説明

多接合型太陽電池の製造方法

【課題】4接合太陽電池を実現でき、デバイスを大面積化できる多接合型太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の半導体からなる基板2上に核生成サイトを配設し、第1の原料ガスを供給し、核生成サイトに半導体3をワイヤー状に成長させる。第3〜4の原料ガスを供給し、半導体3上に半導体4を、半導体4上に半導体5をワイヤー状に成長させる。基板6上に核生成サイトを配設し、第1の原料ガスを供給して、核生成サイトに半導体2aをワイヤー状に成長させ、第2〜4の原料ガスを供給して、半導体2a上に半導体3を、半導体3上に半導体4を、半導体4上に半導体5ワイヤー状に成長させる。前記半導体は基板2,6に近いほどバンドギャップが狭く、離れるほどバンドギャップが広い。核生成サイトはAu等の触媒粒子からなる。半導体2,2aはGeであり、半導体3はInGaAsであり、半導体4はGaAsであり、半導体5はAlGaAsである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多接合型太陽電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、単一のpn接合からなる単接合型太陽電池が知られている。しかし、前記単接合型太陽電池の発電効率は、原料となる半導体材料の禁制帯幅Egにより決まる理論限界を有するため、どのような半導体材料を用いても地上における太陽光照射条件下では約30%にとどまることが知られている。
【0003】
そこで、前記単接合型太陽電池より高い発電効率を得るために、それぞれpn接合を有する複数の太陽電池を積層することにより形成された多接合型太陽電池が提案されている。前記多接合型太陽電池の最も簡単なものとして、図3に示す2接合太陽電池11が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
2接合太陽電池11は、裏面電極12上にボトムセル13とトップセル14とが、エピタキシャル成長によりこの順に積層され、トップセル14上に表面電極15が積層されている。2接合太陽電池11では、ボトムセル13はGaAsのpn接合からなり、トップセル14はInGaPのpn接合からなっている。
【0005】
前記多接合型太陽電池は、バンドギャップの異なる半導体同士を接合することにより太陽光スペクトルの利用領域を拡大することを基本原理とし、接合数を増やせば効率が上がることが知られている。例えば、4接合太陽電池がシミュレーションされており、高効率の太陽電池が期待されている。
【0006】
一方、通常、バンドギャップの異なる半導体の組み合わせでは互いに格子定数が異なっているため、該格子定数の大きく異なるもの同士を接合しようとすると、界面に欠陥が発生し、効率を向上させることができないという問題がある。前記問題は、前記欠陥に存在する多数の未結合手が、太陽光によって励起された励起子の再結合を促すために電力として取り出すことができないことによる。
【0007】
この結果、前記多接合型太陽電池を構成する半導体は、互いに異なるバンドギャップを有する一方、互いに類似する格子定数を有する材料の組み合わせ(いわゆる格子整合のとれた組み合わせ)に限られる。前記組み合わせに太陽光スペクトルとのマッチングを加味すると、前記半導体は、InGaPとGaAsとGeとの組み合わせ、或いはInGaPとInGaAsとGeとの組み合わせ等となり、3接合太陽電池を構成することが限界となっている。
【0008】
唯一、GaInNAsは、Ge及びGaAsと格子整合を維持しながら1eV程度のバンドギャップを有する材料として注目されており、InGaPとInGaAsとGaInNAsとGeとの組み合わせによる4接合太陽電池の研究が続けられている(例えば非特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、GaInNAsは、相分離や欠陥が発生するために、4接合太陽電池を実現するには結晶の成長が難しいという不都合がある。
【0010】
また、3接合太陽電池の性能は4cm以下のデバイスで評価されており、デバイスの面積が大きくなるほど効率が低下することが知られている(非特許文献2参照)。前記効率の低下は、2接合太陽電池あるいは3接合太陽電池であっても前記半導体の格子定数が互いに異なるために、接合界面付近で欠陥が発生することがあるためと考えられる。
【0011】
従って、多接合型太陽電池には、前記デバイスの面積を大きくすることが難しいという不都合がある。
【特許文献1】特開平9−64386号公報
【非特許文献1】J.F.Geisz, D.J.Friedman, C.Kramer, A.Kibbler, and S.R.Kurtz, "New Materials for Future Generations of III-V Solar Cells", NREL/CP-520-25631, National Renewable Energy Laboratory, December 1998.
【非特許文献2】Akira Ohmae, Yukiko Shimizu, and Yoshitaka Okada, "GaInNAs for Multi-Junction Tandem Solar Cells", Photovoltaic Energy Conversion, 2003. Proceedings of 3rd World conference on Volume 2, 12-16 May 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる不都合を解消して、4接合太陽電池を実現することができると共に、デバイスを大面積化することができる多接合型太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するために、本発明の多接合型太陽電池の製造方法の第1の態様は、第1の単接合型太陽電池を形成する第1の半導体からなる基板上に核生成サイトを配設する工程と、第1の原料ガスを供給して、該核生成サイトに第2の半導体からなる第2の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の製造方法の第1の態様では、まず、前記基板上に前記核生成サイトを配設し、次いで第1の原料ガスを供給する。このようにすると、前記核生成サイトを核として、第1の半導体がワイヤー状に成長し、第1の半導体からなる第2の単接合型太陽電池が形成される。前記第1の原料ガスの供給と、第1の半導体の成長とは、例えば、有機金属気相成長装置(以下、MOVPE装置と略記することがある)を用いて行うことができる。
【0015】
この結果、本発明の製造方法の第1の態様によれば、第1の半導体からなる前記基板上にワイヤー状の第2の半導体をエピタキシャル成長させることができ、前記第1の半導体からなる前記第1の単接合型太陽電池と、前記第2の半導体からなる前記第2の単接合型太陽電池とからなる多接合型太陽電池を形成することができる。
【0016】
本発明の製造方法の第1の態様では、ワイヤー状の前記第2の半導体が所定長に成長したならば、さらに第2の原料ガスを供給して、第2の単接合型太陽電池上に第3の半導体からなる第3の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程と、第3の原料ガスを供給して、第3の単接合型太陽電池上に第4の半導体からなる第4の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程とを備えることが好ましい。
【0017】
このようにすることにより、前記第1の原料ガスを供給して前記第2の半導体からなる前記第2の単接合型太陽電池を形成する工程と同様にして、第2の単接合型太陽電池上に、前記第3の半導体からなる前記第3の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させることができる。また同様に、前記第3の単接合型太陽電池上に、前記第4の半導体からなる前記第4の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させることができる。
【0018】
この結果、本発明の製造方法の第1の態様によれば、第1の半導体からなる前記基板上に、ワイヤー状の第2の半導体乃至第4の半導体をエピタキシャル成長させることができ、前記第1の単接合型太陽電池乃至前記第4の単接合型太陽電池が順次接合された4接合の多接合型太陽電池を形成することができる。
【0019】
次に、本発明の多接合型太陽電池の製造方法の第2の態様は、基板上に核生成サイトを配設する工程と、第1の原料ガスを供給して、該核生成サイトに第1の半導体からなる第1の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程と、第2の原料ガスを供給して、第1の単接合型太陽電池上に第2の半導体からなる第2の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程とを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の製造方法の第2の態様では、まず、前記基板上に前記核生成サイトを配設し、次いで第1の原料ガスを供給する。前記基板は、一般に太陽電池の製造に使用できる材料であればどのような材料からなるものであってもよく、半導体であってもよく、半導体でなくてもよい。このようにすると、前記核生成サイトを核として第1の半導体がワイヤー状に成長し、第1の半導体からなる第1の単接合型太陽電池が形成される。前記第1の原料ガスの供給と、第1の半導体の成長とは、前記第1の態様の場合と同様に、前記MOVPE装置を用いて行うことができる。
【0021】
ワイヤー状の前記第1の半導体が所定長に成長したならば、次に、第2の原料ガスを供給する。このようにすることにより、前記第1の原料ガスを供給して前記第1の半導体からなる前記第1の単接合型太陽電池を形成する工程と同様にして、第1の単接合型太陽電池上に、前記第2の半導体からなる前記第2の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させることができる。
【0022】
この結果、本発明の製造方法の第2の態様によれば、基板上にワイヤー状の第1の半導体と第2の半導体とをエピタキシャル成長させることができ、前記第1の半導体からなる前記第1の単接合型太陽電池と、前記第2の半導体からなる前記第2の単接合型太陽電池とからなる多接合型太陽電池を形成することができる。
【0023】
本発明の製造方法の第2の態様では、ワイヤー状の前記第2の半導体が所定長に成長したならば、さらに第3の原料ガスを供給して、第2の単接合型太陽電池上に第3の半導体からなる第3の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程と、第4の原料ガスを供給して、第3の単接合型太陽電池上に第4の半導体からなる第4の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程とを備えることが好ましい。
【0024】
このようにすることにより、前記第2の原料ガスを供給して前記第2の半導体からなる前記第2の単接合型太陽電池を形成する工程と同様にして、第2の単接合型太陽電池上に、前記第3の半導体からなる前記第3の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させることができる。また同様に、前記第3の単接合型太陽電池上に、前記第4の半導体からなる前記第4の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させることができる。
【0025】
この結果、本発明の製造方法の第2の態様によれば、基板上にワイヤー状の第1の半導体乃至第4の半導体をエピタキシャル成長させることができ、前記第1の単接合型太陽電池乃至前記第4の単接合型太陽電池が順次接合された4接合の多接合型太陽電池を形成することができる。
【0026】
また、前記のようにして4接合の多接合型太陽電池を形成するときには、それぞれ異なる半導体による多接合構造がワイヤー状の第1の半導体乃至第4の半導体により形成されることとなる。この結果、ワイヤー状の半導体同士の接合界面では、該接合界面が微小面積であることにより、格子定数の差に起因する歪みが緩和され、欠陥の発生を防止することができる。従って、格子定数の差に起因する材料選択の制限が緩和され、材料を組み合わせる際の選択肢を増加させることができる。
【0027】
また、本発明の製造方法の前記各態様によれば、基板上にワイヤー状の半導体をエピタキシャル成長させるので、得られた多接合型太陽電池はそれ自体ワイヤー状になる。従って、接合界面は微小であって欠陥が発生することが無く、前記ワイヤー状の多接合型太陽電池を前記基板上に無数に形成することにより大面積のデバイスを得ることができる。
【0028】
本発明の製造方法の前記各態様において、前記半導体は前記基板に近接するほどバンドギャップが狭く、該基板から離間するほどバンドギャップが広くなるように配設されていることが好ましい。
【0029】
また、本発明の製造方法の前記各態様において、前記核生成サイトは触媒粒子からなることが好ましい。前記核生成サイトが前記触媒粒子からなることにより、該触媒粒子を核として、前記半導体が容易にワイヤー状に成長することができる。前記触媒粒子としては、例えばAuからなる粒子を挙げることができる。
【0030】
さらに、本発明の製造方法の前記各態様において、前記第1の半導体はGeであり、第2の半導体はInGaAsであり、第3の半導体はGaAsであり、第4の半導体はAlGaAsであることが好ましい。前記第1の半導体乃至第4の半導体を前記材料により構成することにより、各半導体の接合界面で欠陥を発生させることなく、各半導体をエピタキシャル成長させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の製造方法の第1の態様により得られる多接合型太陽電池の構成を示す説明的断面図であり、図2は本実施形態の製造方法の第2の態様により得られる多接合型太陽電池の構成を示す説明的断面図である。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の製造方法の第1の態様により得られる多接合型太陽電池1aは、第1の半導体からなる基板2と、基板2上にワイヤ状に成長せしめられた第2の半導体3と、第2の半導体3の基板2から離間する側の端部に接続し、ワイヤ状に成長せしめられた第3の半導体4と、第3の半導体4の基板2から離間する側の端部に接続し、ワイヤ状に成長せしめられた第4の半導体5とからなる。多接合型太陽電池1aにおいて、半導体1は第1の太陽電池を、半導体2は第2の太陽電池を、半導体3は第3の太陽電池を、半導体4は第4の太陽電池を形成しており、多接合型太陽電池1aは4接合太陽電池を形成している。
【0033】
多接合型太陽電池1aにおいて、例えば、基板2を形成する第1の半導体はGe(111)からなるものを、第2の半導体3はIn0.34Ga0.67Asからなるものを、第3の半導体4はGaAsからなるものを、第4の半導体5はAl0.25Ga0.75Asからなるものを、それぞれ用いることができる。基板2は例えば2インチのGe(111)結晶であり、半導体3,4,5は例えばそれぞれ1μmの長さを備えている。
【0034】
図1に示す多接合型太陽電池1aは、例えば、次のようにして製造することができる。
【0035】
多接合型太陽電池1aの製造では、第1工程として、Ge(111)からなる基板2上に、核生成サイトとなる触媒粒子を配設する。前記触媒粒子としては、例えば、平均粒子径20nmのAu粒子を用いることができる。
【0036】
前記Au粒子を基板2上に配設するには、まず、クロロホルムを溶媒としオクタデカンチオールを保護剤とする平均粒子径20nmのAuコロイドと、クロロホルムを溶媒としオレイン酸を保護剤とする平均粒子径12nmのAgコロイドとを準備する。そして、Au粒子数とAg粒子数との比が1:2となるように両コロイドを混合し、混合コロイドを形成する。
【0037】
次に、前記混合コロイドを、LB(Langmuir-Blodgett)膜製造装置のトラフ内の純水面上に滴下し、表面圧−占有面積(π−A)曲線を測定しながら、面圧が10mNになるまで圧縮し、LB膜を作成する。
【0038】
次に、前記LB膜を基板2上に転写する。基板2は、予め10重量%−HF水溶液にて処理して、表面の自然酸化膜が除去されている。
【0039】
次に、前記LB膜が転写された基板2を、1重量%−硝酸水溶液に浸漬し、Ag粒子を溶解させて除去する。このようにすることにより、Au粒子同士の間の距離が保たれ、加熱してもAu粒子同士が結合することが防止される。
【0040】
次に、Ag粒子が除去された基板2を、真空中で540℃に加熱して、残留する有機成分を除去した後、室温まで冷却する。この結果、基板2上に、平均粒子径20nmのAu粒子が均一に配設される。
【0041】
多接合型太陽電池1a製造の第2工程では、前記Au粒子が配設されたGe(111)からなる基板2上に、In0.34Ga0.67Asからなる第2の半導体3を成長させる。
【0042】
第2の半導体3を成長させるには、まず、前記Au粒子が配設された基板2を有機金属気相成長装置(MOVPE装置)の反応室内に装着し、MOVPE装置内をHガスでパージする。
【0043】
次に、Hガス気流下に、基板2の温度が480℃になるまで昇温する。そして、基板2の温度が480℃に達したならば、Hガスをキャリアガスとして前記反応室に第1の原料ガスを供給する。
【0044】
前記第1の原料ガスは、トリメチルインジウム(以下TMIと略記する)、トリメチルガリウム(以下TMGと略記する)、AsHの混合ガスであり、例えばTMIとTMGとのモル比がTMI:TMG=1:2であり、TMIとTMGとの合計とAsHとのモル比が(TMI+TMG):AsH=1:150となるように設定される。この結果、基板2上に配設された前記Au粒子が触媒として作用し核生成サイトとなって、該Au粒子が配設された位置に、In0.34Ga0.67Asからなる第2の半導体3がワイヤー状に成長する。
【0045】
多接合型太陽電池1a製造の第3工程では、基板2上にワイヤー状に成長した第2の半導体3の基板2から離間する側の端部に、GaAsからなる第3の半導体4を成長させる。
【0046】
第3の半導体4を成長させるには、第2の半導体3が所定の長さ、例えば1μmの長さに成長したところで、Hガスをキャリアガスとして前記反応室に供給されるガスを第1の原料ガスから第2の原料ガスに切り替える。切替のための中断時間(interruptin time)は、例えば10秒間に設定される。
【0047】
前記第2の原料ガスは、TMGとAsHとの混合ガスであり、例えばTMIとAsHとのモル比がTMG:AsH=1:95となるように設定される。この結果、In0.34Ga0.67Asからなる第2の半導体3の基板2から離間する側の端部に、GaAsからなる第3の半導体4がワイヤー状に成長する。
【0048】
多接合型太陽電池1a製造の第4工程では、ワイヤー状に成長した第3の半導体4の基板2から離間する側の端部に、Al0.25Ga0.75Asからなる第4の半導体5を成長させる。
【0049】
第4の半導体5を成長させるには、第3の半導体4が所定の長さ、例えば1μmの長さに成長したところで、Hガスをキャリアガスとして前記反応室に供給されるガスを第2の原料ガスから第3の原料ガスに切り替える。切替のための中断時間は、例えば10秒間に設定される。
【0050】
前記第3の原料ガスは、トリメチルアルミニウム(以下TMAと略記する)、TMG、AsHの混合ガスであり、例えばTMAとTMGとのモル比がTMA:TMG=3:7であり、TMAとTMGとの合計とAsHとのモル比が(TMA+TMG):AsH=1:200となるように設定される。この結果、GaAsからなる第3の半導体4の基板2から離間する側の端部に、Al0.25Ga0.75Asからなる第4の半導体5がワイヤー状に成長する。
【0051】
次に、第4の半導体5が所定の長さ、例えば1μmの長さに成長したところで、前記反応室に供給されるガスを第3の原料ガスから、20vol%のAsHが混合されたHガスに切り替え、第4の半導体5の成長を停止させる。そして、20vol%のAsHが混合されたHガス気流下に冷却した後、得られた多接合型太陽電池1aを取り出す。
【0052】
次に、表1に多接合型太陽電池1aを形成している各半導体のバンドギャップと格子定数とを示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、本実施形態の製造方法の第1の態様により得られた多接合型太陽電池1aでは、Ge(111)からなる基板2自体を含め、基板2に近接するほどバンドギャップが狭く、基板2から離間するほどバンドギャップが広くなるように、各半導体1〜4が配設されていることが明らかである。
【0055】
また、多接合型太陽電池1aでは、半導体1,3,4の格子定数はいずれも約5.655Aであり、格子整合が取れているが、In0.34Ga0.67Asからなる第2の半導体3のみは格子定数が5.778Aとなっている。この結果、Ge(111)からなる基板2と第2の半導体3との接合界面、第2の半導体3と第3の半導体4との接合界面に約2.3%の格子の不整合が生じる。
【0056】
そこで、次に、各半導体1,2,3,4の接合界面を高性能透過電子顕微鏡で観察し、該接合界面における欠陥の有無を調査した。
【0057】
前記調査を行うに当たって、まず、プラズマ化学気相成長により基板2上に酸化ケイ素膜を堆積させ、ワイヤー状に成長した半導体3,4,5を該酸化ケイ素膜に埋め込んで保護するようにした。次に、収束イオンビームを用いて基板2を切断し、ワイヤー状に成長した半導体3,4,5をエタノール中で超音波分散させて懸濁液とし、該懸濁液を透過電子顕微鏡のグリッド上に滴下し、乾燥させたものを、高性能透過電子顕微鏡観察に供した。
【0058】
前記高性能透過電子顕微鏡の観察によれば、ワイヤー状に成長した半導体3,4,5の直径は、前記Au粒子の平均粒子径に等しい20nmのものが殆どであったが、直径50nm程度のものも含まれていた。直径50nmのものは、成長時に前記Au粒子の凝集があったものと思われる。また、ワイヤー状に成長した半導体3,4,5は、直径に関わらず、その異なる半導体の接合界面(ヘテロ接合界面)に欠陥は認められなかった。
【0059】
従って、4接合太陽電池としての多接合型太陽電池1aによれば、入射光によって生成したキャリアが前記ヘテロ接合界面で再結合することがなく、高効率を達成することができる。
【0060】
ところで、基板2とワイヤー状の半導体3との間のヘテロ結合界面部は、ワイヤー状の半導体3,4,5同士のヘテロ結合界面部に比べて歪みの緩和の程度が小さい。このため、本実施形態の製造方法の第1の態様では、基板2とワイヤー状の半導体3との間のヘテロ結合界面部に欠陥が発生する場合があり得る。
【0061】
そこで、図2に示すように、本実施形態の製造方法の第2の態様により得られる多接合型太陽電池1bは、半導体基板6と、基板6上にワイヤ状に成長せしめられた第1の半導体2aと、第1の半導体2aの基板6から離間する側の端部に接続し、ワイヤ状に成長せしめられた第2の半導体3と、第2の半導体3の基板6から離間する側の端部に接続し、ワイヤ状に成長せしめられた第3の半導体4と、第3の半導体4の基板6から離間する側の端部に接続し、ワイヤ状に成長せしめられた第4の半導体5とからなる。多接合型太陽電池1bにおいて、半導体1は第1の太陽電池を、半導体2は第2の太陽電池を、半導体3は第3の太陽電池を、半導体4は第4の太陽電池を形成しており、多接合型太陽電池1bは4接合太陽電池を形成している。
【0062】
多接合型太陽電池1bにおいて、基板6は半導体であり、例えば、Ge等からなるものを挙げることができる。この場合、第1の半導体2aは基板6と同種の材料であるGeからなるものを用い、第1の半導体2aをワイヤ状に成長せしめた後、第2の半導体3、第3の半導体4、第4の半導体5をワイヤ状に成長せしめることにより、基板6とワイヤー状の半導体2aとの間のヘテロ結合界面部における欠陥発生を抑制することができる。
【0063】
前記第2の半導体3はIn0.34Ga0.67Asからなるものを、第3の半導体4はGaAsからなるものを、第4の半導体5はAl0.25Ga0.75Asからなるものを、それぞれ用いることができる。基板6は例えば2インチであり、半導体2a,3,4,5は例えばそれぞれ1μmの長さを備えている。
【0064】
多接合型太陽電池1bは、前記多接合型太陽電池1aの製造方法において、第1の原料ガスとしてトリメチルゲルマニウム(TMGe)を用いて、基板6上にGeからなる第1の半導体2aを成長させた後、第2の原料ガス、第3の原料ガス、第4の原料ガスに順次切り替える以外は、前記多接合型太陽電池1aと全く同一にして製造することができる。多接合型太陽電池1bの製造における前記第2の原料ガスとしては、前記多接合型太陽電池1aの製造における第1の原料ガスを用いることができ、多接合型太陽電池1bの製造における前記第3の原料ガスとしては、前記多接合型太陽電池1aの製造における第2の原料ガスを用いることができ、多接合型太陽電池1bの製造における前記第4の原料ガスとしては、前記多接合型太陽電池1aの製造における第3の原料ガスを用いることができる。
【0065】
尚、本実施形態では、基板6としてGe等からなる半導体を用いる場合について説明しているが、基板6は半導体に限らず、一般に太陽電池の製造に使用できる材料であればどのような材料からなるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の製造方法により得られる多接合型太陽電池の一構成例を示す説明的断面図。
【図2】本発明の製造方法により得られる多接合型太陽電池の他の構成例を示す説明的断面図。
【図3】従来の多接合型太陽電池の一構成例を示す説明的断面図。
【符号の説明】
【0067】
1a,1b…多接合型太陽電池、 2,6…基板、 2,2a…第1の半導体、 3…第2の半導体、 4…第3の半導体、 5…第4の半導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の単接合型太陽電池を形成する第1の半導体からなる基板上に核生成サイトを配設する工程と、
第1の原料ガスを供給して、該核生成サイトに第2の半導体からなる第2の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程とを備えることを特徴とする多接合型太陽電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の多接合型太陽電池の製造方法において、
さらに第2の原料ガスを供給して、第2の単接合型太陽電池上に第3の半導体からなる第3の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程と、
第3の原料ガスを供給して、第3の単接合型太陽電池上に第4の半導体からなる第4の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程とを備えることを特徴とする多接合型太陽電池の製造方法。
【請求項3】
基板上に核生成サイトを配設する工程と、
第1の原料ガスを供給して、該核生成サイトに第1の半導体からなる第1の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程と、
第2の原料ガスを供給して、第1の単接合型太陽電池上に第2の半導体からなる第2の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程とを備えることを特徴とする多接合型太陽電池の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の多接合型太陽電池の製造方法において、
さらに第3の原料ガスを供給して、第2の単接合型太陽電池上に第3の半導体からなる第3の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程と、
第4の原料ガスを供給して、第3の単接合型太陽電池上に第4の半導体からなる第4の単接合型太陽電池をワイヤー状に成長させる工程とを備えることを特徴とする多接合型太陽電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の多接合型太陽電池の製造方法において、前記半導体は前記基板に近接するほどバンドギャップが狭く、該基板から離間するほどバンドギャップが広くなるように配設されていることを特徴とする多接合型太陽電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の多接合型太陽電池の製造方法において、前記核生成サイトは触媒粒子からなることを特徴とする多接合型太陽電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の多接合型太陽電池の製造方法において、前記触媒粒子はAuからなることを特徴とする多接合型太陽電池の製造方法。
【請求項8】
請求項2または請求項4乃至請求項7のいずれか1項記載の多接合型太陽電池の製造方法において、前記第1の半導体はGeであり、第2の半導体はInGaAsであり、第3の半導体はGaAsであり、第4の半導体はAlGaAsであることを特徴とする多接合型太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−28118(P2008−28118A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198545(P2006−198545)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】