説明

形状密着結合型クラッチ装置,特に噛合いクラッチ装置

本発明は,少なくとも第1クラッチ部材と,軸線方向に可動とした第2クラッチ部材とを備えた車両トランスミッション用の形状密着結合型クラッチ装置,特に噛合いクラッチ装置を提案する。本発明では,両クラッチ部材(1,2)の対応する係合爪部(3,4)を互いに形状密着的に係合させるため,軸線方向に可動としたクラッチ部材(2)を,両クラッチ部材(1,2)の速度差が所定値に達したときに切り替え可能とする。更に,両クラッチ部材(1,2)の対応する係合爪部(3,4)における係合に際して必要とされる位置差を探知するため,少なくとも1つの検出手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車両トランスミッション用の形状密着結合型クラッチ装置に関し,特に,請求項1の上位概念部分に記載した噛合いクラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
噛合いクラッチ装置等の形状密着結合型クラッチ装置は,車両技術分野において既知である。噛合いクラッチ装置は,切り替えに際して対応する係合爪部を形状密着的に係合させるものである。その係合は,所定の速度差に達して始めて開始される。その際,対応する係合爪部同士が互いに正対する突合わせ状態となり,その突合わせ状態が解消されるまで係合を中断せざるを得なくなる場合がある。この場合には,作用させた切り替えエネルギを一時的に蓄える必要が生じる。これは,不要に煩雑な作動につながり,切り替えのために再生不能な動力損失を発生させることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって,本発明の課題は,上述した形式の形状密着結合型クラッチ装置において,係合に際しての係合爪部の突合わせ状態を可能な限り回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は,本発明によれば,請求項1に記載した特徴によって解決することができる。また,本発明の有利な実施形態は,従属請求項及び図面に記載したとおりである。
【0005】
本発明に係る形状密着結合型クラッチ装置,特に噛合いクラッチ装置は,例えば車両トランスミッションに適用されるものであり,少なくとも,噛合いクラッチ部材として構成した第1クラッチ部材と,軸線方向に可動とした第2クラッチ部材とを備え,両クラッチ部材の係合爪部を形状密着的に係合させるため,軸線方向に可動とした第2クラッチ部材又はクラッチスリーブを,両クラッチ部材の速度差が所定値に達したときに切り換え可能とし,両クラッチ部材の対応する係合爪部の係合に際して必要とされる位置差を検知するために少なくとも1つの検出手段が設けられ,これにより係合爪部が互いに対向する突合わせ状態を回避するものである。このようにして,位置及び速度が制御される噛合いクラッチ装置を実現することが可能である。
【0006】
種々の構成を有する密着結合型クラッチ装置には,センサ手段を設けることができる。また,係合爪部の代わりに,形態の異なる形状密着結合部を適用することも可能である。
【0007】
本発明に係る噛み合わせクラッチ装置において,好適には,対応する係合爪部の位置差及び速度差に応じて係合爪部を係合させることにより,爪部同士の突合わせ状態を回避する。すなわち,係合爪部が突合わされずに所定の位置差を呈し,両クラッチ部材の速度差が所定値に達したときにのみ,係合を開始させるものである。
【0008】
本発明の第1実施形態においては,検出手段として少なくとも一つのホールセンサ等が設けられ,このセンサが発信した信号の交流成分を,係合爪部同士の重なり度の指標とする。この場合,交流成分が徐々に減少すると,対応する係合爪部が互いに離れていくこととなり,その状態において,支障なく係合を達成することができる。両クラッチ部材の係合爪部を検知できるよう,対応する幅のホールセンサを使用することが望ましい。また,各クラッチ部材の係合爪部に,別々のホールセンサを配置することも可能である。
【0009】
検出手段として,光源を有する光学センサ等によって係合爪部間の位置差を検出することも考えられる。例えば,少なくともステップ的に係合方向に向けられるビームが係合爪部を照射するように光源を配置し,その際,照射方向において前側の係合爪部が光吸収性を有し,後側方の係合爪部が光反射性を有する構成とすることもできる。例えば,照射ビームの幅を,クラッチ部材における1個の係合爪部の幅と,隣り合う2個の係合爪部間の隙間幅の和に対応させれば,センサは,反射ビームに基づいて,いつ対応する係合爪部が互いに離れて係合可能となるかを検知することができる。そのためには,例えば光学センサにより反射されたビームを加算する。一例を挙げれば,ビームの照射方向を,少なくとも1つの反射鏡等によって随意に可変とすることができる。
【0010】
場合によっては,対応する係合爪部の位置は,係合爪部自体ではなく,クラッチ部材が取り付けられた回転部材の回転数によって検知することが可能である。位置の検出結果が一義的に確定できない場合,例えばクラッチ部材が設けられた軸の回転数信号に基づいて係合爪部の位置を明確に判定可能とすることができる。
【0011】
検出手段として,ホールセンサ及び光学センサの何れを使用する場合でも,検知された係合爪部の相対位置から速度差を算出することができる。それとともに,検出手段によって位置差及び速度差を検知することが可能であり,例えば電磁的手段により適切なタイミングで係合爪部を作動させることにより,係合爪部を適正な速度差と適正な相対的位置差をもって互いに接触させて係合させることができる。さらに係合の開始後に,軸線方向に可動としたクラッチスリーブで構成されたクラッチ部材の位置を正確に検知し,目標値から逸脱している場合に修正することが可能である。そのために,クラッチ部材を例えば電磁的に作動させて位置及び速度を制御することができる。代替的に,クラッチ部材が結合されている複数の軸の一本に,制御可能なブレーキ又は電気モータを接続することも可能である。
【0012】
本発明の好適な実施形態においては,少なくとも係合爪部の表面形状を対応する形状に変化させることで,係合プロセスを更に改善することができる。好適には,係合爪部の表面形状に,係合が成立する際の軌跡に沿うアールを持たせることもできる。これにより,最適の係合軌跡から逸脱した場合でも軽微な衝接しか生じなくなる。
【0013】
以下,本発明を図面に基づいて詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】検出手段としてホールセンサを備える,本発明に係る噛合いクラッチ装置の平面図である。
【図2】図1の噛合いクラッチ装置の代替的な実施形態を示す平面図である。
【図3】検出手段として光学センサを備える,本発明に係る噛合いクラッチ装置の概略図である。
【図4】図3の噛合いクラッチ装置を示す更なる説明図である。
【図5】噛合いクラッチ装置の係合爪部表面形状に関する変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面は,本発明に係る噛合いクラッチ装置の種々の実施形態を例示するものである。
車両用トランスミッションのための噛合いクラッチ装置は,回転可能な噛合いクラッチ部材である第1クラッチ部材1と,回転可能であって,軸線方向にも可動とした噛合いクラッチ部材である第2クラッチ部材2とを備える。各クラッチ部材には,複数の係合爪部3,4が形状密着的に結合するよう,周方向に配置されている。クラッチ部材1,2は,慣例に従ってそれぞれ1本の軸(図示せず)上に取り付けられ,これらの軸は作動状態においてクラッチ部材1,2により互いに連結される。
【0016】
本発明においては,両クラッチ部材1,2の対応する係合爪部3,4を係合させるに際して必要とされる位置差を検知するために少なくとも1つの検出手段が設けられ,爪部同士が突合わせ状態とならないように制御可能とする。このようにして両クラッチ部材1,2を,正確な位置差及び速度差で係合させるように制御するものである。
【0017】
図1においては,検出手段として二個のホールセンサ5,6が設けられており,各ホールセンサ5,6は両クラッチ部材1,2それぞれの係合爪部3,4に関連して配置されている。ホールセンサ5,6の出力信号は,両センサ5,6の何れかに付帯する評価ユニット7で加算される。出力信号におけるその時々の交流成分は,対応する係合爪部3,4がどの程度互いに重なり合っているかを検出するための指標となる。すなわち,交流成分が小さいほど対応する係合爪部3,4同士がより離れていることを意味する。クラッチ部材1,2の速度差は互いの相対位置より算出可能であり,その際の両クラッチ部材の回転運動は,図1に矢印で示すとおりである。
【0018】
図2は代替的な実施形態を示すものであり,前述した実施形態との相違点は,単一の共用ホールセンサ8が,クラッチ部材1,2における係合爪部3,4の双方に関連して配置されていることである。
【0019】
図3,4は,本発明の更なる実施形態を示すものであり,この場合には検出手段として光源10を有する光学センサ9が使用される。光源10は,少なくともステップ的に係合方向に向けられるビーム11が,係合爪部3,4の領域を照射するよう配置され,前側に位置するクラッチスリーブで構成した第2クラッチ部材2の係合爪部4が光吸収性を有する艶消しとされ,後側に位置する第1クラッチ部材1の係合爪部3が光反射性を有する構成とする。後背壁12も同様に光を吸収性とすることが可能であり,かつ望ましい。ビーム11の幅を,クラッチ部材1,2における1個の係合爪部3,4の幅と,隣り合う2個の係合爪部3,4の間の隙間幅との和に対応させる場合,光学センサ9は,反射ビーム11の和に基づいて,両クラッチ部材1,2の係合爪部3,4の位置差がいつ達成されたかを検知することができる。ビーム11の照射方向は,反射鏡13を操作することにより変更することができる。クラッチ部材1,2の速度差は,その相対的な位置関係より算出可能である。
【0020】
図5は,係合プロセスを改善するためのクラッチ接触面形状を示す説明図である。すなわち,係合爪部3,4の接触面は図5に示すようにアールを有しており,クラッチの表面形状を,軸線方向に可動としたクラッチスリーブで構成される第2クラッチ部材2が係合する際の相対運動軌跡に沿うものとする。係合プロセスの間の第2クラッチ部材の相対運動は,図5においては矢印で示されている。クラッチの表面形状をこのように設定する場合には,クラッチ部材1,2の係合に際して所定の軌跡軌道から逸脱した場合でも,衝接は殆ど,又はごく僅かしか生じない。
【符号の説明】
【0021】
1 第1クラッチ部材
2 第2クラッチ部材
3 第1クラッチ部材の係合爪部
4 第2クラッチ部材の係合爪部
5 ホールセンサ
6 ホールセンサ
7 評価ユニット
8 ホールセンサ
9 光学センサ
10 光源
11 ビーム
12 後背壁
13 反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用トランスミッションのための形状密着結合型クラッチ装置,特に噛合いクラッチ装置であって,少なくとも,回転可能な第1クラッチ部材(1)と,回転可能であって軸線方向にも可動とした第2クラッチ部材(2)とを備え,両クラッチ部材(1,2)の対応する係合爪部(3,4)を互いに形状密着的に係合させるため,軸線方向に可動とした前記クラッチ部材(2)を,両クラッチ部材(1,2)の速度差が所定値に達したときに切り換え可能としたクラッチ装置において,前記両クラッチ部材(1,2)における対応する係合爪部(3,4)間の,係合に際して必要とされる位置差を検知するために,少なくとも1つの検出手段が設けられていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチ装置であって,前記検出手段として少なくとも1つのホールセンサ(5,6,8)が設けられており,発信された信号の交流成分に基づいて前記係合爪部(3,4)の重なり度を判断することを特徴とするクラッチ装置。
【請求項3】
請求項1又は2の何れか一項に記載のクラッチ装置であって,前記検出手段として,光源(10)を有する光学センサ(9)が設けられていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のクラッチ装置であって,前記光源(10)は,少なくともステップ的に係合方向に向けられるビーム(11)が前記係合爪部(3,4)領域を照射するように配置され,前側に位置する第2クラッチ部材(2)の係合爪部(4)が光吸収性を,後側に位置する第1クラッチ部材(1)の係合爪部(3)が光反射性を有することを特徴とするクラッチ部材。
【請求項5】
請求項4に記載のクラッチ装置であって,照射ビーム(11)の幅が,クラッチ部材(1,2)における1個の係合爪部(3,4)の幅と,隣り合う2個の係合爪部(3,4)の間の隙間幅との和に対応することを特徴とするクラッチ装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のクラッチ装置であって,反射ビーム(11)が,前記光学センサ(9)により加算されることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項7】
請求項4〜6の何れか一項に記載のクラッチ装置であって,少なくとも1つの反射鏡(13)により,ビーム(11)の照射方向が可変とされていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のクラッチ装置であって,前記検出手段が,検出された係合爪部(3,4)の相対位置に基づいて速度差を算出することを特徴とするクラッチ装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載のクラッチ装置であって,前記係合爪部(3,4)における対応する接触面の少なくとも一部が,第2クラッチ部材(2)の係合時の相対運動軌跡に沿うアールを有することを特徴とするクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−513766(P2013−513766A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542451(P2012−542451)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068394
【国際公開番号】WO2011/069853
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】