説明

強い発熱反応を利用した、気体、固体、液体の流動床リアクタ用の新しい内部熱交換器

【課題】取り扱い操作を簡素化し、監査およびメンテナンス段階を最適化する。
【解決手段】ジャケットからなる三相流動床リアクタの内部に含まれ、反応流体の導入手段と、冷却流体の導入手段と、部分的に蒸発した前記冷却流体の排出手段とを備えた、熱交換器の管群は、少なくとも2段の同一モジュールを含み、各モジュールが、考慮されたモジュールと、各段の管群で当該モジュールと垂直に並べられるモジュール集合とに共通する中央管の周囲に配分された、同一ピンの集合を含み、前記中央管が、モジュールのピンに冷却流体を供給すると同時に、これらのピンから出る部分的に蒸発した冷却流体を回収する役割を果たすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成反応、メタノール合成、ベンゼンの水素化反応、エチレンの重合、芳香族または脂肪族のアルキル化等の、強い熱作用がある反応を利用可能な、三相流動床で動作する工業リアクタに装備するための新型の内部熱交換器に関する。上記の例は、三相流動床リアクタで利用可能な、強い熱作用がある各種の反応の単なる例として挙げられているにすぎない。
【0002】
三相リアクタとは、細かい触媒固体粒子の懸濁物を含む液相を気泡が通り、反応媒質が、主に、こうした液相から構成されるリアクタを意味する。
【0003】
固体粒子が、液相中で均質に分散されるように十分に細かい場合、反応媒質は、一般に、当業者によって「スラリー」(「slurry」:気体、固体、液体を含む三相の懸濁物を意味する英語)と呼ばれている。固体粒子の寸法がもっと大きくて、液相と共に多少ともはっきりした境界面を有する流動床を形成する場合、一般に、これを三相流動床と呼んでいる。
【0004】
本発明は、上記の二つのカテゴリーに適用され、以下、本文では、本発明が関与するリアクタを、「スラリー」タイプのリアクタを含めて、三相流動リアクタと呼ぶことにする。
【0005】
本発明が目的とする熱交換管群により、また、取り扱い操作を簡素化し、監査およびメンテナンス段階を最適化することができる。
【0006】
特に、本発明が対象とする熱交換管群は、モジュール式に形成され、たとえば修理の場合には管群の任意の一部を引き抜くことができ、全体を分解する必要はない。
【0007】
熱交換管群によりもたらされる熱交換面積は、リアクタの容積全体に均質に配分されて、完全な温度制御が行われる。また、この配分は、管群の一部を隔離した場合でも均質に保持され、あるいはできるだけ均質に保持される。
【背景技術】
【0008】
三相流動床リアクタまたは「スラリー」リアクタは、たとえばフィッシャー・トロプシュ合成反応またはベンゼンの水素化反応のような強い熱作用を持つ化学反応を実施する場合、一般にはリアクタ内部に熱交換器を装備されて、化学反応により発生する熱を排出するようにされている。
【0009】
通常、この熱交換器は、給水部から平均的な圧力で水蒸気を発生可能である。しかし、本発明の範囲を制限することなく、他の流体も使用可能である。
【0010】
上記の反応のような強い発熱反応の場合、非常に広い熱交換面積を設けることが必要な場合があり、一般には、熱交換管群が複雑化する。管群は、特に、フィッシャー・トロプシュ合成を実施可能なリアクタの場合のような大型サイズの装置では、取り扱いを簡単にできるように、複数モジュールに分割されることがよくある。
【0011】
このようなタイプの管群は、たとえば、2段式の攪拌装置を備えた分配器を用いる従来の供給方式によるモジュール構成について開示した、特許文献1に記載されている。
【0012】
熱を排出するために設置すべき反応媒質の熱交換面積は、約4〜30m/mであり、好適には4〜20m/mで、さらに好適には4〜15m/mである。
【0013】
反応媒質の容積は、リアクタの容積から、熱交換管群が占有する容積と、場合によっては前記リアクタが含む可能性のある内部構造とを引いた容積として定義される。
【0014】
反応媒質中に存在する気泡は、熱交換管群に振動を発生することがあるので、本発明は、適切な場所に補剛材を設置して、熱交換器の様々な構成部分を保持するようにしている。
【0015】
補剛材とは、ピンの位置、ピンの間、あるいはモジュール間で、管群の複数部分を結合可能にするあらゆる支持体を意味する。
【特許文献1】米国特許第2005/0080147号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、たとえばフィッシャー・トロプシュ合成反応またはベンゼンの水素化反応のような強い熱作用を持つ化学反応を実施するための、三相流動床で動作するリアクタ内部に含まれるモジュラー設計の熱交換管群に関する。
【0017】
三相流動床リアクタは、一般に、上部ドームで上部が閉じられ、反応流体の導入手段を備える下部ドームで下部が閉じられた、円筒形のジャケットから構成され、上部ドームは、冷却液の導入手段と、部分的に蒸発した前記冷却液の排出手段とを有する。
【0018】
三相流動床リアクタに装備される内部熱交換器は、反応媒質中に含浸される熱交換管群から構成される。
【0019】
前記熱交換管群は、一般に、一段のモジュールを形成するリアクタの一区間に均質に配分された、複数個の同一モジュールから構成される。
【0020】
管群は、少なくとも2段の同一モジュールを含み、各モジュールが、同一のピンからなる1個の集合を含み、このピンの集合は、各段の管群で当該モジュールに垂直に並べて配置されたモジュール集合に共通する中央管の周囲に、配分される。
【0021】
前記中央管は、モジュールのピンに冷却液を供給すると同時に、この同じピンから出る部分的に蒸発した冷却液を回収する役割を果たす。
【0022】
一つのモジュールのピンおよび、共通の中央軸を起点として当該モジュールと垂直に並べられる複数モジュールのピンは、様々な方法で供給可能であり、好適には、後述する詳細な説明の中でこの表現に与えられる意味において交互に行われる。
【0023】
本発明が対象とする管群は、一般に、同一モジュールの集合から構成され(リアクタの壁に隣接する有限数のモジュールを除く。これについては後述する。)、これらのモジュールは、一段のモジュールを形成するリアクタの一区間に均質に配分される一方で、共通の中央管の周囲に垂直にまとめられることによって、各段に配分される垂直モジュール群を形成する。
【0024】
従って、管群の全体は、垂直モジュール群を増やすことによって得られ、垂直モジュール群の各々が、同一の中央管の周囲にまとめられる。
【0025】
垂直モジュール群としてのこうした配置は、関与する段がどの段であろうと、また、たとえリアクタの下段であっても、一つのモジュールから一つまたは複数のピンを引き抜くのに必要な作業を行う時に、特に有効である。
【0026】
前記ピンまたは前記モジュールへのアクセス手順については本発明に記載され、本発明の一部をなす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、三相流動床リアクタの全体図であって、図の下から上に向かって複数の段1、2、3、4に配分された熱交換管群の一般構成を示し、リアクタの内部に入る管F1、F2は、試薬の入口に対応するものである。
【0028】
図2は、リアクタ上部を示し、管群への冷却液の供給(L)と、部分的に蒸発した冷却液の排出(V)とを行う中央管(Tc)の先端を示すものである。
【0029】
図3は、本発明による管群の上面を示し、複数のモジュールと中央管(Tc)との位置を示し、垂直出入管(Vt)を有するモジュールもあれば、水平出入管(H)を有するモジュールもあり、出入管の大半、好適には全体が、図1に示したように、上部ドーム位置でリアクタに入るか、または出ているものである。
【0030】
図4は、モジュール上部の斜視図であって、1個のモジュールを構成して中央管を囲むピンと、独立した2つの循環路(L1/V1、L2/V2)への中央管の分割とを示すものである。図4は、また、中央管(Tc)の慣性を増すことができる第一の層(Fp)および第二の層(Fs)と、幾つかの補剛要素(Rg)とを示している。
【0031】
図5は、1個のモジュールの上面図であって、連続する2段NおよびN+1で、第一の循環路(図5a)と、第二の循環路(図5b)とによるピンの供給を説明可能とし、第一の循環路および第二の循環路の概念については、詳細な説明の中で述べる。図5では、時計の針の方向にピンE1、E2、E3、E4と記した。
【0032】
図6は、モジュールの全体図であって、各補剛要素(Rg)の位置を設定可能にする管群をなし、寸法L(モジュールの高さ)およびW(モジュールの幅)を規定するものである。
【0033】
図7は、中央管の間に補剛システム(Ag)を取り付け可能にする段と段の間のスペースを示すものである。
【0034】
図8は、いわゆる「交互」供給モードを含むことができる連続する2段NおよびN+1において、管群のピンを概略的に示すものである。
【0035】
本発明が対象とする熱交換器の管群は、壁に隣接するモジュールで異なるタイプである可能性があるものを除いて、モジュラー構造を有し、すなわち、大半が同じユニットから構成される。
【0036】
各モジュールは、中央管を囲む一定数の同じピンを含み、前記中央管が、モジュールのピンに冷却液を供給し、また、この同じピンから出る部分的に蒸発した冷却液を収集する役割を果たす。中央管は、この管が示されている各図でTcと記す。
【0037】
各モジュールのピンは、ピンへの供給を行う中央管の周囲に規則正しく配分されている。各ピンは、好適には、垂直に延びて何回かの垂直の往復を行う円筒形のダクトからなり、各往路が、U字形の部分により各復路に接合されている。当業者は、一回の往復全体を、一般に、パスという用語で呼んでいる。
【0038】
図5a、5bに、中央管を囲む4個のピンの構成を示した。各ピンは、この場合には、時計の文字盤に対応する中央管の周囲のスペースを規則正しく占有するように、垂直の往復路として展開されている。従って、図5a、5bでは、時計の針の方向にE1、E2、E3、E4と図示されたピンに対応する4個のフレームが区別される。
【0039】
所定の1個のピンへの冷却液の供給は、中央管の区域から行われ、部分的に蒸発した冷却液は、供給区域とは異なる中央管の別の区域で収集される。
【0040】
所定の1段の複数モジュールの集合は、一般にリアクタの区域を被覆して、複数モジュールからなる1段を形成する。一般に、各段のモジュール数は4個から80個であり、好適には40個から70個で、さらに好適には45個から65個である。
【0041】
所定のリアクタの場合、各段のモジュール数は、モジュールの大きさによって決まる。
【0042】
好適には、各モジュールのピンの数は偶数であり、2、4、6、または8個である。
【0043】
これらのピンは、たとえば、外側の全体の断面が正方形であるので、全部で4個のときは全体断面が四辺形になるモジュールを形成する。
【0044】
また、ピンの外側の全体断面を三角形にすることもでき、全部で6個のときは外側の全体断面が六角形のモジュールを形成し、あるいは全部で8個のときは八角形のモジュールを形成する。
【0045】
特に、4個のピンからなるモジュールの場合、各段のモジュール数は、リアクタの断面一平方メートル当たり0.4〜0.7個であり、好適には、リアクタの断面の1平方メートル当たり0.45〜0.65個となる。
【0046】
モジュールは、一般には1から10段、好適には1から6段、さらに好適には2から4段の各段に配分され、さらに、リアクタの高さ全体を覆うことができる4段に配分される。
【0047】
段は、0.8メートル〜1.5メートルの高さの空洞スペースにより分離される。
【0048】
このスペースにより、モジュールの溶接ポイント全体を点検できる。
【0049】
メンテナンスを停止する間、作業者は、段と段の間に入り、溶接部分を点検し、分解せずにその位置でちょっとしたメンテナンス作業を実施すればよい。
【0050】
段Nに属するモジュールの中央管は、次の段N+1に延長されるので、中央管は、同じ鉛直線方向に沿って各段に配置されるモジュール全体に共通である。このように垂直に並べられたモジュールの集合を垂直モジュール群と呼ぶ。
【0051】
そのため、直径が一定の円筒形のリアクタの場合、各段の管群は、好適には、一定数の同一の複数モジュール、いわゆる標準モジュールから構成される。ただし、標準モジュールよりも少ないピンを含む、リアクタの壁に隣接する幾つかのモジュールを除く。しかしながら、特定の内部構造が円筒形のリアクタに組み込まれる場合、すなわち前記リアクタが、その高さ全体に沿って直径または形状が変わる部分を含む場合には、異なるモジュールを使用してもよい。
【0052】
その場合、好適には、各段の標準モジュールが並列動作し、一定数の同一ピンを含む。
【0053】
非標準モジュールは、一般に、リアクタの壁に沿って配置される。これらの壁の形状が円筒形であるために、非標準モジュールが含むピンは、標準モジュールよりも少ない。たとえば、4個のピンを含む標準モジュールの場合、非標準モジュールは、3個、2個、さらには1個のピンを含むことがある。非標準モジュールの各ピンに共通の中央管により各ピンに供給を行う原理は、依然として適用される。標準モジュールの一部をなすピンと、非標準モジュールの一部をなすピンとの間に実質的な差はない。
【0054】
非標準モジュールは、一般に、モジュール全体の35%未満であり、大抵は30%未満である。非標準モジュールの一般構造は、標準モジュールと同型であり、単に、各モジュールのピン数が少ないだけである。非標準モジュールは、標準モジュールの場合に好ましい交互供給の原理を遵守しなくてもよい。
【0055】
1個のモジュールのピンと、このモジュールと垂直に並べられる複数モジュールのピンとは中央管から供給され、この供給は、同一モジュールの内部または2個の隣接段の間において、好適には2個の隣接ピンの間で交互に行われる。
【0056】
中央管は、モジュールを機械的に支持するとともに、ピンに冷却液を供給し、部分的に蒸発した前記冷却液をピンの出口で収集する。従って、中央管は、機械的な機能と流体的な機能との二つの機能を有する。
【0057】
機械的な観点から、中央管は、好適には、様々な供給循環路を画定可能にする内部隔壁により補強される。図4から分かるように、その慣性は、同じく好適には、内部隔壁を外側に延長して前記中央管の全長に沿って延びる第一の層(Fp)により大きくされる。第一の層(Fp)は、中央管(Tc)の円筒壁に垂直で前記壁に沿って溶接される層から構成される。
【0058】
中央管(Tc)に隣接する第一の層(Fp)は、場合によっては、図4に示したような別の垂直要素すなわち第二の層(Fs)により延長し、第一の層(Fp)と共にT字形を形成することができる。
【0059】
第一の層(Fp)と第二の層(Fs)とからなる全体によって、中央管の慣性を増し、従って、中央管が含浸される反応媒質のために中央管が場合によっては被る振動の振幅を制限できる。
【0060】
一般に、隔壁のある中央管および第一の層は、垂直に配置された4つの層から構成され、連続する2つの層の間に配置される四分の一の円筒形を、この4つの層の全長に溶接する。
【0061】
4個の四分の一の円筒形を互いに並べて適切に位置決めすることで、中央管が形成される。中央管の内部にある4個の層部分は、中央管の内部隔壁を形成し、中央管の外部の4個の層部分は、第一の層を形成する。1個のモジュールを構成する複数個のピンを、図6に示したような補剛要素(Rg)によって互いに結合できる。
【0062】
同様に、補剛要素(Ag)は、図7に示したように、段の間のスペースで2個の中央管を互いに結合できる。
【0063】
本発明は、1個のモジュールの各部分を相互結合する要素を用いた他のあらゆる補剛システムに適合する。
【0064】
好適には、これらの中央管の大部分がリアクタの上部ドームに構成される一方で、中央管は、一般に熱膨張現象に関連する中央管とリアクタとの間の相対移動をガイドするために、リアクタ基部の外被内で摺動する。
【0065】
好適には、他の中央管がリアクタの下部ドームに溶接され、この場合、熱膨張作用は、適正に寸法決定されて中央管の上部に位置決めされる膨張継手の設置により管理される。
【0066】
以下、本発明の特定の実施形態について、4個のピンを含む標準モジュールおよび4段構成のリアクタに関して説明する。
【0067】
所定の1個のモジュールの中央管は、各ピンの内部に供給流体を導入して、この同じピンから出る部分的に蒸発した供給流体を回収可能な連通手段により、前記モジュールのピンに接続される。
【0068】
図8では、連続する2段NおよびN+1に延びる中央管を概略的に示した。各モジュールは、時計の針の方向にE1、E2、E3、E4と示した4個のピンを含んでいる。
【0069】
中央管は、一般に、十字形の内部隔壁または、少なくとも2個の独立循環路を構成可能な他のあらゆる分割装置により、2個の独立循環路に分割されている。たとえば、これは、前記中央管の内部に配置されて垂直隔壁により二つに分割された、中央管の同軸管とすることができ、中央管と内部管との間に含まれる環状部分は、それ自体が、2個の垂直隔壁により二つに分割されている。このような装置は、また、内部管による第一の循環路と、内部管と中央管との間に含まれる環状領域による第二の管との、2個の独立循環路を決定する。
【0070】
本発明は、複数の独立循環路を画定できる各区域への中央管の分割手段によって制限されるものではない。
【0071】
本発明は、以下の説明で当該表現に与えられる意味において、ピンの「交互」供給面を常に画定可能である限り、2個以上の独立循環路数にも適合する。
【0072】
中央管を2個以上、たとえば3個の独立循環路に分割し、それに伴って、1個のモジュールを形成する複数ピンに供給方式を適合させることも、もちろん、本発明の範囲に入るが、説明では、分かりやすくするために2個の独立循環路について述べる。
【0073】
以下、本文では、十字形の内部隔壁が、中央管の高さ全体に延びて2個の独立循環路を画定する4個の等しい区域を決定し、こうした十字形の内部隔壁から分割手段を構成する特定の事例について説明する。この場合、好適には、中央管1個当たりの独立循環路数が2個である。
【0074】
そのため、十字形の内部隔壁は、中央管の内部容積を4個の同一区域に分割し、これらの区域は、第一の循環路に対しては(L1)/(V1)が対にされ、第二の循環路に対しては(L2)/(V2)が対にされている。第一の循環路(L1)/(V1)の場合、部分(L1)は、液体の冷却液の供給路に対応し、部分(V1)は、部分的に蒸発した冷却液の復路に対応する。
【0075】
部分(L1)および(V1)は、中央管の位置で連通していない。部分(L1)は、液状の冷却液の方向に垂直に下降し、部分(V1)は、部分的に蒸発した冷却液の方向に垂直に上昇する。
【0076】
同様に、第二の循環路(L2)/(V2)の場合、部分(L2)は、液状の冷却液の供給路に対応し、部分(V2)は、部分的に蒸発した冷却液の復路に対応する。以下、簡素化のために、第一の循環路を示すときは循環路L1と呼び、第二の循環路を示すときは循環路L2と呼ぶ。
【0077】
概略図8を参照すれば、説明はいっそう分かりやすいであろう。
【0078】
本発明のこの特定の実施形態によれば、第一の循環路L1は、段Nにある2個のピン1と3を供給し、第二の循環路L2は、同じ段の別の2個のピンすなわちピン2と4を供給する。次の段N+1では、第一の循環路L1が2個のピン2と4を供給し、第二の循環路L2型の2個のピン1と3を供給する。
【0079】
従って、連続する段NおよびN+1で、中央管と、この中央管を囲むモジュールのピンとを結合するこの実施形態では、垂直モジュール群の各ピン、すなわち一つの段と次の段との間で垂直に並べられた各ピンを考慮した場合、これらのピンが循環路L1と循環路L2によって交互に供給されるという意味で、交互供給を実施できることが分かる。
【0080】
同様に、各モジュールでは、ピンの半分が循環路L1により供給され、他の半分は循環路L2により供給される。この例では、対角線上にある2個のピンを同じ循環路で供給することを選択しているが、これは好適な構成に対応する。
【0081】
しかし、たとえば2個の隣接ピン1と2を循環路L1で供給し、ピン3と4を循環路L2で供給することも、依然として本発明の範囲に入る。その場合、次の段では、循環路L1がピン3と4を供給し、循環路L2がピン1と2を供給することになる。
【0082】
一般に、中央管は、その2個の独立循環路によって、第一の循環路によりピンの半分を供給し、別の循環路によりピンのもう半分を供給可能であり、ピンの半分は、任意に決めることができる。
【0083】
好適には、「交互」供給方式により、段Nで循環路L1により供給される2個のピンが、段N+2で同じ循環路L1により供給され、段Nで循環路L2により供給される他の2個のピンが段N+2で同じ循環路L2により供給されるという意味で、交互の供給を実施可能である。
【0084】
各中央管に2個の独立循環路を配置することによって、また、必要な場合には循環路を閉じることができる。この結果、所定の一段のピンの半分で循環が行われず、他の半分のピンで循環が保持される。
【0085】
このように一つの段と次の段との間で交互に実施することで、リアクタの容積全体でのピンの動作分配に一定の均質性が保持される。循環路L1またはL2の隔離は、場合によっては、これらの循環路の各々に配置されるバルブを操作することによって、リアクタの外部から実施可能である。1個のピンに漏れがある場合、装置の通常作動を続けながら、このピンを供給する循環路L1またはL2を隔離できる。循環路L1とL2において、各段の間に負圧発生部材(organe deprimogene)を設置して、各モジュール間で冷却液の流量を同じにすることができる。
【0086】
特定の事例について行われた上記の説明を一般化するために、所定の1個のモジュールの各ピンEijを識別する2個の指数による記号表記を用いる。第一の指数iは、所定の1個のモジュールの一部をなすピンの番号、または(図8に示すように)時計の針の方向に1、2、3、4とされたピンの位置を示し、第二の指数jは、リアクタの下から上に向かって、考慮された段1、2、3、4の番号を示す(図1参照)。
【0087】
所定の一段に配置された標準モジュールが同等である場合、管群の全てのピンをさすのに2個の指数による識別番号で十分である。たとえば、ピンE11、E21、E31、E41は、位置1に配置されるピンを起点として、第一の段の所定のモジュールに配置される4個のピンを時計の針の方向に沿って示す。
【0088】
ピンE11、E12、E13、E14は、段1、2、3、4を連続して通過する場合、位置1における垂直に並べられた4個のピンを示す。
【0089】
このようにして、各ピンEijに供給循環路L1またはL2を割り当てて、表1から供給面を決定する。循環路L1により供給されるピンは、循環路V1で回収される少なくとも部分的に蒸発した流体を発生する。簡素化のために、循環路L1といっているが、循環路一式は、供給循環路L1と、部分的に蒸発した流体を収集する循環路V1による収集路とを含む。循環路L2およびV2についても同様である。
【0090】
かくして、本発明の好適な実施形態による供給表1では、所定の1個のモジュールの内部で時計の針の方向にあるか、または段と段との間で垂直方向にある2個の連続ピンが、同じ循環路からは決して供給されないという意味で、供給循環路L1とL2が交互に作動されることがわかる。
【0091】
交互供給という表現は、上記の意味であることを明確に理解しなければならない。この好適な実施形態では、本発明による熱交換管群のピンの供給は、同一モジュールの内部または2個の連続段の間において、2個の隣接ピンの間で交互に行われる。
【表1】

【0092】
リアクタから1個のピンを引き抜くことが必要な場合、モジュールの垂直に並んだ配列は特に有効である。何故なら、リアクタの任意の一段に配置される1個のピンを考慮することによって、同じレベルまたは下位レベル(上からの引き抜き)または上のレベル(下からの引き抜き)に配置される管群の他のピンにさわらずに、考慮されたピンの沿直線方向に配置される一つまたは複数のピンを引き抜けばよいからである。
【0093】
さらに、所定の1個のモジュールに流体の循環を課したい場合、一方の循環路L1またはL2を閉じて、他方の循環路を動作させることができ、その結果、各モジュールで半分のピンの動作を保持して、ピンの動作配分の均質性を尊重できる。
【0094】
以下、リアクタの下位段(図1の段1参照)に配置される1個のピンを分解する場合に、実施すべき各操作の一例について説明する。
【0095】
リアクタの上部に、クレーン、ウインチ、または他のあらゆるリフト設備を設置する。
【0096】
リアクタのヘッドとリフト設備とを分離する距離は、1個のピンの長さよりも長くする。開口部の寸法が1個のピンの幅よりも大きいマンホールに、リアクタの上部ドームまたは下部を取り付ける。
【0097】
このようにして、たとえば、リアクタの上部から1個のピンを抜き出す場合、常設ビームにリアクタの上部を取り付け、このビームと上部ピンのヘッドとを隔てる距離を、1個のピンの長さよりも長くする。
【0098】
リアクタが停止し、慣性がなくなり、大気中に開放されたら、仮設ビームをリアクタに設置する。仮設ビームは、リアクタのこの区域を被覆する一種のグリッドを形成し、常設ビームと協働する。このグリッドにより、仮設リフト設備(たとえばホイストまたはウインチ)をリアクタに設置して、モジュールの上の水平面で移動させることができる。
【0099】
リアクタの奥に配置される故障ピン、たとえばピンE11を分解する場合は、予め、このピンの上にあるピン、すなわちピンE14、次いでE13およびE12を分解しなければならない。そのため、当業者は、たとえば吊り索を用いて、内部に配置されるリフト手段にピンE14を連結する。
【0100】
第二のステップで、ピンE14を中央管に結合す溶接部を切断する。下部および上部の支持要素の溶接部もまた切断する。リアクタ内部にあるリフト設備により、ピンE14をもとのモジュールから取り出す。熱交換器全体から引き抜いたら、ウインチおよびピンを仮設ビームからなるグリッドに移動させて、リアクタ上部のマンホールの下にピンを配置する。この位置で、外部リフトシステムによりピンE14をリアクタから引き抜くことができる。ピンE13は、同じ手順に従ってリアクタから取り外せる。ピンE12も同じ手順に従ってリアクタから取り外せる。ピンE11へのアクセス経路があいたら、ピンE14、E13、E12と同じ手順に従ってピンE11を取り外せる。
【0101】
その後、故障した最初のピンE11を場合によっては新しいピンに交換し、特に、リアクタの動作を再開する前にピンE12〜E14を再び配置するために、必要であれば上記プロセスを逆に行うことができる。
【0102】
従って、本発明は、また、本発明の説明による熱交換管群を含む三相流動床リアクタからピンE11を抜き出す方法に関し、この方法は、
a)段4でピンE11の鉛直線上に配置されたピンE14を、吊り索を用いて、リアクタ内部に配置されるリフト手段に結合するステップと、
b)対応するモジュールの中央管にピンE14を結合する溶接部を切断し、ピンE14を囲む下部および上部の要素の溶接部もまた切断するステップと、
c)リアクタ内部のリフト設備により最初のモジュールからピンE14を取り出して、前記ピンを、仮設ビームからなるグリッドで移動させ、リアクタ上部のマンホールの下に配置するステップと、
d)外部リフトシステムを用いてリアクタのピンE14をこの位置から引き抜くステップと、
e)ステップa)からc)と同じ方式でリアクタからピンE13を引き抜くステップと、
f)ステップa)からc)と同じ方式でリアクタからピンE12を引き抜くステップと、
g)ステップa)からc)と同じ方式でリアクタからピンE11を引き抜くステップとを含む。
【実施例】
【0103】
以下の例は、下記の操作条件でベンゼンの水素化を実施するための三相流動床の工業リアクタに関する。
【0104】
温度:200℃
圧力:4MPa(40バール、1バール=10パスカル)
粒径1〜50ミクロンの個体粒子の形状を取るラネーニッケル触媒
処理すべき負荷流量:1600kg/時
水素流量:165kg/時
平均圧力(1.5Mpa)の蒸気を発生させるための蒸発水量:2200kg/時
1個のモジュールが4個のピンを備え、各ピンが、6個の垂直往復路を形成する垂直ダクトからなり、各往復路が、U字形のダクト部分により分離されている。各往路(または復路)の長さは3メートルである。
【0105】
各垂直ダクトは、外径60.3mm、内径52.5mmの管からなる。1個のモジュールの全体の外径寸法は、高さ3.5メートル、幅1.5メートルである。
【0106】
1個のモジュールの中央管は、外径114.3mm、内径102.3mmである。各段に8個の同一モジュールがあり、約400mの熱交換面積全体を画定する10個の段により、放出される熱を排出できる。
【0107】
ピンの供給面は、詳細な説明の表1に記載された交互供給面である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】三相流動床リアクタの全体図である。
【図2】リアクタ上部を示す図である。
【図3】本発明による管群の上面図である。
【図4】モジュール上部の斜視図である。
【図5】1個のモジュールの上面図である。
【図6】モジュールの全体図である。
【図7】段と段の間のスペースを示す図である。
【図8】管群のピンを概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0109】
1〜4 段
E1〜E4 ピン
E11〜E14 ピン
Fp 第一の層
Fs 第二の層
Tc 中央管
Ag 補剛要素
Rg 補剛要素
L1、V1 第一の循環路
L2、V2 第二の循環路
L 冷却液
Vt 垂直出入管
H 水平出入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャケットからなる三相流動床リアクタの内部に含まれ、反応流体の導入手段と、冷却流体の導入手段と、部分的に蒸発した前記冷却流体の排出手段とを備えた、熱交換器の管群であって、前記管群が、少なくとも2段の同一モジュールを含み、各モジュールが、考慮されたモジュールと、各段の管群で当該モジュールと垂直に並べられるモジュール集合とに共通する中央管の周囲に配分された、同一ピンの集合を含み、前記中央管が、モジュールのピンに冷却流体を供給すると同時に、これらのピンから出る部分的に蒸発した冷却流体を回収する役割を果たす、熱交換器の管群。
【請求項2】
前記管群のピンの供給が、1個の同一モジュールの内部または連続する2段の間で、2個の隣接ピンの間で交互に行われる、請求項1に記載の熱交換器の管群。
【請求項3】
反応媒質の容積単位あたりの熱交換面積が、約4〜30m/mであり、好適には4〜20m/mで、さらに好適には4〜15m/mである、請求項1または2に記載の熱交換器の管群。
【請求項4】
各モジュールのピンの数が2、4、6、または8個である、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱交換器の管群。
【請求項5】
段の数が、2から6個である、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱交換器の管群。
【請求項6】
各モジュールのピンの数が4個である、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱交換器の管群。
【請求項7】
各段のモジュール数が4から80個である、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱交換器の管群。
【請求項8】
中央管が、冷却液の供給循環路と、部分的に蒸発した冷却液の回収循環路との2個の独立した循環路を決定可能な、4個の等しい垂直区間を決定する十字形の内部隔壁によって分割される、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱交換器の管群。
【請求項9】
各モジュールのピンが、一定数の垂直軌道またはパスを含み、この数が10から50である、請求項1から8のいずれか一項に記載の熱交換器の管群。
【請求項10】
1個のモジュールの各中央管が、前記中央管の外壁に沿って溶接された第一の層を含み、この第一の層が、前記外壁の全長に延びて慣性を増すようにした、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱交換器の管群。
【請求項11】
各中央管が、さらに、複数個の第一の層と、前記第一の層に溶接されてこの第一の層と組み合わせてT字形を構成するようにされた第二の層とを備える、請求項10に記載の熱交換器の管群。
【請求項12】
a)段4でピンE11の鉛直線上に配置されたピンE14を、吊り策を用いて、リアクタ内部に配置されるリフト手段に連結するステップと、
b)対応するモジュールの中央管にピンE14を結合する溶接部を切断し、ピンE14を囲む下部および上部の支持要素の溶接部もまた切断するステップと、
c)リアクタ内部のリフト設備により最初のモジュールからピンE14を取り出して、前記ピンを、仮設ビームからなるグリッドで移動させ、リアクタ上部のマンホールの下に配置するステップと、
d)外部リフトシステムを用いてリアクタのピンE14をこの位置から引き抜くステップと、
e)ステップa)からc)と同じ方式でリアクタからピンE13を引き抜くステップと、
f)ステップa)からc)と同じ方式でリアクタからピンE12を引き抜くステップと、
g)ステップa)からc)と同じ方式でリアクタからピンE11を引き抜くステップとを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の熱交換器の管群のピンE11の引き抜き方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−292452(P2007−292452A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112468(P2007−112468)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(591007826)イエフペ (261)
【Fターム(参考)】