説明

基板の洗浄方法

【課題】 マスクブランク用基板の洗浄時に、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも基板主表面に存在するパーティクルを確実に排除できるマスクブランク用基板等の基板の洗浄方法を提供する。
【解決手段】 液体中に配置された基板の少なくとも一つの表面に向かって、気泡又は洗浄用粒子を含む加圧した洗浄液体を噴射ノズルから噴射し、前記基板の少なくとも一つの表面を洗浄することを含むことを特徴とする、基板の洗浄方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置等の電子デバイスの製造において使用されるフォトマスク(転写用マスク)を作製するために用いるマスクブランク用基板、マスクブランク及び転写用マスクの製造方法並びに転写用マスクの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚ものフォトマスク(以下、「転写用マスク」という。)と呼ばれている基板が使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィー法が用いられている。
【0003】
フォトリソグラフィー法による転写用マスクの製造には、ガラス基板等の透光性基板上に転写パターン(マスクパターン)を形成するための薄膜(例えば遮光膜など)を有するマスクブランクが用いられる。このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造は、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、所望のパターン描画を施す露光工程と、所望のパターン描画に従って前記レジスト膜を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、レジストパターンに従って前記薄膜をエッチングするエッチング工程と、残存したレジストパターンを剥離除去する工程とを有して行われている。上記現像工程では、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し所望のパターン描画を施した後に現像液を供給して、現像液に可溶なレジスト膜の部位を溶解し、レジストパターンを形成する。また、上記エッチング工程では、このレジストパターンをマスクとして、ドライエッチング又はウェットエッチングによって、レジストパターンの形成されていない薄膜が露出した部位を溶解し、これにより所望のマスクパターンを透光性基板上に形成する。こうして、転写用マスクが出来上がる。
【0004】
ところで、上記転写用マスクの製造に用いられるマスクブランク用のガラス基板の製造工程においては、鏡面研磨後のガラス基板に対して、基板表面に存在するパーティクル(異物等)を排除するための洗浄が行われている。従来、この洗浄にはいくつかの方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、超純水を主体とした加工槽内に被洗浄物と高圧力ノズルとを所定の間隔を置いて配設し、被洗浄物の表面近傍に高圧力ノズルから噴射した超純水の高速剪断流を発生させて、被洗浄物表面に付着した微細な異物を、該被洗浄物表面との結合を切って剥離するとともに、除去した異物を高速剪断流の流れによって被洗浄物表面に再付着することを防止したことを特徴とする高速剪断流による洗浄方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、基板の一方の面である被洗浄面に洗浄液を供給して洗浄する基板洗浄装置において、基板の被洗浄面を臨んで設けられ、基板の被洗浄面に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、基板の被洗浄面を臨み洗浄液供給部と略平行になるように設けられる洗浄ローラであって、回転することによって洗浄液を基板の被洗浄面との間に形成される間隙へ送り込む洗浄ローラとを含むことを特徴とする基板洗浄装置が開示されている。
【0007】
また、基板表面に存在するパーティクルを排除するための洗浄方法として、1MHz前後の超音波を印加した洗浄水を基板表面に直接当てて基板表面の洗浄を行う方法(以下、「メガソニック洗浄」という。)がある。
【0008】
メガソニック洗浄の一例として、特許文献3には、オゾン水あるいはアノード水と水素水あるいはカソード水を混合してなる洗浄液を用い、この洗浄液に超音波を印加して、マスクブランクス基板等の精密基板を洗浄する精密基板の洗浄方法が開示されている。また、特許文献4には、エッチング液を用いて透光性基板の表面をエッチング処理した後、物理的作用を利用して基板表面に付着している異物を除去する物理的洗浄の1つとして、例えば透光性基板の表面に超音波が印加された洗浄液を供給してメガソニック洗浄を行うことが開示されている。
【0009】
また、近年、半導体ウエハ等の基板表面を洗浄する基板洗浄方法として、二流体ジェット洗浄法が用いられている。例えば、特許文献5には、二流体ジェット洗浄法を用いて基板表面の汚染物質を除去する洗浄方法が記載されている。
【0010】
一方、近年、半導体デバイスの更なる微細化の要求に伴い、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、EUVと呼称する)光を用いた露光技術であり、反射型リソグラフィの1つであるEUVリソグラフィが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィにおいて用いられるマスクとしては、例えば特許文献6に記載された露光用反射型マスクが提案されている。
【0011】
このような反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。露光機(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射した光は、吸収体膜のある部分では吸収され、吸収体膜のない部分では多層反射膜により反射された光像が反射光学系を通して半導体基板上に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−173965号公報
【特許文献2】特開2007−201186号公報
【特許文献3】特開2001−96241号公報
【特許文献4】特開2005−221928号公報
【特許文献5】特開2008−226900号公報
【特許文献6】特開2002−122981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、光透過型のフォトリソグラフィー法が適用される転写用マスクでは、露光光にArFエキシマレーザーが適用されている。また、転写用マスクにおける転写パターンの微細化が著しい。このため、マスクブランクに求められる欠陥サイズおよびその個数の要求も厳しくなってきている。マスクブランクのパターン形成用の薄膜に存在する凸状欠陥が発生する大きな要因の一つとして、薄膜を成膜する前の基板の表面における異物の付着がある。このため、基板の薄膜を成膜する表面から異物を除去することが重要となる。
【0014】
一方、EUV反射型マスクブランクの場合、その表面欠陥に対する要求は極めて厳しい。つまり、基板表面に異物付着等による凸状欠陥が存在するガラス基板を使用して反射型マスクブランク、反射型マスクを作製した場合、マスク面のパターン近傍に凸状欠陥が存在すると、露光光の反射光にはその凸状欠陥に起因した位相の変化が起こる。この位相の変化は転写されるパターンの位置精度やコントラストを悪化させる原因となる。特にEUV光のような短波長の光を露光光として用いる場合、マスク面上の微細な凹凸に対して位相の変化が非常に敏感となるため、転写像への影響が大きくなり、微細な凹凸に由来する位相の変化は無視できない問題である。また、EUV反射型マスクブランクの場合、基板上に上記多層反射膜として、例えば数nmの厚さのMoとSiを交互に40乃至60周期程度積層させたものが使用されるため、基板表面上では特に問題とならない程度の微小な凸状欠陥が存在していても、上記多層反射膜を成膜した場合に基板表面の欠陥の大きさが拡大されて多層反射膜の表面では位相欠陥となり得るような大きさの凸状欠陥が生じることがある。このようなわけで、特にEUV反射型マスクブランクの場合、表面欠陥に対する非常に高いレベルの条件を満たす必要がある。
【0015】
前記の高速剪断流を用いた洗浄方法では、比較的大きな異物(例えば、100nmオーダー以上)に対しては、高速剪断流によって異物を基板表面から押し流すことが可能である。しかし、比較的小さい異物(例えば、100nm未満)に対しては、高速剪断流を基板の表面に当てても、異物に作用しにくい。これは、高速剪断流が液体の流れであり、液体の粘性の関係から、基板表面近傍では高速剪断流の流速が大きく低下してしまうことが要因と推測される。このため、高速剪断流を用いた洗浄方法では、基板の表面から比較的小さいサイズの異物を除去することが困難である。
【0016】
マスクブランクに用いられる基板の洗浄のために、メガソニック洗浄を用いる場合がある。しかし、本発明者は、従来のメガソニック洗浄には、以下のような課題があることを見出した。すなわち、このメガソニック洗浄方法では、MHz帯の中でも比較的低い低周波数の超音波を印加した洗浄液体をガラス基板の表面に直接当てて洗浄を行った場合、基板表面の付着物を剥離する作用が高く、非常に高い洗浄効果が得られる。ところが、ガラス基板の表層を構成する分子構造に対して与える振動も大きく、内部の結合構造が周りに比べて弱い部分に潜傷が発生する場合があった。従来の基板の欠陥検査では、この潜傷を発見することは非常に困難である。このため、表層に潜傷が内在する基板が合格品として次工程の薄膜形成工程に送られ、転写パターン形成用薄膜が成膜され、合格品のマスクブランクとして出荷されてしまう場合があった。
【0017】
そこで本発明は、従来の洗浄方法、例えば高速剪断流を用いた洗浄やメガソニック洗浄等を用いた場合の課題を解決し、また光透過型の転写マスク用の基板やEUV反射型マスクブランク用の基板の洗浄に対しても適切な洗浄方法を得るためになされたものである。すなわち、本発明の目的とするところは、マスクブランク用基板の洗浄時に、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも基板主表面に存在するパーティクルを確実に排除できるマスクブランク用基板等の基板の洗浄方法を提供することである。また、その洗浄方法を用いたマスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、反射型マスクの製造方法及び転写用マスクの製造方法を提供することである。
【0018】
また、本発明の目的は、高いレベルの欠陥品質要求を満足できるように微小凸状欠陥数を低減させた高品質の多層反射膜付基板、反射型マスクブランク及びそれらの製造方法を提供することである。
【0019】
また、本発明の目的は、マスクブランク用基板の洗浄時に、ガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも基板主表面に存在するパーティクルを確実に排除できるマスクブランク用基板等の基板の洗浄方法に用いるための基板洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、メガソニック洗浄の場合に問題となるようなガラス基板内部に潜傷が発生することを抑制でき、しかも基板主表面やマスクブランクの転写パターン形成用薄膜の表面に存在するパーティクル、特に、例えば100nm相当未満の微粒子のパーティクルをも確実に排除することができる基板の洗浄方法として、気泡又は洗浄用粒子を含む加圧した洗浄液体を用いる洗浄方法を見出した。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0021】
本発明は、下記の構成1〜5であることを特徴とする基板の洗浄方法である。
【0022】
(構成1)
液体中に配置された基板の少なくとも一つの表面に向かって、気泡又は洗浄用粒子を含む加圧した洗浄液体を噴射ノズルから噴射し、前記基板の少なくとも一つの表面を洗浄することを含むことを特徴とする、基板の洗浄方法である。
【0023】
(構成2)
前記洗浄液体が、純水であることを特徴とする、構成1に記載の基板の洗浄方法である。
【0024】
(構成3)
前記洗浄液体が、さらに界面活性剤を含むことを特徴とする、構成2に記載の基板の洗浄方法である。
【0025】
(構成4)
前記洗浄液体が、さらに酸性物質又はアルカリ性物質を含むことを特徴とする、構成2又は3に記載の基板の洗浄方法である。
【0026】
(構成5)
前記噴射ノズルの開口部の形状が、スリット状又はピンホール状であることを特徴とする、構成1〜4のいずれか一項に記載の基板の洗浄方法である。
【0027】
本発明は、下記の構成6〜8であることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法である。
【0028】
(構成6)
構成1〜5のいずれか一項に記載の基板の洗浄方法によって、前記基板の少なくとも一つの表面を洗浄する洗浄工程を含むことを特徴とする、マスクブランク用基板の製造方法である。
【0029】
(構成7)
前記基板が、ガラス材料からなることを特徴とする、構成6に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0030】
(構成8)
前記基板が、合成石英ガラス又は低熱膨張ガラスからなることを特徴とする、構成7に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0031】
本発明は、下記の構成9〜12であることを特徴とする、マスクブランク又はマスクの製造方法である。
【0032】
(構成9)
本発明は、構成6〜8のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、転写パターンを形成するための薄膜を成膜することを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。
【0033】
(構成10)
本発明は、構成6〜8のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、露光光を反射する多層反射膜を形成し、前記多層反射膜上に転写パターンを形成するための薄膜を形成することを特徴とする、反射型マスクブランクの製造方法である。
【0034】
(構成11)
本発明は、構成9に記載のマスクブランクの製造方法により得られるマスクブランクの前記薄膜をパターニングして前記転写パターンを形成することを特徴とする、転写用マスクの製造方法である。
【0035】
(構成12)
本発明は、構成10に記載の反射型マスクブランクの製造方法により得られる反射型マスクブランクの前記薄膜をパターニングして前記転写パターンを形成することを特徴とする、反射型マスクの製造方法である。
【0036】
本発明は、下記の構成13〜17であることを特徴とする、基板洗浄装置である。
【0037】
(構成13)
洗浄容器と、前記洗浄容器内に配置され、基板を固定するための基板固定台と、洗浄液体を前記洗浄容器内に供給するための、噴射ノズルを有する洗浄液体管であって、前記噴射ノズルが前記基板固定台に固定された前記基板に対して前記洗浄液体を噴射するように配置される、洗浄液体管と、前記洗浄液体管に接続され、前記洗浄液体を加圧するための洗浄液体加圧装置と、前記洗浄液体に、気泡又は洗浄用粒子を混入するための混入部と、を有することを特徴とする、基板洗浄装置である。
【0038】
(構成14)
前記混入部が、加圧された前記洗浄液体管の前記洗浄液体内に、前記洗浄液体よりも高い圧力の気体を供給して前記気泡を発生するための気泡発生用ノズルであることを特徴とする、構成13に記載の基板洗浄装置である。
【0039】
(構成15)
前記混入部が、前記洗浄用粒子を前記洗浄液体に混入するための洗浄用粒子混入部であり、前記洗浄用粒子を混入した前記洗浄液体が前記洗浄液体加圧装置へと移動可能なように、前記洗浄用粒子混入部が前記洗浄液体加圧装置に接続されることを特徴とする、構成13に記載の基板洗浄装置である。
【0040】
(構成16)
前記噴射ノズルの開口部の形状が、スリット状又はピンホール状である、構成13〜15のいずれか一項に記載の基板洗浄装置である。
【0041】
(構成17)
前記基板が、ガラス材料からなることを特徴とする、構成13〜16のいずれか一項に記載の基板洗浄装置である。
【0042】
次に、本発明の基板の洗浄方法の構成1〜5について説明する。
【0043】
本発明は、構成1にあるように、液体中に配置された基板の少なくとも一つの表面に向かって、気泡又は洗浄用粒子を含む加圧した洗浄液体を噴射ノズルから噴射し、前記基板の少なくとも一つの表面を洗浄することを含むことを特徴とする、基板の洗浄方法である。
【0044】
構成1にあるように、本発明の洗浄方法は、液体中に配置された基板の少なくとも一つの表面に向かって、気泡又は洗浄用粒子を含む加圧した洗浄液体を噴射ノズルから噴射することに特徴がある。洗浄液体は加圧された状態で噴射ノズルから噴射されるので、基板の表面に付着している比較的サイズの大きな異物などのパーティクルを、基板から引き剥がし、除去することができる。さらに、洗浄液体は気泡又は洗浄用粒子を含むので、気泡又は洗浄用粒子が基板の表面に付着している比較的サイズの小さな異物(例えば、100nm未満のサイズ)などのパーティクルに直接衝突することができる。その結果、本発明の洗浄方法によれば、基板の表面に付着しているパーティクルの除去を確実に行うことができる。
【0045】
本発明の洗浄方法において、加圧した洗浄液体が気泡を含む場合には、加圧した洗浄液体が、比較的低圧の基板の配置された液体中に噴射ノズルから加速されて噴射される。このとき、圧縮された気泡は、加圧によるエネルギーを放出しながら急激に膨張して基板の表面に付着している比較的サイズの小さな異物などのパーティクルにも直接衝突する。その結果、基板の表面に付着しているパーティクルの除去を確実に行うことができる。気体としては、空気、窒素、不活性ガス等を用いることができるが、コストの点から、除塵フィルタでパーティクルを除去した空気を用いることが好ましい。
【0046】
また、本発明の洗浄方法において、加圧した洗浄液体が洗浄用粒子を含む場合には、加圧した洗浄液体が、比較的低圧の基板の配置された液体中に、加速されて噴射ノズルから噴射される。このとき、洗浄用粒子は、洗浄液体と同様に加速されるので大きな運動量を有することになる。この洗浄用粒子が基板の表面に付着している異物などのパーティクルに衝突することにより、基板の表面に付着しているパーティクルの除去を確実に行うことができる。
【0047】
洗浄用粒子としては、基板を損傷しない程度の硬度を有し、酸等の化学薬品に容易に溶解可能な粒子を用いることができる。具体的には、洗浄用粒子としてラテックス粒子を用いることが好ましい。ラテックス粒子を用いる場合には、仮に、ラテックス粒子が残留した場合にも、後の工程において酸等による洗浄を行う際に、残留したラテックス粒子を溶解することができる。
【0048】
基板を配置する液体は、洗浄液体と同種の液体を用いることができる。具体的には、洗浄液体と同様に、マスクブランク用基板の洗浄の際に一般的に用いられる液体、例えば、超純水、純水、イオン交換水等を用いることができるが、それらに限られない。
【0049】
洗浄対象の基板は液体中に配置されているため、加圧された洗浄液体は液体中で基板の表面に対して噴射される。このため、噴射される洗浄液体の圧力と基板表面近傍の液体の圧力との間である程度以上の差圧が必要となる。洗浄液体加圧装置による洗浄液体の加圧の圧力と基板表面近傍の液体の圧力との間の差圧は、少なくとも1気圧以上、好ましくは3気圧以上、より好ましくは5気圧以上とすることにより、基板に付着したパーティクルの除去を効果的に行うことができる。また、前記差圧は高いほど効果的ではあるが、洗浄液体加圧装置に非常に高い性能が必要となってしまう。この点を考慮すると、前記差圧は、20気圧以下、好ましくは15気圧以下、より好ましくは12気圧以下とするとよい。
【0050】
本発明は、構成2にあるように、前記洗浄液体が、純水であることを特徴とする、構成1に記載の基板の洗浄方法である。
【0051】
構成2にあるように、洗浄液体としては純水を用いることが好ましい。洗浄液体としては純水を用いることにより、洗浄液体中の異物等の存在を排除することができ、洗浄の際の二次汚染を防止することができる。純水としては、例えば、超純水、イオン交換水等をあげることができるが、それらに限られない。
【0052】
また、構成3にあるように、本発明の基板の洗浄方法は、前記洗浄液体が、さらに界面活性剤を含むことを特徴とすることもできる。
【0053】
構成3にあるように、純水等の洗浄液体が界面活性剤を含むことにより、パーティクル基板の表面からのパーティクルの除去をより確実に行うことができる。
【0054】
また、構成4にあるように、本発明の基板の洗浄方法は、前記洗浄液体が、さらに酸性物質又はアルカリ性物質を含むことを特徴とすることもできる。
【0055】
構成4にあるように、洗浄液体が、酸性物質又はアルカリ性物質を含むことにより、酸又はアルカリによる基板表面の洗浄効果を得ることができる。
【0056】
また、構成5にあるように、本発明の基板の洗浄方法は、前記噴射ノズルの開口部の形状が、スリット状又はピンホール状であることを特徴とすることが好ましい。
【0057】
構成5にあるように、本発明の基板の洗浄方法において、噴射ノズルの形状は、細長い矩形のノズル形状であるスリット状、微小な円形等のノズル形状であるピンホール状などの形状のものを用いることができる。ノズル形状がスリット状の場合には、直線的に広い範囲にわたり洗浄処理を行うことができるので、洗浄処理のスループットを向上することができる。ノズル形状がピンホール状の場合には、小さい断面積のノズルから、高い圧力で洗浄液体を噴射することができるので、基板に対して比較的強固に付着しているパーティクルを除去することができる。また、複数のピンホール状のノズルを一列に並べた配置としたもの又はその他の配置にしたものを噴射ノズルとして用いることもできる。また、噴射ノズルの形状は、流体力学的に、キャビテーションを防止することができる形状であることが好ましい。
【0058】
次に、本発明のマスクブランク用基板の製造方法の構成6〜8について説明する。
【0059】
本発明は、構成6にあるように、構成1〜5のいずれか一項に記載の基板の洗浄方法によって、前記基板の少なくとも一つの表面を洗浄する洗浄工程を含むことを特徴とする、マスクブランク用基板の製造方法である。
【0060】
構成6にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、上述の構成1〜5のいずれか一項に記載の基板の洗浄方法によって、基板の少なくとも一つの表面を洗浄する洗浄工程を含む。上述の構成1〜5のいずれか一項に記載の基板の洗浄方法によれば、基板の表面に付着しているパーティクルの除去を確実に行うことができる。その結果、本発明のマスクブランク用基板の製造方法によれば、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減したマスクブランク用基板を得ることができる。
【0061】
本発明は、構成7にあるように、前記基板が、ガラス材料からなることを特徴とする、構成6に記載のマスクブランク用基板の製造方法であることが好ましい。
【0062】
構成7にあるように、基板が、ガラス材料であることにより、マスクブランク用基板の製造を確実に行うことができる。
【0063】
また、構成8にあるように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、前記基板は、合成石英ガラス又は低熱膨張ガラスからなることを特徴とすることが好ましい。
【0064】
構成8にあるように、基板の材料として合成石英ガラス又は低熱膨張ガラスを用いることが好ましい。合成石英ガラスは化学的に安定で、他の工業材料と比較して熱膨張係数が極めて小さいなどの特徴を有する。また、合成石英ガラスは、FPD製造用途の転写用マスクで使用される超高圧水銀灯の露光光に対する光透過性も高い。さらには、合成石英ガラスは、半導体デバイス製造用途の転写用マスクで使用されるKrFエキシマレーザ(波長:約248nm)やArFエキシマレーザ(波長:約193nm)の露光光に対する光透過性も高い。これらのことからもわかるように、マスクブランク用基板の材料として、合成石英ガラスを好適に用いることができる。
【0065】
低熱膨張ガラスは、露光光にEUV光を用いる反射型マスクブランク用基板として好適である。低熱膨張ガラスとしては、露光時の熱によるパターンの歪みを防止するため、0±1.0×10−7/℃の範囲内、より好ましくは0±0.3×10−7/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましい。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えばアモルファスガラスであれば、SiOに例えば5〜10重量%程度の範囲内でTiOを添加したSiO−TiO系ガラス基板が好ましく挙げられる。TiOを添加したSiO−TiO系ガラス基板は、化学薬品による洗浄が困難な場合があるので、本発明の洗浄方法により、好適に洗浄を行うことができる。
【0066】
次に、本発明のマスクブランクの製造方法の構成9及び10について説明する。
【0067】
本発明は、構成9にあるように、構成6〜8のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、転写パターンを形成するための薄膜を成膜することを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。
【0068】
構成9にあるように、上記構成6〜8のいずれか一項のマスクブランク用基板の製造方法では、所定の基板の洗浄方法により、基板の表面に付着しているパーティクルの除去を確実に行うことができる。その結果、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減したマスクブランク用基板を得ることができる。そのため、上記構成6〜8のいずれか一項のマスクブランク用基板の製造方法により得られたマスクブランク用基板にパターン形成用の薄膜を成膜したマスクブランクも、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減することができ、高い歩留まりとすることができる。なお、マスクブランク用基板への転写パターンを形成するための薄膜の成膜は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0069】
また、本発明は、構成10にあるように、構成6〜8のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、露光光を反射する多層反射膜を形成し、前記多層反射膜上に転写パターンを形成するための薄膜を形成することを特徴とする、反射型マスクブランクの製造方法である。
【0070】
構成10にあるように、上記構成6〜8のいずれか一項のマスクブランク用基板の製造方法では、所定の基板の洗浄方法により、反射型マスクブランクの基板の表面に付着しているパーティクルの除去を確実に行うことができる。その結果、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減したマスクブランク用基板を得ることができる。そのため、構成6〜8のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、露光光を反射する多層反射膜を形成し、前記多層反射膜上に転写パターンを形成するための薄膜(吸収体膜)を形成した反射型マスクブランクも、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減することができ、高い歩留まりの反射型マスクブランクを得ることができる。なお、マスクブランク用基板への多層反射膜を形成及び転写パターンを形成するための薄膜を形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0071】
次に、本発明のマスクの製造方法の構成11及び12について説明する。
【0072】
本発明は、構成11にあるように、構成9に記載のマスクブランクの製造方法により得られるマスクブランクの前記薄膜をパターニングして前記転写パターンを形成することを特徴とする、転写用マスクの製造方法である。
【0073】
構成11にあるように、構成9に記載のマスクブランクの製造方法により得られたマスクブランクは、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減することができ、高い歩留まりとすることができる。そのため、構成9により得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成した転写用マスクも、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減することができ、高い歩留まりとすることができる。なお、マスクブランクの薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0074】
また、本発明は、構成12にあるように、構成10に記載の反射型マスクブランクの製造方法により得られる反射型マスクブランクの前記薄膜をパターニングして前記転写パターンを形成することを特徴とする、反射型マスクの製造方法である。
【0075】
構成12にあるように、構成10に記載の反射型マスクブランクの製造方法により得られた反射型マスクブランクは、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減することができ、高い歩留まりとすることができる。そのため、構成10により得られた反射型マスクブランクの薄膜に転写パターンを形成した反射型マスクも、パーティクルに起因する欠陥を大幅に低減することができ、高い歩留まりとすることができる。なお、反射型マスクブランクの薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0076】
次に、本発明の基板洗浄装置の構成13〜17について説明する。
【0077】
本発明は、構成13にあるように、洗浄容器と、前記洗浄容器内に配置され、基板を固定するための基板固定台と、洗浄液体を前記洗浄容器内に供給するための、噴射ノズルを有する洗浄液体管であって、前記噴射ノズルが前記基板固定台に固定された前記基板に対して前記洗浄液体を噴射するように配置される、洗浄液体管と、前記洗浄液体管に接続され、前記洗浄液体を加圧するための洗浄液体加圧装置と、前記洗浄液体に、気泡又は洗浄用粒子を混入するための混入部と、を有することを特徴とする、基板洗浄装置である。
【0078】
構成13にあるように、本発明の基板洗浄装置は、洗浄容器と、基板固定台と、洗浄液体管と、洗浄液体加圧装置と、混入部とを有する。
【0079】
洗浄容器は、液体を保持し、基板固定台に配置した基板を有するのに十分な大きさを有することが好ましい。液体に対する汚染を避けるため、洗浄容器の材料は、汚染物や粒子などを液体中に放出しない材料であることが好ましい。
【0080】
基板固定台は、洗浄容器内に配置される。基板固定台によって、洗浄容器内に基板を固定することができる。基板固定台による基板の固定は、公知の機構、例えば公知のスピンチャック等により行うことができる。また、基板固定台は、電動モータにより回転可能な構造とすることができる。また、2つの噴射ノズルを用いることにより、基板の2つの主表面(図3に示す、対向する2つの「主表面71」)を同時に洗浄することも可能である。
【0081】
洗浄液体管は、洗浄液体を前記洗浄容器内に供給するための噴射ノズルを有する。噴射ノズルは、基板固定台に固定された基板に対して洗浄液体を噴射するように配置される。洗浄時には、基板を所定の回転数で回転させながら、噴射ノズルの位置を、基板1の中央から端面までの間で移動(スイング)することができるように構成することができる。この結果、基板固定台が回転可能な構造である場合には、基板固定台の回転と、噴射ノズルの移動により、基板の全面にわたって噴射ノズルから洗浄液体を噴射することができる。なお、噴射ノズルを固定し、基板のみを回転及び/又は移動させる構造とすることもできる。また、基板を固定し、基板表面を走査するように噴射ノズルを移動させることで洗浄液体を噴射する構造とすることもできる。さらに、基板を固定し、基板全体に対して洗浄液体を噴射することができるように噴射ノズルのみを移動させる構造とすることもできる。
【0082】
洗浄液体加圧装置は、洗浄液体を加圧するための装置である。洗浄液体加圧装置には洗浄液体管が接続されている。この結果、洗浄液体加圧装置で加圧された洗浄液体は、洗浄液体管を通して噴射ノズルから洗浄容器内に噴射することができる。
【0083】
混入部は、洗浄液体に、気泡又は洗浄用粒子を混入するように構成される。混入部は、加圧された洗浄液体に対して気泡又は洗浄用粒子を混入するように構成することができる。また、混入部は、加圧する前の洗浄液体に対して気泡又は洗浄用粒子を混入するように構成することができる。
【0084】
本発明は、構成14にあるように、本発明の基板洗浄装置は、前記混入部が、加圧された前記洗浄液体管の前記洗浄液体内に、前記洗浄液体よりも高い圧力の気体を供給して前記気泡を発生するための気泡発生用ノズルであることを特徴とすることが好ましい。
【0085】
構成14にあるように、本発明の基板洗浄装置では、洗浄液体内に、洗浄液体よりも高い圧力の気体を気泡発生用ノズルから供給することにより、洗浄液体内に気泡を発生することができる。気泡は、洗浄液体とともに噴射ノズルから基板に対して噴射される。その結果、基板表面に付着したパーティクルを除去することができる。気体の加圧は、公知のコンプレッサー等の気体加圧装置を用いて行うことができる。
【0086】
また、構成15にあるように、本発明の基板洗浄装置は、前記混入部が、前記洗浄用粒子を前記洗浄液体に混入するための洗浄用粒子混入部であり、前記洗浄用粒子を混入した前記洗浄液体が前記洗浄液体加圧装置へと移動可能なように、前記洗浄用粒子混入部が前記洗浄液体加圧装置に接続されることを特徴とすることが好ましい。
【0087】
構成15にあるように、本発明の基板洗浄装置は、洗浄用粒子を洗浄液体に混入するための洗浄用粒子混入部を有することにより、洗浄液体に洗浄用粒子を混入することができる。洗浄用粒子混入部は洗浄液体加圧装置に接続されているので、洗浄用粒子を混入した洗浄液体を加圧し、噴射ノズルから基板に対して噴射することができる。その結果、基板表面に付着したパーティクルを除去することができる。洗浄用粒子は使用直前に洗浄液体に対して混入することもできるし、あらかじめ洗浄用粒子を混入した洗浄液体を基板洗浄装置にセットして用いることもできる。
【0088】
また、構成16にあるように、本発明の基板洗浄装置は、前記噴射ノズルの開口部の形状が、スリット状又はピンホール状であることが好ましい。
【0089】
構成16にあるように、本発明の基板の洗浄方法において、噴射ノズルの形状は、細長い矩形のノズル形状であるスリット状、微小な円形等のノズル形状であるピンホール状などの形状のものを用いることができる。ノズル形状がスリット状の場合には、直線的に広い範囲にわたり洗浄処理を行うことができるので、洗浄処理のスループットを向上することができる。ノズル形状がピンホール状の場合には、小さい断面積のノズルから、高い圧力で洗浄液体を噴射することができるので、基板に対して比較的強固に付着しているパーティクルを除去することができる。また、複数のピンホール状のノズルを一列に並べた配置としたもの又はその他の配置にしたものを噴射ノズルとして用いることもできる。また、噴射ノズルの形状は、流体力学的に、キャビテーションを防止することができる形状であることが好ましい。
【0090】
噴射ノズルの材料は、公知の金属材料、高分子材料から適宜選択することができる。洗浄液体が洗浄用粒子を含む場合には、洗浄用粒子の硬さ等に応じて、耐摩耗性の材料を選択することができる。ただし、洗浄用粒子として、比較的やわらかいラテックス粒子等を用いる場合には、高分子材料等の耐摩耗性をそれほど有しない材料を用いることができる。
【0091】
また、構成17にあるように、本発明の基板洗浄装置は、前記基板が、ガラス材料からなることを特徴とすることが好ましい。
【0092】
構成17にあるように、本発明の基板洗浄装置は、マスクブランク用基板のようなガラス材料からなる基板の洗浄に対して、好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0093】
本発明の基板の洗浄方法によれば、マスクブランク用基板の洗浄時に、基板主表面に付着する微細なパーティクルを確実に排除できるマスクブランク用基板等の基板の洗浄方法を提供することができる。また、その洗浄方法を用いたマスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、反射型マスクの製造方法及び転写用マスクの製造方法を提供することができる。
【0094】
また、本発明の基板の基板洗浄装置によれば、マスクブランク用基板の洗浄時に、基板主表面に付着する微細なパーティクルを確実に排除できるマスクブランク用基板等の基板の洗浄方法に用いるための基板洗浄装置を提供することができる。
【0095】
また、本発明によれば、高いレベルの欠陥品質要求を満足できるように微小凸状欠陥数を低減させた高品質の多層反射膜付基板、反射型マスクブランク及びそれらの製造方法を提供することができる。本発明の製造方法によれば、基板主表面に存在するパーティクルに起因する欠陥の発生を抑制できる。すなわち、本発明の製造方法によれば、転写用マスクの透過率異常や位相異常が生じるのを防止することができる。また、本発明の製造方法によれば、反射型マスクの異常の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の基板洗浄装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の基板洗浄装置の一例を示す構成図である。
【図3】本発明の製造方法に用いることのできるマスクブランク用基板を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
【0098】
本発明は、上記構成1の発明にあるように、液体中に配置された基板の少なくとも一つの表面に向かって、気泡又は洗浄用粒子を含む加圧した洗浄液体を噴射ノズルから噴射し、前記基板の少なくとも一つの表面を洗浄することを含むことを特徴とする、基板の洗浄方法である。
【0099】
本発明の基板の洗浄方法によって好適に洗浄可能な基板は、特に限定されないが、ガラス材料からなるマスクブランク用基板、特に反射型マスクブランク用基板の洗浄に対して好適に用いることができる。
【0100】
マスクブランク用基板としては、使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されない。本発明では、石英基板、その他各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)を用いることができるが、この中でも石英基板は、ArFエキシマレーザー又はそれよりも短波長の領域で透明性が高いので、高精細の転写パターン形成に用いられるバイナリマスクブランク用基板又は位相シフトマスクブランク用基板として好適である。
【0101】
また、露光光にEUV光を用いる反射型マスクブランク用基板として、低熱膨張ガラスを好適に用いることができる。低熱膨張ガラスとしては、露光時の熱によるパターンの歪みを防止するため、0±1.0×10−7/℃の範囲内、より好ましくは0±0.3×10−7/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましい。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えばアモルファスガラスであれば、SiOに例えば5〜10重量%程度の範囲内でTiOを添加したSiO−TiO系ガラス基板を好ましく用いることができる。
【0102】
マスクブランク用のガラス基板の製造工程においては、研磨工程の後、ガラス基板表面に存在するパーティクル(例えば基板表面に付着している研磨砥粒などの異物等)を排除するための洗浄工程が実施される。
【0103】
上記研磨工程では、マスクブランク用基板(ガラス基板)の表面に研磨パッドを接触させ、ガラス基板の表面に研磨砥粒を含む研磨液を供給し、ガラス基板と研磨パッドとを相対的に移動させてガラス基板の表面を研磨する。例えば、研磨パッドを貼着した研磨定盤にガラス基板を押し付け、研磨砥粒を含有した研磨液を供給しながら上記研磨定盤とガラス基板とを相対的に移動(つまり研磨パッドと基板とを相対的に移動)させることにより、ガラス基板の表面を研磨する。研磨砥粒としては、ガラス基板の良好な平滑性、平坦性が得られることから、少なくとも精密研磨工程の仕上げ研磨では、コロイダルシリカが好ましく用いられる。この研磨工程には例えば遊星歯車方式の両面研磨装置などを使用することができる。
【0104】
上記研磨工程の後、本発明の基板の洗浄方法に基づく洗浄工程を実施することができる。図1及び図2は、本発明の洗浄工程において使用される基板洗浄装置10の例を示す構成図である。上記研磨工程の後、液体16中に配置された基板1の少なくとも一つの表面に向かって、気泡30又は洗浄用粒子40を含む加圧した洗浄液体20を噴射ノズル26から噴射し、基板1の少なくとも一つの表面を洗浄することを含む洗浄工程を実施する。洗浄液体20は加圧された状態で噴射ノズル26から噴射されるので、基板1の表面に付着している異物などのパーティクル3を、基板1から引き剥がすことができる。さらに、洗浄液体20は気泡30又は洗浄用粒子40を含むので、基板1の表面に付着している異物など、例えば研磨工程で残留したシリカ粒子などのパーティクル3の除去を確実に行うことができる。
【0105】
近年における電子デバイスの高密度化、高精度化に伴い、転写用マスクの微細パターン化が進み、マスクブランク用基板の表面平滑性や表面欠陥に対する要求は年々厳しくなる状況にあり、欠陥検査装置の検査精度も向上してきている。そのため、従来の検査装置では確認できないようなサイズの小さな表面欠陥(例えば、粒径が60nm相当)も検出されるようになり、このような微小の表面欠陥も許容されなくなってきている。
【0106】
本発明によると、洗浄後の基板1表面における、粒径60nm相当以上のパーティクルの洗浄前に対する除去率が98%以上という高い除去率が得られる。ここで、上記パーティクルの除去率とは、以下の関係式によって算出される値である。
除去率(%)=[(洗浄前のパーティクル数−洗浄後のパーティクル数)/洗浄前のパーティクル数]×100
【0107】
具体的には、微粒子塗布装置を用いて、基板1上に複数の粒径(既知)を含む粒子を塗布する。例えば、60nm以上の複数の粒径を含むポリスチレンラテックス(PSL)粒子(PSL粒子は、その粒子同士が1mm以内で近接し合う確率は1%以下となるような特性を有している。)を基板1上に所定の塗布密度で塗布する。そして、洗浄前のパーティクル3数を60nm感度等の欠陥検査装置を用いて検出する。なお、ここでいう60nm感度の欠陥検査装置とは、基板1上に粒径60nmのPSL粒子をばらまいた試験体に対する欠陥検査を行っても、そのPSL粒子を検出できる欠陥検査装置のことをいう。基板1の洗浄後、同様に上記欠陥検査装置を用いてパーティクル数を検出する。それらの結果から、上記関係式によって、洗浄によるパーティクルの除去率が算出される。
【0108】
なお、以上のような複数の粒径を含むパーティクル全体の除去率ではなく、粒径ごとのパーティクルの除去率を求める場合には、粒径微粒子塗布装置を用いて、同一基板1上に複数の粒径(既知)の粒子のみを塗布する。例えば、粒径60nm、90nm、120nm、150nm、200nmのPSL粒子を同一基板1上にそれぞれの領域を分けて所定の塗布密度で塗布する。そして、洗浄前の各粒径ごとのパーティクル数を60nm感度等の欠陥検査装置を用いて検出する。基板1の洗浄後、同様に上記欠陥検査装置を用いて各粒径ごとのパーティクル数を検出する。それらの結果から、上記関係式によって、洗浄による各粒径ごとのパーティクルの除去率が算出される。本発明によれば、粒径60nm相当以上のパーティクルにつき、いずれの粒径についてもパーティクル除去率98%以上が得られる。
【0109】
図1に示す基板洗浄装置10は、洗浄容器12と、基板1を載置して動かないように固定するための基板固定台14と、噴射ノズル26を有する洗浄液体管24と、洗浄液体20を加圧するための洗浄液体加圧装置22を有して構成されている。洗浄容器12内に基板固定台14が配置され、噴射ノズル26から基板に対して洗浄液体20を噴射できるように洗浄液体管24が配置されている。液体16に対する汚染を避けるため、洗浄容器12の材料は、汚染物や粒子などを液体16中に放出しない材料であることが好ましい。
【0110】
基板1を液体16中に配置する際には、加圧した洗浄液体20の噴射により基板1が移動しないように、基板1を基板固定台14に配置して固定する。このとき、基板1の主表面71が基板固定台14と接触しないように、基板1を基板固定台14に配置することが好ましい。基板固定台14としては、公知の構造のものを用いることができ、例えば公知のスピンチャック等を用いることができる。また、基板固定台14は、電動モータにより回転可能な構造とすることができる。また、噴射ノズル26によって、洗浄液体管24から供給される洗浄液を、基板1の主表面71に向かって噴射することができる。また、2つの噴射ノズル26を用いることにより、基板1の2つの主表面71を同時に洗浄することも可能である。なお、基板1の「主表面71」とは、図3に例示するように、基板周縁部(端面72及び面取面73)を除く表面のことをいう。すなわち、基板1の「主表面71」とは、図3において、対向する2つの「主表面71」として示される表面をいう。
【0111】
図1の例では、洗浄液体20は気泡30を含む。気泡30を含んだ洗浄液体20は洗浄液体加圧装置22により加圧されているので、噴射ノズル26より噴射された洗浄液体20及び気泡30によって、基板主表面71のパーティクル3を除去することができる。
【0112】
図2に示す基板洗浄装置10は、図1の場合と同様に、洗浄容器12と、基板1を載置して動かないように固定するための基板固定台14と、噴射ノズル26を有する洗浄液体管24と、洗浄液体20を加圧するための洗浄液体加圧装置22とを有して構成されている。図2の例では、洗浄液体20は洗浄用粒子40を含む。洗浄用粒子40を含んだ洗浄液体20は洗浄液体加圧装置22により加圧されているので、噴射ノズル26より噴射された洗浄液体20及び洗浄用粒子40によって、基板主表面71のパーティクル3を除去することができる。
【0113】
なお、図1では、洗浄液体20が気泡30を含む例を、図2では洗浄液体20は洗浄用粒子40を含む例を示しているが、洗浄液体20は気泡30及び洗浄用粒子40の両方を含むこともできる。また、基板洗浄装置10も、気泡30及び洗浄用粒子40の両方を洗浄液体20に対して混入するための少なくとも一つの機構を有することができる。
【0114】
洗浄液体加圧装置22は、洗浄液体20を加圧するための装置である。洗浄液体加圧装置22には洗浄液体管24に接続が接続されている。洗浄液体加圧装置22としては、高圧ポンプ等を用いることができる。この結果、洗浄液体加圧装置22で加圧された洗浄液体20は、洗浄液体管24を通して噴射ノズル26から洗浄容器12内に噴射することができる。洗浄液体加圧装置22による洗浄液体20の加圧の圧力は、基板表面近傍の液体の圧力との間における差圧で、少なくとも1気圧以上、好ましくは3気圧以上、より好ましくは5気圧以上とすることにより、基板1に付着したパーティクル3の除去を効果的に行うことができる。また、前記差圧は、20気圧以下、好ましくは15気圧以下、より好ましくは12気圧以下とするとよい。
【0115】
混入部において、洗浄液体20に気泡30又は洗浄用粒子40を混入する。混入部の例として、図1では、気泡発生用ノズル36を示している。すなわち、図1に示す基板洗浄装置10では、洗浄液体管24に気体導入管34を挿入し、洗浄液体管24に配置された気体導入管34の先端の気泡発生用ノズル36から気体38を洗浄液体20に導入することにより、洗浄液体20に気泡30を混入することができる構造となっている。気体38を洗浄液体20の圧力以上に加圧することにより、気体38を洗浄液体20に導入し気泡30を発生することができる。なお、混入部を、加圧する前の洗浄液体20に対して気泡30を混入するような構造とすることもできる。気体38としては、空気、窒素、不活性ガス等を用いることができるが、コストの点から、除塵フィルタでパーティクルを除去した空気を用いることが好ましい。
【0116】
混入部の別の例として、図2に示す基板洗浄装置10では、洗浄用粒子混入部42を設けて洗浄用粒子40を洗浄液体20に混入することができる構造となっている。洗浄用粒子混入部42で洗浄用粒子40を混入された洗浄液体20は、洗浄液体加圧装置22によって加圧され、洗浄液体管24へと供給される。なお、混入部を、加圧後の洗浄液体20に対して洗浄用粒子40を混入するような構造とすることもできる。
【0117】
基板1の洗浄時には、基板1を所定の回転数で回転させながら、噴射ノズル26の位置を、基板1の中央から端面までの間で移動(スイング)するように構成することができる。なお、噴射ノズル26を固定し、基板のみを回転及び/又は移動させる構造とすることもでき、基板1を固定し、基板1全体に対して洗浄液体20を噴射することができるように噴射ノズル26のみを移動させる構造とすることもできる。
【0118】
この場合の洗浄液体20としては、純水(例えば、超純水、純水、イオン交換水等)を用いるのが好適である。なお、従来の硫酸過水やアンモニア過水などの酸性物質又はアルカリ性物質を含む洗浄液を用いることもできる。しかしながら、酸やアルカリ性の洗浄液を用いる場合には、研磨によって得られたガラス基板1表面の平滑性や平坦度を劣化させることもあるので、純水を用いることが好ましい。なお、洗浄液体20としては、水素ガス溶解水、Oガス溶解水、Oガス溶解水、希ガス溶解水、Nガス溶解水等を用いることもできる。
【0119】
基板洗浄装置10を用いる場合、洗浄時の基板1の回転数及び噴射ノズル26の移動速度については、基板1全体が均一に洗浄されるように、適宜設定されることが望ましい。また、上記基板洗浄装置10における噴射ノズル26の先端部の形状に関しては、例えば円形状のものでも、矩形状(スリット状など)のものでも任意に用いることができる。洗浄液体20を加圧された状態で噴射ノズル26から噴射することを確実にするために、噴射ノズル26の開口部の形状は、スリット状又はピンホール状であることが好ましい。
【0120】
以上のように、本発明のマスクブランク用基板の製造方法によれば、気泡30又は洗浄用粒子40を含んだ洗浄液体20は洗浄液体加圧装置22により加圧されているので、噴射ノズル26より噴射された洗浄液体20及び気泡30によって、基板主表面71のパーティクル3を確実に除去することができる。
【0121】
以上述べた本発明の基板の洗浄方法は、マスクブランク用基板の製造方法の洗浄工程として、好ましく用いることができる。また、本発明の基板の洗浄方法は、マスクブランクの製造方法及び反射型マスクブランクの製造方法にて行う洗浄に関しても、適用することができる。
【0122】
以上説明した本発明のマスクブランク用基板の製造方法及び本発明のマスクブランクの製造方法は、特に微細転写パターンが要求される波長200nm以下の短波長の露光光(ArFエキシマレーザーなど)を露光光源とする露光装置に用いられる転写用マスクの作製に用いるマスクブランク用基板及びマスクブランクの製造に好適である。パターンの微細化の要求は益々高まる一方であり、マスクブランク用基板やマスクブランクにおいても、その表面欠陥に対する要求は極めて厳しくなってきている。例えば、ガラス基板表面に前述の潜傷が発生し、あるいは異物付着等による凸状欠陥が存在するマスクブランクを使用して例えば位相シフトマスクを作製した場合、マスク面のパターン近傍に前述の潜傷が顕在化することに起因した凹状欠陥あるいは上記の異物付着に起因する凸状欠陥が存在すると、露光光の透過光にはその凹状欠陥や凸状欠陥に起因する位相角の変化や透過率の低下が起こる。この位相角の変化や透過率の低下は転写されるパターンの位置精度やコントラストを悪化させる原因となる。特にArFエキシマレーザー光(波長193nm)のような短波長の光を露光光として用いる場合、マスク面上の微細な凹状欠陥に対して位相角の変化が非常に敏感となるため、転写像への影響が大きくなり、微細な凹状欠陥に由来する位相角や透過率の変化は決して無視できない重要な問題である。
【0123】
また、バイナリマスクにおいても、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)のような短波長の光を露光光として用いる場合、たとえ微細な表面欠陥が存在しても透過率への影響が大きくなるため重要な問題となる。本発明によれば、異物などのパーティクルの付着による凸欠陥などの微細な表面欠陥の発生を抑制することができるため、微細転写パターンが要求される波長200nm以下の短波長の露光光を露光光源とする露光装置に用いられる転写用マスクの作製に好適である。
【0124】
FPD(Flat Panel Display)等の製造に用いられる多階調マスクは、ガラス基板上に、露光光を遮光する遮光部、露光光を所定の透過率で透過させる半透光部、露光光を高い透過率で透過する透光部の少なくとも3つの透過率の異なる領域が混在した構成となっている。近年では、透過率の異なる2種類以上の半透光部を備えた多階調マスクも使用されてきている。このため、露光光の透過率制御は非常に重要であり、ガラス基板表面に前述の潜傷が存在し、それに起因して凹状欠陥が発生することや、異物付着に起因する凸欠陥が存在することは避けるべき問題である。本発明によれば、異物などのパーティクルの付着による凸欠陥などの微細な表面欠陥の発生を抑制することができるため、多階調マスクの作製に好適である。
【0125】
本発明の洗浄方法は、例えば、以下のようなマスクブランクの製造に用いるマスクブランク用基板に好適である。
(1)前記薄膜が遷移金属を含む材料からなる遮光膜であるバイナリマスクブランク
かかるバイナリマスクブランクは、透光性基板上に遮光膜を有する形態のものであり、この遮光膜は、クロム、タンタル、ルテニウム、タングステン、チタン、ハフニウム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ロジウム等の遷移金属単体あるいはその化合物を含む材料からなる。例えば、クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したクロム化合物で構成した遮光膜が挙げられる。また、例えば、タンタルに、酸素、窒素、ホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したタンタル化合物で構成した遮光膜が挙げられる。
かかるバイナリマスクブランクは、遮光膜を、遮光層と表面反射防止層の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層を加えた3層構造としたものなどがある。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0126】
(2)前記薄膜が、前記の遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる光半透過膜である位相シフトマスクブランク
かかる位相シフトマスクブランクとしては、透光性基板(ガラス基板)上に光半透過膜を有する形態のものであって、該光半透過膜をパターニングしてシフタ部を設けるタイプであるハーフトーン型位相シフトマスクが作製される。かかる位相シフトマスクにおいては、光半透過膜を透過した光に基づき転写領域に形成される光半透過膜パターンによる被転写基板のパターン不良を防止するために、透光性基板上に光半透過膜とその上の遮光膜(遮光帯)とを有する形態とするものが挙げられる。また、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクのほかに、透光性基板をエッチング等により掘り込んでシフタ部を設ける基板掘り込みタイプであるレベンソン型位相シフトマスク用やエンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクが挙げられる。
【0127】
前記ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものである。この光半透過膜をパターニングした光半透過部と、光半透過膜が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、光半透過部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることによって、光半透過部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト即ち解像度を向上させるものである。
【0128】
この光半透過膜は、例えば遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイドを含む)の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
また、光半透過膜上に遮光膜を有する形態の場合、上記光半透過膜の材料が遷移金属及びケイ素を含むので、遮光膜の材料としては、光半透過膜に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物で構成することが好ましい。
【0129】
レベンソン型位相シフトマスクは、バイナリマスクブランクと同様の構成のマスクブランクから作製されるため、パターン形成用薄膜の構成については、バイナリマスクブランクの遮光膜と同様である。エンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものではあるが、透過する露光光に生じさせる位相差が小さい膜(例えば、位相差が30度以下。好ましくは0度。)であり、この点が、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜とは異なる。この光半透過膜の材料は、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜と同様の元素を含むが、各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率と所定の小さな位相差となるように調整される。
【0130】
(3)前記薄膜が、遷移金属、遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる遮光膜であるバイナリマスクブランク
この遮光膜は、遷移金属及びケイ素の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。また、遮光膜は、遷移金属と、酸素、窒素及び/又はホウ素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
特に、遮光膜をモリブデンシリサイドの化合物で形成する場合であって、遮光層(MoSi等)と表面反射防止層(MoSiON等)の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層(MoSiON等)を加えた3層構造がある。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0131】
また、レジスト膜の膜厚を薄膜化して微細パターンを形成するために、遮光膜上にエッチングマスク膜を有する構成としてもよい。このエッチングマスク膜は、遷移金属シリサイドを含む遮光膜のエッチングに対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物からなる材料で構成することが好ましい。このとき、エッチングマスク膜に反射防止機能を持たせることにより、遮光膜上にエッチングマスク膜を残した状態で転写用マスクを作製してもよい。
【0132】
(4)前記薄膜が、1以上の半透過膜と遮光膜との積層構造である多階調マスクブランク
半透過膜の材料については、前記のハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜と同様の元素のほか、クロム、タンタル、チタン、アルミニウムなどの金属単体や合金あるいはそれらの化合物を含む材料も含まれる。各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率となるように調整される。遮光膜の材料についても、前記のバイナリマスクブランクの遮光膜が適用可能であるが、半透過膜との積層構造で、所定の遮光性能(光学濃度)となるように、遮光膜材料の組成や膜厚は調整される。
【0133】
また、上記(1)〜(4)において、透光性基板と遮光膜との間、又は光半透過膜と遮光膜との間に、遮光膜や光半透過膜に対してエッチング耐性を有するエッチングストッパー膜を設けてもよい。エッチングストッパー膜は、エッチングストッパー膜をエッチングするときにエッチングマスク膜を同時に剥離することができる材料としてもよい。
【0134】
さらに、本発明の洗浄方法は、以下のような反射型マスクブランクの製造に用いるマスクブランク用基板の洗浄のために、特に好適に用いることができる。
【0135】
(5)高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層してなる多層反射膜上に吸収体膜を備える反射型マスクブランク
反射型マスクは、EUVリソグラフィに用いられるマスクである。反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成された構造を有する。露光機(パターン転写装置)に搭載された反射型マスクに入射した光(EUV光)は、吸収体膜のある部分では吸収され、吸収体膜のない部分では多層反射膜により反射された光像が反射光学系を通して半導体基板上に転写される。
【0136】
多層反射膜は、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層して形成される。多層反射膜の例としては、Mo膜とSi膜を交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などがある。露光波長により、材質を適宜選択することができる。
【0137】
吸収体膜は、露光光である例えばEUV光を吸収する機能を有するもので、例えばタンタル(Ta)単体又はTaを主成分とする材料を好ましく用いることができる。このような吸収体膜の結晶状態は、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状又は微結晶の構造を有しているものが好ましい。
【0138】
Taを主成分とする材料としては、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBを含み、さらにOとNの少なくともいずれかを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、TaとGeとNを含む材料、TaとHfを含む材料、TaとHfとNを含む材料、TaとZrを含む材料、TaとZrとNを含む材料、等を用いることができる。TaにBやSi、Ge等を加えることにより、アモルファス状の材料が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。また、TaにNやOを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果が得られる。
【0139】
EUV反射型マスクブランクの場合、表面欠陥に対する非常に高いレベルの条件を満たす必要がある。本発明の基板の洗浄方法は、EUV反射型マスクブランクに用いる基板の洗浄のために、特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0140】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
【0141】
(実施例1)
使用する基板は、合成石英ガラス基板(大きさ152.4mm×152.4mm、厚さ6.35mm)である。この合成石英ガラス基板の端面を面取加工、及び研削加工し、さらに酸化セリウム砥粒を含む研磨液で粗研磨処理及び精密研磨を終えたガラス基板を両面研磨装置のキャリアにセットし、以下の条件で研磨加工(超精密研磨)を行った。
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
研磨液:コロイダルシリカ砥粒(平均粒径100nm)+水
加工圧力:50〜100g/cm
加工時間:60分
【0142】
超精密研磨終了後、ガラス基板をフッ酸中に浸漬させてコロイダルシリカ砥粒を除去する洗浄を行った。次に、ガラス基板の主表面及び端面に対してスクラブ洗浄を、純水によるスピン洗浄、及びスピン乾燥を行った。スピン乾燥後、ガラス基板の主表面をレーザー干渉コンフォーカル光学系による60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥及び凹状欠陥について欠陥検査を行った。次に、欠陥検査を行ったガラス基板の中から、凹状欠陥が検出されず、かつ60nm相当の凸状欠陥の検出数が一桁レベルのものを10枚選定した。以下、この選定したガラス基板を用いて、各実施例の洗浄条件に対する洗浄能力の評価を行った。
【0143】
前記の選定したガラス基板の主表面に対して、疑似異物として粒径60nmのPSL粒子を散布した。次に、60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)で60nm相当以上の大きさの凸状欠陥及び凹状欠陥について欠陥検査を行った。その結果、凹状欠陥は検出されなかったが、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、3430個検出された。
【0144】
続いて、図1に示す基板洗浄装置を用いて基板の洗浄を行った。洗浄液体として気泡を含む純水を使用した。また、噴射ノズルから基板の表面(主表面)に対して噴射する気泡を含む洗浄液体の流量は1.5リットル/分に調節した。なお、洗浄中の基板回転数、及び洗浄ノズルの移動速度は適宜設定した。また、その他の実験条件は、以下のようにした。
洗浄液体の圧力:5気圧
気泡発生用気体の種類:空気
洗浄液体に導入される気体の流量:1.0リットル/分
噴射ノズルの形状:直径1mmの円形(ピンホール状)
【0145】
以上の条件で5分間の基板洗浄を行った。洗浄後のガラス基板の主表面を上記60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥及び凹状欠陥について欠陥検査を行った。その結果、凹状欠陥は検出されなかったが、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥は、69個検出された。
同様にして、全部で10枚のガラス基板に対して、疑似異物の散布、洗浄及び欠陥検査を行った。
【0146】
以上の洗浄を終えた10枚のガラス基板について、前述の関係式に基づき、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した結果、10枚のガラス基板の平均で98.0%と高いパーティクル除去率であり、高い洗浄効果が得られることがわかった。
【0147】
また、上記の洗浄を終えた10枚のガラス基板をアルカリ薬液中に20分間浸漬、洗浄した後、再度、ガラス基板の主表面を上記60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、欠陥検査を行った結果、10枚のいずれの基板についても凹状欠陥は検出されなかった。したがって、上記の本発明による基板の洗浄を行っても、ガラス基板内部に潜傷が発生していないことが確認できた。
【0148】
(実施例2)
洗浄液体として洗浄用粒子を含む純水を使用し、図2に示す基板洗浄装置を用いて基板の洗浄を行った以外は、実施例1と同様に、10枚のガラス基板に対して、疑似異物の散布、洗浄及び欠陥検査を行った。実施例1と異なる実験の条件は、以下の実験の条件以外は、実施例1と同様とした。
洗浄液体の圧力:5気圧
洗浄用粒子の種類:ラテックス粒子(平均粒径60nm。)
洗浄液体に導入される気体の流量:1.0リットル/分
洗浄液体に導入される洗浄用粒子の流量:0.5リットル/分
噴射ノズルの形状:直径1mmの円形(ピンホール状)
【0149】
以上の条件で5分間の基板洗浄を行った。洗浄後のガラス基板の主表面を上記60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、60nm相当以上の大きさの凸状欠陥及び凹状欠陥について欠陥検査を行った。全部で10枚のガラス基板に対して、疑似異物の散布、洗浄及び欠陥検査を行った。
【0150】
以上の洗浄を終えた10枚のガラス基板について、前述の関係式に基づき、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した結果、10枚のガラス基板の平均で98%と高いパーティクル除去率であり、高い洗浄効果が得られることがわかった。
【0151】
また、上記の洗浄を終えた10枚のガラス基板をアルカリ薬液中に20分間浸漬、洗浄した後、再度、ガラス基板の主表面を上記60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、欠陥検査を行った結果、10枚のいずれの基板についても凹状欠陥は検出されなかった。したがって、上記の本発明による基板の洗浄を行っても、ガラス基板内部に潜傷が発生していないことが確認できた。
【0152】
(比較例1)
基板の洗浄において、洗浄液体として気泡又は洗浄用粒子を含む純水による洗浄を行う代わりに、純水のみによる洗浄を行ったこと以外は実施例1及び実施例2と同様にして、洗浄能力の評価を行った。
実施例1と同様に、洗浄前及び洗浄後の基板主表面の欠陥検査を行い、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出した。その結果、洗浄後の基板表面における粒径60nm相当以上のパーティクルの除去率を算出したところ、10枚のガラス基板の平均で87%と、実施例1及び実施例2より低いパーティクル除去率であった。したがって、本発明の基板の洗浄方法を使用した実施例1及び実施例2では、高い洗浄効果が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0153】
1 基板
3 パーティクル
10 基板洗浄装置
12 洗浄容器
14 基板固定台
16 液体
20 洗浄液体
22 洗浄液体加圧装置
24 洗浄液体管
26 噴射ノズル
30 気泡
32 気体加圧装置
34 気体導入管
36 気泡発生用ノズル
38 気体
40 洗浄用粒子
42 洗浄用粒子混入部
71 主表面
72 側面
73 面取面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に配置された基板の少なくとも一つの表面に向かって、気泡又は洗浄用粒子を含む加圧した洗浄液体を噴射ノズルから噴射し、前記基板の少なくとも一つの表面を洗浄することを含むことを特徴とする、基板の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄液体が、純水であることを特徴とする、請求項1に記載の基板の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄液体が、さらに界面活性剤を含むことを特徴とする、請求項2に記載の基板の洗浄方法。
【請求項4】
前記洗浄液体が、さらに酸性物質又はアルカリ性物質を含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の基板の洗浄方法。
【請求項5】
前記噴射ノズルの開口部の形状が、スリット状又はピンホール状であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板の洗浄方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板の洗浄方法によって、前記基板の少なくとも一つの表面を洗浄する洗浄工程を含むことを特徴とする、マスクブランク用基板の製造方法。
【請求項7】
前記基板が、ガラス材料からなることを特徴とする、請求項6に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板が、合成石英ガラス又は低熱膨張ガラスからなることを特徴とする、請求項7に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、転写パターンを形成するための薄膜を成膜することを特徴とする、マスクブランクの製造方法。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれか一項に記載のマスクブランク用基板の製造方法により得られるマスクブランク用基板の表面に、露光光を反射する多層反射膜を形成し、前記多層反射膜上に転写パターンを形成するための薄膜を形成することを特徴とする、反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載のマスクブランクの製造方法により得られるマスクブランクの前記薄膜をパターニングして前記転写パターンを形成することを特徴とする、転写用マスクの製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の反射型マスクブランクの製造方法により得られる反射型マスクブランクの前記薄膜をパターニングして前記転写パターンを形成することを特徴とする、反射型マスクの製造方法。
【請求項13】
洗浄容器と、
前記洗浄容器内に配置され、基板を固定するための基板固定台と、
洗浄液体を前記洗浄容器内に供給するための、噴射ノズルを有する洗浄液体管であって、前記噴射ノズルが前記基板固定台に固定された前記基板に対して前記洗浄液体を噴射するように配置される、洗浄液体管と、
前記洗浄液体管に接続され、前記洗浄液体を加圧するための洗浄液体加圧装置と、
前記洗浄液体に、気泡又は洗浄用粒子を混入するための混入部と、
を有することを特徴とする、基板洗浄装置。
【請求項14】
前記混入部が、加圧された前記洗浄液体管の前記洗浄液体内に、前記洗浄液体よりも高い圧力の気体を供給して前記気泡を発生するための気泡発生用ノズルであることを特徴とする、請求項13に記載の基板洗浄装置。
【請求項15】
前記混入部が、前記洗浄用粒子を前記洗浄液体に混入するための洗浄用粒子混入部であり、前記洗浄用粒子を混入した前記洗浄液体が前記洗浄液体加圧装置へと移動可能なように、前記洗浄用粒子混入部が前記洗浄液体加圧装置に接続されることを特徴とする、請求項13に記載の基板洗浄装置。
【請求項16】
前記噴射ノズルの開口部の形状が、スリット状又はピンホール状である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の基板洗浄装置。
【請求項17】
前記基板が、ガラス材料からなることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか一項に記載の基板洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−230253(P2012−230253A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98480(P2011−98480)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】