説明

基板洗浄装置、フラットパネルディスプレイの製造装置及びフラットパネルディスプレイ

【課題】紫外線や薬液を使用することなく、ガラス基板に貼り付いている有機汚れを除去することを目的とする。
【解決手段】基板1を水平搬送する搬送ローラ17の上下位置に配置され、基板1を加熱および加湿する温水シャワー18と、搬送ローラ17の温水シャワー18よりも下流側の上下位置に配置され、カム駆動モータ50Mに取り付けられた回転軸50にブラシ41を装着した擦動ユニット19と、ブラシ41を基板1に対して押し付けるために、擦動ユニット19を昇降動作させる昇降ユニットと、搬送ローラ17の上下位置に配置され、ブラシ41が基板1を擦動する部位に向けて高温純水を供給する温水ノズル20と、を備え、上部側のブラシ41と下部側のブラシ41とが基板1を挟み込むようにして、基板1の洗浄を行っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に付着した汚れを洗浄する基板洗浄装置、この基板洗浄装置を適用したフラットパネルディスプレイの製造装置及びこの製造装置により製造されたフラットパネルディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイとしての液晶ディスプレイは、透明なガラス基板に対して現像やエッチング等の工程を経てTFT回路を形成したTFT基板と、顔料塗布等の工程を経てカラーフィルタを形成したカラーフィルタ基板とを貼り合わせてパネル基板を構成している。従って、パネル基板の基本的な構成要素となるガラス基板上に対して種々の工程を施していくことから、ガラス基板は厳重に保護されなければならない。例えば、ガラス基板にキズや破損、汚れ等がある状態で各工程を施していくと、最終的な製品として表示不良等を起こし、不良品となる。
【0003】
ガラス基板が製造されて搬送されるときや保管を行なうとき等は、スペースの問題や運搬性等の観点から、単体で搬送ないしは保管されるのではなく、複数のガラス基板を層にして重ね合わせた積層体にして行う。特に、近年の液晶ディスプレイは大型化の一途を辿っており、大型のガラス基板を単体で運搬するよりは複数枚のガラス基板を積層体として運搬することにより、運搬が非常に容易になる。このとき、ガラス基板の面をキズや破損、汚れ等から保護すべく、各ガラス基板の間に保護層を形成する。この保護層としては、ガラス基板の間に合紙を挟みこむようにするものがあるが、他にもガラス基板の面にフィルムを形成するものもある。合紙を保護層とする場合には、合紙をガラス基板の面に粘着剤または接着剤により密着させるようにし、フィルムを保護層とする場合には、粘着フィルムを用いてガラス基板の面に密着させるようにする。いずれにしろ、ガラス基板を保護するものは基板の面に密着させなければならないことから、接着剤や粘着剤等がガラス基板の面に形成される。
【0004】
運搬・保管時には、ガラス基板の間に保護層を介装するが、TFT回路を形成する工程やカラーフィルタを形成する工程においては、各ガラス基板から保護層を剥離して1枚のガラス基板に戻す。接着剤や粘着剤等は強力にガラス基板の面に密着していることから、剥離後のガラス基板の面には、接着剤や粘着剤等が有機汚れとなって残存しており、ガラス基板の面を前もって綺麗に洗浄しなければならない。
【0005】
ガラス基板に付着している汚れがパーティクル汚れであれば、純水を用いて簡単に洗浄することができるが、面に付着している汚れは接着剤や粘着剤等の有機汚れであるため、それに適した洗浄が必要となる。一般的には、特許文献1で開示されているように、基板に対して紫外線を照射してガラス基板の表面改質を起こさせ、アルカリ液等の薬液をガラス基板に供給して、ロールブラシ等を用いてガラス基板上の有機汚れを除去するようにしている。
【特許文献1】特開2001−108822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1にもあるように、ガラス基板に付着した有機汚れは、紫外線の照射と薬液による洗浄との2つの工程により行なっているが、有機汚れを溶解させる薬液は、環境に対して影響を与えることから、できる限り使用しないことが望まれている。また、やむを得ず薬液を使用する場合には、排液処理機構を設けて薬液を処理しなければならなくなり機構が複雑化する。そして、排液として処理されるため、一度使用された薬液は再利用することができなくなり、薬液の消費量が増大し、結果として大幅にコストが増加する。従って、紫外線を照射して、薬液により基板を洗浄する従来の方式では、環境負荷の問題は勿論、紫外線を照射する機構や排液処理機構による機構の複雑化や大型化、薬液の消費量増加による高コスト化といった各種の問題を生じる。
【0007】
そこで、本発明は、紫外線や薬液を使用することなく、ガラス基板に貼り付いている有機汚れを除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1の基板洗浄装置は、基板を水平搬送する搬送経路の上部に配置され、前記基板を加熱および加湿する加熱加湿手段と、前記搬送経路の前記加湿加熱手段よりも下流側の上部に配置され、回転駆動手段に取り付けられた回転軸に擦動部材を装着した擦動ユニットと、前記擦動部材を前記基板に対して押し付けるために、前記擦動ユニットを昇降させる昇降ユニットと、前記搬送経路の上部に配置され、前記擦動部材が前記基板を擦動する部位に向けて高温純水を供給する純水供給手段と、を備えたこと、を特徴とする。
【0009】
この基板洗浄装置によれば、基板に対して加熱および加湿していることから、ガラス基板に付着した有機汚れが軟化して密着強度が低下し、この状態で、擦動部材を基板に押し付けて回転洗浄することにより、密着強度が弱化した有機汚れを基板から綺麗に掻き取って除去することができるようになる。
【0010】
本発明の請求項2の基板洗浄装置は、請求項1記載の基板洗浄装置において、前記昇降ユニットは、回転モータに接続されるカム板と、このカム板と前記回転軸を回転自在に支承する軸受部材とを連結する連結部材と、を備えて構成し、前記カム板に、このカム板の外面に沿った溝を形成し、前記連結部材に設けたフォロワを前記溝に嵌合させた構成としたこと、を特徴とする。
【0011】
この基板洗浄装置によれば、カム板を溝カムとしてフォロワを嵌合させており、擦動部材が基板から反発を受けたとしても、フォロワを嵌合している溝の面により反発力が規制されるため、浮き上がることなく、強く基板に対して擦動部材を押し付けることができるようになる。
【0012】
本発明の請求項3の基板洗浄装置は、基板を水平搬送する搬送経路の上下位置に配置され、前記基板を加熱および加湿する加熱加湿手段と、前記搬送経路の前記加湿加熱手段よりも下流側の上下位置に配置され、回転駆動手段に取り付けられた回転軸に擦動部材を装着した擦動ユニットと、前記擦動部材を前記基板に対して押し付けるために、前記擦動ユニットを昇降動作させる昇降ユニットと、前記搬送経路の上下位置に配置され、前記擦動部材が前記基板を擦動する部位に向けて高温純水を供給する純水供給手段と、を備え、上部側の擦動部材と下部側の擦動部材とが前記基板を挟み込むようにして、前記基板の洗浄を行うこと、を特徴とする。
【0013】
この基板洗浄装置によれば、加熱加湿手段と擦動ユニットと純水供給手段とは基板に対して上下に配置され、上下の擦動部材により基板を挟持させるようにして洗浄させることができる。基板に対して上下方向から擦動部材を押し付けることにより、基板に対する擦動部材の加圧方向を相互に逆方向にすることができ、擦動部材を強く掻き込ませることができるようになる。従って、高い洗浄効果を得ることができる。
【0014】
本発明の請求項4の基板洗浄装置は、請求項3記載の基板洗浄装置において、上部側の昇降ユニットおよび下部側の昇降ユニットは、回転モータに接続されるカム板と、このカム板と前記回転軸を回転自在に支承する軸受部材とを連結する連結部材と、を備えて構成し、少なくとも前記上部側の昇降ユニットのカム板に、このカム板の外面に沿った溝を形成し、前記連結部材に設けたフォロワを前記溝に嵌合させた構成としたこと、を特徴とする。
【0015】
この基板洗浄装置によれば、上下に擦動部材を配置したときには、基板に対して上下から均等な力で擦動部材を押し付けるようにして洗浄を行なうが、カム板を溝カムとしていることにより、下部側だけではなく上部側からも強く基板に対して擦動部材を押し付けることができるようになる。
【0016】
本発明の請求項5のフラットパネルディスプレイの製造装置は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の基板洗浄装置を備えたこと、を特徴としている。また、本発明の請求項6のフラットパネルディスプレイは、請求項5記載のフラットパネルディスプレイの製造装置により製造されたこと、を特徴としている。
【0017】
基板洗浄装置は液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの製造装置に適用することができる。フラットパネルディスプレイの製造装置の1つの構成として基板洗浄装置を備えることにより、ガラス基板の有機汚れは綺麗に洗浄された状態で、エッチング工程や現像工程等の後続の工程に搬送していくことで、有機汚れのないガラス基板を各工程に供給することができるようになる。フラットパネルディスプレイとしては、他に有機ELディスプレイやプラズマディスプレイ等を適用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の基板洗浄装置は、基板を予め加熱および加湿することにより、基板上の有機汚れの密着強度を弱めておき、純水を供給しながら擦動部材を基板に押し付けて回転洗浄しているため、有機汚れを掻き出して除去することができる。従って、薬液や紫外線照射機構を使用することなく基板の有機汚れを洗浄することができるため、環境に負荷を与えることがなく、機構を簡略化・小型化、そして低コスト化を実現することができる。また、カム機構を用いて擦動部材を昇降動作させるときには、溝カムにしてフォロワを転動させていることにより、溝の面から押し付け力を作用させることができるため、基板から擦動部材に反発力が作用しても、反発力に抗して擦動部材を基板に押し込んで洗浄することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態において、洗浄される基板としては、液晶ディスプレイを構成するガラス基板を適用したものについて説明する。ガラス基板は、液晶ディスプレイを構成するTFT基板またはカラーフィルタ基板の何れの基板であってもよい。また、液晶ディスプレイ以外のディスプレイ、例えば有機ELディスプレイやプラズマディスプレイ等を構成するガラス基板であってもよい。また、ガラス基板以外の任意の基板に付着した有機汚れを洗浄するものであっても良い。
【0020】
図1において、ガラス基板1は複数枚重ね合わせられて積層構造となっており、各ガラス基板1の面には保護層としての合紙2が挟み込まれている。この積層構造を積層体3とする。近年の液晶ディスプレイは大型化の傾向にあり、ガラス基板1の搬送や保管等を行なうときには、単体の基板のみで行なうのではなく、積層構造となった積層体3によって行なうようにしている。このとき、運搬や保管時にガラス同士が接触して生じる破損や、ガラス間に異物が混入して擦れることによるキズ等を防止すべく、各ガラス基板1の間に合紙2を挟みこんで保護を図るようにしている。合紙2はガラス基板1の面に非常に密着した状態にしているため、合紙2に接着剤を形成して、ガラス基板1の表面に貼り付けるようにしている。なお、合紙2には粘着剤を形成するものであってもよいし、合紙2ではなく粘着フィルムを保護層とするものであってもよい。
【0021】
ガラス基板1に現像工程やエッチング工程等を施していくときには、積層体3から保護層としての合紙2を剥離して、1枚のガラス基板1に戻す。合紙2の剥離時には、接着剤の一部がガラス基板1の面に貼り付いたまま残存する。このため、実際にガラス基板1に対して各種工程の処理を行う前段階で、ガラス基板1の面を洗浄して接着剤を完全に洗い落とさなければならない。このための基板洗浄装置を図2に示す。
【0022】
図2において、基板洗浄装置10は、ローダ槽11とプレ加熱槽12と洗浄槽13とシャワー槽14と乾燥槽15とアンローダ槽16との5つの槽を備えて構成しており、各槽にガラス基板1を水平搬送するための搬送経路としての搬送ローラ17を設けている。ローダ槽11は、ガラス基板1を搬入するための槽であり、後続のプレ加熱槽12に向けてガラス基板1を搬出する。プレ加熱槽12は、搬送ローラ17の上下位置に温水シャワー18を備えており、ガラス基板1に対して表面および裏面から高温純水(温水)を供給して、ガラス基板1の面を加温および加湿する。
【0023】
洗浄槽13は、搬送ローラ17の上下位置にブラシユニット19と温水ノズル20とを備えており、ブラシユニット19はガラス基板1の表面および裏面を回転擦動しながら洗浄を行っている。ブラシユニット19には昇降動作する手段を設けてあり、洗浄するときには、ブラシユニット19をガラス基板1の表面および裏面に対して押し付けて回転洗浄を行うようにしている。また、ブラシユニット19による洗浄を行うときには、ブラシユニット19とガラス基板1との間に向けて、温水ノズル20から温水(高温純水)を噴射して、洗浄を行っている。
【0024】
シャワー槽14は純水シャワー21を備えており、ガラス基板1の表面および裏面に対して純水を供給して、洗浄槽13でガラス基板1から剥離された有機汚れの残存物を洗い流している。乾燥槽15はエアナイフノズル22を備えており、湿潤状態で搬送されてきたガラス基板1に対してエアを吹き付けることにより、ガラス基板1の液膜を除去して面を乾燥している。アンローダ槽16は、乾燥槽15から搬送されてきたガラス基板1を搬出している。
【0025】
プレ加熱槽12、洗浄槽13、シャワー槽14で使用される液は全て純水であり、プレ加熱槽12の温水シャワー18および洗浄槽13の温水ノズル20で使用される純水は加熱された高温純水である。一方、シャワー槽14で使用される水は純水であれば、加温されていない常温の純水であってもよい。プレ加熱槽12では、温水シャワー18により温水(高温純水)を供給しているが、純水を高温のスチームにしてガラス基板1に供給するものであってもよい。要は、ガラス基板1を加温および加湿するものであればよい。温水ノズル20から噴射する温水は高温状態ではあるが気化していない純水であるため、その温度はおおよそ80度前後にすることが望ましい。
【0026】
従って、プレ加熱槽12により温水が供給されることにより、ガラス基板1の表面および裏面に付着している有機汚れは加温および加湿されることにより軟化して、付着強度が弱化する(ふやけた状態になる)。そして、洗浄槽13において、ブラシユニット19がガラス基板1に対して押し付け力を作用させて、付着強度が弱化している有機汚れを回転しながら掻き出すようにしている。これにより、ガラス基板1に付着していた有機汚れが完全に剥離される。ガラス基板1から掻き出された有機汚れは、シャワー槽14により洗い流されることにより、ガラス基板1から有機汚れを綺麗に洗い流すことができる。
【0027】
図3を用いて、洗浄槽13について説明する。搬送ローラ17によりプレ加熱槽12から搬送されてきたガラス基板1は、搬入部31から洗浄槽13に搬入され、搬出部32から搬出されていく。搬送ローラ17の上下位置には一対の回転可能なブラシユニット19を2箇所に設けてあり、上下のブラシユニット19は相互に近接・離間する方向に動作可能にしている。また、搬送ローラ17の上下位置であって、ブラシユニット19を避けた位置に一対の温水ノズル20を2箇所に設けてあり、温水ノズル20の先端部はブラシユニット19とガラス基板1との間に向けている。一対のブラシユニット19と温水ノズル20とは、それぞれ2箇所に配置しているが、1箇所に配置されるものであってもよいし、3箇所以上に配置されるものであってもよい。
【0028】
搬送ローラ17の下部位置の2箇所に液受け部33を設けている。液受け部33は擂り鉢状の形状をしており、温水ノズル20から噴射された温水およびガラス基板1から溢れ出た温水を受けている。各液受け部33の最下部にはそれぞれ回収配管34を接続しており、液受け部33が受けた温水を流している。2本の回収配管34は途中で合流して1本の配管となり、液回収部35に接続されている。従って、各回収配管34を流れてきた温水は液回収部35に回収される。液回収部35には2本の供給配管36を接続してあり、各供給配管36にはフィルタ37とポンプ38とを設けている。また、2本の供給配管36は、それぞれ一対の温水ノズル20に接続されている。液回収部35に回収された温水は、ブラシユニット19で洗浄した後にガラス基板1から剥離された有機汚れも含まれており、フィルタ37により不純物を取り除いた状態で、ポンプ38の圧力により温水ノズル20に戻している。ポンプ38と温水ノズル20との間にはヒータ39を設けて、再供給する温水を加温している。以上により、液循環系を構成している。
【0029】
ガラス基板1の洗浄に薬液を使用していないため、以上のような液循環系を備えることにより、使用済みの純水を再利用することができる。この液循環系を、プレ加熱槽12およびシャワー槽14にも設けることにより、各槽において使用される全ての純水を再利用することができるようになる。また、プレ加熱槽12と洗浄槽13とシャワー槽14とは全て同じ純水が使用されているため、プレ加熱槽12と洗浄槽13とシャワー槽14とに備えられる液回収部を1つに共通化することもできる。各槽の液受け部に接続される配管を共通の液回収部に全て接続し、この液回収部から再び各槽に不純物を除去した状態で戻すようにすることもできる。プレ加熱槽12および洗浄槽13には高温純水を戻す必要があるためヒータにより加温するが、このヒータにも共通のヒータを用いることができる。一方、シャワー槽14に使用される純水は高温でなくてもよいため、ヒータを設ける必要はない。以上のように、液回収部およびヒータを共通化することにより、機構を簡略化することができる。
【0030】
ブラシユニット19の機構について説明する。図4は、一対のブラシユニット19(上部側のブラシユニットを19A、下部側のブラシユニットを19Bとする)が相互に離間した状態を示し、図5は近接した状態を示している。ブラシユニット19は、回転軸40とブラシ回転モータ40Mとブラシ41とにより主に構成されている。回転軸40の一端には支持部材によりブラシ回転モータ40Mが接続されている。ブラシ41としては、例えばナイロン毛やスポンジ等を円筒形状に植設することにより形成しており、回転軸40が回転することによりブラシ41が回転する。ブラシ41を設けた部位はガラス基板1の幅寸法よりも広くなっており、水平搬送されるガラス基板1にブラシ41を押し当てて回転することにより、ガラス基板1の面全体を回転擦動により洗浄する。また、基板搬送方向において、ブラシユニット19A、19Bは、搬送ローラ17の間に設けている。
【0031】
ブラシユニット19A、19Bは、回転軸40の両端が軸受ブロック42に回転自在に支承されている。軸受ブロック42はリニアガイド43に沿って上下方向に変位可能な構成を採用しており、軸受ブロック42の昇降動作に伴ってブラシユニット19A、19Bも昇降動作を行い、ガラス基板1に対して近接・離間するようになっている。軸受ブロック42にはそれぞれ水平部と垂直部とを有する連結ブロック44を連結しており、連結ブロック44の水平部には軸受ブロック42を連結し、垂直部にはフォロワ45を設けている。
【0032】
フォロワ45はカム板46に連結されるが、カム板46の態様が上部側のカム板(46Aとする)と下部側のカム板(46Bとする)とで異なる。上部側のカム板46Aは、このカム板46Aの外周面に沿った溝を形成した溝カムであり、下部側のカム板46Bは板カムである。この下部側のカム板46Bの外周に形成されているカム面47をフォロワ45が転動するようになっている。一方、上部側のカム板46Aでは、フォロワ45はカム板46Aの内部に形成してある溝48に嵌合されており、溝48に沿って転動するようになっている。ブラシユニット19A、19Bは、両端のカム板46、46の間は連結軸49により連結されており、この連結軸49にはカム駆動モータ50が取り付けられている。
【0033】
下部側のブラシユニット19Bでは、カム駆動モータ50が時計回りに回転駆動することにより、カム板46の外周をフォロワ45が転動して、連結ブロック44が上昇する。連結ブロック44が上昇すると、回転軸40およびブラシ41が上昇して、ガラス基板1に近接していく。一方、上部側のブラシユニット19Aでは、カム駆動モータ50が反時計回りに回転駆動することにより、カム板46の溝48に沿ってフォロワ45が転動して、連結ブロック44が下降する。連結ブロック44が下降すると、回転軸40およびブラシ41が下降して、ガラス基板1に近接していく。
【0034】
上部側のブラシユニット19Aまたは下部側のブラシユニット19Bの何れであっても、ガラス基板1とブラシ41とが接触したときには、ブラシ41にはガラス基板1からの反発力が作用する。ここで、洗浄槽13は高温状態の雰囲気下にあるため、ブラシ41には耐熱性に優れた素材を使用しなければならない。そして、ブラシ41は、ガラス基板1の有機汚れを掻き出して剥離を行なっており、しかも繰り返してガラス基板1に強力に押し付けているため、ブラシ41が消耗して、所謂へたりが生じた状態になり、有機汚れを掻き取る効果が低下する。そこで、ブラシ41には、柔らかい素材ではなく、高剛性・高強度の弾力性を持つ素材を使用する。例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)やステンレス等がブラシ41の素材として好適である。
【0035】
従って、高剛性・高強度のブラシ41はガラス基板1からの強い反発力を受けることになり、この反発力は上部側のフォロワ45(45Aとする)にも作用し、また下部側のフォロワ45(45Bとする)にも作用する。まず、下部側のフォロワ45Bについて説明すると、図6(a)に示すように、下部側のフォロワ45に作用する反発力R1は、カム板46Bのカム面47に対して法線方向に対して作用する。フォロワ45にはカム面47から垂直抗力P1が作用するため、カム駆動モータ50の回転駆動力により、P1>R1となり、フォロワ45は反発力R1に抗して上昇する。従って、ガラス基板1から反発力R1が作用したとしても、ブラシ41をガラス基板1に対して押し付けることが可能になり、ブラシ41の回転洗浄により、有機汚れを掻き出して剥離させることができる。
【0036】
一方、上部側のカム板46Aにおいては、図6(b)に示すように、ガラス基板1からの反発力R2は、前記の反発力R1とは逆方向になる。従って、下部側のカム板46Bと同様にカム面を転動させるようにすると、カム面からの垂直抗力により反発力R2を抑えることができなくなり、反発力R2に抗する力は重力のみとなる。前述したように、高剛性・高強度の素材からなるブラシ41を使用しているため、ガラス基板1からの反発力R2は強くなり、重力だけでは反発力R2を抑制することができない。その結果、反発力R2が重力よりも大きくなり、フォロワ45はカム板46Aから浮き上がってしまう。このため、ブラシ41をガラス基板1に対して押し込むことができなくなり、ガラス基板1の有機汚れを掻き取ることができなくなる。
【0037】
本発明では、図6(b)に示すように、上部側のブラシユニット19Aのカム板46には溝48を形成し、溝48に沿ってフォロワ45Aが転動するようにしている。つまり、図中に示すように、フォロワ45Aは溝48の外周側の面に沿って転動するため、フォロワ45Aにはこの面からの垂直抗力P2が作用する。そうすると、反発力R2が作用したとしても、カム駆動モータ50の回転駆動力により、P2>R2となり、フォロワ45は反発力R2に抗して下降する。従って、ガラス基板1から反発力R2が強く作用しても、上部側のブラシ41についてもガラス基板1に対して押し付けることが可能になり、有機汚れを掻き出して剥離させることができる。
【0038】
また、上部側のブラシ41を上昇させるときには、カム駆動モータ50を時計回りに回転させることにより、溝48の内周側の面に沿ってフォロワ45が転動するため、この動作に応じてブラシ41が上昇するようになる。従って、フォロワ45は溝48の外周側の面および内周側の面に沿って転動するため、溝48の幅はフォロワ45の外径寸法と同程度に設定することが望ましい。
【0039】
ここで、ブラシユニット19は搬送ローラ17の上下位置に設けたものについて説明したが、ガラス基板1の一面のみを洗浄するのであれば、ブラシユニット19は上下のうち何れか一方に設ければよい。また、ブラシユニット19を上下のうち一方に設けるのであれば、温水シャワー18や温水ノズル20等の各部についても、ブラシユニット19を配置する側の一方に設けるものであってもよい。ただし、この場合、ブラシユニット19Aまたはブラシユニット19Bからガラス基板1に作用する押し付け力は全て搬送ローラ17が受けることになる。搬送ローラ17は単にガラス基板1を搬送するための手段であるため、ガラス基板1の有機汚れを掻き出すために強い押し付け力を作用させることは好ましくはない。
【0040】
そこで、ブラシユニット19A、19Bを上下に設けることにより、ガラス基板1の表面と裏面とに対して上下から挟み込むようにして洗浄を行うようにする。そうすると、上部側のブラシユニット19Aからの押し付け力は下部側のブラシユニット19Bが受け、下部側のブラシユニット19Bからの押し付け力は上部側のブラシユニット19Aが受けることになり、搬送ローラ17に対して強い圧力が加わることはない。
【0041】
また、前述したように、ブラシ41にはPPS等の高剛性・高強度の素材を用いているため、簡単にはへたりを生じることなくガラス基板1の有機汚れを掻き取っていく。ただし、ブラシ41は大量の基板を洗浄していくため、最初はへたりを生じないような高剛性・高強度の素材であったとしても、繰り返しガラス基板1に押し付けられることにより、徐々にへたりを生じるようになってくる。ブラシ41にへたりが生じると反りを生じ、ブラシ41とガラス基板1との間隔が変化することになる。従って、ブラシ41が固定された位置にあると、へたりを生じたときに、ガラス基板1との間隔が変化してしまい、ブラシ41による掻き取り効果が低下する。このため、ガラス基板1の洗浄度にも影響を与える。
【0042】
そこで、ブラシ41の上下位置を可変にする機構としてブラシユニット19を昇降動作する昇降ユニットを設けて、ガラス基板1とブラシ41との間隔調整を可能にしている。図4および図5に示すように、軸受ブロック42、リニアガイド43、連結ブロック44、フォロワ45、カム板46、連結軸49、カム駆動モータ50の各部材が昇降ユニットに相当する。ブラシ41にへたりが生じて、ガラス基板1との間に隙間が出来た場合には、カム駆動モータ50によりカム板46を回転させて、上部側のブラシユニット19Aは下方に向けて移動し、下部側のブラシユニット19Bは上方に向けて移動して、その位置が変化する。このため、多少へたりを生じた程度の場合には、ガラス基板1に対して上部側及び下部側のブラシ41がより近接するために、ブラシ41はガラス基板1に十分に押し付けられるようになる。なお、ブラシ41に過剰な反りが生じた場合には、ブラシ41とガラス基板1との位置関係を変化させても、十分な洗浄効果を得られない場合もあるため、このときにはブラシ41を交換するようにしてもよい。
【0043】
また、ガラス基板1は搬送ローラ17により水平搬送されてブラシ41による洗浄が行われるが、ガラス基板1がブラシ41の位置に進入するときにはブラシ41はガラス基板1から離間させておき、直後にブラシ41をガラス基板1に近接させるようにしてもよい。ガラス基板1の搬送方向に対して逆向きの回転をブラシ41に与えることにより、ガラス基板1の有機汚れの掻き取り効果をより高くすることができる。ただし、ガラス基板1はガラス素材であり、そのエッジは鋭利になっているため、ガラス基板1のエッジとブラシ41とが反対方向から押し付けられると、ブラシ41にダメージが与えられ、その損傷度が大きくなる。そこで、ガラス基板1のエッジとブラシ41とを接触させないために、ガラス基板1の進入時にはブラシ41はガラス基板1と離間させておき、直後からガラス基板1の面に対してブラシ41を押し付けるようにすれば、ブラシ41に与えられるダメージを非常に少なくすることができるようになる。
【0044】
このために、搬送ローラ17のブラシユニット19A、19Bよりも上流側の位置に適宜のセンサを設けて、ガラス基板1の通過を検出し、ガラス基板1の通過をセンサが検出したときに、このセンサに接続される適宜の制御装置がカム駆動モータ50を駆動させるようにする。これにより、ブラシユニット19A、19Bはガラス基板1より離間した状態から近接させることができる。このように、ガラス基板1の搬送タイミングにより、昇降ユニットの離間・近接のタイミング制御を行なうようにする。このときに、上部側のカム板46Aを溝カムとしているため、ガラス基板1からブラシ41に反発力が作用しても、浮き上がることなく、確実に押し付けることができる。
【0045】
次に、ブラシ41のクリーニング機構60について説明する。上下のブラシ41は、ガラス基板1の有機汚れの洗浄を行うに応じて、掻き出した有機汚れが転写していく。従って、有機汚れが転写した状態のブラシ41によりガラス基板1を洗浄していくと、再びガラス基板1に有機汚れが付着してしまうことになる。そこで、図7に示すように、ブラシ41のクリーニング機構60を洗浄槽13に設けている。クリーニング機構60は、供給リール61と回収リール62とガイドローラ63とクリーニングテープ64とを備えて構成している。供給リール61からはクリーニングテープ64を順次送り出す構成となっており、送り出されたクリーニングテープ64はガイドローラ63を経由して、回収リール62により回収される。ガイドローラ63はブラシ41と接触する位置に設けてあり、ガラス基板1とブラシ41との接触位置に対して180度反対の位置に設けてある。ブラシ41は、その端部においてガラス基板1の有機汚れを掻き出しており、ガイドローラ63もブラシ41の端部と接触する位置設けている。
【0046】
従って、ガラス基板1から掻き出してブラシ41に転写した有機汚れは、ガイドローラ63に臨んでいるクリーニングテープ64に転写される。図7に示すように、クリーニングテープ64の送り方向とブラシ41の回転方向とを逆方向にすると、ブラシ41に転写した有機汚れは、クリーニングテープ64に擦り取られるようにして転写されていく。従って、ブラシ41に付着していた有機汚れを綺麗にクリーニングすることができるようになる。そして、クリーニングテープ64は順次送り出すようにしているため、有機汚れを擦り取ったクリーニングテープ64の部位では、再度クリーニングを行なうことがなく、回収リール62に回収されていき、クリーニングテープ64の新たな部位でブラシ41のクリーニングを行なう。従って、クリーニングテープ64が擦り取った有機汚れが再度ブラシ41に付着することがなく、ガラス基板1に有機汚れを戻すようなことがなくなる。なお、供給リール61から送り出されるクリーニングテープ64の残量がなくなる前に、新たな供給リール61に交換することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、ガラス基板1を水平搬送する場合を説明したが、搬送方向と直交する方向に傾斜させて搬送させるものであってもよい。この場合には、少なくともブラシユニット19A、19Bも傾斜した状態で搬送されるガラス基板1に合わせて傾斜させて配置させておく。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】基板を重ね合わせて層にした積層体の外観図である。
【図2】基板洗浄装置を構成する各槽の説明図である。
【図3】洗浄槽の構成を示す図である。
【図4】ブラシユニットが離間している状態のブラシユニットと昇降ユニットとの構成を示す斜視図である。
【図5】ブラシユニットが近接している状態のブラシユニットと昇降ユニットとの構成を示す斜視図である。
【図6】カム板に作用する力を説明する図である。
【図7】クリーニング機構の説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ガラス基板 2 合紙
3 積層体 10 基板洗浄装置
11 ローダ槽 12 プレ加熱槽
13 洗浄槽 14 シャワー槽
15 乾燥槽 16 アンローダ槽
17 搬送ローラ 18 温水シャワー
19 ブラシユニット 20 温水ノズル
45 フォロワ 46 カム板
48 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平搬送する搬送経路の上部に配置され、前記基板を加熱および加湿する加熱加湿手段と、
前記搬送経路の前記加湿加熱手段よりも下流側の上部に配置され、回転駆動手段に取り付けられた回転軸に擦動部材を装着した擦動ユニットと、
前記擦動部材を前記基板に対して押し付けるために、前記擦動ユニットを昇降させる昇降ユニットと、
前記搬送経路の上部に配置され、前記擦動部材が前記基板を擦動する部位に向けて高温純水を供給する純水供給手段と、を備えたこと、を特徴とする基板洗浄装置。
【請求項2】
前記昇降ユニットは、回転モータに接続されるカム板と、このカム板と前記回転軸を回転自在に支承する軸受部材とを連結する連結部材と、を備えて構成し、
前記カム板に、このカム板の外面に沿った溝を形成し、前記連結部材に設けたフォロワを前記溝に嵌合させた構成としたこと、を特徴とする請求項1記載の基板洗浄装置。
【請求項3】
基板を水平搬送する搬送経路の上下位置に配置され、前記基板を加熱および加湿する加熱加湿手段と、
前記搬送経路の前記加湿加熱手段よりも下流側の上下位置に配置され、回転駆動手段に取り付けられた回転軸に擦動部材を装着した擦動ユニットと、
前記擦動部材を前記基板に対して押し付けるために、前記擦動ユニットを昇降動作させる昇降ユニットと、
前記搬送経路の上下位置に配置され、前記擦動部材が前記基板を擦動する部位に向けて高温純水を供給する純水供給手段と、を備え、
上部側の擦動部材と下部側の擦動部材とが前記基板を挟み込むようにして、前記基板の洗浄を行うこと、を特徴とする基板洗浄装置。
【請求項4】
上部側の昇降ユニットおよび下部側の昇降ユニットは、回転モータに接続されるカム板と、このカム板と前記回転軸を回転自在に支承する軸受部材とを連結する連結部材と、を備えて構成し、
少なくとも前記上部側の昇降ユニットのカム板に、このカム板の外面に沿った溝を形成し、前記連結部材に設けたフォロワを前記溝に嵌合させた構成としたこと、を特徴とする請求項3記載の基板洗浄装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の基板洗浄装置を備えたこと、を特徴とするフラットパネルディスプレイの製造装置。
【請求項6】
請求項5記載のフラットパネルディスプレイの製造装置により製造されたフラットパネルディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−223084(P2009−223084A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68802(P2008−68802)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】