振動片、振動片の製造方法、振動子および発振器
【課題】下部電極と圧電体層との密着性お呼び圧電体層の配向性を向上させ、なお且つ電気機械結合係数が優れた振動片を提供する。
【解決手段】基部と、前記基部から延出する腕部と、前記腕部の主面に配置される圧電素子と、を備え、前記圧電素子は、圧電体層と、前記圧電体層の前記主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層と、を備え、前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層され、前記第1電極層の前記窒化層は、前記第1電極層の前記電極層を形成する電極材料の窒化物である振動片。
【解決手段】基部と、前記基部から延出する腕部と、前記腕部の主面に配置される圧電素子と、を備え、前記圧電素子は、圧電体層と、前記圧電体層の前記主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層と、を備え、前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層され、前記第1電極層の前記窒化層は、前記第1電極層の前記電極層を形成する電極材料の窒化物である振動片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動片、振動片の製造方法、振動子および発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯端末や電子機器に用いられる振動片を利用したタイミングデバイスに対して、より小型で薄型の要求が強くなってきている。この要望に対して、振動片、特に水晶を用いた振動片では、小型化、薄型化を追及することで水晶内部に発生する熱弾性損失などの内部損失の影響が無視できない状況となってきた。この問題に対して、水晶振動片に圧電体層を形成し、内部損失の少ない薄型で小型の水晶振動子が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、特許文献1に開示された技術においては、圧電体層は水晶基板上に形成された下部電極上に成膜される。この下部電極の形成は、フォトリソグラフィー法により行われ、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、そしてレジスト除去といった一連の工程を経て下部電極が形成される。この一連の下部電極形成工程では、下部電極表面、すなわち圧電体層が形成される面にレジスト剤などの有機物や、その他のコンタミが付着し易く、所定の圧電性を有する圧電体層を形成することが困難であった。
【0004】
そこで、圧電体層を形成する下部電極の表面に酸化膜層を成膜し、その表面に圧電体層を成膜し、圧電体層の極性の方向を揃えて圧電性の向上を図ることが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−5022号公報
【特許文献2】特開2006−174148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の特許文献2のように圧電層の結晶性だけを向上させても、下部電極上に形成される酸化膜層よって電界効果が低減されてしまい、振動子としての特性であるCI値の劣化を招いてしまうという課題があった。
【0007】
そこで、下部電極と圧電体層との密着性を確保しつつ、配向性に優れた圧電体層を形成すると同時に、電界効果を最大限に圧電体層に印加することができる振動片を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0009】
〔適用例1〕本適用例による振動片は、基部と、前記基部から延出する腕部と、前記腕部の主面に配置される圧電素子と、を備え、前記圧電素子は、圧電体層と、前記圧電体層の前記主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層と、を備え、前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層され、前記第1電極層の前記窒化層は、前記第1電極層の前記電極層を形成する電極材料の窒化物であることを特徴とする。
【0010】
上述の適用例によれば、窒化層上に圧電体層を形成する構成としたことで、配向性の優れた圧電体層を得ることができ、圧電性が優れ、高い電気機械結合係数を持つ圧電体層により、振動特性の優れた振動片を得ることができる。更に、第1電極層(下部電極)表面を窒化処理することで容易に窒化層を形成することができる。
【0011】
〔適用例2〕上述の適用例において、前記腕部は、前記腕部の前記延出する方向と交差する方向に3以上の奇数個が配列され、隣り合う前記腕部の振動方向が逆であることを特徴とする。
【0012】
上述の適用例によれば、上下振動モードの腕部であっても、高いQ値を得ることができ、より小型の振動片を実現することができる。
【0013】
〔適用例3〕本適用例の振動片の製造方法は、圧電体層と、前記圧電体層の主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層とを備え、前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層されている圧電素子を振動部へ配置した振動片の製造方法であって、前記第1電極層の前記電極層を形成する、第1電極層電極層形成工程と、前記第1電極層の前記電極層表面を窒化処理し、前記窒化層を形成する第1電極層窒化処理工程と、前記窒化層上に前記圧電体層を形成する、圧電体層形成工程と、前記圧電体層上に前記第2電極層を形成する、第2電極層形成工程と、を備え、前記第1電極層窒化処理工程と、前記圧電体層形成工程と、が、同一真空中の成膜装置内で行われることを特徴とする。
【0014】
上述の適用例によれば、圧電体層形成工程が前工程である窒化処理工程と同じ真空中の成膜装置内で行われるため、窒化層表面へのコンタミの付着が防止でき、配向性の優れた圧電体層を得ることができ、圧電性が優れ、高い電気機械結合係数を持つ圧電体層により、振動特性の優れた振動片を得ることができる。
【0015】
〔適用例4〕上述の振動片と、前記振動片を収納するパッケージと、を有する振動子。
【0016】
〔適用例5〕上述の振動片と、前記振動片を駆動させる機能を有する回路部と、を有する発振器。
【0017】
上述の適用例によれば、高い電気機械結合係数を持ち、振動特性の優れた信頼性の高い振動子および発振器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に関わる振動片を示し、(a)は平面図、(b)は(a)に示すA−A’部の断面を模式的に表わした拡大図。
【図2】第1実施形態に関わる振動片を示し、(c)は図1(a)に示すB−B’部の断面を模式的に表わした拡大図、(d)は図1(a)に示すC−C’部の断面を模式的に表わした拡大図、(e)は図1(a)に示すD−D’部の断面を模式的に表わした拡大図。
【図3】振動片の動作を説明する斜視図。
【図4】第2実施形態に係る振動片の製造フローチャート。
【図5】第2実施形態に係る振動片の製造方法を示す平面図および断面図。
【図6】第2実施形態に係る振動片の製造方法を示す平面図および断面図。
【図7】第2実施形態に係る振動片の製造方法を示す平面図および断面図。
【図8】第2実施形態に係る振動片の製造方法を示す平面図および断面図。
【図9】第1実施形態に係る、その他の実施例を示す断面図。
【図10】第3実施形態に係る振動子の(a)平面図、(b)断面図。
【図11】第4実施形態に係る発振器の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1および図2に本実施形態に係る振動片を示し、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)に示すA−A’部の断面図、図2(c)(d)(e)はそれぞれ図1(a)におけるB−B’、C−C’、D−D’部の断面図である。振動片100は、圧電材料から形成され、基部より3本の腕部が延出した、いわゆる音叉型振動片である。本実施形態では基材に水晶を用いて形成された水晶振動片100によって説明するが、弾性材料であれば適用可能である。本実施形態に適用される水晶基板にはZカット板を用いたが、ATカット板、Xカット板であっても適用可能である。
【0021】
図1(a)に示すように、水晶振動片100は、基部10と、基部10より同方向に延出する腕部20、30、40を備えている。腕部20、30、40は、図2(e)に示すように、腕部厚みhが、基部厚みHに対して薄く形成されている。腕部厚みhは、振動のし易さの観点から2〜10μmの厚みに形成され、基部厚みHは、水晶振動片100の強度確保と、後述する振動子とする際のパッケージへの組込み性から50〜100μmに形成される。
【0022】
腕部20、30、40には、図1(b)に示すように、一方の主面20a、30a、40a上に主面20a、30a、40a側から第1電極層(以下、下部電極層という)としての腕部電極50a、60b、50cと、腕部圧電体層70a、70b、70cと、第2電極層(以下、上部電極層という)としての腕部電極60a、50b、60cと、が積層され圧電素子を構成している。腕部電極50a、50b、50cは基部10に形成された接続電極50dに、腕部電極60a、60b、60cは接続電極60dに延出されている。また腕部圧電体層70a、70b、70cは基部10部分において繋がり圧電体層70を形成している。
【0023】
腕部圧電体層70a、70b、70cと表面側の上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cとの間には絶縁層80が配置され、絶縁層80は圧電体層70の全面を覆っている。この絶縁層80は、圧電体層70を経由して下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cと、上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cと、が電気的に短絡(ショート)しないように、電気的な絶縁をするものである。
【0024】
腕部電極50a、50b、50cと接続電極50dとを備える電極50と、腕部電極60a、60b、60cと接続電極60dとを備える電極60について説明する。電極50は、腕配列の両端、すなわち配列の奇数番目である腕部20と40において、腕部電極としては主面20a、40aの上面に下部電極層としての腕部電極50a、50cが配置されている。また、中央の腕部30、すなわち配列の偶数番目である腕部30においては、腕部電極としては最表面の上部電極層としての腕部電極50bが配置されている。
【0025】
腕部電極50aと50cとは、基部10において接続電極50eにより接続され、図2(d)に示すように、コンタクト電極50fによって腕部電極50bに接続される。そして、腕部電極50bの延長先に備える接続電極50dへ繋がっている。腕部電極60aと60cは図2(c)に示すように、基部10に配置されたコンタクト電極60fにより腕部電極60bに接続される。そして、接続電極60dへ繋がっている。
【0026】
このように配線された電極50と60に対して、異相の信号電流、いわゆる交番電流を入力すると、腕部20と40に設けた腕部圧電体層70aと70cには、腕部電極60aと50aの間、60cと50cの間では同じ方向の電界が生じ、腕部30には腕部電極50bと60bとの間で、腕部20、40とは逆方向の電界を生じさせる圧電体を構成する。
【0027】
このように、隣り合う腕部の電界方向を逆にすることにより、図3(a)に示すように腕部20と腕部40が、図表示上方向の矢印P方向に変位させる電界が加わる時は、腕部30には、図表示下方向の矢印Q方向に変位させる電界が加わる。交番電流が入力されるので、次に図3(b)に示すように腕部20と腕部40には下方向の矢印Q方向、腕部30には上方向の矢印P方向に変位させる電界が加わり、これを繰り返し腕部20、30、40は振動する。
【0028】
腕部の主面20a、30a、40aの上面に形成される下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cの表面には、下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cとなる電極50、60を形成する材料を窒化させた窒化層90が形成されている。従って、電極50、60は窒化されやすい材料を適用することが好ましく、例えばAl、Mo、Cr、W、Ti、Taなどの金属を適用することができる。本実施形態では、Ti電極により電極50、60が形成され、窒化層90はTiNにより形成される形態により説明する。
【0029】
窒化層90は、後述する製造方法の通り、形成された少なくとも腕部電極50a、60b、50cの表面を直接、窒化処理を施すことにより形成される。すなわち、例えば腕部電極50a、60b、50cをTiにより形成した場合、腕部電極50a、60b、50cをパターン形成した振動片を封入した真空チャンバー(成膜装置)内に窒素ガスを導入し、電極表面を窒化させた窒化(TiN:窒化チタン)層90を形成する。この時、パターンニングされた腕部電極50a、60b、50cの全体に窒化されるため、窒化層90は腕部電極50a、60b、50cの側面も含めた表面全体に形成される。この窒化層90上に同一真空チャンバー内で腕部圧電体層70a、70b、70cを形成させることで、腕部圧電体層70a、70b、70cの密着性と配向性を向上させるのと同時に、窒化チタンは導電性であるため、窒化層90での電位降下、すなわち有効電界の減少が発生しない。その結果、効率よく水晶振動片100の腕部20、30、40を振動させることができる。
【0030】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態で説明した水晶振動片100の製造方法について説明する。図4は本実施形態のフローチャートを示す。
【0031】
〔下部電極形成工程〕
下部電極形成工程(S101:第1電極層電極層形成工程)では、先ず基部、腕部を備える水晶基板100aを準備する。準備した水晶基板100aを洗浄、乾燥した後、電極となる金属をスパッタリングより、電極形成面となる水晶基板100aの一方の主面100bの全面に図5(a)に示すように金属膜200を成膜する。電極金属としては、例えばTi、Al、Mo、Cr、W、Taなどの窒化されやすい金属が好適であるが、本実施形態ではTiを用いる。
【0032】
次に、図5(b)に示すように、図1(a)に示す下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cの形状のマスク300をフォトリソグラフィー法などによりパターンニングし、図6(c)に示すように下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cを形成する。
【0033】
〔下部電極窒化工程〕
次に、下部電極窒化工程(S102:第1電極層窒化処理工程)に移行する。下部電極層となる金属膜200のパターンニングが終了した水晶振動片100のマスク300を剥離し、腕部電極50a、60b、50cの表面を洗浄する(図6(c))。洗浄後の水晶基板100aを、図示しないスパッタリング装置の真空チャンバー内に封入し、先ず逆スパッタなどによって、下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cの表面に僅かに付着した異物などを除去、クリーニングする。次に、チャンバー内に窒素(N2)ガスを10〜100sccmの流量で導入し、下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cの表面を窒化させ図6(c)に示すように下部電極層としての腕部電極50a、60b、50c表面を窒化させた窒化層(TiN層)90を形成する。この時、100℃以上に加熱することで、より窒化を促進させることができる。このようにして、腕部電極50a、60b、50cの表面および側面に腕部電極50a、60b、50cの電極材料を含む窒化層90を形成することができる。
【0034】
下部電極層としての腕部電極50a、60b、50c表面の窒化層90は、TiNを3nm以上形成されることが好ましく、後述する圧電体層形成工程において、配向性の良い圧電体層を形成することができる。
【0035】
〔圧電体層形成工程〕
次に圧電体層形成工程(S103)に移行する。圧電体層形成工程(S103)は、下部電極窒化工程(S102)に連続して、同じ装置チャンバーに封入して行われる。本実施形態では圧電体としてAlNを500〜1000nmの厚みに反応性スパッタリング法により成膜し、図6(d)に示すように圧電体層400を形成した。圧電体層400としてはAlNの他に例えば、ZnO、PZT、LiNbO3、KNbO3なども好適に用いることができる。
【0036】
次にフォトリソグラフィー法によるパターンニングと、エッチングにより図7(e)に示す圧電体層70に形成する。なお、圧電体層400としてAlNを用いた場合、エッチングは1〜25%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いて行うことができる。この時、後述の上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cと、下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cとを、電気的に接続するための配線をするコンタクトホール400aを形成する。但し、コンタクトホール400aを形成する前に、絶縁性確保を目的とした絶縁層80を成膜しても良い。絶縁層としてはSiO2が簡便に用いられるが、誘電率が高いシリコン窒化膜(SiNX)やアルミナ(Al2O3)がより好ましい。
【0037】
絶縁層80は、図1(b)に示す基板の主面側の下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cと、腕部圧電体層70a、70b、70cを挟んで配置される上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cとの電気的な短絡を防止するとともに、圧電体層70のエッチングダメージに対する保護層としても機能する。従って、電気的な短絡防止の目的から絶縁層80の厚みは50nm以上であることが好ましく、また圧電体層400に印加される電界を最大に利用する点から、絶縁層80は500nm以下の厚みであることが好ましい。
【0038】
下部電極窒化工程(S102)によって得られた、窒化層90を有する下部電極層としての腕部電極50a、60b、50c上に、上記のように形成された圧電体層70は、配向性に優れた圧電体として形成することができるため、振動効率の高い振動片を得ることができる。
【0039】
〔上部電極形成工程〕
次に上部電極形成工程(S104:第2電極層形成工程)に移行する。絶縁層80を含む圧電体層70上に、上部電極となる金属層をスパッタリング法により図7(f)に示すように全面に成膜し、金属層500を形成する。金属層500は、上述の下部電極形成工程(S101)において形成した下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cと同じ金属であっても、異なる金属であっても良い。また、単一金属膜でも2種以上の金属による複合金属膜でも良い。用いられる金属としては、例えばAl、Ag、Cu、Mo、Cr、Nb、W、Ni、Fe、Ti、Zn、Zrなどである。
【0040】
次に金属層500をフォトリソグラフィー法によるパターンニングとエッチングにより、図8(g)に示すように、上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cを形成し、水晶振動片100を得ることができる。
【0041】
このようにして得られた水晶振動片100は、窒化層90上に圧電体層70を同一処理チャンバー内で窒化層90の形成に連続して行われるため、窒化層90の表面のコンタミ付着が防止できることで密着性などの信頼性の高い圧電体層70を得ることができる。更に、窒化層90上に形成されるAlNなどの圧電体層70は、配向性の優れた柱状結晶となり、圧電性に優れ、振動特性の良好な振動片を得ることができる。
【0042】
また、本発明は下部電極層と圧電体層の境界構造に関するもので、下部電極や圧電体膜の積層構造に依るものではなく、例えば、図9に示すように、水晶振動片100の裏面にも腕部圧電体層70aと絶縁層80aとを備える、両面に圧電体層と絶縁層とが形成された積層構造であっても良い。
【0043】
(第3実施形態)
第3実施形態として、上述の第1実施形態の水晶振動片100を用いた振動子を説明する。図10(a)は、蓋体を除いて内部を露出させた状態での振動子1000の平面図、図10(b)は図10(a)におけるE−E’線の断面を示す断面図である。水晶振動片100は、第1基板1101、第2基板1102、第3基板1103を積層し形成したパッケージ1100の内部の第2基板1102上面に水晶振動片100の基部10を接着剤1600により接着し、水晶振動片100をパッケージ1100に固定する。また、第2基板1102上に備えた電極部1400と、水晶振動片100の基部10の接続電極50e、60eとをワイヤー1500により電気的に接続する、いわゆるワイヤーボンディングされる。電極部1400は図示しないパッケージ1100内の経路を経て、パッケージ外部に形成された実装端子1401と繋がっている。
【0044】
水晶振動片100が固定されたパッケージ1100の開口の端部に蓋体1200が封止剤1300によって、減圧チャンバー内でパッケージ1100に固定され、振動子1000の内部が減圧状態に保たれる。こうして得られた振動子1000は、実装端子1401を介して図示しない発振回路からの交番電流により水晶振動片100を屈曲振動させる。
【0045】
第1実施形態の水晶振動片100を振動子1000に用いたことにより、高い電気機械結合係数を持ち、特性の優れた信頼性の高い振動子を得ることができる。
【0046】
(第4実施形態)
第4実施形態として、上述の第1実施形態による水晶振動片100を用いた発振器について説明する。図11は、第4実施形態の発振器2000を示す断面図である。本実施形態は、第3実施形態の振動子1000に対して、水晶振動片100を駆動させる駆動回路を含むICチップを備えた点で、第3実施形態と異なるため、第3実施形態と同様の構成の説明は省略し、同じ構成には同一の符号を付与する。
【0047】
図11に示すように、発振器2000はパッケージ1100の内部に水晶振動片100が第2基板1102上に固定され、ワイヤー1500により、水晶振動片100の接続電極50e、60eと電極部1400が電気的に接続されている。さらに、第1基板1101にはICチップ1700が接着剤などにより固定され、ICチップ1700の上面に形成されたIC接続パッド1701と第1基板1101上に形成された内部接続端子1402とを金属ワイヤー1800で電気的に接続している。
【0048】
第1実施形態の水晶振動片100を発振器に用いたことにより、高い電気機械結合係数を持ち、特性の優れた信頼性の高い発振器を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
10…基部、20,30,40…腕部、50,60…電極、70…圧電体層、80…絶縁層、90…窒化層、100…水晶振動片。
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動片、振動片の製造方法、振動子および発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯端末や電子機器に用いられる振動片を利用したタイミングデバイスに対して、より小型で薄型の要求が強くなってきている。この要望に対して、振動片、特に水晶を用いた振動片では、小型化、薄型化を追及することで水晶内部に発生する熱弾性損失などの内部損失の影響が無視できない状況となってきた。この問題に対して、水晶振動片に圧電体層を形成し、内部損失の少ない薄型で小型の水晶振動子が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかし、特許文献1に開示された技術においては、圧電体層は水晶基板上に形成された下部電極上に成膜される。この下部電極の形成は、フォトリソグラフィー法により行われ、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、そしてレジスト除去といった一連の工程を経て下部電極が形成される。この一連の下部電極形成工程では、下部電極表面、すなわち圧電体層が形成される面にレジスト剤などの有機物や、その他のコンタミが付着し易く、所定の圧電性を有する圧電体層を形成することが困難であった。
【0004】
そこで、圧電体層を形成する下部電極の表面に酸化膜層を成膜し、その表面に圧電体層を成膜し、圧電体層の極性の方向を揃えて圧電性の向上を図ることが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−5022号公報
【特許文献2】特開2006−174148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の特許文献2のように圧電層の結晶性だけを向上させても、下部電極上に形成される酸化膜層よって電界効果が低減されてしまい、振動子としての特性であるCI値の劣化を招いてしまうという課題があった。
【0007】
そこで、下部電極と圧電体層との密着性を確保しつつ、配向性に優れた圧電体層を形成すると同時に、電界効果を最大限に圧電体層に印加することができる振動片を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0009】
〔適用例1〕本適用例による振動片は、基部と、前記基部から延出する腕部と、前記腕部の主面に配置される圧電素子と、を備え、前記圧電素子は、圧電体層と、前記圧電体層の前記主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層と、を備え、前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層され、前記第1電極層の前記窒化層は、前記第1電極層の前記電極層を形成する電極材料の窒化物であることを特徴とする。
【0010】
上述の適用例によれば、窒化層上に圧電体層を形成する構成としたことで、配向性の優れた圧電体層を得ることができ、圧電性が優れ、高い電気機械結合係数を持つ圧電体層により、振動特性の優れた振動片を得ることができる。更に、第1電極層(下部電極)表面を窒化処理することで容易に窒化層を形成することができる。
【0011】
〔適用例2〕上述の適用例において、前記腕部は、前記腕部の前記延出する方向と交差する方向に3以上の奇数個が配列され、隣り合う前記腕部の振動方向が逆であることを特徴とする。
【0012】
上述の適用例によれば、上下振動モードの腕部であっても、高いQ値を得ることができ、より小型の振動片を実現することができる。
【0013】
〔適用例3〕本適用例の振動片の製造方法は、圧電体層と、前記圧電体層の主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層とを備え、前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層されている圧電素子を振動部へ配置した振動片の製造方法であって、前記第1電極層の前記電極層を形成する、第1電極層電極層形成工程と、前記第1電極層の前記電極層表面を窒化処理し、前記窒化層を形成する第1電極層窒化処理工程と、前記窒化層上に前記圧電体層を形成する、圧電体層形成工程と、前記圧電体層上に前記第2電極層を形成する、第2電極層形成工程と、を備え、前記第1電極層窒化処理工程と、前記圧電体層形成工程と、が、同一真空中の成膜装置内で行われることを特徴とする。
【0014】
上述の適用例によれば、圧電体層形成工程が前工程である窒化処理工程と同じ真空中の成膜装置内で行われるため、窒化層表面へのコンタミの付着が防止でき、配向性の優れた圧電体層を得ることができ、圧電性が優れ、高い電気機械結合係数を持つ圧電体層により、振動特性の優れた振動片を得ることができる。
【0015】
〔適用例4〕上述の振動片と、前記振動片を収納するパッケージと、を有する振動子。
【0016】
〔適用例5〕上述の振動片と、前記振動片を駆動させる機能を有する回路部と、を有する発振器。
【0017】
上述の適用例によれば、高い電気機械結合係数を持ち、振動特性の優れた信頼性の高い振動子および発振器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に関わる振動片を示し、(a)は平面図、(b)は(a)に示すA−A’部の断面を模式的に表わした拡大図。
【図2】第1実施形態に関わる振動片を示し、(c)は図1(a)に示すB−B’部の断面を模式的に表わした拡大図、(d)は図1(a)に示すC−C’部の断面を模式的に表わした拡大図、(e)は図1(a)に示すD−D’部の断面を模式的に表わした拡大図。
【図3】振動片の動作を説明する斜視図。
【図4】第2実施形態に係る振動片の製造フローチャート。
【図5】第2実施形態に係る振動片の製造方法を示す平面図および断面図。
【図6】第2実施形態に係る振動片の製造方法を示す平面図および断面図。
【図7】第2実施形態に係る振動片の製造方法を示す平面図および断面図。
【図8】第2実施形態に係る振動片の製造方法を示す平面図および断面図。
【図9】第1実施形態に係る、その他の実施例を示す断面図。
【図10】第3実施形態に係る振動子の(a)平面図、(b)断面図。
【図11】第4実施形態に係る発振器の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1および図2に本実施形態に係る振動片を示し、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)に示すA−A’部の断面図、図2(c)(d)(e)はそれぞれ図1(a)におけるB−B’、C−C’、D−D’部の断面図である。振動片100は、圧電材料から形成され、基部より3本の腕部が延出した、いわゆる音叉型振動片である。本実施形態では基材に水晶を用いて形成された水晶振動片100によって説明するが、弾性材料であれば適用可能である。本実施形態に適用される水晶基板にはZカット板を用いたが、ATカット板、Xカット板であっても適用可能である。
【0021】
図1(a)に示すように、水晶振動片100は、基部10と、基部10より同方向に延出する腕部20、30、40を備えている。腕部20、30、40は、図2(e)に示すように、腕部厚みhが、基部厚みHに対して薄く形成されている。腕部厚みhは、振動のし易さの観点から2〜10μmの厚みに形成され、基部厚みHは、水晶振動片100の強度確保と、後述する振動子とする際のパッケージへの組込み性から50〜100μmに形成される。
【0022】
腕部20、30、40には、図1(b)に示すように、一方の主面20a、30a、40a上に主面20a、30a、40a側から第1電極層(以下、下部電極層という)としての腕部電極50a、60b、50cと、腕部圧電体層70a、70b、70cと、第2電極層(以下、上部電極層という)としての腕部電極60a、50b、60cと、が積層され圧電素子を構成している。腕部電極50a、50b、50cは基部10に形成された接続電極50dに、腕部電極60a、60b、60cは接続電極60dに延出されている。また腕部圧電体層70a、70b、70cは基部10部分において繋がり圧電体層70を形成している。
【0023】
腕部圧電体層70a、70b、70cと表面側の上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cとの間には絶縁層80が配置され、絶縁層80は圧電体層70の全面を覆っている。この絶縁層80は、圧電体層70を経由して下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cと、上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cと、が電気的に短絡(ショート)しないように、電気的な絶縁をするものである。
【0024】
腕部電極50a、50b、50cと接続電極50dとを備える電極50と、腕部電極60a、60b、60cと接続電極60dとを備える電極60について説明する。電極50は、腕配列の両端、すなわち配列の奇数番目である腕部20と40において、腕部電極としては主面20a、40aの上面に下部電極層としての腕部電極50a、50cが配置されている。また、中央の腕部30、すなわち配列の偶数番目である腕部30においては、腕部電極としては最表面の上部電極層としての腕部電極50bが配置されている。
【0025】
腕部電極50aと50cとは、基部10において接続電極50eにより接続され、図2(d)に示すように、コンタクト電極50fによって腕部電極50bに接続される。そして、腕部電極50bの延長先に備える接続電極50dへ繋がっている。腕部電極60aと60cは図2(c)に示すように、基部10に配置されたコンタクト電極60fにより腕部電極60bに接続される。そして、接続電極60dへ繋がっている。
【0026】
このように配線された電極50と60に対して、異相の信号電流、いわゆる交番電流を入力すると、腕部20と40に設けた腕部圧電体層70aと70cには、腕部電極60aと50aの間、60cと50cの間では同じ方向の電界が生じ、腕部30には腕部電極50bと60bとの間で、腕部20、40とは逆方向の電界を生じさせる圧電体を構成する。
【0027】
このように、隣り合う腕部の電界方向を逆にすることにより、図3(a)に示すように腕部20と腕部40が、図表示上方向の矢印P方向に変位させる電界が加わる時は、腕部30には、図表示下方向の矢印Q方向に変位させる電界が加わる。交番電流が入力されるので、次に図3(b)に示すように腕部20と腕部40には下方向の矢印Q方向、腕部30には上方向の矢印P方向に変位させる電界が加わり、これを繰り返し腕部20、30、40は振動する。
【0028】
腕部の主面20a、30a、40aの上面に形成される下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cの表面には、下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cとなる電極50、60を形成する材料を窒化させた窒化層90が形成されている。従って、電極50、60は窒化されやすい材料を適用することが好ましく、例えばAl、Mo、Cr、W、Ti、Taなどの金属を適用することができる。本実施形態では、Ti電極により電極50、60が形成され、窒化層90はTiNにより形成される形態により説明する。
【0029】
窒化層90は、後述する製造方法の通り、形成された少なくとも腕部電極50a、60b、50cの表面を直接、窒化処理を施すことにより形成される。すなわち、例えば腕部電極50a、60b、50cをTiにより形成した場合、腕部電極50a、60b、50cをパターン形成した振動片を封入した真空チャンバー(成膜装置)内に窒素ガスを導入し、電極表面を窒化させた窒化(TiN:窒化チタン)層90を形成する。この時、パターンニングされた腕部電極50a、60b、50cの全体に窒化されるため、窒化層90は腕部電極50a、60b、50cの側面も含めた表面全体に形成される。この窒化層90上に同一真空チャンバー内で腕部圧電体層70a、70b、70cを形成させることで、腕部圧電体層70a、70b、70cの密着性と配向性を向上させるのと同時に、窒化チタンは導電性であるため、窒化層90での電位降下、すなわち有効電界の減少が発生しない。その結果、効率よく水晶振動片100の腕部20、30、40を振動させることができる。
【0030】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態で説明した水晶振動片100の製造方法について説明する。図4は本実施形態のフローチャートを示す。
【0031】
〔下部電極形成工程〕
下部電極形成工程(S101:第1電極層電極層形成工程)では、先ず基部、腕部を備える水晶基板100aを準備する。準備した水晶基板100aを洗浄、乾燥した後、電極となる金属をスパッタリングより、電極形成面となる水晶基板100aの一方の主面100bの全面に図5(a)に示すように金属膜200を成膜する。電極金属としては、例えばTi、Al、Mo、Cr、W、Taなどの窒化されやすい金属が好適であるが、本実施形態ではTiを用いる。
【0032】
次に、図5(b)に示すように、図1(a)に示す下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cの形状のマスク300をフォトリソグラフィー法などによりパターンニングし、図6(c)に示すように下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cを形成する。
【0033】
〔下部電極窒化工程〕
次に、下部電極窒化工程(S102:第1電極層窒化処理工程)に移行する。下部電極層となる金属膜200のパターンニングが終了した水晶振動片100のマスク300を剥離し、腕部電極50a、60b、50cの表面を洗浄する(図6(c))。洗浄後の水晶基板100aを、図示しないスパッタリング装置の真空チャンバー内に封入し、先ず逆スパッタなどによって、下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cの表面に僅かに付着した異物などを除去、クリーニングする。次に、チャンバー内に窒素(N2)ガスを10〜100sccmの流量で導入し、下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cの表面を窒化させ図6(c)に示すように下部電極層としての腕部電極50a、60b、50c表面を窒化させた窒化層(TiN層)90を形成する。この時、100℃以上に加熱することで、より窒化を促進させることができる。このようにして、腕部電極50a、60b、50cの表面および側面に腕部電極50a、60b、50cの電極材料を含む窒化層90を形成することができる。
【0034】
下部電極層としての腕部電極50a、60b、50c表面の窒化層90は、TiNを3nm以上形成されることが好ましく、後述する圧電体層形成工程において、配向性の良い圧電体層を形成することができる。
【0035】
〔圧電体層形成工程〕
次に圧電体層形成工程(S103)に移行する。圧電体層形成工程(S103)は、下部電極窒化工程(S102)に連続して、同じ装置チャンバーに封入して行われる。本実施形態では圧電体としてAlNを500〜1000nmの厚みに反応性スパッタリング法により成膜し、図6(d)に示すように圧電体層400を形成した。圧電体層400としてはAlNの他に例えば、ZnO、PZT、LiNbO3、KNbO3なども好適に用いることができる。
【0036】
次にフォトリソグラフィー法によるパターンニングと、エッチングにより図7(e)に示す圧電体層70に形成する。なお、圧電体層400としてAlNを用いた場合、エッチングは1〜25%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を用いて行うことができる。この時、後述の上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cと、下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cとを、電気的に接続するための配線をするコンタクトホール400aを形成する。但し、コンタクトホール400aを形成する前に、絶縁性確保を目的とした絶縁層80を成膜しても良い。絶縁層としてはSiO2が簡便に用いられるが、誘電率が高いシリコン窒化膜(SiNX)やアルミナ(Al2O3)がより好ましい。
【0037】
絶縁層80は、図1(b)に示す基板の主面側の下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cと、腕部圧電体層70a、70b、70cを挟んで配置される上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cとの電気的な短絡を防止するとともに、圧電体層70のエッチングダメージに対する保護層としても機能する。従って、電気的な短絡防止の目的から絶縁層80の厚みは50nm以上であることが好ましく、また圧電体層400に印加される電界を最大に利用する点から、絶縁層80は500nm以下の厚みであることが好ましい。
【0038】
下部電極窒化工程(S102)によって得られた、窒化層90を有する下部電極層としての腕部電極50a、60b、50c上に、上記のように形成された圧電体層70は、配向性に優れた圧電体として形成することができるため、振動効率の高い振動片を得ることができる。
【0039】
〔上部電極形成工程〕
次に上部電極形成工程(S104:第2電極層形成工程)に移行する。絶縁層80を含む圧電体層70上に、上部電極となる金属層をスパッタリング法により図7(f)に示すように全面に成膜し、金属層500を形成する。金属層500は、上述の下部電極形成工程(S101)において形成した下部電極層としての腕部電極50a、60b、50cと同じ金属であっても、異なる金属であっても良い。また、単一金属膜でも2種以上の金属による複合金属膜でも良い。用いられる金属としては、例えばAl、Ag、Cu、Mo、Cr、Nb、W、Ni、Fe、Ti、Zn、Zrなどである。
【0040】
次に金属層500をフォトリソグラフィー法によるパターンニングとエッチングにより、図8(g)に示すように、上部電極層としての腕部電極60a、50b、60cを形成し、水晶振動片100を得ることができる。
【0041】
このようにして得られた水晶振動片100は、窒化層90上に圧電体層70を同一処理チャンバー内で窒化層90の形成に連続して行われるため、窒化層90の表面のコンタミ付着が防止できることで密着性などの信頼性の高い圧電体層70を得ることができる。更に、窒化層90上に形成されるAlNなどの圧電体層70は、配向性の優れた柱状結晶となり、圧電性に優れ、振動特性の良好な振動片を得ることができる。
【0042】
また、本発明は下部電極層と圧電体層の境界構造に関するもので、下部電極や圧電体膜の積層構造に依るものではなく、例えば、図9に示すように、水晶振動片100の裏面にも腕部圧電体層70aと絶縁層80aとを備える、両面に圧電体層と絶縁層とが形成された積層構造であっても良い。
【0043】
(第3実施形態)
第3実施形態として、上述の第1実施形態の水晶振動片100を用いた振動子を説明する。図10(a)は、蓋体を除いて内部を露出させた状態での振動子1000の平面図、図10(b)は図10(a)におけるE−E’線の断面を示す断面図である。水晶振動片100は、第1基板1101、第2基板1102、第3基板1103を積層し形成したパッケージ1100の内部の第2基板1102上面に水晶振動片100の基部10を接着剤1600により接着し、水晶振動片100をパッケージ1100に固定する。また、第2基板1102上に備えた電極部1400と、水晶振動片100の基部10の接続電極50e、60eとをワイヤー1500により電気的に接続する、いわゆるワイヤーボンディングされる。電極部1400は図示しないパッケージ1100内の経路を経て、パッケージ外部に形成された実装端子1401と繋がっている。
【0044】
水晶振動片100が固定されたパッケージ1100の開口の端部に蓋体1200が封止剤1300によって、減圧チャンバー内でパッケージ1100に固定され、振動子1000の内部が減圧状態に保たれる。こうして得られた振動子1000は、実装端子1401を介して図示しない発振回路からの交番電流により水晶振動片100を屈曲振動させる。
【0045】
第1実施形態の水晶振動片100を振動子1000に用いたことにより、高い電気機械結合係数を持ち、特性の優れた信頼性の高い振動子を得ることができる。
【0046】
(第4実施形態)
第4実施形態として、上述の第1実施形態による水晶振動片100を用いた発振器について説明する。図11は、第4実施形態の発振器2000を示す断面図である。本実施形態は、第3実施形態の振動子1000に対して、水晶振動片100を駆動させる駆動回路を含むICチップを備えた点で、第3実施形態と異なるため、第3実施形態と同様の構成の説明は省略し、同じ構成には同一の符号を付与する。
【0047】
図11に示すように、発振器2000はパッケージ1100の内部に水晶振動片100が第2基板1102上に固定され、ワイヤー1500により、水晶振動片100の接続電極50e、60eと電極部1400が電気的に接続されている。さらに、第1基板1101にはICチップ1700が接着剤などにより固定され、ICチップ1700の上面に形成されたIC接続パッド1701と第1基板1101上に形成された内部接続端子1402とを金属ワイヤー1800で電気的に接続している。
【0048】
第1実施形態の水晶振動片100を発振器に用いたことにより、高い電気機械結合係数を持ち、特性の優れた信頼性の高い発振器を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
10…基部、20,30,40…腕部、50,60…電極、70…圧電体層、80…絶縁層、90…窒化層、100…水晶振動片。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部から延出する腕部と、
前記腕部の主面に配置される圧電素子と、を備え、
前記圧電素子は、圧電体層と、前記圧電体層の前記主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層と、を備え、
前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層され、
前記第1電極層の前記窒化層は、前記第1電極層の前記電極層を形成する電極材料の窒化物である、
ことを特徴とする振動片。
【請求項2】
前記腕部は、前記腕部の前記延出する方向と交差する方向に3以上の奇数個が配列され、
隣り合う前記腕部の振動方向が逆である、
ことを特徴とする請求項1に記載の振動片。
【請求項3】
圧電体層と、前記圧電体層の主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層とを備え、前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層されている圧電素子を振動部へ配置した振動片の製造方法であって、
前記第1電極層の前記電極層を形成する、第1電極層電極層形成工程と、
前記第1電極層の前記電極層表面を窒化処理し、前記窒化層を形成する第1電極層窒化処理工程と、
前記窒化層上に前記圧電体層を形成する、圧電体層形成工程と、
前記圧電体層上に前記第2電極層を形成する、第2電極層形成工程と、を備え、
前記第1電極層窒化処理工程と、前記圧電体層形成工程と、が、同一真空中の成膜装置内で行われる、
ことを特徴とする振動片の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の振動片と、
前記振動片を収納するパッケージと、を有する、
ことを特徴とする振動子。
【請求項5】
請求項1または2に記載の振動片と、
前記振動片を駆動させる機能を有する回路部と、を有する、
ことを特徴とする発振器。
【請求項1】
基部と、前記基部から延出する腕部と、
前記腕部の主面に配置される圧電素子と、を備え、
前記圧電素子は、圧電体層と、前記圧電体層の前記主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層と、を備え、
前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層され、
前記第1電極層の前記窒化層は、前記第1電極層の前記電極層を形成する電極材料の窒化物である、
ことを特徴とする振動片。
【請求項2】
前記腕部は、前記腕部の前記延出する方向と交差する方向に3以上の奇数個が配列され、
隣り合う前記腕部の振動方向が逆である、
ことを特徴とする請求項1に記載の振動片。
【請求項3】
圧電体層と、前記圧電体層の主面側に設けた第1電極層と、前記圧電体層の前記主面の反対側に設けた第2電極層とを備え、前記第1電極層は、前記主面側に配置される電極層と、前記圧電体層側に配置される窒化層と、が積層されている圧電素子を振動部へ配置した振動片の製造方法であって、
前記第1電極層の前記電極層を形成する、第1電極層電極層形成工程と、
前記第1電極層の前記電極層表面を窒化処理し、前記窒化層を形成する第1電極層窒化処理工程と、
前記窒化層上に前記圧電体層を形成する、圧電体層形成工程と、
前記圧電体層上に前記第2電極層を形成する、第2電極層形成工程と、を備え、
前記第1電極層窒化処理工程と、前記圧電体層形成工程と、が、同一真空中の成膜装置内で行われる、
ことを特徴とする振動片の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の振動片と、
前記振動片を収納するパッケージと、を有する、
ことを特徴とする振動子。
【請求項5】
請求項1または2に記載の振動片と、
前記振動片を駆動させる機能を有する回路部と、を有する、
ことを特徴とする発振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−228922(P2011−228922A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96709(P2010−96709)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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