出面の幅方向に対して所定角度だけ傾斜した方向に形成された傾斜特性変化部とした事を特徴とする回転部材用物理量測定装置。
【請求項2】
前記演算器は、前記全周期が経過する毎に前記物理量の算出処理を実行するか否かを選択可能な機能を備えている、請求項1に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項3】
前記演算器は、前記全周期が経過する毎に、この全周期の積算値を求めると共に、この積算値と予め設定された閾値とを比較してこの積算値がこの閾値を超えている場合にのみ前記物理量の算出処理を実行するものであり、前記積算値は、この物理量の算出処理が実行される際に零に戻されるものである、請求項2に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項4】
前記閾値は、前記回転部材が最高回転速度で回転している状態で、前記全周期が経過してから、この全周期中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理を1回実行し終わるまでの間に要する時間よりも長い時間である、請求項3に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項5】
前記演算器は、前記全周期が経過する毎に、この全周期の経過回数を計測すると共に、この経過回数と予め設定された規定回数とを比較してこれら経過回数と規定回数とが一致した場合にのみ前記物理量の算出処理を実行するものであり、前記経過回数は、この物理量の算出処理が実行される際に零に戻されるものである、請求項2に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項6】
前記規定回数は、前記回転部材が所定の定常回転速度で回転している状態での前記全周期をLSとし、この状態でこの全周期LSが経過してからこの全周期LS中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理を1回実行し終わるまでの間に要する時間をTSとした場合に、これらの比TS/LSの値よりも大きい自然数である、請求項5に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項7】
前記エンコーダとして、周面を被検出面とした第一のエンコーダと、軸方向側面を被検出面とした第二のエンコーダとを備えており、
前記センサとして、その検出部を前記第一のエンコーダの被検出面に対向させた第一のセンサと、その検出部を前記第二のエンコーダの被検出面に対向させた第二のセンサとを備えている、
請求項1〜6のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項8】
前記エンコーダとして、軸方向側面を被検出面としたものを備えており、
前記センサとして、それぞれの検出部を、前記エンコーダの被検出面のうちで円周方向に関して互いに異なる部分に対向させた、1対のセンサを備えている、
請求項1〜6のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項9】
前記静止部材が工作機械を構成するハウジングであり、前記回転部材がこの工作機械を構成する主軸である、請求項1〜8のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項10】
前記静止部材が、車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する静止側軌道輪部材又は車体の一部を構成する部材であり、前記回転部材が、前記車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材である、請求項1〜4、7、8のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2012−163412(P2012−163412A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23149(P2011−23149)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】