説明

固体高分子型燃料電池用電解質材料、その製造方法及び固体高分子型燃料電池用膜電極接合体

【課題】導電性が高く、ガス透過性が高く、耐久性に優れる高分子電解質材料と、当該電解質材料を有する長期間にわたって高出力を維持できる耐久性の高い固体高分子型燃料電池用膜電極接合体の提供。
【解決手段】スルホン酸基又はスルホンイミド基を有し、かつ主鎖に脂肪族環構造を有するパーフルオロポリマーからなる電解質材料であって、3%の過酸化水素水と200ppmの2価鉄イオンを含むフェントン試薬溶液50g中にポリマー0.1gを40℃で16時間浸漬する試験において、溶液中に検出されるフッ素イオン溶出量が、浸漬したポリマー中の全フッ素量の0.01%以下である電解質材料と、該電解質材料からなる膜又は該電解質材料を含む触媒層を有する膜電極接合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用膜電極接合体及びそのための固体高分子電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
水素・酸素燃料電池は、その反応生成物が原理的に水のみであり地球環境への悪影響がほとんどない発電システムとして注目されている。固体高分子型燃料電池は、かつてジェミニ計画及びバイオサテライト計画で宇宙船に搭載されたが、当時の電池出力密度は低かった。その後、より高性能のアルカリ型燃料電池が開発され、現在のスペースシャトルに至るまで宇宙用にはアルカリ型燃料電池が採用されている。
【0003】
ところが、近年技術の進歩により固体高分子型燃料電池が再び注目されている。その理由として次の2点が挙げられる。(1)固体高分子電解質として高導電性の膜が開発された。(2)ガス拡散電極層に用いられる触媒をカーボンに担持し、さらにこれをイオン交換樹脂で被覆することにより、きわめて大きな活性が得られるようになった。
そして、固体高分子型燃料電池の膜電極接合体(以下、単に接合体という。)の製造方法に関して多くの検討がなされている。
【0004】
現在検討されている固体高分子型燃料電池は、作動温度が50〜120℃と低いため、排熱が燃料電池の補機動力等に有効利用しがたい欠点がある。これを補う意味でも固体高分子型燃料電池は、特に高い出力密度が要求されている。また実用化への課題として、燃料及び空気利用率の高い運転条件下でも高エネルギ効率、高出力密度が得られる接合体の開発が要求されている。
【0005】
低作動温度かつ高ガス利用率の運転条件では、特に電池反応により水が生成するカソードにおいて、水蒸気の凝縮による電極多孔体の閉塞(フラッディング)が起こりやすい。したがって長期にわたり安定な特性を得るためには、フラッディングが起こらないように電極の撥水性を確保する必要がある。低温で高出力密度が得られる固体高分子型燃料電池では特に重要である。
【0006】
電極の撥水性を確保するには、電極中で触媒を被覆するイオン交換樹脂のイオン交換容量を小さくする、すなわちイオン交換基の含有率が低いイオン交換樹脂の使用が有効である。しかし、この場合にはイオン交換樹脂は含水率が低いため導電性が低くなり、電池性能が低下する。さらに、イオン交換樹脂のガス透過性が低下するため、被覆したイオン交換樹脂を通して触媒表面に供給されるガスの供給が遅くなる。そのため、反応サイトにおけるガス濃度が低下して電圧損失が大きくなる、すなわち濃度過電圧が高くなって出力が低下する。
【0007】
このため、触媒を被覆するイオン交換樹脂にはイオン交換容量の高い樹脂を用い、これに加えて、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等のフッ素樹脂等を撥水化剤として電極、特にカソード中に含有させ、フラッディングを抑制する試みがなされている(例えば特許文献1参照)。なお、本明細書でA/B共重合体とは、Aに基づく繰り返し単位とBに基づく繰り返し単位とからなる共重合体を示す。
【0008】
しかし、充分に撥水化するために電極中の上記撥水化剤の量を多くすると、上記撥水化剤は絶縁体のため電極の電気抵抗が増大する。また、電極の厚さが厚くなるためガス透過性が低下し、逆に出力が低下する問題がある。電極の導電性の低下を補うためには、例えば触媒の担体であるカーボン材料の導電性や触媒を被覆するイオン交換樹脂のイオン導電性を高めることが必要である。しかし、充分な導電性と充分な撥水性を同時に満足する電極を得るのは困難であり、高出力かつ長期的に安定な固体高分子型燃料電池を得ることは容易ではなかった。
【0009】
また、フッ化ピッチを混合する方法(例えば特許文献2参照)、触媒担体をフッ素化処理する方法(例えば特許文献3参照)も提案されているが、触媒表面をイオン交換樹脂により均一に被覆できない問題がある。また、電極の厚さ方向に対して撥水性に勾配を持たせる方法(例えば特許文献4、5参照)も提案されているが、製造方法が煩雑である。
【0010】
燃料電池の出力を高めるには、電極中のイオン交換樹脂が高ガス透過性かつ高導電性であることが必要であり、交換基濃度が高く含水率の高いイオン交換樹脂が好ましい。しかし、交換基濃度の高いイオン交換樹脂を用いた場合、燃料ガスの透過性及び導電性が高く燃料電池の初期の出力は高くなるが、フラッディングが起こりやすく、長期間使用すると出力の低下が起こりやすい。
【0011】
これらの問題を解決するために、本発明者らは主鎖に脂肪族環構造を有するパーフルオロポリマー(炭素原子と結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されているポリマー)を提案している(特許文献6)。しかし、通常固体高分子型燃料電池に使用されるスルホン酸基を有する鎖状のパーフルオロポリマーに比べ改善はされるものの、より過酷な条件にポリマーが曝される場合、まだ耐久性等において充分ではなかった。
【0012】
【特許文献1】特開平5−36418号公報(請求項1、2)
【特許文献2】特開平7−211324号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平7−192738号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平5−251086号公報(請求項1)
【特許文献5】特開平7−134993号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2002−260705号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、導電性が高くかつ含有する電解質材料のガス透過性が高く、長期間にわたって高出力を維持できる耐久性の高い固体高分子型燃料電池を提供することを目的とし、そのための電解質材料及び膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、スルホン酸基又はスルホンイミド基を有し、かつ主鎖に脂肪族環構造を有するパーフルオロポリマーからなる電解質材料であって、3%の過酸化水素水と200ppmの2価鉄イオンを含むフェントン試薬溶液50g中にポリマー0.1gを40℃で16時間浸漬する試験において、溶液中に検出されるフッ素イオン溶出量が、浸漬したポリマー中の全フッ素量の0.01%以下であることを特徴とする電解質材料を提供する。
【0015】
この電解質材料は、特に下記モノマーAに基づく繰り返し単位と下記モノマーBに基づく繰り返し単位を含む共重合体からなることが好ましい。ただし、式中、Yはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0又は1であり、m+p>0、YはOH又はNHSOZであってZはエーテル性の酸素原子を含んでもよい炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。)。
モノマーA:ラジカル重合により、主鎖に環構造を含む繰り返し単位を有するポリマーを与えるパーフルオロモノマー。
モノマーB:CF=CF−(OCFCFY−O−(CF−SOで表されるパーフルオロビニルエーテル。
【0016】
また、本発明は、膜状固体高分子電解質と、該電解質を介して配置されるカソード及びアノードとを有する固体高分子型燃料電池用膜電極接合体において、前記カソード及び前記アノードの少なくとも一方は、触媒と上述の電解質材料とを含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【0017】
さらに本発明は、膜状固体高分子電解質と、該電解質を介して配置されるカソード及びアノードとを有する固体高分子型燃料電池用膜電極接合体において、前記膜状固体高分子電解質賀状術の電解質材料からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【0018】
さらに本発明は、上記に記載の電解質材料の製造方法であって、−SOF基を有するパーフルオロポリマーをラジカル重合により得た後、該パーフルオロポリマーをフッ素ガスと接触させた後、−SOF基をスルホン酸基又はスルホンイミド基に変換することを特徴とする電解質材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガス透過性が高く、耐久性に優れる高分子電解質材料が提供できる。この電解質材料からなる電解質膜を有する固体高分子型燃料電池用膜電極接合体又はこの電解質材料を電極に含む膜電極接合体を有する固体高分子型燃料電池用膜電極接合体は、長時間運転しても出力低下が少なく耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
従来より燃料電池用用途に用いられているスルホン酸基を有する鎖状のパーフルオロポリマーでは、その一部の分子鎖末端に−COOH基、−CF=CF基、−COF基、CFH基等の不安定な官能基を有するため、固体高分子型燃料電池の電解質材料に使用すると長期間の運転で次第にポリマーが分解し、発電電圧が低下したり、膜強度が低下して局部的にピンホールや割れ、剥離等が起こると本発明者らは考え、このポリマー又はその前駆体である−SOF基を有するポリマーに対しフッ素化処理(フッ素ガスとの接触)を行うことにより、分子末端をパーフルオロ化して安定させることができ、耐久性を大幅に改良できることを提案している。しかし、過酷な運転条件にポリマーが曝される場合、それでも耐久性は充分でなかったため、さらなる耐久性の向上を目的として検討した。そして主鎖に脂肪族環構造を有しスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーは、不安定な官能基の量を制御すると、上記従来ポリマーの官能基の量の制御による耐久性向上に比べ、著しい耐久性の向上が見受けられることがわかった。
【0021】
そこで、燃料電池運転におけるポリマーの分解に対する耐性の指標としてフェントン試薬浸漬試験を用いたところ、その結果が燃料電池の耐久性とよい相関関係があることがわかり、本発明に至った。この試験は過酸化水素水と2価の鉄イオンを含む水溶液にポリマーを浸漬し、浸漬前後のポリマーの変化をみるものである。通常、過酸化水素水濃度1〜30%、2価鉄イオン濃度10〜500ppm、浸漬温度25〜90℃、浸漬時間0.5〜24時間で実施されるもので、本発明では3%の過酸化水素水と200ppmの2価鉄イオンを含むフェントン試薬溶液50g中にポリマー0.1gを40℃で16時間浸漬するという条件を採用している。この試験では、フェントン試薬中で発生するヒドロキシラジカル又はヒドロパーオキシラジカルによってポリマー分解が起こり、ポリマーは微量重量減少するので、通常重量減少を測定する。しかし、イオン交換基を有するポリマーの場合は、吸湿性が高いため乾燥しても精度良く重量測定することが難しく、分解時にフェントン試薬溶液中に溶出するフッ素イオンを検出する方が感度の点で好ましいため、本発明ではフッ素イオン溶出量で評価している。
【0022】
本発明の電解質材料となるポリマー(以下、本ポリマーという。)は、この試験において溶液中に検出されるフッ素イオン溶出量が、浸漬したポリマー中の全フッ素量の0.01%以下である。0.01%より大きいと不安定末端基の量が多く、長時間の燃料電池運転で電圧低下が起こりやすい。より好ましくは0.005%以下である。
【0023】
また、不安定末端基の量の指標として、赤外分光スペクトルによる測定も用いることができる。この場合、測定するポリマーからなる50〜150um程度のフィルムを調製し、その赤外分光スペクトルを測定することにより行う。この測定は、スルホン酸基又はスルホンイミド基のカリウム塩で測定することができ、フィルムの吸着水による赤外スペクトルへの影響を小さくするために、真空乾燥機等を用いて乾燥したカリウム塩型のフィルムを用いて乾燥窒素中で測定することが好ましい。この場合、測定波数1690±10cm−1の帯域の最大吸光度I1690と2350±10cm−1の吸光度I2350との比I1690/I2350が0.15以下であることが、不安定末端基が少ないポリマーであり好ましく、より好ましくは0.1以下であり、さらに好ましくは0.05以下である。この比の数値は低いほど不安定末端基が少ないことを示すので、低いほど好ましい。
【0024】
なお、測定波数2350±10cm−1にピークを有する吸収は広域にわたる吸収であるため、本明細書における吸光度I2350は、2740±20cm−1と2070±20cm−1とを結んだ直線をベースラインとし、2350±10cm−1にあるピーク位置の吸光度をベースラインから計測した値とした。また、測定波数1690±10cm−1のピークの吸光度I1690は、吸収ピークの高波数側、低波数側それぞれに近接する谷を結んだ直線をベースラインとし、1690±10cm−1にあるピーク位置の吸光度をベースラインから計測した値とした。
【0025】
図1はテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)とパーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテン)スルホン酸カリウムの共重合体の赤外線スペクトルを示す図であるが、この図を用いて具体的に上記各測定波数の吸光度について説明する。図1において、2350±10cm−1にあるピークについては、2740cm−1付近と2070cm−1付近とを、スペクトルに対して接線が引けるように直線で結んでおり、これがベースライン1である。そしてピークからベースライン1までの距離を吸光度I2350としている。また、1690±10cm−1にあるピークについては、吸収ピークの高波数側、低波数側それぞれに近接する谷を結んだ直線をベースライン1’とし、ピークからベースライン1’までの距離を吸光度I1690としている。
【0026】
通常、本ポリマーの製造方法としては、主鎖に脂肪族環構造を有し−SOF基を有するパーフルオロポリマーを合成した後、加水分解、酸型化等の方法又は他の公知の基の変換方法により−SOF基をスルホン酸基又はスルホンイミド基に変換する工程を経て製造し、その途中の工程でフッ素ガスと接触させることが好ましい。フッ素ガスとの接触により末端の不安定部位を安定化させ、ポリマーの分解を制御できる。
【0027】
上記のフッ素化する工程は、−SOF基をスルホン酸基又はスルホンイミド基に変換した後に行ってもよいが、−SOF基を有するポリマーの段階で行うのがプロセス上容易で好ましく、置換した官能基の安定性の点でも好ましい。しかしこの方法に限定されない。ただし、スルホンイミド基を有するポリマーをフッ素化する場合は、スルホンイミド基中のNH結合がNF結合に変換されるため再度NH結合に戻す操作が必要となる。この操作としては、例えばマロン酸エステルや芳香族化合物等を用いる公知の方法が採用できる。
【0028】
フッ素化に用いるフッ素ガスは、通常、0.1%以上100%未満の濃度として窒素、ヘリウム、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈されたものを用いるが、希釈せずに用いてもよい。ポリマーはバルクの状態で、又は含フッ素溶媒に分散又は溶解した状態で、フッ素ガスと接触させることができる。
【0029】
フッ素ガスと接触させてポリマーをフッ素化する際の温度は、通常室温〜300℃であり、50〜250℃、特には100〜220℃、さらには150〜200℃が好適である。温度が低すぎると、フッ素ガスとポリマー末端の反応が遅くなり、温度が高すぎると−SOF基の脱離を伴う場合がある。上記温度範囲における接触時間は1分〜1週間が好ましく、特に好ましくは1〜50時間である。
【0030】
フッ素化の工程においてポリマーを含フッ素溶媒に溶解又は分散させてフッ素化する場合には、当該含フッ素溶媒としては例えば以下の溶媒を使用できる。
パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン等のポリフルオロトリアルキルアミン化合物。
【0031】
パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロドデカン、パーフルオロ(2,7−ジメチルオクタン)、2H,3H−パーフルオロペンタン、1H−パーフルオロヘキサン、1H−パーフルオロオクタン、1H−パーフルオロデカン、1H,4H−パーフルオロブタン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロヘキサン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクタン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロデカン、3H,4H−パーフルオロ(2−メチルペンタン)、2H,3H−パーフルオロ(2−メチルペンタン)等のフルオロアルカン。
3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のクロロフルオロアルカン。
【0032】
パーフルオロデカリン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(1,2−ジメチルシクロヘキサン)、パーフルオロ(1,3−ジメチルシクロヘキサン)、パーフルオロ(1,3,5−トリメチルシクロヘキサン)、パーフルオロジメチルシクロブタン(構造異性を問わない)等のポリフルオロシクロアルカン。
パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のポリフルオロ環状エーテル化合物。
【0033】
n−COCH、n−COCHCF、n−COCHFCF、n−COC、n−COCH、iso−COCH、n−COC、iso−COC、n−COCHCF、n−C11OCH、n−C13OCH、n−C11OC、CFOCF(CF)CFOCH、CFOCHFCHOCH、CFOCHFCHOC、n−COCFCF(CF)OCHFCF等のヒドロフルオロエーテル類、フッ素含有低分子量ポリエーテル、クロロトリフルオロエチレンのオリゴマー等。
【0034】
ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、1,4−ビストリフルオロメチルベンゼン等の含フッ素芳香族化合物。
これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
これらの他にも広範な化合物を使用できる。1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、1,1,1−トリクロロ−2,2,2−トリフルオロエタン、1,1,1,3−テトラクロロ−2,2,3,3−テトラフルオロプロパン、1,1,3,4−テトラクロロ−1,2,2,3,4,4−ヘキサフルオロブタン等のクロロフルオロカーボン溶媒類は、技術的には使用できるが、地球環境保護の観点から好ましくない。この他に、液体又は超臨界の二酸化炭素を用いて反応を行うこともできる。
上述の溶媒の中で水素原子を含有する溶媒は、フッ素ガスと反応するので、水素原子を含有しない溶媒を用いるほうが好ましい。
【0036】
上述のようにしてフッ素化させたポリマーは、例えばNaOHやKOH等のアルカリ水溶液中、又はメタノールやエタノール等のアルコール類やジメチルスルホキシド等の極性溶媒と水との混合溶媒中でその−SOF基が加水分解された後、塩酸や硫酸等の水溶液により酸型化されスルホン酸基に変換される。例えばKOH水溶液により加水分解される場合は、−SOF基が−SOK基に変換され、その後Kイオンがプロトンに置換される。加水分解及び酸型化は通常0℃〜120℃の間で行われる。
【0037】
また、上述のようにしてフッ素化させたポリマーのスルホンイミド基への変換方法としては、公知の方法が使用できる。例えば、米国特許5463005号明細書や、Inorg.Chem.32(23)5007頁(1993年)に記載の方法等が挙げられる。すなわち、ポリマーをトリフルオロメタンスルホンアミド、ヘプタフルオロエタンスルホンアミド、ノナフルオロブタンスルホンアミド等のパーフルオロスルホンアミドをアルカリ金属フッ化物や有機アミン等の塩基性化合物存在下に接触させる方法や、該スルホンアミドのアルカリ金属塩をさらにシリル化した化合物と接触させる方法により、ポリマー中の−SOF基を反応させ、塩基由来の塩型のスルホンイミド基に変換した後、さらに塩酸や硫酸等の水溶液で酸型化することでスルホンイミド基に変換できる。
【0038】
また、フッ素化させたポリマーを、固体状態で、溶媒で膨潤させた状態で、又は溶媒に溶解した状態で、アンモニアと接触させてポリマー中の−SOF基をスルホンアミド基に変換した後、アルカリ金属フッ化物や有機アミン等の塩基性化合物の存在下にトリフルオロメタンスルホニルフルオライド、ヘプタフルオロエタンスルホニルフルオライド、ノナフルオロブタンスルホニルフルオライド、ウンデカフルオロシクロヘキサンスルホニルフルオライド等の−SOF基含有化合物と接触させることでも変換できる。
【0039】
このようなスルホンイミド基への変換反応を行う場合、フッ素化させたポリマーを、溶媒で膨潤させた状態で、又は溶媒に溶解した状態で反応させることが、スルホンイミド化反応を円滑に進めるために好ましい方法といえる。このような溶媒としては、例えば、ポリマーを含フッ素溶媒に溶解又は分散させてフッ素ガスと接触させる場合に使用できる溶媒として上記に例示した溶媒が使用できる。
【0040】
なお、生成するスルホンイミド基に変換されたポリマーが、上記の溶媒に対し溶解しなくなる場合、反応の進行に伴い反応場が不均一になり該イミド化反応が円滑に進行しなくなる場合がある。このような場合、生成してくるスルホンイミド基に変換されたポリマーが溶解もしくは膨潤するような溶媒を併用することも好ましい方法といえる。
【0041】
スルホンイミド基に変換されたポリマーを膨潤させる又は溶解しうる溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド,N−メチル−2−ピロリドン等の極性溶媒が使用できる。
【0042】
また、CFCHOH、CFCFCHOH、H(CFCFCHOH、CF(CF(CHOH、(CFCHOH等の含フッ素アルコールも、フッ素化させたポリマー及びスルホンイミド基に変換されたポリマーのいずれもを膨潤させ又は溶解しうる溶媒として好ましい。ただし、式中aは1〜5の整数であり、bは1〜10の整数であり、cは1〜6の整数である。反応の際には上述してきたこれらの溶媒を単独で用いても2種以上を混合して用いることもできる。
【0043】
フッ素ガスと反応させるスルホン酸基、スルホンイミド基又はそれらの前駆体基である−SOF基を有するポリマーは、環構造を有するモノマー又は環化重合性モノマーとスルホン酸基又はスルホン酸基の前駆体基を有するモノマーとの共重合の工程を経て合成できる。上記ポリマーは、燃料電池の電解質材料としての耐久性やフッ素化工程の容易性を考慮すると、パーフルオロモノマーのみを共重合して得られるパーフルオロポリマーであることが好ましい。パーフルオロポリマーであっても、連鎖移動反応等により、ポリマー主鎖末端に−COF基、−COOH基、−CF=CF基等が存在し、重合開始剤に水素原子を含むものを使用した場合には、ポリマー主鎖末端に重合開始剤に基づく非パーフルオロの基が生成するため、フッ素化工程を経ることによりフッ素化の効果が得られる。
【0044】
上記重合開始剤として、パーフルオロブタノイルパーオキサイドに代表されるパーフルオロジアシルパーオキサイド等のパーフルオロ化合物を使用する場合、末端に安定なパーフルオロ基が導入され、重合後の不安定末端基が少なくなる場合がある。このような方法で得られたポリマーは、フッ素化工程を経なくても本ポリマーとして使用できるが、このような不安定末端基の少ないポリマーをさらにフッ素ガスによる処理を行うと、より容易に不安定末端基が非常に少ないポリマーが得られ好ましい。
【0045】
本ポリマーにおける環構造は特に限定されないが、例えば下式で表わされる環構造が好ましい。式中nは1〜4の整数であり、Rは炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基であり、X、Xはそれぞれ独立にフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。また、(CXにおいてnが2以上である場合は、炭素ごとにXとXの組合せは異なっていてもよい。いずれの環構造の場合にも4〜7員環であることが好ましく、環の安定性を考慮すると5員環又は6員環であることが特に好ましい。
【0046】
【化1】

【0047】
本ポリマーを得るためのコモノマーの環構造を有するモノマーとしては、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)(以下、PDDという。)、パーフルオロ(1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(以下MMDという)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール等を例示できる。
【0048】
本ポリマーを得るためのコモノマーの環化重合性モノマーとしては、パーフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)(以下、BVEという。)、パーフルオロ[(1−メチル−3−ブテニル)ビニルエーテル]、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)、1,1’−[(ジフルオロメチレン)ビス(オキシ)]ビス[1,2,2−トリフルオロエテン]等を例示できる。
【0049】
上述の環構造を有するモノマー又は環化重合性モノマーに基づく繰り返し単位を具体的に示すと、例えばPDDに基づく繰り返し単位は式5、BVEに基づく繰り返し単位は式6、MMDに基づく繰り返し単位は式7で示される。本明細書において「脂肪族環構造を有するパーフルオロポリマー」とは、このように不飽和結合を含まない環構造を有する繰り返し単位を含む含パーフルオロポリマーを示すものとする。
【0050】
【化2】

【0051】
環構造を有するモノマー又は環化重合性モノマーと反応させるスルホン酸基、スルホンイミド基又はそれらの基の前駆体基を有するモノマーとしては、−SOF基を有するパーフルオロビニルエーテルが好ましく挙げられる。具体的には、CF=CF−(OCFCFY−O−(CF−SOFで表されるパーフルオロビニルエーテル(式中、Yはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0又は1であり、m+p>0である。)が好ましい。上記パーフルオロビニルエーテルのなかでも、式8〜10の化合物が好ましく挙げられる。ただし、式8〜10中、qは1〜8の整数であり、rは1〜8の整数であり、sは2又は3である。−SOF基を有するモノマーを用いて重合した場合、通常加水分解、酸型化処理又は公知の反応を用いて−SOH基又はスルホンイミド基に変換して電解質材料とされる。すなわち、電解質材料となる本ポリマー中にはCF=CF−(OCFCFY−O−(CF−Zに基づく繰り返し単位(Zはスルホン酸基又はスルホンイミド基)が含まれることが好ましい。
【0052】
【化3】

【0053】
また、上記モノマー以外に下記式11〜13で表わされるモノマーも使用できる。ただし、式中Y、Yはそれぞれフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、t、xは0〜2の整数であり、u、v、wは1〜12の整数である。さらに具体的に示すと式14〜17で表わされるモノマーが挙げられる。
【0054】
【化4】

【0055】
【化5】

【0056】
特に本ポリマーとしては、パーフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(1,3−ジオキソール)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール及びパーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)からなる群から選択されるモノマーに基づく繰り返し単位と、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテン)スルホン酸(CF=CFOCFCF(CF)O(CFSOH)又はパーフルオロ(3−オキサ−4−ペンテン)スルホン酸(CF=CFO(CFSOH)に基づく繰り返し単位とを含むポリマーであることが好ましい。
【0057】
本ポリマーは、上述の環状モノマー又は環化重合性モノマーと、例えば式8〜10で表わされるような−SOF基を有するモノマーとの共重合の工程を経て合成されるが、強度の調整などのため、さらにテトラフルオロエチレン等の他のラジカル重合可能なモノマーを共重合させてもよい。本ポリマーは、環構造を有するモノマーに基づく繰り返し単位とスルホン酸基又はスルホンイミド基を有するモノマーに基づく繰り返し単位のみから構成される場合、その骨格は剛直になりやすく、燃料電池の膜や触媒層に用いると膜や触媒層が脆くなりやすい場合もあるためである。
【0058】
ただし本ポリマーは、重合後、フッ素化の工程を経ることにより撥水性に優れ、燃料電池のカソードの電解質として使用する場合、燃料電池の出力を向上させ、長期にわたり安定した特性を示すが、他のモノマーを共重合する場合は、その優れた出力特性を損なわないように、本ポリマー中での当該他のモノマーに基づく繰り返し単位の含有量が質量比で35%以下、特に20%以下になるようにするのが好ましい。
【0059】
上述の共重合可能なモノマーとしては、例えばTFE、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、エチレン等が挙げられる。また、CF=CFORf1、CH=CHRf2、CH=CHCHf2で表わされる化合物も使用できる。ただし、Rf1は炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基であり、枝分かれ構造であってもよく、エーテル結合性の酸素原子を含有してもよい。Rf2は炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基である。これらのなかでも、パーフルオロモノマーを用いるほうがフッ素ガスとの反応が容易であり、耐久性の観点から好ましい。なかでもTFEは入手が容易で重合反応性が高いので好ましい。
【0060】
上記モノマーにおいてCF=CFORf1で表される化合物としては、CF=CF−(OCFCFX)−O−Rf4で表されるパーフルオロビニルエーテル化合物が好ましい。ただし、式中、yは0〜3の整数であり、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rf4は直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基(以下、本明細書において、Rf4は同じ意味で用いる。)である。なかでも、式18〜20で表わされる化合物が好ましく挙げられる。ただし、式中、aは1〜8の整数であり、bは1〜8の整数であり、cは2又は3である。
【0061】
【化6】

【0062】
本ポリマーを用いた膜や触媒層の強度を高めるためには、本ポリマーの数平均分子量は5000以上が好ましく、10000以上、さらには20000以上であるとより好ましい。また、分子量が大きすぎると成形性や後述する溶媒への溶解性が低下することがあるので、分子量は5000000以下が好ましく、2000000以下であることがより好ましい。
【0063】
本ポリマーにおける環構造を有するモノマーに基づく繰り返し単位の含有量は、0.5〜80モル%が好ましく、1〜80モル%、さらには4〜70モル%、さらには10〜70モル%であるとより好ましい。環構造を有するモノマーに基づく繰り返し単位は少量含まれるだけでも耐久性向上効果があるが、0.5%未満では当該効果が現れにくい場合がある。また、環構造を有するモノマーに基づく繰り返し単位が多いほど、本ポリマーは厳しい環境下(例えば高温下)での耐久性に優れる。一方、環構造を有する繰り返し単位が多すぎると、ポリマー中のスルホン酸基が少なくなり、イオン交換容量が小さくなって導電性が低くなるおそれがある。
【0064】
また、本ポリマーを電解質膜として使用する場合、特にその使用温度が100℃以上の高温になる場合がある。そのため電解質膜の軟化温度は100℃以上、さらには110℃以上、特には120℃以上であること好ましい。軟化温度は、動的粘弾性測定法により測定することができる。本明細書では、酸型化した膜について動的粘弾性測定を1Hz、昇温速度2℃/minの条件で貯蔵弾性率を測定し、50℃における接線と、貯蔵弾性率5×10Paにおける接線との交点を軟化温度としている。また、一部のポリマーについては、動的粘弾性測定が難しいものがあるため、このようなポリマーについては、TMA法により測定を行い、軟化温度とすることができる。
この場合、環構造を有するモノマーに基づく繰り返し単位の含有量は、20モル%以上、さらには30モル%以上、特に40モル%以上であることが好ましい。
【0065】
さらに本ポリマーがTFEなどの共重合可能なモノマーに基づく繰り返し単位を含む場合は、当該繰り返し単位は5〜85モル%含まれることが好ましい。5モル%より少ないと、例えば電解質膜として使用する場合に、膜の靭性が充分でなくなる場合がある。85モル%より多いと、環構造を有する繰り返し単位及びポリマー中のスルホン酸基が少なくなり、本発明で期待される効果が発揮できないおそれがある。より好ましくは10〜80モル%、さらに好ましくは10〜70モル%である。また、ポリマーの軟化温度の高いものを得るには、10〜70モル%、さらには10〜60モル%、特に10〜50モル%であることが好ましい。
【0066】
また、スルホン酸基又はスルホンイミド基を有する繰り返し単位は、本ポリマーのイオン交換容量が0.7〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂となるように含まれることが好ましく、0.9〜1.5ミリ当量/g乾燥樹脂となるように含まれるとさらに好ましい。イオン交換容量が低すぎると電解質材料としてのポリマーの導電性が低くなり、高すぎると撥水性が悪く燃料電池に使用した場合耐久性が悪くなるおそれがあり、ポリマー強度も不充分になるおそれがある。
【0067】
本ポリマーを得るための重合はバルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など、従来公知の方法を採用できる。重合は、ラジカルが生起する条件で行われ、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、通常のラジカル重合で用いられるラジカル開始剤を添加する方法が一般的である。重合温度は通常は20〜150℃程度である。ラジカル開始剤としては、例えばビス(フルオロアシル)パーオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)パーオキシド類、ジアルキルパーオキシジカーボネート類、ジアシルパーオキシド類、パーオキシエステル類、アゾ化合物類、過硫酸塩類等が挙げられる。
【0068】
溶液重合では、使用する溶媒の沸点は、取扱い性の観点から、通常は20〜350℃、好ましくは40〜150℃である。使用可能な溶媒としては、上述の、本ポリマーのフッ素化を含フッ素溶媒中で行う際に含フッ素溶媒の好適なものとして例示した含フッ素溶媒と同じ溶媒が挙げられる。すなわち、ポリフルオロトリアルキルアミン化合物、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロアルカン、クロロフルオロアルカン、分子鎖末端に二重結合を有しないフルオロオレフィン、ポリフルオロシクロアルカン、ポリフルオロ環状エーテル化合物、ヒドロフルオロエーテル類、フッ素含有低分子量ポリエーテル、t−ブタノール等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、この他にも液体又は超臨界の二酸化炭素を用いて重合することもできる。
【0069】
本ポリマーは、−OH基を有する有機溶媒に溶解又は良好に分散できる。該溶媒としては、アルコール性の−OH基を有する有機溶媒が好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−1−ペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、3,3,3−トリフルオロ−1−プロパノール、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキサノール、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール等が例示される。また、アルコール以外に酢酸等のカルボキシル基を有する有機溶媒も使用できるが、これらに限定されない。
【0070】
−OH基を有する有機溶媒は、複数の溶媒を混合して用いてもよく、水又は他の含フッ素溶媒と混合して用いてもよい。他の含フッ素溶媒としては、上述の、本ポリマーのフッ素化を含フッ素溶媒中で行う際に含フッ素溶媒の好適なものとして例示した含フッ素溶媒と同じ溶媒が例示される。混合溶媒を使用する場合、−OH基を有する有機溶媒は、溶媒全質量の10%以上、特に20%以上含まれることが好ましい。
混合溶媒を用いる場合、最初から本ポリマーを混合溶媒中に溶解又は分散させてもよいが、−OH基を有する有機溶媒に溶解又は分散した後、他の溶媒を混合してもよい。
【0071】
溶解又は分散する温度は0℃〜250℃の範囲が好ましく、特に20〜150℃にて大気圧下又はオートクレーブ等の密閉加圧した条件下で行うことが好ましい。
また、水よりも沸点の低いアルコール溶媒に本ポリマーを溶解又は分散した後、水を添加してアルコールを留去することにより、実質的に有機溶媒を含有しない水分散液を調製することもできる。
【0072】
上記のようにして本ポリマーを溶解又は分散させて得られる液状組成物を使用して固体高分子型燃料電池のカソードを作製すると、ガス拡散性と撥水性に優れるカソードが得られる。該液状組成物中の本ポリマーの濃度は、液状組成物全質量の1〜50%、特に3〜30%であることが好ましい。濃度が低すぎると例えばカソード作製時に多量の有機溶媒が必要とされ、濃度が高すぎると液の粘度が高すぎて取扱い性が悪くなる。
【0073】
本発明においては、例えば本ポリマーを含む液状組成物に対し、白金触媒微粒子を担持させた導電性のカーボンブラック粉末を混合して分散させ、得られた均一の分散液を用いて、以下の2つのいずれかの方法で固体高分子型燃料電池用膜−電極接合体を得ることができる。第1の方法は、膜状固体高分子電解質となるカチオン交換膜の両面に上述の分散液を塗布し乾燥した後、カーボンクロス又はカーボンペーパーで密着する方法である。第2の方法は前記分散液をカーボンクロス上又はカーボンペーパー上に塗布乾燥後、カチオン交換膜に密着させる方法である。
【0074】
本発明の固体高分子型燃料電池において、カソードに含まれる触媒と電解質材料であるイオン交換樹脂とは、質量比で触媒:イオン交換樹脂=40:60〜95:5であることが、電極の導電性と水の排出性の観点から好ましい。なお、ここでいう触媒の質量は、カーボン等の担体に担持された担持触媒の場合は該担体の質量も含む。
【0075】
また、カソード中のイオン交換樹脂は、本ポリマー単独の樹脂からなってもよいが、従来公知のスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーと本ポリマーとの混合物としてもよい。該従来公知のポリマーとしては、テトラフルオロエチレンとCF=CF−(OCFCFY)−O−(CF−SOHで表されるパーフルオロビニルエーテル(式中、Yはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0又は1であり、m+p>0である。)の共重合体が例示される。特に、テトラフルオロエチレンと上述の式1〜3で表わされるモノマーとの共重合体を得てこれを加水分解、酸型化したスルホン酸基を有するポリマーが好ましく挙げられる。
【0076】
カソードに従来公知のポリマーを混合して用いる場合は、本ポリマーの割合はカソード中のイオン交換樹脂全質量の20%以上、特に50%以上あることが好ましい。
【0077】
本発明におけるアノードは、カソードと同じであってもよいが、従来より使用されているガス拡散電極等からなってもよい。アノードはカソードと同様の工程で形成され、膜の片面にアノード、もう一方の面にカソードが配置された膜−電極接合体が得られる。本ポリマーは固体高分子型燃料電池用電解質材料であるが、カソードではなくアノードに含有されてもよいし、膜状固体高分子電解質であるイオン交換膜の材料として用いてもよい。また、イオン交換膜のみを本ポリマーで構成し、カソード及びアノードには従来公知の電解質材料等の別の樹脂を使用することも可能である。
【0078】
得られた膜−電極接合体は、例えば燃料ガス又は酸素を含む酸化剤ガス(空気、酸素等)の通路となる溝が形成され導電性カーボン板等からなるセパレータの間に挟まれ、セルに組み込まれることにより本発明の固体高分子型燃料電池が得られる。本発明の電解質材料が適用される固体高分子型燃料電池は、水素/酸素型燃料電池に限定されない。直接メタノール型燃料電池(DMFC)等への適用も可能である。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明を実施例(例1〜10、13)及び比較例(例11、12)により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、以下の例において、下記の略号を用いる。
PSVE:CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF、
PSVE2:CF=CFOCFCFOCFCFSOF、
IPP:(CHCHOC(=O)OOC(=O)OCH(CH
PFB:CFCFCFC(=O)OOC(=O)CFCFCF
HCFC141b:CHCClF(旭硝子社製)、
HCFC225cb:CClFCFCHClF(旭硝子社製)、
DMSO:ジメチルスルホキシド。
【0080】
[例1]
PDD/PSVE共重合体の合成
内容積200mlのオートクレーブに、26.0gのPDD、127.8gのPSVE、及び0.46gのIPPをいれ、脱気後、窒素で0.3MPaまで圧張りし、40℃に加熱、撹拌することで重合を開始した。10時間後、冷却、パージして重合を止め、HCFC225cbで希釈後、ヘキサンに投入することで沈殿させ、ヘキサンで2回、さらにHCFC141bで1回洗浄した。ろ過後、80℃で16時間、真空乾燥することにより、41.6gの白色のポリマーを得た。元素分析で硫黄の含有量を求め、PDD/PSVEの比とイオン交換容量を求めたところ、それぞれ56.5/43.5(モル比)、1.31ミリ当量/g乾燥樹脂であった。またGPCにより分子量を測定したところポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量は3.3万であった。
【0081】
上記ポリマー10gを2000mlのハステロイ製オートクレーブに入れ、脱気した後、ゲージ圧で0.3MPaまで窒素ガスで希釈されたフッ素ガス(20体積%)を導入し、180℃で4時間保持した。次に、これをKOH/HO/DMSO=11/59/30(質量比)の溶液に浸漬し、90℃で17時間保持して加水分解した。次いで室温に戻して水洗を3回行い、さらに3Nの塩酸に室温で2時間浸漬しさらに水洗した。この塩酸浸漬と水洗をそれぞれ合計3回行い、最後に3回水洗した。これを80℃で真空乾燥して酸型化、乾燥した後、エタノールに溶解して透明な10%溶液を得た。この溶液から厚さ200μmのキャスト膜を作製し、160℃で30分間加熱した。キャスト膜をTMA(マックサイエンス社製)にセットした。1mmφの石英プローブを用いてキャスト膜に3.5gの加重をかけて5℃/分で昇温した。キャスト膜に対するプローブのめり込みにより膜の厚みが急激に減少しはじめる温度を軟化点として計測したところ、このポリマーの軟化温度は150℃であった。
【0082】
また、フッ素ガスで処理した酸型化する前のPDD/PSVE共重合体を熱プレスして厚さ100μmのフィルムを作製し、これをKOH/HO/DMSO=11/59/30(質量比)の溶液に浸漬し、90℃で17時間保持して加水分解した。次いで室温に戻して水洗を3回行い、さらに3Nの塩酸に室温で2時間浸漬しさらに水洗した。この塩酸浸漬と水洗をそれぞれ合計3回行い、最後にさらに3回水洗を行った。これを80℃で真空乾燥して酸型の乾燥フィルムを得た。このフィルム0.1gを切り出し、3%の過酸化水素水と200ppmの2価鉄イオンを含むフェントン試薬溶液50g中に40℃で16時間浸漬する試験を行い、溶液中に検出されるフッ素イオン溶出量の浸漬したポリマー中の全フッ素量に対する割合を測定した。フッ素イオンの溶出割合は0.004%であった。
【0083】
また、上記の酸型フィルムを切り出し、0.1MKOH水溶液に室温で30分浸漬し水洗後、110℃で真空乾することでK塩型のフィルムを得た。このフィルムの赤外分光スペクトルを測定したところ、吸光度比I1690/I2350は0.06であった。
【0084】
[例2]
BVE/PSVE共重合体の合成
300mlのフラスコに、窒素雰囲気下、120.0gのBVE、128.5gのPSVE、及び0.76gのIPPを入れ、40℃に加熱、撹拌することで重合を開始した。16.7時間後、重合を止め、ヘキサンに投入することで沈殿させ、さらにヘキサンで3回洗浄した。ろ過後、80℃で16時間、真空乾燥する事により、47.8gの白色のポリマーを得た。
【0085】
元素分析で硫黄の含有量を求め、BVE/PSVEの比とイオン交換容量を求めたところ、それぞれBVE/PSVE=67.0/33.0(モル比)、0.99ミリ当量/g乾燥樹脂であった。またGPCにより分子量を測定したところポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量は2.9万であった。上記ポリマー10gを2000mlのハステロイ製オートクレーブに入れ、脱気した後、ゲージ圧で0.3MPaまで窒素ガスで希釈されたフッ素ガス(20体積%)を導入し、180℃で4時間保持した。アルカリで加水分解、酸型化、乾燥した後、エタノールに溶解して透明な10%溶液を得た。例1と同様にして求めたこのポリマーの軟化温度は110℃であった。
【0086】
得られたポリマーについて例1と同様にフェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.004%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.05であった。
【0087】
[例3]
TFE/PDD/PSVE共重合体の合成
内容積200mlのオートクレーブに14.30gのPDD、52.64gのPSVE、76.94gのHCFC225cb、及び0.36gのIPPを入れ、凍結脱気した。TFEを5.9g導入後、40℃に昇温して重合を開始した。このとき圧力は0.26MPa(ゲージ圧)であった。40℃で10時間反応させ、圧力が0.07MPa(ゲージ圧)になったところで、反応を止めた。重合溶液をHCFC225cbで希釈後ヘキサンにより凝集し、さらにヘキサンで3回洗浄した。80℃で一晩真空乾燥を行った。収量25.03g(収率34.4%)。
【0088】
19F−NMRでポリマー組成を求めたところ、TFE/PDD/PSVE=42/35/22(モル比)であり、イオン交換容量が0.98ミリ当量/g乾燥樹脂であった。また、GPCによるポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量は5.3万、重量平均分子量は8.3万であった。このポリマー10gを2000mlのハステロイ製オートクレーブに入れ、脱気した後、ゲージ圧で0.3MPaまで窒素ガスで希釈されたフッ素ガス(20体積%)を導入し、180℃で4時間保持した。次に、アルカリで加水分解、酸型化、乾燥した後、エタノールに溶解して透明な12%溶液を得た。
【0089】
また、フッ素ガスによる処理を行って得られたポリマーを用い、熱プレスで厚さ100μmのフィルムを作製した。これをKOH/HO/DMSO=11/59/30(質量比)の溶液に浸漬し、90℃で17時間保持して加水分解した。室温に戻して水洗を3回行った。さらに2Nの硫酸に室温で2時間浸漬して水洗した。この硫酸浸漬と水洗をそれぞれ合計3回行い、最後にさらに3回水洗を行った。80℃で16時間風乾し、さらに80℃で真空乾燥し、酸型の乾燥フィルムを得た。動的粘弾性の測定を行い、軟化温度を求めたところ、このポリマーの軟化温度は120℃であった。
【0090】
得られたポリマーについて例1と同様にフェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.004%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.07であった。
【0091】
[例4]
TFE/PDD/PSVE共重合体その2の合成
TFEを9g、PDDを24.4g、PSVEを102.6gとし、IPPを0.08g使用し、HCFC225cbは使用しなかった以外は例3と同様の方法で重合を行った。重合は40℃12時間行い反応を終了した。重合溶液をHCFC225cbで希釈後ヘキサンにより凝集し、さらにヘキサンで3回洗浄した。80℃で一晩真空乾燥を行った。収量37.8g(収率27.7%)。
【0092】
例3と同様の方法により分子量・組成測定を行った。得られたポリマーの組成はTFE/PDD/PSVE=36/41/23であり、イオン交換容量は0.97ミリ当量/g乾燥樹脂であった。また、数平均分子量16万、重量平均分子量28万であった。得られたポリマーを240℃で4時間減圧下で熱処理した後、例3と同様の方法によりフッ素ガス処理を行った。
【0093】
得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.004%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.06であった。
【0094】
[例5]
TFE/PDD/PSVE2共重合体の合成
TFEを6g、PDDを16.5g、PSVE2を68.3g、IPPを0.05g使用し、実施例4と同様の方法で重合を行った。重合は40℃20時間行った。重合溶液をHCFC225cbで希釈後ヘキサンにより凝集し、さらにヘキサンで3回洗浄した。80℃で一晩真空乾燥を行った。収量27.3g(収率30.1%)。
【0095】
例3と同様の方法により分子量・組成測定、及びフッ素ガス処理を行った。得られたポリマーの組成はTFE/PDD/PSVE2=36/39/26であり、イオン交換容量は1.11ミリ当量/g乾燥樹脂であった。また、数平均分子量16.7万、重量平均分子量87万であった。得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.007%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.1であった。
【0096】
[例6]
TFE/MMD/PSVE共重合体の合成
内容積200mlのオートクレーブに14.1gのMMD、78.0gのPSVE、及びPFBを3質量%含むHCFC225cb溶液0.3gを入れ、凍結脱気した。TFEを14.1g導入後、20℃で22時間重合を行った。重合溶液をHCFC225cbで希釈後ヘキサンにより凝集し、さらにヘキサンで3回洗浄した。80℃で一晩真空乾燥を行った。収量2.2g。
【0097】
得られたポリマーについて、例3と同様の方法により分子量・組成測定、及びフッ素ガス処理を行った。得られたポリマーの組成は、TFE/MMD/PSVE=30/47/23(モル比)であり、イオン交換容量が0.93ミリ当量/g乾燥樹脂であった。また、GPCによるポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量は15.5万、重量平均分子量は23.9万であった。得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.001%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.015であった。
【0098】
[例7]
TFE/MMD/PSVE共重合体その2の合成
内容積200mlのオートクレーブに0.7gのMMD、92.6gのPSVE、50.8gのHCFC225cb、及びPFBを3質量%含むHCFC−225cb溶液2.57gを入れ、凍結脱気した。40℃に昇温してTFEを0.5MPaになるまで導入し、その後この圧力を保持したままTFEを導入しつつ、40℃で7時間重合を行った。重合溶液をHCFC141bにより凝集し、HCFC141bで3回洗浄した。80℃で一晩真空乾燥を行った。収量19.9g。
【0099】
得られたポリマーをKOH水溶液にて加水分解後、塩酸水にて滴定することで求めたイオン交換容量は1.06ミリ当量/g乾燥樹脂であった。さらに19F−NMRでポリマー組成を求めたところ、TFE/MMD/PSVE=77/5/18(モル比)であった。このポリマーを例3と同様の方法によりフッ素ガス処理を行った。得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.001%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.02であった。
【0100】
[例8]
TFE/MMD/PSVE共重合体その3の合成
内容積200mlのオートクレーブに0.4gのMMD、93.0gのPSVE、53.3gのHCFC225cb、及びPFBを3質量%含むHCFC−225cb溶液2.62gを入れ、凍結脱気した。40℃に昇温してTFEを0.45MPaになるまで導入し、その後この圧力を保持したままTFEを導入しつつ、40℃で7時間重合を行った。重合溶液をHCFC141bにより凝集し、HCFC141bで3回洗浄した。80℃で一晩真空乾燥を行った。収量16.7g。
【0101】
得られたポリマーをKOH水溶液にて加水分解後、塩酸水にて滴定することで求めたイオン交換容量は1.04ミリ当量/g乾燥樹脂であった。さらに19F−NMRでポリマー組成を求めたところ、TFE/MMD/PSVE=74/8/18(モル比)であった。このポリマーを例3と同様の方法によりフッ素ガス処理を行った。得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.001%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.01であった。
【0102】
[例9]
TFE/MMD/PSVEその4
内容積200mlのオートクレーブに2.4gのMMD、91.8gのPSVE、55.2gのHCFC−225cb、及びPFBを3質量%含むHCFC225cb溶液2.66gを入れ、凍結脱気した。40℃に昇温してTFEを0.40MPaになるまで導入し、その後この圧力を保持したままTFEを導入しつつ、重合を行った。重合時間は40℃7時間おこなった。重合溶液をHCFC141bにより凝集し、HCFC141bで3回洗浄した。80℃で一晩真空乾燥を行った。収量14.9g。
【0103】
得られたポリマーをKOH水溶液にて加水分解後、塩酸水にて滴定することで求めたイオン交換容量は1.13ミリ当量/g乾燥樹脂であった。さらに19F−NMRでポリマー組成を求めたところ、TFE/MMD/PSVE=61/16/23(モル比)であった。このポリマーを例3と同様の方法によりフッ素ガス処理を行った。得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.003%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.04であった。
【0104】
[例10]
TFE/BVE/PSVE共重合体
内容積200mlのオートクレーブに48.6gのBVE、86.4gのPSVE、86.2gの1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン、及びPFBを3質量%含むHCFC−225cb溶液0.75gを入れ、凍結脱気した。30℃に昇温してTFEを0.15MPaになるまで導入し、その後この圧力を保持したままTFEを導入しつつ、重合を行った。重合時間は30℃16時間行った。重合溶液をヘキサンにより凝集し、ヘキサンで3回洗浄した。80℃で一晩真空乾燥を行った。収量8.3g。
【0105】
得られたポリマーをKOH水溶液にて加水分解後、塩酸水にて滴定することで求めたイオン交換容量は0.95ミリ当量/g乾燥樹脂であった。さらに19F−NMRでポリマー組成を求めたところ、TFE/BVE/PSVE=61/20/19(モル比)であった。このポリマーを例3と同様の方法によりフッ素ガス処理を行った。得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.001%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.01であった。
【0106】
[例11]
例4で重合したポリマーをフッ素ガスで処理せずに回収した。組成、分子量は同じであった。得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.043%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.61であった。
【0107】
[例12]
TFEとPSVEとからなる共重合体粉末(酸型に変換して測定したときのイオン交換容量1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂、以下共重合体Aという。)10gを減圧オーブンで圧力10Pa、250℃にて4時間熱処理を行った。その後例3と同様の方法でフッ素ガス処理を行った。得られたポリマーについて例1と同様に加水分解、酸型化処理を行い、フェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.002%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.03であった。
【0108】
また、共重合体Aについても同様にフェントン試験を行ったところ、フッ素イオン溶出割合は0.04%であった。また、例1と同様に赤外線スペクトルを測定したところ吸光度比I1690/I2350は0.57であった。
【0109】
[例13]
例4で得られたフッ素ガス処理を行ったポリマー0.16gを、1,3−ビストリフルオロメチルベンゼン2.7gに溶解した後、ジメチルスルホキシド2.7gを徐々に添加しポリマーの懸濁液を得た。これにトリフルオロメタンスルホンアミド0.24g、トリエチルアミン0.15gを加え100℃で48時間撹拌した。得られた反応液は均一透明だった。この溶液を基板上に塗布乾燥した後3N塩酸で3回洗浄し、さらに水で3回処理し、再度20%KOH水溶液に浸漬し、水洗、乾燥を行った。得られた膜の赤外線スペクトル測定を行った結果、ポリマー中のSOF基の50%がSOK、50%が−SONKSOCF(スルホンイミドのカリウム塩)に変換されたポリマーが得られていることが確認された。吸光度比I1690/I2350は0.06であった。
【0110】
[燃料電池の作製及び電解質材料の耐久性評価試験]
燃料電池セルは以下のようにして組み立てた。CF=CFに基づく繰り返し単位とCF=CF−OCFCF(CF)O(CFSOHに基づく繰り返し単位とからなる共重合体(イオン交換容量1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂)と白金担持カーボンとを1:3の質量比で混合し、さらにエタノールと混合して塗工液を作製した。この塗工液を、エチレン−テトラフルオロエチレンフィルム基材上にダイコート法で塗工、乾燥して厚さ10μm、白金担持量0.5mg/cmの電極層を得た。
【0111】
次に、例4〜12で得られたポリマーそれぞれについて、熱プレスを行って厚さ50μmのフィルムをそれぞれ作製した。これをKOH/HO/DMSO=15/55/30(質量比)の溶液に浸漬し、80℃で17時間保持して加水分解した。これを室温に戻して水洗を3回行い、さらに3mol/Lの塩酸に室温で2時間浸漬して水洗した。この塩酸浸漬と水洗をそれぞれ合計3回行い、最後にさらに3回水洗を行った。60℃で16時間風乾し、電解質膜を得た。また、例12の共重合体A(フッ素化処理なし)についても同様の方法で、電解質膜を得た。
【0112】
次に、上記のようにして得られた2枚の電極層を、電極層同士が対向するようにして間に上記電解質膜をそれぞれ挟み込んだ状態でプレスを行い、電極層を膜に転写したものを、各実施例ごとに作製した。さらにその両外側にカーボンクロスをガス拡散層として配置して膜電極接合体を作製した。
【0113】
この膜電極接合体の両外側にガス通路用の細溝をジグザグ状に切削加工したカーボン板製のセパレータ、さらにその外側にヒータを配置し、有効膜面積25cmの固体高分子型燃料電池を組み立てた。
【0114】
耐久性の評価は以下の方法で行った。回路を開放した状態で燃料電池の温度を90℃に保ち、カソードに露点50℃で水蒸気を含有する空気、アノードに露点50℃で水蒸気を含有する水素をそれぞれ50ml/分で供給した。この状態で表に示す時間運転を続けた後、燃料電池を分解し、電解質膜の劣化状態を質量測定により測定した。その結果を表に示す。ここで質量減少速度とは、質量減少(%)を運転時間(h)で除した値である。なお、例13について同様の評価をした場合、例4と同等の結果が見込まれる。
【0115】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の電解質材料は、主鎖に脂肪族環構造を有していてガス拡散性に優れ、かつ高度にフッ素化されているため撥水性に優れており、また末端が安定化されているため、この電解質材料を有する燃料電池は、長期間作動させても耐久性に優れる。
【0117】
また、本発明は、従来用いられているテトラフルオロエチレン/CF=CFCFCF(CF)O(CFSOH共重合体の軟化温度が高いスルホン酸ポリマーが提供できる。従来のポリマーは80℃付近から急激に弾性率が低下しはじめ、その軟化温度が燃料電池セルの運転温度に近いため燃料電池の電解質として使用すると経時的に膨潤度などの物性が変化しやすいという点で耐久性に問題が生じやすく、また、80℃以上の温度での運転は困難である。一方、軟化温度が高い本発明の電解質材料を燃料電池の電解質膜や電極に含まれる電解質のポリマーとして用いた場合、経時的な物性の変化がないので、高い耐久性が得られる。また、80℃より高い温度でのセルを運転することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)とパーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテン)スルホン酸カリウムの共重合体の赤外線スペクトルを示す図。
【符号の説明】
【0119】
1,1':ベースライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基又はスルホンイミド基を有し、かつ主鎖に脂肪族環構造を有するパーフルオロポリマーからなる電解質材料であって、3%の過酸化水素水と200ppmの2価鉄イオンを含むフェントン試薬溶液50g中にポリマー0.1gを40℃で16時間浸漬する試験において、溶液中に検出されるフッ素イオン溶出量が、浸漬したポリマー中の全フッ素量の0.01%以下であることを特徴とする電解質材料。
【請求項2】
前記パーフルオロポリマーは、赤外分光スペクトルにおける、1690±10cm−1の帯域の最大吸光度I1690と2350±10cm−1の吸光度I2350との比I1690/I2350が0.15以下である請求項1に記載の電解質材料。
【請求項3】
前記パーフルオロポリマーが、下記モノマーAに基づく繰り返し単位と下記モノマーBに基づく繰り返し単位を含む共重合体からなる請求項1又は2に記載の電解質材料(ただし、式中、Yはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0又は1であり、m+p>0、YはOH又はNHSOZであってZはエーテル性の酸素原子を含んでもよい炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。)。
モノマーA:ラジカル重合により、主鎖に環構造を含む繰り返し単位を有するポリマーを与えるパーフルオロモノマー。
モノマーB:CF=CF−(OCFCFY−O−(CF−SOで表されるパーフルオロビニルエーテル。
【請求項4】
前記モノマーAに基づく繰り返し単位が、下記式(1)〜(4)のいずれかで表わされる請求項3に記載の電解質材料(ただし、式中nは1〜4の整数であり、Rは炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルコキシ基であり、X、Xはそれぞれ独立にフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。また、(CXにおいてnが2以上である場合は、炭素ごとにXとXの組合せは異なっていてもよい。)。
【化1】

【請求項5】
前記モノマーAに基づく繰り返し単位が、下記式(5)〜(7)のいずれかで表わされる請求項3に記載の電解質材料。
【化2】

【請求項6】
前記モノマーAに基づく繰り返し単位を0.5〜80モル%、及び前記モノマーBに基づく繰り返し単位を5〜40モル%含み、イオン交換容量が0.7〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂である請求項3〜5のいずれかに記載の電解質材料。
【請求項7】
前記モノマーAに基づく繰り返し単位を0.5〜70モル%、前記モノマーBに基づく繰り返し単位を5〜40モル%、及びテトラフルオロエチレンに基づく繰り返し単位を5〜90モル%含み、イオン交換容量が0.7〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂である請求項3〜5のいずれかに記載の電解質材料。
【請求項8】
数平均分子量が20000〜2000000である請求項1〜7に記載の電解質材料。
【請求項9】
膜状固体高分子電解質と、該電解質を介して配置されるカソード及びアノードとを有する固体高分子型燃料電池用膜電極接合体において、前記カソード及び前記アノードの少なくとも一方は、触媒と請求項1〜8のいずれかに記載の電解質材料とを含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜電極接合体。
【請求項10】
膜状固体高分子電解質と、該電解質を介して配置されるカソード及びアノードとを有する固体高分子型燃料電池用膜電極接合体において、前記膜状固体高分子電解質は、請求項1〜8のいずれかに記載の電解質材料からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜電極接合体。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の電解質材料の製造方法であって、−SOF基を有するパーフルオロポリマーをラジカル重合により得た後、該パーフルオロポリマーをフッ素ガスと接触させ、次いで−SOF基をスルホン酸基又はスルホンイミド基に変換することを特徴とする電解質材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−32157(P2006−32157A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210060(P2004−210060)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】