説明

基板と結晶層の接着方法および接着されたワーク

【課題】サファイア基板の表面に形成されたGaN系化合物結晶層を剥離するためのレーザリフトオフ処理において、ワークの温度が多少上昇したとしても、レーザリフトオフ装置内で、レーザリフトオフ後のサファイア基板がGaN層から、完全に剥がれてしまうことがないようにすること。
【解決手段】レーザ光をGaN結晶層の一部に複数回(2回以上)照射する。詳しくは、レーザ光を1回照射してGaN層のサファイア基板との界面がガリウム(Ga)となったところに、再度サファイア基板越しにレーザ光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体により形成される半導体発光素子の製造プロセスにおいて、透明基板上に形成された結晶層にレーザ光を照射することによって、結晶層を分解して基板から剥離する(以下、レーザリフトオフという)技術に関する。
特に、レーザリフトオフ後の基板と結晶層を接着する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体により形成される半導体発光素子の製造プロセスにおいて、サファイア基板の表面に形成されたGaN系化合物結晶層(以下GaN層ともいう)を、当該サファイア基板を介してレーザ光を照射することにより剥離するレーザリフトオフの技術が知られている。以下では、基板上に形成された結晶層に対してレーザ光を照射して基板から結晶層を剥離することをレーザリフトオフと呼ぶ。
【0003】
例えば、特許文献1においては、サファイア基板の表面にGaN層を構成し、当該サファイア基板の裏面から当該基板を介してレーザ光を照射することにより、GaN層を形成するGaNが分解し、当該GaN層をサファイア基板から剥離する技術について記載されている。以下ではサファイア基板上にGaN層が形成されたものをワークと呼ぶ。
【0004】
実際には、レーザリフトオフは次のような工程を備える。
表面にGaN層が形成されたサファイア基板に対し、サファイア基板の裏面からサファイア基板を介してGaN層に対し、GaNを分解するために必要な分解閾値以上の照射エネルギーのレーザ光を照射する。
レーザ光の照射により、サファイア基板との界面のGaNが分解し、ガリウム(Ga)と窒素(N)とに分解する。Nは大気中に放出されて、サファイア基板とGaN層との界面にはGaが残る。
【0005】
この段階ではサファイア基板とGaN層とは剥がれない。両者の界面に残ったGaが、レーザ光照射後に冷えて固まり、サファイア基板とGaN層とを接着する役目を果たすからである。
Gaの融点は約30℃である。そこで、レーザ光照射後のワークを電気炉などにより30℃をやや超える程度に暖めて、サファイア基板とGaN層とを剥離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−501778号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ワークにレーザ光を照射しただけではサファイア基板とGaN層とが剥離しないことは、レーザリフトオフの工程において利点である。その理由を以下に示す。
レーザリフトオフを行う装置は、通常、ワークよりも小面積の照射領域のレーザ光を、ワークを移動させながらワーク全体に照射していく。そのため、レーザ光の照射のみでサファイア基板とGaN層とが完全に剥がれてしまうと、サファイア基板がレーザリフトオフ処理中のワーク移動時などに装置内に転げ落ち、場合によってはサファイア基板の破損といった不具合の原因となる。
【0008】
特に、ワークの結晶層のほとんどの部分にレーザ光が照射され、一部のレーザ光未照射部分のみでサファイア基板とGaN層とが接合している状態において、未照射部分にレーザ光を照射するためにワークが移動すると、慣性によりサファイア基板がレーザ光未照射部分のGaN層を無理やり引き剥がして装置内に落下し、製品の不具合を引き起こすことも考えられる。
Gaがサファイア基板とGaN層とを接着していれば、レーザリフトオフ装置内で上記のような問題が生じることはない。
【0009】
しかし、これには次のような問題がある。
上記したようにGaの融点は約30℃である。これに対してレーザリフトオフ装置が設置される工場のクリーンルームの雰囲気温度は、20℃〜25℃程度である。
また、装置内はワークを移動させるためのワークステージ駆動用モータ等からの発熱により、装置外の温度より1℃〜2℃程度温度が高くなる。さらに、ワークの温度は、レーザリフトオフのためのレーザ照射により3℃〜5℃程度上昇する。
【0010】
これらの要因により、レーザリフトオフ装置内のワークの温度が、レーザ光照射中にGaの融点を超え、レーザリフトオフ後のサファイア基板がGaN層から剥がれてしまうことがある。
また、レーザリフトオフ後にサファイア基板とGaN層とが完全に剥離してしまっては、レーザリフトオフ処理済のワークをレーザリフトオフ装置から搬出するにおいて、サファイア基板またはGaN層が装置内に落下するのを防ぐために、ハンドリング装置に落下防止機構を取り付ける必要がある。そのため、ハンドリング装置が大型化複雑化する。
【0011】
以上より、本発明は、サファイア基板の表面に形成されたGaN系化合物結晶層を剥離するためのレーザリフトオフ処理において、ワークの温度が多少上昇したとしても、レーザリフトオフ装置内で、レーザリフトオフ後のサファイア基板がGaN層から、完全に剥がれてしまうことがないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明は、レーザ光をGaN結晶層の一部に複数回(2回以上)照射する。詳しくは、レーザ光を1回照射してGaN層のサファイア基板との界面がGaとなったところに、再度サファイア基板越しにレーザ光を照射する。
われわれは、このような複数回のレーザ光照射を行ったGaN層のサファイア基板との界面の部分は、融点がGaの融点よりも高くなることを見出した。
例えば、2回のレーザ光照射を行った部分の融点は約60℃になり、3回のレーザ光照射では融点は約90℃になった。即ち、レーザを複数回照射した部分において、Gaの融点(30℃)よりも高い融点でサファイア基板とGaN層が接着される。
【0013】
したがって、このようなレーザ光を複数回照射し融点を高くした部分を、ワーク内に何ヶ所か形成すれば、ワークの温度が30℃以上になっても、この部分でサファイア基板はGaN層と接着された状態が維持され剥がれない。これにより、ワークが移動しても、サファイア基板がGaN層から完全に剥がれてしまう(外れてしまう)ことはない。
サファイア基板とGaN層とを完全に剥離するためには、ワーク全体を電気炉などに入れて、例えば60℃や90℃に暖めればよい。60℃〜90℃程度であればワーク全体を加熱しても、結晶層などに不具合が生じることはない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザリフトオフ装置内でワークの温度が多少上昇し30℃以上になったとしても、サファイア基板がGaN層から完全に剥がれてしまうことがない。
これにより、レーザ光照射中に、サファイア基板が装置内に落下して破損するといった不具合を防ぐことができる。
また、レーザリフトオフ装置からワークを搬出するハンドリング装置に、サファイア基板の落下防止機構を取り付ける必要がなく、ハンドリング装置が大型化複雑化するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るレーザリフトオフ装置の概念図を示す図である。
【図2】本発明の、レーザ光をワークに照射する手順を示す図(その1)である。
【図3】本発明の、レーザ光をワークに照射する手順を示す図(その2)である。
【図4】本発明の、レーザ光をワークに照射する手順を示す図(その3)である。
【図5】本発明の、第2の実施例のレーザ光をワークに照射する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本発明に係るレーザリフトオフ装置の概念図を示す。
同図において、レーザリフトオフ装置10は、パルスレーザ光を発生するレーザ源20と、レーザ光を所定の形状に成形するためのレーザ光学系40と、ワークWが載置されるワークステージ31と、ワークステージ31を移動するワークステージ移動機構32と、レーザ源20で発生するレーザ光Lの照射エネルギーや照射間隔およびワークステージ移動機構32の動作などを制御する制御部50とを備えている。
【0017】
レーザ光学系40は、シリンドリカルレンズ41、42と、レーザ光LをワークWの方向へ反射するミラー43と、レーザ光Lを所定の形状に成形するためのマスク44と、マスク44を通過したレーザ光Lの像をワークW上に投影する投影レンズ45とを備えている。
ワークWへのレーザ光Lの照射領域の面積および形状は、レーザ光学系40によって適宜設定することができる。
レーザ光学系40の先にはワークWを載置するワークステージ31が設けられている。ワークステージ31はワークステージ移動機構32によりXY方向(図面左右手前奥方向)に移動する。
【0018】
ワークWは、サファイアの基板の表面に、窒化ガリウム(GaN)系化合物の結晶層が構成されたものである。
基板は、GaN系化合物の結晶層を良好に形成することができ、且つ、GaN系化合物結晶層を分解するために必要な波長のレーザ光を透過するものであれば良いが、サファイア基板が一般的に使用される。
結晶層には、低い入力エネルギーによって高出力の青色光あるいは紫外光を効率良く出力するGaN系化合物が用いられる。
【0019】
レーザ光Lは、基板および基板から剥離する結晶層を構成する物質に対応して選択する。サファイアの基板からGaN系化合物の結晶層を剥離する場合には、例えば波長248nmを放射するクリプトンフッ素(KrF)エキシマレーザを用いることができる。
レーザ源20で発生したレーザ光Lは、シリンドリカルレンズ41、42、ミラー43、マスク44を通過した後に、投影レンズ45によってワークW上に投影される。レーザ光Lは基板を通過して基板と結晶層の界面に照射される。基板と結晶層の界面では、レーザ光Lが照射されることにより、結晶層の基板との界面付近のGaNがガリウム(Ga)と窒素(N)とに分解する。
【0020】
続いて、本発明の手順について図1、図2、図3、図4を用いて説明する。
図2から図4は、レーザ光LをワークWに照射する手順を示す。なお、図2から図4に示すワークW上の実線は、レーザ光の照射領域を仮想的に示すものである。
ワークステージ31上のワークWは、ワークステージ移動機構32によって図2に示す矢印HA、HB、HCの方向に順番に搬送される。レーザ光Lはサファイアの基板1の裏面から照射され、基板1と結晶層2の界面に照射される。レーザ光Lの形状は略方形状に成形される。
【0021】
図2(A)に示すように、ワークWを同図のHA方向に搬送させながら、レーザ光Lが、S1、S2、S3、S4、S5、S6の6つの照射領域に対して順番に、GaNを分解するために必要な分解閾値以上の照射エネルギーで照射される。
レーザ光Lが照射されたワークWの部分のサファイア基板とGaN層の界面は、GaとNとに分解する。従来は、このようにして順次S36までレーザ照射を行っていた。
しかし、本発明においては、図2(B)に示すように、ワークWの半分程度の領域に対して(例えばS18まで)レーザ照射が終わったら、一旦ワークWの位置を戻し、例えばS12やS7の領域に再度レーザ光Lを照射する。図2(B)において、レーザ照射を2度行った部分をハッチングで示している。
【0022】
このようなレーザ光Lを「二度打ち」したS7やS12の部分では、サファイア基板とGaN層の界面の融点が、Gaの融点(約30℃)よりも上昇し約60℃になる。その理由ははっきりとはわかっていないが、1回目の照射により生じたS12やS7の領域のガリウム(Ga)が、2回目のレーザ照射により、サファイア基板中のアルミニウムと合金を形成し融点が高くなっているのではないかとも考えられる。
なお、1回のレーザ照射で2回分の照射エネルギーをワークに与えたとしても、照射した部分の融点は上昇しない。1回目のレーザ照射によりGaN層が分解して界面にGaが形成されてから、2回目のレーザ照射を行うことにより融点が上昇する。
【0023】
即ち、1回目のレーザ照射と2回目のレーザ照射は、間隔を設けて照射する必要がある。その間隔は100μ秒程度以上であれば問題ない。
このようにレーザ光Lをワークに対して複数回照射し、部分的に融点を高くしてサファイア基板とGaN層とを再接着することを「仮止め」と呼ぶ。この「仮止め」により、レーザリフトオフ装置内でワークの温度が30℃以上になったとしても(60℃にならばければ)、サファイア基板がGaN層から剥がれることはない。
【0024】
このようなレーザ光の「二度打ち」が終わったら、図3(C)に示すように、ワークWを移動して、S19から残りの領域にレーザ光Lを照射していく。レーザ照射が最後の(例えばS31からS36の領域を照射する段階)段階になり、レーザ光Lを照射していない領域が残り少なくなっても、サファイア基板はS7やS12の部分でGaN層と「仮止め」がなされている。そのため、ワークWの温度が30℃以上になったとしても、サファイア基板がGaN層から外れることはない。
【0025】
なお、S31からS36の領域にレーザ光Lを照射するためにワークWを移動させる際、S7とS12の2ヶ所のみの「仮止め」ではサファイア基板とGaN層との接着強度が不足であると考えられる場合は、図3(D)に示すように、例えばS30までレーザ照射を終えた段階で、S30とS25に「二度打ち」を行って「仮止め」の個所を増やし、接着強度増せばよい。
そして、その後図4(E)に示すように、S36からS31のレーザ照射を行う。
このように、ワークWに対して部分的に何ヶ所か複数回レーザ光Lを照射することにより、サファイア基板とGaN層とを、Gaの融点(30℃)よりも高い融点で「仮止め」することができ、レーザリフトオフ装置内でサファイア基板がGaN層から外れてしまうのを防ぐことができる。
【0026】
また、ワークWのサファイア基板とGaN層との「仮止め」は、次のような手順でも行うことができる。
図5に、本発明の、第2の実施例のレーザ光LをワークWに照射する手順を示す
図5(A)に示すように、まず、「仮止め」を行いたい個所(例えば、S7,S12,S25,S30)にレーザ光Lを照射する。この領域のGaNが分解し、サファイア基板との界面にはGaが生じる。
そうしておいて、図5(B)に示すように、レーザ光をS1から順番にS36まで、先ほど照射したS7,S12,S25,S30も飛び越さずに照射する。そうすると、S7,S12,S25,S30以外の領域は、GaNが分解しGaになる。しかし、先立ってレーザを照射したS7,S12,S25,S30の領域は「二度打ち」になり融点が上昇する。即ちサファイア基板とGaN層は「仮止め」されていくことになる。
【0027】
したがって、S1からS36まで順次レーザ光Lを照射している時に、サファイア基板がGaN層から外れてしまうのを防ぐことができる。
なお、「仮止め」を行ったワークWの部分は、製品として使用できなくなる。したがって、「仮止め」を行う個所は、ワークWの、もともと製品として使用しない(言い換えれば破棄される)部分、例えば、隣り合う製品の間の部分(スクライブライン)や、ワークの周縁部分などを利用することが望ましい。
【0028】
なお、上記実施例では、「仮止め」のためにレーザ照射を2回行う場合について説明したが、3回以上のレーザ照射を行っても良い。レーザ照射を3回行うと、その部分の融点は約90℃になる。
【符号の説明】
【0029】
10 レーザリフトオフ装置
20 レーザ源
31 ワークステージ
32 ワークステージ移動機構
40 レーザ光学系
41、42 シリンドリカルレンズ
43 ミラー
44 マスク
45 投影レンズ
50 制御部
L レーザ光
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板上に窒化ガリウム系結晶層が構成されてなるワークに対し、前記基板を通してレーザ光を照射して、前記基板と前記結晶層とを剥離する剥離工程と、
前記剥離工程により剥離した前記結晶層に、再度前記基板を介してレーザ光を照射し、前記基板と前記結晶層とを接着する接着工程とを備えることを特徴とするサファイア基板と窒化ガリウム系結晶層の接着方法。
【請求項2】
請求項1に記載のサファイア基板と窒化ガリウム系結晶層の接着方法により、サファイア基板と窒化ガリウム系結晶層とが部分的に接着されていることを特徴とするワーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−99710(P2012−99710A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247323(P2010−247323)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】