説明

塗布装置及び塗布装置のペーストの供給方法

【課題】成膜領域に供給するペーストの粘性を成膜されるペーストの粘度に近づけて高品質の成膜を安定して行うことが可能な塗布装置及び塗布装置のペーストの供給方法。
【解決手段】非ニュートン流体であるペーストを貯留するペーストタンク15と、ペーストをペーストタンク15から成膜領域11に供給するチューブ42又はパイプとを有する塗布装置10において、成膜領域11の上流側に、第1の撹拌羽根16を備えた粘度調整機構18を備え、ペーストタンク15から供給されたペーストを、成膜領域11での成膜されるペーストの粘度に近づける。ここで、第1の撹拌羽根16は、第1のサーボモータ25で回転駆動され、ペーストの粘度は、第1のサーボモータ25の回転トルク値に対応する負荷電流値を測定して制御されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質の成膜(ペーストの塗布又は塗工)を安定して行う塗布装置及び塗布装置のペーストの供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペーストを用いて成膜を行う塗布装置、例えばスクリーン印刷機には、印刷しようとするパターンを形成する開口部が設けられたスクリーン上でスクレーパを移動しながらスクリーン上にペーストを供給して開口部にペーストを流入させ、次いで、スクリーン上でスキージを移動させて開口部に流入したペーストを押圧しその粘度を低下させてスクリーンの下に配置した被印刷体表面に移動させ付着させるローリング方式(例えば、特許文献1参照)と、ペースト貯蔵容器を備えたスキージヘッドをペースト貯蔵容器の下部に設けられた供給口がスクリーンに当接するようにスクリーン上方に配置し、ペースト貯蔵容器内のペーストを撹拌部材で撹拌してペーストの粘度を低下させる(ペーストを動粘性状態にする)ことで開口部にペーストを流入させると共にスクリーンの下に配置した被印刷体表面に付着させるスキージヘッド方式(例えば、特許文献2参照)がある。
【0003】
【特許文献1】特開平7−266541号公報
【特許文献2】特開2003−136674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリーン印刷に使用されるペーストは非ニュートン流体の特性を有し、撹拌等によってペーストにせん断力が加わると流動性が増し(粘度が低下し)、撹拌したペーストを一定時間静置すると流動性を失う(粘度が大きく増加する)という性質を有する。このため、特許文献1に記載された発明では、スクリーン上でスクレーパを移動しながらスクリーン上にペーストを供給するので、スクレーパで押圧されて(せん断力が加えられて)流動性を増した(粘度が低下した)ペーストに、流動性を失った(粘度が高い)ペーストが供給されて混合されることになって、混合したペーストの粘度は高くなる。このため、開口部内に流入するペースト量が少なくなって、スキージを移動させた際に被印刷体表面に付着できるペースト量も少なくなり、印刷の不良が発生しやすくなるという問題が生じる。一方、特許文献2に記載された発明では、撹拌されて粘度が低下したペーストをスクリーンの開口部を介して被印刷体表面に直接付着させるため、付着するペーストの粘度を印刷に最適な(被印刷体表面に安定して定着できる)粘度にすることが困難で、良質な印刷ができないという問題がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、成膜領域に供給するペーストの粘性を成膜領域で成膜されるペーストの粘度に近づけることで高品質の成膜を安定して行うことが可能な塗布装置及び塗布装置のペーストの供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る塗布装置のペーストの供給方法は、非ニュートン流体からなるペーストを用いて成膜を行う塗布装置のペーストの供給方法において、
前記ペーストの塗布又は塗工過程にて、塗布面及び塗布余白面に塗布されているペーストの動粘性(例えば、粘度、粘性)に、ペーストタンクに一時貯留されて前記塗布面及び塗布余白面に新たに供給されるペーストの動粘性を合わせて又は近づけて、前記新たなペーストを供給する。
ここで、ペーストの塗布過程とは、塗布面及び塗布余白面上に必要量のペーストを一度に供給して塗布面及び塗布余白面上で均一に成膜することを指し、ペーストの塗工過程とは、塗布面及び塗布余白面上を一端側から他端側に向けて移動しながら塗布面及び塗布余白面上に少量のペーストを供給すると共に塗布面及び塗布余白面に均一に成膜することを指す。
【0007】
第1の発明に係る塗布装置のペーストの供給方法において、前記新たに供給されるペーストは、粘度調整機構によって動粘性の調整が行われていることが好ましい。
ここで、前記粘度調整機構には作動及び停止を外部から行う手段が設けられていることが好ましい。
そして、前記新たに供給されるペーストの粘度は、前記塗布面及び塗布余白面に成膜されているペーストの粘度に供給される直前に調整することが好ましい。
【0008】
前記目的に沿う第2の発明に係る塗布装置は、非ニュートン流体であるペーストを貯留するペーストタンクと、ペーストを該ペーストタンクから成膜領域に供給するチューブ又はパイプとを有する塗布装置において、
前記成膜領域の上流側に、第1の撹拌羽根を備えた粘度調整機構を備え、前記ペーストタンクから供給されたペーストを、前記成膜領域で成膜されるペーストの粘度に近づける。
【0009】
第2の発明に係る塗布装置において、前記第1の撹拌羽根は、第1のサーボモータで回転駆動され、前記粘度調整機構に供給されたペーストの粘度は、該第1のサーボモータの回転トルク値に対応する負荷電流値を測定して制御されていることが好ましい。
また、前記粘度調整機構の供給口には、前記成膜領域へのペーストの供給時のみ開く開閉シャッタが設けられていることが好ましい。
【0010】
第2の発明に係る塗布装置において、前記ペーストタンク内には、第2のサーボモータに連結する第2の撹拌羽根が設けられ、前記粘度調整機構に送られる前のペーストの粘度を調整することが好ましい。
また、前記第2の撹拌羽根の回転軸は垂直に配置され、該第2の撹拌羽根と前記ペーストタンク内壁との間には隙間が形成され、該第2の撹拌羽根の正転、逆転、又は正逆転によって、前記ペーストタンク内にペーストの循環流を発生させることが好ましい。
【0011】
第2の発明に係る塗布装置において、前記ペーストタンクから前記粘度調整機構にペーストを送る前記チューブ又はパイプ内にはスタティックミキサが設けられていることが好ましい。
また、前記成膜領域に供給されたペーストは、前記成膜領域上にスクレーパで広げられることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明に係るペーストの供給方法においては、新たに供給されるペーストの動粘性を、成膜されているペーストの動粘性に合わせて又は近づけるので、成膜されているペーストに新たなペーストが混合してもペーストの粘度が大きく変化せず、高品質の成膜を安定して行うことが可能になる
【0013】
第1の発明に係るペーストの供給方法において、新たに供給されるペーストの動粘性が粘度調整機構によって調整される場合、動粘性の調整の精度を向上させることができ、供給するペーストの動粘性を、成膜されているペーストの動粘性に合わせて又は近づけることが容易にできる。
また、粘度調整機構に作動及び停止を外部から行う手段が設けられている場合、新たに供給するペーストの動粘性を調整するタイミングを容易に制御できる。
更に、新たに供給されるペーストの粘度を、供給される直前に調整する場合、供給するペーストの粘度と成膜されているペーストの粘度の差が小さくなって、供給されたペーストと成膜されようとするペーストの混合が容易となる。
【0014】
第2の発明に係る塗布装置においては、成膜領域に新たに供給されるペーストの粘度を、成膜領域で成膜されるペーストの粘度に近づけるので、成膜領域で成膜されるペーストに新たに供給されたペーストが混合してもペーストの粘度が大きく変化せず、高品質の成膜を安定して行うことが可能になる。
【0015】
第2の発明に係る塗布装置において、第1の撹拌羽根が、第1のサーボモータで回転駆動され、ペーストの粘度が、第1のサーボモータの回転トルク値に対応する負荷電流値を測定して制御されている場合、成膜領域に新たに供給されるペーストの粘度の調整精度を向上させることができ、新たに供給するペーストの粘度を、成膜されるペーストの粘度に近づけることが容易にできる。
また、粘度調整機構の供給口に、ペーストの供給時のみ開く開閉シャッタが設けられている場合、ペーストの供給が不要の場合に供給口からのペーストの流出を確実に防止することができる。
ペーストタンク内に、第2のサーボモータに連結する第2の撹拌羽根が設けられ、粘度調整機構に送られる前のペーストの粘度を調整する場合、ペーストタンク内のペーストを撹拌しその粘度を下げることができ、ペーストをペーストタンクから粘度調整機構に安定して供給することができる。
【0016】
第2の発明に係る塗布装置において、第2の撹拌羽根の回転軸が垂直に配置され、第2の撹拌羽根とペーストタンク内壁との間には隙間が形成され、第2の撹拌羽根の正転、逆転、又は正逆転によって、ペーストタンク内にペーストの循環流を発生させる場合、循環流でペーストタンク内のペーストを撹拌することができ、ペーストタンク内でペーストを構成している各成分が分離するのを防止できる。
また、ペーストタンクから粘度調整機構にペーストを送るチューブ又はパイプ内にはスタティックミキサが設けられている場合、チューブ又はパイプ内を移動するペーストを撹拌して動粘性状態を保つ(例えば、低い粘性状態を保つ)ことができ、チューブ又はパイプ内でペーストを容易に移動させることができる。
更に、成膜領域に供給されたペーストが、成膜領域上にスクレーパで広げられる場合、成膜領域で成膜されるペーストと新たに供給されたペーストの混合を促進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る塗布装置の一例であるスクリーン印刷機の説明図、図2は同スクリーン印刷機の一部省略斜視図、図3(A)は同スクリーン印刷機の粘度調整機構の一部省略切り欠き斜視図、(B)、(C)はそれぞれ粘度調整機構の変形例に係る第1の撹拌羽根の斜視図、図4は同スクリーン印刷機のペーストタンクの説明図、図5はスタティックミキサの説明図である。
【0018】
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る塗布装置の一例であるスクリーン印刷機10は、非ニュートン流体であるペーストを貯留するペーストタンク15と、ペーストをペーストタンク15から成膜領域(即ち、塗布面及び塗布余白面)となるスクリーン11上に供給する輸送部材の一例であるチューブ42とを有し、印刷しようとするパターンを形成する開口部(図示せず)が設けられたスクリーン11上でスクレーパ28を移動させながら、チューブ42によってペーストタンク15と連通する粒度調整機構18を介して供給されたペーストをスクリーン11上に拡げて開口部に流入させ、開口部に流入したペーストをスクリーン11上でスキージ12を移動させながらスクリーン11の下に配置した被印刷体14の表面に付着させて印刷するものである。以下、詳細に説明する。
【0019】
図2、図3(A)に示すように、粒度調整機構18は、スクレーパ28の使用時移動方向後方のスクリーン11の直上にその一部が配置され、スクレーパ28と共に移動してスクレーパ28上方のペーストタンク15から供給されたペーストを第1の撹拌羽根16で撹拌し、ペーストの粘度を調整して(ペーストタンク15から供給されたペーストをスクリーン11上で成膜されるペーストの粘度に近づけて)から供給口17よりスクレーパ28の使用時移動方向前方のスクリーン11上に供給している。
【0020】
そして、粘度調整機構18は、ペーストタンク15から供給されたペーストを受入れるペースト受入部20と、ペースト受入部20に連接して設けられ、内側に形成された空間部の中央に第1の撹拌羽根16の撹拌軸19を水平状態で回転可能に収納してペースト受入部20から流入するペーストを撹拌するペースト撹拌室21とを有している。ここで、ペースト受入部20には、ペーストタンク15の個数(本実施の形態では3個)と同じ個数のペースト流入口22が形成され、ペースト流入口22とペースト撹拌室21は連通路23を介して連通している。
【0021】
ペースト撹拌室21の下部には、複数の供給口17が形成され、供給口17の内側には撹拌軸19の軸方向に沿って移動して供給口17を開閉する開閉シャッタ24が設けられている。そして、ペースト撹拌室21の幅方向(撹拌軸19の軸方向)の一方の壁部からは撹拌軸19の基側が突出し、一方の壁部の外側に取付けられた第1のサーボモータ25の回転軸と連結している。これによって、ペースト撹拌室21内のペーストの粘度は、第1のサーボモータ25の回転トルク値に対応する負荷電流値を測定することで把握でき、負荷電流値からペースト撹拌室21内のペーストの粘度を制御できる。また、他方の壁部からは、開閉シャッタ24を移動させるロッド状の操作部(図示せず)が突出し、他方の壁部の外側に設けられた取付け台26を介して取付けられた駆動源の一例であるエアシリンダ27のピストンロッドと連結している。なお、スクレーパ28は、供給口17から流出したペーストをスクリーン11に誘導して拡げることができるように、スクレーパ28の使用時移動方向前側に向けて下り傾斜させてペースト撹拌室21の下部に取付けられている。ここで、第1のサーボモータ25及びエアシリンダ27は、スクリーン印刷機10の外部に備えられた図示しない制御装置内に設けられた操作手段の一例である第1のサーボモータスイッチ及びエアシリンダスイッチの操作によりそれぞれ作動、停止する。
【0022】
従って、開閉シャッタ24を閉じた状態でペーストタンク15からペースト撹拌室21内にペーストを流入させ、第1の撹拌羽根16を回転させてペースト撹拌室21内のペーストを撹拌することでペーストの粘度を下げることができる。そして、ペースト撹拌室21内のペーストの粘度が低下してから開閉シャッタ24を開けることで、供給口17からペーストを容易に流出させることができ、スクレーパ28を介してスクリーン11上に誘導して容易に拡げることができる。
【0023】
なお、静置状態のペーストの粘度が高い場合は、強い撹拌力が必要になるため、本実施の形態の第1の撹拌羽根16のようにスクリュー状の螺旋羽根型にする必要があるが、静置状態のペーストの粘度が低い場合は、強い撹拌力は不要なので、第1の撹拌羽根として、図3(B)に示すように、羽根の傾斜角が大きい螺旋羽根型の撹拌羽根36を使用する。更に、成分が分離し易いペーストを撹拌する場合は、図3(C)に示すように、ペースト撹拌室21内のペーストに上下方向の循環流を発生させることができる掻き揚げ型(直進羽根型)の撹拌羽根37を使用する。
【0024】
図1、図2に示すように、粘度調整機構18は、スクリーン印刷機10のスクレーパ28の移動方向に沿って移動する移動台29に取付けられた昇降機構の一例であるエアシリンダ30に、連結部材31を介して取付けられている。なお、連結部材31の幅方向(撹拌軸19の軸方向に沿った方向)の両側は、移動台29の下部に上下方向に沿って設けられた昇降ガイド部材32でガイドされている。これによって、エアシリンダ30を操作することで、粘度調整機構18を上下方向に昇降させることができる。
【0025】
また、移動台29の幅方向両側の下部は、スクリーン印刷機10のフレーム33にスクレーパ28の移動方向に沿って取付けられた対となる図示しないガイドレール上にそれぞれ載置されている。そして、移動台29は、フレーム33のスクレーパ28の使用時移動方向後端部及び前端部にそれぞれ設けられた駆動側スプロケット34及び従動側スプロケット34a間に巻回されたチェーン35に、図示しない連結部材を介して連結している。これによって、チェーン35を移動させてガイドレールで支持された移動台29を移動させることで、スクレーパ28を粘度調整機構18と共に移動させることができる。
【0026】
図1、図2、図4に示すように、ペーストタンク15は、移動台29のスクレーパ28の使用時移動方向後側の縁部に移動台29の幅方向に沿って取付けられた支持部材38に、載置台39を介して取付けられている。ここで、ペーストタンク15の下部側は下方に向かって徐々に縮径する円錐部40となって、ペーストタンク15は載置台39の中央部に形成された貫通孔に円錐部40を挿通させて取付けられている。そして、円錐部40の下端部には排出口41が設けられ、排出口41と粘度調整機構18のペースト流入口22は、チューブ42を介して連通している。
【0027】
また、ペーストタンク15内には、粘度調整機構18に送られて第1の撹拌羽根16で撹拌される前のペースト、すなわち、ペーストタンク15内に貯留されているペーストの粘度を調整する第2の撹拌羽根43が、その回転軸44を垂直にして設けられ、回転軸44の基側はペーストタンク15の蓋45に取付けられた軸受け46で回転可能に支持されている。そして、回転軸44の基部は、蓋45の上部に載置される固定部材47を介してペーストタンク15の上方に配置される第2のサーボモータ48の出力軸49の先部と連結部材50を介して接続している。
【0028】
ここで、第2の撹拌羽根43とペーストタンク15の内壁との間には僅少の隙間(例えば、0.05〜1mm)が形成されている。このため、第2の撹拌羽根43の回転(正転、逆転、又は正逆転)により、ペーストタンク15内にペーストの上下方向の循環流を発生させることができる。これによって、静置状態のペーストの粘度が高い場合でも、ペーストタンク15内のペーストを撹拌して粘度を低下させることができ、ペーストをペーストタンク15からチューブ42を介して粘度調整機構18に安定して供給することができる。更に、ペーストタンク15内にペーストの循環流が発生することで、粘度が低下した際にペーストを構成している各成分がペーストタンク15内で分離するのを防止できる。
【0029】
ここで、チューブ42内には、図5に示すように、スタティックミキサ53が設けられており。スタティックミキサ53は、例えば、縦幅がチューブ42の内径に相当する長さで、横幅が縦幅の1.5倍の長さを有する樹脂製の長方形板を、一方の短辺に対して他方の短辺を右回りに180度ねじって形成した右エレメント54と、一方の短辺に対して他方の短辺を左回りに180度ねじって形成した左エレメント55を交互にチューブ42内に長手方向に沿って並べることで構成されている。スタティックミキサ53が挿入されたチューブ42内をペーストが移動する場合、ペーストは各エレメント54、55を通過する度に2分割され、分割されたペーストは各エレメント54、55内のねじれ面に沿ってチューブ42の中央部から壁部へ、壁部から中央部へと移動することにより撹拌される。その結果、チューブ42内を移動中にペーストの粘度が増加するのを防止して、ペーストを円滑に送ることができる。
【0030】
図1に示すように、スキージ12は、スクレーパ28の使用時移動方向前方に設けられ、その基側がスキージ保持部材51で保持され、スキージ保持部材51は移動台29のエアシリンダ30の取付け位置より前側(スクレーパ28の使用時移動方向前側)に取付けられた昇降機構の一例であるエアシリンダ52に、傾動機構(図示せず)を介して連結している。そして、移動台29を移動させることで、使用時においてスキージ12をスクレーパ28とは逆方向に移動させている。ここで、傾動機構を操作してスキージ12の先端部をスクリーン11に当接させた状態でスキージ12の傾斜角を鋭角にすると、スキージ12をスクリーン11上で移動させた際に、スクリーン11上に成膜されているペーストをスキージ12の先部で押圧しながら掻き取ることができる。
【0031】
その結果、スキージ12の先部とスクリーン11の間に存在するペースト内には上下方向の循環流が形成されて撹拌状態になり、ペーストの粘度が低下する。これによって、開口部がペーストで完全に充填されていない場合は、開口部内にペーストを流入させることができる。そして、スキージ12が開口部上を通過する際に、開口部内に流入しているペーストにはスキージ12の押圧によるせん断力が加わり、開口部内のペーストの粘度が低下し、開口部内のペーストはスクリーン11の下に配置された被印刷体14の表面に容易に付着することができる。
【0032】
次に、本発明の一実施の形態に係る塗布装置のペーストの供給方法について説明する。
スクレーパ28の使用時移動方向前方のスクリーン11上に供給されたペーストは、移動してきたスクレーパ28の先部で押圧されてスクリーン11上に成膜される。このとき、ペーストはスクレーパ28の先部で掻きあげられ、スクレーパ28の先部とスクリーン11の間に存在するペースト内には上下方向の循環流が形成される。従って、スクリーン11上に成膜されているペーストは、スクレーパ28の先部とスクリーン11の間で撹拌されて粘度が低下した動粘性となる。このため、スクレーパ28の先部とスクリーン11の間に存在し循環流により撹拌されている状態のペーストの粘度を予め求め、粘度調整機構18のペースト撹拌室21内のペーストを、第1のサーボモータ25を駆動させて第1の撹拌羽根16で撹拌してペーストの粘度を徐々に低下させ、スクレーパ28の先部とスクリーン11の間に形成される循環流により撹拌されたペーストの粘度に到達した際の回転トルクの値(第1のサーボモータ25の負荷電流値)を求めておく。
【0033】
ペーストタンク15内にペーストを投入し、第2のサーボモータ48を回転駆動させることでペーストタンク15内のペーストを撹拌して、ペーストタンク15内のペーストを粘度が低下した状態(動粘性)にする。ここで、第2のサーボモータ48を回転駆動させる際の回転トルクの値に対応する負荷電流を測定してペーストの粘度を制御することで、ペーストタンク15内のペーストの粘度を一定範囲に保つことができる。これによって、ペーストタンク15内のペーストが排出口41からチューブ42を介して粘度調整機構18のペースト流入口22まで容易に移動することができる。ここで、チューブ42内にはスタティックミキサ53が設けられているため、ペーストはスタティックミキサ53で撹拌されながら移動することができ、ペーストの移動中に粘度が上昇して、チューブ42が閉塞したり又は粘度調整機構18に供給されるペースト量が減少することが防止できる。
【0034】
ペーストが粘度調整機構18のペースト撹拌室21内に流入すると、スクリーン印刷機10の制御装置に設けられた第1のサーボモータスイッチを操作して第1のサーボモータ25を駆動させ、第1の撹拌羽根16の回転でペーストを撹拌してペーストの粘度を低下させる。そして、ペースト撹拌室21内のペーストの粘度がスクリーン11上に成膜されているペーストの粘度に近づいた(例えば、スクリーン11上に成膜されているペーストの粘度に対するペースト撹拌室21内のペーストの粘度の比が0.9〜1.1の範囲になった)ことが第1のサーボモータ25を回転駆動する際の回転トルクの値(第1のサーボモータ25の負荷電流値)から確認されると、エアシリンダ30を駆動させ粘度調整機構18を下降させてスクレーパ28の先部をスクリーン11上に当接させる。次いで、移動台29をスクレーパ28の使用時移動方向に移動させながら、スクリーン印刷機10の制御装置に設けられたエアシリンダスイッチを操作して開閉シャッタ24を開け、供給口17からペーストを流出させ、スクレーパ28を介してスクレーパ28の使用時移動方向前方のスクリーン11上に誘導して成膜させる。
【0035】
このように、ペーストの塗工過程において、スクリーン11上に新たに供給されるペーストの粘度は供給される直前に調整されるので、供給するペーストの粘度が成膜されているペースト(スクレーパ28で押圧されて粘度が低下したペースト)の粘度に近づいて(例えば、成膜されているペーストの粘度に対する供給するペーストの粘度の比が0.9〜1.1の範囲になって)、粘度調整機構18から供給されたペーストとスクリーン11上に成膜されようとしているペーストとの混合が容易になる。また、ペースト同士が混合してもペーストの粘度が大きく変化せず、スクリーン11上に成膜されようとしているペースト、すなわち、スクレーパ28の先部とスクリーン11の間に存在しているペーストの粘度を一定範囲内に保つことができ、スクレーパ28がスクリーン11に形成されている開口部上を通過する際に、開口部内にペーストを確実に流入させながら成膜を行うことができる。
【0036】
スクリーン11上でスクレーパ28を移動させて、スクリーン11に設けられている開口部内へのペーストの流入が終了すると、開閉シャッタ24を閉じ、エアシリンダ30を操作して粘度調整機構18を上昇させる。次いで、エアシリンダ52を操作し、スキージ12の先部でスクリーン11が押圧される状態にしてから、移動台29をスキージ12の使用時移動方向(スクレーパ28の使用時移動方向と逆方向)に移動させる。これによって、スキージ12の先部でスクリーン11上のペーストが押圧され、スキージ12の先部とスクリーン11の間に存在するペースト内には上下方向の循環流が形成されて撹拌され、ペーストの粘度が低下する。ここで、スキージ12の使用時移動方向前方に存在する開口部において、開口部がペーストで完全に充填されていない場合、粘度が低下したペーストは開口部内に流入する。
【0037】
そして、スキージ12が開口部上を通過する際に、開口部内に流入しているペーストにはスキージ12の押圧によるせん断力が加わって、開口部内のペーストの粘度が低下する。このため、開口部内のペーストはスクリーン11の下に配置された被印刷体14の表面に付着する。そして、スキージ12が開口部上を通過すると、被印刷体14の表面に付着したペーストの押圧は解除され、ペーストは静置状態になってペーストの粘度は上昇する。このため、被印刷体14の表面からスクリーン11が離脱する際に、被印刷体14の表面に付着したペーストがスクリーン11によって剥がされることがなく、更に、被印刷体14の表面上を流動することもない。その結果、被印刷体14に高品質のペーストの印刷を安定して行うことができる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の塗布装置を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、ペーストタンクの個数を3個としたが、ペーストタンクの個数は、被印刷体の個数、連続して印刷を行う際の時間によって、1、2、又は4以上とすることができる。また、静置状態のペーストの粘度が低く、重力によってチューブ内を移動できる場合、第2の撹拌羽根を取外したペーストタンクを使用することができる。そして、粘度調整機構のペースト流入口とチューブを接続する際に、ペースト流入口側に雌型、チューブ側に雄型をそれぞれ使用したワンタッチカプラ方式を採用することができる。これによって、チューブの接続が容易になると共に、使用しないペースト流入口の封鎖を簡便に行うことができる。また、ペーストをペーストタンクから成膜領域に供給するのにパイプを使用することができる。
更に、ペーストの供給方法を、本実施の形態ではペーストの塗工過程に適用した場合について説明したが、ペーストの塗布過程に適用することもできる。
なお、本発明は、前記実施の形態において具体的数値を用いて説明したが、本発明の要旨を変更しない範囲において、これらの数値に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態に係る塗布装置の一例であるスクリーン印刷機の説明図である。
【図2】同スクリーン印刷機の一部省略斜視図である。
【図3】(A)は同スクリーン印刷機の粘度調整機構の一部省略切り欠き斜視図、(B)、(C)はそれぞれ粘度調整機構の変形例に係る第1の撹拌羽根の斜視図である。
【図4】同スクリーン印刷機のペーストタンクの説明図である。
【図5】スタティックミキサの説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10:スクリーン印刷機、11:スクリーン、12:スキージ、14:被印刷体、15:ペーストタンク、16:第1の撹拌羽根、17:供給口、18:粘度調整機構、19:撹拌軸、20:ペースト受入部、21:ペースト撹拌室、22:ペースト流入口、23:連通路、24:開閉シャッタ、25:第1のサーボモータ、26:取付け台、27:エアシリンダ、28:スクレーパ、29:移動台、30:エアシリンダ、31:連結部材、32:昇降ガイド部材、33:フレーム、34:駆動側スプロケット、34a:従動側スプロケット、35:チェーン、36、37:撹拌羽根、38:支持部材、39:載置台、40:円錐部、41:排出口、42:チューブ、43:第2の撹拌羽根、44:回転軸、45:蓋、46:軸受け、47:固定部材、48:第2のサーボモータ、49:出力軸、50:連結部材、51:スキージ保持部材、52:エアシリンダ、53:スタティックミキサ、54:右エレメント、55:左エレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ニュートン流体からなるペーストを用いて成膜を行う塗布装置のペーストの供給方法において、
前記ペーストの塗布又は塗工過程にて、塗布面及び塗布余白面に成膜されているペーストの動粘性に、ペーストタンクに一時貯留されて前記塗布面及び塗布余白面に新たに供給されるペーストの動粘性を合わせて又は近づけて、前記新たなペーストを供給する塗布装置のペーストの供給方法。
【請求項2】
請求項1記載の塗布装置のペーストの供給方法において、前記新たに供給されるペーストは、粘度調整機構によって動粘性の調整が行われていることを特徴とする塗布装置のペーストの供給方法。
【請求項3】
請求項2記載の塗布装置のペーストの供給方法において、前記粘度調整機構には作動及び停止を外部から行う手段が設けられていることを特徴とする塗布装置のペーストの供給方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗布装置のペーストの供給方法において、前記新たに供給されるペーストの粘度は、前記塗布面及び塗布余白面に成膜されているペーストの粘度に供給される直前に調整することを特徴とする塗布装置のペーストの供給方法。
【請求項5】
非ニュートン流体であるペーストを貯留するペーストタンクと、ペーストを該ペーストタンクから成膜領域に供給するチューブ又はパイプとを有する塗布装置において、
前記成膜領域の上流側に、第1の撹拌羽根を備えた粘度調整機構を備え、前記ペーストタンクから供給されたペーストを、前記成膜領域で成膜されるペーストの粘度に近づけることを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
請求項5記載の塗布装置において、前記第1の撹拌羽根は、第1のサーボモータで回転駆動され、前記粘度調整機構に供給されたペーストの粘度は、該第1のサーボモータの回転トルク値に対応する負荷電流値を測定して制御されていることを特徴とする塗布装置。
【請求項7】
請求項5及び6のいずれか1項に記載の塗布装置において、前記粘度調整機構の供給口には、前記成膜領域へのペーストの供給時のみ開く開閉シャッタが設けられていることを特徴とする塗布装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の塗布装置において、前記ペーストタンク内には、第2のサーボモータに連結する第2の撹拌羽根が設けられ、前記粘度調整機構に送られる前のペーストの粘度を調整することを特徴とする塗布装置。
【請求項9】
請求項8記載の塗布装置において、前記第2の撹拌羽根の回転軸は垂直に配置され、該第2の撹拌羽根と前記ペーストタンク内壁との間には隙間が形成され、該第2の撹拌羽根の正転、逆転、又は正逆転によって、前記ペーストタンク内にペーストの循環流を発生させることを特徴とする塗布装置。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項に記載の塗布装置において、前記ペーストタンクから前記粘度調整機構にペーストを送る前記チューブ又はパイプ内にはスタティックミキサが設けられていることを特徴とする塗布装置。
【請求項11】
請求項5〜10のいずれか1項に記載の塗布装置において、前記成膜領域に供給されたペーストは、前記成膜領域上にスクレーパで広げられることを特徴とする塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−5564(P2010−5564A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169294(P2008−169294)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(597168228)日本ファインテック株式会社 (7)
【Fターム(参考)】