形状検査方法及び形状検査装置
【課題】形状検出感度と形状検出精度が高く、電磁波照射方向の形状寸法を検出できる方法及び装置を提供すること。
【解決手段】検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を検査対象部材の少なくとも二つの異なる部位に照射する照射工程と、照射工程で照射され検査対象部材の複数の異なる部位を透過したテラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形をそれぞれ部位毎に検出する検出工程と、を有し、検出工程で検出された電場振幅時間分解波形の位相情報から検査対象部材の形状を検査することを特徴とする形状検査方法。
【解決手段】検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を検査対象部材の少なくとも二つの異なる部位に照射する照射工程と、照射工程で照射され検査対象部材の複数の異なる部位を透過したテラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形をそれぞれ部位毎に検出する検出工程と、を有し、検出工程で検出された電場振幅時間分解波形の位相情報から検査対象部材の形状を検査することを特徴とする形状検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、射出成形、圧縮成形、押出成形等で製造された部材の形状検査方法及び装置に関する。詳しくは、検査対象部材に電磁波を照射して部材を透過する電磁波の変化から部材の段差や形状を検査する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品やデジタル製品などに使用される部品は、近年、軽量化や低コスト化のために金属に代わって樹脂部品が多く使用されている。特に、自動車部品においては、エンジンの高機能制御用として様々なセンサが搭載されてきており、樹脂部品の形状品質は自動車の信頼性の一端を担う状態にあるといっても過言ではない。また、デジタル家電製品では、小型・集積化の流れの中、小さな樹脂成形品が機能上重要な役目を果たしている。自動車部品やデジタル家電などでは、ガラス製やセラミックス製の精密部品も重要な役目を果たしている。これらの部品の欠陥形状を定量評価することが重要になっている。
【0003】
樹脂やゴムといった高分子材料、ガラスやセラミックスといった無機材料などからなる部材は、押出成形、射出成形や加圧焼成等で製造される。しかし、製造された部材は、段差、ふくれ、突起、凹凸、などの表面形状欠陥をもっている場合がある。
【0004】
これらの欠陥を検出するための従来の方法は、部材を透過する波長の電磁波(テラヘルツ波)を照射し、部材を透過した電磁波の透過強度の変化から欠陥を検出するものである(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−43230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の欠陥検出方法は、断面形状が一定の細長部材(パイプ等)であって、部材を透過した電磁波の透過強度の変化から欠陥を検出するが、透過強度は、内部欠陥や部材組成の均一性等の影響を受けるため、ノイズが多く欠陥検出感度、欠陥検出精度が低かった。また、透過強度は照射方向によって積分されるため、照射方向の欠陥の寸法を知ることができなかった。さらに、従来の欠陥検出方法は、一定断面形状での欠陥の有無は定性的に評価できるが、形状がパイプ形状でない部材の欠陥を定量的に評価することができなかった。従って、欠陥の3次元形状である大きさや形を定量評価することができなかった。
【0006】
本発明は、上記の従来の欠陥検査方法の問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、形状(欠陥)検出感度と形状(欠陥)検出精度が高く、電磁波照射方向の形状(欠陥)寸法を検出できる方法及び装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するためになされた請求項1に係る発明は、検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を該検査対象部材の少なくとも二つの異なる部位に照射する照射工程と、前記照射工程で照射され前記検査対象部材の前記複数の異なる部位を透過した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を部位毎にそれぞれ検出する検出工程と、を有し、前記検出工程で検出された前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の形状を検査することを特徴とする形状検査方法である。
【0008】
また、請求項2に係る発明は請求項1の形状検査方法であって、前記位相情報が前記検査対象部材の前記部位の一つである第1部位を透過したテラヘルツパルス光と前記検査対象部材の前記部位の一つであり前記第1部位と異なる第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差であることを特徴としている。
【0009】
課題を解決するためになされた請求項3に係る発明は、短パルスレーザ光を発生するレーザ光源と、前記レーザ光源から発生された前記短パルスレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分割する光分割手段と、前記光分割手段で分割された前記プローブ光或いは前記ポンプ光の時間遅延を制御する光遅延手段と、前記光分割手段で分割された前記ポンプ光でポンプされて検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を発生するテラヘルツパルス光発生手段と、前記テラヘルツパルス光発生手段から発生された前記テラヘルツパルス光を前記検査対象部材に照射する照射手段と、前記検査対象部材を載置して該検査対象物を移動させる移動手段と、前記移動手段で移動して前記検査対象部材の異なる部位を透過した前記テラヘルツパルス光をそれぞれ受光する受光手段と、前記受光手段で受光した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を前記プローブ光で検出する検出手段と、前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の形状を判別する形状判別器と、を備えたことを特徴とする形状検査装置である。
【0010】
また、請求項4に係る発明は請求項3の形状検査装置であって、前記照射手段の開口数をNA1とし、前記受光手段の開口数をNA2とするとき、NA1<NA2であることを特徴としている。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、請求項3又は4の形状検査装置であって、前記位相情報が前記検査対象部材の前記部位の一つである第1部位を透過したテラヘルツパルス光と前記検査対象部材の前記部位の一つであり前記第1部位と異なる第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差であることを特徴としている。
【0012】
課題を解決するためになされた請求項6に係る発明は、検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を該検査対象部材の段差部に照射する照射工程と、前記照射工程で照射され前記検査対象部材の前記段差部を透過した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を検出する検出工程と、を有し、前記検出工程で検出された前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記段差部の形状を検査することを特徴とする形状検査方法である。
【0013】
課題を解決するためになされた請求項7に係る発明は、短パルスレーザ光を発生するレーザ光源と、前記レーザ光源から発生された前記短パルスレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分割する光分割手段と、前記光分割手段で分割された前記プローブ光或いは前記ポンプ光の時間遅延を制御する光遅延手段と、前記光分割手段で分割された前記ポンプ光でポンプされて検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を発生するテラヘルツパルス光発生手段と、前記テラヘルツパルス光発生手段から発生された前記テラヘルツパルス光を前記検査対象部材の段差部に照射する照射手段と、前記段差部を透過した前記テラヘルツパルス光を受光する受光手段と、前記受光手段で受光した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を前記プローブ光で検出する検出手段と、前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の前記段差部の形状を判別する形状判別器と、を備えたことを特徴とする形状検査装置である。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の方法及び装置によれば、以下の効果が得られる。
【0015】
(1)テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形の位相情報は、透過する検査対象部材の光路長に強く左右されるので、形状検出精度が高い。
【0016】
(2)検査対象部材の第1部位を透過したテラヘルツパルス光と第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差は、第1部位と第2部位との光路差に強く左右されるので、第1部位と第2部位の段差(形状寸法差)を高精度に検査することができる。
【0017】
(3)検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光を開口数の大きな受光手段で受光するので、検査対象部材の内部欠陥等によってテラヘルツパルス光が散乱されても検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光を効率よく受光することができる。
【0018】
(4)テラヘルツパルス光を検査対象部材の段差部に照射することで、1回の照射で段差形状を検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明の形状検査装置の全体構成図である。この図に示すように、本発明の検査対象部材の形状検査装置は、レーザ光源1、光分割手段2、光遅延手段3、テラヘルツパルス光発生手段4、照射手段5、移動手段9、受光手段6、検出手段7、形状判別器10を備える。また、図1において、M1〜M6は平面鏡、L1〜L3はレンズ、PM1〜PM4は軸外し放物面鏡、W1〜W3は窓である。Kは筐体で、テラヘルツパルス光の光路を外部から隔離する。筐体Kの内部は真空または窒素雰囲気であり、テラヘルツパルス光が空気を構成する分子で吸収されることを防止する。
【0021】
レーザ光源1は、例えば、モードロックファイバレーザ装置で、パルス幅がフェムト秒〜ピコ秒の短パルスレーザ光Lを発生する。例えば、中心波長780nm帯、平均出力20mW、繰り返し周波数50MHz、の小型ファイバレーザが用いられる。
【0022】
光分割手段2は、例えば、ビームスプリッタまたはウェッジプレートであり、短パルスレーザ光Lをポンプ光Puとプローブ光Prとに分割する。
【0023】
光遅延手段3は、例えば、コーナミラーを矢印R1方向(x方向)に移動するステージ(図示せず)に取り付けた装置であり、ポンプ光Puの光路長を制御して遅延時間を走査する。なお、本実施形態の形状検査装置では、光遅延手段3が、ポンプ光Puの光路中に挿入されているが、プローブ光Prの光路中に挿入されてもよい。
【0024】
テラヘルツパルス光発生手段4は、例えば、低温成長GaAsダイポールアンテナ、InSb結晶、InAs半導体結晶等である。
【0025】
照射手段5は、例えば、軸外し放物面鏡PM1とPM2とからなり、発生手段4から発生されたテラヘルツパルス光Sをコリメートして、検査対象部材8の平行する表2面81、82の一方の面81付近に、光軸(z軸)OAが面81、82に直交するように集光する。例えば、軸外し放物面鏡PM1によりコリメートされたテラヘルツパルス光のビーム径は、約15mmであり、これを焦点距離150mmの軸外し放物面鏡PM2 で集光すると、集光径が約2mmになる。従って、照射手段5の開口数、すなわち、検査対象部材に入射されるテラヘルツパルス光の開口数NA1は、約0.05である。
【0026】
移動手段9は、例えば、x軸移動ステージであり、矢印R2方向に検査対象部材8を移動させる。
【0027】
受光手段6は、例えば、軸外し放物面鏡PM3とPM4とからなり、検査対象部材8を透過したテラヘルツパルス光S’をコリメートして、検出手段7に集光する。軸外し放物面鏡PM3 は、焦点距離150mm、口径50mmであり、受光手段6の開口数NA2は、約0.16である。
【0028】
検出手段6は、例えば、電気光学(EO)結晶としてのZnTe結晶61、ウォルストンプリズム62、バランス検出器63を備えている。バランス検出器63は、検査対象部材8を透過したテラヘルツパルス光S’によりZnTe結晶61に誘起される複屈折によって生じるプローブ光Prの偏光回転量を差動増幅機構を用いて抽出する。従って、検出手段6から後述の形状判別器7に入力される信号は、図2に示すような電場振幅時間分解波形である。図2は、検査対象部材8を透過したテラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形である。なお、ZnTe結晶61を例えば、低温成長GaAsダイポールアンテナにし、テラヘルツパルス光を検出する際発生するプローブ光Prによる光起電流を増幅する電流アンプを備えるようにしてもよい。
【0029】
形状判別器7は、例えばパソコンであり、検出手段7からの信号を図示しないロックインアンプで増幅した信号を受けて、図2のような電場振幅時間分解波形の位相情報から形状を判別する。
【0030】
次に、本実施形態の形状検査装置で形状を検査する原理を説明する。図3は、図1における検査対象部材8付近の拡大斜視図、図4は図1における検査対象部材8付近の拡大x−z平面視図である。検査対象部材8は、光軸OA方向(z方向)の厚さがl(エル)で、80はy方向に延びるz方向の段差がd、x方向の幅が2aの凹部である。
【0031】
図5は、図4の矢印R2方向(x方向)に検査対象部材8を移動手段9で移動させ、テラヘルツパルス光Sの照射位置(照射部位)を変化させたときの電場振幅時間波形(信号と略記する)を模式的に示している。中段は、照射位置xが−a<x<aの場合で、テラヘルツパルス光Sは、全て凹部80を通過する。上段はa<x、下段はx<−aの場合で、テラヘルツパルス光Sは、全て凹部以外の厚さl(エル)の検査対象部材を通過する。上段と中段の間と上段と下段の間は、x=±aの場合で、テラヘルツパルス光Sの一部が凹部80を通過する。横軸のt1に現れる信号は、段差dの凹部(厚さ(l−d)の検査対象部材)を透過したテラヘルツパルス光であり、t2に現れる信号は、厚さlの検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光である。
【0032】
まず、電場振幅時間波形の位相情報の一つであるΔt1(=t2−t1)と段差dとの関係を説明する。
【0033】
テラヘルツパルス光の伝搬時間は、光路長を光速度cで割ることで求まり、光路長は伝搬媒質の屈折率n、伝搬距離をl(エル)とすると、nlとなる。従って、検査対象部材の屈折率をn、厚さをl、段差をdとすると、
Δt1=d(n−1)/c (1)
となる。よって、(1)式から、nが既知であれば、凹部のz方向の大きさ(段差)dが求まる。また、図5から、検査対象部材をx軸方向に移動させ、t1に現れる信号が消えるx軸方向の位置から凹部のx方向の幅2aを求めることができる。
【0034】
なお、図6に示すように、非対称な検査対象部材8’をx’軸と直交するy’軸(紙面に垂直)の周りに回転(矢印R2’)させることにより、非対称な検査対象部材の形状を計測すること、すなわちCT計測することができる。
【0035】
光は、屈折率の異なる界面を通過するとき屈折する。例えば、検査対象部材の内部にボイド(空隙)のような欠陥があると、欠陥部と非欠陥部との屈折率差によるレンズ作用や臨界角による全反射を受けて、テラヘルツパルス光が検出手段に到達しなくなる。
【0036】
検査対象部材による屈折や臨界角による散乱やレンズ作用の影響を、少なくするためには、以下に説明するように、照射手段の開口数NA1より受光手段の開口数NA2を大きくすればよい。図7は、検査対象部材8から検出手段7のEO結晶71までの光線軌跡を模式的に示している。図7で、θ1は検査対象部材8へ集光照射されるテラヘルツ光Sの開口半角、θ2は受光部材6の開口半角である。また、○は、検査対象部材8がない場合のテラヘルツ光(参照光)の中で最も外側の光路を通る光線、△は、光軸(OA)を通る光線、□は、検査対象部材8の入射面や内部欠陥での界面で屈折により最も外側に曲げられた光線である。検査対象部材を透過したテラヘルツ光の開口数NA1はNA1=nsinθ1、受光部材の開口数NA2はNA2=nsinθ2である。今、上記のように、例えば、NA1=0.05、NA2=0.16の場合、すなわち、NA1<NA2の場合、屈折により曲げられた光線(□)も受光手段で受光することができ、EO結晶に入射される。従って、検査対象部材を透過したテラヘルツ光をロスすることなく受光検出でき、散乱やレンズ作用の影響を全く受けない効率よい検査が可能になる。
【0037】
また、受光手段に軸外し放物面鏡を使用すると、屈折により曲げられた光線(□)、光軸を通る光線(△)、参照光の中で最も外側を通る光線(○)のいずれもが、放物面鏡PM3の焦点から出ているため、これらの光線は軸外し放物面鏡PM4でEO結晶71の上に集光されるとき、必ず同一焦点に位相差なしで到達する。従って、正確な位相情報を検出することができる。その結果、精度の高い形状検査ができる。
【0038】
検査対象部材が平面でない場合、透過テラヘルツパルス光は、検査対象部材がもつ固有の形状と屈折率により、本来の光軸とは異なった方向に屈折される。また、波長と同程度の異物、欠陥、ボイドなどが存在する場合、本来の光軸とは異なった方向に散乱効果を受ける。このような場合、屈折、及び散乱を受けたテラヘルツパルス光は検出素子の検出部(電気光学結晶を検出に使用する場合は、検出用のプローブ光(短パルスレーザ光)が照射されている結晶の特定部位、光伝導アンテナの場合は、プローブ光が照射されているアンテナのギャップ部)には到達できない。しかし上記のように、本発明の配置では、検査対象部材透過後のテラヘルツパルス光のコリメートや集光光学系が屈折光や散乱光を受光できる開口数であるため、前出の屈折、散乱効果を受けたテラヘルツパルス光も検出素子の検出部に集光可能となる。さらに、この配置では、屈折、散乱されたテラヘルツパルス光の光路長がどのルートでも同じであり、従って、屈折、散乱されたテラヘルツパルス光と光軸上を進んだテラヘルツパルス光が同一時間に検出素子の検出部に到達する特徴を有している。
【実施例1】
【0039】
検査原理の実証試験として、図8に示すような検査対象部材を作製し、実験を行った。使用した検査対象部材は、z方向厚さl=2mmのポリブチレンテレフタレート(PBT)ブロックで、d=1mmの段差が設けられてある。
【0040】
まず、図1の形状検査装置で検査対象部材の屈折率を測定した。図9はテラヘルツパルス光を検出手段6で検出した電場振幅時間分解波形をフーリエ変換して得られたスペクトル強度と位相である。図9で(ロ)は検査対象部材をセットする前のテラヘルツパルス光スペクトル(参照光スペクトル)、(イ)は検査対象部材をセットして検査対象部材を透過後のスペクトル(信号光スペクトル)、(ニ)は参照光位相、(ハ)は信号光位相である。
【0041】
図10は、図9から算出した透過率(ホ)と位相差(ヘ)で、透過率は(信号光強度)/(参照光強度)、位相差は(信号光位相)−(参照光位相)から求められた。図10から、透過率が1THz以上(波長300μm以下)ではほとんどゼロ、すなわちほとんど透過しないことがわかる。厳密には、図9、図10から、1.4THz付近で信号はノイズレベル以下に落ちている。連続的に変化していた位相差も1.6THz(波長約200μm)周辺でノイズが増えているが、これは透過率が小さいために解析に必要な信号強度が得られていないことに起因する。従って、この検査対象部材では1.4THzより低周波(波長約200μm以上)の光を透過することがわかる。一方、低周波側でも透過率が1を越える部分が0.2THz以下(波長約1.5mm以上)に出現している。これも信号光強度或いは参照光強度の弱い部分が存在するため、解析処理ができないためと考えられる。従って、以後の解析範囲を0.2THz〜1.4THzとした。
【0042】
図11は上記図10の結果から算出された複素屈折率である。実部(ト)は屈折率、虚部(チ)は吸収係数である。これから、本実施例の検査対称部材の屈折率nは0.2THz〜1.4THz(200μm〜1.5mm)の範囲で約1.85であることがわかる。上記結果では、ノイズの影響やPBT高分子材料の透過率の影響で波長が200μm〜1.5mmのテラヘルツ光の例を示したが、さらにノイズを減らした場合や他の材料を用いた場合では、10μm(10THz)〜3mm(0.1THz)まで測定波長を拡張しても様々な高分子材料では屈折率が約2〜3程度と考えられる。
【0043】
一般的に、樹脂はテラヘルツ光帯域(0.1THz〜10THz)において透明帯域を有するが、その帯域は、樹脂により異なっている。上記したPBTでは0.2THz〜1.4THzであるが、これは比較的透明帯域の狭い例であって、一般的な樹脂を検査対象部材とする場合の帯域は、0.1THz〜10THzとすることが望ましい。
【0044】
複素屈折率は、検査対象部材の物性異常(材料の劣化、異物混入、組成異常、等)によって変化するので、逆に複素屈折率から物性異常を検出することができる。
【0045】
次に、図8に示すように、検査対象部材を移動ステージ9で移動させ、スポット径2mmのテラヘルツパルス光Sの照射部位をずらし形状検査を実施した。すなわち、最初、厚さ2mmの部位に照射したテラヘルツパルス光S1が透過してくるテラヘルツパルス光S’1を検出し、次に、検査対象部材を移動させ、段差部80に照射したテラヘルツパルス光S2が透過してくるテラヘルツパルス光S’2を検出し、最後に、厚さ1mmの部位に照射したテラヘルツパルス光S3が透過してくるテラヘルツパルス光S’3を検出した。
【0046】
図12は、上記テラヘルツパルス光S’1〜S’3の電場振幅時間分解波形である。 図12からΔt1=2.87psで、(1)式からn=1.85とすると、d=1mmと求まる。すなわち、検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形の位相情報から光軸方向の寸法である段差を測定できることが立証された。
【0047】
検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光の位相情報が、上記のように、透過したテラヘルツパルス光の時間分解波形に直接現れる。従って、本発明によれば、デコンボリューションのような信号処理をすることなく、時間分解波形を計測するだけで段差や形状を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の形状検査装置の全体構成図である。
【図2】電場振幅時間分解波形の一例である。
【図3】図1における検査対象部材8付近の拡大斜視図である。
【図4】図1における検査対象部材8付近の拡大x−z平面視図である。
【図5】図4の矢印R2方向に検査対象部材8を移動させ、テラヘルツパルス光Sの照射位置を変化させたときの電場振幅時間波形を模式的に示す図である。
【図6】検査対象部材回転走査して検査する状況を説明する図である。
【図7】検査対象部材から検出手段までの光線軌跡を模式的に示す図である。
【図8】実施例1の検査対象部材である。
【図9】テラヘルツパルス光を検出手段6で検出した電場振幅時間分解波形をフーリエ変換して得られたスペクトル強度と位相である。
【図10】図9から算出された透過率と位相差である。
【図11】図10から算出された複素屈折率である。
【図12】実施例1において、テラヘルツパルス光Sを検査対象部材に照射したときの、透過テラヘルツパルス光S’の電場振幅時間分解波形である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・・・・・・・レーザ光源
2・・・・・・・・・光分割手段
3・・・・・・・・・光遅延手段
4・・・・・・・・・テラヘルツパルス光発生手段
5・・・・・・・・・照射手段
6・・・・・・・・・受光手段
7・・・・・・・・・検出手段
8・・・・・・・・・検査対象部材
9・・・・・・・・・移動手段
10・・・・・・・・形状判別器
Pu ・・・・・・・ポンプ光
Po ・・・・・・・プローブ光
S、S’・・・・・・テラヘルツパルス光
【技術分野】
【0001】
この発明は、射出成形、圧縮成形、押出成形等で製造された部材の形状検査方法及び装置に関する。詳しくは、検査対象部材に電磁波を照射して部材を透過する電磁波の変化から部材の段差や形状を検査する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品やデジタル製品などに使用される部品は、近年、軽量化や低コスト化のために金属に代わって樹脂部品が多く使用されている。特に、自動車部品においては、エンジンの高機能制御用として様々なセンサが搭載されてきており、樹脂部品の形状品質は自動車の信頼性の一端を担う状態にあるといっても過言ではない。また、デジタル家電製品では、小型・集積化の流れの中、小さな樹脂成形品が機能上重要な役目を果たしている。自動車部品やデジタル家電などでは、ガラス製やセラミックス製の精密部品も重要な役目を果たしている。これらの部品の欠陥形状を定量評価することが重要になっている。
【0003】
樹脂やゴムといった高分子材料、ガラスやセラミックスといった無機材料などからなる部材は、押出成形、射出成形や加圧焼成等で製造される。しかし、製造された部材は、段差、ふくれ、突起、凹凸、などの表面形状欠陥をもっている場合がある。
【0004】
これらの欠陥を検出するための従来の方法は、部材を透過する波長の電磁波(テラヘルツ波)を照射し、部材を透過した電磁波の透過強度の変化から欠陥を検出するものである(例えば特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−43230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の欠陥検出方法は、断面形状が一定の細長部材(パイプ等)であって、部材を透過した電磁波の透過強度の変化から欠陥を検出するが、透過強度は、内部欠陥や部材組成の均一性等の影響を受けるため、ノイズが多く欠陥検出感度、欠陥検出精度が低かった。また、透過強度は照射方向によって積分されるため、照射方向の欠陥の寸法を知ることができなかった。さらに、従来の欠陥検出方法は、一定断面形状での欠陥の有無は定性的に評価できるが、形状がパイプ形状でない部材の欠陥を定量的に評価することができなかった。従って、欠陥の3次元形状である大きさや形を定量評価することができなかった。
【0006】
本発明は、上記の従来の欠陥検査方法の問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、形状(欠陥)検出感度と形状(欠陥)検出精度が高く、電磁波照射方向の形状(欠陥)寸法を検出できる方法及び装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するためになされた請求項1に係る発明は、検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を該検査対象部材の少なくとも二つの異なる部位に照射する照射工程と、前記照射工程で照射され前記検査対象部材の前記複数の異なる部位を透過した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を部位毎にそれぞれ検出する検出工程と、を有し、前記検出工程で検出された前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の形状を検査することを特徴とする形状検査方法である。
【0008】
また、請求項2に係る発明は請求項1の形状検査方法であって、前記位相情報が前記検査対象部材の前記部位の一つである第1部位を透過したテラヘルツパルス光と前記検査対象部材の前記部位の一つであり前記第1部位と異なる第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差であることを特徴としている。
【0009】
課題を解決するためになされた請求項3に係る発明は、短パルスレーザ光を発生するレーザ光源と、前記レーザ光源から発生された前記短パルスレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分割する光分割手段と、前記光分割手段で分割された前記プローブ光或いは前記ポンプ光の時間遅延を制御する光遅延手段と、前記光分割手段で分割された前記ポンプ光でポンプされて検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を発生するテラヘルツパルス光発生手段と、前記テラヘルツパルス光発生手段から発生された前記テラヘルツパルス光を前記検査対象部材に照射する照射手段と、前記検査対象部材を載置して該検査対象物を移動させる移動手段と、前記移動手段で移動して前記検査対象部材の異なる部位を透過した前記テラヘルツパルス光をそれぞれ受光する受光手段と、前記受光手段で受光した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を前記プローブ光で検出する検出手段と、前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の形状を判別する形状判別器と、を備えたことを特徴とする形状検査装置である。
【0010】
また、請求項4に係る発明は請求項3の形状検査装置であって、前記照射手段の開口数をNA1とし、前記受光手段の開口数をNA2とするとき、NA1<NA2であることを特徴としている。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、請求項3又は4の形状検査装置であって、前記位相情報が前記検査対象部材の前記部位の一つである第1部位を透過したテラヘルツパルス光と前記検査対象部材の前記部位の一つであり前記第1部位と異なる第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差であることを特徴としている。
【0012】
課題を解決するためになされた請求項6に係る発明は、検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を該検査対象部材の段差部に照射する照射工程と、前記照射工程で照射され前記検査対象部材の前記段差部を透過した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を検出する検出工程と、を有し、前記検出工程で検出された前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記段差部の形状を検査することを特徴とする形状検査方法である。
【0013】
課題を解決するためになされた請求項7に係る発明は、短パルスレーザ光を発生するレーザ光源と、前記レーザ光源から発生された前記短パルスレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分割する光分割手段と、前記光分割手段で分割された前記プローブ光或いは前記ポンプ光の時間遅延を制御する光遅延手段と、前記光分割手段で分割された前記ポンプ光でポンプされて検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を発生するテラヘルツパルス光発生手段と、前記テラヘルツパルス光発生手段から発生された前記テラヘルツパルス光を前記検査対象部材の段差部に照射する照射手段と、前記段差部を透過した前記テラヘルツパルス光を受光する受光手段と、前記受光手段で受光した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を前記プローブ光で検出する検出手段と、前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の前記段差部の形状を判別する形状判別器と、を備えたことを特徴とする形状検査装置である。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の方法及び装置によれば、以下の効果が得られる。
【0015】
(1)テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形の位相情報は、透過する検査対象部材の光路長に強く左右されるので、形状検出精度が高い。
【0016】
(2)検査対象部材の第1部位を透過したテラヘルツパルス光と第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差は、第1部位と第2部位との光路差に強く左右されるので、第1部位と第2部位の段差(形状寸法差)を高精度に検査することができる。
【0017】
(3)検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光を開口数の大きな受光手段で受光するので、検査対象部材の内部欠陥等によってテラヘルツパルス光が散乱されても検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光を効率よく受光することができる。
【0018】
(4)テラヘルツパルス光を検査対象部材の段差部に照射することで、1回の照射で段差形状を検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明の形状検査装置の全体構成図である。この図に示すように、本発明の検査対象部材の形状検査装置は、レーザ光源1、光分割手段2、光遅延手段3、テラヘルツパルス光発生手段4、照射手段5、移動手段9、受光手段6、検出手段7、形状判別器10を備える。また、図1において、M1〜M6は平面鏡、L1〜L3はレンズ、PM1〜PM4は軸外し放物面鏡、W1〜W3は窓である。Kは筐体で、テラヘルツパルス光の光路を外部から隔離する。筐体Kの内部は真空または窒素雰囲気であり、テラヘルツパルス光が空気を構成する分子で吸収されることを防止する。
【0021】
レーザ光源1は、例えば、モードロックファイバレーザ装置で、パルス幅がフェムト秒〜ピコ秒の短パルスレーザ光Lを発生する。例えば、中心波長780nm帯、平均出力20mW、繰り返し周波数50MHz、の小型ファイバレーザが用いられる。
【0022】
光分割手段2は、例えば、ビームスプリッタまたはウェッジプレートであり、短パルスレーザ光Lをポンプ光Puとプローブ光Prとに分割する。
【0023】
光遅延手段3は、例えば、コーナミラーを矢印R1方向(x方向)に移動するステージ(図示せず)に取り付けた装置であり、ポンプ光Puの光路長を制御して遅延時間を走査する。なお、本実施形態の形状検査装置では、光遅延手段3が、ポンプ光Puの光路中に挿入されているが、プローブ光Prの光路中に挿入されてもよい。
【0024】
テラヘルツパルス光発生手段4は、例えば、低温成長GaAsダイポールアンテナ、InSb結晶、InAs半導体結晶等である。
【0025】
照射手段5は、例えば、軸外し放物面鏡PM1とPM2とからなり、発生手段4から発生されたテラヘルツパルス光Sをコリメートして、検査対象部材8の平行する表2面81、82の一方の面81付近に、光軸(z軸)OAが面81、82に直交するように集光する。例えば、軸外し放物面鏡PM1によりコリメートされたテラヘルツパルス光のビーム径は、約15mmであり、これを焦点距離150mmの軸外し放物面鏡PM2 で集光すると、集光径が約2mmになる。従って、照射手段5の開口数、すなわち、検査対象部材に入射されるテラヘルツパルス光の開口数NA1は、約0.05である。
【0026】
移動手段9は、例えば、x軸移動ステージであり、矢印R2方向に検査対象部材8を移動させる。
【0027】
受光手段6は、例えば、軸外し放物面鏡PM3とPM4とからなり、検査対象部材8を透過したテラヘルツパルス光S’をコリメートして、検出手段7に集光する。軸外し放物面鏡PM3 は、焦点距離150mm、口径50mmであり、受光手段6の開口数NA2は、約0.16である。
【0028】
検出手段6は、例えば、電気光学(EO)結晶としてのZnTe結晶61、ウォルストンプリズム62、バランス検出器63を備えている。バランス検出器63は、検査対象部材8を透過したテラヘルツパルス光S’によりZnTe結晶61に誘起される複屈折によって生じるプローブ光Prの偏光回転量を差動増幅機構を用いて抽出する。従って、検出手段6から後述の形状判別器7に入力される信号は、図2に示すような電場振幅時間分解波形である。図2は、検査対象部材8を透過したテラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形である。なお、ZnTe結晶61を例えば、低温成長GaAsダイポールアンテナにし、テラヘルツパルス光を検出する際発生するプローブ光Prによる光起電流を増幅する電流アンプを備えるようにしてもよい。
【0029】
形状判別器7は、例えばパソコンであり、検出手段7からの信号を図示しないロックインアンプで増幅した信号を受けて、図2のような電場振幅時間分解波形の位相情報から形状を判別する。
【0030】
次に、本実施形態の形状検査装置で形状を検査する原理を説明する。図3は、図1における検査対象部材8付近の拡大斜視図、図4は図1における検査対象部材8付近の拡大x−z平面視図である。検査対象部材8は、光軸OA方向(z方向)の厚さがl(エル)で、80はy方向に延びるz方向の段差がd、x方向の幅が2aの凹部である。
【0031】
図5は、図4の矢印R2方向(x方向)に検査対象部材8を移動手段9で移動させ、テラヘルツパルス光Sの照射位置(照射部位)を変化させたときの電場振幅時間波形(信号と略記する)を模式的に示している。中段は、照射位置xが−a<x<aの場合で、テラヘルツパルス光Sは、全て凹部80を通過する。上段はa<x、下段はx<−aの場合で、テラヘルツパルス光Sは、全て凹部以外の厚さl(エル)の検査対象部材を通過する。上段と中段の間と上段と下段の間は、x=±aの場合で、テラヘルツパルス光Sの一部が凹部80を通過する。横軸のt1に現れる信号は、段差dの凹部(厚さ(l−d)の検査対象部材)を透過したテラヘルツパルス光であり、t2に現れる信号は、厚さlの検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光である。
【0032】
まず、電場振幅時間波形の位相情報の一つであるΔt1(=t2−t1)と段差dとの関係を説明する。
【0033】
テラヘルツパルス光の伝搬時間は、光路長を光速度cで割ることで求まり、光路長は伝搬媒質の屈折率n、伝搬距離をl(エル)とすると、nlとなる。従って、検査対象部材の屈折率をn、厚さをl、段差をdとすると、
Δt1=d(n−1)/c (1)
となる。よって、(1)式から、nが既知であれば、凹部のz方向の大きさ(段差)dが求まる。また、図5から、検査対象部材をx軸方向に移動させ、t1に現れる信号が消えるx軸方向の位置から凹部のx方向の幅2aを求めることができる。
【0034】
なお、図6に示すように、非対称な検査対象部材8’をx’軸と直交するy’軸(紙面に垂直)の周りに回転(矢印R2’)させることにより、非対称な検査対象部材の形状を計測すること、すなわちCT計測することができる。
【0035】
光は、屈折率の異なる界面を通過するとき屈折する。例えば、検査対象部材の内部にボイド(空隙)のような欠陥があると、欠陥部と非欠陥部との屈折率差によるレンズ作用や臨界角による全反射を受けて、テラヘルツパルス光が検出手段に到達しなくなる。
【0036】
検査対象部材による屈折や臨界角による散乱やレンズ作用の影響を、少なくするためには、以下に説明するように、照射手段の開口数NA1より受光手段の開口数NA2を大きくすればよい。図7は、検査対象部材8から検出手段7のEO結晶71までの光線軌跡を模式的に示している。図7で、θ1は検査対象部材8へ集光照射されるテラヘルツ光Sの開口半角、θ2は受光部材6の開口半角である。また、○は、検査対象部材8がない場合のテラヘルツ光(参照光)の中で最も外側の光路を通る光線、△は、光軸(OA)を通る光線、□は、検査対象部材8の入射面や内部欠陥での界面で屈折により最も外側に曲げられた光線である。検査対象部材を透過したテラヘルツ光の開口数NA1はNA1=nsinθ1、受光部材の開口数NA2はNA2=nsinθ2である。今、上記のように、例えば、NA1=0.05、NA2=0.16の場合、すなわち、NA1<NA2の場合、屈折により曲げられた光線(□)も受光手段で受光することができ、EO結晶に入射される。従って、検査対象部材を透過したテラヘルツ光をロスすることなく受光検出でき、散乱やレンズ作用の影響を全く受けない効率よい検査が可能になる。
【0037】
また、受光手段に軸外し放物面鏡を使用すると、屈折により曲げられた光線(□)、光軸を通る光線(△)、参照光の中で最も外側を通る光線(○)のいずれもが、放物面鏡PM3の焦点から出ているため、これらの光線は軸外し放物面鏡PM4でEO結晶71の上に集光されるとき、必ず同一焦点に位相差なしで到達する。従って、正確な位相情報を検出することができる。その結果、精度の高い形状検査ができる。
【0038】
検査対象部材が平面でない場合、透過テラヘルツパルス光は、検査対象部材がもつ固有の形状と屈折率により、本来の光軸とは異なった方向に屈折される。また、波長と同程度の異物、欠陥、ボイドなどが存在する場合、本来の光軸とは異なった方向に散乱効果を受ける。このような場合、屈折、及び散乱を受けたテラヘルツパルス光は検出素子の検出部(電気光学結晶を検出に使用する場合は、検出用のプローブ光(短パルスレーザ光)が照射されている結晶の特定部位、光伝導アンテナの場合は、プローブ光が照射されているアンテナのギャップ部)には到達できない。しかし上記のように、本発明の配置では、検査対象部材透過後のテラヘルツパルス光のコリメートや集光光学系が屈折光や散乱光を受光できる開口数であるため、前出の屈折、散乱効果を受けたテラヘルツパルス光も検出素子の検出部に集光可能となる。さらに、この配置では、屈折、散乱されたテラヘルツパルス光の光路長がどのルートでも同じであり、従って、屈折、散乱されたテラヘルツパルス光と光軸上を進んだテラヘルツパルス光が同一時間に検出素子の検出部に到達する特徴を有している。
【実施例1】
【0039】
検査原理の実証試験として、図8に示すような検査対象部材を作製し、実験を行った。使用した検査対象部材は、z方向厚さl=2mmのポリブチレンテレフタレート(PBT)ブロックで、d=1mmの段差が設けられてある。
【0040】
まず、図1の形状検査装置で検査対象部材の屈折率を測定した。図9はテラヘルツパルス光を検出手段6で検出した電場振幅時間分解波形をフーリエ変換して得られたスペクトル強度と位相である。図9で(ロ)は検査対象部材をセットする前のテラヘルツパルス光スペクトル(参照光スペクトル)、(イ)は検査対象部材をセットして検査対象部材を透過後のスペクトル(信号光スペクトル)、(ニ)は参照光位相、(ハ)は信号光位相である。
【0041】
図10は、図9から算出した透過率(ホ)と位相差(ヘ)で、透過率は(信号光強度)/(参照光強度)、位相差は(信号光位相)−(参照光位相)から求められた。図10から、透過率が1THz以上(波長300μm以下)ではほとんどゼロ、すなわちほとんど透過しないことがわかる。厳密には、図9、図10から、1.4THz付近で信号はノイズレベル以下に落ちている。連続的に変化していた位相差も1.6THz(波長約200μm)周辺でノイズが増えているが、これは透過率が小さいために解析に必要な信号強度が得られていないことに起因する。従って、この検査対象部材では1.4THzより低周波(波長約200μm以上)の光を透過することがわかる。一方、低周波側でも透過率が1を越える部分が0.2THz以下(波長約1.5mm以上)に出現している。これも信号光強度或いは参照光強度の弱い部分が存在するため、解析処理ができないためと考えられる。従って、以後の解析範囲を0.2THz〜1.4THzとした。
【0042】
図11は上記図10の結果から算出された複素屈折率である。実部(ト)は屈折率、虚部(チ)は吸収係数である。これから、本実施例の検査対称部材の屈折率nは0.2THz〜1.4THz(200μm〜1.5mm)の範囲で約1.85であることがわかる。上記結果では、ノイズの影響やPBT高分子材料の透過率の影響で波長が200μm〜1.5mmのテラヘルツ光の例を示したが、さらにノイズを減らした場合や他の材料を用いた場合では、10μm(10THz)〜3mm(0.1THz)まで測定波長を拡張しても様々な高分子材料では屈折率が約2〜3程度と考えられる。
【0043】
一般的に、樹脂はテラヘルツ光帯域(0.1THz〜10THz)において透明帯域を有するが、その帯域は、樹脂により異なっている。上記したPBTでは0.2THz〜1.4THzであるが、これは比較的透明帯域の狭い例であって、一般的な樹脂を検査対象部材とする場合の帯域は、0.1THz〜10THzとすることが望ましい。
【0044】
複素屈折率は、検査対象部材の物性異常(材料の劣化、異物混入、組成異常、等)によって変化するので、逆に複素屈折率から物性異常を検出することができる。
【0045】
次に、図8に示すように、検査対象部材を移動ステージ9で移動させ、スポット径2mmのテラヘルツパルス光Sの照射部位をずらし形状検査を実施した。すなわち、最初、厚さ2mmの部位に照射したテラヘルツパルス光S1が透過してくるテラヘルツパルス光S’1を検出し、次に、検査対象部材を移動させ、段差部80に照射したテラヘルツパルス光S2が透過してくるテラヘルツパルス光S’2を検出し、最後に、厚さ1mmの部位に照射したテラヘルツパルス光S3が透過してくるテラヘルツパルス光S’3を検出した。
【0046】
図12は、上記テラヘルツパルス光S’1〜S’3の電場振幅時間分解波形である。 図12からΔt1=2.87psで、(1)式からn=1.85とすると、d=1mmと求まる。すなわち、検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形の位相情報から光軸方向の寸法である段差を測定できることが立証された。
【0047】
検査対象部材を透過したテラヘルツパルス光の位相情報が、上記のように、透過したテラヘルツパルス光の時間分解波形に直接現れる。従って、本発明によれば、デコンボリューションのような信号処理をすることなく、時間分解波形を計測するだけで段差や形状を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の形状検査装置の全体構成図である。
【図2】電場振幅時間分解波形の一例である。
【図3】図1における検査対象部材8付近の拡大斜視図である。
【図4】図1における検査対象部材8付近の拡大x−z平面視図である。
【図5】図4の矢印R2方向に検査対象部材8を移動させ、テラヘルツパルス光Sの照射位置を変化させたときの電場振幅時間波形を模式的に示す図である。
【図6】検査対象部材回転走査して検査する状況を説明する図である。
【図7】検査対象部材から検出手段までの光線軌跡を模式的に示す図である。
【図8】実施例1の検査対象部材である。
【図9】テラヘルツパルス光を検出手段6で検出した電場振幅時間分解波形をフーリエ変換して得られたスペクトル強度と位相である。
【図10】図9から算出された透過率と位相差である。
【図11】図10から算出された複素屈折率である。
【図12】実施例1において、テラヘルツパルス光Sを検査対象部材に照射したときの、透過テラヘルツパルス光S’の電場振幅時間分解波形である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・・・・・・・レーザ光源
2・・・・・・・・・光分割手段
3・・・・・・・・・光遅延手段
4・・・・・・・・・テラヘルツパルス光発生手段
5・・・・・・・・・照射手段
6・・・・・・・・・受光手段
7・・・・・・・・・検出手段
8・・・・・・・・・検査対象部材
9・・・・・・・・・移動手段
10・・・・・・・・形状判別器
Pu ・・・・・・・ポンプ光
Po ・・・・・・・プローブ光
S、S’・・・・・・テラヘルツパルス光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を該検査対象部材の少なくとも二つの異なる部位に照射する照射工程と、
前記照射工程で照射され前記検査対象部材の前記複数の異なる部位を透過した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を部位毎にそれぞれ検出する検出工程と、を有し、
前記検出工程で検出された前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の形状を検査することを特徴とする形状検査方法。
【請求項2】
前記位相情報が前記検査対象部材の前記部位の一つである第1部位を透過したテラヘルツパルス光と前記検査対象部材の前記部位の一つであり前記第1部位と異なる第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差であることを特徴とする請求項1に記載の形状検査方法。
【請求項3】
短パルスレーザ光を発生するレーザ光源と、
前記レーザ光源から発生された前記短パルスレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分割する光分割手段と、
前記光分割手段で分割された前記プローブ光或いは前記ポンプ光の時間遅延を制御する光遅延手段と、
前記光分割手段で分割された前記ポンプ光でポンプされて検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を発生するテラヘルツパルス光発生手段と、
前記テラヘルツパルス光発生手段から発生された前記テラヘルツパルス光を前記検査対象部材に照射する照射手段と、
前記検査対象部材を載置して該検査対象物を移動させる移動手段と、
前記移動手段で移動して前記検査対象部材の異なる部位を透過した前記テラヘルツパルス光をそれぞれ受光する受光手段と、
前記受光手段で受光した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を前記プローブ光で検出する検出手段と、
前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の形状を判別する形状判別器と、を備えたことを特徴とする形状検査装置。
【請求項4】
前記照射手段の開口数をNA1とし、前記受光手段の開口数をNA2とするとき、NA1<NA2であることを特徴とする請求項3に記載の形状検査装置。
【請求項5】
前記位相情報が前記検査対象部材の前記部位の一つである第1部位を透過したテラヘルツパルス光と前記検査対象部材の前記部位の一つであり前記第1部位と異なる第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差であることを特徴とする請求項3又は4に記載の形状検査装置。
【請求項6】
検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を該検査対象部材の段差部に照射する照射工程と、
前記照射工程で照射され前記検査対象部材の前記段差部を透過した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を検出する検出工程と、を有し、
前記検出工程で検出された前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記段差部の形状を検査することを特徴とする形状検査方法。
【請求項7】
短パルスレーザ光を発生するレーザ光源と、
前記レーザ光源から発生された前記短パルスレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分割する光分割手段と、
前記光分割手段で分割された前記プローブ光或いは前記ポンプ光の時間遅延を制御する光遅延手段と、
前記光分割手段で分割された前記ポンプ光でポンプされて検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を発生するテラヘルツパルス光発生手段と、
前記テラヘルツパルス光発生手段から発生された前記テラヘルツパルス光を前記検査対象部材の段差部に照射する照射手段と、
前記段差部を透過した前記テラヘルツパルス光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を前記プローブ光で検出する検出手段と、
前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の前記段差部の形状を判別する形状判別器と、を備えたことを特徴とする形状検査装置。
【請求項1】
検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を該検査対象部材の少なくとも二つの異なる部位に照射する照射工程と、
前記照射工程で照射され前記検査対象部材の前記複数の異なる部位を透過した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を部位毎にそれぞれ検出する検出工程と、を有し、
前記検出工程で検出された前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の形状を検査することを特徴とする形状検査方法。
【請求項2】
前記位相情報が前記検査対象部材の前記部位の一つである第1部位を透過したテラヘルツパルス光と前記検査対象部材の前記部位の一つであり前記第1部位と異なる第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差であることを特徴とする請求項1に記載の形状検査方法。
【請求項3】
短パルスレーザ光を発生するレーザ光源と、
前記レーザ光源から発生された前記短パルスレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分割する光分割手段と、
前記光分割手段で分割された前記プローブ光或いは前記ポンプ光の時間遅延を制御する光遅延手段と、
前記光分割手段で分割された前記ポンプ光でポンプされて検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を発生するテラヘルツパルス光発生手段と、
前記テラヘルツパルス光発生手段から発生された前記テラヘルツパルス光を前記検査対象部材に照射する照射手段と、
前記検査対象部材を載置して該検査対象物を移動させる移動手段と、
前記移動手段で移動して前記検査対象部材の異なる部位を透過した前記テラヘルツパルス光をそれぞれ受光する受光手段と、
前記受光手段で受光した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を前記プローブ光で検出する検出手段と、
前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の形状を判別する形状判別器と、を備えたことを特徴とする形状検査装置。
【請求項4】
前記照射手段の開口数をNA1とし、前記受光手段の開口数をNA2とするとき、NA1<NA2であることを特徴とする請求項3に記載の形状検査装置。
【請求項5】
前記位相情報が前記検査対象部材の前記部位の一つである第1部位を透過したテラヘルツパルス光と前記検査対象部材の前記部位の一つであり前記第1部位と異なる第2部位を透過したテラヘルツパルス光との時間差であることを特徴とする請求項3又は4に記載の形状検査装置。
【請求項6】
検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を該検査対象部材の段差部に照射する照射工程と、
前記照射工程で照射され前記検査対象部材の前記段差部を透過した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を検出する検出工程と、を有し、
前記検出工程で検出された前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記段差部の形状を検査することを特徴とする形状検査方法。
【請求項7】
短パルスレーザ光を発生するレーザ光源と、
前記レーザ光源から発生された前記短パルスレーザ光をポンプ光とプローブ光とに分割する光分割手段と、
前記光分割手段で分割された前記プローブ光或いは前記ポンプ光の時間遅延を制御する光遅延手段と、
前記光分割手段で分割された前記ポンプ光でポンプされて検査対象部材を透過する波長のテラヘルツパルス光を発生するテラヘルツパルス光発生手段と、
前記テラヘルツパルス光発生手段から発生された前記テラヘルツパルス光を前記検査対象部材の段差部に照射する照射手段と、
前記段差部を透過した前記テラヘルツパルス光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光した前記テラヘルツパルス光の電場振幅時間分解波形を前記プローブ光で検出する検出手段と、
前記電場振幅時間分解波形の位相情報から前記検査対象部材の前記段差部の形状を判別する形状判別器と、を備えたことを特徴とする形状検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−96200(P2008−96200A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276513(P2006−276513)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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