説明

密封装置およびこれを用いるポンプ装置

【課題】蓄圧開放機能を備える密封装置を提供することを目的とする。
【解決手段】シールリングおよびバックリングの組み合わせよりなり、バックリングは、内周リップおよび外周リップを環状基部の軸方向一方の端部に備えるとともに当該バックリングに径方向つぶし代を設定するための環状突起を環状基部の外周面に備えたリップパッキンよりなる。外周リップは、シリンダに密接して密封流体を密封するとともに軸方向他方の空間に蓄圧現象が生じたときにその圧力に押されてシリンダから離間し蓄圧を開放する機能を有する。環状突起には、蓄圧を外周リップへ導入するための流路が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封技術に係る密封装置と、この密封装置を用いるポンプ装置とに関するものである。本発明の密封装置は例えば、自動車等車両におけるポンプ装置用軸シールとして用いられる。また本発明の密封装置はこのほか、回転・往復動用の密封装置であって蓄圧開放機能を必要とするものとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
図9に示す回転ポンプ装置51に用いる軸シールとして従来、図10に示す密封装置101が知られている。この密封装置101はシールリング102およびバックリング103の組み合わせよりなり、バックリング103としては圧縮タイプのスクイーズパッキンであるOリングが用いられている。
【0003】
しかしながらこの従来の密封装置101では、ポンプ装置51の使用頻度を高めると、シールリング102と軸60との回転摺動に伴う膜圧の上昇により、吸入側管路55から中間室B(当該密封装置101とその大気側に配置されるシール部材(大気側オイルシール)63との間の空間)へ流体が圧送され、中間室Bに蓄圧現象が発生する可能性がある。そしてこれが解消されない場合、大気側のシール部材63のシール性を低下させる懸念があるため、ポンプ装置51の使用頻度が制限される。
【0004】
一方、近年、車両用ブレーキ装置において、ABSを複合的に制御することで自動車の安全性、利便性を向上させる機能(ESC機能)が求められているが、上記従来の密封装置101を用いるポンプ装置51では上記のとおり蓄圧の懸念があるため、作動頻度を高くすることが困難であり、密封装置101に対し蓄圧を開放する機能が必要となっている。
【0005】
蓄圧開放機能は、これを密封装置101もしくは大気側シール部材63の何れかに与えることで問題解決可能となるが、大気側シール部材63に蓄圧開放機能を与えることは外部への油漏れとなるため、環境汚染防止のためにも密封装置101に対し蓄圧開放機能を与えることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3654043号公報(図6、図7)
【特許文献2】特開2007−278086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、蓄圧開放機能を備える密封装置と、これを用いるポンプ装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による密封装置は、シリンダと前記シリンダの軸孔に挿通した軸との間に装着されて軸方向一方の空間から軸方向他方の空間へ密封流体が漏洩するのを抑制する密封装置であって、前記シリンダの軸孔内周に配置されて前記軸の周面に摺動自在に密接するシールリングと、前記シールリングの外周に配置されて前記シールリングおよびシリンダ間を密封するバックリングとを有する密封装置において、前記バックリングは、内周リップおよび外周リップを環状基部の軸方向一方の端部に備えるとともに当該バックリングに径方向つぶし代を設定するための環状突起を前記環状基部の外周面に備えたリップパッキンよりなり、前記外周リップは、前記シリンダに密接して前記密封流体を密封するとともに前記軸方向他方の空間に蓄圧現象が生じたときにその圧力に押されて前記シリンダから離間し前記蓄圧を開放する機能を有し、前記環状突起には、前記蓄圧を前記外周リップへ導入するための流路が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記流路は、溝状流路であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3による密封装置は、上記した請求項1または2記載の密封装置において、前記リップパッキンにおける環状突起および外周リップ先端部がシリンダに密接した状態で外周リップ基端部および環状基部はシリンダに密接しないことにより両リップ間の溝底部の径方向つぶし代を持たない設定とされていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4による密封装置は、上記した請求項1ないし3の何れかに記載の密封装置において、前記リップパッキンにおける環状基部の内周面および内周リップの内周面が軸方向全長に亘って軸方向ストレートな円筒面状に成形されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5による密封装置は、上記した請求項1ないし4の何れかに記載の密封装置において、当該密封装置を装着するための環状の装着溝が前記シリンダの軸孔内周面に設けられ、前記蓄圧を前記外周リップへ導入するための流路が前記シールリングの軸方向他方の端面部および/または前記装着溝の軸方向他方の側面部に設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項6による密封装置は、上記した請求項1ないし5の何れかに記載の密封装置において、当該密封装置は、自動車等車両におけるブレーキ制御用ポンプ装置の軸シールとして用いられることを特徴とする。
【0014】
更にまた、本発明の請求項7によるポンプ装置は、シリンダに設けた軸挿入孔に駆動軸を挿入し、前記シリンダ内に収納された回転式ポンプ機構を前記駆動軸を介して駆動して流体を吸入・吐出し、吐出される流体の圧力を上昇させるためのポンプ装置であって、前記軸挿入孔の内周に液密的に配置されて前記駆動軸の周面に摺動自在に密接するシールリングと、該シールリングの外周に配置されて前記シールリングおよび前記シリンダ間を密封するバックリングと、前記軸挿入孔の開口端内周に液密的に配置されて前記駆動軸の周面に摺動自在に密接するとともに前記シールリングおよび前記バックリングとの間に中間室を形成するシール部材とからなる密封機構が前記ポンプ機構と前記軸挿入孔の開口端との間に配設されてなるポンプ装置において、前記バックリングは、内周リップおよび外周リップを環状基部の軸方向一方の端部に備えるとともに当該バックリングに径方向つぶし代を設定するための環状突起を前記環状基部の外周面に備えたリップパッキンよりなり、前記外周リップは、前記シリンダに密接して流体を密封するとともに前記中間室に蓄圧現象が生じたときにその圧力に押されて前記シリンダから離間し前記蓄圧を前記ポンプ機構と前記シールリングおよび前記リップパッキンとの間の空間に開放する機能を有し、前記環状突起には、前記蓄圧を前記外周リップへ導入するための流路が設けられていることを特徴とする。
【0015】
上記構成を有する本発明の密封装置は、シールリングおよびバックリングの組み合わせよりなり、このうち後者のバックリングが従来のようにスクイーズパッキンではなくリップパッキンによって構成され、すなわち環状基部の軸方向一方の端部に内周リップおよび外周リップを一体に備えるリップパッキンによって構成されている。外周リップは、シリンダに密接して密封流体を密封するものであるが、その密封作用について方向性を備えており、背面方向から蓄圧が作用すると圧力に押されてシリンダから離間し、このとき蓄圧を開放する機能を発揮する。したがって外周リップはその背面側に生じる蓄圧現象に対し一種の圧力開放弁として作用するものであって、その開弁動作によって蓄圧を開放する。弁閉時が通常の密封作用時、弁開時が蓄圧開放時である。
【0016】
尚、バックリングとして従来のスクイーズパッキンをリップパッキンに変更すると、バックリングがシールリングを軸へ押し付ける力(押し付け荷重)が低下することが懸念される。そこで本発明では、バックリング(リップパッキン)における環状基部の外周面に径方向つぶし代を設定するための環状突起を一体に備える構成とし、この環状突起による径方向つぶし代によって押し付け加重を確保することにした。環状突起は環状基部の外周面の少なくとも軸方向一部に設ければ十分であり、その大きさ(径方向高さや軸方向幅など)に応じて押し付け荷重の大小を調整することが可能である。
【0017】
また、本発明では、上記外周リップによる蓄圧開放動作を円滑にするため、以下のような工夫が施されている。
【0018】
(1) 上記したようにリップパッキンにおける環状基部の外周面に環状突起を一体に備えると、この環状突起が堰(シールダム)となって、リップパッキン背面側の蓄圧が外周リップに達しないことが懸念される。そこで本発明では、環状突起に流路を設け、この流路を通って蓄圧が外周リップに達する構成とした。流路は環状突起上を軸方向に延びる溝形状でも良いし、環状突起を貫通して軸方向に延びる孔形状でも良い。
【0019】
(2) 上記リップパッキンは、環状基部の軸方向一方の端部に内周リップおよび外周リップを一体に備える形状であるので、その断面形状からしてUパッキンと称されることもあり、Uパッキンは公知の密封要素である。しかしながら従来のUパッキンは、両リップ間の溝底部に径方向つぶし代が設定されるのが一般であるところ、このように溝底部につぶし代が設定されると、このつぶし代によって外周リップの弾性変形が規制され、外周リップが円滑に開閉動作し得ないことが懸念される。そこで本発明では、リップパッキンにおける環状突起および外周リップ先端部がシリンダに密接した状態でリップ基端部および環状基部はシリンダに密接しないことにより両リップ間の溝底部の径方向つぶし代を持たない設定とされており、これによれば、つぶし代によって外周リップが拘束されないため、外周リップが開閉動作しやすくなる。尚、ここでリップ基端部および環状基部は、溝底部に径方向つぶし代を発生させなければ良いので、接触面圧零の状態でシリンダに接触するものであっても良い。
【0020】
(3) 従来のUパッキンは、内周リップおよび外周リップがその断面形状においてラッパ状に開く形状であるのが一般であるところ、このような形状であると、Uパッキンをシールリングの外周に装着した状態で内周リップによって環状基部が持ち上げられるので、環状基部およびシールリング間に径方向隙間が発生する。したがって蓄圧が高まるとUパッキンは先ずはこの隙間を無くすように弾性変形し、この分、外周リップの開放動作が遅れることになり、開放のタイミングの制御が困難となる。そこで本発明では、リップパッキンにおける環状基部の内周面および内周リップの内周面は当初から軸方向全長に亘って軸方向ストレートな円筒面状に成形されており、これによれば当初から径方向隙間が生じないために、開放のタイミングの制御が容易となる。また、このような形状であれば、上記環状突起による径方向押し付け加重がシールリングに伝わりやすい利点もある。
【0021】
(4) 本発明の密封装置は、シリンダの軸孔内周面に設けた環状の装着溝に装着される場合があり、この場合シールリングの端面部と装着溝の側面部とが密接すると、ここで締め切りとなってリップパッキン背面側の蓄圧が外周リップに達しないことが懸念される。そこで本発明では、シールリングの端面部および/または装着溝の側面部に流路を設け、この流路を通って蓄圧が外周リップに達する構成とした。流路は一般に径方向に延びる溝形状となる。
【0022】
本発明の密封装置は、ポンプ装置に用いることが可能であり、特に上記請求項7に記載したポンプ装置に用いられる。請求項7に記載したポンプ装置においては、シールリングおよびバックリングが密封装置を構成し、該密封装置およびシール部材が密封機構を構成している。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0024】
すなわち、本発明においては上記したように、シールリングおよびバックリングの組み合わせよりなる密封装置またはこれを用いるポンプ装置において、バックリングがリップパッキンによって構成され、このリップパッキンが軸方向一方側の空間へ蓄圧を開放する密封作用を備えている。したがって密封装置の軸方向他方側の空間に発生する蓄圧現象を解消もしくは低減させることができる。これにより、ポンプ等密封装置装着機器の密封装置と、軸方向他方側にある例えば大気側シール部材との間の蓄圧現象を開放することで、密封流体の大気側シール部材からポンプ外部への漏れおよび大気側シール部材のシール性低下を防止でき、ポンプ等密封装置装着機器の使用頻度の制限を緩和することができる。また、リップパッキンにおける環状基部の外周面に径方向つぶし代を設定するための環状突起が一体に備えられているために、この環状突起による径方向つぶし代によって、シールリングを軸へ押し付ける押し付け加重を確保することができる。したがって蓄圧開放機能を備え、なおかつ優れたシール性を発揮することが可能な密封装置を提供することができる。環状突起には蓄圧を外周リップへ導入するための流路が円周上一部に設けられているため、環状突起が蓄圧の流れを阻害することはない。流路は、環状突起の外周面に設ける溝状であると、加工が容易である。
【0025】
またこれに加えて、内周リップおよび外周リップ間の溝底部の径方向つぶし代を持たない設定とされること、リップパッキンにおける環状基部の内周面および内周リップの内周面が軸方向全長に亘って軸方向ストレートな円筒面状に成形されること、ならびに蓄圧を外周リップへ導入するための流路がシールリングの軸方向他方の端面部および/または装着溝の軸方向他方の側面部に設けられることなどによって、外周リップの開閉による蓄圧開放動作を円滑化させることができる。
【0026】
また、本発明の密封装置が自動車等車両におけるブレーキ制御用ポンプ装置等のポンプ装置の軸シールとして用いられる場合には、これらのシールないしポンプ装置において上記の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例に係る密封装置の要部断面図
【図2】同密封装置に備えられるリップパッキンの要部拡大断面図
【図3】図2におけるC−C線断面図であって、(A)は装着前自由状態における流路の形状を示す図、(B)は装着後変形状態における流路の形状を示す図
【図4】流路の他の例を示す断面図であって、(A)は装着前自由状態における流路の形状を示す図、(B)は装着後変形状態における流路の形状を示す図
【図5】比較例に係るUパッキンを示す断面図であって、(A)は圧力作用前の状態を示す図、(B)は圧力が作用している状態を示す図
【図6】本発明の他の実施例に係る密封装置の要部断面図
【図7】本発明の実施例に係るポンプ装置の要部断面図
【図8】比較例に係るポンプ装置の要部断面図
【図9】従来例に係るポンプ装置の要部断面図
【図10】従来例に係る密封装置の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
【0029】
(1) シール(密封装置)のバックリングをスクイーズタイプからリップパッキン(ゴム製リップパッキン)に変更することで、蓄圧発生時にはリップが開き、蓄圧を開放することが可能となる。
(2) 大気側の溝壁面もしくはシールリング(樹脂製シールリング)の大気側に流路(スリット、貫通孔)を設定することで、溝壁面とシールリングでシールして蓄圧してしまうことを避け、リップパッキンへ向けて圧力を逃がすことができる。
(3) バックリングをリップパッキンとすることで、バックリングによるシールリング内周面への面圧が低下するため、腰部(環状基部)につぶし代を有する突起を付けて、面圧を補う。但し、腰部のつぶし代で蓄圧をシールしてしまわないように、腰部の突起には蓄圧をリップ部に導入するための流路(スリット、貫通孔)を設定する。
(4) リップパッキンは、耐久性を考慮して一般に溝底につぶし代を持たせる設定とするが、本発明のリップパッキンは、蓄圧開放機能を向上させるために溝底につぶし代を持たない設定とする。
(5) リップパッキンのシールリングと接触する内周側を軸方向にストレートな円筒内周面とすることで、内周側がシールリングに安定して接触させることが可能となる。これにより蓄圧発生時に外周リップが作動しやすくなり、安定して蓄圧開放効果が得られるようになる。また、内周側を平坦とすることで、腰部突起による面圧をシールリングに効率的に伝えることが可能となる。
【0030】
(6) リップパッキンの外周リップの軸方向長さを内周側リップの軸方向長さよりも短くすることで、外周リップからの蓄圧開放動作を妨げることなく、スムーズに蓄圧の開放が可能になる。
(7) リップパッキンは、蓄圧発生時に開放動作がスムーズに動くよう、リップを薄く長く設定する。
(8) リップパッキンは、蓄圧発生時に開放動作がスムーズに動き、また耐圧性も確保できるよう、ゴム硬度を60°〜80°(ゴム硬度Hs;JIS K6253に準拠し、タイプAデュロメーターで測定した)に設定する。
(9) リップパッキンは、ブレーキ用ポンプに使用するため、ブレーキフルードに耐性のあるEPDMを用いる。
(10)シールリングに回り止めを設定することで、パッキンには回転方向の動きが伝わらないため、リップの摩耗・破損等が生じず、長寿命化することができる。尚、回り止めは、切欠およびピンの組み合わせの他、キーによるものや、上記特許文献1に記載のあるようなフランジ、二面幅、複数溝等でも良い。
【実施例】
【0031】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0032】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。また図2は、同密封装置1に備えられるバックリング21としてのリップパッキン22の要部拡大断面を示し、図3は図2におけるC−C線断面を示している。当該実施例に係る密封装置1は、自動車等車両におけるブレーキ制御用ポンプ装置の軸シールとして大気側シール部材等とともに用いられるものであって、以下のように構成されている。図の左方向が軸方向一方であって密封流体側、右方向が軸方向他方であって大気側である。
【0033】
すなわち当該密封装置1は、シリンダ(ハウジング)53とこのシリンダ53の軸孔に挿通した軸60との間に装着されて軸方向一方の空間Aから軸方向他方の空間(中間室)Bへ密封流体が漏洩するのを抑制するものであって、シリンダ53の軸孔内周に回り止めされた状態で配置されて軸60の周面に摺動自在に密接するシールリング11と、このシールリング11の外周に配置されてシールリング11およびシリンダ53間を密封するバックリング21としてのリップパッキン22とを有している。シリンダ53の軸孔内周面には環状の装着溝64が設けられているので、当該密封装置1はこの装着溝64内に装着されている。
【0034】
シールリング11は、所定の樹脂材料によって円筒状に成形され、その内周面に軸60に対する摺動面12を有し、外周面にリップパッキン22を保持するための環状の保持溝13を有している。また軸方向一方の端部に円周上一部の切欠14が設けられ、この切欠14にシリンダ53に立設したピン等の回り止め部材65が係合することにより回り止めがなされている。シールリング11の樹脂材料としては、PTFEが望ましく、PA、PFA、PEEK、POMまたはPPS等であっても良い。
【0035】
リップパッキン22は、所定のゴム状弾性体たとえばEPDMゴムによって環状に成形され、断面略矩形状の環状基部23を有し、この環状基部23の軸方向一方の端部に内周リップ24および外周リップ25が一体に設けられている。また環状基部23の外周面であって軸方向他方の端部に、径方向つぶし代D(図2参照)を設定するための環状突起26が一体に設けられている。
【0036】
上記構成のシールリング11およびリップパッキン22が組み合わされて装着されると、シールリング11の内周面の摺動面12が軸60の周面に摺動自在に密接し、シールリング11および軸60間がシールされる。またリップパッキン22の外周リップ25がその先端部25aでシリンダ53の内周面に密接し、リップパッキン22およびシリンダ53間がシールされる。また環状突起26がシリンダ53の内周面に密接して径方向つぶし代Dが発生するので、リップパッキン22がシールリング11に密接し、リップパッキン22およびシールリング11間がシールされる。環状突起26によるつぶし代Dはシールリング11に及ぶので、シールリング11が適切な接触面圧をもって軸60の周面に密接する。
【0037】
外周リップ25は、上記したようにシリンダ53の内周面に密接して密封流体を密封するが、その密封作用について方向性を備えるものであって、背面方向から蓄圧が作用すると圧力に押されてシリンダ53から離間し、これにより蓄圧を開放する。蓄圧は当該密封装置1と大気側シール部材との間の空間(中間室)Bに発生する。したがって当該密封装置1によれば、空間Bの蓄圧を開放することで、大気側シール部材からポンプ外部への漏れおよび大気側シール部材のシール性低下を防止でき、ポンプ等密封装置装着機器の使用頻度の制限を緩和することができる。
【0038】
また、当該密封装置1では、上記外周リップ25による蓄圧開放動作を円滑化するため、以下の構成が付加されている。
【0039】
(1) 上記したようにリップパッキン22における環状基部23の外周面に環状突起26が一体に設けられると、この環状突起26が全周に亘ってシリンダ53の内周面に密接することにより堰(シールダム)となって、空間Bの蓄圧が外周リップ25に達しないことが懸念される。そこで当該密封装置1では、環状突起26に軸方向に貫通する流路27が設けられ、この流路27を通って蓄圧が外周リップ25に達する構成とされている。図3に示すように流路27は、環状突起26の外周面に形成された溝状流路として設けられているが、このほか図4に示すような貫通孔状のものであっても良い。流路27は円周上一箇所にまたは複数個所に設けられている。尚、図3および図4において、各図(A)は装着前自由状態における流路27の形状を示しており、これがシリンダ53に装着されると径方向つぶし代Dの関係で各図(B)に示すように変形するが、変形後も空洞部が確保されて蓄圧が通過可能とされている。
【0040】
(2) 上記リップパッキン22は、環状基部23の軸方向一方の端部に内周リップ24および外周リップ25を一体に備える形状であるので、その断面形状からしてUパッキンと称されることもある。従来のUパッキンは両リップ24,25間の溝底部28に径方向つぶし代が設定されるのが一般であるところ、このように溝底部28につぶし代が設定されると、外周リップ25が円滑に開閉動作し得ないことが懸念される。そこで当該密封装置1では、リップパッキン22における環状突起26および外周リップ25の先端部25aがシリンダ53に密接した状態で外周リップ25の基端部25bおよび環状基部23はシリンダ53に密接しないことにより両リップ24,25間の溝底部28の径方向つぶし代を持たない設定とされており、これによれば、つぶし代によって外周リップ25が拘束されないため、外周リップ25が開閉動作しやすくなる。このため、環状突起26および外周リップ先端部25aの外径寸法はシリンダ53の内径寸法よりも大きく設定されているが、外周リップ基端部25bおよび環状基部23の外径寸法はシリンダ53の内径寸法以下の大きさに設定されている。
【0041】
(3) 比較例として図5(A)に示すように、従来のUパッキン111は、内周リップ112および外周リップ113がその断面形状においてラッパ状に開く形状であるのが一般であるところ、このような形状であると、Uパッキン111をシールリング11の外周に装着した状態で内周リップ112によって環状基部114が持ち上げられるので、環状基部114およびシールリング11間に径方向隙間115が発生する。したがって同図(B)に示すように、蓄圧が高まるとUパッキン111は先ずはこの隙間115を無くすように弾性変形し、この分、外周リップ113の開放動作が遅れることになり、開放のタイミングの制御が困難となる。そこで当該密封装置1では、リップパッキン22における環状基部23の内周面23aおよび内周リップ24の内周面24aが当初から軸方向全長に亘って軸方向ストレートな円筒面状に成形されており、これによれば当初から径方向隙間が生じないため、開放のタイミングの制御が容易となる。また、このような形状であれば、環状突起26による径方向押し付け加重がシールリング11に伝わりやすい。
【0042】
(4) リップパッキン22における外周リップ25の軸方向長さLが内周リップ24の軸方向長さLよりも短く設定されており(L<L)、これにより外周リップ25が円滑に開放動作する構成とされている。すなわち外周リップ25の軸方向長さLが内周リップ24の軸方向長さLよりも長い場合には、蓄圧開放のために外周リップ25が開閉する際に、外周リップ25の先端部がシールリング11の壁面(保持溝13の側面部)13aと干渉しやすくなり、外周リップ25が円滑に開放動作しないことがある。これに対し、外周リップ25の軸方向長さLが内周リップ24の軸方向長さLよりも短く設定されていれば、蓄圧作用時、内周リップ24がシールリング11の壁面13aと先に当たり、外周リップ25が変形するためのスペースが確保され、外周リップ25がシールリング11の壁面13aと干渉することがない。
【0043】
(5) リップパッキン22における外周リップ25が薄く長く形成され、すなわち具体的には外周リップ25の長さLがその肉厚Tの2倍以上となるように設定されており(L≧2T)、これにより外周リップ25が円滑に開放動作する構成とされている。外周リップ25の長さLがその肉厚Tの2倍未満である場合には、リップパッキン22の材質や硬度如何によっては外周リップ25が円滑に開放動作しないことがある。
【0044】
(6) リップパッキン22のゴム硬度が60°〜80°に設定されており、これにより外周リップ25が円滑に開放動作する構成とされている。またこの硬度であればリップパッキン22の耐圧性も確保される。
【0045】
また、上記したように当該密封装置1は、シリンダ53の軸孔内周面に設けた環状の装着溝64に装着されるものであるために、シールリング11の端面部11aと装着溝64の側面部64aとが密接すると、ここで締め切りとなって空間Bの蓄圧が外周リップ25に達しないことが懸念される。そこでこれに対処するため、図6に示す他の実施例では、シールリング11の軸方向他方の端面部11aおよび装着溝64の同じく軸方向他方の側面部64aにそれぞれ径方向に延びる溝状の流路15,66が設けられ、この流路15,66を通って空間Bの蓄圧が外周リップ25に達する構成とされている。流路15,66は円周上一箇所にまたは複数個所に設けられている。また流路15,66は何れか一方のみであっても良い。
【0046】
尚、環状突起26は、リップパッキン22の環状基部23の外周面に限らず、シリンダ53の対向する内周面に、内側へ突出する環状突起として設けても良い。
【0047】
つぎに、本発明の実施例に係るポンプ装置51を説明する。当該実施例に係るポンプ装置51は上記密封装置1を備えるものであって、以下のように構成されている。
【0048】
すなわち図7に示すように、車両用ブレーキ装置の液圧制御ユニットのシリンダ53に形成された凹部内に以下に示す部材を収容してポンプ装置51が構成されている。ポンプ装置51の複数のうち1つの回転式ポンプ機構52の軸方向両側にはシリンダ(第一シリンダ)53aとシリンダ(第二シリンダ)53bとが配置され、回転式ポンプ機構52の外周側には環状のケーシング54が配置されている。シリンダ53a、ケーシング54およびシリンダ53bは外周全周の溶接または不図示のバネによる軸方向の付勢などにより一体化されて、回転式ポンプ機構52を収納している。さらにシリンダ53bには回転式ポンプ機構52の吸入ポートに連通する吸入側管路55、および同吐出ポートに連通する吐出側管路56が形成されている。
【0049】
シリンダ53a、53bおよび、シリンダ53bの内周に圧入されているシリンダ(第三シリンダ)53cの略中心部には軸挿入孔57が形成され、不図示も含めて複数あるベアリング58を介して、モータ59より回転させられる駆動軸60が回転自在に支持されている。
【0050】
回転式ポンプ機構52は、駆動軸60に不図示のキーを介して一体回転するよう固定され、外歯部が形成されたインナーロータ61と、これが内周側に偏心されて嵌め込まれ、内歯部が形成されたアウターロータ62とからなり、アウターロータ62は外周側に配設されたケーシング54内に回転自在に収容されている。両ロータ61,62の外歯部と内歯部の噛み合い部の一側に吸入側管路55が連通するとともに他側に吐出側管路56が連通し、駆動軸60によるインナーロータ61の回転に連れてアウターロータ62も回転し、両ロータ61,62の噛み合い空間の容積変化によって、回転式ポンプ機構52は流体を吸入、吐出するようになっている。
【0051】
シリンダ53bの軸挿入孔57の内周には、駆動軸60の周面に液密に摺動自在に接するシールリング11が配置されている。シールリング11の外周には、シールリング11とシリンダ53bの軸挿入孔57の間を密封するバックリング21であるリップパッキン(リップシール)22が配置されている。軸挿入孔57の開口端内周には公知のUパッキンもしくはオイルシールであるシール部材63が配置され、該シール部材63はその内周において駆動軸60と摺動自在に密接している。軸方向において、シールリング11およびリップパッキン22とシール部材63との間には中間室Bが形成されている。
【0052】
軸方向、シールリング11およびリップパッキン22を挟んで中間室Bと反対側には、シールリング11およびリップパッキン22と回転式ポンプ機構52との間に空間Aが形成され、空間Aは吸入側管路55と連通している。
【0053】
前述のとおり両ロータ61,62とシリンダ53a、53bは軸方向に密接しているが、シリンダ53a、53bに対して両ロータ61,62は摺接しつつ回転するため、これらの隙間を通して僅かながら漏れた流体が、ベアリング58の間を通過して駆動軸60の周囲、空間Aへも流入する。さらに空間Aには吸入側管路55からも流体は流入している。駆動軸60の回転に伴い、駆動軸60の周囲にある流体は膜圧現象により、微量ずつではあるが駆動軸60とシールリング11との間の隙間を通過して中間室Bに到達する。ポンプ装置51の作動頻度が高くなると、膜圧現象により空間Aから中間室Bへ送られる流体の量が徐々に増えて、中間室B内の圧力が上昇する蓄圧現象が生じる。
【0054】
そこで、バックリング21として、既述のリップパッキン22を装着することで、中間室Bの内圧と空間Aとの差圧がある一定の圧力値、例えばシール部材63のシール性を損なわない値以下で、外周リップ25が中間室Bの内圧に押されてシリンダ53cから離間するようにリップパッキン22を構成しておけば、中間室Bの蓄圧を空間Aへ開放でき、使用頻度を制限することなくポンプ装置51を作動させることが可能となる。
【0055】
尚、比較例として図8に示すように、空間Bの蓄圧を開放する構成としては、バックリング21は従来のスクイーズパッキン103のままとして、シリンダ53cを貫通し、空間Bと吸入側管路55とを連通する戻り流路67と、戻り流路67の途中にあって、シリンダ53c内に設けられたスプリング69により付勢されて所定の開弁圧が設定された逆止弁68とからなる構成もあり、この構成によれば上記密封装置1と同様、空間Bの蓄圧を開放することで、大気側シール部材63からポンプ装置51外部への漏れおよび大気側シール部材63のシール性低下を防止でき、ポンプ装置51の使用頻度の制限を緩和することができる。これに対して上記密封装置1は、シリンダ53を複雑化、径方向に大型化することなく、軸60とシリンダ53との間をシールするリップパッキン22に空間Bの蓄圧を吸入側管路55へ開放する機能を併せて持たせ、構成を簡素化した点で優れている。
【符号の説明】
【0056】
1 密封装置
11 シールリング
11a 端面部
12 摺動面
13 保持溝
13a 壁面
14 切欠
15,27,66 流路
21 バックリング
22 リップパッキン
23 環状基部
23a,24a 内周面
24 内周リップ
25 外周リップ
25a 外周リップ先端部
25b 外周リップ基端部
26 環状突起
28 溝底部
51 ポンプ装置
52 回転式ポンプ機構
53,53a,53b,53c シリンダ
54 ケーシング
55 吸入側管路
56 吐出側管路
57 軸挿入孔
58 ベアリング
59 モータ
60 軸
61 インナーロータ
62 アウターロータ
63 シール部材
64 装着溝
64a 側面部
65 回り止め部材
A 軸方向一方の空間
B 軸方向他方の空間(中間室)
D 径方向つぶし代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと前記シリンダの軸孔に挿通した軸との間に装着されて軸方向一方の空間から軸方向他方の空間へ密封流体が漏洩するのを抑制する密封装置であって、前記シリンダの軸孔内周に配置されて前記軸の周面に摺動自在に密接するシールリングと、前記シールリングの外周に配置されて前記シールリングおよびシリンダ間を密封するバックリングとを有する密封装置において、
前記バックリングは、内周リップおよび外周リップを環状基部の軸方向一方の端部に備えるとともに当該バックリングに径方向つぶし代を設定するための環状突起を前記環状基部の外周面に備えたリップパッキンよりなり、
前記外周リップは、前記シリンダに密接して前記密封流体を密封するとともに前記軸方向他方の空間に蓄圧現象が生じたときにその圧力に押されて前記シリンダから離間し前記蓄圧を開放する機能を有し、
前記環状突起には、前記蓄圧を前記外周リップへ導入するための流路が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記流路は、溝状流路であることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の密封装置において、
前記リップパッキンにおける環状突起および外周リップ先端部がシリンダに密接した状態で外周リップ基端部および環状基部はシリンダに密接しないことにより両リップ間の溝底部の径方向つぶし代を持たない設定とされていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかに記載の密封装置において、
前記リップパッキンにおける環状基部の内周面および内周リップの内周面が軸方向全長に亘って軸方向ストレートな円筒面状に成形されていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかに記載の密封装置において、
当該密封装置を装着するための環状の装着溝が前記シリンダの軸孔内周面に設けられ、前記蓄圧を前記外周リップへ導入するための流路が前記シールリングの軸方向他方の端面部および/または前記装着溝の軸方向他方の側面部に設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れかに記載の密封装置において、
当該密封装置は、自動車等車両におけるブレーキ制御用ポンプ装置の軸シールとして用いられることを特徴とする密封装置。
【請求項7】
シリンダに設けた軸挿入孔に駆動軸を挿入し、前記シリンダ内に収納された回転式ポンプ機構を前記駆動軸を介して駆動して流体を吸入・吐出し、吐出される流体の圧力を上昇させるためのポンプ装置であって、
前記軸挿入孔の内周に液密的に配置されて前記駆動軸の周面に摺動自在に密接するシールリングと、該シールリングの外周に配置されて前記シールリングおよび前記シリンダ間を密封するバックリングと、前記軸挿入孔の開口端内周に液密的に配置されて前記駆動軸の周面に摺動自在に密接するとともに前記シールリングおよび前記バックリングとの間に中間室を形成するシール部材とからなる密封機構が前記ポンプ機構と前記軸挿入孔の開口端との間に配設されてなるポンプ装置において、
前記バックリングは、内周リップおよび外周リップを環状基部の軸方向一方の端部に備えるとともに当該バックリングに径方向つぶし代を設定するための環状突起を前記環状基部の外周面に備えたリップパッキンよりなり、
前記外周リップは、前記シリンダに密接して流体を密封するとともに前記中間室に蓄圧現象が生じたときにその圧力に押されて前記シリンダから離間し前記蓄圧を前記ポンプ機構と前記シールリングおよび前記リップパッキンとの間の空間に開放する機能を有し、
前記環状突起には、前記蓄圧を前記外周リップへ導入するための流路が設けられていることを特徴とするポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−153644(P2011−153644A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14342(P2010−14342)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】