説明

圧縮機

【課題】機械加工の作業工数を低減して低コスト化した連通路により、螺旋ピンの共有化を図るとともに、異物の螺旋溝内への浸入を防止した圧縮機を提供する。
【解決手段】油溜め室18と密閉空間とを連通する連通路25とを備えた圧縮機において、連通路25が、油溜め室18の側に配置され、外周面に螺旋状の溝を有する螺旋ピン27が収容される上流部38と、密閉空間の側に配置された下流部37とを備え、上流部38が、油溜め室18側から密閉空間側に向けて段階的に小径とする大径部38a、中径部38b及び小径部38cを備え、中径部38bが螺旋ピン27の外径と略同じ内径を有し、かつ、中径部38bの底面を大径部38aより高くして段差を設けるとともに、小径部38c及び小径部38cに連通する下流部37の底面を同一レベルにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機等に適用される圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の冷媒圧縮等に適用される圧縮機としては、固定スクロールの下端部に、油溜め室の底部と密閉空間の吸入側底部とを連通する連通路を備えたものが知られている。このような圧縮機の連通路には、外周面に潤滑油流路となる螺旋状の溝が形成された螺旋ピンを圧入している。この螺旋ピンは、圧縮機の機種(型式)毎に規格が異なるため、圧縮機の機種毎に諸元の異なる螺旋ピンを用意する必要がある。
【0003】
そこで、螺旋ピンの部品共通化を達成するため、外周面に螺旋状の溝を有する螺旋ピンが収容される上流部と、密閉空間の側に配置された下流部とを備え、油溜め室側に配置される上流部に小径部及び大径部を設けた連通路が提案されている。この連通路は、小径部の内径と螺旋ピンの外径とを略一致させているので、小径部より油溜め室側となる大径部の深さを適宜変更することにより、小径部に圧入される螺旋ピンの有効長さを調整することができる。従って、一種類の螺旋ピンを用意しておけば、螺旋ピンの有効長さに応じて圧力損失を変化させることができるので、仕様の異なる多くの圧縮機毎に潤滑油の戻り量を調整することができる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−348760号公報(図1,図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に開示された圧縮機の連通路は、油溜め室の側に配置された上流部と、密閉空間の側に配置された下流部とを備えているが、上流部及び下流部の長手方向軸線(中心軸線)は、オフセットした状態で接続されている。
このため、連通路の上流部及び下流部を形成する機械加工を行うためには、油溜め室側及び密閉空間側の両面から加工する必要があり、従って、段取りの変更等により作業工数が増すという問題を有している。
【0006】
このような背景から、螺旋ピンの部品共通化を可能にする連通路について、機械加工の作業工数を低減して低コスト化することが望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、機械加工の作業工数を低減して低コスト化することができる連通路により、螺旋ピンの共有化を図るとともに、異物の螺旋溝内への浸入を防止した圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明による圧縮機は、内部に空間を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置され、前記空間内に取り込まれた流体を圧縮する圧縮機構と、前記ハウジング内に配置され、前記圧縮機構から吐出された流体に混入した潤滑油を該流体から分離する油分離室と、前記油分離室により分離された潤滑油を貯溜する油溜め室と、前記油溜め室と前記空間とを連通する連通路とを備えた圧縮機であって、前記連通路が、前記油溜め室の側に配置され、外周面に螺旋状の溝を有する螺旋ピンが収容される上流部と、前記空間の側に配置された下流部とを備え、前記上流部が、前記油溜め室側から前記空間側に向けて段階的に小径とする大径部、中径部及び小径部を備え、前記中径部が前記螺旋ピンの外径と略同じ内径を有し、かつ、前記中径部の底面を前記大径部より高くして段差を設けるとともに、前記小径部及び該小径部に連通する前記下流部の底面を同一レベルにしたことを特徴とするものである。
【0008】
このような圧縮機によれば、油溜め室と空間とを連通させて潤滑油を流す連通路が、油溜め室の側に配置され、外周面に螺旋状の溝を有する螺旋ピンが収容される上流部と、空間の側に配置された下流部とを備えており、上流部が、油溜め室側から空間側に向けて段階的に小径とする大径部、中径部及び小径部を備え、中径部が螺旋ピンの外径と略同じ内径を有し、かつ、前記中径部の底面を前記大径部より高くして段差を設けるとともに、小径部及び該小径部に連通する下流部の底面を同一レベルにしたので、連通路を形成する機械加工を油溜め室側から実施できるようになる。従って、連通路の機械加工時には、段取りの変更が不要となる。
この場合、大径部、中径部及び小径部の長手方向軸線を全て同一にすれば、大径部、中径部及び小径部が全て同芯の穴あけ加工となる。このため、機械加工はより一層容易になり、しかも、中径部の底面を大径部より高くした段差を同時に設けることができる。
【0009】
また、所定(一定)の規格を有する螺旋ピンを使用した場合でも、大径部の深さ(たとえば、固定スクロールの一端面(油溜め室側の端面)から中径部までの距離)を変更するだけで、油溜め室から密閉空間の吸入側底部に戻る油量の調整を行うことができる。すなわち、所定(一定)の規格を有する螺旋ピンを、たとえば一種類だけ用意しておけば、あとは大径部の深さをどれだけ掘るかによって、換言すれば、螺旋ピンが中径部に圧入される螺旋ピンの有効長さを変更することにより、潤滑油の戻り量を適宜必要に応じて調整することができる。
これにより、圧縮機の機種毎(型式毎)に異なる規格を有する螺旋ピンを用意する必要がなく、管理コスト及び製造コストの低減化を図ることができるとともに、組立作業時における誤組を防止することができる。
【0010】
また、連通路の入口(油溜め室)側となる端部に中径部と同芯の大径部が設けられているので、中径部と大径部との接続部には段部が形成されるようになる。このため、仮に螺旋ピンの上流側に設けられたフィルタのメッシュ部を通過して大径部内に流入してしまった金属粉や個体潤滑剤等の異物、あるいはフィルタの外周部と大径部の内周部との間から大径部内に流入してしまった金属粉や個体潤滑剤等の異物が、この段部のところ(すなわち、段部により形成されたよどみ部)で捕捉され、螺旋ピンの螺旋溝までは達しないようになっている。
これにより、金属粉や個体潤滑剤等の異物が螺旋ピンの螺旋溝内に浸入し、螺旋溝が異物により閉塞してしまうことを防止することができて、各摺動部へ潤滑油を確実に供給することができ、圧縮機の長寿命化を図ることができて、信頼性及び耐久性の向上を図ることができる。
【0011】
また、上記圧縮機において、前記中径部及び前記小径部の長手方向軸線が、前記大径部の長手方向軸線よりも上方に位置するように構成することもできる。
このような圧縮機によれば、油溜め室の底(最下点)から小径部及び中径部の長手方向軸線までの鉛直方向における距離を大きくすることができて、油溜め室の底に溜まった異物が、螺旋ピンの螺旋溝内に流入してしまうことを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による圧縮機によれば、機械加工の作業工数を低減して低コスト化できる連通路の中径部に螺旋ピンを圧入して取り付けるようにしたので、中径部の軸方向長さを適宜変化させることにより、機種毎に異なる螺旋ピンの有効長さ(圧入長さ)を調整して螺旋ピンの共通化を達成できるとともに、螺旋溝内への異物浸入を防止することができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による圧縮機の一実施形態を示す図であって、その回転軸の軸線を含む断面で見た場合の断面構造図である。
【図2】図1の連通路周辺を示す要部拡大図であり、(a)は螺旋ピンを取り付ける前の状態、(b)は螺旋ピンを圧入して取り付けた状態、(c)は螺旋ピンの正面図である。
【図3】連通路に形成する中径部の長さを変化させることにより、中径部に圧入される螺旋ピンの有効長さを示す説明図である。
【図4】図1に示す固定スクロールの固定端板を油溜め室側から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による圧縮機(以下、「スクロール圧縮機」という)の一実施形態を、図面を参照しながら説明するが、本発明がこれに限定解釈されるものでないことは勿論である。なお、図1は、本実施形態のスクロール圧縮機10を示す図であって、その回転軸の軸線を含む断面で見た場合の断面構造図であり、吐出ポート15a、油分離室17、及び吐出室36を理解しやすい部分で切った図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態によるスクロール圧縮機10は、内部に密閉空間mを有するハウジング11と、このハウジング11内に配置され、密閉空間m内に吸入された冷媒ガス(流体)を圧縮するスクロール圧縮機構12と、このスクロール圧縮機構12を駆動する回転軸13とを主たる要素として構成されたものである。
【0016】
ハウジング11は、フロントハウジング14と、リアハウジング15とを備えてなり、これらを組み合わせてから複数本のボルト(図示せず)で結合することにより、内部に密閉空間mが形成されるようになっている。なお、符号16は、これらフロントハウジング14及びリアハウジング15間の接合部分をシールして、密閉空間mの密閉状態を保つOリングである。
リアハウジング15の側部には、冷媒ガスを吸入する吸入ポート(図示せず)が、密閉空間mに連通するように形成されており、リアハウジング15の上部後側には、スクロール圧縮機構12で圧縮され、油分離室17により冷媒ガス中の潤滑油が分離された後の圧縮冷媒ガスを吐出する吐出ポート15aが形成されている。また、リアハウジング15の下部後側に形成された空間は、油分離室17により分離された潤滑油(すなわち、スクロール圧縮機構12の潤滑及び圧縮室Cのシールを行った後の潤滑油)LOを貯溜する油溜め室18となっている。
【0017】
油分離室17は円筒状の空間で、この油分離室17内には、中空円筒状でかつ断面視略T字状を呈する内筒19が配置されている。
また、油分離室17の一端部(吐出ポート15a側の端部)には、スクロール圧縮機構12により圧縮された冷媒ガス(流体)を内壁面17aの接線方向に導くように穿設された導入孔17bが設けられている。この結果、油分離室17内に導入された冷媒ガスは、油分離室17内で周方向に旋回し、旋回による遠心力が作用することにより、比重の大きい潤滑油LOが内壁面17aに接触して冷媒ガスから分離される。こうして分離された潤滑油LOは、内壁面17aに沿って下方へ移動し、油溜め室18に貯溜される。
【0018】
スクロール圧縮機構12は、固定スクロール20と、旋回スクロール21とを備えるものである。
固定スクロール20は、固定端板20aとその内面に立設された渦巻状壁体20bとを備え、固定端板20aの中央部には、吐出ポート22が形成されている。この吐出ポート22は、ボルト23を介して固定端板20aの後側表面(背面)に取り付けられた吐出弁24aにより開閉される。
【0019】
固定スクロール20の下端部には、油溜め室18の底部と密閉空間mの吸入側底部とを連通する連通路25が形成されており、この連通路25の上流側端部内には、上流側からフィルタ26及び流量調整用の螺旋ピン27が配置されている。この部分については、後でさらに詳しく説明することにする。
【0020】
旋回スクロール21は、旋回端板21aとその内面に立設された渦巻状壁体21bとを備えている。旋回端板21aの外面に立設されたボス28内には、偏心ブッシュ29がニードル軸受30を介して回転自在に嵌合され、この偏心ブッシュ29に穿設された穴に、回転軸13の端部から突出した偏心ピン13aが嵌合されている。
そして、固定スクロール20と旋回スクロール21とを相互に所定距離だけ偏心させ、かつ180度だけ角度をずらして噛み合わせることにより、複数の圧縮室Cが形成されるようになっている。
【0021】
また、旋回スクロール21とフロントハウジング14との間には、オルダムリング(自転防止機構)31が設けられており、回転軸13を回転させたときに、旋回スクロール21が偏心ブッシュ29回りに自転しないようになっている。従って、回転軸13を回転させたとき、旋回スクロール21は自転せず公転旋回運動のみを行うようになっている。また、偏心ブッシュ29にはバランスウェイト32が設けられており、旋回スクロール21の公転に伴う遠心力を相殺するようになっている。
【0022】
回転軸13は、エンジンや電動モータ等の図示しない駆動機構により、その軸線回りに回転するロータシャフトであり、その先端には、偏心した軸線を有する前述した偏心ピン13aが突出形成されている。そして、この回転軸13は、フロントハウジング14側に設けられた第1軸受33及び第2軸受34により、その軸線回りに回転可能に支持されている。
また、回転軸13の一端部(図1において左側の端部)には、たとえば、電磁クラッチ(図示せず)が配置されており、これにより、図示しないエンジンや電動モータ等からの駆動力が、回転軸13へ伝達されたりされなかったりするようになっている。
なお、図中の符号35は、固定スクロール20及びリアハウジング15間の接合部分をシールして、密閉空間mの密閉状態を保つOリングである。
【0023】
このような構造を有するスクロール圧縮機10では、電磁クラッチが入れられることにより、エンジンや電動モータ等からの駆動力が回転軸13に伝達されるこの結果、回転軸13が回転し、この回転が偏心ピン13a、偏心ブッシュ29、及びボス28を介してスクロール圧縮機構12の旋回スクロール21に伝達される。旋回スクロール21は、オルダムリング31により自転を阻止されながら、公転旋回半径を半径とする円軌道上で公転旋回運動を行うようになっている。
【0024】
そうすると、冷媒ガスが吸入ポートを介してハウジング11の密閉空間mに入り、図示省略の経路を経てスクロール圧縮機構12の圧縮室Cに吸入される。そして、旋回スクロール21の公転旋回運動によって圧縮室Cの容積が減少するのに伴い、冷媒ガスは圧縮されながら中央部に至り、さらに、吐出ポート22から吐出室36及び導入孔17bを通って油分離室17内に導かれる。この冷媒ガスは潤滑油LOを含んでいるので、油分離室17の内壁面17aに沿って旋回させられることにより、冷媒ガス中に混入していた潤滑油LOは、遠心分離作用により油分離室17の内壁面17aに沿って旋回しながら落下し、油溜め室18に貯まる。一方、潤滑油LOが分離された冷媒ガスは、リアハウジング15の吐出ポート15aを経て、スクロール圧縮機10の外に吐出されるようになっている。
【0025】
ここで、固定スクロール20の下端部における構成について、図2から図4を用いて詳しく説明する。
図2に示すように、固定スクロール20の下端部には、前述したように連通路25が設けられている。この連通路25は、油溜め室18の底部と密閉空間mの吸入側底部とを連通するものであり、吐出側の圧力と吸入側の圧力との圧力差を利用して、油溜め室18内に溜まる潤滑油LOを、密閉空間mの吸入側底部へ戻すための流路である。
【0026】
連通路25は、下流側(吸入側底部の側)に位置する下流部37と、上流側(油溜め室18の側)に位置する上流部38とを有しており、これら下流部37と上流部38とは、下流部37の長手方向軸線(中心軸線)と上流部38の長手方向軸線(中心軸線)とがオフセットした状態で接続されている。
上流部38は、油溜め室18側から密閉空間m側へ向けて、段階的に小径とする大径部38a、中径部38b及び小径部38cを備えている。これら大径部38a、中径部38b及び小径部38cは、それぞれの長手方向軸線が略一致するように、すなわち、大径部38aの中心軸線、中径部38bの中心軸線及び小径部38cの中心軸線が略一致して同芯となるように、上流側から大径部38a、中径部38b、小径部38cの順に形成されている。
【0027】
このように、大径部38a、中径部38b及び小径部38cを同芯に接続することにより、大径部38aと中径部38bとの接続部には段部38dが形成され、中径部38bと小径部38cとの接続部には段部38eが形成されている。この場合の段部38d,38eは、小径側の底面が大径側の底面より高くなり、従って、段部38dにおいては中径部38bの底面が大径部38aの底面より高くなる。
そして、上述した中径部38bは、螺旋ピン27の外径と略同じ内径を有し、螺旋ピン27が大径部38a側から圧入して取り付けられるようになっている。また、小径部38cの内径は、圧入時における螺旋ピン27の圧入限界位置を規定するように設定されている。
【0028】
小径部38cの下流側には、すなわち、小径部38cにおいて密閉空間m側となる先端部には、下流部37が連通して設けられている。この下流部37は、小径部38cと底面が同一レベルとなるように穿設されており、その穴径は小径部38cより小径とされる。このため、下流部37は、上流部38を形成する大径部38a、中径部38b,小径部38cの中心軸線と平行な中心軸線上に形成された流路となる。
このようにして、固定スクロール20の下端部には、油溜め部18に開口する上流部38から密閉空間mに開口する下流部37まで連通させた連通路25が形成され、油溜め室18内に溜められた潤滑油LOを密閉空間mに供給することができる。
【0029】
螺旋ピン27は、図2(c)に示すように、概略円筒形状を有する部材であり、両先端部にはテーパ部27aが形成されているとともに、これらテーパ部27aを除く本体部27bの側面には螺旋状の溝(以下、「螺旋溝」という)27cが切られている。そして、フィルタ26を通過した潤滑油LOは、中継部38bとの間に潤滑油流路となる空間を形成する螺旋溝27cを通り、螺旋ピン27の下流側に位置する下流部37内に一旦流出する。この後、潤滑油LOは下流部37を通って密閉空間mの吸入側底部に流出させられ、旋回スクロール21により攪拌される(掻き上げられる)ことにより、ミスト状の潤滑油が圧縮前の冷媒ガス中に混入させられ、これにより、圧縮機構12の潤滑及び密閉空間mのシールが行われるようになっている。
【0030】
本実施形態によるスクロール圧縮機10によれば、所定(一定)の規格を有する螺旋ピン27を使用した場合でも、固定スクロール20を製作する際には、大径部38aの深さ(固定スクロール20の一端面(油溜め室18側の端面)から段部38dまでの距離)を変更するだけで、油溜め室18から密閉空間mの吸入側底部に戻る油量の調整を行うことができる。換言すれば、大径部38aの深さを変化させることにより、中径部38bの有効長さL(図2(a)を参照)を変化させて、圧入する螺旋ピン27の挿入量(螺旋ピン有効長さ)を調整することができる。
【0031】
続いて、有効長さLを変化させる具体例について、図3を参照して説明する。
図示の中径部38bは、螺旋ピン27が圧入される有効長さL1を有しているので、この有効長さL1をL2まで短縮したい場合には、大径部38aの長さ(深さ)を想像線で示すように中径部38b側へ延長すればよい。このような変更は、機械加工量の変更のみで対応可能であるから、容易に対応できる。
この結果、螺旋ピン27に形成された螺旋溝27cと中径部38bとの間に形成される螺旋状の潤滑油流路長さを変化させ、この潤滑油流路を通って流れる潤滑油LOの圧力損失を調整することにより、スクロール圧縮機10の型式に応じて異なる最適な潤滑油の戻り量に調整することができる。すなわち、所定(一定)の規格を有する螺旋ピン27を、たとえば一種類だけ用意しておけば、あとは大径部38aの深さをどれだけ掘るかによって、潤滑油の戻り量を適宜必要に応じて調整することが可能になる。
【0032】
これにより、圧縮機の機種毎(型式毎)に異なる規格を有する螺旋ピン27を用意する必要がなく、管理コスト及び製造コストの低減化を図ることができるとともに、組立作業時における誤組を防止することができる。
なお、上述した螺旋ピン27による潤滑油流路の圧力損失は、螺旋状とした溝27cの断面積や傾斜角度によっても調整可能であるから、これらが異なる複数の螺旋ピン27を用意することで、広範囲にわたってきめ細かい調整が可能になる。
【0033】
そして、上述した連通路25は、油溜め室18の上流側から密閉空間mの下流側へ向けて、中心軸線が略一致する同芯上で上流部38が段階的に小径化するとともに、最も下流側でかつ最も小径となる下流部37についても、上流部37と平行な中心軸線上で小径部38cの断面内に形成されるので、一般的にはドリル等を用いた機械加工が施される穴加工の作業を全て、油溜め室18側から実施できるようになる。この結果、工作機械に対するワーク(この場合は固定スクロール20)の取付方向を変更するといった段取りの変更が不要となり、従って、連通路25の加工に要する作業工数が低減されて効率よく製造できるようになる。
特に、固定スクロール20がワークの場合、油溜め室18側の面から加工可能になることは、固定端版20aの背面側から加工することを意味しているため好都合である。すなわち、固定端版20aの油溜め室18となる背面側には、たとえば図4に示すように、ハウジング固定用穴40や芯出し穴41等のように、連通路25の他にも段取りを変更しないで加工できる穴があるので、作業効率向上の観点からより一層好都合になる。
【0034】
この場合の連通路25は、大径部38a、中径部38b及び小径部38cの長手方向軸線が全て同一であるため上流部38の機械加工が全て同芯の穴あけ加工となる。そして、この機械加工により、中径部38bの底面を大径部38aより高くした段差38dを同時に設けることができる。
なお、大径部38aと中径部38b及び小径部38cの長手方向軸線については、同方向からのドリル加工及び段差38dの同時形成が可能であれば、必ずしも同芯とする必要はない。
【0035】
このようにして、連通路25の入口側端部に大径部38aが設けられ、中径部38bと大径部38aとの接続部に段部38dが形成されるようになっているので、仮にフィルタ26のメッシュ部を通過して大径部38a内に流入してしまった金属粉や個体潤滑剤等の異物、あるいは、フィルタ26の外周部と大径部38aの内周部との間から大径部38a内に流入してしまった金属粉や個体潤滑剤等の異物が、この段部38dのところ(すなわち、段部38dにより形成されたよどみ部)で捕捉され、螺旋ピン27の螺旋溝27cまでは達しないようになっている。
これにより、金属粉や個体潤滑剤等の異物が螺旋ピン27の螺旋溝27c内に浸入し、螺旋溝27cが異物により閉塞してしまうことを防止することができて、各摺動部へ潤滑油LOを確実に供給することができ、圧縮機の長寿命化を図ることができて、信頼性及び耐久性の向上を図ることができる。
【0036】
また、本発明は上述した実施形態のものに限定されるものではなく、たとえば、中径部38b及び小径部38cの中心軸線(長手方向軸線)が、大径部38aの中心軸線(長手方向軸線)よりも上方に位置するように構成されてもよい。
これにより、油溜め室18の底(最下点)から中径部38bの中心軸線までの鉛直方向における距離を大きくすることができて、潤滑油LOが油溜め室18の底に溜まった異物が、螺旋ピン27の螺旋溝27c内に流入してしまうことを防止することができる。
【0037】
また、連通路25全体が、上述した実施形態のものよりも上方に位置するように構成されているとさらに好適である。
これにより、油溜め室18の底(最下点)から中径部38bの中心軸線までの鉛直方向における距離をより一層大きくすることができて、油溜め室18の底に溜まった異物が、螺旋ピン27の螺旋溝27c内に流入してしまうことをさらに確実に防止することができる。
【0038】
さらにまた、上述したスクロール圧縮機は、上述したような密閉型だけでなく、半密閉型や開放型のスクロール圧縮機とすることもできる。
また、上述したスクロール圧縮機は、上述したような車載用のものだけでなく、定置用のものとすることもできる。
さらに、本発明の圧縮機としては、上述したようなスクロール圧縮機に限定されるものではなく、斜板式圧縮機や往復動式圧縮機等とすることもできる。
さらにまた、本発明の圧縮機としては、上述したような横置き型のものに限定されるものではなく、縦置き型のものであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 スクロール圧縮機
11 ハウジング
12 圧縮機構
17 油分離室
18 油溜め室
25 連通路
27 螺旋ピン
27c 螺旋溝
37 下流部
38 上流部
38a 大径部
38b 中径部
38c 小径部
38d,38e 段部
LO 潤滑油
m 密閉空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有するハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記空間内に取り込まれた流体を圧縮する圧縮機構と、
前記ハウジング内に配置され、前記圧縮機構から吐出された流体に混入した潤滑油を該流体から分離する油分離室と、
前記油分離室により分離された潤滑油を貯溜する油溜め室と、
前記油溜め室と前記空間とを連通する連通路とを備えた圧縮機であって、
前記連通路が、前記油溜め室の側に配置され、外周面に螺旋状の溝を有する螺旋ピンが収容される上流部と、前記空間の側に配置された下流部とを備え、
前記上流部が、前記油溜め室側から前記空間側に向けて段階的に小径とする大径部、中径部及び小径部を備え、
前記中径部が前記螺旋ピンの外径と略同じ内径を有し、かつ、前記中径部の底面を前記大径部より高くして段差を設けるとともに、前記小径部及び該小径部に連通する前記下流部の底面を同一レベルにしたことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記中径部及び前記小径部の長手方向軸線が、前記大径部の長手方向軸線よりも上方に位置するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−190078(P2010−190078A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33682(P2009−33682)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】