説明

弾性部材

【課題】微小機械装置に用いられる部材であって、可撓性を有し、応力緩和の小さい、引っ張り強度の高い弾性部材を提供する。
【解決手段】微小機械装置が静止部材28及び可動部材26を含み、これらが弾性部材24によって一緒に接続されている。可動部材26が反復的にそして頻繁に移動する為、弾性部材24は永久的に撓み又は変形することがあり、その結果、装置の動作が不良になる。希望によっては窒素と組合せて、酸素を含むようにアルミニウム合金を形成して、荷重緩和特性を劇的に減少した被膜を得る。デポジッションの際、アルゴンのスパッタリング・ガスに酸素を添加し、アモルファス膜を作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との関係)
出願人に譲渡された、1995年9月1日出願の継続中の米国特許出願通し番号第60/003,139号、発明の名称「微小機械装置に対する改良された弾性部材」をここで引用する。
【0002】
この発明は、一般的に、微小機械装置(マイクロメカニカル・デバイス)、更に具体的に言えば、微小機械装置のヒンジ及び弾性部材に関する。
【背景技術】
【0003】
微小機械装置は、一般的に、可動部品を用いて基板の上に製造されたミニチュア装置を含む。このような装置の一例は、テキサス州のテキサス・インスツルメンツによって製造されるディジタル・マイクロミラー装置(DMD)である。この他の例としては、微小加速度計、マイクロモータ、及びギアがある。この内のある構造は、ヒンジ又はビームのように、それから微小装置の別の部品が懸架される支持部材を含む。
【0004】
懸架された部品が繰返して動く為には、弾力性があってしかも頑丈なヒンジ又はビームが必要である。懸架された部品が動けるようにする可撓性が必要である。ヒンジ又はビームが頑丈でないと、動きの向きに永久的に捩れたり或いは塑性変形して、その寸法が変ることがある。
【0005】
この挙動を説明する為に、転位の微小滑り、結晶粒境界の片側では反対側よりも酸化が一層強くなること、又は表面被膜の発生を含めて、種々の理論が提唱されている。
【0006】
秩序化合物(orderedcompound)の混合物を形成する為に、窒素及びその他の元素とアルミニウムの合金を使うことが提案されている。こういう種類の化合物の例については、出願人に譲渡された継続中の米国特許出願通し番号第08/339,363号、発明の名称「改良されたビームを持つ微小機械装置」を参照されたい。こういう種類の方法の目標は、面心立方(FCC)結晶構造よりも滑り抵抗が一層大きい何等かの金属間化合物を開発することであった。多結晶膜又はアモルファス膜の何れかとして、それから弾性部材を形成する金属被膜を形成する為に、窒化アルミニウム及び非アルミニウム合金を使うことができる。こういう種類の化合物の例が、出願人に譲渡された、前に関連出願として引用した継続中の米国特許出願通し番号第60/003,139号、発明の名称「微小機械装置に対する改良された弾性部材」に記載されている。この両方の特許出願に記載されていることをここで引用する。
周知のあるデポジッション装置を使って、ヒンジ又はビームとして作用するように調製された膜は、典型的には、1%の歪みを加えたとき、応力緩和の程度が変化することが観察された。この応力緩和はクリープと見ることができ、これは構造並びに場合によってアモルファス膜の密度の関数である。応力緩和が小さいか或いは全く無い材料が最善と考えられる。こういうアモルファス膜の再結晶温度が窒素含有量と共に高くなるが、応力緩和は窒素の単純な関数ではない。意識的に窒化した被膜、即ちスパッタリング・ガスに窒素を添加した被膜が、窒素ガスを10%迄増加すると、応力緩和が一層小さくなるが、窒素の百分率を20%迄増加すると、応力緩和が増加した。
【0007】
TiAl3 アモルファス膜(無定形被膜)の応力緩和を更に改善することが望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、窒素の代りに又は窒素と組合せて、TiAl3 膜に意図的に酸素を添加することにより、技術的な利点を達成する。それからヒンジ又はビームのような弾性被膜を形成するTiAl3 の被膜をスパッタリングによってデポジットする間、所望の酸素レベルを提供する。被膜は無定形(アモルファス)又は多結晶の何れかであって良い。クリープが殆ど或いは全く無い微小機械装置を、頑丈なヒンジ又はビームを用いて形成することができる。この発明の好ましい実施例では、応力緩和が最低である最善の被膜組成は、窒素含有量が1%未満で酸素含有量が約8%である。スパッタリング・ガス内の酸素レベルを4%にすると、表面酸化物を持つ粉末から典型的に調製されたTiAl3 ターゲットに存在する酸素源の為に、8%の被膜組成になる。
【0009】
この発明の1つの利点は、引張り強度の高い弾性部材を提供することである。
【0010】
この発明の別の利点は、デポジットしたときに滑らかな被膜を提供することである。
この発明のさらに別の利点は、ドライ・エッチングが容易にできる要素で構成された弾性部材を提供することである。
【0011】
この発明並びにその他の利点が更に良く理解されるように、次に図面を用いて詳しく説明する。
【実施例】
【0012】
微小機械式空間光変調器の一部分の平面図が図1に示されている。このような装置のアレイが基板10の上にモノリシックに作られる。各々の画素12は撓み得る質量、今の場合はミラー14で構成され、これがヒンジ20a、20bによって向い合った2つの隅で支持されている。ヒンジ20a、20bは、金属の「ビーム」によって一緒に接続されている場合が多く、このビームは、その上にミラー金属をデポジットする、ヒンジを形成する為に使われるのと同じ金属層からパターンぎめされる。ミラーの下側では、基板の表面の上に2つのアドレス電極があり、これが線18a、18bに沿ってアドレスされる。ミラー14は導電性で、あるバイアスに保たれている。
【0013】
電極18a又は電極18bの何れかにバイアスが印加されると、ミラーが、静電引力によってその電極に引きつけられ、その電極に向って撓む。この撓みの運動がヒンジ20a、20bによってできるようになる。こういうヒンジが撓み又は変形して、ミラーの質量が動けるようにする。ミラーは、一方の着地電極16a又は他方の着地電極16bの上に静止する迄動く。これらの着地電極(landing electrode )は、電流の流れを防止する為に、ミラーと同じバイアスに保たれている。
【0014】
微小機械式の空間光変調器のこの例は、従来変形可能なミラー装置として知られていたディジタル・マイクロミラー装置(DMD)である。しかし、応力の性質並びに運動の自由度が持てるようにするヒンジ並びにミラーのその他の部品の性質は、静止部品に係止された可動部品を接続する弾性部材を持つあらゆる種類の微小機械装置に当てはまる。
【0015】
これらの装置は、米国特許第5,061,049号に詳しく記載されているモノリシック製造工程によって作られる。この明細書の説明では、この製造工程を簡単にしてある。装置の側面図が図2に示されている。
【0016】
装置のアレイがその上に組立てられる基板10は、最初にCMOSアドレス回路を作らなければならない。普通M3と呼ばれる金属層が、次にCMOSウエハの上にデポジットされて電極を形成する。次に、フォトレジスト層を回転付着(スピンオン)して、スペーサ材料として作用するようにし、その中にビアを形成する。500〜700オングストロームの厚さを持つ金属薄膜24をスペーサ材料の上にデポジットする。その後、この金属薄膜をパターンぎめして、エッチングして、ヒンジ、並びに各々のミラーに対する2つのヒンジを接続するビームを形成する。その後、最終的な金属層をデポジットし、これがスペーサ材料にあるビアを殆ど完全に埋めて支持柱28を形成する。この層をパターンぎめしてエッチングし、ヒンジに接続された金属のビームによってその下側が支持されているミラーを残し、このヒンジが支持柱に接続される。
【0017】
ミラーが自由に動けるようにする為に、スペーサ材料は、典型的にはプラズマ・エッチを用いてエッチングされ、空隙22を残し、この空隙の上にミラーが懸架される。こういう装置のアレイ全体がウエハの上に製造され、ミニチュアの可動ミラーのアレイにする。各々のミラーが、他にもある用途の中で、表示される又は印刷される画像の画素を制御することができる。例えば、画像を形成する為に、各々のミラーは、光を表示面に向け又はこの面から遠ざかる向きに差向けるように制御される。各々のミラーによってこの面にどれだけの光が差向けられるかによって、この画素の輝度が決定される。このようにアレイ全体を制御することにより、画像が形成される。
【0018】
しかし、ミラーが表示面に向って又はそれから遠ざかる向きにこのように旋回するには、適当なアドレス信号に応答して、ヒンジが反復的に撓むことが必要である。滑り又は拡散クリープの為の変形により、ヒンジに非弾性応答が起ることがある。この為に、ヒンジが一方の向き又は反対の向きに永久的に撓み又は変形することがあり、その結果、ミラーが常に光の小さな一部分をスクリーンに向けて又はそれから遠ざかる向きに差向けるとき、映像が劣化する。
【0019】
この問題は、図3(a)〜3(f)に示すような多重レベルDMD装置のような別の構造でも存在する。多重レベルDMDは単一レベルDMDと同じ初期工程で形成される。図3(a)は、電極層30を覆う保護酸化物32の上に最初にスペーサ層34を形成することを示す。電極層30が基板10の上にある。単一レベル装置の場合と同じく、スペーサ層34にビア36を切込む。
【0020】
次に、図3(b)に示すように、スペーサ材料の上に、そしてビア35の中迄、金属薄膜24をデポジットして、柱28を形成する。この薄膜が、前の場合と同じく装置のヒンジ及びビームを形成するが、この実施例では、それらが装置の電気的に能動的なレベルにあり、ミラーはそれより1レベル上方に形成される。次の工程で、厚手の金属層をデポジットし、パターンぎめし、エッチングして、図3(c)に示すように、ヒンジ及び柱キャップ36及びヨーク38を形成する。
【0021】
図3(d)では、この金属のヨーク層をスペーサ材料の別の層40で覆う。ヨーク38の真上でスペーサ材料にビア42を形成する。図3(e)では、最終的な金属層がデポジットされ、パターンぎめされ、エッチングされて、ビア内に形成された柱46によって支持されるミラー44を形成した後の状態が示されている。最後に、スペーサ材料をエッチングによって除き、図3(f)に示すように、基板と能動的なヨークとの間に隙間22a、そして能動的なヨークとミラーとの間に隙間22bを残す。この実施例では、ヒンジ及びビーム金属被膜24は、依然として、2つの向きの何れかにヨークを撓めることができるように撓む。ヨークが撓むと、ミラーが希望する通りに動く。しかし、クリープによる永久的な撓み又は変形の同じ問題が起り得る。
【0022】
この荷重緩和の問題に対する従来の解決策は、ヒンジ及びビームに使われる金属被膜の形成に求められていた。典型的には、ミラーは何等かの高反射性アルミニウム合金である。ビーム及びヒンジは、不純物があっても無くても、チタン/タングステン合金で形成されていた。こういう種類の合金の一例が、出願人に譲渡された継続中の米国特許出願通し番号08/395,562号に記載されている。更に、ヒンジの変形又は撓みが微小滑りが原因で起るという理論の元に、窒素のような不純物を使って合金を強化して、滑りに対して一層良い抵抗力を持たせていた。このような合金の例は、出願人に譲渡された継続中の米国特許出願通し番号08/339,363号及び同08/003,139号に記載されている。
アモルファス材料は、ガラスが示すように、長距離に亘る原子の秩序又は原子の周期性の欠如によって定義される。隣接した原子の間に短距離に亘る秩序(order)があることがあるが、原子の秩序の程度が距離と共に低下し、その為、3番目に最も近い隣りの原子の位置は一層不確実になり、4番目に近い隣りの原子に対しては更に不確実になる。アモルファス材料は、X線回折、電子回折、透過型電子顕微鏡(又はTEM)を含む種々の方法によって特徴づけることができる。無定形であって多結晶である窒素をドープしたアルミ化チタン被膜に対するX線回折スペクトルが図に示されている。アモルファス膜は、約37°と42°との間の2θの角度の所に、1個の幅の広いピークを持つか又はピークを持たないが、多結晶被膜は大体同じ位置に鋭いピークを持つと共に、多数の他の一層小さい二次ピーク又は二次反射を持つ。アモルファス材料のサンプルに対するX線及び電子回折パターンは何れも、強度が一様な1つ又は2つの拡散リング・パターンが中心であるが、これに対して結晶材料は、幅が一層細い個別のスポット・パターン又はスポットのリングを持っている。TEM顕微鏡写真は、傾きによって変化しないコントラストが一様な層を示しており、結晶粒境界又は転位は存在しない。
【0023】
添加した窒素不純物を用いるとき、初めは結晶構造が望ましいと思われていた。しかし、実験により、最初に望ましいと思っていた非FCC多結晶構造よりも、他の構造が幾つかの利点を持つことが分った。アルミニウム又はチタン/タングステン以外の無定形及び窒化多結晶多重成分合金が優れていることが分った。
【0024】
アルミニウム合金の反応性窒化を使うと、固溶体、分散硬化又は無定形合金が生ずる。反応性窒化を使って、スパッタリングの際にシリコン・チタン・ターゲットを使うことにより、例えばアルミニウム以外の材料で無定形合金を作ることができる。こういう変性合金は、結晶粒の寸法が一層小さい頑丈な合金ヒンジを作ると思われると共に、従来使われていたチタン−タングステン−窒素・ヒンジよりも、エッチングが一層容易であると思われる。
【0025】
Al−Si(1%)−Ti(0.2%)並びにAl−Ti(0.5%)のアルミニウム合金のスパッタリング・ターゲットを使って、金属被膜をスパッタリングするのに使われるアルゴン・ガスに種々の百分率の窒素ガスを添加した各々のターゲットを使って、ある範囲の窒化合金被膜を作った。何れの系統でも、アルゴンのスパッタリング・ガス中の窒素百分率が約10%と低いとき、多結晶構造は歪み入りAlのそれになると思われる。こういう被膜は、約1,000〜10,000オングストロームの、窒素を持たないAl被膜中の結晶粒に比べてずっと小さい結晶粒の寸法(約100〜1,000オングストローム)を持っている。
【0026】
窒素の百分率が更に高くなると、更に歪みが生じ、Alの結晶構造が最早支配的ではなくなり、無定形金属が観察される。スパッタリング・ガス中の窒素が50%という非常に高いレベルになると、被膜は多結晶のAl−Nになると思われ、これは光学的な透明度による着色によっても明らかである。こういう被膜における結晶粒の寸法は100〜200オングストロームの範囲である。前に述べたAl−Si(1原子%)−Ti(0.2原子%)の合金では、FCC結晶構造から無定形結晶構造への変化は、アルゴンのスパッタリング・ガス中の窒素が約15%の所で起るが、Al−Ti(0.5原子%)の合金では、この変化はスパッタリング・ガス中の窒素が20%乃至30%の所で起る。この変化は、後者の合金に1%のSiが存在しないことによって生ずるものと思われる。
【0027】
アルゴンのスパッタリング・ガス中の窒素が約10%で、Al−Si(1原子%)−Ti(0.2原子%)を使ってスパッタリングされた低窒素合金により、欠陥の数の少ない動作するDMD装置が作られた。スパッタリング・ガス中に22%の窒素を用いた1つの試みでは、焼戻し工程(アニール工程)の間ホイスカ(whisker )が形成された。無定形である窒化アルミニウム合金の低温焼戻しは、125〜200°で焼戻したとき、ホイスカを成長させる傾向があるが、無定形でない合金はそうならない。
【0028】
無定形合金のときのホイスカの形成を克服する為、スパッタリングに使われる合金ターゲットを変えた。Cerac(登録商標)Al−Ti(25原子%のTi)のターゲットを、スパッタリング・ガス中の約10%及び50%の窒素と共に用いた。こういう窒化合金は、着色して光学的に透明であると思われる窒素濃度が更に高い合金を含めて、無定形である。この無定形合金のどれも、200°で24時間の焼戻しの際、ホイスカを形成することが観察されなかった。意図的な窒素の添加をせずに、このターゲットを使った低温デポジッションにより、無定形合金被膜も作った。組成分析によると、約1〜3%のレベルで、残留酸素及び窒素が存在することが分った。こういう不純物は、Cerac(登録商標)ターゲットを製造するときに使われた粉末から生ずる。
【0029】
更に、滑り面又は滑りの為の転位が無いので、それを無定形にすることにより、こういう被膜の引張り強度は改善されると思われる。たるみは、スパッタリング条件によって変り得るが、スペーサ材料に於けるAl合金の応力分布によって制御される。スペーサ材料上にデポジットされた金属被膜内の強い圧縮応力はたるみの原因となる傾向があり、これに対して、引張り応力はたるみを防止する傾向がある。アモルファス膜を作ることにより、引張り強度が増加する。0〜10%の窒素を持つアルゴン中でスパッタリングされたAl−Ti(25原子%のTi)の合金は、フォトレジストの上にデポジットしたとき、引張り応力を持つ傾向があり、普通はたるみが無い。金属被膜内の応力とスパッタリング・ガス全圧とのグラフが図4に示されており、正の値は引張り応力を表す。これから分るように、0〜10%の窒素を持つ被膜は、圧縮応力が殆ど或いは全く無く、この結果、平坦なヒンジになる。
【0030】
スパッタリングで作られたTiAl3 の被膜は、典型的には、粉末状ターゲットから生ずる残留酸素及び窒素レベルを示す。これは、鋳造ターゲットを使うことによって減らすことができる。被膜内の窒素レベルは、スパッタリング・ガス中に於けるよりもずっと高くなることがある。例えは、アルゴン中の10%の窒素により、反応性スパッタリングで作られた被膜には窒素18原子%を越えるレベルが生じた。正確な組成はデポジッション・パラメータと条件に由る。
【0031】
従って、ディジタル・マイクロミラー装置又は静止部分と可動部分との間に弾性の接続部材を必要とするその他の装置のような装置の機械的な部材又は構造部材に使う為には、約0.1〜45原子%の窒素レベルを含むTiAl3 (N)の合金を使うことが望ましい。完全に窒化した合金も役立つ可能性がある。
【0032】
場合によって一層高い再結晶温度で無定形合金を安定化させる助けとなるように、共有結合の為に、シリコン、硼素、ゲルマニウム、酸素又はカーボンのような不純物をアルミニウム窒素合金に添加することが望ましいこともある。更に、材料が多結晶であるとき、強度の為に金属間化合物を形成する為、ニッケル、亜鉛、マグネシウム又はチタンのようなその他の不純物が望まれることがある。こういう化合物の例は、AlNy 、(Al3 Ti)Ny 、(Al:(SiTi))N、(Al:(Q,Z))Ny であり、ここでyは0と1.0との間で変ることができ、Q及びZは前に挙げた不純物である。
【0033】
更に、アルミニウムと窒素(0.0〜50.0原子%のN)及び1種類又は更に多くの不純物の無定形合金を使うことが望ましいことがある。こういう無定形合金は周期的な格子を持たず、転位による滑りに抵抗力があり、デポジットされた被膜が一層滑らかになり、等方性を持つ弾力性を有する。更に、こういう合金は、窒素、並びにアルミニウムを除いたその他の任意の不純物を構成することができる。その例は、TiN、SiN、(TiSi)Ny 及び(Tix Si(1-X) )Ny であり、ここでx及びyは0と1との間で変化し得る。例えば、大体1:2:3の組成を持つTi:Si:N合金を、Tiターゲット面の約50%を覆うSiを重ねた純粋なチタンのターゲットから、アルゴンのスパッタリング・ガス中の10%の窒素を用いて反応性スパッタリングによってデポジットした。
【0034】
窒素及びチタンの濃度を制御することにより、被膜が多結晶ではなく、無定形になる百分率を設定することが可能である。Al−1/2%Tiのターゲット、並びに0乃至20%の窒素を持つアルゴンのスパッタリング・ガスを使うと、3kWの電力を使ってスパッタリングしたとき、被膜は多結晶である。20〜30%の窒素のとき、被膜は無定形になる。窒素が35%を越える濃度レベルでは、被膜が多結晶になる。Tiの濃度は、被膜が無定形になる窒素の濃度に反比例の影響を持つと思われる。チタンの百分率が一層高いと、被膜が無定形になる窒素の濃度が一層低くなる。
【0035】
しかし、多結晶材料も役立つと思われる。こういう種類の合金の例は、Al+AlN並びにAlN、及びAl(<15原子%のN)である。多結晶合金は、上に述べた不純物を使って形成することができる。多結晶被膜を使うことは、役に立つが、微小機械装置の弾性部材としてアモルファス膜を使う程有利とは思われない。アモルファス膜は降伏強度が一層高く、等方性の弾力性を持ち、デポジットした被膜が一層滑らかになる。
【0036】
図5には、窒素ガスの代りに又は窒素ガスと組合せて、TiAl3 のスパッタリングの際、酸素ガスが存在するような、この発明の別の好ましい実施例が示されている。図5は、デポジットされた被膜中に存在する酸素及び窒素の組合せの関数としての、TiAl3 アモルファス膜の応力緩和の複合図を示している。図5には、スパッタリング・ガス中の窒素レベルを下げると共に酸素レベルを増加することにより、応力緩和が減少した被膜が達成されることが示されている。図5に示すように、被膜内の酸素及び窒素の混合物は応力緩和を改善するが、最低の応力緩和を達成する最善の組成は、TiAl3 アモルファス膜中で低窒素、即ち1%より少ない窒素、並びに約8%の酸素という酸素レベルである。
【0037】
被膜中に約8%〜10%の酸素含有量を達成する為に、アルゴンのスパッタリング・ガス中には4%の酸素が存在していた。この割合の酸素は、典型的には表面酸化物を持つ粉末から調製されるTiAl3 ターゲット中に存在する小さな酸素源を補うものである。依然として金属性である被膜中にこれより高いレベルの酸素(即ち、8%より大きな酸素含有量)があっても、やはり頑丈である。
【0038】
図5は、スパッタリング・ガス中の窒素を5%から10%へ又は20%へ増加すると、最初は応力緩和が10%で下るが、20%の窒素を使うとき、応力緩和が再び増加するという観測結果をも示している。この場合も、応力緩和が全く又は殆どない材料が最善と考えられる。
【0039】
図5の点Aを見ると、TiAl3 アモルファス膜中に酸素がなく、窒素が無い場合、約14%の荷重緩和が実現されることが観察される。窒素含有量を約1.6%に増加すると、点Bに示すように、荷重緩和が約12%に下ることが認められる。窒素含有量を4%迄増加した点Cでは、荷重緩和が再び約15%に増加する。
【0040】
この発明の好ましい実施例では、窒素と組合せて又は窒素を完全に除いて、酸素含有量を増加することにより、被膜中の荷重緩和が劇的に減少する。TiAl3 アモルファス膜中に4%の酸素及び4%の窒素が存在する点Dでは、約7.5%の荷重緩和が起ることが認められる。次に、点Eを見ると、TiAl3 膜中に4%の酸素及び0%の窒素が存在するとき、膜の荷重緩和を略0%に減少することができることが分る。膜中の荷重緩和のこの劇的な減少は、DMD型を含めて、空間光変調器のような微小機械装置のヒンジ及びビームに被膜を形成するとき、有利である。こういうヒンジ及びビームのクリープが減少すると、ヒンジ及びビームはたるむ傾向がなくなり、従ってDMDのような装置を形成したとき、入射光が誤って表示装置の開口レンズに送り込まれることがない。
【0041】
これ迄特定の実施例の改良された弾性微小機械部材を説明してきたが、このような具体的な例は、特許請求の範囲に定められたことを除いて、この発明の範囲を制約するものと解してはならない。
【0042】
以上の説明に関し、さらに以下の項目を開示する。
(1) 微小機械装置の1つの構成要素が動いたときに撓む微小機械装置用の弾性部材であって、酸素不純物を含む1つ又は更に多くの導電性アモルファスアルミニウム合金で構成された弾性部材。
(2) 1項記載の弾性部材に於いて、前記合金が一般式TiAlw x y を持つ弾性部材。
(3) 2項記載の弾性部材に於いて、wが0.1と3との間で変り得る弾性部材。
(4) 2項記載の弾性部材に於いて、xが0.0と4.0との間で変り得る弾性部材。
(5) 2項記載の弾性部材に於いて、yが0.0と1.0との間で変り得る弾性部材。
(6) 1項記載の弾性部材に於いて、主成分として主にTi及びAlを含むスパッタリング・ターゲットを使って無定形合金が形成される弾性部材。
(7) 1項記載の弾性部材に於いて、Tiが1原子%から85原子%迄変り得るようなAl:Tiターゲットを用いて、前記無定形合金が形成される弾性部材。
(8) 6項記載の弾性部材に於いて、意識的に窒素を添加して前記無定形合金が形成される弾性部材。
(9) 1項記載の弾性部材に於いて、前記無定形合金がチタンで形成される弾性部材。
(10) 8項記載の弾性部材に於いて、該部材がTi:Si:Oで形成される弾性部材。
【0043】
(11) 微小機械装置が静止部材及び可動部材を含み、これらが弾性部材によって一緒に接続されている。可動部材が反復的にそして頻繁に移動する為、弾性部材は永久的に撓み又は変形することがあり、その結果、装置の動作が不良になる。希望によっては窒素と組合せて、酸素を含むようにアルミニウム合金を形成して、荷重緩和特性を劇的に減少した被膜を得る。デポジッションの際、アルゴンのスパッタリング・ガスに酸素を添加し、アモルファス膜を作る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】微小機械装置の平面図。
【図2】アルミニウム合金のヒンジ及びビームを用いた製造工程の間の微小機械装置の側面図で、大体図1の線2−2に沿って見た図。
【図3】アルミニウム合金のヒンジ及びビームを使った製造工程の間の多重レベル微小機械装置の側面図。
【図4】TiAl3 ターゲットからの反応性スパッタリングによって達成されたデポジットされた被膜の応力を、幾つかの相異なるガス組成に対するAr−(N)全圧の関数として示すグラフ。
【図5】TiAl3 ターゲットからの反応性スパッタリングによって形成された被膜のデポジットされた被膜の応力(荷重緩和)を、デポジットされた被膜中の酸素並びに窒素(それがある場合)の組成の関数として示すグラフ。
【符号の説明】
【0045】
12 微小機械装置
24 弾性部材
26 可動部材
28 静止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小機械装置の1つの構成要素が動いたときに撓む微小機械装置用の弾性部材であって、酸素不純物を含む1つ又は更に多くの導電性アモルファスアルミニウム合金で構成された弾性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−290124(P2007−290124A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122616(P2007−122616)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【分割の表示】特願平8−342207の分割
【原出願日】平成8年12月20日(1996.12.20)
【出願人】(590000879)テキサス インスツルメンツ インコーポレイテツド (78)
【Fターム(参考)】