説明

成形型及び成形方法

【課題】 オートクレーブ装置を用いることなく、複合材成形品の品質及び生産性を向上させる成形型及び成形方法を提供する。
【解決手段】 成形型は、複合材成型品の形状に応じた型表面32を有する型表面シェル層15と、型表面シェル層15を支持する支持体16とから主に構成されている。型表面シェル層15は通気性を有する材料よりなり、その型形状面32にプリプレグ材34を載置する。次にプリプレグ材34を非通気性の真空バッグフィルム35で覆い、支持体16の空洞部30の真空引きをする。型表面シェル層15は通気性を有しているため、型形状面32上に存在する空気も型表面シェル層15を介して空洞部30内に排出されることになる。その結果、プリプレグ材34は真空バッグフィルム35の外方の大気圧によって型形状面32に押し付けられ、強固に密着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は成形型及び成形方法に関し、特に複合材成形品を成形するために用いられる成形型及び成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複合材成形品は、ガラス繊維、カーボン繊維やアラミド繊維等及びガラス繊維、カーボン繊維とアラミド繊維等のハイブリッド繊維のプリプレグ材のオートクレーブ成形によって製造されている。オートクレーブ成形では、アルミ材や低膨張金属インバー等の金属材を機械加工して製作した成形型か、又は合成木材等のマスターモデルから反転製作したエポキシ樹脂型やニッケル電鋳型が使用されている。
【0003】
成形時には、オートクレーブ装置内でこのような成形型の型形状面上にプリプレグ材を設置し、次いで、ピールプライ、ブリーダークロスおよび真空バッグフィルムの順で該プリプレグ材を覆う。該ブリーダークロスの外縁に接して真空パイプを連結したスタッドを真空バッグフィルムに貫通させて設置する。次に、オートクレーブ装置内を高圧(0.3〜0.7MPas)にすると共に、この真空パイプを介して真空引きを行う。すると、ピールプライ、ブリーダークロスを介してプリプレグ材周りの空気が排出され、ブリーダークロスの外表面からの加圧と共にプリプレグ材は型表面に密着する。
【0004】
そして、オートクレーブ装置内の温度を所定の温度(100℃以上)に上昇させ、この状態を一定時間保持する。これによって、プリプレグ材は所望の形状に変形した状態で硬化する。硬化が終了すると、オートクレーブ装置から取り出し、成形型から成型品を離型させることによって複合材成形品が製造される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来のオートクレーブ成形法では、高価なオートクレーブ装置の使用を前提としたものであるため、複合材成形品のコストが上昇してしまう。又、温度の上昇下降時間を含めて一定時間オートクレーブ装置を占有してしまうことになり、生産性が良いとは言えない。さらに、オートクレーブ装置内でプリプレグ材の真空引きがされるため、プリプレグ材の型表面への密着状況を十分確認することができない。特に大型の複合材成形品にあっては、スタッドによる真空引きで中央部の密着性を高めるのは容易ではないため、成型品の歩留まりを低下させる虞がある。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、オートクレーブ装置を用いることなく、複合材成形品の品質及び生産性を向上させる成形型及び成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、複合材成型品を成形するために用いられる成形型であって、通気性を有し、その型形状面に複合材を設置するための型表面シェル層と、型表面シェル層の背面側に設けられ、型表面シェル層を介して通過する気体を排出するための空洞部を有する支持体とを備えたものである。
【0008】
このように構成すると、安定した気体の排出が型表面シェル層の全面から可能となる。
【0009】
請求項2記載の発明は、複合材成型品を成形するために用いられる成形型であって、通気性を有し、その型形状面に複合材を設置するための型表面シェル層と、型表面シェル層の背面に接するように配置された底板とを備え、型表面シェル層の底板側の面には、型表面シェル層を通過する気体を排出するための凹部が形成されたものである。
【0010】
このように構成すると、安定した気体の排出が型表面シェル層の全面から可能となる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、型表面シェル層の背面側に設けられ、型表面シェル層の温度を制御するための温度制御用パイプを更に備えたものである。
【0012】
このように構成すると、成形時に型表面シェル層の温度を所望の温度に維持できる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3記載の発明の構成において、型表面シェル層は、表面積100cm当たり、穴径1〜400μmの面積に相当する微孔が1個以上形成されているものである。
【0014】
このように構成すると、複合材の熱硬化性樹脂が微孔内に侵入せず、気体のみが通過する。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の構成において、通気性は、型表面シェル層の表面側と裏面側との圧力差が0.1MPasの条件下で表面積1cm当たり0.001リットル/分以上の空気流量を有するものである。
【0016】
このように構成すると、迅速な気体の排出が可能となる。
【0017】
請求項6記載の発明は、複合材成型品を成形するため成形方法であって、通気性を有する型表面シェル層を設置する工程と、型表面シェル層の表面に複合材を設置する工程と、複合材を完全に覆うように真空バッグフィルムを設置する工程と、型表面シェル層を介して、複合材と型表面シェル層との間の気体を排出する工程とを備えたものである。
【0018】
このように構成すると、複合材は型表面シェル層に容易に密着する。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明の構成において、複合材を加熱して硬化させる工程と、型表面シェル層の背面に気体を導入して加圧し、硬化した複合材を型表面シェル層から離形させる工程とを更に備えたものである。
【0020】
このように構成すると、型表面シェル層から気体が噴出する。
【0021】
請求項8記載の発明は、複合材成型品を成形するため成形方法であって、通気性を有し、円筒形状を有する型表面円筒層を設置する工程と、型表面円筒層の側壁表面に複合材を設置する工程と、複合材を完全に覆うように真空バッグフィルムを設置する工程と、型表面円筒層を介して、複合材と型表面円筒層との間の気体を排出する工程とを備えたものである。
【0022】
このように構成すると、複合材は型表面円筒層の側壁表面に容易に密着する。
【0023】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明の構成において、複合材を加熱して硬化させる工程と、型表面円筒層の背面に気体を導入して加圧し、硬化した複合材を型表面円筒層から離形させる工程とを更に備えたものである。
【0024】
このように構成すると、型表面円筒層から気体が噴出する。
【0025】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明の構成において、型表面円筒層の側壁表面は、型表面円筒層の長手方向の一方端から他方端に向かって径が徐々に増加する形状を有するものである。
【0026】
このように構成すると、複合材成形品の内面も長手方向に向かって傾斜する。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、安定した気体の排出が型表面シェル層の全面から可能となるので、複合材の外表面を特に加圧することなく型表面シェル層との密着性が向上する。その結果、オートクレーブ装置での成形を不要とする。又、ピールプライ、ブリーダークロス等の副資材も不要となる。
【0028】
請求項2記載の発明は、安定した気体の排出が型表面シェル層の全面から可能となるので、複合材の外表面を特に加圧することなく型表面シェル層との密着性が向上する。その結果、オートクレーブ装置での成形を不要とする。又、ピールプライ、ブリーダークロス等の副資材も不要となる。
【0029】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、成形時に型表面シェル層の温度を所望の温度に維持できるので、成形時の加熱源を別途必要としない。
【0030】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3記載の発明の効果に加えて、複合材の熱硬化性樹脂が微孔内に侵入しないので、複合材と型表面シェル層との間の気体の排出が安定して実行される。
【0031】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の効果に加えて、迅速な気体の排出が可能となるので、生産性がより向上する。
【0032】
請求項6記載の発明は、複合材は型表面シェル層に容易に密着するので、複合材の外表面を特に加圧する必要が無い。
【0033】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明の効果に加えて、型表面シェル層から気体が噴出するので、硬化した複合材全体を短時間で効率的に離型させることが可能となる。
【0034】
請求項8記載の発明は、複合材は型表面円筒層の側壁表面に容易に密着するので、複合材の外表面を特に加圧する必要が無い。
【0035】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明の効果に加えて、型表面円筒層から気体が噴出するので、硬化した複合材全体を短時間で効率的に離型させることが可能となる。
【0036】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明の効果に加えて、複合材成形品の内面も長手方向に向かって傾斜するので、硬化した複合材の離型がより容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図1はこの発明の第1の実施の形態による成形型の外観形状を示す概略斜視図であり、図2は図1で示したII−IIラインの断面図である。
【0038】
これらの図を参照して、成形型11は、成形しようとする複合材成型品13の形状に応じた型形状面32を有する型表面シェル層15と、型表面シェル層15を支持する支持体16とから主に構成されている。型表面シェル層15は通気性を有する材料よりなる。型表面シェル層15を支持する支持体16は、非通気性材料よりなり、矩形平板状の底板18と、底板18の外縁から上方に立上り、型表面シェル層15の端部にシール材20を介して接続する側板19a,19bと、型表面シェル層15の背面側と底板18との間に配置された複数の補強リブ23a〜23cとから構成されている。
【0039】
補強リブ23a〜23cの各々には開口24a〜24cが形成され、底板18にも開口26が形成されている。このように支持体16を構成することにより、型表面シェル層15の背面側にシールされた空洞部30が形成されることになる。
【0040】
又、型表面シェル層15の背面に接するように複数の温度制御用パイプ28a〜28dが取付けられている。この温度制御用パイプ28の各々には図示しない装置により所定の温度に維持された液体が流れるように構成されている。
【0041】
型表面シェル層15は、素材自体が通気性を有するものとして空気透過性多孔質スラブ材を機械加工した表面シェル層、所定の表面形状をマスターモデル等から複製して作成されたポーラスニッケル電鋳表面シェル層又は空気透過性ポーラス材表面シェル層が使用される。尚、素材自体が通気性を有しないものとしては、穴径1μm〜400μmの通気性微孔を100cmに1個以上穴あけ加工したアルミ板、スチール板等からなる表面シェル層を機械加工して型表面シェル層15として使用しても良い。
【0042】
又、空気透過性多孔質スラブ材および空気透過性ポーラス材としては、有機粉末や無機粉末を有機もしくは無機バインダーで固化したスラブ材やポーラス材、有機材や無機材を発泡させたスラブ材やポーラス材、有機粉末や無機粉末をスタンピング成形、又はプレス成形や振動成形等をした後加熱硬化や焼結させたスラブ材やポーラス材を使用すれば良い。そして、これらのスラブ材かポーラス材は、穴径1μm〜400μmの開口面積に相当する空気透過性微孔を100cmに1個以上有していれば良い。
【0043】
尚、型表面シェル層15の通気量として、型表面形状側と背面側との圧力差が0.1MPasの条件下で表面積1cm当たりの1分間の空気流量が0.001リットル以上あれば迅速な気体の排出が可能となるため好ましい。したがって、型表面シェル層15の適切な厚さは通気性微孔の合計開口面積と上記の通気量とによって決定されることになる。
【0044】
補強リブ23は、型表面シェル層15に対して溶接又はエポキシ樹脂をベースとした結合材により結合される。又、補強リブ部23の材料としては非通気性の耐熱合板、フェノール板、耐熱ハニカム板、アルミ材またはスチール材等が用いられるが、通気性の素材を用いても良い。尚、成形型11の製造方法については後述する。
【0045】
次に、この成形型11の使用方法について説明する。
【0046】
図3は図2に対応した図であって、複合材成形品の成形状態を示した図である。
【0047】
図を参照して、型表面シェル層15の型形状面32にプリプレグ材34を載置する。次にプリプレグ材34を完全に覆うように非通気性の真空バッグフィルム35を設置する。このとき、真空バッグフィルム35の端部は支持板16の側板19の上面に位置するようにしてシールすることが好ましい。尚、この状態にあっては、プリプレグ材34の周りには空気が存在しているため、プリプレグ材34の型表面シェル層15に対する密着程度は高くない。
【0048】
プリプレグ材34と真空バッグフィルム35の設置が終了すると、図示しない真空装置を駆動して支持体16の開口26を介して空洞部30の空気を排出させる。補強リブ23の各々には開口24が形成されているため、矢印で示すように空洞部30の全体の空気が排出されることになる。一方、上述のように型表面シェル層15は通気性を有しているため、型表面シェル層15の型形状面32上に存在する空気も型表面シェル層15を介して矢印で示すように空洞部30内に排出されることになる。型表面シェル層15の型形状面32に載置されたプリプレグ材34は真空バッグフィルム35で覆われているため、開口26からの空気の排出が継続されると真空バッグフィルム35と型表面シェル層15の型形状面32との間のスペースは真空状態となる。そのため、破線の矢印で示すように真空バッグフィルム35の外表面が周囲に存在する大気圧によって加圧されることになる。その結果、プリプレグ材34は真空バッグフィルム35を介して型表面シェル層15の型形状面32に押し付けられ、強固に密着する。
【0049】
尚、複合材成型品の形状によっては、型表面シェル層15の型形状面32に大きな段差形状や鋭角的な表面形状を有する場合がある。この場合、プリプレグ材34のコシの強さから真空バッグフィルム35の外面にかかる大気圧だけではプリプレグ材34が型形状面32に完全に密着しない虞がある。このような場合には、段差形状等に応じて形成された当て木型をプリプレグ材34と真空バッグフィルム35との間に設置し、上述のように真空バッグフィルム35内を真空状態にすれば良い。これによって、プリプレグ材34の当該部分は、大気圧によって当て木型を介して型形状面32に沿って完全に密着する。
【0050】
この状態で図示しない温度調整装置により、型表面シェル層15の背面に配置された温度制御用パイプに所定の温度に加熱された流体が流され、型表面シェル層15を所定の温度に一定時間維持する。これによって、所定形状に維持されたプリプレグ材34の熱硬化が進行し、複合材成形品が形成される。
【0051】
このように、この成形型11によれば周囲が常圧の状態で成形できるため、高価なオートクレーブ装置を必要としない。そして、プリプレグ材34の型表面シェル層15への安定した密着度を確保することが可能となる。又、成形型11自体でプリプレグ材34の温度制御が可能となるため、別途外部の熱源を必要としない。
【0052】
次に、プリプレグ材34の硬化によって形成された複合材成型品の離型について説明する。
【0053】
図4は図3に対応した図であって、硬化後の複合材成型品の離型状態を示した図である。
【0054】
図を参照して、プリプレグ材34の硬化が終了して複合材成型品13が成形されると真空装置を停止する。そして、温度調整装置によって温度制御用パイプ28内に流れる加熱流体の温度を制御して常温の流体を流すように制御する。これによって、複合材成型品13及び型表面シェル層15の温度を降下させて常温とする。そして、複合材成型品13の上方を覆っていた真空バッグフィルム35を除去する。
【0055】
次に、図示しない空気供給装置を駆動し、支持体16の開口26を介して空洞部30に圧縮空気を供給する。圧縮空気は矢印で示すように補強リブ23の各々の開口24を介して空洞部30全体に行き渡る。上述のように型表面シェル層15は通気性を有するため、圧縮空気は空洞部30から型表面シェル層15を通過し、その型形状面32から外方に噴出することになる。即ち、矢印のように噴出空気は複合材成型品13を押し上げるように作用し、複合材成型品13は型表面シェル層15から離型する。尚、この噴出空気は型表面シェル層15の型形状面32の全面から均等に噴出されるため、複合材成型品13のスムーズな離型が可能となる。又、圧縮空気の圧力は、0.001〜0.1MPasであると離型効率の観点で好ましい。
【0056】
従来のオートクレーブ成形では離型は複合材成型品の端部から順次行わねばならず、航空機部品や自動車部品等の大型の複合材成型品であれば特に時間がかかり生産性を低下させていた。本発明の成形型であれば複合材成型品の大きさに関わらず極めてスムーズに短時間で離型作業が終了する。
【0057】
図5は図1で示した成形型の製造工程を模式的に示した概略断面図である。
【0058】
図を参照して、その(1)に示すように通気性を有する表面シェル層38を準備し、その下面に必要な温度制御用パイプ28を設置する。
【0059】
次に、その(2)に示すように表面シェル層38に底板18、側板19及び補強リブ23からなる支持体16を取付ける。このとき、側板19の上部はシール材20を介して表面シェル層38の端部に接続され、支持体16内の空洞部30の気密性を確保する。
【0060】
次に、その(3)に示すように表面シェル層38の表面を機械加工によって切削し型形状面32を形成することによって、成形型の製造が完了する。
【0061】
尚、上記の第1の実施の形態では、複合材としてプリプレグ材の型成形に適用しているが、複合材によるRTM成形、VARI成形、ヒュージョン成形、インヒュージョン成形や真空バッグ成形等によるFRP複合材成形品及びハニカムパネル成形品にも同様に適用できる。
【0062】
又、上記の第1の実施の形態では、型表面シェル層の背面に空洞部が設けられているが、この空洞部は型表面シェル層を通過する気体の排出スペースの機能を発揮するものを意味し、他の構造であっても良い。
【0063】
更に、上記の第1の実施の形態では、型表面シェル層を表面シェル層の機械加工で形成しているが、これに代えてマスターモデルからの複製によって型表面シェル層を形成しても良い。
【0064】
更に、上記の第1の実施の形態では、型表面シェル層の背面に温度制御用パイプを設けているが、温度制御用パイプは必ずしも無くても良い。この場合、常圧下における加熱オーブン等を利用して複合材を熱硬化させれば良い。又、必要に応じてオートクレーブ装置内でも本発明の成形型を使用することができる。
【0065】
更に、上記の第1の実施の形態では、空気中の成形を前提としているが、窒素等の不活性ガス雰囲気内での成形にも同様に適用できる。
【0066】
図6はこの発明の第2の実施の形態による成形型の外観形状を示す概略斜視図であり、第1の実施の形態による図1に対応した図であり、図7は図6で示したVII−VIIラインの拡大断面図であり、図8は図7で示したVIII−VIIIラインの断面図である。
【0067】
この成形型は、材料の仕様や使用方法等は基本的に第1の実施の形態による成形型と同一であるので、ここでは相違点を中心に説明する。
【0068】
これらの図を参照して、まず、型表面シェル層15の湾曲度が大きく異なっている。すなわち、第1の実施の形態による成形型で成形する複合材成形品13は比較的湾曲度が大きいものを対象としているのに対し、この実施の形態による成形型11は、湾曲度が比較的小さい、例えば自動車のルーフやボンネット等の複合材成形品13を対象としている。したがって、型表面シェル層15の最高点と最低点とで規定される厚さは相対的に薄いものとなる。
【0069】
そのため、この実施の形態では、型表面シェル層15は所定厚の素材の一方面を加工することによって型形状面32を形成することができる。そして、他方面(背面)には加工位置に応じた深さの凹部43a〜43eが5列で平行に型形状面32の長手方向に形成されている。この凹部43a〜43eは図2における空洞部30に相当するものであり、空洞部30と同様に通気性を有する型表面シェル層15を介しての空気の排出を効率的に可能となる。そして、各凹部43a〜43eに対して直交する方向に溝45a〜45cが形成されることによって凹部43a〜43eを通気状態にし、その端部は側板19に形成された開口26a〜26cの各々に接続されている。
【0070】
このようにこの実施の形態では、空洞部を必要としないので型表面シェル層15は直接肉厚の底板18の上に設置されている。尚、底板18には温度制御パイプ28a〜28dが埋め込まれている。これによって型表面シェル層15の温度が制御されている。
【0071】
使用に際しては、図示しない真空装置を駆動して開口26a〜26cを介して溝45a〜45c及び凹部43a〜43eを介して型表面シェル層15と底板18との間のスペースの空気を排出させる。そして、図示しない温度調整装置によって温度制御パイプ28a〜28dに所定の温度に加熱された流体を流すことにより型表面シェル層15の温度を所望の条件に制御する。
【0072】
このように、第2の実施の形態によれば、型表面シェル層15を実質的に薄く形成できると共に空洞部を設ける必要がないため、全体的にコンパクトとなると共にコスト的に有利な成形型になる。
【0073】
図9はこの発明の第3の実施の形態による成形型の概略断面図であり、第2の実施の形態による図7に対応した図である。
【0074】
この成形型は、基本的に第2の実施の形態による成形型と同一であるので、相違点について以下説明する。
【0075】
図を参照して、成形型11において底板18より上の部分は第2の実施の形態による成形型の部分と全く同一である。しかし、この実施の形態による底板18には温度制御用パイプが埋設されていない。その代わり、底板18は薄く形成され、使用時には底板18は温熱プレート47の上に設置される。これによって、温度制御された温熱プレート47の温度が底板18を介して型表面シェル層15に伝達され、型表面シェル層15が成形時に所望の温度に制御される。
【0076】
図10はこの発明の第4の実施の形態による成形型の外観形状を示す概略斜視図であり、図11は図10で示したXI−XIラインの拡大断面図であり、図12は図10で示したXII−XIIラインの拡大断面図である。
【0077】
これらの図を参照して、型表面円筒層50は細長い円筒形状を有しているが、その材質は先の第1の実施の形態による型表面シェル層15と同一であり、通気性を有するものである。型表面円筒層50の長手方向の両端はシール材20a,20bを介して円板状の蓋板51a,51bが取り付けられ、型表面円筒層50の内部の空洞部30を外方からシールしている。蓋板51aには開口26が形成されており、空洞部30と外方とを通気可能としている。尚、型表面円筒層50の側壁表面52は蓋板51b側から蓋板51a側に向かってその径が徐々に太くなるように形成されているが、その理由に付いては後述する。
【0078】
蓋板51aを貫通した温度制御用パイプ28は空洞部30において型表面円筒層50の内面に沿って配置され、蓋板51bを貫通して外部に一旦出た後、再度、蓋板51b、空洞部30及び蓋板51aを通過して戻るように設置されている。このような温度制御用パイプ28が2対設けられている。
【0079】
この成形型は例えばゴルフクラブのシャフトや釣竿のような比較的径が細くて(直径30mm未満)長い円筒状の複合材成形品を対象とするものである。
【0080】
使用に際しては、図11及び図12に示されているように、型表面円筒層50の側壁表面52を略全周覆うようにプリプレグ材34を設置する。この後、第1の実施の形態と同様に真空バッグフィルム等を設置した上、開口26を介した真空引き及び温度制御パイプ28を用いた温度制御を行うことによって、プリプレグ材34は硬化し複合材成形品が成形される。
【0081】
次に成形された複合材成形品を離型する際には、同様に開口26から空洞部30に圧縮空気を供給すれば良い。この場合、型表面円筒層34は上述のように径が徐々に太くなるように表面がテーパー状に形成されているため、複合材成形品は型表面円筒層34から浮き上がった時に径の細い方に移動し離型動作がスムーズに行われる。又、離型後の複合材成形品の成形型11からの取り出しも型表面円筒層34の外面のテーパー形状によって容易となる。
【0082】
図13はこの発明の第5の実施の形態による成形型の外観形状を示す概略斜視図であり、図14は図13で示したXIV−XIVラインの拡大断面図であり、図15は図14で示したXV−XVラインの拡大断面図であり、図16は図14で示したXVI−XVIラインの拡大断面図である。
【0083】
これらの図を参照して、型表面円筒層50は、第4の実施と異なりやや太い円筒形状を有しているが、その材質は先の第1の実施の形態による型表面シェル層15と同一であり、通気性を有するものである。
【0084】
型表面円筒層50は、その内面に長手方向に互いに平行に延びる凹部43が複数形成されており、凹部43の各々の間の部分46が金属製の補強パイプ55の側壁表面に密着するように取り付けられている。補強パイプ55は、後述するように使用の際の型表面円筒層50の内面側への変形等を防止するためのものである。又、型表面円筒層50の長手方向の一方端はシール材20aを介してリング状のスペーサー53に取り付けられ、スペーサー53は円板状の蓋板51aに一体的に取り付けられている。一方、型表面円筒層50の長手方向の他方端はシール材20bを介して円板状の蓋板51bに一体的に取り付けられている。補強パイプ55の一方端は蓋板51bに接続され、その他方端は円板状の仕切板57に接続されている。仕切板57はスペーサー53の幅分の高さを有する複数の支持板56を介して蓋板51aに接続されている。
【0085】
このようにして、型表面円筒層50の内部の凹部43を外方からシールしている。蓋板51aには開口26が形成されており、凹部43の各々と外方とをスペーサー53を介して通気可能としている。尚、型表面円筒層50の側壁表面52は蓋板51側から蓋板51側に向かってその径が徐々に太くなるように形成されているが、その理由に付いては後述する。
【0086】
蓋板51aを貫通した温度制御用パイプ28は、スペーサー53の部分を通過して仕切板57を更に貫通し、補強パイプ55の内面に沿って配置され、蓋板51bを貫通して外部に一旦出た後、再度、蓋板51b、補強パイプ55の内面、仕切板57、スペーサー53の部分及び蓋板51aを通過して戻るように設置されている。このような温度制御用パイプ28が3対設けられている。
【0087】
尚、この成形型は例えばロボットの骨格のような比較的径が太くて(直径30mm以上)短い円筒状の複合材成形品を対象とするものである。
【0088】
使用に際しては、図14及び図15に示されているように、型表面円筒層50の側壁表面52を略全周覆うようにプリプレグ材34を設置する。この後、第1の実施の形態と同様に真空バッグフィルム等を設置した上、開口26を介した真空引き及び温度制御パイプ28を用いた温度制御を行うことによって、プリプレグ材34は硬化し複合材成形品が成形される。尚、温度制御パイプ28の温度は補強パイプ55を介して型表面円筒層50に伝達され、プリプレグ材34を所望の温度に加熱する。
【0089】
次に成形された複合材成形品を離型する際には、同様に開口26から凹部43に圧縮空気を供給すれば良い。この場合、型表面円筒層34は上述のように径が徐々に太くなるように表面がテーパー状に形成されているため、複合材成形品は型表面円筒層34から浮き上がった時に径の細い方に移動し離型動作がスムーズに行われる。又、離型後の複合材成形品の成形型からの取り出しも型表面円筒層34のテーパー形状によって容易となる。
【0090】
尚、この実施の形態による成形型11には型表面円筒層34の内面に補強パイプ55が取り付けられている。そのため、真空引きをした際に内面が低圧になることになる型表面円筒層50の変形が防止され、成形型11の信頼性を向上する。
【0091】
ところで、この実施の形態にあっては、型表面円筒層50の内面に長手方向に延びる凹部43を形成する必要がある。しかし、型表面円筒層50の長手方向の長さが所定以上長くなると、凹部43の形成が容易ではない。
【0092】
図17は第5の実施の形態による成形型の製造方法を概略的に示す工程図である。
【0093】
図を参照して、まず、その(1)に示すように、補強パイプ55を準備した後、型表面円筒層の長手方向の長さをn等分した幅Wを有する型表面円筒層50aを準備する。この型表面円筒層50aにはすでに凹部43aが形成されているが、幅Wが短いため問題なく形成できる。すなわち、幅Wは凹部43の加工が可能な範囲で決定すれば良い。
【0094】
次に、その(2)示すように、型表面円筒層50aを補強パイプ55に通して取り付け、同様の幅Wを有する型表面円筒層50bを準備した後、型表面円筒層50aに隣接するように補強パイプ55に通して取り付ける。このとき、接着剤等を用いて型表面円筒層50aと型表面円筒層50bとを一体化する。
【0095】
次に、その(3)に示すように、型表面円筒層50nまで順次同様の要領で準備して補強パイプに取り付けることによって第5の実施の形態による成形型の主要部が形成される。その後、スペーサーや蓋板等を取り付けることによって、図13で示した成形型が完成する。
【0096】
尚、上記の第2の実施の形態では、開口26、温度制御用パイプ28及び凹部43の数やレイアウトを特定しているが、これらは自在に設定すれば良い。
【0097】
又、上記の第3の実施の形態では、開口26及び凹部43の数やレイアウトを特定しているが、これらは自在に設定すれば良い。
【0098】
更に、上記の第4及び第5の実施の形態では、温度制御用パイプ28の数やレイアウトを特定しているが、これらは自在に設定すれば良い。
【0099】
更に、上記の第4及び第5の実施の形態では、型表面円筒層の側壁表面は傾斜しているが、側壁表面は傾斜していなくても良い。
【0100】
更に、上記の第5の実施の形態では、仕切板を設けているが、仕切板はなくても良い。
【実施例1】
【0101】
この実施例1は、上記の第1の実施の形態を前提とした成形型に基づくものである。
【0102】
型表面シェル層15としてのスラブ材にPortec社(スイス)製「METAPOR HD210AL」を用いた。このスラブ材を型表面形状のCAD加工データを利用して機械加工した。型表面シェル層15の型形状面32の上にそれぞれ三菱レイヨン社製CFプリプレグ材TR3110−381GMXを10プライ重ねた後、真空バッグフィルム35で型表面全体を覆った。通常使用されるシール材を使用してこの真空バッグフィルム35の外周と型表面シェル層15を支持する型外周のアルミ製の側板19を接合シールした。
【0103】
次いで各々の成形型11の支持体16の底板18の開口16に取り付けられた真空パイプを通じて真空ポンプに連結したホースより真空引きを行った。これによって型表面シェル層15の背面よりカーボンプリプレグ材34を真空状態にした後、この成形型11全体を通常の加熱オーブンに入れて所定の時間、所定の温度をかけて前記プリプレグ材を硬化成形した。その後、真空状態を解除してから複合材成形品13を含む成形型11全体を室温まで冷却した。
【0104】
次に、使用した真空バッグフィルム35を取り除いた後、底板18に取り付けられた真空パイプを経由して0.03MPasの圧縮空気を導入した。これによって、該圧縮空気を型表面シェル層15の背面より型形状面32側まで通過させることにより硬化された複合材成形品13を成形型11から離型させた。
【実施例2】
【0105】
この実施例2は、上記の第1の実施の形態による成形型に基づくものである。
【0106】
型表面シェル層15としてのスラブ材にPortec社(スイス)製「METAPOR HD210AL」を用い、背面に温度制御用パイプ28を設置した該スラブ材をアルミ材による補強リブ23と耐熱エポキシ樹脂結合材で一体化した。該スラブ材の型表面形状を実施例1と同様に加工した。
【0107】
次に、型形状面32上にそれぞれ三菱レイヨン社製CFプリプレグ材TR3110−381GMXを10プライ重ねた後、真空バッグフィルム35で型表面全体を覆った。通常使用されるシール材を使用してこの真空バッグフィルム35の外周と型表面シェル層15を支持する型外周のアルミ製側板19を接合シールした。
【0108】
次に、実施例1と同様に真空引きを行った後、温度制御用パイプ28に所定温度に加温した調節油を注入して所定の時間、所定の温度をかけてプリプレグ材34を硬化成形した。その後、真空を解除してから温度制御用パイプ28に室温の調節油を注入して複合成形品13を含む成形型11全体を室温まで冷却し、実施例1と同様に硬化された複合材成形品13を成形型11から離型させた。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】この発明の第1の実施の形態による成形型の外観形状を示した概略斜視図である。
【図2】図1で示したII−IIラインの断面図である。
【図3】図1で示した成形型の成形状態を示した断面図である。
【図4】図1で示した成形型の離型状態を示した断面図である。
【図5】図1で示した成形型の製造方法を示した概略工程図である。
【図6】この発明の第2の実施の形態による成形型の外観形状を示した概略斜視図である。
【図7】図6で示したVII−VIIラインの拡大断面図である。
【図8】図7で示したVIII−VIIIラインの断面図である。
【図9】この発明の第3の実施の形態による成形型の概略断面図である。
【図10】この発明の第4の実施の形態による成形型の外観形状を示した概略斜視図である。
【図11】図10で示したXI−XIラインの拡大断面図である。
【図12】図10で示したXII−XIIラインの拡大断面図である。
【図13】この発明の第5の実施の形態による成形型の外観形状を示した概略斜視図である。
【図14】図13で示したXIV−XIVラインの拡大断面図である。
【図15】図14で示したXV−XVラインの拡大断面図である。
【図16】図14で示したXVI−XVIラインの拡大断面図である。
【図17】この発明の第5の実施の形態による成形型の製造方法を概略的に示した工程図である。
【符号の説明】
【0110】
11…成形型
13…複合材成型品
15…型表面シェル層
16…支持体
18…底板
28…温度制御用パイプ
30…空洞部
32…型形状面
34…プリプレグ材
35…真空バッグフィルム
43…凹部
50…型表面円筒層
52…側壁表面
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材成型品を成形するために用いられる成形型であって、
通気性を有し、その型形状面に複合材を設置するための型表面シェル層と、
前記型表面シェル層の背面側に設けられ、前記型表面シェル層を介して通過する気体を排出するための空洞部を有する支持体とを備えた、成形型。
【請求項2】
複合材成型品を成形するために用いられる成形型であって、
通気性を有し、その型形状面に複合材を設置するための型表面シェル層と、
前記型表面シェル層の背面に接するように配置された底板とを備え、
前記型表面シェル層の前記底板側の面には、前記型表面シェル層を通過する気体を排出するための凹部が形成された、成形型。
【請求項3】
前記型形状面の背面側に設けられ、前記型表面シェル層の温度を制御するための温度制御用パイプを更に備えた、請求項1又は請求項2記載の成形型。
【請求項4】
前記型表面シェル層は、表面積100cm当たり、穴径1〜400μmの開口面積に相当する微孔が1個以上形成されている、請求項1から請求項3記載の成形型。
【請求項5】
前記通気性は、前記型表面シェル層の表面側と裏面側との圧力差が0.1MPasの条件下で、表面積1cm当たり0.001リットル/分以上の空気流量を有する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の成形型。
【請求項6】
複合材成型品を成形するため成形方法であって、
通気性を有する型表面シェル層を設置する工程と、
前記型表面シェル層の表面に複合材を設置する工程と、
前記複合材を完全に覆うように真空バッグフィルムを設置する工程と、
前記型表面シェル層を介して、前記複合材と前記型表面シェル層との間の気体を排出する工程とを備えた、成形方法。
【請求項7】
前記複合材を加熱して硬化させる工程と、
前記型表面シェル層の背面に気体を導入して加圧し、前記硬化した前記複合材を前記型表面シェル層から離形させる工程とを更に備えた、請求項6記載の成形方法。
【請求項8】
複合材成型品を成形するため成形方法であって、
通気性を有し、円筒形状を有する型表面円筒層を設置する工程と、
前記型表面円筒層の側壁表面に複合材を設置する工程と、
前記複合材を完全に覆うように真空バッグフィルムを設置する工程と、
前記型表面円筒層を介して、前記複合材と前記型表面円筒層との間の気体を排出する工程とを備えた、成形方法。
【請求項9】
前記複合材を加熱して硬化させる工程と、
前記型表面円筒層の背面に気体を導入して加圧し、前記硬化した前記複合材を前記型表面円筒層から離形させる工程とを更に備えた、請求項8記載の成形方法。
【請求項10】
前記型表面円筒層の前記側壁表面は、前記型表面円筒層の長手方向の一方端から他方端に向かって径が徐々に増加する形状を有する、請求項9記載の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−67046(P2009−67046A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183394(P2008−183394)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(507282679)株式会社セイエイ (1)
【Fターム(参考)】