説明

基板フォルダ

【課題】基板をセットする際に、基板の下辺が下辺支持部材に不適当に接触する事態を防止すると共に、搬送時に生じる振動による衝撃を確実に軽減することにより、基板の破損を可及的に低減し得る基板フォルダを提供する。
【解決手段】基板搬送装置でガラス基板を搬送するに際して、ガラス基板2の下辺を下辺支持部材4で支持した状態で前記基板を縦姿勢で保持する基板フォルダ1であって、下辺支持部材4が、ガラス基板2の下辺が載置されるし平面を有する載置部7と、該載置部7を下方から支持し且つ載置部7に載置されるガラス基板2の重量で弾性変形可能な弾性変形部8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板搬送装置でガラス基板などの各種基板を搬送するに際して、基板の下辺を下辺支持部材で支持した状態で、その基板を縦姿勢で保持する基板フォルダの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板においては、更なる大型化と薄肉化が要請されている。そのため、当該要請を受けて大型化及び薄肉化されたFPD用のガラス基板は、重量の増加のみならず破損を来たし易くなっており、取り扱いの困難性が増しているのが実情である。
【0003】
また、この種のFPD用のガラス基板に対しては、製造工程の中でITO等を成膜して電極を形成するなどの各種処理を施す必要がある。そして、近年においては、生産効率を向上させる観点から、搬送経路上に各種処理工程を連設して、FPD用のガラス基板を搬送経路に沿って順次搬送しながら、各種処理を順々に施していくという手法が採用されるのが通例とされている。そのため、ガラス基板を搬送経路に沿って搬送する必要が生じるが、大型化されたガラス基板を水平姿勢で搬送した場合には、基板搬送装置が不当に大型化し、占有スペースが増大するという問題が生じる。そこで、大型化されたガラス基板を搬送する際には、例えば、特許文献1に開示されているように、ガラス基板を縦姿勢(例えば、略鉛直姿勢)に保持した状態で搬送する場合が多い。そして、この場合には、ガラス基板を縦姿勢で保持するために、ガラス基板の各辺のうち、少なくとも下辺を支持する必要がある。
【0004】
しかしながら、FPD用のガラス基板は、上述のように大型化及び薄肉化に伴って破損を来たし易くなっており、特にガラス基板の辺は破損を来たし易い部分となる。そのため、FPD用のガラス基板を縦姿勢で保持して搬送する場合には、ガラス基板の破損を防止する観点から、ガラス基板の下辺の支持形態に特別の配慮が必要となる。
【0005】
そこで、このような観点から、例えば、特許文献2には、ガラス基板を縦姿勢で保持する基板フォルダに、ガラス基板の下辺を面接触支持する基板受け部(下辺支持部材)を設けること、及び、ポリテトラフルオロエチレンやポリイミド樹脂などの衝撃吸収性の高い材質で基板受け部を形成することが開示されている。このようにすれば、ガラス基板の下辺をピンなどで点接触支持する場合に比して、ガラス基板の下辺に傷や割れなどの破損が生じるのを抑制することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−39158号公報
【特許文献2】特開2009−161817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示されているように、基板受け部をポリテトラフルオロエチレンやポリイミド樹脂で形成した場合には、基板受け部の形状は、実質的に変形が生じるものではないため、基板受け部の支持面の姿勢は、基板フォルダに取り付けた状態のままで維持される。そのため、ガラス基板の下辺と、基板受け部とが互いに平行でない場合には、ガラス基板を基板フォルダにセットする際に、ガラス基板の下辺の角部などの最下部が先に基板受け部と部分的に接触し、当該接触部に応力集中が生じてガラス基板が破損を来たすという問題が生じ得る。
【0008】
したがって、このような問題に対処するためには、ガラス基板の下辺と、基板受け部とを互いに平行に保った状態で、ガラス基板を基板受け部に載置する必要が生じるが、基板受け部の取り付け誤差やガラス基板の下辺の加工精度などの要因により、両者を完全に平行な状態とすることは実質的に不可能である。そのため、ガラス基板の破損の問題は不可避的に生じ、しかも、ガラス基板の大型化及び薄肉化が進むに連れて当該破損の問題はより顕著なものとなって現れることになる。
【0009】
また、基板受け部をポリテトラフルオロエチレン等で形成した場合には、金属板等に比して高い衝撃吸収性能を有するものの、衝撃を完全に吸収するほどの高いクッション性は期待できない。そのため、基板フォルダに保持されたガラス基板を搬送装置で搬送する際に生じる振動による衝撃が大きくなれば、基板受け部で十分に衝撃を吸収することができず、ガラス基板が容易に破損するおそれがある。
【0010】
なお、以上では、FPD用のガラス基板を例に取って説明したが、これに限られるものではなく、他の用途に使用されるガラス基板やシリコン基板等の脆弱な基板を縦姿勢で保持した状態で搬送する場合にも、基板の下辺を支持する下辺支持部材の支持形態が不適当であると同様の問題が生じ得る。
【0011】
以上の実情に鑑み、本発明は、基板をセットする際に、基板の下辺が下辺支持部材に不適当に接触する事態を防止すると共に、搬送時に生じる振動による衝撃を確実に軽減することにより、基板の破損を可及的に低減し得る基板フォルダを提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために創案された本発明は、基板搬送装置で基板を搬送するに際して、前記基板の下辺を下辺支持部材で支持した状態で前記基板を縦姿勢で保持する基板フォルダにおいて、前記下辺支持部材が、前記基板の下辺が載置される平面を有する載置部と、該載置部を下方から支持し且つ前記載置部に載置される前記基板の重量で弾性変形可能な弾性変形部とを備えていることに特徴づけられる。
【0013】
このような構成によれば、基板を基板フォルダにセットする際に、基板の下辺と載置部とが互いに平行になっていない状態でも、基板の下辺の一部が載置部に接触すると同時に、その接触した基板の重量により載置部を下方から支持している弾性変形部が弾性変形する。その結果、弾性変形した弾性変形部に支持されている載置部の姿勢が、ガラス基板の下辺に倣って調整されることになる。したがって、基板の下辺の不適当な接触状態が緩和され、基板の接触部に応力集中が生じるという事態を回避することができる。
【0014】
また、基板フォルダに保持された基板を搬送装置によって搬送する際に生じる振動による衝撃は、弾性変形部の弾性に起因した高いクッション性によって確実に吸収することができる。
【0015】
上記の構成において、前記載置部が、前記弾性変形部よりも相対的に柔軟性が低いことが好ましい。ここで、「柔軟性が低い」とは、弾性機能を有しながら且つ剛性が高いことを意味することとする。
【0016】
このようにすれば、基板を載置したときに、載置部自体は変形し難くなるので、基板の姿勢を載置部の平面に倣って安定させ易くなる。
【0017】
上記の構成において、前記載置部が、前記弾性変形部の弾性変形により、前記基板の表面に沿う平面内で傾斜可能であることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、基板の下辺の一部が載置部に不当に接触したときでも、基板の下辺に倣って載置部の傾きを調整し易くなるため、基板の下辺と載置部との接触状態をより良好なものとすることができる。
【0019】
上記の構成において、前記載置部が、前記基板の下辺に沿う方向において複数に分割されていてもよい。
【0020】
このようにすれば、各載置部が、基板の下辺に個別に対応することができるので、基板の下辺と、各載置部とが互いに平行でない場合に、そのズレをより確実に吸収することが可能となる。なお、各載置部は、弾性変形部によって支持されているので、基板のセットが完了した後は、弾性変形部の弾性変形によって、全ての載置部が基板の下辺と接触するようになるので、載置部を分割した場合であっても基板の下辺の支持に関与しない載置部が生じることはない。
【0021】
上記の構成において、前記弾性変形部が、前記基板の下辺に沿う方向において複数に分割されていてもよい。
【0022】
このようにすれば、各弾性変形部が個別に変形可能であるので、搬送時に生じる振動による衝撃をより効率よく吸収することができる。
【0023】
上記の構成において、前記弾性変形部が、バネで構成されていることが好ましい。
【0024】
このようにすれば、弾性変形部に良好なクッション性を容易に付与することが可能となる。また、バネであれば、材料として金属等を選定することができるので、弾性変形部に容易に高い耐熱性を付与することができる。
【0025】
上記の構成において、前記載置部及び前記弾性変形部が、150℃以上の耐熱性を有することが好ましい。
【0026】
すなわち、基板フォルダに保持された基板を搬送装置によって搬送しながら、その搬送経路中で基板に対して電極を形成するなどの機能処理を施す場合には、当該機能処理に加熱処理を伴うことが多い。そのため、この場合には、載置部及び弾性変形部が、当該加熱処理に耐え得る耐熱性を有していることが必要となる。そして、基板に電極を形成するなどの機能処理において行なわれる加熱処理は、一般的には200℃程度、少なくとも150℃以上であるので、弾性変形部は、上記のように、少なくとも150℃以上の耐熱性を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上のように本発明によれば、基板を基板フォルダにセットする際に、基板の下辺と載置部とが互いに平行になっていない状態でも、基板の下辺の一部が載置部に接触すると同時に、基板の重量により載置部を支持している弾性変形部が弾性変形し、載置部の姿勢がガラス基板の下辺に倣って調整される。そのため、基板の下辺の不適当な接触状態が緩和され、基板の接触部に生じる応力集中を回避することができる。加えて、基板フォルダに保持された基板を搬送装置によって搬送する際に生じる振動による衝撃は、弾性変形部の弾性に起因した高いクッション性によって確実に吸収することができる。したがって、基板を基板フォルダにセットする際に、基板の下辺が基板フォルダの下辺支持部材に不適当に接触する事態を防止すると共に、搬送時に生じる振動による衝撃を確実に軽減することが可能となり、基板の破損を可及的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る基板フォルダの正面図であって、(b)は、(a)の縦断側面図である。
【図2】(a)は、図1のXで示す領域の拡大図であって、(b)は、(a)の弾性変形部が弾性変形した状態を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る基板フォルダを組み込んだ基板搬送装置を示す概略側面図である。
【図4】図3の基板搬送装置が組み込まれた成膜装置を示す概略平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る基板フォルダの要部拡大図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る基板フォルダの要部拡大図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る基板フォルダの要部拡大図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る基板フォルダの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下では、基板がFPD用のガラス基板(以下、単にガラス基板という。)である場合を例にとって説明する。
【0030】
図1(a),(b)に示すように、本発明の第1の実施形態に係る基板フォルダ1は、縦姿勢のガラス基板2の周囲を囲むように配置された枠体3と、枠体3の内周側下部に配置され且つガラス基板2の下辺を支持する下辺支持部材4と、ガラス基板2の背面を支持する背面支持部材5とを備えている。
【0031】
図1(b)に示すように、背面支持部材5は、ガラス基板2の上辺が、下辺よりも背面側に位置するように傾斜しており、その傾斜角度θは、水平線に対して75°〜87°の範囲(好ましくは85°±2°)に設定されている。
【0032】
枠体3の内周側両側部と内周側上部には、ガラス基板2の移動範囲を規制する規制部材6が、ガラス基板2の両側辺及び上辺と隙間を介して対向した状態で配置されている。
【0033】
図2(a),(b)に拡大して示すように、下辺支持部材4は、ガラス基板2の下辺が載置される支持平面を有する載置部7と、載置部7を下方から支持する弾性変形部8とを備えている。
【0034】
載置部7は、弾性変形部8よりも柔軟性の低い材質(例えば、エンジニアリングプラスチック)で形成されている。また、載置部7の支持平面の角部は、ガラス基板2に破損が生じるのを防止するために面取りされている。
【0035】
弾性変形部8は、例えば、シリコンスポンジやゴムなどの弾性樹脂材9で形成されており、図2(b)に示すように、載置部7に載置されるガラス基板2の重量で弾性変形可能な柔軟性を有している。
【0036】
図1(a)に示すように、載置部7と弾性変形部8とは、相互に重ねられた状態で、ガラス基板2の下辺に沿って複数に分割されている。このようにすれば、分割された各載置部7が、ガラス基板2の下辺に個別に対応することができる。そのため、ガラス基板2の下辺と各載置部7の支持平面とが互いに平行でない場合に、両者の平行度のズレをより確実に吸収することができる。また、分割された各弾性変形部8が個別に変形可能であるので、搬送時に生じる振動による衝撃をより効率よく吸収することができる。
【0037】
次に、以上のように構成された基板フォルダ1を組み込んだ基板搬送装置について説明する。
【0038】
図3に示すように、基板搬送装置10は、搬送経路に沿って配列された複数の搬送ローラ11を有しており、この搬送ローラ11によってガラス基板2を縦姿勢で保持した基板フォルダ1を搬送するようになっている。そして、この基板搬送装置10は、ガラス基板2の加工工程に組み込まれており、搬送経路上でガラス基板2に対して各種処理が施されるようになっている。
【0039】
詳細には、基板搬送装置10をガラス基板2の表面にITO膜等で電極を形成する成膜装置(スパッタ装置)12に組み込んだ場合には、例えば図4に示すように、搬送経路がループ状の経路で構成され、その経路の一部に、成膜前のガラス基板2を投入する投入口13と、成膜後のガラス基板2を取り出す取出口14とが設けられる。
【0040】
投入口13から取出口14に至るまでの搬送経路に沿った区間は複数の室に分割されており、各室内を基板フォルダ1に縦姿勢で保持されたガラス基板2を順次移動しながら、ガラス基板2に成膜処理が施される。
【0041】
具体的には、投入口13から投入されたガラス基板2は、投入口13の下流側の真空付与ゾーン15で真空下に置かれた後、予熱ゾーン16へと移されて加熱される。その後、成膜ゾーン17で例えば約200℃まで加熱されると共に、ガラス基板2の表面(背面支持部材5で支持されている側と反対側の面)にITO等により電極が成膜される。電極が成膜されたガラス基板2は、成膜ゾーン17の下流側の冷却ゾーン18で室温程度まで冷却された後、真空破壊ゾーン19で大気圧下に戻され、取出口14まで搬送される。
【0042】
ところで、このような成膜工程を実行するには、まず、ガラス基板2を基板フォルダ1にセットする必要がある。この際に、ガラス基板2の下辺と下辺支持部材4の載置部7とが互いに平行になっていない場合には、ガラス基板2の下辺と載置部7とが不適当に接触して、ガラス基板2が破損するという不具合を来たすことがある。
【0043】
そこで、載置部7を弾性変形部8によって支持することによって、当該不具合を次のようにして解消するようにしている。すなわち、図2(b)に示すように、ガラス基板2の下辺の一部が載置部7の支持平面に接触すると同時に、ガラス基板2の重量により載置部7を下方から支持している弾性変形部8が弾性変形する。その結果、弾性変形した弾性変形部8によって支持されている載置部7の姿勢が、ガラス基板2の下辺に倣って調整される。したがって、ガラス基板2の下辺の不適当な接触状態が緩和されることから、ガラス基板2に応力集中が生じるという事態を回避することができる。また、基板フォルダ1に保持されたガラス基板2を搬送する際に生じる振動による衝撃に対しても配慮が必要であるが、当該衝撃は、弾性変形部8の弾性に起因した高いクッション性によって確実に吸収することができる。よって、ガラス基板2の破損を可及的に低減することが可能となる。
【0044】
なお、ガラス基板2を基板フォルダ1に縦姿勢で保持した状態で、上述のようにガラス基板2の表面に成膜処理を施す場合には、一般的には約200℃程度、少なくとも150℃以上の加熱を伴うので、弾性変形部8は、150℃以上の耐熱性を有していることが好ましい。
【0045】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る基板フォルダの要部を拡大して示す図である。この第2の実施形態に係る基板フォルダ1が、第1の実施形態に係る基板フォルダ1と相違するところは、下辺支持部材4の弾性変形部8がコイルバネ(巻きバネ)20で構成されている点にある。このようにすれば、簡単且つ確実に、弾性変形部8に良好なクッション性を付与することができ、ガラス基板2の破損を防止する上でも有利となる。なお、コイルバネ20としては、例えば、金属製、樹脂製、或いはセラミックス製のものなどが利用できる。
【0046】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る基板フォルダの要部を拡大して示す図である。この第3の実施形態に係る基板フォルダ1が、第2の実施形態に係る基板フォルダ1と相違するところは、弾性変形部8の弾性変形に伴う載置部7の変位方向が規制されている点にある。詳細には、載置部7に設けられた上下方向に沿う長軸を有する長孔21に、背面支持部材5に固定されたピン22が挿通されており、このピン22が長孔21の短軸方向に対向する両壁面と干渉して載置部7の横ブレが規制されるようになっている。一方、載置部7が、弾性変形部8の弾性変形に伴って、長孔21の範囲内での上下方向に位置を変位させる動作は許容されている。また、載置部7が、弾性変形部8の弾性変形に伴って、ピン22を中心として首振り動作(揺動動作)することも許容されているので、載置部7は、ガラス基板2の表面に沿う平面内で自由に傾斜することができる。
【0047】
図7は、本発明の第4の実施形態に係る基板フォルダの要部を拡大して示す図である。この第4の実施形態に係る基板フォルダ1が、第2〜3の実施形態に係る基板フォルダ1と相違するところは、弾性変形部8が、逆V字状に曲折された板バネ23から構成されている点にある。詳細には、板バネ23の曲折部23aを含む一部分が、載置部7の内部に埋設されており、板バネ23の残りの部分が、載置部7の下面から突出して載置部7を支持する脚部23bを構成している。そのため、載置部7にガラス基板2の荷重などが作用した場合には、板バネ23の脚部23bが開脚して載置部7の位置が下方に変位し、載置部7の姿勢が調整されるようになっている。
【0048】
なお、この場合には、板バネ23をインサート品として、載置部7をインサート成型してもよい。また、載置部7に板バネ23を保持する保持溝を形成した後、その保持溝に板バネ23を嵌め込むようにしてもよい。
【0049】
図8は、本発明の第5の実施形態に係る基板フォルダの要部を拡大して示す図である。この第5の実施形態に係る基板フォルダ1が、第4の実施形態に係る基板フォルダ1と相違する点は、大きく分けて二つある。第一の相違点は、載置部7に設けられた上下方向に沿う長軸を有する長孔21に、背面支持部材5に固定されたピン22が挿通されており、このピン22によって載置部7の横ブレが規制されているところにある。
【0050】
第二の相違点は、載置部7に、弾性変形部8である逆V字状に曲折された板バネ23を保持する保持溝24が設けられており、この保持溝24を形成する空間が、板バネ23の曲折部23aから脚部23bの先端部に向かって漸次大きくなっているところにある。すなわち、板バネ23と保持溝24との間の隙間が、板バネ23の曲折部23aから脚部23bの先端部に向かうに連れて漸次大きくなっている。このようにすれば、載置部7がピン22を中心とした首振り動作(揺動動作)や、板バネ23の脚部23bを開脚させる際に、板バネ23と保持溝24が互いに干渉し難くなる。そのため、載置部7の首振り動作および板バネ23の脚部23bの開脚動作が円滑に行われ、ガラス基板2の破損を防止する上でも非常に有利となる。なお、図示例では、板バネ23の脚部23bは、載置部7の両側面から斜め下方に突出している。この場合、板バネ23の脚部23bが大きく開脚したときに、載置部7の下面が枠体3の内周側下部に当接するようにしてもよい。このようにすれば、載置部7に想定外の大きな力が作用した場合であっても、載置部7が枠体3の内周側下部に当接するので、ガラス基板2の下辺を支持している載置部7の支持平面の姿勢の乱れを最小限に抑えることができる。
【0051】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態で実施することができる。例えば、上記の実施形態では、載置部7と弾性変形部8の双方が、ガラス基板2の下辺に沿って複数に分割されている場合を説明したが、単一の弾性変形部8の上に複数に分割された載置部7を配置したり、或いは、複数に分割された弾性変形部8の上に跨るように単一の載置部7を配置してもよい。また、載置部7と弾性変形部8の双方が、ガラス基板2の下辺に沿って連続する単一の部材から構成されていてもよい。
【実施例】
【0052】
本発明の有用性を実証すべく、対比試験を行った。詳述すると、当該対比試験では、実際に搬送した際に生じるガラス基板の下辺付近の振動計測と、基板フォルダにガラス基板をセットする際に生じるガラス基板の下辺及び下辺支持部材の接触状態の確認検査とを行なった。なお、以下では、実施例と比較例の双方において、基板フォルダに縦姿勢で保持する対象基板として、液晶ディスプレイ用のガラス基板であって、且つ、横(幅)×縦(高さ)×厚みが、1500mm×1850mm×0.7mmのものを使用した。
【0053】
本発明の実施例1に係る下辺支持部材は、載置部と弾性変形部の双方が、ガラス基板の下辺に沿って連続する単一の部材から構成されている。載置部は、アルミニウムで形成され、弾性変形部は、シリコンスポンジで形成されている。載置部は、横(幅)×縦(奥行き)×厚み(高さ)が、1900mm×30mm×15mmのものを使用し、弾性変形部は、載置部と同程度の大きさのものを使用した。弾性変形部を含む振動系の固有振動数は、15Hzになるように設計した。
【0054】
その結果、実施例1では、搬送中も弾性変形部によって、振動及び衝撃が吸収され、アルミ製の載置部がガラス基板の下辺の全長を支持した状態が維持された。具体的には、搬送中の入力振動の周波数は50〜200Hzの範囲にあったが、シリコンスポンジ製の弾性変形部を含む振動系によって吸収され、ガラス基板の下辺付近での振動加速度は、0.8G以下となった。
【0055】
また、ガラス基板を基板フォルダにセットする際は、ガラス基板の下辺に対して、載置部が相対的に傾いている場合でも、ガラス基板が載置部に接触すると同時に、シリコンスポンジ製の弾性変形部の柔軟性で、アルミ製の載置部はガラス基板の下辺に倣って傾き、ガラス基板の下辺と載置部とが全面接触し、ガラス基板の下辺に応力集中が生じるという事態は生じなかった。
【0056】
本発明の実施例2に係る下辺支持部材は、図5に示したように、載置部と弾性変形部の双方が、ガラス基板2の下辺に沿って分割されている。載置部は、ベスペル(デュポン社製)材で形成され、弾性変形部は、ステンレス製のコイルバネで形成されている。分割された各載置部は、横(幅)×縦(奥行き)×厚み(高さ)が、35mm×15mm×10mmのものを使用し、ガラス基板の下辺に6個配置した。弾性変形部を構成するコイルバネは、各載置部につき2個配置した。弾性変形部を含む振動系の固有振動数は、15Hzになるように設計した。
【0057】
その結果、実施例2では、搬送中の入力振動の周波数は50〜200Hzの範囲にあったが、弾性変形部を含む振動系によって吸収され、ガラス基板のガラス基板の下辺付近での振動加速度は、0.7G以下となった。
【0058】
また、ガラス基板を基板フォルダにセットする際は、弾性変形部の柔軟性により、実施例1と同様に良好な接触状態が維持された。
【0059】
なお、載置部と弾性変形部に、ベスペル材とステンレス材をそれぞれ使用したため、約250℃の耐熱性を享受することも可能となった。
【0060】
本発明の実施例3に係る下辺支持部材は、図6に示したように、載置部と弾性変形部の双方が、ガラス基板の下辺に沿って分割されると共に、載置部の横ブレを防止するために、載置部に設けられた上下方向に長軸を有する長孔にピンが挿通されている。載置部は、ベスペル材で形成され、弾性変形部は、ステンレス製のコイルバネで形成されている。また、載置部に形成された長孔に挿通されているピンもステンレスにより形成されている。載置部は、横(幅)×縦(奥行き)×厚み(高さ)が、35mm×15mm×10mmのものを使用し、ガラス基板の下辺に6個配置した。弾性変形部を構成するコイルバネは、各載置部につき2個配置した。弾性変形部を含む振動系の固有振動数は、15Hzになるように設計した。
【0061】
その結果、実施例3では、載置部の横ブレが起こり難くなり、実施例2よりも良好な防振効果が得られ、ガラス基板の下辺付近での振動加速度は、0.5G以下となった。
【0062】
また、ガラス基板を基板フォルダにセットする際は、弾性変形部の柔軟性により、実施例1〜2と同様に良好な接触状態が維持された。
【0063】
本発明の実施例4に係る下辺支持部材は、図7に示したように、弾性変形部として載置部の可動方向に対して上下方向の指向性を付与するために、逆V字状に曲折された板バネを使用した。また、載置部に設けられた板バネを保持する保持溝に空間を設け、載置部と板バネの運動が相互に干渉する影響を小さくすることにより、載置部の支持面が外力に対して自由に角度を調整できるようにした。なお、載置部は、セラゾール(AZエレクトロニックマテリアルズ社製)材で形成され、弾性変形部は、インコネル(大同スペシャルメタル社製)の板バネで形成されている。また、載置部に形成された長孔に挿通されているピンもインコネル製のものを使用した。載置部は、横(幅)×縦(奥行き)×厚み(高さ)が、35mm×20mm×10mmのものを使用し、ガラス基板の下辺に6個配置した。弾性変形部を構成する板バネは、各載置部につき1個配置した。弾性変形部を含む振動系の固有振動数は、10Hzになるように設計した。
【0064】
その結果、実施例4では、更なる防振効果の向上が図られ、ガラス基板の下辺付近での振動加速度は、0.3G以下となった。
【0065】
また、ガラス基板を基板フォルダにセットする際は、載置部の柔軟性により、実施例1〜3と同様に良好な接触状態が維持された。
【0066】
なお、載置部(ピンを含む)と弾性変形部に、セラゾール材とインコネル材をそれぞれ使用したため、約330℃の耐熱性を享受することも可能となった。
【0067】
比較例に係る下辺支持部材は、弾性変形部を設けずに、エンジニアプラスチック製の載置部のみとし、この載置部をボルトにより基板フォルダの背面支持部材に固定した。すなわち、載置部は、背面支持部材に単純にボルトにより固定されているため、載置部の回転自由度はない。載置部は、横(幅)×縦(奥行き)×厚み(高さ)が、35mm×15mm×10mmのものを使用した。
【0068】
その結果、比較例では、弾性変形部が存在しないので、ガラス基板にそのまま衝撃が入力され、ガラス基板の下辺付近での振動加速度が2Gという値を示した。
【0069】
また、載置部がボルトによって背面支持部材に単純固定されていることから、載置部の姿勢は、背面支持部材に取り付けた状態のままで維持される。そのため、ガラス基板を基板フォルダにセットする際に、載置部の姿勢がガラス基板の下辺に倣って調整されず、ガラス基板の下辺と載置部とが不適当に接触し、ガラス基板の下辺に損傷が生じるという事態が生じた。
【0070】
したがって、上記の実施例1〜4の結果と、比較例の結果とを比較しても、本発明に係る基板搬送装置が、ガラス基板の破損を防止する上で有用であることを認識することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 基板フォルダ
2 ガラス基板
3 枠体
4 下辺支持部材
5 背面支持部材
6 規制部材
7 載置部
8 弾性変形部
9 弾性樹脂材
10 基板搬送装置
11 搬送ローラ
12 成膜装置
20 コイルバネ
21 長孔
22 ピン
23 板バネ
24 保持溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板搬送装置で基板を搬送するに際して、前記基板の下辺を下辺支持部材で支持した状態で前記基板を縦姿勢で保持する基板フォルダにおいて、
前記下辺支持部材が、前記基板の下辺が載置される平面を有する載置部と、該載置部を下方から支持し且つ前記載置部に載置される前記基板の重量で弾性変形可能な弾性変形部とを備えていることを特徴とする基板フォルダ。
【請求項2】
前記載置部が、前記弾性変形部よりも相対的に柔軟性が低いことを特徴とする請求項1に記載の基板フォルダ。
【請求項3】
前記載置部が、前記弾性変形部の弾性変形により、前記基板の表面に沿う平面内で傾斜可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の基板フォルダ。
【請求項4】
前記載置部が、前記基板の下辺に沿う方向において複数に分割されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板フォルダ。
【請求項5】
前記弾性変形部が、前記基板の下辺に沿う方向において複数に分割されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の基板フォルダ。
【請求項6】
前記弾性変形部が、バネで構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の基板フォルダ。
【請求項7】
前記載置部及び前記弾性変形部が、150℃以上の耐熱性を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の基板フォルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−108822(P2011−108822A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261925(P2009−261925)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】