抗癒着複合体、および、その方法および用法
本明細書に記載されるものは、二つ以上の組織の間の癒着を抑制または緩和する複合体である。本明細書にはまた、該複合体の使用法も記載される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[謝辞]
本発明に至った研究は、一部米国国立衛生研究所の研究助成金NIH DC04336による財政支援を受けた。本発明においては米国政府も何らかの権利を有する可能性がある。
[関連出願に対する相互参照]
本出願は、2003年5月15日出願の米国特許仮出願第60/471,482号の利益を主張する。引用の出願を、ここに参照することによってその教示に関する全てをそのまま本出願に含める。
【0002】
[発明の背景]
癒着(adhesions)とは、二つの隣接表面の間における繊維性付着の形成であり、手術後の切創および組織外傷治癒の動的過程においてしばしば形成される。癒着の開始は、フィブリン基質の形成から始まる。手術による虚血状態のために、この基質は、線維溶解性活性による溶解を免れ、フィブリンは持続する。次に、外傷修復細胞が、この基質を、組織だった癒着に変換する。この癒着は、多くの場合、血管補給および神経要素を持つ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
癒着は、消化器および婦人科手術においては特異的問題であり、術後の腸管閉塞、不妊、および、慢性骨盤痛をもたらす。このために、術後癒着を緩和するための障壁法がもっとも広く用いられている(Arnold, P.B., Green, C.W., Foresman, P.A., and Rodenheaver, G.T. (2000) 「手術後癒着防止のための再吸収性障壁の評価」"Evaluation of resorbable barriers for preventing surgical adhesions" Fert Steril 73, 157-161; Osada, H., Takahashi, K., Fujii, T.K., Tsunoda, I., and Satoh, K. (1999) 「ウサギにおける術後癒着再形成緩和に対する、ヒアルロン酸ヒドロゲル架橋剤の効果」"The effect of cross-linked hyaluronate hydrogel on the reduction of post-surgical adhesion reformation in rabbits" J Int Med Res 27, 233-241)。例えば、Seprafilm(登録商標、Genzyme)は、ヒアルロナン(HA)、およびカルボキシルメチルセルロース(CMC)によって調製される生体吸収性膜であって、癒着を緩和する。しかしながら、Separafilmの取り扱いは難しく、かつ、滞在時間は短いので効率を下げる。HAゲルであって、HAの内部的にエステル化した形態(ACT(登録商標)、Fidia Advanced Biopolymers)と、0.5%第2鉄イオンとがイオン的に架橋されたゲル(Intergel(登録商標)、Lifecore Biomedical)は、新規の障壁材料であるが、これは、切創の治癒を促進しない。本明細書に記載されるのは、2個以上の組織の間における癒着を抑制または緩和する複合体である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書に記載されるのは、二つ以上の組織の間の癒着を抑制または緩和する複合体、およびその複合体を製造するためのキットである。本明細書にさらに記載されるのは、該複合体の用法である。
【0005】
本発明の利点は、一部は下記の説明において記載されるし、また一部は説明から明白であろうし、または、下記に記載される局面を実行することによって学習することが可能である。下記に記載される利点は、種々の要素を用いることによって、特に付属の特許請求項に指摘される組み合わせを用いることによって実現・達成されるであろう。前述の一般的記述および、後述の詳細な説明のいずれも例示的・説明的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する付属の図は、後述するいくつかの局面を具体的に示す。
本発明の複合体、組成物、および/または方法が開示され、記述される前に、下記に記載される局面は、特定の化合物、合成法、または用法それ自体に限定されるものではなく、それらは当然のことながら変動が可能であることを理解しなければならない。さらに、本明細書で用いられる用語は、特定の局面を記載する目的のためだけに使用されるもので、限定的であることを意図するものではないことを理解しなけれればならない。
【0007】
本明細書において、また、上述の特許請求項において、いくつかの用語が参照されるが、それらは下記の意味を持つと定義される。
本明細書および付属の請求項で用いる場合、単数形"a," "an" および"the"は、文脈から明らかに別様と判断されない限り、複数の参照事物を含む。従って、例えば、"a pharmaceutical carrier"(製薬学的担体)という言及は、2種以上のそのような担体の混合物等を含む。
「要すれば随意の」または「要すれば随意に」とは、続いて記述される事象または状況が起こってもよいし、起こらなくともよいこと、および、説明は、その事象または状況が起こる場合と、起こらない場合とを含むことを意味する。例えば、「要すれば随意に置換される低級アルキル」という表現は、低級アルキル基は、置換されてもよく、置換されなくともよいこと、および、説明は、未置換の低級アルキルと、置換が存在する低級アルキルの両方を含むことを意味する。
本明細書においては、範囲は、「約」ある特定の値から、および/または、「約」別の特定の値までと表現される。このように範囲が表現される場合、別の局面は、前記特定の値から、および/または、前記別の特定の値までを含む。同様に、数値を、「約」という先行品詞を用いて近似値として表す場合も、その特定の数値も別局面を形成することが理解されよう。さらに、範囲のそれぞれの終末点は、いずれも、他方の終末点に対して意味を持つと同時に、他方の終末点とは独立することが理解されよう。
本明細書および頭書の特許請求項における、ある組成物または物品の、ある特定の要素または成分の重量部に対する言及は、その要素または成分と、その組成物または物品における任意の他の要素または成分との間の、重量部で表される重量関係を示す。従って、2重量部の成分Xと5重量部の成分Yを含む化合物において、XとYは、2:5の重量比において存在し、さらに別の成分がその化合物の中に含まれると否とを問わず、その比として存在する。
特に別様に言明されない限り、成分の重量パーセントは、その成分が含まれる処方または組成物の総重量に基づく。
本明細書および頭書の特許請求項で用いる場合、ある化学的分子種の残基とは、ある特定の反応スキームにおいて得られる、その化学的分子種、または、それから得られる処方または化学製品の産物である構成成分を指す。この場合、その構成成分が、その化学的分子種から実際に得られるものか否かを問わない。例えば、少なくとも1個の-COOH基を含むポリサッカリドは、式Y-COOHで表すことができるが、この式においてYは、ポリサッカリド分子の残り(すなわち、残基)である。
本出願を通じて用いられる変数、例えば、R3-R5、R7、R8、L、G、M、U、V、X、Y、およびZは、別様に言明されない限り、以前に定義されたものと同じ変数である。
本明細書で用いられる「アルキル基」という用語は、1から24個の炭素原子から成る、分枝鎖、または非分枝鎖飽和炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシル等である。「低級アルキル」基とは、1から6個の炭素原子を含むアルキル基である。
本明細書で用いる「ポリアルキレン基」という用語は、互いに連結した、2個以上のCH2基を有する基である。ポリアルキレン基は、式-(CH2)n-で表すことが可能である。式中、nは2から25までの整数である。
本明細書で用いる「ポリエーテル基」という用語は、式-[(CHR)nO]m-を有する基である。式中、Rは水素または低級アルキル基であり、nは1から20までの整数であり、mは1から100までの整数である。ポリエーテル基の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびポリブリテンオキシドが挙げられる。
本明細書で用いる「ポリチオエーテル基」という用語は、式-[(CHR)nS]m-を有する基である。式中、Rは水素または低級アルキル基であり、nは1から20までの整数であり、mは1から100までの整数である。
本明細書で用いる「ポリイミノ基」という用語は、-[(CHR)nNR]m-を有する基である。式中、Rは、独立に、水素または低級アルキル基であり、nは1から20までの整数であり、mは1から100までの整数である。
本明細書で用いる「ポリエステル基」という用語は、少なくとも2個のカルボキシル基を有する化合物と、少なくとも2個のヒドロキシル基を有する化合物とを反応させることによって生産される基である。
本明細書で用いる「ポリアミド基」という用語は、少なくとも2個のカルボキシル基を有する化合物と、少なくとも2個の、未置換または単一置換アミノ基を有する化合物とを反応させることによって生産される基である。
本明細書で用いる「アリール基」という用語は、任意の炭素系芳香族であって、ベンゼン、ナフタレン等を含む芳香族であるが、ただし、これらに限定されない。「芳香族」という用語はまた、芳香環の内部に少なくとも1個のヘテロ原子を組み込んだ芳香族と定義される「ヘテロアリール基」を含む。ヘテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄、およびリンが挙げられるが、ただし、これらに限定されない。このアリール基は置換されてもよいし、未置換であってもよい。アリール基は、1種以上の基であって、例えば、アルキル、アルキニル、アルケニル、アリール、ハロゲン化物、ニトロ、アミノ、エステル、ケトン、アルデヒド、ヒドロキシ、カルボン酸、またはアルコキシを含む基によって置換されてもよいが、ただしこれらの基に限定されない。
【0008】
I. 抗癒着複合体
一つの局面において、本明細書に記載されるのは、(1)第1化合物であって、第1抗癒着支持体に共有的に結合される、第1抗癒着化合物を含む第1化合物、および、(2)第1治癒促進性化合物を含む複合体である。
【0009】
本明細書で言及される「抗癒着化合物」とは、細胞付着、細胞拡散、細胞成長、細胞分裂、細胞移動、または細胞増殖を防止する任意の化合物と定義される。一つの局面では、アポトーシスを誘発したり、細胞サイクルを停止させたり、細胞分裂を抑制したり、かつ、細胞の移動性を阻止する化合物は、抗癒着化合物として用いることが可能である。抗癒着化合物の例としては、抗ガン剤、抗増殖剤、PKC阻害剤、ERKまたはMAPK阻害剤、cdc阻害剤、コルヒチンやタキソールのような抗有糸分裂剤、アドリアマイシンやカンプトテシンのようなDNA介在因子、または、ウォルトマニンやLY294002のようなPI3キナーゼ阻害剤が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。一つの局面では、抗癒着化合物は、マイトマイシンCのようなDNA反応性化合物である。別の局面では、米国特許第6,551,610号に開示されるオリゴヌクレオチドの中から任意に選ばれるものを抗癒着化合物として使用することが可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。別の局面では、下記に記載する抗炎症剤の中から任意に選ばれるものは、抗癒着化合物となり得る。抗炎症化合物の例としては、メチルプレドニソン、低用量アスピリン、メドロキシプロゲステロン酢酸、およびロイプロリド酢酸が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0010】
本明細書で言及される「抗癒着支持体」という用語は、抗癒着化合物と共有結合を形成することはできるが、細胞に接着したり、細胞を拡散したり、増殖したりすることのない任意の化合物と定義される。一つの局面では、抗癒着支持体は、親水性の、天然または合成ポリマーである。米国特許第6,521,223号に開示されるポリ陰イオン性ポリサッカリドの中から任意に選ばれるものを、抗癒着支持体として使用することが可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。ポリ陰イオン性ポリサッカリドの例としては、ヒアルロナン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、または、ヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースの混合物が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0011】
第1化合物の形成は、抗癒着化合物を、抗癒着支持体と反応させて、新しい共有結合を形成することを含む。一つの局面では、抗癒着化合物は、抗癒着支持体と反応することが可能な基を持つ。抗癒着化合物上に存在し、抗癒着支持体と反応することが可能な基は天然に生じるものであってもよいし、あるいは、抗癒着化合物を化学的に修飾してそのような基を添加してもよい。別の局面では、抗癒着支持体は、抗癒着化合物に対しより反応的となるように化学的に修飾されてもよい。
【0012】
一つの局面では、第1化合物は、抗癒着化合物を抗癒着支持体と架橋結合することによって形成してもよい。一つの局面では、抗癒着化合物と抗癒着支持体とは、それぞれ、少なくとも1個のヒドラジド基を持ち、これが次に、少なくとも2個のヒドラジド反応基を有する架橋リンカーと反応するように構成されてもよい。ヒドラジド反応基の例としては、カルボン酸、またはその塩またはエステル、アルデヒド基、またはケト基が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。国際公開第02/06373A1に開示される架橋リンカーの中から任意に選ばれるものをこの局面で使用することが可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。一つの局面では、架橋リンカーは、ポリエチレングリコールジアルデヒドである。
【0013】
別の局面では、第1化合物は、抗癒着化合物を、抗癒着支持体に対して酸化的に結合することによって形成される。一つの局面では、抗癒着化合物と抗癒着支持体がそれぞれチオール基を持つ場合、抗癒着化合物と抗癒着支持体とは、酸化剤の存在下に互いに反応して、新しいジスルフィド結合を形成する。一つの局面では、抗癒着化合物と抗癒着支持体の間の反応は、酸素を含む任意のガスの存在下に実行されてもよい。一つの局面では、酸化剤は空気である。この局面はまた、この反応を加速するように第2酸化剤の添加を考慮する。別の局面では、反応は不活性雰囲気(すなわち、酸素不在の)下で実行され、酸化剤は反応に添加される。本法において有用な酸化剤の例としては、ヨウ素分子、過酸化水素、アルキルヒドロペルオキシド、ペルオキシ酸、ジアルキルスルフォキシド、Co+3およびCe+4のような高原子価金属、マンガン、鉛、およびクロム等の金属酸化物、ハロゲン遷移因子が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。Capozzi, G., Modena, G. 「チオール基の化学、II部」"The Chemistry of the Thiol Group Part II"; Patai, S.(編), Wiley, New York, 1974; pp. 785-839に開示される酸化剤は、本明細書に記載される方法において有用である。なお、この文書の全体を引用することにより本明細書に含める。
【0014】
抗癒着化合物と抗癒着支持体の間の反応は、やや塩基性のバッファー液の中で実行されてもよい。抗癒着支持体の量に対する、抗癒着化合物の相対的量は変動してもよい。一つの局面では、抗癒着化合物の、抗癒着支持体に対する容積比は、99:1, 90:10, 80:20, 70:30, 60:40, 50:50, 40:60, 30:70, 20:80, 10:90, または1:99である。一つの局面では、抗癒着化合物と抗癒着支持体は空気中で反応し、室温に放置して乾燥する。この局面では、乾燥材料は、過酸化水素のようn第2酸化剤に暴露される。次に、得られた化合物を水で濯いで、未反応の抗癒着化合物、抗癒着支持体、および未使用の酸化剤があれば全てこれを除去する。本明細書に記載される酸化的結合法を通じて第1化合物を調製する利点は、結合が、さらにそれ以上の架橋試薬を要することなく、生理学的に穏やかな条件下の水性媒体の中で進行することが可能となることである。
【0015】
一つの局面では、抗癒着支持体は、式IIIを持つように化学的に修飾される。すなわち、
【化1】
式中、
Yは、抗癒着支持体の残基であり、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基であってもよい。
一つの局面では、式IIIのLは、CH2CH2、またはCH2CH2CH2であってもよい。一つの局面では、抗癒着支持体の残基は、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体であってもよい。
【0016】
図1は、Yがヒアルロナンである場合の式IIIを有する抗癒着支持体を生産するための、前述の方法の一局面を示す。第1工程は、式Y-COOHを有する巨大分子を、式Aを有するジヒドラジド/ジスルフィド化合物と反応させることを含む。この反応は、縮合剤の存在下に実行される。縮合剤は、化合物Aのジヒドラジド基と巨大分子のCOOH基との間の反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物であってもよい。一つの局面において、縮合剤は、例えば、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-カルボジイミド(EDCI)を含むカルボジイミドであるが、ただしこれに限定されない。図1に示すように、第1工程後に、産物同士(BおよびC)の混合物が生産される。化合物BとCにおけるジスルフィド結合が還元剤によって分断される。一つの局面では、この還元剤は、ジチオスレイトールである。化合物BおよびCにおけるジスルフィド結合の分断によって、式IIIを有する抗癒着支持体が得られる。
【0017】
前述の方法によって生産される第1化合物は、少なくとも1個の、式VIを含む断片を有する。
【化2】
式中、
Yは、抗癒着支持体の残基であってもよく、かつ、
Gは、抗癒着化合物の残基であってもよい。
【0018】
本明細書で用いられる「断片」という用語は、全体分子そのもの、または、より大きな分子の一部、または一セグメントを指す。例えば、式VIのYは高分子量のヒアルロナンであって、抗癒着化合物とジスルフィド結合によって架橋されて第1化合物を生産してもよい。あるいは別に、第1化合物は、複数のジスルフィド結合を持っていてもよい。この局面では、第1化合物は、最低式VIで表される1単位を有する。すなわち、その1単位は、少なくとも1個の抗癒着化合物が、少なくとも1個の抗癒着支持体と酸化を通じて反応した結果生じた少なくとも1個のジスルフィド結合を表す。
【0019】
一つの局面では、式VIを有する断片は、式VIIIを有する。
【化3】
式中、
Yは、抗癒着支持体の残基であってもよく、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリアミノ基、ポリイミノ基、アリール基、ポリエステル、またはポリチオエーテル基であってもよく、かつ、
Gは、抗癒着化合物の残基であってもよい。
【0020】
一つの局面では、式VIIIのLは、ポリアルキレン基であってもよい。別の局面で、式VIIIのLは、C1からC20ポリアルキレン基であってもよい。別の局面では、式IIIのLは、CH2CH2またはCH2CH2CH2であってもよい。別の局面では、Yはカルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体の残基であってもよい。
【0021】
別の局面では、第1化合物は、少なくとも1個のSH基を持つ抗癒着支持体を、少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、少なくとも1個の抗癒着化合物と反応させることによって生産される。
【0022】
少なくとも1個のチオール反応性求電子基を持つものであれば、前述の抗癒着化合物の内から任意に選ばれるものをこの局面で使用することが可能である。本明細書で用いられる「チオール反応性求電子基」という用語は、チオール基の硫黄原子の、ペアの片割れ電子、または、チオール酸陰イオンによる求電子攻撃に対して感受性を持つ任意の基である。チオール反応性求電子基の例としては、離れやすい基を有する基が挙げられる。例えば、ハロゲンまたはアルコキシ基を付着させたアルキル基、または、α-ハロカルボニル基が、チオール反応性求電子基の例である。別の局面では、チオール反応性求電子基は、電子欠乏ビニル基である。本明細書で用いる「電子欠乏ビニル基」という用語は、炭素-炭素二重結合を持つ基であって、これらの炭素原子の一方に電子吸引基を付着させた基である。電子欠乏ビニル基は、式Cβ=CαXで表される。式中、Xは電子吸引基である。電子吸引基がCαに付着すると、ビニル基(Cβ)の他方の炭素原子は、チオール基による求電子攻撃に対してより感受性が高くなる。活性化炭素-炭素二重結合に対する、このタイプの付加をマイケル付加と呼ぶ。電子吸引基の例としては、ニトロ基、シアノ基、エステル基、アルデヒド基、ケト期、スルフォン基、またはアミド基が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。一つの局面では、抗癒着化合物は、電子欠乏ビニル基であって、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド、またはメタクリルアミドである電子欠乏ビニル基を有する。
【0023】
一つの局面では、抗癒着化合物は、アクリレート基を有するマイトマイシンCであってもよい。図2はこの局面を示す。同図において、マイトマイシンC(MMC)は、対応するアクリル酸塩(MMC-アクリレート)に変換される。別の局面では、次に、MMC-アクリレートは、ヒドラジド修飾ヒアルロナンチオール化合物HA-DTPH(式IIIで、Yはヒアルロナンの残基であり、LはCH2CH2CH2である)と結合して、HA-DTPH-MMCを生産する(図2)。
【0024】
別の局面では、第1化合物は、少なくとも1個のチオール反応性求電子官能基を有する抗癒着支持体を、少なくとも2個のチオール基を有する、少なくとも1個の抗癒着化合物と反応させることによって生産される。一つの局面では、少なくとも1個のチオール反応性求電子官能基を有する抗癒着支持体は、式Iを有する。
【化4】
式中、
Yは、抗癒着支持体の残基であってもよく、
Qは、チオール反応性求電子官能基であってもよく、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基であってもよい。
【0025】
一つの局面では、Qがチオール反応性求電子官能基である場合、Yは、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体であってもよく、Lは、CH2CH2またはCH2CH2CH2であってもよい。別の局面では、Qは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、またはメタクリルアミド付加物であってもよい。
【0026】
抗癒着支持体を、少なくとも1個のチオール反応性求電子官能基を有する抗癒着化合物と反応させることによって生産される化合物は、式VIIで表される少なくとも1個の断片を持つ。
【化5】
式中、
R7およびR8は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルであってもよく、
Xは、抗癒着化合物に付着する電子吸引基であってもよく、かつ、
Yは、抗癒着支持体の残基であってもよい。
【0027】
この局面では、式VII中のXは、前述の抗癒着化合物から選ばれる任意のものであってよく、Yは、前述の抗癒着支持体から選ばれる任意のものであってもよい。一つの局面では、R7は水素である。別の局面では、R7は水素であり;R8は水素かメチルであり;Xは、電子欠乏ビニル基を有するマイトマイシンCの残基であり;かつ、Yは、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体である。
【0028】
一つの局面では、チオール反応性化合物(抗癒着化合物または抗癒着支持体)と、チオール化合物(抗癒着化合物または抗癒着支持体)との間の反応は、一般に、7から12、7.5から11、7.5から10、または7.5から9.5、または8のpHで実行される。一つの局面では、使用される溶媒は、水(単独)であっても、あるいは、有機溶媒を含む水溶液であってもよい。一つの局面では、混合溶媒系を用いる場合、一次、二次、または三次アミンのような塩基を使用することが可能である。一つの局面では、チオール反応性化合物に対して、相対的に過剰なチオール化合物が用いられる。これは、全てのチオール反応性化合物が反応時に消費されることを確保するためである。チオール反応性化合物、チオール化合物、反応のpH、および、溶媒の選択に応じて、結合は、数分内から数日までかかることがある。反応が、空気のような酸化剤の存在下に行われる場合、チオール化合物は、酸化的付加を介してそれ自体と、または、別のチオール化合物と反応し、チオール反応性化合物と反応するのみならず、ジスルフィド結合を形成する可能性がある。
【0029】
別の局面では、第1化合物は、第1癒着化合物と、第1癒着支持体とを架橋剤の存在下に反応させることによって生産される。この第1癒着化合物、第1癒着支持体、および架橋剤は、任意の順序で相互に反応させてよい。一つの局面では、架橋剤は、両方とも同じものである、二つの電子欠乏ビニル基を有するチオール反応性化合物であってもよい。別の局面では、チオール反応性化合物は、ジアクリレート、ジメタクリレート、ジアクリルアミド、ジメタクリルアミド、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0030】
一つの局面では、架橋剤は式Vを有する。
【化6】
式中、
R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルであってもよく、
UおよびVは、それぞれ独立に、OまたはNR5であってもよく、ただしここにR5は水素または低級アルキルであり、かつ、
Mは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基であってもよい。
【0031】
一つの局面では、R3およびR4は水素であり、UおよびVは酸素であり、かつ、Mはポリエーテル基である。別の局面では、R3およびR4は水素であり、UおよびVはNHであり、かつ、Mはポリエーテル基である。さらに別の局面では、R3およびR4はメチルであり、UおよびVは酸素であり、かつ、Mはポリエーテル基である。別の局面では、R3およびR4はメチルであり、UおよびVはNHであり、かつ、Mはポリエーテル基である。
【0032】
図3は、架橋結合の一つの局面を示す。HA-DTPH-MMCは、1個以上の遊離チオール基を含み、これらの基は次にPEGDAと結合して、HA-DTPH-PEGDA-MMCを生産する。
【0033】
この複合体は、要すれば随意に、未反応(すなわち、遊離の)抗癒着化合物を含んでもよい。この未反応抗癒着化合物は、抗癒着支持体に共有的に結合される抗癒着化合物とは同じであっても、異なっていてもよい。
【0034】
この複合体は、治癒促進性化合物から構成される。本明細書で用いられる「治癒促進性薬剤」という用語は、細胞成長、細胞増殖、細胞移動、細胞運動、細胞癒着、または細胞分化を促進する、任意の化合物である。一つの局面では、治癒促進性化合物は、タンパクまたは合成ポリマーを含む。本明細書に記載される方法において有用なタンパクは、細胞外基質タンパク、化学的に修飾された細胞外基質タンパク、または、細胞外基質タンパクの部分的に加水分解された誘導体であるが、ただしこれらに限定されない。これらのタンパクは、細胞相互作用性ドメインを持つ、天然のポリペプチド、または組み換えポリペプチドであってもよい。このタンパクはまた、複数のタンパクであって、その内の1種以上が修飾されたタンパクの混合物であってもよい。タンパクの特定的例としては、コラーゲン、エラスチン、デコリン、ラミニン、またはフィブロネクチンが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0035】
一つの局面では、合成ポリマーは、ヒドラジドと反応することが可能な、少なくとも1個のカルボン酸基、またはその塩またはエステルを有する。一つの局面では、合成ポリマーは、グルクロン酸、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、またはポリフマール酸を含む。
【0036】
別の局面では、治癒促進性化合物は、米国特許第6,548,081B2号に開示される支持体の中から任意に選ばれるものであってもよい。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。一つの局面では、治癒促進性化合物は、架橋結合アルギン酸塩、ゼラチン、コラーゲン、架橋結合コラーゲン、コラーゲン誘導体、例えば、スクシニル化コラーゲンまたはメチル化コラーゲン、架橋結合ヒアルロナン、キトサン、キトサン誘導体、例えば、メチルピロリドン・キトサン、セルロース、およびセルロース誘導体、例えば、セルロースアセテート、またはカルボキシメチルセルロース、デキストラン誘導体、例えば、カルボキシメチルデキストラン、でん粉、およびでん粉誘導体、例えば、ヒドロキシエチルでん粉、他のグリコサミノグリカンおよびその誘導体、他のポリ陰イオン性ポリサッカリドまたはその誘導体、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸とポリグリコール酸(PLGA)のコポリマー、ラクチド、グリコリド、および他のポリエステル、ポリオキサノンおよびポリオキサレート、無水ポリ(ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン)(PCPP)およびセバシン酸のコポリマー、ポリ(1-グルタミン酸)、ポリ(d-グルタミン酸)、ポリアクリル酸、ポリ(d1-グルタミン酸)、ポリ(1-アスパラギン酸)、ポリ(d-アスパラギン酸)、ポリ(d1-アスパラギン酸)、ポリエチレングリコール、上掲のポリアミノ酸と、ポリエチレングリコールのコポリマー、ポリペプチド、例えば、コラーゲン様、絹様、および絹エラスチン様タンパク、ポリカプロタクトン、ポリ(アルキレンコハク酸)、ポリ(ヒドロキシブチル酸)(PHB)、ポリ(ブチレンジグリコール酸)、ナイロン-2/ナイロン-6-コポリアミド、ポリジヒドロピラン、ポリフォスファゼン、ポリ(オルトエステル)、ポリ(シアノアクリル酸)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリカゼイン、ケラチン、ミオシン、およびフィブリンが挙げられる。別の局面では、架橋結合HAは、治癒促進性化合物であってもよい。
【0037】
別の局面では、治癒促進性化合物はポリサッカリドであってもよい。一つの局面では、ポリサッカリドは、ジヒドラジドと反応することが可能な、少なくとも1個の基、例えば、カルボン酸基、またはその塩またはエステルを有していてもよい。一つの局面では、ポリサッカリドは、グリコサミノグリカン(GAG)である。GAGは、沢山の交互に繰り返すサブユニットを有する一つの分子である。例えば、硫酸化されないGAGであるHAは、(GlcNAc-GlcUA-)xである。他のGAGは、様々な糖において硫酸化される。一般的に、GAGは、式A-B-A-B-A-Bで表される。式中、Aはウロン酸であり、Bは、O-、またはN-硫酸化されたアミノ糖であり、AおよびB単位は、エピマー含量、または硫酸化に関して異質であってもよい。ウロン酸を含むものであれば、任意の天然または合成のポリマーを使用することが可能である。
【0038】
一般に理解される構造を持つもの、例えば、開示の組成物に含まれる構造を有するものにも多種多様なGAGが、例えば、コンドロイチン硫酸、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、デルマタン硫酸、およびヘパラン硫酸のようなGAGがある。従来技術で既知の、任意のGAGを、本明細書に記載される複合体の内から任意に選ばれるものに使用することが可能である。グリコサミノグリカンは、Sigmaおよび、他の多くの生化学的供給業者から購入することが可能である。本明細書で記載される複合体において有用なポリサッカリド含有の、他のカルボン酸としては、アルギン酸、ペクチン、およびカルボキシメチルセルロースがある。
【0039】
一つの局面では、治癒促進性化合物は、式中のYはポリサッカリドの残基である、式IIIを有する化合物である。別の局面では、Yはヒアルロナンの残基である。HAは、非硫酸化GAGである。ヒアルロナンは、交互に連結する2種類の糖、D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンから構成される、良く知られた、天然の、水溶性ポリサッカリドである。このポリマーは、親水性で、比較的低い溶質濃度の水溶液では極めて粘度が高い。天然では、ナトリウム塩、すなわち、ヒアルロン酸ナトリウムとして存在することが多い。市販のヒアルロナン、およびその塩の調製法はよく知られている。ヒアルロナンは、Seikagaku Co., Clear Solutions Biotech, Inc., Pharacia Inc., Sigma Inc. を始め、他の多くの供給業者から購入することが可能である。高分子量ヒアルロナンの場合、多くの場合100から10,000ジサッカリド単位の範囲にある。別の局面では、ヒアルロナンの分子量の最低限度は、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、または100,000であり、最高限度は、200,000、300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、800,000、900,000、または1,000,000であり、その際、下限から任意に選ばれるものを、上限から任意に選ばれるのものと組み合わせることが可能である。
【0040】
複合体は、要すれば随意に、第2の治癒促進化合物を含んでもよい。一つの局面では、第2治癒促進化合物は成長因子であってもよい。成長因子としては、細胞および組織の成長および生存を促進したり、または、細胞の機能を増進することが可能なものであれば、任意の物質または代謝前駆物質が有用である。成長因子の例としては、神経成長促進物質、例えばガングリオシド、神経成長因子等;硬または軟組織成長促進因子、例えばフィブロネクチン(FN)、ヒト成長ホルモン(HGH)、コロニー刺激因子、骨形成因子、血小板由来増殖因子(PDGE)、インスリン由来増殖因子(IGF-I、IGF-II)、トランスフォーミング増殖因子アルファ(TGF-アルファ)、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-ベータ)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン-1(IL-1)、血管内皮増殖因子(VEGF)およびケラチノサイト増殖因子(KGF)、乾燥骨物質等;抗腫瘍剤、例えば、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、アドリアマイシン、ビンブラスチン、シスプラチン、毒素に接合された腫瘍特異的抗体、腫瘍壊死因子等が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。複合体に組み込まれる成長因子の量は、選択された成長因子および治癒促進化合物を始めとして、複合体の意図された最終用途に応じて変動する。
【0041】
この局面では、米国特許第6,534,591B2号に開示される成長因子の内から任意に選ばれるものの使用が可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。一つの局面では、成長因子は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、結合組織活性化ペプチド(CTAP)、骨形成因子、および、これらの成長因子の生物学的に活性な類縁体、断片、および誘導体が挙げられる。トランスフォーミング増殖因子(TGF)のスーパー遺伝子ファミリーのメンバーは、多機能調節タンパクである。TGFスーパー遺伝子ファミリーのメンバーとしては、ベータトランスフォーミング増殖因子(例えば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3);骨形成タンパク(例えば、BMP-1、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8、BMP-9);ヘパリン結合増殖因子(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF);インヒビン(例えば、インヒビンA、インヒビンB);成長分化因子(例えば、GDF-1);および、アクチビン(例えば、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB)が挙げられる。
【0042】
成長因子は、生得の、または天然の供給源、例えば、哺乳類細胞から単離することが可能であり、あるいは、合成的に、例えば、組み換えDNA技術によって、あるいは、様々の化学的過程を通じて調製することが可能である。さらに、これらの因子の類縁体、断片、または誘導体も、それらが元の分子の生物学的活性の少なくともいくつかを提示する限り、使用が可能である。例えば、部位特異的突然変異形成、またはその他の遺伝子工学技術によって改変した遺伝子の発現によって調製することが可能である。
【0043】
別の局面では、架橋リンカーの付加を用いて、第1化合物を、治癒促進化合物に結合させることが可能である。この局面には、前述の架橋リンカーの内から任意に選ばれるものを用いることが可能である。一つの局面では、第1化合物と治癒促進化合物とが、遊離チオール基を持つ場合、少なくとも2個の反応性求電子基を有する架橋リンカーを用いて、この二つの化合物を結合させることが可能である。さらに、架橋リンカーは、二つの第1化合物同士、または二つの治癒促進化合物同士を結合することも可能である。
【0044】
一つの局面では、架橋リンカーは、共に同じである、二つの電子欠乏ビニル基を有するチオール反応性化合物であってもよい。別の局面では、チオール反応性化合物は、ジアクリレート、ジメタクリレート、ジアクリルアミド、ジメタクリルアミド、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0045】
別の局面では、チオール反応性化合物は式Vを有する。
【化7】
式中、
R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルであってもよく、
UおよびVは、それぞれ独立に、OまたはNR5であってもよく、ただしここにR5は水素または低級アルキルであり、かつ、
Mは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基であってもよい。
【0046】
一つの局面では、R3およびR4は水素であり、UおよびVは酸素であり、かつ、Mはポリエーテル基である。別の局面では、R3およびR4は水素であり、UおよびVはNHであり、かつ、Mはポリエーテル基である。さらに別の局面では、R3およびR4はメチルであり、UおよびVは酸素であり、かつ、Mはポリエーテル基である。別の局面では、R3およびR4はメチルであり、UおよびVはNHであり、かつ、Mはポリエーテル基である。
【0047】
本明細書に記載される複合体は、意図される用途に応じて、様々な形および形態を取ることが可能である。一つの局面では、複合体は、積層体、ゲル、ビーズ、スポンジ、フィルム、メッシュ、またはマトリックスであってもよい。米国特許第6,534,591B2および6,548,081B2号に開示される処理手順を用いて、様々な形の複合体を調製することが可能である。なお、これらの特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。
【0048】
一つの局面では、複合体は積層体である。一つの局面では、この積層体は、第1層と第2層を含み、ここに、(1)第1層は、第1抗癒着支持体に共有的に結合される第1抗癒着化合物を含む第1化合物を含み、第1層は第1表面と第2表面とを有し、かつ、(2)第2層は、第1治癒促進化合物を含み、第2層は第1表面と第2表面とを有し、第1層の第1表面は、第2層の第1表面に接することを特徴とする積層体である。この局面では、第1層は第2層に接する。第1化合物と治癒促進化合物の選択に応じて、第1化合物と治癒促進化合物とは、互いに共有的に結合されてもよいし、あるいは、互いに単に物理的に接触するだけで、その二つの化合物の間に何の化学的反応が見られなくともよい。一つの局面では、第1化合物と治癒促進化合物は、酸化剤の存在下に新たにジスルフィド結合を形成することが可能な、遊離チオール基を持つ。
【0049】
一つの局面では、治癒促進化合物から成る第2層を、第1層のフィルム上に被覆してもよい。一つの局面では、第1層および第2層の間のインターフェイスの幅は、第1層の流し込み時間に応じて変動してもよい。例えば、第1層の流し込み時間が長い場合には、第2層の被覆後に形成されるインターフェイスの幅は減少する。同様に、第1層の流し込み時間が短い場合には、より幅広いインターフェイスが製造される。第1層と第2層の間のインターフェイスの幅を変えることによって、急速な(狭いインターフェイスの場合)、または緩徐な(広いインターフェイスの場合)細胞成長を阻止することが可能になる。別の局面では、治癒促進化合物の、さらに別の層を、第1層の別の表面に被覆して、治癒促進性化合物に被われた、サンドイッチ型の第1層を製造することが可能である。図4は、このサンドイッチ型積層体の一局面を示す。
【0050】
一つの局面では、複合体は、対象者に対して搬送する前に、任意の所望の形に成形してもよい。別の局面では、第2層(治癒促進化合物)を対象者に塗布して、その後、暴露された第2層に対して第1化合物を被覆することも可能である。さらに別の局面では、治癒促進化合物を含む別の層を、第1層の暴露された表面に対して被覆することが可能である。この局面では、サンドイッチ型積層体は、対象者の生体内で形成される。
【0051】
一つの局面では、第1化合物と、治癒促進化合物とは、キットとして用いられてもよい。例えば、第1化合物と治癒促進化合物とは別々の注射器に収められ、その内容物は、対象者に対して搬送される直前に、注射器対注射器技術を用いて混合される。この局面では、第1化合物と治癒促進化合物とは、排出装置によって注射器の開口から押し出され、その後、従来技術で既知の技術、例えば、へらによって広げられる。別の局面では、第1化合物と治癒促進化合物とは、特定区域または対象領域へ塗布後、自然手段によって拡散される。
【0052】
別の局面では、第1化合物と治癒促進化合物とは、ノズルまたは、その他の噴霧装置を備えたスプレー缶または瓶の、別々のチェンバーに収められる。この局面では、第1化合物と治癒促進化合物とは、それぞれが噴霧装置のノズルから一緒に吐出されるまでは、実際には交わらない。
【0053】
II. 製薬組成物
一つの局面では、前述の複合体は全て、少なくとも1種の製薬学的に受容可能な化合物を含んでもよい。こうして得られた製薬組成物は、塗布部位に隣接した、または離れた組織に対して、薬剤およびその他の生物学的活性剤を持続的、連続的に搬送するためのシステムを提供することが可能である。この生物学的活性剤は、それが適用される生物組織に対して、局所的、または全身的生物学的、生理学的、または治療的作用を実現することが可能である。例えば、この薬剤は、数ある機能の内でも特に、感染または炎症を沈静したり、細胞成長や組織の再生を強化したり、腫瘍の増殖を抑えたり、鎮痛剤として作用したり、抗細胞付着を促進したり、骨成長を強調するように作用することが可能である。さらに、本明細書に記載される抗癒着複合体は全て、2種以上の製薬学的に受容可能な化合物の組み合わせを含んでもよい。一つの局面では、複合体が積層体である場合、製薬学的に受容可能な化合物は、第1および/または第2層に組み込まれてもよい。
【0054】
一つの局面では、製薬学的に受容可能な化合物は、生物系に対して全身的に、または、欠損部位に対して局所的に感染を防止することが可能な物質、例えば、抗炎症剤、例えば、ピロカルピン、ヒドロコーチゾン、プレドニソロン、コーチゾン、ジクロフェナックナトリウム、インドメタシン、6α-メチル-プレドニソロン、コルチコステロン、デキサメタゾン、プレドニソン等(ただしこれらに限定されない);抗菌剤、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、バシトラシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロロキン、ビダラビン等(ただしこれらに限定されない)を含む抗菌剤;鎮痛剤、例えば、サリチル酸、アセタミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、フルルビプロフェン、モルフィン等を含む抗菌剤(ただしこれらに限定されない);局所麻酔剤、例えば、コカイン、リドカイン、ベンゾカイン等を含む局所麻酔剤(ただしこれらに限定されない);免疫原(ワクチン)であって、肝炎、インフルエンザ、麻疹、風疹、破傷風、ポリオ、狂犬病等に対する抗体を刺激するための免疫原(ワクチン);ペプチドであって、ロイプロリド酢酸(LH-RH作用剤)、ナファレリン等を含むペプチド(ただしこれらに限定されない)を含むことが可能である。全ての化合物が、Sigma Chemical Co(ミルウォーキー、ウィンスコンシン州)から入手することが可能である。
【0055】
その他の有用な物質としては、ホルモン、例えば、プロゲステロン、テストステロン、および卵胞刺激ホルモン(FSH)(バースコントロール、受胎促進)、インスリン等を含むホルモン;ジフェンヒドラミン等のような抗ヒスタミン剤;心臓血管剤、例えば、パパベリン、ストレプトキナーゼ等;抗潰瘍剤、例えば、ヨウ化イソプロパミド等;気管支拡張剤、例えば、メタプロテルナール硫酸、アミノフィリン等;血管拡張剤、例えば、テオフィリン、ニアシン、ミノキシジル等;中枢神経剤、例えば、トランキライザー、B-アドレナリン性遮断剤、ドーパミン等;リスペリドンのような抗精神病薬、ナルトレキソン、ナロキソン、ブプレノルフィン、およびその他の類似物質のような麻酔拮抗剤が挙げられる。化合物は全てSigma Chemical Co. (ミルウォーキー、ウィンスコンシン州)から入手が可能である。
【0056】
製薬組成物は、従来技術で既知の技術を用いて調製することが可能である。一つの局面では、組成物は、複合体形成の前に、本明細書で記載される第1化合物および/または治癒促進化合物を、製薬学的に受容可能な化合物と混合することによって調製される。「混合する」という用語は、二つの成分を、化学的または物理的相互作用が無いように一緒に混ぜ合わせることと定義される。「混合する」という用語はまた、第1化合物または治癒促進化合物と、製薬学的に受容可能な化合物との間の化学的反応、または物理的相互作用を含む。反応性治療薬剤、例えば、反応性カルボキシル基を有する薬剤に対する共有結合は、結合するその化合物上で行われてもよい。例えば、先ず、カルボキシル酸含有薬物、例えば、抗炎症剤であるイブプロフェンまたはヒドロコーチゾン-ヘミコハク酸を、対応するN-ヒドロスクシニミド(NHS)活性エステルに変換し、これをさらにジヒドラジド修飾抗癒着支持体のNH2基と反応させることが可能である。第2に、第1化合物および/または治癒促進化合物による製薬学的活性剤の非共有的捕捉も可能である。第3に、静電気的、または疎水性相互作用は、第1化合物および/または治癒促進化合物における製薬学的活性化合物の捕捉を促進することが可能である。例えば、ヒドラジド基は、例えば、カルボン酸含有ステロイドおよびその類縁体、および抗炎症剤、例えば、イブプロフェン(2-(4-イソ-ブチルフェニル)プロピオン酸)と非共有的に相互作用を持つことが可能である。プロトン化ヒドラジド基は、多様な陰イオン性物質、例えば、タンパク、ヘパリンまたはデルマタン硫酸、オリゴヌクレオチド、リン酸エステル等を塩を形成することが可能である。あるいは別に、複合体は、1種以上の製薬学的に受容可能な化合物と混合されてもよい。
【0057】
ある特定の場合における、製薬学的に受容可能な活性成分の、実際の好ましい量は、利用される特定の化合物、処方される特定の組成物、投与方式、および、治療される特定部位および対象者に従って変動することは理解されよう。ある任意の宿主に対する用量は、通例の配慮に従って、例えば、複数の対象化合物の活性差と、既知の薬剤との、適当な通例の薬学的プロトコールによる通則通りの比較によって決定することが可能である。製薬化合物の用量を決める技術に精通した医師および処方薬剤師であるならば、何の問題も無く標準的推薦則(Physicians Desk Reference, Barnhart Publishing (1999))に従って用量を決めることができるであろう。
【0058】
本明細書に記載される製薬組成物は、生物系または実体が耐容できるものであれば、どのような賦形剤の中に含められて処方されてもよい。このような賦形剤としては、水、生食液、リンゲル液、デキストロース液、ハンクス液、およびその他の生理学的に平衡した塩溶液が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。非水性ベヒクル、例えば、不揮発油、オリーブ油およびごま油のような植物油、トリグリセリド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および、オレイン酸エチルのような注入可能な有機エステルも使用が可能である。その他の有用な処方としては、増粘剤、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストランを含む懸濁液が挙げられる。賦形剤はまた、少量の添加剤、例えば、等張性および化学的安定性を強化する物質を含むことが可能である。バッファーの例としては、リン酸バッファー、重炭酸バッファー、トリスバッファーが挙げられ、保存剤の例としては、チメロゾール、クレゾール、およびベンジルアルコールが挙げられる。
【0059】
製薬学的担体は当業者には既知である。もっとも典型的なものは、ヒトに対する投与用の標準的担体であって、例えば、滅菌水、生食液、生理的pHに緩衝された溶液のような溶液が挙げられる。
【0060】
製薬搬送用の分子は、製薬組成物として処方することが可能である。製薬組成物は、選択された分子の他に、担体、増粘剤、希釈剤、バッファー、保存剤、界面活性剤等を含むことが可能である。製薬組成物はまた、1種以上の活性成分、例えば、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔剤等を含むことが可能である。
【0061】
製薬組成物は、局所治療を望むのか全身治療を望むのかに従って、また、治療される面積に従って、いくつかの異なるやり方で投与されてもよい。投与は局所的(眼科的、膣内、直腸内、鼻腔内を含む)であってもよい。
【0062】
投与製剤は、滅菌された、水性または非水性の溶液、懸濁液、および乳液を含む。非水性担体の例としては、生食液およびバッファー溶媒を含む、水、アルコール/水性溶液、乳液、または懸濁液が挙げられる。非経口ベヒクルが開示の組成物および方法の同時平行的使用のために必要とされる場合の非経口ベヒクルとしては、塩化ナトリウム液、リンゲルデキストロース、デキストロースと塩化ナトリウム、乳酸添加リンゲル液、または不揮発油が挙げられる。静脈内ベヒクルが開示の組成物および方法の同時平行的使用のために必要とされる場合の静脈内ベヒクルとしては、液体および養分補給剤、電解質補給剤(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)等が挙げられる。保存剤およびその他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガス等も存在してもよい。
【0063】
局所投与用処方としては、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐剤、スプレー、液剤、および散剤が挙げられる。通例の製薬担体、水性、粉末状、または油状基剤、増粘剤等が必要となったり、望ましくなることがある。
【0064】
投与量は、治療される病態の重度および反応性に依存するが、通常1日当たり1回以上で、治療行程は、数日から数ヶ月、あるいは、従来技術に通常の錬度を持つものが搬送を止めるべきだと判断するまで続けられる。最適用量、投与法、および繰り返し頻度は、当業者であれば簡単に決定が可能である。
【0065】
一つの局面では、本明細書に記載される複合体および製薬組成物のいずれのものも、生きている細胞または遺伝子を含んでもよい。生きている細胞の例としては、線維芽細胞、肝細胞、軟骨細胞、幹細胞、骨髄、筋細胞、心筋細胞、神経細胞、または膵臓島細胞が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。米国特許第6,534,591B2号に開示される細胞および遺伝子の内から任意に選ばれるものの使用が可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。
【0066】
III. 使用法
本明細書に記載される複合体および製薬組成物は、薬剤搬送、小型分子搬送、外傷治癒、火傷傷害治癒、および組織再生に関連する様々な用途に使用が可能である。開示の組成物は、他の基質成分の集合、成長・分化因子の存在、細胞移動、または組織再生が望まれる、水性の、細胞辺縁環境が有利な状況下において有用である。
【0067】
本明細書に記載される複合体および製薬組成物は、生体適合性材料から構成されるので、いずれの生物系に対しても、精製することなく直接その中に、または、その上に設置することが可能である。複合体の設置が可能な部位の例としては、筋や脂肪のような軟組織;骨や軟骨のような硬組織;組織再生区域;歯周ポケットのような空虚空間;手術切創またはその他の原因で形成されたポケットまたは空洞;口腔、膣腔、直腸腔または鼻腔、眼球の盲嚢等のような天然の空洞;腹腔およびその内部に含まれる臓器、および、化合物をその中に、またはその上に設置することが可能な他の部位、例えば、切り傷、掻き傷、または火傷域のような皮膚表面欠損が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。本明細書に記載される抗癒着複合体は、生分解性であってもよく、その場合、天然の酵素が長期に渡ってそれらを分解するように作用する。この抗癒着複合体の成分は、その複合体の成分が分解されて、生物系の内部に吸収される、例えば、細胞、組織等によって吸収されるという意味で「生体吸収性」であってもよい。さらに、この複合体は、特に、改めて水分を供給されない複合体は、対象区域から液体を吸収するよう生物系に適用することが可能である。
【0068】
本明細書に記載される複合体および組成物は、いくつかの異なる手術手順において使用することが可能である。一つの局面では、この複合体および組成物は、米国特許第6,534,591B2および6,548,081B2号に開示される手術手順の内から任意に選ばれるものに使用が可能である。なお、これらの特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。一つの局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、心臓外科および関節外科;小腸または腸間膜の癒着を防止することが重要な腹部外科;肺および心臓に関わる(例えば、心臓バイパスまたは移植手術)胸部外科;有害作用が尿管および膀胱、および、卵管・子宮の機能に及ぶのを防止することが重要な泌尿生殖領域における手術;肉芽組織の発達を抑止することが重要な神経外科手術において使用が可能である。腱を含む手術では、一般に、術後の不動化期間に、腱と、周辺の鞘または周辺組織との間に癒着が起こる傾向がある。別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物を用いて、腹腔内視鏡手術、骨盤手術、ガン手術、頭蓋洞および頭蓋顔面手術、ENT手術後において、あるいは、脊髄硬膜修復に関わる処置において癒着を防止することが可能である。
【0069】
別の局面では、この複合体および組成物は、眼科手術において用いることが可能である。眼科手術では、生分解性インプラントを、眼球前房の隅角に、角膜と虹彩の間にシネキアが発生することを防止するために挿入することが可能である。これは、特に、重度の傷害処置の後の再建手術の場合に当てはまる。さらに、緑内障手術および斜視手術後の癒着を防止するために、分解性の、または恒久性のインプラントが望ましい場合がよくある。
【0070】
別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、軟または硬組織の嵩上げのために使用することが可能である。別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、インプラントに被覆するために使用することが可能である。別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、動脈瘤の治療に使用することが可能である。
【0071】
本明細書に記載される複合体は、ヒト、または非ヒト動物に対して治癒的、または治療的価値を持つ、多種多様な放出性の、製薬学的に受容可能な化合物のための担体および搬送装置として使用することが可能である。この局面において、本明細書に記載される製薬学的に受容可能な化合物の内から任意に選ばれるものを使用することが可能である。この抗癒着複合体によって搬送が可能なこれらの物質の内の多くは既に上に論じられている。製薬学的に受容可能な化合物の選択に応じて、その製薬学的に受容可能な化合物は、第1化合物の中に存在してもよいし、あるいは、治癒促進化合物の中に存在してもよい。本明細書に記載される複合体の中に組み込むのが適当な、製薬学的に受容可能な化合物の中に含まれるものとしては、治療薬剤、例えば、抗炎症剤、解熱剤、抗炎症用ステロイド剤および非ステロイド剤、ホルモン、成長因子、避妊薬、抗ウィルス剤、抗菌剤、抗真菌剤、鎮痛剤、催眠剤、鎮静剤、トランキライザー、抗痙攣剤、筋弛緩剤、局所麻酔剤、抗痙縮剤、抗潰瘍剤、ペプチド作用剤、交感神経様作用剤、心臓血管薬、抗腫瘍剤、オリゴヌクレオチドおよびその類縁体等がある。製薬学的に受容可能な化合物は、製薬学的に活性な量として添加される。
【0072】
薬剤搬送速度は、放出される分子の疎水性に依存する。例えば、デキサメタゾンやプレドニソンのような疎水性分子は、化合物が水性環境の中で膨らむにつれて化合物からゆっくりと放出され、一方、親水性分子、例えば、ピロカルピン、ヒドロコーチゾン、プレドニソロン、コーチゾン、ジクロフェナックナトリウム、インドメタシン、6α-メチル-プレドニソロン、およびコルチコステロンは急速に放出される。本明細書に記載される化合物が、ステロイド性抗炎症剤をゆっくりと持続的に放出することが可能とされるならば、それによってその化合物は、外傷、または手術後の創傷治癒にとって極めて有用となる。
【0073】
いくつかの方法では、血管形成および血管網の発達に関連する分子または試薬の搬送が実現される。開示されるのは、微小血管形成を刺激するVEGFのような薬剤を搬送する方法である。さらに開示されるのは、血管形成および血管網の発達を抑制することが可能な薬剤を搬送するための方法である。この目的のために有用な薬剤および試薬としては、例えば、米国特許第6,174,861号、名称「エンドスタチンタンパクの生体内濃度を上昇させることによって血管形成を抑制する方法;第6,086,865号、「血管形成誘発性疾患の治療法、および治療用の製薬組成物」;第6,024,688号、「アンギオスタチン断片と用法」;第6,017,954号、「O-置換フマギロール誘導体による腫瘍の治療法」;第5,945,403号、「アンギオスタチン断片および使用法」;第5,892,069号、「抗有糸分裂剤としてのエストロゲン化合物」;第5,885,795号、「アンギオスタチンタンパクの発現法」;第5,861,372号、「凝集剤アンギオスタチンおよび使用法」;第5,854,221号、「血管内皮細胞増殖阻害剤および使用法」;第5,854,205号、「治療用血管形成組成物および方法」;第5,387,682号、「アンギオスタチン断片および使用法」;第5,792,845号、「アンギオスタチンタンパクをコードするヌクレオチドおよび使用法」;第5,733,876号、「血管形成の抑制法」;第5,698,586号、「血管形成阻害剤」;第5,661,143号、「抗有糸分裂阻害剤としてのエストロゲン化合物」;第5,639,725号、「アンギオスタチンタンパク」;第5,504,074号、「抗血管形成剤としてのエストロゲン化合物」;第5,290,807号、「o-置換フマギロール誘導体による血管形成の後退法」、および、第5,135,919号、「血管形成を抑制する方法および製薬組成物」に開示されるものがあるが、ただしこれらに限定されない。なお、血管形成阻害分子に関連する材料に関して参照することによって、これらの特許文書を本明細書に含める。
【0074】
一つの局面では、製薬学的に受容可能な化合物は、ピロカルピン、ヒドロコーチゾン、プレドニソロン、コーチゾン、ジクロフェナックナトリウム、インドメタシン、6α-メチル-プレドニソロン、コルチコステロン、デキサメタゾン、およびプレドニソロンである。一方、製薬学的に受容可能な化合物の搬送は、避妊薬の搬送、術後癒着の治療、皮膚増殖の促進、肉芽形成の防止、傷口の被覆、粘性手術の実行、粘度強化の実行、組織の人工的改変から成るグループから選ばれる医学的目的のためである方法も提供される。
【0075】
一つの局面では、本明細書に記載される抗癒着複合体および組成物は、対象者に対して生きている細胞を搬送するために用いられてもよい。この局面では、前述の生細胞の内から任意に選ばれるものを用いてよい。一つの局面では、生細胞は、治癒促進化合物の一部である。例えば、複合体が積層体である場合、生細胞は治癒促進層中に存在する。
【0076】
一つの局面では、抗癒着複合体および組成物は、成長因子、および成長因子に関連する分子を搬送するのに用いてもよい。この局面では、前述の成長因子の内から任意に選ばれるものが有用である。一つの局面では、成長因子は、治癒促進化合物の一部である。
【0077】
一つの局面では、本明細書に記載されるのは、対象者の手術創における二つの組織の癒着を、対象者の外傷を本明細書に記載される複合体または組成物の内から任意に選ばれるものに接触させることによって、緩和、または抑制する方法である。理論によって縛られることを望むものではないが、第1化合物は、二つの異なる組織(例えば、器官と皮膚組織)間の組織癒着を防止すると考えられている。ある種の術後外傷では、その後の合併症を回避するために組織同士の癒着を防止することが望ましい。第2層、および要すれば随意に第3層も組織の治癒を促進する。本明細書で前述した治癒促進化合物の内から任意に選ばれるものを第2または第3層として用いることが可能である。一つの局面では、第2および第3層は、化学的に修飾されたヘパリン、化学的に修飾されたヒアルロナン、または化学的に修飾されたグリコサミノグリカン、例えば、化学的に修飾されたコンドロイチン硫酸であってもよい。図4は、この方法の一局面2を示す。この局面において、第1層は、マイトマイシンC-化学的に修飾されたヒアルロナンから構成され、このものは、要すれば任意に成長因子を含む化学的に修飾されたコンドロイチン硫酸から成る第2および第3層によって挟まれる。この化学的に修飾されたコンドロイチン硫酸層は、皮膚および器官組織と接触する。この場合、マイトマイシンC-化学的に修飾されたヒアルロナン層は、皮膚と器官組織の間の癒着を阻止する。
【0078】
別の局面では、複合体が積層体の場合、この積層体は、抗癒着化合物/支持体から成る第1層、および治癒促進化合物から構成される第2層を含み、積層体は組織の周囲に被われる。例えば、積層体は腱の周囲に覆われて、その際、第1層は腱と接触し、第2層は周囲の筋組織と接触する。この局面では、積層体は、腱の周囲に円筒形の抗癒着層を当て、一方、腱の治癒は、円筒材料の内層によって促進される。
【0079】
本明細書に記載される複合体は、数多くの利点を提供する。例えば、複合体は、術後の癒着障壁を提供する。しかも、この障壁は、少なくとも実質的に再吸収可能であり、従って、後日外科的に取り出す必要はない。もう一つの利点は、この複合体は比較的使い方が簡単で、縫合部を保持するように処方することが可能であり、設置後所定の場所に維持することが可能なことである。
【0080】
別の局面で、本明細書に記載されるのは、外傷治癒の促進を必要とする対象者において、そのような治癒の促進を実現する方法である。この方法は、これを、本明細書に記載される複合体または製薬組成物を、外傷治癒の促進を必要とする対象者の外傷に接触させることによって実現する。さらに提供されるのは、製薬学的に受容可能な化合物の搬送を必要とする患者に対して、少なくとも一つの製薬学的に受容可能な化合物を搬送する方法である。この方法は、これを、本明細書に記載される抗癒着複合体または製薬組成物の内から任意に選ばれるものを、前記製薬学的に受容可能な化合物を受容することが可能な組織に接触させることによって実現する。
【0081】
開示の複合体および組成物を用いて、動物における広範な組織欠損、例えば、空洞を持つ組織、例えば、歯周ポケット、浅い、または深い皮膚外傷、手術切開創、骨または軟骨欠損等を治療することが可能である。例えば、本明細書に記載される複合体は、ヒドロゲルフィルムの形を取ってもよい。ヒドロゲルフィルムは、骨組織の欠損、例えば、腕または脚の骨の骨折部、歯の欠損、関節、耳、鼻、または喉等の軟骨欠損に適用することが可能である。本明細書に記載される複合体から構成されるヒドロゲルフィルムは、細胞が増殖することのできる表面、または通路を提供することによって、導かれる組織再生に対する障壁システムとしても働く。骨組織のような硬組織の再生を強化するために、ヒドロゲルフィルムは、基質が徐々に体液によって吸収され、侵食されるにつれて、その基質と置換する、新規の細胞成長に対する支えとなることが好ましい。
【0082】
本明細書に記載される抗癒着複合体は、細胞、組織、および/または器官に対して、例えば、注入、噴霧、噴射、刷毛塗り、塗布、被覆等によって搬送することが可能である。搬送はまた、カニューレ、カテーテル、針付き、または針無しの注射筒、加圧器、ポンプ等を通じて実行することが可能である。複合体は、種々の用途の中でも特に、組織に対してフィルムの形で適用し、例えば、組織の表面にフィルム包帯を供給する、および/または、組織を、別の組織に、またはヒドロゲルフィルムに接着することも可能である。
【0083】
一つの局面では、本明細書に記載される抗癒着複合体は注入によって投与される。多くの臨床用途において、複合体がヒドロゲルの形を取る場合、主に三つの理由によって注入可能なヒドロゲルが好まれる。第一に、注入可能なヒドロゲルは、傷害部位において任意の好みの形に変形することが可能である。初期のヒドロゲルは、ゾルまたは成形可能なパテであるから、システムは、複雑な形に配置し、それから架橋させて、必要な形と広がりに一致するようにさせることが可能である。第二に、ヒドロゲルは、ゲル形成時に組織に密着するために、表面の微小な凹凸によって生ずる機械的な相互の食い込みによって、組織-ヒドロゲル界面は強化される。第三に、生体内で架橋結合可能なヒドロゲルの導入は、注射針、または腹腔内視鏡法によって実行可能であるために、外科技法による侵襲を極小に留めることが可能となる。
【0084】
本明細書に記載される抗癒着複合体は歯周病を治療するのに用いることが可能である。すなわち、歯根を被う歯肉組織を除去して鞘またはポケットを形成し、組成物を、そのポケットに搬送して露出した歯根に接触させることが可能である。複合体はまた、歯肉組織に切創を入れて歯根を露出し、次に、その切創を通じて、設置、刷毛塗り、噴射、またはその他の手段によって材料を歯根表面に適用することによって、歯欠損部に対して搬送することが可能である。
【0085】
皮膚、またはその他の組織の欠損部を治療するために用いる場合には、本明細書に記載される抗癒着複合体は、その所望の区域の頂上に設置することが可能なヒドロゲルフィルムの形を取ってもよい。この局面では、ヒドロゲルフィルムは機械的成形が可能であり、組織欠損の輪郭に合致するように操作することが可能である。
【0086】
本明細書に記載される抗癒着複合体は、インプラント部位におけるインプラント器具と生体組織との適合性および/または性能または機能を向上させるために、インプラント装置、例えば、縫合、固定具、代行具、カテーテル、金属ネジ、骨プレート、ピン、ガーゼのような包帯等に被覆してもよい。複合体を用いて、インプラント装置をコートすることも可能である。例えば、複合体を用いて、インプラント装置のざらざらした表面をコートすることも可能である。この場合、ざらざらの辺縁を隣接組織に接触させることから生じる摩擦の発生を緩和する、生体適合的な滑らかな表面を提供することによって装置の生体適合性を向上させる。複合体はまた、インプラント装置の性能または機能を強化するために用いることも可能である。例えば、複合体がヒドロゲルの場合、このヒドロゲルフィルムを、ガーゼ包帯に対し、そのガーゼ包帯が適用される組織に対する適合性または接着性を強化するよう塗布することが可能である。ヒドロゲルフィルムはまた、切開創から体内に挿入される、カテーテルまたは人工肛門のような装置の周囲に設置して、カテーテル/人工肛門を所定の位置に確保し、および/または、装置と組織の間の空間を埋め、緊密な封印を形成して細菌感染および体液の消失を抑制するように配置することが可能である。
【0087】
開示の複合体および組成物は、組織再生を必要とする対象者に対して適用することが可能であることが分かる。例えば、移植のために、細胞を、本明細書に記載される複合体の中に組み込むことが可能である。本明細書に記載される複合体によって治療が可能な対象者の例としては、哺乳類、例えば、マウス、ラット、乳牛または畜牛、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ、および霊長類、例えば、猿人、チンパンジー、オランウータン、およびヒトが挙げられる。別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、トリに適用することも可能である。
【0088】
組織再生に関連する領域、例えば、外傷または火傷治癒に用いられる場合、開示の複合体、組成物、および方法は、一般的に認められた1種以上の関連療法の必要を取り除く。開示の複合体、組成物、および方法の受容者において、回復時間の長さにおいて何らかの減少が、あるいは、回復の質において向上が得られたならば、それは何らかの利益をもたらしたであろうことが理解される。さらに、開示の複合体、組成物、および方法の内のいくつかを用いて、外科手術のような外傷の結果生ずる傷口閉鎖のために起こる線維性癒着を防止または緩和することが可能であることが理解される。さらに、開示の複合体、組成物、および方法によって提供される副次的作用、例えば、細菌耐性の向上、または痛みの緩和等は望ましいことではあるが、必要なものではないことが理解される。
【0089】
開示の複合体、組成物、および方法の任意の特定の局面は、実施例中で論じられる非ポリサッカリド系試薬を含め、本明細書に開示される特定の実施例および実施態様と簡単に対比が可能であることが理解される。このような比較を行うことによって、各特定の実施態様の相対的効力を簡単に決定することが可能である。各種用途に関して特に好ましいアッセイは、本実施例に開示されるアッセイであり、これらのアッセイは、必ずしも限定的であることを意図するものではないが、本明細書に記載される複合体、組成物、および方法の内から任意に選ばれるものによって実行が可能である。
【実施例】
【0090】
下記の実施例は、従来技術において通常の錬度を持つ当業者に対して、本明細書に記載され、特許請求される化合物、組成物、および方法がどのようにして製造され、評価されるかに関して完全な開示と説明を提供するために記述されるものであって、純粋に例示的であることを意図するものであり、本発明者が本発明として見なすものの範囲を限定することを意図するものではない。数字(例えば、量、温度等)について正確性を確保するよう努力が為されたが、若干の誤差および偏倚については斟酌が為されなければならない。別様に指示しない限り、部は重量部であり、温度は℃で表したもので、雰囲気温度であり、圧は、大気圧または、ほぼ大気圧である。反応条件については数多くの変動および組み合わせがあり、例えば、成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧、および、産物の純度や、記載の過程において実現される収率を最適化するために使用が可能な、その他の反応範囲および条件がある。このような過程条件を最適化するために必要なのは、理にかなった通例の実験設定のみである。
【0091】
I. 材料
醗酵で得られたヒアルロナン(HA、ナトリウム塩、Mw=1.5 MDa)を、Clear Solutions Biotech., Inc. (Stony Brook、ニューヨーク州)から購入した。1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDCI)、トリエチラミン(TEA)、3,3'-ジチオビス(プロパン酸)、塩化アクリロイル、ヒドラジン水和物は、Aldrich Chemical Co. (ミルウォーキー、ウィスコンシン州)から購入した。ダルベッコのリン酸バッファー生食液(DPBS)およびヨウ化プロピジウム(PI)は、Sigma Chemical Co. (セントルイス、ミズーリ州)から入手した。ジチオスレイトール(DTT)は、Diagnostic Chemicals Limited (オックスフォード、コネチカット州)から入手した。5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)は、Acros (ヒューストン、テキサス州)から入手した。MMCは、ICN Biomedicals Inc. (オーロラ、オハイオ州)から入手した。PEGDA (Mw 3400 Da)は、Shearwater Polymers (Huntsville、アラバマ州)から入手した。フルオレセインジアセテート(F-DA)は、Molecular Probes (Eugene、オレゴン州)から入手した。1Hおよび13C NMRは、Varian INOVA 400を用い表示の溶媒中で、それぞれ、400 MHz と100 MHzで得た。UV-visスペクトラムデータは、Hewlett-Packard 8453 UV-可視光分光光度計(Palo Alto、カリフォルニア州)を用いて得た。チオール化HA(42%修飾、すなわち、100ジサッカリド単位当たり42チオール基、Mw 158 kDa、Mn 78 kDa、ポリ分散示数=2.03)は、記述の通りに(Shu, X.Z.; Liu, Y.; Roberts, M.C.; Prestwich, G.D. Biomacromolecules 2002, 3, 1304-1311)合成した。なお、この文書の全体を参照することにより本明細書に含める。
【0092】
II. ヒドロゲルの合成
a. MMC-アクリレートの合成
マイトマイシンC(2 mg)を、10 mlの乾燥させた塩化メチレンに溶解し、次に1.7 μl TEAおよび1 μlの蒸留した塩化アクロイルを加えた。この反応混合液を室温で4時間攪拌し、次に濃縮し、シリカカラム(塩化メチレン:メタノール=20:1)にて精製した。収穫は1.78 mgであった。1H NMR (400 MHz, MeOD-d3): δ6.31 (dd, J=2, J=10, 2'-H), 5.82 (dd, J=10, J=2.4, 1H, 3'-H), 5.48 (d, J=0.8, 1H, 3'-H), 4.81 (dd, MeOHによって暈される、1H, 10-H), 4.49 (d, J=13, 1H, 3-H), 3.93 (t, J=11, 1H, 3-H), 3.67 (d, J=4.4, 1H, 10-H), 3.64 (d, J=4.8, 1H, 9-H), 3.51 (d, J=12, 1H, 1-H), 3.48 (dd, J=1.2, J=4.8, 1H, 2-H), 3.24 (s, 3H, 9a-OCH3), 1.75 (s, 3H, 6-CH3)。13C NMR (400 MHz, MeOD-d3): δ177.7 (C-1'), 176.1 (C-5), 176.0 (C-8), 158.4(CONH2), 155.4 (C-4a), 149.7(C-7), 130.4 (C-2'), 129.4 (C-3'), 129.4 (C-3'), 109.9 (C-8a), 106.0 (C-9a), 103.8 (C-6), 61.5 (C-10), 53.6 (C-9), 49.0 (9a-OCH3), 48.9 (C-3), 42.3 (C-1), 40.9(C-2), 6.9 (6-CH3)。
【0093】
c. MMC-HAの調製
MMC-アクリレートとチオール基のモデル反応
【化8】
チオール化HAに対するMMC-アクリレートの接合体の反応時間は、モデル反応によって決定した。MMC-アクリロイルと反応するモデル試薬としてN-アセチルシステインメチルエステルを用いた。チオール基の濃度は、2-ニトロ-5-チオスルフォベンゾエート(NTSB)、またはEllman試薬を用いて測定した。反応は、PBSバッファー(pH 8.0)にて、MMC-アクリレートの濃度0.3 mg/mL、アクリレート2対チオール1の初期比にて行った。DPBSバッファー(pH 8.0)に溶解した、0.3 mg/mLのMMC-アクリルアミド溶液に対して、0.5当量のN-アセチルシステインメチルエステルを1チオール当たり2アクリルアミドの割合で添加した。残余のチオールの濃度は、NTSB、またはEllman試薬を用いて測定した。この接合体添加付加物をシリカクロマトグラフィー(塩化メチレン:メタノール=20:1)によって単離した。1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ4.75 (dd, MeOHによって暈される、1H, H-10), 4.50 (dd, J=4.8 Hz, J=7.6 Hz, 1H, H-6'), 4.36 (d, J=13 Hz, 1H, H-3), 3.90 (t, J=10.8 Hz, 1H, H-3), 3.63 (s, 3H, 7'-OCH3), 3.59 (d, J=4 Hz, 1H, H-10), 3.55 (d, J=4 Hz, 1H, H-9), 3.45 (d, J=4.4 Hz, 1H, H-1), 3.41 (d, J=2 Hz, 1H, H-2), 3.15 (s, 3H, 9a-OCH3), 2.6-3.1 (m, 6H, H-2', H-3', H-5'), 1.90 (s, 3H, 1''-CH3), 1.67 (s, 3H, 6-CH3)。13C NMR (400 MHz, CD3OD): δ182.7 (C-5), 177.7 (C-8), 176.0 (C-1'), 172.1(C-7'), 171.4 (C-1''), 158.4 (CONH2), 155.4 (C-4a), 149.7 (C-7), 109.8(C-8a), 105.9 (C-9a), 103.8 (C-6), 61.5 (C-10), 53.6 (C-9), 52.6 (C-6'), 51.7 (7'-OCH3), 48.9 (9a-OCH3), 48.9 (C-3), 42.4 (C-1), 39.9 (C-2), 36.6 (C-2'), 33.3 (C-5'), 27.0 (C-3'), 21.1 (1''-CH3), 6.9 (6-CH3), MS (ESI) m/z 566.2 M+1 (100)。
【0094】
HA-MMC接合体の調製
【化9】
チオール化HAを、1.25%(w/v)の濃度までPBSバッファーに溶解した。修飾されたMMCを、極少量のエタノールに溶解し、HA-DTPH液に加えた。ジッサカリドに対するMMCの理論的負荷は、それぞれ、0.5%、1%、および2%であった。工程はN2保護の下に実行し、混合液の最終pHを8.0に調整した。反応は攪拌しながら3時間進めた。
【0095】
c. HA-MMC-PEGヒドロゲルフィルムの調製
【化10】
【0096】
工程1
結合反応後、HA-MMC液をpH7.4に調整した。PEGジアクリレートを、4.5%(w/v)濃度までPBSバッファーに溶解した。この二つの溶液を混合し、1分間渦流攪拌した。この反応混合物を、Eppendorf Combitipsによって取り出し、2 cm x 2 cm皿に、2 mL/皿の割合で加えた。約30分でヒドロゲルが形成され、数日間空気中で蒸発乾燥して、フィルムを形成した。
【0097】
工程2
チオール化HAのpKa値は、8.87であると定量された。このチオール化HAを、1.25%(w/v)の濃度までDPBSバッファーに溶解し、pHを8.0に調整した。MMC-アクリルアミドを極少量のエタノールに溶解し、攪拌されるチオール化HA液に滴下した。HAジサッカリド単位に対するMMCの理論的負荷は0.5%と2%であった。全ての工程は、ジスルフィド形成を抑えるために窒素雰囲気下に実行し、各反応は、攪拌しながら3時間進めた。結合反応後、HA-DTPH-MMC液のpHを、1N HClを加えることによってpH7.4に調整した。PEGDAをDPBSバッファーに溶解し、4.5%(w/v)濃度の保存液を得た。1容量のPEGDA保存液を、4容量のHA-DTPH-MMC液に加え、混合液を、1分間攪拌し、渦流攪拌した。HA-DTPH-MMC-PEGDA反応混合液の分液(2.0 mL)を、プラスチック製Eppendorf Combitipsにて取り出し、2 cm x 2 cm皿に加えた。このヒドロゲルは10分でゲル化を始め、ゲル化は30分までに事実上完了した。次に、プレートをフードに移し、空気中でさらに架橋結合させた。3日後、弾力性のあるヒドロゲルフィルム(0.10 mm厚)が形成された。
【0098】
III. インビトロ放出実験
MMC放出実験
乾燥したヒドロゲルフィルムを、2 cmの正方形に切断した。この正方形ゲルフィルムと切り落とした辺縁を別々に秤量し、各正方形フィルムに含まれるMMCを計算した。各フィルムを、5 mLの100 mM PBSバッファーに浸し、37oCで穏やかに振とうした。各時点で、0.5 mL液を取り出し、0.5 mLの新鮮なPBSを加えた。放出されたMMCを含む溶液を、波長358 nmで検出した。放出されたMMCの累積濃度を時間の関数としてプロットした。
【0099】
図5a-5cは、インビトロにおけるMMC放出実験の結果を示す。図5aは、放出の絶対濃度を示す。放出されるMMCは、ヒドロゲルに含まれるMMCに比例する。データを再プロットして得られる相対的放出パターンを図5bに示す。1%および2%MMC負荷を有するHAフィルムは、類似の放出プロフィールを持つ。最初の30分時で、約13%のMMCがヒドロゲルから放出された。これは、二つの供給源に由来するものと考えられる。すなわち、一つは未結合のMMCであり、他の一つは加水分解されたMMCである。次に、約48時間の半減期を持つ緩徐な放出パターンが観察された。MMCの放出は、プラトーに達するまで5日間続いた。8日後も相当量のMMCがフィルムに残存した。0.5%MMCの放出プロフィールを図5cに示す。この図では、放出されるMMCの量は、ヒドロゲルにおける最初のMMC量に比例した。
【0100】
IV. インビトロ細胞傷害性
細胞増殖と細胞形態を別々の実験で調べた。先ず、T31ヒト気管肉芽線維芽細胞を、12-ウェル細胞培養挿入体(Fisher, Marshalltown、アイオワ州)に撒き、24時間培養し、次に、あらかじめHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムでコートした(ウェル当たり1 mLのゲル)12-ウェル細胞培養プレートに移した。次に、イーグル培地のダルベッコ改訂版および、10%ウシ新生児血清(NBCS)を含む栄養混合液F-12(D-MEM/F-12)(GIBCO, Rockville、メリーランド州)の1:1混合液2.5 mLを各ウェルに加えた。挿入体の側面の底部のごく近くに16ゲージ針にて2 mm直径の穴4個を開けた。これは、挿入体同士の間で、また、プレートのウェル同士の間で、培養液が簡単に交換されるようにするためである。0、1、3および5日目に、各グループの挿入6体を新しい12-ウェルプレートに移し、15%(v/v)のCellTiter 96増殖キット液(MTS assay, Promega, マジソン、ウィスコンシン州)、および5%のNBCSを含むDMEM/F-12培養液1 mLを各挿入体に加えた。プレートを、振とう器の上で5% CO2の下37oCで2時間インキュベートした。次に、この培養液の分液(150 μL)を、96-ウェルプレートに移し、550 nmでOPTI Maxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で読み取った。読み取った吸収値を、既知数の細胞に関する定量から作成した標準曲線に基づいて細胞数に変換した。
【0101】
細胞形態における変化を監視するために、T31線維芽細胞(30,000細胞)を、2ウェルチェンバースライド(Fisher)の各チェンバーに撒き、24時間培養した。T75細胞培養フラスコ(Fischer)のキャップで造ったプラスチック製足場を各チェンバーに添え、次に、各足場の頂上にHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム(5 x 5 mm)を加えた。次に、10%NBCSを含む、D-MEM/F-12培養液2.5 mLを各チェンバーに加えた。培養3日後、フィルムと足場を取り出し、細胞を、F-DAおよびPIによる二重染色後、共焦点レーザースキャニング顕微鏡(LSM510, Carl Zeiss Microimaging, Inc., Thornwood, ニューヨーク州)にて観察した。0、1、3、および5日目に、生細胞の量をMTS(CellTiter Proliferation)アッセイにて確定した。細胞形態も、細胞をフィルムに直接接触させずにチェンバースライド上で培養して調べた。3日目、細胞を、共焦点レーザースキャニング顕微鏡で、F-DAおよびPIで二重染色して観察した。
【0102】
図9に示すように、HA-DTPH-PEGDAフィルム(すなわち、0%MMC)の存在下に培養した細胞は、フィルム無しコントロールフィルムと同じぐらい急速に増殖した。それと対照的に、0.5%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEDGAフィルムの存在下では細胞増殖は有意に低下した。2.0%MMC濃度では、細胞増殖は中絶され、細胞は死に始めた。従って、MMCを欠くHA-DTPH-PEDGAフィルムは細胞傷害性を持たず、抗増殖作用は、全く、フィルムから放出されるMMCによるものであった。
【0103】
細胞の形態および密度を図10に示す。この図では、生存細胞を緑に染め、死亡細胞を赤で染めた((a)コントロール、フィルム無し;(b)MMCを欠くHA-DTPH-PEGDAフィルム;(c)0.5%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム;および、(d)2.0%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム、スケールバー:10 μm)。結果は、MTSアッセイで得られたものと一致した。HA-DTPH-PEGDAフィルムの存在下(図10b)における細胞密度は、フィルム無しコントロールグループ(図10a)と近似していた。細胞増殖は、0.5%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムの存在下(図10c)では部分的に抑制された。細胞が2%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムの存在下(図10d)に間接的に暴露されると、さらに多くの数の死亡細胞が認められた。
【0104】
要約すると、このインビトロ細胞傷害性実験から、MMCがフィルムから放出されること、および、その放出されたMMCは、その抗増殖活性を維持していることが明らかにされた。作用の大きさは、HA-DTPH-PEGDAフィルムにおけるMMC濃度に依存した。
【0105】
実施例1
V. インビボ生体適合性
MMC-HA-DTPH-PEDGAの活性の例を図6に示す。4種類の治療のそれぞれに8匹のラットを用い、ラットの子宮角の癒着を、HAゲルのみ、0.5%MMCゲル、および2.0%MMCゲルの各場合について評価した。癒着の重度を、0から4までのスケールにてランク付けした(Hooker, G.D., Taylor, B.M., and Driman, D.K. (1999)「ラットモデルにおける、ポリプロピレンメッシュによる腹部ヘルニア整復においてナトリウムヒアルロン酸製生体吸収性膜使用による癒着形成の防止−コントロール設定ランダム化試験」、Prevention of adhesion formation with use of sodium hyaluronate-based bioresorbable membrane in a rat model of ventral hernia repair with polypropylene mesh-A randomized, controlled study. Surgery 125, 211-216)。等級0=癒着無し、等級1=フィルム状、極小の線維性線条を伴う透明な癒着、等級2=連続的線維性癒着、等級4=濃密な癒着。データから、HAヒドロゲル治療、対、手術コントロールのみ、および、2.0%MMC-HA、対、HAヒドロゲルのみについては統計的有意(p<0.05)であることが示された。
【0106】
実施例2
さらに、ウサギ空洞口モデルによる予備実験から、n=8のウサギにおいて、空洞口における生体内架橋結合によって使用されたHA-MMC2.0%ゲルは、実験では平均2.9 mmで、コントロールでは平均0.3 mmで5 mmの空洞口を維持した。実験とコントロールの差は、両側性対合T検定P=0.00080のレベルによって統計的に有意であった。
【0107】
実施例3
それぞれ体重250-300 gの、性的に成熟した、非妊娠雌性ウィスターラット(Charles River)を、ユタ大学動物管理・実験施設委員会によって承認されたプロトコールに従って、イソフルラン(2.5%)の吸引によって麻酔した。麻酔後、下腹部を剃毛し、アルコールとベタジンで清拭し、下腹部に正中切開を行い、2本の子宮角を露出した。3 x 10 mmの面積を被う、子宮内側壁筋層の一部を切開することによって、接触する漿膜表面に対して手術創を形成した。この外傷は、子宮角の根元から5 mmであった。9/0ナイロンによる単一縫合を、外傷部の遠位端から3 mmの所に設置し、反対側子宮角の内側面の隣接外傷部との直接接触を確保した。
【0108】
実験動物では、架橋結合HAフィルム、または、生体内架橋結合HAゲルを、この二つの傷害子宮角の間に設置した。腹膜を、一列の連続走行縫合にて閉鎖し、皮膚を断続縫合によって接近させた。術後14日目、動物をCO2吸引にて屠殺し、子宮角癒着の程度を、癒着(最大10 mm)を伴う子宮角の長さを測定することによって評価した。各グループにおける平均とばらつきを、各動物における平均癒着度から計算した。癒着が形成された子宮角の範囲(cm)を一次結果測定値として用いた。子宮角と、腹腔内脂肪および小腸との間の癒着の存在も、二進(有るか、無いか)パラメータとして記録した。巨視的な評価の後、サンプルは、Massonの三色染色のために調製した。
【0109】
癒着の程度を評価するために、スチューデントのt-検定を用いた。癒着部位は、グループ間で、フィッシャーの厳密検定を用いて比較し、p値<0.05を有意と判断した。統計的分析は全てStatView(5.0.1バージョン、SAS Institute Inc., Cary, ノースカロライナ州)によって行った。
【0110】
MMC-負荷架橋結合HAフィルムの適用
実験グループ当たり8匹のラットは、それぞれ、子宮角に標準的な両側性手術創を施された。HAフィルムは、5 x 12 mmの長方形に裁断され、二つの子宮角の間、その外傷部位において、傷害表面を完全に被うように挿入された。外科的閉鎖後のフィルムの変位を防止するために単一縫合を設けた。実験グループは、MMC欠如HA-DTPH-PEGDAフィルム、および、チオール基に基づいて0.5%または2.0%のMMCを負荷させたHA-DTPH-PEGDAフィルムを含んでいた。手術創を与えられたものの治療をされなかった動物は、非治療コントロールグループとした。
【0111】
生体内架橋結合MMC-負荷HAヒドロゲルの注入
実験条件当たり8匹のラットは、それぞれ、2本の子宮角に標準的な手術創を施され、次に下記のように治療された。先ず、あらかじめ任意の粘度にゲル化されたHA-DTPH-PEGDA(MMC付き、またはMMC無し)の1 mlを、傷害された子宮角の表面にピペットで塗布した。次に、同じ粘液のさらに4 mlを、子宮傷害の直近の切開口から腹腔に注入した。実験グループは、MMCを含まないHA-DTPH-PEGDA体内ゲル、または、HA-DTPH-PEGDAゲルでさらに、1.25%、0.625%、または0.31%のMMC負荷のいずれかを有するものを含んでいた。コントロール動物にはDPBSを注入した。
【0112】
MMC-負荷HAフィルムの効力
各種MMC負荷を含むHAフィルムの抗癒着性を評価するために(表1)、ラット子宮角モデルを用いた。実験およびコントロール動物は全て外科処置を生き延び、実験から排除されたものは無かった。子宮角癒着の程度は、癒着を示した子宮角の長さ(最大10 mm)を測定することによって評価した。各グループにおける平均とばらつきを、各動物における平均癒着度から計算した。子宮角と、腹腔内脂肪および小腸との間の癒着の存在も、有る/無いの反応として記録した。巨視的な評価の後、サンプルは、Massonの三色染色のために調製した。
【0113】
【表1】
【0114】
子宮角癒着の程度を表2に、周囲組織に対する癒着事例を表3に示す。グループ間の統計的比較を表4にまとめた。先ず、障壁ヒドロゲルまたはフィルムによって処置した動物は全て、未処置のコントロール動物に対して、相対的に有意に低い癒着度を示した。第2に、フィルム挿入および体内注入法のいずれにおいてもその反応は、MMC負荷に依存していた。2%MMC負荷を持つHAフィルムは、子宮角癒着の程度がもっとも低かった(1.3±0.2 mm)。0.5%MMCを持つHAフィルムでは、子宮角癒着の程度は中間であり(3.5±0.4 mm)、一方、MMCを欠如するHAフィルムは、確かな癒着を示した(7.3±0.3 mm)。重要なことは、様々なMMC負荷を持つHAフィルムが、子宮角と、腹腔内脂肪または小腸との間の癒着発生率を有意に下げなかったということである〈表3、表4〉。これらのグループのいずれの動物においても、子宮角および周辺組織において副作用は観察されなかった。
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
子宮角外傷部位の組織学は、上記巨視的評価と一致した。治療子宮角は、未処置コントロールと識別が可能であった(データは示さず)。MMCを欠くHAフィルムの作用は局所的で不完全であり、二つの子宮角の間には部分的な線維性組織およびゆるい結合組織の侵入が認められた。0.5%MMC HAフィルムまたは2.0%MMC HAフィルムの適用は、二つの傷害子宮角の間の線維性組織を抑制した。これは、HAフィルムから放出された遊離MMCによるものと考えられる。MMC負荷が無い場合、HAフィルムは、癒着形成を抑えるための障壁として働くことができるだけである。MMC-負荷HAフィルムでは、MMC用量依存性結果が得られたが、副作用は観察されなかった。にも拘わらず、臨床場面では、十分な効果を持つものの内最低のMMC負荷を用いることが望ましいと考えられる。
【0119】
MMC-負荷体内架橋結合性HAゲルの効力
滅菌した1.25%HA-DTPHとHA-MMC溶液(1.25%MMC負荷を含む)を、PEGDAを添加することによって、理論的に50%程度に架橋結合させた。低い方の濃度の、MMC含有ゲル成分を得るために、HA-DTPH-MMC液を、1または3倍容量のDPBSにて希釈し、次にPEGDA液と混合して、理論的に50%程度の架橋結合を実現した。これらの組成物を表1にまとめた。次に、各粘性液1 mlを、傷害された子宮角の表面に置いた(そしてゲル化させた)。あらかじめゲル化した溶液のさらに4 mlを、腹腔を閉鎖する前に、傷害された子宮角を取り囲む腹腔に注入した。術後14日目、動物をCO2の吸引により安楽死させ、子宮角癒着の程度、および、周囲組織との間に形成される癒着の発生率を評価した。
【0120】
ゲル注入プロトコールにおける子宮角癒着の程度、および癒着面積を、それぞれ、表1および表2に示す。比較の結果は表3にまとめた。未希釈の1.25%MMC HAゲルの注入は、0.625%MMC HAゲル(1.5±0.3 mm)同様、極めて小さい癒着(1.4±0.3 mm)を示た。逆に、粘性ではあるが、十分にゲル化されていない0.31%HA「ゲル」は、癒着抑制における効果は低かった(7.3±0.6 mm)。この結果は、MMCを欠如するHAゲルのもの(7.6±0.4 mm)と類似する。にも拘らず、DPBS処置子宮角(9.6±0.3 mm)と比べると、これらのゲルにおいて有意に低い癒着度が観察された。癒着面積のデータも、癒着度結果と一致した。
【0121】
巨視的試験を図7に示す。DPBS処置動物(図7A)では、二つの子宮角の間に形成される強固な癒着の他に、子宮角と腹腔内脂肪の間に重度の癒着を観察することができる。子宮角と腹腔内脂肪の間の癒着形成は、子宮角表層切開過程における術後出血のため、すなわち、外科的介入による子宮角表面および腹腔内脂肪に生じた軽い傷、および、長時間の空気暴露のためと考えられた。1.25%MMC HAゲルで処置した動物(図7B)、0.625%MMC HAゲルで処置した動物(図7C)、0.31%MMC HAゲルで処置した動物(図7D)では、子宮角と、腹腔内脂肪との間には外見上癒着は見られなかった。1.25%MMC HAゲルおよび0.625%MMC HAゲルの効力は特に注目に値する。なぜなら、これらの処置では物理的障壁は実際には何も挿入されていなかったからである。二つの子宮角を架橋するまだ解けていないゲル、および重度の腹腔内脂肪萎縮が、1.25%MMC HAゲル処置動物(図7B)に観察された。図7Dは、最低のMMC負荷ゲルでは、二つの子宮角は、固い豊富な癒着を持つことを示す。
【0122】
子宮角傷害部位の組織学を分析したところ、前記巨視的試験の結果と一致することが判明した。未処置動物では、二つの子宮角の間で、また腹腔内脂肪の内部で癒着が認められた(図8A)。1.25%MMC HAゲル処置動物(図8B)においても二つの子宮角の間に、僅かな癒着と、若干の残存HAゲルが観察された。子宮角同士は、0.625% MMC HA処置動物ではきちんと分離されていたが、0.31% MMC HAゲル処置動物(図8Cおよび8D)ではしっかり癒着していた。
【0123】
MMC-負荷HAヒドロゲルの効力は、使用されるHA-DPTHの全体濃度と高い相関を持っていた。先ず、HA-MMC溶液の最高濃度(1.25%、未希釈)では、ゲル化時間は短いが(<10分)、分散や変性のしにくいゲルが得られた。第2に、1:1希釈後、0.625% MMC HAゲルははるかにゆっくりと形成された(45分)。薄層のゲルは、傷害された子宮角の表面、および腹腔に均等に分散し、子宮角および周辺の組織および器官の上に均等なヒドロゲル膜を形成した。次に、この膜は、体内で形成された障壁として働き、癒着の形成を抑えた。さらに、遊離MMCがヒドロゲル膜から放出され、線維芽細胞の増殖を抑制した。最後に、1:4希釈(0.31% MMC)では、>2時間ではゲルは形成されなかった。この0.31% MMC粘性ゾルの作用は、腹腔にMMC液のみを投与した場合に観察される作用と近似していた。この場合、MMCは放出され、急速に排除されるので、利用される低濃度のMMCでは、線維芽細胞の増殖性反応を防止するには不十分であった。0.625 mg/mlのHA-DTPHと組み合わせられた0.625%MMCという中間濃度は注入策にとっては最適のようであった。
【0124】
要約すると、二つのMMC-負荷HAフィルム、およびHAゲルは、術後の腹腔内癒着の形成を抑える点で効果的であった。MMC-負荷HAフィルムでは用量依存性結果が得られた。MMC-負荷HAゲルの効力は、ヒドロゲルを調製する際のHA-DTPH-MMC液の濃度と高い相関を持っていた。0.625%MMC HAゲルは、術後の癒着形成を抑えるのに十分効果的であることが判明した。MMC-負荷HAフィルムと比べると、MMC-負荷体内架橋結合形成可能なHAゲルは確かな利点を提供する。すなわち、この、僅かに10-45分後にゲル化する粘性液は、内視鏡を通じて局所に搬送することが可能で、かつ、組織および器官にたいして重度の、または軽微な傷害を与える極めて特異的な部位において癒着形成を阻止するために使用が可能である。
【0125】
実施例4
動物モデルは、64匹の雌性ウィスターラット(200-250 g、Charles River, Raleigh、ノースカロライナ州)から構成されていた。これらを麻酔し、右下腹壁における1.5cm長の切開創を通じて腹腔内視鏡術を実施した。この処置は、ユタ大学動物管理・実験施設委員会の監督下に、国立衛生研究所指針(NIH公報、#85-23改定、1985)の基準に従って行われた。各種MMC負荷(0%、0.5%、および2.0%)を持つHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム(20.21±0.05mg)を右下腹壁に挿入した(1負荷当たり16匹のラット)。さらに16匹の動物に擬似手術を施し、コントロールとした。挿入3日および7日後、各グループ8匹のラットに5 mm長の正中切開による腹部切開を行った。腹腔に、冷凍DPBS液10 mLを注入し、次に腹部を優しく3-5分マッサージした。次に、先のDPBS液を、先端側面に三つの小孔のある3-mmシリコンゴム管にて吸引した。前述の処置を2回繰り返し、各動物においてこの3回の吸引物をプールし白血球分類カウントに用いた。最後に、ラットをCO2チェンバーで安楽死させ、周辺組織を付着させたフィルムを切り出し、組織学的検査を行った。
【0126】
白血球分類分類カウント
腹水の白血球分類カウントを、細胞遠心器(Centra CL2, IEC, サンアントニオ、テキサス州)による分液から調製したスライドについて行った。スライドを空気乾燥し、ライトギムザ染色で染色した(Fisher)。腹水白血球数は、標準的臨床血球計数器で細胞を数えることによって定量した。
【0127】
組織学
周辺組織を付着させたフィルムを切り出して、10%フォルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、表面から三つの異なる距離においてミクロトームにて2-3 μm厚に薄切し、過ヨウ素酸シフ反応(PAS)試薬で染色した。フィルムを囲む線維組織の厚さをImage-Pro Plus 4.0 (Symantec, Corporation, Cupertino、カリフォルニア州)にて測定した。各サンプルについて3枚の切片、および各切片について16ポイントを測定した。
【0128】
統計分析
統計的有意な差を定めるために、変動分析(ANOVA)をStatViewソフトウェア(SAS Institute Inc., Cary、ノースカロライナ州)を用いて実行した。p<0.05の値を、有意に異なると判断した。
【0129】
HA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムの生体適合性を調べるために、様々のMMC負荷を持つHAフィルムをインビボで実験した。実験は、フィルムを、ラットの腹腔に挿入し、移植後3および7日目の腹水における細胞集団を評価することによって行った。腹水に存在する細胞は全て形態的に白血球と特定され、3日目における分類カウントを図11に示す(図11の凡例:PMN=多形核細胞;Lymph=リンパ球;Mono=単核球は、単球とマクロファージの両方を含む;Eos=好酸球;およびBaso=好塩基球)。0.5%MMCを含むフィルムは、MMCを含まないフィルムに比べてより高いPMNを示したが(p<0.001)、一方、2%MMCを含むフィルムのPMNは、0.5%MMC(p<0.001)と非MMCフィルム(p<0.05)の両方よりも低かった。PMNのみが、非フィルムコントロールに対して、僅かではあるが有意な差を示した。腹水におけるもっとも目立った変化は、多形核(PMN)白血球において観察された。他には、リンパ球または単核球においては、実験グループのいずれにおいても有意な変化は観察されなかった。MMC無添加HA-DTPH-PEGDAフィルム、および、0.5%および2.0%MMC負荷HA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムは、非フィルムコントロールに比べて、PMNにおいて僅かな増加を誘発した。これは恐らくフィルムの変性によるものと思われる。分解速度は極めてゆっくりしているけれども、分解断片によって誘発される白血球反応の方が、放出されたMMCによる作用に対して優勢であるようである。にも拘わらず、2.0%MMC負荷のフィルムから放出されるMMCは、MMCを持たないHA-DTPH-PEGDAフィルム(14%)、および0.5%MMCを持つHA-DTPH-MMC-PEDGA(15%)と比べると、PMNの平均数を有意に低下させた(11%)。これは、比較的高濃度のMMCの細胞傷害性によるものと考えられる。7日までには、全てのフィルム挿入グループのPMN数は、フィルムを挿入しなかったコントロールの結果に対して有意差を示さなくなっていた(データ示さず)。
【0130】
7日目に、フィルムと周辺組織とを切り出して組織学的検査を行った。いずれのグループにおいても明白な炎症反応は観察されなかった(図12:(a)2%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム;(b)0.5%MMC負荷のHA-DTPH-MMC-PEDGAフィルム;および、(c)HA-DTPH-PEGDA単独(MMC無し)、スケールバー:500 μm)。双頭矢印は、測定された線維組織の長さを示す。アスタリスクは統計的に大きな相違点を表示している。(p<0.05)(pImage-Pro Plus4.0ソフトウェアを用いたところ、フィルムを囲む線維組織の厚さには有意な差が観察された。予期したように、2%MMC負荷のフィルムでは、線維組織の形成は比較的薄く(図12aおよび表5)、一方、0.5%MMCを含むフィルムでは繊維組織形成は比較的厚かった(図12bおよび表5)。MMCを含まないフィルムは、もっとも厚い繊維組織を示した(図12cおよび表5)。これらの結果から、インビトロの培養データから予期されるように、HA-DTPH-MMC-PEDGAフィルムは、用量依存的に線維芽細胞の増殖を抑制することが明らかとなった。以上まとめると、これらのデータは、MMCを含まないHA-DTPH-PEGDAフィルム、または2種類のMMC負荷のHA-DTPH-PEGDAフィルムの両方とも良好な生体適合性を有すること、しかし、0.5%MMCを含むHA-DTPH-PEGDAが、術後癒着の防止のために使用するのに最適であるらしいことが確かとなった。
【0131】
【表5】
【0132】
本出願を通じて様々の出版物が参照された。これら出版物の開示は、それによって、本出願に記載される化合物、組成物、および方法をさらに十分に理解されるように、その全体を参照することにより本出願に含めることとする。
【0133】
本出願に記載される化合物、組成物、および方法に対しては、様々な改変および変更を実行することが可能である。本出願に記載される化合物、組成物、および方法に関する他の局面は、本出願に記載される化合物、組成物、および方法に関する明細および実施例の考察から明白であろう。意図するところは、本明細および実施例は例示と見なされるべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1は、HA-チオール化誘導体を生産する反応スキームを示す。
【図2】図2は、HA-DTPH-MMCの合成を示す。
【図3】図3は、HA-DTPH-PEGDA-MMCの合成を示す。
【図4】図4は、本明細書に記載される積層体を示す。
【図5】図5は、インビトロMMC放出の結果を示す。
【図6】図6は、架橋結合された、MMC含有HA-DTPH-PEGDAによる癒着の防止を示す。
【図7】図7は、ラット子宮角癒着の巨視的検査を示す(パネルA:バッファー処置;パネルB:ゲル(1.25%);パネルC:ゲル(0.625%);パネルD:ゲル(0.31%))。
【図8】図8は、ラット子宮角癒着の組織学的検査を示す(パネルA:バッファー処置;パネルB:ゲル(1.25%);パネルC:ゲル(0.625%);パネルD:ゲル(0.31%))。
【図9】図9は、フィルム無しコントロールと最大5日まで比較した場合の、各種濃度のMMCを含むHA-DTPH-PEGDAフィルムの存在下に培養されたT31ヒト気管肉芽線維芽細胞のインビトロ細胞増殖を示す。
【図10】図10は、各種濃度のMMCを含むHA-DTPH-PEGDAフィルムの存在下に培養されたT31ヒト気管肉芽線維芽細胞のインビトロ培養を示す。この培養では、細胞をF-DA(緑色、生存細胞)およびヨウ化プロピジウム(PI)(赤色、死亡細胞)で二重染色した。
【図11】図11は、HA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムの存在下における腹水の白血球分類カウントを示す。
【図12】図12は、HA-DTPH-MMC-PEGDAの埋め込み後7日目におけるHA-DTPH-MMC-PEGDAにおける腹腔組織をPAS染色で視像化した場合の組織学的所見を示す。
【図13】表1である。
【図14】表2である。
【図15】表3である。
【図16】表4である。
【図17】表5である。
【技術分野】
【0001】
[謝辞]
本発明に至った研究は、一部米国国立衛生研究所の研究助成金NIH DC04336による財政支援を受けた。本発明においては米国政府も何らかの権利を有する可能性がある。
[関連出願に対する相互参照]
本出願は、2003年5月15日出願の米国特許仮出願第60/471,482号の利益を主張する。引用の出願を、ここに参照することによってその教示に関する全てをそのまま本出願に含める。
【0002】
[発明の背景]
癒着(adhesions)とは、二つの隣接表面の間における繊維性付着の形成であり、手術後の切創および組織外傷治癒の動的過程においてしばしば形成される。癒着の開始は、フィブリン基質の形成から始まる。手術による虚血状態のために、この基質は、線維溶解性活性による溶解を免れ、フィブリンは持続する。次に、外傷修復細胞が、この基質を、組織だった癒着に変換する。この癒着は、多くの場合、血管補給および神経要素を持つ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
癒着は、消化器および婦人科手術においては特異的問題であり、術後の腸管閉塞、不妊、および、慢性骨盤痛をもたらす。このために、術後癒着を緩和するための障壁法がもっとも広く用いられている(Arnold, P.B., Green, C.W., Foresman, P.A., and Rodenheaver, G.T. (2000) 「手術後癒着防止のための再吸収性障壁の評価」"Evaluation of resorbable barriers for preventing surgical adhesions" Fert Steril 73, 157-161; Osada, H., Takahashi, K., Fujii, T.K., Tsunoda, I., and Satoh, K. (1999) 「ウサギにおける術後癒着再形成緩和に対する、ヒアルロン酸ヒドロゲル架橋剤の効果」"The effect of cross-linked hyaluronate hydrogel on the reduction of post-surgical adhesion reformation in rabbits" J Int Med Res 27, 233-241)。例えば、Seprafilm(登録商標、Genzyme)は、ヒアルロナン(HA)、およびカルボキシルメチルセルロース(CMC)によって調製される生体吸収性膜であって、癒着を緩和する。しかしながら、Separafilmの取り扱いは難しく、かつ、滞在時間は短いので効率を下げる。HAゲルであって、HAの内部的にエステル化した形態(ACT(登録商標)、Fidia Advanced Biopolymers)と、0.5%第2鉄イオンとがイオン的に架橋されたゲル(Intergel(登録商標)、Lifecore Biomedical)は、新規の障壁材料であるが、これは、切創の治癒を促進しない。本明細書に記載されるのは、2個以上の組織の間における癒着を抑制または緩和する複合体である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書に記載されるのは、二つ以上の組織の間の癒着を抑制または緩和する複合体、およびその複合体を製造するためのキットである。本明細書にさらに記載されるのは、該複合体の用法である。
【0005】
本発明の利点は、一部は下記の説明において記載されるし、また一部は説明から明白であろうし、または、下記に記載される局面を実行することによって学習することが可能である。下記に記載される利点は、種々の要素を用いることによって、特に付属の特許請求項に指摘される組み合わせを用いることによって実現・達成されるであろう。前述の一般的記述および、後述の詳細な説明のいずれも例示的・説明的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する付属の図は、後述するいくつかの局面を具体的に示す。
本発明の複合体、組成物、および/または方法が開示され、記述される前に、下記に記載される局面は、特定の化合物、合成法、または用法それ自体に限定されるものではなく、それらは当然のことながら変動が可能であることを理解しなければならない。さらに、本明細書で用いられる用語は、特定の局面を記載する目的のためだけに使用されるもので、限定的であることを意図するものではないことを理解しなけれればならない。
【0007】
本明細書において、また、上述の特許請求項において、いくつかの用語が参照されるが、それらは下記の意味を持つと定義される。
本明細書および付属の請求項で用いる場合、単数形"a," "an" および"the"は、文脈から明らかに別様と判断されない限り、複数の参照事物を含む。従って、例えば、"a pharmaceutical carrier"(製薬学的担体)という言及は、2種以上のそのような担体の混合物等を含む。
「要すれば随意の」または「要すれば随意に」とは、続いて記述される事象または状況が起こってもよいし、起こらなくともよいこと、および、説明は、その事象または状況が起こる場合と、起こらない場合とを含むことを意味する。例えば、「要すれば随意に置換される低級アルキル」という表現は、低級アルキル基は、置換されてもよく、置換されなくともよいこと、および、説明は、未置換の低級アルキルと、置換が存在する低級アルキルの両方を含むことを意味する。
本明細書においては、範囲は、「約」ある特定の値から、および/または、「約」別の特定の値までと表現される。このように範囲が表現される場合、別の局面は、前記特定の値から、および/または、前記別の特定の値までを含む。同様に、数値を、「約」という先行品詞を用いて近似値として表す場合も、その特定の数値も別局面を形成することが理解されよう。さらに、範囲のそれぞれの終末点は、いずれも、他方の終末点に対して意味を持つと同時に、他方の終末点とは独立することが理解されよう。
本明細書および頭書の特許請求項における、ある組成物または物品の、ある特定の要素または成分の重量部に対する言及は、その要素または成分と、その組成物または物品における任意の他の要素または成分との間の、重量部で表される重量関係を示す。従って、2重量部の成分Xと5重量部の成分Yを含む化合物において、XとYは、2:5の重量比において存在し、さらに別の成分がその化合物の中に含まれると否とを問わず、その比として存在する。
特に別様に言明されない限り、成分の重量パーセントは、その成分が含まれる処方または組成物の総重量に基づく。
本明細書および頭書の特許請求項で用いる場合、ある化学的分子種の残基とは、ある特定の反応スキームにおいて得られる、その化学的分子種、または、それから得られる処方または化学製品の産物である構成成分を指す。この場合、その構成成分が、その化学的分子種から実際に得られるものか否かを問わない。例えば、少なくとも1個の-COOH基を含むポリサッカリドは、式Y-COOHで表すことができるが、この式においてYは、ポリサッカリド分子の残り(すなわち、残基)である。
本出願を通じて用いられる変数、例えば、R3-R5、R7、R8、L、G、M、U、V、X、Y、およびZは、別様に言明されない限り、以前に定義されたものと同じ変数である。
本明細書で用いられる「アルキル基」という用語は、1から24個の炭素原子から成る、分枝鎖、または非分枝鎖飽和炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシル等である。「低級アルキル」基とは、1から6個の炭素原子を含むアルキル基である。
本明細書で用いる「ポリアルキレン基」という用語は、互いに連結した、2個以上のCH2基を有する基である。ポリアルキレン基は、式-(CH2)n-で表すことが可能である。式中、nは2から25までの整数である。
本明細書で用いる「ポリエーテル基」という用語は、式-[(CHR)nO]m-を有する基である。式中、Rは水素または低級アルキル基であり、nは1から20までの整数であり、mは1から100までの整数である。ポリエーテル基の例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびポリブリテンオキシドが挙げられる。
本明細書で用いる「ポリチオエーテル基」という用語は、式-[(CHR)nS]m-を有する基である。式中、Rは水素または低級アルキル基であり、nは1から20までの整数であり、mは1から100までの整数である。
本明細書で用いる「ポリイミノ基」という用語は、-[(CHR)nNR]m-を有する基である。式中、Rは、独立に、水素または低級アルキル基であり、nは1から20までの整数であり、mは1から100までの整数である。
本明細書で用いる「ポリエステル基」という用語は、少なくとも2個のカルボキシル基を有する化合物と、少なくとも2個のヒドロキシル基を有する化合物とを反応させることによって生産される基である。
本明細書で用いる「ポリアミド基」という用語は、少なくとも2個のカルボキシル基を有する化合物と、少なくとも2個の、未置換または単一置換アミノ基を有する化合物とを反応させることによって生産される基である。
本明細書で用いる「アリール基」という用語は、任意の炭素系芳香族であって、ベンゼン、ナフタレン等を含む芳香族であるが、ただし、これらに限定されない。「芳香族」という用語はまた、芳香環の内部に少なくとも1個のヘテロ原子を組み込んだ芳香族と定義される「ヘテロアリール基」を含む。ヘテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄、およびリンが挙げられるが、ただし、これらに限定されない。このアリール基は置換されてもよいし、未置換であってもよい。アリール基は、1種以上の基であって、例えば、アルキル、アルキニル、アルケニル、アリール、ハロゲン化物、ニトロ、アミノ、エステル、ケトン、アルデヒド、ヒドロキシ、カルボン酸、またはアルコキシを含む基によって置換されてもよいが、ただしこれらの基に限定されない。
【0008】
I. 抗癒着複合体
一つの局面において、本明細書に記載されるのは、(1)第1化合物であって、第1抗癒着支持体に共有的に結合される、第1抗癒着化合物を含む第1化合物、および、(2)第1治癒促進性化合物を含む複合体である。
【0009】
本明細書で言及される「抗癒着化合物」とは、細胞付着、細胞拡散、細胞成長、細胞分裂、細胞移動、または細胞増殖を防止する任意の化合物と定義される。一つの局面では、アポトーシスを誘発したり、細胞サイクルを停止させたり、細胞分裂を抑制したり、かつ、細胞の移動性を阻止する化合物は、抗癒着化合物として用いることが可能である。抗癒着化合物の例としては、抗ガン剤、抗増殖剤、PKC阻害剤、ERKまたはMAPK阻害剤、cdc阻害剤、コルヒチンやタキソールのような抗有糸分裂剤、アドリアマイシンやカンプトテシンのようなDNA介在因子、または、ウォルトマニンやLY294002のようなPI3キナーゼ阻害剤が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。一つの局面では、抗癒着化合物は、マイトマイシンCのようなDNA反応性化合物である。別の局面では、米国特許第6,551,610号に開示されるオリゴヌクレオチドの中から任意に選ばれるものを抗癒着化合物として使用することが可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。別の局面では、下記に記載する抗炎症剤の中から任意に選ばれるものは、抗癒着化合物となり得る。抗炎症化合物の例としては、メチルプレドニソン、低用量アスピリン、メドロキシプロゲステロン酢酸、およびロイプロリド酢酸が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0010】
本明細書で言及される「抗癒着支持体」という用語は、抗癒着化合物と共有結合を形成することはできるが、細胞に接着したり、細胞を拡散したり、増殖したりすることのない任意の化合物と定義される。一つの局面では、抗癒着支持体は、親水性の、天然または合成ポリマーである。米国特許第6,521,223号に開示されるポリ陰イオン性ポリサッカリドの中から任意に選ばれるものを、抗癒着支持体として使用することが可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。ポリ陰イオン性ポリサッカリドの例としては、ヒアルロナン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、または、ヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースの混合物が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0011】
第1化合物の形成は、抗癒着化合物を、抗癒着支持体と反応させて、新しい共有結合を形成することを含む。一つの局面では、抗癒着化合物は、抗癒着支持体と反応することが可能な基を持つ。抗癒着化合物上に存在し、抗癒着支持体と反応することが可能な基は天然に生じるものであってもよいし、あるいは、抗癒着化合物を化学的に修飾してそのような基を添加してもよい。別の局面では、抗癒着支持体は、抗癒着化合物に対しより反応的となるように化学的に修飾されてもよい。
【0012】
一つの局面では、第1化合物は、抗癒着化合物を抗癒着支持体と架橋結合することによって形成してもよい。一つの局面では、抗癒着化合物と抗癒着支持体とは、それぞれ、少なくとも1個のヒドラジド基を持ち、これが次に、少なくとも2個のヒドラジド反応基を有する架橋リンカーと反応するように構成されてもよい。ヒドラジド反応基の例としては、カルボン酸、またはその塩またはエステル、アルデヒド基、またはケト基が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。国際公開第02/06373A1に開示される架橋リンカーの中から任意に選ばれるものをこの局面で使用することが可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。一つの局面では、架橋リンカーは、ポリエチレングリコールジアルデヒドである。
【0013】
別の局面では、第1化合物は、抗癒着化合物を、抗癒着支持体に対して酸化的に結合することによって形成される。一つの局面では、抗癒着化合物と抗癒着支持体がそれぞれチオール基を持つ場合、抗癒着化合物と抗癒着支持体とは、酸化剤の存在下に互いに反応して、新しいジスルフィド結合を形成する。一つの局面では、抗癒着化合物と抗癒着支持体の間の反応は、酸素を含む任意のガスの存在下に実行されてもよい。一つの局面では、酸化剤は空気である。この局面はまた、この反応を加速するように第2酸化剤の添加を考慮する。別の局面では、反応は不活性雰囲気(すなわち、酸素不在の)下で実行され、酸化剤は反応に添加される。本法において有用な酸化剤の例としては、ヨウ素分子、過酸化水素、アルキルヒドロペルオキシド、ペルオキシ酸、ジアルキルスルフォキシド、Co+3およびCe+4のような高原子価金属、マンガン、鉛、およびクロム等の金属酸化物、ハロゲン遷移因子が挙げられるが、ただしそれらに限定されない。Capozzi, G., Modena, G. 「チオール基の化学、II部」"The Chemistry of the Thiol Group Part II"; Patai, S.(編), Wiley, New York, 1974; pp. 785-839に開示される酸化剤は、本明細書に記載される方法において有用である。なお、この文書の全体を引用することにより本明細書に含める。
【0014】
抗癒着化合物と抗癒着支持体の間の反応は、やや塩基性のバッファー液の中で実行されてもよい。抗癒着支持体の量に対する、抗癒着化合物の相対的量は変動してもよい。一つの局面では、抗癒着化合物の、抗癒着支持体に対する容積比は、99:1, 90:10, 80:20, 70:30, 60:40, 50:50, 40:60, 30:70, 20:80, 10:90, または1:99である。一つの局面では、抗癒着化合物と抗癒着支持体は空気中で反応し、室温に放置して乾燥する。この局面では、乾燥材料は、過酸化水素のようn第2酸化剤に暴露される。次に、得られた化合物を水で濯いで、未反応の抗癒着化合物、抗癒着支持体、および未使用の酸化剤があれば全てこれを除去する。本明細書に記載される酸化的結合法を通じて第1化合物を調製する利点は、結合が、さらにそれ以上の架橋試薬を要することなく、生理学的に穏やかな条件下の水性媒体の中で進行することが可能となることである。
【0015】
一つの局面では、抗癒着支持体は、式IIIを持つように化学的に修飾される。すなわち、
【化1】
式中、
Yは、抗癒着支持体の残基であり、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基であってもよい。
一つの局面では、式IIIのLは、CH2CH2、またはCH2CH2CH2であってもよい。一つの局面では、抗癒着支持体の残基は、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体であってもよい。
【0016】
図1は、Yがヒアルロナンである場合の式IIIを有する抗癒着支持体を生産するための、前述の方法の一局面を示す。第1工程は、式Y-COOHを有する巨大分子を、式Aを有するジヒドラジド/ジスルフィド化合物と反応させることを含む。この反応は、縮合剤の存在下に実行される。縮合剤は、化合物Aのジヒドラジド基と巨大分子のCOOH基との間の反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物であってもよい。一つの局面において、縮合剤は、例えば、1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-カルボジイミド(EDCI)を含むカルボジイミドであるが、ただしこれに限定されない。図1に示すように、第1工程後に、産物同士(BおよびC)の混合物が生産される。化合物BとCにおけるジスルフィド結合が還元剤によって分断される。一つの局面では、この還元剤は、ジチオスレイトールである。化合物BおよびCにおけるジスルフィド結合の分断によって、式IIIを有する抗癒着支持体が得られる。
【0017】
前述の方法によって生産される第1化合物は、少なくとも1個の、式VIを含む断片を有する。
【化2】
式中、
Yは、抗癒着支持体の残基であってもよく、かつ、
Gは、抗癒着化合物の残基であってもよい。
【0018】
本明細書で用いられる「断片」という用語は、全体分子そのもの、または、より大きな分子の一部、または一セグメントを指す。例えば、式VIのYは高分子量のヒアルロナンであって、抗癒着化合物とジスルフィド結合によって架橋されて第1化合物を生産してもよい。あるいは別に、第1化合物は、複数のジスルフィド結合を持っていてもよい。この局面では、第1化合物は、最低式VIで表される1単位を有する。すなわち、その1単位は、少なくとも1個の抗癒着化合物が、少なくとも1個の抗癒着支持体と酸化を通じて反応した結果生じた少なくとも1個のジスルフィド結合を表す。
【0019】
一つの局面では、式VIを有する断片は、式VIIIを有する。
【化3】
式中、
Yは、抗癒着支持体の残基であってもよく、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリアミノ基、ポリイミノ基、アリール基、ポリエステル、またはポリチオエーテル基であってもよく、かつ、
Gは、抗癒着化合物の残基であってもよい。
【0020】
一つの局面では、式VIIIのLは、ポリアルキレン基であってもよい。別の局面で、式VIIIのLは、C1からC20ポリアルキレン基であってもよい。別の局面では、式IIIのLは、CH2CH2またはCH2CH2CH2であってもよい。別の局面では、Yはカルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体の残基であってもよい。
【0021】
別の局面では、第1化合物は、少なくとも1個のSH基を持つ抗癒着支持体を、少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、少なくとも1個の抗癒着化合物と反応させることによって生産される。
【0022】
少なくとも1個のチオール反応性求電子基を持つものであれば、前述の抗癒着化合物の内から任意に選ばれるものをこの局面で使用することが可能である。本明細書で用いられる「チオール反応性求電子基」という用語は、チオール基の硫黄原子の、ペアの片割れ電子、または、チオール酸陰イオンによる求電子攻撃に対して感受性を持つ任意の基である。チオール反応性求電子基の例としては、離れやすい基を有する基が挙げられる。例えば、ハロゲンまたはアルコキシ基を付着させたアルキル基、または、α-ハロカルボニル基が、チオール反応性求電子基の例である。別の局面では、チオール反応性求電子基は、電子欠乏ビニル基である。本明細書で用いる「電子欠乏ビニル基」という用語は、炭素-炭素二重結合を持つ基であって、これらの炭素原子の一方に電子吸引基を付着させた基である。電子欠乏ビニル基は、式Cβ=CαXで表される。式中、Xは電子吸引基である。電子吸引基がCαに付着すると、ビニル基(Cβ)の他方の炭素原子は、チオール基による求電子攻撃に対してより感受性が高くなる。活性化炭素-炭素二重結合に対する、このタイプの付加をマイケル付加と呼ぶ。電子吸引基の例としては、ニトロ基、シアノ基、エステル基、アルデヒド基、ケト期、スルフォン基、またはアミド基が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。一つの局面では、抗癒着化合物は、電子欠乏ビニル基であって、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド、またはメタクリルアミドである電子欠乏ビニル基を有する。
【0023】
一つの局面では、抗癒着化合物は、アクリレート基を有するマイトマイシンCであってもよい。図2はこの局面を示す。同図において、マイトマイシンC(MMC)は、対応するアクリル酸塩(MMC-アクリレート)に変換される。別の局面では、次に、MMC-アクリレートは、ヒドラジド修飾ヒアルロナンチオール化合物HA-DTPH(式IIIで、Yはヒアルロナンの残基であり、LはCH2CH2CH2である)と結合して、HA-DTPH-MMCを生産する(図2)。
【0024】
別の局面では、第1化合物は、少なくとも1個のチオール反応性求電子官能基を有する抗癒着支持体を、少なくとも2個のチオール基を有する、少なくとも1個の抗癒着化合物と反応させることによって生産される。一つの局面では、少なくとも1個のチオール反応性求電子官能基を有する抗癒着支持体は、式Iを有する。
【化4】
式中、
Yは、抗癒着支持体の残基であってもよく、
Qは、チオール反応性求電子官能基であってもよく、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基であってもよい。
【0025】
一つの局面では、Qがチオール反応性求電子官能基である場合、Yは、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体であってもよく、Lは、CH2CH2またはCH2CH2CH2であってもよい。別の局面では、Qは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、またはメタクリルアミド付加物であってもよい。
【0026】
抗癒着支持体を、少なくとも1個のチオール反応性求電子官能基を有する抗癒着化合物と反応させることによって生産される化合物は、式VIIで表される少なくとも1個の断片を持つ。
【化5】
式中、
R7およびR8は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルであってもよく、
Xは、抗癒着化合物に付着する電子吸引基であってもよく、かつ、
Yは、抗癒着支持体の残基であってもよい。
【0027】
この局面では、式VII中のXは、前述の抗癒着化合物から選ばれる任意のものであってよく、Yは、前述の抗癒着支持体から選ばれる任意のものであってもよい。一つの局面では、R7は水素である。別の局面では、R7は水素であり;R8は水素かメチルであり;Xは、電子欠乏ビニル基を有するマイトマイシンCの残基であり;かつ、Yは、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体である。
【0028】
一つの局面では、チオール反応性化合物(抗癒着化合物または抗癒着支持体)と、チオール化合物(抗癒着化合物または抗癒着支持体)との間の反応は、一般に、7から12、7.5から11、7.5から10、または7.5から9.5、または8のpHで実行される。一つの局面では、使用される溶媒は、水(単独)であっても、あるいは、有機溶媒を含む水溶液であってもよい。一つの局面では、混合溶媒系を用いる場合、一次、二次、または三次アミンのような塩基を使用することが可能である。一つの局面では、チオール反応性化合物に対して、相対的に過剰なチオール化合物が用いられる。これは、全てのチオール反応性化合物が反応時に消費されることを確保するためである。チオール反応性化合物、チオール化合物、反応のpH、および、溶媒の選択に応じて、結合は、数分内から数日までかかることがある。反応が、空気のような酸化剤の存在下に行われる場合、チオール化合物は、酸化的付加を介してそれ自体と、または、別のチオール化合物と反応し、チオール反応性化合物と反応するのみならず、ジスルフィド結合を形成する可能性がある。
【0029】
別の局面では、第1化合物は、第1癒着化合物と、第1癒着支持体とを架橋剤の存在下に反応させることによって生産される。この第1癒着化合物、第1癒着支持体、および架橋剤は、任意の順序で相互に反応させてよい。一つの局面では、架橋剤は、両方とも同じものである、二つの電子欠乏ビニル基を有するチオール反応性化合物であってもよい。別の局面では、チオール反応性化合物は、ジアクリレート、ジメタクリレート、ジアクリルアミド、ジメタクリルアミド、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0030】
一つの局面では、架橋剤は式Vを有する。
【化6】
式中、
R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルであってもよく、
UおよびVは、それぞれ独立に、OまたはNR5であってもよく、ただしここにR5は水素または低級アルキルであり、かつ、
Mは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基であってもよい。
【0031】
一つの局面では、R3およびR4は水素であり、UおよびVは酸素であり、かつ、Mはポリエーテル基である。別の局面では、R3およびR4は水素であり、UおよびVはNHであり、かつ、Mはポリエーテル基である。さらに別の局面では、R3およびR4はメチルであり、UおよびVは酸素であり、かつ、Mはポリエーテル基である。別の局面では、R3およびR4はメチルであり、UおよびVはNHであり、かつ、Mはポリエーテル基である。
【0032】
図3は、架橋結合の一つの局面を示す。HA-DTPH-MMCは、1個以上の遊離チオール基を含み、これらの基は次にPEGDAと結合して、HA-DTPH-PEGDA-MMCを生産する。
【0033】
この複合体は、要すれば随意に、未反応(すなわち、遊離の)抗癒着化合物を含んでもよい。この未反応抗癒着化合物は、抗癒着支持体に共有的に結合される抗癒着化合物とは同じであっても、異なっていてもよい。
【0034】
この複合体は、治癒促進性化合物から構成される。本明細書で用いられる「治癒促進性薬剤」という用語は、細胞成長、細胞増殖、細胞移動、細胞運動、細胞癒着、または細胞分化を促進する、任意の化合物である。一つの局面では、治癒促進性化合物は、タンパクまたは合成ポリマーを含む。本明細書に記載される方法において有用なタンパクは、細胞外基質タンパク、化学的に修飾された細胞外基質タンパク、または、細胞外基質タンパクの部分的に加水分解された誘導体であるが、ただしこれらに限定されない。これらのタンパクは、細胞相互作用性ドメインを持つ、天然のポリペプチド、または組み換えポリペプチドであってもよい。このタンパクはまた、複数のタンパクであって、その内の1種以上が修飾されたタンパクの混合物であってもよい。タンパクの特定的例としては、コラーゲン、エラスチン、デコリン、ラミニン、またはフィブロネクチンが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0035】
一つの局面では、合成ポリマーは、ヒドラジドと反応することが可能な、少なくとも1個のカルボン酸基、またはその塩またはエステルを有する。一つの局面では、合成ポリマーは、グルクロン酸、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリ酒石酸、ポリグルタミン酸、またはポリフマール酸を含む。
【0036】
別の局面では、治癒促進性化合物は、米国特許第6,548,081B2号に開示される支持体の中から任意に選ばれるものであってもよい。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。一つの局面では、治癒促進性化合物は、架橋結合アルギン酸塩、ゼラチン、コラーゲン、架橋結合コラーゲン、コラーゲン誘導体、例えば、スクシニル化コラーゲンまたはメチル化コラーゲン、架橋結合ヒアルロナン、キトサン、キトサン誘導体、例えば、メチルピロリドン・キトサン、セルロース、およびセルロース誘導体、例えば、セルロースアセテート、またはカルボキシメチルセルロース、デキストラン誘導体、例えば、カルボキシメチルデキストラン、でん粉、およびでん粉誘導体、例えば、ヒドロキシエチルでん粉、他のグリコサミノグリカンおよびその誘導体、他のポリ陰イオン性ポリサッカリドまたはその誘導体、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸とポリグリコール酸(PLGA)のコポリマー、ラクチド、グリコリド、および他のポリエステル、ポリオキサノンおよびポリオキサレート、無水ポリ(ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン)(PCPP)およびセバシン酸のコポリマー、ポリ(1-グルタミン酸)、ポリ(d-グルタミン酸)、ポリアクリル酸、ポリ(d1-グルタミン酸)、ポリ(1-アスパラギン酸)、ポリ(d-アスパラギン酸)、ポリ(d1-アスパラギン酸)、ポリエチレングリコール、上掲のポリアミノ酸と、ポリエチレングリコールのコポリマー、ポリペプチド、例えば、コラーゲン様、絹様、および絹エラスチン様タンパク、ポリカプロタクトン、ポリ(アルキレンコハク酸)、ポリ(ヒドロキシブチル酸)(PHB)、ポリ(ブチレンジグリコール酸)、ナイロン-2/ナイロン-6-コポリアミド、ポリジヒドロピラン、ポリフォスファゼン、ポリ(オルトエステル)、ポリ(シアノアクリル酸)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリカゼイン、ケラチン、ミオシン、およびフィブリンが挙げられる。別の局面では、架橋結合HAは、治癒促進性化合物であってもよい。
【0037】
別の局面では、治癒促進性化合物はポリサッカリドであってもよい。一つの局面では、ポリサッカリドは、ジヒドラジドと反応することが可能な、少なくとも1個の基、例えば、カルボン酸基、またはその塩またはエステルを有していてもよい。一つの局面では、ポリサッカリドは、グリコサミノグリカン(GAG)である。GAGは、沢山の交互に繰り返すサブユニットを有する一つの分子である。例えば、硫酸化されないGAGであるHAは、(GlcNAc-GlcUA-)xである。他のGAGは、様々な糖において硫酸化される。一般的に、GAGは、式A-B-A-B-A-Bで表される。式中、Aはウロン酸であり、Bは、O-、またはN-硫酸化されたアミノ糖であり、AおよびB単位は、エピマー含量、または硫酸化に関して異質であってもよい。ウロン酸を含むものであれば、任意の天然または合成のポリマーを使用することが可能である。
【0038】
一般に理解される構造を持つもの、例えば、開示の組成物に含まれる構造を有するものにも多種多様なGAGが、例えば、コンドロイチン硫酸、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、デルマタン硫酸、およびヘパラン硫酸のようなGAGがある。従来技術で既知の、任意のGAGを、本明細書に記載される複合体の内から任意に選ばれるものに使用することが可能である。グリコサミノグリカンは、Sigmaおよび、他の多くの生化学的供給業者から購入することが可能である。本明細書で記載される複合体において有用なポリサッカリド含有の、他のカルボン酸としては、アルギン酸、ペクチン、およびカルボキシメチルセルロースがある。
【0039】
一つの局面では、治癒促進性化合物は、式中のYはポリサッカリドの残基である、式IIIを有する化合物である。別の局面では、Yはヒアルロナンの残基である。HAは、非硫酸化GAGである。ヒアルロナンは、交互に連結する2種類の糖、D-グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンから構成される、良く知られた、天然の、水溶性ポリサッカリドである。このポリマーは、親水性で、比較的低い溶質濃度の水溶液では極めて粘度が高い。天然では、ナトリウム塩、すなわち、ヒアルロン酸ナトリウムとして存在することが多い。市販のヒアルロナン、およびその塩の調製法はよく知られている。ヒアルロナンは、Seikagaku Co., Clear Solutions Biotech, Inc., Pharacia Inc., Sigma Inc. を始め、他の多くの供給業者から購入することが可能である。高分子量ヒアルロナンの場合、多くの場合100から10,000ジサッカリド単位の範囲にある。別の局面では、ヒアルロナンの分子量の最低限度は、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、または100,000であり、最高限度は、200,000、300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、800,000、900,000、または1,000,000であり、その際、下限から任意に選ばれるものを、上限から任意に選ばれるのものと組み合わせることが可能である。
【0040】
複合体は、要すれば随意に、第2の治癒促進化合物を含んでもよい。一つの局面では、第2治癒促進化合物は成長因子であってもよい。成長因子としては、細胞および組織の成長および生存を促進したり、または、細胞の機能を増進することが可能なものであれば、任意の物質または代謝前駆物質が有用である。成長因子の例としては、神経成長促進物質、例えばガングリオシド、神経成長因子等;硬または軟組織成長促進因子、例えばフィブロネクチン(FN)、ヒト成長ホルモン(HGH)、コロニー刺激因子、骨形成因子、血小板由来増殖因子(PDGE)、インスリン由来増殖因子(IGF-I、IGF-II)、トランスフォーミング増殖因子アルファ(TGF-アルファ)、トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-ベータ)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン-1(IL-1)、血管内皮増殖因子(VEGF)およびケラチノサイト増殖因子(KGF)、乾燥骨物質等;抗腫瘍剤、例えば、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、アドリアマイシン、ビンブラスチン、シスプラチン、毒素に接合された腫瘍特異的抗体、腫瘍壊死因子等が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。複合体に組み込まれる成長因子の量は、選択された成長因子および治癒促進化合物を始めとして、複合体の意図された最終用途に応じて変動する。
【0041】
この局面では、米国特許第6,534,591B2号に開示される成長因子の内から任意に選ばれるものの使用が可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。一つの局面では、成長因子は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、結合組織活性化ペプチド(CTAP)、骨形成因子、および、これらの成長因子の生物学的に活性な類縁体、断片、および誘導体が挙げられる。トランスフォーミング増殖因子(TGF)のスーパー遺伝子ファミリーのメンバーは、多機能調節タンパクである。TGFスーパー遺伝子ファミリーのメンバーとしては、ベータトランスフォーミング増殖因子(例えば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3);骨形成タンパク(例えば、BMP-1、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8、BMP-9);ヘパリン結合増殖因子(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF);インヒビン(例えば、インヒビンA、インヒビンB);成長分化因子(例えば、GDF-1);および、アクチビン(例えば、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB)が挙げられる。
【0042】
成長因子は、生得の、または天然の供給源、例えば、哺乳類細胞から単離することが可能であり、あるいは、合成的に、例えば、組み換えDNA技術によって、あるいは、様々の化学的過程を通じて調製することが可能である。さらに、これらの因子の類縁体、断片、または誘導体も、それらが元の分子の生物学的活性の少なくともいくつかを提示する限り、使用が可能である。例えば、部位特異的突然変異形成、またはその他の遺伝子工学技術によって改変した遺伝子の発現によって調製することが可能である。
【0043】
別の局面では、架橋リンカーの付加を用いて、第1化合物を、治癒促進化合物に結合させることが可能である。この局面には、前述の架橋リンカーの内から任意に選ばれるものを用いることが可能である。一つの局面では、第1化合物と治癒促進化合物とが、遊離チオール基を持つ場合、少なくとも2個の反応性求電子基を有する架橋リンカーを用いて、この二つの化合物を結合させることが可能である。さらに、架橋リンカーは、二つの第1化合物同士、または二つの治癒促進化合物同士を結合することも可能である。
【0044】
一つの局面では、架橋リンカーは、共に同じである、二つの電子欠乏ビニル基を有するチオール反応性化合物であってもよい。別の局面では、チオール反応性化合物は、ジアクリレート、ジメタクリレート、ジアクリルアミド、ジメタクリルアミド、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0045】
別の局面では、チオール反応性化合物は式Vを有する。
【化7】
式中、
R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルであってもよく、
UおよびVは、それぞれ独立に、OまたはNR5であってもよく、ただしここにR5は水素または低級アルキルであり、かつ、
Mは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基であってもよい。
【0046】
一つの局面では、R3およびR4は水素であり、UおよびVは酸素であり、かつ、Mはポリエーテル基である。別の局面では、R3およびR4は水素であり、UおよびVはNHであり、かつ、Mはポリエーテル基である。さらに別の局面では、R3およびR4はメチルであり、UおよびVは酸素であり、かつ、Mはポリエーテル基である。別の局面では、R3およびR4はメチルであり、UおよびVはNHであり、かつ、Mはポリエーテル基である。
【0047】
本明細書に記載される複合体は、意図される用途に応じて、様々な形および形態を取ることが可能である。一つの局面では、複合体は、積層体、ゲル、ビーズ、スポンジ、フィルム、メッシュ、またはマトリックスであってもよい。米国特許第6,534,591B2および6,548,081B2号に開示される処理手順を用いて、様々な形の複合体を調製することが可能である。なお、これらの特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。
【0048】
一つの局面では、複合体は積層体である。一つの局面では、この積層体は、第1層と第2層を含み、ここに、(1)第1層は、第1抗癒着支持体に共有的に結合される第1抗癒着化合物を含む第1化合物を含み、第1層は第1表面と第2表面とを有し、かつ、(2)第2層は、第1治癒促進化合物を含み、第2層は第1表面と第2表面とを有し、第1層の第1表面は、第2層の第1表面に接することを特徴とする積層体である。この局面では、第1層は第2層に接する。第1化合物と治癒促進化合物の選択に応じて、第1化合物と治癒促進化合物とは、互いに共有的に結合されてもよいし、あるいは、互いに単に物理的に接触するだけで、その二つの化合物の間に何の化学的反応が見られなくともよい。一つの局面では、第1化合物と治癒促進化合物は、酸化剤の存在下に新たにジスルフィド結合を形成することが可能な、遊離チオール基を持つ。
【0049】
一つの局面では、治癒促進化合物から成る第2層を、第1層のフィルム上に被覆してもよい。一つの局面では、第1層および第2層の間のインターフェイスの幅は、第1層の流し込み時間に応じて変動してもよい。例えば、第1層の流し込み時間が長い場合には、第2層の被覆後に形成されるインターフェイスの幅は減少する。同様に、第1層の流し込み時間が短い場合には、より幅広いインターフェイスが製造される。第1層と第2層の間のインターフェイスの幅を変えることによって、急速な(狭いインターフェイスの場合)、または緩徐な(広いインターフェイスの場合)細胞成長を阻止することが可能になる。別の局面では、治癒促進化合物の、さらに別の層を、第1層の別の表面に被覆して、治癒促進性化合物に被われた、サンドイッチ型の第1層を製造することが可能である。図4は、このサンドイッチ型積層体の一局面を示す。
【0050】
一つの局面では、複合体は、対象者に対して搬送する前に、任意の所望の形に成形してもよい。別の局面では、第2層(治癒促進化合物)を対象者に塗布して、その後、暴露された第2層に対して第1化合物を被覆することも可能である。さらに別の局面では、治癒促進化合物を含む別の層を、第1層の暴露された表面に対して被覆することが可能である。この局面では、サンドイッチ型積層体は、対象者の生体内で形成される。
【0051】
一つの局面では、第1化合物と、治癒促進化合物とは、キットとして用いられてもよい。例えば、第1化合物と治癒促進化合物とは別々の注射器に収められ、その内容物は、対象者に対して搬送される直前に、注射器対注射器技術を用いて混合される。この局面では、第1化合物と治癒促進化合物とは、排出装置によって注射器の開口から押し出され、その後、従来技術で既知の技術、例えば、へらによって広げられる。別の局面では、第1化合物と治癒促進化合物とは、特定区域または対象領域へ塗布後、自然手段によって拡散される。
【0052】
別の局面では、第1化合物と治癒促進化合物とは、ノズルまたは、その他の噴霧装置を備えたスプレー缶または瓶の、別々のチェンバーに収められる。この局面では、第1化合物と治癒促進化合物とは、それぞれが噴霧装置のノズルから一緒に吐出されるまでは、実際には交わらない。
【0053】
II. 製薬組成物
一つの局面では、前述の複合体は全て、少なくとも1種の製薬学的に受容可能な化合物を含んでもよい。こうして得られた製薬組成物は、塗布部位に隣接した、または離れた組織に対して、薬剤およびその他の生物学的活性剤を持続的、連続的に搬送するためのシステムを提供することが可能である。この生物学的活性剤は、それが適用される生物組織に対して、局所的、または全身的生物学的、生理学的、または治療的作用を実現することが可能である。例えば、この薬剤は、数ある機能の内でも特に、感染または炎症を沈静したり、細胞成長や組織の再生を強化したり、腫瘍の増殖を抑えたり、鎮痛剤として作用したり、抗細胞付着を促進したり、骨成長を強調するように作用することが可能である。さらに、本明細書に記載される抗癒着複合体は全て、2種以上の製薬学的に受容可能な化合物の組み合わせを含んでもよい。一つの局面では、複合体が積層体である場合、製薬学的に受容可能な化合物は、第1および/または第2層に組み込まれてもよい。
【0054】
一つの局面では、製薬学的に受容可能な化合物は、生物系に対して全身的に、または、欠損部位に対して局所的に感染を防止することが可能な物質、例えば、抗炎症剤、例えば、ピロカルピン、ヒドロコーチゾン、プレドニソロン、コーチゾン、ジクロフェナックナトリウム、インドメタシン、6α-メチル-プレドニソロン、コルチコステロン、デキサメタゾン、プレドニソン等(ただしこれらに限定されない);抗菌剤、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、バシトラシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロロキン、ビダラビン等(ただしこれらに限定されない)を含む抗菌剤;鎮痛剤、例えば、サリチル酸、アセタミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、フルルビプロフェン、モルフィン等を含む抗菌剤(ただしこれらに限定されない);局所麻酔剤、例えば、コカイン、リドカイン、ベンゾカイン等を含む局所麻酔剤(ただしこれらに限定されない);免疫原(ワクチン)であって、肝炎、インフルエンザ、麻疹、風疹、破傷風、ポリオ、狂犬病等に対する抗体を刺激するための免疫原(ワクチン);ペプチドであって、ロイプロリド酢酸(LH-RH作用剤)、ナファレリン等を含むペプチド(ただしこれらに限定されない)を含むことが可能である。全ての化合物が、Sigma Chemical Co(ミルウォーキー、ウィンスコンシン州)から入手することが可能である。
【0055】
その他の有用な物質としては、ホルモン、例えば、プロゲステロン、テストステロン、および卵胞刺激ホルモン(FSH)(バースコントロール、受胎促進)、インスリン等を含むホルモン;ジフェンヒドラミン等のような抗ヒスタミン剤;心臓血管剤、例えば、パパベリン、ストレプトキナーゼ等;抗潰瘍剤、例えば、ヨウ化イソプロパミド等;気管支拡張剤、例えば、メタプロテルナール硫酸、アミノフィリン等;血管拡張剤、例えば、テオフィリン、ニアシン、ミノキシジル等;中枢神経剤、例えば、トランキライザー、B-アドレナリン性遮断剤、ドーパミン等;リスペリドンのような抗精神病薬、ナルトレキソン、ナロキソン、ブプレノルフィン、およびその他の類似物質のような麻酔拮抗剤が挙げられる。化合物は全てSigma Chemical Co. (ミルウォーキー、ウィンスコンシン州)から入手が可能である。
【0056】
製薬組成物は、従来技術で既知の技術を用いて調製することが可能である。一つの局面では、組成物は、複合体形成の前に、本明細書で記載される第1化合物および/または治癒促進化合物を、製薬学的に受容可能な化合物と混合することによって調製される。「混合する」という用語は、二つの成分を、化学的または物理的相互作用が無いように一緒に混ぜ合わせることと定義される。「混合する」という用語はまた、第1化合物または治癒促進化合物と、製薬学的に受容可能な化合物との間の化学的反応、または物理的相互作用を含む。反応性治療薬剤、例えば、反応性カルボキシル基を有する薬剤に対する共有結合は、結合するその化合物上で行われてもよい。例えば、先ず、カルボキシル酸含有薬物、例えば、抗炎症剤であるイブプロフェンまたはヒドロコーチゾン-ヘミコハク酸を、対応するN-ヒドロスクシニミド(NHS)活性エステルに変換し、これをさらにジヒドラジド修飾抗癒着支持体のNH2基と反応させることが可能である。第2に、第1化合物および/または治癒促進化合物による製薬学的活性剤の非共有的捕捉も可能である。第3に、静電気的、または疎水性相互作用は、第1化合物および/または治癒促進化合物における製薬学的活性化合物の捕捉を促進することが可能である。例えば、ヒドラジド基は、例えば、カルボン酸含有ステロイドおよびその類縁体、および抗炎症剤、例えば、イブプロフェン(2-(4-イソ-ブチルフェニル)プロピオン酸)と非共有的に相互作用を持つことが可能である。プロトン化ヒドラジド基は、多様な陰イオン性物質、例えば、タンパク、ヘパリンまたはデルマタン硫酸、オリゴヌクレオチド、リン酸エステル等を塩を形成することが可能である。あるいは別に、複合体は、1種以上の製薬学的に受容可能な化合物と混合されてもよい。
【0057】
ある特定の場合における、製薬学的に受容可能な活性成分の、実際の好ましい量は、利用される特定の化合物、処方される特定の組成物、投与方式、および、治療される特定部位および対象者に従って変動することは理解されよう。ある任意の宿主に対する用量は、通例の配慮に従って、例えば、複数の対象化合物の活性差と、既知の薬剤との、適当な通例の薬学的プロトコールによる通則通りの比較によって決定することが可能である。製薬化合物の用量を決める技術に精通した医師および処方薬剤師であるならば、何の問題も無く標準的推薦則(Physicians Desk Reference, Barnhart Publishing (1999))に従って用量を決めることができるであろう。
【0058】
本明細書に記載される製薬組成物は、生物系または実体が耐容できるものであれば、どのような賦形剤の中に含められて処方されてもよい。このような賦形剤としては、水、生食液、リンゲル液、デキストロース液、ハンクス液、およびその他の生理学的に平衡した塩溶液が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。非水性ベヒクル、例えば、不揮発油、オリーブ油およびごま油のような植物油、トリグリセリド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および、オレイン酸エチルのような注入可能な有機エステルも使用が可能である。その他の有用な処方としては、増粘剤、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストランを含む懸濁液が挙げられる。賦形剤はまた、少量の添加剤、例えば、等張性および化学的安定性を強化する物質を含むことが可能である。バッファーの例としては、リン酸バッファー、重炭酸バッファー、トリスバッファーが挙げられ、保存剤の例としては、チメロゾール、クレゾール、およびベンジルアルコールが挙げられる。
【0059】
製薬学的担体は当業者には既知である。もっとも典型的なものは、ヒトに対する投与用の標準的担体であって、例えば、滅菌水、生食液、生理的pHに緩衝された溶液のような溶液が挙げられる。
【0060】
製薬搬送用の分子は、製薬組成物として処方することが可能である。製薬組成物は、選択された分子の他に、担体、増粘剤、希釈剤、バッファー、保存剤、界面活性剤等を含むことが可能である。製薬組成物はまた、1種以上の活性成分、例えば、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔剤等を含むことが可能である。
【0061】
製薬組成物は、局所治療を望むのか全身治療を望むのかに従って、また、治療される面積に従って、いくつかの異なるやり方で投与されてもよい。投与は局所的(眼科的、膣内、直腸内、鼻腔内を含む)であってもよい。
【0062】
投与製剤は、滅菌された、水性または非水性の溶液、懸濁液、および乳液を含む。非水性担体の例としては、生食液およびバッファー溶媒を含む、水、アルコール/水性溶液、乳液、または懸濁液が挙げられる。非経口ベヒクルが開示の組成物および方法の同時平行的使用のために必要とされる場合の非経口ベヒクルとしては、塩化ナトリウム液、リンゲルデキストロース、デキストロースと塩化ナトリウム、乳酸添加リンゲル液、または不揮発油が挙げられる。静脈内ベヒクルが開示の組成物および方法の同時平行的使用のために必要とされる場合の静脈内ベヒクルとしては、液体および養分補給剤、電解質補給剤(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)等が挙げられる。保存剤およびその他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガス等も存在してもよい。
【0063】
局所投与用処方としては、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐剤、スプレー、液剤、および散剤が挙げられる。通例の製薬担体、水性、粉末状、または油状基剤、増粘剤等が必要となったり、望ましくなることがある。
【0064】
投与量は、治療される病態の重度および反応性に依存するが、通常1日当たり1回以上で、治療行程は、数日から数ヶ月、あるいは、従来技術に通常の錬度を持つものが搬送を止めるべきだと判断するまで続けられる。最適用量、投与法、および繰り返し頻度は、当業者であれば簡単に決定が可能である。
【0065】
一つの局面では、本明細書に記載される複合体および製薬組成物のいずれのものも、生きている細胞または遺伝子を含んでもよい。生きている細胞の例としては、線維芽細胞、肝細胞、軟骨細胞、幹細胞、骨髄、筋細胞、心筋細胞、神経細胞、または膵臓島細胞が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。米国特許第6,534,591B2号に開示される細胞および遺伝子の内から任意に選ばれるものの使用が可能である。なお、この特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。
【0066】
III. 使用法
本明細書に記載される複合体および製薬組成物は、薬剤搬送、小型分子搬送、外傷治癒、火傷傷害治癒、および組織再生に関連する様々な用途に使用が可能である。開示の組成物は、他の基質成分の集合、成長・分化因子の存在、細胞移動、または組織再生が望まれる、水性の、細胞辺縁環境が有利な状況下において有用である。
【0067】
本明細書に記載される複合体および製薬組成物は、生体適合性材料から構成されるので、いずれの生物系に対しても、精製することなく直接その中に、または、その上に設置することが可能である。複合体の設置が可能な部位の例としては、筋や脂肪のような軟組織;骨や軟骨のような硬組織;組織再生区域;歯周ポケットのような空虚空間;手術切創またはその他の原因で形成されたポケットまたは空洞;口腔、膣腔、直腸腔または鼻腔、眼球の盲嚢等のような天然の空洞;腹腔およびその内部に含まれる臓器、および、化合物をその中に、またはその上に設置することが可能な他の部位、例えば、切り傷、掻き傷、または火傷域のような皮膚表面欠損が挙げられるが、ただしこれらに限定されない。本明細書に記載される抗癒着複合体は、生分解性であってもよく、その場合、天然の酵素が長期に渡ってそれらを分解するように作用する。この抗癒着複合体の成分は、その複合体の成分が分解されて、生物系の内部に吸収される、例えば、細胞、組織等によって吸収されるという意味で「生体吸収性」であってもよい。さらに、この複合体は、特に、改めて水分を供給されない複合体は、対象区域から液体を吸収するよう生物系に適用することが可能である。
【0068】
本明細書に記載される複合体および組成物は、いくつかの異なる手術手順において使用することが可能である。一つの局面では、この複合体および組成物は、米国特許第6,534,591B2および6,548,081B2号に開示される手術手順の内から任意に選ばれるものに使用が可能である。なお、これらの特許文書の全体を引用することにより本明細書に含める。一つの局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、心臓外科および関節外科;小腸または腸間膜の癒着を防止することが重要な腹部外科;肺および心臓に関わる(例えば、心臓バイパスまたは移植手術)胸部外科;有害作用が尿管および膀胱、および、卵管・子宮の機能に及ぶのを防止することが重要な泌尿生殖領域における手術;肉芽組織の発達を抑止することが重要な神経外科手術において使用が可能である。腱を含む手術では、一般に、術後の不動化期間に、腱と、周辺の鞘または周辺組織との間に癒着が起こる傾向がある。別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物を用いて、腹腔内視鏡手術、骨盤手術、ガン手術、頭蓋洞および頭蓋顔面手術、ENT手術後において、あるいは、脊髄硬膜修復に関わる処置において癒着を防止することが可能である。
【0069】
別の局面では、この複合体および組成物は、眼科手術において用いることが可能である。眼科手術では、生分解性インプラントを、眼球前房の隅角に、角膜と虹彩の間にシネキアが発生することを防止するために挿入することが可能である。これは、特に、重度の傷害処置の後の再建手術の場合に当てはまる。さらに、緑内障手術および斜視手術後の癒着を防止するために、分解性の、または恒久性のインプラントが望ましい場合がよくある。
【0070】
別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、軟または硬組織の嵩上げのために使用することが可能である。別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、インプラントに被覆するために使用することが可能である。別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、動脈瘤の治療に使用することが可能である。
【0071】
本明細書に記載される複合体は、ヒト、または非ヒト動物に対して治癒的、または治療的価値を持つ、多種多様な放出性の、製薬学的に受容可能な化合物のための担体および搬送装置として使用することが可能である。この局面において、本明細書に記載される製薬学的に受容可能な化合物の内から任意に選ばれるものを使用することが可能である。この抗癒着複合体によって搬送が可能なこれらの物質の内の多くは既に上に論じられている。製薬学的に受容可能な化合物の選択に応じて、その製薬学的に受容可能な化合物は、第1化合物の中に存在してもよいし、あるいは、治癒促進化合物の中に存在してもよい。本明細書に記載される複合体の中に組み込むのが適当な、製薬学的に受容可能な化合物の中に含まれるものとしては、治療薬剤、例えば、抗炎症剤、解熱剤、抗炎症用ステロイド剤および非ステロイド剤、ホルモン、成長因子、避妊薬、抗ウィルス剤、抗菌剤、抗真菌剤、鎮痛剤、催眠剤、鎮静剤、トランキライザー、抗痙攣剤、筋弛緩剤、局所麻酔剤、抗痙縮剤、抗潰瘍剤、ペプチド作用剤、交感神経様作用剤、心臓血管薬、抗腫瘍剤、オリゴヌクレオチドおよびその類縁体等がある。製薬学的に受容可能な化合物は、製薬学的に活性な量として添加される。
【0072】
薬剤搬送速度は、放出される分子の疎水性に依存する。例えば、デキサメタゾンやプレドニソンのような疎水性分子は、化合物が水性環境の中で膨らむにつれて化合物からゆっくりと放出され、一方、親水性分子、例えば、ピロカルピン、ヒドロコーチゾン、プレドニソロン、コーチゾン、ジクロフェナックナトリウム、インドメタシン、6α-メチル-プレドニソロン、およびコルチコステロンは急速に放出される。本明細書に記載される化合物が、ステロイド性抗炎症剤をゆっくりと持続的に放出することが可能とされるならば、それによってその化合物は、外傷、または手術後の創傷治癒にとって極めて有用となる。
【0073】
いくつかの方法では、血管形成および血管網の発達に関連する分子または試薬の搬送が実現される。開示されるのは、微小血管形成を刺激するVEGFのような薬剤を搬送する方法である。さらに開示されるのは、血管形成および血管網の発達を抑制することが可能な薬剤を搬送するための方法である。この目的のために有用な薬剤および試薬としては、例えば、米国特許第6,174,861号、名称「エンドスタチンタンパクの生体内濃度を上昇させることによって血管形成を抑制する方法;第6,086,865号、「血管形成誘発性疾患の治療法、および治療用の製薬組成物」;第6,024,688号、「アンギオスタチン断片と用法」;第6,017,954号、「O-置換フマギロール誘導体による腫瘍の治療法」;第5,945,403号、「アンギオスタチン断片および使用法」;第5,892,069号、「抗有糸分裂剤としてのエストロゲン化合物」;第5,885,795号、「アンギオスタチンタンパクの発現法」;第5,861,372号、「凝集剤アンギオスタチンおよび使用法」;第5,854,221号、「血管内皮細胞増殖阻害剤および使用法」;第5,854,205号、「治療用血管形成組成物および方法」;第5,387,682号、「アンギオスタチン断片および使用法」;第5,792,845号、「アンギオスタチンタンパクをコードするヌクレオチドおよび使用法」;第5,733,876号、「血管形成の抑制法」;第5,698,586号、「血管形成阻害剤」;第5,661,143号、「抗有糸分裂阻害剤としてのエストロゲン化合物」;第5,639,725号、「アンギオスタチンタンパク」;第5,504,074号、「抗血管形成剤としてのエストロゲン化合物」;第5,290,807号、「o-置換フマギロール誘導体による血管形成の後退法」、および、第5,135,919号、「血管形成を抑制する方法および製薬組成物」に開示されるものがあるが、ただしこれらに限定されない。なお、血管形成阻害分子に関連する材料に関して参照することによって、これらの特許文書を本明細書に含める。
【0074】
一つの局面では、製薬学的に受容可能な化合物は、ピロカルピン、ヒドロコーチゾン、プレドニソロン、コーチゾン、ジクロフェナックナトリウム、インドメタシン、6α-メチル-プレドニソロン、コルチコステロン、デキサメタゾン、およびプレドニソロンである。一方、製薬学的に受容可能な化合物の搬送は、避妊薬の搬送、術後癒着の治療、皮膚増殖の促進、肉芽形成の防止、傷口の被覆、粘性手術の実行、粘度強化の実行、組織の人工的改変から成るグループから選ばれる医学的目的のためである方法も提供される。
【0075】
一つの局面では、本明細書に記載される抗癒着複合体および組成物は、対象者に対して生きている細胞を搬送するために用いられてもよい。この局面では、前述の生細胞の内から任意に選ばれるものを用いてよい。一つの局面では、生細胞は、治癒促進化合物の一部である。例えば、複合体が積層体である場合、生細胞は治癒促進層中に存在する。
【0076】
一つの局面では、抗癒着複合体および組成物は、成長因子、および成長因子に関連する分子を搬送するのに用いてもよい。この局面では、前述の成長因子の内から任意に選ばれるものが有用である。一つの局面では、成長因子は、治癒促進化合物の一部である。
【0077】
一つの局面では、本明細書に記載されるのは、対象者の手術創における二つの組織の癒着を、対象者の外傷を本明細書に記載される複合体または組成物の内から任意に選ばれるものに接触させることによって、緩和、または抑制する方法である。理論によって縛られることを望むものではないが、第1化合物は、二つの異なる組織(例えば、器官と皮膚組織)間の組織癒着を防止すると考えられている。ある種の術後外傷では、その後の合併症を回避するために組織同士の癒着を防止することが望ましい。第2層、および要すれば随意に第3層も組織の治癒を促進する。本明細書で前述した治癒促進化合物の内から任意に選ばれるものを第2または第3層として用いることが可能である。一つの局面では、第2および第3層は、化学的に修飾されたヘパリン、化学的に修飾されたヒアルロナン、または化学的に修飾されたグリコサミノグリカン、例えば、化学的に修飾されたコンドロイチン硫酸であってもよい。図4は、この方法の一局面2を示す。この局面において、第1層は、マイトマイシンC-化学的に修飾されたヒアルロナンから構成され、このものは、要すれば任意に成長因子を含む化学的に修飾されたコンドロイチン硫酸から成る第2および第3層によって挟まれる。この化学的に修飾されたコンドロイチン硫酸層は、皮膚および器官組織と接触する。この場合、マイトマイシンC-化学的に修飾されたヒアルロナン層は、皮膚と器官組織の間の癒着を阻止する。
【0078】
別の局面では、複合体が積層体の場合、この積層体は、抗癒着化合物/支持体から成る第1層、および治癒促進化合物から構成される第2層を含み、積層体は組織の周囲に被われる。例えば、積層体は腱の周囲に覆われて、その際、第1層は腱と接触し、第2層は周囲の筋組織と接触する。この局面では、積層体は、腱の周囲に円筒形の抗癒着層を当て、一方、腱の治癒は、円筒材料の内層によって促進される。
【0079】
本明細書に記載される複合体は、数多くの利点を提供する。例えば、複合体は、術後の癒着障壁を提供する。しかも、この障壁は、少なくとも実質的に再吸収可能であり、従って、後日外科的に取り出す必要はない。もう一つの利点は、この複合体は比較的使い方が簡単で、縫合部を保持するように処方することが可能であり、設置後所定の場所に維持することが可能なことである。
【0080】
別の局面で、本明細書に記載されるのは、外傷治癒の促進を必要とする対象者において、そのような治癒の促進を実現する方法である。この方法は、これを、本明細書に記載される複合体または製薬組成物を、外傷治癒の促進を必要とする対象者の外傷に接触させることによって実現する。さらに提供されるのは、製薬学的に受容可能な化合物の搬送を必要とする患者に対して、少なくとも一つの製薬学的に受容可能な化合物を搬送する方法である。この方法は、これを、本明細書に記載される抗癒着複合体または製薬組成物の内から任意に選ばれるものを、前記製薬学的に受容可能な化合物を受容することが可能な組織に接触させることによって実現する。
【0081】
開示の複合体および組成物を用いて、動物における広範な組織欠損、例えば、空洞を持つ組織、例えば、歯周ポケット、浅い、または深い皮膚外傷、手術切開創、骨または軟骨欠損等を治療することが可能である。例えば、本明細書に記載される複合体は、ヒドロゲルフィルムの形を取ってもよい。ヒドロゲルフィルムは、骨組織の欠損、例えば、腕または脚の骨の骨折部、歯の欠損、関節、耳、鼻、または喉等の軟骨欠損に適用することが可能である。本明細書に記載される複合体から構成されるヒドロゲルフィルムは、細胞が増殖することのできる表面、または通路を提供することによって、導かれる組織再生に対する障壁システムとしても働く。骨組織のような硬組織の再生を強化するために、ヒドロゲルフィルムは、基質が徐々に体液によって吸収され、侵食されるにつれて、その基質と置換する、新規の細胞成長に対する支えとなることが好ましい。
【0082】
本明細書に記載される抗癒着複合体は、細胞、組織、および/または器官に対して、例えば、注入、噴霧、噴射、刷毛塗り、塗布、被覆等によって搬送することが可能である。搬送はまた、カニューレ、カテーテル、針付き、または針無しの注射筒、加圧器、ポンプ等を通じて実行することが可能である。複合体は、種々の用途の中でも特に、組織に対してフィルムの形で適用し、例えば、組織の表面にフィルム包帯を供給する、および/または、組織を、別の組織に、またはヒドロゲルフィルムに接着することも可能である。
【0083】
一つの局面では、本明細書に記載される抗癒着複合体は注入によって投与される。多くの臨床用途において、複合体がヒドロゲルの形を取る場合、主に三つの理由によって注入可能なヒドロゲルが好まれる。第一に、注入可能なヒドロゲルは、傷害部位において任意の好みの形に変形することが可能である。初期のヒドロゲルは、ゾルまたは成形可能なパテであるから、システムは、複雑な形に配置し、それから架橋させて、必要な形と広がりに一致するようにさせることが可能である。第二に、ヒドロゲルは、ゲル形成時に組織に密着するために、表面の微小な凹凸によって生ずる機械的な相互の食い込みによって、組織-ヒドロゲル界面は強化される。第三に、生体内で架橋結合可能なヒドロゲルの導入は、注射針、または腹腔内視鏡法によって実行可能であるために、外科技法による侵襲を極小に留めることが可能となる。
【0084】
本明細書に記載される抗癒着複合体は歯周病を治療するのに用いることが可能である。すなわち、歯根を被う歯肉組織を除去して鞘またはポケットを形成し、組成物を、そのポケットに搬送して露出した歯根に接触させることが可能である。複合体はまた、歯肉組織に切創を入れて歯根を露出し、次に、その切創を通じて、設置、刷毛塗り、噴射、またはその他の手段によって材料を歯根表面に適用することによって、歯欠損部に対して搬送することが可能である。
【0085】
皮膚、またはその他の組織の欠損部を治療するために用いる場合には、本明細書に記載される抗癒着複合体は、その所望の区域の頂上に設置することが可能なヒドロゲルフィルムの形を取ってもよい。この局面では、ヒドロゲルフィルムは機械的成形が可能であり、組織欠損の輪郭に合致するように操作することが可能である。
【0086】
本明細書に記載される抗癒着複合体は、インプラント部位におけるインプラント器具と生体組織との適合性および/または性能または機能を向上させるために、インプラント装置、例えば、縫合、固定具、代行具、カテーテル、金属ネジ、骨プレート、ピン、ガーゼのような包帯等に被覆してもよい。複合体を用いて、インプラント装置をコートすることも可能である。例えば、複合体を用いて、インプラント装置のざらざらした表面をコートすることも可能である。この場合、ざらざらの辺縁を隣接組織に接触させることから生じる摩擦の発生を緩和する、生体適合的な滑らかな表面を提供することによって装置の生体適合性を向上させる。複合体はまた、インプラント装置の性能または機能を強化するために用いることも可能である。例えば、複合体がヒドロゲルの場合、このヒドロゲルフィルムを、ガーゼ包帯に対し、そのガーゼ包帯が適用される組織に対する適合性または接着性を強化するよう塗布することが可能である。ヒドロゲルフィルムはまた、切開創から体内に挿入される、カテーテルまたは人工肛門のような装置の周囲に設置して、カテーテル/人工肛門を所定の位置に確保し、および/または、装置と組織の間の空間を埋め、緊密な封印を形成して細菌感染および体液の消失を抑制するように配置することが可能である。
【0087】
開示の複合体および組成物は、組織再生を必要とする対象者に対して適用することが可能であることが分かる。例えば、移植のために、細胞を、本明細書に記載される複合体の中に組み込むことが可能である。本明細書に記載される複合体によって治療が可能な対象者の例としては、哺乳類、例えば、マウス、ラット、乳牛または畜牛、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ、および霊長類、例えば、猿人、チンパンジー、オランウータン、およびヒトが挙げられる。別の局面では、本明細書に記載される複合体および組成物は、トリに適用することも可能である。
【0088】
組織再生に関連する領域、例えば、外傷または火傷治癒に用いられる場合、開示の複合体、組成物、および方法は、一般的に認められた1種以上の関連療法の必要を取り除く。開示の複合体、組成物、および方法の受容者において、回復時間の長さにおいて何らかの減少が、あるいは、回復の質において向上が得られたならば、それは何らかの利益をもたらしたであろうことが理解される。さらに、開示の複合体、組成物、および方法の内のいくつかを用いて、外科手術のような外傷の結果生ずる傷口閉鎖のために起こる線維性癒着を防止または緩和することが可能であることが理解される。さらに、開示の複合体、組成物、および方法によって提供される副次的作用、例えば、細菌耐性の向上、または痛みの緩和等は望ましいことではあるが、必要なものではないことが理解される。
【0089】
開示の複合体、組成物、および方法の任意の特定の局面は、実施例中で論じられる非ポリサッカリド系試薬を含め、本明細書に開示される特定の実施例および実施態様と簡単に対比が可能であることが理解される。このような比較を行うことによって、各特定の実施態様の相対的効力を簡単に決定することが可能である。各種用途に関して特に好ましいアッセイは、本実施例に開示されるアッセイであり、これらのアッセイは、必ずしも限定的であることを意図するものではないが、本明細書に記載される複合体、組成物、および方法の内から任意に選ばれるものによって実行が可能である。
【実施例】
【0090】
下記の実施例は、従来技術において通常の錬度を持つ当業者に対して、本明細書に記載され、特許請求される化合物、組成物、および方法がどのようにして製造され、評価されるかに関して完全な開示と説明を提供するために記述されるものであって、純粋に例示的であることを意図するものであり、本発明者が本発明として見なすものの範囲を限定することを意図するものではない。数字(例えば、量、温度等)について正確性を確保するよう努力が為されたが、若干の誤差および偏倚については斟酌が為されなければならない。別様に指示しない限り、部は重量部であり、温度は℃で表したもので、雰囲気温度であり、圧は、大気圧または、ほぼ大気圧である。反応条件については数多くの変動および組み合わせがあり、例えば、成分濃度、所望の溶媒、溶媒混合物、温度、圧、および、産物の純度や、記載の過程において実現される収率を最適化するために使用が可能な、その他の反応範囲および条件がある。このような過程条件を最適化するために必要なのは、理にかなった通例の実験設定のみである。
【0091】
I. 材料
醗酵で得られたヒアルロナン(HA、ナトリウム塩、Mw=1.5 MDa)を、Clear Solutions Biotech., Inc. (Stony Brook、ニューヨーク州)から購入した。1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]カルボジイミド(EDCI)、トリエチラミン(TEA)、3,3'-ジチオビス(プロパン酸)、塩化アクリロイル、ヒドラジン水和物は、Aldrich Chemical Co. (ミルウォーキー、ウィスコンシン州)から購入した。ダルベッコのリン酸バッファー生食液(DPBS)およびヨウ化プロピジウム(PI)は、Sigma Chemical Co. (セントルイス、ミズーリ州)から入手した。ジチオスレイトール(DTT)は、Diagnostic Chemicals Limited (オックスフォード、コネチカット州)から入手した。5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)は、Acros (ヒューストン、テキサス州)から入手した。MMCは、ICN Biomedicals Inc. (オーロラ、オハイオ州)から入手した。PEGDA (Mw 3400 Da)は、Shearwater Polymers (Huntsville、アラバマ州)から入手した。フルオレセインジアセテート(F-DA)は、Molecular Probes (Eugene、オレゴン州)から入手した。1Hおよび13C NMRは、Varian INOVA 400を用い表示の溶媒中で、それぞれ、400 MHz と100 MHzで得た。UV-visスペクトラムデータは、Hewlett-Packard 8453 UV-可視光分光光度計(Palo Alto、カリフォルニア州)を用いて得た。チオール化HA(42%修飾、すなわち、100ジサッカリド単位当たり42チオール基、Mw 158 kDa、Mn 78 kDa、ポリ分散示数=2.03)は、記述の通りに(Shu, X.Z.; Liu, Y.; Roberts, M.C.; Prestwich, G.D. Biomacromolecules 2002, 3, 1304-1311)合成した。なお、この文書の全体を参照することにより本明細書に含める。
【0092】
II. ヒドロゲルの合成
a. MMC-アクリレートの合成
マイトマイシンC(2 mg)を、10 mlの乾燥させた塩化メチレンに溶解し、次に1.7 μl TEAおよび1 μlの蒸留した塩化アクロイルを加えた。この反応混合液を室温で4時間攪拌し、次に濃縮し、シリカカラム(塩化メチレン:メタノール=20:1)にて精製した。収穫は1.78 mgであった。1H NMR (400 MHz, MeOD-d3): δ6.31 (dd, J=2, J=10, 2'-H), 5.82 (dd, J=10, J=2.4, 1H, 3'-H), 5.48 (d, J=0.8, 1H, 3'-H), 4.81 (dd, MeOHによって暈される、1H, 10-H), 4.49 (d, J=13, 1H, 3-H), 3.93 (t, J=11, 1H, 3-H), 3.67 (d, J=4.4, 1H, 10-H), 3.64 (d, J=4.8, 1H, 9-H), 3.51 (d, J=12, 1H, 1-H), 3.48 (dd, J=1.2, J=4.8, 1H, 2-H), 3.24 (s, 3H, 9a-OCH3), 1.75 (s, 3H, 6-CH3)。13C NMR (400 MHz, MeOD-d3): δ177.7 (C-1'), 176.1 (C-5), 176.0 (C-8), 158.4(CONH2), 155.4 (C-4a), 149.7(C-7), 130.4 (C-2'), 129.4 (C-3'), 129.4 (C-3'), 109.9 (C-8a), 106.0 (C-9a), 103.8 (C-6), 61.5 (C-10), 53.6 (C-9), 49.0 (9a-OCH3), 48.9 (C-3), 42.3 (C-1), 40.9(C-2), 6.9 (6-CH3)。
【0093】
c. MMC-HAの調製
MMC-アクリレートとチオール基のモデル反応
【化8】
チオール化HAに対するMMC-アクリレートの接合体の反応時間は、モデル反応によって決定した。MMC-アクリロイルと反応するモデル試薬としてN-アセチルシステインメチルエステルを用いた。チオール基の濃度は、2-ニトロ-5-チオスルフォベンゾエート(NTSB)、またはEllman試薬を用いて測定した。反応は、PBSバッファー(pH 8.0)にて、MMC-アクリレートの濃度0.3 mg/mL、アクリレート2対チオール1の初期比にて行った。DPBSバッファー(pH 8.0)に溶解した、0.3 mg/mLのMMC-アクリルアミド溶液に対して、0.5当量のN-アセチルシステインメチルエステルを1チオール当たり2アクリルアミドの割合で添加した。残余のチオールの濃度は、NTSB、またはEllman試薬を用いて測定した。この接合体添加付加物をシリカクロマトグラフィー(塩化メチレン:メタノール=20:1)によって単離した。1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ4.75 (dd, MeOHによって暈される、1H, H-10), 4.50 (dd, J=4.8 Hz, J=7.6 Hz, 1H, H-6'), 4.36 (d, J=13 Hz, 1H, H-3), 3.90 (t, J=10.8 Hz, 1H, H-3), 3.63 (s, 3H, 7'-OCH3), 3.59 (d, J=4 Hz, 1H, H-10), 3.55 (d, J=4 Hz, 1H, H-9), 3.45 (d, J=4.4 Hz, 1H, H-1), 3.41 (d, J=2 Hz, 1H, H-2), 3.15 (s, 3H, 9a-OCH3), 2.6-3.1 (m, 6H, H-2', H-3', H-5'), 1.90 (s, 3H, 1''-CH3), 1.67 (s, 3H, 6-CH3)。13C NMR (400 MHz, CD3OD): δ182.7 (C-5), 177.7 (C-8), 176.0 (C-1'), 172.1(C-7'), 171.4 (C-1''), 158.4 (CONH2), 155.4 (C-4a), 149.7 (C-7), 109.8(C-8a), 105.9 (C-9a), 103.8 (C-6), 61.5 (C-10), 53.6 (C-9), 52.6 (C-6'), 51.7 (7'-OCH3), 48.9 (9a-OCH3), 48.9 (C-3), 42.4 (C-1), 39.9 (C-2), 36.6 (C-2'), 33.3 (C-5'), 27.0 (C-3'), 21.1 (1''-CH3), 6.9 (6-CH3), MS (ESI) m/z 566.2 M+1 (100)。
【0094】
HA-MMC接合体の調製
【化9】
チオール化HAを、1.25%(w/v)の濃度までPBSバッファーに溶解した。修飾されたMMCを、極少量のエタノールに溶解し、HA-DTPH液に加えた。ジッサカリドに対するMMCの理論的負荷は、それぞれ、0.5%、1%、および2%であった。工程はN2保護の下に実行し、混合液の最終pHを8.0に調整した。反応は攪拌しながら3時間進めた。
【0095】
c. HA-MMC-PEGヒドロゲルフィルムの調製
【化10】
【0096】
工程1
結合反応後、HA-MMC液をpH7.4に調整した。PEGジアクリレートを、4.5%(w/v)濃度までPBSバッファーに溶解した。この二つの溶液を混合し、1分間渦流攪拌した。この反応混合物を、Eppendorf Combitipsによって取り出し、2 cm x 2 cm皿に、2 mL/皿の割合で加えた。約30分でヒドロゲルが形成され、数日間空気中で蒸発乾燥して、フィルムを形成した。
【0097】
工程2
チオール化HAのpKa値は、8.87であると定量された。このチオール化HAを、1.25%(w/v)の濃度までDPBSバッファーに溶解し、pHを8.0に調整した。MMC-アクリルアミドを極少量のエタノールに溶解し、攪拌されるチオール化HA液に滴下した。HAジサッカリド単位に対するMMCの理論的負荷は0.5%と2%であった。全ての工程は、ジスルフィド形成を抑えるために窒素雰囲気下に実行し、各反応は、攪拌しながら3時間進めた。結合反応後、HA-DTPH-MMC液のpHを、1N HClを加えることによってpH7.4に調整した。PEGDAをDPBSバッファーに溶解し、4.5%(w/v)濃度の保存液を得た。1容量のPEGDA保存液を、4容量のHA-DTPH-MMC液に加え、混合液を、1分間攪拌し、渦流攪拌した。HA-DTPH-MMC-PEGDA反応混合液の分液(2.0 mL)を、プラスチック製Eppendorf Combitipsにて取り出し、2 cm x 2 cm皿に加えた。このヒドロゲルは10分でゲル化を始め、ゲル化は30分までに事実上完了した。次に、プレートをフードに移し、空気中でさらに架橋結合させた。3日後、弾力性のあるヒドロゲルフィルム(0.10 mm厚)が形成された。
【0098】
III. インビトロ放出実験
MMC放出実験
乾燥したヒドロゲルフィルムを、2 cmの正方形に切断した。この正方形ゲルフィルムと切り落とした辺縁を別々に秤量し、各正方形フィルムに含まれるMMCを計算した。各フィルムを、5 mLの100 mM PBSバッファーに浸し、37oCで穏やかに振とうした。各時点で、0.5 mL液を取り出し、0.5 mLの新鮮なPBSを加えた。放出されたMMCを含む溶液を、波長358 nmで検出した。放出されたMMCの累積濃度を時間の関数としてプロットした。
【0099】
図5a-5cは、インビトロにおけるMMC放出実験の結果を示す。図5aは、放出の絶対濃度を示す。放出されるMMCは、ヒドロゲルに含まれるMMCに比例する。データを再プロットして得られる相対的放出パターンを図5bに示す。1%および2%MMC負荷を有するHAフィルムは、類似の放出プロフィールを持つ。最初の30分時で、約13%のMMCがヒドロゲルから放出された。これは、二つの供給源に由来するものと考えられる。すなわち、一つは未結合のMMCであり、他の一つは加水分解されたMMCである。次に、約48時間の半減期を持つ緩徐な放出パターンが観察された。MMCの放出は、プラトーに達するまで5日間続いた。8日後も相当量のMMCがフィルムに残存した。0.5%MMCの放出プロフィールを図5cに示す。この図では、放出されるMMCの量は、ヒドロゲルにおける最初のMMC量に比例した。
【0100】
IV. インビトロ細胞傷害性
細胞増殖と細胞形態を別々の実験で調べた。先ず、T31ヒト気管肉芽線維芽細胞を、12-ウェル細胞培養挿入体(Fisher, Marshalltown、アイオワ州)に撒き、24時間培養し、次に、あらかじめHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムでコートした(ウェル当たり1 mLのゲル)12-ウェル細胞培養プレートに移した。次に、イーグル培地のダルベッコ改訂版および、10%ウシ新生児血清(NBCS)を含む栄養混合液F-12(D-MEM/F-12)(GIBCO, Rockville、メリーランド州)の1:1混合液2.5 mLを各ウェルに加えた。挿入体の側面の底部のごく近くに16ゲージ針にて2 mm直径の穴4個を開けた。これは、挿入体同士の間で、また、プレートのウェル同士の間で、培養液が簡単に交換されるようにするためである。0、1、3および5日目に、各グループの挿入6体を新しい12-ウェルプレートに移し、15%(v/v)のCellTiter 96増殖キット液(MTS assay, Promega, マジソン、ウィスコンシン州)、および5%のNBCSを含むDMEM/F-12培養液1 mLを各挿入体に加えた。プレートを、振とう器の上で5% CO2の下37oCで2時間インキュベートした。次に、この培養液の分液(150 μL)を、96-ウェルプレートに移し、550 nmでOPTI Maxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で読み取った。読み取った吸収値を、既知数の細胞に関する定量から作成した標準曲線に基づいて細胞数に変換した。
【0101】
細胞形態における変化を監視するために、T31線維芽細胞(30,000細胞)を、2ウェルチェンバースライド(Fisher)の各チェンバーに撒き、24時間培養した。T75細胞培養フラスコ(Fischer)のキャップで造ったプラスチック製足場を各チェンバーに添え、次に、各足場の頂上にHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム(5 x 5 mm)を加えた。次に、10%NBCSを含む、D-MEM/F-12培養液2.5 mLを各チェンバーに加えた。培養3日後、フィルムと足場を取り出し、細胞を、F-DAおよびPIによる二重染色後、共焦点レーザースキャニング顕微鏡(LSM510, Carl Zeiss Microimaging, Inc., Thornwood, ニューヨーク州)にて観察した。0、1、3、および5日目に、生細胞の量をMTS(CellTiter Proliferation)アッセイにて確定した。細胞形態も、細胞をフィルムに直接接触させずにチェンバースライド上で培養して調べた。3日目、細胞を、共焦点レーザースキャニング顕微鏡で、F-DAおよびPIで二重染色して観察した。
【0102】
図9に示すように、HA-DTPH-PEGDAフィルム(すなわち、0%MMC)の存在下に培養した細胞は、フィルム無しコントロールフィルムと同じぐらい急速に増殖した。それと対照的に、0.5%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEDGAフィルムの存在下では細胞増殖は有意に低下した。2.0%MMC濃度では、細胞増殖は中絶され、細胞は死に始めた。従って、MMCを欠くHA-DTPH-PEDGAフィルムは細胞傷害性を持たず、抗増殖作用は、全く、フィルムから放出されるMMCによるものであった。
【0103】
細胞の形態および密度を図10に示す。この図では、生存細胞を緑に染め、死亡細胞を赤で染めた((a)コントロール、フィルム無し;(b)MMCを欠くHA-DTPH-PEGDAフィルム;(c)0.5%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム;および、(d)2.0%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム、スケールバー:10 μm)。結果は、MTSアッセイで得られたものと一致した。HA-DTPH-PEGDAフィルムの存在下(図10b)における細胞密度は、フィルム無しコントロールグループ(図10a)と近似していた。細胞増殖は、0.5%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムの存在下(図10c)では部分的に抑制された。細胞が2%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムの存在下(図10d)に間接的に暴露されると、さらに多くの数の死亡細胞が認められた。
【0104】
要約すると、このインビトロ細胞傷害性実験から、MMCがフィルムから放出されること、および、その放出されたMMCは、その抗増殖活性を維持していることが明らかにされた。作用の大きさは、HA-DTPH-PEGDAフィルムにおけるMMC濃度に依存した。
【0105】
実施例1
V. インビボ生体適合性
MMC-HA-DTPH-PEDGAの活性の例を図6に示す。4種類の治療のそれぞれに8匹のラットを用い、ラットの子宮角の癒着を、HAゲルのみ、0.5%MMCゲル、および2.0%MMCゲルの各場合について評価した。癒着の重度を、0から4までのスケールにてランク付けした(Hooker, G.D., Taylor, B.M., and Driman, D.K. (1999)「ラットモデルにおける、ポリプロピレンメッシュによる腹部ヘルニア整復においてナトリウムヒアルロン酸製生体吸収性膜使用による癒着形成の防止−コントロール設定ランダム化試験」、Prevention of adhesion formation with use of sodium hyaluronate-based bioresorbable membrane in a rat model of ventral hernia repair with polypropylene mesh-A randomized, controlled study. Surgery 125, 211-216)。等級0=癒着無し、等級1=フィルム状、極小の線維性線条を伴う透明な癒着、等級2=連続的線維性癒着、等級4=濃密な癒着。データから、HAヒドロゲル治療、対、手術コントロールのみ、および、2.0%MMC-HA、対、HAヒドロゲルのみについては統計的有意(p<0.05)であることが示された。
【0106】
実施例2
さらに、ウサギ空洞口モデルによる予備実験から、n=8のウサギにおいて、空洞口における生体内架橋結合によって使用されたHA-MMC2.0%ゲルは、実験では平均2.9 mmで、コントロールでは平均0.3 mmで5 mmの空洞口を維持した。実験とコントロールの差は、両側性対合T検定P=0.00080のレベルによって統計的に有意であった。
【0107】
実施例3
それぞれ体重250-300 gの、性的に成熟した、非妊娠雌性ウィスターラット(Charles River)を、ユタ大学動物管理・実験施設委員会によって承認されたプロトコールに従って、イソフルラン(2.5%)の吸引によって麻酔した。麻酔後、下腹部を剃毛し、アルコールとベタジンで清拭し、下腹部に正中切開を行い、2本の子宮角を露出した。3 x 10 mmの面積を被う、子宮内側壁筋層の一部を切開することによって、接触する漿膜表面に対して手術創を形成した。この外傷は、子宮角の根元から5 mmであった。9/0ナイロンによる単一縫合を、外傷部の遠位端から3 mmの所に設置し、反対側子宮角の内側面の隣接外傷部との直接接触を確保した。
【0108】
実験動物では、架橋結合HAフィルム、または、生体内架橋結合HAゲルを、この二つの傷害子宮角の間に設置した。腹膜を、一列の連続走行縫合にて閉鎖し、皮膚を断続縫合によって接近させた。術後14日目、動物をCO2吸引にて屠殺し、子宮角癒着の程度を、癒着(最大10 mm)を伴う子宮角の長さを測定することによって評価した。各グループにおける平均とばらつきを、各動物における平均癒着度から計算した。癒着が形成された子宮角の範囲(cm)を一次結果測定値として用いた。子宮角と、腹腔内脂肪および小腸との間の癒着の存在も、二進(有るか、無いか)パラメータとして記録した。巨視的な評価の後、サンプルは、Massonの三色染色のために調製した。
【0109】
癒着の程度を評価するために、スチューデントのt-検定を用いた。癒着部位は、グループ間で、フィッシャーの厳密検定を用いて比較し、p値<0.05を有意と判断した。統計的分析は全てStatView(5.0.1バージョン、SAS Institute Inc., Cary, ノースカロライナ州)によって行った。
【0110】
MMC-負荷架橋結合HAフィルムの適用
実験グループ当たり8匹のラットは、それぞれ、子宮角に標準的な両側性手術創を施された。HAフィルムは、5 x 12 mmの長方形に裁断され、二つの子宮角の間、その外傷部位において、傷害表面を完全に被うように挿入された。外科的閉鎖後のフィルムの変位を防止するために単一縫合を設けた。実験グループは、MMC欠如HA-DTPH-PEGDAフィルム、および、チオール基に基づいて0.5%または2.0%のMMCを負荷させたHA-DTPH-PEGDAフィルムを含んでいた。手術創を与えられたものの治療をされなかった動物は、非治療コントロールグループとした。
【0111】
生体内架橋結合MMC-負荷HAヒドロゲルの注入
実験条件当たり8匹のラットは、それぞれ、2本の子宮角に標準的な手術創を施され、次に下記のように治療された。先ず、あらかじめ任意の粘度にゲル化されたHA-DTPH-PEGDA(MMC付き、またはMMC無し)の1 mlを、傷害された子宮角の表面にピペットで塗布した。次に、同じ粘液のさらに4 mlを、子宮傷害の直近の切開口から腹腔に注入した。実験グループは、MMCを含まないHA-DTPH-PEGDA体内ゲル、または、HA-DTPH-PEGDAゲルでさらに、1.25%、0.625%、または0.31%のMMC負荷のいずれかを有するものを含んでいた。コントロール動物にはDPBSを注入した。
【0112】
MMC-負荷HAフィルムの効力
各種MMC負荷を含むHAフィルムの抗癒着性を評価するために(表1)、ラット子宮角モデルを用いた。実験およびコントロール動物は全て外科処置を生き延び、実験から排除されたものは無かった。子宮角癒着の程度は、癒着を示した子宮角の長さ(最大10 mm)を測定することによって評価した。各グループにおける平均とばらつきを、各動物における平均癒着度から計算した。子宮角と、腹腔内脂肪および小腸との間の癒着の存在も、有る/無いの反応として記録した。巨視的な評価の後、サンプルは、Massonの三色染色のために調製した。
【0113】
【表1】
【0114】
子宮角癒着の程度を表2に、周囲組織に対する癒着事例を表3に示す。グループ間の統計的比較を表4にまとめた。先ず、障壁ヒドロゲルまたはフィルムによって処置した動物は全て、未処置のコントロール動物に対して、相対的に有意に低い癒着度を示した。第2に、フィルム挿入および体内注入法のいずれにおいてもその反応は、MMC負荷に依存していた。2%MMC負荷を持つHAフィルムは、子宮角癒着の程度がもっとも低かった(1.3±0.2 mm)。0.5%MMCを持つHAフィルムでは、子宮角癒着の程度は中間であり(3.5±0.4 mm)、一方、MMCを欠如するHAフィルムは、確かな癒着を示した(7.3±0.3 mm)。重要なことは、様々なMMC負荷を持つHAフィルムが、子宮角と、腹腔内脂肪または小腸との間の癒着発生率を有意に下げなかったということである〈表3、表4〉。これらのグループのいずれの動物においても、子宮角および周辺組織において副作用は観察されなかった。
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
子宮角外傷部位の組織学は、上記巨視的評価と一致した。治療子宮角は、未処置コントロールと識別が可能であった(データは示さず)。MMCを欠くHAフィルムの作用は局所的で不完全であり、二つの子宮角の間には部分的な線維性組織およびゆるい結合組織の侵入が認められた。0.5%MMC HAフィルムまたは2.0%MMC HAフィルムの適用は、二つの傷害子宮角の間の線維性組織を抑制した。これは、HAフィルムから放出された遊離MMCによるものと考えられる。MMC負荷が無い場合、HAフィルムは、癒着形成を抑えるための障壁として働くことができるだけである。MMC-負荷HAフィルムでは、MMC用量依存性結果が得られたが、副作用は観察されなかった。にも拘わらず、臨床場面では、十分な効果を持つものの内最低のMMC負荷を用いることが望ましいと考えられる。
【0119】
MMC-負荷体内架橋結合性HAゲルの効力
滅菌した1.25%HA-DTPHとHA-MMC溶液(1.25%MMC負荷を含む)を、PEGDAを添加することによって、理論的に50%程度に架橋結合させた。低い方の濃度の、MMC含有ゲル成分を得るために、HA-DTPH-MMC液を、1または3倍容量のDPBSにて希釈し、次にPEGDA液と混合して、理論的に50%程度の架橋結合を実現した。これらの組成物を表1にまとめた。次に、各粘性液1 mlを、傷害された子宮角の表面に置いた(そしてゲル化させた)。あらかじめゲル化した溶液のさらに4 mlを、腹腔を閉鎖する前に、傷害された子宮角を取り囲む腹腔に注入した。術後14日目、動物をCO2の吸引により安楽死させ、子宮角癒着の程度、および、周囲組織との間に形成される癒着の発生率を評価した。
【0120】
ゲル注入プロトコールにおける子宮角癒着の程度、および癒着面積を、それぞれ、表1および表2に示す。比較の結果は表3にまとめた。未希釈の1.25%MMC HAゲルの注入は、0.625%MMC HAゲル(1.5±0.3 mm)同様、極めて小さい癒着(1.4±0.3 mm)を示た。逆に、粘性ではあるが、十分にゲル化されていない0.31%HA「ゲル」は、癒着抑制における効果は低かった(7.3±0.6 mm)。この結果は、MMCを欠如するHAゲルのもの(7.6±0.4 mm)と類似する。にも拘らず、DPBS処置子宮角(9.6±0.3 mm)と比べると、これらのゲルにおいて有意に低い癒着度が観察された。癒着面積のデータも、癒着度結果と一致した。
【0121】
巨視的試験を図7に示す。DPBS処置動物(図7A)では、二つの子宮角の間に形成される強固な癒着の他に、子宮角と腹腔内脂肪の間に重度の癒着を観察することができる。子宮角と腹腔内脂肪の間の癒着形成は、子宮角表層切開過程における術後出血のため、すなわち、外科的介入による子宮角表面および腹腔内脂肪に生じた軽い傷、および、長時間の空気暴露のためと考えられた。1.25%MMC HAゲルで処置した動物(図7B)、0.625%MMC HAゲルで処置した動物(図7C)、0.31%MMC HAゲルで処置した動物(図7D)では、子宮角と、腹腔内脂肪との間には外見上癒着は見られなかった。1.25%MMC HAゲルおよび0.625%MMC HAゲルの効力は特に注目に値する。なぜなら、これらの処置では物理的障壁は実際には何も挿入されていなかったからである。二つの子宮角を架橋するまだ解けていないゲル、および重度の腹腔内脂肪萎縮が、1.25%MMC HAゲル処置動物(図7B)に観察された。図7Dは、最低のMMC負荷ゲルでは、二つの子宮角は、固い豊富な癒着を持つことを示す。
【0122】
子宮角傷害部位の組織学を分析したところ、前記巨視的試験の結果と一致することが判明した。未処置動物では、二つの子宮角の間で、また腹腔内脂肪の内部で癒着が認められた(図8A)。1.25%MMC HAゲル処置動物(図8B)においても二つの子宮角の間に、僅かな癒着と、若干の残存HAゲルが観察された。子宮角同士は、0.625% MMC HA処置動物ではきちんと分離されていたが、0.31% MMC HAゲル処置動物(図8Cおよび8D)ではしっかり癒着していた。
【0123】
MMC-負荷HAヒドロゲルの効力は、使用されるHA-DPTHの全体濃度と高い相関を持っていた。先ず、HA-MMC溶液の最高濃度(1.25%、未希釈)では、ゲル化時間は短いが(<10分)、分散や変性のしにくいゲルが得られた。第2に、1:1希釈後、0.625% MMC HAゲルははるかにゆっくりと形成された(45分)。薄層のゲルは、傷害された子宮角の表面、および腹腔に均等に分散し、子宮角および周辺の組織および器官の上に均等なヒドロゲル膜を形成した。次に、この膜は、体内で形成された障壁として働き、癒着の形成を抑えた。さらに、遊離MMCがヒドロゲル膜から放出され、線維芽細胞の増殖を抑制した。最後に、1:4希釈(0.31% MMC)では、>2時間ではゲルは形成されなかった。この0.31% MMC粘性ゾルの作用は、腹腔にMMC液のみを投与した場合に観察される作用と近似していた。この場合、MMCは放出され、急速に排除されるので、利用される低濃度のMMCでは、線維芽細胞の増殖性反応を防止するには不十分であった。0.625 mg/mlのHA-DTPHと組み合わせられた0.625%MMCという中間濃度は注入策にとっては最適のようであった。
【0124】
要約すると、二つのMMC-負荷HAフィルム、およびHAゲルは、術後の腹腔内癒着の形成を抑える点で効果的であった。MMC-負荷HAフィルムでは用量依存性結果が得られた。MMC-負荷HAゲルの効力は、ヒドロゲルを調製する際のHA-DTPH-MMC液の濃度と高い相関を持っていた。0.625%MMC HAゲルは、術後の癒着形成を抑えるのに十分効果的であることが判明した。MMC-負荷HAフィルムと比べると、MMC-負荷体内架橋結合形成可能なHAゲルは確かな利点を提供する。すなわち、この、僅かに10-45分後にゲル化する粘性液は、内視鏡を通じて局所に搬送することが可能で、かつ、組織および器官にたいして重度の、または軽微な傷害を与える極めて特異的な部位において癒着形成を阻止するために使用が可能である。
【0125】
実施例4
動物モデルは、64匹の雌性ウィスターラット(200-250 g、Charles River, Raleigh、ノースカロライナ州)から構成されていた。これらを麻酔し、右下腹壁における1.5cm長の切開創を通じて腹腔内視鏡術を実施した。この処置は、ユタ大学動物管理・実験施設委員会の監督下に、国立衛生研究所指針(NIH公報、#85-23改定、1985)の基準に従って行われた。各種MMC負荷(0%、0.5%、および2.0%)を持つHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム(20.21±0.05mg)を右下腹壁に挿入した(1負荷当たり16匹のラット)。さらに16匹の動物に擬似手術を施し、コントロールとした。挿入3日および7日後、各グループ8匹のラットに5 mm長の正中切開による腹部切開を行った。腹腔に、冷凍DPBS液10 mLを注入し、次に腹部を優しく3-5分マッサージした。次に、先のDPBS液を、先端側面に三つの小孔のある3-mmシリコンゴム管にて吸引した。前述の処置を2回繰り返し、各動物においてこの3回の吸引物をプールし白血球分類カウントに用いた。最後に、ラットをCO2チェンバーで安楽死させ、周辺組織を付着させたフィルムを切り出し、組織学的検査を行った。
【0126】
白血球分類分類カウント
腹水の白血球分類カウントを、細胞遠心器(Centra CL2, IEC, サンアントニオ、テキサス州)による分液から調製したスライドについて行った。スライドを空気乾燥し、ライトギムザ染色で染色した(Fisher)。腹水白血球数は、標準的臨床血球計数器で細胞を数えることによって定量した。
【0127】
組織学
周辺組織を付着させたフィルムを切り出して、10%フォルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、表面から三つの異なる距離においてミクロトームにて2-3 μm厚に薄切し、過ヨウ素酸シフ反応(PAS)試薬で染色した。フィルムを囲む線維組織の厚さをImage-Pro Plus 4.0 (Symantec, Corporation, Cupertino、カリフォルニア州)にて測定した。各サンプルについて3枚の切片、および各切片について16ポイントを測定した。
【0128】
統計分析
統計的有意な差を定めるために、変動分析(ANOVA)をStatViewソフトウェア(SAS Institute Inc., Cary、ノースカロライナ州)を用いて実行した。p<0.05の値を、有意に異なると判断した。
【0129】
HA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムの生体適合性を調べるために、様々のMMC負荷を持つHAフィルムをインビボで実験した。実験は、フィルムを、ラットの腹腔に挿入し、移植後3および7日目の腹水における細胞集団を評価することによって行った。腹水に存在する細胞は全て形態的に白血球と特定され、3日目における分類カウントを図11に示す(図11の凡例:PMN=多形核細胞;Lymph=リンパ球;Mono=単核球は、単球とマクロファージの両方を含む;Eos=好酸球;およびBaso=好塩基球)。0.5%MMCを含むフィルムは、MMCを含まないフィルムに比べてより高いPMNを示したが(p<0.001)、一方、2%MMCを含むフィルムのPMNは、0.5%MMC(p<0.001)と非MMCフィルム(p<0.05)の両方よりも低かった。PMNのみが、非フィルムコントロールに対して、僅かではあるが有意な差を示した。腹水におけるもっとも目立った変化は、多形核(PMN)白血球において観察された。他には、リンパ球または単核球においては、実験グループのいずれにおいても有意な変化は観察されなかった。MMC無添加HA-DTPH-PEGDAフィルム、および、0.5%および2.0%MMC負荷HA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムは、非フィルムコントロールに比べて、PMNにおいて僅かな増加を誘発した。これは恐らくフィルムの変性によるものと思われる。分解速度は極めてゆっくりしているけれども、分解断片によって誘発される白血球反応の方が、放出されたMMCによる作用に対して優勢であるようである。にも拘わらず、2.0%MMC負荷のフィルムから放出されるMMCは、MMCを持たないHA-DTPH-PEGDAフィルム(14%)、および0.5%MMCを持つHA-DTPH-MMC-PEDGA(15%)と比べると、PMNの平均数を有意に低下させた(11%)。これは、比較的高濃度のMMCの細胞傷害性によるものと考えられる。7日までには、全てのフィルム挿入グループのPMN数は、フィルムを挿入しなかったコントロールの結果に対して有意差を示さなくなっていた(データ示さず)。
【0130】
7日目に、フィルムと周辺組織とを切り出して組織学的検査を行った。いずれのグループにおいても明白な炎症反応は観察されなかった(図12:(a)2%MMCを含むHA-DTPH-MMC-PEGDAフィルム;(b)0.5%MMC負荷のHA-DTPH-MMC-PEDGAフィルム;および、(c)HA-DTPH-PEGDA単独(MMC無し)、スケールバー:500 μm)。双頭矢印は、測定された線維組織の長さを示す。アスタリスクは統計的に大きな相違点を表示している。(p<0.05)(pImage-Pro Plus4.0ソフトウェアを用いたところ、フィルムを囲む線維組織の厚さには有意な差が観察された。予期したように、2%MMC負荷のフィルムでは、線維組織の形成は比較的薄く(図12aおよび表5)、一方、0.5%MMCを含むフィルムでは繊維組織形成は比較的厚かった(図12bおよび表5)。MMCを含まないフィルムは、もっとも厚い繊維組織を示した(図12cおよび表5)。これらの結果から、インビトロの培養データから予期されるように、HA-DTPH-MMC-PEDGAフィルムは、用量依存的に線維芽細胞の増殖を抑制することが明らかとなった。以上まとめると、これらのデータは、MMCを含まないHA-DTPH-PEGDAフィルム、または2種類のMMC負荷のHA-DTPH-PEGDAフィルムの両方とも良好な生体適合性を有すること、しかし、0.5%MMCを含むHA-DTPH-PEGDAが、術後癒着の防止のために使用するのに最適であるらしいことが確かとなった。
【0131】
【表5】
【0132】
本出願を通じて様々の出版物が参照された。これら出版物の開示は、それによって、本出願に記載される化合物、組成物、および方法をさらに十分に理解されるように、その全体を参照することにより本出願に含めることとする。
【0133】
本出願に記載される化合物、組成物、および方法に対しては、様々な改変および変更を実行することが可能である。本出願に記載される化合物、組成物、および方法に関する他の局面は、本出願に記載される化合物、組成物、および方法に関する明細および実施例の考察から明白であろう。意図するところは、本明細および実施例は例示と見なされるべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1は、HA-チオール化誘導体を生産する反応スキームを示す。
【図2】図2は、HA-DTPH-MMCの合成を示す。
【図3】図3は、HA-DTPH-PEGDA-MMCの合成を示す。
【図4】図4は、本明細書に記載される積層体を示す。
【図5】図5は、インビトロMMC放出の結果を示す。
【図6】図6は、架橋結合された、MMC含有HA-DTPH-PEGDAによる癒着の防止を示す。
【図7】図7は、ラット子宮角癒着の巨視的検査を示す(パネルA:バッファー処置;パネルB:ゲル(1.25%);パネルC:ゲル(0.625%);パネルD:ゲル(0.31%))。
【図8】図8は、ラット子宮角癒着の組織学的検査を示す(パネルA:バッファー処置;パネルB:ゲル(1.25%);パネルC:ゲル(0.625%);パネルD:ゲル(0.31%))。
【図9】図9は、フィルム無しコントロールと最大5日まで比較した場合の、各種濃度のMMCを含むHA-DTPH-PEGDAフィルムの存在下に培養されたT31ヒト気管肉芽線維芽細胞のインビトロ細胞増殖を示す。
【図10】図10は、各種濃度のMMCを含むHA-DTPH-PEGDAフィルムの存在下に培養されたT31ヒト気管肉芽線維芽細胞のインビトロ培養を示す。この培養では、細胞をF-DA(緑色、生存細胞)およびヨウ化プロピジウム(PI)(赤色、死亡細胞)で二重染色した。
【図11】図11は、HA-DTPH-MMC-PEGDAフィルムの存在下における腹水の白血球分類カウントを示す。
【図12】図12は、HA-DTPH-MMC-PEGDAの埋め込み後7日目におけるHA-DTPH-MMC-PEGDAにおける腹腔組織をPAS染色で視像化した場合の組織学的所見を示す。
【図13】表1である。
【図14】表2である。
【図15】表3である。
【図16】表4である。
【図17】表5である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)第1化合物であって、第1抗癒着支持体に共有的に結合される、第1抗癒着化合物を含む第1化合物、および、(2)第1治癒促進性化合物を含む複合体。
【請求項2】
第1抗癒着化合物は、抗ガン剤、抗増殖剤、PKC阻害剤、ERKまたはMAPK阻害剤、cdc阻害剤、抗有糸分裂剤、DNA介在因子、DNAの共有的修飾因子、抗炎症化合物、またはPI3キナーゼの阻害剤を含む、請求項1の複合体。
【請求項3】
第1抗癒着化合物はマイトマイシンCを含む、請求項1の複合体。
【請求項4】
第1抗癒着支持体はポリ陰イオン性ポリサッカリドを含む、請求項1の複合体。
【請求項5】
第1抗癒着支持体はヒアルロナンを含む、請求項1の複合体。
【請求項6】
第1化合物は、少なくとも1個のSH基を持つ第1抗癒着支持体を、少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、少なくとも1個の第1抗癒着化合物と反応させることによって生成される、請求項1の複合体。
【請求項7】
第1抗癒着支持体は、
【化1】
式中、
Yは、第1抗癒着支持体の残基を含み、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基を含む、
式IIIを有する、請求項1の複合体。
【請求項8】
Yが、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体を含む、請求項7の複合体。
【請求項9】
Lが、CH2CH2、またはCH2CH2CH2を含む、請求項8の複合体。
【請求項10】
第1抗癒着化合物はマイトマイシンCを含む、請求項1の複合体。
【請求項11】
第1抗癒着化合物のチオール反応性求電子基は、電子欠乏ビニル基である、請求項6の複合体。
【請求項12】
電子欠乏ビニル基は、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド、またはメタクリルアミドである、請求項11の複合体。
【請求項13】
第1抗癒着化合物は、少なくとも1個のアクリレート基を有するマイトマイシンCを含む、請求項6の複合体。
【請求項14】
第1化合物は、
【化2】
式中、
Yは、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体の残基を含み、かつ、
Lは、CH2CH2、またはCH2CH2CH2を含む、
式IIIを有する第1抗癒着支持体と、少なくとも1個のアクリレート基を有するマイトマイシンCを含む第1抗癒着化合物との間の反応産物を含む、請求項1の複合体。
【請求項15】
第1抗癒着化合物と、第1抗癒着支持体とを架橋リンカーによって反応させることをさらに含む請求項6の複合体。
【請求項16】
架橋リンカーが、
【化3】
式中、
R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルを含み、
UおよびVは、それぞれ独立に、OまたはNR5を含み、ここにR5は水素または低級アルキルを含み、かつ、
Mは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基を含む
式Vを含む、請求項15の複合体。
【請求項17】
式Vを有する化合物がポリエチレングリコールジアクリレートを含む、請求項15の複合体。
【請求項18】
第1化合物は、少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、第1抗癒着支持体を、少なくとも1個のSH基を持つ少なくとも1個の第1抗癒着化合物と反応させることによって生成される、請求項1の複合体。
【請求項19】
複合体はさらに、第1抗癒着化合物に共有的に結合されない第2抗癒着化合物をさらに含み、第1抗癒着化合物と第2抗癒着化合物とは同じであるか、または異なっている、請求項1の複合体。
【請求項20】
治癒促進化合物は、タンパク、合成ポリマー、またはポリサッカリドを含む、請求項1の複合体。
【請求項21】
第1治癒促進化合物はポリサッカリドを含む、請求項1の複合体。
【請求項22】
ポリサッカリドはグリコサミノグリカンである、請求項21の複合体。
【請求項23】
ポリサッカリドは、コンドロイチン硫酸、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、アルギン酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、またはヒアルロナンを含む、請求項21の複合体。
【請求項24】
複合体は、第2治癒促進化合物をさらに含み、第2治癒促進化合物は、第1治癒促進化合物とは異なる、請求項1の複合体。
【請求項25】
第2治癒促進化合物は成長因子である、請求項24の複合体。
【請求項26】
成長因子は、神経成長促進物質、神経成長因子、硬または軟組織成長促進因子、ヒト成長ホルモン、コロニー刺激因子、骨形成因子、血小板由来増殖因子、インスリン由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子−アルファ、トランスフォーミング増殖因子−ベータ、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、または乾燥骨物質を含む、請求項25の複合体。
【請求項27】
第1化合物は、それ自体および/または治癒促進化合物と架橋結合される、請求項1の複合体。
【請求項28】
製薬学的に受容可能な化合物と請求項1-27の複合体とを含む製薬組成物。
【請求項29】
(1)第1化合物であって、第1抗癒着支持体に共有的に結合される、第1抗癒着化合物を含む第1化合物、および、(2)第1治癒促進性化合物を含むキット。
【請求項30】
請求項1-27の複合体を含む物品。
【請求項31】
物品は、ゲル、ビーズ、スポンジ、フィルム、メッシュ、またはマトリックスを含む、請求項31の物品。
【請求項32】
複合体は積層体である、請求項31の物品。
【請求項33】
積層体は、第1層と第2層を含み、ここに、(1)第1層は、第1抗癒着支持体に共有的に結合される第1抗癒着化合物を含む第1化合物を含み、第1層は第1表面と第2表面とを有し、かつ、(2)第2層は、第1治癒促進化合物を含み、第2層は第1表面と第2表面とを有し、第1層の第1表面は、第2層の第1表面に接する、請求項32の物品。
【請求項34】
積層体は、第3治癒促進化合物を含む第3層をさらに含み、第3層は第1表面と第2表面とを有し、第3層の第1表面は、第1層の第2表面に接する、請求項33の複合体。
【請求項35】
対象者の外科創傷における二つの組織の癒着を緩和または抑制する方法であって、対象者の外傷に請求項1-28の複合体または組成物を接触させることを含む。
【請求項36】
外科創傷は、心臓外科、関節外科、腹部外科、胸部外科、泌尿生殖領域の外科、神経外科、腱の外科、腹腔内視鏡手術、骨盤手術、ガン手術、頭蓋洞および頭蓋顔面手術、ENT手術、眼科手術、または脊髄硬膜修復に関わる処置によって生成されたものである、請求項35の方法。
【請求項37】
複合体または組成物は、外傷に接触させる前にあらかじめ形成される、請求項35の方法。
【請求項38】
複合体または組成物は、外傷に接触後、生体内(in situ)で形成される、請求項35の方法。
【請求項39】
複合体は積層体である、請求項35の方法。
【請求項40】
積層体は、骨格構造の周囲に巻きつけられ、積層体の第1層が骨格構造に接触する、請求項39の方法。
【請求項41】
骨格構造は、骨、軟骨、または腱である、請求項39の方法。
【請求項42】
外傷治癒の促進を必要とする対象者において、そのような治癒の促進を実現する方法であって、対象者の外傷を、請求項1-28の複合体または組成物に接触させることを含む。
【請求項43】
第1抗癒着支持体に共有的に結合される第1抗癒着化合物を含む化合物。
【請求項44】
第1抗癒着化合物は、抗ガン剤、抗増殖剤、PKC阻害剤、ERKまたはMAPK阻害剤、cdc阻害剤、抗有糸分裂剤、DNA介在因子、DNAの共有的修飾因子、抗炎症化合物、またはPI3キナーゼの阻害剤を含む、請求項43の化合物。
【請求項45】
第1抗癒着化合物はマイトマイシンCを含む、請求項43の化合物。
【請求項46】
第1抗癒着支持体はポリ陰イオン性ポリサッカリドを含む、請求項43の化合物。
【請求項47】
第1抗癒着支持体はヒアルロナンを含む、請求項43の化合物。
【請求項48】
少なくとも1個のSH基を持つ第1抗癒着支持体と、少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、少なくとも1個の第1抗癒着化合物との間の反応産物を含む化合物。
【請求項49】
第1抗癒着支持体は、
【化4】
式中、
Yは、第1抗癒着支持体の残基を含み、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基を含む、
式IIIを有する、請求項48の化合物。
【請求項50】
Yが、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体を含む、請求項49の化合物。
【請求項51】
Lが、CH2CH2、またはCH2CH2CH2を含む、請求項49の化合物。
【請求項52】
第1抗癒着化合物はマイトマイシンCを含む、請求項48の化合物。
【請求項53】
第1抗癒着化合物のチオール反応性求電子基は、電子欠乏ビニル基である、請求項52の化合物。
【請求項54】
電子欠乏ビニル基は、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド、またはメタクリルアミドである、請求項53の化合物。
【請求項55】
第1抗癒着化合物は、少なくとも1個のアクリレート基を有するマイトマイシンCを含む、請求項48の化合物。
【請求項56】
第1化合物は、
【化5】
式中、
Yは、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体の残基を含み、かつ、
Lは、CH2CH2、またはCH2CH2CH2を含む、
式IIIを有する第1抗癒着支持体と、少なくとも1個のアクリレート基を有するマイトマイシンCを含む第1抗癒着化合物との間の反応産物を含む、請求項48の化合物。
【請求項57】
第1抗癒着化合物と、第1抗癒着支持体とを架橋リンカーによって反応させることをさらに含む請求項48の化合物。
【請求項58】
架橋リンカーが、
【化6】
式中、
R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルを含み、
UおよびVは、それぞれ独立に、OまたはNR5を含み、ここにR5は水素または低級アルキルを含み、かつ、
Mは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基を含む
式Vを含む、請求項57の化合物。
【請求項59】
式Vを有する化合物がポリエチレングリコールジアクリレートを含む、請求項48の化合物。
【請求項60】
少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、第1抗癒着支持体と、少なくとも1個のSH基を持つ、少なくとも1個の第1抗癒着化合物との間の反応産物を含む化合物。
【請求項1】
(1)第1化合物であって、第1抗癒着支持体に共有的に結合される、第1抗癒着化合物を含む第1化合物、および、(2)第1治癒促進性化合物を含む複合体。
【請求項2】
第1抗癒着化合物は、抗ガン剤、抗増殖剤、PKC阻害剤、ERKまたはMAPK阻害剤、cdc阻害剤、抗有糸分裂剤、DNA介在因子、DNAの共有的修飾因子、抗炎症化合物、またはPI3キナーゼの阻害剤を含む、請求項1の複合体。
【請求項3】
第1抗癒着化合物はマイトマイシンCを含む、請求項1の複合体。
【請求項4】
第1抗癒着支持体はポリ陰イオン性ポリサッカリドを含む、請求項1の複合体。
【請求項5】
第1抗癒着支持体はヒアルロナンを含む、請求項1の複合体。
【請求項6】
第1化合物は、少なくとも1個のSH基を持つ第1抗癒着支持体を、少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、少なくとも1個の第1抗癒着化合物と反応させることによって生成される、請求項1の複合体。
【請求項7】
第1抗癒着支持体は、
【化1】
式中、
Yは、第1抗癒着支持体の残基を含み、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基を含む、
式IIIを有する、請求項1の複合体。
【請求項8】
Yが、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体を含む、請求項7の複合体。
【請求項9】
Lが、CH2CH2、またはCH2CH2CH2を含む、請求項8の複合体。
【請求項10】
第1抗癒着化合物はマイトマイシンCを含む、請求項1の複合体。
【請求項11】
第1抗癒着化合物のチオール反応性求電子基は、電子欠乏ビニル基である、請求項6の複合体。
【請求項12】
電子欠乏ビニル基は、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド、またはメタクリルアミドである、請求項11の複合体。
【請求項13】
第1抗癒着化合物は、少なくとも1個のアクリレート基を有するマイトマイシンCを含む、請求項6の複合体。
【請求項14】
第1化合物は、
【化2】
式中、
Yは、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体の残基を含み、かつ、
Lは、CH2CH2、またはCH2CH2CH2を含む、
式IIIを有する第1抗癒着支持体と、少なくとも1個のアクリレート基を有するマイトマイシンCを含む第1抗癒着化合物との間の反応産物を含む、請求項1の複合体。
【請求項15】
第1抗癒着化合物と、第1抗癒着支持体とを架橋リンカーによって反応させることをさらに含む請求項6の複合体。
【請求項16】
架橋リンカーが、
【化3】
式中、
R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルを含み、
UおよびVは、それぞれ独立に、OまたはNR5を含み、ここにR5は水素または低級アルキルを含み、かつ、
Mは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基を含む
式Vを含む、請求項15の複合体。
【請求項17】
式Vを有する化合物がポリエチレングリコールジアクリレートを含む、請求項15の複合体。
【請求項18】
第1化合物は、少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、第1抗癒着支持体を、少なくとも1個のSH基を持つ少なくとも1個の第1抗癒着化合物と反応させることによって生成される、請求項1の複合体。
【請求項19】
複合体はさらに、第1抗癒着化合物に共有的に結合されない第2抗癒着化合物をさらに含み、第1抗癒着化合物と第2抗癒着化合物とは同じであるか、または異なっている、請求項1の複合体。
【請求項20】
治癒促進化合物は、タンパク、合成ポリマー、またはポリサッカリドを含む、請求項1の複合体。
【請求項21】
第1治癒促進化合物はポリサッカリドを含む、請求項1の複合体。
【請求項22】
ポリサッカリドはグリコサミノグリカンである、請求項21の複合体。
【請求項23】
ポリサッカリドは、コンドロイチン硫酸、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、アルギン酸、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、またはヒアルロナンを含む、請求項21の複合体。
【請求項24】
複合体は、第2治癒促進化合物をさらに含み、第2治癒促進化合物は、第1治癒促進化合物とは異なる、請求項1の複合体。
【請求項25】
第2治癒促進化合物は成長因子である、請求項24の複合体。
【請求項26】
成長因子は、神経成長促進物質、神経成長因子、硬または軟組織成長促進因子、ヒト成長ホルモン、コロニー刺激因子、骨形成因子、血小板由来増殖因子、インスリン由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子−アルファ、トランスフォーミング増殖因子−ベータ、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、または乾燥骨物質を含む、請求項25の複合体。
【請求項27】
第1化合物は、それ自体および/または治癒促進化合物と架橋結合される、請求項1の複合体。
【請求項28】
製薬学的に受容可能な化合物と請求項1-27の複合体とを含む製薬組成物。
【請求項29】
(1)第1化合物であって、第1抗癒着支持体に共有的に結合される、第1抗癒着化合物を含む第1化合物、および、(2)第1治癒促進性化合物を含むキット。
【請求項30】
請求項1-27の複合体を含む物品。
【請求項31】
物品は、ゲル、ビーズ、スポンジ、フィルム、メッシュ、またはマトリックスを含む、請求項31の物品。
【請求項32】
複合体は積層体である、請求項31の物品。
【請求項33】
積層体は、第1層と第2層を含み、ここに、(1)第1層は、第1抗癒着支持体に共有的に結合される第1抗癒着化合物を含む第1化合物を含み、第1層は第1表面と第2表面とを有し、かつ、(2)第2層は、第1治癒促進化合物を含み、第2層は第1表面と第2表面とを有し、第1層の第1表面は、第2層の第1表面に接する、請求項32の物品。
【請求項34】
積層体は、第3治癒促進化合物を含む第3層をさらに含み、第3層は第1表面と第2表面とを有し、第3層の第1表面は、第1層の第2表面に接する、請求項33の複合体。
【請求項35】
対象者の外科創傷における二つの組織の癒着を緩和または抑制する方法であって、対象者の外傷に請求項1-28の複合体または組成物を接触させることを含む。
【請求項36】
外科創傷は、心臓外科、関節外科、腹部外科、胸部外科、泌尿生殖領域の外科、神経外科、腱の外科、腹腔内視鏡手術、骨盤手術、ガン手術、頭蓋洞および頭蓋顔面手術、ENT手術、眼科手術、または脊髄硬膜修復に関わる処置によって生成されたものである、請求項35の方法。
【請求項37】
複合体または組成物は、外傷に接触させる前にあらかじめ形成される、請求項35の方法。
【請求項38】
複合体または組成物は、外傷に接触後、生体内(in situ)で形成される、請求項35の方法。
【請求項39】
複合体は積層体である、請求項35の方法。
【請求項40】
積層体は、骨格構造の周囲に巻きつけられ、積層体の第1層が骨格構造に接触する、請求項39の方法。
【請求項41】
骨格構造は、骨、軟骨、または腱である、請求項39の方法。
【請求項42】
外傷治癒の促進を必要とする対象者において、そのような治癒の促進を実現する方法であって、対象者の外傷を、請求項1-28の複合体または組成物に接触させることを含む。
【請求項43】
第1抗癒着支持体に共有的に結合される第1抗癒着化合物を含む化合物。
【請求項44】
第1抗癒着化合物は、抗ガン剤、抗増殖剤、PKC阻害剤、ERKまたはMAPK阻害剤、cdc阻害剤、抗有糸分裂剤、DNA介在因子、DNAの共有的修飾因子、抗炎症化合物、またはPI3キナーゼの阻害剤を含む、請求項43の化合物。
【請求項45】
第1抗癒着化合物はマイトマイシンCを含む、請求項43の化合物。
【請求項46】
第1抗癒着支持体はポリ陰イオン性ポリサッカリドを含む、請求項43の化合物。
【請求項47】
第1抗癒着支持体はヒアルロナンを含む、請求項43の化合物。
【請求項48】
少なくとも1個のSH基を持つ第1抗癒着支持体と、少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、少なくとも1個の第1抗癒着化合物との間の反応産物を含む化合物。
【請求項49】
第1抗癒着支持体は、
【化4】
式中、
Yは、第1抗癒着支持体の残基を含み、かつ、
Lは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基を含む、
式IIIを有する、請求項48の化合物。
【請求項50】
Yが、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体を含む、請求項49の化合物。
【請求項51】
Lが、CH2CH2、またはCH2CH2CH2を含む、請求項49の化合物。
【請求項52】
第1抗癒着化合物はマイトマイシンCを含む、請求項48の化合物。
【請求項53】
第1抗癒着化合物のチオール反応性求電子基は、電子欠乏ビニル基である、請求項52の化合物。
【請求項54】
電子欠乏ビニル基は、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド、またはメタクリルアミドである、請求項53の化合物。
【請求項55】
第1抗癒着化合物は、少なくとも1個のアクリレート基を有するマイトマイシンCを含む、請求項48の化合物。
【請求項56】
第1化合物は、
【化5】
式中、
Yは、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロナン、または、ヒアルロナンの化学的に修飾された誘導体の残基を含み、かつ、
Lは、CH2CH2、またはCH2CH2CH2を含む、
式IIIを有する第1抗癒着支持体と、少なくとも1個のアクリレート基を有するマイトマイシンCを含む第1抗癒着化合物との間の反応産物を含む、請求項48の化合物。
【請求項57】
第1抗癒着化合物と、第1抗癒着支持体とを架橋リンカーによって反応させることをさらに含む請求項48の化合物。
【請求項58】
架橋リンカーが、
【化6】
式中、
R3およびR4は、それぞれ独立に、水素または低級アルキルを含み、
UおよびVは、それぞれ独立に、OまたはNR5を含み、ここにR5は水素または低級アルキルを含み、かつ、
Mは、ポリアルキレン基、ポリエーテル基、ポリアミド基、ポリイミノ基、ポリエステル、アリール基、またはポリチオエーテル基を含む
式Vを含む、請求項57の化合物。
【請求項59】
式Vを有する化合物がポリエチレングリコールジアクリレートを含む、請求項48の化合物。
【請求項60】
少なくとも1個の、チオール反応性求電子官能基を持つ、第1抗癒着支持体と、少なくとも1個のSH基を持つ、少なくとも1個の第1抗癒着化合物との間の反応産物を含む化合物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2007−526239(P2007−526239A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533021(P2006−533021)
【出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/014965
【国際公開番号】WO2005/000402
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505422084)ユニヴァーシティー オヴ ユタ リサーチ ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/014965
【国際公開番号】WO2005/000402
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505422084)ユニヴァーシティー オヴ ユタ リサーチ ファウンデーション (1)
【Fターム(参考)】
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