説明

微細な液滴の形状で噴射し、積層塗布可能な金属ナノ粒子分散液

本発明は、極めて微細なパターン形状を有し、断面形状における厚さ/最小幅の比率が高い導電体層の形成に利用可能であり、微細なパターン形状を高い精度で描画する際、インクジェット法の適用を可能とする高い流動性を有し、導電性媒体として金属ナノ粒子のみを利用する分散液を提供する。本発明に従うと、微細な液滴の形状で噴射し、積層塗布可能な金属ナノ粒子分散液として、 平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子を、沸点80℃以上の分散溶媒中に分散させ、分散溶媒の容積比率は、55〜80体積%の範囲に選択し、分散液の液粘度(20℃)は、2mPa・s〜30mPa・sの範囲に選択した上で、インクジェット法などで微細な液滴として噴射すると、飛翔の間に、液滴中に含まれる分散溶媒の蒸散に伴い濃縮を受け、粘稠な分散液として、積層塗布が可能なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い流動性を示す、導電性金属ナノ粒子分散液、及びその調製方法と、該導電性金属ナノ粒子分散液を利用する方法に関し、より具体的には、インクジェット印刷法を適用して、基板上に、微細な平面パターン・サイズに対して、相対的に厚い層厚を示す塗布層の形成を可能とし、高いアスペクト比を示す金属ナノ粒子焼結体層の形成に利用される導電性金属ナノ粒子分散液、及びそれを利用した微細、かつ高いアスペクト比を示す金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置における実装に利用される、実装基板上に設ける配線パターンや、半導体素子と配線パターンとの間における接合部用パッドには、従来から金属メッキ膜が広く利用されてきた。また、昨今では、インクジェット印刷法を利用して、微細なパターン描画を行う手法の向上に伴い、導電性金属ペーストを利用する配線パターン形成の応用も進められている。加えて、導電性金属ペーストに利用されている金属フィラーの粒子サイズをより細かなものとすることで、より微細な配線パターンへの応用が進められている。
【0003】
一方、極めて粒子径の小さな金属超微粒子、少なくとも、平均粒子径が100nm以下である金属超微粒子の製造方法が確立されている。例えば、特開平3−34211号公報には、ガス中蒸発法を用いて調製される10nm以下の金属超微粒子を、分散溶媒中にコロイド状に分散した分散液とその製造方法が開示されている(特開平3−34211号公報参照)。また、特開平11−319538号公報などには、還元にアミン化合物を用いる還元析出法を利用して、平均粒子径が数nm〜数10nm程度の金属超微粒子を湿式で作製し、コロイド状に分散したものとその製造方法が開示されている(特開平11−319538号公報参照)。
【0004】
このナノサイズの平均粒子径を有する金属ナノ粒子を導電性媒体に利用することで、導電性金属ペーストを利用して形成される導電層は、極めて微細な配線パターンへ応用可能なものとなっている。導電性金属ペーストにおいて、数ミクロン・サイズの金属フィラーを用いる際には、バインダー樹脂を利用して、金属フィラー粒子相互を緻密に接触し、固定することで、電気的な導通経路を構成している。一方、平均粒子径数nm〜数10nm程度の金属超微粒子においては、同様な物理的に粒子相互を接触する手法では、かかる接点抵抗に起因する全体の抵抗率の上昇は、平均粒子径がより小さくなるとともにより顕著となる。
【0005】
一般に、平均粒子径数nm〜数10nm程度の金属超微粒子は、その融点よりも格段に低い温度(例えば、銀であれば、清浄な表面を有する超微粒子では200℃以下においても)で焼結することが知られている。これは、金属の超微粒子においては、十分にその粒子径を小さくすると、粒子表面に存在するエネルギー状態の高い原子の全体に占める割合が大きくなり、金属原子の表面拡散が無視し得ないほど大きくなる結果、この表面拡散に起因して、粒子相互の界面の延伸がなされ焼結が行われるためである。金属ナノ粒子を導電性媒体に利用する際には、この低温で焼結することが可能という特質を利用して、金属ナノ粒子相互が密に焼結で連結されたネットワーク状の焼結体層を形成することにより、接点抵抗に起因する全体の抵抗率の上昇を回避し、金属ナノ粒子の焼結体層全体の体積固有抵抗率として、10×10−6Ω・cm程度の良好な電気伝導性が達成されている。
【0006】
用いられる配線パターンの微細化が進み、配線幅が狭くなると、配線自体の抵抗増加を抑制するため、微細な幅とされる配線部に関しては、その配線層の層厚を、配線幅に対して相対的に厚くし、配線層断面における厚さ/幅比を大きくすることが望まれている。例えば、電解メッキ法を利用する金属メッキ膜では、配線幅がより微細になると、メッキ膜厚を増すと、そのエッジ端部への析出が生じるため、所望とする微細な線形状の均一性を維持しつつ、厚さ/幅比の大きな、微細線幅のメッキ膜を形成することは困難である。一方、導電性金属ペーストを利用する配線形成では、用いる導電性金属ペーストの流動性を高くすると、目的とする厚さ/幅比でペーストの塗布を試みても、ペーストの流動性に起因して、そのエッジ端部からラインの両側へと流出滲みが生じ、やはり、所望とする微細な線形状の均一性を維持しつつ、厚さ/幅比の大きな、微細線幅の導電性金属ペースト塗布層を形成することは困難である。
【0007】
また、急峻な端面形状を維持する、厚膜メッキ膜の形成手法として、レジスト膜などを利用したメッキ・マスクを予め作製した上で、このメッキ・マスクの開口形状に沿った電解メッキ膜を作製する方法が知られている。その場合、微細な幅として、厚さ(深さ)/幅比を大きくする開口部を具えるメッキ・マスクを設ける必要があるが、レジスト膜を利用して、このような厚さ(深さ)/幅比が高い開口を簡便に形成できる汎用的な手法は、未だ開発されていない。同じく、導電性金属ペーストを利用する配線形成においても、レジスト膜などを利用したマスクを用いると、エッジ端部からラインの両側への流出滲みを回避できるものの、厚さ(深さ)/幅比が高い開口を簡便に形成できる汎用的なマスク作製手法は、未だ開発されていない。特には、用いる導電性金属ペーストにおいて、含有される分散溶媒の比率を増すことで、高い流動性を達成している際には、塗布を終えた後、塗布層に含まれる分散溶媒を揮発・除去する際、開口溝の内部において、分散溶媒の蒸気が気泡状となり、ボイド発生の要因ともなる。
【0008】
少なくとも、従来の導電性金属ペーストを利用する配線形成法を利用して、厚さ(深さ)/幅比が高い断面形状を有する導電層、例えば、円形形状の底面を有する円柱形状において、高さが、底面の半径と同程度、あるいは、それ以上となる形状などを、デポジション法またはインクジェット法による塗布に適する、高い流動性を示す導電性金属ペースト型分散液を用いて、簡便に作製する手法は未だ開発されていない。
【発明の開示】
【0009】
以上に説明するように、配線基板上に形成される配線パターンにおいて、利用される配線ラインの線幅が微細化することに付随して、用いる導電性配線層において、特に、微細な線幅部分に関して、その配線層断面における、厚さ/幅比を高くすることが可能であり、また、汎用性、再現性の高い導電性配線層の形成手法の開発が待たれている。特に、配線パターン描画における汎用性を考慮すると、導電性金属ペースト型分散液を用いて、例えば、スクリーン印刷のように、予め作製したマスク・パターンを用いる代わりに、目的とする塗布パターンに合わせて、デポジション法またはインクジェット法によって、導電性金属ペースト型分散液の液滴を噴射・塗布する方式のマスクを必要としない塗布手法によって、その配線層断面における、厚さ/幅比を高くすることが可能であり、また、再現性の高い導電性配線層の形成手法の開発が待たれている。
【0010】
より具体的には、微細な最小線幅を有する配線パターンの作製において、導電性金属ペースト型分散液から、導電性配線層を形成する際には、その微細な線幅の描画精度、例えば、サブ・ミクロンオーダーの描画精度、線幅の制御性を達成するためには、利用する導電性媒体(金属フィラー)は、平均粒子径数nm〜数10nm程度の金属超微粒子を採用することが必要となる。すなわち、導電性媒体として、平均粒子径数nm〜数10nm程度の金属超微粒子を分散溶媒中に含む、金属ナノ粒子分散液を利用して、インクジェット法による塗布層描画によって、最終的に、例えば、厚さが10μmを超え、対して最小線幅が10μmを下回るような、厚さ/最小線幅の比率が高い導電性配線層を高い再現性で、簡便に形成することができる手法と、かかる厚さ/最小線幅の比率が高い塗布層のインクジェット法による描画に好適に利用可能な、高い流動性を有する金属ナノ粒子分散液の開発が待たれている。
【0011】
本発明は前記の課題を解決するもので、本発明の目的は、例えば、直径数μmの円形パターンのように、極めて微細なパターン形状を有し、その断面形状における厚さ/最小幅の比率が高い導電体層の形成に利用可能であり、また、かかる微細なパターン形状を高い精度で描画する際、インクジェット法の適用を可能とする高い流動性を有し、導電性媒体として金属ナノ粒子のみを利用する導電性金属ペースト型の分散液の提供と、該導電性金属ペースト型の金属ナノ粒子分散液を利用して、極めて微細なパターン形状を有し、その断面形状における厚さ/最小幅の比率が高く、優れた通電特性を示す導電体層を作製する方法を提供することにある。より具体的には、本発明の目的は、金属ナノ粒子分散液を用いて、微細な配線パターンに描画される塗布層を低温加熱処理して、該金属ナノ粒子相互が低温焼結した焼結体型導電体層を形成する際、極めて微細なパターン形状を有し、その断面形状における厚さ/最小幅の比率を1/1以上に高くすることができ、そして、得られる極めて微細なパターンの焼結体型導電体層の体積固有抵抗率は、金属ナノ粒子を構成する金属材料のバルク状態で得られる体積固有抵抗率を基準として、その10倍以内、好ましくは、5倍以内の優れた通電特性が高い再現性で得られ、安定した良好な通電特性を有し、高い信頼性を有する微細な焼結体型導電体の形成を可能とする、新規な構成の金属ナノ粒子分散液を提供することにある。
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を進める過程において、通常、平均粒子径が0.5μm程度の金属微粉末フィラーを含有する導電性金属ペーストにおいては、バインダー樹脂成分は、熱硬化、収縮を起こすことによって、これら金属微粉末フィラー間の機械的接触を密にする役割と、全体の導電体層を凝縮するバインダー、基板面への固着を図る接着性樹脂の機能を果す必須成分であるものの、仮に、膜厚方向においても、緊密な連結がなされる金属ナノ粒子相互の緻密な焼結体層が一体的に構成される場合には、焼結体相互において、各焼結体表面に位置する金属ナノ粒子間の機械的接触を密にする役割、ならびに全体の導電体層を凝縮するバインダーの機能を利用する必要は無く、バインダー樹脂成分は最早必須成分で無いことを見出した。
【0013】
一方、金属ナノ粒子自体は、直接金属表面を接触させると、相互に融着を生じて、相対的に嵩比重の小さな凝集体を形成するため、分散溶媒中において、金属ナノ粒子が均一に分散する状態を維持する上では、金属ナノ粒子表面に被覆分子層を設け、金属ナノ粒子自体が、直接金属表面を接触させることを回避することが好ましいことも確認した。かかる表面に被覆分子層を有する金属ナノ粒子の分散液を塗布し、含有される分散溶媒を蒸発・除去すると同時に、前記表面の被覆分子層を除去すると、緻密に積層されている金属ナノ粒子間では、表面の被覆分子層が除去され、微細な球状粒子の金属表面同士が直接接触する点から、低温焼結が進行し、金属ナノ粒子の焼結体層が形成される。その際、低温焼結が進行するとともに、凝集、体積収縮を起こすため、この微細な球状金属粒子の隙間空間を満たしている、液相成分を排除する必要がある。塗布膜とした際、含有されている分散溶媒の残留比率を予め低下させ、金属ナノ粒子が最密充填状態に類する、緻密に積層されている状態とすると、形成される金属ナノ粒子相互の緻密な焼結体層は、一層緻密なものとなるので、また、得られる導電体層の体積固有抵抗率においても、格段の低減が可能となることを見出した。
【0014】
なお、分散溶媒には、加熱した際、かかる金属ナノ粒子の被覆分子を溶出し、表面から離脱する遊離溶剤として機能する、被覆分子に対して高い親和性を有する有機溶剤を利用することが望ましく、金属ナノ粒子が最密充填状態に類する、緻密に積層されている状態とする上では、不必要な分散溶媒は、速やかに蒸発除去可能な形態で塗布することが好ましいことも見出した。具体的には、インクジェット法を適用して、塗布を行うためには、微細な開口径を有するノズルの先端から微細な液滴として、噴射、吐出が可能な程度に、高い流動性を有する分散液である必要はあるものの、一旦、微細な液滴として、噴射、吐出された後は、高い流動性を達成する目的で加えられている、希釈用分散溶媒に相当する余剰な分散溶媒量は、最早必要でないことに想到した。すなわち、噴射、吐出された微細な液滴が、塗布面上に着弾する時点では、その流動性は、例えば、スクリーン印刷に適合する程度まで低下し、粘性が増した状態となってもよいことを見出した。
【0015】
より具体的に検証を進めたところ、噴射、吐出された微細な液滴は、その体積に比較して、その表面積は、その液滴の径に反比例して、相対的に広くなり、従って、分散溶媒の蒸発・散逸が進み易い。但し、含有されている金属ナノ粒子の粒子径は極めて小さく、粒子径とその相互の隙間が一定比率を下回ると、その狭い隙間を占めている分散溶媒は、毛細管内に浸潤していると同様の状態となり、それ以上の分散溶媒の蒸発・散逸は、緩やかにしか進行しない。すなわち、噴射、吐出された微細な液滴は、飛翔をしている間に、その表面から余剰な分散溶媒は、速やかに蒸散するが、少なくとも、分散媒質の金属ナノ粒子を一体に保持する上で必要とする溶媒量は残留した状態で、塗布面上に着弾させることができることが判明した。その表面から余剰な分散溶媒が、速やかに蒸散することに伴い、微細な分散媒質の金属ナノ粒子が占める体積比率が増す結果、この濃縮された分散液の液粘度は急速に増すことが判明した。
【0016】
本発明者らは、このように塗布面上に着弾する時点で粘性が増した状態とできると、一回当たりにインクジェット法で塗布される膜厚は薄いものの、複数回、同じ位置に繰り返し塗布し、積層された塗布膜厚を増すことができること、その際、塗布面上に着弾した時点では、流動性が大幅に低減しており、流出・滲み出しによる形状の崩れを回避でき、例えば、底面に対して、その高さが相対的に高い、高いアスペクト比を示す円柱状の塗布層を形成することも可能であることを確認した。さらには、この高いアスペクト比を示す塗布層では、含まれる金属ナノ粒子が緻密に積層されている状態を達成し、残されるその粒子間の狭い隙間を満たすに足りる、最小限の量の溶媒成分は残留して、全体の形状が崩落することを防止しているが、その後、焼結処理を行う際、この最小限の量の溶媒成分は、低温焼結が進行するとともに、速やかに排除されることも確認し、本発明者らは、これら一連の知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液は、
微細な液滴の形状で噴射し、積層塗布可能な金属ナノ粒子分散液であって、
前記金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmの範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液は、固形成分として、前記金属ナノ粒子を分散溶媒中に均一に分散してなる分散液であり、
該金属ナノ粒子表面は、かかる金属ナノ粒子に含まれる金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、またはイオウ原子を含み、これら原子の有する孤立電子対による配位的な結合が可能な基を有する化合物1種以上により被覆されており、
前記金属ナノ粒子100質量部に対して、前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物一種以上を総和として、10〜50質量部を含有し、
前記分散溶媒は、有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物からなる混合溶媒であり、少なくとも、温度15℃以上において、均一な液体状態を示し、該分散溶媒を構成する、有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物の少なくとも一つは、前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物一種以上に対する親和性を有し、
該分散溶媒自体の液粘度(20℃)は、10mPa・s以下の範囲に選択され、
前記金属ナノ粒子分散液中において、前記分散溶媒の容積比率は、55〜80体積%の範囲に選択し、該金属ナノ粒子分散液の液粘度(20℃)は、2mPa・s〜30mPa・sの範囲に選択され、
前記金属ナノ粒子分散液中に含まれる分散溶媒を一部蒸散除去して、前記分散溶媒の容積比率が、20〜50体積%の範囲となるまで濃縮が施された濃縮分散液は、その液粘度(20℃)は、20Pa・s〜1000Pa・sの範囲の粘稠な濃縮液となることを特徴とする金属ナノ粒子分散液である。
【0018】
その際、前記金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜20nmの範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中において、該金属ナノ粒子の含有比率は、40質量%以上に選択されていることが好ましい。例えば、前記金属ナノ粒子は、
金、銀、銅、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、タンタル、ビスマス、鉛、インジウム、錫、亜鉛、チタン、アルミニウムからなる金属の群より選択される、一種類の金属からなるナノ粒子、あるいは、
該金属の群より選択される、二種類以上の金属の合金からなるナノ粒子であることが好ましい。
【0019】
なかでも、前記金属ナノ粒子は、金のナノ粒子であり、
該金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜20nmの範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中において、該金属ナノ粒子の含有比率は、40質量%以上に選択されている形態、あるいは、
前記金属ナノ粒子は、銀のナノ粒子であり、
該金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜20nmの範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中において、該金属ナノ粒子の含有比率は、40質量%以上に選択されている形態であると、さらに好ましい。
【0020】
一方、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液においては、その分散溶媒を構成する有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物は、
少なくとも、その一つは、融点は、20℃以下、沸点は、80〜300℃の範囲である有機溶剤であることがより好ましい。特には、前記分散溶媒は、100℃以上に加熱した際、該分散溶媒100質量部当たり、金属ナノ粒子表面を被覆する前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物を50質量部以上溶解可能な、高溶解性を有する有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物からなる混合溶媒であることが好ましい。
【0021】
加えて、本発明は、上述する発明にかかる金属ナノ粒子分散液が示す、微細な液滴の形状で噴射し、積層塗布可能という特質を利用する、金属ナノ粒子分散液の種々な利用方法の発明をも提供し、
例えば、上述する構成を有する、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を、導電体層の形成に利用する方法は、
本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用して、
基板上に金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる、微細形状の良導電性導電体層を形成する方法であって、
前記焼結体層は、少なくとも、層の厚さが、1μm以上で、層の厚さ/幅の比率が1/4以上の高いアスペクト比を示す領域を含み、
前記高いアスペクト比を示す領域においては、微細形状の平面パターンに、前記金属ナノ粒子分散液を微細な液滴の形状で噴射して、一回当たり、塗布膜厚0.1μm〜1μmの範囲の塗布層を設ける操作を複数回繰り返して、前記焼結体層の層の厚さを超える、積層塗布膜を形成する工程と、
前記金属ナノ粒子分散液の積層塗布膜中に含まれる、金属ナノ粒子に対して焼成処理を行って、該金属ナノ粒子相互の焼結体層を形成する工程とを有し、
前記積層塗布膜を形成する工程において、
前記金属ナノ粒子分散液を微細な液滴の形状で噴射した後、該微細な液滴が塗布面に到達する間に、液滴中に含有する分散溶媒の一部が蒸散されて、濃縮された液滴による塗布がなされ、
該金属ナノ粒子相互の焼結体層形成は、300℃を超えない温度に前記塗布層を加熱することによってなされ、
該焼成処理における加熱を施す際、該金属ナノ粒子表面を被覆する窒素、酸素、イオウ原子を含む基を有する化合物が、高溶解性を有する有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物からなる混合溶媒を用いる分散溶媒中に、金属ナノ粒子表面からの解離、溶出がなされて、金属ナノ粒子相互の表面接触が達成され、
該金属ナノ粒子相互の焼結と、分散溶媒の蒸散除去とがなされることを特徴とする導電体層の形成方法である。
【0022】
例えば、かかる方法は、
前記焼結体層には、少なくとも、前記高いアスペクト比を示す領域として、
微細形状の平面パターン上に形成される層の形状が、柱状である領域が含まれる場合に好適に適用できる。その際、前記柱状の形状を示す焼結体層部において、その柱の高さは、10〜100μmの範囲に選択することができ、また、その底面の形状は、直径が0.5〜50μmの範囲に選択されている円形であることができる。
【0023】
また、前記焼結体層には、少なくとも、前記高いアスペクト比を示す領域として、
微細形状の平面パターン上に形成される層の形状が、円板状の外形、あるいは、段階的に直径が減少する円板状の膜が順次積層され、全体として、円錐台様の外形を示す領域が含まれる場合にも好適に適用できる。例えば、前記円板状の外形を示す焼結体層部において、その底面の形状は、直径が0.5〜50μmの範囲に選択されている円形であってもよい。
【0024】
さらには、前記焼結体層には、少なくとも、前記高いアスペクト比を示す領域として、
多層配線用基板において、その上層と下層とを連結するスルーホールに対して、該スルーホール穴部の下端から上端へと、穴部内を充満する埋め込み形状を示す領域が含まれる場合にも好適に適用できる。例えば、前記スルーホール穴部内を充満する埋め込み形状を示す焼結体層部において、そのスルーホール穴の形状は、直径が1〜100μmの範囲に選択されている円形であってもよい。加えて、スルーホール穴の形状が、直径が1〜500μmの範囲に選択されている円形の場合に適用できる。例えば、直径が5〜300μmの範囲、より好ましくは、20〜200μmの範囲に選択されている円形形状のスルーホール穴に対して、好適に応用可能である。
【0025】
なお、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を、導電体層の形成に利用する方法においては、
前記金属ナノ粒子分散液を微細な液滴の形状で噴射して、積層塗布膜を形成する工程において、
前記金属ナノ粒子分散液を微細な液滴の形状で噴射する手法として、デポジション法またはインクジェット法を選択することが好ましい。また、該金属ナノ粒子相互の焼結体層形成における、加熱温度は、150℃〜300℃の範囲に選択することが好ましい。
【0026】
例えば、前記の範囲に焼結体層形成時の加熱温度を選択する場合、
前記金属ナノ粒子分散液中に含まれる、前記金属ナノ粒子は、
金、銀、銅、白金、パラジウムからなる金属の群より選択される、一種類の金属からなるナノ粒子であることが好ましい。特には、前記金属ナノ粒子は、
金のナノ粒子または銀のナノ粒子であり、
該金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜20nmの範囲に選択されていることがより好ましい。
【0027】
さらには、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を、種々の配線基板の作製に利用する方法の発明も提供され、
その第一の形態は、上述の構成を有する本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用して、
基板上に金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる、微細形状の良導電性導電体層を形成してなる配線基板を作製する方法であって、
前記配線基板は、その所定位置にチップ部品を実装搭載する際に、上層との電気的な接合用の導電体ピラーを設けており、
チップ部品の実装搭載を終えた後、チップ部品の搭載面を覆う樹脂封入層が形成されてなる、樹脂封入層を具えるチップ部品搭載基板とされ、
前記導電体ピラーを、上記の柱状形状を有する導電体層の形成方法を用いて作製される、柱状の形状を示す焼結体層として、作製する工程と、
前記導電体ピラーを設けた配線基板上に、前記チップ部品を実装搭載する工程と、
前記実装搭載されたチップ部品を含め、搭載面を覆う樹脂封入層を形成する工程とを有することを特徴とするチップ部品搭載基板の作製方法である。
【0028】
その第二の形態は、上述の構成を有する本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用して、
基板上に金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる、微細形状の良導電性導電体層を形成してなる配線基板を作製する方法であって、
前記配線基板は、
前記チップ部品搭載基板の作製方法を用いて作製されるチップ部品搭載基板に対して、その樹脂封入層の表面に、上層の回路配線パターンを設け、
前記上層の回路配線パターン上に、別のチップ部品の実装搭載を終えた後、該チップ部品の搭載面を覆う樹脂封入層が形成されてなる、樹脂封入層を具えるチップ部品搭載多層基板とされ、
前記チップ部品搭載基板の作製方法を用いて、下層の回路配線パターン上にチップ部品搭載し、搭載面を覆う樹脂封入層を形成する工程と、
前記チップ部品搭載基板に設ける樹脂封入層の表面に、上層の回路配線パターンを形成する工程と、
前記上層の回路配線パターン上に、別のチップ部品を実装搭載する工程と、
前記実装搭載されたチップ部品を含め、搭載面を覆う樹脂封入層を形成する工程とを有し、
前記上層との電気的な接合用の導電体ピラーが、下層と上層間における電気的な接合部の少なくとも一つに利用されることを特徴とするチップ部品搭載多層基板の作製方法である。
【0029】
その第三の形態は、上述の構成を有する本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用して、
基板上に金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる、微細形状の良導電性導電体層を形成してなる配線基板を作製する方法であって、
前記配線基板は、その所定位置にチップ部品を実装搭載する際に、該チップ部品に対する電気的な接合用のバンプを設けており、
前記バンプ上にチップ部品の電極部を配置して、実装搭載してなるチップ部品搭載基板とされ、
前記バンプを、上記円板状(又は円錐台様)の外形形状の導電体層形成方法を用いて、円板状(又は円錐台様)の形状を示す焼結体層として、作製する工程と、
前記円板状(又は円錐台様)のバンプを設けた配線基板上に、前記チップ部品を実装搭載する工程とを有することを特徴とするチップ部品搭載基板の作製方法である。
【0030】
その第四の形態は、上述の構成を有する本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用して、
基板上に金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる、微細形状の良導電性導電体層を形成してなる配線基板を作製する方法であって、
前記配線基板は、
少なくとも、二層以上の回路配線が、各層用の基板上面に形成され、
その上層用の基板を貫通するスルーホールを設け、
上層と下層間の電気的な接合経路として、少なくとも、該スルーホール内に形成する、埋め込み導電体層からなるビア・ホール接続を利用する多層配線基板とされ、
上記の埋め込み導電体層を該スルーホール内に形成する方法により、前記ビア・ホール接続に利用する、該スルーホール内の埋め込み導電体層を形成する工程を有することを特徴とする多層配線基板の作製方法である。
【0031】
本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用すると、デポジション法またはインクジェット法など、微細な液滴として噴射し、所望の微細な領域に塗布が可能な塗布手段を利用して、金属ナノ粒子が緻密に積層される形態の塗布膜を、例えば、底面の面積が小さく、高さの高い柱状に積層した塗布層に形成することもでき、その後、低温焼結処理を施して、縦方向に長く延びた金属焼結体柱を作製することが可能となる。すなわち、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用することで、例えば、インクジェット法の塗布手段を適用して、微細な平面パターンであって、その焼結体層の膜厚が相対的に厚い、高いアスペクト比を示す微細な金属ナノ粒子焼結体層を、簡便に、また、高い形状制御性、再現性で作製することが可能となる。加えて、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用することで、作製される焼結体層は、その体積固有抵抗率を、高い再現性で10×10−6Ω・cm以下の好適な範囲とすることが可能となり、低インピーダンスでかつ微細な配線パターンの形成に好適に利用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、実施例1に記載される銀ナノ粒子の焼結体層で作製される、金属柱型ピラーの外形形状を、顕微鏡(SEM)観察により観察したイメージ画像のプリントアウトを示す図である。
【図2】図2は、実施例6に記載される金ナノ粒子の焼結体層で作製される、金属円板(円錐台)型バンプの外形形状を、顕微鏡(レーザー顕微鏡)観察により観察したイメージ画像のプリントアウトを示す図である。
【図3】図3は、実施例8に記載される銀ナノ粒子の焼結体層で作製される、金属円板(円錐台)型バンプの外形形状を、顕微鏡(SEM)観察により観察したイメージ画像のプリントアウトを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
発明者らは、金属ナノ粒子分散液の構成成分である金属ナノ粒子、被覆剤および溶媒の種類または添加量を変えることにより分散液の物性が大きく変化することを見出した。特に、分散溶媒の含有比率が分散液の液粘度に顕著な影響を与えることを確認した。その結果、特定の成分により構成された金属ナノ粒子分散液を微細な液滴として噴射後、飛翔して、対象物上に堆積するまでの間に、この液滴中に含まれる分散溶媒が蒸散すると、濃縮された液の粘度は急速に増し、例えば、柱状構造の塗布層を形成することも可能であることを見出した。
【0034】
すなわち、金属ナノ粒子分散液を基板上に微小な液滴として噴射する際、少なくとも、液滴の平均径を3μm以下の範囲とすることにより、含有される分散溶媒の蒸散が促進され、着弾する時点では、金属ナノ粒子分散液の液滴中に残留する分散溶媒量は有意に低下し、それに伴い流動性が極度に低下する。その結果、噴射される金属ナノ粒子分散液の液滴は小さい上に、着弾した液滴の金属ナノ粒子分散液の流動性も低下しているので、一液滴当たり形成される、金属ナノ粒子の塗布ドットの直径は、0.5〜5μmと非常に小さくなる。その後、なお、残留する分散溶媒も、個々の塗布ドットの皮膜は薄いため、瞬時に大部分が蒸発し、基板上には、緻密に積層された金属ナノ粒子が、その粒子間の狭い隙間のみに分散溶媒が浸潤した高粘度体として付着する。このドット塗布操作を繰り返すことにより、基板上に、塗布ドット径の金属ナノ粒子塗布膜が厚く積層形成することが可能となる。その際、この様な非常に小さな面積の金属ナノ粒子塗布層が、分散液の噴射を継続することにより、縦方向に堆積されると、最終的には、高さが10〜100μmの金属ナノ粒子の塗布層で形成された柱状構造が形成される。その後、堆積した金属ナノ粒子の柱状構造を低温にて焼結し、金属ナノ粒子表面の被覆分子層および粒子の隙間に浸潤している分散溶媒を除去することにより、金属ナノ粒子同士が融着して、柱状の金属焼結体層が形成される。この様にして形成された金属焼結体柱は金属含有率が高く、緻密な構造を有しているため、金属そのものの体積固有抵抗値に近い値を示す。
【0035】
上記の機構によって、金属ナノ粒子分散液の微細な液滴として、噴射塗布して、高いアスペクト比を示す積層塗布層を形成する上では、分散溶媒の容積含有比率の変化に伴い、その液粘度の変化がより急激に生じることが好ましく、平均粒子径がより小さい範囲に選択することが好ましい。すなわち、金属ナノ粒子の平均粒子径を、1〜20nmの範囲に選択することがより好ましい。また、当初の金属ナノ粒子分散液中に含まれる、金属ナノ粒子の含有量を、40質量%以上に選択して、相対的に分散溶媒の容積含有比率を、微細な液滴として、噴射する上で必要とする高い流動性を達成できるものの、可能な限り低い水準に設定することが好ましい。一方、当初の金属ナノ粒子分散液中に含まれる、分散溶媒の容積含有比率が高いと、噴射後、着弾するまでに溶媒の蒸発が目標とする値まで進行せず、着弾した時点の金属ナノ粒子分散液は、なお、相当の流動性を示すため、例えば、金属ナノ粒子塗布層による柱状構造の形成は困難となる。
【0036】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0037】
本発明の金属ナノ粒子分散液は、デジタル高密度配線に対応した低インピーダンスでかつ極めて微細な回路形成に利用される超ファイン印刷用にも利用できるが、特に、例えば、厚さが10μmを超え、対して最小線幅が10μmを下回るような、厚さ/最小線幅の比率が高い導電性配線層や、径が数μm、高さが数10μmの細い柱状の導電体ピラー、底面の直径が数μmの円板状(又は円錐台様)の外形を示す導電体バンプ、穴径が数μmのスルーホールを介するビア・ホール接続等、高いアスペクト比を示す微細な平面パターンを有する導電体層を該金属ナノ粒子の焼結体層で形成する目的で利用される。従って、前記の微細な平面パターンを高い精度で描画するため、含有される金属ナノ粒子は、目標とする超ファイン印刷の線幅、平面形状サイズに応じて、その平均粒子径は1〜100nmの範囲に選択する。好ましくは、平均粒子径を1〜20nmの範囲に選択する。含有される金属ナノ粒子自体の平均粒子径を前記の範囲に選択することで、インクジェット印刷法などの既知の方法により、極めて微細な線幅のパターンへの塗布を可能としている。
【0038】
このように、極めて微細な金属ナノ粒子を用いる際には、乾燥粉体の形態では、粒子同士が接触すると、各々の金属ナノ粒子が付着することにより凝集を起こし、そのような凝集体は、本発明が目的とする高密度印刷用には適さないものとなる。このナノ粒子同士の凝集を防ぐために、金属ナノ粒子の表面に低分子による被覆層を設け、液体中に分散された状態となっているものを利用する。すなわち、本発明の金属ナノ粒子分散液においては、積層塗布された厚い塗布層を加熱処理して、含有されている金属ナノ粒子同士、その接触界面における融着を起こすように、金属ナノ粒子の表面には、酸化膜が実質的に存在しない状態となっているものを利用する。
【0039】
具体的には、原料とする金属ナノ粒子は、その表面は、かかる金属ナノ粒子に含まれる金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物1種以上により被覆された状態とする。すなわち、かかる金属ナノ粒子に含まれる金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物1種以上により、金属ナノ粒子の金属表面を均一に被覆した状態とする、例えば、末端アミノ基を1以上有するアミン化合物などにより被覆された状態を保持しつつ、一種以上の有機溶剤中に分散されてなる金属ナノ粒子の分散液を用いる。
【0040】
この被覆層の役割は、加熱処理を施すまでは、金属ナノ粒子が互いにその金属表面が直接接触しない状態とすることによって、分散液中に含有される金属ナノ粒子の凝集を抑制し、保管時の耐凝集性を高く維持することである。また、仮に塗布を行う際など、水分や大気中の酸素分子と接しても、金属ナノ粒子の表面は、既に被覆層で覆われており、水分子や酸素分子との直接的な接触に至らないので、水分や大気中の酸素分子による金属超微粒子表面の自然酸化膜の形成も抑制する機能をも有する。
【0041】
この金属ナノ粒子表面の均一な被覆に利用される化合物は、金属元素と配位的な結合を形成する際、窒素、酸素、またはイオウ原子上の孤立電子対を有する基を利用するもので、例えば、窒素原子を含む基として、アミノ基が挙げられる。また、イオウ原子を含む基としては、スルファニル基(−SH)、スルフィド型のスルファンジイル基(−S−)が挙げられる。また、酸素原子を含む基としては、ヒドロキシ基(−OH)、エーテル型のオキシ基(−O−)が挙げられる。
【0042】
利用可能なアミノ基を有する化合物の代表として、アルキルアミンを挙げることができる。なお、かかるアルキルアミンは、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、好ましくは100℃以上、より好ましくは、150℃以上の範囲となるものが好ましい。一方、導電性ナノ粒子ペーストの加熱処理を行う際には、金属ナノ粒子表面から離脱した後、最終的には、分散溶媒とともに、蒸散することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を超えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。例えば、アルキルアミンとして、そのアルキル基は、C8〜C18の範囲に選択され、アルキル鎖の末端にアミノ基を有するものが用いられる。例えば、前記C8〜C18の範囲のアルキルアミンは、熱的な安定性もあり、また、室温付近での蒸気圧もさほど高くなく、室温等で保管する際、含有率を所望の範囲に維持・制御することが容易であるなど、ハンドリング性の面から好適に用いられる。
【0043】
一般に、かかる配位的な結合を形成する上では、第一級アミン型のものがより高い結合能を示し好ましいが、第二級アミン型、ならびに、第三級アミン型の化合物も利用可能である。また、1,2−ジアミン型、1,3−ジアミン型など、近接する二以上のアミノ基が結合に関与する化合物も利用可能である。また、分散溶媒に溶解可能な程度の比較的分子量が小さいなポリアミン型化合物を利用することもできる。場合によっては、ポリオキシアルキレンアミン型のエーテル型のオキシ基(−O−)を鎖中に含む、鎖状のアミン化合物を用いることもできる。その他、末端のアミノ基以外に、親水性の末端基、例えば、水酸基を有するヒドロキシアミン、例えば、エタノールアミンなどを利用することもできる。
【0044】
また、利用可能なスルファニル基(−SH)を有する化合物の代表として、アルカンチオールを挙げることができる。なお、かかるアルカンチオールも、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、好ましくは100℃以上、より好ましくは、150℃以上の範囲となるものが好ましい。一方、導電性ナノ粒子ペーストの加熱処理を行う際には、金属ナノ粒子表面から離脱した後、最終的には、分散溶媒とともに、蒸散することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を超えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。例えば、アルカンチオールとして、そのアルキル基は、C4〜C20が用いられ、さらに好ましくはC8〜C18の範囲に選択され、アルキル鎖の末端にスルファニル基(−SH)を有するものが用いられる。例えば、前記C8〜C18の範囲のアルカンチオールは、熱的な安定性もあり、また、室温付近の蒸気圧もさほど高くなく、室温等で保管する際、含有率を所望の範囲に維持・制御することが容易であるなど、ハンドリング性の面から好適に用いられる。一般に、第一級チオール型のものがより高い結合能を示し好ましいが、第二級チオール型、ならびに、第三級チオール型の化合物も利用可能である。また、1,2−ジチオール型などの、二以上のスルファニル基(−SH)が結合に関与するものも、利用可能である。また、分散溶媒に溶解可能な程度の比較的分子量が小さいなポリチオエーテル型化合物を利用することもできる。
【0045】
また、利用可能なヒドロキシ基を有する化合物の代表として、アルカンジオールを挙げることができる。一例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類などを挙げることができる。また、分散溶媒に溶解可能な程度の比較的分子量が小さいなポリエーテル型化合物を利用することもできる。なお、かかるアルカンジオールも、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、通常、100℃以上の範囲、より好ましくは、150℃以上の範囲となるものが好ましい。一方、金属ナノ粒子を含む積層塗布層の加熱処理を行う際には、金属ナノ粒子表面から離脱した後、最終的には、分散溶媒とともに、蒸散することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を超えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。例えば、1,2−ジオール型などの、二以上のヒドロキシ基が結合に関与するものなどが、より好適に利用可能である。
【0046】
本発明の分散液で利用する金属ナノ粒子では、含有される金属ナノ粒子は前述の窒素、酸素、またはイオウ原子を含み、これら原子の有する孤立電子対による配位的な結合が可能な基を有する化合物1種以上を、表面被覆層として有する状態で、分散溶媒中に分散されている。かかる表面被覆層は、保管している際、金属ナノ粒子相互の表面が直接接触することを回避する機能を果せる範囲で、不必要に過剰な被覆分子が存在しないように、適正な被覆比率を選択する。すなわち、加熱して、低温焼成する際、共存している分散溶媒中に、これら被覆層分子を溶出、離脱することが可能である、適正な含有量であって、被覆保護機能を達成できる範囲に被覆比率を選択する。例えば、導電性金属ナノ粒子ペーストに調製した際、前記金属ナノ粒子100質量部に対して、前述の窒素、酸素、またはイオウ原子を含み、これら原子の有する孤立電子対による配位的な結合が可能な基を有する化合物1種以上が総和として、一般に、10〜50質量部を、より好ましくは、20〜50質量部を含有するように、被覆比率を選択することが好ましい。なお、かかる金属ナノ粒子100質量部に対して、その表面を被覆している、窒素、酸素、またはイオウ原子を含み、これら原子の有する孤立電子対による配位的な結合が可能な基を有する化合物1種以上の総和は、金属ナノ粒子の平均粒子径にも依存する。すなわち、金属ナノ粒子の平均粒子径がより小さくなると、金属ナノ粒子100質量部当たりの、ナノ粒子表面の表面積総和は、平均粒子径に反比例して増加するため、被覆分子の総和は、それに従って、より高い比率を必要とする。その点を考慮に入れ、金属ナノ粒子の平均粒子径を1〜20nmの範囲に選択する際には、金属ナノ粒子100質量部に対して、その表面を被覆している被覆分子の総和は、20〜50質量部の範囲に選択することが好ましい。
【0047】
本発明の金属ナノ粒子分散液に含有される分散溶媒として利用される有機溶剤は、室温においては、上述の表面被覆層を設けた金属ナノ粒子を分散させる役割を有するが、加熱した際には、金属ナノ粒子表面の被覆層分子を溶出、離脱することが可能である溶媒としての機能を発揮する。その際、加熱状態における被覆層分子の溶出段階において、蒸散が顕著に進行しない高沸点の液体状有機物を利用する。従って、100℃以上に加熱した際、好ましくは、該分散溶媒100質量部当たり、金属ナノ粒子表面を被覆する前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物を50質量部以上溶解可能な、高溶解性を有する有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物からなる混合溶媒を利用する。また、100℃以上に加熱した際、金属ナノ粒子表面を被覆する前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物に対して、任意な組成の相溶物を形成できる有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物からなる混合溶媒、特には、高い相溶性を示すものを利用すると一層好ましい。
【0048】
具体的には、被覆層分子が、窒素、酸素、またはイオウ原子を含み、これら原子の有する孤立電子対による配位的な結合が可能な基を利用して、金属ナノ粒子表面上に配位している際、残る炭化水素鎖、骨格部分に対する親和性を利用して、分散溶媒に含まれる有機溶剤は、被覆層分子で覆われた金属ナノ粒子の分散状態の維持、あるいは互いの相溶性を達成させる機能を発揮する。金属ナノ粒子表面への配位的な結合に起因する、被覆層分子の親和力は、物理的吸着よりも強固ではあるものの、加熱に伴って、急速に低下する一方、温度上昇に付随して、有機溶剤の示す溶解特性が増す結果、両者の均衡する温度以上に加熱すると、温度上昇に従って、加速度的に被覆層分子の脱離、溶出が促進される。最終的には、加熱中に存在する分散溶媒の中に、金属ナノ粒子表面の被覆層分子の殆ど全てが溶解され、金属ナノ粒子表面には、実質的に被覆層分子が残留していない状態が達成される。
【0049】
勿論、この被覆層分子の金属ナノ粒子表面からの溶出過程と再付着過程とは、熱的平衡関係にあるため、加熱時における、該分散溶媒に対する被覆層分子の溶解度は十分に高いことがより望ましい。積層されている金属ナノ粒子相互の隙間に浸潤している分散溶媒へ、被覆層分子の溶出が一旦なされても、かかる狭い隙間を介して、塗布層内部から外縁部へと、被覆層分子が拡散・流出するには、更なる時間を要する。金属ナノ粒子相互の焼結が進行する間における、被覆層分子の再付着を効果的に抑制する上では、上記する高い溶解性を示す有機溶剤の利用が望ましい。
【0050】
すなわち、分散溶媒として利用される有機溶剤は、金属ナノ粒子表面の被覆層分子に対する親和性を示すものの、室温付近では、かかる有機溶剤中へ金属ナノ粒子表面の被覆層分子は、容易には溶出することはないが、加熱に付随して、溶解度が上昇し、100℃以上に加熱した際には、かかる有機溶剤中へ被覆層分子が溶出可能となるものが利用される。例えば、金属ナノ粒子の表面に被覆層を形成している化合物、例えば、アルキルアミンなどアミン化合物に対しては、そのアルキル基部分と親和性を示す、鎖状の炭化水素基を含有するが、かかるアミン化合物の溶解性が高すぎ、室温付近でも、金属ナノ粒子表面の被覆層が消失するような高い極性を示す溶剤ではなく、非極性溶剤あるいは低極性溶剤を選択することが好ましい。加えて、本発明の導電性金属ナノ粒子ペーストを実際に利用する際、低温焼成処理を行う温度においても、熱分解などを起こすことがない程度には熱的な安定性を有し、また、沸点は、少なくとも、80℃以上で、好ましくは、150℃以上、300℃を超えない範囲であることが好ましい。また、微細なラインを形成する際、その塗布の工程において、導電性金属ナノ粒子ペーストを所望の液粘度範囲に維持することが必要であり、そのハンドリング性の面を考慮すると、室温付近では容易に蒸散することのない、前記の高沸点を示す、無極性溶媒あるいは低極性溶媒、例えば、炭素数10以上のアルカン類である、テトラデカンなど、炭素数10以上の第一級アルコール類である、1−デカノールなどが好適に用いられる。但し、利用される分散溶媒自体の液粘度は、少なくとも、10mPa・s(20℃)以下、好ましくは、0.2〜3mPa・s(20℃)の範囲である溶媒を選択することが望ましい。
【0051】
一方、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液は、種々の微細な液滴として噴射して塗布する方法、例えば、デポジション法、インクジェット法を適用して、微細なパターンの描画に利用される。従って、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液は、採用する描画手法に応じて、それぞれ適合する液粘度を有するものに、調製することが必要である。具体的には、微細配線パターンの描画にインクジェット法を利用する際には、該ナノ粒子を含有する分散液は、その液粘度を、2〜30mPa・s(20℃)の範囲に選択することが望ましい。その際、該ペースト中における分散溶媒の容積比率は、55〜80体積%の範囲に選択されていることがより好ましい。一方、インクジェット法を利用して、微細な液滴を噴射した後、飛翔し、塗布面に着弾する際には、微細な液滴から分散溶媒が一部蒸散する結果、濃縮を受け、その液粘度は、20Pa・s〜1000Pa・s(20℃)まで上昇することが望ましい。その際、該濃縮された分散液中における分散溶媒の容積比率は、20〜50体積%の範囲になることがより好ましい。なお、該ナノ粒子を含有する分散液の液粘度は、用いるナノ粒子の平均粒子径、分散濃度、用いている分散溶媒の種類に依存して決まり、前記の三種の因子を適宜選択して、目的とする液粘度に調節することができる。
【0052】
具体的には、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液の組成は、該ペースト中における分散溶媒の容積比率は、55〜80体積%の範囲に選択されている際、その液粘度を、2〜30mPa・s(20℃)の範囲となるが、仮に、配合される分散溶媒の量を減じて、分散溶媒の容積比率が20〜50体積%の範囲となる、対応する濃厚な分散液を調製すると、かかる濃厚な分散液の示す液粘度は、20Pa・s〜1000Pa・s(20℃)の範囲となるように選択することが好ましい。
【0053】
例えば、分散溶媒として、上述する高沸点を示す、無極性溶媒あるいは低極性溶媒に加えて、液粘度を調整するとともに、加熱した際、被覆層分子の溶出に利し、一方、室温付近では、被覆層分子の離脱を抑制する機能、さらには、離脱に対する補償機能を示すような、比較的に低極性の液状有機物を添加、配合することができる。かかる補足的に添加、配合される低極性の液状有機物は、主な溶媒成分に対して、均一な混合を達成でき、また、その沸点は、主な溶媒成分と同様に高沸点であることが望ましい。例えば、主な溶媒成分が、炭素数10以上の第一級アルコール類である、1−デカノールなどである際には、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどの分岐のジオール類、また、主な溶媒成分が、炭素数10以上のアルカン類である、テトラデカンなどである際には、ビス2−エチルヘキシルアミンなどの分岐を有するジアルキルアミン類などを、補足的に添加、配合される低極性の液状有機物として利用することができる。
【0054】
本発明にかかる金属ナノ粒子分散液は、加熱した際、重合を起こし、硬化する熱硬化型のエポキシ樹脂成分など、バインダー樹脂成分や被覆剤分子との反応性を示す酸無水物等を含有していない構成とすることで、低温焼成処理を進める過程においても、内部で、重合物の生成は無く、分散溶媒自体の流動性を顕著に低下させる要因を排除している。
【0055】
加熱処理に際して、金属ナノ粒子の表面を被覆しているアルキルアミンなどの被覆層分子は上述の分散溶媒中に溶出、離脱され、金属ナノ粒子相互の凝集を抑制していた被覆層が消失し、徐々に金属ナノ粒子の融着、融合による凝集が進行し、最終的にランダムチェーンが形成される。その際、金属ナノ粒子相互の低温焼結が進行するとともに、ナノ粒子間の隙間空間が減少し、全体の体積収縮が起こり、ランダムチェーンが相互に緻密な接触を達成する。そのナノ粒子間の隙間空間が減少する際、この隙間空間を占めている分散溶媒は、流動性を保持するので、ナノ粒子間の隙間が隘路となったとしても、外部へと押し出され、全体の体積収縮が進行する。この低温焼成過程における、加熱処理温度は、300℃以下、好ましくは、250℃以下の範囲に選択する際、被覆層分子は上述の分散溶媒中に溶出、離脱がなされ、得られる金属ナノ粒子の焼結体は、不均一な金属ナノ粒子の凝集を反映する表面の凹凸の無い、平滑な面形状を示すとともに、より緻密で、極めて低抵抗、例えば、体積固有抵抗率は10×10−6Ω・cm以下の導電体層となる。一方、全体の体積収縮に伴い、外部への押し出される分散溶媒と、それに溶解する被覆層分子は、加熱を継続する間に、徐々に蒸散して、最終的に得られる金属ナノ粒子の焼結体内に、残余する有機物量は、極限られたものとなる。具体的には、ハインダー樹脂成分として、前記の低温焼成工程を終えた後も、得られる金属ナノ粒子の焼結体中に残留し、導電体層の構成要素となる熱硬化性樹脂成分などを含有していないので、導電体層中における金属ナノ粒子の焼結体自体の体積占有率が高いものとなる。その結果、金属ナノ粒子の焼結体自体の低い体積抵抗率に加えて、かかる導電体層全体の熱伝導率も、その金属体の体積占有率の高さによって、格段に優れたものとなる。その双方の利点から、流れる電流密度が高い場合における、微細な配線パターンを形成する上で、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用する微細な焼結体層の形成はより適するものとなる。
【0056】
本発明にかかる微細配線パターンの形成方法では、塗布方法に従って、液粘度を適正化した上述の金属ナノ粒子分散液を利用して、目的とする微細なパターン上に積層塗布した厚い塗布層を形成する。高い再現性と、描画精度で、微細なパターン描画を行う上では、インクジェット印刷法を応用することが好ましい。なお、インクジェット法あるいはデポジション法のいずれを利用する場合であっても、描画される微細パターンの最小線幅に対して、描画される分散液塗布層の平均厚さは、少なくとも、最小線幅の1/2以上、通常は、1/1〜20/1の範囲に選択する必要がある。従って、最終的に得られる緻密な金属焼結体層の平均膜厚は、塗布層中に含有される分散溶媒の蒸散、焼結に伴う凝集・収縮を考慮すると、微細パターンの最小線幅の1/4〜10/1の範囲に選択することがより合理的である。かかる要件と対応させて、例えば、インクジェット印刷法により積層塗布された金属ナノ粒子の塗布層中に残留する分散溶媒の含有率は、上述する分散溶媒の容積比率範囲となるように濃縮されることが望ましい。
【0057】
一方、作製される微細な焼結体層は、プリント配線基板において、種々の電子部品を実装する際の導電部材として利用するため、金、銀、銅、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、タンタル、ビスマス、鉛、インジウム、錫、亜鉛、チタンまたはアルミニウムのいずれかを選択することが好ましい。あるいは、前記金属の群のうちから選択される二種以上の金属からなる合金を選択することもできる。従って、本発明にかかる導電性金属ナノ粒子ペーストで利用する金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、タンタル、ビスマス、鉛、インジウム、錫、亜鉛、チタンまたはアルミニウムの金属からなるナノ粒子、または、これら金属の群のうちから選択される二種以上の金属からなる合金からなるナノ粒子を、その利用用途に応じて、選択することが望ましい。
【0058】
さらには、下記の低温焼成過程における、加熱処理温度よりも、利用する金属ナノ粒子を構成する金属の融点が高くなるものを選択する。すなわち、低温焼成過程においては、金属ナノ粒子相互の焼結は進行するものの、融解が生じない条件を選択する。なお、二種以上の金属からなる合金からなるナノ粒子を利用する場合も、下記の低温焼成過程における、加熱処理温度よりも、かかる合金の示す融点が高くなることが必要である。従って、二種以上の金属からなる合金からなるナノ粒子を構成する合金材料の組成は、低温焼成過程における、加熱処理温度を基準として、該合金の融点は、少なくとも20℃以上高い範囲となるように選択することが好ましい。具体的には、合金の融点は、少なくとも200℃以上、通常、250℃以上の範囲、例えば、300℃を超えるように、利用する合金材料の組成を選択することがより好ましい。
【0059】
また、インジウム自体は、融点は156.6℃であるため、他の金属と合金化し、例えば、250℃以上の融点を示すインジウム合金からなるナノ粒子の形態で利用することが好ましい。一方、タングステン、タンタル、チタンは、他の金属種と比較すると、低温焼結の進行は格段に遅いため、より平均粒子径を小さくすることで、低温焼結に要する加熱温度の低減化を行うことが好ましい。また、タングステン、タンタル、チタンからなるナノ粒子と、他の金属種からなるナノ粒子とを併用することで、混合物全体の焼結体形成を行う形態、あるいは、タングステン、タンタル、チタンを他の金属と合金化し、かかるタングステン、タンタル、チタン含有合金からなるナノ粒子の焼結体形成を行う形態を利用することも好ましい。
【0060】
後述の金属バンプ等を構成する導電部材への応用においては、金属ナノ粒子を構成する金属種として、高い導電性に加えて、延性、展性にも優れる金、銀、銅、白金、パラジウムのいずれかを選択することがより好ましく、なかでも、金ナノ粒子または銀ナノ粒子を利用することがさらに好ましい。例えば、金ナノ粒子または銀ナノ粒子を利用する際にも、かかる金属ナノ粒子の平均粒子径を、1〜20nmの範囲に選択し、当初の金属ナノ粒子分散液中に含まれる、該金属ナノ粒子の含有量を、40質量%以上に選択する形態とすることがより望ましい。
【0061】
前記の金属ナノ粒子では、低温焼成過程における、加熱処理温度は、300℃以下、好ましくは、250℃以下の範囲に選択する際も、清浄な金属表面を保持する限り、良好な焼結体を形成することができる。さらには、室温付近でも、これら金属ナノ粒子は、その金属表面を直接接触させると、互いに、融着して、凝集してしまい易い。そのため、例えば、市販されている金属ナノ粒子分散液を原料として、分散溶媒を所望の有機溶剤への変換し、また、適正な分散溶媒の含有比率、液粘度の調整を図って、本発明にかかる導電性金属ナノ粒子ペーストを調製する際、例えば、下記する手順を利用することが望ましい。
【0062】
原料に利用する、金属ナノ粒子分散液としては、金属ナノ粒子の表面をアルキルアミンなどの表面被覆分子で被覆保護し、かかるアルキルアミンなどの表面被覆分子の溶解性は乏しく、留去が可能な無極性溶媒、あるいは、低極性溶媒中、好ましくは、沸点が少なくとも150℃以下の無極性溶媒、あるいは、低極性溶媒中に、表面被覆分子で被覆された金属ナノ粒子が均一に分散されているものを利用する。先ず、アルキルアミンなどの表面被覆分子の離脱を抑制しつつ、該金属ナノ粒子分散液に含有される分散溶媒の除去を行う。該分散溶媒の除去は、減圧留去の手法が適当であるが、この減圧留去の間に、金属ナノ粒子表面の表面被覆分子の脱離を抑制するため、必要に応じて、該被覆層分子に対して、親和性が優り、かつ、減圧留去される分散溶媒よりも、沸点が有意に高い保護用の溶媒成分を添加、混合した上で、減圧留去を行うことができる。例えば、減圧留去される分散溶媒がトルエンであり、金属ナノ粒子の被覆層分子として、アルキルアミンである、ドデシルアミンを利用している場合、前記保護用の溶媒成分として、ジオール系溶媒、例えば、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールなどの各種グリコール類を少量添加することが可能である。加えて、ドデシルアミンなどの、金属ナノ粒子の被覆層分子として利用する、アルキルアミンに代えて、金属ナノ粒子の被覆層分子に利用可能であり、より沸点の高い別種のアミン類を添加することもできる。この別種のアミン類は、分散溶媒の減圧留去に際し、当初に存在する金属ナノ粒子の被覆層分子の一部を置換する目的で利用することもできる。この別種のアミン類などの、置換される被覆層分子成分には、各種グリコール類などの保護用の溶媒成分との親和性を有し、同時に、アミノ基などの配位結合可能な基を具える、沸点の高い液状有機化合物が利用可能である。例えば、2−エチルヘキシルアミンや、ジェファーミンEDR148(2,2−(エチレンジオキシ)ビスエチルアミン)などが利用可能である。
【0063】
本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を調製する過程において、分散溶媒を上述する高沸点を示す、無極性溶媒あるいは低極性溶媒へと変換、再分散を行う際、表面に被覆層を有する金属ナノ粒子以外に、被覆層が欠落して、凝集を生じた金属ナノ粒子塊が混入する場合もあり、均一な分散化を図った再分散液を、サブ・ミクロン穴径のフィルター、例えば、0.2μmメンブランフィルターで濾過して、凝集を生じた金属ナノ粒子塊を除く処理を施すことが望ましい。この濾過処理を施すことで、目的とする高沸点の分散溶媒中に、表面に被覆層を有する金属ナノ粒子が均一に分散した、高い流動性の分散液により高い確実性で調製される。
【0064】
上述するように、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用することで、基板上に、高さ数10μmの柱状の金属焼結体層を作製することができ、この基板上にチップ部品を搭載した後、樹脂により封止して、この樹脂封止層の上部に、前記柱状の金属焼結体層の先端が導通部として露出する形態とできる。すなわち、樹脂封止層の上部に、下層の回路配線層との間の導通端子が設けられている、チップ搭載基板を作製することができる。この時用いる封止用樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂などを用いることができる。さらに、この様な樹脂封止層の表面にさらに、回路配線パターンを形成すると、多層基板とすることができる。その際、上層の回路配線パターンの形成は、一般の金属微粒子ペーストを用いて、スクリーン印刷法、インクジェット法、転写法のいずれかを用いて行うことができる。この上層の回路配線パターンの形成用の金属微粒子ペーストは、層間の導通部として利用する、柱状の金属焼結体層を構成する金属材料と同じ金属材料を用いることが好ましいが、適宜、別種の金属微粒子のペーストを用いることも可能である。また、上層の回路配線パターンの形成用の金属微粒子ペーストの粘度、その他の物性は、目的とする配線パターンの形成に適する条件を設定することが好ましい。
【0065】
一方、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用して、外形形状は円板状(又は円錐台様)の焼結体層を作製することにより、任意の位置に、任意の大きさを有する円板状(又は円錐台様)の金属バンプを形成できる。この金属バンプも、低温焼結により金属ナノ粒子同士が融着して、底面の直径が、0.5〜50μmの大きさのバンプとすることができる。得られる金属ナノ粒子焼結体は、バルク金属の体積固有抵抗値に近い低抵抗のバンプの形成が可能になる。従って、このバンプ上に微細なチップを搭載することにより、微細なチップ搭載基板を製造することができる。
【0066】
ところで、近年の電子機器関連分野において用いられる基板は多層基板が主流になっている。またこれらの多層基板において、各層間の導通を取るには、一般的な方法として、各層用の基板材料を貫通するスルーホールを空け、このスルーホール中に導電性材料を充填して、導通路とするビア・ホール接続が多用されている。従来の導電性金属ペーストでは、含有される金属フィラーの粒子径が大きく、スルーホールの開口径をある程度大きくしないと、導電性金属ペーストの充填ができない。
【0067】
それに対して、本発明にかかる金属ナノ粒子分散液を利用すると、開口径が1〜500μmの範囲であれば、このスルーホール内部に緻密な塗布層を形成でき、埋め込み後、低温で焼結処理することにより、内径が1〜500μmのスルーホール内にバルク金属の体積固有抵抗値と遜色のない、1×10−5Ω・cm以下と良好な導電性を示す、金属焼結体層を充填することが可能となる。
【0068】
これらプリント配線基板上に直接金属焼結体層を形成するため、低温で焼結処理する際の温度は、150℃〜300℃の範囲に選択できるので、基板材料の熱的劣化等の抑制も達成できる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。これら実施例は本発明にかかる最良の実施態様の一例ではあるものの、本発明は、かかる形態に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1〜3、比較例1)
実施例1〜3においては、インクジェット印刷に適する液粘度を示す、銀ナノ粒子を導電性媒体として含むペースト状の分散液を下記の手順で調製した。
【0071】
銀ナノ粒子原料として、市販されている銀の超微粒子分散液(商品名:独立分散超微粒子Ag1T 真空冶金製)、具体的には、銀超微粒子35質量部、アルキルアミンとして、ドデシルアミン(分子量185.36、融点28.3℃、沸点248℃、比重d40=0.7841)7質量部、有機溶剤として、トルエン(沸点110.6℃、比重d20=0.867)58質量部を含む、平均粒子径3nmの銀超微粒子の分散液を利用した。なお、該銀超微粒子分散液の液粘度は、1mPa・s(20℃)である。
【0072】
先ず、1Lのナス型フラスコ中にて、銀超微粒子分散液Ag1T、500g(Ag35wt%含有)に、ドデシルアミン5.8gを添加・混合し、80℃で1時間加熱攪拌した。攪拌終了後、減圧濃縮により、Ag1T中に含まれる分散溶媒トルエンを脱溶剤した。
【0073】
前記の脱溶剤後の混合物に対して、含有される銀超微粒子175質量部当たり、それぞれ、表1に記載する量比率でN14(テトラデカン、粘度2.0〜2.3mPa・s(20℃)、融点5.86℃、沸点253.57℃、比重d20=0.7924、日鉱石油化学製)を添加し、室温(25℃)で攪拌して、均一な分散液とした。攪拌終了後、0.2μmメンブランフィルターで分散液の濾過を行った。得られる実施例1〜3、ならびに比較例1の分散液は、いずれも、均一な濃紺色の高流動性ペースト状の銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)であった。表1には、得られた銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)に含まれる各含有成分の組成分析値、ならびに、液粘度(B型回転粘度計、測定温度20℃)を示す。なお、バルクの銀単体は、密度10.49g・cm−3(20℃)、抵抗率1.59μΩ・cm(20℃)を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

得られた銀ナノ粒子分散液を用いて、超微細流体噴射装置(超微細インクジェット装置)により、ガラス上に直径2.5μmのパターンの描画を試みた。その際、超微細インクジェット装置の吐出孔の口径を0.6μmに選択し、噴射される液滴量を同一に設定したところ、それぞれの銀ナノ粒子分散液によって、一液滴で描画されるドットの径は表2に示す値であった。この描画条件で、それぞれスポット点間隔を同一とするドット・スポット点パターンによって、複数回、同一のパターン上にインクジェット法で反復塗布し、表2に記載する合計の積層高さの円柱形状の銀ナノ粒子塗布層を作製した。
【0076】
なお、実施例1〜3の銀ナノ粒子分散液を用いた際には、各回の塗布操作の間に、塗布膜中に含まれる分散溶媒の蒸散が進み、粘稠な塗布状態となる。一方、比較例1の銀ナノ粒子分散液を用いた際にも、各回の塗布操作の間に、塗布膜中に含まれる分散溶媒の蒸散は進むものの、なお、流動性を有する塗布状態である。描画後、ガラス上の銀ナノ粒子塗布層に対して、240℃、1時間の熱処理を施し、銀ナノ粒子層の焼成処理を行って、銀ナノ粒子の焼結体層とした。得られる焼結体層における、円形底面の直径、ならびに焼結体層の高さ(厚さ)を顕微鏡観察により、それぞれ測定した。表2に、一液滴で描画されるドットの径、得られる焼結体層における、円形底面の直径、ならびに焼結体層の高さ(厚さ)の評価結果をまとめて示す。
【0077】
前記の作製方法に従って、実施例1の銀ナノ粒子分散液を用いて別途作製された金属焼結体円柱について、該金属柱の外形形状を顕微鏡観察したイメージ画像のプリントアウトを図1に示す。
【0078】
別途、スライドグラス上に、得られた銀ナノ粒子分散液を用いて、前記積層高さが50μmの円柱形状の銀ナノ粒子塗布層形成に利用するインクジェット積層塗布条件により、10×50mm幅のパターンを、積層塗布時の平均膜厚10μmで印刷した。印刷後、スライドグラス上のナノ粒子インク積層塗布層に対して、240℃、1時間の熱処理を施し、含まれる銀ナノ粒子相互の焼成処理を行って、銀ナノ粒子の焼結体層からなる導電体層パターンを形成した。実施例1〜3の銀ナノ粒子分散液、ならびに比較例1の銀ナノ粒子分散液を利用して作製される、矩形膜状の導電体層について、それぞれの平均膜厚を有する均一導電体層として、その体積固有抵抗率を測定した。この体積固有抵抗率の測定結果も、表2に示す。
【0079】
(実施例4、5、比較例2)
実施例4、5においては、インクジェット印刷に適する液粘度を示す、銀ナノ粒子を導電性媒体として含むペースト状の分散液を下記の手順で調製した。
【0080】
1Lのナス型フラスコ中にて、前記銀超微粒子分散液Ag1T、500g(Ag35wt%含有:真空冶金製)に、2−エチルヘキシルアミン(沸点169℃:東京化成製)を87.5g(対Ag固形分に対して、50wt%)、ジプロピレングリコールを52.5g(対Ag固形分に対して、30wt%)添加・混合し、80℃で1時間加熱攪拌した。攪拌終了後、減圧濃縮により、Ag1T中に含まれる分散溶媒トルエンを脱溶剤した。
【0081】
脱溶剤後の混合物を2Lのビーカーに移し、極性溶媒アセトン、1,000gを添加して、常温で3分間攪拌後、静置した。前記処理において、Agナノ粒子は、極性溶剤アセトンを添加、攪拌し、静置する間に、ビーカー底部に沈降した。一方、上澄みには、混合物中に含有される、不要な有機成分が溶解し、茶褐色のアセトン溶液が得られた。この上澄み層を除去した後、再度、沈降物にアセトン800gを添加、攪拌、静置して、Agナノ粒子を沈降させた後、上澄みのアセトン溶液層を除去した。上澄みアセトン層の着色状態を観察しながら、さらに、沈降物にアセトン500gを添加し、同様の操作を繰り返した。次いで、前段の沈降物にアセトン300gを添加し、攪拌、静置を行った時点で、上澄みアセトン層に目視した範囲では、着色は見出されなくなった。
【0082】
この上澄みアセトン層を除去した後、ビーカー底部に沈降したAgナノ粒子中に残余するアセトン溶媒を揮発させ、乾燥を行ったところ、青色の微粉末が得られた。
【0083】
得られた青色の微粉末に対して、含有される銀超微粒子175質量部当たり、それぞれ、表3に記載する量比率でN14(テトラデカン、融点5.86℃、沸点253.57℃、日鉱石油化学製)を添加し、さらに、ビス2−エチルヘキシルアミン(沸点263℃、東京化成製)を23.4g、ヘキサンを300g添加し、70℃で30分間加熱攪拌した。この加熱攪拌によって、青色の微粉末状を呈していたAgナノ粒子は再分散され、均一な分散液となった。攪拌終了後、0.2μmメンブランフィルターで濾過を行った後、濾液中のヘキサンを減圧濃縮により脱溶剤した。得られる実施例4、5、ならびに比較例2の分散液は、いずれも、均一な濃紺色の高流動性ペースト状の銀ナノ粒子分散液(銀ナノインク)であった。
【0084】
表3は、得られた銀ナノ粒子分散液(銀ナノ粒子インク)に含まれる各含有成分の組成分析値、ならびに、液粘度(B型回転粘度計、測定温度20℃)を示す。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

得られた銀ナノ粒子分散液を用いて、超微細流体噴射装置(超微細インクジェット装置)により、ガラス上に直径2.5μmのパターンの描画を試みた。その際、超微細インクジェット装置の吐出孔の口径を0.6μmに選択し、噴射される液滴量を同一に設定したところ、それぞれの銀ナノ粒子分散液によって、一液滴で描画されるドットの径は表4に示す値であった。この描画条件で、それぞれスポット点間隔を同一とするドット・スポット点パターンによって、複数回、同一のパターン上にインクジェット法で反復塗布し、表4に記載する合計の積層高さの円柱形状の銀ナノ粒子塗布層を作製した。
【0087】
なお、実施例4、5の銀ナノ粒子分散液を用いた際には、各回の塗布操作の間に、塗布膜中に含まれる分散溶媒の蒸散が進み、粘稠な塗布状態となる。一方、比較例2の銀ナノ粒子分散液を用いた際にも、各回の塗布操作の間に、塗布膜中に含まれる分散溶媒の蒸散は進むものの、なお、流動性を有する塗布状態である。描画後、ガラス上の銀ナノ粒子塗布層に対して、240℃、1時間の熱処理を施し、銀ナノ粒子層の焼成処理を行って、銀ナノ粒子の焼結体層とした。得られる焼結体層における、円形底面の直径、ならびに焼結体層の高さ(厚さ)を顕微鏡観察により、それぞれ測定した。表4に、一液滴で描画されるドットの径、得られる焼結体層における、円形底面の直径、ならびに焼結体層の高さ(厚さ)の評価結果をまとめて示す。
【0088】
別途、スライドグラス上に、得られた銀ナノ粒子分散液を用いて、前記積層高さが50μmの円柱形状の銀ナノ粒子塗布層形成に利用するインクジェット積層塗布条件により、10×50mm幅のパターンを、積層塗布時の平均膜厚10μmで印刷した。印刷後、スライドグラス上のナノ粒子インク積層塗布層に対して、240℃、1時間の熱処理を施し、含まれる銀ナノ粒子相互の焼成処理を行って、銀ナノ粒子の焼結体層からなる導電体層パターンを形成した。実施例4、5の銀ナノ粒子分散液を利用して作製される、矩形膜状の導電体層について、それぞれの平均膜厚を有する均一導電体層として、その体積固有抵抗率を測定した。この体積固有抵抗率の測定結果も、表4に示す。
【0089】
(実施例6、7、比較例3)
実施例6、7においては、インクジェット印刷に適する液粘度を示す、金ナノ粒子を導電性媒体として含むペースト状の分散液を下記の手順で調製した。
【0090】
200mLのナス型フラスコ中にて、金超微粒子分散液Au1T、60g(Au30wt%含有:真空冶金製)に、2−エチルヘキシルアミン(沸点169℃:東京化成製)を9.0g(対Au固形分に対して、50wt%)、水を3.6g(対Au固形分に対して、20wt%)添加・混合し、80℃で30分間加熱攪拌した。攪拌終了後、減圧濃縮により、Au1T中に含まれる分散溶媒トルエンを脱溶剤した。
【0091】
脱溶剤後の混合物を500mLのビーカーに移し、極性溶媒アセトニトリル、300gを添加して、常温で3分間攪拌後、静置した。前記処理において、Auナノ粒子は、極性溶剤アセトニトリルを添加、攪拌し、静置する間に、ビーカー底部に沈降した。一方、上澄みには、混合物中に含有される、不要な有機成分が溶解し、茶褐色のアセトニトリル溶液が得られた。この上澄み層を除去した後、再度、沈降物にアセトニトリル300gを添加、攪拌、静置して、Auナノ粒子を沈降させた後、上澄みのアセトニトリル溶液層を除去した。上澄みアセトニトリル層の着色状態を観察しながら、さらに、沈降物に300gを添加し、攪拌、静置を行った時点で、上澄みアセトニトリル層に目視した範囲では、着色は見出されなくなった。
【0092】
この上澄みアセトニトリル層を除去した後、ビーカー底部に沈降したAuナノ粒子中に残余するアセトニトリル溶媒を揮発させ、乾燥を行ったところ、黒褐色の微粉末が得られた。
【0093】
得られた黒褐色の微粉末に対して、含有される金超微粒子18質量部当たり、それぞれ、表5に記載する量比率でAF7ソルベント(融点259〜282℃、流動点−30℃以下、日石三菱株式会社製)を添加し、さらに、2−エチルヘキシルアミン(沸点169℃:東京化成製)2.089g、ビス2−エチルヘキシルアミン(沸点263℃、東京化成製)2.732g、トルエンを100g添加し、65℃で30分間加熱攪拌した。この加熱攪拌によって、黒褐色の微粉末状を呈していたAuナノ粒子は再分散され、均一な分散液となった。攪拌終了後、0.2μmメンブランフィルターで濾過を行った後、濾液中のトルエンを減圧濃縮により脱溶剤した。得られる実施例6、7、ならびに比較例3の分散液は、いずれも、均一な濃赤色の高流動性ペースト状の金ナノ粒子分散液(金ナノインク)であった。
【0094】
表4には、得られた金ナノ粒子分散液(金ナノ粒子インク)に含まれる各含有成分の組成分析値、ならびに、液粘度(B型回転粘度計、測定温度20℃)を示す。なお、バルクの金単体は、密度19.32g・cm−3(20℃)、抵抗率2.2μΩ・cm(20℃)を示す。
【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

得られた金ナノ粒子分散液を用いて、超微細流体噴射装置(超微細インクジェット装置)により、ガラス上に直径8.0μmのパターンの描画を試みた。その際、超微細インクジェット装置の吐出孔の口径を0.6μmに選択し、噴射される液滴量を同一に設定したところ、それぞれの銀ナノ粒子分散液によって、一液滴で描画されるドットの径は表6に示す値であった。この描画条件で、それぞれスポット点間隔を同一とするドット・スポット点パターンによって、複数回、同一のパターン上にインクジェット法で反復塗布し、表6に記載する合計の積層高さの円錐台形状の金ナノ粒子塗布層を作製した。
【0097】
なお、実施例6、7の金ナノ粒子分散液を用いた際には、各回の塗布操作の間に、塗布膜中に含まれる分散溶媒の蒸散が進み、粘稠な塗布状態となる。一方、比較例3の金ナノ粒子分散液を用いた際にも、各回の塗布操作の間に、塗布膜中に含まれる分散溶媒の蒸散は進むものの、なお、流動性を有する塗布状態である。描画後、ガラス上の銀ナノ粒子塗布層に対して、240℃、1時間の熱処理を施し、金ナノ粒子層の焼成処理を行って、金ナノ粒子の焼結体層とした。得られる焼結体層における、円形底面の直径、ならびに焼結体層の高さ(厚さ)を顕微鏡観察により、それぞれ測定した。表6に、一液滴で描画されるドットの径、得られる焼結体層における、円形底面の直径、ならびに焼結体層の高さ(厚さ)の評価結果をまとめて示す。図2に、レーザー顕微鏡観察において、実施例6の金ナノ粒子分散液を用いて作製された、該金ナノ粒子の焼結体層で構成される金属円板(円錐台)型バンプの外形形状を観察したイメージ画像のプリントアウトを示す。
【0098】
別途、スライドグラス上に、得られた金ナノ粒子分散液を用いて、前記積層高さが5μmの円錐台形状の金ナノ粒子塗布層形成に利用するインクジェット積層塗布条件により、10×50mm幅のパターンを、積層塗布時の平均膜厚μmで印刷した。印刷後、スライドグラス上のナノ粒子インク積層塗布層に対して、240℃、1時間の熱処理を施し、含まれる金ナノ粒子相互の焼成処理を行って、金ナノ粒子の焼結体層からなる導電体層パターンを形成した。実施例6、7の金ナノ粒子分散液を利用して作製される、矩形膜状の導電体層について、それぞれの平均膜厚を有する均一導電体層として、その体積固有抵抗率を測定した。この体積固有抵抗率の測定結果も、表6に示す。
【0099】
(参考例1〜3)
上述する実施例3の銀ナノ粒子分散液、実施例5の銀ナノ粒子分散液、実施例7の金ナノ粒子分散液に関して、分散溶媒を除く、他の成分の配合量は等しく、分散溶媒の配合量を1/2以下に減することで、参考例1〜3の粘稠なペースト状の分散液を調製する。
【0100】
作製される参考例1〜3の粘稠なペースト状の分散液について、それぞれの分散液中に含有される分散溶媒の含有比率を算定し、また、それらペースト状分散液の液粘度を、スパイラル粘度計(測定温度23℃)により測定する。表7に、参考例1〜3の粘稠なペースト状の分散液中に含有される分散溶媒の含有比率と、測定された液粘度を示す。
【0101】
【表7】

【0102】
(実施例8)
実施例1において調製される銀ナノ粒子分散液を用いて、超微細流体噴射装置(超微細インクジェット装置)により、直径4.5μmの底面を有する円板状パターンをガラス上に描画する。描画条件は、上記実施例1と同様として、一回当たりの塗布膜厚を0.3μmとし、複数回、同一のパターン上にインクジェット法で反復塗布し、積層厚さが3.5μmの円板状の銀ナノ粒子塗布層を作製した。描画後、ガラス上の円板状の銀ナノ粒子層に対して、240℃、1時間の熱処理を施し、銀ナノ粒子層の焼成処理を行って、銀ナノ粒子の焼結体層とした。得られる焼結体層は、その外形形状は、直径4.5μmの円形底面を維持し、2.5μmの厚さを示す円板状(円錐台状)の金属焼結体パッドを形成している。図3に、顕微鏡観察において、同様の条件により別途作製された金属焼結体パッドの外形形状を観察したイメージ画像のプリントアウトを示す。
【0103】
(実施例9)
多層配線用の基板材料に対して、かかる基板の上層表面からその裏面(下層表面)に達する、直径200μmのスルーホールを設ける。なお、該スルーホールを形成する多層配線用基板上層の層厚は、1.6mmであり、該スルーホールの穴径/深さ比は、1/8の高いアスペクト比に選択されている。裏面側は、下層表面の配線層が配置され、該スルーホールに設ける導電体埋め込み部は、ビア・ホール接続を構成する形態とする。
【0104】
実施例1において調製される銀ナノ粒子分散液を用いて、超微細流体噴射装置(超微細インクジェット装置)により、直径200μmのスルーホール内に、銀ナノ粒子の埋め込み塗布層を描画する。なお、埋め込み塗布における描画条件は、上記実施例1と同様として、一回当たりの塗布膜厚を0.3μmとし、複数回、スルーホール穴内にインクジェット法で反復塗布し、スルーホールの深さ1.6mmを完全に埋め込む銀ナノ粒子層を作製した。塗布充填後、このスルーホール中の銀ナノ粒子層に対して、240℃、1時間の熱処理を施し、銀ナノ粒子層の焼成処理を行って、銀ナノ粒子の焼結体充填層を形成した。
【0105】
なお、得られた銀ナノ粒子の焼結体充填層は、スルーホールの側壁面に密着した形状を示している。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明にかかる金属ナノ粒子分散液は、種々の配線基板において、その微細な回路配線パターンの作製、ならびに、膜厚の厚い導電体層を利用して形成される、高いアスペクト比を示す微細な導電性部材の作製に利用可能な金属ナノ粒子焼結体層の形成に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な液滴の形状で噴射し、積層塗布可能な金属ナノ粒子分散液であって、
前記金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmの範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液は、固形成分として、前記金属ナノ粒子を分散溶媒中に均一に分散してなる分散液であり、
該金属ナノ粒子表面は、かかる金属ナノ粒子に含まれる金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、またはイオウ原子を含み、これら原子の有する孤立電子対による配位的な結合が可能な基を有する化合物1種以上により被覆されており、
前記金属ナノ粒子100質量部に対して、前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物一種以上を総和として、10〜50質量部を含有し、
前記分散溶媒は、有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物からなる混合溶媒であり、少なくとも、温度15℃以上において、均一な液体状態を示し、該分散溶媒を構成する、有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物の少なくとも一つは、前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物一種以上に対する親和性を有し、
該分散溶媒自体の液粘度(20℃)は、10mPa・s以下の範囲に選択され、
前記金属ナノ粒子分散液中において、前記分散溶媒の容積比率は、55〜80体積%の範囲に選択し、該金属ナノ粒子分散液の液粘度(20℃)は、2mPa・s〜30mPa・sの範囲に選択され、
前記金属ナノ粒子分散液中に含まれる分散溶媒を一部蒸散除去して、前記分散溶媒の容積比率が、20〜50体積%の範囲となるまで濃縮が施された濃縮分散液は、その液粘度(20℃)は、20Pa・s〜1000Pa・sの範囲の粘稠な濃縮液となる
ことを特徴とする金属ナノ粒子分散液。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜20nmの範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中において、該金属ナノ粒子の含有比率は、40質量%以上に選択されている
ことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子は、
金、銀、銅、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、タンタル、ビスマス、鉛、インジウム、錫、亜鉛、チタン、アルミニウムからなる金属の群より選択される、一種類の金属からなるナノ粒子、あるいは、
該金属の群より選択される、二種類以上の金属の合金からなるナノ粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項4】
前記分散溶媒を構成する有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物は、
少なくとも、その一つは、融点は、20℃以下、沸点は、80〜300℃の範囲である有機溶剤である
ことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項5】
前記分散溶媒は、100℃以上に加熱した際、該分散溶媒100質量部当たり、金属ナノ粒子表面を被覆する前記窒素、酸素、またはイオウ原子を含む基を有する化合物を50質量部以上溶解可能な、高溶解性を有する有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物からなる混合溶媒である
ことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項6】
請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液を利用して、
基板上に金属ナノ粒子相互の焼結体層からなる、微細形状の良導電性導電体層を形成する方法であって、
前記焼結体層は、少なくとも、層の厚さが、1μm以上で、層の厚さ/幅の比率が1/4以上の高いアスペクト比を示す領域を含み、
前記高いアスペクト比を示す領域においては、微細形状の平面パターンに、前記金属ナノ粒子分散液を微細な液滴の形状で噴射して、一回当たり、塗布膜厚0.1μm〜1μmの範囲の塗布層を設ける操作を複数回繰り返して、前記焼結体層の層の厚さを超える、積層塗布膜を形成する工程と、
前記金属ナノ粒子分散液の積層塗布膜中に含まれる、金属ナノ粒子に対して焼成処理を行って、該金属ナノ粒子相互の焼結体層を形成する工程とを有し、
前記積層塗布膜を形成する工程において、
前記金属ナノ粒子分散液を微細な液滴の形状で噴射した後、該微細な液滴が塗布面に到達する間に、液滴中に含有する分散溶媒の一部が蒸散されて、濃縮された液滴による塗布がなされ、
該金属ナノ粒子相互の焼結体層形成は、300℃を超えない温度に前記塗布層を加熱することによってなされ、
該焼成処理における加熱を施す際、該金属ナノ粒子表面を被覆する窒素、酸素、イオウ原子を含む基を有する化合物が、高溶解性を有する有機溶剤一種、あるいは二種以上の液体状有機物からなる混合溶媒を用いる分散溶媒中に、金属ナノ粒子表面からの解離、溶出がなされて、金属ナノ粒子相互の表面接触が達成され、
該金属ナノ粒子相互の焼結と、分散溶媒の蒸散除去とがなされることを特徴とする導電体層の形成方法。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子分散液を微細な液滴の形状で噴射して、積層塗布膜を形成する工程において、
前記金属ナノ粒子分散液を微細な液滴の形状で噴射する手法として、デポジション法またはインクジェット法を選択する
ことを特徴とする請求項6に記載の導電体層の形成方法。
【請求項8】
該金属ナノ粒子相互の焼結体層形成における、加熱温度は、150℃〜300℃の範囲に選択する
ことを特徴とする請求項6に記載の導電体層の形成方法。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子は、金のナノ粒子であり、
該金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜20nmの範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中において、該金属ナノ粒子の含有比率は、40質量%以上に選択されている
ことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子は、銀のナノ粒子であり、
該金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜20nmの範囲に選択され、
該金属ナノ粒子分散液中において、該金属ナノ粒子の含有比率は、40質量%以上に選択されている
ことを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項11】
前記金属ナノ粒子は、
金、銀、銅、白金、パラジウムからなる金属の群より選択される、一種類の金属からなるナノ粒子であることを特徴とする請求項8に記載の導電体層の形成方法。
【請求項12】
前記金属ナノ粒子は、
金のナノ粒子または銀のナノ粒子であり、
該金属ナノ粒子の平均粒子径は、1〜20nmの範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項11に記載の導電体層の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/025787
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513914(P2005−513914)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013229
【国際出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】