説明

変速機の制御装置

【課題】車両の燃費の悪化を防止しながら、ダブルクラッチ機構の構成部品の温度上昇を抑制して、その耐久性を向上させる。
【解決手段】クラッチ温度制御手段(20)は、ダブルクラッチ式の変速機(3)が備える第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)のいずれか一方をクリープ状態で締結して所定の変速段を設定している状態で、当該クリープ状態で締結している第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)の温度が許容範囲を超えて上昇したと判断する場合、クリープ状態で締結していない第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)のいずれか他方に対応する第1ギヤ群(11,13)又は第2ギヤ群(12,14)のギヤ列を非係合状態に切り換えると共に、当該クリープ状態で締結していない第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)を完全締結させる制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源からの駆動力が伝達される回転軸と複数の入力軸それぞれとの間に設けた複数のクラッチからなる複数クラッチ機構と、前記複数の入力軸それぞれと一又は複数の出力軸との間に設けた変速ギヤ列を有する変速機構とを備えた複数クラッチ式の変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される変速機として、いわゆるダブルクラッチ式の変速機が知られている。ダブルクラッチ式の変速機は、第1入力軸と出力軸との間に設けた変速比順位で奇数番目の変速段を確立するための複数の変速ギヤ列からなる第1の変速ギヤ群と、第2入力軸と出力軸との間に設けた偶数番目の変速段を確立するための複数の変速ギヤ列からなる第2の変速ギヤ群とを有する変速機構と、エンジンなど駆動源の駆動力が伝達される回転軸と上記の第1入力軸とを解除自在に係合させるための第1クラッチと、当該回転軸と第2入力軸とを解除自在に係合させるための第2クラッチとからなるダブルクラッチ機構とを備えて構成されている。
【0003】
上記構成のダブルクラッチ式の変速機では、第1クラッチを係合しかつ第2クラッチを解放した状態で奇数番目のギヤ列を介して動力伝達を行う一方、第2クラッチを係合しかつ第1クラッチを解放した状態で偶数番目のギヤ列を介して動力伝達を行う。そして、奇数番目のギヤ列を介しての動力伝達時には、偶数番目のギヤ列を同期噛合機構で対応する出力軸に連結しておくことができ、偶数番目のギヤ列を介しての動力伝達時には、奇数番目のギヤ列を同期噛合機構で対応する出力軸に連結しておくことができる。そのため、変速時には、第1、第2クラッチのいずれか一方を解放して他方を係合させることで、偶数番目のギヤ列と偶数番目のギヤ列との間での動力伝達状態を応答性良く切り換えることができる。
【0004】
ところで、ダブルクラッチ式の変速機では、例えば、第1速段での走行時(車両の発進時及び低速走行時など)に、第1クラッチを完全係合状態とせず半係合状態(クリープ状態あるいはスリップ制御状態)とすることにより、クリープトルクを発生させることが行われている。しかしながら、このようにクリープトルクを発生させる場合、クラッチのクリープ状態が長時間に及ぶと、クラッチディスクの温度が許容範囲を超えて上昇することで、クラッチディスクに劣化や損傷などの不具合が生じるおそれがある。
【0005】
この問題に対処するための従来技術として、特許文献1に記載の変速制御装置がある。特許文献1の変速制御装置では、第1クラッチと第2クラッチの半係合状態を所定時間ごとに切り換えることで、クラッチディスクの温度が許容範囲を超えて上昇することを防止するようになっている。具体的には、第1速段での走行中に第1クラッチのクリープ状態を所定時間継続したら、変速段を第2速段に切り換えることで、第1クラッチを解放して第2クラッチを係合(半係合)させるようにしている。しかしながらこの制御では、変速段を第1速段から第2速段に切り換えるため、エンジンのトルクアップを行う必要がある。これにより、燃料消費の増加により車両の燃費が悪化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−292055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の燃費の悪化を防止しながら、クラッチ機構の構成部品の温度上昇を効果的に抑制でき、クラッチ機構の耐久性を向上させることができる複数クラッチ式の変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明は、駆動源(1)の駆動力で回転する回転軸(2)と、回転軸(2)側に取り付けられた入力部材(31a)と、第1入力軸(4)側に取り付けられた第1摩擦部材(32)が入力部材(31a)に係合することで締結可能な第1クラッチ(C1)と、第2入力軸(5)側に取り付けられた第2摩擦部材(33)が入力部材(31a)に係合することで締結可能な第2クラッチ(C2)と、を少なくとも備えたクラッチ機構(30)と、第1入力軸(4)又は第2入力軸(5)から駆動力が伝達される一又は複数の出力軸(6)と、第1入力軸(4)と出力軸(6)との間に設けた所定の変速比を有する一又は複数のギヤ列からなる第1ギヤ群(11,13)と、第1入力軸(4)と出力軸(6)の少なくとも一方に対する第1ギヤ群(11,13)の一又は複数のギヤ列それぞれの係合・非係合を切替可能な一又は複数の第1同期装置(15)と、第2入力軸(5)と出力軸(6)との間に設けられた所定の変速比を有する一又は複数のギヤ列からなる第2ギヤ群(12,14)と、第2入力軸(5)と出力軸(6)の少なくとも一方に対する第2ギヤ群(12,14)の一又は複数のギヤ列それぞれの係合・非係合を切替可能な一又は複数の第2同期装置(16)と、を備え、第1クラッチ(C1)を締結した状態で、第1同期装置(15)で第1ギヤ群(11,13)のいずれかのギヤ列を係合させて所定の変速段を設定するか、又は第2クラッチ(C2)を締結した状態で、第2同期装置(16)で第2ギヤ群(12,14)のいずれかのギヤ列を係合させて所定の変速段を設定することで、所定の変速比で回転軸(2)の回転を出力軸(6)に伝達するように構成した複数クラッチ式の変速機(3)の制御装置であって、第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)の温度を判断し、当該判断に基づいて第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)の温度制御を行うクラッチ温度制御手段(20)を備え、クラッチ温度制御手段(20)は、第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)のいずれか一方をクリープ状態で締結して所定の変速段を設定している状態で、当該クリープ状態で締結している第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)の温度が許容範囲を超えて上昇したと判断する場合、クリープ状態で締結していない第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)に対応する第1ギヤ群(11,13)又は第2ギヤ群(12,14)のギヤ列を非係合状態に切り換えると共に、当該クリープ状態で締結していない第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)を完全締結させる制御を行うことを特徴とする。
【0009】
またこの場合、クラッチ温度制御手段(20)は、クラッチ温度検出手段(23,24)で検出された第1クラッチ(C1)の温度又は第2クラッチ(C2)の温度と、第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)のクリープ状態の継続時間との少なくともいずれかに基づいて、第1クラッチ(C1)又は第2クラッチ(C2)の温度制御の開始時点を判断するとよい。
【0010】
ダブルクラッチ式など複数クラッチ式の変速機を備えた車両では、既述のように、低速走行時(クリープ走行)において一のクラッチをクリープ状態としてクリープトルクを発生させた場合、クリープ状態が長時間継続すると、当該クラッチの温度が許容範囲を超えて上昇することで劣化や損傷などの不具合が生じるおそれがある。そこで、本発明にかかる複数クラッチ式の変速機の制御装置では、このことに対処するため、第1クラッチと第2クラッチのいずれか一方をクリープ状態で締結して所定の変速段を設定している状態で、当該クリープ状態で締結している第1クラッチ又は第2クラッチの温度が許容範囲を超えて上昇したと判断する場合、クリープ状態で締結していない第1クラッチ又は第2クラッチに対応する第1ギヤ群又は第2ギヤ群のギヤ列を非係合状態に切り換えると共に、クリープ状態で締結していない第1クラッチ又は第2クラッチを完全締結させる制御を行うようにした。これにより、第2摩擦部材を入力部材に係合させることで、入力部材を介して第1摩擦部材の熱容量を増加させることができる。したがって、第1摩擦部材及び入力部材の過度の温度上昇を抑制できるので、クラッチ機構の構成部品に劣化や損傷などの不具合が生じることを防止でき、クラッチ機構の耐久性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明にかかる複数クラッチ式の変速機の制御装置によれば、特許文献1に記載の従来技術のようなエンジントルクアップ制御を行わずにクラッチの温度上昇を抑制できる。そのため、クラッチの耐久性を向上させながら、車両の燃費の悪化を防止することができる。また、第1クラッチと第2クラッチのいずれかに対応する第1ギヤ群又は第2ギヤ群のギヤ列を非係合状態に切り換えると共に、第1クラッチと第2クラッチのいずれかを完全締結させる、という比較的簡単な制御でクラッチの温度上昇を抑制するようにしたので、エンジンなどの駆動源や変速機の複雑な制御が不要となる。
【0012】
また、上記の複数クラッチ式の変速機が備えるクラッチ機構は、第1摩擦部材(32)を押圧して入力部材(31a)に係合させるための第1押圧部材(34)と、第2摩擦部材(33)を押圧して入力部材(31a)に係合させるための第2押圧部材(35)と、を備え、第1押圧部材(34)と第2押圧部材(35)の少なくともいずれかは、第1押圧部材(34)の第1摩擦部材(32)と反対の面側に取り付けた放熱用の板状部材(44)、又は第2押圧部材(35)の第2摩擦部材(33)と反対の面側に取り付けた放熱用の板状部材(45)を備えるとよい。あるいは、第1押圧部材(34)と第2押圧部材(35)の少なくともいずれかの外周側面に、該第1押圧部材(34)又は第2押圧部材(35)の放熱を促進させるためのフィン形状部(47,48)を設けるとよい。
【0013】
これらによれば、第1摩擦部材又は第2摩擦部材を押圧する第1押圧部材又は第2押圧部材の表面積を増加させることができるので、第1押圧部材又は第2押圧部材を介して第1摩擦部材又は第2摩擦部材の熱を効果的に放出することが可能となる。したがって、第1クラッチ又は第2クラッチの温度上昇をより効果的に抑制できるので、クラッチ機構の構成部品に劣化や損傷などの不具合が生じることを防止でき、クラッチ機構の耐久性をさらに向上させることができる。
なお、上記で括弧内に記した参照符号は、後述する実施形態における対応する構成要素に付した符号を参考のために例示したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる複数クラッチ式の変速機の制御装置によれば、車両の燃費の悪化を防止しながら、クラッチ機構の構成部品の温度上昇を効果的に抑制でき、クラッチ機構の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ダブルクラッチ式の変速機を備えた車両の駆動機構の全体構成例を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかるダブルクラッチ機構の構成例を示す側断面図である。
【図3】第1クラッチの温度制御における各値の変化を示すタイミングチャートである。
【図4】第1クラッチの温度制御の手順を説明するためのフローチャートである
【図5】第1クラッチの温度制御の他の手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態にかかるダブルクラッチ機構の構成例を示す図で、(a)は、ダブルクラッチ機構の側断面図、(b)は、補助プレートの一部を軸方向から見た図である。
【図7】本発明の第3実施形態にかかるダブルクラッチ機構が備えるプレッシャープレートを示す図で、(a)は、軸方向から見た図、(b)は、(a)のA矢視図、(c)は、(a)のB−B´断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態にかかるダブルクラッチ式の変速機を備えた車両の駆動機構の全体構成例を示す概略図である。なお、同図には、変速機を制御するための制御系の概略構成も合わせて図示している。
【0017】
まず、図1に示す車両の駆動機構10について説明する。車両には、駆動力源としてのエンジン1が設けられており、エンジン1と駆動輪W,Wとの間に設けられた動力伝達経路には、変速機3が設けられている。変速機3は、第1入力軸4および第2入力軸5と出力軸6とを有している。第2入力軸5は中空の円筒状に構成されており、第2入力軸5の内部に第1入力軸4が配置されている。第1入力軸4と第2入力軸5は同軸上で相対回転可能に設置されている。出力軸6は、第1入力軸4及び第2入力軸5に対して所定の間隔を有して平行に配置されている。
【0018】
変速機3は、第1乃至第4速用ギヤ列11〜14を有している。第1速用ギヤ列11は、互いに噛合する第1速ドライブギヤ11aと第1速ドリブンギヤ11bとで構成されている。第1速ドライブギヤ11aは、第1入力軸4上に設けられており、第1入力軸4と一体に回転するように構成されている。第1速ドリブンギヤ11bは、出力軸6上に設けられており、出力軸6に対して相対回転可能となるように構成されている。
【0019】
第2速用ギヤ列12は、互いに噛合する第2速ドライブギヤ12aと第2速ドリブンギヤ12bとで構成されている。第2速ドライブギヤ12aは、第2入力軸5上に設けられており、第2入力軸5と一体に回転するように構成されている。第2速ドリブンギヤ12bは、出力軸6上に設けられており、出力軸6に対して相対回転可能となるように構成されている。
【0020】
第3速用ギヤ列13は、互いに噛合する第3速ドライブギヤ13aと第3速ドリブンギヤ13bとで構成されている。第3速ドライブギヤ13aは、第1入力軸4上に設けられており、第1入力軸4と一体に回転するように構成されている。第3速ドリブンギヤ13bは、出力軸6上に設けられており、出力軸6に対して相対回転可能となるように構成されている。
【0021】
第4速用ギヤ列14は、互いに噛合する第4速ドライブギヤ14aと第4速ドリブンギヤ14bとで構成されている。第4速ドライブギヤ14aは、第2入力軸5上に設けられており、第2入力軸5と一体に回転するように構成されている。第4速ドリブンギヤ14bは、出力軸6上に設けられており、出力軸6に対して相対回転可能となるように構成されている。
【0022】
また、出力軸6上には、第1速用ギヤ列11及び第3速用ギヤ列13に対応する1−3同期装置15と、第2速用ギヤ列12及び第4速用ギヤ列14に対応する2−4同期装置16とが設けられている。1−3同期装置15と2−4同期装置16はいずれも変速用の同期装置(シンクロメッシュ機構)であって、各変速用ギヤ列11〜14を構成する各ドリブンギヤ11b〜14bと出力軸6との間の動力伝達状態を切り換えるものである。
【0023】
1−3同期装置15は、出力軸6と一体回転し、かつ、出力軸6の軸方向に沿って移動可能なスリーブ15aを備えている。スリーブ15aが軸方向に沿って移動することにより、出力軸6と第1速ドリブンギヤ11b及び第3速ドリブンギヤ13bとの係合・解放の切り換えが行われるようになっている。スリーブ15aが第1速ドリブンギヤ11b側にある状態では、第1速ドリブンギヤ11bと出力軸6とが係合する。これにより、第1速用ギヤ列11を介して第1入力軸4と出力軸6との間で動力伝達が行われる。一方、スリーブ15aが第3速ドリブンギヤ13b側にある状態では、第3速ドリブンギヤ13bと出力軸6とが係合する。これにより、第3速用ギヤ列13を介して第1入力軸4と出力軸6との間で動力伝達が行われる。これに対して、スリーブ15aが第1速ドリブンギヤ11bと第3速ドリブンギヤ13bとの中間位置(中立位置)にあるときは、第1速ドリブンギヤ11bと第3速ドリブンギヤ13bの両方と出力軸6との間の係合が解除された状態になるので、第1入力軸4と出力軸6との間での動力伝達は行われない。
【0024】
2−4同期装置16は、出力軸6と一体回転し、かつ、出力軸6の軸方向に沿って移動可能なスリーブ16aを備えている。スリーブ16aが軸方向に沿って移動することにより、出力軸6と第2速ドリブンギヤ12b及び第4速ドリブンギヤ14bとの係合・解放の切り換えが行われるようになっている。スリーブ16aが第2速ドリブンギヤ12b側にある状態では、第2速ドリブンギヤ12bと出力軸6とが係合する。これにより、第2速用ギヤ列12を介して第2入力軸5と出力軸6との間で動力伝達が行われる。一方、スリーブ16aが第4速ドリブンギヤ14b側にある状態では、第4速ドリブンギヤ14bと出力軸6とが係合する。これにより、第4速用ギヤ列14を介して第2入力軸5と出力軸6との間で動力伝達が行われる。これに対して、スリーブ16aが第2速ドリブンギヤ12bと第4速ドリブンギヤ14bとの中間位置(中立位置)にあるときは、第2速ドリブンギヤ12bと第4ドリブンギヤの両方と出力軸6との間の係合が解除された状態になるので、第2入力軸5と出力軸6との間での動力伝達は行われない。
【0025】
また、変速機3には、出力軸6と一体回転するファイナルドライブギヤ18aと、デファレンシャル機構19に設けたファイナルドリブンギヤ18bとが噛合してなる終減速ギヤ列18が設けられている。終減速ギヤ列18を介して出力軸6の駆動力がデファレンシャル機構19に伝達され、デファレンシャル機構19で当該駆動力が左右の駆動輪W,Wに配分されるようになっている。
【0026】
また、変速機3には、エンジン1の出力軸6(以下、「エンジン軸」という。)2と第1入力軸4及び第2入力軸5との間における動力伝達を制御するためのクラッチ機構30が設けられている。クラッチ機構30は、エンジン軸2と第1入力軸4との間の動力伝達の有無を切り換えるための第1クラッチ(奇数側クラッチ)C1と、エンジン軸2と第2入力軸5との間の動力伝達の有無を切り換えるための第2クラッチ(偶数側クラッチ)C2とを備えたダブルクラッチ機構である。第1クラッチC1と第2クラッチC2は、いずれも摩擦式のクラッチであり、それぞれに対して別個に係合圧もしくはトルク容量を制御可能に構成されている。変速機3は、上記構成の第1クラッチC1と第2クラッチC2とからなるダブルクラッチ機構30を備えたダブルクラッチ式の変速機である。
【0027】
上記の変速機3の動作を制御するための制御系について説明する。第1クラッチC1及び第2クラッチC2と、1−3同期装置15及び2−4同期装置16を駆動するためのアクチュエータ機構22と、アクチュエータ機構22を制御するためのコントローラ(制御手段)20とが設けられている。アクチュエータ機構22は、一例として油圧式の操作機構を用いることができ、該アクチュエータ機構22では、コントローラ20の指令に基づいて、後述する第1、第2クラッチC1,C2の第1、第2レリーズベアリング38,39(図2参照)や、1−3同期装置15のスリーブ15a及び2−4同期装置16のスリーブ16aを駆動するようになっている。
【0028】
また、変速機3には、後述する第1クラッチC1の第1摩擦ディスク32bの温度を検出するための第1クラッチ温度センサ23と、第2クラッチC2の第2摩擦ディスク33bの温度を検出するための第2クラッチ温度センサ24とが設けられている。第1クラッチ温度センサ23による検出値及び第2クラッチ温度センサ24による検出値は、コントローラ20に入力されるようになっている。
【0029】
次に、上記構成の変速機3の変速制御について説明する。変速機3で第1速段を設定するには、1−3同期装置15のスリーブ15aを第1速ドリブンギヤ11b側に移動させて、第1速ドリブンギヤ11bと出力軸6を係合させる。また、第1クラッチC1を係合して、第2クラッチC2を解放する。これにより、エンジン軸2と出力軸6との間で、第1クラッチC1および第1速用ギヤ列11を介して動力伝達が行われ、エンジン軸2と出力軸6との間の変速比が、第1速用ギヤ列11の第1速ドライブギヤ11aと第1速ドリブンギヤ11bの歯数比に応じた値となる。
【0030】
第2速段を設定するには、2−4同期装置16のスリーブ16aを第2速ドリブンギヤ12b側に移動させて、第2速ドリブンギヤ12bと出力軸6とを係合させる。また、第1クラッチC1を解放して、第2クラッチC2を係合する。これにより、エンジン軸2と出力軸6との間で、第2クラッチC1および第2速用ギヤ列12を介して動力伝達が行われ、エンジン軸2と出力軸6との間の変速比が、第2速用ギヤ列12の第2速ドライブギヤ12aと第2速ドリブンギヤ12bとの歯数比に応じた値となる。
【0031】
第3速段を設定するには、1−3同期装置15のスリーブ15aを第3速ドリブンギヤ13b側に移動させて、第3速ドリブンギヤ13bと出力軸6とを係合させる。また、第1クラッチC1を係合して、第2クラッチC2を解放する。これにより、エンジン軸2と出力軸6との間で、第1クラッチC1および第3速用ギヤ列13を介して動力伝達が行われ、エンジン軸2と出力軸6との間の変速比が、第3速用ギヤ列13の第3速ドライブギヤ13aと第3速ドリブンギヤ13bとの歯数比に応じた値となる。
【0032】
第4速段を設定するには、2−4同期装置16のスリーブ16aを第4速ドリブンギヤ14b側に移動させて、第4速ドリブンギヤ14bと出力軸6とを係合させる。また、第1クラッチC1を解放して、第2クラッチC2を係合する。これにより、エンジン軸2と出力軸6との間で、第2クラッチC1および第4速用ギヤ列14を介して動力伝達が行われ、エンジン軸2と出力軸6との間の変速比が、第4速用ギヤ列14の第4速ドライブギヤ14aと第4速ドリブンギヤ14bとの歯数比に応じた値となる。
【0033】
次に、ダブルクラッチ機構30の具体的な構成例及び動作について説明する。図2は、本発明の第1実施形態にかかるダブルクラッチ機構30の構成例を示す側断面図である。同図に示すダブルクラッチ機構30は、変速機3のハウジング(図示せず)に回転自在に支持された第2入力軸5と、軸受ブッシュ41を介して第2入力軸5と同軸上で回転自在に支持された第1入力軸4とを備えると共に、エンジン軸2(図1参照)側に連結されたクラッチハウジング31と、クラッチハウジング31内に設けた第1クラッチC1及び第2クラッチC2を備えている。
【0034】
クラッチハウジング31は、軸方向の中間に位置するセンタープレート(入力部材)31aと、該センタープレート31aの両側に固定された第1カバープレート31b及び第2カバープレート31cとからなる。クラッチハウジング31は、第1カバープレート31bを介してエンジン軸2に連結されている。また、センタープレート31aの中心部は、軸受50を介して第2入力軸5の先端部に回転自在に連結されている。
【0035】
第1クラッチC1と第2クラッチC2は、センタープレート31aの軸方向の両側それぞれに配置された第1クラッチディスク32と第2クラッチディスク33とを備えている。第1クラッチディスク32は、中心部が第1入力軸4の先端側にスプライン係合している。第1クラッチディスク32の外周側の軸方向の両面には、摩擦ディスク32bが固定されており、摩擦ディスク32bの一方の側面は、センタープレート31aの一方の側面に当接可能である。第2クラッチディスク33は、中心部が第2入力軸5の先端部にスプライン係合している。この第2クラッチディスク33の外周側の軸方向の両面には、摩擦ディスク33bが固定されており、摩擦ディスク33bの一方の側面は、センタープレート31aの他方の側面に当接可能である。
【0036】
第1クラッチディスク32の摩擦ディスク32bと第1カバープレート31bとの間には、第1プレッシャープレート(第1押圧部材)34が設けられている。第1プレッシャープレート34は、第1カバープレート31bと一体に回転し、かつ線方向に沿って若干移動可能に設置されている。第1プレッシャープレート34は、図示しないスプリングの付勢力でセンタープレート31aから離間する方へ付勢されている。したがって、後述する第1レリーズベアリング38が作動していない状態では、第1プレッシャープレート34が摩擦ディスク32bから離間しており、第1クラッチディスク32がクラッチハウジング31に対して回転自在となっている。
【0037】
また、第1プレッシャープレート34の外周部の複数箇所には、外向きに突出する突出部34cが形成されている。突出部34cの軸方向の端面には、第2カバープレート31cの外側を覆う作動板34aの一端が固定されている。また、作動板34aの他端には、第1ダイヤフラムスプリング36が取り付けられている。第1ダイヤフラムスプリング36は、その外周縁が作動板34aに係合しており、外周縁よりも内側の部分が第2カバープレート31cの端部に当接している。また、第1ダイヤフラムスプリング36の内周縁には、第1入力軸4及び第2入力軸5と同軸上に設置された第1レリーズベアリング38が係合している。
【0038】
また、第2クラッチディスク33の摩擦ディスク33bと第2カバープレート31cの間には、第2プレッシャープレート(第2押圧部材)35が設けられている。第2プレッシャープレート35は、第2カバープレート31cと一体に回転し、かつ軸方向に沿って若干移動可能に設置されている。第2プレッシャープレート35は、図示しないスプリングの付勢力でセンタープレート31aから離間する方へ付勢されている。したがって、後述する第2レリーズベアリング39が作動していない状態では、第2プレッシャープレート35が摩擦ディスク33bから離間しており、第2クラッチディスク33がクラッチハウジング31に対して回転自在となっている。
【0039】
第2カバープレート31cの中間部の内側には、第2ダイヤフラムスプリング37が取り付けられている。第2ダイヤフラムスプリング37は、その外周縁が第2カバープレート31cに係合しており、外周縁よりも内側の部分が第2プレッシャープレート35の背面に形成された突起部35aに当接している。また、第2ダイヤフラムスプリング37の内周縁には、第1入力軸4及び第2入力軸5と同軸上に設置された第2レリーズベアリング39が係合している。
【0040】
第1クラッチC1は、上記の第1クラッチディスク32及び第1摩擦ディスク32bとセンタープレート31aと第1プレッシャープレート34とで構成されており、第2クラッチC2は、上記の第2クラッチディスク33及び第2摩擦ディスク33bとセンタープレート31aと第2プレッシャープレート35とで構成されている。
【0041】
上記構成のダブルクラッチ機構30では、エンジン軸2に連結されたクラッチハウジング31と第1、第2入力軸4,5との間のトルク伝達は、次のようにして制御される。すなわち、第1ダイヤフラムスプリング36と第2ダイヤフラムスプリング37とが図2の実線で示す位置にある非作動状態では、第1クラッチC1と第2クラッチC2は共に解放されている。その状態から、第1レリーズベアリング38を図2に示す左向きに移動させると、第1ダイヤフラムスプリング36が、第2カバープレート31cとの当接部を支点として同図の一点鎖線で示すように変形する。これにより、第1プレッシャープレート34が作動板34aと共にクラッチハウジング31に対して右向きに移動することで、センタープレート31aと第1プレッシャープレート34との間に第1摩擦ディスク32bが挟持される。これにより、第1クラッチC1が係合して、クラッチハウジング31に連結されたエンジン軸2のトルクが第1入力軸4に伝達される。この第1クラッチC1の係合状態では、第1クラッチC1の伝達トルクの大きさは、第1レリーズベアリング38に加える押圧力を調整することで制御される。
【0042】
また、第2レリーズベアリング39を左向きに移動させると、第2ダイヤフラムスプリング37が、第2カバープレート31cとの係合部を支点として同図の一点鎖線で示すように変形する。これにより、第2プレッシャープレート35がクラッチハウジング31に対し左向きに移動することで、センタープレート31aと第2プレッシャープレート35との間に第2摩擦ディスク33bが挟持される。これにより、第2クラッチC2が係合して、クラッチハウジング31に連結されたエンジン軸2のトルクが第2入力軸5に伝達される。この第2クラッチC2の係合状態では、第2クラッチC2の伝達トルクの大きさは、第2レリーズベアリング39に加える押圧力を調整することで制御される。
【0043】
本実施形態のダブルクラッチ式の変速機3では、第1速段での走行時(車両の発進時及び低速走行時など)において、第1クラッチC1を完全係合状態とせず、半係合状態(クリープ状態)とすることにより、クリープトルクを発生させることが可能である。しかしながらこの場合、第1クラッチC1の半係合状態を長時間に渡って継続すると、第1摩擦ディスク32bの温度が許容範囲を超えて上昇することで、ダブルクラッチ機構30に劣化や損傷などの不具合が生じるおそれがある。このことから、本実施形態では、第1クラッチC1の過度の温度上昇を抑制するために、第1クラッチC1の温度あるいは半係合状態の継続時間を監視して、これらが所定値に達した場合に第2クラッチC2を係合(完全係合)させる制御を行う。これにより、第1クラッチC1の第1摩擦ディスク32bの熱容量を増加させて、ダブルクラッチ機構30の耐久性の向上を図るようにしている。以下、この制御をクラッチ温度制御といい、当該制御について詳細に説明する。
【0044】
図3は、第1クラッチC1の温度制御における各値の変化を示すタイミングチャートである。また、図4は、第1クラッチC1の温度制御の手順を説明するためのフローチャートである。図3では、エンジン軸2の回転数(クラッチ入力回転数)、変速機3の出力軸6の回転数(クラッチ出力回転数)、車両速度、第1クラッチC1に対する制御信号、エンジントルク、クラッチトルク、2−4同期装置16に対する制御信号、第2クラッチC2に対する制御信号、第1クラッチC1の温度それぞれの経過時間に対する変化を示している。
【0045】
まず、図3のタイミングチャートを参照して第1クラッチC1の温度制御について説明すると、車両の発進時には、1−3同期装置15のスリーブ15aを第1速ドリブンギヤ11b側に移動させて第1速ドリブンギヤ11bと出力軸6を係合させると共に、第1クラッチC1を締結することで、第1速段を設定して車両を走行させる。このとき、第1クラッチC1を完全係合状態とせず半係合状態(クリープ状態)とすることで、クリープトルクを発生させる。これにより、車両の発進時にエンジントルクが上昇し、その後クラッチトルクが徐々に増加してゆく。また、出力軸6の回転数及び車速が徐々に増加してゆく。また、第1クラッチC1をクリープ状態とすることで、第1クラッチC1の温度(第1摩擦ディスク32bの温度)が徐々に上昇してゆく。
【0046】
そして、第1クラッチC1の温度がクラッチ温度制御の開始を判定するための設定温度T1に達した時点で、2−4同期装置16のスリーブ16aを中立位置にして、第2速ドリブンギヤ12bと第4速ドリブンギヤ14bの両方と出力軸6との間の係合を解除すると共に、第2クラッチC2を締結する。このとき、第2クラッチC2は完全締結状態とする。これにより、センタープレート31aを介して第1クラッチC1の第1摩擦ディスク32bと第2クラッチC2の第2摩擦ディスク33bとが一体に結合された状態となるので、第1摩擦ディスク32bの熱容量を増加させることができる。したがって、それ以降の第1クラッチC1の温度上昇を抑制することができる。
【0047】
次に、図4のフローチャートを参照して、上記の第1クラッチC1の温度制御の手順を説明する。まず、第1クラッチC1がスリップ制御中(クリープ状態)であるか否かを判断する(ステップST1−1)その結果、第1クラッチC1がスリップ制御中でなければ(NO)、第1クラッチC1の温度制御を終了し、スリップ制御中であれば(YES)、続けて、第1クラッチC1の温度Tがクラッチ温度制御の開始を判定するための設定温度T1以上であるか否かを判断する(ステップST1−2)。その結果、第1クラッチC1の温度Tが設定温度T1未満であれば(NO)、ステップST1に戻る。一方、第1クラッチC1の温度Tが設定温度T1以上であれば(YES)、2−4同期装置16のスリーブ16aを中立位置にして、第2速ドリブンギヤ12bと第4ドリブンギヤの両方と出力軸6との係合を解除する(ステップST1−3)。さらに、第2クラッチC2を締結(完全締結)する(ステップST1−4)。なお、この第2クラッチC2の締結動作は、図2に示す第2レリーズベアリング39及び第2ダイヤフラムスプリング37を、同図の実線で示す非作動位置から一点鎖線で示す作動位置へ移動させることにより、第2プレッシャープレート35で第2摩擦ディスク33bをセンタープレート31aに対して押圧係合させて行われる。このように、図4に示す手順では、第1クラッチC1の温度に基づいて、第1クラッチC1の温度制御の開始を判断している。
【0048】
図5は、第1クラッチC1の温度制御における他の手順を説明するためのフローチャートである。この制御では、まず、第1クラッチC1がスリップ制御中であるか否かを判断する(ステップST2−1)その結果、スリップ制御中でなければ(NO)、第1クラッチC1の温度制御を終了し、スリップ制御中であれば(YES)、続けて、第1クラッチC1のスリップ制御(クリープ状態)の継続時間tがクラッチ温度制御の開始を判定するための設定時間t1以上であるか否かを判断する(ステップST2−2)。その結果、第1クラッチC1のスリップ制御の継続時間が設定時間t1未満であれば(NO)、ステップST1に戻る。一方、第1クラッチC1のスリップ制御の継続時間が設定時間t1以上であれば(YES)、2−4同期装置16のスリーブ16aを中立位置にして、第2速ドリブンギヤ12bと第4速ドリブンギヤ14bの両方と出力軸6との係合を解除する(ステップST2−3)。さらに、第2クラッチC2を締結(完全締結)する(ステップST2−4)。すなわち、図5に示す手順では、第1クラッチC1のスリップ制御(クリープ状態)の継続時間に基づいて、第1クラッチC1の温度制御の開始を判断している。
【0049】
このように、図3及び図4に示す例では、第1クラッチC1の温度に基づいて、第1クラッチC1の温度制御の開始を判断し、図5に示す例では、第1クラッチC1のスリップ制御(クリープ状態)の継続時間に基づいて、第1クラッチC1の温度制御の開始を判断するようにしたが、これ以外にも、第1クラッチC1の温度制御の開始は、第1クラッチC1の温度と第1クラッチC1のスリップ制御(クリープ状態)の継続時間との両方に基づいて判断するようにしてもよい。すなわちその場合は、第1クラッチC1の温度Tが上記の設定温度T1以上になり、かつ第1クラッチC1のスリップ制御の継続時間tが上記の設定時間t1以上になった時点で、2−4同期装置16のスリーブ16aを中立位置にすると共に、第2クラッチC2を締結(完全締結)する。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の第1クラッチC1の温度制御では、車両が平坦路及び登坂路での低速走行中に、変速機3の変速段を1速状態にして、第1クラッチ(奇数側クラッチ)C1を半係合状態(クリープ状態)とした場合に行われる。すなわちこの場合、第1クラッチC1の半係合状態での車両の低速走行が長く続き、第1クラッチC1(第1摩擦ディスク32b)の温度とクリープ状態の継続時間との少なくともいずれかが設定値に達したら、第2入力軸5と出力軸6との間に設けた2−4同期装置16の噛合状態を中立状態にすることで、第2入力軸5から出力軸6への駆動力伝達が行われないようにした上で、第2クラッチ(偶数側クラッチ)C2を完全締結させる。この第2クラッチC2の完全締結状態を保持することにより、第1クラッチC1の第1摩擦ディスク32bの熱容量(クラッチ熱容量)が増加するため、第1クラッチC1を含むダブルクラッチ機構30の耐久性の低下を抑制することができる。
【0051】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。この点は、他の実施形態においても同様である。図6は、第2実施形態にかかるダブルクラッチ機構30−2を示す図で、(a)は、ダブルクラッチ機構30−2の一部を示す側断面図、(b)は、後述する第1補助プレート44(第2補助プレート45)の一部を軸方向から見た図である。
【0052】
本実施形態のダブルクラッチ機構30−2は、第1クラッチC1が備える第1プレッシャープレート34に取り付けた放熱用の第1補助プレート(板状部材)44と、第2クラッチC2が備える第2プレッシャープレート35に取り付けた放熱用の第2補助プレート(板状部材)45とを備えている。第1、第2補助プレート44,45は、いずれも銅など熱伝導性の良好な金属で構成された互いに同一形状の平板状部材で、第1、第2プレッシャープレート34,35の外形に一致する円形環状の周縁部44a,45aを有している。また、周縁部44a,45aの内側は、中心部から径方向の外側に向かって放射状に形成された縦リブ部44b,45bと、その部分から円周方向に沿って延びる横リブ部44c,45cとで格子状に形成されている。そして、周縁部44a,45aの側面が第1、第2プレッシャープレート34,35の第1、第2摩擦ディスク32b,33bと反対側の面に固定されている。第1、第2補助プレート44,45の第1、第2プレッシャープレート34,35に対する固定構造は、第1、第2補助プレート44,45に形成した円柱状の小突起からなる第1、第2リベット部44d,45dを第1、第2プレッシャープレート34,35に貫通させている。第1、第2リベット部44d,45dは、第1、第2プレッシャープレート34,35の断面を貫通して、それらの先端部が第1、第2摩擦ディスク32b,33b側に露出しており、該先端部が第1、第2摩擦ディスク32b,33bに接触可能となっている。
【0053】
本実施形態のダブルクラッチ機構30−2では、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の第1、第2プレッシャープレート34,35に、上記構成の第1、第2補助プレート44,45を取り付けたことで、第1、第2プレッシャープレート34,35の表面積を増加させることができる。これにより、第1、第2プレッシャープレート34,35の熱を第1、第2補助プレート44,45に伝達させて、第1、第2補助プレート44,45を介して効果的な放熱を行うことが可能となる。したがって、第1、第2摩擦ディスク32b,33bの温度上昇に対する耐久性をさらに向上させることが可能となる。また、第1、第2補助プレート44,45を固定するための第1、第2リベット部44d,45dを第1、第2プレッシャープレート34,35に貫通させて第1、第2摩擦ディスク32b,33b側に露出させたことで、第1、第2リベット部44d,45dを介して第1、第2摩擦ディスク32b,33bの発熱を第1、第2補助プレート44,45に対して直接的に伝達できるようになる。したがって、第1、第2摩擦ディスク32b,33b及び第1、第2プレッシャープレート34,35の放熱をさらに効果的に行えるようになる。なお、第1、第2補助プレート44,45の具体的な形状や材質は、上記のものには限定されず、他の形状や材質であってもよい。なお、第1、第2補助プレート44,45は、いずれか一方のみを設けることも可能である。
【0054】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図7は、本発明の第3実施形態にかかるダブルクラッチ構造が備える第1プレッシャープレート34−2(第2プレッシャープレート35−2)を示す図で、(a)は、軸方向から見た図、(b)は、(a)のA矢視図、(c)は、(a)のB−B´断面図である。
【0055】
本実施形態のダブルクラッチ機構は、第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2の放熱を促進させるための放熱形状として、第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2にフィン形状部47,48を設けている。フィン形状部47,48は、図7(b)及び(c)に示すように、第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2の外周側面34−2a,35−2aに複数のフィン溝47a,48aを形成し、該フィン溝47a,48aの間の部分を第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2の径方向の外側へ突出するフィン状に形成している。フィン溝47a,48aは、第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2の外周側面34−2a,35−2aにおいて、周方向に延びる直線状の細溝として形成されており、複数が適宜の間隔で配列されている。このようなフィン形状部47,48を設けたことで、第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2の外周側面34−2a,35−2aの表面積を増加させて、第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2からの放熱を促進させるようにしている。
【0056】
図7では、第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2の外周側面34−2a,35−2aに設けた複数のフィン溝47a,48aでフィン形状部47,48を形成した場合を示したが、フィン形状部47,48は、他の構成であってもよい。例えば、図示は省略するが、第1、第2プレッシャープレート34−2,35−2の外周側面34−2a,35−2aに薄板状の突起部などを形成することも可能である。なお、フィン形状部47,48は、いずれか一方のみを設けることも可能である。
【0057】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明にかかるクラッチの温度制御の具体例として、第1速段での走行時に第1クラッチC1のスリップ制御を行っている際に、第2クラッチC2を完全締結させることで、第1クラッチC1の温度上昇を抑制する場合を説明したが、本発明にかかるクラッチの温度制御としては、これ以外にも、第1速段以外の変速段(例えば偶数段)での走行時に第2クラッチC2のスリップ制御を行っている場合に、第1クラッチC1を完全締結させることで、第2クラッチC2の温度上昇を抑制する制御を行うことも可能である。この場合は、第2クラッチC2のスリップ制御を行っている状態で、1−3同期装置15のスリーブ15aを中立位置に配置して、第1入力軸4と出力軸6との間の動力伝達が行われないようにした上で、第1クラッチC1を完全係合させる制御を行うようにする。
【符号の説明】
【0058】
C1 第1クラッチ
C2 第2クラッチ
1 エンジン(駆動源)
2 エンジン軸(回転軸)
3 変速機(複数クラッチ式の変速機)
4 第1入力軸
5 第2入力軸
6 出力軸
10 駆動機構
11 第1速用ギヤ列
12 第2速用ギヤ列
13 第3速用ギヤ列
14 第4速用ギヤ列
15 1−3同期装置(第1同期装置)
16 2−4同期装置(第2同期装置)
20 コントローラ(クラッチ温度制御手段)
22 アクチュエータ機構
23 第1クラッチ温度センサ(クラッチ温度検出手段)
24 第2クラッチ温度センサ(クラッチ温度検出手段)
30 ダブルクラッチ機構(クラッチ機構)
31 クラッチハウジング
31a センタープレート(入力部材)
32 第1クラッチディスク(第1摩擦部材)
32b 第1摩擦ディスク(第1摩擦部材)
33 第2クラッチディスク(第2摩擦部材)
33b 第2摩擦ディスク(第2摩擦部材)
34 第1プレッシャープレート(第1押圧部材)
35 第2プレッシャープレート(第2押圧部材)
36 第1ダイヤフラムスプリング
37 第2ダイヤフラムスプリング
38 第1レリーズベアリング
39 第2レリーズベアリング
44,45 第1,第2補助プレート
47,48 第1、第2フィン形状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動力で回転する回転軸と、前記回転軸側に取り付けられた入力部材と、第1入力軸側に取り付けられた第1摩擦部材が前記入力部材に係合することで締結可能な第1クラッチと、第2入力軸側に取り付けられた第2摩擦部材が前記入力部材に係合することで締結可能な第2クラッチと、を少なくとも備えたクラッチ機構と、
前記第1入力軸又は前記第2入力軸から駆動力が伝達される一又は複数の出力軸と、
前記第1入力軸と前記出力軸との間に設けた所定の変速比を有する一又は複数のギヤ列からなる第1ギヤ群と、前記第1入力軸と前記出力軸の少なくとも一方に対する前記第1ギヤ群の一又は複数のギヤ列それぞれの係合・非係合を切替可能な一又は複数の第1同期装置と、
前記第2入力軸と前記出力軸との間に設けられた所定の変速比を有する一又は複数のギヤ列からなる第2ギヤ群と、前記第2入力軸と前記出力軸の少なくとも一方に対する前記第2ギヤ群の一又は複数のギヤ列それぞれの係合・非係合を切替可能な一又は複数の第2同期装置と、を備え、
前記第1クラッチを締結した状態で、前記第1同期装置で前記第1ギヤ群のいずれかのギヤ列を係合させて所定の変速段を設定するか、又は前記第2クラッチを締結した状態で、前記第2同期装置で前記第2ギヤ群のいずれかのギヤ列を係合させて所定の変速段を設定することで、所定の変速比で前記回転軸の回転を前記出力軸に伝達するように構成した複数クラッチ式の変速機の制御装置であって、
前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの温度を判断し、当該判断に基づいて前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの温度制御を行うクラッチ温度制御手段を備え、
前記クラッチ温度制御手段は、前記第1クラッチと前記第2クラッチのいずれか一方をクリープ状態で締結して所定の変速段を設定している状態で、当該クリープ状態で締結している第1クラッチ又は第2クラッチの温度が許容範囲を超えて上昇したと判断する場合、
クリープ状態で締結していない第1クラッチ又は第2クラッチに対応する前記第1ギヤ群又は前記第2ギヤ群のギヤ列を非係合状態に切り換えると共に、
当該クリープ状態で締結していない第1クラッチ又は第2クラッチを完全締結させる制御を行う
ことを特徴とする変速機の制御装置。
【請求項2】
前記クラッチ温度制御手段は、クラッチ温度検出手段で検出された前記第1クラッチの温度又は前記第2クラッチの温度と、前記第1クラッチ又は前記第2クラッチのクリープ状態の継続時間との少なくともいずれかに基づいて、前記第1クラッチ又は前記第2クラッチの温度制御の開始時点を判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の変速機の制御装置。
【請求項3】
前記クラッチ機構は、
前記第1摩擦部材を押圧して前記入力部材に係合させるための第1押圧部材と、前記第2摩擦部材を押圧して前記入力部材に係合させるための第2押圧部材と、を備え、
前記第1押圧部材と前記第2押圧部材の少なくともいずれかは、前記第1押圧部材の前記第1摩擦部材と反対の面側に取り付けた放熱用の板状部材、又は前記第2押圧部材の前記第2摩擦部材と反対の面側に取り付けた放熱用の板状部材を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の変速機の制御装置。
【請求項4】
前記クラッチ機構は、
前記第1摩擦部材を押圧して前記入力部材に係合させるための第1押圧部材と、前記第2摩擦部材を押圧して前記入力部材に係合させるための第2押圧部材と、を備え、
前記第1押圧部材と前記第2押圧部材の少なくともいずれかの外周側面に、該第1押圧部材又は第2押圧部材の放熱を促進させるためのフィン形状部を設けた
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−220016(P2012−220016A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90362(P2011−90362)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】