説明

成膜基板の製造方法、成膜基板、および成膜装置

【課題】ガラス基板とモリブデン層との密着力の向上が図られた成膜基板を製造する方法、成膜基板、及び成膜装置を提供すること。
【解決手段】所定量の酸素を含有する第1の雰囲気中で、ガラス基板2の表面に第1のモリブデン層3aを成膜し、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気中で、第1のモリブデン層3aの表面に第2のモリブデン層3bを成膜する。これにより、酸化モリブデンを含む密着層3aをガラス基板2上に成膜し、この密着層3aの上にモリブデン層3bを成膜することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜基板の製造方法、成膜基板、および成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、CIS系太陽電池では、ガラス基板(ソーダライムガラス)上に設けられる裏面電極として、Mo(モリブデン)が採用されている。また、ポリイミドフィルムから成り、可撓性を有する基板を備えたCIS系太陽電池が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−1468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ガラス基板上に、モリブデン層が成膜された成膜基板において、モリブデン層とガラス基板との密着力の向上が求められている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、ガラス基板とモリブデン層との密着力の向上が図られた成膜基板を製造する方法、成膜基板、及び成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化モリブデンを含む密着層をガラス基板上に成膜し、この密着層の上にモリブデン層を成膜することで、モリブデン層とガラス基板との密着性を向上させることができることを、見出した。
【0007】
そこで、本発明による成膜基板の製造方法は、ガラス基板上にモリブデンが成膜された成膜基板を製造する方法であって、酸素を含有する第1の雰囲気中で、前記ガラス基板の表面に第1のモリブデン層を成膜する第1成膜工程と、前記第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気中で、前記第1のモリブデン層の表面に第2のモリブデン層を成膜する第2成膜工程と、を備えていることを特徴としている。
【0008】
このような成膜基板の製造方法では、酸素を含有する第1の雰囲気中で、ガラス基板の表面に第1のモリブデン層を成膜することで、この第1のモリブデン層とガラス基板とが強固に密着する。そして、この第1のモリブデン層の表面に第2のモリブデン層を成膜することで、この第2のモリブデン層と第1のモリブデン層とが強固に密着する。すなわち、第2のモリブデン層は、第1のモリブデン層を介してガラス基板上に成膜され、第2のモリブデン層と、ガラス基板との密着力の向上が図られる。
【0009】
ここで、第1成膜工程では、酸素の含有率が0.3%〜5.0%である前記第1の雰囲気中で、前記第1のモリブデン層を成膜することが好ましい。これにより、ガラス基板と第1のモリブデン層との密着力、第1のモリブデン層と第2のモリブデン層との密着力を向上させることができる。
【0010】
また、第2の成膜工程では、第1のモリブデン層よりも厚く、前記第2のモリブデン層を成膜することが好適である。このようにガラス基板上に膜厚が第1のモリブデン層よりも厚い第2のモリブデン層を成膜することで、例えばシート抵抗値の低い第2のモリブデン層の厚さを厚くすることができる。このような成膜基板を太陽電池に用いた場合には、低抵抗かつ高変換率を実現することができる。またシート抵抗の高い第1のモリブデン層を第2のモリブデン層よりも薄くすることで、ガラス基板と第1のモリブデン層との密着力を高めつつ、成膜基板全体の抵抗値の増加を抑制することができる。
【0011】
また、本発明による成膜基板は、ガラス基板と、前記ガラス基板の表面に成膜され、酸素を含有する第1のモリブデン層と、前記第1のモリブデン層の表面に成膜され、前記第1のモリブデン層よりも酸素の含有量が少ない第2のモリブデン層と、を備えていることを特徴としている。
【0012】
このような成膜基板によれば、ガラス基板の表面に酸素を含有する第1のモリブデン層が成膜され、ガラス基板と第1のモリブデン層とが強固に密着される。そして、この第1のモリブデン層の表面に、第1のモリブデン層よりも酸素の含有量が少ない第2のモリブデン層が成膜され、第1のモリブデン層と第2のモリブデン層とが強固に密着される。すなわち、第2のモリブデン層は、第1のモリブデン層を介してガラス基板上に成膜され、第2のモリブデン層と、ガラス基板との密着力の向上が図られる。
【0013】
また、第2のモリブデン層のシート抵抗値は、前記第1のモリブデン層のシート抵抗値よりも低いことが好適である。このようにガラス基板上に第1のモリブデン層を成膜し、この第1のモリブデン層の表面に、第1のモリブデン層のシート抵抗値よりも低いシート抵抗値の第2のモリブデン層を成膜することで、低抵抗とし電極膜としての機能を向上させつつ、密着力の向上を図ることができる。
【0014】
ここで、第2のモリブデン層は、前記第1のモリブデン層よりも厚いことが好ましい。このようにガラス基板上に膜厚が第1のモリブデン層よりも厚い第2のモリブデン層を成膜することで、シート抵抗値の低い第2のモリブデン層の厚さを厚くすることができる。このような成膜基板を太陽電池に用いた場合には、低抵抗かつ高変換率を実現することができる。またシート抵抗の高い第1のモリブデン層を第2のモリブデン層よりも薄くすることで、ガラス基板と第1のモリブデン層との密着力を高めつつ、成膜基板全体の抵抗値の増加を抑制することができる。
【0015】
また、本発明による成膜装置は、ガラス基板にモリブデンを成膜する成膜装置であって、前記ガラス基板の表面に第1のモリブデン層を成膜する第1成膜室と、前記第1のモリブデン層の表面に第2のモリブデン層を成膜する第2成膜室と、前記第1成膜室内を、酸素を含有する第1の雰囲気とし、前記第2成膜室内を、前記第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気とする酸素濃度制御部と、を備え、前記第1成膜室は、前記第1の雰囲気で前記第1のモリブデン層を成膜し、前記第2成膜室は、前記第2の雰囲気で前記第2のモリブデン層を成膜することを特徴としている。
【0016】
このような成膜装置では、ガラス基板の表面に第1のモリブデン層を成膜する第1成膜室を備え、この第1成膜室内を、酸素を含有する第1の雰囲気として、ガラス基板上に第1のモリブデン層を成膜することができる。これにより、ガラス基板と第1のモリブデン層とが強固に密着する。また、成膜装置は、第1のモリブデン層の表面に第2のモリブデン層を成膜する第2成膜室を備え、この第2成膜室内を、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気として、第1のモリブデン層の表面に第2のモリブデン層を成膜することができる。これにより、第1のモリブデン層と第2のモリブデン層とが強固に密着する。すなわち、第2のモリブデン層は、第1のモリブデン層を介してガラス基板上に成膜され、第2のモリブデン層と、ガラス基板との密着力の向上が図られる。
【0017】
ここで、第1成膜室が、第2成膜室を兼ねることが好ましい。このように、酸素を含有する第1の雰囲気で、ガラス基板上に第1のモリブデン層を成膜する第1成膜室と、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気で、第1のモリブデン層の表面に、第2のモリブデン層を成膜する第2成膜室とを兼ねる成膜室を備える構成としてもよい。これにより、同一の成膜室内で、第1のモリブデン層を成膜した後に、第2のモリブデン層を成膜することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガラス基板とモリブデン層との密着力の向上が図られた成膜基板を製造する方法、成膜基板、及び成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る太陽電池セルの断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る成膜装置を示す概略断面構成図である。
【図3】成膜条件による剥離試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による成膜基板、成膜装置、および成膜基板の製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明の成膜基板は、例えば、太陽電池セルの裏面電極として使用されるものである。図1は、本発明の実施形態に係る太陽電池セルの断面図である。なお、図面の説明において同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
(成膜基板)
図1に示す太陽電池セル1は、CIGS系の太陽電池であり、ガラス基板2上に、裏面電極層3、CIGS層4、バッファ層5、透明電極層6が順に積層されている。
【0022】
ガラス基板2は、ナトリウム(Na)を含むソーダガラスである。CIGS層4は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を含む半導体からなる発電層である。
【0023】
裏面電極層3は、ガラス基板2の表面に成膜された第1のモリブデン層3aと、この第1のモリブデン層3aの表面に成膜された第2のモリブデン層3bとを備えている。
【0024】
第1のモリブデン層3aは、酸素を含有する第1の雰囲気中で成膜されたものであり、酸化モリブデンを有するものである。第1のモリブデン層3aには、微量の酸素が添加されている。第1のモリブデン層3aの膜厚は、例えば10nm〜100nm程度である。また、第1のモリブデン層3aのシート抵抗値は、例えば10Ω/□〜100Ω/□程度である。
【0025】
第2のモリブデン層32は、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気で成膜されたモリブデン層である。第2のモリブデン層32の膜厚は、例えば400nm〜900nm程度である。また、第2のモリブデン層32のシート抵抗値は、例えば0.2Ω/□〜0.5Ω/□程度である。
【0026】
そして、第1のモリブデン層3aは、ガラス基板2と第2のモリブデン層(モリブデン主層)3bとの間に配置された密着層として機能する。第2のモリブデン層3bは、第1のモリブデン層3aよりも膜厚が厚くなるように形成されている。また、第2のモリブデン層3bのシート抵抗値は、第1のモリブデン3aのシート抵抗値より低くなるように形成されている。なお、ガラス基板2、第1のモリブデン層3a及び第2のモリブデン層3bが、本発明の成膜基板に相当する。
【0027】
(成膜装置)
次に、図2を参照して、ガラス基板2にモリブデン層3a,3bを成膜する成膜装置10について説明する。図2に示す成膜装置10は、スパッタリング法による成膜を行う装置であり、真空中の希薄アルゴン雰囲気下でプラズマを発生させて、プラズマ中のプラスイオンを成膜材料(Moターゲット)21に衝突させることで金属原子をはじき出し、基板上に付着させて成膜を行うものである。
【0028】
成膜装置10は、成膜処理が行われる第1及び第2成膜室(真空チャンバ)11A,11Bを備え、第1成膜室11Aの入口側に基板仕込室(排気室)12Aが連結され、第2成膜室11Bの出口側に基板取出室(ベント室)12Bが連結されている。また、第1成膜室11Aと第2成膜室11Bとの間には、ガス分離室12Cが連結されている。第1成膜室11Aの出口側にガス分離室12Cの入口側が連結され、ガス分離室12Cの出口側に第2成膜室11Bの入口側が連結されている。
【0029】
基板仕込室12Aは、大気圧下にある基板を装置内に取り込み、室内を真空とするためのチャンバである。基板取出室12Bは、真空中にある成膜基板(モリブデン層が成膜されたガラス基板)を大気圧環境下へ取り出すためのチャンバである。ガス分離室12Cは、ガス置換による酸素ガスとアルゴンガスとの分圧比変更を行うためのチャンバである。
【0030】
以下、基板仕込室12A、第1成膜室11A、ガス分離室12C、第2成膜室11B、基板取出室12Bを区別しない場合には、チャンバ11,12と記すこともある。これらのチャンバ11,12は、真空容器によって構成され、チャンバ11,12の出入口には、ゲートバルブGVが設けられている。ゲートバルブGVは、真空環境と大気圧環境とを隔てるための比較的大きな弁体を備えたバルブである。ゲートバルブGVの両側の圧力が等しいときにゲートバルブGVを開放することで隣接するチャンバ11,12を連通させ、基板2を通過させる。
【0031】
また、各チャンバ11,12内には、基板2を搬送するための基板搬送ローラ14が設置されていると共に、基板2を加熱するためのヒータ15が設置されている。ヒータ15は、基板温度が例えば70℃〜350℃の範囲で一定となるように加熱する。
【0032】
さらに、基板仕込室12Aおよび基板取出室12Bには、ロータリポンプ16が接続され、チャンバ11,12には、TMP(ターボ分子ポンプ)17が接続されている。ロータリポンプ16は、大気圧から1Paまでの排気をするための粘性領域で使用されるポンプであり、TMP17は、1Pa以下の排気をするための分子流領域で使用されるポンプである。
【0033】
また、成膜装置10は、第1及び第2成膜室11A,11B内にスパッタリングターゲットを保持するスパッタリングカソード(保持部)を有する。スパッタリングターゲットであるMoターゲット21は、第1及び第2成膜室11A,11B上部に配置されている。第2成膜室11Bでは、基板2の搬送方向に沿って複数のMoターゲット21が配置されている。Moターゲット21は、DC電源23に電気的に接続されている。DC電源23は、直流電力を供給する電源である。
【0034】
ここで、第1の成膜室11Aは、所定量の酸素を含有する第1の雰囲気中で、ガラス基板2の表面に第1のモリブデン層3aを成膜する成膜室である。第2の成膜室11Bは、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気中で、第1のモリブデン層3aの表面に第2のモリブデン層3bを成膜する成膜室である。
【0035】
そして、成膜装置10は、第1成膜室11A内を、所定量の酸素を含有する第1の雰囲気とし、第2成膜室11B内を、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気とする酸素濃度調整装置(酸素濃度制御部)30A,30Bを備えている。
【0036】
酸素濃度調整装置30Aは、第1成膜室11A内にガスを供給すると共に、第1成膜室11A内の酸素濃度を調整するものである。酸素濃度調整装置30Aは、第1成膜室11A内への酸素ガス導入量を調節するマスフローコントローラ31、第1成膜室11A内へのアルゴンガス導入量を調節するマスフローコントローラ32、第1成膜室11Aに接続されてガスを導入するガス供給経路33、第1成膜室11A内の酸素濃度を検出する酸素濃度計34、第1成膜室11A内の酸素濃度を調整すべくマスフローコントローラ31を制御する制御部35を備えている。
【0037】
酸素濃度調整装置30Bは、第2成膜室11B内にガスを供給すると共に、第2成膜室11B内の酸素濃度を調整するものである。酸素濃度調整装置30Bは、第2成膜室11B内への酸素ガス導入量を調節するマスフローコントローラ31、第2成膜室11B内へのアルゴンガス導入量を調節するマスフローコントローラ32、第2成膜室11Bに接続されてガスを導入するガス供給経路33、第2成膜室11B内の酸素濃度を検出する酸素濃度計34、第2成膜室11B内の酸素濃度を調整すべくマスフローコントローラ31を制御する制御部35を備えている。
【0038】
酸素濃度調整装置30Cは、ガス分離室12C内にガスを供給すると共に、ガス分離室12Cに隣接するゲートバルブGVの状態によって酸素濃度を調整するものである。すなわち、第1成膜室11A側のゲートバルブGVが開いているときは第1成膜室11A内と同じ酸素濃度に調整し、第2成膜室11B側のゲートバルブGVが開いているときは第2成膜室11B内と同じ酸素濃度に調整する。なお、第1成膜室11A側のゲートバルブGVと第2成膜室11B側のゲートバルブGVとが、同時に開かないように制御される。
【0039】
酸素ガス導入量を調節するマスフローコントローラ31には、酸素ガスを供給する酸素ボンベが接続され、アルゴンガス導入量を調節するマスフローコントローラ32には、アルゴンガスを供給するアルゴンガスボンベが接続されている。マスフローコントローラ31,32によって流量が調整された酸素ガス及びアルゴンガスは、ガス供給経路33を通過して第1成膜室11A,第2成膜室11B内に導入され、成膜室11A,11B内の酸素分圧が一定に保たれる。酸素ガス導入量、アルゴンガス導入量を調節する流量調節器として、サーマルバルブ式、電磁弁式、ピエゾバルブ式の流量調整器を用いることができる。
【0040】
また、酸素濃度調整装置30A,30Bの制御部35は、酸素濃度計34によって検出された第1成膜室11A,第2成膜室11B内の酸素濃度に基づいて、マスフローコントローラ31,32を制御することができる。制御部35は、例えば、アルゴンガスの導入量を一定として、酸素ガス導入量を制御することで、成膜室11内の酸素濃度を調整する。例えば、第1成膜室11A内の酸素分圧は、0.003Pa〜0.05Pa程度に制御されることが好ましく、第2成膜室11B内の酸素分圧は、0〜0.002Pa程度に制御されることが好ましい。
【0041】
(成膜装置の動作、及び成膜基板の製造方法)
次に、成膜装置10の動作、及び成膜基板の製造方法について説明する。本実施形態に係る成膜基板の製造方法は、ガラス基板2上にモリブデンが成膜された成膜基板を製造する方法であって、所定量の酸素を含有する第1の雰囲気中で、ガラス基板2の表面に第1のモリブデン層3aを成膜する第1成膜工程と、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気中で、第1のモリブデン層3aの表面に第2のモリブデン層3bを成膜する第2の成膜工程と、を備えている。第1成膜工程は、成膜装置10の第1成膜室11Aで実施され、第2成膜工程は、成膜装置10の第2成膜室11Bで実施される。
【0042】
まず、第1成膜工程及び第2成膜工程の前処理として、ロータリポンプ16及びTMP17を用いて、第1成膜室11A及び第2成膜室11B内の排気を行い真空状態とする。第1成膜室11A、第2成膜室11B内の圧力は、例えば、5×10−4Pa以下とすることが好ましい。
【0043】
次に、各ヒータ15をON状態として、その後各チャンバ11〜13内に導入される基板2の温度が70℃〜350℃の範囲内で一定となるように、ヒータ15における設定値を安定させる。ヒータ15の温度が、常温から設定値(例えば200℃)に上昇すると、ヒータ15自体及び真空チャンバ11,12内に付着しているHOやCOが脱離してチャンバ11,12の圧力が一時的に上昇する。
【0044】
第1成膜室11A内の圧力が所望の真空圧力(5×10−4Pa以下)であることが確認された後に、酸素濃度調整装置30Aの制御部35は、マスフローコントローラ31,32を駆動して、第1成膜室11A内への酸素ガス及びアルゴンガスの供給を開始する。マスフローコントローラ31,32は、第1成膜室11A内の圧力を0.1Pa〜1Paの範囲内で任意の値に維持する。第1成膜工程では、酸素の含有率が0.3%〜5.0%となるように、酸素ガス及びアルゴンガスの供給量を調整する。
【0045】
第2成膜室11B内の圧力が所望の真空圧力(5×10−4Pa以下)であることが確認された後に、酸素濃度調整装置30Bの制御部35は、マスフローコントローラ31,32を駆動して、第2成膜室11B内への酸素ガス及びアルゴンガスの供給を開始する。マスフローコントローラ31,32は、第2成膜室11B内の圧力を0.1Pa〜1Paの範囲内で任意の値に維持する。第2成膜工程では、酸素の含有率が0.0%〜0.2%となるように、酸素ガス及びアルゴンガスの供給量を調整する。
【0046】
その後、DC電源23をON状態として、成膜室11内にプラズマを発生させる。
【0047】
第1成膜室11A内のプラズマ放電が開始されると、Moターゲット21のスパッタリングが始まる。このとき、DC電源23は、Moターゲット21に対する電力密度を、1W/cm〜5W/cmの範囲内の任意の値に維持するように制御する。
【0048】
第2成膜室11B内のプラズマ放電が開始されると、Moターゲット21のスパッタリングが始まる。このとき、DC電源23は、Moターゲット21に対する電力密度を、5W/cm〜30W/cmの範囲内の任意の値に維持するように制御する。
【0049】
ここで、酸素濃度調整装置30A,30Bの制御部35は、マスフローコントローラ31を制御して、酸素ガスの導入流量が、アルゴンガスの導入流量に対して、例えば1/1000から1/10までの範囲内の任意の値に維持するように制御する。
【0050】
被成膜基板であるガラス基板2は、基板仕込室12A内に導入される。基板仕込室12A内にガラス基板2が導入されると、ロータリポンプ16及びTMP17による排気が行われ、基板仕込室12A内が真空状態となる。基板仕込室12A内が真空状態となると、基板仕込室12Aと第1成膜室11Aとの間に配置されたゲートバルブGVが開放され、基板仕込室12A及び第1成膜室11Aが連通し、ガラス基板2が第1成膜室11A内に導入される。
【0051】
第1成膜室11A内では、基板搬送ローラ14による基板搬送速度を一定の値に制御し、ガラス基板2上に成膜される第1のモリブデン層3aの膜厚が制御される。第1成膜室11Aでは、Moターゲット21の直下にモリブデンがスパッタリングされる空間が形成されている。そして、スパッタリング空間内にガラス基板2を通過させることで、ガラス基板2上に第1のモリブデン層3aが成膜される。第1成膜工程を行う第1成膜室11Aでは、第1のモリブデン層3aの膜厚の平均値が例えば10nm以上となるように、搬送速度が制御されることが好ましい。
【0052】
第1成膜工程による成膜の完了後のガラス基板2は、ガス分離室12Cに搬送される。ガス分離室12Cでは、ガス置換による酸素ガスとアルゴンガスとの分圧比変更が行われ、ガラス基板2が第2成膜室11B内へ搬送される。
【0053】
第2成膜室11B内では、基板搬送ローラ14による基板搬送速度を一定の値に制御し、ガラス基板2上に成膜される第2のモリブデン層3bの膜厚が制御される。第2成膜室11Bでは、Moターゲット21の直下にモリブデンがスパッタリングされる空間が形成されている。そして、スパッタリング空間内にガラス基板2を通過させることで、ガラス基板2上に第2のモリブデン層3bが成膜される。第2成膜工程を行う第2成膜室11Bでは、第2のモリブデン層3bの膜厚の平均値が例えば400nm以上となるように、搬送速度が制御されることが好ましい。
【0054】
第2成膜工程による成膜の完了後のガラス基板2は、基板取出室12Bに搬送される。基板取出室12Bでは、空気の室内への導入が行われ、室内の圧力が真空から大気圧となったところで、ガラス基板2が基板取出室12B外へ搬送される。ガラス基板2が取り出された後の基板取出室12B内は、成膜完了後の次のガラス基板2が導入されることに備えるため、ロータリポンプ16及びTMP17による排気が行われ、真空状態とされる。なお、成膜装置10は、上記成膜基板の製造方法における各種工程が、自動で順次進むようにシーケンスが組み込まれている構成でもよい。
【0055】
図3は、成膜条件による剥離試験結果を示す図である。図3では、上段にクロスカットピールテスト(JIS―K5600及びISO2409)の結果を示し、中段に高温アニール後のクロスカットピールテストの結果を示し、下段にLASERスクライブ時のパターン縁部剥離テストの結果を示している。
【0056】
パワー密度は、1.0W/cm、1.5W/cm、2.0W/cmの3段階、酸素流量比は、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%、1.0%、2.0%、3.0%、5.0%、10%の9段階について、成膜条件を変化させて、上記の剥離試験を実施した。図3では、試験結果として、“剥離なし”を“○”と図示し、“剥離あり”を“×”と図示している。なお、パワー密度とは、第1成膜室(第1成膜工程)におけるターゲットの裏面に有する磁気回路の面積に対する電力密度である。また、酸素流量比とは、アルゴンスパッタガスに対する酸素ガスの体積流量の比率である。
【0057】
図3の試験結果によれば、パワー密度によって最適な酸素流量比は異なるものの、酸素流量比が0.3%〜5・0%の範囲では、モリブデン層3a,3bの剥離を抑制できることが分かる。このように、微量の酸素を含有する第1のモリブデン層(密着層)3aをガラス基板2上に成膜し、この第1のモリブデン層3aの表面に第2のモリブデン層3bを成膜することで、ガラス基板2と、モリブデン層3a,3bとの密着性を向上させることができた。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の成膜基板では、ガラス基板2の表面に酸素を含有する第1のモリブデン層3aが成膜され、ガラス基板2と第1のモリブデン層3aとが強固に密着されている。そして、この第1のモリブデン層3aの表面に、第1のモリブデン層3aよりも酸素の含有量が少ない第2のモリブデン層3bが成膜され、第1のモリブデン層3aと第2のモリブデン層3bとが強固に密着されている。すなわち、第2のモリブデン層3bは、第1のモリブデン層3aを介してガラス基板2上に成膜され、第2のモリブデン層3bと、ガラス基板2との密着力の向上が図られている。その結果、太陽電池セルを製造する際の歩留まりの低下を抑えることができる。また、太陽電池セルの品質の向上を図ることができる。
【0059】
ここで、第2のモリブデン層3bのシート抵抗値は、第1のモリブデン層3aのシート抵抗値よりも低いことが好適であり、第1のモリブデン層3aの表面に、第1のモリブデン層3aのシート抵抗値よりも低いシート抵抗値の第2のモリブデン層3bを成膜することで、低抵抗とし電極膜としての機能を向上させつつ、密着力の向上を図ることができる。
【0060】
また、第2のモリブデン層3bは、第1のモリブデン層3aよりも厚いことが好ましく、膜厚が第1のモリブデン層3aよりも厚い第2のモリブデン層3bを成膜することで、シート抵抗値の低い第2のモリブデン層3bの厚さを厚くすることができる。そのため、成膜基板を備えた太陽電池セル1では、低抵抗かつ高変換率を実現することができる。またシート抵抗の高い第1のモリブデン層3aを第2のモリブデン層3bよりも薄くすることで、ガラス基板2と第1のモリブデン層3aとの密着力を高めつつ、成膜基板全体の抵抗値の増加を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態の成膜装置10では、ガラス基板2の表面に第1のモリブデン層3aを成膜する第1成膜室11Aを備え、この第1成膜室11A内を、酸素を含有する第1の雰囲気として、ガラス基板2上に第1のモリブデン層3aを成膜することができる。これにより、ガラス基板2と第1のモリブデン層3aとを強固に密着させることができる。また、成膜装置10は、第1のモリブデン層3aの表面に第2のモリブデン層3bを成膜する第2成膜室11Bを備え、この第2成膜室11B内を、第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気として、第1のモリブデン層3aの表面に第2のモリブデン層3bを成膜することができる。これにより、第1のモリブデン層3aと第2のモリブデン層3bとを強固に密着させることができる。すなわち、第2のモリブデン層3bは、第1のモリブデン層3aを介してガラス基板2上に成膜され、第2のモリブデン層3bと、ガラス基板2との密着力の向上が図られている。なお、第1成膜室と第2成膜室とを兼用する成膜室を備える成膜装置としてもよい。
【0062】
また、本実施形態の成膜基板の製造方法では、酸素を含有する第1の雰囲気中で、ガラス基板2の表面に第1のモリブデン層3aが成膜され、第1のモリブデン層3aがガラス基板2に強固に密着する。そして、この第1のモリブデン層3aの表面に第2のモリブデン層3bが成膜され、第2のモリブデン層3bが第1のモリブデン層3bに強固に密着する。すなわち、第2のモリブデン層3bは、第1のモリブデン層3aを介してガラス基板上に成膜され、第2のモリブデン層3bと、ガラス基板2との密着力の向上が図られる。
【0063】
本実施形態の成膜基板を太陽電池セルに利用した場合には、モリブデンの成膜工程後の他の工程において、高温(例えば600℃)に晒されても、モリブデン層3a,3bの剥離を防止することができる。また、成膜基板にLASERスクライビングを実施した場合のモリブデン層3a,3bの剥離を防止することができる。従って、モリブデン層の密着性の向上を図ることが可能である。
【0064】
また、本実施形態の成膜基板では、モリブデン層の密着力が向上されているため、ガラス基板2中のナトリウム分がモリブデン層を好適に通過し、モリブデン層に密着するCIGS層4に到達し、CIGS層4における発電効率の向上を図ることができる。
【0065】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、スパッタリング法による成膜を行っているが、例えば、物理蒸着法、イオンプレーティング法を適用してもよく、その他の成膜方法を用いて成膜を行ってもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、本発明の成膜基板をCIGS型の太陽電池に適用しているが、例えば、色素増感型など、その他の太陽電池に本発明の成膜基板を適用してもよい。さらに、タッチパネル、液晶ディスプレイ(液晶表示素子)、有機EL素子などに使用される基板に、本発明の成膜基板を適用してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…太陽電池セル、2…ガラス基板、3…裏面電極層、3a…第1のモリブデン層、3b…第2のモリブデン層、10…成膜装置(スパッタリング装置)、11A…第1成膜室、11B…第2成膜室、30A,30B,30C…酸素濃度調整装置(酸素量制御部)、31,32…マスフローコントローラ、35…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上にモリブデンが成膜された成膜基板を製造する方法であって、
酸素を含有する第1の雰囲気中で、前記ガラス基板の表面に第1のモリブデン層を成膜する第1成膜工程と、
前記第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気中で、前記第1のモリブデン層の表面に第2のモリブデン層を成膜する第2成膜工程と、
を備えていることを特徴とする成膜基板の製造方法。
【請求項2】
前記第1成膜工程では、酸素の含有率が0.3%〜5.0%である前記第1の雰囲気中で、前記第1のモリブデン層を成膜することを特徴とする請求項1記載の成膜基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2の成膜工程では、前記第1のモリブデン層よりも厚く、前記第2のモリブデン層を成膜することを特徴とする請求項1又は2記載の成膜基板の製造方法。
【請求項4】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の表面に成膜され、酸素を含有する第1のモリブデン層と、
前記第1のモリブデン層の表面に成膜され、前記第1のモリブデン層よりも酸素の含有量が少ない第2のモリブデン層と、
を備えていることを特徴とする成膜基板。
【請求項5】
前記第2のモリブデン層のシート抵抗値は、前記第1のモリブデン層のシート抵抗値よりも低いことを特徴とする請求項4記載の成膜基板。
【請求項6】
前記第2のモリブデン層は、前記第1のモリブデン層よりも厚いことを特徴とする請求項5記載の成膜基板。
【請求項7】
ガラス基板にモリブデンを成膜する成膜装置であって、
前記ガラス基板の表面に第1のモリブデン層を成膜する第1成膜室と、
前記第1のモリブデン層の表面に第2のモリブデン層を成膜する第2成膜室と、
前記第1成膜室内を、酸素を含有する第1の雰囲気とし、前記第2成膜室内を、前記第1の雰囲気よりも酸素の含有率が低い第2の雰囲気とする酸素濃度制御部と、を備え、
前記第1成膜室は、前記第1の雰囲気で前記第1のモリブデン層を成膜し、
前記第2成膜室は、前記第2の雰囲気で前記第2のモリブデン層を成膜することを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
前記第1成膜室が、前記第2成膜室を兼ねることを特徴とする請求項7記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−77321(P2012−77321A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221385(P2010−221385)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】