説明

増分測定および車輪の差速の測定によるステアリングホイールの絶対角位置の決定

自動車のシャーシに対してその自動車のステアリングホイール(1)の絶対角位置θを決定するためのシステムは、ステアリングホイールの相対角位置δをインクリメンタルに測定するための装置と、同一軸に取り付けられた車輪の差速ΔV/Vを測定するための装置(2)と、期間tにおいて角位置と差速をサンプリングするための処理装置(8)を備える。前記装置は、t瞬間毎に、差速ΔV/Vに従う絶対角位置θ(t)の推定値θ(t)と、角位置θ(t)とδ(t)の間の平均差変位(t)を決定するのに適した演算手段を備える。ここでiは0からnまでの範囲の変数であり、絶対角位置θ(t)は平均差変位(t)と角位置δ(t)の和である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のシャーシに対する該自動車のステアリングホイールの絶対角位置を決定するための方法と、そのようなシステムを使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主として、統合シャーシ制御システムと電気パワーステアリングシステムなどの、多くの応用において、シャーシに対するステアリングホイールの絶対角位置を知ることは必要である。
【0003】
絶対角位置とは、任意の時点において、ステアリングホイールの位置を基準位置から隔てる角度を指し、この基準位置はシャーシに対して固定されて設けられている。
一方、相対角位置は、ステアリングホイールの位置を任意の初期位置から隔てる角度であり、シャーシに対して可変である。
【0004】
ステアリングホイールの絶対角位置を決定するために、同軸上の車輪の差速の測定値を使用する既知の方法がある。実際に、この差速と角位置との間の全単射関係を確立することは可能である。これは、車が直線または曲線軌道をたどっている場合、各車輪は同一曲率中心の軌道を有するためである。発生する問題の一つは、この決定方法が、おそらくは±50°程度の並みの精度でしか絶対角位置を推定することができず、また車の運転条件に依存することである。
【0005】
また、高精度でステアリングホイールの相対角位置を得ることを可能にする、ステアリングホイールの角位置の増分測定のための既知の装置がある。しかしながら、その場合、絶対角位置を得るために、少なくとも一つの基準位置を決定することが必要となる。そのような方法は、例えば、特許文献1の中で述べられている。これらの装置の一つの限界は、基準角位置の検出が1回転について1回のみ可能であることにより、ある運転条件においては、絶対角位置が、かなりの時間の後でしか、従って、車がかなりの距離を走行した後でしか決定できなくなることにある。
【特許文献1】欧州特許第EP−1,167,927号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ステアリングホイールの絶対角位置を決定するためのシステムを提案することによってこれらの問題を解決することを目的とする。該システムは、測定された相対角位置の近くで、車輪の差速の測定から得られる絶対角位置の推定値の移動二地点間平均を計算することを可能し、その移動二地点間平均は、関連絶対角位置を得るように相対角位置を再調整するために使用される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、第1の態様によれば、本発明は、自動車のシャーシに対する前記自動車のステアリングホイールの絶対角位置θを決定するためのシステムを提供する。該システムは、
前記ステアリングホイールの相対角位置δの増分測定のための装置であって、
前記ステアリングホイールと共に回転するようになっており、主要多極トラックを含むエンコーダと、
前記エンコーダに対して前記エンコーダからの隙間を隔てた距離に配置された固定
センサーであって、直角位相の二つの周期的電気信号S1,S2を出力するように前記主要トラックに対して配置された少なくとも二つの感知素子を備えるとともに、前記信号S1,S2に基づいて前記ステアリングホイールの相対角位置δを出力するように、適切な電子回路を有する固定センサーとを備える装置と、
同一軸上の車輪の差速ΔV/Vを測定するための装置と、
期間tにおいて角位置δ(t)と差速ΔV/V(t)をサンプリングすることができる処理装置であって、t瞬間毎に、
差速ΔV/V(t)に従って絶対角位置θ(t)の推定値θ(t)を決定し、
角位置θ(t)とδ(t)(iは0からnまで変化する)との間の平均変位(t)差を決定し、
平均変位(t)差と角位置δ(t)を合算することによって絶対角位置θ(t)を決定するのに適した計算手段を含む装置と
を備える。
【0008】
第2の態様によれば、本発明は、そのようなシステムによって角位置θを決定するための方法であって、
角位置δ(t)と差速ΔV/V(t)を測定し、
差速ΔV/V(t)に従って絶対角位置θ(t)の推定値θ(t)を決定し、
平均変位(t)差を得るようにベクトル
【0009】
【数1】

とベクトル
【0010】
【数2】

との平均の差を決定し、
平均変位(t)差と角位置δ(t)を合算することによって絶対角位置θ(t)を決定するための繰り返しステップを含む方法を提供する。
【0011】
本発明の更なる目的および利点は、ステアリングホイールの絶対角位置を決定するためのシステムを備えた自動車用ステアリングアセンブリの部分図である添付図面に関する以下の記載から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、自動車のシャーシに対してその自動車のステアリングホイール1の絶対角位置θを決定するためのシステムに関する。特定の例においては、この位置は、統合シャーシ制御システムまたはパワーステアリングシステムにおいて使用されることが意図されている。
【0013】
本システムは、車の同一車軸上にある車輪の差速ΔV/Vを測定するための装置2と、ステアリングホイール1の相対角位置δの増分測定のための装置を備えている。
図面には、ステアリングコラム3を含むステアリングアセンブリに取り付けられたそのようなシステムが示されている。ステアリングコラム3にはステアリングホイール1が連結されており、運転手はステアリングホイール1によってトルク、従ってステアリングロ
ック角を与える。また、コラム3はステアリングロック角を車の回車輪に伝えるように構成されている。この目的のために、ステアリングコラム3の回転運動を車輪の角変位に変換するように、車輪をラックピニオンによってコラム3に機械的に連結してもよいし、あるいは車輪をコラムから切り離すこともできる。ステアリングシステムはまた、自動車のシャーシに固定された固定要素4を備えている。
【0014】
ステアリングホイール1は、車輪が一直線に並んでいる「直線」位置のどちら側にも数回、一般的には2回、回転させることができるように構成されている。
図に示す増分測定装置は、コラム3の周囲に固定して取り付けられて回転するエンコーダ5と、固定センサー6とを備える。固定センサー6は、固定センサー6の感知素子がエンコーダ5に対してエンコーダ5から隙間を隔てた距離に配置されるように、要素4に関連付けられている。本発明のシステムは、固定要素4、従ってシャーシに対して、エンコーダ5の、従ってステアリングホイール1の絶対角位置を決定することを可能にする。
【0015】
エンコーダ5は主要多極トラックを備える。特定例においては、エンコーダ5は磁気多極リングによって構成され、このリングの上に多数のN極とS極との対が、一定の角度幅で磁化され均一に分布されて、主要トラックを形成している。
【0016】
また、センサー6は少なくとも二つの感知素子を備えており、この感知素子は、例えば、ホール効果プローブ、磁気抵抗素子、および巨大磁気抵抗素子のうちから選択される。
使用されるセンサー6は、感知素子によって、直角位相の周期的電気信号S1,S2を出力することができる。
【0017】
多数の整列感知素子から信号S1,S2を得るための原理は、例えば、出願人によって発行されたフランス国特許第FR−2,792,403号に記載されている。しかしながら、信号S1,S2を出力することができる二つの感知素子を含むセンサー6も知られている。
【0018】
前記センサーは更に、信号S1,S2から直角位相の直角ディジタル位置信号A,Bを出力する電子回路7を備えており、この位置信号によりステアリングホイール1の相対角位置δを計算することができる。詳細には、電子回路7は、エンコーダ5の角位置の変化を初期位置から決定することができる計数手段を含んでいる。本発明の実施態様の例においては、前記計数手段はレジスターを備えている。このレジスターにおいて、角位置の値が、検出された信号Aと信号Bの波頭数に相当する角度値に従って増減し、初期値は、システムを使用開始するときに、例えばゼロに固定される。従って、電子回路7によって、初期位置に対してエンコーダ5の相対位置を決定することができる。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、電子回路7はまた、出力信号の解像度を増加させる、例えば本出願人によるフランス国特許第FR−2,754,063号に記載されている形式の補間回路を備える。特に、角位置δの1°未満の解像度を得ることができる。
【0020】
電子回路7を有するセンサー6は、シリコン基板または同等物、例えばAsGaの上に組み込まれて、特定の応用のためにカスタマイズされた集積回路、即ち、全体的または部分的にその特定の目的に従って設計される集積回路と呼ばれる回路を形成する。そのような回路は、時としてASICなる用語で示される。
【0021】
磁気エンコーダ/センサーアセンブリに関して説明がなされているけれども、光学センサーを用いた類似の方法で本発明を実行することも可能である。例えば、上記多極磁気パターンに類似した光学パターンを形成するように主要トラックが刻まれた金属またはガラストラッキングパターンによってエンコーダ5を構成することができる。この場合、感知
素子は光検出器によって構成される。
【0022】
差速ΔV/Vを測定するための装置2には、同軸上の左車輪の速度Vgと右車輪の速度Vdとが供給され、この装置2は前記差速を供給するように構成された計算手段を備える。本決定システムはまた、期間tにおいて角位置δ(t)と差速ΔV/V(t)とをサンプリングすることができる処理装置8を有している。更に、この処理装置は、t瞬間毎に、
差速ΔV/V(t)に従って絶対角位置δ(t)の推定値θ(t)を決定し、
角位置θ(t)と角位置δ(t)(iは0からnまで変化する)との間の平均変位(t)差を決定し、
平均変位(t)差と角位置δ(t)を合算することによって絶対角位置θ(t)を決定するのに適した計算手段を備えている。
【0023】
以下は、例えば1ms期間にわたって角位置δ(t)と差速ΔV/V(t)がサンプリングされる本発明に従う決定システムの実行モードの説明である。
角位置θ(t)の推定値θ(t)は、差速ΔV/V(t)の各測定値に対する計算によって決定される。地面と車輪との間の摩擦は無視できると仮定すると、角位置θ(t)と車輪の差速ΔV/V(t)との間に全単射関係が存在する。この摩擦は、差速の測定が非駆動輪について行われる場合だけでなく、通常の忠実性があるときは差速の測定が駆動輪について行われる場合にも、特に無視できる。一つの実施態様によれば、この関係は、
平坦領域を横切る車の動きと、
安定した車速と、
ステアリングホイールのゆっくりとした回転と、
通常のタイヤ圧と、
乾いた地面と
を含むことができる最適条件にある車について得られた測定値を使って特定される。
【0024】
これらの条件において、差速ΔV/V(t)に従って角位置θ(t)を推定することを可能にする、例えば3次の多項式関係を確立することが可能である。処理装置8の中でこの関係を用いることによって、任意の時間において、測定された差速ΔV/V(t)に従って角位置θ(t)の推定値θ(t)を得ることが可能である。
【0025】
増分角位置δ(t)は、経時による角位置θ(t)の変化を知ることを可能にするが、前記絶対角位置に対して一定変位値だけシフトされる。
本発明の方法は、平均変位(t)差を得るように、例えばt瞬間毎に、ベクトル
【0026】
【数3】

とベクトル
【0027】
【数4】

との平均の差を決定することによって、この値を計算することを提案する。実際に、変位(t)値は、その場合、費用関数
【0028】
【数5】

の最小値に対応している。ここで、lはn次元の恒等行列である。
【0029】
このように、本方法は、使用される値の数は経時により増大するので、平均変位(t)の精度を絶えず改善するために、すべてのθ(t)値およびδ(t)値を統計的方法で使用することを提案する。また、例えば、不均一な地面といった推定値θ(t)の計算に影響を及ぼすすべての乱れはゼロに集中すると仮定することができ、提案された統計的計算は、求められる変位値に向かって急速に収束することを可能にする。
【0030】
従って、処理装置8は、平均変位(t)差と角位置δ(t)とを合算することによって、運転領域におけるほとんどの障害を克服しながら、絶対角位置θ(t)を繰り返し出力することができる。
【0031】
本発明の実施態様によれば、この処理を特定の運転条件のもとで実行しようとすることによって、絶対角位置の決定精度を改善することができる。例えば、上述したように、推定値の精度の改善を可能にするために、軌道に従って移動する車の遅れと車の最低速度またはそのいずれかに関連した乱れを制限するように、運転条件にステアリングホイールの最大回転速度を含めることができる。数値の例として、車の制限速度を5km/hに、ステアリングホイールの制限速度を20°/sに設定することができる。従って、これらの条件が、必ずしも連続的でなく、少なくとも2秒間満足されるならば、約±5°の典型的な精度の絶対角位置を得ることが可能である。それ故、この精度は、25mの運転後に得ることができ、50mの運転後に±2°内に設定され得る。
【0032】
また、本決定システムは、エンコーダ5とステアリングホイール1との間の機械的割り出し不良を克服することを可能にする。これは、この不良は変位値を計算するときに修正されるためである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ステアリングホイールの絶対角位置を決定するためのシステムを備えた自動車用ステアリングアセンブリの部分図。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のシャーシに対する前記自動車のステアリングホイール(1)の絶対角位置θを決定するための方法において、該方法は、
前記ステアリングホイールの相対角位置δの増分測定のための装置であって、
前記ステアリングホイール(1)と共に回転するようになっており、主要多極トラックを備えるエンコーダ(5)と、
前記エンコーダ(5)に対して前記エンコーダ(5)から隙間を隔てた距離に配置される固定センサー(6)であって、直角位相の二つの周期的電気信号S1,S2を出力するように前記主要トラックに対して配置された少なくとも二つの感知素子を備えるとともに、前記信号S1,S2に基づいて前記ステアリングホイール(1)の相対角位置δを出力するように、適切な電子回路(7)を有するセンサー(6)とを備える装置と、
同一軸上の車輪の差速ΔV/Vを測定するための装置(2)と、
期間tにおいて角位置δ(t)および差速ΔV/V(t)をサンプリングすることができる処理装置(8)であって、t瞬間毎に、
差速ΔV/V(t)に従って絶対角位置θ(t)の推定値θ(t)を決定し、
角位置θ(t)と角位置δ(t)(iは0からnまで変化する)との間の平均変位(t)差を決定し、
平均変位(t)差と角位置δ(t)を合算することによって絶対角位置θ(t)を決定するのに適した計算手段を含む装置と
を備えるシステムによって前記絶対角位置θを決定する方法。
【請求項2】
前記多極トラックは、その上に多数のN極およびS極の対が一定の角度幅で磁化されて均一に分布した多極リングによって形成されることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記電子回路(7)は出力信号解像度を増加させる補間回路を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に従うシステムによって角位置θを決定するための方法であって、
角位置δ(t)および差速ΔV/V(t)を測定し、
差速ΔV/V(t)に従って絶対角位置θ(t)の推定値θ(t)を決定し、
平均変位(t)差を得るために、ベクトル
【数1】

とベクトル
【数2】

との平均の差を決定し、
平均変位(t)差と角位置δ(t)とを合算することによって絶対角位置θ(t)を決定する
ための繰り返しステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
差速ΔV/V(t)の測定は非駆動輪について実施されることを特徴とする請求項4
に記載の方法。
【請求項6】
設定された駆動条件下で実行されることを特徴とする請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記駆動条件は前記ステアリングホイールの最大回転速度および前記自動車の最低速度の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2007−526987(P2007−526987A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516285(P2006−516285)
【出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001453
【国際公開番号】WO2004/111570
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(591035793)エス.エヌ.エール.ルールマン (20)
【氏名又は名称原語表記】S.N.R.ROULEMENTS
【Fターム(参考)】