説明

弾性表面波デバイス、モジュール装置、発振回路および弾性表面波デバイスの製造方法

【課題】水晶基板を用いた表面波デバイスであり、小型で、Q値が大きく、周波数エージング特性の優れたSH波型SAWデバイスを得る。
【解決手段】圧電基板と、該圧電基板上に形成されAlを主成分とする合金からなるIDT電極とを備え、励振波をSH波とした弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板は、回転Yカット水晶基板のカット角θを−64.0°<θ<−49.3°の範囲に設定し、且つ、弾性表面波の伝搬方向を結晶X軸に対し90°±5°とした水晶平板であり、励振する弾性表面波の波長をλとした時、前記IDT電極の波長で基準化した電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12としたSH波型弾性表面波デバイスにおいて、前記圧電基板はウエットエッチングにより形成されたエッチング痕を有しており、前記IDT電極が前記圧電基板の前記エッチング痕を有する表面に形成されているSH波型弾性表面波デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイス(SAWデバイス)に関し、特にエージング特性を改善したSH波型表面波デバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SAWデバイスは通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから特に携帯電話、LAN等に多く用いられている。STカット水晶基板(結晶軸Xを回転軸としてXZ面(Y面)を結晶軸Zより反時計方向に42.75°回転した水晶基板)上をX軸方向に伝搬するレイリー波((P+SV)波)を用いて構成するSAWデバイスが広く用いられてきた。STカット水晶SAWデバイスの1次温度係数は零であるものの、2次温度係数は約−0.034(ppm/℃2)と比較的大きく、広温度範囲の使用では周波数変動量が大きくなるという問題があった。
【0003】
この問題を解決するものとして、Meirion Lewis,"Surface Skimming Bulk Wave,SSBW", IEEE Ultrasonics Symp. Proc.,pp.744〜752 (1977)や、特公昭62−016050号公報等に開示されたSAWデバイスがある。このSAWデバイスは、図20(a)に示すように回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶軸Zより反時計方向に−50°回転(回転後の基板の軸をそれぞれX、Y’、Z’軸とする)し、X軸に対して垂直な方向(Z’軸方向)に伝搬するSH波を利用して構成したSH波型SAWデバイスである。なお、このカット角をオイラー角で表示すると(0°,θ+90°,90°)=(0°,40°,90°)と表示できる。図20(b)は、回転Yカット水晶基板81の主表面上にZ’軸に沿ってIDT電極82と、その両側にグレーティング反射器83a、83bとを配置して構成したSH波型SAW共振子である。このSH波型SAW共振子は、圧電基板81の表面直下を伝搬するSH波型表面波をIDT電極82によって励起し、その振動エネルギーを電極(82、83a、83b)直下に閉じ込めて、共振子を構成するものである。一般に、SH波型SAW共振子の周波数温度特性は、広温度範囲でみると3次曲線を呈し、良好な周波数温度特性が得られる。
【0004】
しかし、このSH波型表面波は本質的に基板内部を潜って進んでいく波(SSBW)であるため、STカット水晶板に励起されるレイリー波のように圧電基板表面に沿って伝搬するSAWデバイスと比較して、グレーティング反射器による弾性表面波の反射効率が悪く、小型で、且つ高いQ値を有するSH波型SAWデバイスを実現することが難しいという問題があった。
この問題を解決すべく、特公平01−034411号公報(特許文献2)では、図21に示すようにカット角θが−50°である回転Yカット水晶基板81上を、Z’軸方向に伝搬するSH波型表面波を用いたSAW共振子が開示されている。IDT電極84を800対±200対とし、グレーティング反射器を用いることなく、IDT電極84の電極指からの反射だけでSH波型表面波の振動エネルギーを閉じ込め、高Q化を図った所謂多対IDT電極型SAW共振子である。
【0005】
しかし、この多対IDT電極型SAW共振子は、グレーティング反射器を用いたSTカット水晶SAW共振子(レイリー波型)と比較してエネルギー閉じ込め効果が小さく、高いQ値を得るにはIDT電極対数が800対±200対と非常に多くの対数を必要とする。そのため、STカット水晶SAW共振子よりも基板が大きくなり、ひいてはデバイスサイズが大きくなって、最近の小型化の要求に応えることができないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に開示されているSAW共振子では、IDT電極によって励振されるSH波型表面波の電極周期(波長)をλとしたとき、電極膜厚を2%λ以上、好ましくは4%λ以下とすることによりQ値を高めることができると記されている。例えば周波数を200MHzとした場合、基準化電極膜厚H/λ(伝搬するSAWの波長をλとし、電極膜厚Hを波長λで基準化した値、単に電極膜厚ともいう)が4%λ付近でQ値が飽和し、STカット水晶SAW共振子と比較してもほぼ同等のQ値しか得られてない。この原因として、基準化電極膜厚が2%λ以上、4%λ以下の膜厚では、SH波型表面波が圧電基板表面に閉じ込められず、十分な反射効率が得られないため、Q値が大きくならないものと考えられる。
【0007】
SAWデバイスの高周波化と共に良好な周波数エージング特性が強く求められ、エージング特性、耐電力特性の改善に関する多くの提案がなされた。特開平5−199062号公報(特許文献3)もその1つであり、該公報によると、周波数エージング特性を改善するには、水晶基板上に形成したアルミニウム電極の単結晶化が必要であるという。アルミニウム電極を単結晶化する条件は、水晶基板の表面状態と、アルミニウム成膜前の基板表面の汚染防止にあると記されている。
【0008】
水晶基板は、水晶ブロックから回転Y板のSTカット水晶基板(33度STカット水晶基板)を切断し、両面を所定の厚さまでラッピング研磨し、続いて表面をポリッシュする。最後にポリッシュで発生した水晶基板表面の加工変質層の除去および応力解放のためエッチングを行う。水晶基板のエッチング加工は弗酸あるいは弗化アンモニウムの混合液等のエッチング液に浸すことにより、水晶基板の表面を0.1μmから2μm程度エッチングする。すると、基板表面は微小な半球状の島がほぼ均一に存在している島状構造となり、この島の直径は10nm(ナノメートル)から100nmで、高さは約1nmから20nmの半球状をしている。また、隣接する島と島の間隔は約10nmから数十nm程度である。エッチングの時間、エッチング液の濃度により表面状態が変化するので、条件管理が必要であるという。
【0009】
もう一方の水晶基板の清浄化技術は、エッチングから成膜装置に取り付ける時間をできるだけ短縮すること、時間をおいて成膜装置に取り付ける場合は、イソプロピルアルコールの蒸気乾燥、あるいはイソプロピルアルコールに浸漬した後、遠心分離による液切り法などにより表面を疎水性にしておく。それに、真空装置のチャンバ内の壁面から放出されたガスに基板表面が汚染されないように、排気系はクライオ冷却式にする。また、チャンバは成膜用チャンバと、基板の出し入れ用のチャンバの複数に分け、成膜チャンバが大気にさらされなくなり、基板表面の汚染が少なくなる。
【0010】
従来技術により製作されたアルミニウム膜と、新たな技術により製作されたアルミニウム膜の評価に関し、X線回折装置による回折特性図と、電子顕微鏡による膜の粒子観察、さらにアルミニウム膜を400℃に加熱処理し、その表面の状態を顕微鏡で観察することにより、行ったと記されている。新しい技術を用いて成膜したアルミニウム膜のロッキングカーブ法による半値幅が、バルクのアルミニウム単結晶の半値幅とほぼ同等であり、アルミニウム膜が良質の単結晶膜であることを示していると記されている。
【0011】
従来技術で成膜したSAW共振子と、新しい技術を用いて成膜したSAW共振子にそれぞれ約20ミリワットの電力を印加し、経時変化による周波数変化を測定したところ、新しい技術を用いたSAW共振子は1000時間後の変化が−数ppmなのに対し、従来技術のものは−数十ppmから−100ppm以上と極めて大きかったという。
【0012】
WO00/24123号公報には、Y板をX軸の周りに10〜60°回転して得られる回転Y板のSTカット水晶基板上に形成したアルミニウム電極に関して記述されている。測定解析技術の進歩により、従来、単結晶と理解されていたアルミニウム膜の解釈が少し変化しているものと思われる。この公報の開示によると、アルミニウムの層は多結晶であり、結晶粒界が双晶粒界(隣り合う結晶粒同士が双晶の関係にある結晶粒界)となっている。これによりSAW共振子は長期間使用しても周波数が変化しにくいという。その理由として、アルミニウムの層が多結晶であると、粒界エネルギーが生じる。従来のアルミニウム膜のように、多結晶で構成されており、且つこの多結晶を構成する各結晶の配向がランダムであると、粒界エネルギーが大きくなる。粒界エネルギーが大きくなると電極膜に振動が加えられた場合に、結晶が少しずつ移動することになる。このため、このような電極膜に長時間振動が加わると、電極膜が経時劣化し、周波数が変動すると考えられるという。
【0013】
一方、本発明のように、アルミニウム膜を構成する結晶の結晶粒界が双晶粒界であると、即ち隣り合う結晶粒同士が双晶の関係にあると、粒界エネルギーが小さくなり、電極膜に長期間の振動が加えられてもアルミニウム膜を構成する粒子の移動はしにくい。それ故、長期間使用した場合でも経時変化しにくいと考えられるという。
SAW共振子の断面の観察としては、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてアルミニウム膜の粒界の界面が双晶粒界であることを確認したと記している。また、電子線回折で写した写真により双晶を確認したという。
【0014】
【特許文献1】特公昭62−016050号公報
【特許文献2】特公平01−034411号公報
【特許文献3】特開平5−199062号公報
【特許文献4】WO00/24123号公報
【非特許文献1】Meirion Lewis,"Surface Skimming Bulk Wave,SSBW", IEEE Ultrasonics Symp. Proc.,pp.744〜752 (1977)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献3、4には、Y板をX軸の周りに−50°回転して得られるSH波用水晶基板上に形成するSH波型SAWデバイスについて、何ら記述されてなく、SH波用水晶基板をどの程度エッチングし、どのようにアルミニウム電極を形成すれば、+125℃の雰囲気中で+10dBmの電力を印加して行う高温動作エージングに要求されるエージング規格(1例として1000時間で10ppm以下)に適合できるかについては何ら記述がなく、SH波型SAWデバイスの諸パラメータをどうのように設定すべきか、手がかりが無いという問題があった。
【0016】
本発明は、エージング特性の良好なSH波型SAWデバイスを提供することを目的とする。
また本発明は、このSH波型SAWデバイスの製造方法を提供するとともに、このSH波型SAWデバイスを用いたモジュール装置および発振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明に係る弾性表面波デバイスは、圧電基板と、該圧電基板上に形成されAl又はAlを主成分とする合金からなるIDT電極とを備え、励振波をSH波とした弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板は、回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶Z軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°の範囲に設定し、且つ、弾性表面波の伝搬方向を結晶X軸に対し90°±5°とした水晶平板であり、且つ、前記圧電基板の表面にエッチングにより形成された一方から他方にはしるエッチング痕を有しており、励振する弾性表面波の波長をλとした時、前記IDTの波長で基準化した電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12とし、前記IDT電極が前記圧電基板の前記エッチング痕を有する表面に形成されているSH波型弾性表面波デバイスであることを特徴とする。なお、このエッチングは、ウエットエッチングが好ましい。
【0018】
また本発明に係る弾性表面波デバイスは、圧電基板と、該圧電基板上に形成されAl又はAlを主成分とする合金からなるIDT電極とを備え、励振波をSH波とした弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板は、回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶Z軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°の範囲に設定し、且つ、弾性表面波の伝搬方向を結晶X軸に対し90°±5°とした水晶平板であり、励振する弾性表面波の波長をλとした時、前記IDT電極の波長で基準化した電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12とし、前記圧電基板の主表面を0.002μm以上の厚さでエッチングしたSH波型弾性表面波デバイスであることを特徴とする。
【0019】
また前記弾性表面波デバイスは、カット角θ及び電極膜厚H/λの関係が、−1.34082×10-4×θ3−2.34969×10-2×θ2−1.37506×θ−26.7895<H/λ<−1.02586×10-4×θ3−1.73238×10-2×θ2−0.977607×θ−18.3420を満足していることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0020】
また前記弾性表面波デバイスは、前記IDT電極を構成する電極指の電極指幅/(電極指幅+電極指間のスペース)をライン占有率mrとした時に、カット角θ及び電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrの関係が、−8.04489×10-5×θ3−1.40981×10-2×θ2−0.825038×θ−16.0737<(H/λ)×mr<−6.15517×10-5×θ3−1.03943×10-2×θ2−0.586564×θ−11.0052を満足していることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0021】
また本発明に係る弾性表面波デバイスは、圧電基板と、該圧電基板上に形成されAl又はAlを主成分とする合金からなるIDT電極とを備え、励振波をSH波とした弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板は、回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶Z軸より反時計方向に−61.4°<θ<−51.1°の範囲に設定し、且つ、弾性表面波の伝搬方向を結晶X軸に対し90°±5°とした水晶平板であり、且つ、前記圧電基板の表面にウエットエッチングにより形成された一方から他方にはしるエッチング痕を有しており、励振する弾性表面波の波長をλとした時、前記IDT電極の波長で基準化した電極膜厚H/λを0.05<H/λ<0.10とし、前記IDT電極が前記圧電基板の前記エッチング痕を有する表面に形成されているSH波型弾性表面波デバイスであることを特徴とする。
【0022】
また前記弾性表面波デバイスは、カット角θ及び電極膜厚H/λの関係が、−1.44605×10-4×θ3−2.50690×10-2×θ2−1.45086×θ−27.9464<H/λ<−9.87591×10-5×θ3−1.70304×10-2×θ2−0.981173×θ−18.7946を満足していることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0023】
また前記弾性表面波デバイスは、前記IDT電極を構成する電極指の電極指幅/(電極指幅+電極指間のスペース)をライン占有率mrとした時に、カット角θ及び電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrの関係が、−8.67632×10-5×θ3−1.50414×10-2×θ2−0.870514×θ−16.7678<(H/λ)×mr<−5.92554×10-5×θ3−1.02183×10-2×θ2−0.588704×θ−11.2768を満足していることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0024】
また前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板上にIDT電極を少なくとも1個配置した1ポートの弾性表面波共振子であることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0025】
また前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板の弾性表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極を少なくとも2個配置した2ポートの弾性表面波共振子であることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0026】
また前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板の弾性表面波の伝搬方向に対して複数個の弾性表面波共振子を平行に近接配置した横結合型多重モードフィルタであることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0027】
また前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板の弾性表面波の伝搬方向に沿って複数個のIDT電極からなる2ポートの弾性表面波共振子を配置した縦結合型多重モードフィルタであることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0028】
また前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板上に複数個のSH波型弾性表面波共振子を梯子状に接続したラダー型弾性表面波フィルタあることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0029】
また前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板上に弾性表面波を双方向に伝搬させるIDT電極を所定の間隔を空けて複数個配置したトランスバーサルSAWフィルタであることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0030】
また前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板上に弾性表面波を一方向に伝搬させるIDT電極を少なくとも1つ配置したトランスバーサルSAWフィルタであることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0031】
また前記弾性表面波デバイスは、弾性表面波センサであることを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0032】
また前記弾性表面波デバイスは、IDT電極の両側にグレーティング反射器を有することを特徴としたSH波型弾性表面波デバイスである。
【0033】
また本発明に係るモジュール装置や本発明に係る発振回路は、前述したSH波型弾性表面波デバイスを用いたことを特徴としている。
【0034】
また本発明に係る表面波デバイスの製造方法は、前述したSH波型弾性表面波デバイスを製造する方法であり、AlまたはAlを主成分とする合金を成膜する前に、水晶基板の主表面をウエットエッチングして該主表面に一方から他方にはしるエッチング痕を形成することを特徴としたSH波型表面波デバイスの製造方法である。すなわち本発明に係る表面波デバイスの製造方法は、前記圧電基板の主表面をウエットエッチングして該主表面に一方から他方にはしるエッチング痕を形成する工程と、エッチングした前記圧電基板の主表面に前記IDT電極を形成する工程とを有することを特徴としている。
また本発明に係る表面波デバイスの製造方法は、前記圧電基板の主表面を0.002μm以上0.1μm未満の厚さでエッチングする工程と、エッチングした前記圧電基板の主表面に前記IDT電極を形成する工程とを有することを特徴としている。
【0035】
本発明のSAWデバイスは、カット角θが−64.0°<θ<−49.3°、好ましくは−61.4°<θ<−51.1°の範囲にある回転Yカット水晶基板を用い、SAWの伝搬方向が結晶X軸に対して90°±5°として励振されるSH波を用い、IDT電極やグレーティング反射器の電極材料をAlまたはAlを主とした合金にて構成し、波長で基準化した電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12、好ましくは0.05<H/λ<0.10とすることで、本来基板内部に潜って進んでいく波を基板表面に集中させてグレーティング反射器等により表面波の反射を効率良く利用できるようにし、更に前記水晶基板を0.002μm以上エッチングしたので、小型でQ値が高く、且つ周波数エージング特性が優れたSH波型SAWデバイスを提供することができる。なおカット角θが−64.0°<θ<−49.3°、好ましくは−61.4°<θ<−51.1°の範囲にある回転Yカット水晶基板を用いているので、この水晶基板のエッチング量を0.1μm未満にすることができ、エッチングが短時間で終わる。
【0036】
そして電極膜厚H/λとカット角θの条件を満足することにより、頂点温度Tp(℃)を実用的な温度範囲内に設定し、周波数エージング特性が優れたSH波型SAWデバイスとすることができる。
【0037】
また電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrとカット角θの条件を満足することにより、頂点温度Tp(℃)を実用的な温度範囲内に設定し、周波数エージング特性が優れたSH波型SAWデバイスとすることができる。
【0038】
また種々の方式のSAWデバイスを用いれば、小型でQ値が高く、且つ周波数エージング特性が優れたSH波型SAWデバイスを提供することができる。
【0039】
またSAWデバイスは、IDT電極の両側にグレーティング反射器を配置してSAWのエネルギーを前記IDT電極内に十分閉じ込めることができるので、小型でQ値が高く、周波数エージング特性が優れたSH波型SAWデバイスを提供することができる。
【0040】
そして本発明のモジュール装置、又は発振回路は、本発明のSH波型SAWデバイスを用いているので小型で高性能で、周波数エージング特性が優れたモジュール装置、又は発振回路を提供することができる。
【0041】
また本発明の製造方法は、SH波型弾性表面波デバイスを製造する方法において、AlまたはAlを主成分とする合金を成膜する前に、水晶基板の主表面をエッチングする製造方法を示したもので、エージング特性の良好なSH波型表面波デバイスを製造することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明を説明する前に、本発明の元になった特願2004−310452号について説明する。SH波型表面波は、図1(a)に示すようにYカット水晶基板の回転角θを結晶軸Zより反時計方向に約−50°とし、結晶軸Xに対し90°±5°方向に伝搬するSH波型の表面波である。図1(b)はSH波型SAW共振子であって、水晶基板1の主面上にZ’軸方向に沿ってIDT電極2を配置すると共に、該IDT電極2の両側にグレーティング反射器3a、3bを配設してSH波型SAW共振子を構成する。IDT電極2は互いに間挿し合う複数の電極指を有する一対の櫛形電極より構成され、それぞれの櫛形電極よりリード電極を伸ばす。
【0043】
IDT電極2、グレーティング反射器3a、3bの電極材料はアルミニウム(Al)又はAlを主成分とする合金とし、IDT電極2、グレーティング反射器3a、3bの電極膜厚HをSH波型表面波の波長λで基準化したH/λを基準化電極膜厚、IDT電極2を構成する電極指幅をL、電極指幅Lと電極指間のスペースSとの和を(L+S)としたとき、L/(L+S)をライン占有率mrとし、特に記述しないときは、mr=0.60を用いる。
【0044】
本発明においては、従来の欠点を鑑みて電極膜厚H/λを、従来の値より大きく設定することで、SH波型表面波を圧電基板表面に集中させて、グレーティング反射器によりSH波型表面波の反射を効率良く利用できるようにし、少ないIDT電極対数やグレーティング反射器本数でもSH波型表面波エネルギーをIDT電極内に閉じ込めるようにしてデバイスサイズの小型化を図った。
【0045】
図2は、図1(b)に示したSH波型SAW共振子において、圧電基板1に−51°回転Yカット90°X伝搬水晶基板(オイラー角表示では(0°,39°,90°))を用い、共振周波数を315MHz、電極膜厚H/λを0.06、IDT電極2の対数を100対、グレーティング反射器3a、3bの本数を各々100本として構成したSH波型SAW共振子の周波数温度特性(実線)を示した図である。また、比較の為に、圧電基板の大きさを同一にしたSTカット水晶SAW共振子の周波数温度特性を破線で示し、重ね書きした。
【0046】
図3は本発明のSH波型SAW共振子における電極膜厚H/λとQ値の関係を示したものであり、共振子設計条件は前述と同等である。同図より、0.04<H/λ<0.12の範囲においてSTカット水晶SAW共振子のQ値(15,000)を上回る値が得られることが分かる。更に、0.05<H/λ<0.10の範囲に設定することにより20,000以上もの高いQ値が得られる。
【0047】
また、特公平01−034411号にある多対IDT型SAW共振子と本発明のSH波型SAW共振子のQ値を比較すると、特公平01−034411号で得られているQ値は共振周波数が207.561(MHz)における値であり、これを本実施例で適用している共振周波数315(MHz)に変換するとQ値は15,000程度となり、STカット水晶SAW共振子とほぼ同等である。また、共振子のサイズを比較すると、特公平01−034411号の多対IDT型SAW共振子は800±200対もの対数が必要なのに対し、本発明ではIDTとグレーティング反射器の両方で200対分の大きさで十分であるので格段に小型化できる。従って、電極膜厚を0.04<H/λ<0.12の範囲に設定し、グレーティング反射器を設けて効率良くSH波型表面波を反射することで、特公平01−034411号に開示されている多対IDT型SAW共振子よりも小型で且つQ値が高いSAWデバイスを実現できる。
【0048】
次に、図4は本発明のSH波型SAW共振子における電極膜厚H/λと2次温度係数の関係を示したものであり、共振子設計条件は前述と同等である。図4より高いQ値が得られる0.04<H/λ<0.12の範囲において、STカット水晶SAW共振子の2次温度係数−0.034(ppm/℃2)よりも良好な値が得られた。以上より電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12の範囲に設定することで、STカット水晶SAWデバイス及び特公平01−034411号に開示されているSAWデバイスよりも小型でQ値が高く、且つ周波数安定性に優れたSAWデバイスを提供できることが分かった。
【0049】
なお、これまでカット角θを−51°とした場合についてのみ示してきたが、本発明のSAW共振子においてはカット角θを変えても膜厚依存性は大きく変化せず、−51°から数度ずれたカット角においても電極膜厚を0.04<H/λ<0.12の範囲に設定することで、良好なQ値と2次温度係数が得られる。
【0050】
ところで、本発明のSH波型SAW共振子は、非常に広い温度範囲では3次的な温度特性となるが、特定の狭い温度範囲では2次特性と見なすことができ、その頂点温度Tpは電極膜厚やカット角によって変化する。従って、いくら周波数温度特性が優れていても頂点温度Tpが使用温度範囲外となってしまうと周波数安定性は著しく劣化してしまうので、実用的な使用温度範囲(−50℃〜+125℃)において優れた周波数安定性を実現するには、2次温度係数だけでなく頂点温度Tpについても詳細に検討する必要がある。
【0051】
図5(a)は、本発明のSH波型SAW共振子においてカット角θを−50.5°としたときの電極膜厚H/λと頂点温度Tpの関係を示している。図5(a)から明らかなように、電極膜厚H/λを大きくすると頂点温度Tpは下がり、電極膜厚H/λと頂点温度Tpの関係は次の近似式で表わされる。
Tp(H/λ)=−41825×(H/λ)2+2855.4×(H/λ)−26.42 ・・・(1)
また、−50°近傍のカット角においても切片を除けばおおよそ(1)式が適用できる。
【0052】
また、図5(b)は、本発明のSAW共振子において電極膜厚H/λを0.06とした時のカット角θと頂点温度Tpの関係を示している。図5(b)から明らかなように、カット角θの絶対値を小さくすると頂点温度Tpは下がり、カット角θと頂点温度Tpの関係は次の近似式で表わされる。
Tp(θ)=−43.5372×θ−2197.14 ・・・(2)
【0053】
式(1)及び式(2)から電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12とした時に頂点温度Tpを実用的な使用温度範囲(−50〜+125℃)に設定するには、カット角θを−59.9°≦θ≦−48.9°の範囲に設定すれば良いことが分かる。
【0054】
また、電極膜厚H/λとカット角θの双方を考慮する場合、頂点温度Tpは式(1)及び式(2)から次の近似式で表わされる。
Tp(H/λ,θ)=Tp(H/λ)+Tp(θ)=−41825×(H/λ)2+2855.4×(H/λ)−43.5372×θ−2223.56 ・・・(3)
式(3)より、頂点温度Tpを使用温度範囲(−50〜+125℃)に設定するには、次式で表される範囲に電極膜厚H/λ及びカット角θを設定すれば良い。
0.9613≦−18.498×(H/λ)2+1.2629×(H/λ)−0.019255×θ≦1.0387 ・・・(4)
【0055】
このように、本発明ではカット角θが−59.9°≦θ≦−48.9°の範囲にある回転Yカット水晶基板を用い、SAWの伝搬方向がX軸に対してほぼ垂直方向として励振されるSH波を用い、IDT電極やグレーティング反射器の電極材料をAlまたはAlを主とした合金にて構成し、その電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12とすることで、STカット水晶SAWデバイスより小型で、且つQ値が大きく、且つ周波数安定性の優れているSAWデバイスを実現できる。
【0056】
ここで、より最適な条件について検討すると、電極膜厚H/λは図3よりQ値として20,000以上が得られる0.05<H/λ<0.10の範囲に設定するのが好ましい。また、頂点温度Tpをより実用的な使用温度範囲(0°〜+70℃)に設定するためには、カット角θは−55.7°≦θ≦−50.2°の範囲に設定するのが好ましく、更には、式(3)より得られる次式の範囲にカット角θ及び電極膜厚H/λを設定するのが好ましい。
0.9845≦−18.518×(H/λ)2+1.2643×(H/λ)−0.019277×θ≦1.0155 ・・・(5)
【0057】
以上では、図5(a)のカット角θを−50.5°とした時の電極膜厚H/λと頂点温度Tpの関係、及び図5(b)の電極膜厚H/λを0.06とした時のカット角θと頂点温度Tpの関係から、頂点温度Tpが実用的な使用温度範囲に入るような電極膜厚H/λとカット角θの関係式を導き出したが、更にカット角θの範囲を広げて実験を行ったところ、より詳細な条件を見出すことができたので以下説明する。
【0058】
図6は、前記SH波型SAW共振子において頂点温度Tp(℃)がTp=−50,0,+70,+125である時の水晶基板のカット角θと電極膜厚H/λの関係を示しており、各Tp特性の近似式は以下の通りである。
Tp=−50(℃):H/λ≒−1.02586×10-4×θ3−1.73238×10-2×θ2−0.977607×θ−18.3420
Tp=0(℃):H/λ≒−9.87591×10-5×θ3−1.70304×10-2×θ2−0.981173×θ−18.7946Tp=+70(℃):H/λ≒−1.44605×10-4×θ3−2.50690×10-2×θ2−1.45086×θ−27.9464
Tp=+125(℃):H/λ≒−1.34082×10-4×θ3−2.34969×10-2×θ2−1.37506×θ−26.7895
【0059】
図6から、頂点温度Tp(℃)を実用的な範囲である−50≦Tp≦+125に設定するには、Tp=−50℃及びTp=+125℃の曲線に囲まれた領域、即ち、−1.34082×10-4×θ3−2.34969×10-2×θ2−1.37506×θ−26.7895<H/λ<−1.02586×10-4×θ3−1.73238×10-2×θ2−0.977607×θ−18.3420となるようにカット角θ及び電極膜厚H/λを設定すれば良いことが分かる。また、この時の電極膜厚H/λの範囲は、従来のSTカット水晶デバイスより優れた特性が得られる0.04<H/λ<0.12とし、カット角θの範囲は図6の点Aから点Bに示す範囲の−64.0<θ<−49.3とする必要がある。
【0060】
更に、より最適な条件について検討すると、頂点温度Tp(℃)はより実用的な使用温度範囲である0≦Tp≦+70に設定するのが望ましい。Tp(℃)を前述の範囲に設定するには、図6に示すTp=0℃及びTp=+70℃の曲線に囲まれた領域、即ち、−1.44605×10-4×θ3−2.50690×10-2×θ2−1.45086×θ−27.9464<H/λ<−9.87591×10-5×θ3−1.70304×10-2×θ2−0.981173×θ−18.7946となるようにカット角θ及び電極膜厚H/λを設定すれば良い。また、電極膜厚H/λはQ値が20,000以上得られる0.05<H/λ<0.10の範囲にするのが望ましく、電極膜厚を前述の範囲とし、頂点温度Tp(℃)を0≦Tp≦+70の範囲内に設定するには、カット角θを図6の点Cから点Dに示す範囲の−61.4<θ<−51.1に設定する必要がある。
【0061】
以上、詳細に検討した結果、カット角θが−64.0°<θ<−49.3°、好ましくは−61.4°<θ<−51.1°の範囲にある回転Yカット水晶基板を用い、表面波の伝搬方向がX軸に対してほぼ垂直方向として励振されるSH波を用い、IDT電極やグレーティング反射器の電極材料をAlまたはAlを主とした合金にて構成し、その電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12、好ましくは0.05<H/λ<0.10とすることで、STカット水晶SAWデバイスよりQ値が大きく優れた温度特性が得られると共に、頂点温度Tpを実用的な使用温度範囲内に設定できることを見出した。
【0062】
ところで、これまでIDTのライン占有率mrを0.60と固定したときの例について説明してきたが、以下ではライン占有率を変数に含めた場合のTp特性について検討した。図7は、電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrと頂点温度Tpの関係を示している。なお、縦軸は頂点温度Tp(℃)を、横軸は電極膜厚とライン占有率との積(H/λ)×mrを示しており、このときの水晶基板のカット角θは−51.5°としている。図7に示すように、電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrの値を大きくする程、頂点温度Tpは下がることが分かる。
【0063】
次に、図8は頂点温度Tp(℃)がTp=−50,0,+70,+125である時の水晶基板のカット角θと電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrの関係を示している。なお、各Tp特性の近似式は以下の通りである。
Tp=−50(℃):H/λ×mr≒−6.15517×10-5×θ3−1.03943×10-2×θ2−0.586564×θ−11.0052
Tp=0(℃):H/λ×mr≒−5.92554×10-5×θ3−1.02183×10-2×θ2−0.588704×θ−11.2768
Tp=+70(℃):H/λ×mr≒−8.67632×10-5×θ3−1.50414×10-2×θ2−0.870514×θ−16.7678
Tp=+125(℃):H/λ×mr≒−8.04489×10-5×θ3−1.40981×10-2×θ2−0.825038×θ−16.0737
【0064】
図8から、頂点温度Tp(℃)を実用的な範囲である−50≦Tp≦+125に設定するには、Tp=−50℃及びTp=+125℃の曲線に囲まれた領域、即ち、−8.04489×10-5×θ3−1.40981×10-2×θ2−0.825038×θ−16.0737<H/λ×mr<−6.15517×10-5×θ3−1.03943×10-2×θ2−0.586564×θ−11.0052となるようにカット角θ及び電極膜厚とライン占有率の積H/λ×mrを設定すれば良いことが分かる。また、この時の電極膜厚H/λの範囲は従来のSTカット水晶デバイスより優れた特性が得られる0.04<H/λ<0.12とし、カット角θの範囲は−64.0<θ<−49.3とする必要がある。
【0065】
また、頂点温度Tp(℃)をより実用的な使用温度範囲である0≦Tp≦+70に設定するには、図8に示すTp=0℃及びTp=+70℃の曲線に囲まれた領域、即ち、−8.67632×10-5×θ3−1.50414×10-2×θ2−0.870514×θ−16.7678<H/λ×mr<−5.92554×10-5×θ3−1.02183×10-2×θ2−0.588704×θ−11.2768となるようにカット角θ及び電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrを設定すれば良い。また、この時の電極膜厚H/λはQ値が20,000以上得られる0.05<H/λ<0.10とするのが望ましく、電極膜厚を前述の範囲とし、且つ、頂点温度Tp(℃)を0≦Tp≦+70の範囲内に設定するには、カット角θは−61.4<θ<−51.1とするのが望ましい。
【0066】
これまで、図1に示すような1ポートのSAW共振子についてのみ言及してきたが、それ以外のSAWデバイスにおいても本発明を適用できる。以下、種々のSAWデバイスの構造について説明する。
図9は圧電基板11上にSAWの伝搬方向に沿ってIDT電極12、13を配置し、その両側にグレーティング反射器14a、14bを配置した2ポートSH波型SAW共振子を示しており、1ポートSH波型SAW共振子と同じく高いQ値を実現できる。
【0067】
図10は、共振子フィルタの1つの方式としてSAW共振子の音響結合を利用した2重モードSAW(DMS)フィルタを示しており、図10(a)は圧電基板21上にSAW共振子22を伝搬方向に対して平行に近接配置した横結合型DMSフィルタ、図10(b)は圧電基板31上にIDT32からなるSH波型SAW共振子を表面波の伝搬方向に沿って配置した2ポートの縦結合型DMSフィルタである。前記横結合型DMSフィルタは伝搬方向に対し垂直方向の音響結合を利用し、前記縦結合型DMSフィルタは伝搬方向に対し水平方向の音響結合を利用している。これらDMSフィルタは平坦な通過帯域と良好な帯域外抑圧度が得られる特徴がある。
【0068】
なお、前記縦結合型DMSフィルタは、通過域近傍を高減衰にするためにSAW共振子を接続する場合がある。また、更に高次のモードを利用した多重モードSAWフィルタや、伝搬方向に対し垂直方向と水平方向の双方で音響結合させた多重モードSAWフィルタにも応用できる。
【0069】
図11は、共振子フィルタの別の方式として、圧電基板41上に複数の1ポートSAW共振子42を直列、並列、直列と梯子(ラダー)状に配置してフィルタを構成したラダー型SAWフィルタを示している。ラダー型SAWフィルタは前記DMSフィルタと比較して通過域近傍の減衰傾度が急峻なフィルタ特性が得られる。
【0070】
図12は、トランスバーサルSAWフィルタを示しており、同図(a)は圧電基板51上に表面波の伝搬方向に沿って入力用IDT電極52と出力用IDT電極53を所定の間隙をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタである。なお、前記IDT電極52、53は双方向に表面波を伝搬させる。また、入出力端子間の直達波の影響を防ぐためにシールド電極54を設けたり、基板端面からの不要な反射波を抑圧するために圧電基板51の両端に吸音材55を塗布する場合がある。トランスバーサル型SAWフィルタは、振幅特性と位相特性とを別々に設計可能であり、帯域外抑圧度が高いためIF用フィルタとして多用されている。
【0071】
前記トランスバーサル型SAWフィルタにおいて、表面波は伝搬方向に沿って左右に等しく伝搬するためフィルタの挿入損失が大きくなるという問題がある。この問題を解決するものとして、図12(b)に示すように電極指配列や電極指幅を変化させることによりSAWの励振及び反射に重み付けを施して表面波の励振を一方向性にした所謂単相一方向性電極(Single Phase Uni-Directional Transducer:SPUDT)62、63を配置したトランスバーサル型SAWフィルタがある。表面波の励振が一方向性となるので低損失なフィルタ特性が得られる。また、他の構造として、IDTの励振電極間にグレーティング反射器を配置した所謂反射バンク型トランスバーサル型SAWフィルタ等がある。
【0072】
以上の種々のSAWデバイスにおいて、圧電基板に回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶Z軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°、好ましくは−61.4°<θ<−51.1°の範囲に設定し、弾性表面波の伝搬方向を結晶X軸に対し90°±5°とした水晶平板を用い、電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12、好ましくは0.05<H/λ<0.10の範囲に設定すれば、本発明と同様な効果が得られることは明らかである。
【0073】
また、上述のSAWデバイスにおいて、IDT電極やグレーティング反射器上にSiO2等の保護膜やAlを陽極酸化した保護膜等を形成したり、Al電極の上部あるいは下部に密着層あるいは耐電力向上等の目的で別の金属薄膜を形成した場合においても、本発明と同様の効果を得られることは明らかである。また、センサ装置やモジュール装置、発振回路等に本発明のSH波型SAWデバイスが適用できることは言うまでもない。また、電圧制御SAW発振器(VCSO)等に本発明のSAWデバイスを用いれば、容量比γを小さくできるので周波数可変幅を大きくとれる。
【0074】
また、本発明のSAWデバイスは、SAWチップとパッケージをワイヤボンディングした構造以外でも良く、SAWチップの電極パッドとパッケージの端子とを金属バンプで接続したフリップチップボンディング(FCB)構造や、配線基板上にSAWチップをフリップチップボンディングしSAWチップの周囲を樹脂封止したCSP(Chip Size Package)構造、或いは、SAWチップ上に金属膜や樹脂層を形成することによりパッケージや配線基板を不要としたWLCSP(Wafer Level Chip Size Package)構造等にしても良い。更には、水晶デバイスを水晶又はガラス基板で挟んで積層封止したAQP(All Quartz Package)構造としても良い。前記AQP構造は、水晶又はガラス基板で挟んだだけの構造であるのでパッケージが不要で薄型化が可能であり、低融点ガラス封止や直接接合とすれば接着剤によるアウトガスが少なくなりエージング特性に優れた効果を奏する。
【0075】
以下、本発明を図示した実施の形態例に基づいて詳細に説明する。図13は本発明に係るSH波型SAW共振子の構成を示す平面図であって、水晶基板71は、図1(a)に示したようにYカット水晶基板の回転角θを結晶軸Zより反時計方向に約−50°とし、結晶軸Xに対し90°±5°方向(Z’軸方向)に伝搬するSH波型表面波を励起する基板を用いる。そして、水晶基板71のZ’軸方向に沿ってアルミニウム、又はアルミニウムを主成分とする合金のIDT電極72と、その両側にグレーティング反射器73a、73bとを配置して、SH波型SAW共振子を構成する。IDT電極72は、互いに間挿し合う複数の電極指を有する一対の櫛形電極より形成され、それぞれの櫛形電極よりリード電極を伸ばして二端子とする。
【0076】
なお、水晶基板71のカット角θ、電極材料、IDT電極の基準化電極膜厚H/λ(λはSH波型表面波の波長)、ライン占有率mr(電極指幅Lとスペース幅Sとの和に対する電極指幅Lの比)等は、前述した特願2004−310452号に基づくものとする。
【0077】
本発明の特徴はSH波用水晶基板71のエッチング量にある。STカット水晶基板のエッチングについては、前述したように(特許文献3)、STカット水晶基板を弗酸あるいは弗化アンモニウムの混合液等のエッチング液に浸し、水晶基板の表面を0.1μm(1,000Å)から2μm程度エッチングすると、基板表面は微小な半球状の島がほぼ均一に存在している島状構造となり、この表面にアルミニウム膜を形成すると、単結晶膜が得られると記述されている。
【0078】
しかし、SH波用水晶基板については何ら記述されていない。そこで、本願発明者はSH波用水晶基板の表面を種々の厚さでエッチングし、該水晶基板表面上にアルミニウム膜を真空蒸着法、スパッタ法を用いて成膜し、フォトリソ技術とエッチング手法を用いて、図13に示すようなSH波型SAW共振子を試作し、そのエージング特性を測定した。特許文献3にはSTカット水晶基板表面のエッチング量の例として、0.1μmから2μmの例が記述されているが、SH波型SAW共振子の試作の結果によると、エッチング量が大幅に異なることを見出した。即ち、エッチングレートを0.25nm/秒とし、3分間エッチングしたSH波用水晶基板(ライトエッチング基板)を用いて、試作したSH波型SAW共振子のエージングが極めて良好な特性を示した。なお、このときの水晶基板のエッチング量は0.045μmであり、ウエットエッチングによって水晶基板表面の加工変質層等をより効果的に取り除いている。また基板71のカット角を−52.0°、IDT電極72の対数を120対、グレーティング反射器73a、73bの本数をそれぞれ100本、電極膜厚H/λは0.06、ライン占有率mrは0.6とした。SH波型SAW共振子のエージング条件は高温動作エージングで、印加する電力を+10dBm、雰囲気を125℃とし、横軸を経過時間(h)、縦軸を周波数変動量(ppm)としてプロットした図が、図14の●実線である。×実線はエッチングを施さない(エッチング量0μm)SH波水晶基板を用い、上記の定数で試作したSH波型SAW共振子のエージング特性を比較のために重ね書きしたものである。
【0079】
エッチングを施さないSH波用水晶基板を用いて構成したSH波型SAW共振子のエージングが、350時間後で−130ppmから−170ppmであるのに対し、ライトエッチングを施したSH波用水晶基板を用いて構成したSH波型SAW共振子のエージングが、350時間後で−0.8ppmから−1.3ppmであった。
【0080】
また図14には、水晶基板を0.0025μmエッチングして作製したSH波型SAW共振子のエージング特性と、水晶基板を0.015μmエッチングして作製したSH波型SAW共振子のエージング特性も重ね書きしてある。この図14において、△実線は水晶基板を0.0025μmエッチングしたときのエージング特性を示し、□実線は0.015μmエッチングしたときのエージング特性を示している。なお、これらの場合においても、エッチングレートを0.25nm/秒としてあり、また基板71のカット角を−52.0°、IDT電極72の対数を120対、グレーティング反射器73a、73bの本数をそれぞれ100本、電極膜厚H/λは0.06、ライン占有率mrは0.6としてある。さらにエージング条件は高温動作エージングで、印加する電力を+10dBm、雰囲気を125℃としてある。
【0081】
そしてエッチング量が0.0025μmの水晶基板を用いたSH波型SAW共振子のエージングは、350時間後で−1.0ppmから−8.5ppmであった。またエッチング量が0.015μmの水晶基板を用いたSH波型SAW共振子のエージングは、350時間後で−1.0ppmから−7.3ppmであった。これによりウエットエッチングによって水晶基板を0.0025μmエッチングしても、水晶基板の加工変質層等をより効果的に取り除くことができ、エージング特性が極めて良好であることがわかる。また図14に示した測定の結果から、特に水晶基板のエッチング量を0.0025μmとしたときであっても、350時間後のエージングが−1.0ppmから−8.5ppmであることから、水晶基板のエッチング量を0.002μmとしたときであっても350時間後のエージングが数ppmであると考えられる。
【0082】
図15(a)はSH波型SAW共振子のIDT電極の斜視図であり、図15(b)は領域Eを拡大した斜視図である。図15(b)はSH波水晶基板をエッチングレート0.25nm/秒で3分間エッチングしたエッチング量0.045μmのSH波水晶基板にアルミニウム膜を成膜し、アルミニウム膜の一部をエッチング加工した基板のFEM(電界放射顕微鏡)像である。エッチングされた凹部はSH波水晶基板の表面である。IDT電極及び水晶基板の両表面上には、図中の左右方向にはしるエッチング痕(実線で強調している)がみられる。
【0083】
一方、図16(a)はSH波型SAW共振子のIDT電極の斜視図であり、図16(b)は領域Eを拡大した斜視図である。図16(b)は、STカット水晶基板をエッチングレート1.67nm/秒で6分間エッチングしたエッチング量0.6μm(特許文献3に記載されたエッチング量と同じ)のSTカット水晶基板にアルミニウム膜を成膜し、アルミニウム膜の一部をエッチング加工した基板のFEM像である。エッチングされた凹部はSTカット水晶基板の表面である。IDT電極及び水晶基板の両表面上は、共にほぼ滑らかな状態である。
【0084】
エッチングしたSH波水晶基板上にアルミニウム膜を成膜した場合と、エッチングを施さないSH波水晶基板上にアルミニウム膜を成膜した場合とで、X線回折のロッキングカーブ半値全幅(FWHM)がどのように異なるのか、X線回折装置を用いて測定した。測定結果を纏めたものが図17である。測定した試料の測定位置として、上部(Top)、右部(Right)、左部(Left)と表記している。ロッキングカーブ半値全幅(FWHM)の平均は、エッチングを施さない場合が1.022であるのに対し、エッチングを施した場合は0.899と結晶性が改善されている。
【0085】
また、図17中のCPSは回折強度を表し、ピーク強度ではなく、ロッキングカーブの積分強度である。エッチングを施さないSH波水晶基板上にアルミニウム膜を成膜した場合のCPSの平均が9,642であるのに対し、エッチングを施したSH波水晶基板上にアルミニウム膜を成膜した場合のCPSの平均は、96,662とほぼ10倍の強度となることが判明した。
【0086】
図18は、エッチングを施さないSH波水晶基板上と、エッチングを施したSH波水晶基板上とに、それぞれアルミニウムIDT電極を形成した場合のSH波型SAW共振子の実効抵抗R1(Ω)とそれらの平均(Ave.)を示した図である。エッチングを施さないSH波型SAW共振子の平均の実効抵抗が13.6Ωであるのに対し、エッチングを施したSH波型SAW共振子の平均の実効抵抗が12.3Ωと約10%改善していた。
【0087】
図19は、エッチングをそれぞれ3分(0.045μm、ライトエッチング)、10分(0.15μm、ハードエッチング)施したSH波水晶基を用いてSH波型SAW共振子を構成した場合のエージング特性である。エージング条件は図14と同じ条件で行った。●印はエッチング時間が3分、×印はエッチング時間が10分の場合である。エッチング時間を10分と長くしたハードエッチングでもエージング特性はほぼ同等であることが判明した。また、エッチング時間をそれぞれ3分、10分としたSH波型SAW共振子の実効抵抗R1はほぼ同じであった。
【0088】
以上説明したように、本発明の特徴はSH波型水晶基板に従来のエッチング量(例、0.6μm)に比べて少ない量のエッチング(例0.002μmから0.15μm)、即ちライトエッチングを施したことである。ライトエッチングにも関わらず、高温動作エージングの条件で良好なエージング特性(例350h後において、良好なもので−1ppm程度)が得られ、IDT電極の材質であるアルミニウムあるいはアルミニウムを主とした合金の結晶性が大幅に改善されていることが、X線回折等で証明された。
【0089】
SH波型水晶基板のエッチング時間を短縮させる、つまりエッチング量を少なくすることにより、エッチング液の劣化を緩やかすることができ、SH波型水晶基板の品質を維持する上で大きな利点となる。
【0090】
好ましくは、SH波型水晶基板のエッチング量を0.002μm以上、0.1μm未満とする。これにより、高信頼性のSAWデバイスを実現できる。また、従来のSTカット水晶基板を用いたSAWデバイスと比較して、本実施形態では水晶基板のエッチング量を少なくできる。そして、エッチング液の劣化を特に緩やかにすることができ、エッチング液の長寿命化、エッチング液交換頻度の減少などの効果が得られる。またプロセスにおける環境負荷・コストの低減という効果が得られる。
【0091】
以上では、回転Yカット水晶基板の回転角θを結晶軸Zより反時計方向に約−50°とし、結晶軸Xに対し90°±5°方向に伝搬するSH波型表面波を用いたSH波型SAW共振子について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、水晶基板上にSH波型表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極を近接して配置すると共に、該2つのIDT電極の両側にグレーティング反射器を配設して構成した1次−2次縦結合二重モードSAWフィルタ、3つのIDT電極を近接させ、その両側にグレーティング反射器を配置して構成した1次−3次縦結合二重モードSAWフィルタに適用できる。
【0092】
また、水晶基板上にSH波型表面波の伝搬方向と直交して2つのIDT電極を近接して配置すると共に、該2つのIDT電極の両側にグレーティング反射器を配設して構成した1次−2次横結合二重モードSAWフィルタにも本発明は適用できる。さらに、水晶基板上にSH波型表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極とその両側にグレーティング反射器を配して構成するSH波型SAW共振子を複数個形成し、これらを梯子型に接続して構成したラダー型SAWフィルタにも適用できる。
【0093】
また、本発明は、水晶基板上にSH波型表面波の伝搬方向に沿って2つのIDT電極を所定の間隔を隔して配したトランスバーサル型SAWフィルタにも適用できる。
【0094】
また、以上に記述したSH波型弾性表面波デバイスを製造するに当たって、AlまたはAlを主成分とする合金を成膜する前に、水晶基板の主表面をエッチングする製造方法を示したので、エージング特性の良好なSH波型表面波デバイスを製造することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】(a)はSH波型SAW共振子の基板のカット角θと、電極の配置を示す図で、(b)はSH波型SAW共振子の構成を示す平面図である。
【図2】SH波型SAW共振子の周波数温度特性と、STカット水晶SAW共振子の周波数温度特性とを重ね書きした図である。
【図3】SH波型SAW共振子の電極膜厚H/λとQ値との関係を示す図である。
【図4】SH波型SAW共振子の電極膜厚H/λと2次温度係数との関係を示す。
【図5】SH波型SAW共振子の電極膜厚H/λと頂点温度Tpの関係を(a)に、カット角θと頂点温度Tpの関係を(b)に示す。
【図6】SH波型SAW共振子の頂点温度Tp(℃)がTp=−50,0,+70,+125であるときのカット角θと電極膜厚H/λの関係を示す。
【図7】SH波型SAW共振子の電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrと頂点温度Tpの関係を示す。
【図8】SH波型SAW共振子の頂点温度Tp(℃)がTp=−50,0,+70,+125であるときのカット角θと電極膜厚とライン占有率の積H/λ×mrの関係を示す。
【図9】2ポートSH波型SAW共振子を説明する図である。
【図10】DMSフィルタを説明する図であり、(a)に横結合型DMSフィルタ、(b)に縦結合型DMSフィルタを示す。
【図11】ラダー型SAWフィルタを説明する図である。
【図12】トランスバーサルSAWフィルタを説明する図であり、(a)に双方向にSAWを励振させるIDTを配置したトランスバーサルSAWフィルタ、(b)に一方向にSAWを励振させるIDTを配置したトランスバーサルSAWフィルタを示す。
【図13】本発明に係る水晶基板をライトエッチングしたSH波型SAW共振子の構造を示した概略平面図である。
【図14】水晶基板をライトエッチングしたSH波型SAW共振子のエージング特性と、従来のエッチングの無いSH波型SAW共振子のエージング特性を重ね書きした図である。
【図15】エッチング量0.045μmのライトエッチングしたSH波用水晶基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図16】エッチング量0.6μmのSTカット水晶基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図17】水晶基板のエッチング有無よるFWHMとCPSを比較した図である。
【図18】水晶基板のエッチング有無よるSH波型SAW共振子の実効抵抗を比較した図である。
【図19】水晶基板のエッチング量を0.045μm、0.15μmとした場合のSH波型SAW共振子にエージング特性を示した図である。
【図20】(a)はSH波型SAW共振子の基板のカット角θと、電極の配置を示す図で、(b)はSH波型SAW共振子の構成を示す平面図である。
【図21】多対IDT電極型SAW共振子の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0096】
1,11,21,31,41,71…圧電基板、2,12,13,22,32,42,52,53,62,63,72…IDT電極3a、3b,14a,14b,73a,73b…グレーティング反射器、54…シールド電極、55…吸音材、λ…SH波型弾性表面波の波長。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、該圧電基板上に形成されAl又はAlを主成分とする合金からなるIDT電極とを備え、励振波をSH波とした弾性表面波デバイスであって、
前記圧電基板は、回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶Z軸より反時計方向に−64.0°<θ<−49.3°の範囲に設定し、且つ、弾性表面波の伝搬方向を結晶X軸に対し90°±5°とした水晶平板であり、且つ、前記圧電基板の表面にウエットエッチングにより形成された一方から他方にはしるエッチング痕を有しており、
励振する弾性表面波の波長をλとした時、前記IDT電極の波長で基準化した電極膜厚H/λを0.04<H/λ<0.12とし、
前記IDT電極が前記圧電基板の前記エッチング痕を有する表面に形成されていることを特徴とするSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記弾性表面波デバイスは、カット角θ及び電極膜厚H/λの関係が、−1.34082×10-4×θ3−2.34969×10-2×θ2−1.37506×θ−26.7895<H/λ<−1.02586×10-4×θ3−1.73238×10-2×θ2−0.977607×θ−18.3420を満足していることを特徴とした請求項1に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記IDT電極を構成する電極指の電極指幅/(電極指幅+電極指間のスペース)をライン占有率mrとした時に、カット角θ及び電極膜厚とライン占有率の積H/λ×mrの関係が、−8.04489×10-5×θ3−1.40981×10-2×θ2−0.825038×θ−16.0737<(H/λ)×mr<−6.15517×10-5×θ3−1.03943×10-2×θ2−0.586564×θ−11.0052を満足していることを特徴とした請求項1に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項4】
圧電基板と、該圧電基板上に形成されAl又はAlを主成分とする合金からなるIDT電極とを備え、励振波をSH波とした弾性表面波デバイスであって、
前記圧電基板は、回転Yカット水晶基板のカット角θを結晶Z軸より反時計方向に−61.4°<θ<−51.1°の範囲に設定し、且つ、弾性表面波の伝搬方向を結晶X軸に対し90°±5°とした水晶平板であり、且つ、前記圧電基板の表面にウエットエッチングにより形成された一方から他方にはしるエッチング痕を有しており、
励振する弾性表面波の波長をλとした時、前記IDT電極の波長で基準化した電極膜厚H/λを0.05<H/λ<0.10とし、
前記IDT電極が前記圧電基板の前記エッチング痕を有する表面に形成されていることを特徴とするSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記弾性表面波デバイスは、カット角θ及び電極膜厚H/λの関係が、−1.44605×10-4×θ3−2.50690×10-2×θ2−1.45086×θ−27.9464<H/λ<−9.87591×10-5×θ3−1.70304×10-2×θ2−0.981173×θ−18.7946を満足していることを特徴とした請求項4に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項6】
前記IDT電極を構成する電極指の電極指幅/(電極指幅+電極指間のスペース)をライン占有率mrとした時に、カット角θ及び電極膜厚とライン占有率の積(H/λ)×mrの関係が、−8.67632×10-5×θ3−1.50414×10-2×θ2−0.870514×θ−16.7678<(H/λ)×mr<−5.92554×10-5×θ3−1.02183×10-2×θ2−0.588704×θ−11.2768を満足していることを特徴とした請求項4に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項7】
前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板上にIDT電極を少なくとも1個配置した1ポートの弾性表面波共振子であることを特徴とした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項8】
前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板の弾性表面波の伝搬方向に沿ってIDT電極を少なくとも2個配置した2ポートの弾性表面波共振子であることを特徴とした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項9】
前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板の弾性表面波の伝搬方向に対して複数個の弾性表面波共振子を平行に近接配置した横結合型多重モードフィルタであることを特徴とした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項10】
前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板の弾性表面波の伝搬方向に沿って複数個のIDT電極からなる2ポートの弾性表面波共振子を配置した縦結合型多重モードフィルタであることを特徴とした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項11】
前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板上に複数個のSH波型弾性表面波共振子を梯子状に接続したラダー型弾性表面波フィルタあることを特徴とした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項12】
前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板上に弾性表面波を双方向に伝搬させるIDT電極を所定の間隔を空けて複数個配置したトランスバーサルSAWフィルタであることを特徴とした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項13】
前記弾性表面波デバイスは、前記圧電基板上に弾性表面波を一方向に伝搬させるIDT電極を少なくとも1つ配置したトランスバーサルSAWフィルタであることを特徴とした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項14】
前記弾性表面波デバイスは、弾性表面波センサであることを特徴とした請求項1乃至6のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項15】
前記弾性表面波デバイスは、IDT電極の両側にグレーティング反射器を有することを特徴とした請求項1乃至14のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイス。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイスを用いたことを特徴とするモジュール装置。
【請求項17】
請求項1乃至15のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイスを用いたことを特徴とする発振回路。
【請求項18】
前記圧電基板の主表面をウエットエッチングして該主表面に一方から他方にはしるエッチング痕を形成する工程と、
エッチングした前記圧電基板の主表面に前記IDT電極を形成する工程と、
を有することを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載のSH波型弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−288812(P2007−288812A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187896(P2007−187896)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【分割の表示】特願2006−228768(P2006−228768)の分割
【原出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】