説明

導電性ローラおよび導電性ローラの製造方法

【課題】一回のみの浸漬によるディップ塗工で塗工層を形成し、被覆層の膜厚ムラが小さく表面の均一性の高い導電性ローラを簡単な方法で製造し提供する。
【解決手段】導電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層と、その外周面上に少なくとも1層の被覆層を有する導電性ローラにおいて、該被覆層が、チクソトロピックインデックス(TI)が1以上の塗工液中へ被塗工物を5〜20mm/sの浸漬速度vで浸漬してゆき、一時停止して10〜30sの停止時間tが経過した後引き上げる1回のみのディップ塗工により該被塗工物の導電性弾性層または被覆層の外周面上に塗工層を形成し、該塗工層を乾燥または硬化して形成した被覆層であることを特徴とする導電性ローラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真、複写機などの画像形成装置に用いる現像、帯電、転写、定着、加圧、クリーニング、除電等に用いる導電性ローラおよび導電性ローラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真、複写機などの画像形成装置の部品として用いられる導電性ローラには、感光体との均一な圧接幅を確保すること、さらに電圧を印加してトナー像を感光体上に形成するために、均一な導電性や耐リーク性のあることが求められる。そこで、例えば導電性軸芯体(芯金と表すことがある)上に、電子導電剤やイオン導電剤等の導電剤を添加して所望の抵抗値に調整した弾性層を形成し、その外周に、耐磨耗性やトナー帯電性、トナー搬送性を得るために、表面粗さを確保するための粗し粒子や導電性を確保するための導電剤を適宜添加したナイロン、ウレタン等の樹脂から形成した表面層を設ける場合が多い。また導電性ローラの抵抗安定化のために弾性層と表面層の間に抵抗調整層(中間層)を設ける場合もある。
【0003】
昨今の電子写真機器の高画質化は、導電性ローラに、より均一なトナー搬送性およびトナー帯電性を求めるようになった。そこで導電性ローラの最外層膜厚の均一性、および粗し粒子の添加により形成される凹凸形状の均一性を改良することでこれらの要求に応えている。
【0004】
一般に導電性ローラの被覆層を得る方法においては、弾性層の外周面上に塗工液を塗布して塗工層を形成する方法としてコーティング法が多く用いられている。中でも均一な塗工層を得ることに優れているディップ方式のコーティング法が用いられることが多い。通常多く用いられるディップ塗工法は、適切な粘度および比重に調整した塗工液中に被塗工物のローラを浸漬し、その後一定速度または逐次変化する速度で引き上げることで塗工層を形成する。これを乾燥または硬化して被覆層を得る。しかし、5μm以下の膜厚の被覆層を有する導電性ローラを作製する場合には前記方法により1回の浸漬塗工にて必要とする膜厚が得やすいが、8〜30μmの膜厚の被覆層が必要な場合には複数回の浸漬塗工が必要になることが多い。通常、ディップ塗工法で一回のみの浸漬によって厚い塗工層を得ようとする場合には、塗工液の粘度や比重を高くしたり、浸漬後の引き上げ速度を速くすることで高膜厚化を図る。しかし従来の技術においては、均一な表面性および膜厚を得るには塗工液の粘度、比重および固形分濃度を低くしたほうが有利とされ、一回のみの浸漬によって8〜30μmの膜厚の、均一な表面性を有する被覆層を得るのは困難とされてきた。
【0005】
例えば先行技術においては、円筒状導電性基体表面に電荷発生層を浸漬塗布形成する際、電荷発生層を形成する塗布液への浸漬速度を最初は低速で、次いで順次速度を増しながら浸漬塗布処理することで膜厚の非常に薄い電荷発生層を有する塗布ムラのない電子写真感光体を作成するとある(特許文献1)。しかしこの方法は、前述のように非常に薄い被覆層を形成する場合には有効な手段ではあるが、8μm以上の膜厚を有する被覆層が必要な場合には、浸漬速度に変化を与えることだけでは所定の塗工層厚み、塗工層厚みの均一性を得るには不十分である。
【0006】
また、被塗工物を塗工液に浸漬する事により該塗工物の外周面に塗膜を形成する塗工方法において、被塗工物を浸漬する際に塗工液をオーバーフローさせ、浸漬した被塗工物を塗工液中から引き上げる際に、塗工液のオーバーフローを停止させて塗工を行う事により、被塗工物の塗工ムラが少なく膜厚ムラのない塗工方法を提供するとある(特許文献2)。しかしながら3〜30μmの平均粒径を有する絶縁性粒子を含有する不均一系塗工液を用いる場合には、オーバーフローを停止させて引き上げを行うと、被塗工物を引き上げる際に発生する塗工液の流れの乱れや、塗工液成分の局所的な不均一さが塗工層に反映され、被覆層に渦を描いたような縞模様が発生してしまう。
【0007】
一回の塗工で十分な膜厚が得られない場合には、複数回塗工を行うことで必要な膜厚を得るというのが一般的な方法である。この場合、塗工液の種類によっては1回目の塗工と2回目以降の塗工との間に長時間の乾燥を要する場合がある。1回目の塗工後に十分な乾燥をせずに2回目の塗工を行うと、1回目の塗工で形成された塗膜が2回目の塗工液の溶剤によって溶出してしまい所望の膜厚が得られなかったり、溶出時のムラが被覆層に模様を作ってしまうことがある。また被覆層の膜厚をローラの長手方向両端で均一にするために、浸漬する被塗工物の向きを1回目と2回目で逆にする場合もある。このように複数回の塗工による方法は、工程が長くなるばかりか、塗工の回数が増すことによる不良品発生のリスクが高くなる。
【0008】
前述のように、一回のみの浸漬によるディップ塗工で被覆層を形成する場合、膜厚の大きな被覆層とすることと、均一な表面性を有する被覆層とすることとを両立させることは従来技術においては困難であり、また、複数回の浸漬による場合には、長工程化と不良品発生リスクの増大という問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開平5−80549号公報
【特許文献2】特開2001−232279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の現状に鑑みなされたものであり、一回のみの浸漬によるディップ塗工で塗工層を形成し、被覆層の膜厚ムラが小さく被覆層表面の均一性の高い導電性ローラを簡単な方法で製造し提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成した本発明の導電性ローラは、導電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層と、該導電性弾性層の外周面上に少なくとも1層の被覆層を有する導電性ローラにおいて、
該被覆層が、次式(1)
TI=η(N1)/η(N2) (1)
(式中、η(N1)およびη(N2)は回転式粘度計を用いて回転数N1およびN2で各々測定した塗工液の粘度を表し、N1[rpm]<N2[rpm]である。)
で表されるチクソトロピックインデックス(TI)が1以上の塗工液中へ被塗工物を5〜20mm/sの浸漬速度vで浸漬してゆき、一時停止して10〜30sの停止時間tが経過した後引き上げる1回のみのディップ塗工により該被塗工物の導電性弾性層または被覆層の外周面上に塗工層を形成し、該塗工層を乾燥または硬化して形成した被覆層であることを特徴とする。
さらに上記本発明は、前記塗工液が、3〜30μmの平均粒径を有する絶縁性粒子を含有する不均一系の塗工液であることが好ましい。
さらに上記本発明は、前記被覆層の膜厚が8〜30μmであることが好ましい。
【0012】
また、上記課題を解決した本発明の導電性ローラの製造方法は、導電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層と、該導電性弾性層の外周面上に少なくとも1層の被覆層を有する導電性ローラの製造方法において、該被覆層を形成するための塗工液であって、次式(1)
TI=η(N1)/η(N2) (1)
(式中、η(N1)およびη(N2)は回転式粘度計を用いて回転数N1およびN2で各々測定した塗工液の粘度を表し、N1[rpm]<N2[rpm]である。)
で表されるチクソトロピックインデックス(TI)が1以上の塗工液を調製する工程、該塗工液中へ被塗工物を5〜20mm/sの浸漬速度vで浸漬してゆき、一時停止して10〜30sの停止時間tが経過した後引き上げるディップ塗工を1回のみ行うことによって該被塗工物の導電性弾性層または被覆層の外周面上に塗工層を形成する工程、および、該塗工層を乾燥または硬化して被覆層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定のチクソトロピックインデックス(TI)を有する塗工液を用いて、1回のみのディップ塗工で塗工層を形成し、被覆層の膜厚ムラが小さく表面の均一性の高い導電性ローラを簡単な方法で製造し提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の導電性ローラは、図1および図2に示すような形状を有しており、導電性軸芯体体(a)上に、導電性弾性層(b)と、該導電性弾性層(b)の外周面上に被覆層(c)を有する。この導電性弾性層(b)および被覆層(c)は1層であっても良いし、2層以上の多層構造であっても良い。
【0015】
導電性軸芯体(a)として、鉄、銅、ステンレス等の金属材料の丸棒を用いることができる。さらにこれらの金属表面に防錆や耐傷性付与を目的としてメッキ処理を施しても構わない。
【0016】
導電性弾性層(b)を構成する弾性材料としては、例えば天然ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、およびクロロプレンゴム(CR)等の合成ゴム、更にはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂およびシリコーン樹脂等も挙げられる。これら弾性材料中にカーボンブラック、グラファイトおよび導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する導電剤およびアルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有する導電剤を適宣添加し所望の抵抗に調整するのが一般的である。
【0017】
このような導電性弾性層は公知の方法、例えば、上記弾性材料を形成するためのゴム材料を押し出し成形した後に加硫硬化する方法、射出成形後に加硫硬化する方法、液状ゴム材料(例えば、付加反応架橋型液状シリコーンゴム等の液状ゴム材)を成形型に注入して加硫硬化する方法等で形成すればよい。なお、加硫硬化条件は、用いるゴム材料等に応じ、適宜定めればよい。
【0018】
導電性ローラは、少なくとも1層の弾性層を有するが、多層とする場合には、第1の導電性弾性層bと同様の材質を用いることができ、また第1の導電性弾性層と同様にして形成することができる。導電性弾性層を多層とすると、導電性ローラの硬度調整や抵抗調整をし易くなるなどのメリットがある。付加反応型導電性シリコーンゴムを用いる場合には、反応阻害されないものを選択する必要がある。
【0019】
被覆層(c)を形成するための塗工液には、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBC)およびオレフィン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(CEBC)等の樹脂材料が用いられる。これらの樹脂材料は単独または2種類以上を混合しても良く、共重合体であっても良い。中でも圧縮永久歪みの性質からポリウレタン樹脂が好ましい。感光体やブレードに接触している導電性ローラにおいては、導電性ローラ表面の変形跡は画像不良として現れてしまうが、ポリウレタン樹脂を用いると変形跡が生じるのをより容易に防止することができるからである。
【0020】
これらのゴム材料に静摩擦係数を小さくする目的でグラファイト、雲母、二硫化モリブデンおよびフッ素樹脂粉末等の固体潤滑材、或いはフッ素系界面活性剤、ワックスまたはシリコーンオイル等を添加する場合もある。また、被覆層に導電性を持たせるためには各種導電剤(導電性カーボン、グラファイト、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉および金属酸化物である導電性酸化錫や導電性チタン等)が用いられる。
【0021】
さらに、耐磨耗性やトナー搬送性を得るために絶縁性粒子が加えられる。この絶縁性粒子には平均粒径が3〜30μmの、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン等の材質によって構成された球形状樹脂粒子を用いることが多い。この球形状樹脂粒子は使用する溶剤により膨潤や溶解が起こらないことが要求される。この場合不均一系の塗工液が得られる。絶縁性粒子を添加して不均一系の塗工液とすることにより、導電性ローラ表面に微細な凹凸形状を持たせることが可能になる。
【0022】
これらの材料を塗工できる状態とするために、これらの材料を含む塗工液を調製する。塗工液の調製に使用する有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族類、酢酸エチル、n−酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ、テトラヒドロピラン等のエーテル類が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。また樹脂等が溶解する場合には水も溶剤として用いることが出来る。
【0023】
塗工液の調製は、公知の方法によって行うことができる。例えば、上述した各材料を有機溶剤や水等の溶剤に添加し、攪拌して、各成分を均一に混合し、これを適宣希釈して塗工液を調製することができる。塗工液の調製において粉砕工程を加える場合は、ボールミル、サンドミルまたは振動ミル等を用いることができる。
【0024】
塗工液の粘度は、通常、1〜250mPa・sとすることが好ましいが、粘度は膜厚に大きく影響するところから、5〜50mPa・sとすることがより好ましい。
【0025】
このとき、塗工液は、次式(1)
TI=η(N1)/η(N2) (1)
(式中η(N1)およびη(N2)は回転式粘度計を用いて回転数N1およびN2で各々測定した塗工液の粘度を表し、N1[rpm]<N2[rpm]である。)
で表されるチクソトロピックインデックス(TI)の値が1以上である。チクソトロピックインデックス(TI)が1未満であると、1回のみのディップ塗工で被覆層を形成する場合に8μm以上の被覆層を得ることが難しく、また8μm以上の膜厚を有する被覆層が得られたとしてもディップ塗工時の被塗工物の上側下側位置によって塗工層の膜厚が異なるものとなり、均一な膜厚の被覆層を形成するのが難しくなる。
【0026】
塗工液を、例えば、オーバーフロー方式の循環塗工機に入れ、1回のみのディップ塗工を行う。このとき塗工液中へ被塗工物を5〜20mm/sの浸漬速度vで浸漬してゆき、一時停止して10〜30sの停止時間tが経過した後引き上げ塗工層を形成する。浸漬速度vは、5〜20mm/sとするのが好ましく、5〜10mm/sとするのがより好ましい。浸漬速度vが5mm/s未満の場合には、被塗工物の下側の浸漬時間が長くなり過ぎるために、塗工液中に導電性弾性層が膨潤するような溶剤が含まれる場合には過度の膨潤により得られる導電性ローラ表面に歪みが生じる。浸漬速度vが20mm/sを超える場合には、被塗工物が塗工液中に進入する際の衝撃が強くなるために、塗工液液面に泡が立ちやすく、この泡が塗工層に傷を付けてスジ状の跡を作ることになる。
【0027】
また停止時間tは、10〜30sとするのが好ましく、10〜20sとするのがより好ましい。停止時間tが10s未満の場合には、導電性弾性層上に一種の皮膜を構成するための時間が不十分であり、塗工層の膜厚の上下差が大きくなる。停止時間tが30sを超える場合には、塗工液中に導電性弾性層が膨潤するような溶剤が含まれる場合には過度の膨潤により、得られる導電性ローラの被覆層表面に歪みが生じ、さらに工程が長時間となるため生産の効率が悪い。
【0028】
被覆層は1層であっても良いし、2層以上の多層構造であっても良い。例えば2層構成とする場合、導電性弾性層の外周面上にまず1層目の塗工層を形成し、この塗工層を乾燥後、2層目の塗工層を1層目の上に形成する。なお2層目の塗工層を形成する時に下層(1層目)が2層目塗工液に含まれる溶剤により溶解し、破壊されないようにしなければならない。このように多層構造とすると導電性ローラの抵抗をコントロールし易くなるというメリットがある。
【0029】
導電性弾性層の外周面上に塗工層を形成した後に、塗工層を乾燥または硬化して被覆層を形成する。乾燥または硬化する方法は、特に限定されず、樹脂材料が熱可塑性樹脂の場合は加熱乾燥して、樹脂材料が熱硬化性樹脂の場合は、反応温度まで加熱し硬化すればよい。加熱乾燥または加熱硬化する条件は、特に限定されず、用いる材料によって好適な条件を選択すればよい。また、溶剤種や含有量によっても異なるが、有機溶剤等の場合はある程度、含有量を低下させておかないと、加熱乾燥または加熱硬化時に沸き等の表面欠陥が発生することがある。このため、必要に応じて、加熱乾燥または加熱硬化前に、塗工層を風乾するのが好ましい。風乾条件は、特に限定されず、塗工層に含まれる溶剤種や含有量に応じて選択すればよい。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、別途規定されている場合を除き、本実施例において「部」は質量部を、「%」は質量%を示す。
【0031】
本実施例において得られた導電性ローラの被覆層の膜厚の測定および被覆層の外観の評価は次の方法によった。
(被覆層の膜厚の測定)
導電性軸芯体の上に、導電性弾性層、被覆層と順次積層している導電性ローラに対して、周方向に3箇所、1〜2mmの間隔でカッターを用いて切り込みを入れる。この3つの切り込みに挟まれた導電性弾性層及び被覆層を削り取るように横から(長手方向に)カッターの刃を入れ、三日月型の測定片を取り出す。この測定片の断面を顕微鏡で観察し、この顕微鏡の画像から被覆層の厚さを測定した。なお、顕微鏡はビデオマイクロ(VH−6200;型式、キーエンス製)を使用し、レンズは1000倍のもの(VH−1001;型式)をセットした。導電性ローラのディップ塗工時に上側位置にあった導電性弾性層端部から20mmの位置(上側位置と表すことがある)、導電性弾性層の長手方向中央位置(中央位置と表すことがある)およびディップ塗工時に下側位置にあった導電性弾性層端部から20mmの位置(下側位置と表すことがある)において被覆層の膜厚を(周方向で3箇所)測定し、この周方向3個所の測定値の平均値を求め上側位置、中央位置および下側位置における被覆層の膜厚とした。
(被覆層の外観の評価)
(1)光沢
導電性ローラの被覆層の光沢を目視検査により判定した。具体的には電気スタンドの直下において、蛍光灯と平行さらには直角となるような位置に導電性ローラを構え、光を当てて被覆層表面を観察したときに、全体が一様な色合いで光を反射しているかを確認した。上記方法で導電性ローラを観察したときに、1箇所でも他の部分と光の反射具合が異なる部分が見られたとき光沢差ありと判定した。
(2)形状の変形
導電性ローラの導電性弾性層の形状の変形も光沢の評価と同様にして目視検査により判定した。塗工後のローラでは直接は導電性弾性層の変形は見ることが出来ないが、被覆層の光沢が一様であるにもかかわらず、導電性ローラの表面が平滑でなく、隆起、沈降が見られた場合、形状の変形(凹凸)ありと判定した。
(3)スジ
導電性ローラの導電性弾性層のスジを光沢の評価と同様にして目視検査により判定した。直線的なもの、曲がっているものなどを含む長手方向(塗工時の垂直方向)のスジが確認できた場合、スジ有りと判定した。
上記(1)〜(3)の評価結果に基づき次の基準で外観を評価した。
◎:上記(1)〜(3)の評価で欠陥が全く見られなかったもの
○:上記(1)〜(3)の評価で軽微な欠陥(目視検査を実施した人の中でこの欠陥を発見出来なかった人がいたとき軽微な欠陥とした)が見られるものの、導電性ローラを電子写真装置に組み込んで画像を出図した時に、この画像に不具合が無かったもの
×:上記(1)〜(3)の評価でいずれかの欠陥が見られたもの
【0032】
(実施例1)
下記の要領で現像ローラを作製した。
〔導電性部材の作製〕
外径φ8mmの鉄製軸芯体(導電性軸芯体)を内径φ16mmの円筒状金型内に同心となるように設置し、液状導電性シリコーンゴム(東レダウコーニング社製、体積固有抵抗107Ωcm品)を注型後、130℃のオーブンに入れ20分加熱成型し、脱型後、200℃のオーブンで4時間加硫を行い、導電性軸芯体上に厚み4mm、長さ240mmの導電性弾性層を有するローラを得た。
【0033】
〔被覆層用塗工液の調製〕
ウレタン塗料(ニッポランN5033;商品名、日本ポリウレタン社製)を固形分濃度が10%となるように、メチルエチルケトン(MEK)で希釈し、導電剤としてカーボンブラック(MA77;商品名、三菱化学製、平均粒子径24nm)をウレタン塗料固形分100部に対し30部、絶縁性粒子として平均粒径14μmのウレタン粒子(アートパールC400;商品名、根上工業製)をウレタン塗料固形分100部に対し6部添加した後、十分に分散したものに硬化剤(コロネートL;商品名、日本ポリウレタン社製)をウレタン塗料固形分100部に対し10部添加し、さらに攪拌し塗工液を得た。
【0034】
〔被覆用塗料の粘度測定〕
調製した塗工液を、回転式粘度計(VISMETRON VDA;商品名、芝浦システム社製)にNo.1ロータをセットし、測定温度23±1℃にて、回転数N1を6rpm、回転数N2を60rpmとして粘度を測定し、前記式(1)からチクソトロピックインデックス(TI)を求めた。
【0035】
〔被覆層の形成〕
調製した塗工液を図3に示した塗工槽に装入し、塗工液の液面に対して前記ローラの導電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持し、液面に向かって垂直に降下し10mm/sの浸漬速度vで浸漬してゆき、一時停止して10sの停止時間tが経過した後引き上げて該ローラの導電性弾性層の外周面上に塗工層を形成した。引上速度は、引上開始直後で500mm/min、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で200mm/minとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗工層を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンで1時間加熱硬化して導電性ローラを得た。
【0036】
(実施例2)
実施例1の塗工液を攪拌タンクへ入れ、メチルエチルケトン(MEK)を滴下し、η(N2)が10mPa・sになるように希釈した塗工液を用いた以外は実施例1と同様にして導電性ローラを得た。
【0037】
(実施例3)
実施例1の塗工液を攪拌タンクへ入れ、溶剤を添加せずに回転羽根を回すことで溶剤分を蒸発させ、η(N2)が17mPa・sになるよう処理した塗工液を用いた以外は実施例1と同様にして導電性ローラを得た。
【0038】
(実施例4)
浸漬速度vを5mm/sとした以外は実施例2と同様にして導電性ローラを得た。
【0039】
(実施例5)
浸漬速度vを5mm/sとした以外は実施例3と同様にして導電性ローラを得た。
【0040】
(実施例6)
浸漬速度vを20mm/sとした以外は実施例2と同様にして導電性ローラを得た。
【0041】
(実施例7)
浸漬速度vを20mm/sとした以外は実施例3と同様にして導電性ローラを得た。
【0042】
(実施例8)
浸漬速度vを5mm/sとし、停止時間tを30sとした以外は実施例2と同様にして導電性ローラを得た。
【0043】
(実施例9)
浸漬速度vを5mm/sとし、停止時間tを30sとした以外は実施例3と同様にして導電性ローラを得た。
(実施例10)
浸漬速度vを20mm/sとし、停止時間tを30sとした以外は実施例2と同様にして導電性ローラを得た。
【0044】
(実施例11)
浸漬速度vを20mm/sとし、停止時間tを30sとした以外は実施例3と同様にして導電性ローラを得た。
【0045】
(比較例1)
導電剤をカーボンブラック(MA220;商品名、三菱化学製、平均粒子径55nm)に置き換えた以外は実施例1と同様にして導電性ローラを得た。
【0046】
(比較例2)
浸漬速度vを3mm/sとした以外は実施例1と同様にして導電性ローラを得た。
【0047】
(比較例3)
浸漬速度vを30mm/sとした以外は実施例1と同様にして導電性ローラを得た。
【0048】
(比較例4)
停止時間tを5sとした以外は実施例1と同様にして導電性ローラを得た。
【0049】
(比較例5)
停止時間tを60sとした以外は実施例1と同様にして導電性ローラを得た。
【0050】
上記各実施例の導電性ローラの製造条件および評価結果を表1に、上記比較例の導電性ローラの製造条件および評価結果を表1に、また、評価結果の詳細を表2に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1に示されている通り、実施例1〜実施例11においては用いた塗工液の前記式(1)で表されるチクソトロピックインデックス(TI)が1以上であり、さらにこのとき被塗工物のローラが塗工液中へ浸漬してゆく浸漬速度vが5〜20mm/sであり、また停止時間tが10〜30sという条件を達成しており、得られた導電性ローラの導電性弾性層の上側下側位置における被覆層の膜厚差が小さく、且つ均一な外観の被覆層を有する導電性ローラを得た。
【0054】
これに対し比較例1は用いた塗工液のチクソトロピックインデックス(TI)が1未満であり、導電性ローラの導電性弾性層の上側下側位置で被覆層の膜厚差が大きくなり、また導電性ローラの導電性弾性層の上側と下側位置におけるの被覆層に光沢差が見られた。
この対策としてローラの導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点の引き上げ速度を300mm/minとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速してみたが、このような条件とすると塗工層に液垂れ模様が発生してしまった。
【0055】
比較例2は用いた塗工液のチクソトロピックインデックス(TI)は1以上であるが、ローラを塗工液中に浸漬する浸漬速度vが5mm/s未満であった。この条件ではローラ下側の浸漬時間tが長すぎたために導電性弾性層が溶剤を過剰に吸収してしまい、導電性弾性層の粗密を拾ったことに起因すると思われる導電性ローラの被覆層表面の変形(凹凸)が見られた。
【0056】
比較例3ではローラを塗工液中に浸漬する浸漬速度vが20mm/sより大であった。このためローラ下端が塗工液中に進入する瞬間に泡が立つ現象が見られ、この泡がローラを引き上げるときに塗工層表面に傷をつけ、泡がなぞった跡によるスジが発生した。また比較例1同様、導電性ローラの上側位置と下側位置での被覆層の膜厚差が大きくなり、光沢差が見られた。
【0057】
比較例4では停止時間tが10s未満であった。このため比較例1同様、導電性ローラの上側位置と下側位置の被覆層の膜厚差が大きくなり、光沢差が見られた。
この対策としてローラの導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点の引き上げ速度を300mm/minとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速してみたが、比較例1同様に塗工層に液垂れ模様が発生する結果となった。
【0058】
比較例5では停止時間tが30秒より長かった。このため比較例2と同様の変形が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の導電性ローラは、電子写真、複写機などの画像形成装置において、現像、帯電、転写、定着、加圧、クリーニング、除電等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態の導電性ローラの導電性軸芯体に垂直な面における断面を模式的に示した図である。
【図2】本発明の一実施形態の導電性ローラの導電性軸芯体に平行な面における断面を模式的に示した図である。
【図3】被塗工物を塗工液に浸漬した状態を示す模式図(断面図)である。
【符号の説明】
【0061】
a:導電性軸芯体
b:導電性弾性層
c:被覆層
d:塗工液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層と、該導電性弾性層の外周面上に少なくとも1層の被覆層を有する導電性ローラにおいて、
該被覆層が、次式(1)
TI=η(N1)/η(N2) (1)
(式中、η(N1)およびη(N2)は回転式粘度計を用いて回転数N1およびN2で各々測定した塗工液の粘度を表し、N1[rpm]<N2[rpm]である。)
で表されるチクソトロピックインデックス(TI)が1以上の塗工液中へ被塗工物を5〜20mm/sの浸漬速度vで浸漬してゆき、一時停止して10〜30sの停止時間tが経過した後引き上げる1回のみのディップ塗工により該被塗工物の導電性弾性層または被覆層の外周面上に塗工層を形成し、該塗工層を乾燥または硬化して形成した被覆層であることを特徴とする導電性ローラ。
【請求項2】
前記塗工液が、3〜30μmの平均粒径を有する絶縁性粒子を含有する不均一系の塗工液であることを特徴とする請求項1記載の導電性ローラ。
【請求項3】
前記被覆層の膜厚が8〜30μmであることを特徴とする請求項1または2記載の導電性ローラ。
【請求項4】
導電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層と、該導電性弾性層の外周面上に少なくとも1層の被覆層を有する導電性ローラの製造方法において、該被覆層を形成するための塗工液であって、次式(1)
TI=η(N1)/η(N2) (1)
(式中、η(N1)およびη(N2)は回転式粘度計を用いて回転数N1およびN2で各々測定した塗工液の粘度を表し、N1[rpm]<N2[rpm]である。)
で表されるチクソトロピックインデックス(TI)が1以上の塗工液を調製する工程、該塗工液中へ被塗工物を5〜20mm/sの浸漬速度vで浸漬してゆき、一時停止して10〜30sの停止時間tが経過した後引き上げるディップ塗工を1回のみ行うことによって該被塗工物の導電性弾性層または被覆層の外周面上に塗工層を形成する工程、および、該塗工層を乾燥または硬化して被覆層を形成する工程を含むことを特徴とする導電性ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−195360(P2006−195360A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9131(P2005−9131)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】