説明

差圧弁、制御弁および車両用冷暖房装置

【課題】暖房運転時の除湿性能を良好に確保可能な車両用冷暖房装置、およびその車両用冷暖房装置に好適な制御弁を提供する。
【解決手段】制御弁6に組み込まれる差圧オリフィス20は、上流側通路と下流側通路とを接続する連通路159が設けられ、その連通路159における上流側に弁座161が設けられ下流側にガイド孔168が設けられたボディと、一端が上流側通路側に開口し他端が下流側通路側に開口するオリフィス通路157が貫通形成され、ガイド孔168に摺動可能に支持されるオリフィス部165と、弁座161に着脱して連通路159を開閉する弁体部164とが一体形成された弁体163と、弁体163を閉弁方向に付勢するスプリング169と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上流側から下流側への冷媒の流れを制御可能な差圧弁、およびその差圧弁を含む制御弁に関し、特に、車両用冷暖房装置に好適に適用可能な制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関を搭載した車両においてはエンジンの燃焼効率が向上したこともあり、熱源として利用してきた冷却水が暖房に必要な温度にまで上昇し難くなっている。一方、内燃機関と電動機を併用したハイブリッド車両においては内燃機関の稼働率が低いため、そのような冷却水の利用がさらに難しい。電気自動車に至っては内燃機関による熱源そのものがない。このため、冷房のみならず暖房にも冷媒を用いたサイクル運転を行い、車室内を除湿暖房可能なヒートポンプ式の車両用冷暖房装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような車両用冷暖房装置は、圧縮機、室外熱交換器、蒸発器、室内熱交換器等を含む冷凍サイクルを有し、暖房運転時と冷房運転時とで室外熱交換器の機能が切り替えられる。暖房運転時においては室外熱交換器が蒸発器として機能する。その際、冷媒が冷凍サイクルを循環する過程で室内熱交換器が放熱し、その熱により車室内の空気が加熱される。一方、冷房運転時においては室外熱交換器が凝縮器として機能する。その際、室外熱交換器にて凝縮された冷媒が蒸発器にて蒸発し、その蒸発潜熱により車室内の空気が冷却される。その際、除湿も行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−240266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような車両用冷暖房装置においては、暖房運転時に室外熱交換器を蒸発器として機能させたときにその蒸発量が必要以上に大きくなると、車室内の蒸発器に十分な液冷媒が供給されない事態が生じる可能性がある。そうなると、実質的に蒸発器での熱交換がなされなくなるため、車室内の除湿機能を適正に維持できなくなり、窓ガラスの曇り等の問題を発生させる可能性がある。一方、例えば極低温下において蒸発器に必要以上に低温の冷媒を流すと、蒸発器を凍結させてしまう可能性もある。そこで、発明者は、このように室外熱交換器を蒸発器として機能させるときにも車室内の蒸発器に適正量の液冷媒が供給されるように調整できれば、こうした問題を解決できると考えた。
【0006】
本発明の目的の一つは、暖房運転時の除湿性能等を良好に確保可能な車両用冷暖房装置、およびその車両用冷暖房装置に好適な制御弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の差圧弁は、上流側と下流側との差圧が設定値より大きくなったときに開弁する差圧弁において、上流側から流体を導入する導入ポートと、下流側へ流体を導出する導出ポートと、導入ポートと導出ポートとをつなぐ連通路と、連通路を開放または遮断するために開閉される弁部とを含むボディと、ボディに支持されつつ弁部の開閉方向に動作する弁体と、弁体を閉弁方向に付勢する付勢部材と、弁体を貫通するように形成され、弁部の開閉方向に延びるオリフィスと、を備える。
【0008】
この態様によると、弁体が上流側と下流側との差圧(「前後差圧」ともいう)を受けて弁部の開閉方向に動作することにより連通路を開閉する。すなわち、当該差圧弁は、付勢部材の付勢力により設定された設定差圧(設定値)よりもその前後差圧が大きくなると開弁し、上流側通路から下流側通路へ向かう流体の流れを許容する。一方、当該差圧弁は、その前後差圧が設定差圧よりも小さくなると閉弁するので、逆方向の冷媒の流れを阻止する逆止弁としても機能する。そして特に、オリフィスが弁体に一体形成されているため、弁体が開弁して流体がオリフィスを通過すると、その流体がオリフィスを通過する際の圧力損失(流体の摩擦力)による開弁方向の力が弁体に作用するようになる。このため、差圧弁が開弁を開始すると、その開度を速やかに大きくすることができ、差圧弁を実質的にオリフィスとしてのみ機能させることができる。すなわち、当該差圧弁を車両用冷暖房装置を構成する膨張装置として機能させる場合、そのオリフィスの特性に応じて冷媒を適正に膨張させることができるようになる。
【0009】
本発明の別の態様は、制御弁である。この制御弁は、上流側から下流側への冷媒の流れを制御可能なパイロット作動式の制御弁において、上流側通路と下流側通路とを直接つなぐ主通路を、両通路を接続する主弁孔に接離して開閉する主弁体を有し、その主弁体が、上流側通路と下流側通路と背圧室とを区画するように設けられる主弁と、上流側通路と下流側通路とを背圧室を介してつなぐ副通路の開度を、副弁孔に接離して調整可能な電磁駆動のパイロット弁体を有し、そのパイロット弁体が、主弁の開弁時には主弁の上流側と下流側との差圧を供給電流値に応じた設定差圧近づけるよう動作するパイロット弁と、主通路および副通路とは別に上流側通路と下流側通路とを接続する連通路を開閉可能な差圧弁と、を備える。差圧弁は、上流側から冷媒を導入する導入ポートと、下流側へ冷媒を導出する導出ポートと、導入ポートと導出ポートとをつなぐ連通路と、連通路を開放または遮断するために開閉される弁部とを含むボディと、ボディに支持されつつ弁部の開閉方向に動作する弁体と、弁体を閉弁方向に付勢する付勢部材と、弁体を貫通するように形成され、弁部の開閉方向に延びるオリフィスと、を含む。
【0010】
この態様によると、電磁駆動によりパイロット弁が作動し、副通路の開度を調整することで、主弁の開度を調整可能となる。主弁体そのものに副弁孔が形成され、パイロット弁体がこれを開閉する構成としたため、パイロット作動式の制御弁が簡易な構成にて実現可能となる。また、主弁およびパイロット弁がともに閉弁状態となっても、上流側と下流側との差圧(前後差圧)が設定差圧(設定値)よりも大きければ、差圧弁が開弁されるため、上流側通路から下流側通路へ向かう冷媒の流れを形成することができる。特に、その差圧弁においてはオリフィスが弁体に一体形成されているため、弁体が開弁して冷媒がオリフィスを通過すると、その冷媒がオリフィスを通過する際の圧力損失(流体の摩擦力)による開弁方向の力が弁体に作用するようになる。このため、差圧弁が開弁を開始すると、その開度を速やかに大きくすることができ、差圧弁を実質的にオリフィスとしてのみ機能させることができる。すなわち、当該制御弁を車両用冷暖房装置を構成する膨張装置として機能させる場合、そのオリフィスの特性に応じて冷媒を適正に膨張させることができ、冷房運転時および暖房運転時の空調性能を良好に確保できるようになる。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、車両用冷暖房装置である。この装置は、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、車室外に配置され、冷房運転時に冷媒を放熱させる室外凝縮器として機能する一方、暖房運転時には冷媒を蒸発させる室外蒸発器として機能する室外熱交換器と、車室内に配置されて冷媒を蒸発させる室内蒸発器と、室内蒸発器が機能するとともに室外熱交換器が室外蒸発器として機能するときに室外熱交換器の下流側となる位置に設けられ、上流側から下流側への冷媒の流れを制御する電動の制御弁と、制御弁への供給電流を制御して制御弁の前後差圧を調整する制御部と、を備える車両用冷暖房装置であって、制御弁は、上流側から下流側への冷媒の流れを制御可能なパイロット作動式の制御弁において、上流側通路と下流側通路とを直接つなぐ主通路を、両通路を接続する主弁孔に接離して開閉する主弁体を有し、その主弁体が、上流側通路と下流側通路と背圧室とを区画するように設けられる主弁と、上流側通路と下流側通路とを背圧室を介してつなぐ副通路の開度を、副弁孔に接離して調整可能な電磁駆動のパイロット弁体を有し、そのパイロット弁体が、主弁の開弁時には主弁の上流側と下流側との差圧を供給電流値に応じた設定差圧近づけるよう動作するパイロット弁と、主通路および副通路とは別に上流側通路と下流側通路とを接続する連通路を開閉可能な差圧弁と、を備える。差圧弁は、上流側から冷媒を導入する導入ポートと、下流側へ冷媒を導出する導出ポートと、導入ポートと導出ポートとをつなぐ連通路と、連通路を開放または遮断するために開閉される弁部とを含むボディと、ボディに支持されつつ弁部の開閉方向に動作する弁体と、弁体を閉弁方向に付勢する付勢部材と、弁体を貫通するように形成され、弁部の開閉方向に延びるオリフィスと、を含む。
【0012】
この態様によると、暖房運転時において室内蒸発器が機能するとともに室外熱交換器が室外蒸発器として機能するときに、制御弁の前後差圧(上流側と下流側との差圧)が制御されることにより、室外熱交換器における冷媒の蒸発温度ひいては蒸発量を調整することができる。その結果、室内蒸発器における冷媒の蒸発量を調整することができる。すなわち、その室内蒸発器の蒸発量を確保することで、暖房運転時においても室内蒸発器に導入される液冷媒の流量を確保することができる。つまり、制御弁の前後差圧を調整することで暖房運転時においても室内蒸発器の機能を確保することができ、それにより車室内の湿度機能を適正に維持することができる。
【0013】
また、主弁およびパイロット弁がともに閉弁状態となっても、上流側と下流側との差圧(前後差圧)が設定差圧(設定値)よりも大きければ、差圧弁が開弁されるため、上流側通路から下流側通路へ向かう冷媒の流れを形成することができる。特に、その差圧弁においてはオリフィスが弁体に一体形成されているため、弁体が開弁して冷媒がオリフィスを通過すると、その冷媒がオリフィスを通過する際の圧力損失(流体の摩擦力)による開弁方向の力が弁体に作用するようになる。このため、差圧弁が開弁を開始すると、その開度を速やかに大きくすることができ、差圧弁を実質的にオリフィスとしてのみ機能させることができる。その結果、オリフィスにて膨張させた冷媒を適正な状態で蒸発器に供給することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、暖房運転時の除湿性能等を良好に確保可能な車両用冷暖房装置、およびその車両用冷暖房装置に好適な制御弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る車両用冷暖房装置の概略構成を表すシステム構成図である。
【図2】車両用冷暖房装置の動作を表す説明図である。
【図3】第2制御弁の具体的構成を表す断面図である。
【図4】第2制御弁の動作状態を表す説明図である。
【図5】第2制御弁の動作状態を表す説明図である。
【図6】第2実施形態に係る弁ユニットの具体的構成を表す断面図である。
【図7】第3実施形態に係る差圧オリフィスの構成および動作を表す断面図である。
【図8】第4実施形態に係る差圧オリフィスの構成および動作を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る車両用冷暖房装置の概略構成を表すシステム構成図である。本実施形態は、本発明の車両用冷暖房装置を電気自動車の冷暖房装置として具体化したものである。
【0017】
車両用冷暖房装置1は、圧縮機2、室内凝縮器3、第1制御弁4、室外熱交換器5、第2制御弁6、蒸発器7およびアキュムレータ8を配管にて順次接続した冷凍サイクル(冷媒循環回路)を備える。車両用冷暖房装置1は、冷媒としての代替フロン(HFC−134a)が冷凍サイクル内を状態変化しながら循環する過程で、その冷媒の熱を利用して車室内の空調を行うヒートポンプ式の冷暖房装置として構成されている。なお、本実施形態においては、室外熱交換器5と第2制御弁6とをつなぐ通路と、蒸発器7とアキュムレータ8とをつなぐ通路とを接続するバイパス通路9が設けられ、そのバイパス通路9に切替弁11が配設されている。
【0018】
車両用冷暖房装置1は、空気の熱交換が行われるダクト10を有し、そのダクト10における空気の流れ方向上流側から室内送風機12、蒸発器7、室内凝縮器3が配設されている。室内凝縮器3の上流側には、エアミックスドア14が回動自在に設けられ、室内凝縮器3を通過する風量と室内凝縮器3を迂回する風量との比率が調節される。また、室外熱交換器5に対向するように室外送風機16が配置されている。
【0019】
圧縮機2は、ハウジング内にモータと圧縮機構を収容する電動圧縮機として構成され、図示しないバッテリからの供給電流により駆動され、モータの回転数に応じて冷媒の吐出容量が変化する。この圧縮機2としては、レシプロ式、ロータリ式、スクロール式など、様々な形式の圧縮機を採用することができるが、電動圧縮機そのものは公知であるため、その説明については省略する。
【0020】
室内凝縮器3は、車室内に設けられ、室外熱交換器5とは別に冷媒を放熱させる補助凝縮器として機能する。すなわち、圧縮機2から吐出された高温・高圧の冷媒が室内凝縮器3を通過する際に放熱する。エアミックスドア14の開度に応じて振り分けられた空気は、室内凝縮器3を通過する過程でその熱交換が行われる。
【0021】
第1制御弁4は、室内凝縮器3と室外熱交換器5とをつなぐ主通路の開度を調整する。第1制御弁4は、その主通路を開閉する弁部と、その弁部を駆動するソレノイドを備え、供給電流の有無によって弁部を開閉する。また、主通路を第1制御弁4の前後で迂回するバイパス通路が設けられ、そのバイパス通路にオリフィス18が設けられている。オリフィス18の開口面積は、第1制御弁4の開弁時の開口面積よりも十分に小さいが、このように第1制御弁4と並列にオリフィス18が設けられることで、第1制御弁4の閉弁時においても所定流量の冷媒の流れが許容される。
【0022】
室外熱交換器5は、車室外に配置され、冷房運転時に内部を通過する冷媒を放熱させる室外凝縮器として機能する一方、暖房運転時には内部を通過する冷媒を蒸発させる室外蒸発器として機能する。室外送風機16は、吸い込み式の送風機であり、軸流ファンをモータにより回転駆動することにより外気を導入する。室外熱交換器5は、その外気と冷媒との間で熱交換をさせる。
【0023】
第2制御弁6は、室外熱交換器5と蒸発器7とをつなぐ主通路の開度を調整する。第2制御弁6は、その主通路を開閉する弁部と、その弁部を駆動するソレノイドを備え、供給電流値に応じて弁部の開度を調整する。第2制御弁6は、その前後差圧(第2制御弁6の上流側圧力と下流側圧力との差圧)が供給電流値に応じた一定の値(第1設定差圧)となるように動作する定差圧弁として機能可能に構成されている。すなわち、第2制御弁6の弁部は、前後差圧がソレノイドへの供給電流値に対応づけられた値となるよう自律的に動作する。また、第2制御弁6には差圧オリフィス20(「差圧弁」として機能する)が設けられ、その主弁の閉弁時においても前後差圧が予め設定された第2設定差圧よりも高くなると、所定流量の冷媒の流れを許容する。差圧オリフィス20は、差圧弁とオリフィスとを一体に形成したものであり、そのオリフィスの開口面積は、第2制御弁6の全開時の開口面積よりも十分に小さい。なお、第2制御弁6の構造については後に詳述する。
【0024】
蒸発器7は、車室内に配置され、内部を通過する冷媒を蒸発させる室内蒸発器として機能する。すなわち、第2制御弁6の通過により低温・低圧となった冷媒は、蒸発器7を通過する際に蒸発する。ダクト10の上流側から導入された空気は、その蒸発潜熱によって冷却される。このとき冷却・除湿された空気は、エアミックスドア14の開度に応じて室内凝縮器3を通過するものと、室内凝縮器3を迂回するものとに振り分けられる。室内凝縮器3を通過する空気は、その通過過程で加熱される。室内凝縮器3を通過した空気と迂回した空気とが室内凝縮器3の下流側にて混合されて目標の温度に調整され、図示しない吹出口から車内に供給される。例えば、ベント吹出口、フット吹出口、デフ吹出口等から車室内所定場所に向かって吹き出される。
【0025】
アキュムレータ8は、蒸発器から送出された冷媒を気液分離して溜めておく装置であり、液相部と気相部とを有する。このため、仮に蒸発器7から想定以上の液冷媒が導出されたとしても、その液冷媒を液相部に溜めおくことができ、気相部の冷媒を圧縮機2に導出することができる。その結果、圧縮機2の圧縮動作に支障をきたすこともない。一方、本実施形態では、その液相部の冷媒の一部を圧縮機2に供給できるようにされており、圧縮機2に必要量の潤滑オイルを戻すことができるようになっている。
【0026】
切替弁11は、室外熱交換器5から導出された冷媒をバイパス通路9を経由するように流すか否かを切り替える。本実施形態において、切替弁11は通電により開弁する電磁駆動の開閉弁からなり、特に外部温度が低くなり、蒸発器7の凍結が予測される状況下にある場合には、適宜、第2制御弁6を閉弁させて蒸発器7へつながる通路を遮断するとともに、切替弁11を開弁させて蒸発器7を迂回させるバイパス通路9を開放する。その間にダクト10を通過する空気により蒸発器7が温められ、凍結防止を図ることができる。なお、このような開閉弁そのものについては公知のものを用いることができるため、その詳細な説明については省略する。
【0027】
以上のように構成された車両用冷暖房装置1は、制御部100により制御される。制御部100は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース等を備える。制御部100には、車両用冷暖房装置1に設置された図示しない各種センサ・スイッチ類からの信号が入力される。制御部100は、車両の乗員によりセットされた室温を実現するために各アクチュエータの制御量を演算し、各アクチュエータの駆動回路に制御信号を出力する。図示の例では、制御部100は、第1制御弁4の開閉制御、第2制御弁6の開閉制御(開度調整制御)、切替弁11の開閉切替制御のほか、圧縮機2,室内送風機12,室外送風機16およびエアミックスドア14の駆動制御も実行する。
【0028】
制御部100は、第2制御弁6の駆動回路に設定したデューティ比のパルス信号を出力するPWM出力部を有するが、その構成自体には公知のものが採用されるため、詳細な説明を省略する。制御部100は、特に暖房運転時において、車室内外の温度、蒸発器7の吹き出し空気温度等、各種センサにて検出された所定の外部情報に基づいて設定差圧(第1設定差圧)を決定し、第2制御弁6の前後差圧(上流側と下流側との差圧)がその設定差圧となるよう通電制御を行う。言い換えれば、第2制御弁6の弁部が供給電流値に対応した前後差圧が得られるよう自律的に動作し、その開度を調整する。また、制御部100は、特に冷房運転時において、車室内外の温度、蒸発器7の吹き出し空気温度等、各種センサにて検出された所定の外部情報に基づいて設定流量を決定し、第2制御弁6の前後差圧に対して必要な弁開度が得られるよう通電制御を行う。言い換えれば、第2制御弁6の弁部が供給電流値に対応した弁開度が得られるよう自律的に動作する。
【0029】
次に、本実施形態の冷凍サイクルの動作について説明する。図2は、車両用冷暖房装置の動作を表す説明図である。(A)は冷房運転時の状態を示し、(B)は暖房運転時の状態を示し、(C)は特定暖房運転時の状態を示している。なお、ここでいう「冷房運転」は、冷房機能が暖房機能よりも大きく機能する運転状態であり、「暖房運転」は、暖房機能が冷房機能よりも大きく機能する運転状態であり、「特定暖房運転」は、蒸発器7を実質的に機能させない暖房運転であり、外部環境等に応じて暖房運転時に適宜実行される。
【0030】
各図の上段には冷凍サイクルの動作を説明するモリエル線図が示されている。その横軸がエンタルピーを表し、縦軸が各種圧力を表している。各図の下段には、冷凍サイクルの動作状態が示されている。図中の太線および矢印が冷媒の流れを示し、符号a〜fはモリエル線図のそれと対応している。また、図中の「×」は冷媒の流れが遮断されていることを示している。なお、同図の下段は図1に対応するが、エアミックスドア14等の図示を省略するなど便宜上簡略表記されている。
【0031】
図2(A)に示すように、冷房運転時においては、第1制御弁4が開弁される一方、第2制御弁6の主弁(後述する)は閉弁される。切替弁11は、バイパス通路9を遮断する。このとき、室外熱交換器5は室外凝縮器として機能する。すなわち、圧縮機2から吐出された冷媒は、室内凝縮器3、第1制御弁4、室外熱交換器5、差圧オリフィス20、蒸発器7、アキュムレータ8の順に経由するように循環して圧縮機2に戻る。室内凝縮器3から導出された冷媒の一部は、オリフィス18を通過するが、その流量は第1制御弁4を通過する流量に比べて相当少ない。
【0032】
すなわち、圧縮機2から吐出された高温・高圧のガス冷媒は、室内凝縮器3および室外熱交換器5を経ることで凝縮され、差圧オリフィス20にて断熱膨張され、冷温・低圧の液冷媒となって蒸発器7に導入される。そして、その蒸発器7を通過する過程で蒸発し、車室内の空気を冷却・除湿する。このとき、エアミックスドア14の開度が適度に調整され、その空気の温度調整が行われる。
【0033】
一方、図2(B)に示すように、暖房運転時においては、第1制御弁4が閉弁される一方、第2制御弁6が開弁される。切替弁11は、バイパス通路9を遮断する。このとき、エアミックスドア14は温度設定に応じた適切な開度となるよう駆動される。このとき、室外熱交換器5は室外蒸発器として機能する。すなわち、圧縮機2から吐出された冷媒は、室内凝縮器3、オリフィス18、室外熱交換器5、第2制御弁6、蒸発器7、アキュムレータ8の順に経由するように循環して圧縮機2に戻る。
【0034】
すなわち、圧縮機2から吐出された高温・高圧のガス冷媒は、室内凝縮器3を経て凝縮され、オリフィス18にて断熱膨張され、室外熱交換器5にて蒸発され、さらに第2制御弁6にて断熱膨張され、冷温・低圧の液冷媒となって蒸発器7を通過する。すなわち、液冷媒は、室外熱交換器5および蒸発器7を通過する過程で順次蒸発するが、後段の蒸発器7における蒸発潜熱により車室内の空気が冷却され、除湿される。すなわち、蒸発器7によって冷却・除湿された空気は、室内凝縮器3を経由することで加熱され、適度に温められて車内に供給される。
【0035】
図2(B)の上段に示すように、このとき室外熱交換器5および第2制御弁6の両蒸発器にて蒸発される比率が第2制御弁6の前後差圧ΔPにより制御される。図示のように、前後差圧ΔPが比較的大きく設定されると、実線部分にて示されるように、室外熱交換器5における蒸発量が相対的に小さくなる(蒸発器7における蒸発量が相対的に大きくなる)。逆に、前後差圧ΔPが比較的小さく設定されると、点線部分にて示されるように、室外熱交換器5における蒸発量が相対的に大きくなる(蒸発器7における蒸発量が相対的に小さくなる)。制御部100は、設定温度を実現する過程で蒸発器7における熱交換量を制御するが、その際、前後差圧ΔPを適切に設定することで、循環する冷媒を室外熱交換器5と蒸発器7とで蒸発させる比率を調整する。それにより、蒸発器7での蒸発量を確保することができ、除湿機能を確保することができる。
【0036】
また、図2(C)に示すように、特定暖房運転時においては、暖房運転時と同様に第1制御弁4が閉弁される。このとき、第2制御弁6が閉弁されるとともに切替弁11が開弁され、冷媒通路がバイパス通路9に切り替えられる。その結果、第2制御弁6の前後差圧が小さくなり(ほぼゼロとなり)、差圧オリフィス20の閉弁状態も維持される。すなわち、蒸発器7へつながる通路が遮断されるとともに、バイパス通路9が開放される。このため、冷媒は蒸発器7を通過せずに迂回する。それにより、一時的に蒸発器7に低温・低圧の液冷媒が供給されなくなるため、蒸発器7の温度が極低温となって凍結するのを抑制できる。このとき、ダクト10を通過する空気により蒸発器7が温められる。
【0037】
本実施形態において、制御部100は、外気温が予め設定する極低温(例えば−10℃以下)となっている場合、図2(B)に示す暖房運転と図2(C)に示す特定暖房運転とを併用し、これらを交互に切り替えるように制御する。これにより、暖房運転により除湿性能を確保するとともに、特定暖房運転により蒸発器7の凍結を防止することができる。
【0038】
次に、第2制御弁6の具体的構成について説明する。
図3は、第2制御弁の具体的構成を表す断面図である。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。
第2制御弁6は、その上流側と下流側との差圧が供給電流値に応じた差圧となるよう流体の流れを制御可能なパイロット作動式の制御弁として構成されている。第2制御弁6は、弁本体101とソレノイド102とを組み付けて構成される。
【0039】
弁本体101は、有底円筒状のボディ103に主弁105とパイロット弁106とを同軸状に収容して構成される。ボディ103の一方の側部には、冷凍サイクルの上流側通路に連通する入口ポート110が設けられ、他方の側部には、冷凍サイクルの下流側通路に連通する出口ポート112が設けられている。ボディ103の内部中央には、半径方向内向きに延出した区画壁114が設けられている。区画壁114は、ボディ103内を高圧側の圧力室116と低圧側の圧力室118とに区画している。圧力室116は入口ポート110に連通し、圧力室118は出口ポート112に連通している。
【0040】
区画壁114の環状の内周部により主弁孔120が形成され、その上流側開口端部により主弁座122が形成されている。圧力室116には段付円筒状の主弁体124が配設されている。主弁体124は、主弁座122に着脱して主弁105を開閉する。主弁体124は、円筒状の本体の下部に半径方向外向きに突出するフランジ部130が設けられ、そのフランジ部130にて主弁座122に着脱する。そのフランジ部130の外周縁近傍からは下方に向けて複数の脚部132が延設されており(同図には1つのみ表示)、主弁孔120の内周面によって摺動可能に支持されている。
【0041】
一方、主弁体124の中央部には半径方向外向きに延出するフランジ部134が設けられ、ボディ103の内周面に摺動可能に支持されている。フランジ部134の外周面にはシール用のOリング136が嵌着されている。フランジ部134は、圧力室116を高圧室138と背圧室140とに区画する。また、フランジ部134から上方に向けて複数の脚部142が延設されており(同図には1つのみ表示)、ソレノイド102の内部まで延出している。
【0042】
また、主弁体124には、高圧室138と圧力室118とを連通する連通路159が設けられ、その連通路159を開閉するよに差圧オリフィス20が設けられている。既に述べたように、差圧オリフィス20は、主弁105およびパイロット弁106が閉弁状態にあっても所定流量の冷媒の流れを許容する。なお、高圧室138と圧力室118とを主弁105を介してつなぐ通路が第2制御弁6における「主通路」を構成し、高圧室138と圧力室118とをパイロット弁106を介してつなぐ通路が第2制御弁6における「副通路」を構成する。連通路159は、これら主通路および副通路とは別に高圧室138と圧力室118とをつなぐ通路として形成されている。
【0043】
主弁体124の内部中央には、その軸線方向に圧力室116と圧力室118とを連通させるパイロット通路144が形成され、そのパイロット通路144の上端部がやや縮径して副弁孔146を形成している。そして、副弁孔146の下流側開口端部により弁座148が形成され、上流側開口端部により弁座149が形成されている。後述のように、パイロット弁106を構成するパイロット弁体150が、制御状態に応じて弁座148または弁座149に着脱して副弁孔146を開閉する。
【0044】
パイロット弁体150は、ステンレス材からなる長尺状の本体を有し、副弁孔146を貫通するように配設されている。パイロット弁体150は、差圧弁として機能する差圧弁体156と開閉弁として機能する開閉弁体158とが一体に設けられている。差圧弁体156は、パイロット弁体150の本体の下端部に設けられ、パイロット通路144に配置されている。差圧弁体156は、上方に向かって縮径するテーパ面にて弁座148に着脱する。一方、開閉弁体158は、背圧室140に配置されている。開閉弁体158は、差圧弁体156が弁座148から所定量リフトしたときに(つまり、パイロット弁106が所定開度となったときに)、図示のように弁座149に着座してパイロット弁106を閉じるものである。
【0045】
また、連通路159と背圧室140との間には連通孔153が設けられ、その連通孔153を閉止するように弁座形成部材160が嵌合されている。弁座形成部材160は、弾性材(ゴム等)からなり、その連通路159側の面にはテーパ状の弁座161が突設されている。弁座形成部材160の周縁部近傍には小断面のリーク通路162が形成され、連通路159と背圧室140とを連通させている。
【0046】
差圧オリフィス20は、その前後差圧が所定値以上になると開弁する差圧弁(逆止弁)として機能するとともに、その開弁時の冷媒流量を制限するオリフィスとしても機能する。すなわち、差圧オリフィス20は、弁体部164とオリフィス部165とが一体に形成された段付円筒状の弁体163を有する。そして、弁体部164が弁座161に着脱することにより連通路159を開閉する。オリフィス部165は、その長手方向中央部に外径がやや拡径されたガイド部166を有し、そのガイド部166にて主弁体124に支持されている。オリフィス部165の下半部は、主弁体124の下端部を貫通して下方に延びている。オリフィス部165を弁体163の軸線に沿って貫通するようにオリフィス通路157が設けられ、その上端が連通路159にて開口し、下端が圧力室118にて開口している。すなわち、オリフィス通路157は、弁体163の開閉方向に延びるように形成されている。
【0047】
主弁体124において連通路159を構成する部分は、その内径が下方に向けて段階的に縮径され、その下端部がガイド部166を下方から係止する係止部167となっている。また、係止部167の上部にガイド孔168が設けられ、ガイド部166を摺動可能に支持している。弁体部164と主弁体124との間には、弁体163を閉弁方向に付勢するスプリング169が介装されている。
【0048】
以上のような構成において、上流側の高圧室138の圧力P1(「上流側圧力P1」という)は、連通路159に導入された後、リーク通路162を経ることで背圧室140にて中間圧力Ppとなる一方、主弁105または差圧オリフィス20を経て減圧されて圧力P2(「下流側圧力P2」という)となる。中間圧力Ppは、パイロット弁106の開閉状態によって変化する。主弁体124の側部には、連通路159を外方から囲むようにフィルタ155が設けられ、背圧室140への異物の侵入を防止している。
【0049】
一方、ソレノイド102は、ボディ103の上端開口部を封止するように取り付けられた有底円筒状のスリーブ170を有する。スリーブ170内には、第1プランジャ171(「第1の可動鉄心」に該当する)および第2プランジャ172(「第2の可動鉄心」に該当する)が軸線方向に対向配置されるように収容されている。スリーブ170の外周部にはボビン173が設けられ、そのボビン173に電磁コイル174が巻回されている。そして、電磁コイル174を外部から覆うようにケース176が設けられている。スリーブ170は、ケース176を軸線方向に貫通している。電磁コイル174からは通電用のハーネス178が引き出されている。
【0050】
第1プランジャ171は、円筒状をなし、その外周部には軸線方向に延びる複数のスリット180(同図にはその1つを表示)が設けられている。前述の主弁体124の脚部142は、このスリット180を介して上方に延出している。パイロット弁体150は、第1プランジャ171をその軸線にそって貫通し、その上端部が加締められることにより第1プランジャ171に固定されている。すなわち、パイロット弁体150は、第1プランジャ171と一体的に動作する。
【0051】
第2プランジャ172は、円筒状をなし、その内部中央に隔壁182が設けられている。第2プランジャ172は、その下端面にて脚部142の上端面に当接してこれを支持する。第1プランジャ171と第2プランジャ172との間には、第1プランジャ171を介してパイロット弁体150を開弁方向(差圧弁体156の開弁方向であり、開閉弁体158の閉弁方向)に付勢するスプリング184(「付勢部材」に該当する)が介装されている。第2プランジャ172とスリーブ170との間には、第2プランジャ172を介して主弁体124を閉弁方向に付勢するスプリング186が介装されている。すなわち、主弁体124は、第2プランジャ172と一体的に動作可能となっている。
【0052】
以上のように構成された第2制御弁6は、上流側と下流側との差圧が供給電流値に応じた差圧となるよう流体の流れを制御可能なパイロット作動式の制御弁として機能する。以下、その動作について詳細に説明する。
図4および図5は、第2制御弁の動作状態を表す説明図である。図4は、ソレノイド102がオン(通電状態)にされた差圧制御状態を表している(図2(B)に対応)。図5は、ソレノイド102がオフ(非通電状態)にされ、前後差圧が第2設定差圧(差圧オリフィス20の開弁差圧)よりも低い状態を表している(図2(C)に対応)。なお、既に説明した図3は、ソレノイド102がオフにされ、前後差圧が第2設定差圧よりも高い状態を表している(図2(A)に対応)。
【0053】
図2(A)に示したように、切替弁11が閉弁された状態でソレノイド102がオフにされると、第2制御弁6は、差圧制御は行わず、膨張装置としてのみ機能する。すなわち図3に示すように、ソレノイド力が作用しないため、スプリング184によってパイロット弁体150が開閉弁体158の閉弁方向に付勢され、パイロット弁106が閉弁状態となる。このとき、図示のように差圧弁体156は開弁状態となるが、開閉弁体158により副弁孔146が閉じられる。一方、スプリング186によって第2プランジャ172を介して主弁体124が閉弁方向に付勢され、主弁105も閉弁状態となる。このとき、背圧室140には上流側からリーク通路162を介して冷媒が導入されるため、中間圧力Ppは、上流側圧力P1に等しくなる。
【0054】
このとき、弁体163の前後差圧(P1−P2)が第2設定差圧(開弁差圧)よりも大きくなると、弁体163がスプリング169の付勢力に抗して開弁方向に動作し、差圧オリフィス20が開弁状態となる。その結果、上流側から入口ポート110を介して導入された冷媒は、オリフィス通路157を通過することにより減圧膨張され、出口ポート112を介して下流側へ導出される。このとき、弁体163が弁座161から離間するとともに、オリフィス通路157内に差圧が発生する。
【0055】
すなわち、弁体163が弁座161に着座した状態においては、オリフィス通路157の内部にはその全長にわたって下流側圧力P2が作用していたところ、弁体163が弁座161から離間を開始すると同時にオリフィス通路157の上流部に上流側圧力P1が作用するようになる。オリフィス通路157の圧力損失もあることから、その上流端から下流端に向けて圧力勾配が形成され、オリフィス通路157の内部を通過する冷媒により弁体163に開弁方向の流体摩擦が作用するようになる。この結果、弁体163の開弁開始と同時にその開弁が促進され、弁体163が速やかに図示のような全開状態に落ち着くことができる。その結果、弁体163が微小開度に留まることを防止でき、オリフィスとしての機能(オリフィスに設定された特性)を良好に発揮することができる。
【0056】
一方、図2(B)に示したように、切替弁11が閉弁された状態でソレノイド102がオンにされると、第2制御弁6は、その上流側圧力P1と下流側圧力P2との差圧(P1−P2)が供給電流値に応じた設定差圧(第1設定差圧)となるよう動作する定差圧弁として機能するとともに、膨張装置としても機能する。すなわち図4に示すように、ソレノイド力によって第1プランジャ171と第2プランジャ172との間に吸引力が作用するため、パイロット弁体150が開閉弁体158の開弁方向に付勢され、パイロット弁106が開弁状態となる。このとき、図示のように差圧弁体156および開閉弁体158がともに開弁して副弁孔146を開放する。それにより、中間圧力Ppが低下するため、主弁体124が上流側圧力P1と中間圧力Ppとの差圧(P1−Pp)の影響を受けて開弁する。
【0057】
このとき、上流側から入口ポート110を介して導入された冷媒は、開弁された主弁105を介して減圧膨張され、出口ポート112を介して下流側へ導出される。また、入口ポート110を介して導入された冷媒の一部は、リーク通路162を介して背圧室140に導入され、パイロット弁106を介して圧力室118に導出され、出口ポート112を介して下流側へ導出される。このとき、主弁105がスリーブ170に係止されるまでリフトする全開状態となっても、主弁体124においてパイロット通路144を形成する部分の下端が主弁座122よりも下流側に位置するようになる。このため、パイロット弁体150の下面には、下流側圧力P2が確実に作用する。
【0058】
この差圧制御状態において、差圧(P1−P2)が設定差圧よりも小さくなると、中間圧力Ppと下流側圧力P2との差圧(Pp−P2)が小さくなるため、パイロット弁体150が閉弁方向(差圧弁体156の閉弁方向)に動作する。この結果、中間圧力Ppが上昇し、主弁体124が閉弁方向に動作して主弁105の開度を小さくする。その結果、差圧(P1−P2)が大きくなる方向に変化する。一方、差圧(P1−P2)が設定差圧よりも大きくなると、中間圧力Ppと下流側圧力P2との差圧(Pp−P2)が大きくなるため、パイロット弁体150が開弁方向(差圧弁体156の開弁方向)に動作する。この結果、中間圧力Ppが低下し、主弁体124が開弁方向に動作して主弁105の開度を大きくする。その結果、差圧(P1−P2)が小さくなる方向に変化する。すなわち、パイロット弁106の動作により、差圧(P1−P2)が設定差圧となるよう主弁105の開度が調整される。
【0059】
また、図2(C)に示したように、第2制御弁6が閉弁された状態で切替弁11が開弁されると、差圧オリフィス20の前後差圧(P1−P2)が実質的にゼロに近づく。このため、図5に示すように、主弁105、パイロット弁106および差圧オリフィス20の全てを閉弁状態とすることができる。その結果、冷媒は蒸発器7を通過せずに迂回する。それにより、一時的に蒸発器7に低温・低圧の液冷媒が供給されなくなるため、蒸発器7の温度が極低温となって凍結するのが防止される。
【0060】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る車両用冷暖房装置は、第2制御弁と切替弁とが一体化された弁ユニットが構成される点を除き、第1実施形態と同様である。このため、第1実施形態とほぼ同様の構成部分については同一の符号を付す等して適宜その説明を省略する。図6は、第2実施形態に係る弁ユニットの具体的構成を表す断面図である。
【0061】
弁ユニット26は、図1に示した第2制御弁6と切替弁211(切替弁11に対応する)とを一体化したものに相当する。弁ユニット26は、共用のボディ203に対し、第2制御弁6と切替弁211を隣接させるように組み付けて構成される。ボディ203は、上流側通路に連通する入口ポート110、蒸発器7につながる下流側通路に連通する出口ポート112、およびバイパス通路9につながる出口ポート212を有する。ボディ203は、その入口ポート110に連通する導入通路210と隔壁214によって、第2制御弁6として機能する領域と切替弁211として機能する領域とに区画されている。
【0062】
第2制御弁6は、符号にて示すように、図3に示したものとほぼ同様の構成を有する。一方、切替弁211は、パイロット弁体250の構成がパイロット弁体150とは異なり、また、差圧オリフィス20が設けられていない点を除き、符号にて示すように、第2制御弁6とほぼ同様の構成を有する。
【0063】
すなわち、切替弁211の弁本体201は、主弁205およびパイロット弁206を含む。入口ポート110と出口ポート212とをつなぐ通路(「バイパス接続通路」ともいう)には、主弁205を構成する主弁座222が設けられている。主弁205は、主弁体224が主弁座222に着脱することによりバイパス接続通路を開閉する。主弁体224には、差圧オリフィス20は設けられていないが、側部に高圧室138と背圧室140とを連通する小断面のリーク通路162が設けられている。
【0064】
パイロット弁206は、パイロット弁体250が弁座149に着脱することにより副通路を開閉する。パイロット弁体250は、パイロット弁体150から差圧弁体156を除いたような構成を有し、背圧室140側からのみ副弁孔146に接離する。制御部100は、第2制御弁6および切替弁211のそれぞれを通電制御することにより各弁を開閉し、図2に示したものと同様の制御を実現する。図示のように、第2制御弁6と切替弁211とは多くの共通した構成部分を有する。言い換えれば、第2制御弁6および切替弁211の一方の構成を少し変更することで他方を構成することができ、これら異なる種類の制御弁の設計および製造が簡素化されるといったメリットがある。
【0065】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態に係る車両用冷暖房装置は、第2制御弁およびその周辺構造を除き、第1実施形態と同様である。このため、第1実施形態と同様の構成部分についてはその説明を省略する。図7は、第3実施形態に係る差圧オリフィスの構成および動作を表す断面図である。(A)は閉弁開始状態を示し、(B)は開弁状態を示し、(C)は全開状態を示している。
【0066】
本実施形態の車両用冷暖房装置は、図1に示した第2制御弁6において差圧オリフィス20を除いたものを第2制御弁とし、その第2制御弁と並列に差圧オリフィス320を設けるようにして構成されている。なお、本実施形態の第2制御弁は、図3に示した第2制御弁6の主弁体124から連通路159および差圧オリフィス20を除き、その代わりに高圧室138と背圧室140とを連通させる小断面のリーク通路を設けるようにして構成される。それ以外は第2制御弁6と同様の構成を有するため、その図示および詳細な説明については省略する。
【0067】
一方、図7に示す差圧オリフィス320は、第2制御弁を迂回するように設けられた冷媒通路に配置される。なお、変形例においては、その第2制御弁のボディに主通路および副通路とは別に入口ポート110と出口ポート112とをつなぐバイパス通路を設け、そのバイパス通路に差圧オリフィス320を設けるようにしてもよい。
【0068】
差圧オリフィス320は、円筒状のボディ322と、そのボディ322内に配設された有底段付円筒状の弁体363とを含んで構成される。ボディ322の上流側端部には上流側通路に連通するポート324が設けられ、下流側端部には下流側通路に連通するポート326が設けられている。ボディ322の長手方向中央部には、段付円筒状のガイド部材328が同軸状に配設されている。ガイド部材328は、その上流側半部に半径方向外向きに延出するフランジ部330を有し、そのフランジ部330を介してボディ322に圧入されている。ガイド部材328の内方にはガイド孔329が形成されている。
【0069】
また、ボディ322におけるガイド部材328の上流側位置には、半径方向内向きに延出した区画壁332が設けられている。区画壁332の環状の内周部により弁孔333が形成されている。弁孔333の下流側開口縁により弁座335が形成されている。そして、区画壁332の上流側に高圧室336、区画壁332とガイド部材328との間に中間圧力室338、ガイド部材328の下流側に低圧室340が、それぞれ形成されている。
【0070】
弁体363は、弁体部364とオリフィス部365とが一体に形成されたものであり、そのオリフィス部365がガイド孔329を貫通するように配置され、ガイド部材328に摺動可能に支持されている。弁体部364は、中間圧力室338に配置され、オリフィス部365の上流側に連設されている。弁体部364の先端部には、弾性材(本実施形態ではゴム)からなる弁部材342が嵌着されている。弁体363は、この弁部材342が弁座335に着脱することにより連通路159を開閉する。
【0071】
オリフィス部365は、その上流側端部が中間圧力室338にて開口し、下流側端部が低圧室340にて開口している。すなわち、オリフィス部365の内部には、中間圧力室338と低圧室340とを連通する小断面のオリフィス通路366が形成されている。図示のように、オリフィス通路366は、弁体363の開閉方向に延びるように形成されている。オリフィス部365は、弁体部364との接続部において外径がやや拡径されており、その拡径部がフランジ部330に係止されることにより、下流側への変位が規制される。弁体部364とフランジ部330との間には、弁体363を閉弁方向に付勢するスプリング169(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0072】
このような構成により、上流側通路からポート324を介して導入された上流側圧力P1は、弁部を経て減圧されることで中間圧力室338にて中間圧力Pp3となり、さらにオリフィス通路366を経て減圧されることで下流側圧力P2となる。ただし、弁孔333の内径Aとガイド孔329の内径Bとが等しくされているため、弁体363に作用する中間圧力Pp3の影響はキャンセルされる。すなわち、差圧オリフィス320は、その前後差圧(P1−P2)が設定値(第2設定差圧)を超えると開弁する差圧弁として機能するとともに、冷媒の逆流を防止する逆止弁として機能する。この設定値は、スプリング169の荷重により設定されている。
【0073】
すなわち、差圧オリフィス320は、前後差圧(P1−P2)が設定値よりも小さい状態においては、図7(A)に示すように閉弁状態となる。このとき、連通路159における冷媒の流れが遮断される。前後差圧(P1−P2)が設定値よりも大きくなると、差圧オリフィス320が図7(B)および(C)に示すように開弁し、連通路159における冷媒の流れが許容される。
【0074】
以上のような構成において、図7(A)に示すように、弁体363が弁座335に着座した状態においては、中間圧力室338にも下流側圧力P2(中間圧力Pp3=下流側圧力P2)が満たされ、オリフィス通路366の内部にはその全長にわたって下流側圧力P2が作用する。そして、図7(B)に示すように、弁体363が弁座335から離間を開始すると同時に中間圧力Pp3が上流側圧力P1に近づき、オリフィス通路366の上流部に上流側圧力P1が作用するようになる。オリフィス通路366の圧力損失もあることから、その上流端から下流端に向けて圧力勾配が形成され、オリフィス通路366の内部を通過する冷媒により弁体363に開弁方向の流体摩擦が作用するようになる。この結果、弁体363の開弁開始と同時にその開弁が促進され、弁体363が速やかに図7(C)に示すような全開状態に落ち着くことができる。つまり、弁体363が図7(B)に示すような微小開度に留まることを防止でき、オリフィスとしての機能(オリフィスに設定された特性)を良好に発揮することができる。
【0075】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態に係る車両用冷暖房装置は、差圧オリフィスの構造を除き、第3実施形態と同様である。このため、既に説明した第3実施形態と同様の構成部分については同一の符号を付す等して適宜その説明を省略する。図8は、第4実施形態に係る差圧オリフィスの構成および動作を表す断面図である。(A)は閉弁状態を示し、(B)は開弁状態を示し、(C)は全開状態を示している。
【0076】
本実施形態の差圧オリフィス420は、ガイド部材428に形成されたガイド孔329の内径Bが、弁孔333の内径Aよりも大きく設定されることにより、中間圧力Pp3が弁体463の開弁方向に作用するように構成されている。このため、前後差圧(P1−P2)が設定値よりも大きくなると、弁体463がより速やかに全開状態になる。すなわち、第3実施形態よりも速やかに全開状態となり、弁体463が中間圧力室338の中間部に留まって不安定な動作となることを防止することができる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0078】
上記実施形態では、本発明の車両用冷暖房装置を電気自動車に適用した例を示したが、内燃機関を搭載した自動車や、内燃機関と電動機を同載したハイブリッド式の自動車に提供することが可能であることは言うまでもない。上記実施形態では、圧縮機2として電動圧縮機を採用した例を示したが、エンジンの回転を利用して容量可変を行う可変容量圧縮機を採用することもできる。
【符号の説明】
【0079】
1 車両用冷暖房装置、 2 圧縮機、 3 室内凝縮器、 4 第1制御弁、 5 室外熱交換器、 6 第2制御弁、 7 蒸発器、 8 アキュムレータ、 9 バイパス通路、 11 切替弁、 20 差圧オリフィス、 26 弁ユニット、 100 制御部、 101 弁本体、 102 ソレノイド、 103 ボディ、 105 主弁、 106 パイロット弁、 110 入口ポート、 112 出口ポート、 120 主弁孔、 122 主弁座、 124 主弁体、 138 高圧室、 140 背圧室、 144 パイロット通路、 146 副弁孔、 148,149 弁座、 150 パイロット弁体、 156 差圧弁体、 157 オリフィス通路、 158 開閉弁体、 159 連通路、 161 弁座、 162 リーク通路、 163 弁体、 164 弁体部、 165 オリフィス部、 168 ガイド孔、 169 スプリング、 201 弁本体、 203 ボディ、 205 主弁、 206 パイロット弁、 210 導入通路、 211 切替弁、 212 出口ポート、 222 主弁座、 224 主弁体、 250 パイロット弁体、 320 差圧オリフィス、 329 ガイド孔、 333 弁孔、 335 弁座、 336 高圧室、 338 中間圧力室、 340 低圧室、 363 弁体、 364 弁体部、 365 オリフィス部、 366 オリフィス通路、 402 ソレノイド、 420 差圧オリフィス、 463 弁体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側と下流側との差圧が設定値より大きくなったときに開弁する差圧弁において、
上流側から流体を導入する導入ポートと、下流側へ流体を導出する導出ポートと、前記導入ポートと前記導出ポートとをつなぐ連通路と、前記連通路を開放または遮断するために開閉される弁部とを含むボディと、
前記ボディに支持されつつ前記弁部の開閉方向に動作する弁体と、
前記弁体を閉弁方向に付勢する付勢部材と、
前記弁体を貫通するように形成され、前記弁部の開閉方向に延びるオリフィスと、
を備えることを特徴とする差圧弁。
【請求項2】
前記連通路における上流側に弁座が設けられる一方、下流側にガイド孔が設けられ、
前記弁体は、前記オリフィスが貫通形成されたオリフィス部と、前記弁座に着脱して前記弁部を開閉する弁体部とを一体に有し、前記オリフィス部が前記ガイド孔に摺動可能に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の差圧弁。
【請求項3】
前記連通路における上流側に弁孔が設けられ、前記ボディにおける前記弁孔の開口縁部により前記弁座が形成され、
前記ボディにおける前記弁孔と前記ガイド孔との間に、前記弁孔を通過した流体が導入される中間圧力室が形成され、
前記オリフィスの一端が前記中間圧力室に開口するように前記弁体が配置され、前記中間圧力室に導入された流体が前記オリフィスを介して前記中間圧力室の下流側に導出されるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の差圧弁。
【請求項4】
前記弁孔の内径と前記ガイド孔の内径とが等しく設定されることにより、前記弁体に作用する前記中間圧力室の圧力の影響がキャンセルされるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の差圧弁。
【請求項5】
前記ガイド孔の内径が前記弁孔の内径よりも大きく設定されることにより、前記中間圧力室の圧力が前記弁体の開弁方向に作用するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の差圧弁。
【請求項6】
上流側から下流側への冷媒の流れを制御可能なパイロット作動式の制御弁において、
上流側通路と下流側通路とを直接つなぐ主通路を、両通路を接続する主弁孔に接離して開閉する主弁体を有し、その主弁体が、前記上流側通路と前記下流側通路と背圧室とを区画するように設けられる主弁と、
前記上流側通路と前記下流側通路とを前記背圧室を介してつなぐ副通路の開度を、副弁孔に接離して調整可能な電磁駆動のパイロット弁体を有し、そのパイロット弁体が、前記主弁の開弁時には前記主弁の上流側と下流側との差圧を供給電流値に応じた設定差圧近づけるよう動作するパイロット弁と、
前記主通路および前記副通路とは別に前記上流側通路と前記下流側通路とを接続する連通路を開閉可能な差圧弁と、
を備え、
前記差圧弁は、
上流側から冷媒を導入する導入ポートと、下流側へ冷媒を導出する導出ポートと、前記導入ポートと前記導出ポートとをつなぐ前記連通路と、前記連通路を開放または遮断するために開閉される弁部とを含むボディと、
前記ボディに支持されつつ前記弁部の開閉方向に動作する弁体と、
前記弁体を閉弁方向に付勢する付勢部材と、
前記弁体を貫通するように形成され、前記弁部の開閉方向に延びるオリフィスと、
を含むことを特徴とする制御弁。
【請求項7】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、
車室外に配置され、冷房運転時に冷媒を放熱させる室外凝縮器として機能する一方、暖房運転時には冷媒を蒸発させる室外蒸発器として機能する室外熱交換器と、
車室内に配置されて冷媒を蒸発させる室内蒸発器と、
前記室内蒸発器が機能するとともに前記室外熱交換器が室外蒸発器として機能するときに前記室外熱交換器の下流側となる位置に設けられ、上流側から下流側への冷媒の流れを制御する電動の制御弁と、
前記制御弁への供給電流を制御して前記制御弁の前後差圧を調整する制御部と、
を備える車両用冷暖房装置であって、
前記制御弁は、
上流側通路と下流側通路とを直接つなぐ主通路を、両通路を接続する主弁孔に接離して開閉する主弁体を有し、その主弁体が、前記上流側通路と前記下流側通路と背圧室とを区画するように設けられる主弁と、
前記上流側通路と前記下流側通路とを前記背圧室を介してつなぐ副通路の開度を、副弁孔に接離して調整可能な電磁駆動のパイロット弁体を有し、そのパイロット弁体が、前記主弁の開弁時には前記主弁の上流側と下流側との差圧を供給電流値に応じた設定差圧近づけるよう動作するパイロット弁と、
前記主通路および前記副通路とは別に前記上流側通路と前記下流側通路とを接続する連通路を開閉可能な差圧弁と、
を備え、
前記差圧弁は、
上流側から冷媒を導入する導入ポートと、下流側へ冷媒を導出する導出ポートと、前記導入ポートと前記導出ポートとをつなぐ前記連通路と、前記連通路を開放または遮断するために開閉される弁部とを含むボディと、
前記ボディに支持されつつ前記弁部の開閉方向に動作する弁体と、
前記弁体を閉弁方向に付勢する付勢部材と、
前記弁体を貫通するように形成され、前記弁部の開閉方向に延びるオリフィスと、
を含むことを特徴とする車両用冷暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−226622(P2011−226622A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99349(P2010−99349)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000133652)株式会社テージーケー (280)
【Fターム(参考)】