説明

塗工装置および塗工装置によって製造された塗工シート

【課題】バッキングロールに支持されて連続的に走行するウェブの表面に対し、塗工液をスリット状ノズルから吹き出し塗工液ジェットを形成して供給するブレード塗工方式にて塗工する際に、高速操業時においても塗工欠陥や品質の低下を起こすことのない塗工装置を提供する。
【解決手段】バッキングロール31に支持されて連続的に走行するウェブ33の表面に対し、塗工液をスリット状ノズル11aから吹き出し塗工液ジェットを形成して供給するブレード塗工方式において、塗工液がウェブに衝突する地点よりもウェブの上流側3〜100mmを始点として、ウェブ進行方向に対し、略鉛直方向に空気を吸引するためのウェブの幅方向に略平行方向のスリット状のダクト開口部を有する複数のダクトを備えた空気吸引装置21を設置するのでウェブに同伴する同伴空気を除去するので塗工欠陥や品質の低下を起こすことがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットファウンテン型と呼ばれる塗工装置の如き、バッキングロールに支持されて連続的に走行するウェブの表面に対し、塗工液をスリット状ノズルから吹き出し塗工液ジェットを形成して供給するブレード塗工方式にて塗工する際に、高速操業時においても操業性に優れ、かつ塗工欠陥や品質の低下を起こすことのない塗工装置および該塗工装置によって製造された塗工シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業的に連続でウェブを塗工する方法はこれまで数多くの方法が提案されている。中でも紙パルプ分野では、ブレード塗工方式が用いられることが多い。これは、ブレード塗工方式によって得られる塗工紙が、他の塗工方式と比較して白紙品質や印刷品質に優れるという品質面と、高速で安定して操業できるという操業面で優れていることによる。
【0003】
ブレード塗工方式においては、ウェブ上に過剰に供給された塗工液を、主として金属製のブレード(以下、計量ブレードと言う)を密着・加圧することにより余剰の塗工液を掻き落として所望の塗工量に計量する。このブレードによる計量を行う前には塗工液をウェブに供給するアプリケート部があり、このアプリケート部の形式として、塗工液が蓄積されたカラーパンにウェブを接触させ、ウェブ上に塗工液を供給するカラーパン供給方式、カラーパンに一部が浸漬された単一または複数本のロールを組み合わせたロール群からウェブ上に塗工液が供給されるロール供給方式、幅方向に均一なギャップを有するスリット間からウェブ進行方向に対してある角度を有して塗工液を吐出するジェット供給方式等があるが、塗工液のウェブ上への幅方向・流れ方向の均一供給、高速塗工への対応という面で、特許文献1に例示されたフリージェット型、またはジェットファウンテン型と呼ばれるが如き、ジェット供給方式で供給するブレード塗工方式が、最も主流であるといえる。
【0004】
【特許文献1】実開2003−159548号公報
【0005】
ブレードコーターにおける塗工上の問題点としては、ウェブ切れや塗工量のプロファイル不良、あるいは局所的に塗工されない箇所が現れるストリーク、スキップコートなどの各種問題点が知られているが、近年の塗工速度の高速化等によって、以下に説明するような転写面不良やバックフローと称される、操業上の問題、あるいはこれらにより誘起される品質上の問題が散見されるようになってきた。
【0006】
ブレード塗工方式において、ジェット供給方式にて供給された塗工液はバッキングロールに支持されたウェブに衝突し、その後計量ブレードにて余剰の塗工液が掻き取られる訳であるが、理想的な状態であれば塗工液のウェブ衝突点からブレード計量部までのウェブ上の塗工液は均一な湿潤塗工液量となっているため、鏡面に近い面感を持っている。転写面不良とは、本来鏡面に近い状態であるところの未計量状態のウェブ上塗工液表面が荒れた状態となり、結果としてウェブ上塗工量プロファイルが悪化したり、未塗工部を生ずることを言う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らが検討した結果、転写面不良の発生原因として最も大きいのは、ジェット供給方式にて供給された塗工液がバッキングロールに支持されたウェブに衝突する際に、ウェブに同伴されてきた空気層(以下、同伴空気層と言う)が塗工液ジェットを下流側に押し出すと同時に、該空気層がウェブと塗工液の間に入り込むことにより生ずることであると判断された。
【0008】
転写面不良の解消方法としては、経験的に、スリット状ノズルからの塗料吐出量を上げる、または塗工液ジェットのウェブへの衝突角度を上げる、あるいは塗工液を吐出するスリット状ノズルのスリット間隔を狭めて吐出速度を上げることにより、ウェブ進行方向に対して垂直方向の衝突エネルギーを増し、同伴空気層の進入を阻害する方法がとられてきた。しかし、近年の塗工速度の高速化に伴い、これら対処法では対応に限界があり、さらには上記対処法は塗工液ジェットがウェブに衝突した際にウェブに水平な方向に塗工液を飛散させやすくなることにもつながり、これがバックフローと呼ばれる新たな操業上問題を発生させてしまうため、効果は限定的であった。
【0009】
前出のバックフローについては、発明者らが検討した結果から、以下のように高速塗工対応とする場合に発生し易くなると考えられる。すなわち、同粘度の塗工液をブレード塗工方式で同一塗工条件で塗工した場合、塗工速度の高速化に従って塗工量が増大するため、所望の塗工量にするためには計量ブレードの押しつけ圧を上げる必要がある。しかし、ブレード押しつけ圧には上限があり、さらにはブレード押しつけ圧上昇によってウェブが破断し、操業できなくなる危険性が飛躍的に高くなる。このため、所望の塗工量にコントロールするために所謂ハイシェア粘度を低減させる必要があることから、塗工液の固形分濃度を低下させて粘度を減少させる方法等がとられるが、この粘度の低下、ならびに塗工速度増に比例して塗工液供給量も増大させざるを得ないため、塗工液ジェットがウェブに衝突した際に衝突エネルギーが大きすぎることにより塗工液を水平な方向に飛散させやすくなり、バックフローが発生するために操業性に支障をきたすこととなる。また、バックフローの発生により、塗工液ジェット衝突地点前に飛散した塗料がウェブ上に転移して製品の品質を悪化させたり、飛散した塗料が固化して計量のためのブレードに堆積してストリーク等の塗工欠陥を起こすなど、バックフローの発生は操業性の低下のみならず、品質低下をも招く結果となり解決が望まれている。
【0010】
これまで、転写面不良やバックフローの解決策として、装置的な対応もいくつか提案されている。例えば、同伴空気に起因する転写面不良の改善に関しては、塗工液ジェットがウェブに衝突する地点直前にウェブ進行方向と逆方向の空気ジェットを吹き付ける方法が例えば特許文献2に開示されている。塗工液吐出部と一体化した吐出量・吐出角度可変な空気噴出機構を持たせる方法は例えば特許文献3に開示されている。塗工液ジェットがウェブに衝突する地点直前にウェブ進行方向と逆方向の空気ジェットを吹き付ける方法にさらに水蒸気噴出機構を付与し、同伴空気層の空気(以下、同伴空気と言う)を水蒸気と置換させる方法が例えば特許文献4に開示されている。特定条件の塗工液ジェットを形成した上でウェブ近傍に吸引装置を設置する方法が例えば特許文献5に開示されている。また、バックフローの改善方法に関しては、例えば、塗工液ジェットがウェブに衝突する地点に向けてウェブ上流側よりウェブの進行方向に向かって空気を吹き付ける方法が例えば特許文献6に開示されている。
【0011】
しかし、ジェット供給方式では、塗料吐出状態の変動により塗工液が全量ウェブに転移しない場合があり、酷い場合には前述したバックフローに近い状態となる。上記装置的な改善提案のうち、同伴空気に起因する転写面不良の改善方法に関し、空気ジェットをウェブ進行方向と逆方向に吹き付ける方法では、バックフローが発生して塗工液が飛散した場合、飛散した塗工液が塗工液ジェット衝突前にウェブ上に転移して塗工量プロファイルを悪化させたり、製品の外観や印刷品質を損ねたり、操業上清掃頻度が多くなる問題を抱えている。また、同伴空気を水蒸気に置換する方法では、同伴空気による塗工量プロファイル悪化防止やスキップ塗工防止には一定の効果が期待されるが、部分的な水分プロファイル斑による製品の強度斑、乾燥斑等による印刷品質の低下または印刷障害を引き起こす可能性がある。特定条件の塗工液ジェットを形成した上でウェブ近傍に吸引装置を設置する方法では、高速塗工時の同伴空気除去効果に劣るうえ、下塗層を設けたような平滑なウェブを使用する際や、操業要因変動によりバックフローが発生した場合に吸引装置に乾燥した塗工液が堆積して操業が不可能になる可能性がある。バックフローへの対応がなされないのは前記方式と同じである。また、バックフローの改善方法に関しては、塗工液ジェットがウェブに衝突する地点に向けてウェブ上流側より空気を吹き付ける方法では、バックフローの発生抑制に一定の効果は期待できるものの、転写面不良を促進する結果となり、満足する結果が得られない。このように、同伴空気に起因する転写面不良の改善と、バックフローに対する対策とを同時に満足する方法は、未だ提案されていない。
【0012】
【特許文献2】実願平1−20244号公報
【特許文献3】実開平5−39680号公報
【特許文献4】特開2001−38271号公報
【特許文献5】特開平10−43661号公報
【特許文献6】特開平7−256184号公報
【0013】
ジェット供給方式のブレード塗工方式の塗工液ジェットが原紙に衝突する地点において、塗工液が供給される前のウェブと塗工液ジェットが形成する角度は90度未満であり、通常30〜60度程度の角度で塗工液ジェットが原紙に衝突する。この衝突点付近のくさび状の部分ではウェブに同伴する空気層が集中しやすくなっている。しかし、塗工液のウェブへの衝突速度を考えると、加圧・吐出式であり所望の塗工量の10倍以上の塗工液を供給するジェット供給式ブレード塗工方式では、塗工液のウェブへの衝突エネルギーが非常に高い。このため、ジェット供給式ブレード塗工方式では、これまで特段の手段を講じなくとも塗工速度が1000m/min程度以下の塗工の場合には同伴空気による転写面不良の発生に起因する操業上、品質上の問題は顕在化しにくいものであったと推定される。
【0014】
更に、例えば得られる塗工紙品質向上のために原紙の平滑性を向上させた場合、該ウェブ表面の凹凸が低くなることから、ウェブ上に供給された塗工液が凹凸によりウェブ進行方向に引っ張られる効果が少なくなり、結果として塗工液は進行方向と逆方向に広がりやすくなるため、バックフローが発生しやすい状態につながるのではないかと本発明者等は推測した。この原紙平滑性の向上や、近年の塗工速度のさらなる向上、あるいは高速塗工に対応した塗工液の低粘度化などにより、転写面不良・バックフローといった操業上の問題が散発するようになってきていると本発明者等は考えている。
【0015】
ウェブに同伴される同伴空気のウェブ進行方向流速は、平板上境界層流速分布式とほぼ同一であると考えることができるため、塗工速度上昇によりウェブの移動速度が上昇すると、同伴される空気流速が大きくなるのはもちろんのこと、移動するウェブの速度に近い流速を持つ空気層厚みが増大し、塗工液ジェットがウェブに衝突する地点に対して衝突する空気流の運動エネルギーも増大することとなる。同伴空気層の厚みとしては、数mm以下であるが、流速が非常に大きいため、わずかな厚みを持つ同伴空気が操業性に大きく影響すると考えられる。しかし、これまで提案されているカウンターエア方式、減圧方式では、高速の同伴空気層を完全に遮断するのは難しかった。
【0016】
上記の如く、バッキングロールに支持されて連続的に走行するウェブの表面に対し、塗工液をスリット状ノズルから吹き出し塗工液ジェットを形成して供給するジェット供給方式のブレード塗工方式において、高速で良好な操業性をもち、かつ塗工欠陥等がない高品質な製品を得るための塗工装置としては、未だ改善の余地が残されていた。
【0017】
そこで本発明は、バッキングロールに支持されて連続的に走行するウェブの表面に対し、塗工液をスリット状ノズルから吹き出し塗工液ジェットを形成して供給するジェット供給方式のブレード塗工方式にて塗工する際に、高速操業時においても転写面不良やバックフローによる、塗工欠陥の発生や品質の低下を起こすことのなく、かつ操業性に優れる塗工装置および塗工装置よって塗工された塗工シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る塗工装置は、バッキングロールに支持されて連続的に走行するウェブの表面に対し、塗工液を塗工する塗工装置であって、
スリット状のノズル開口部を有し、該ノズル開口部から塗工液を吹き出し、塗工液ジェットを形成する塗工液供給部であって、該ノズル開口部から走行しているウェブへの塗工液衝突点までの距離が5〜700mmの範囲になるように配置される塗工液供給部と、
該ウェブへの塗工液衝突点よりもウェブの上流側3〜100mmを始点とする、スリット状のダクト開口部を有する複数のダクト(以下、空気吸引装置に具備されている複数のスリット状ダクト開口部を、単にダクト開口部と言うことがある)を有する空気吸引装置により、ウェブ進行方向に対し、略鉛直方向に空気を吸引する空気吸引管部が接続されたスリットを幅方向に配置した空気吸引装置を同伴空気除去手段と、
該ウェブへの塗工液衝突点よりもウェブの下流側に配置され、塗工された塗工液を掻きとる計量部と、
を有する塗工装置である。
【0019】
さらに、空気吸引装置のウェブ対向表面の曲率半径R1が、バッキングロール半径R2に対し、下記(1)式を満足することが好ましい。
1.0≦R1/R2≦1.035 式(1)
空気吸引装置の塗工液が接触する可能性のある表面が、撥水加工された面であることが好ましい。
空気吸引装置のダクト隔壁のウェブ側先端形状として、ダクト隔壁の上流側側面先端が、上流側に凸となるL型形状となっていることが好ましく、さらにダクト隔壁の下流側先端が、面取りされた角によって形成されるか、またはなめらかな曲面となっていることが好ましい。
【0020】
さらに、前記同伴空気除去手段下流において同伴空気の再発達の起源となる同伴空気除去手段側の同伴空気起源空気流を阻害するための第1の流入空気阻害手段を、同伴空気除去手段の下流側面に少なくとも一つ配置することが好ましい。
さらに、前記同伴空気除去手段下流において同伴空気の再発達の起源となる塗工液ジェット供給部側の同伴空気起源空気流を阻害するための第2の流入空気阻害手段を、スリット状ノズルを有する塗工液ジェット供給部側面の上流側に少なくとも一つ配置することが好ましい。
【0021】
本発明に係る塗工シートは、上述のごとくの塗工装置によって、シート状基材の少なくとも一面上に、顔料および/または接着剤を主成分とする塗工層を設けてなる塗工シートである。
【発明の効果】
【0022】
高速操業時においても転写面不良やバックフローによる、塗工欠陥の発生や品質の低下を起こすことのなく、かつ操業性に優れる塗工装置であった。得られた塗工シートも塗工欠陥の発生や品質の低下の無いものであった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る塗工装置の一例を図を用いて説明する。図1は本発明に係る塗工装置の一例の断面図である。この塗工装置は塗工液ジェット供給方式のブレード塗工方式の塗工装置である。バッキングロール31に支持されてウェブ33が連続的に走行している。塗工液ジェット供給部11はウェブ33の表面に対し、塗工液をスリット状ノズル11aから吹き出し塗工液ジェット13を形成して供給する。同伴空気除去手段の主構成要素である空気吸引装置21のウェブ進行方向下流側先端部21aは塗工液がウェブに衝突する地点Cよりもウェブの上流側(3〜100mm)を始点とするように配置されている。図1の中で塗工液ジェット供給部11とバッキングロール31の関係をより詳細に表すために図2を示す。図2は塗工液ジェット供給部11とバッキングロール31の関係のみを示す拡大断面図である。スリット状ノズル先端11aから走行しているウェブへの塗工液衝突点Cまでの距離がdで表される。
図1において、塗工液ジェット13がウェブ33の表面に付着して塗工層13aが形成される。この塗工層13aは過剰の厚さに形成されるので、その過剰分を後方に配置される計量部を構成する計量用ブレード15で掻き落とし、所望の塗工層13bが形成される。
【0024】
前述の通り、塗工液ジェット供給方式では、塗工液をウェブ上に供給する際に高速で移動するウェブ表面の同伴空気層の影響を受け、転写面不良・バックフローといった操業上の問題を生ずるとともに、未塗工部の発生・塗工量プロファイル不良、白紙・印刷品質不良が誘発されることがある。発明者らは、これら問題をウェブに同伴する空気層を効率的に除去することにより解消できると考え、各種検討を行った。その結果、ウェブに同伴する空気層の除去のためには、特定の空気吸引式同伴空気除去手段を設けることが極めて有効であるという結論に至った。
【0025】
すなわち、同伴空気を除去することにより、塗工液ジェットがウェブに衝突する地点で該同伴空気がウェブと塗工液の間に進入すること抑制でき、結果として転写面不良の発生を効果的に防止することができる。従って、転写面不良が発生した際の対策として塗工液ジェット吐出量を上げる、塗工液ジェット衝突角を上げる、あるいは塗工液を吐出するスリット状ノズルのスリット間隔を狭めて吐出速度を上げる等の対応をとる必要がなくなり、バックフローの発生をも効果的に防止することができることが判明した。また、本発明の方法により、塗工シートの高品質化や高速塗工対応とした場合の、塗工前の高平滑なウェブの塗工や低粘度の塗工液の塗工に対してもバックフロー抑制効果があることが明らかとなった。
【0026】
同伴空気除去手段の主構成要素として、ウェブの幅方向に平行なスリット状のダクト開口部を持ったダクトを複数有する空気吸引装置を使用している。この空気吸引装置に後述の空気吸引機が接続されて同伴空気除去手段を構成する。該空気吸引装置21の設置位置としては、図1に示したように、塗工液がウェブに衝突する地点Cよりもウェブの上流側3〜100mmを始点とすることが必要である。本発明で言う空気吸引装置の始点とは、図1符号21aに示した如き、バッキングロールに支持されたウェブに沿って設置される空気吸引装置の端部のうち、塗工液ジェットのウェブ衝突点C側のバッキングロール側位置を示し、実際には空気吸引装置は該始点から該吸気吸引装置長さを加えた距離において、バッキングロール上のウェブを覆う形となる。該設置位置として塗工液がウェブに衝突する地点よりもウェブの上流側3mm未満であると、塗工液ジェットの原紙上への衝突地点が操業上の変動要因により変化した場合、塗工液ジェットが同伴空気除去装置に接触することがあり、操業性の低下につながる。他方、該設置位置として塗工液がウェブに衝突する地点よりもウェブの上流側100mmを超えた位置であると、同伴空気除去効果に劣り、本発明所望の効果を得ることができない。なお、同伴空気除去手段の設置位置として塗工液がウェブに衝突する地点よりもウェブの上流側3〜50mmであると同伴空気除去効率が高まるため好ましく、さらに塗工液がウェブに衝突する地点よりもウェブの上流側5〜30mmに設置した場合、最も同伴空気除去効率が高まり、かつ操業性が良好であるためより好ましい。
【0027】
図2中符号dで示される、塗工液ジェット供給部のスリット状ノズル先端から走行しているウェブへの塗工液衝突点までの距離dについては、dが小さすぎる場合にはスリット状ノズルがウェブに接触したり、ウェブを連結する目的で使用されるスプライステープ等に接触することでウェブ破断や塗工欠陥を起こす可能性があり、他方dが大きすぎる場合、塗工液ジェットのウェブへの衝突状態が不安定となることがあるため、dとして5〜700mmであることが必要である。塗工液ジェットの流れを安定化させるためには、dの上限値として好ましくは500mm以下であり、さらに安定性を増すために、dの下限値としてより好ましくは10mm以上であり、dの上限値としてより好ましくは200mm以下である。
【0028】
同伴空気除去手段としては、高速塗工時に効率よく同伴空気を除去するため、スリット状開口部を持つ複数のダクトを有する空気吸引装置を用いることを特徴とする。また、該空気吸引装置のウェブ対向面(図3符号25c)とバッキングロール上のウェブとの距離については、1〜30mmであると好ましい。ちなみに、該距離が1mm未満であると、連続するウェブ、あるいはウェブを連結する目的で使用されるスプライステープ等の継ぎ目通過時に空気吸引装置に接触するおそれがあり、その際にはウェブ表面を変質・変形させたり、ウェブの破断を起こす可能性があることから、品質面・操業面で好ましくない。他方、該距離が30mmを超える場合、空気吸引装置の吸引度をいかに大きくしたとしても、高速塗工時には同伴空気除去効果に劣り、得られる塗工物の品質が低下したり操業性が低下する。操業性と同伴空気除去効率を高めるためには、空気吸引装置のウェブ対向面とバッキングロール上のウェブとの距離が2〜15mmであることがより好ましく、2〜10mmであることが更に好ましい。
【0029】
また、本発明は、空気吸引装置として、ウェブ進行方向に対して略鉛直方向に空気を吸引するように複数のダクトを備えていることを特徴とする。本発明における同伴空気除去用空気吸引装置は、複数のダクトの先端部のスリット状開口部より空気を吸引する。したがって空気吸引装置のウェブ対向面上にウェブ進行方向に複数のスリット状開口部が配置されている。それぞれのダクトが、ウェブの進行方向に対し略鉛直となっていることで同伴空気吸引効率を良好にすることができる。なお、ダクトの形状としては特に限定はなく、非常に短いダクトを束ねて、途中からひとつのダクトに収束させるような構造のもの、ダクトをウェブの幅方向に除々に絞ってほぼ円筒状にして最終的に各ダクトを収束するような構造のもの、複数のダクトをほぼそのままの状態で延伸し、空気吸引装置の端部で各ダクト間のダクト隔壁をなくし外壁のみの構造にするもの、それらを適宜組み合わせた構造のものが考えられる。
【0030】
図3に空気吸引装置の一例とその周辺部の部分断面図を示した。空気吸引装置21は複数のダクトD,D…を有している。ダクトD、D…はダクト隔壁25,25…とダクト外壁26a、26bとダクト側壁27a及び27b、ならびに図示されていない空気吸引機に接続される接続口および必要に応じて設置されるダクト側壁と接続された空気吸引装置底面から構成されることになる。ダクトDの先端部にスリット状のダクト開口部S、S…がある。ダクト隔壁の、ウェブ進行方向に対して上流側の側面25a(以下、単に上流側側面という)のウェブ側先端部に凸部25Tが形成されている。この凸部25Tは図からわかるように、その断面はウェブからの距離が離れるにつれてダクト隔壁25の面と同一になるように、つまり本来の平坦な壁面に戻るように滑らかに消滅していくように形成されたものである。また、このような凸部が形成されることによって同伴空気をより効率的に除去できるため、より好ましい。その理由は以下に説明する。尚、図中奥側のダクトの側壁27は図面を理解しやすくするために図示を省略している。尚、後続の図4も同様である。
【0031】
空気吸引装置の同伴空気吸引の作用について図4を用いて説明する。図4は図3の一部をさらに拡大した断面図であり、空気吸引装置のダクト先端部とウェブ近傍の一部断面図である。図に示したように、空気吸引装置のスリット状開口部S近傍では、ダクト隔壁25とウェブ41間の領域Hの空間圧力は、ダクト開口部Sとウェブ41間領域Lの空間圧力に対して高い状態となっている。ウェブ41の進行に伴い同伴空気層がウェブ進行方向に移動するので、ダクト開口部Sにおいて圧力低下が起こるため、空気流はウェブ進行方向に対して図中鉛直下方向に膨張しようとするので、速やかにダクト開口部Sを通ってダクトD内に吸引されていく。この際、ダクト隔壁の上流側側面25aの先端部に凸部25Tが形成されている場合は、ダクト開口部Sからダクト内の流入した同伴空気流は、同伴空気流の元の速度成分に吸引速度成分が上乗せされるため、より効率的に同伴空気を除去することができる。各ダクトにおいてこのような同伴空気の除去が独立して行われる上でダクト長さすなわちダクト隔壁の長さは10mm以上より好ましくは50mm以上あることが好ましい。
【0032】
なお、凸部25Tが、その断面がウェブからの距離が離れるにつれてダクト隔壁25の面と同一になるように滑らかに消滅していくように形成されているので、ダクトDの断面形状としては、図4中符号W1で示されるダクト開口部Sのウェブ進行方向の幅H1から、同図中符号H2で示されるダクト中間部の開口幅にまで拡大しているが、この幅の関係は、1.0<H2/H1≦10.0を満たすことが好ましい。吸引空気流をよりスムーズにするためには1.2<H2/H1≦5.0であることがより好ましい。ちなみに、H2/H1が10を超えるとダクト開口部と内部の幅の差が大きすぎるためにダクト内部で乱流が発生し、同伴空気除去効率が劣る可能性があるために好ましくない。
【0033】
上記のような凸部の具体例について図5を参照して説明する。図5(a)は凸部の具体例の一例を示すもので、ダクト隔壁先端部の一例の断面図である。凸部25T1の断面が三角形状でありその先端部の角度がθとなっている。図5(b)も同様の断面図である。凸部25T2の断面図のなかで図中下側の滑らかな面はこの例では円弧であるが、放物線や双曲線等種々の曲線でもよい。また凸部の先端部は鋭角になっている。図5(c)も同様の断面図である。この例では凸部25T3の先端部は平坦でありその先端部に図5(a)のような曲面形状を組み合わせた例である。このように先端部の形状や滑らかに凸部が消滅していく面は適宜種々の組み合わせが可能である。上述の凸部の先端部の角度θについては10〜70度であることが好ましく、20〜60度であると更に好ましい。図5(b)および(c)の様に円弧面を持つ場合には、その曲率半径rとダクト隔壁の厚みtが、0.25t≦r≦5tを満たすことが好ましい。図5(c)の如き平坦な先端部となめらかな曲面形状が組み合わされた例では、平坦部の長さkとしては5mm未満の範囲にあることが好ましい。
【0034】
ダクト隔壁について、ダクト隔壁のウェブ進行方向に対して下流側の側面25b(以下、単に下流側側面という)のウェブ側先端部の角が、面取りされた角によって形成されるか、またはなめらかな曲面によって形成されることが好ましい。この例を図6について説明する。図6はダクト隔壁先端部の一例の断面図である。本図において、ダクト隔壁の下流側側面25bのウェブ側先端部の角(かど)Kが、なめらかな曲面25K1で構成されている。このように滑らかな面で構成された角になっている。同伴空気流は、元来ウェブの進行方向成分が非常に大きいため、空気吸引による同伴空気除去を行う際に、ダクト隔壁25の先端とウェブ間を通過した後にウェブ進行方向と垂直方向に流速を変化させやすくすることが、同伴空気を効率的に除去するために好ましい。このため、ダクト隔壁の下流側側面25bのウェブ側先端部の角Kとして、図6(b)に示したように直角状であるよりも、図6(c)に示されるが如きのように角(かど)を面取りをすることによって、0度を超えて90度未満の角度θ2を有する形状か、図6(a)に示されるが如きなめらかな曲面形状とすることが好ましい。
【0035】
なお、図6(c)に例示されている角度θ2の場合は90度未満であることが面取りされていることを意味し、さらに同伴空気除去効率をより良好にする上では、θ2として70度以下がより好ましく、45度以下が更に好ましい。該角度があまり小さすぎる場合には図6(b)と比較して同伴空気除去効率が変わらなくなる可能性があり、角度の下限として好ましくは10度以上である。
【0036】
また、ダクト隔壁の下流側側面25bのウェブ側先端部の角としてなめらかな曲面形状とは、曲面の断面が単一円の円周の一部に近似できる形状であることが好ましいが、放物線や双曲線等の種々の曲線でも良い。曲面の断面が単一円の円周の一部に近似できる形状である場合、図6(a)に示されるように、なめらかな曲面の曲率半径をRとして、ダクト隔壁の厚みTに対し、0.25T≦R≦2Tであると同伴空気除去効率が良く、好ましい形態である。
【0037】
以上、ダクト隔壁ウェブ側の上流側側面の先端部の角、および下流側側面の先端部の角の好ましい形状について説明したが、ダクト隔壁の上流側側面の先端部の角の形状のみ、下流側側面の先端部の角の形状のみを使用したり、上流側側面の先端部の好ましい形状と下流側側面の先端部の好ましい形状を適宜組み合わせて使用することももちろん可能である。またダクト隔壁と称しているが、例えば空気吸引装置の一番上流側や下流側の正確にはダクト外壁となる壁であっても、そのダクト内側の壁面の上端部を上述のような形状の角になるようにすることが好ましい。
【0038】
ウェブに同伴される空気を効率的に除去するため、空気吸引装置の形状として、ウェブに対向する面(図3中符号25cがこの面の一部に相当する)は曲面となっていることがより好ましい。正確にはダクト隔壁や外壁のウェブ側先端部の面の形状がこの面を決定することになる。空気吸引装置のウェブ対向面の曲率半径R1は、バッキングロールの半径R2に対し、下記(1)式を満足することが好ましい。
1.0≦R1/R2≦1.035 式(1)
R1/R2の値が1.0未満の場合、R1<R2となるため、空気吸引装置のウェブに対向する面の上流側および下流側の両端が、他の部分と比較してウェブにより近い配置となり、中央部の同伴空気除去効率が劣る可能性があるとともに、両端がウェブに接触する可能性があり好ましくない。他方、R1/R2の値が1.035を超える場合、逆に空気吸引装置のウェブに対向する面の両端が、他の部分と比較してウェブにより離れた配置となり、同伴空気除去効率が劣る可能性がある。実際には、バッキングロールは研磨作業により半径は減少されながら使用されるが、式(1)を満たす状態にて空気吸引装置が設置された場合には、同伴空気除去効率は実用上十分となる。同伴空気除去効率をより良好とするためには、R1/R2の値の上限値が1.020であると好ましい。バッキングロール径については特に限定されないが、通常、直径700〜2000mmである。
【0039】
しかしながら、本発明による同伴空気除去手段を有している状態であっても、塗工速度の高速化に対応するため、塗工液の粘度を低減せざるを得ない場合がある。この場合、同伴空気を完全に除去できたとしても、塗工液粘度が低いこと、および塗工液吐出量が多くなることから、バックフローが発生しやすくなる可能性がある。操業条件の変動によっても、一時的ではあってもバックフローが発生する可能性があることから、本発明においては万が一バックフローが発生したとしても操業性に支障のないよう、さらに以下の対策が有効であることを見いだした。
【0040】
すなわち、同伴空気防止の目的で用いられる空気吸引装置の、少なくとも塗工液が接触する可能性のある表面が、撥水加工された面であることが好ましい。これは、塗工液ジェットがウェブに衝突する際に、ウェブ上の同伴空気による原因ではなく、何らかの原因で塗工液ジェット液の乱れが生じて塗工液の飛散を起こした際、あるいはこれが酷くなってバックフローと呼ばれる現象に近い状態になったとしても、空気吸引装置表面に塗工液が蓄積されることを効果的に防止し、塗工液が蓄積・乾燥したスケールによる塗工量プロファイル不良の発生やストリーク等の塗工欠陥の発生等を抑制できるとともに清掃頻度を少なくすることができるためである。空気吸引装置の撥水加工に、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂の中から選ばれる樹脂を用いることが好ましい。ちなみに、空気吸引装置の塗工液が接触する可能性のある表面としては、空気吸引装置の塗工液ジェット衝突地点側側面、ウェブ対向面、およびダクトの内表面、特に先端部の内表面である。これらも正確にはダクト隔壁や外壁の先端部の相当部分である。これら空気吸引装置の塗工液が接触する可能性のある表面すべてを撥水加工することが最も好ましいが、必要性に応じて一部分のみを撥水加工して使用することももちろん可能である。
【0041】
空気吸引装置上への塗工液蓄積を防止するためには、撥水加工面の水接触角が110度以上であることが好ましい。水接触角が高いほど、空気吸引装置の各面に塗工液が接触した場合でも塗工液蓄積防止性に優れることから、該水接触角としてさらに好ましくは135度以上、塗工液蓄積防止性を特に優れた物とするため、該水接触角として特に好ましくは160度以上である。また、該水接触角の上限は特にないが、事実上180度に到達することは困難であることから、該水接触角の上限値としては180度未満である。なお、撥水加工された面の表面が、めっきによる撥水性金属膜である場合、耐久性に優れるため、さらに好ましい形態である。
【0042】
同伴空気の除去効率を上げること、および製造の容易さから、図3で示される複数のダクト開口部を有する空気吸引装置のダクト隔壁間の間隔距離xとしては、5mm以上100mm以下であることが好ましい。5mm未満では前述の空気流のウェブ進行方向に対する鉛直方向膨張効果が低くなるとともに製造が困難であるうえ、ウェブや周囲の環境起因の塵等によりダクト開口部が閉塞する可能性があるので好ましくない。他方100mmを超えるとダクト隔壁ウェブ側表面とウェブ間空間圧力が高くなり、ウェブの進行に対して支障をきたす可能性がある。ダクト隔壁間の間隔距離xとして更に好ましくは5mm以上30mm以下である。また、3つ以上のダクト開口部を有する場合、各々のダクト開口部間距離xがすべて同じである必要はないが、安定的に同伴空気を除去するためには、ダクト開口部間距離xがすべて同じであることが好ましい。
【0043】
ダクト隔壁の厚みについては、上記ダクト隔壁間の間隔距離xを維持するため、1mm以上100mm未満であることが好ましく、3mm以上25mm以下であることが更に好ましい。また、ダクト隔壁の上流側に形成される凸部(図3符号25T)の長さとしては、上記ダクト隔壁間距離の好ましい範囲となる条件下において、図6のダクト開口部Sのウェブ進行方向の幅H1と同図中符号H2で示されるダクト中間部の開口幅に対し、1.0<H2/H1≦10.0となるように調節されることが好ましく、吸引空気流をよりスムーズにして同伴空気除去効率を高めるためには1.2<H2/H1≦5.0となるように調節されることがより好ましい。
【0044】
図8は図3に示した空気吸引装置を、ウェブ側から見た平面図である。ダクト隔壁25の連結のために、サイドシールプレートとなるダクト側壁27a,27bを使用してもよいが、空気吸引による同伴空気除去効率を低下させない範囲で、ボルト、溶接、接着等の手段により、単独または複数の方法により連結させることができる。
空気吸引装置が有するスリット状のダクト開口部は、塗工幅方向において均一の間隔を持っているのが最も好ましい形状であるが、塗工幅方向において均一の空気吸引能力を有するのであれば、その間隔は必ずしも一定でなくとも良い。また、ダクト開口部のウェブ幅方向の幅としては、ウェブ幅と略同一か、それ以上であることが好ましい。
【0045】
なお、図3において空気吸引装置21に空気吸引管23を介して図示を省略した空気吸引機が接続される。尚、空気吸引機の前に気液分離装置を接続することが以下の点で好ましい。何らかの原因によりバックフローが発生した場合、空気吸引装置中に塗工液が吸引されてしまう可能性があるが、吸引された塗工液は空気吸引装置表面が撥水加工されている場合、その表面にとどまることはなく、容易に空気吸引機側に吸引される。このため、気液分離装置を接続した場合、塗工液が吸引ポンプ等の空気吸引機にまで吸引されることを防止することができる。気液分離装置の形態は特に限定はないが、例えば、液体トラップ型、サイクロン型の気液分離装置が使用できる。
【0046】
空気吸引機は、真空ポンプ、真空チャンバー、あるいは排気ブロアーの如き減圧状態を生じせしめる空気吸引機に接続されるが、空気吸引装置への接続方法としては、所望の吸引度に耐えうる金属製、ゴム製、あるいは樹脂製等の配管を用いて接続し、塗工幅方向の吸引度が均一となる様に空気吸引装置の側面、塗工幅方向の中央、あるいは任意の場所に接続することができる。吸引機、および吸引機が接続される配管の数はひとつに限定されず、必要に応じて複数個を使用することもできる。
【0047】
空気吸引装置に接続された空気吸引機の空気吸引度については、塗工幅方向に均一に同伴空気を除去できる必要があるが、吸引度が高すぎるとウェブをバッキングロールから引き離す作用により操業性を悪化させる可能性があり、他方吸引度が低すぎると同伴空気除去効率に劣ることとなる。このため、該吸引度として好ましくは−500〜−10000Pa、より好ましくは−1000〜−7000Paである。尚、この吸引度は空気吸引機の空気吸入管接続部において規定するものである。また、塗工速度の上昇に従って同伴空気の流速、および単位時間当たりの流量とも増加するため、塗工速度の上昇に従って吸引度も上昇させることが好ましい。各ダクト開口部が有する吸引度は同じであっても良く、また必要に応じて上流側を低くし、下流側を高くする等の変化をつけても良い。これらの変化をつけるため、また調整のためには各ダクトの終端部にバルブやバッフル等を備えることがより好ましい。
【0048】
空気吸引装置の材質については特に限定はなく、金属製、樹脂製の物が使用できるが、装置の堅牢性を考慮すると、金属製が好ましい。
【0049】
前記同伴空気除去手段下流において同伴空気の再発達の起源となる同伴空気除去手段側の同伴空気起源空気流を阻害するための第1の流入空気阻害手段を、同伴空気除去手段の下流側面に少なくとも一つ配置することが、より好ましい。本発明においては、同伴空気除去装置である空気吸引装置によりウェブ上の同伴空気は除去されるが、該同伴空気除去装置から塗工液ジェット衝突点までの短い距離の間に、ウェブ表面に同伴空気層が再発達する可能性が残されている。この再発達を阻害し、良好な塗工適性を保持するためには、同伴空気除去手段下流において同伴空気の再発達の起源となる同伴空気除去手段側の同伴空気起源空気流を阻害するための第1の流入空気阻害手段を、同伴空気除去手段の下流側面に少なくとも一つ配置することにより、同伴空気除去手段の下流側面側での空気流を意図的に乱すことで、空気流の発達を有効に抑止することができる。
【0050】
また、前記同伴空気除去手段下流において同伴空気の再発達の起源となる塗工液ジェット供給液部側の同伴空気起源空気流を阻害するための第2の流入空気阻害手段を、スリット状ノズルを有する塗工液ジェット供給部側面の上流側に少なくとも一つ配置することが、より好ましい。塗工液ジェット近傍の空気の流れを考えた場合、塗工液ジェットを形成するスリット状ノズルの上流側側面は、塗工液ジェットの吐出方向に塗工液ジェットのウェブ上衝突点に向けてウェブ上同伴空気と同様の表面空気流が生じていると考えることができる。この空気流はウェブ上の同伴空気と比較すると作用は弱いものの、転写面不良の原因となる可能性が残されている。そこで、前記同伴空気除去手段下流において同伴空気の再発達の起源となる塗工液ジェット供給液部側の同伴空気起源空気流を阻害するための第2の流入空気阻害手段を、スリット状ノズルを有する塗工液ジェット供給部側面の上流側に少なくとも一つ配置することで、スリット状ノズルを有する塗工液ジェット供給部側面表面の滑らかな空気流の流れを阻害し、塗工液ジェットの吐出に起因する空気流の衝突エネルギーを減少させることができ、さらに効果的に転写面不良を抑制できる。
【0051】
流入空気阻害手段につき、図10、図11を元にさらに説明する。図10は、流入空気阻害手段を配置する前の同伴空気除去部近辺の断面図であり、図11は、流入空気阻害手段101および103を配置した場合の同伴空気除去部近辺の断面図である。他の構成は図1の構成と同様であるので符号を省略して表示している部材もある。流入空気阻害手段101は上述の第1の流入空気阻害手段に相当しており、同伴空気除去用空気吸引装置105下流側側面に配置され、流入空気阻害手段103は上述の第2の流入空気阻害手段に相当しており、塗工液ジェット供給部107上流側側面に配置されている。流入空気阻害手段を配置していない図10に示した例の場合、同伴空気除去用空気吸引装置105の下流表面においては、滑らかな空気の流れW1が発生しうる。この気流W1は同伴空気の再発達の起源となる同伴空気除去手段側の同伴空気起源空気流となる可能性がある。これに対し流入空気阻害手段101を配置した場合、同伴空気除去用空気吸引装置105の下流表面における空気の流れを図11において符号W3に示すように、同伴空気除去用空気吸引装置の下流表面において滑らかに流れることを阻害され、同伴空気の再発達を効果的に抑制することができる。
【0052】
また、塗工液ジェット供給部107上流側に流入空気阻害手段を配置していない場合も図10に示すように、塗工液ジェット供給部上流側側面の空気の流れW2が発生し得る。この気流W2は、塗工液ジェットのウェブ上への衝突点Cにむけて流れる可能性があり、同伴空気層再発達の原因となる同伴空気起源空気流となり得るとともに、転写面不良の原因となる可能性が残されている。これに対し流入空気阻害手段103を配置した場合、塗工液ジェット供給部上流側側面の空気の流れは図11において符号W4で示すように変化し、転写面不良を起こす可能性を効果的に低減することができる。
【0053】
流入空気阻害手段は、ウェブ進行方向Aに対し、同伴空気除去用空気吸引装置の下流側側面、もしくは塗工液ジェット供給部の上流側側面のいずれか、あるいはこれら複数箇所に設置することができ、設置箇所の数は1箇所に限らず複数箇所とすることができる。また、流入空気阻害手段の設置個数も1個と限らず複数個とすることができる。また、例えば同伴空気除去用空気吸引装置105側面に複数の流入空気阻害手段を配置するように、1箇所の設置場所に対して複数の流入空気阻害手段を配置することも、もちろん可能である。
【0054】
なお、本発明で言う流入空気阻害手段の種々の例を図9に示した。図9は本発明で使用される流入空気阻害手段の種々の例の断面図である。符号91は流入空気阻害手段を設置するための部材であるスリット状ノズルを有する塗工液供給部上流側側面、同伴空気除去用空気吸引装置下流側表面のいずれかを示しているものとする。符号92aで示されるが如き平板、符号92bで示されるが如き曲板、符号92cで示されるが如き多角形柱等、符号92dで示されるが如き円柱等から選ばれるいずれかの部材を配置する。多角形中等とは、多角形中および多角形中の一部を直線上に切り取ったものを言い、円柱等とは、円柱、楕円柱、もしくはこれらの一部を直線的に切り取ったものをいい、例えば半円柱なども含有される。これら流入空気阻害手段を配置することにより、図10で示した例では下部から上部に向かう空気流を阻害、もしくは乱す作用を生じ、従って塗工液ジェットの進行方向への空気流の発達や、同伴空気層の再発達を阻害することができ、転写面不良等の操業性・品質の低下を回避することができる。平板および曲板の厚みについては、薄すぎる場合には容易に変形するため空気流により振動を励起したりすることがあるため好ましくない。実用的には0.5mm以上の厚みが好ましく、1mmが更に好ましい。安全面から、平板・曲板の自由先端は曲面となっていることが好ましい。流入空気阻害手段部材の張り出し高さhが小さすぎる場合には、該部材の設置効果が低くなるため、高さhとしては3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましい。hが大きすぎる場合には設置が困難になる可能性があり、100mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましい。流入空気阻害手段で使用される平板、曲板、多角形柱、円柱等の部材の材質について限定はないが、堅牢であることが要求されるため、金属や樹脂、ゴム類等が好適に使用できる。また、これら流入空気阻害手段部材の表面を撥水加工して使用することも、良好な操業性を保持するために好ましい形態である。
【0055】
流入空気阻害手段の設置位置としては、流入空気阻害手段を設置するための部材であるスリット状ノズルを有する塗工液供給部上流側側面、同伴空気除去用空気吸引装置下流側表面上において、ウェブに近いほど好ましいが、ウェブとの距離が大きくなると効果が低減する可能性があり、他方該距離が小さすぎた場合にはウェブとの接触により操業性を低下させる可能性がある。このため、流入空気阻害手段とウェブとの距離として、下限値として5mm以上が好ましく、10mm以上が更に好ましく、上限値として800mm以下が好ましく、300mm以下がより好ましく、50mm以下が特に好ましい。
【0056】
本発明による塗工装置は、シート状基材の少なくとも一面上に、顔料および/または接着剤を主成分とする塗工層を設けてなる塗工シート、特に顔料塗工紙の製造に好適に用いることができる。ジェット供給方式のブレード塗工方式の場合、一般的に顔料塗工紙の塗工速度はすでに1000m/minを超える高速での操業が一般的になってきており、将来的に2000m/min以上となることが予測されている。このような高速塗工時には同伴空気による塗工欠陥発生、操業性悪化が発生しやすい問題を抱えている。本発明の塗工装置は、このような高速塗工においても、塗工欠陥の発生や品質の低下、操業性悪化を効果的に防止することができる。
【0057】
本発明において、ジェット供給方式の塗工液を供給するスリット状ノズルのスリット幅については、スリット幅が狭すぎる場合、塗工液中の粗大粒子もしくは凝集物がスリット間に滞留することで塗料量プロファイルを悪化させる可能性があり、他方広すぎた場合には塗工液ジェットのウェブへの衝突速度が低すぎて正常な塗工が行われない可能性がある。このため、該ノズルのスリット幅としては、0.5〜3.0mmが好ましく、塗工液ジェットをより安定させるため、より好ましくは1.0〜2.5mmである。
【0058】
本発明において、ジェット供給方式のスリット状ノズルからの塗工液吐出速度については、吐出速度が遅い場合は走行するウェブ表面への塗工液の転移が正常に行われにくくなることから転写面不良が発生しやすくなり、他方早すぎる場合にはバックフローが発生しやすくなる。このため、スリット状ノズルからの塗工液吐出速度の下限値として好ましくは100m/min以上、他方上限値としてはウェブの進行速度以下が好ましい。転写面不良およびバックフロー両者をより効果的に防止する観点から、スリット状ノズルからの塗工液吐出速度としてより好ましくは下限値として200m/min以上であり、上限値として400m/min以下である。
【0059】
本発明において、ジェット供給方式のスリット状ノズルからの塗工液供給量は、所望の塗工量に対して適宜変更が可能であるが、計量ブレードでの計量を考慮すると、ウェブ上への所望の塗工量に対して5〜30倍程度が好ましく、塗工液ジェットの安定性と計量ブレードでの計量性のバランスから、より好ましくは10〜25倍である。
【0060】
本発明において、図2におけるウェブ上への塗工液衝突地点におけるバッキングロール接線方向Tと塗工液ジェット13の間で形成される、塗工液ジェットの衝突角度については、図2の符号Φで示される角度を指し、該衝突角度が小さすぎる場合には転写面不良が発生しやすくなり、他方大きすぎる場合にはバックフローが発生しやすくなる。該衝突角の上限として好ましくは70度以下、下限として好ましくは15度以上であり、転写面不良およびバックフロー両者をより効果的に防止する観点から、該衝突角としてより好ましくは上限として60度以下、下限として35度以上である。
【0061】
塗工液粘度に関しては、粘度が高すぎる場合には計量ブレードで所望の塗工量に制御するのが困難となり、他方低すぎる場合にはバックフローが発生しやすくなる。このため、塗工液の粘度としては、ハーキュレス型ハイシェア粘度計等で測定されるせん断速度1.8×10(1/s)でのハイシェア粘度の下限値として5mPa・s以上が好ましく、バックフロー防止のためには下限値として10mPa・s以上がさらに好ましい。良好な塗工性を保持するためには該ハイシェア粘度の上限値として45mPa・s以下であることが好ましく、さらに塗工性を良好とするためには上限値として35mPa・s以下であることがより好ましい。ハイシェア粘度が30mPa・s以下の場合、本発明の効果により転写面不良を抑制できることからバックフローの発生を抑制でき、本発明の効果が顕著であり、さらに25mPa・s以下の場合にはより顕著である。
【0062】
塗工液の固形分濃度については特に限定される物ではないが、該固形分濃度が適正な範囲にないと計量ブレードで所望の塗工量に制御するのが困難となる。該固形分濃度が高すぎる場合、計量ブレードでの塗工量制御が不可能となるばかりか、塗工量プロファイルが極端に悪化する可能性がある。他方、該固形分濃度が低すぎる場合、計量ブレードの条件をいかようにしても所望の塗工量を得られなくなるばかりか、得られる塗工物の品質低下が起こり好ましくない。このため、塗工液の固形分濃度の上限として好ましくは72%以下であり、さらに好ましくは70%以下であり、特に好ましくは68%以下である。塗工液の固形分濃度の下限として好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは45%以上であり、特に好ましくは55%以上である。なお、塗工液固形分濃度が低い場合には塗工液粘度が低い傾向にあり、このためバックフローが発生しやすい。従って、塗工液固形分濃度として30%以上68%以下で本発明の効果が現れやすく、該固形分濃度として45%〜64%の場合には本発明による効果が顕著である。
【0063】
ウェブの塗工速度については、本発明の効果はより高速での塗工時において効果が大きい。このため、塗工速度が小さい場合は本発明の効果が出にくい。500m/min未満の塗工速度では効果が発現しにくい。効果が発現する上でより好ましくは1000m/min以上、特に好ましくは1200m/min以上である。塗工速度の上限値は、計量ブレードにおいて塗工が正常に行われる範囲であれば問題ないが、3000m/minを超えての操業は困難であり、塗工速度の上限値としては3000m/min以下が好ましい範囲である。
【0064】
本発明において塗工液計量部において使用される計量ブレードとしては、剛直なベベルブレードと呼ばれるタイプ、または屈曲可能なベントブレードと呼ばれるタイプのどちらも使用することができる。また、ブレードの材質については特に限定はなく、公知公用の計量用ブレードが使用できる。セラミック加工を施した金属製ブレード、メッキブレード、溶射ブレード、ソフトチップブレード等も使用可能である。ブレード刃の厚み、刃先の角度についても特に限定はなく、たとえばブレード刃の厚みとして0.05〜1.0mm、刃先の角度として10〜90度のブレードが使用できる。
【0065】
塗工層が形成されるウェブとしては特に限定はなく、例えばセルロース繊維を主体とした紙、および各種樹脂を主成分とするフィルム等を用いることができる。紙の場合、表面に澱粉等のサイズプレス処理の有無や、顔料および/または接着剤を主体とする塗工層の有無にかかわらず使用することができる。フィルムの場合、アンカー層の塗工やコロナ処理による表面処理の有無に関わらず使用することができる。
【0066】
ウェブとしてセルロース繊維を主体とした紙を使用した塗工紙の製造に用いられる、顔料および/または接着剤を主成分とする塗工層を設ける原紙としては特に限定はないが、例えばセルロース繊維を主体とする紙基材および、あらかじめ顔料および/または接着剤を主成分とする下塗り塗工層を少なくとも1層以上設けたものである塗工用原紙を用いることができる。得られる塗工紙の光沢・平滑度を良好とするためには、あらかじめ顔料および/または接着剤を主成分とする下塗り塗工層を少なくとも1層以上設けたものである塗工用原紙を使用することが好ましい。バックフローの発生しやすい、少なくとも1層以上の下塗り層を設けたような、平滑度の高い塗工原紙の如き平滑性の高いウェブを使用する場合、本発明の効果が顕著である。このため、塗工紙用原紙として、パーカープリントサーフ(PPS)表面平滑度試験機(例えば、機種:MODEL M−569型、MESSMER BUCHEL社製/英国、が該当する)を用い、バッキングディスク:ソフトラバー、クランプ圧力:1MPaの条件で測定されるPPS平滑度が、5.0μm以下である原紙の使用が好ましく、該平滑度として4.0μm以下である原紙の使用がさらに好ましく、該平滑度が3.5μm以下である原紙の使用が特に好ましく、該平滑度が3.0μm以下である原紙の使用が、得られる塗工紙の品質が最も良好であり、本発明の最も好ましい形態である。
【0067】
塗工シートの製造に対して本発明の方法を適用した場合、塗工液のウェブへの接触時間、および接触量を、ウェブの幅方向・流れ方向のいずれの方向についても均一化できるため、目視にて転写面不良が確認できない極軽度の転写面不良が発生している場合においても、得られる塗工の塗工量プロファイル、および印刷品質を向上できる。
【0068】
紙基材を形成するパルプについては、製法や種類等について特に限定するものではなく、KP、SPのような化学パルプ、SGP、RGP、BCTMP、CTMP等の機械パルプや、ECFパルプやTCFパルプ等の塩素フリーパルプ、脱墨パルプのような古紙パルプ、あるいはケナフ、バガス、竹、藁、麻等のような非木材パルプ、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリノジック繊維等の有機合成繊維、さらにはガラス繊維、セラミック繊維、カーボン繊維等の無機質繊維も使用出来る。
【0069】
また、紙基材中には、必要に応じて填料が配合出来る。この場合の填料としては、特に限定するものではないが、一般に上質紙に用いられる各種の顔料、例えばカオリン、焼成カオリン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、タルク、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の鉱物質顔料や、ポリスチレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂並びにそれらの密実型、微小中空型、貫通孔型の粒子である有機顔料が挙げられる。
【0070】
なお、紙料中にはパルプ繊維や填料の他に、従来から使用されている各種のアニオン性、ノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤、定着剤や内添サイズ剤等の各種抄紙用内添助剤を、必要に応じて適宜選択して使用することができる。さらに染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤も紙の用途に応じて適宜添加することができる。
【0071】
紙基材の抄紙方法については特に限定するものではなく、例えば抄紙pHが4.5付近である酸性抄紙法、また中性サイズ剤および/または炭酸カルシウム等のアルカリ性填料を主成分として含み、抄紙pH約6の弱酸性から抄紙pH約9の弱アルカリ性の中性抄紙法等、全ての抄紙方法に適用することができ、抄紙機も長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、丸網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の通常用いられている抄紙機を適宜使用することができる。
【0072】
本発明の塗工シートに用いる塗工層中の顔料としては、一般的に使用される顔料が使用でき、例えば重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、構造性カオリン、デラミカオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、サチンホワイト、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、アルミノ珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の鉱物質顔料や、ポリスチレン系樹脂、スチレン−アクリル共重合体系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂等の密実型、中空型、あるいは貫通孔型樹脂等の有機顔料も用いることが可能であり、これらの中から1種あるいは2種以上が適宜選択して用いられる。
【0073】
接着剤としては、水溶性および/または水分散性の高分子化合物を用いることができ、例えばカチオン性澱粉、両性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、天然ゴム等の天然あるいは半合成高分子化合物、ポリビニルアルコール、イソプレン、ネオプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリアルケン類、ビニルハライド、酢酸ビニル、スチレン、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリルアミド、メチルビニルエーテル等のビニル系重合体や共重合体類、スチレン−ブタジエン系、メチルメタクリレート−ブタジエン系等の合成ゴムラテックス、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、オレフィン−無水マレイン酸系樹脂、メラミン系樹脂等の合成高分子化合物等が例示でき、上記の中から目的に応じて1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0074】
本発明に用いる塗工液中には、前述した顔料や接着剤の他に各種助剤、例えば界面活性剤、pH調節剤、粘度調節剤、保水剤、柔軟剤、光沢付与剤、ワックス類、分散剤、流動変性剤、導電防止剤、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、サイズ剤、蛍光増白剤、着色剤、紫外線吸収剤、消泡剤、耐水化剤、可塑剤、防腐剤、香料等を、本発明の所望の効果を失わないように、必要に応じて適宜使用することも可能である。
【0075】
本発明の塗工層の乾燥後塗工量は、特に限定されるものではないが、一般的に紙基材の片面に対し1〜40g/m、好ましくは2〜30g/m、さらに好ましくは5〜25g/mである。塗工量が1g/mに満たない場合、塗工層を原紙上に形成する効果が現れにくく、他方40g/mを超えると高速塗工時において急激な乾燥が必要となり、結果バインダーマイグレーションによりモトリング等の印刷障害の発生や印刷強度の低下が発生する可能性が高くなるため、上記にて規定する範囲の塗工量が好ましい。
【0076】
塗工層の乾燥方法については特に限定されず、エアードライヤー、シリンダードライヤー、IRドライヤー等一般に使用される乾燥方法が使用できる。
【0077】
塗工紙の水分としては、紙基材を用いた場合、紙基材上に塗工層を設けて通常の乾燥工程後、または必要に応じて表面処理工程等で平滑化処理された後、水分が3〜10%、好ましくは4〜8%程度となるように調整して仕上げられる。
【0078】
また平滑化処理する際は、通常のスーパーキャレンダ、グロスキャレンダ、ソフトキャレンダ等の平滑化処理装置を用いてオンマシンやオフマシンにて行われ、加圧装置の形態、加圧ニップの数、加温等も通常の平滑化処理装置に準じて適宜調節される。
【0079】
[実施例]
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが,本発明はそれらの範囲に限定されるものでない。なお、例中の「部」及び「%」は特に断わらない限り、「質量部(固型分)」及び「質量%」を示す。
【0080】
・実施例1
図1に示した構成の塗工装置により以下のように塗工紙を作製した。同伴空気除去手段を構成する空気吸引装置としては、図4(a)に示した角度θ=45度となる形状のスリット状のダクト開口部5個を有する、すなわちダクト数5個の空気吸引装置を使用した。この装置のダクト隔壁間の間隔距離xは30mm、スリット状のダクト開口部幅H1は5mm、ダクト中間部開口幅H2は20mmであった。空気吸引装置のウェブ対抗面の曲率半径はバッキングロールのそれと同一とした。ダクトの長さつまりダクト隔壁の長さは100mmとした。この空気吸引装置を、塗工液ジェットがウェブに衝突する地点の20mm上流側を始点として、空気吸引装置とウェブ間距離を5mmとなるように設置した。下記に示す顔料塗工紙用塗工液A、Bを調整し、空気吸引機の吸引度が−1500Paとなるように吸引し、塗工原紙に塗工液Aを乾燥塗工量11g/mとなるように塗工・乾燥した後、引き続き塗工液Bを乾燥塗工量10g/mとなるように塗工を行った。このときの塗工速度は1300m/min、塗工液ジェットのウェブ衝突角は48度、塗工液吐出量は395L/min・m、塗工液供給部スリット幅1.5mm、スリット先端からウェブまでの距離は50mmの条件にて塗工液を供給した。この際の、塗工液ジェットの吐出速度は、255m/minであった。塗工時には転写面不良・バックフローの発生はなく、操業状態は良好であるのはもちろんのこと、塗工欠陥も検出されなかった。なお、塗工液Aを塗工した後のPPS平滑度は3.1μmであった。
【0081】
<塗工用原紙>
LBKP(フリーネス(CSF)=400ml)70部、NBKP(フリーネス(CSF)=410ml)30部のパルプスラリーに、軽質炭酸カルシウム(PC:白石カルシウム製)を灰分が8部となるように添加し、対パルプ100部当り澱粉1.4部、アルケニル無水コハク酸0.15部、および硫酸バンド0.5部を添加した紙料を用いて長網抄紙機で抄紙し、その抄紙工程中で澱粉の塗工量が乾燥重量で2g/mとなるようにサイズプレス装置で塗布・乾燥させ、マシンキャレンダで旭精工株式会社製全自動デジタル型王研式透気度・平滑度試験機EYOで測定される王研式平滑度を35秒になるように平滑化処理して、坪量が90g/mの紙基材を得た。この紙基材のPPS平滑は、5.8μmであった。
【0082】
<塗工液Aの調整>
FMT−97(成分;重質炭酸カルシウム、株式会社ファイマテック製)100部に、固形分として澱粉(商品名;エースB、王子コーンスターチ社製)6部、ラテックス(商品名;DL921、ダウ・ケミカル日本株式会社製)9部を添加し、さらに水を加えて、固形分濃度が64%の塗工液を調製した。塗工液Aのせん断速度1.8×10(1/s)におけるハイシェア粘度は、15mPa・sであった。
【0083】
<塗工液Bの調整>
ミラグロス91(成分;カオリン、エンゲルハード社製)80部に、水および分散剤(商品名;アロンA−9、東亞合成社製)0.1部を加え、コーレス分散機にて分散し、固形分72%のカオリン分散液を得た。この分散液に固形分75%のFMT−97(成分;重質炭酸カルシウム、株式会社ファイマテック製)を固形分として20部を加え、顔料スラリーを調製した。この顔料スラリー固形分100部に対して、澱粉(商品名;エースB、王子コーンスターチ社製)1.5部、ラテックス(商品名;T2535D、JSR株式会社製)12部を添加し、さらに水を加えて、固形分濃度が63%の塗工液を調製した。塗工液Bのせん断速度1.8×10(1/s)におけるハイシェア粘度は、19mPa・sであった。
【0084】
・比較例1
実施例1において使用した空気吸引装置を設置しなかった他は実施例1と同様の条件にて塗工を行った。その結果、転写面不良による塗工欠陥が発生し、また得られた塗工紙の品質は、幅方向及び流れ方向の塗工量プロファイルが劣り、白紙品質、印刷品質とも実用レベルに達していなかった。
【0085】
・比較例2
比較例1にて転写面不良が発生したため、塗工液ジェットの供給量を395L/min・mから450L/min・mとし、さらに塗工液ジェットのウェブへの衝突角度を48度から54度に変更した。その結果、転写面不良は解消したが、バックフローが発生したため、操業を継続することができず、塗工紙を連続的に得ることが不可能であった。
【0086】
・比較例3
実施例において用いた空気吸引装置に代わりに、図7に示した吸引箱を原紙表面に近接するように設置した以外は、実施例と同様に塗工を行った。該吸引箱は特開平10−43661号公報にて提案されているものと同様であり、空気吸引箱51の空気吸入口面をウェブの進行方向に対してほぼ垂直になるように設置した。この空気吸入口には幅3mmの溝穴をもつ厚さ2mmの覆い板53を取り付けてあった。塗工の結果、塗工液Bを塗工する際に転写面不良による塗工欠陥が発生し、また得られた塗工紙の品質は、幅方向及び流れ方向の塗工量プロファイルが劣り、白紙品質、印刷品質とも実用レベルに達していなかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る塗工装置の一例の断面図。
【図2】塗工液ジェット供給部11とバッキングロール31の関係のみを示す略拡大断面図。
【図3】空気吸引装置配置の一例の側面から見た断面拡大図。
【図4】空気吸引装置のダクト隔壁先端部近傍の空間圧力の状況を説明するための断面図。
【図5】空気吸引装置のダクト隔壁先端部の上流側側面先端形状の種々の変形例を示す断面図。
【図6】空気吸引装置のダクト隔壁先端部の下流側先端形状の種々の変形例を示す断面図。
【図7】比較例3において使用した吸引箱の斜視図。
【図8】空気吸引装置の断面をバッキングロール方向に垂直に見た図。
【図9】本発明で使用される流入空気阻害手段の種々の例の断面図。
【図10】流入空気阻害手段を配置する前の同伴空気除去部近辺の断面図。
【図11】流入空気阻害手段101および103を配置した場合の同伴空気除去部近辺の断面図。
【符号の説明】
【0088】
11 塗工液ジェット供給部
11a 塗工液ジェット供給部塗工液吐出スリット先端
13 塗工液ジェット
13a ウェブ上に転移した塗工液膜
13b ウェブ上で計量された塗工液膜
15 計量ブレード
17 計量ブレードホルダー
21 同伴空気除去装置(空気吸引装置)
21a 同伴空気除去装置始点
23 空気吸引管
31 バッキングロール
33 ウェブ
A ウェブ・バッキングロールの進行方向
C 塗工液ジェットのウェブへの衝突点
T 塗工液ジェット衝突点接線方向
Φ 塗工液ジェット衝突角度
d 塗工液吐出用スリット状ノズル先端からウェブ上塗工液衝突点までの距離
41 ウェブ
H1 ダクト開口部のウェブ進行方向の幅
H2 ダクト内部のウェブ進行方向の幅
51 吸引箱
52 吸引管
53 覆い
72 ダクト隔壁上流側側面
73 ダクト隔壁上流側側面の凸部境界線
74 ダクト隔壁下流側側面
91 塗工液吐出スリット状ノズル上流側側面、同伴空気除去装置下流側側面
101 第1の流入空気阻害手段
103 第2の流入空気阻害手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングロールに支持されて連続的に走行するウェブの表面に対し、塗工液を塗工する塗工装置であって、
スリット状のノズル開口部を有し、該ノズル開口部から塗工液を吹き出し、塗工液ジェットを形成する塗工液ジェット供給部であって、該ノズル開口部から走行しているウェブへの塗工液衝突点までの距離が5〜700mmの範囲になるように配置される塗工液供給部と、
該ウェブへの塗工液衝突点からウェブの上流側3〜100mmに配置され、ウェブ進行方向に対し、略鉛直方向に空気を吸引するためのウェブの幅方向に略平行方向のスリット状のダクト開口部を有する複数のダクトを備えた空気吸引装置を具備する同伴空気除去手段と、
該ウェブへの塗工液衝突点よりもウェブの下流側に配置され、塗工された塗工液を掻きとる計量部と、
を有する塗工装置。
【請求項2】
前記空気吸引装置のウェブ対向表面の曲率半径R1が、バッキングロール半径R2に対し、下記(1)式を満足することを特徴とする、請求項1記載の塗工装置。
1.0≦R1/R2≦1.035 式(1)
【請求項3】
前記空気吸引装置の塗工液が接触する可能性のある表面が、撥水加工された面であることを特徴とする、請求項1または2項に記載の塗工装置。
【請求項4】
前記空気吸引装置のスリット状のダクト開口部を構成するダクト隔壁上流側側面のウェブ側先端部に、ダクト隔壁の断面として上流側に凸部を形成し、その凸部がウェブからの距離が離れるにつれてダクト隔壁の面と同一になるように滑らかに消滅していくように形成された凸部であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の塗工装置。
【請求項5】
前記空気吸引装置のスリット状のダクト開口部を構成するダクト隔壁下流側側面のウェブ側先端部の角が、面取りされた角によって形成されるか、またはなめらかな曲面によって形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の塗工装置。
【請求項6】
前記同伴空気除去手段下流において同伴空気の再発達の起源となる同伴空気除去手段側の同伴空気起源空気流を阻害するための第1の流入空気阻害手段を、同伴空気除去手段の下流側面に少なくとも一つ配置する請求項1から5のいずれか1項に記載の塗工装置。
【請求項7】
前記同伴空気除去手段下流において同伴空気の再発達の起源となる塗工液ジェット供給部側の同伴空気起源空気流を阻害するための第2の流入空気阻害手段を、スリット状ノズルを有する塗工液ジェット供給部側面の上流側に少なくとも一つ配置する請求項1から6のいずれか1項に記載の塗工装置。
【請求項8】
シート状基材の少なくとも一面上に、顔料および/または接着剤を主成分とする塗工層を請求項1から7いずれか1項記載の塗工装置によって塗工することによって製造された塗工シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−69154(P2007−69154A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260840(P2005−260840)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】