説明

微小孔の検査方法及び微小孔の形成方法

【課題】 プラスチックシートに貫通形成された微小孔の形成状態の良否判断を行う場合、電子顕微鏡等を用いての高倍率での観察が必要である。この場合、観察が容易でなく、また良否判断をするには形成状態を熟知している必要がある。
【解決手段】 穿孔前のプラスチックシートに薄膜を設け、プラスチックシートに穿孔して微小孔を貫通形成する。この後、プラスチックシートの薄膜を設けた面を観察面として、穿孔して貫通形成された孔部の周辺の皺や亀裂を観察することにより、微小孔の形状の検査をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックシートの厚み方向に貫通形成された微小孔の形状を検査する微小孔の検査方法及び微小孔の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、あらゆる分野で微細加工に対する要請が高まっている。その中で、微小液滴を生成させることなどを目的として、フィルム状又は薄板状の樹脂に微細な孔を設ける技術が求められている。例えば、インクジェット記録ヘッドは、一般に微細なインク吐出口(オリフィス)、インク流路、及び、このインク流路の一部に設けられる吐出エネルギー発生素子を備えている。オリフィスは、インク流路に連通するテーパ部とともにノズルを構成しており、フィルム状又は薄板状の部材にこのノズルを複数並べて形成したものをノズルプレートと呼んでいる。
【0003】
このノズルプレートのオリフィスは、より高品質な記録のため、一般的には50μm程度の径とされるが、例えば径が10μm程度といったさらなる微小孔が求められている。加えて、液の吐出方向を一定に保つには微小孔であるオリフィスにバリや切り欠きがあってはいけないこと、といった形状に対する厳しい要求がある。この要求される形状に対して、バリや切り欠き等の異常がなく、テーパ部が対称性の良い例えば円錐状に成形されているなどの成形条件の良否を判断する場合、オリフィスやテーパ部等の形状そのものを顕微鏡等を使用しての高倍率での観察が有効な手段である。
【0004】
微小孔の形状の検査方法として、顕微鏡、微小孔を持つ被観察基板を取り付けるモータ駆動可能な3方向制御のワークベッド、オートフォーカス装置、CCDカメラ、モータコントローラ、画像処理装置、コンピュータを主な構成としているノズルヘッド検査方法がある。この検査方法は、被観察基板をワークベッドに設定した後、オートフォーカスが働いているCCDカメラを設けた顕微鏡の画像を用いて、ワークベッドを駆動して微小孔であるノズルを探索し、捉えたノズルの画像からパターンマッチングという画像処理手法を用いて欠陥を検出するという一連の工程を、コンピュータを用いて自動で行うものである。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開平10−100415(第3−5頁、第1−4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、微小孔を形成するに当たっては、成形条件を設定する過程において、穿孔が達成されてないような成形条件の初期設定から実験等を繰り返して、より良い条件に設定条件を収束させることがある。例えば温度設定、上下型の傾き設定等を最適条件に収束させる場合、温度を現状より少し高く設定して成形する、傾き状態を現状より傾き度合いを少し減少させて成形する等の実験結果を踏まえて、より良い条件に設定することなどである。
【0006】
このような段階的条件設定の場合、成形条件設定の初期段階では、例えば穿孔されてない窪みの状態等から成形条件の設定の手がかりにすることが必要である。しかしながら、例えば窪みの状態の場合、観察面上の傷、塵等の存在から確かにそれが穿孔されようとしている箇所かどうかの判断が容易にできない。また、穿孔形状を検査する場合、穿孔の状態を高倍率で詳細に観察することが必要であり、観察内容から成形条件の設定状態を判断するには成形状態を熟知していることが必要である。
【0007】
例えば、特許文献1に記載されているのは、ほとんどの検査手順がコンピュータを用いて自動化され、また微小孔の欠陥は、予め記憶させている孔の形状を参照してのパターンマッチングにて検出できる範囲内の欠陥状態と想定している検査方法である。従って、この検査方法は、穿孔が十分に貫通形成されており、その形状状態が比較的良好な孔を高速に検査することが前提の検査方法である。従って、検査の手順や装置が大掛かりな割に検査対象の自由度が小さく、穿孔が不十分な状態が高い頻度で発生するような場合には不向きであり、上述したように、微小孔の形成条件を段階的に設定する場合に適用するのは難しい。このように、より簡便に測定を行うことができ、また成形条件設定の初期段階から微小孔の検査をすることを想定して、穿孔が不十分な状態においても微小孔の形状の検査が可能な検査方法が望まれる。
【0008】
本発明の課題は、これらを鑑みて、プラスチックシートに貫通形成された微小孔の形成状態の良否判断を容易にかつ明確に行う検査方法を提供することにある。また、本発明の他の課題は、微小孔の形状状態の良否判断を容易にかつ明確に行うことができる微小孔の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明においては、請求項1に記載のように、
プラスチックシートの厚み方向に貫通成形された微小孔の形状を検査する微小孔の検査方法において、
プラスチックシートに微小孔を形成するのに先立ってプラスチックシート上に薄膜を設けておき、
薄膜が形成されたプラスチックシートに対してその厚み方向に貫通した微小孔が形成された後に、
前記微小孔の周辺の薄膜状態を観察・検査するようにしたことを特徴とする微小孔の検査方法である。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明においては、請求項2に記載のように、
前記薄膜を導電性薄膜とし、前記プラスチックシートの厚み方向に貫通形成された前記微小孔の周辺の薄膜状態を電子顕微鏡により観察・検査することを特徴とする請求項1記載の微小孔の検査方法である。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明においては、請求項3に記載のように、
プラスチックシートの厚み方向に貫通形成される微小孔の形成方法において、
プラスチックシートに薄膜を設ける工程と、
薄膜が設けられた前記プラスチックシートを穿孔して、その厚み方向に貫通した微小孔を形成する工程と、
前記プラスチックシートに形成された微小孔周辺の薄膜状態を観察・検査する工程と、
を含むことを特徴とする微小孔の形成方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、プラスチックシートに微小孔を形成するに先立って、プラスチックシートに薄膜を設けておき、穿孔してその厚み方向に微小孔が貫通形成された後に、このプラスチックシートを顕微鏡などを用いて薄膜を形成した面を観察する。このようにすると、穿孔された微小孔の周囲の薄膜に穿孔加工時に生じる皺や亀裂などの特有の模様が存在しているのが観察できる。この皺や亀裂の状態を観察することにより、微小孔の形成状態を容易に、かつ明確に判断することができる。
【0013】
さらに、この皺や亀裂の形状・配置が回転対称性をもつ同心円状又は放射線状であり、その回転対称の中心とするところが穿孔位置であることを利用して、速やかに観察時に穿孔位置を特定することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、成形前に導電性薄膜を形成していることから電子顕微鏡を使用して、上述の皺や亀裂をより高倍率で観察することができる。このため、より詳細に観察することができ、また、さらに小さい微小孔の形成状態を容易に、かつ明確に判断することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、プラスチックシートに微小孔を形成するに先立って、プラスチックシートに薄膜を設けておき、穿孔してその厚み方向に微小孔が貫通形成された後に、このプラスチックシートを顕微鏡などを用いて薄膜を形成した面に生じる皺や亀裂などの特有の模様を観察・検査することにより容易にかつ明確に良否判断された微小孔が穿孔されたプラスチックシートを得ることができる。従って、微小孔の形成後の工程に対して微小孔の穿孔が不良であるプラスチックシートが流れることを容易に阻止できる。また、観察・検査する工程では、検査の手順や大掛かりな装置を必要としない。さらに、この工程では、穿孔が不十分な状態が高い頻度で発生するような場合にも対応できることから、例えば、微小孔の形成条件を段階的に設定する場合、成形条件設定の初期段階での良否判断から成形条件設定へのフィードバックをすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態を、図1に示すようなインクジェット記録ヘッドにおけるノズルプレート104の検査を例にして具体的に説明する。
【0017】
インク吐出口であるオリフィス部106は、1つのインクジェット記録ヘッドに複数設けられている。そのうちの1つのオリフィス部周辺の構成例を図2の断面図に示す。図2において、インク流路102を形成しているヘッドベース101の端面に、各インク流路102の位置に対応してテーパ部105とオリフィス部106とからなるノズル103が設けられたノズルプレート104が接着されている。図2に示してない圧電素子などのインク吐出エネルギー発生素子により、インク流路102内部の容積を急激に変化させて、ノズルプレート104に設けてあるノズル103を通じてインクジェット記録ヘッドに対向する紙面上等にインク滴を噴射する。
【0018】
ノズルプレート104を製造するための成形装置の概略図を図3に示す。プラスチックシートであるところの基板5は、ノズルプレートとなる成形前の部材である。基板5のプラスチックシートの素材としては、ノズルのテーパ部成形時に軟化させておくことが必要であることから加熱により軟化させることができる熱可塑性樹脂である。例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PC(ポリカーボネート),PE(ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)などである。熱可塑性樹脂には、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料等を添加することができる。また、基板5はシート状に予め加工されたものを使用している。この例では、厚みを概ね0.1mm〜0.5mmの範囲とする。
【0019】
基板5は、保持台6の保持面に、真空吸着にて装着する。保持台6の保持面は、型部材1の突起と相対するところは平面とし、またノズルプレート成形時に図2に示すオリフィス部106側の型となることから、それ以外の保持面も平面であることが好ましい。
【0020】
上型となる型部材1の成形面は、図2で示すノズル形成を例とすると、平面にテーパ部105及びオリフィス部106を形成するための突起を設ける。型部材1の突起以外の平面部分は、図2のヘッドベース101の端面に接着するノズルプレート104のテーパ部105側の面を形成する型となることから鏡面状が好ましい。型部材1の突起形状において、ノズルプレート104のテーパ部の形状を形成する部分は、錐形状が好ましいが、離型しやすい形状であれば、錐形状に限らない。また、オリフィス部106の形状を形成する部分は、円筒状、或いは離型しやすい形状であれば良い。また、突起の先端は平面とし、その高さは基板5の厚みと同一又はほぼ同一高さとなるようにする。突起の高さは基板の厚みと同一の高さであることが好ましいが、本実施形態においては、基板の厚みと全く同一高さでなくてよく、基板の厚みに対して±2%は許容できる。
【0021】
突起の一例として、φ0.3mm、長さ5mmの棒状のブランク材(ハイス鋼、JIS G 4403)を軸加工専用の微細ワイヤー放電加工機を用いて長さ約100μm、テーパの角度が約20度、先端が直径10μmの円を成す円錐台に直径10μmで長さ10μmの円筒を重ね合わせた形状の突起部材1aを作製する。これと、型部材ベース1bとを組み合わせて型部材1とする。組み立てられた型部材1の概略断面図を図4に示す。型部材ベース1bの平面を成す面に垂直なφ0.3mm、深さ5.5mmの穴を設け、これを突起部材1a取り付け穴とする。一方、この型部材ベース1bの側面から突起部材1a差し込み穴まで貫通するネジ穴を設け、突起部材固定ネジ1cをねじ込むことができるようにする。次に、例えば工具顕微鏡などを用いて型部材ベース1bの平面から突起の先端までの高さを測定し、この高さが基板5の厚みと同一又はほぼ同一高さとなる位置にする。そして、突起部材固定ネジ1cをねじ込み、このネジの先端が突起部材1aの型部材ベース1bに差し込まれている部分を締め付けることにより型部材ベース1bに固定され、型部材1と成す。
【0022】
尚、型部材1及び保持台6は、この例では、その母材として、炭素工具鋼SK13を使用しているが、これに限らず、例えば、金属母材あるいは合金母材として、鉄、ニッケル等の金属、超硬(タングステンカーバイド)、ステンレス等の合金などが使用できる。さらに、金型の耐久性を増すために保護膜、例えば、TiN(チタンナイトライド),AlN(窒化アルミ),SiC(シリコンカーバイド),Cr(クロム),DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を金型の成形面に形成することがより好ましい。
【0023】
第1プレート7は、プレス架台4に固定され、第2プレート2は上下に動くプレス機構3に固定されている。プレス機構3は、一般的な機能である位置制御、速度制御、加圧時に一定の圧力を維持する保持圧力制御、これらに時間設定を含めてのプログラムが可能なシーケンス制御を備えている。第1熱源10により第1プレート7を加熱し、保持台6を介して基板5を高温にする。また、第1熱源10による加熱と同時に、第2熱源8により第2プレート2を加熱し、型部材1を高温にする。基板5及び型部材1を効率良く加熱できるように成形装置の適当な箇所にセラミック等の断熱材を設けるのが好ましい。
【0024】
また、保持台6および型部材1のそれぞれに温度センサである熱電対を設け、先の第1熱源10、第2熱源8と別途設ける温度調整器とを組み合わせることにより型部材1と基板5とを独立して温度設定できる温度調整機能を本装置に持たせている。この温度調整機能は、必須のものではないが、型部材1及び基板5の温度設定を精度よく行うことにより、成形条件設定を容易にして、より安定に成形を行うことができることから、ある方が好ましい。
【0025】
基板5の温度は、成形時に基板5の形状を維持しかつ突起が容易に入り込む状態が好ましいことから、基板5の樹脂組成物のガラス転移温度よりやや低く、例えば、5℃〜20℃程度低い温度に設定するのがよい。明確なガラス転移温度を持たない場合は実験により決定すればよい。また型部材1の温度は、型部材1が降下して基板5に触れたとき、特に熱容量の少ない突起部の先端部が冷却されてガラス転移温度以下にならない温度、かつ型部材1に基板5が融着しない温度の範囲に設定するのがよい。融着しない温度は、基板5が明確な溶融温度を持つ場合は、溶融温度より50℃〜100℃程度低くすることが好ましい。また、基板5が明確な溶融温度を持たない場合、型部材1の温度は、実験により決定してもよい。
【0026】
次に基板5及び型部材1が上述のような所望の温度になっている状態で、プレス機構3により、成形を開始する。成形開始にあたって、一定速度にて型部材1を基板5に向けて降下させるプレス速度設定、圧力が一定となるようにする保持圧力設定、設定した保持圧に達した後、その圧力を保持する時間の設定を予め行っておく。
【0027】
プレス速度は、型部材1の突起が基板5に進入するときに、その周辺形状を損なうことなく、また予め設定した保持圧力に達する時にその値を超えない値に設定するのが好ましい。プレス速度が速すぎると、保持圧力制御の応答が遅れることにより設定した保持圧力を一時的に超えることが予測される。この場合、突起先端に想定以上の負荷がかかり破損する恐れがある。本実施形態においては、プレス速度は、0.005〜0.5mm/s、好ましくは0.01〜0.1mm/sに設定する。
【0028】
図5に示すように、型部材1の突起112全体が基板5に進入し、型部材1の突起112以外の平面111が基板5の上面全体と接触し、ついには予め定めるところの保持圧力値では降下できない高さで型部材1は停止する。ここで予め定めるところの保持圧力値は、加熱された基板5の圧縮応力を勘案して設定するが、実験により決めてもよい。この保持圧力値により、型部材1の平面111の停止高さは、保持台6の保持面から基板5の厚みと同一又はほぼ同一となり、この圧接状態を微小孔が貫通形成されるまで維持する。具体的には、微小孔が貫通形成されるのに必要十分な圧接状態の維持時間を実験にて決め、以後この時間を一定の圧接時間とする、若しくは、静電容量センサ等を用いて基板の静電容量をモニタすることで微小孔が貫通形成されたことを検出するような検出手段を設けることで上述の圧接時間に替えてもよい。
【0029】
上述の条件下での基板5への微小孔の貫通形成の詳細なメカニズムは明らかではないが、以下のようにして形成されるものと推測される。図5を用いて説明する。まず、プレス機構3により、図5(b)に示すごとく、型部材1の突起112が基板5に押し込まれ、元の基板5の部分は突起から周囲に向かって押し出されるようにして、基板5は型部材1の突起112を含めた成形面にて成形されていく。
【0030】
型部材1の突起112が基板5に進入していく周辺は、突起112部分に相当する前記基板5が盛り上がることが予測されるが、これは、型部材1の突起112周辺の平面111の形状に倣うように成形される。
【0031】
加熱された基板5の圧縮応力と同等となる保持圧力に達すると、プレス機構が停止する。この状態を図5(c)に示す。このとき、突起112の高さを基板5の厚みと同一又はほぼ同一としていることから、型部材1の突起112の先端113と保持台6の保持面との間に非常に薄い膜が形成されるものと推測される。尚、図5においては、図3で示している基板5上の蒸着薄膜501を省略している。
【0032】
この圧接状態で加熱と加圧が継続されることにより、型部材1の突起112の先端113と保持台6の保持面との間に存在する基板5の非常に薄い膜の最も弱いと思われる所から穿孔が始まり、その範囲が外側に向かって広がり、ついには非常に薄い膜が形成されている範囲全体に広がる。このようにして、突起112の先端113の平面形状と同等の形状の微小孔の貫通形成がなされるものと考えられる。
【0033】
加圧保持状態での一定時間の圧接が終了した後、基板5の温度をガラス転移温度より低く、かつ取り出すときに変形しない温度にし、また型部材1の温度も基板5のガラス転移温度より低くした状態で、プレス機構3により型部材1を上昇させて離型する。このときの温度を離型温度と呼ぶことにする。離型温度は、ガラス転移温度より低ければ良いが、取り扱いを考慮して、概ね30℃〜40℃が好ましい。
【0034】
離型完了後、真空吸着を停止させて、成形した基板5を取り出す。離型時、第1熱源10、第2熱源8を停止して装置周辺温度による自然冷却しても良いが、第1プレート7と第2プレート2とにそれぞれに第1冷却源11,第2冷却源9を設けて型部材1と保持台6とを強制冷却するのが好ましい。こうすることにより、より速く型部材1及び基板5を離型温度に到達させることができ、より速く成形済み基板5を取り出すことができる。この例では、第1プレート7、第2プレート2を水冷による強制冷却を行っている。以上によりプラスチックシート基板5に所望の微小孔が貫通形成される。
【0035】
本実施形態の検査方法及び微小孔の形成方法においては、上述した様に基板5を穿孔するのに先立って、予め基板5の観察面の表面に以下に述べる薄膜を形成する。
【0036】
例えば外形観察を得意とする走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて基板5の微小孔の形成状態をテーパ部を形成する側から観察する場合、図3の符号501で示す導電性薄膜を基板5上に形成する。以下、基板5の観察面に薄膜を形成することを前処理と呼ぶ。導電性薄膜の厚さは、概ね0.005μm〜0.05μm程度である。この前処理は、基板5に対して公知の蒸着方法を用いてよい。すなわち、真空蒸着法、電子ビーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法のいずれの方法を用いて良い。本例では、真空蒸着法又はスパッタリング法を用いている。また、上述した様に成形時に基板5を加熱する必要があり、その温度の上限温度を概250℃としていることから、250℃以下で基板5と薄膜となる蒸着材料と、が化学反応しないものであれば良い。蒸着材料として、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、クロム、ニッケル等が挙げられる。
【0037】
また、光学顕微鏡を用いて基板5の微小孔の形成状態を観察する場合、上述の導電性薄膜とするところの薄膜は、導電性であることが必須ではなく、また伸び性及び視認性が良いものが好ましい。
【0038】
上述のように例として導電性薄膜を形成した基板5を図3で示した成形装置にて成形した後、SEM(日本電子(株)製JSM−5410)を用いて観察する。基板5の導電性薄膜を形成した面を観察面となるようにSEMの試料室内の観察台に置く。その後、試料室内を真空度1.4x10-3Pa程度にして観察する。基板5を置いた観察台は、観察位置を移動させるために一般に使用されている観察台移動用ステージ、すなわち2軸直交、回転、傾き、上下移動が可能なステージに取り付けられている。
【0039】
SEMを使用しての観察開始時、SEMの設定倍率はSEMに設けてある観察用モニタで基板5の穿孔位置及びその周辺が広範囲に観察することができる、例えば35〜50倍程度に設定するのが好ましい。この後、倍率を上げて、例えば100〜200倍程度に設定すると、基板5に形成した薄膜に穿孔時に生じた皺や亀裂が観察用モニタで観察できる。この皺や亀裂はある点近傍を中心に概ね同心円又は放射線を成すようなに位置している。ここである点とは、穿孔位置である。
【0040】
上述した皺や亀裂の形状及びそれらの配置と穿孔位置との関係から、皺や亀裂の形状及びそれらの配置を基に穿孔位置を基準とした現在の観察位置を特定することができる。言い換えれば、現在の観察位置から穿孔位置を推測できることになる。これは、例えば3000〜5000倍程度の高倍率でもって穿孔径が10μm程度の孔を探し出して観察しようとするとき、速やかに現在の観察位置を把握し穿孔位置を推定する場合の有効な手段となる。また、上述のような高倍率でなくても、穿孔が不十分で窪み状態となった孔と、孔周辺に存在する傷・塵等とが紛らわしい場合においても、穿孔位置を特定するための有効な手段にもなる。
【0041】
この皺や亀裂の配置の様子を模式的に図6に示す。図6(a)又は(b)のように対称性が良い場合と図6(b)又は(c)のように対称性が良くない場合とに大別できる。
【0042】
ここで、穿孔位置を中心として皺や亀裂の配置が成す上述の同心円又は放射線の回転対称性の程度と穿孔されている孔の状態とを比較すると、対称性が良い場合、穿孔形状に歪みがない。皺や亀裂の上述の対称性が良くなく片側に偏る場合、穿孔の断面が円ではなく楕円であるなどの形状に歪みがあり、例えば基板5に対して型部材1の圧力が均等に加わらない等が推測される。また、基板5の加熱温度が低い場合や型部材1の加熱温度が低い場合、太く短い亀裂の集合模様となる。このように、皺や亀裂の状態を観察することで、孔の形成状態の良否が判断できる。
【0043】
観察倍率が100〜200倍程度にて観察される皺や亀裂の配置の対称性が、例えば図6(a)又は(b)に示す様に良い場合、さらに観察倍率を3000〜5000倍程度の高倍率に上げてより孔部に極近い、例えば孔径の数倍程度の周辺の薄膜状態を観察をすることにより、より詳細な成形状態からの良否判断ができる。
【0044】
上述の高倍率にて観察される様子の一例を図7(a)に示す。この例では、テーパ面に沿って開口部側を底辺とし、テーパ部から平面に替わる辺りを頂点とする三角形状の亀裂が観られ、この亀裂がテーパ部の円周方向にほぼ均等に対称性良く配置しているのが観察できる。また、テーパ部の円周方向に、同心円状に配置している皺や亀裂が観察できる。さらに、上述の三角形状の亀裂の頂点辺りから皺や亀裂が対称性良く放射状に伸びている様子が観察できる。また、例えば図6(c)又は(d)に示す様に対称性が良くない場合における高倍率での観察の一例を図7(b)に示す。図7(b)に示す様に、開口形状に歪みがあり、上述した三角形状の亀裂がテーパ部に不均等に対称性が悪く配置し、またその亀裂自体も歪んだ形状となっている。また、テーパ部の円周方向に皺や亀裂が観察できるが、同心円状等の配置とはなっていない。
【0045】
また、成形条件設定の初期段階では、皺や亀裂の状態が明瞭に観察されない場合がある。この場合、穿孔が不完全で貫通していないことが多く見られる。しかし、不明瞭ながら皺や亀裂の対称性は観察でき、その対称性が崩れている場合、例えば上下型の型面が傾いている等の成形条件設定に不具合があると判断できる。
【0046】
なお、プラスチックシート上の微小孔を電子顕微鏡によって観察する場合、プラスチックシートが絶縁性のものであれば、通常、金などの導電性薄膜を蒸着等によって観察表面に形成する。微小孔の成形後、観察面となる微小孔が存在する面に上述のように導電性薄膜を形成することは、例えば熱による変形が生じて本来の成形形状と異なった形状を観察する恐れがある。
【0047】
また、観察物の加工後に導電性薄膜を形成させてから電子顕微鏡で観察する方法では、上述したような回転対称性のある皺や亀裂は見られない。本実施形態においては、上述した様に基板5の観察面に薄膜を設ける工程を、基板5に微小孔を形成する前とすることによって、微小孔形成後に薄膜を形成する場合に生じる可能性のある、例えば熱による微小孔形状の変形などの外乱を含むことなく観察・検査ができる。
【0048】
上述では、電子顕微鏡を用いての観察方法を述べているが、光学顕微鏡を用いた場合、可能な観察倍率の範囲が異なるだけで同様の観察ができる。光学顕微鏡を用いる場合、その設定可能倍率は1000倍程度が上限であるため、例えば、穿孔穴径が100μm程度であれば、穿孔周辺の薄膜状態や孔の状態の観察も可能である。また、穿孔径が、例えば10μm程度の場合は、孔そのものや、孔部の極近傍の薄膜状態は十分に観察できないものの、孔部の周辺の皺や亀裂の状態は観察できる。一般に、電子顕微鏡の取り扱いは光学顕微鏡のそれと比較して複雑で煩雑である。従って、どの程度詳細な観察を必要としているのか、また観察の対象となる孔径に応じて、適当な倍率を選定したり電子顕微鏡と光学顕微鏡とを使い分けることは、効率よく検査をすることにおいて効果がある。
【0049】
なお、形成された微小孔の良否判定をする場合、例えば観察される画像を画像処理することで、予め決めた「合格パターン」又は「不合格パターン」と一致することにより合格又は不合格の判定をしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】インクジェット記録ヘッドの外観の一例を示す斜視図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドのオリフィス部周辺の断面の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態において用いられる微小孔を穿孔する装置の一例を説明する概念図である。
【図4】本発明の一実施形態において用いられる型部材の一例の模式的断面を示す図である。
【図5】製造工程を示す基板と型部材との状態遷移の一例を断面で示す図である。
【図6】穿孔位置周辺の薄膜に生じる皺や亀裂の配置の様子の一例を模式的に示す図である。
【図7】穿孔位置極近傍の薄膜に生じる皺や亀裂の配置の様子の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0051】
101 ヘッドベース
102 インク流路
103 ノズル
104 ノズルプレート
105 テーパ部
106 オリフィス部
107 接着層
1 型部材
1a 突起部材
1b 型部材ベース
1c 突起部材固定ネジ
111 突起周辺の平面
112 突起
113 突起の先端
2 第2プレート
3 プレス機構
4 プレス架台
5 基板
501 蒸着薄膜
6 保持台
7 第1プレート
8 第2熱源
9 第2冷却源
10 第1熱源
11 第1冷却源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックシートの厚み方向に貫通成形された微小孔の形状を検査する微小孔の検査方法において、
プラスチックシートに微小孔を形成するのに先立ってプラスチックシート上に薄膜を設けておき、
薄膜が形成されたプラスチックシートに対してその厚み方向に貫通した微小孔が形成された後に、
前記微小孔の周辺の薄膜状態を観察・検査するようにしたことを特徴とする微小孔の検査方法。
【請求項2】
前記薄膜を導電性薄膜とし、前記プラスチックシートの厚み方向に貫通形成された前記微小孔の周辺の薄膜状態を電子顕微鏡により観察・検査することを特徴とする請求項1記載の微小孔の検査方法。
【請求項3】
プラスチックシートの厚み方向に貫通形成される微小孔の形成方法において、
プラスチックシートに薄膜を設ける工程と、
薄膜が設けられた前記プラスチックシートを穿孔して、その厚み方向に貫通した微小孔を形成する工程と、
前記プラスチックシートに形成された微小孔周辺の薄膜の状態を観察・検査する工程と、
を含むことを特徴とする微小孔の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−208073(P2006−208073A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17908(P2005−17908)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】