差込式管継手の再使用識別方法
【課題】接続管の引き抜きを可能にした差込式管継手において、継手本体内のシールリングが不正に再使用されているか否かを識別でき、延いてはシールリングの不正な再使用の防止に寄与し、シール性能の確保を図る。
【解決手段】管抜き用治具25を用意し、この管抜き用治具22で受口部12の外方に臨むカラー15の後端部側を押圧し抜止部材3ごと継手本体2の内奥方向へ押し込むことにより抜止部材3の接続管11外周面との係合を解除して接続管11の抜き出しを可能にした差込式管継手において、管抜き用治具25でカラー15の後端部側を押圧するとともに該カラー15の後端部側の内面もしくは後端面に擦り傷や着色等の識別マーク27を付ける。その識別マーク27の有無を確認することでシールリング5が不正に再使用されているかどうかを識別できる。
【解決手段】管抜き用治具25を用意し、この管抜き用治具22で受口部12の外方に臨むカラー15の後端部側を押圧し抜止部材3ごと継手本体2の内奥方向へ押し込むことにより抜止部材3の接続管11外周面との係合を解除して接続管11の抜き出しを可能にした差込式管継手において、管抜き用治具25でカラー15の後端部側を押圧するとともに該カラー15の後端部側の内面もしくは後端面に擦り傷や着色等の識別マーク27を付ける。その識別マーク27の有無を確認することでシールリング5が不正に再使用されているかどうかを識別できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給水又は給湯用ステンレス鋼管などの配管をワンタッチで接続するために使用される差込式管継手の再使用識別方法に係り、更に詳しくは、継手本体内に収容されたOリング等シールリングの不正な再使用の識別を可能にするための差込式管継手の再使用識別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のワンタッチ方式の差込式管継手として、例えば、図19に示すように、基体(継手本体)30の大径部の内面に設けられた2条の周溝にOリング31を嵌め込み、大径部の縁端にコイルバネ32と、内側面に直角エッジ33aを有する押圧部材33を保持する合成樹脂製の内カラー34とが配置され、これらをテーパ付外カラー(押輪)35で覆うようにしたものがある(特許文献1参照。)。この差込式管継手によれば、内カラー34の先端より接続管36が差し込まれると、押圧部材33が内カラー34の先端側に押されるが、押圧部材33の外側面が外カラー35のテーパ面35aで押圧されて内側面の直角エッジ33aが接続管36に食い込むことにより、これら差込式管継手と接続管36との結合が保持される。この結合状態で接続管36に引き抜き力が作用すると、押圧部材33はコイルバネ32の弾発力により外カラー35のテーパ面35a側に押し付けられると共に、そのテーパ面35aによって押圧部材33の直角エッジ33aが接続管36を押圧することにより、接続管36の引き抜きが阻止されるものである。
一方、一旦接続された接続管36を引き抜く(離脱)には、内カラー34の先端34aを基体30の内方向にコイルバネ32の弾発力に抗してドライバー等で押し込むと押圧部材33が内カラー34と共に内方へ移動し、テーパ面35aとの接触による接続管36への締め付け力が解除され、これにより接続管36を引き抜くことができるというものである。
【0003】
【特許文献1】特開平10−122460号公報(図1〜図7、図16、[0031]、[0032])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、上記従来の差込式管継手では、Oリング31は継手本体30の内面と接続管36の外面との間での一定圧縮荷重下で時間の経過とともに変形し続けており、一旦接続された接続管36を引き抜いて再度接続する場合、本来のシール性能を担保できなくなっていることがある。
また接続管36を差込むとき該接続管36の端部に外側のエッジが発生していると、該端部でOリング31を傷付け、また接続管36が継手本体30に斜めに差込まれることがあるが、このとき接続管36の端部でOリング31を傷付け易かった。
それにも拘らず、一旦接続された接続管36を引き抜いて再度接続する場合、Oリング31は継手本体30の内奥に組み込まれているため新規なOリングと取り替えることが困難ないし不可能であるため、Oリング31がそのまま再度使用され、シール性能を確保できなくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、上記のような、接続管の引き抜きを可能にした差込式管継手において、接続管の引き抜き時に使用する管抜き用治具の使用の跡形を抜止部材を保持するカラーに付けることによりOリング等シールリングの再使用の識別の容易化を図り、延いてはシールリングの不正な再使用の防止に寄与し、シール性能の確保を図れる差込式管継手の再使用識別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の差込式管継手の再使用識別方法は、請求項1に記載のように、その発明の内容を理解しやすくするために図1〜図9に付した符号を参照して説明すると、少なくとも一端部に接続管(11)の端部を受け入れる受口部(12)を有し、かつ該受口部(12)の内周に受口部外方に向かって窄まり状のテーパ面(13)を形成している継手本体(2)の内部に、受口部(12)から継手本体内奥に向かって順に、外径部がテーパ面(13)に内接し内径部が接続管(11)の外周面に係合される抜止部材(3)と、この抜止部材(3)を保持するカラー(15)と、抜止部材(3)をカラー(15)ごとテーパ面(13)に向かって押圧付勢する弾性部材(4)と、接続管(11)の外周面に密着するシールリング(5)とを収容しており、管抜き用治具(22)で受口部(12)の外方に臨むカラー(15)の後端部側を押圧し抜止部材(3)ごと継手本体(2)の内奥方向へ弾性部材(4)の弾発力に抗して押し込むことにより抜止部材(3)の接続管(11)外周面との係合を解除して接続管(11)の抜き出しを可能にしている差込式管継手の再使用識別方法において、前記管抜き用治具(25)でカラー(15)の後端部側を押圧するとともにカラー(15)の後端部側の内面もしくは後端面に識別マーク(27)を付けることに特徴を有するものである。
【0007】
このような構成によれば、継手本体(2)の内部に接続管(11)の外周面に係合する抜止部材(3)を収容しているので、接続管(11)を受口部(12)から差し込むだけのワンタッチ操作で抜止め状に接続できる。
また、継手本体(2)内のシールリング(5)と抜止部材(3)との間に、抜止部材(3)を受口部(12)の内周に向かって押圧付勢する弾性部材(4)を収容配置し、受口部(12)の内周に、抜止部材(3)の外径部が内接するテーパ面(13)を受口部(12)外方に向かって窄まり状に形成しているので、接続管(11)が完全に差し込まれると、抜止部材(3)は弾性部材(4)により受口部(12)のテーパ面(13)に押し付けられると共に、そのテーパ面(13)によって抜止部材(3)が縮径して接続管(11)の外周面に係合されることにより、接続管(11)の確実な抜止め状態が得られる。
また、接続管(11)の差込み後、接続管(11)に引き抜き力が加えられると、接続管(11)と同行する抜止部材(3)の外径部が受口部(12)のテーパ面(13)と当接することにより、抜止部材(3)が径方向内方へ移動して、接続管(11)の外周面への係合力が増す。これにより接続管(11)の抜け出しが確実に阻止される。
【0008】
管抜き用治具(25)でカラー(15)の後端部側を押圧し抜止部材(3)ごと継手本体(2)の内奥方向へ弾性部材(4)の弾発力に抗して押し込むことにより、抜止部材(3)の接続管(11)外周面との係合を解除して接続管(11)を抜き出すことができる。
管抜き用治具(25)でカラー(15)の後端部側を押圧するとともに該カラー(15)の後端部側の内面もしくは後端面に識別マーク(27)を付けるようにしてあるので、識別マーク(27)の有無を確認することにより管抜き用治具(25)が使用されて接続管(11)が一度引き抜かれて再接続されたものであるか否かを容易に判別することができ、再接続の場合は、シールリング(5)は継手本体(2)の内奥に組み込まれていて取り出すことが困難ないし不可能であるため、そのまま不正に再使用されていると識別できる。これによりシールリング(5)の不正な再使用に対する一定の抑止力となる。
【0009】
請求項1記載の差込式管継手の再使用識別方法は、請求項2に記載のように、識別マーク(27)は管抜き用治具(25)でカラー(15)の後端部側の内面もしくは後端面に付ける傷もしくは着色からなるという構成を採用することができる。このような構成によると、傷もしくは着色を確認することで管抜き用治具(25)の使用の跡形を人目で識別し易い。
【0010】
請求項1又は2記載の差込式管継手の再使用識別方法は、請求項3に記載のように、継手本体(2)内にはシールリング(5)の内径部に配置され接続管(11)の末端に外嵌可能な傷付き防止スリーブ(7)を備えており、この傷付き防止スリーブ(7)は、接続管(11)が所定長さにまで差し込まれるに伴い該接続管(11)の末端で継手本体内奥に向かって押し込まれてシールリング(5)から抜け出るようにした構成を採用することができる。このような構成によれば、接続管(11)の末端に外嵌可能な傷付き防止スリーブ(7)を備えているので、接続管(11)の切断に際し切断端面に多少の外側のエッジが発生しそれを除去する加工を怠っても、また接続管(11)が斜めに差込まれても該接続管(11)の端部の外側のエッジ等でシールリング(5)を傷付けることなく施工できる。
このように傷付き防止スリーブ(7)が備えられていると、管抜き用治具(25)の使用により接続管(11)が引き抜かれて再接続される場合、この傷付き防止スリーブ(7)も継手本体(2)の内奥に組み込まれていて取り出すことが困難ないし不可能であるため、カラー(15)の後端部側の内面もしくは後端面に識別マーク(27)が付いているか否かを確認することで傷付き防止スリーブ(7)がそのまま再使用されているかどうかを識別でき、傷付き防止スリーブ(7)の不正な再使用に対する一定の抑止力となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抜止部材を保持するカラーの後端部側の内面もしくは後端面に識別マークが付いているか否かを確認することでシールリングが不正に再使用されているかどうかを識別でき、延いてはシールリングの不正な再使用の防止に寄与し、シール性能の確保を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の対象とする差込式管継手の一実施例を示す斜視図、図2は接続管の差込み完了後の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図、図3は接続管を差し込む前の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図、図4は接続管の差込み途中の状態を示す同差込式管継手の欠截断面図、図5は接続管を更なる差込み途中の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図、図6は同差込式管継手の傷付き防止スリーブの斜視図、図7は同差込式管継手のカラーの平面図、図8は同カラーの正面図、図9は同カラーの断面図、図10は同差込式管継手の管抜き用治具の一実施例を示す斜視図、図11は同管抜き用治具を底側から見た斜視図、図12は同管抜き用治具の平面図、図13は同管抜き用治具の側面図、図14は同管抜き用治具の背面図、図15は同管抜き用治具の底面図、図16は同管抜き用治具を図2の接続管差込み完了後の差込式管継手にセットした状態を示す半欠截断面図である。
【0013】
図1〜図3に示すように、本発明の対象とする差込式管継手1は、両端部が開口した筒形状を有する継手本体2と、この継手本体2の内部に収容配置される抜止部材3と、弾性部材4と、シールリング5と、傷付き防止スリーブ7等を備えている。
【0014】
継手本体2は、耐食性及び剛性を必要とするので、例えばSCS材や青銅材により精密鋳造の手法等により製造する。そして、図3のように、継手本体2は、軸方向中央付近に第1段部8を設け、この第1段部8をはさんで一側に大径部9を、他側に小径の流路10を形成し、大径部9の開口端部、すなわち継手本体2の軸方向一端部に接続管11の端部が差し込まれる受口部12を形成し、他端部の外周に接続用雄ねじ6を形成している。受口部12の開口端側の内周には受口部外方に向かって窄まり状のテーパ面13と、テーパ面13の受口部外方側端に円周溝14を形成している。受口部12内の第1段部8とテーパ面13との間の中間部内周には第1段部8より径大の第2段部19を設けている。
【0015】
図3のように、受口部12の内部には、テーパ面13に内接する抜止部材3と、この抜止部材3を保持するカラー15と、抜止部材3をカラー15ごとテーパ面13に向かって押圧付勢する弾性部材4とが収容配置されている。抜止部材3は、接続管11より硬質の材料、例えば接続管11がオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の場合は、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420)で形成すればよい。継手本体2の円周溝14にはストッパーリング16が嵌合されてその内径部でカラー15が受口部外方へ抜け出るのを防止している。ストッパーリング16はオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)等で形成することができる。
【0016】
弾性部材4は圧縮コイルばね等からなり、この弾性部材4の後端部はカラー15の前端の段部15aに係合し、同弾性部材4の前端部はシールリング5に隣接配置する断面L形の環状のスペーサー17に係合している。弾性部材4として圧縮コイルバネを使用する場合は、この部材をオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)等で形成することができる。
【0017】
シールリング5は、オレフィン系ゴム製パッキン等で弾性変形自在に形成し、特に耐塩素、耐熱性に優れたエチレンとプロピレン及び架橋用ジエンモノマーとの3元共重合体であるEPDMで形成することが好ましく、また耐熱性とともに耐薬品性にも優れたFKM(フッ素ゴム)などで形成することもできる。そして、図3のように、シーリング5はリング本体5aと、このリング本体5aの径方向内方に突設する弾性変形自在な環状のシール突片5bを有する形に形成され、自由状態においてシール突片5bの内径は接続管11の外径よりも小さい寸法に形成している。シールリング5は図3のように断面V形状ないしU形状に形成する以外に、図10のように断面L形状等に形成することもできる。このシールリング5は受口部12内の第2段部19に収容配置する。
【0018】
傷付き防止スリーブ7はPP、PE等プラスチックや金属などで形成し、図2、図6に示すように、内径が接続管11の内径と略同一径もしくは該内径よりも小さく、外径が継手本体2内の第1段部8と第2段部19との間の内周面20の内径よりも小さく形成されたシールリング保持筒部7aと、このシールリング保持筒部7aの後端側に一体に連設され、内径が接続管11の外径よりも大きく形成されて接続管11の末端に外嵌可能な薄肉の接続管端部受け筒部7bとを有する形に形成されている。シールリング保持筒部7aの内周面と接続管端部受け筒部7bの内周面との間には、接続管11の末端が当接する段部23を形成している。シールリング保持筒部7aの外周には、自由状態(シールリング5が拡径するように変形されておらず圧縮応力又は引張応力が作用していない状態)のシールリング5のシール突片5bが嵌まり込む断面略V形状の凹溝24を形成している。接続管端部受け筒部7bの後端部7cは後方へ漸次拡径するラッパ状に形成し、これにより接続管11の差込み時に該接続管11の末端が接続管端部受け筒部7bの後端部7cに引っ掛かることなくスムーズに差し込まれるようになしている。接続管端部受け筒部7bにはスリットSを円周方向に所定間隔置きに設けている。シールリング保持筒部7aの先端部外周にはアール又は先窄まりテーパcを付けて、継手本体2内の内周面20に差し込みやすくしている。
【0019】
カラー15は、架橋ポリエチレンなどの汎用エンジニアリングプラスチックや、優れた耐熱性を有するPPS(ポリフェニレンサルファイド)などの特殊エンジニアリングプラスチックで形成し、図3、図7〜9に示すように、複数個の保持穴15bを円周方向に所定間隔置きに有し、各保持穴15bに抜止部材3が嵌着されている。各抜止部材3の内径側には複数(図示例では2個)の係合歯3aを形成している。
【0020】
図10〜図15は、接続管11の接続後、接続管11を差込式管継手1から人為的に離脱させるときに使用する管抜き用治具25を示す。この管抜き用治具25は、接続管11の外周にこれの一側方から嵌め込んで沿わせることができるように断面円弧形に形成した治具本体25aと、この治具本体25aの先端に設けたカラー押圧部25bと、治具本体25aの後端に設けた握り部25cを有する形に形成している。カラー押圧部25bはカラー15の後端部15cの径と略同一径に形成している。そして管抜き用治具25には、カラー押圧部25bでカラー15の後端部を押圧するに伴って該後端部の内面もしくは後端面に識別マーク27(図9中、仮想線参照)を付けるマーク付与部28を設けている。
【0021】
マーク付与部28の更に具体的な構成について説明すると、カラー押圧部25bからカラー15の材料よりも硬い金属材料からなる突出片26を先方へ突出状に固定している。突出片26は断面円弧形の治具本体25aに沿う断面円弧形に形成され、突出先端部がカラー15の後端部15cの内周と、このカラー15に挿通される接続管11の外周との間の隙間に差込み可能な靴べら形状に形成されている。突出片26の突出先端側の外面には、図11、図15のようにマーク付与部28を構成する先の尖った突起26aをカラー15の後端部15cの内周と接続管11の外周との間の隙間寸法よりも高く外向きに突設していて、該突出片26の先端側がカラー15の後端部15cの内周と接続管11の外周との間の隙間に差込まれるに伴ってカラー15の後端部15cの内面もしくは後端面15dに擦り傷からなる識別マーク27が付けられるようになしている。突起26aは一個でもよいが、好ましくは円周方向に所定間隔置きに複数個列設する。突起26aを円周方向に所定間隔置きに複数個設けておくと、突起26aと同数個の擦り傷27を所定間隔置きに付けることができるため、接続管11の末端でカラー15の後端部5cの内周面に傷付けられる他の擦り傷と区別し易くなる。
【0022】
次に、上記の差込式管継手1による接続管11の接続、離脱の施工手順を図2〜図5を参照にして説明する。
【0023】
まず、接続管11の接続に際しては、図4に示すように、継手本体2の受口部12に接続管11を差し込み、その接続管11の末端を傷付き防止スリーブ7の接続管端部受け筒部7bに差し込んで傷付き防止スリーブ7内の段部23に当接させる。この接続管11の差込みに伴い抜止部材3は受口部12のテーパ面13に沿って継手本体2の内奥方向に移動し、かつ係合歯3aが接続管11の外周面に係合する。この状態で接続管11を引き抜く方向に外力が加わったとしても、受口部12のテーパ面13に当接する抜止部材3の係合歯3aが接続管11の外周面に係合しているので、接続管11が抜け出ることはない。
また、この接続管11の差込み時にはシールリング5と接続管11の末端との間に傷付き防止スリーブ7が介在した状態にあり、この状態で接続管11の末端の端面はシールリング5と非接触の状態で継手本体2の奥まで差し込まれるので、接続管11の末端の端面に外側のエッジが生じていてもその外側のエッジでシールリング5が傷付けられることはなく、また接続管11が斜めに差込まれてもその末端でシールリング5が傷付けられることもなく、シールリング5の損傷による水漏れは生じない。
【0024】
接続管11を更に深く差し込むと、図5の差込み途中過程を経て、図2に示すように継手本体2と接続管11とのシール接続状態が得られる。すなわち、図5に示す状態に接続管11が継手本体2内の途中まで差し込まれると、接続管11は傷付き防止スリーブ7を継手本体内奥方向へ押込み、シールリング保持筒部7aはシールリング5と同位置に来る。
更に、接続管11が差し込まれると、接続管11は、図2に示すように、傷付き防止スリーブ7がシールリング保持筒部7aを継手本体2内の第1段部8に当接するとともに接続管端部受け筒部7bをシールリング5よりも継手本体内奥方向に押込む。この過程において、傷付き防止スリーブ7は、シールリング5のシール突片5bを継手本体内奥方向に変向しながら移動しシールリング5から外れ、接続管11の差込みが完了した図2の状態では、シールリング5のシール突片5bは接続管11の外周面に圧縮状に密着して接続管11の外周面と継手本体2の内周面との間を密封シールする状態が得られるとともに、抜止部材3の係合歯3aが接続管11の外周面に係合した抜止め状態が得られる。
【0025】
シールリング5のシール突片5bが継手本体2の内奥方向に向いた状態で接続管11の外周面に圧縮状に密着していると、継手本体2内を流れる水が継手本体2の内周と傷付き防止スリーブ7との間あるいは接続管11の末端と傷付き防止スリーブ7との間からシールリング5にまで流れ込んできてもその水圧によってシール突片5bを接続管11の外周面に押し付けるというシール圧が発生し、このため単一のシールリング5でもってシール機能を効果的に発揮する。
また、シールリング5のシール突片5bは、接続管11の小さい差込み荷重で傷付き防止スリーブ7の凹溝24の内面及び接続管端部受け筒部7bの外周面との摺接作用により容易に変形させることができるので、接続管11を差込み操作し易い。
【0026】
接続管11の差込み完了後、該接続管11を抜き出し方向に引っ張ると、接続管11と同行する抜止部材3の外径部がテーパ面13の窄まり側に当接することにより、抜止部材3が径方向内方へ移動して係合歯3aが接続管11の外周面へ食い込み係合力を増す。これにより接続管11の抜け出しが確実に阻止される。
【0027】
次に、接続管11の接続後、接続管11を差込式管継手1から人為的に離脱させる要領について説明する。
【0028】
まず、図16に示すように、管抜き用治具25を差込式管継手1の受口部12近傍の接続管11の外周にこれの一側方から嵌め込んで沿わせ、これに伴い接続管11を挟む状態になる握り部25cを手に持って突出片26をカラー15の後端部15cの内周と接続管11の外周との間の隙間に差込むと共に、カラー押圧部25bをカラー15の後端部15cに当接させてカラー15を抜止部材3ごと継手本体2の内奥方向へ弾性部材4の弾発力に抗して押し込む。この押し込みにより抜止部材3が継手本体2の内奥方向へ移動することにより接続管11の外周面との係合を解除することになり、この状態にて接続管11を引き抜くことによって両者の離脱が簡単に行える。次いで、接続管11の離脱後、管抜き用治具25によるカラー15を押す力を解除すれば、再び弾性部材4によってカラー15が元の位置に押し戻されることになる。
【0029】
上記のように接続管11の抜き出しに際し管抜き用治具25でカラー15を押し込むときに突出片26の突起26aによりカラー15の後端部15c側の内面に擦り傷からなる識別マーク27が付けられる。つまり、識別マーク27は管抜き用治具25の使用の跡形である。したがって、この識別マーク27の有無を確認することにより管抜き用治具25が使用されて接続管11が一度引き抜かれて再接続されたものであるか否かを容易に判別することができる。再接続の場合は、シールリング5および傷付き防止スリーブ7は継手本体2の内奥に組み込まれていて取り出すことが困難ないし不可能であるため、そのまま不正に再使用されていると識別できる。これによりシールリング5および傷付き防止スリーブ7の不正な再使用に対する一定の抑止力になる。
【0030】
突起26aからなるマーク付与部を有する突出片26を備えた管抜き用治具25を用いてカラー15の後端部15c側の内面に擦り傷27を付けるに代えて、図17に示すように、管抜き用治具25のカラー押圧部25bの先端に鋸歯等の鋭利な凹凸部からなるマーク付与部28を設けておき、該カラー押圧部25bでカラー15の後端面15dを押圧すると同時に該後端面15dに凹凸部による押圧の跡形を付けるもよい。その場合、カラー15の後端面15dに凹凸部による押圧の跡形を付け易くするために、カラー15の後端面15dを含む後端部15cのみを押圧の跡形が残りやすい柔らかい樹脂材料等で形成するもよい。
また、図18に示すように、カラー押圧部25bの先端に着色インキ含浸マットや多孔質印字体等からなるマーク付与部28を付設した管抜き用治具25を使用し、該カラー押圧部25bでカラー15の後端面15dを押圧してカラー15を内方へ押し込むと同時に該後端面15dに着色インキを押印させて着色することもできる。このようにカラー5の後端面15dに付けた傷や着色は、カラー15の後端部15c側の内面に付けられた擦り傷27よりも人目で外部から確認し易い。
【0031】
なお、上記実施例では、継手本体2の一方の側に接続用雄ねじ6を形成した雄ねじアダプター差込式管継手について記述したが、本発明はこれに限られず、他の構造、例えば、左右対称のソケット形差込式管継手、エルボ型差込式管継手等にも適用できることは勿論である。また、接続管11としては、ステンレス鋼管等の金属管に限られず、樹脂製の接続管、例えば塩化ビニール製の接続管などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の対象の差込式管継手の一実施例を示す斜視図である。
【図2】接続管の差込み完了後の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図である。
【図3】接続管を差込む前の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図である。
【図4】接続管の差込み途中の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図である。
【図5】接続管を更なる差込み途中の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図である。
【図6】同差込式管継手の傷付き防止スリーブの斜視図である。
【図7】同差込式管継手のカラーの平面図である。
【図8】同カラーの正面図である。
【図9】同カラーの断面図である。
【図10】同差込式管継手の管抜き用治具の一実施例を示す斜視図である。
【図11】同管抜き用治具を底側から見た斜視図である。
【図12】同管抜き用治具の平面図である。
【図13】同管抜き用治具の側面図である。
【図14】同管抜き用治具の背面図である。
【図15】同管抜き用治具の底面図である。
【図16】同管抜き用治具を図2の接続管差込み完了後の差込式管継手にセットした状態を示す半欠截断面図である。
【図17】他の実施例を示す管抜き用治具の平面図である。
【図18】更に他の実施例を示す管抜き用治具の斜視図である。
【図19】従来例の差込式管継手の半欠截断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 差込式管継手
2 継手本体
3 抜止部材
4 弾性部材
5 シールリング
7 傷付き防止スリーブ
7a シールリング保持筒部
7b 接続管端部受け筒部
11 接続管
12 受口部
13 テーパ面
15 カラー
25 管抜き用治具
27 識別マーク
28 マーク付与部
【技術分野】
【0001】
本発明は、給水又は給湯用ステンレス鋼管などの配管をワンタッチで接続するために使用される差込式管継手の再使用識別方法に係り、更に詳しくは、継手本体内に収容されたOリング等シールリングの不正な再使用の識別を可能にするための差込式管継手の再使用識別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のワンタッチ方式の差込式管継手として、例えば、図19に示すように、基体(継手本体)30の大径部の内面に設けられた2条の周溝にOリング31を嵌め込み、大径部の縁端にコイルバネ32と、内側面に直角エッジ33aを有する押圧部材33を保持する合成樹脂製の内カラー34とが配置され、これらをテーパ付外カラー(押輪)35で覆うようにしたものがある(特許文献1参照。)。この差込式管継手によれば、内カラー34の先端より接続管36が差し込まれると、押圧部材33が内カラー34の先端側に押されるが、押圧部材33の外側面が外カラー35のテーパ面35aで押圧されて内側面の直角エッジ33aが接続管36に食い込むことにより、これら差込式管継手と接続管36との結合が保持される。この結合状態で接続管36に引き抜き力が作用すると、押圧部材33はコイルバネ32の弾発力により外カラー35のテーパ面35a側に押し付けられると共に、そのテーパ面35aによって押圧部材33の直角エッジ33aが接続管36を押圧することにより、接続管36の引き抜きが阻止されるものである。
一方、一旦接続された接続管36を引き抜く(離脱)には、内カラー34の先端34aを基体30の内方向にコイルバネ32の弾発力に抗してドライバー等で押し込むと押圧部材33が内カラー34と共に内方へ移動し、テーパ面35aとの接触による接続管36への締め付け力が解除され、これにより接続管36を引き抜くことができるというものである。
【0003】
【特許文献1】特開平10−122460号公報(図1〜図7、図16、[0031]、[0032])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、上記従来の差込式管継手では、Oリング31は継手本体30の内面と接続管36の外面との間での一定圧縮荷重下で時間の経過とともに変形し続けており、一旦接続された接続管36を引き抜いて再度接続する場合、本来のシール性能を担保できなくなっていることがある。
また接続管36を差込むとき該接続管36の端部に外側のエッジが発生していると、該端部でOリング31を傷付け、また接続管36が継手本体30に斜めに差込まれることがあるが、このとき接続管36の端部でOリング31を傷付け易かった。
それにも拘らず、一旦接続された接続管36を引き抜いて再度接続する場合、Oリング31は継手本体30の内奥に組み込まれているため新規なOリングと取り替えることが困難ないし不可能であるため、Oリング31がそのまま再度使用され、シール性能を確保できなくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、上記のような、接続管の引き抜きを可能にした差込式管継手において、接続管の引き抜き時に使用する管抜き用治具の使用の跡形を抜止部材を保持するカラーに付けることによりOリング等シールリングの再使用の識別の容易化を図り、延いてはシールリングの不正な再使用の防止に寄与し、シール性能の確保を図れる差込式管継手の再使用識別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の差込式管継手の再使用識別方法は、請求項1に記載のように、その発明の内容を理解しやすくするために図1〜図9に付した符号を参照して説明すると、少なくとも一端部に接続管(11)の端部を受け入れる受口部(12)を有し、かつ該受口部(12)の内周に受口部外方に向かって窄まり状のテーパ面(13)を形成している継手本体(2)の内部に、受口部(12)から継手本体内奥に向かって順に、外径部がテーパ面(13)に内接し内径部が接続管(11)の外周面に係合される抜止部材(3)と、この抜止部材(3)を保持するカラー(15)と、抜止部材(3)をカラー(15)ごとテーパ面(13)に向かって押圧付勢する弾性部材(4)と、接続管(11)の外周面に密着するシールリング(5)とを収容しており、管抜き用治具(22)で受口部(12)の外方に臨むカラー(15)の後端部側を押圧し抜止部材(3)ごと継手本体(2)の内奥方向へ弾性部材(4)の弾発力に抗して押し込むことにより抜止部材(3)の接続管(11)外周面との係合を解除して接続管(11)の抜き出しを可能にしている差込式管継手の再使用識別方法において、前記管抜き用治具(25)でカラー(15)の後端部側を押圧するとともにカラー(15)の後端部側の内面もしくは後端面に識別マーク(27)を付けることに特徴を有するものである。
【0007】
このような構成によれば、継手本体(2)の内部に接続管(11)の外周面に係合する抜止部材(3)を収容しているので、接続管(11)を受口部(12)から差し込むだけのワンタッチ操作で抜止め状に接続できる。
また、継手本体(2)内のシールリング(5)と抜止部材(3)との間に、抜止部材(3)を受口部(12)の内周に向かって押圧付勢する弾性部材(4)を収容配置し、受口部(12)の内周に、抜止部材(3)の外径部が内接するテーパ面(13)を受口部(12)外方に向かって窄まり状に形成しているので、接続管(11)が完全に差し込まれると、抜止部材(3)は弾性部材(4)により受口部(12)のテーパ面(13)に押し付けられると共に、そのテーパ面(13)によって抜止部材(3)が縮径して接続管(11)の外周面に係合されることにより、接続管(11)の確実な抜止め状態が得られる。
また、接続管(11)の差込み後、接続管(11)に引き抜き力が加えられると、接続管(11)と同行する抜止部材(3)の外径部が受口部(12)のテーパ面(13)と当接することにより、抜止部材(3)が径方向内方へ移動して、接続管(11)の外周面への係合力が増す。これにより接続管(11)の抜け出しが確実に阻止される。
【0008】
管抜き用治具(25)でカラー(15)の後端部側を押圧し抜止部材(3)ごと継手本体(2)の内奥方向へ弾性部材(4)の弾発力に抗して押し込むことにより、抜止部材(3)の接続管(11)外周面との係合を解除して接続管(11)を抜き出すことができる。
管抜き用治具(25)でカラー(15)の後端部側を押圧するとともに該カラー(15)の後端部側の内面もしくは後端面に識別マーク(27)を付けるようにしてあるので、識別マーク(27)の有無を確認することにより管抜き用治具(25)が使用されて接続管(11)が一度引き抜かれて再接続されたものであるか否かを容易に判別することができ、再接続の場合は、シールリング(5)は継手本体(2)の内奥に組み込まれていて取り出すことが困難ないし不可能であるため、そのまま不正に再使用されていると識別できる。これによりシールリング(5)の不正な再使用に対する一定の抑止力となる。
【0009】
請求項1記載の差込式管継手の再使用識別方法は、請求項2に記載のように、識別マーク(27)は管抜き用治具(25)でカラー(15)の後端部側の内面もしくは後端面に付ける傷もしくは着色からなるという構成を採用することができる。このような構成によると、傷もしくは着色を確認することで管抜き用治具(25)の使用の跡形を人目で識別し易い。
【0010】
請求項1又は2記載の差込式管継手の再使用識別方法は、請求項3に記載のように、継手本体(2)内にはシールリング(5)の内径部に配置され接続管(11)の末端に外嵌可能な傷付き防止スリーブ(7)を備えており、この傷付き防止スリーブ(7)は、接続管(11)が所定長さにまで差し込まれるに伴い該接続管(11)の末端で継手本体内奥に向かって押し込まれてシールリング(5)から抜け出るようにした構成を採用することができる。このような構成によれば、接続管(11)の末端に外嵌可能な傷付き防止スリーブ(7)を備えているので、接続管(11)の切断に際し切断端面に多少の外側のエッジが発生しそれを除去する加工を怠っても、また接続管(11)が斜めに差込まれても該接続管(11)の端部の外側のエッジ等でシールリング(5)を傷付けることなく施工できる。
このように傷付き防止スリーブ(7)が備えられていると、管抜き用治具(25)の使用により接続管(11)が引き抜かれて再接続される場合、この傷付き防止スリーブ(7)も継手本体(2)の内奥に組み込まれていて取り出すことが困難ないし不可能であるため、カラー(15)の後端部側の内面もしくは後端面に識別マーク(27)が付いているか否かを確認することで傷付き防止スリーブ(7)がそのまま再使用されているかどうかを識別でき、傷付き防止スリーブ(7)の不正な再使用に対する一定の抑止力となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抜止部材を保持するカラーの後端部側の内面もしくは後端面に識別マークが付いているか否かを確認することでシールリングが不正に再使用されているかどうかを識別でき、延いてはシールリングの不正な再使用の防止に寄与し、シール性能の確保を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の対象とする差込式管継手の一実施例を示す斜視図、図2は接続管の差込み完了後の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図、図3は接続管を差し込む前の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図、図4は接続管の差込み途中の状態を示す同差込式管継手の欠截断面図、図5は接続管を更なる差込み途中の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図、図6は同差込式管継手の傷付き防止スリーブの斜視図、図7は同差込式管継手のカラーの平面図、図8は同カラーの正面図、図9は同カラーの断面図、図10は同差込式管継手の管抜き用治具の一実施例を示す斜視図、図11は同管抜き用治具を底側から見た斜視図、図12は同管抜き用治具の平面図、図13は同管抜き用治具の側面図、図14は同管抜き用治具の背面図、図15は同管抜き用治具の底面図、図16は同管抜き用治具を図2の接続管差込み完了後の差込式管継手にセットした状態を示す半欠截断面図である。
【0013】
図1〜図3に示すように、本発明の対象とする差込式管継手1は、両端部が開口した筒形状を有する継手本体2と、この継手本体2の内部に収容配置される抜止部材3と、弾性部材4と、シールリング5と、傷付き防止スリーブ7等を備えている。
【0014】
継手本体2は、耐食性及び剛性を必要とするので、例えばSCS材や青銅材により精密鋳造の手法等により製造する。そして、図3のように、継手本体2は、軸方向中央付近に第1段部8を設け、この第1段部8をはさんで一側に大径部9を、他側に小径の流路10を形成し、大径部9の開口端部、すなわち継手本体2の軸方向一端部に接続管11の端部が差し込まれる受口部12を形成し、他端部の外周に接続用雄ねじ6を形成している。受口部12の開口端側の内周には受口部外方に向かって窄まり状のテーパ面13と、テーパ面13の受口部外方側端に円周溝14を形成している。受口部12内の第1段部8とテーパ面13との間の中間部内周には第1段部8より径大の第2段部19を設けている。
【0015】
図3のように、受口部12の内部には、テーパ面13に内接する抜止部材3と、この抜止部材3を保持するカラー15と、抜止部材3をカラー15ごとテーパ面13に向かって押圧付勢する弾性部材4とが収容配置されている。抜止部材3は、接続管11より硬質の材料、例えば接続管11がオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の場合は、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420)で形成すればよい。継手本体2の円周溝14にはストッパーリング16が嵌合されてその内径部でカラー15が受口部外方へ抜け出るのを防止している。ストッパーリング16はオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)等で形成することができる。
【0016】
弾性部材4は圧縮コイルばね等からなり、この弾性部材4の後端部はカラー15の前端の段部15aに係合し、同弾性部材4の前端部はシールリング5に隣接配置する断面L形の環状のスペーサー17に係合している。弾性部材4として圧縮コイルバネを使用する場合は、この部材をオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)等で形成することができる。
【0017】
シールリング5は、オレフィン系ゴム製パッキン等で弾性変形自在に形成し、特に耐塩素、耐熱性に優れたエチレンとプロピレン及び架橋用ジエンモノマーとの3元共重合体であるEPDMで形成することが好ましく、また耐熱性とともに耐薬品性にも優れたFKM(フッ素ゴム)などで形成することもできる。そして、図3のように、シーリング5はリング本体5aと、このリング本体5aの径方向内方に突設する弾性変形自在な環状のシール突片5bを有する形に形成され、自由状態においてシール突片5bの内径は接続管11の外径よりも小さい寸法に形成している。シールリング5は図3のように断面V形状ないしU形状に形成する以外に、図10のように断面L形状等に形成することもできる。このシールリング5は受口部12内の第2段部19に収容配置する。
【0018】
傷付き防止スリーブ7はPP、PE等プラスチックや金属などで形成し、図2、図6に示すように、内径が接続管11の内径と略同一径もしくは該内径よりも小さく、外径が継手本体2内の第1段部8と第2段部19との間の内周面20の内径よりも小さく形成されたシールリング保持筒部7aと、このシールリング保持筒部7aの後端側に一体に連設され、内径が接続管11の外径よりも大きく形成されて接続管11の末端に外嵌可能な薄肉の接続管端部受け筒部7bとを有する形に形成されている。シールリング保持筒部7aの内周面と接続管端部受け筒部7bの内周面との間には、接続管11の末端が当接する段部23を形成している。シールリング保持筒部7aの外周には、自由状態(シールリング5が拡径するように変形されておらず圧縮応力又は引張応力が作用していない状態)のシールリング5のシール突片5bが嵌まり込む断面略V形状の凹溝24を形成している。接続管端部受け筒部7bの後端部7cは後方へ漸次拡径するラッパ状に形成し、これにより接続管11の差込み時に該接続管11の末端が接続管端部受け筒部7bの後端部7cに引っ掛かることなくスムーズに差し込まれるようになしている。接続管端部受け筒部7bにはスリットSを円周方向に所定間隔置きに設けている。シールリング保持筒部7aの先端部外周にはアール又は先窄まりテーパcを付けて、継手本体2内の内周面20に差し込みやすくしている。
【0019】
カラー15は、架橋ポリエチレンなどの汎用エンジニアリングプラスチックや、優れた耐熱性を有するPPS(ポリフェニレンサルファイド)などの特殊エンジニアリングプラスチックで形成し、図3、図7〜9に示すように、複数個の保持穴15bを円周方向に所定間隔置きに有し、各保持穴15bに抜止部材3が嵌着されている。各抜止部材3の内径側には複数(図示例では2個)の係合歯3aを形成している。
【0020】
図10〜図15は、接続管11の接続後、接続管11を差込式管継手1から人為的に離脱させるときに使用する管抜き用治具25を示す。この管抜き用治具25は、接続管11の外周にこれの一側方から嵌め込んで沿わせることができるように断面円弧形に形成した治具本体25aと、この治具本体25aの先端に設けたカラー押圧部25bと、治具本体25aの後端に設けた握り部25cを有する形に形成している。カラー押圧部25bはカラー15の後端部15cの径と略同一径に形成している。そして管抜き用治具25には、カラー押圧部25bでカラー15の後端部を押圧するに伴って該後端部の内面もしくは後端面に識別マーク27(図9中、仮想線参照)を付けるマーク付与部28を設けている。
【0021】
マーク付与部28の更に具体的な構成について説明すると、カラー押圧部25bからカラー15の材料よりも硬い金属材料からなる突出片26を先方へ突出状に固定している。突出片26は断面円弧形の治具本体25aに沿う断面円弧形に形成され、突出先端部がカラー15の後端部15cの内周と、このカラー15に挿通される接続管11の外周との間の隙間に差込み可能な靴べら形状に形成されている。突出片26の突出先端側の外面には、図11、図15のようにマーク付与部28を構成する先の尖った突起26aをカラー15の後端部15cの内周と接続管11の外周との間の隙間寸法よりも高く外向きに突設していて、該突出片26の先端側がカラー15の後端部15cの内周と接続管11の外周との間の隙間に差込まれるに伴ってカラー15の後端部15cの内面もしくは後端面15dに擦り傷からなる識別マーク27が付けられるようになしている。突起26aは一個でもよいが、好ましくは円周方向に所定間隔置きに複数個列設する。突起26aを円周方向に所定間隔置きに複数個設けておくと、突起26aと同数個の擦り傷27を所定間隔置きに付けることができるため、接続管11の末端でカラー15の後端部5cの内周面に傷付けられる他の擦り傷と区別し易くなる。
【0022】
次に、上記の差込式管継手1による接続管11の接続、離脱の施工手順を図2〜図5を参照にして説明する。
【0023】
まず、接続管11の接続に際しては、図4に示すように、継手本体2の受口部12に接続管11を差し込み、その接続管11の末端を傷付き防止スリーブ7の接続管端部受け筒部7bに差し込んで傷付き防止スリーブ7内の段部23に当接させる。この接続管11の差込みに伴い抜止部材3は受口部12のテーパ面13に沿って継手本体2の内奥方向に移動し、かつ係合歯3aが接続管11の外周面に係合する。この状態で接続管11を引き抜く方向に外力が加わったとしても、受口部12のテーパ面13に当接する抜止部材3の係合歯3aが接続管11の外周面に係合しているので、接続管11が抜け出ることはない。
また、この接続管11の差込み時にはシールリング5と接続管11の末端との間に傷付き防止スリーブ7が介在した状態にあり、この状態で接続管11の末端の端面はシールリング5と非接触の状態で継手本体2の奥まで差し込まれるので、接続管11の末端の端面に外側のエッジが生じていてもその外側のエッジでシールリング5が傷付けられることはなく、また接続管11が斜めに差込まれてもその末端でシールリング5が傷付けられることもなく、シールリング5の損傷による水漏れは生じない。
【0024】
接続管11を更に深く差し込むと、図5の差込み途中過程を経て、図2に示すように継手本体2と接続管11とのシール接続状態が得られる。すなわち、図5に示す状態に接続管11が継手本体2内の途中まで差し込まれると、接続管11は傷付き防止スリーブ7を継手本体内奥方向へ押込み、シールリング保持筒部7aはシールリング5と同位置に来る。
更に、接続管11が差し込まれると、接続管11は、図2に示すように、傷付き防止スリーブ7がシールリング保持筒部7aを継手本体2内の第1段部8に当接するとともに接続管端部受け筒部7bをシールリング5よりも継手本体内奥方向に押込む。この過程において、傷付き防止スリーブ7は、シールリング5のシール突片5bを継手本体内奥方向に変向しながら移動しシールリング5から外れ、接続管11の差込みが完了した図2の状態では、シールリング5のシール突片5bは接続管11の外周面に圧縮状に密着して接続管11の外周面と継手本体2の内周面との間を密封シールする状態が得られるとともに、抜止部材3の係合歯3aが接続管11の外周面に係合した抜止め状態が得られる。
【0025】
シールリング5のシール突片5bが継手本体2の内奥方向に向いた状態で接続管11の外周面に圧縮状に密着していると、継手本体2内を流れる水が継手本体2の内周と傷付き防止スリーブ7との間あるいは接続管11の末端と傷付き防止スリーブ7との間からシールリング5にまで流れ込んできてもその水圧によってシール突片5bを接続管11の外周面に押し付けるというシール圧が発生し、このため単一のシールリング5でもってシール機能を効果的に発揮する。
また、シールリング5のシール突片5bは、接続管11の小さい差込み荷重で傷付き防止スリーブ7の凹溝24の内面及び接続管端部受け筒部7bの外周面との摺接作用により容易に変形させることができるので、接続管11を差込み操作し易い。
【0026】
接続管11の差込み完了後、該接続管11を抜き出し方向に引っ張ると、接続管11と同行する抜止部材3の外径部がテーパ面13の窄まり側に当接することにより、抜止部材3が径方向内方へ移動して係合歯3aが接続管11の外周面へ食い込み係合力を増す。これにより接続管11の抜け出しが確実に阻止される。
【0027】
次に、接続管11の接続後、接続管11を差込式管継手1から人為的に離脱させる要領について説明する。
【0028】
まず、図16に示すように、管抜き用治具25を差込式管継手1の受口部12近傍の接続管11の外周にこれの一側方から嵌め込んで沿わせ、これに伴い接続管11を挟む状態になる握り部25cを手に持って突出片26をカラー15の後端部15cの内周と接続管11の外周との間の隙間に差込むと共に、カラー押圧部25bをカラー15の後端部15cに当接させてカラー15を抜止部材3ごと継手本体2の内奥方向へ弾性部材4の弾発力に抗して押し込む。この押し込みにより抜止部材3が継手本体2の内奥方向へ移動することにより接続管11の外周面との係合を解除することになり、この状態にて接続管11を引き抜くことによって両者の離脱が簡単に行える。次いで、接続管11の離脱後、管抜き用治具25によるカラー15を押す力を解除すれば、再び弾性部材4によってカラー15が元の位置に押し戻されることになる。
【0029】
上記のように接続管11の抜き出しに際し管抜き用治具25でカラー15を押し込むときに突出片26の突起26aによりカラー15の後端部15c側の内面に擦り傷からなる識別マーク27が付けられる。つまり、識別マーク27は管抜き用治具25の使用の跡形である。したがって、この識別マーク27の有無を確認することにより管抜き用治具25が使用されて接続管11が一度引き抜かれて再接続されたものであるか否かを容易に判別することができる。再接続の場合は、シールリング5および傷付き防止スリーブ7は継手本体2の内奥に組み込まれていて取り出すことが困難ないし不可能であるため、そのまま不正に再使用されていると識別できる。これによりシールリング5および傷付き防止スリーブ7の不正な再使用に対する一定の抑止力になる。
【0030】
突起26aからなるマーク付与部を有する突出片26を備えた管抜き用治具25を用いてカラー15の後端部15c側の内面に擦り傷27を付けるに代えて、図17に示すように、管抜き用治具25のカラー押圧部25bの先端に鋸歯等の鋭利な凹凸部からなるマーク付与部28を設けておき、該カラー押圧部25bでカラー15の後端面15dを押圧すると同時に該後端面15dに凹凸部による押圧の跡形を付けるもよい。その場合、カラー15の後端面15dに凹凸部による押圧の跡形を付け易くするために、カラー15の後端面15dを含む後端部15cのみを押圧の跡形が残りやすい柔らかい樹脂材料等で形成するもよい。
また、図18に示すように、カラー押圧部25bの先端に着色インキ含浸マットや多孔質印字体等からなるマーク付与部28を付設した管抜き用治具25を使用し、該カラー押圧部25bでカラー15の後端面15dを押圧してカラー15を内方へ押し込むと同時に該後端面15dに着色インキを押印させて着色することもできる。このようにカラー5の後端面15dに付けた傷や着色は、カラー15の後端部15c側の内面に付けられた擦り傷27よりも人目で外部から確認し易い。
【0031】
なお、上記実施例では、継手本体2の一方の側に接続用雄ねじ6を形成した雄ねじアダプター差込式管継手について記述したが、本発明はこれに限られず、他の構造、例えば、左右対称のソケット形差込式管継手、エルボ型差込式管継手等にも適用できることは勿論である。また、接続管11としては、ステンレス鋼管等の金属管に限られず、樹脂製の接続管、例えば塩化ビニール製の接続管などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の対象の差込式管継手の一実施例を示す斜視図である。
【図2】接続管の差込み完了後の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図である。
【図3】接続管を差込む前の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図である。
【図4】接続管の差込み途中の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図である。
【図5】接続管を更なる差込み途中の状態を示す同差込式管継手の半欠截断面図である。
【図6】同差込式管継手の傷付き防止スリーブの斜視図である。
【図7】同差込式管継手のカラーの平面図である。
【図8】同カラーの正面図である。
【図9】同カラーの断面図である。
【図10】同差込式管継手の管抜き用治具の一実施例を示す斜視図である。
【図11】同管抜き用治具を底側から見た斜視図である。
【図12】同管抜き用治具の平面図である。
【図13】同管抜き用治具の側面図である。
【図14】同管抜き用治具の背面図である。
【図15】同管抜き用治具の底面図である。
【図16】同管抜き用治具を図2の接続管差込み完了後の差込式管継手にセットした状態を示す半欠截断面図である。
【図17】他の実施例を示す管抜き用治具の平面図である。
【図18】更に他の実施例を示す管抜き用治具の斜視図である。
【図19】従来例の差込式管継手の半欠截断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 差込式管継手
2 継手本体
3 抜止部材
4 弾性部材
5 シールリング
7 傷付き防止スリーブ
7a シールリング保持筒部
7b 接続管端部受け筒部
11 接続管
12 受口部
13 テーパ面
15 カラー
25 管抜き用治具
27 識別マーク
28 マーク付与部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端部に接続管の端部を受け入れる受口部を有し、かつ該受口部の内周に受口部外方に向かって窄まり状のテーパ面を形成している継手本体の内部に、前記受口部から継手本体内奥に向かって順に、外径部が前記テーパ面に内接し内径部が前記接続管の外周面に係合される抜止部材と、この抜止部材を保持するカラーと、前記抜止部材をカラーごと前記テーパ面に向かって押圧付勢する弾性部材と、前記接続管の外周面に密着するシールリングとを収容しており、管抜き用治具で前記受口部の外方に臨む前記カラーの後端部側を押圧し前記抜止部材ごと継手本体の内奥方向へ前記弾性部材の弾発力に抗して押し込むことにより前記抜止部材の接続管外周面との係合を解除して接続管の抜き出しを可能にしている差込式管継手の再使用識別方法において、前記管抜き用治具で前記カラーの後端部側を押圧するとともに前記カラーの後端部側の内面もしくは後端面に識別マークを付けることを特徴とする、差込式管継手の再使用識別方法。
【請求項2】
前記識別マークは、前記管抜き用治具で前記カラーの後端部側の内面もしくは後端面に付けた傷もしくは着色からなることを特徴とする、請求項1記載の差込式管継手の再使用識別方法。
【請求項3】
前記継手本体内には前記シールリングの内径部に配置され前記接続管の末端に外嵌可能な傷付き防止スリーブを備えており、該傷付き防止スリーブは、前記接続管が所定長さにまで差し込まれるに伴い該接続管の末端で継手本体内奥に向かって押し込まれて前記シールリングから抜け出るようにしてあることを特徴とする、請求項1又は2記載の差込式管継手の再使用識別方法。
【請求項1】
少なくとも一端部に接続管の端部を受け入れる受口部を有し、かつ該受口部の内周に受口部外方に向かって窄まり状のテーパ面を形成している継手本体の内部に、前記受口部から継手本体内奥に向かって順に、外径部が前記テーパ面に内接し内径部が前記接続管の外周面に係合される抜止部材と、この抜止部材を保持するカラーと、前記抜止部材をカラーごと前記テーパ面に向かって押圧付勢する弾性部材と、前記接続管の外周面に密着するシールリングとを収容しており、管抜き用治具で前記受口部の外方に臨む前記カラーの後端部側を押圧し前記抜止部材ごと継手本体の内奥方向へ前記弾性部材の弾発力に抗して押し込むことにより前記抜止部材の接続管外周面との係合を解除して接続管の抜き出しを可能にしている差込式管継手の再使用識別方法において、前記管抜き用治具で前記カラーの後端部側を押圧するとともに前記カラーの後端部側の内面もしくは後端面に識別マークを付けることを特徴とする、差込式管継手の再使用識別方法。
【請求項2】
前記識別マークは、前記管抜き用治具で前記カラーの後端部側の内面もしくは後端面に付けた傷もしくは着色からなることを特徴とする、請求項1記載の差込式管継手の再使用識別方法。
【請求項3】
前記継手本体内には前記シールリングの内径部に配置され前記接続管の末端に外嵌可能な傷付き防止スリーブを備えており、該傷付き防止スリーブは、前記接続管が所定長さにまで差し込まれるに伴い該接続管の末端で継手本体内奥に向かって押し込まれて前記シールリングから抜け出るようにしてあることを特徴とする、請求項1又は2記載の差込式管継手の再使用識別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−97555(P2009−97555A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267525(P2007−267525)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(000231121)JFE継手株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(000231121)JFE継手株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
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