説明

径計測装置

【課題】ダム洪水吐ゲートなどの開閉動作を行うものであって水中に浸漬された線条体等に対して、高精度に安定してその線径(外径寸法)を計測できる径計測装置を提供する。
【解決手段】線条体の外径寸法を計測するための計測手段が付設された移動部材25と、移動部材25を線条体16に沿って移動させる制御手段26とを備えた径計測装置である。移動部材25は、線条体16に着脱自在に固定される移動本体30及び移動副体33を備える。制御手段26はチャック制御部53と移動制御部54とを備える。チャック制御部53は、移動本体20を固定している状態で移動副体33の固定を解除し、移動副体33を固定している状態で移動本体30の固定を解除する。移動制御部54は、移動本体30を固定している状態で移動副体33を線条体長手方向に沿って移動させ、移動副体33を固定している状態で移動本体30を線条体長手方向に沿って移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線条体(ワイヤーロープ)の外径寸法を測定する径計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電所などのダムでは、ダム内に貯留されている水量を調整する目的で、洪水吐ゲートが設けられている(特許文献1及び特許文献2)。洪水吐ゲートのうちラジアルゲートは図10に示すように、ダムの上流側に向かって凸状に湾曲した扉体4を有し、この扉体4は、回転軸1を中心として上下方向に首振り運動し得るように取付けられている。また、扉体4にワイヤーロープ3が連結され、このワイヤーロープ3は巻上げ装置2にて巻き上げられる。
【0003】
扉体4の外面下部にワイヤーロープ連結用の固定金具5が設けられ、この固定金具5にワイヤーロープ3の先端部の連結具6が連結されている。このため、図10に示す状態から、巻上げ装置2を介してワイヤーロープ3を巻き上げれば、仮想線で示すように、扉体4が回転軸1を中心に矢印A方向に回動して開状態となる。また、この仮想線で示す状態から、巻上げ装置2からワイヤーロープ3を繰り出せば、扉体4が回転軸1を中心に矢印B方向に回動して閉状態となる。この閉状態では、扉体4の下端縁がゲート底7に当接した状態となる。
【0004】
ところで、ワイヤーロープ3を長期にわたって使用していれば、劣化が大となって、開閉動作ができない状態となるおそれがあった。また、長期にわたって使用していなくても、流木等がワイヤーロープに接触してワイヤーロープが損傷する場合がある。このため、ワイヤーロープが劣化していないか損傷していないか等の点検、すなわち、断線状況や腐食状況の確認を行う必要があった。
【0005】
ところで、一般に、ワイヤーロープの劣化調査として、素線切れやロープ径の減少量を検出し、この減少量等に基づいてワイヤーロープの交換時期の評価に用いられる。この場合、従来には、ワイヤーロープ径を遠隔計測する方法として、ロープ中を通る磁束を測定し、磁束と断面積の比例関係よりワイヤーロープの断面積を評価する方法(特許文献3)、または、レーザー変位計を用いた方法(特許文献4)がある。
【0006】
特許文献3では、ワイヤーロープの断面積変化および素線切れの少なくとも一方を漏洩磁束検出手段を用いて測定し、誘導コイルに発生する出力電圧値で前記ワイヤーロープの劣化状態を診断するものである。
【0007】
特許文献4では、ワイヤーロープに投光器で光(レーザ光)を照射し、この光がワイヤーロープにより遮られた領域を受光器で検出し、検出した領域の大きさに基づいて演算手段でワイヤーロープの径を算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−107341号公報
【特許文献2】特開2002−46615号公報
【特許文献3】特開2002−333431号公報
【特許文献4】特開2006−194668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3及び特許文献4では、気中部(大気中)での計測手法である。このため、特許文献3や特許文献4等に記載された装置では、防水性が考慮されていない。従って、水中に浸漬されたワイヤーロープの外径を測定(計測)しようとすれば、測定できなかったり、装置が損傷したりするおそれがある。
【0010】
また、前記特許文献3や特許文献4等においては、機器がワイヤーロープの外周側に配置されるものである。このため、ワイヤーロープが他の構造物等に接触乃至近接しているような場合には、このワイヤーロープの外径寸法を計測することができない。
【0011】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、ダム洪水吐ゲートなどの開閉動作を行うものであって水中に浸漬された線条体等に対して、高精度に安定してその線径(外径寸法)を計測できる径計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の径計測装置は、線条体の外径寸法を計測するための計測手段が付設された移動部材と、この移動部材を前記線条体に沿って移動させる制御手段とを備えた径計測装置であって、前記移動部材は、線条体に着脱自在に固定するための本体側チャック機構を有する移動本体と、本体長手方向に沿った往復動を可能として前記移動本体に付設されるとともに、線条体に着脱自在に固定するための副体側チャック機構を有する移動副体とを備え、前記制御手段は、前記本体側チャック機構によって移動本体が線条体に固定されている状態で前記副体側チャック機構による固定を解除し、前記副体側チャック機構によって移動副体が線条体に固定されている状態で前記本体側チャック機構による固定を解除するチャック制御部と、前記本体側チャック機構によって移動本体が線条体に固定されている状態で移動副体を駆動機構を介して線条体長手方向に沿って移動させ、副体側チャック機構によって移動副体が線条体に固定されている状態で移動本体を駆動機構を介して線条体長手方向に沿って移動させる移動制御部とを備え、前記計測手段は、水中に浸漬されている線条体の一対の伸縮体による挟持が可能であって、この挟持によって線条体の外径寸法を計測するノギス部材と、このノギス部材の計測目盛を観察する防水性観察用カメラとを備え、遠隔地に配置されたモニタ装置での前記観察用カメラの計測目盛画像の映し出しを可能としたものである。
【0013】
本発明の径計測装置によれば、本体側チャック機構によって移動本体が線条体に固定されている状態で移動副体のみを線条体長手方向の一方の方向に移動させることができる。その後、副体側チャック機構によって移動副体が線条体に固定されている状態で移動本体を線条体長手方向の一方の方向に移動させることができる。このため、移動本体が線条体長手方向の一方の方向に所定量だけ移動した状態とすることができる。したがって、前記動作を順次行えば、この移動部材が尺取り虫的な間欠動作を行うことになって、移動本体及び移動副体が順次線条体長手方向に沿って線条体上を移動することができる。
【0014】
計測手段は、ノギス部材の一対の伸縮体にて前記線条体を挟持することによって、水中に浸漬されている線条体の外径寸法を計測することができる。また、ノギス部材の計測目盛は観察用カメラにて観察することができ、しかも、この計測目盛は、遠隔地に配置されたモニタ装置にて映し出すことができる。このため、作業者(オペレータ)は、この遠隔地において線条体の外径寸法を把握することができる。ところで、この計測手段は一対の伸縮体にて線条体を挟持するものであるので、他の構造物(例えば、ダム洪水吐ゲートの扉体)に接触乃至近接していても挟持が可能であり、このような構造物に邪魔されずに線条体の外径寸法の計測が可能である。
【0015】
前記移動本体は、線条体長手方向に沿って所定間隔で配置される一対のブロック片と、このブロック片を連結する連結用ガイドロッドとを備えるとともに、各ブロック片に前記機構が付設され、移動副体は一対のブロック体間に配設されて前記連結用ガイドロッドに沿って往復動するブロック体にて構成することができる。
【0016】
移動本体と移動副体とをこのように構成することによって、この移動部材の構成の簡略化を図ることができ、しかも、移動本体に対する移動副体の移動、移動副体に対する移動本体の移動が安定する。
【0017】
前記チャック機構は、相互に接近・離間する方向に移動する一対の爪部材を備え、相互に接近した状態で線条体を挟持するもので構成できる。このように構成することによって、一対の爪部材を相互に接近させれば、線条体を挟持することができる。このため、この挟持によって、チャック機構が本体側チャック機構であれば、移動本体を線条体に固定することができ、チャック機構が副側チャック機構であれば、移動副体を線条体に固定することができる。また、一対の爪部材を相互に離間させれば、固定状態が解除される。
【0018】
前記チャック機構の爪部材の移動をエアシリンダ機構にて行うことができ、移動本体や移動副体の往復動はエアシリンダ機構にて行うこができる。このように、エアシリンダ機構を用いることによって、出力計算が容易である点、ストローク計算が容易である点、保持力が一定である点、電力消費が微小である点、モータ等を用いないので、水中での使用に最適である点等の利点がある。
【0019】
前記計測手段のノギス部材の一対の伸縮体は、本体側チャック機構又は副体側チャック機構に連動して伸縮するように設定できる。これによって、移動部材の尺取り虫的動作に伴って順次線条体の外径寸法を計測していくことができ、移動部材の尺取り虫的動作範囲内において所定ピッチ毎に線条体の外径寸法を把握することができ、また、ノギス部材の一対の伸縮体の駆動源は前記本体側チャック機構又は副体側チャック機構の駆動源であるようにできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の径計測装置によれば、移動本体及び移動副体が順次線条体長手方向に沿って線条体上を移動することができ、しかも、この移動に伴って水中に浸漬している線条体の外径寸法を遠隔地でオペレータが把握することができる。このため、線条体が水に浸漬されている場合でも、線条体の健全性評価精度の向上が可能となる。また、線条体が他の構造物(例えば、ダム洪水吐ゲートの扉体)に接触乃至近接していても、このような構造物に邪魔されずに線条体の外径寸法の計測が可能であり、計測できない部位が生じず、線条体の高精度の径計測が可能である。
【0021】
しかも、移動部材の尺取り虫的動作は制御手段による制御で行うことができ、この制御手段の操作部を移動部材とは遠隔部に配置することができて、移動部材から遠隔した位置において操作でき、作業者(オペレータ)の安全性の確保が可能となる。
【0022】
移動本体を一対のブロック片と連結用ガイドロッドとを備えたものとするとともに、移動副体を連結用ガイドロッドに沿って往復動するブロック体にて構成するものであっては、移動部材の構成の簡略化を図ることができ、軽量化および低コスト化を図ることができる。しかも、移動本体に対する移動副体の移動、移動副体に対する移動本体の移動が安定し、移動本体及び移動副体を線条体に沿って安定して移動させることができる。
【0023】
前記チャック機構の爪部材の移動にエアシリンダ機構を用いたり、移動副体の移動本体に対する往復動、及び移動本体の移動副体に対する往復動にエアシリンダ機構を用いたりすることによって、簡単な構成で安定した動作を可能として低コスト化に寄与する。特に、水中での使用に最適となって、この径計測装置は、ダム洪水吐ゲートの線条体の点検に最適となる。
【0024】
計測手段のノギス部材の一対の伸縮体は、本体側チャック機構又は副体側チャック機構に連動して伸縮するものであれば、移動部材の尺取り虫的動作範囲内において所定ピッチ毎線条体の外径寸法を把握することができ、線条体の劣化調査を安定して行うことができる。
【0025】
ノギス部材の一対の伸縮体の駆動源がチャック機構の駆動源であれば、計測手段用に別途駆動源を設ける必要がなく、装置のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の径計測装置の移動部材の動作工程を示す簡略図である。
【図2】前記径計測装置が用いられるダムの断面図である。
【図3】前記ダムの平面図である。
【図4】本発明の径計測装置の制御手段を示す簡略ブロック図である。
【図5】チャック機構の要部断面図である。
【図6】チャック機構の爪部材を示し、(a)は閉状態の簡略図であり、(b)は開状態の簡略図である。
【図7】計測手段の要部簡略構成図である。
【図8】計測手段のノギス部材の簡略図である。
【図9】計測手段のモニタ装置にて映し出されているモニタ画面図である。
【図10】ラジアルゲートの簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態を図1〜図9に基づいて説明する。
【0028】
図2と図3に本発明にかかるに径計測装置が用いられるダムを示し、このダムには、洪水吐ゲートを構成するラジアルゲート10が多く備えられている。ラジアルゲート10は、ダムの上流側に向かって凸状に湾曲した扉体11と、この扉体11を支持する脚柱12とを備え、この脚柱12のかなめ部が、図示省略の回転軸に揺動自在に枢支されている。
【0029】
天端15に、ラジアルゲート10の開閉動作を行う線条体16の巻上げ・巻下げを行う操作を行う巻上装置17が配置されている。巻上装置17は、一対のドラム20a,20bを備え、各ドラム20a,20bに線条体16が巻設されている。このため、一対の線条体16にてラジアルゲート10の開閉動作が行われることになる。そして、図2に示すように、各線条体16の先端には連結具18が付設されるとともに、扉体11の外面下部に一対の固定金具19が設けられ、線条体側の各連結具18と扉体11側の各固定金具19とが枢結されている。なお、線条体16としてワイヤーロープが用いられる。
【0030】
このため、図2に示すように、線条体16が繰り出された状態では、扉体11の下端縁がゲート底21に当接した状態となる。すなわち、このゲート10が閉状態となる。この閉状態から、巻上装置17にて線条体16を巻き上げていけば、このゲート10が回転軸を中心に矢印A方向に揺動して仮想線で示す状態となる。すなわち、このゲート10が開状態となる。また、この開状態から、巻上装置17にて線条体16を巻き下げていけば(繰り出していけば)、このゲート10が回転軸を中心に矢印B方向に揺動して実線で示す閉状態となる。
【0031】
本発明にかかる径計測装置は、線条体16に沿って走行(移動)する移動部材25(図2参照)と、この移動部材25の走行を制御する制御手段26(図4参照)とを備える。制御手段26の制御盤(操作部)27は、天端15もしくは、ボート62上に配置されている。なお、天端15にはフェンス75が設けられている。
【0032】
移動部材25は、図1に示すように、一対のブロック片31、32を有する移動本体30と、この移動本体30に付設される移動副体33とを備える。移動本体30は、線条体長手方向に沿って所定間隔で配置されるように、連結用ガイドロッド34,35にて連結されている。また、移動副体33は、ブロック片31、32間に配置されて、連結用ガイドロッド34,35にガイドされつつ線条体長手方向に沿った往復動が可能なブロック体にて構成される。
【0033】
ブロック片31、32には、それぞれ、チャック機構36が設けられ、移動副体33にも一対のチャック機構37、37が設けられている。図6に示すように、各チャック機構36、37は一対の爪部材38a、38b、39a、39bを備え、各爪部材38a、38b、39a、39bがエアシリンダ機構等の駆動機構を介して開閉する。各爪部材38a、38b、39a、39bの対向面に、線条体16が嵌合するV字状の切欠部66,66が設けられている。また、各爪部材38a、38b、39a、39bは、後述するケーシング42の上面に設けられたレール67上を矢印E1、F1、E2、F2のようにスライドする。このため、各爪部材38a、38b、39a、39bの下面に、レール67上をスライドするスライド体68が付設されている。
【0034】
エアシリンダ機構は、図5に示すように、一対のピストン室40、41を有するケーシング42と、このケーシング42の各ピストン室40、41に収容されるピストン部材43、44とを備える。そして、ピストン部材43、44は、ピニオン・アンド・ラック構造Mを介して連動連結されている。すなわち、ピストン室40、41間に、つまり、ピストン室40、41との仕切壁70に設けられたピニオン収納部71にピニオン45が配置され、ピストン部材43、44に、このピニオン45に噛合するラック46が設けられている。なお、ピストン部材43,44は、その外周面に前記ラック46が形成されたピストン本体47、48と、各ピストン本体47、48の端面に付設される副部49、50、51、52とからなる。
【0035】
また、ケーシング42には、各ピストン室40、41に開口するポート55、56が設けられ、各ポート55、56にはエアホース57,58が接続されている。エアホース57,58には、エアコンプレッサ60(図2及び図3参照)が接続されている。そして、一方のピストン部材43にチャック機構36(37)の他方の爪部材38b(39b)が連結され、他方のピストン部材44にチャック機構36(37)の一方の爪部材38a(39a)が連結される。
【0036】
このため、エアホース57からポート55を介してピストン室40にエアを供給すれば、図5に示すように、ピストン部材43がC1方向にピストン室40内を移動する。この際、ピストン部材43とピストン部材44とがピニオン・アンド・ラック構造Mを介して連動連結されているので、ピストン部材44が矢印D1方向(前記矢印C1方向と相反する方向)にピストン室41内を移動する。この場合、ピストン室41におけるピストン部材44よりもポート56側におけるエアはエアホース58を介して外部(コンプレッサ側)へ排出される。
【0037】
ところで、ピストン部材43に、チャック機構36(37)の爪部材38b(39b)のスライド体68が連結され、ピストン部材44にチャック機構36(37)の爪部材38a(39a)のスライド体68が連結されている。このため、この動作によって、図6(a)に示すように、爪部材38a(39a)と爪部材38b(39b)とが相互に接近した状態から、爪部材38b(39b)がE1方向に移動し、爪部材38a(39a)がF1方向に移動して、図6(b)に示すような爪部材38a(39a)と爪部材38b(39b)とが相互に離間した状態となる。
【0038】
また、図5に示す状態から、エアホース58からポート56を介してピストン室41にエアを供給すれば、ピストン部材44が矢印D2方向にピストン室41内を移動する。この際、ピストン部材43とピストン部材44とがピニオン・アンド・ラック構造Mを介して連動連結されているので、この移動によって、ピストン部材43がピストン室40内を矢印C2方向に移動する。この場合、ピストン室40におけるピストン部材44よりもポート55側におけるエアはエアホース57を介して外部(コンプレッサ側)へ排出される。
【0039】
この動作によって、図6(b)に示すように、爪部材38a(39a)と爪部材38b(39b)とが相互に離間した状態から、爪部材38b(39b)がE2方向に移動し、爪部材38a(39a)がF2方向に移動して、図6(a)に示すような爪部材38a(39a)と爪部材38b(39b)とが相互に接近した状態となる。なお、移動本体30のブロック片31,32はそれぞれシリンダ機構のケーシング42、42にて構成できる。移動副体33のブロック体は、ブロック本体28とこのブロック本体28に付設されるケーシング42とを備える。
【0040】
副体33は、ロッドレスシリンダであるエアシリンダ機構等の駆動機構を介して駆動する。すなわち、移動本体30側が固定されていれば、前記エアコンプレッサ60からのエア供給により、ガイドロッド34、35にガイドされてガイドロッド34,35に沿って移動する。また、副体33が固定されて移動本体30が自由状態であれば、移動本体30が副体33に沿って移動する。
【0041】
ところで、制御手段26は、図4に示すように、本体側チャック機構36および副体側チャック機構37を制御するチャック制御部53と、副体33のエアシリンダ機構を制御する移動制御部54とを備える。すなわち、チャック制御部53にて、本体側チャック機構36の爪部材38a、38bの開閉動作、副体側チャック機構37の爪部材39a、39bの開閉動作を制御することになる。また、移動制御部54にて、移動本体30を線条体16に固定した状態で移動副体33を移動させ、移動副体33を線条体16に固定した状態で移動本体30を移動させるように制御する。
【0042】
ところで、この移動部材25は図7に示すように計測手段80を備える。この計測手段80は、一対の伸縮体101,102による線条体16の挟持が可能であって、この挟持によって線条体16の外径寸法を計測するノギス部材81と、このノギス部材81の計測目盛を観察する防水性観察用カメラ82とを備える。
【0043】
ノギス部材81は、移動本体30のブロック片31の前面に付設される一対のシリンダ機構83A、83Bと、本尺88と副尺87とを有するノギス本体90(図8参照)とを備える。シリンダ機構83A、83Bは、シリンダ本体85と、このシリンダ本体85から突出されるピストンロッド86とを備える。一方のシリンダ機構83Aのピストンロッド86に副尺87が付設され、他方のシリンダ機構83Bのピストンロッド86に本尺88が付設されている。
【0044】
本尺88は、シリンダ機構83Bのシリンダ本体85に支持体91Bを介して固定され、シリンダ機構83Bのピストンロッド86の伸縮に従って、矢印Kのように往復動する。また、副尺87は、シリンダ機構83Aのシリンダ本体85に支持体91Aを介して固定され、シリンダ機構83Aのピストンロッド86の伸縮に従って、矢印Jのように往復動する。
【0045】
また、シリンダ機構83A、83Bのピストンロッド86、86にそれぞれ挟持片92A、92Bが付設されている。このため、シリンダ機構83Aのピストンロッド86が伸縮すれば、挟持片92A及び副尺87は矢印GJのように往復動する。シリンダ機構83Bのピストンロッド86が伸縮すれば、挟持片92B及び本尺88は矢印Kのように往復動する。このため、シリンダ機構83Aのピストンロッド86と挟持片92Aとで、一方の伸縮体101を構成し、シリンダ機構83Bのピストンロッド86と挟持片92Bとで、他方の伸縮体102を構成する。
【0046】
また、図9に示すように、本尺88には本尺目盛88aが設けられ、副尺87には副尺目盛87aが設けられている。このため、図7に示すように、挟持片92A、92Bにて線条体6を挟持すれば、図8に示すように、通常のノギスにおいて、被測定物Wを、本尺88のジョー95と、副尺87のジョー94とで挟持した状態にある。したがって、このノギス部材81の一対の伸縮体101、102にて線条体16を挟持することによって、被測定物Wである線条体16の外径寸法を計測できる。
【0047】
ところで、この移動部材25には、図9に示すように、本尺88の本尺目盛88aと、副尺87の副尺目盛87aとを映し出す防水性観察用カメラ(水中カメラ)82が付設されている。防水性観察用カメラ(水中カメラ)82の画像Mは、遠隔地(この実施形態では、天端15)に設けられるモニタ装置に映し出される。なお、この防水性観察用カメラ(水中カメラ)82は市販のものを用いることができ、照明光の照射が可能なものが好ましい。
【0048】
また、ノギス部材81は、各シリンダ機構83A,83Bが、前記チャック機構36、37と連動して駆動するになる。すなわち、チャック機構36、37の駆動源であるコンプレッサ60からのエア圧にてピストンロッドが往復動する。この場合、本体側チャック機構36が、線条体16を挟持しているときに、挟持片92A、92Bにて線条体6を挟持するとともに、本体側チャック機構36、線条体16を挟持していないときに、挟持片92A、92Bにて線条体6を挟持しないようにできる。
【0049】
次に、前記のように構成された径計測装置を用いて線条体16を外径寸法を計測する方法を説明する。まず、移動部材25を線条体16に取付ける。この場合、図2と図3に示すように、ボート(船)62に乗った作業者Sが、移動部材25を線条体16に取付けることになる。なお、図2と図3において、63は前記エアホース57、58が収納される制御用ホースであって、この移動部材25から前記制御盤27に接続される。また、制御盤27とエアコンプレッサ60とは連結ホース64にて連結されている。
【0050】
この移動部材25を線条体16に取付けた状態としては、図1(a)に示す状態とする。すなわち、本体側チャック機構36、36にて線条体16をチャックした状態とする。この場合、各本体側チャック機構36、36の爪部材38a、38bを図6(a)に示すように、接近した状態として爪部材38a、38bにて線条体16を挟持する。また、副体側チャック機構37の爪部材39a、39bを図6(b)に示すように、相互に離間した状態として、この副体側チャック機構37によるチャック状態を解除しておく。
【0051】
次に、この状態で移動本体30に対して移動副体33を線条体長手方向に沿って矢印G方向に移動させて、図1(b)に示すように、副体側チャック機構37、37を閉状態、つまり爪部材39a、39bを図6(a)に示すように相互に接近した状態として、この爪部材39a、39bにて線条体16をチャックした状態とする。さらには、本体側チャック機構36、36を開状態、つまり爪部材38a、38bを図6(b)に示すように相互に離間した状態とする。
【0052】
そして、この図1(b)に示す状態から移動本体30を線条体長手方向に沿って矢印H方向に移動させる。これによって、図1(c)に示すように、図1(a)(b)に示す状態に比べて、移動本体30が線条体長手方向に沿って矢印H方向に所定量だけ前進した状態となる。
【0053】
この図1(c)に示す状態では、図1(a)と同様、本体側チャック機構36、36を閉状態とするとともに、副体側チャック機構37、37を開状態とする。この状態で、副体33を矢印G方向に移動させる。これによって、図1(d)に示したように、副体33が本体30のブロック片31側に位置する状態となる。その後、本体側チャック機構36、36を開状態とするとともに、副体側チャック機構37、37を閉状態とする。
【0054】
次に、この図1(d)の状態から、移動本体30を線条体長手方向に沿って矢印H方向に移動させる。これによって、図1(e)に示すように、図1(c)(d)に示す状態に比べて、移動本体30が線条体長手方向に沿って矢印H方向に所定量だけ前進した状態となる。その後は、本体側チャック機構36を閉状態とするとともに、副体側チャック機構37を開状態とする。
【0055】
以後、順次この動作を繰り返すことによって、移動部材25が尺取り虫的な間欠動作を行うことになって、移動本体30及び移動副体33が順次線条体長手方向に沿って線条体16上を線条体16に案内されて矢印H、G方向に(つまり水面からダム底に向かって)移動することができる。また、移動本体30と移動副体33とを順次線条体長手方向に沿って線条体16上を矢印H、Gと逆方向に移動させることによって、移動部材25が尺取り虫的な間欠動作を行って、ダム底側から水面に向かって移動することができる。このように、この径計測装置では、線条体16に沿って線条体長手方向に往復動することができる。
【0056】
この尺取り虫的な間欠動作中において、本体側チャック機構36に連動して、ノギス部材81にて、所定間隔毎に、一対の挟持体にて線条体16を挟持することになる。このように、挟持した状態では、図8に示すように、ノギスのジョー94,95にて線条体16を挟持する状態となる。この状態においては、図9に示すように、遠隔地にあるモニタ装置にて映し出される。このため、オペレータはこの映し出された画像Mから、この状態の線条体16の外径寸法を把握することができる。この際、図2に示すように、水中に浸漬されている点検範囲αにおいて、線条体16の外径寸法の計測が可能となる。
【0057】
本発明では、移動部材25が尺取り虫的な間欠動作を行うことができて、移動本体30及び移動副体33が順次線条体長手方向に沿って線条体16上を線条体16に案内されて移動することができ、しかも、移動部材25の尺取り虫的動作は制御手段による制御で行うことができ、この制御手段の操作部を移動部材25とは遠隔部に配置することができて、移動部材25から遠隔した位置において操作でき、作業者(オペレータ)の安全性の確保が可能となる。また、ゲート10はダム洪水吐ゲートであって、線条体16が水に浸漬されている場合でも、ダイバーが潜って点検する必要がなく、洪水時等の緊急時であっても線条体16の外径寸法の計測が可能となる。このため、線条体16が水に浸漬されている場合でも、線条体16の健全性評価精度の向上が可能となる。しかも、線条体16の外径寸法の計測は、一対の伸縮体101,102にて線条体16を挟持することによって行うものであるので、線条体16が他の構造物(実施形態ではダム洪水吐ゲート10の扉体11)に接触している状態であっても、外径寸法の計測は可能である。このため、点検範囲αにおいて、計測できない部位が生じず、線条体16の高精度の径計測が可能である。
【0058】
前記移動本体30を一対のブロック片31,32と連結用ガイドロッド34,35とを備えたものとするとともに、連結用ガイドロッド34,35に沿って往復動するブロック体にて構成することによって、移動部材25の構成の簡略化を図ることができ、軽量化および低コスト化を図ることができる。しかも、移動本体30に対する移動副体33の移動、移動副体33に対する移動本体30の移動が安定し、移動本体30及び移動副体33を線条体16に沿って安定して移動させることができる。
【0059】
前記チャック機構36,37の爪部材38a、38b、39a、39bの移動にエアシリンダ機構を用いたり、移動副体33を構成するブロック体の往復動にエアシリンダ機構を用いたりすることによって、簡単な構成で安定した動作を可能として低コスト化に寄与する。特に、水中での使用に最適となって、この径計測装置が、ダム洪水吐ゲート10の線条体16の点検に最適となる。
【0060】
ところで、前記実施形態では、計測手段80のノギス部材81の一対の伸縮体101、102は、本体側チャック機構26に連動して伸縮するものであるので、移動部材25の尺取り虫的動作範囲内において所定ピッチ毎に線条体16の外径寸法を把握することができ、線条体16の劣化調査(外径寸法の計測)を安定して行うことができる。
【0061】
ノギス部材81の一対の伸縮体101、102の駆動源はチャック機構の駆動源であるので、計測手段用に別途駆動源を設ける必要がなく、装置のコンパクト化を図ることができる。
【0062】
計測手段80のノギス部材81の一対の伸縮体101、102を副体チャック機構37に連動して伸縮するようにしてもよい。この場合、ノギス部材81を移動副体33に付設する必要がある。そして、副体チャック機構37が、線条体16を挟持しているときに、挟持片92A、92Bにて線条体16を挟持するとともに、副体チャック機構37が、線条体16を挟持していないときに、挟持片92A、92Bにて線条体6を挟持しないようにする。
【0063】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、動作を安定させるために、本体側チャック機構36及び副体側チャック機構37はそれぞれ一対ずつ設けていたが、それぞれ少なくとも1個あればよい。本体側チャック機構36や副体側チャック機構37を1機とする場合、線条体16をガイドするガイド部材を配置するのが好ましい。
【0064】
また、各チャック機構36,37は、それぞれ一対の爪部材38a、38b、39a,39bを備えたものであったが、このような爪部材に代えて、握持するようなものであってもよい。この場合、周方向沿って複数個のセグメントを円筒形状乃至リング形状に配設し、この円筒状部乃至リング部に線条体16を挿通し、各セグメントを径方向に変位させるようにすればよい。
【0065】
前記チャック機構36,37の爪部材38a、38b、39a,39bの移動および副体を構成するブロック体の往復動を、エアシリンダ機構にて行っていたが、エアシリンダ機構に限ることなく、油圧シリンダ機構であってもよい。また、シリンダ機構に代えて、モータ駆動機構を用いてもよい。
【0066】
前記実施形態では、移動部材25がダムの水中(淡水)を移動(走行)するものであったが、ダムの水中を走行することなく、海中や気中を走行するものであってもよい。また、検査対象である線条体はワイヤーロープに限るものではなく、種々の金属にて構成された金属線や金属撚線であってもよく、さらには材質として金属製に限るものではない。すなわち、本発明では、ワイヤーロープ等の線条体16を有する構造物に対して、その線条体16の外径寸法を計測することによる調査の効率化及び評価精度の向上が可能となる。移動部材25の移動本体30及び移動副体33の大きさとしては、計測する線条体16(ワイヤロープ)の外径寸法等に応じて種々のものを採用でき、また、尺取り虫的な間欠動作を行う際の移動本体30や移動副体33の1ピッチの移動量としても、線条体16の点検範囲α等に基づいて種々設定できる。
【0067】
前記実施形態では、モニタ装置は、本尺88の本尺目盛88aと、副尺87の副尺目盛87aとをその画面M上に映し出すものであった。すなわち、アナログ目盛を映し出すようにしていた。しかしながら、ノギス部材81として、測定値(計測値)をデジタルで表示するデジタルノギスを用いてもよく、この場合、画面M上に映し出すもの(計測目盛)としてデジタル値である。
【符号の説明】
【0068】
10 ラジアルゲート
16 線条体(ワイヤロープ)
25 移動部材
26 制御手段
27 制御盤
28 ブロック本体
30 移動本体
31,32 ブロック片
33 移動副体
34,35 連結用ガイドロッド
36 本体側チャック機構
37 副体側チャック機構
38a、38b、39a、39b 爪部材
53 チャック制御部
54 移動制御部
81 ノギス部材
82 防水性観察用カメラ
101、102 伸縮体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体の外径寸法を計測するための計測手段が付設された移動部材と、この移動部材を前記線条体に沿って移動させる制御手段とを備えた径計測装置であって、
前記移動部材は、
線条体に着脱自在に固定するための本体側チャック機構を有する移動本体と、本体長手方向に沿った往復動を可能として前記移動本体に付設されるとともに、線条体に着脱自在に固定するための副体側チャック機構を有する移動副体とを備え、
前記制御手段は、
前記本体側チャック機構によって移動本体が線条体に固定されている状態で前記副体側チャック機構による固定を解除し、前記副体側チャック機構によって移動副体が線条体に固定されている状態で前記本体側チャック機構による固定を解除するチャック制御部と、 前記本体側チャック機構によって移動本体が線条体に固定されている状態で移動副体を駆動機構を介して線条体長手方向に沿って移動させ、副体側チャック機構によって移動副体が線条体に固定されている状態で移動本体を駆動機構を介して線条体長手方向に沿って移動させる移動制御部とを備え、
前記計測手段は、水中に浸漬されている線条体の一対の伸縮体による挟持が可能であって、この挟持によって線条体の外径寸法を計測するノギス部材と、このノギス部材の計測目盛を観察する防水性観察用カメラとを備え、遠隔地に配置されたモニタ装置での前記観察用カメラの計測目盛画像の映し出しを可能としたことを特徴とする線条体の径計測装置。
【請求項2】
前記移動本体は、線条体長手方向に沿って所定間隔で配置される一対のブロック片と、このブロック片を連結する連結用ガイドロッドとを備えるとともに、各ブロック片に前記本体側チャック機構が付設され、移動副体は一対のブロック片間に配設されて前記連結用ガイドロッドに沿って往復動するブロック体にて構成し、このブロック体に副体側チャック機構が付設されていることを特徴とする請求項1に記載の径計測装置。
【請求項3】
前記チャック機構は、相互に接近・離間する方向に移動する一対の爪部材を備え、相互に接近した状態で線条体を挟持することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の径計測装置。
【請求項4】
前記チャック機構の爪部材の移動を、エアシリンダ機構にて行うことを特徴とする請求項3に記載の径計測装置。
【請求項5】
移動副体の移動本体に対する往復動、及び移動本体の移動副体に対する往復動を行うための前記駆動機構をエアシリンダ機構にて構成したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の径計測装置。
【請求項6】
前記計測手段のノギス部材の一対の伸縮体は、本体側チャック機構又は副体側チャック機構に連動して伸縮することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の径計測装置。
【請求項7】
ノギス部材の一対の伸縮体の駆動源は前記本体側チャック機構又は副体側チャック機構の駆動源であることを特徴とする請求項1に記載の径計測装置。
【請求項8】
線条体はダム洪水吐ゲートの開閉動作を行うワイヤーロープであって、このワイヤーロープは水中に浸漬されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の径計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−18130(P2012−18130A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156940(P2010−156940)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】